ドハティ増幅回路
【課題】良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換による回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現できる増幅回路を提供する。
【解決手段】本発明のドハティ増幅回路は、互いに位相が逆の1対の信号がそれぞれに入力される第1及び第2ノードと、キャリア増幅器13と、キャリア増幅器13の入力と前記第1ノードとの間に接続された伝送線路12と、前記第2ノードに入力が接続されたピーク増幅器14と、出力側伝送線路バラン16と、伝送線路12と同じ電気長を有する伝送線路15とを具備している。出力側伝送線路バラン16の2つの平衡ポート26、27の一方は、キャリア増幅器13の出力に接続され、他方は、伝送線路15を介してピーク増幅器14の出力に接続されている。
【解決手段】本発明のドハティ増幅回路は、互いに位相が逆の1対の信号がそれぞれに入力される第1及び第2ノードと、キャリア増幅器13と、キャリア増幅器13の入力と前記第1ノードとの間に接続された伝送線路12と、前記第2ノードに入力が接続されたピーク増幅器14と、出力側伝送線路バラン16と、伝送線路12と同じ電気長を有する伝送線路15とを具備している。出力側伝送線路バラン16の2つの平衡ポート26、27の一方は、キャリア増幅器13の出力に接続され、他方は、伝送線路15を介してピーク増幅器14の出力に接続されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドハティ増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの高度化に伴う送信電力制御技術、多値変調方式、及び、多チャンネル共通増幅技術のような様々な新規技術の進展により、システムのキーデバイスである送信電力増幅器の電力効率および歪み特性への要求は一層厳しくなっている。
【0003】
ドハティ(Doherty)増幅器は、このような要求を満足する増幅器として期待されており、多くの機関により研究・開発が行われている。移動体通信システムの基地局には、数十〜数百ワットクラスの送信増幅器が使用されており、特に、このような増幅器へのドハティ増幅回路の応用に向けた開発が、国内外で精力的に行われている。また、近年では、端末送信器へのドハティ増幅回路の導入についても検討が進められるようになっている。
【0004】
ドハティ増幅回路は、1936年にドハティ(Doherty)により提案された増幅器であり、2つの増幅素子(提案当時は、2本の真空管)で構成されている(W.H. Doherty, "A new high efficiency power amplifier for modulated waves," Proc. IRE, vol. 24, No. 9, pp. 1163-1182, Sept. 1936参照)。ドハティは、基本的な構成として、直列負荷構成(Fig.3)及び並列負荷構成(Fig.4)の2種類を提案している。ドハティ自身も言及しているように、通常、負荷の一端が接地されている並列負荷構成の方が回路構成が容易であると考えられ、ドハティの報告も、もっぱら、並列負荷構成について記載している。近年の超高周波増幅器を含め、その後に報告がなされているドハティ増幅回路は、発明者が知る限り、すべて並列負荷構成を採用している。
【0005】
典型的な並列負荷構成のドハティ増幅回路の動作は、概略的には、下記の通りである。入力信号は、分配回路によって2分される。一方の信号は、AB級動作又はB級動作をする増幅器(キャリア増幅器と呼ばれる)に供給され、他方の信号は、4分の1波長の電気長の伝送線路を介してB級動作又はC級動作をする増幅器(ピーク増幅器と呼ばれる)に供給される。ピーク増幅器からの出力信号、及びキャリア増幅器の出力に接続された4分の1波長の電気長の伝送線路からの出力信号が合成されて最終的に出力される増幅信号が生成され、生成された増幅信号が負荷に供給される。典型的なドハティ増幅回路では、入力信号の電力を増加していったとき、キャリア増幅器の出力がほぼ飽和出力に達し、効率が最大電力効率(B級動作では78%)に達する状態に近い状態になると、ピーク増幅器の出力が立ち上がる。この状態では、両増幅器の出力電力が共通負荷に取り出される。その結果、入力信号電力を増加していった場合には、ピーク増幅器が立ち上がるまではキャリア増幅器が増幅動作して増幅特性を支配し、キャリア増幅器が最大電力・最大電力効率に達して信号レベルでピーク増幅器が立ち上がり、入力信号電力が更に増加しても電力効率が維持されるような特性が得られる。
【0006】
本発明に関連し得る技術として、特開2006−148780号公報は、バラン(分配器)を用いた高周波ドハティ増幅回路を開示している。この公報に開示された高周波ドハティ増幅回路は、バランによる分配ロスを抑制し、これにより、高利得を得るための構成を有している。具体的には、当該高周波ドハティ増幅回路は、入力された高周波信号を2つの信号に分配し、それぞれ、第1及び第2の出力端から出力するための第1のバランと、第1の出力端に接続された主増幅器(キャリア増幅器)と、第2の出力端に接続された補助増幅器(ピーク増幅器)と、主増幅器及び補助増幅器からそれぞれに出力された信号を合成する第2のバランとを備えている。第1のバランは、入力された高周波信号の電力が所定値未満の場合には高周波信号を主増幅器のみに出力し、所定値以上の場合には高周波信号を2つの信号に分配し、主増幅器及び補助増幅器にそれぞれに出力するように構成されている。このような構成によれば、高周波信号の電力が低いときに、動作しない補助増幅器に無駄に電力が分配される分配ロスを抑制することができる。
【0007】
並列負荷構成のドハティ増幅回路の一つの問題は、各増幅器にインピーダンス変換比が高いインピーダンス変換回路を搭載する必要であるため、回路損失が大きく、また、周波数帯域が狭いことである。高出力増幅器のトランジスタは、インピーダンスが極めて小さいので、負荷との整合を取るためには、増幅器にインピーダンス変換回路を搭載する必要がある。ここで、並列負荷構成のドハティ増幅回路では、両方の増幅器が動作したときに回路整合を実現するためには、負荷のインピーダンスの2倍の出力インピーダンスを有するキャリア増幅器及びピーク増幅器を使用する必要がある。具体的には、負荷のインピーダンスがZ0(例えば、50Ω)である場合、キャリア増幅器及びピーク増幅器のそれぞれの出力インピーダンスは2Z0(例えば、100Ω)でなければならない。したがって、並列接続負荷方式のドハティ増幅回路では、50Ωの負荷との回路整合を実現するためには、(インピーダンスを100Ωに変換するような)インピーダンス変換比が高いインピーダンス変換回路を各増幅器に搭載する必要がある。インピーダンス変換比が高いインピーダンス変換回路の挿入は、回路損失の増大及び周波数帯域の狭帯域化をもたらす。
【0008】
インピーダンス変換の問題を解決するためには、プッシュプル増幅回路が有効である。プッシュプル増幅回路は、B級動作又はB級動作に近い動作をする同一の2つの増幅器が直列に接続されて構成されている。このようなプッシュプル増幅回路は、現在、大電力の基地局用の送信増幅回路に使用されている。プッシュプル増幅回路ではバランが使用されるため、50Ωのインピーダンスの機器に対して整合をとるためには、2つの増幅器のインピーダンスを25Ωで設計すればよい。したがって、各増幅器に(インピーダンスを25Ωに変換するような)インピーダンス変換比が低いインピーダンス変換回路を搭載することで整合を実現できる。これは、回路損失の面及び周波数帯域の面で有利である。しかしながら、発明者の検討によれば、プッシュプル増幅回路では、各増幅器がB級動作を行うという制約により、特性向上には限界がある。
【0009】
このような背景から、従来のドハティ増幅回路の利点(即ち、良好な電力効率と歪み特性)と、プッシュプル増幅回路の利点(即ち、インピーダンス変換における回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化)を合わせ持つ増幅器を提供することが望まれている。
【非特許文献1】W.H. Doherty, "A new high efficiency power amplifier for modulated waves," Proc. IRE, vol. 24, No. 9, pp. 1163-1182, Sept. 193
【特許文献1】特開2006−148780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換による回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現できる増幅回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の以下に述べられる手段を採用する。その手段の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号が付記されている。但し、付記された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0012】
