説明

ドリルビットおよびその製造方法

【課題】硬い岩盤を高速度で穿孔した場合などでも、欠けや割れなどの損傷が生じにくくし、寿命の長期化が図り得るドリルビットとその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼材からなる岩盤穿孔用のドリルビットであって、円環形の後端面3、およびその中心部に開口し且つ軸方向に延びた有底穴4を有し、全体が円筒形状の筒部2と、係る筒部2の先端側に連続し、先端面8に向かって拡径する先端部6と、を備え、上記筒部2および先端部6の軸方向に沿って、複数本の鍛流線FLが互いに平行状で且つ連続して貫通している、トリルビット1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱山の採石現場やトンネル工事現場の岩盤にダイナマイトを挿入する孔などを穿孔するドリルストリングの先端に用いられるドリルビット(トップハンマービット)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルストリング用のドリルビットは、比較的硬質の鋼材からなり、その先端面に岩盤を切削すべく超硬製のボタンビット(植刃)が複数植設され、後端側に連結された駆動軸によって、回転および進退可能とされている。係るドリルビットは、一般に素材の棒鋼を切削加工して所定の形状に成形した後、当該成形物を熱処理(焼き入れ・焼き戻し)することで、鋼材の一体物として製作されている。
更に、ドリルビットにおける軸方向の中心部には、先端面側にエアや水を高圧で吐出させるための流体用の流路が形成され、その先端部側を縮径したり、後端側を閉塞するため、一体物として製作された上記ドリルビットを、部分的に鍛造加工ないし鍛造成形することも行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、硬質の棒鋼を切削加工し、更に熱処理して得られる前記一体物のドリルビットは、その強度を素材の鋼種の強度に依存している。そのため、硬い岩盤を高速度で穿孔するなどの厳しい条件で使用した場合、複数のボタンビットが植設された先端面に欠けや割れなどの破損を生じ、これらに伴う劣化によって寿命が短期化する、という問題があった。更に、前記一体物のドリルビットに対して、更に、前記特許文献1に記載された部分的な鍛造加工や鍛造成形を施しても、上記寿命が短期化する問題を確実に解決することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−13686号公報 (第1〜6頁、第1〜9図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、硬い岩盤を高速度で穿孔した場合などでも、欠けや割れなどの損傷が生じにくくし、寿命の長期化を図り得るドリルビットおよびその製造方法を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、発明者らの鋭意研究および試験の結果得られたものであって、素材である円柱形の棒鋼を熱間鍛造して最終形状に近いドリルビットとする、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明のドリルビット(請求項1)は、鋼材からなる岩盤穿孔用のドリルビットであって、円環形の後端面、およびその中心部に開口し且つ軸方向に延びた有底穴を有し、全体が円筒形状の筒部と、係る筒部の先端側に連続し、先端面に向かって拡径する先端部と、を備え、上記筒部および先端部の軸方向に沿って、複数本の鍛流線が互いに平行状で且つ連続して貫通している、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、前記ドリルビットの筒部および先端部では、複数本の鍛流線(金属繊維の流れないし鍛造製品での粒子の流れ)が、それらの軸方向に沿って、複数本の鍛流線が互いに平行状で且つ連続して貫通しているので、切削加工によるものに比べて、引張強さ、疲労強度、伸び、絞り、および衝撃値が先端部側で特に向上している。その結果、硬い岩盤を高速度で穿孔するトップハンマービットとしてなどの厳しい条件で使用しても、先端面に欠けや割れなどの破損を生じにくくなると共に、寿命の長期化にも寄与することが可能となる。
【0008】
