説明

ドラム式洗濯機

【課題】磁気粘性流体を用いたダンパを有する構成にあって、各部材の同芯度を向上させることができ、組み付け性が良好なドラム式洗濯機を提供する。
【解決手段】本実施形態のドラム式洗濯機は、ドラムを収容する水槽の振動を吸収するためのダンパを備える。前記ダンパは、シリンダと、前記シリンダの内部に収容される軸受と、前記軸受に対し軸方向に往復動可能に支持されるシャフトと、前記シャフトを囲繞して前記シリンダの内部に収容され、磁束を発生するコイル及び当該コイルが巻装されるボビンと、前記ボビンの軸方向両側に位置して配置され、前記シャフトが嵌挿されるヨークと、前記シャフトと前記ボビン及び前記ヨークとの間に充填されてシール部材により封止される磁気粘性流体とを具備する。前記ヨークに対して、前記軸受及び前記シール部材を夫々嵌合さるための嵌合部を設け、前記ヨーク、前記ボビン及び前記コイルを樹脂モールドにより固定ユニットとしてユニット化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、ドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばドラム式洗濯機において、その内部の水槽を、筐体の底部に複数のサスペンションにより弾性的に支持することで、ドラムの回転に伴う振動を低減するようになっている。
【0003】
この種のサスペンションとしては、近年、減衰力が可変のダンパを用いる考えがあり、それには機能性流体として磁気粘性流体が使用される(例えば、特許文献1参照)。具体的には、図5に示すサスペンションでは、そのシリンダ101の下部に、軸受ハウジング102が挿入されている。軸受ハウジング102内には、軸受103,104がスペーサ105により上下に離間させて収納されると共に、シール部材106が設けてある。また、シリンダ101内には、コイル107を巻装したボビン108が収容されると共に、ボビン108の上下両側にヨーク110,111が収容されている。
【0004】
そして、シャフト112とボビン108、下ヨーク111及び上ヨーク110との間には、前記磁気粘性流体113を充填している。磁気粘性流体113は、オイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものであり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで粘度が上昇する。図5は、その様子を示しており、コイル107に通電することで、シャフト112−磁気粘性流体113−上ヨーク110−シリンダ101−下ヨーク111−磁気粘性流体113−シャフト112の磁気回路115が発生する。これにより、磁気粘性流体113の粘度が高まり、摩擦抵抗が増加することで、減衰力が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−184068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したサスペンションの組み付けの際、シリンダ101内に、軸受ハウジング102、ボビン108及びヨーク110,111を各別に圧入する必要があり、面倒である。また、軸受ハウジング102、ボビン108及びヨーク110,111は、夫々の外周面とシリンダ101の内周面との接触により位置決めされる。このため、軸受ハウジング102、ボビン108及びヨーク110,111の相互間の軸心合せ(位置合わせ)が充分でないという課題がある。
【0007】
そこで、磁気粘性流体を用いたダンパを有する構成にあって、各部材の同芯度を向上させることができ、組み付け性が良好なドラム式洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態のドラム式洗濯機は、ドラムを収容する水槽の振動を吸収するためのダンパを備える。前記ダンパは、シリンダと、前記シリンダの内部に収容される軸受と、前記軸受に対し軸方向に往復動可能に支持されるシャフトと、前記シャフトを囲繞して前記シリンダの内部に収容され、磁束を発生するコイル及び当該コイルが巻装されるボビンと、前記ボビンの軸方向両側に位置して配置され、前記シャフトが嵌挿されるヨークと、前記シャフトと前記ボビン及び前記ヨークとの間に充填されてシール部材により封止される磁気粘性流体とを具備する。前記ヨークに対して、前記軸受及び前記シール部材を夫々嵌合さるための嵌合部を設け、前記ヨーク、前記ボビン及び前記コイルを樹脂モールドにより固定ユニットとしてユニット化した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態を示す、サスペンション全体の縦断面図