本発明のドハティ増幅回路は、互いに位相が逆の1対の入力信号がそれぞれに入力される第1及び第2ノードと、キャリア増幅器(13)と、前記キャリア増幅器(13)の入力と前記第1ノードとの間に接続された第1伝送線路(12)と、前記第2ノードに入力が接続されたピーク増幅器(14)と、第1バラン(16)と、第2伝送線路(15)とを具備している。前記第1バラン(16)の第1平衡ポート(26)は、前記キャリア増幅器(13)の出力に接続され、前記第1バラン(16)の第2平衡ポート(27)は、前記第2伝送線路(15)を介して前記ピーク増幅器(14)の出力に接続されている。第1伝送線路(12)と第2伝送線路(15)の電気長は、第1平衡ポート(26)に入力される信号と第2平衡ポート(27)に入力される信号とが、互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成するように決定される。このように構成されたドハティ増幅回路は、直列負荷構成のドハティ増幅回路として機能する。直列負荷構成のドハティ増幅回路は、並列負荷構成のドハティ増幅回路と同様な利点(即ち、良好な電力効率と歪み特性)を有する上、直列負荷構成のドハティ増幅回路では、キャリア増幅器及びピーク増幅器の内部におけるインピーダンス変換比を小さくできる。従って、ドハティ増幅回路は、インピーダンス変換による回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換による回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現できる増幅回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のドハティ増幅回路の一つの特徴は、従来広く使用されている並列負荷構成ではなく、直列負荷構成を採用することにある。これにより、本発明のドハティ増幅回路は、良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換における回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現している。以下では、本発明のドハティ増幅回路の具体的な実施形態を説明する前に、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作原理及び利点について説明する。
【0015】
図1は、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作原理を示す概念図である。ドハティ増幅回路は、2つの増幅器:キャリア増幅器1とピーク増幅器2とを備えて構成される。図1では、キャリア増幅器1とピーク増幅器2は、いずれも、入力信号に対応した電流を生成する電流源として図示されている。キャリア増幅器1は、常時動作する増幅器であり、ピーク増幅器2は、入力信号の電力が大きい場合にのみ動作する増幅器である。負荷3は、キャリア増幅器1とピーク増幅器2に対して直列に接続される。直列負荷構成のドハティ増幅回路では、負荷3のインピーダンスがZ0である場合に、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の出力インピーダンスがZ0/2であるように設計される。
【0016】
ピーク増幅器2と負荷3との間には、インピーダンス変換回路4が設けられる。このインピーダンス変換回路4は、ピーク増幅器2が動作したときにインピーダンス整合を取るために設けられる。具体的には、インピーダンス変換回路4は、下記の条件を満足するように設計される:
(1)ピーク増幅器2が動作していない場合(即ち、ピーク増幅器2の出力が開放になっている場合)には、キャリア増幅器1から負荷3を見たインピーダンスがZ0になる。
(2)ピーク増幅器2が動作している場合には、キャリア増幅器1から負荷3を見たインピーダンスがZ0/2になる。
【0017】
最も簡単なインピーダンス変換回路4は、図2に示されているように、4分の1波長の伝送線路5である。ピーク増幅器2が動作せず、その出力が開放になっている場合には、図3に示されているように、4分の1波長の伝送線路5の作用により、負荷3と伝送線路5の接続ノード6が接地に対して短絡になる。したがって、ピーク増幅器2が動作していない場合にはキャリア増幅器1から負荷3を見たインピーダンスがZ0になる。一方、ピーク増幅器2が動作すると、図2に示されているように、キャリア増幅器1から負荷3をみたときにはピーク増幅器2が−Z0/2の負性インピーダンスとして機能するから、キャリア増幅器1から負荷3を見たインピーダンスはZ0/2になる。
【0018】
キャリア増幅器1、ピーク増幅器2、及び負荷3の間の接続関係が異なるものの、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作は、並列負荷構成のドハティ増幅回路と同様であり、同様の利点が得られる。具体的には、入力信号の電力を増加していったとき、キャリア増幅器1の出力がほぼ飽和出力に達し、効率が最大電力効率に達する状態に近い状態になると、ピーク増幅器2の出力が立ち上がる。この状態では、キャリア増幅器1、ピーク増幅器2の出力電力が共通の負荷3に取り出される。その結果、入力信号電力を増加していった場合には、ピーク増幅器2が立ち上がるまではキャリア増幅器1が増幅動作して増幅特性を支配し、キャリア増幅器1が最大電力・最大電力効率に達した信号レベルでピーク増幅器2が立ち上がり、入力信号電力が更に増加しても電力効率が維持されるような特性が得られる。直列負荷構成のドハティ増幅回路は、このような動作により、良好な電力効率および歪み特性を実現できる。
【0019】
直列負荷構成のドハティ増幅回路の更なる利点は、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2に求められる出力インピーダンスが小さいことである。具体的には、上述のように、負荷3のインピーダンスがZ0である場合に、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の出力インピーダンスはZ0/2である。キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の出力インピーダンスの低減は、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の内部におけるインピーダンス変換における回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化に有効である。以下では、その理由を詳細に説明する。
【0020】
図4は、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の概略構成を示す回路図である。キャリア増幅器1及びピーク増幅器2は、最も概略的には、入力側インピーダンス変換回路7と、増幅用トランジスタ8と、出力側インピーダンス変換回路9とを備えて構成される。図4の構成では、増幅用トランジスタ8として、大電力を出力可能なトランジスタを使用すると、増幅用トランジスタ8の出力インピーダンスは不可避的に小さくなる。このため、外部回路とのインピーダンス整合を取るために、出力側インピーダンス変換回路9が増幅用トランジスタ8の出力端(バイポーラトランジスタの場合にはコレクタ)に接続される。
【0021】
出力側インピーダンス変換回路9のインピーダンス変換比は、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2に求められる出力インピーダンスによって決定される。一般には、インピーダンス変換比が大きいほど、回路損失が増大し、周波数帯域が狭帯域化するので、出力側インピーダンス変換回路9のインピーダンス変換比は小さいことが望ましい。
【0022】
直列負荷構成のドハティ増幅回路では、同一の負荷のインピーダンスに対してキャリア増幅器1及びピーク増幅器2に求められる出力インピーダンスが並列負荷構成のドハティ増幅回路に比較して小さい。即ち、並列負荷構成のドハティ増幅回路では負荷のインピーダンスがZ0(例えば50Ω)である場合に、キャリア増幅器及びピーク増幅器の出力インピーダンスは2Z0(例えば100Ω)に設定される。一方、直列負荷構成のドハティ増幅回路では、上述されているように、負荷3のインピーダンスがZ0(例えば50Ω)である場合に、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の出力インピーダンスはZ0/2(例えば25Ω)である。したがって、直列負荷構成のドハティ増幅回路は、出力側インピーダンス変換回路9のインピーダンス変換比を小さくでき、回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化に有効である。
【0023】
直列負荷構成のドハティ増幅回路は、以上に説明されているような利点を有するものの、それを実現するための具体的な回路構成は知られていない。一つの大きな問題は、図1の回路構成では、負荷3が接地されないことである。これは、直列負荷構成のドハティ増幅回路を現実の回路に実装することを困難にしている。
【0024】
発明者は、伝送線路バランを使用することにより、負荷の一端が接地された直列負荷構成のドハティ増幅回路を実現可能であることを発見した。以下では、本発明のドハティ増幅回路の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図5は、本発明の第1の実施形態のドハティ増幅回路10の構成を示す回路図である。ドハティ増幅回路10は、入力側バラン11と、4分の1波長の伝送線路12と、キャリア増幅器13と、ピーク増幅器14と、4分の1波長の伝送線路15と、出力側バラン16とを備えている。
【0026】