尚、前記鋼材には、JIS:Z4052(炭素鋼)や同Z4053(合金鋼)などが含まれ、例えば、機械構造用炭素鋼(SC)、クロムモリブデン鋼(SCM)、クロム鋼(SCR)、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)、該ニッケルクロムモリブデン鋼にVあるいはNbの強度向上元素を更に添加した合金鋼などの鋼種が挙げられる。
また、前記筒部および先端部からなるドリルビットは、最終の外形および寸法を有する最終的な製品のほか、更に仕上げの切削加工を施して最終の外形・寸法を有する中間的な製品も含んでいる。
更に、前記複数の鍛流線(flow−line)は、前記筒部では、その軸方向に沿って互いに平行状で且つ連続して貫通している。一方、複数の鍛流線は、先端部のうち、その外周面寄りの部位では、その軸方向に沿って外向きに突出するようにカーブして互いに平行(褶曲)状で且つ連続して貫通しており、中心部寄りの前記有底穴の底面と先端面との間では、有底穴の周辺部から先端面の中心部に向かって集束するようにカーブしている形態も含まれる。上記「平行」とは、隣接する鍛流線が合体したり、交差していない形態も含む意味でもある。
【0009】
また、本発明には、前記筒部の外周面は、後端面から前記先端部に向かって徐々に拡径するテーパが付されている、ドリルビット(請求項2)も含まれる。
これによれば、先端部を除いた筒部の外周面が、追って挿入されるドリルストリングのビットスリーブの内周面に倣ったテーパを有しているため、仕上げの切削加工を低減したニアネットシェイプのドリルビットを提供することができる。
更に、本発明には、前記先端部の外周面には、軸方向に沿った複数の凹溝が形成されている、ドリルビット(請求項3)も含まれる。
これによれば、筒部の有底穴と先端部の先端面との間を連通する複数の流路から吐出された高圧のエアまたは水を、穿設された岩屑などと共に、ドリルストリングの後端側に還流させる複数の凹溝を前記先端部の外周面に有しているので、仕上げの切削工程を一層低減したドリルビットを提供することが可能となる。
【0010】
一方、本発明のドリルビットの製造方法(請求項4)は、鋼材からなり所定の温度帯に加熱された円柱形の素材を、下型の上面に形成された周辺をテーパ状のリング部とこれに囲まれて凹む円形部とからなる第1キャビティ上に、上記素材の下端面が接触するように載置すると共に、上型の上面・下面間を貫通し、円柱形状の貫通孔とその下側に同軸心で連続する円錐形状の拡径孔とからなる第2キャビティ内に、上記素材を挿入する準備工程と、円柱形のパンチを上方から上型の貫通孔内に同軸心で下降させ、上記素材の上端面からその内部に押し込んで、該素材を塑性変形させることで、該素材を上記第1・第2キャビティの形状に倣った外形と上記ポンチの形状に倣った有底孔とを備えたドリルビットに成形する鍛造工程と、含む、ことを特徴とする。
【0011】
これによれば、前記筒部および先端部を備えたドリルビットを、円柱形の鋼材かなる素材から前記ポンチによる後方押出による熱間鍛造工程を施すことにより、形状および寸法精度良く成形できる。しかも、切削加工によるものに比べ、引張強さ、疲労強度、伸び、絞り、および衝撃値が特に先端部の先端面付近で向上させられるので、比較的長寿命のドリルビットを提供することができる。
尚、前記鍛造工程において、前記ポンチによる熱間鍛造の前に、素材を押型により据え込み鍛造することで、ドリルビットの先端部の形状を一層精度良く成形することが可能となる。
また、前記鍛造工程の後に、焼き入れおよび焼き戻しの熱処理を施して、所定の強度を付加し、更に、前記有底穴の底面と先端面との間を連通する単数または複数の流路や、先端面に超硬のボタンビットを植設するための複数の凹部を切削加工により形成する工程を有するドリルビットの製造方法としても良い。
【0012】
また、本発明には、前記上型における円柱形状の貫通孔は、該上型の上面から拡径孔に向かって徐々に拡径しており、あるいは、拡径孔を形成する内壁面には軸方向に沿った複数の凸条が突設されている、ドリルビットの製造方法(請求項5)も含まれる。
これによれば、筒部の外周面が後端面から先端部に向かって徐々に拡径するテーパが付されている前記ドリルビット、あるいは、先端部の外周面に軸方向に沿った複数の凹溝が形成されている前記ドリルビットを、前記鍛造工程によって、形状および寸法精度良く成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のドリルビットの使用状態を示す概略の断面図。