【図2】サスペンションの一部を拡大して示す縦断面図
【図3】ドラム式洗濯機の縦断側面図
【図4】第2実施形態を示す図2相当図
【図5】従来例を示す図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
以下、第1実施形態について、図1から図3を参照して説明する
先ず、図3は、ドラム式洗濯機(以下、洗濯機と称す)の全体構造を示しており、外殻を形成する箱状の外箱1の前面(図示右側)の中央部には、洗濯物出入口2が形成されると共に、当該出入口2を開閉する扉3が外箱1に枢支されている。また、外箱1の前面部の上部には、操作パネル4を設けており、その裏側に運転制御用の制御装置5を設けている。
【0011】
外箱1の内部には、水槽6が配設されている。この水槽6は、軸方向を前後とする横軸円筒状をなし、外箱1の底板1a上に左右一対(図2では一方のみ図示)のサスペンション7,7(詳細は後述する)によって前上がりの傾斜状態に弾性支持されている。
水槽6の背面部には、例えば直流のブラシレスモータからなるアウターロータ形のモータ8が取付けられている。モータ8は、そのロータ8aの中心部に取付けられた図示しない回転軸が、軸受ブラケット9を介して水槽6の内部に挿通されている。
【0012】
水槽6の内部には、ドラム10が配設されている。このドラム10も軸方向が前後の横軸円筒状を成すもので、それが後部の中心部で上記モータ8の回転軸の先端部に取付けられることにより、水槽6と同心の前上がりの傾斜状に支持されている。これにより、ドラム10は、モータ8により回転される回転槽として構成され、モータ8はドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能する。
【0013】
また、ドラム10の周側部たる胴部には、通水、通風可能な小孔11が全域にわたって多数形成されている。ドラム10および水槽6は、共に前面部に開口部12,13を有しており、そのうちの水槽6の開口部13と前記洗濯物出入口2との間に、環状のベローズ14が装着されている。これにより、洗濯物出入口2は、ベローズ14、水槽6の開口部13、及びドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なっている。
【0014】
貯水可能な水槽6の最低部位には、排水弁15aを介して排水管15が接続されている。この水槽6の背面側から上方および前方にわたって、乾燥ユニット16が配設されている。この乾燥ユニット16は、送風装置18と、加熱装置19と、図示しない除湿手段等を備えた循環ダクト17とから構成され、水槽6内から排出された空気中の水分を除湿し、次いで加熱して、水槽6内に戻す循環を行わせることにより、ドラム10内の洗濯物を乾燥させるようになっている。
【0015】
ここで、前記サスペンション7,7の構成について詳述する。サスペンション7,7は、ダンパ21を有しており、このダンパ21は、図1に示すように、主部材として、円筒状のシリンダ22と、このシリンダ22内を往復動するシャフト24を備えている。
【0016】
シリンダ22は、その下端部にシリンダ連結部22aが被着され、この連結部22aを前記底板1aの取付板1b(図3参照)にゴムなどの弾性座板26等を介してナット27で締結することにより、当該取付板1bに取付けられている。シリンダ22は、例えば鉄製の磁性材料で構成されると共に、クロムメッキ処理が施されている。これにより、シリンダ22は、高硬度で耐摩耗性がえられている。一方、シャフト24は、シリンダ22の内部に挿入されるシャフト主部24aと、その上端部に一体的に連結されたシャフト連結部24bとから構成される。シャフト24において、少なくともシャフト主部24aは例えば鉄製の磁性材料で構成されている。シャフト24は、連結部24bを水槽6の取付板6bに弾性座板28等を介してナット29で締結することにより、水槽6の振動に伴い一体的に上下方向等に振動するように取付けられている。尚、シリンダ22及びシャフト24は鉄以外の磁性材料で構成してもよい。また、シリンダ22及びシャフト24の双方に対して上記メッキ処理を施し或は省略する等、適宜変更してもよい。
