説明

ナチュラルフレーバーの製造方法

【課題】
植物性の素材から、非常に高濃度であって、さらに、素材の有する香りが従来のものに比べてより自然に表現されたフレーバーの回収方法を提供する。
【解決手段】
水蒸気蒸留法により植物性素材から香気成分を溜出させて得られた溜出液を気液向流接触蒸留法に供し、そこで得られる香気成分を回収することにより、ナチュラルフレーバーを調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性の素材からフレーバーを回収する方法、及びその方法により得られるフレーバーに関する。より詳細には、本発明は、従来のフレーバーに比べて、植物性素材の有する香りがより自然かつ豊かに表現されており、加えて非常に濃度の高いフレーバーを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性の多様化に伴い、求める製品に対する期待感が高まっており、生産者側はその期待に応えられるよう製品を開発している。特に日常的に使用する食品や日用品に対する消費者の期待感は強く、日進月歩でこれら製品の品質は向上している。食品や日用品の中で嗜好性の強い菓子・飲料やトイレタリー製品は、その品質を決定する要部として香りが挙げられる。これら製品はそれぞれ香りに特徴付けをすることで、他製品と差別化しており、消費者は個人の嗜好によりこれら各種製品を自分の好みに応じて適宜選択することができる。そのため、嗜好性の強い製品の供給者側は、消費者の多種多様な嗜好に応えるため、香りの異なる様々なニーズに適合する特徴を持った製品の開発が求められている。
【0003】
上述したような多様な香りを嗜好性の強い製品に付与する方法として、天然の動植物を由来とするフレーバーを付与する方法が提案されている。ここで使用するフレーバーの調製如何によって、このフレーバーを含む最終製品の品質が左右される。天然の素材からフレーバーを調製する方法としては、水蒸気蒸留法により素材の香気成分を溜出させて回収する方法が、特許文献1などこれまでに提案されている。
【0004】
水蒸気蒸留法は、それだけでも良好なフレーバーを得ることができるが、他の方法と組み合わせることでさらに香質面でも濃度面でも優れたフレーバーを得ることもできる。水蒸気蒸留法と他の方法を組み合わせることによるフレーバーの製造方法の具体例としては、茶葉に水蒸気蒸留処理を施し、蒸気処理によって得られた残渣を抽出し、適宜当該抽出液を濃縮後、抽出液と水蒸気蒸留によって得られる溜出液とを混合することで力価の高い茶エキスを製造する方法(特許文献2)、香料起源物質に水蒸気蒸留を行い、排気されるアロマガスを有機合成吸着剤に吸着させた後、香気成分を溶媒で溶出させる方法(特許文献3)、水産物原料に水蒸気蒸留法を行い、香気成分を回収後、当該香気成分を逆浸透膜により濃縮することで香味の優れた抽出物を得る方法(特許文献4)などが挙げられている。
【0005】
一方で、天然素材を由来とする回収香は、輸送や貯蔵などの経済性から、また、最終製品へその物性や性質などに影響を与えない程度の微量の添加で済むことから、可能な限り香気成分の濃縮されたフレーバーが望まれている。香気成分を濃縮する手段としては、予め天然物に含まれる香気成分を水若しくは有機溶媒で抽出し、得られた抽出液の液性成分を取り除くことで濃縮することができる。具体的には、非特許文献1に記載されている通り、蒸留濃縮法、凍結濃縮法、膜(RO)濃縮法という濃縮方法がある。しかしながら、前述で挙げたこれら濃縮方法はいずれも一長一短がある。蒸留濃縮法は、香気成分の多くが液性成分とともに揮散されてしまうこと、また、長時間の濃縮処理が必要であるため時間経過とともに香気成分の劣化が起こってしまうという欠点がある。また、凍結濃縮法は、凍結されるまでに時間が非常にかかってしまい、フレーバーの濃縮方法としてかなり効率の悪い方法である。そして、膜(RO)濃縮法も、濃縮に長時間を要し、それでいて香気成分の濃縮が不十分であるなど、問題がある。このほか、合成吸着剤による香気成分の濃縮方法もあるが、濃縮できる量が合成吸着剤の容量に依存するため、コスト面・効率面から濃縮には適していないといえる。
【0006】
これまでに述べたように、従来の方法では、天然素材の有する自然な香りをそのまま、それをさらに高濃度の状態で回収することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−203750号公報
【特許文献2】特開2007−295921号公報
【特許文献3】特開2007−321017号公報