【図2】本発明における一形態のドリルビットを示す断面図。
【図3】本発明によるドリルビットの製造方法に用いる押型などを示す断面図。
【図4】本発明によるドリルビットの製造方法の準備工程などを示す断面図。
【図5】本発明によるドリルビットの製造方法の据込み鍛造工程を示す断面図。
【図6】図5に続く鍛造工程を示す断面図。
【図7】図6に続く鍛造工程を示す断面図。
【図8】図7に続く鍛造工程を示す断面図。
【図9】応用形態のドリルビットを得る製造方法の鍛造工程を示す断面図。
【図10】応用形態の上記ドリルビットの概略を示す斜視図。
【図11】実施例および比較例のドリルビットを示す概略図。
【図12】図11中の矢視Aに沿った視覚の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による一形態のドリルビット1の使用状態を示す概略断面図、図2は、当該ドリルビット1を示す軸方向に沿った断面図である。
ドリルビット1は、例えば、ニッケルクロムモリブデン鋼(Fe−0.55%C−0.40%Ni−1.05%Cr−0.40%Mo:「%」は全て質量%である:鋼材)からなり、図1,図2に示すように、円環形の後端面3、およびその中心部に開口し且つ軸方向に沿って延びた有底穴4を内設し、且つ全体が円筒形状の筒部2と、係る筒部2の先端側にリング状に傾斜した段部5を介して連続し、円形の先端面8に向かって円形の断面が拡径する先端部6と、を備えている。上記有底穴4は、円柱形の内壁面4aと円形の底面4bとからなり、上記先端面8の周囲には、段部5側に向かって若干傾斜したリング面7が形成されている。
【0015】
図1は、上記ドリルビット1を含むドリルストリング10の断面を示し、外周面先端の雄ネジ16をドリルビット1の有底穴4の雌ネジ4cにネジ結合したパイプ状の駆動軸14を備えている。ドリルビット1における先端部6の先端面8とリング面7とには、円柱形の凹部12が複数穿設され、超硬(WCなど)からなり、先端が半球形のボタンビット13が凹部12ごとに植設されている。
図1に示すように、駆動軸14の中空部18の先端は、ドリルビット1の有底穴4の底面4bに達している。一方、ドリルビット1における有底穴4の底面4bと先端面8との間には、後端側の太径部および先端側の二股状に分岐した一対の細径部とからなり、全体がほぼY字形の流路11が形成されている。係る流路11の後端と上記駆動軸14の中空部18の先端とは、互いに連通しており、高圧のエアまたは水を駆動軸14の後端側からドリルビット1側に送給し、その先端面8から切削中の岩盤面に噴射可能としている。
【0016】
図1,図2に示すように、ドリルビット1の筒部2の外周面には、後端面3から先端部6に向かって徐々に拡径するテーパ2aが付されている。
更に、駆動軸14は、図1中の実線の矢印および一点鎖線の矢印で示すように、先端に固定したドリルビット1と共に、回転可能とされ、且つ軸方向に沿って進退(スライド)可能されている。そのため、ドリルストリング10の後端側には、駆動軸14の上記回転と進退を可能とする動力源(図示せず)が配置されている。
【0017】
図2に示すように、ドリルビット1の筒部2および先端部6の内部には、後述する熱間鍛造によって形成された複数本の鍛流線FLが、筒部2では、その軸方向に沿って互いに平行状で且つ連続して貫通している。一方、先端部6のうち、その外周面寄りの部位では、上記複数本の鍛流線FLは、その軸方向に沿って外向きに突出するようにカーブして互いに平行(褶曲)状で且つ連続して貫通しており、中心部寄りの前記有底穴4の底面4bと先端面8との間では、有底穴4の周辺部から先端面8の中心部に向かって集束するようにカーブしている。従って、上記形態の鍛流線FLを内蔵するドリルビット1は、従来の切削加工により成形されたものに比べ、特に先端面8付近が、引張強さ、疲労強度、伸び、絞り、および衝撃値が向上しているので、比較的長い寿命とすることが可能となる。
【0018】
ここで、前記ドリルビット1の製造方法について説明する。
予め、図3の垂直断面図で示すように、底面にキャビティC1を有する押型21と、上・下面間を貫通するキャビティC2を有する筒型24とを用意する。尚、押型21および筒型24は、熱間工具鋼などからなる。