入力側バラン11は、RF信号源17から受け取った入力信号を、互いに位相が反転した1対の信号に変換する分配回路として機能する。入力側バラン11は、その入力ポート21、22がRF信号源17に接続されており、生成された1対の信号は、それぞれ、出力ポート23、24から出力される。RF信号源17の内部インピーダンスは、Z0(典型的には、50Ω)である。本実施形態では、入力側バラン11として、1対の4分の1波長の伝送線路25で構成された伝送線路バランが使用される。入力側バラン11を構成する伝送線路25の特性インピーダンスはZ0(典型的には、50Ω)である。なお、入力側バラン11として伝送線路バランが使用される必要は必ずしもない。入力側バラン11の代わりに、RF信号源17から受け取った入力信号を、互いに位相が反転した1対の信号に変換する様々な回路が使用され得る。例えば、伝送線路で形成された入力側バラン11の代わりに、変成器バラン、ラットレース回路、180°方向性結合器、又は、90°方向性結合器と1/4波長伝送線路の組み合わせのいずれかを使用することも可能である。
【0027】
入力側バラン11の一方の出力ポート23は、4分の1波長の伝送線路12を介してキャリア増幅器13の入力に接続され、他方の出力ポート24は、ピーク増幅器14に接続されている。即ち、入力側バラン11から出力された1対の信号の一方は、伝送線路12を介してキャリア増幅器13の入力に供給され、他方はピーク増幅器14の入力に供給される。即ち、入力側バラン11と伝送線路12との接続ノードは、1対の信号の一方が入力される入力ノードとして機能し、入力側バラン11とピーク増幅器14との接続ノードは、他方が入力される入力ノードとして機能する。
【0028】
キャリア増幅器13の出力は、出力側バラン16の一方の平衡ポート26に接続され、ピーク増幅器14の出力は、4分の1波長の伝送線路15を介して他方の平衡ポート27に接続されている。伝送線路12、15の特性インピーダンスは、いずれも、Z0/2(典型的には25Ω)である。また、キャリア増幅器13、及びピーク増幅器14の出力インピーダンスも、Z0/2(典型的には25Ω)である。本実施形態では、キャリア増幅器13において発生する移相とピーク増幅器14で発生する移相とが等しく、且つ、伝送線路12、15の電気長は、同じである。したがって、キャリア増幅器13から平衡ポート26に入力される信号と、ピーク増幅器14から伝送線路15を介して平衡ポート27に入力される信号とは、互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成している。
【0029】
出力側バラン16は、平衡ポート26、27に供給された平衡信号を、非平衡の出力信号に変換し、その出力信号を非平衡ポート28、29から負荷18に出力する。負荷18のインピーダンスは、Z0(典型的には50Ω)である。負荷18の一端は、接地されていることに留意されたい。本実施形態では、出力側バラン16として、1対の4分の1波長の伝送線路30で構成された伝送線路バランが使用される。出力側バラン16を構成する伝送線路30の特性インピーダンスはZ0(典型的には、50Ω)である。伝送線路バランの典型例としては、同軸線路バラン及びマーチャント(Marchand)バランが挙げられる。
【0030】
図5のドハティ増幅回路10では、RF信号源17から供給される入力信号の電力が比較的に小さいとき、キャリア増幅器13のみが増幅動作を行い、入力信号の電力が比較的に大きい場合には、キャリア増幅器13及びピーク増幅器14の両方が増幅動作を行う。キャリア増幅器13及びピーク増幅器14がこのような動作を行うと、図5のドハティ増幅回路10は、出力側バラン16の機能によって直列負荷構成のドハティ増幅回路として機能する。以下では、バランの機能について言及した後、図5のドハティ増幅回路10のドハティ増幅回路としての動作を説明する。
【0031】
図6は、バランの機能を説明する図である。図6のバラン31は、1対の4分の1波長の伝送線路32で構成されており、伝送線路32の特性インピーダンスはZ0である。これにより、バラン31と負荷33の間のインピーダンス整合が実現される。
【0032】
図6に示されているように、バラン31の平衡ポート34、35に、信号源36、37から位相が反対である(即ち、平衡である)1対の信号vi/2、−vi/2が入力されると、それらが合成された信号jviが非平衡ポート38、39から出力される。ここで、「j」は、虚数単位であり、非平衡ポート38、39から出力される信号の位相が信号vi/2から遅れていることを示している。
【0033】
バラン31の非平衡ポート38、39に接続された負荷33のインピーダンスがZ0(例えば50Ω)である場合、インピーダンス整合を実現するためには、信号源36、37の出力インピーダンスがZ0/2であればよい。図5のドハティ増幅回路10がこのような要求を満足していることは、容易に理解されよう。
【0034】
図6のバランにおいて、一方の平衡ポート35が接地されると、図7に示されているように、信号源36は、特性インピーダンスZ0の伝送線路32を介して負荷33に接続されるので、信号源36から負荷33を見たインピーダンスは、Z0になる。
【0035】
図5のドハティ増幅回路10は、このようなバランの機能により、直列負荷構成のドハティ増幅回路として機能する。図8は、ピーク増幅器14が動作していないときの図5のドハティ増幅回路10の等価回路であり、図9は、ピーク増幅器14が動作しているときの図5のドハティ増幅回路10の等価回路である。
【0036】
図8に示されているように、ピーク増幅器14が動作していない場合には、ピーク増幅器14の出力が開放される。したがって、本実施形態のドハティ増幅回路10は、負荷18の一端がキャリア増幅器13に接続され、他端が先端開放の4分の1波長の伝送線路15に接続された回路として機能する。この場合、伝送線路15が接続されている平衡ポート27は短絡され、従って、キャリア増幅器13が負荷18を見たときの出力インピーダンスはZ0である。
【0037】
一方、ピーク増幅器14が動作している場合には、図9に示されているように、本実施形態のドハティ増幅回路10は、負荷18の一端がキャリア増幅器13に接続され、他端が伝送線路15を介してピーク増幅器14に接続された回路として機能する。この場合、ピーク増幅器14は、−Z0/2の負性インピーダンスとして機能するから、キャリア増幅器13から負荷18を見たインピーダンスはZ0/2になる。
【0038】
以上の動作は、図2、図3を参照して説明された直列負荷構成のドハティ増幅回路と一致している。このように、本実施形態のドハティ増幅回路10は、直列負荷構成のドハティ増幅回路として機能する。したがって、本実施形態のドハティ増幅回路10は、良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換における回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現できる。
【0039】
なお、本実施形態は、キャリア増幅器13とピーク増幅器14で発生する移相が等しいものとして記載されているが、キャリア増幅器13とピーク増幅器14で発生する移相は、微妙に相違し得る。この場合、伝送線路12、15の電気長の調節によって対応可能である。キャリア増幅器13とピーク増幅器14で発生する移相が相違する場合、伝送線路12、15の電気長は、平衡ポート26に入力される信号と平衡ポート27に入力される信号とが互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成するように調節されることが好ましい。
【0040】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aの構成を示す回路図である。第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aの構成は、第1の実施形態のドハティ増幅回路10に類似している。相違点は、第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aでは、入力側バラン11の平衡ポート23が電気長L1の伝送線路41と4分の1波長の伝送線路12とを介してキャリア増幅器13に接続され、ピーク増幅器14の出力が電気長L1の伝送線路42と4分の1波長の伝送線路15とを介して出力側バラン16の平衡ポート27に接続されている点である。伝送線路41、42の特性インピーダンスは、いずれも、Z0/2である。
【0041】
本実施形態のドハティ増幅回路10Aの構成は、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに、ピーク増幅器14の出力からピーク増幅器14の内部を見たときのインピーダンス(以下では、「非動作時出力インピーダンス」という。)が充分に大きくない場合があるという問題に対処するためのものである。上述のように、理想的な直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作を実現するためには、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに伝送線路15とピーク増幅器14との接続ノードが開放になり、これにより、出力側バラン16の平衡ポート27が接地に対して短絡になる。しかしながら、ピーク増幅器14の増幅用トランジスタとして高周波・高出力トランジスタが用いられる場合には、増幅用トランジスタの電流容量が大きくインピーダンスが低いため、ピーク増幅器14の非動作時出力インピーダンスが無限大とみなせない場合がある。この場合、出力側バラン16の平衡ポート27が接地に対して完全には短絡とならず、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作を実現する上で問題である。本実施形態では、伝送線路42がピーク増幅器14の出力に接続されることにより、このような問題が軽減されている。
【0042】
伝送線路42の電気長L1は、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに、伝送線路42を介してピーク増幅器14の内部を見たときのインピーダンスが、最大になるように調節される。言い換えれば、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに、出力側バラン16の平衡ポート27からピーク増幅器14の出力を見たときのインピーダンスが最小であるように調節される。