【特許文献4】特開2004−89141号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】特許庁 標準技術集「香料」(平成18年度),2−1−4−1 濃縮(http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/kouryou/2-1-4.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたもので、これまでの技術とは異なる方法により、植物性の素材から、従来のものに比べて、素材の有する香りがより自然に表現されており、さらに、非常に濃度が高いフレーバーの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、水蒸気蒸留法により植物性素材から香気成分を溜出させて得られた溜出液を気液向流接触蒸留法に供し、そこで得られる香気成分を回収することにより、従来の方法によって得られたフレーバーと比べて、香調の劣化や変化などが抑えられ、また素材の有する香りがより自然に表現され良質な香りを呈しているフレーバーを調製できることを見出した。
【0011】
さらには、本発明により得られたフレーバーは、従来の方法によって得られるフレーバーと比べて、非常に高濃度に濃縮されていることを確認した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0012】
本発明は、以下の態様を有するナチュラルフレーバーの製造方法に関する。
項1.水蒸気蒸留法により植物性素材から香気成分を溜出させて溜出液を回収する工程と、前記工程で得られた溜出液を気液向流接触蒸留法に供し、香気成分を回収する工程とを含む、ナチュラルフレーバーの製造方法。
項2.前記植物性素材が、茶またはコーヒーの何れかである、項1に記載のナチュラルフレーバーの製造方法。
項3.項1又は2によって得られるナチュラルフレーバーを、飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の呈味増強方法。
項4.項1又は2に記載の方法により製造された、ナチュラルフレーバー。
項5.項4のナチュラルフレーバーを含有する香料組成物。
項6.項4のナチュラルフレーバーを含有する飲食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明のナチュラルフレーバーの製造方法によれば、従来の方法に比べて、植物性素材の有する香りがより自然であり豊かに表現され、非常に濃縮されたナチュラルフレーバーを簡便にかつ高効率に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で利用できる植物性素材とは、例えば、緑茶(煎茶、抹茶、ほうじ茶も含む)、紅茶、烏龍茶、プーアル茶などの茶類;コーヒー、チコリー、タンポポ;ハトムギ、玄米、大麦、ソバ、トウモロコシ、大豆、決明子、キビ、アワなどの穀物類;ラベンダー、ローズマリー、ローズヒップ、ペパーミント、ジャスミン、カモミール、レモングラスなどのハーブ類;オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ゆず、みかん、スダチ、カボス、ライム、夏みかん、いよかん、オロブランコなどの柑橘類;タマネギ、長ネギ、ニンジン、メロン、スイカ、パセリ、キャベツ、ピーマン、シソなどの野菜類;リンゴ、ブドウ、イチゴ、バナナ、モモ、マンゴー、キウイ、パイナップルなどの果物類;ペッパー、バジル、ジンジャー、シナモン、ガーリック、オールスパイス、バニラ、クミン、トウガラシ、ターメリック、アニス、ナツメグ、サンショウ、コリアンダー、ワサビなどの香辛料;アーモンド、栗、ココナッツ、ゴマ、ピーナッツなどの種実類などが挙げられるが、植物由来の素材であればこれらに限定されない。かかる植物性素材は未加工の状態で使用してもよいが、素材の種類やナチュラルフレーバーの所望の香調に応じて適宜、焙煎、切断、粉砕などの加工をすることができる。例えば、穀物やコーヒーなどは、焙煎などの前処理を行なうことで、さらにはその焙煎度(L値)の強弱に応じて、最終的に得られる嗜好性フレーバーの香気や呈味などの風味を変えることもできる。また、それぞれの植物性素材は、産地や銘柄、部位によっても最終的に得られるフレーバーの香気や呈味が僅かに異なるので、所望のフレーバーに応じて銘柄や産地、部位を選択することもできる。
【0015】