【0017】
シャフト24とシリンダ22との間にはコイルばね25が設けられている。コイルばね25は、下端部がシリンダ22の上端部(後述の蓋部材50)に支持され、上端部がシャフト24の上部に配置された円板状のばね受け板30に受け止められ、弾発力が蓄積した状態に装着されている。つまり、コイルばね25は、シャフト24をシリンダ22から上方へ引き出すように付勢する状態に配置されている。
【0018】
続いて、シリンダ22の内部構造について詳述する。
シリンダ22内には、シャフト24を支持する上下一対の軸受31,32が配設されると共に、その軸受31,32間に位置してシール部材33,34により封止された磁気粘性流体36や、磁場発生装置37等が収容されている。
【0019】
先ず、磁場発生装置37は、シャフト24を囲繞する円筒状のボビン40と、このボビン40に巻装されて磁場(磁界)を発生するコイル41と、ボビン40の軸方向両側に設けられるヨーク42,43とを有する。図2に示すように、ボビン40の中心部には、シャフト24の外周面との間に筒状の隙間Gを形成する中空部が形成されている。ボビン40の軸方向両端部には、フランジ部40aが一体に設けられている。ボビン40の上側のヨーク42と下側のヨーク43は、例えば鉄製の磁性材料からなり、コイル41に通電されると、コイル41の周りに当該ヨーク42,43を介して磁束が通る磁気回路Aを形成する。
【0020】
ヨーク42,43は、何れもシリンダ22に収容可能な円筒状をなし、その中空部はシャフト24の外周面との間に狭小の隙間(例えば、0.4mm程度)を有し、前記ボビン40側の隙間と連通して上下方向に延びる円筒状の隙間Gを構成する。ヨーク42,43には、夫々ボビン40寄りの部位に、外周部を切欠くように窪ませた樹脂収容部42c、43cが形成されている。そして、磁場発生装置37は、コイル41が巻装されたボビン40と、その上、下部の各ヨーク42,43とが、樹脂モールドにより固定ユニットとしてユニット化されている。
【0021】
当該成型の際、図示しないモールド金型内に、ボビン40(コイル41)、ヨーク42,43は、夫々の軸心が一致するようにセットされる。この状態で、例えばナイロンやPBT等の熱可塑性樹脂が、コイル41の外側や樹脂収容部42c,43c等に入りこむ(図2の樹脂モールド部44参照)。これにより、ボビン40(コイル41)及びヨーク42,43が相互に位置決めがなされた状態で、軸方向に連なるように固定されることで、ボビン40及びヨーク42,43の各軸心とシャフト24の軸心とが一致するようになっている。また、磁場発生装置37は、そのモールド部44外周面をシリンダ22の内周面に沿わせるようにして、シリンダ22内に組み込まれる。組み込まれた磁場発生装置37の筒状中空部は、シャフト24の外周面との間に前記の隙間Gを形成する。
【0022】
前記軸受31,32は、例えば、何れも環状をなす焼結含油軸受であって、銅系の非磁性材料から構成されている。軸受31は、上側のヨーク42に形成された後述の嵌合部42aに嵌合される一方、軸受32は、下側のヨーク43に形成された後述の嵌合部43aに嵌合される。これにより、軸受31,32は、磁場発生装置37の軸方向両側で、シャフト24に対し摺接して軸方向である上下方向へ往復動可能に支持する滑り軸受として構成されている。
【0023】
図2に示すように、前記シール部材33,34は、内周側でシャフト24に密着するシール用のリップ46を有するゴム製の本体47に図示しないインサート部材(例えば金属環)をインサート成形した、所謂ばねなしのオイルシールである。シール部材33は、上側のヨーク42に形成された後述の嵌合部42bに嵌合される一方、シール部材34は、下側のヨーク43に形成された嵌合部43bに嵌合される。シール部材33,34は、何れも断面「J」字状をなし、上記隙間Gを上下両側から水密に封鎖する。本実施形態では、シール部材33,34の外径は、軸受31,32の外径よりも小さい寸法に設定されている。