押型21の上記キャビティC1は、その底面において、平面視が円形の円形部22と、その周辺を囲む浅いテーパ状のリング部23とからなり、全体が底面から浅く凹んでいる。一方、筒型24の上記キャビティC2は、その底面に開口しし、且つ上面側に向かって徐々に拡径する円柱形状の貫通孔25と、係る貫通孔25と同軸心で且つテーパ状の段部26を介して連続する全体がほぼ円錐形状の拡径孔27とからなる。筒型24の拡径孔27の下端と押型21aのリング部23の外周とは、同じ内径である。
図3に示すように、押型21と筒型24は、上記キャビティC1,C2が同軸心で連通するように、組み立てられる。尚、キャビティC1,C2の内面には、予め、耐熱性の潤滑剤が塗布されている。
【0019】
次いで、図4に示すように、予め押型21を上昇させた状態とすると共に、円柱形で且つ外径が貫通孔25における最少の内径とほぼ同等の支持型20を、下方から筒型24の貫通孔25内に同軸心で進入させる。尚、支持型20も前記同様の工具鋼からなる。
次に、前記同様の鋼材からなり約1200℃に加熱された円柱形の素材Wを、その下端面w2を支持型20上に載置し、且つ筒型24のキャビティC2内に同軸心で挿入する(準備工程)。尚、上記素材Wは、予め熱間圧延により成形された棒鋼を、所定長さに切断したものであり、その上・下端面w1,w2間には、軸方向に沿って互いに平行な複数本の鍛流線FLが貫通している。
更に、図4の白抜きの矢印で示すように、押型21を下降させ、そのキャビティC1を、上端面w1から素材W全体を軸方向に沿って据え込むように、据え込み鍛造を施す。
その結果、支持型20を引き抜いた後、図5に示すように、上記素材Wは、軸方向の長さが短くなると共に、同図中の太い矢印で示すように、前記端面w1側がキャビティC1、拡径孔27、および段部26にほぼ倣った外形の中間素材W1となる。
【0020】
次に、押型21と筒型24とを分離して中間素材W1を取り出し、円環状のバリを除去した後、図6に示すように、、前記同様のキャビティC1,C2を有する下型31と上型34との内側に挿入した後、図6の上方に示す円柱形のパンチ28を中間素材W1の上端面の中心部に押し込むように下降させる。該パンチ28も熱間工具鋼などからなる。
その結果、図7に示すように、パンチ28の先端面28aが、上型34の貫通孔35の下端部付近に達する。その際、素材Wは、パンチ28による熱間鍛造による圧力を受けるため、図6中の太い一点鎖線の矢印で示すように、キャビティC1,C2の内面に接するように塑性変形する(鍛造工程)。
この際、素材W内部の複数本の鍛流線FLは、キャビティC1の上・中部では、その軸方向に沿って互いに平行状で且つ連続して貫通する形態となる。一方、鍛流線FLは、キャビティC1の下部とキャビティC2内では、その軸方向に沿って外向きに突出するようにカーブして互いに平行(褶曲)状で且つ連続して貫通した形態になり、その中心部寄りの部位では、パンチ28の先端面28aの周辺部から円形部32の中心部に向かって集束するようにカーブした形態になる。
【0021】
更に、図8に示すように、下型31を上型34から除去した後、同図中の白抜きの矢印で示すように、筒部2と先端部6を備え、且つ内部に前記形態の鍛流線FLを内蔵するように鍛造成形されたドリルビット1の後端面3を、図示ない治具により押し出す。その結果、前記図2で示したドリルビット1が得られる。
その後、上記ドリルビット1に熱処理(焼き入れ・焼き戻し)を施して、所定の強度を付加し、更に、前記有底穴2の底面4bと先端面8との中心部間を連通する流路11や、先端面8やリング面7に超硬のボタンビット13を植設するための複数の凹部12を切削加工により形成することにより、前記図1で示したドリルビット1を得ることができる。
尚、前記押型21による据え込み鍛造を省略し、前記素材Wを直にパンチ28による熱間鍛造を施して、ドリルビット1を成形することも可能である。
【0022】
以上のドリルビット1の製造方法によれば、前記筒部2および先端部6を備えたドリルビット1を、円柱形の素材Wから熱間の鍛造工程により、形状および寸法精度良く得ることができる。しかも、後述する実施例で示すように、切削加工によるものに比べ、引張強さ、疲労強度、伸び、絞り、および衝撃値が特に先端面8付近で向上しているため、比較的長い寿命のドリルビット1を提供できる。