本発明のナチュラルフレーバーの製造方法は、第一工程として植物性素材に水蒸気蒸留を施すことを特徴とする。水蒸気蒸留法は、植物体に含まれる香気成分を蒸留により揮発させて回収する方法であって、周知・慣用技術として従来使用されている(特許庁公報 標準技術集「香料」(平成18年度),2−1−2−2 水蒸気蒸留http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/kouryou/2-1-4.pdf)。水蒸気蒸留の方法としては従来使用されている常法を採ることができる。具体的には、植物性素材を充填したカラムに水蒸気を通じる方法、密閉した容器に植物性素材を充填し水蒸気を通じる方法等を例示することができ、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留のいずれの方法も採用できる。この水蒸気蒸留の工程において、水蒸気と共に揮発した香気成分を冷却後液化することにより溜出液として回収することができる。また、本発明における水蒸気蒸留法では、水蒸気との接触前に、予め植物性素材を水及び/又は有機溶媒によって湿潤させることもできる。この場合の有機溶媒とは、エタノール、酢酸エチルなど、食品添加物として用いることができる有機溶媒を、1種もしくは2種以上組み合わせて使用できる。さらに、水蒸気と接触させる時間は任意に調整可能であるが、例えば、10分〜5時間程度の時間を挙げることができる。水蒸気の流量は原料の質量に対して任意に調整可能であるが、例えば原料1質量部に対して1/10〜10質量部(液換算)の流量を挙げることができる。
【0016】
本発明のナチュラルフレーバーの製造方法は、水蒸気蒸留時に回収した溜出液を、スピニングコーンカラム(Spinning Cone Column;SCC)などの気液向流接触蒸留装置によって、気液向流接触蒸留法に施すことを特徴とする。気液向流接触蒸留法は、特公平7−22646号公報などに開示されている方法によって実施することができる。以下、具体的に説明すると、気液向流接触蒸留装置のカラム上部に、水蒸気蒸留にて得られた溜出液を投入する。一般的に、気液向流接触蒸留装置には、スラリー状のサンプルを投入するが、本発明においては液体を投入する。次いで、水蒸気蒸留溜出液は、回転円錐に入り、円錐の回転による遠心力により薄膜上状の液層となり、固定円錐に落下して次の回転円錐に移動する。そして次々とカラム内を移動して最終的にカラム底部から排出される。一方、水蒸気をカラム底部より送り込むことで、水蒸気蒸留溜出液とは逆にカラム上部へと香気成分を回収しながら移動して、最終的にカラム上部から植物性素材の香気成分と共に冷却後に溜出され、この溜出液を回収することで本発明のナチュラルフレーバーを得ることができる。
【0017】
本発明における気液向流接触蒸留法の操作条件としては、当該方法を行なう装置の性能、植物性素材の種類および濃度、所望とする香気成分の強度によって適宜変更することができるが、一例として下記条件が挙げられる。
原料供給流量:300〜800L/時
蒸気供給量:6〜120L/時
ナチュラルフレーバー回収量:4〜100L/時
水蒸気蒸留溜出液加熱温度:40〜100℃
真空度:大気圧〜−100kPa
また、当該方法を行うことができる装置の例として、SCC(Spinning Cone Column、フレーバーテック社製)などを挙げることができる。
【0018】
かくして得られたナチュラルフレーバーは、非常に濃縮されているためそのまま使用することが好ましいが、従来の方法によりさらに濃縮して液状もしくはペースト状製剤とする他、デキストリン、乳糖やアラビアガム等の既知の賦形剤を適宜添加して、例えば噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法により粉末化することもできる。
【0019】
本発明の製造方法によって調製されるナチュラルフレーバーは、植物性素材の有する香質が自然な形で表現されており、飲食品やトイレタリー製品などに添加することで、植物性素材の自然で豊かな香りを付与することができる。また、当該ナチュラルフレーバーを、それと同様の植物性素材から調製した飲食品へ添加することで、従来の飲食品では表現することができなかった、自然な素材感を有し、かつ豊かな香りを表現した飲食品を調製することができる。
【0020】
本発明の製造方法によって調製されるナチュラルフレーバーを添加することができる飲食品や日用品として、コーヒー、茶類飲料、穀物茶飲料又はこれらを混合したブレンド飲料、ハーブティー、カクテル、その他アルコール飲料、果汁飲料、野菜飲料、炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料等の飲料;ドレッシング、マヨネーズ、ソース、たれ、カレー粉などの調味料;麺、蕎麦、パン、粥、ふりかけ、カマボコ、ソーセージ、ハンバーグ、ゼリー、ヨーグルト、プリン、冷菓、ケーキ、和菓子、米菓、スナック菓子、ビスケット、飴、ガム、チョコレート、ジャムなどの加工食品、シャンプー、ボディシャンプー、コンディショナー、ヘアスプレー、シェービングフォーム、洗顔フォーム、ハンドソープ、入浴剤、メイク落とし、ハンドクリーム、リップクリーム、制汗剤などのトイレタリー製品;芳香剤、消臭剤、オーラルケア用品、化粧料、香水などの日用品などが挙げられるが、賦香目的であれば特にこれらに限定されない。