【0024】
前記隙間G内には、磁気粘性流体36が充填されている。隙間Gは筒状の空間であるが、各ヨーク42,43と対応する隙間は最も狭小に形成されると共に、前記シール部材33,34により磁気粘性流体36が漏洩しないようになっている。
【0025】
磁気粘性流体36(MR流体)は、例えばオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものであり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇する特性を有し、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化する。このように、磁気粘性流体36は、外部から加える物理量を制御することで粘性等のレオロジー的性質が機能的に変化する機能性流体に属し、電気的エネルギーの印加により粘性が変化する。従って、磁気粘性流体36に代えて、電界(電場)の強度に応じて粘性特性が変化する電気粘性流体(ER流体)を用いてもよい。
【0026】
前記ヨーク42,43には、前記軸受31,32用の嵌合部42a,43aと、シール部材33,34用の嵌合部42b,43bとが設けられている。この場合、ヨーク42,43において、各嵌合部42a〜43bは例えば鍛造加工により成形されている。これにより、ヨーク42,43の寸法精度が高められ、磁場発生装置37の同芯度を向上させている。ヨーク42,43は、切削加工により成形してもよい。
【0027】
詳細には、上側のヨーク42は、その内周側の上部に軸受31の嵌合する内径D1とシール部材33の嵌合する内径D2とが異なる段付き状の内径を有する。この場合、内径D1は、内径D2よりも大きく(D1>D2)、且つ軸受31の外周部が嵌り込む寸法に設定されている。また、嵌合部42aは、ヨーク42の軸方向外端側(上端面)に臨むように形成されると共に、その軸方向寸法は軸受31の軸方向寸法と一致するように設定されている。これにより、軸受31は、段部たる嵌合部42aの壁面P(図2参照)に突き当てるようにして嵌め込まれ、ヨーク42の上端面及びシリンダ22の上端面と面一になる。
【0028】
シリンダ22の上端面には、軸受31を外れないように係止する係止部材として、蓋部材50が装着されている。蓋部材50は、非磁性材料である例えばSUSにより構成され、図2に示すように、コイルばね25下端部を受ける円板部50aと、円板部50a外周から下方に張り出す周壁部50bとを一体に有する。また、蓋部材50における円板部50aの中央部には、シャフト24が挿通される挿通孔部50cが形成されている。挿通孔部50cは、例えばバーリング加工により立ち上がるように形成されており、その外周部にコイルばね25下端部の内周部を位置させるようになっている。
【0029】
上側のヨーク42において、シール部材33用の嵌合部42bは、軸受31用の嵌合部42aと軸方向に隣り合うように、嵌合部42aの直ぐ下側に形成されている。図2に示すように、嵌合部42bは、シール部材33が嵌り込む寸法形状に形成されている。そして、各嵌合部42a,42bに、シール部材33と軸受31とが嵌合して互いに接するように配置される。これにより、シール部材33は、嵌合部42bにて軸受31により外側から抜けないように挟持され、シール性も高めうる。
【0030】
他方、下側のヨーク43にも、上記したヨーク42と同様の嵌合部43a,43bが設けられている。即ち、ヨーク43は、その内周側の下部に軸受32の嵌合する内径D1とシール部材34の嵌合する内径D2とが異なる段付き状の内径を有し、内径D1は、軸受32の外周部が嵌り込む寸法に設定される。嵌合部43aは、ヨーク43の軸方向外端側(下端面)に臨むように形成されると共に、その軸方向寸法は軸受32の軸方向寸法と一致する。これにより、軸受32は、嵌合部43aの壁面Pに突き当てるようにして嵌め込まれ、ヨーク43の下端面と面一になる。
【0031】