【0023】
図9は、前記ドリルビット1の応用形態であるドリルビット1aの鍛造工程を示す前記図7と同様の断面図である。
図9に示すように、下型31は、前記同様のキャビティC1を有するのに対し、上型34は、そのキャビティC2を構成する拡径孔37の内壁面に、更に軸方向に沿った複数の凸条39を互いに点対称の位置に突設している。
前記同様にキャビティC1,C2内に加熱された素材Wを挿入し、パンチ28を上型34の貫通孔35側から素材Wの中心部に押し込む熱間鍛造を行うと、係る素材Wは、図7中の太い矢印で示すように、キャビティC1,C2の内面に倣うように塑性変形する(鍛造工程)。この際、上記凸条39が塑性変形した鋼材内に溝状に食い込む。尚、上記パンチ28の押し込みに先立って、予め、前記押型21による据え込み鍛造を行っても良い。
【0024】
そして、前記同様に、下型31および上型34を除去すると、図10に示すように、有底穴4を内設する筒部2および円錐形状の先端部6を備えると共に、更に先端部6の外周面には、軸方向に沿った複数の凹溝9を径方向で対称に有するドリルビット1aが得られる。
前記のように、拡径孔37の内壁面に複数の凸条39を更に突設した上型34と、下型31とを用いて、素材Wを熱間鍛造することにより、高圧エアなどの還流路となる複数の凹溝9を先端部6の外周面に有するドリルビット1aを、一層少ない工数で確実に提供することが可能となる。
尚、前記複数の凸条39は、互いに異なる断面寸法ないし断面形状としたり、あるいは拡径孔37の内壁面のうち、互いに非対称な位置に突設しても良い。
【実施例】
【0025】
ここで、前記ドリルビット1の具体的な実施例について説明する。
予め、同じSNCM系の鋼種からなり、同じ熱間圧延により成形され、外径が80mmと115mmである円柱形の棒鋼からなる素材Wを2個ずつ用意した。
上記のうち、外径が80mmの2個の素材Wは、1200℃に加熱した後、前記下型31および上型34を用い、それらのキャビティC1,C2内に直接挿入(準備工程)した後、前記パンチ28を上型34の貫通孔35側から素材Wの中心部に押し込む熱間鍛造(鍛造工程)を行って、2個のドリルビット1を得た。これらを実施例1,2とした。
残り2個の外径が115mmの素材Wには、切削加工を施して、上記ドリルビット1と同じ形状および寸法を有するドリルビットに成形した。これらを比較例1,2とした。
【0026】
実施例1,2と比較例1,2のドリルビット(1)は、図11,12に示すように、軸方向の長さL1が170mm、最大径D1が102mm、先端面8の直径D2が80mm、後端面3の外径d1が79mm、有底穴4の内径d2が45mm、有底穴4の深さL2が110mmであると共に、筒部2の外周面2aのテーパθ2が1.5度、先端面8を囲むリング面7のテーパθ1が30度で全て共通していた。尚、図12は、図11中の矢視Aに沿った平面図である。
次に、実施例1,2と比較例1,2のドリルビット(1)に対し、それぞれ同じ条件(加熱温度、急冷などの冷却条件)の焼き入れ・焼き戻しの熱処理を施した。
次いで、図11,12に示すように、実施例1,2と比較例1,2のドリルビット(1)から、それらの先端面8の径方向に沿って、引張試験用の試験片Ttpを1個ずつ切り出し、更に、衝撃試験用の試験片Itpを2個ずつ切り出した。
各例ごと1個の試験片Ttpについて、引張試験を行って、引張強さ、伸び、および絞りを測定し、それらの結果を表1に示した。
また、各例ごと2個の試験片Itpについて、シャルピー衝撃試験を行って、衝撃値を測定し、各例ごとの平均値を算出し、それらの結果も表1に示した。
尚、表1の備考中に、試験片Ttp,ItpのJIS記号などを記載した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1によれば、実施例1,2の試験片Ttpでは、比較例1,2の試験片Ttpに比べ、引張強さ、伸び、絞りの全てにおいて、高い値を示した。
また、実施例1,2の試験片Itpでは、比較例1,2の試験片Itpに比べ、衝撃値の平均値が高くなっていた。
以上の実施例1,2の試験片Ttp,Itpの結果によれば、実施例1,2の前記ドリルビット1は、比較例1,2の前記ドリルビットに比べ、特に先端面8付近で高い引張強さや、大きな伸びおよび絞りを有し、硬い岩盤を高速穿孔する際などに受ける衝撃に対しても、優れた耐衝撃性を奏し得るものと推測される。