【0043】
図11は、伝送線路42の電気長L1の決定方法を示すスミスチャートである。ピーク増幅器14の非動作時出力インピーダンスをZPA0とし、非動作時出力インピーダンスZPA0に対応する点と中心点とを結ぶ線分と、水平軸の中心点から右側に位置する部分とがなす角をθとすると、伝送線路42の電気長L1は、電気角θに対応する電気長に決定される。これにより、伝送線路42を介してピーク増幅器14の出力から内部を見たときのインピーダンスZPAが最大になる。言い換えれば、出力側バラン16の平衡ポート27からピーク増幅器14の出力を見たときのインピーダンスが最小になる。伝送線路42の電気長L1がこのように決定されることにより、ピーク増幅器14の非動作時出力インピーダンスが有限値を取る場合でも、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作を実現することができる。
【0044】
キャリア増幅器13の入力に接続される伝送線路41は、出力側バラン16の平衡ポート26、27に入力される1対の平衡信号の位相の関係を維持するために設けられている。伝送線路41の電気長は、平衡ポート26に入力される信号と平衡ポート27に入力される信号とが互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成するように決定される。キャリア増幅器13とピーク増幅器14で発生する移相が等しい場合には、伝送線路41の電気長は、伝送線路42の電気長と同一であるように決定される。
【0045】
なお、上記では、動作の説明の容易性を考慮して、4分の1波長の伝送線路15と電気長L1の伝送線路42とが別々に設けられているとして第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aが説明されているが、伝送線路15、42の代わりに、(λ/4)+L1の電気長を有する伝送線路が使用されてもよい。また、4分の1波長の伝送線路15と電気長L1の伝送線路42とが別々に設けられる場合でも、その位置を入れ替えることが可能である。同様に、伝送線路12、41の代わりに、(λ/4)+L1の電気長を有する伝送線路が使用されてもよく、伝送線路12、41が別々に設けられる場合でも、その位置を入れ替えることが可能である。
【0046】
(第3の実施形態)
図12は、本発明の第3の実施形態のドハティ増幅回路10Bの構成を示す回路図である。第3の実施形態のドハティ増幅回路10Bの構成は、第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aに類似している。相違点は、第3の実施形態のドハティ増幅回路10Bでは、キャリア増幅器13の出力に電気長L2の伝送線路43が接続され、ピーク増幅器14の入力に電気長L2の伝送線路44が接続される点にある。
【0047】
本実施形態のドハティ増幅回路10Bの構成は、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに、キャリア増幅器13に内蔵されている増幅用トランジスタから負荷18をみたときのインピーダンスが、増幅用トランジスタのリアクタンス成分及び出力側インピーダンス変換回路の影響で、充分に大きくならない場合があるという問題に対処するためのものである。理想的な直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作では、ピーク増幅器14が動作しない状態にある場合、キャリア増幅器13に内蔵されている増幅用トランジスタから負荷18をみたときのインピーダンスがZ0でなくてはならない。
【0048】
より具体的には、キャリア増幅器13の出力と出力側バラン16の平衡ポート26の間に電気長L2の伝送線路43を挿入することにより、キャリア増幅器13に内蔵されている増幅用トランジスタから負荷18をみたときのインピーダンスを調節することができる。これにより、インピーダンスの適切な調節により、利得向上が実現できる。
【0049】
ピーク増幅器14の入力に接続される伝送線路44は、出力側バラン16の平衡ポート26、27に入力される1対の平衡信号の位相の関係を維持するために設けられている。伝送線路44の電気長は伝送線路43と同一であるように決定され、これにより、出力側バラン16の平衡ポート26、27に入力される1対の平衡信号の位相は、互いに逆であるように維持される。
【0050】
なお、本実施形態において、ピーク増幅器14の非動作時出力インピーダンスが充分に大きい場合には、伝送線路41、42は設けられなくてもよい。また、第2の実施形態と同様に、伝送線路15、42の代わりに、(λ/4)+L1の電気長を有する伝送線路が使用されてもよい。また、4分の1波長の伝送線路15と電気長L1の伝送線路42とが別々に設けられる場合でも、その位置を入れ替えることが可能である。同様に、伝送線路12、41の代わりに、(λ/4)+L1の電気長を有する伝送線路が使用されてもよく、伝送線路12、41が別々に設けられる場合でも、その位置を入れ替えることが可能である。
【0051】
なお、上記には本発明の様々な実施形態が記述されているが、本発明は、上記の実施形態に限定して解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作原理を示す回路図である。
【図2】図2は、直列負荷構成のドハティ増幅回路の例を説明する図である。
【図3】図3は、図2のドハティ増幅回路の動作を説明する図である。
【図4】図4は、キャリア増幅器及びピーク増幅器の概略構成を示す図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態のドハティ増幅回路の構成を示す回路図である。
【図6】図6は、バランの機能を説明する図である。
【図7】図7は、バランの機能を説明する図である。
【図8】図8は、ピーク増幅器が動作していない場合の図5のドハティ増幅回路の動作を示す等価回路である。
【図9】図9は、ピーク増幅器が動作している場合の図5のドハティ増幅回路の動作を示す等価回路である。
【図10】図10は、本発明の第2の実施形態のドハティ増幅回路の構成を示す回路図である。
【図11】図11は、図10のドハティ増幅回路に集積化される伝送線路の電気長の決定方法を示す図である。
【図12】図12は、本発明の第3の実施形態のドハティ増幅回路の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0053】
1:キャリア増幅器
2:ピーク増幅器
3:負荷
4:インピーダンス変換回路
5:伝送線路
6:接続ノード
7:入力側インピーダンス変換回路
8:増幅用トランジスタ
9:出力側インピーダンス変換回路
10、10A、10B:ドハティ増幅回路
11:入力側バラン
12:伝送線路
13:キャリア増幅器
14:ピーク増幅器
15:伝送線路
16:出力側バラン
17、17A:RF信号源
18:負荷
21、22:非平衡ポート
23、24:平衡ポート
25:伝送線路
26、27:平衡ポート
28、29:非平衡ポート
30:伝送線路
31:バラン
32:伝送線路
33:負荷
34、35:平衡ポート
36、37:信号源
38、39:非平衡ポート
41、42、43、44:伝送線路
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドハティ増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの高度化に伴う送信電力制御技術、多値変調方式、及び、多チャンネル共通増幅技術のような様々な新規技術の進展により、システムのキーデバイスである送信電力増幅器の電力効率および歪み特性への要求は一層厳しくなっている。
【0003】
ドハティ(Doherty)増幅器は、このような要求を満足する増幅器として期待されており、多くの機関により研究・開発が行われている。移動体通信システムの基地局には、数十〜数百ワットクラスの送信増幅器が使用されており、特に、このような増幅器へのドハティ増幅回路の応用に向けた開発が、国内外で精力的に行われている。また、近年では、端末送信器へのドハティ増幅回路の導入についても検討が進められるようになっている。
【0004】
ドハティ増幅回路は、1936年にドハティ(Doherty)により提案された増幅器であり、2つの増幅素子(提案当時は、2本の真空管)で構成されている(W.H. Doherty, "A new high efficiency power amplifier for modulated waves," Proc. IRE, vol. 24, No. 9, pp. 1163-1182, Sept. 1936参照)。ドハティは、基本的な構成として、直列負荷構成(Fig.3)及び並列負荷構成(Fig.4)の2種類を提案している。ドハティ自身も言及しているように、通常、負荷の一端が接地されている並列負荷構成の方が回路構成が容易であると考えられ、ドハティの報告も、もっぱら、並列負荷構成について記載している。近年の超高周波増幅器を含め、その後に報告がなされているドハティ増幅回路は、発明者が知る限り、すべて並列負荷構成を採用している。
【0005】
