説明

ドライエッチング方法

【課題】SiC基板のドライエッチングにおいて高エッチングレートを確保しつつマイクロトレンチを抑制する。
【解決手段】エッチングガス源4から供給されるエッチングガスは、0%を含まない5%以下のSF6ガスを含む。SiC基板2が載置されるステージ11は金属ブロック12上に配置され、金属ブロック12に高周波電源8Bから印加されるバイアスは300W以上(電力密度で2.65W/cm2以上)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングガスとして六フッ化硫黄(SF6)を使用した炭化珪素(SiC)基板のドライエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応ガスとして六フッ化硫黄(SF6)を含むエッチングガスを使用した反応性イオン(RIE; Reactive Ion Etching)エッチングにより、炭化珪素(SiC)基板にトレンチを形成する技術が従来より種々知られている(例えば特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−234761号公報
【特許文献2】特開2007−324503号公報
【特許文献3】特開2008−294210号公報
【特許文献4】特開2009−188221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のこの種の技術におけるエッチング条件では、エッチングガスに含まれるSF6ガスを比較的高濃度に設定する一方、SiC基板に印加するバイアス電力を比較的低く設定している。具体的には、アルゴン(Ar)等の希ガスよって希釈するSF6ガスの濃度を例えば10%程度以上の比較的高い濃度で設定している。また、SiC基板に印加するバイアスは100W未満程度の低バイアスとしている。これらの条件に加え、圧力条件を低圧(高真空度)とした場合、トレンチの底面中央にSF6ガスに由来する硫化物が堆積するのを防止しつつ、トレンチの底面端部にマイクロトレンチと呼ばれる小さな溝が形成されるのを抑制でき、形状制御性は概ね良好である。しかし、従来のこの種の技術のエッチング条件は、低バイアスであるためエッチングレートが低い。つまり、従来のこの種の技術では、マイクロトレンチの抑制と高エッチングレートが両立しない。特に、従来のこの種の技術では、アスペクト比(トレンチの深さのトレンチの幅に対する比)が1.5以上の高アスペクト比の場合にマイクロトレンチの抑制や高エッチングレートを実現するための条件について、何ら考慮されていない。
【0005】
本発明は、エッチングガスとしてSF6を使用したSiC基板のドライエッチングにおいて、高エッチングレートを確保しつつマイクロトレンチを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくともSF6ガスを含むエッチングガスを使用して生成されるプラズマを用いるSiC基板のドライエッチング方法において、前記エッチングガスに含まれるSF6ガスの割合が0%を含まない5%以下であり、前記SiC基板にバイアスを加えるバイアスのパワーが300W以上(電力密度で2.65W/cm2以上)であることを特徴とする、ドライエッチング方法を提供する。前記SiC基板にバイアスを加えるバイアスのパワーが350W以上(電力密度で3.09W/cm2以上)であることがより好ましい。
【0007】
前記エッチングガスに含まれるSF6ガスの割合が0%を含まない2%以下であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0008】
エッチングガスに含まれるSF6ガスの割合を0%を含まない5%以下、好ましくは0%を含まない2%以下とし、かつSiC基板にバイアスを加えるバイアスのパワーを300W以上(電力密度で2.65W/cm2以上)より好ましくは350W以上(電力密度で3.09W/cm2以上)とすることで、高エッチングレートを確保しつつマイクロトレンチを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ドライエッチング装置の模式図。
【図2】SiC基板の模式的な断面図。
【図3】マイクロトレンチ率を説明するための模式図。
【図4】実験例におけるSF6ガスの割合とマイクロトレンチ率の関係を示す分布図。
【図5】実験例におけるSF6ガスの割合とSiC基板のエッチングレートの関係を示す分布図。
【図6】実験例におけるバイアスとマイクロトレンチ率の関係を示す分布図。