シリンダ22内には、ヨーク43から軸受32を外れないように係止する係止部材として、円板状の座金51が設けられている。座金51は、非磁性材料である例えばSUSにより構成され、その中央部にはシャフト24が挿通される挿通孔部51aが設けられている。座金51の外径はシリンダ22の内径より小さく、座金51の内径(挿通孔部51a)は、シャフト24の外径より大きく且つ軸受32の外径より小さくなるように設定されている。シリンダ22は、座金51の直ぐ下側に径方向内側へ窪む、かしめ部52が全周にわたって形成されたローリングかしめによって括れている。座金51は、かしめ部52により下方へ移動しないように固定されることで、軸受32ひいては磁場発生装置37(つまりシリンダ22内の部材)を、軸方向へ移動しないように係止する。座金51は非磁性材料であり、且つ挿通孔部51aにおいてシャフト24の外周面との間に隙間G1(図2参照)が形成されているため、磁気回路Aから当該隙間G1と座金51を伝って漏洩する磁束を極力軽減させることができる。
【0032】
下側のヨーク43において、シール部材34用の嵌合部43bは、軸受32用の嵌合部43aと軸方向に隣り合うように、嵌合部43aの直ぐ上側に形成されている。嵌合部43bは、シール部材34が嵌り込む寸法形状に形成されている。各嵌合部43a,43bに、シール部材34と軸受32とが嵌合して互いに接するように配置される。これにより、シール部材34は、嵌合部43bにて軸受32により外側から抜けないように挟持され、シール性も高めうる。
【0033】
こうして、図2に示すように、前記シリンダ22における上端からかしめ部52までの軸方向寸法Lは、固定ユニットとしての磁場発生装置37の軸方向寸法L1と座金51の軸方向寸法L2(厚み)との合計値で示される。従って、シリンダ22内部への各部材の組み付けを極めて容易に行うことができると共に、各部材の同芯度を確保し寸法精度を高めることができる。
【0034】
即ち先ず、コイル41が巻装されたボビン40と各ヨーク42,43とを樹脂モールドにより固定ユニットとしてユニット化した磁場発生装置37を作製しておく。そして、当該磁場発生装置37にシャフト主部24aを挿通し、その軸方向両端のヨーク42,43に対してシール部材33,34と軸受31,32とを順次組み込むと共に、前記隙間Gに磁気粘性流体36を注入する。予めかしめ部52が形成されたシリンダ22内に、座金51を配した状態で、前記磁場発生装置37がシャフト主部24aごと挿入され、シリンダ22上端に蓋部材50が装着される。この場合、磁場発生装置37は座金51との当接により位置決めされ、シリンダ22の下部(座金51の下方)に空洞部55を形成して、シャフト24の下方への移動を許容するスペースを確保する。こうしてダンパ21は、蓋部材50の上部にコイルばね25が装着されることでサスペンション7として構成される。サスペンション7,7は、水槽6の左右両側に配置され、当該水槽6と外箱1の底板1aとの間に組み込まれることで、外箱1の底板1a上に水槽6を弾性的に支持するようになっている。
【0035】
尚、図2に示すように、磁場発生装置37のコイル41から引出されたリード線53は、シリンダ22に被着されたブッシュ54を介して外部に導出されている。このリード線53は、図示しない駆動回路を介して制御装置5に接続され、磁場発生装置37のコイル41への通断電制御を可能としている。
【0036】
続いて、上記構成の作用について説明する。
本実施形態の洗濯機では、洗い、すすぎ、脱水、および乾燥の各行程において、制御装置5がドラム10を夫々適正な回転速度にて駆動制御することで運転が実行される。そして、ドラム10内に収容された洗濯物による偏荷重などに起因してドラム10が振動し、弾性的に支持された水槽6は上下方向を主体に振動する。この水槽6の上下振動に応動して、サスペンション7では、水槽6に一体的に連結されたシャフト24を介してコイルばね25を伸縮させ、シャフト24はシリンダ22内を上下方向に振動(往復動)する。上記コイルばね25は、その伸縮作用により振動を吸収して外箱1側への振動伝達を効果的に阻止する。
【0037】
上記振動の際、隙間Gに充填された磁気粘性流体36は、その粘性によりシャフト24の上下方向の往復動に対する摩擦抵抗として作用し、水槽6の振動振幅を抑制する減衰力を生み出す。また、封止部材としてのシール部材33,34は、そのリップ46がシャフト24の外周面に摺接して摩擦力を発生させるため、減衰作用を得ることができる。この点、コイル41の断線等により磁気粘性流体36の制御が不能となった場合でも、シール部材33,34において最低限の摩擦力に基づく減衰力を確保することができる。