典型的な並列負荷構成のドハティ増幅回路の動作は、概略的には、下記の通りである。入力信号は、分配回路によって2分される。一方の信号は、AB級動作又はB級動作をする増幅器(キャリア増幅器と呼ばれる)に供給され、他方の信号は、4分の1波長の電気長の伝送線路を介してB級動作又はC級動作をする増幅器(ピーク増幅器と呼ばれる)に供給される。ピーク増幅器からの出力信号、及びキャリア増幅器の出力に接続された4分の1波長の電気長の伝送線路からの出力信号が合成されて最終的に出力される増幅信号が生成され、生成された増幅信号が負荷に供給される。典型的なドハティ増幅回路では、入力信号の電力を増加していったとき、キャリア増幅器の出力がほぼ飽和出力に達し、効率が最大電力効率(B級動作では78%)に達する状態に近い状態になると、ピーク増幅器の出力が立ち上がる。この状態では、両増幅器の出力電力が共通負荷に取り出される。その結果、入力信号電力を増加していった場合には、ピーク増幅器が立ち上がるまではキャリア増幅器が増幅動作して増幅特性を支配し、キャリア増幅器が最大電力・最大電力効率に達して信号レベルでピーク増幅器が立ち上がり、入力信号電力が更に増加しても電力効率が維持されるような特性が得られる。
【0006】
本発明に関連し得る技術として、特開2006−148780号公報は、バラン(分配器)を用いた高周波ドハティ増幅回路を開示している。この公報に開示された高周波ドハティ増幅回路は、バランによる分配ロスを抑制し、これにより、高利得を得るための構成を有している。具体的には、当該高周波ドハティ増幅回路は、入力された高周波信号を2つの信号に分配し、それぞれ、第1及び第2の出力端から出力するための第1のバランと、第1の出力端に接続された主増幅器(キャリア増幅器)と、第2の出力端に接続された補助増幅器(ピーク増幅器)と、主増幅器及び補助増幅器からそれぞれに出力された信号を合成する第2のバランとを備えている。第1のバランは、入力された高周波信号の電力が所定値未満の場合には高周波信号を主増幅器のみに出力し、所定値以上の場合には高周波信号を2つの信号に分配し、主増幅器及び補助増幅器にそれぞれに出力するように構成されている。このような構成によれば、高周波信号の電力が低いときに、動作しない補助増幅器に無駄に電力が分配される分配ロスを抑制することができる。
【0007】
並列負荷構成のドハティ増幅回路の一つの問題は、各増幅器にインピーダンス変換比が高いインピーダンス変換回路を搭載する必要であるため、回路損失が大きく、また、周波数帯域が狭いことである。高出力増幅器のトランジスタは、インピーダンスが極めて小さいので、負荷との整合を取るためには、増幅器にインピーダンス変換回路を搭載する必要がある。ここで、並列負荷構成のドハティ増幅回路では、両方の増幅器が動作したときに回路整合を実現するためには、負荷のインピーダンスの2倍の出力インピーダンスを有するキャリア増幅器及びピーク増幅器を使用する必要がある。具体的には、負荷のインピーダンスがZ0(例えば、50Ω)である場合、キャリア増幅器及びピーク増幅器のそれぞれの出力インピーダンスは2Z0(例えば、100Ω)でなければならない。したがって、並列接続負荷方式のドハティ増幅回路では、50Ωの負荷との回路整合を実現するためには、(インピーダンスを100Ωに変換するような)インピーダンス変換比が高いインピーダンス変換回路を各増幅器に搭載する必要がある。インピーダンス変換比が高いインピーダンス変換回路の挿入は、回路損失の増大及び周波数帯域の狭帯域化をもたらす。
【0008】
インピーダンス変換の問題を解決するためには、プッシュプル増幅回路が有効である。プッシュプル増幅回路は、B級動作又はB級動作に近い動作をする同一の2つの増幅器が直列に接続されて構成されている。このようなプッシュプル増幅回路は、現在、大電力の基地局用の送信増幅回路に使用されている。プッシュプル増幅回路ではバランが使用されるため、50Ωのインピーダンスの機器に対して整合をとるためには、2つの増幅器のインピーダンスを25Ωで設計すればよい。したがって、各増幅器に(インピーダンスを25Ωに変換するような)インピーダンス変換比が低いインピーダンス変換回路を搭載することで整合を実現できる。これは、回路損失の面及び周波数帯域の面で有利である。しかしながら、発明者の検討によれば、プッシュプル増幅回路では、各増幅器がB級動作を行うという制約により、特性向上には限界がある。
【0009】
このような背景から、従来のドハティ増幅回路の利点(即ち、良好な電力効率と歪み特性)と、プッシュプル増幅回路の利点(即ち、インピーダンス変換における回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化)を合わせ持つ増幅器を提供することが望まれている。
【非特許文献1】W.H. Doherty, "A new high efficiency power amplifier for modulated waves," Proc. IRE, vol. 24, No. 9, pp. 1163-1182, Sept. 193
【特許文献1】特開2006−148780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換による回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現できる増幅回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の以下に述べられる手段を採用する。その手段の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号が付記されている。但し、付記された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0012】
本発明のドハティ増幅回路は、互いに位相が逆の1対の入力信号がそれぞれに入力される第1及び第2ノードと、キャリア増幅器(13)と、前記キャリア増幅器(13)の入力と前記第1ノードとの間に接続された第1伝送線路(12)と、前記第2ノードに入力が接続されたピーク増幅器(14)と、第1バラン(16)と、第2伝送線路(15)とを具備している。前記第1バラン(16)の第1平衡ポート(26)は、前記キャリア増幅器(13)の出力に接続され、前記第1バラン(16)の第2平衡ポート(27)は、前記第2伝送線路(15)を介して前記ピーク増幅器(14)の出力に接続されている。第1伝送線路(12)と第2伝送線路(15)の電気長は、第1平衡ポート(26)に入力される信号と第2平衡ポート(27)に入力される信号とが、互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成するように決定される。このように構成されたドハティ増幅回路は、直列負荷構成のドハティ増幅回路として機能する。直列負荷構成のドハティ増幅回路は、並列負荷構成のドハティ増幅回路と同様な利点(即ち、良好な電力効率と歪み特性)を有する上、直列負荷構成のドハティ増幅回路では、キャリア増幅器及びピーク増幅器の内部におけるインピーダンス変換比を小さくできる。従って、ドハティ増幅回路は、インピーダンス変換による回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換による回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現できる増幅回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のドハティ増幅回路の一つの特徴は、従来広く使用されている並列負荷構成ではなく、直列負荷構成を採用することにある。これにより、本発明のドハティ増幅回路は、良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換における回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現している。以下では、本発明のドハティ増幅回路の具体的な実施形態を説明する前に、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作原理及び利点について説明する。
【0015】
図1は、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作原理を示す概念図である。ドハティ増幅回路は、2つの増幅器:キャリア増幅器1とピーク増幅器2とを備えて構成される。図1では、キャリア増幅器1とピーク増幅器2は、いずれも、入力信号に対応した電流を生成する電流源として図示されている。キャリア増幅器1は、常時動作する増幅器であり、ピーク増幅器2は、入力信号の電力が大きい場合にのみ動作する増幅器である。負荷3は、キャリア増幅器1とピーク増幅器2に対して直列に接続される。直列負荷構成のドハティ増幅回路では、負荷3のインピーダンスがZ0である場合に、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の出力インピーダンスがZ0/2であるように設計される。
【0016】
ピーク増幅器2と負荷3との間には、インピーダンス変換回路4が設けられる。このインピーダンス変換回路4は、ピーク増幅器2が動作したときにインピーダンス整合を取るために設けられる。具体的には、インピーダンス変換回路4は、下記の条件を満足するように設計される:
(1)ピーク増幅器2が動作していない場合(即ち、ピーク増幅器2の出力が開放になっている場合)には、キャリア増幅器1から負荷3を見たインピーダンスがZ0になる。
(2)ピーク増幅器2が動作している場合には、キャリア増幅器1から負荷3を見たインピーダンスがZ0/2になる。
【0017】
最も簡単なインピーダンス変換回路4は、図2に示されているように、4分の1波長の伝送線路5である。ピーク増幅器2が動作せず、その出力が開放になっている場合には、図3に示されているように、4分の1波長の伝送線路5の作用により、負荷3と伝送線路5の接続ノード6が接地に対して短絡になる。したがって、ピーク増幅器2が動作していない場合にはキャリア増幅器1から負荷3を見たインピーダンスがZ0になる。一方、ピーク増幅器2が動作すると、図2に示されているように、キャリア増幅器1から負荷3をみたときにはピーク増幅器2が−Z0/2の負性インピーダンスとして機能するから、キャリア増幅器1から負荷3を見たインピーダンスはZ0/2になる。