【図7】実験例におけるバイアスとSiC基板のエッチングレートの関係を示す分布図。
【図8】実験例における圧力とマイクロトレンチ率の関係を示す分布図。
【図9】実験例における圧力とSiC基板のエッチングレートの関係を示す分布図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明のドライエッチング方法を実行可能な誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)型のドライエッチング装置1の一例を示す。
【0011】
ドライエッチング装置1は、SiC基板2(図2を併せて参照)を搬入出するための図示しない出入口を備えるチャンバ(真空チャンバ)3を備える。チャンバ3のガス導入口3aにはエッチングガス源4が接続され、排気口3bにはチャンバ3内を真空排気するための真空ポンプを含む減圧機構5が接続されている。チャンバ3の頂部は誘電体壁6で閉鎖され、その上方には上部電極としてのアンテナ(プラズマ源)7が配置されている。アンテナ7は第1の高周波電源8Aに電気的に接続されている。一方、チャンバ3内の底部側には、SiC基板2が載置されて保持されるステージ11が配置されている。ステージ11は金属ブロック上に配置され、金属ブロックはベース部13内に収容されている。金属ブロック12は第2の高周波電源部8Bに電気的に接続されて下部電極として機能する。
【0012】
ステージ11の冷却装置14は、金属ブロック12内に形成された冷媒流路12aと、温調された冷媒を冷媒流路12a中で循環させる冷媒循環装置15とを備える。ステージ11には、SiC基板2を静電吸着するための静電吸着用電極16が備えられている。この静電吸着用電極16には、駆動電源17が電気的に接続されている。ステージ11には、基板5が載置される位置には、図示しない伝熱ガスの供給孔が設けられている。これらの供給孔は伝熱ガス源18に接続されている。
【0013】
コントローラ19は、第1及び第2の高周波電源8A,8B、エッチングガス源4、伝熱ガス源18、減圧機構5、冷却装置14、及び駆動電源17を含むドライエッチング装置1を構成する要素の動作を制御する。
【0014】
図2を参照すると、基板2は炭化珪素(SiC)からなる(以下、SiC基板という)。SiC基板2の表面にはトレンチ2a(図3参照)を形成するための開口を備えた二酸化珪素(SiO2)膜からなるマスク21を設けている。
【0015】
このドライエッチング装置1を使用したドライエッチング方法の概要は以下の通りである。
【0016】
まず、SiC基板2をチャンバ3内に搬入してステージ11の上面に位置する。次に、静電吸着用電極16に対して駆動電源17から直流電圧を印加し、SiC基板2をステージ11に静電吸着させる。続いて、伝熱ガス源18からSiC基板2の下面に伝熱ガスとしてヘリウム(He)を供給して充填する。その後、エッチングガス源4からチャンバ3内にエッチングガスを供給され、減圧機構5によりチャンバ2内を所定圧力に維持する。続いて、高周波電源8Aから上部電極としてのアンテナ17に高周波電圧を印加してチャンバ3内にプラズマを発生させると共に、高周波電源8Bにより下部電極としての金属ブロック12に高周波電力(バイアス電力)を印加して、ステージ11上のSiC基板2にバイアスが印加される。チャンバ3内に発生するプラズマにより基板2がエッチングされる。
【0017】
エッチング中は、冷媒循環装置15によって冷媒流路12a中で冷媒を循環させて金属ブロック12を冷却する。SiC基板2で発生する熱は、伝熱ガス(前述のように本実施形態ではヘリウム)を介した熱伝導によりステージ11に伝わり、さらに金属ブロック12に伝わる。その結果、金属ブロック12を冷却することで、ステージ11上に保持されたSiC基板2は、ステージ11を介して冷却される。
【0018】
本発明者は、図1のドライエッチング装置1でエッチングガス源4から供給されるエッチングガスとして少なくともSF6ガスを含むものを使用し、種々の条件でSiC基板2のドライエッチングを実行する実験を行った。前述のように、従来のこの種のドライエッチングでは、エッチングガスとしてSF6ガスの濃度が高く(SF6ガスは低希釈)、かつ低バイアが一般的である。しかし、実験の結果、本発明者は、エッチングガス中のSF6ガスの割合が極めて低く、すなわちSF6ガスは高希釈で、かつ高バイアスの場合、すなわち従来とはまったく異なるエッチング条件により、高エッチングレートを確保しつつマイクロトレンチを抑制できることを新たに見出した。以下、この実験について説明する。