【0038】
そして、前記運転時に、制御装置5によりコイル41への通断電を制御することで、コイル41の周りに磁気回路Aが形成される。この場合、磁気回路Aは、前述の磁性材料たるシャフト24、ヨーク42,43及びシリンダ22からなり、図2に矢印で示すように、シャフト24→隙間G→ヨーク42→シリンダ22→ヨーク43→隙間G→シャフト24に至る経路が生成される。この点、ユニット化された磁場発生装置37の軸方向両側において、各ヨーク42,43に接する軸受31,32、座金51、蓋部材50は、何れも非磁性材料で構成されている。このため、これらの部材31,32,50,51を介した磁束の漏洩を防止することができる。しかも、磁場発生装置37におけるコイル41、ボビン40、ヨーク42,43の夫々の軸心が一致するため、所定の磁場の強さを確保することができる。これにより、総じて磁気粘性流体36の粘性変化を極力大きくでき、安定した減衰力を得ることができる。
【0039】
従って、各ヨーク42,43とシャフト24との間にあっては、磁気粘性流体36の粘度が急速に高められ、シャフト24の上下方向の往復動に対する摩擦抵抗が増大し、水槽6の振動振幅を速やかに減衰させる。
【0040】
殊に、脱水時にはドラム10が高速回転し、その共振点付近では水槽6の振動も大きくなる。そこで、例えばドラム10が共振回転速度に達するときにコイル41に通電する制御を実行し、或は振動検出手段を設け、その検出結果に応じて通電制御する。こうして、サスペンション7,7による振動の減衰効果を高めることができ、低振動で低騒音の洗濯機を提供できる。
【0041】
以上説明したように、第1実施形態の洗濯機において、ヨーク42,43に対して、軸受31,32及びシール部材33,34を夫々嵌合させるための嵌合部42a〜43bを設けると共に、ヨーク42,43、ボビン40及びコイル41を樹脂モールドにより固定ユニットとしてユニット化した。
【0042】
これによれば、樹脂モールドによって、ヨーク42,43、ボビン40及びコイル41の夫々の軸心を一致させた1つの固定ユニットとして扱うことが可能となる。従って、固定ユニットにおけるヨーク42,43に、軸受31,32及びシール部材33,34を夫々嵌合させた状態で、これらの部材31,32,33,34,40,41,42,43を、シリンダ22内に一度に収容することができ、作業性を飛躍的に高めることができる。また、固定ユニットにおけるコイル41、ボビン40、ヨーク42,43の夫々の軸心が一致するため、これらの部材を各別に収納していた従来構成に比し、より安定した所定の磁場の強さを得ることができる。しかも、当該固定ユニットのヨーク42,43の嵌合部42a〜43bに対して軸受31,32及びシール部材33,34を夫々嵌合させることができ、シャフト24の偏芯に起因する軸受31,32及びシール部材33,34の偏摩耗を抑制することができ、寿命を延ばすことができる。
【0043】
前記固定ユニットにおける軸方向両側の各ヨーク42,43に対して、軸受31,32用の嵌合部42a,43aを、シール部材33,34用の嵌合部42b,43bより軸方向外側に設けることで、シール部材33,34、軸受31,32の順に嵌合させて組み付ける構成とした。
【0044】
これによれば、軸受31,32間の距離を極力大きく確保することができ、シャフト24の傾きをより低減させることができる。よって、軸受31,32やシール部材33,34の偏摩耗を一層抑制することができ、サスペンション7の信頼性を高めることができる。
【0045】
前記ヨーク42,43は、嵌合部42a〜43bが内周側に形成され、シール部材33,34の嵌合する内径D2と軸受31,32の嵌合する内径D1とが異なる段付き状の内径を有する。
これによれば、軸受31,32を段部(嵌合部42a,43aの夫々の壁面P)に突き当てるようにして位置決めすることができ、組み付け性を向上させることができると共に、寸法精度を高めることができる。
【0046】