【0018】
キャリア増幅器1、ピーク増幅器2、及び負荷3の間の接続関係が異なるものの、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作は、並列負荷構成のドハティ増幅回路と同様であり、同様の利点が得られる。具体的には、入力信号の電力を増加していったとき、キャリア増幅器1の出力がほぼ飽和出力に達し、効率が最大電力効率に達する状態に近い状態になると、ピーク増幅器2の出力が立ち上がる。この状態では、キャリア増幅器1、ピーク増幅器2の出力電力が共通の負荷3に取り出される。その結果、入力信号電力を増加していった場合には、ピーク増幅器2が立ち上がるまではキャリア増幅器1が増幅動作して増幅特性を支配し、キャリア増幅器1が最大電力・最大電力効率に達した信号レベルでピーク増幅器2が立ち上がり、入力信号電力が更に増加しても電力効率が維持されるような特性が得られる。直列負荷構成のドハティ増幅回路は、このような動作により、良好な電力効率および歪み特性を実現できる。
【0019】
直列負荷構成のドハティ増幅回路の更なる利点は、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2に求められる出力インピーダンスが小さいことである。具体的には、上述のように、負荷3のインピーダンスがZ0である場合に、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の出力インピーダンスはZ0/2である。キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の出力インピーダンスの低減は、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の内部におけるインピーダンス変換における回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化に有効である。以下では、その理由を詳細に説明する。
【0020】
図4は、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の概略構成を示す回路図である。キャリア増幅器1及びピーク増幅器2は、最も概略的には、入力側インピーダンス変換回路7と、増幅用トランジスタ8と、出力側インピーダンス変換回路9とを備えて構成される。図4の構成では、増幅用トランジスタ8として、大電力を出力可能なトランジスタを使用すると、増幅用トランジスタ8の出力インピーダンスは不可避的に小さくなる。このため、外部回路とのインピーダンス整合を取るために、出力側インピーダンス変換回路9が増幅用トランジスタ8の出力端(バイポーラトランジスタの場合にはコレクタ)に接続される。
【0021】
出力側インピーダンス変換回路9のインピーダンス変換比は、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2に求められる出力インピーダンスによって決定される。一般には、インピーダンス変換比が大きいほど、回路損失が増大し、周波数帯域が狭帯域化するので、出力側インピーダンス変換回路9のインピーダンス変換比は小さいことが望ましい。
【0022】
直列負荷構成のドハティ増幅回路では、同一の負荷のインピーダンスに対してキャリア増幅器1及びピーク増幅器2に求められる出力インピーダンスが並列負荷構成のドハティ増幅回路に比較して小さい。即ち、並列負荷構成のドハティ増幅回路では負荷のインピーダンスがZ0(例えば50Ω)である場合に、キャリア増幅器及びピーク増幅器の出力インピーダンスは2Z0(例えば100Ω)に設定される。一方、直列負荷構成のドハティ増幅回路では、上述されているように、負荷3のインピーダンスがZ0(例えば50Ω)である場合に、キャリア増幅器1及びピーク増幅器2の出力インピーダンスはZ0/2(例えば25Ω)である。したがって、直列負荷構成のドハティ増幅回路は、出力側インピーダンス変換回路9のインピーダンス変換比を小さくでき、回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化に有効である。
【0023】
直列負荷構成のドハティ増幅回路は、以上に説明されているような利点を有するものの、それを実現するための具体的な回路構成は知られていない。一つの大きな問題は、図1の回路構成では、負荷3が接地されないことである。これは、直列負荷構成のドハティ増幅回路を現実の回路に実装することを困難にしている。
【0024】
発明者は、伝送線路バランを使用することにより、負荷の一端が接地された直列負荷構成のドハティ増幅回路を実現可能であることを発見した。以下では、本発明のドハティ増幅回路の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図5は、本発明の第1の実施形態のドハティ増幅回路10の構成を示す回路図である。ドハティ増幅回路10は、入力側バラン11と、4分の1波長の伝送線路12と、キャリア増幅器13と、ピーク増幅器14と、4分の1波長の伝送線路15と、出力側バラン16とを備えている。
【0026】
入力側バラン11は、RF信号源17から受け取った入力信号を、互いに位相が反転した1対の信号に変換する分配回路として機能する。入力側バラン11は、その入力ポート21、22がRF信号源17に接続されており、生成された1対の信号は、それぞれ、出力ポート23、24から出力される。RF信号源17の内部インピーダンスは、Z0(典型的には、50Ω)である。本実施形態では、入力側バラン11として、1対の4分の1波長の伝送線路25で構成された伝送線路バランが使用される。入力側バラン11を構成する伝送線路25の特性インピーダンスはZ0(典型的には、50Ω)である。なお、入力側バラン11として伝送線路バランが使用される必要は必ずしもない。入力側バラン11の代わりに、RF信号源17から受け取った入力信号を、互いに位相が反転した1対の信号に変換する様々な回路が使用され得る。例えば、伝送線路で形成された入力側バラン11の代わりに、変成器バラン、ラットレース回路、180°方向性結合器、又は、90°方向性結合器と1/4波長伝送線路の組み合わせのいずれかを使用することも可能である。
【0027】
入力側バラン11の一方の出力ポート23は、4分の1波長の伝送線路12を介してキャリア増幅器13の入力に接続され、他方の出力ポート24は、ピーク増幅器14に接続されている。即ち、入力側バラン11から出力された1対の信号の一方は、伝送線路12を介してキャリア増幅器13の入力に供給され、他方はピーク増幅器14の入力に供給される。即ち、入力側バラン11と伝送線路12との接続ノードは、1対の信号の一方が入力される入力ノードとして機能し、入力側バラン11とピーク増幅器14との接続ノードは、他方が入力される入力ノードとして機能する。
【0028】
キャリア増幅器13の出力は、出力側バラン16の一方の平衡ポート26に接続され、ピーク増幅器14の出力は、4分の1波長の伝送線路15を介して他方の平衡ポート27に接続されている。伝送線路12、15の特性インピーダンスは、いずれも、Z0/2(典型的には25Ω)である。また、キャリア増幅器13、及びピーク増幅器14の出力インピーダンスも、Z0/2(典型的には25Ω)である。本実施形態では、キャリア増幅器13において発生する移相とピーク増幅器14で発生する移相とが等しく、且つ、伝送線路12、15の電気長は、同じである。したがって、キャリア増幅器13から平衡ポート26に入力される信号と、ピーク増幅器14から伝送線路15を介して平衡ポート27に入力される信号とは、互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成している。
【0029】
出力側バラン16は、平衡ポート26、27に供給された平衡信号を、非平衡の出力信号に変換し、その出力信号を非平衡ポート28、29から負荷18に出力する。負荷18のインピーダンスは、Z0(典型的には50Ω)である。負荷18の一端は、接地されていることに留意されたい。本実施形態では、出力側バラン16として、1対の4分の1波長の伝送線路30で構成された伝送線路バランが使用される。出力側バラン16を構成する伝送線路30の特性インピーダンスはZ0(典型的には、50Ω)である。伝送線路バランの典型例としては、同軸線路バラン及びマーチャント(Marchand)バランが挙げられる。
【0030】
図5のドハティ増幅回路10では、RF信号源17から供給される入力信号の電力が比較的に小さいとき、キャリア増幅器13のみが増幅動作を行い、入力信号の電力が比較的に大きい場合には、キャリア増幅器13及びピーク増幅器14の両方が増幅動作を行う。キャリア増幅器13及びピーク増幅器14がこのような動作を行うと、図5のドハティ増幅回路10は、出力側バラン16の機能によって直列負荷構成のドハティ増幅回路として機能する。以下では、バランの機能について言及した後、図5のドハティ増幅回路10のドハティ増幅回路としての動作を説明する。
【0031】
図6は、バランの機能を説明する図である。図6のバラン31は、1対の4分の1波長の伝送線路32で構成されており、伝送線路32の特性インピーダンスはZ0である。これにより、バラン31と負荷33の間のインピーダンス整合が実現される。
【0032】
図6に示されているように、バラン31の平衡ポート34、35に、信号源36、37から位相が反対である(即ち、平衡である)1対の信号vi/2、−vi/2が入力されると、それらが合成された信号jviが非平衡ポート38、39から出力される。ここで、「j」は、虚数単位であり、非平衡ポート38、39から出力される信号の位相が信号vi/2から遅れていることを示している。