【0019】
以下の表1に示すように、実験例No.1〜26で示す種々のエッチング条件でSiC基板2のドライエッチングを実行した。
【0020】
【表1】






【0021】
実験No.1〜13が本発明の実施例に相当し、実験No.14〜26が比較例に相当する。実験No.1〜26の具体的なエッチング条件は以下の通りである。
【0022】
エッチングガスに含まれるSF6の割合は、実験No.3が0.89%、実験No.18が0.90%、実験No.2,4,5,10が1.47%、実験No.17が1.92%、実験No.1,6〜9,13が1.96%、実験No.12,14〜16,19が2.0%、実験No.11が4.0%である。また、実験No.20が10%、実験No.26が55.56%、実験No.25が71.43%、実験No.21〜24が100%である。
【0023】
エッチングガスの組成は以下の通りである。実験No.1〜5,7,9,10,13,18はSF6ガス、O2ガス、及びArガスの混合ガスである。実験No.6,8,11,17はSF6ガス、O2ガス、及びHeガスの混合ガスである。実験No.12は、SF6ガスとArガスの混合ガスである。実験No.11,14〜16,19,20はSF6ガスとHeガスの混合ガスである。実験No.25,26はSF6ガスとO2ガスの混合ガスである。実験No.21〜24のエッチングガスはSF6ガスのみを含有する。
【0024】
アンテナ7に供給するパワーは実験No.21,23〜26が1000W、実験No.4,5,10が1200W、これら以外の実験No.1〜3,6〜9,11〜20,22が1500Wである。
【0025】
下部電極としての金属ブロック12に供給するバイアスのパワーについては、実験No.19では250W、実験No.1,8,9,12,13,16では350W、実験No.10では360W、実験No.2〜7,18は450W、実験No.11,14,15,17,20〜26は500Wに設定している。本実施形態では、金属ブロック12の上面(ステージ11が配置されている面)の面積は、113.39cm2である。従って、下部電極としての金属ブロック12に供給するバイアスのパワーを、単位面積当たりの電力密度で表すと、実験No.19では2.20W/cm2、実験No.1,8,9,12,13,16では3.09_W/cm2、実験No.10では3.17W/cm2、実験No.2〜7,18は3.97W/cm2、実験No.11,14,15,17,20〜26は4.41W/cm2である。
【0026】
チャンバ3内の圧力(絶対圧力表記)については、実験No.23では比較的高圧な8Paに設定したが、それ以外の実験No.1〜22,24〜26では比較的低圧の4Paに設定している。
【0027】
実験No.22ではSiC基板2の下面への伝熱ガスの供給を行わなかったが、それ以外の実験No.1〜20,22〜26では伝熱ガスとしてHeガスを使用し、その供給圧力(絶対圧力表記)は900Paとした。
【0028】
実験No.1〜26について、マイクロトレンチ率、SiC基板2のエッチングレート、選択比、及びアスペクト比率を測定した。
【0029】
図3を参照すると、マイクロトレンチ率は、トレンチ深さをDと、マイクロトレンチ2bが存在することに起因するトレンチ2aの底面の上向きの突出量Mとにより、以下の式で表される。マイクロトレンチ率の値が小さいほどマイクロトレンチ2bを抑制効果が高いことを示す。
【0030】
【数1】

【0031】
選択比はSiO2のマスク21のエッチングレートに対するSiC基板2のエッチングレートの比である。選択比が大きいことは、精度の良好なエッチングが可能であることを示す。
【0032】
アスペクト比は、トレンチの幅に対するトレンチの深さの比であり、トレンチ2aの幅が例えば1300nmとなる位置で評価している。
【0033】
図4から図9に主な項目についてデータを成立した分布図を示す。
【0034】
図4及び図5は、エッチングガス中のSF6ガスの割合に対するマイクロトレンチ率とSiC基板2のエッチングレートを示す。図4より、5%以下のマイクロトレンチ率、つまりマイクロトレンチの良好な抑制を実現できる、エッチングガス中のSF6ガスの割合が5%以下の場合である。また、エッチングガス中のSF6ガスの割合が2%以下であればマイクロトレンチ率がより低くなる傾向がある。次に、図5より、300nm/min以上の高いエッチングレートを実現できるのは、エッチングガス中のSF6ガスの割合が5%以下の場合である。以上より、高エッチングレートを確保しつつマイクロトレンチを抑制するには、エッチングガスに含まれるSF6ガスの割合は0%を含まない5%以下が好ましく、より好ましくは0%を含まない2%以下である。