前記ヨーク42,43に対して、シール部材33,34用の嵌合部42b,43bと軸受31,32用の嵌合部42b,43bとを軸方向に隣り合うように形成し、各嵌合部42a〜43bにシール部材33,34と軸受31,32とを互いに接するように配置した。
これによれば、嵌合部42a,43aに嵌合した軸受31,32によって、シール部材33,34の軸方向への移動を阻止するように挟持することができる。よって、シール部材33,34が嵌合部42b,43bから外れることを防止することができると共に、軸受31,32によって、軸方向外側からシール部材33,34を押圧するようにしてそのシール性を高めうる。
【0047】
前記軸受31,32が嵌合部42a,43aから外れないように係止する係止部材として、蓋部材50と座金51を設けた。これによれば、蓋部材50と座金51によって、軸受31,32が軸方向へ移動しないよう係止することができ、シャフト24を軸受31,32により安定して支持することができる。
【0048】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態を示すものであり、既述の部分と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる点につき説明する。
【0049】
本実施形態の嵌合部60,61は、第1実施形態の嵌合部42b,43bと以下の点で相違する。即ち、上側のヨーク42の嵌合部60は、嵌合部42bに比し軸方向に長く形成され、2個のシール部材33,33の収容が可能とされている。嵌合部60は、図4に示すように軸方向に上下に並べたシール部材33,33と嵌合する寸法形状に形成され、上側のシール部材33は、軸受31と接するようになっている。シール部材33,33の対向間であって、それらリップ46,46間の部分に隙間G2が形成されており、当該隙間G2はグリース溜め部とされている。具体的には、隙間G2には、例えば、IS分類0号〜3号までの稠度を有する半固体状のウレア系グリースが充填されている。このグリースによって、シール部材33,33とシャフト24との間の潤滑作用を向上させ、シール部材33,33の摩耗を抑制することができる。
【0050】
下側のヨーク43の嵌合部61は、嵌合部60と同様に、2個のシール部材34,34の収容が可能とされ、上下に並べたシール部材34,34と嵌合する。これらシール部材34,34のうち下側のシール部材34は、軸受32と接するようになっている。一方のシール部材34のリップ46と、他方のシール部材34のリップ46との間に、前記ウレア系グリースが充填される隙間G2が形成されている。
【0051】
そして、上記したように、複数(本実施形態では4個)のシール部材33〜34を用いることから、その機械的なシールによる摩擦力を適宜設定することができる。つまり、シール部材33〜34の数を増減し、或はシール部材33〜34相互間で異なる種類(形状や材質)のシール部材の用いることができる。これにより、各シール部材33〜34の弾力(シャフト24の締め付け力)に基づく全シール部材33〜34による摩擦力は、磁気粘性流体36が正常に機能しない場合でも、水槽6の振動を抑制して前記運転の継続を可能ならしめる所定の値に設定することができる。尚、本実施形態のシール部材33とシール部材34は同じものであるが、シリンダ22において上下に対称的な向きに配設される。また、前記固定ユニットにおける軸方向両側のヨーク42,43のうち、少なくとも一方のヨークに対してシール部材34を二重に設けるようにしてもよい。
【0052】
以上説明したように、ヨーク42,43のうち、少なくとも一方のヨークに対してシール部材を二重に設けることで、磁気粘性流体36の漏れや、外部からの埃の侵入を効果的に防止することができる。従って、下側のヨーク43におけるシール部材34を二重することで、磁気粘性流体36の漏れをより確実に防止することができ、上側のヨーク42におけるシール部材33を二重することで、水の侵入をより確実に防止することができる。
【0053】