【0033】
バラン31の非平衡ポート38、39に接続された負荷33のインピーダンスがZ0(例えば50Ω)である場合、インピーダンス整合を実現するためには、信号源36、37の出力インピーダンスがZ0/2であればよい。図5のドハティ増幅回路10がこのような要求を満足していることは、容易に理解されよう。
【0034】
図6のバランにおいて、一方の平衡ポート35が接地されると、図7に示されているように、信号源36は、特性インピーダンスZ0の伝送線路32を介して負荷33に接続されるので、信号源36から負荷33を見たインピーダンスは、Z0になる。
【0035】
図5のドハティ増幅回路10は、このようなバランの機能により、直列負荷構成のドハティ増幅回路として機能する。図8は、ピーク増幅器14が動作していないときの図5のドハティ増幅回路10の等価回路であり、図9は、ピーク増幅器14が動作しているときの図5のドハティ増幅回路10の等価回路である。
【0036】
図8に示されているように、ピーク増幅器14が動作していない場合には、ピーク増幅器14の出力が開放される。したがって、本実施形態のドハティ増幅回路10は、負荷18の一端がキャリア増幅器13に接続され、他端が先端開放の4分の1波長の伝送線路15に接続された回路として機能する。この場合、伝送線路15が接続されている平衡ポート27は短絡され、従って、キャリア増幅器13が負荷18を見たときの出力インピーダンスはZ0である。
【0037】
一方、ピーク増幅器14が動作している場合には、図9に示されているように、本実施形態のドハティ増幅回路10は、負荷18の一端がキャリア増幅器13に接続され、他端が伝送線路15を介してピーク増幅器14に接続された回路として機能する。この場合、ピーク増幅器14は、−Z0/2の負性インピーダンスとして機能するから、キャリア増幅器13から負荷18を見たインピーダンスはZ0/2になる。
【0038】
以上の動作は、図2、図3を参照して説明された直列負荷構成のドハティ増幅回路と一致している。このように、本実施形態のドハティ増幅回路10は、直列負荷構成のドハティ増幅回路として機能する。したがって、本実施形態のドハティ増幅回路10は、良好な電力効率と歪み特性と、インピーダンス変換における回路損失の低減及び周波数帯域の広帯域化の両方を実現できる。
【0039】
なお、本実施形態は、キャリア増幅器13とピーク増幅器14で発生する移相が等しいものとして記載されているが、キャリア増幅器13とピーク増幅器14で発生する移相は、微妙に相違し得る。この場合、伝送線路12、15の電気長の調節によって対応可能である。キャリア増幅器13とピーク増幅器14で発生する移相が相違する場合、伝送線路12、15の電気長は、平衡ポート26に入力される信号と平衡ポート27に入力される信号とが互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成するように調節されることが好ましい。
【0040】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aの構成を示す回路図である。第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aの構成は、第1の実施形態のドハティ増幅回路10に類似している。相違点は、第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aでは、入力側バラン11の平衡ポート23が電気長L1の伝送線路41と4分の1波長の伝送線路12とを介してキャリア増幅器13に接続され、ピーク増幅器14の出力が電気長L1の伝送線路42と4分の1波長の伝送線路15とを介して出力側バラン16の平衡ポート27に接続されている点である。伝送線路41、42の特性インピーダンスは、いずれも、Z0/2である。
【0041】
本実施形態のドハティ増幅回路10Aの構成は、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに、ピーク増幅器14の出力からピーク増幅器14の内部を見たときのインピーダンス(以下では、「非動作時出力インピーダンス」という。)が充分に大きくない場合があるという問題に対処するためのものである。上述のように、理想的な直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作を実現するためには、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに伝送線路15とピーク増幅器14との接続ノードが開放になり、これにより、出力側バラン16の平衡ポート27が接地に対して短絡になる。しかしながら、ピーク増幅器14の増幅用トランジスタとして高周波・高出力トランジスタが用いられる場合には、増幅用トランジスタの電流容量が大きくインピーダンスが低いため、ピーク増幅器14の非動作時出力インピーダンスが無限大とみなせない場合がある。この場合、出力側バラン16の平衡ポート27が接地に対して完全には短絡とならず、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作を実現する上で問題である。本実施形態では、伝送線路42がピーク増幅器14の出力に接続されることにより、このような問題が軽減されている。
【0042】
伝送線路42の電気長L1は、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに、伝送線路42を介してピーク増幅器14の内部を見たときのインピーダンスが、最大になるように調節される。言い換えれば、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに、出力側バラン16の平衡ポート27からピーク増幅器14の出力を見たときのインピーダンスが最小であるように調節される。
【0043】
図11は、伝送線路42の電気長L1の決定方法を示すスミスチャートである。ピーク増幅器14の非動作時出力インピーダンスをZPA0とし、非動作時出力インピーダンスZPA0に対応する点と中心点とを結ぶ線分と、水平軸の中心点から右側に位置する部分とがなす角をθとすると、伝送線路42の電気長L1は、電気角θに対応する電気長に決定される。これにより、伝送線路42を介してピーク増幅器14の出力から内部を見たときのインピーダンスZPAが最大になる。言い換えれば、出力側バラン16の平衡ポート27からピーク増幅器14の出力を見たときのインピーダンスが最小になる。伝送線路42の電気長L1がこのように決定されることにより、ピーク増幅器14の非動作時出力インピーダンスが有限値を取る場合でも、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作を実現することができる。
【0044】
キャリア増幅器13の入力に接続される伝送線路41は、出力側バラン16の平衡ポート26、27に入力される1対の平衡信号の位相の関係を維持するために設けられている。伝送線路41の電気長は、平衡ポート26に入力される信号と平衡ポート27に入力される信号とが互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成するように決定される。キャリア増幅器13とピーク増幅器14で発生する移相が等しい場合には、伝送線路41の電気長は、伝送線路42の電気長と同一であるように決定される。
【0045】
なお、上記では、動作の説明の容易性を考慮して、4分の1波長の伝送線路15と電気長L1の伝送線路42とが別々に設けられているとして第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aが説明されているが、伝送線路15、42の代わりに、(λ/4)+L1の電気長を有する伝送線路が使用されてもよい。また、4分の1波長の伝送線路15と電気長L1の伝送線路42とが別々に設けられる場合でも、その位置を入れ替えることが可能である。同様に、伝送線路12、41の代わりに、(λ/4)+L1の電気長を有する伝送線路が使用されてもよく、伝送線路12、41が別々に設けられる場合でも、その位置を入れ替えることが可能である。
【0046】
(第3の実施形態)
図12は、本発明の第3の実施形態のドハティ増幅回路10Bの構成を示す回路図である。第3の実施形態のドハティ増幅回路10Bの構成は、第2の実施形態のドハティ増幅回路10Aに類似している。相違点は、第3の実施形態のドハティ増幅回路10Bでは、キャリア増幅器13の出力に電気長L2の伝送線路43が接続され、ピーク増幅器14の入力に電気長L2の伝送線路44が接続される点にある。
【0047】
本実施形態のドハティ増幅回路10Bの構成は、ピーク増幅器14が動作しない状態にあるときに、キャリア増幅器13に内蔵されている増幅用トランジスタから負荷18をみたときのインピーダンスが、増幅用トランジスタのリアクタンス成分及び出力側インピーダンス変換回路の影響で、充分に大きくならない場合があるという問題に対処するためのものである。理想的な直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作では、ピーク増幅器14が動作しない状態にある場合、キャリア増幅器13に内蔵されている増幅用トランジスタから負荷18をみたときのインピーダンスがZ0でなくてはならない。
【0048】
より具体的には、キャリア増幅器13の出力と出力側バラン16の平衡ポート26の間に電気長L2の伝送線路43を挿入することにより、キャリア増幅器13に内蔵されている増幅用トランジスタから負荷18をみたときのインピーダンスを調節することができる。これにより、インピーダンスの適切な調節により、利得向上が実現できる。