【0035】
図6及び図7は下部電極としての金属ブロック12に供給するバイアスのパワーに対するマイクロトレンチ率とSiC基板2のエッチングレートを示す。図6より、バイアスが300W以上(電力密度で言えば300Wを金属ブロック12の面積である113.39cm2で除した2.65W/cm2以上)、特に35OW以上(電力密度で言えば3.09W/cm2以上)の場合には、5%以下の良好なマイクロトレンチ率を実現できる。また、図7よりバイアスが300W以上(2.65W/cm2以上)、特に350W以上(3.09W/cm2以上)であれば、300nm/min以上の高いエッチングレートを実現できる。以上より、高エッチングレートを確保しつつマイクロトレンチを抑制するには、ステージ11に保持されるSiC基板2にバイアスを加えるバイアスのパワーが300W以上(2.65W/cm2以上)が好ましい。
【0036】
図8及び図9はチャンバ3内の圧力に対するマイクロトレンチ率とSiC基板2のエッチングレートを示す。これら図8及び図9に示すように、本発明の実施例(SF6ガスの割合が0%を含まない5%以下でSiC基板2にバイアスを加えるバイアスのパワーが300W以上(2.65W/cm2以上))である実験No.1〜13では圧力は4Paであり、この圧力条件下で5%以下の良好なマイクロトレンチ率と300nm/min以上の高いエッチングレートを実現している。つまり、圧力条件としては4Pa前後の高圧(低真空度)である。
【0037】
以上のように、4Pa前後の高圧(低真空度)条件下で、エッチングガスに含まれるSF6ガスの割合を0%を含まない5%以下、好ましくは0%を含まない2%以下とし、かつSiC基板2にバイアスを加えるバイアスのパワーを300W以上(2.65W/cm2以上)より好ましくは350W以上(3.09W/cm2以上)とすることで、高エッチングレートを確保しつつマイクロトレンチを抑制できる。これは、高圧化(低真空度)によるトレンチ側壁へのイオン集中の緩和と、SF6の高希釈化と高バイアスによるトレンチへのエッチングデポの再付着防止効果の相乗によるものと推察される。
【符号の説明】
【0038】
1 ドライエッチング装置
2 SiC基板
2a トレンチ
3 チャンバ
3a ガス導入口
3b 排気口
4 エッチングガス源
5 減圧機構
6 誘電体壁
7 アンテナ
8A,8B 高周波電源
11 ステージ
12 金属ブロック
12a 冷媒流路
13 ベース部
14 冷却装置
15 冷媒循環装置
16 静電吸着用電極
17 駆動電源
18 伝熱ガス源
19 コントローラ
21 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともSF6ガスを含むエッチングガスを使用して生成されるプラズマを用いるSiC基板のドライエッチング方法において、
前記エッチングガスに含まれるSF6ガスの割合が0%を含まない5%以下であり、前記SiC基板にバイアスを加えるバイアスのパワーが300W以上であることを特徴とする、ドライエッチング方法。
【請求項2】
前記SiC基板にバイアスを加えるバイアスのパワーが350W以上であることを特徴とする、請求項1に記載のドライエッチング方法。
【請求項3】
少なくともSF6ガスを含むエッチングガスを使用して生成されるプラズマを用いるSiC基板のドライエッチング方法において、
前記エッチングガスに含まれるSF6ガスの割合が0%を含まない5%以下であり、前記SiC基板にバイアスを加えるバイアスの電力密度が2.65W/cm2以上であることを特徴とする、ドライエッチング方法。
【請求項4】
前記SiC基板にバイアスを加えるバイアスの電力密度が3.09W/cm2以上であることを特徴とする、請求項1に記載のドライエッチング方法。
【請求項5】
前記エッチングガスに含まれるSF6ガスの割合が0%を含まない2%以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−48160(P2013−48160A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186019(P2011−186019)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】