各シール部材33〜34は、シャフト24の往復動時に当該シャフト24の外周面に摺動自在に密接して、水槽6の振幅を減衰させるのに必要な所定の摩擦力を発生する。従って、複数のシール部材33〜34(本実施形態では4箇所)により得られる摩擦力を利用して、磁気粘性流体36が正常に機能しない場合でも、所定の摩擦力を常に確保することができ、水槽6の振幅の減衰作用を得ることができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0055】
サスペンション7,7はシャフト24側を水槽6に取付け、シリンダ22側を外箱1側に配設したので、リード線53を導出するシリンダ22側に生じる振動を抑制できる点で有利であるが、シリンダ22側を水槽6に取付ける逆配置とすることも可能である。また、これらシリンダ22とシャフト24とは相対的に往復動する関係にあればよい。
【符号の説明】
【0056】
図面中、6は水槽、10はドラム、21はダンパ、22はシリンダ、24はシャフト、31,32は軸受、33,34はシール部材、36は磁気粘性流体、37は固定ユニット、40はボビン、41はコイル、42,43はヨーク、42a,42bは嵌合部、43a,43bは嵌合部、50,51は係止部材を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムを収容する水槽の振動を吸収するためのダンパを備えたドラム式洗濯機において、
前記ダンパは、
シリンダと、
前記シリンダの内部に収容される軸受と、
前記軸受に対し軸方向に往復動可能に支持されるシャフトと、
前記シャフトを囲繞して前記シリンダの内部に収容され、磁束を発生するコイル及び当該コイルが巻装されるボビンと、
前記ボビンの軸方向両側に位置して配置され、前記シャフトが嵌挿されるヨークと、
前記シャフトと前記ボビン及び前記ヨークとの間に充填されてシール部材により封止される磁気粘性流体とを具備し、
前記ヨークに対して、前記軸受及び前記シール部材を夫々嵌合させるための嵌合部を設け、
前記ヨーク、前記ボビン及び前記コイルを樹脂モールドにより固定ユニットとしてユニット化したことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
前記固定ユニットにおける軸方向両側の各ヨークに対して、前記軸受用の嵌合部を、前記シール部材用の嵌合部より軸方向外側に設けることで、前記シール部材、前記軸受の順に嵌合させて組み付ける構成としたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
前記ヨークは、前記嵌合部が内周側に形成され、前記シール部材の嵌合する内径と前記軸受の嵌合する内径とが異なる段付き状の内径を有することを特徴とする請求項1又は2記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
前記ヨークに対して、前記シール部材用の嵌合部と前記軸受用の嵌合部とを軸方向に隣り合うように形成し、各嵌合部に前記シール部材と前記軸受とを互いに接するように配置したことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
前記固定ユニットにおける軸方向両側の前記ヨークのうち、少なくとも一方の前記ヨークに対して前記シール部材を二重に設けたことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のドラム式洗濯機。
【請求項6】
各シール部材は、前記シャフトの往復動時に当該シャフトの外周面に摺動自在に密接して、前記水槽の振幅を減衰させるのに必要な所定の摩擦力を発生するように構成されていることを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項7】
前記軸受が前記嵌合部から外れないように係止する係止部材を設けたことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のドラム式洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−217756(P2012−217756A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89139(P2011−89139)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】