以上のような実施例1,2によって、先端面8付近での割れや欠けなどの損傷を生じにくく、長い寿命のドリルビット1を提供する、という本発明の課題が達成可能であり、所要の作用・効果を奏し得ることが裏付けられた。
【0029】
本発明は、以上において説明した各実施の形態および実施例に限定されない。
例えば、ドリルビット1,1aの筒部2の外周面2aは、軸方向に沿った円柱形を呈する形態としても良く、前記テーパを仕上げの切削加工で形成しても良い。
また、ドリルビット1,1aの鋼種には、前記SNCMのほか、SC、SCM、SCRなどを適用しても良い。
更に、前記ボタンビット13を植設する凹部12のうち、先端面8に開口し且つその軸方向が筒部2と同じものは、前記下型21の円形部22に円柱形の突起を突設することで、前記鍛造工程により、同時に成形することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、鉱山の採石現場やトンネル工事現場の岩盤に穿孔するドリルストリングの先端に用いられるドリルビットを、欠けや割れなどの損傷を生じにくくし、その寿命を高められ、生産性の向上に貢献することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1,1a…ドリルビット
2…………筒部
2a………筒部の外周面
3…………後端面
4…………有底穴
6…………先端部
8…………先端部
9…………凹溝
28………パンチ
31………下型
32………円形部
33………リング部
34………上型
35………貫通孔
37………拡径孔
39………凸条
FL………鍛流線
W…………素材
C1………第1キャビティ
C2………第2キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材からなる岩盤穿孔用のドリルビットであって、
円環形の後端面、およびその中心部に開口し且つ軸方向に延びた有底穴を有し、全体が円筒形状の筒部と、
上記筒部の先端側に連続し、先端面に向かって拡径する先端部と、を備え、
上記筒部および先端部の軸方向に沿って、複数本の鍛流線が互いに平行状で且つ連続して貫通している、
ことを特徴とするトリルビット。
【請求項2】
前記筒部の外周面は、後端面から前記先端部に向かって徐々に拡径するテーパが付されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のトリルビット。
【請求項3】
前記先端部の外周面には、軸方向に沿った複数の凹溝が形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のトリルビット。
【請求項4】
鋼材からなり所定の温度帯に加熱された円柱形の素材を、下型の上面に形成された周辺をテーパ状のリング部とこれに囲まれて凹む円形部とからなる第1キャビティ上に、上記素材の下端面が接触するように載置すると共に、上型の上面・下面間を貫通し、円柱形状の貫通孔とその下側に同軸心で連続する円錐形状の拡径孔とからなる第2キャビティ内に、上記素材を挿入する準備工程と、
円柱形のパンチを上方から上型の貫通孔内に同軸心で下降させ、上記素材の上端面からその内部に押し込んで、該素材を塑性変形させることで、該素材を上記第1・第2キャビティの形状に倣った外形と上記ポンチの形状に倣った有底孔とを備えたドリルビットに成形する鍛造工程と、含む、
ことを特徴とするトリルビットの製造方法。
【請求項5】
前記上型における円柱形状の貫通孔は、該上型の上面から拡径孔に向かって徐々に拡径しており、あるいは、拡径孔を形成する内壁面には軸方向に沿った複数の凸条が突設されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のトリルビットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−256651(P2011−256651A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133600(P2010−133600)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】