【0049】
ピーク増幅器14の入力に接続される伝送線路44は、出力側バラン16の平衡ポート26、27に入力される1対の平衡信号の位相の関係を維持するために設けられている。伝送線路44の電気長は伝送線路43と同一であるように決定され、これにより、出力側バラン16の平衡ポート26、27に入力される1対の平衡信号の位相は、互いに逆であるように維持される。
【0050】
なお、本実施形態において、ピーク増幅器14の非動作時出力インピーダンスが充分に大きい場合には、伝送線路41、42は設けられなくてもよい。また、第2の実施形態と同様に、伝送線路15、42の代わりに、(λ/4)+L1の電気長を有する伝送線路が使用されてもよい。また、4分の1波長の伝送線路15と電気長L1の伝送線路42とが別々に設けられる場合でも、その位置を入れ替えることが可能である。同様に、伝送線路12、41の代わりに、(λ/4)+L1の電気長を有する伝送線路が使用されてもよく、伝送線路12、41が別々に設けられる場合でも、その位置を入れ替えることが可能である。
【0051】
なお、上記には本発明の様々な実施形態が記述されているが、本発明は、上記の実施形態に限定して解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、直列負荷構成のドハティ増幅回路の動作原理を示す回路図である。
【図2】図2は、直列負荷構成のドハティ増幅回路の例を説明する図である。
【図3】図3は、図2のドハティ増幅回路の動作を説明する図である。
【図4】図4は、キャリア増幅器及びピーク増幅器の概略構成を示す図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態のドハティ増幅回路の構成を示す回路図である。
【図6】図6は、バランの機能を説明する図である。
【図7】図7は、バランの機能を説明する図である。
【図8】図8は、ピーク増幅器が動作していない場合の図5のドハティ増幅回路の動作を示す等価回路である。
【図9】図9は、ピーク増幅器が動作している場合の図5のドハティ増幅回路の動作を示す等価回路である。
【図10】図10は、本発明の第2の実施形態のドハティ増幅回路の構成を示す回路図である。
【図11】図11は、図10のドハティ増幅回路に集積化される伝送線路の電気長の決定方法を示す図である。
【図12】図12は、本発明の第3の実施形態のドハティ増幅回路の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0053】
1:キャリア増幅器
2:ピーク増幅器
3:負荷
4:インピーダンス変換回路
5:伝送線路
6:接続ノード
7:入力側インピーダンス変換回路
8:増幅用トランジスタ
9:出力側インピーダンス変換回路
10、10A、10B:ドハティ増幅回路
11:入力側バラン
12:伝送線路
13:キャリア増幅器
14:ピーク増幅器
15:伝送線路
16:出力側バラン
17、17A:RF信号源
18:負荷
21、22:非平衡ポート
23、24:平衡ポート
25:伝送線路
26、27:平衡ポート
28、29:非平衡ポート
30:伝送線路
31:バラン
32:伝送線路
33:負荷
34、35:平衡ポート
36、37:信号源
38、39:非平衡ポート
41、42、43、44:伝送線路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに位相が逆の1対の信号がそれぞれに入力される第1及び第2ノードと、
キャリア増幅器と、
前記キャリア増幅器の入力と前記第1ノードとの間に接続された第1伝送線路と、
前記第2ノードに入力が接続されたピーク増幅器と、
伝送線路バランと、
第2伝送線路
とを備え、
前記伝送線路バランの第1平衡ポートが、前記キャリア増幅器の出力に接続され、
前記伝送線路バランの第2平衡ポートが、前記第2伝送線路を介して前記ピーク増幅器の出力に接続され、
前記第1伝送線路と前記第2伝送線路の電気長は、前記第1平衡ポートに入力される信号と前記第2平衡ポートに入力される信号とが、互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成するように決定される
ドハティ増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載のドハティ増幅回路であって、
前記第1伝送線路及び前記第2伝送線路の電気長が、4分の1波長である
ドハティ増幅回路。
【請求項3】
請求項1に記載のドハティ増幅回路であって、
前記第2伝送線路の電気長は、前記ピーク増幅器が動作していないときに前記第2平衡ポートから前記ピーク増幅器の出力を見たインピーダンスが最小であるように調節されている
ドハティ増幅回路。
【請求項4】
請求項1に記載のドハティ増幅回路であって、
更に、
前記第1ノードと前記キャリア増幅器の入力の間に、前記第1伝送線路に直列に接続された第3伝送線路と、
前記ピーク増幅器の出力と前記第2平衡ポートの間に、前記第2伝送線路に直列に接続され、前記第3伝送線路と同一の電気長を有する第4伝送線路
とを具備し、
前記第1伝送線路及び前記第2伝送線路の電気長が4分の1波長であり、
前記第4伝送線路の電気長は、前記ピーク増幅器が動作していないときに前記第2平衡ポートから前記ピーク増幅器の出力を見たインピーダンスが最小であるように調節されている
ドハティ増幅回路。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のドハティ増幅回路であって、
更に、
前記キャリア増幅器の出力と前記第1平衡ポートとの間に接続された第5伝送線路と、
前記第2ノードと前記ピーク増幅器の入力との間に接続された、前記第5伝送線路と同一の電気長を有する第6伝送線路
とを具備する
ドハティ増幅回路。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のドハティ増幅回路であって
更に、
信号源から受け取った入力信号から前記1対の信号を生成する分配回路を備える
ドハティ増幅回路。
【請求項7】
請求項6に記載のドハティ増幅回路であって、
前記分配回路が、バラン、ラットレースリング、180度方向性結合器、又は、90度方向性結合器と1/4波長伝送線路の組み合わせのいずれかで構成された
ドハティ増幅回路。
【請求項1】
互いに位相が逆の1対の信号がそれぞれに入力される第1及び第2ノードと、
キャリア増幅器と、
前記キャリア増幅器の入力と前記第1ノードとの間に接続された第1伝送線路と、
前記第2ノードに入力が接続されたピーク増幅器と、
伝送線路バランと、
第2伝送線路
とを備え、
前記伝送線路バランの第1平衡ポートが、前記キャリア増幅器の出力に接続され、
前記伝送線路バランの第2平衡ポートが、前記第2伝送線路を介して前記ピーク増幅器の出力に接続され、
前記第1伝送線路と前記第2伝送線路の電気長は、前記第1平衡ポートに入力される信号と前記第2平衡ポートに入力される信号とが、互いに位相が反転した1対の平衡信号を構成するように決定される
ドハティ増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載のドハティ増幅回路であって、
前記第1伝送線路及び前記第2伝送線路の電気長が、4分の1波長である
ドハティ増幅回路。
【請求項3】
請求項1に記載のドハティ増幅回路であって、
前記第2伝送線路の電気長は、前記ピーク増幅器が動作していないときに前記第2平衡ポートから前記ピーク増幅器の出力を見たインピーダンスが最小であるように調節されている
ドハティ増幅回路。
【請求項4】
請求項1に記載のドハティ増幅回路であって、
更に、
前記第1ノードと前記キャリア増幅器の入力の間に、前記第1伝送線路に直列に接続された第3伝送線路と、
前記ピーク増幅器の出力と前記第2平衡ポートの間に、前記第2伝送線路に直列に接続され、前記第3伝送線路と同一の電気長を有する第4伝送線路
とを具備し、
前記第1伝送線路及び前記第2伝送線路の電気長が4分の1波長であり、
前記第4伝送線路の電気長は、前記ピーク増幅器が動作していないときに前記第2平衡ポートから前記ピーク増幅器の出力を見たインピーダンスが最小であるように調節されている
ドハティ増幅回路。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のドハティ増幅回路であって、
更に、
前記キャリア増幅器の出力と前記第1平衡ポートとの間に接続された第5伝送線路と、
前記第2ノードと前記ピーク増幅器の入力との間に接続された、前記第5伝送線路と同一の電気長を有する第6伝送線路
とを具備する
ドハティ増幅回路。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のドハティ増幅回路であって
更に、
信号源から受け取った入力信号から前記1対の信号を生成する分配回路を備える
ドハティ増幅回路。
【請求項7】
請求項6に記載のドハティ増幅回路であって、
前記分配回路が、バラン、ラットレースリング、180度方向性結合器、又は、90度方向性結合器と1/4波長伝送線路の組み合わせのいずれかで構成された
ドハティ増幅回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−165037(P2009−165037A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2603(P2008−2603)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】
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