【0021】
上で述べた飲食品や日用品等の製品への本発明にかかるナチュラルフレーバーの配合量は、使用対象、目的や得られたフレーバーの力価に応じて適宜調整することができるが、0.00001〜1質量%、好ましくは0.0005〜0.5質量%を例示することができる。
【0022】
また、本発明の製造方法によって調製されるナチュラルフレーバーは、上述したようにそのまま食品に添加して使用することもできるが、本発明によって得られたナチュラルフレーバーに加えて、異なる素材を用いて本発明の製造方法で得られたナチュラルフレーバーや、他の調製方法により得られたフレーバーなどから1種以上を組み合わせて調香することにより、様々な製品に応用可能な香料組成物を調製することもできる。
【0023】
本発明にかかる香料組成物に対するナチュラルフレーバーの配合割合は、香料組成物を使用する最終製品に応じて、または、ナチュラルフレーバーの特徴が表現される範囲で適宜調整することができるが、0.1〜99.9質量%を例示することができる。また、本発明にかかる香料組成物は、ナチュラルフレーバーと同様に上で述べた飲食品や日用品等に使用することができ、これらへの配合量として、0.00001〜1質量%、好ましくは0.0005〜0.5質量%を例示することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0025】
実験例1:紅茶ナチュラルフレーバーの調製
(実施例1)
紅茶葉(ウバ;BOPタイプ,三井農林株式会社)40kgを、常圧下、蒸気流量 800L/時の条件で、120kgの溜出液が回収できる程度まで水蒸気蒸留した。水蒸気蒸留で得られた溜出液は、引き続き、次工程の気液向流接触蒸留装置(SCC,フレーバーテック社製)に600L/時の流量速度で供給した。同時に気液向流接触蒸留装置の下部から、蒸留温度100℃、18kg/時の速度で水蒸気を供給し、紅茶ナチュラルフレーバー3.00kgを得た。
【0026】
(比較例1)
紅茶葉(ウバ;BOPタイプ,三井農林株式会社)10kgを、常圧下、蒸気流量200kg/時の条件で水蒸気蒸留を行い、紅茶水蒸気蒸留フレーバー30kgを得た。
【0027】
(比較例2)
紅茶葉(ウバ;BOPタイプ,三井農林株式会社)10kgを、42kg/時、水道水558kg/時の比でコミトロールプロセッサ(アーシェル社製)に連続的に供給し湿式粉砕し、7%の紅茶スラリーを得た。得られたスラリーは均一になるようスラリータンク内で常時攪拌し、気液向流接触蒸留装置(SCC,フレーバーテック社製)に600L/時の流量速度で供給した。同時に気液向流接触蒸留装置の下部から、蒸留温度100℃、15kg/時の速度で水蒸気を供給し、紅茶SCCフレーバー2.7kgを得た。
【0028】
(比較例3)
紅茶葉(ウバ;BOPタイプ,三井農林株式会社)10kgを、常圧下、蒸気流量200L/時の条件で水蒸気蒸留を行い、水蒸気蒸留溜出液30kgを得た。次いで、合成吸着剤SP−700(三菱化学株式会社製)8Lを充填した樹脂塔に、前記水蒸気蒸留溜出液30kgをSV=5で通液した。その後、SV=5で8Lの水で洗浄した。水洗い後、合成吸着剤に吸着された香気成分を脱着させるために、エタノール濃度が60容量%のエタノール水溶液を用いてSV=5の条件で通液し、紅茶合成吸着フレーバー5kgを得た。
【0029】
(比較例4)
紅茶葉(ウバ;BOPタイプ,三井農林株式会社)10kgを、常圧下、蒸気流量200L/時の条件で水蒸気蒸留を行い、水蒸気蒸留溜出液30kgを得た。次いで、前記水蒸気蒸留溜出液30kgを、逆浸透膜FILMTEC膜(TW30−2521、ダウ・ケミカル社)を用いて濃縮し、紅茶ROフレーバー5kgを得た。
【0030】
実施例1及び比較例1〜4の方法により得られた各紅茶フレーバーを、下記の処方に基づいて調製した紅茶飲料に、茶葉換算でそれぞれ等量含まれるように添加し、その香気に関してよく訓練された14名の評価員によって「自然な素材感」が表現されているか官能評価し、さらに、それぞれのフレーバーが有する香気の特徴について評価した。官能評価に関して、フレーバーの添加が全くない紅茶飲料を1点として、「自然な素材感」に関する香気が極めて強く感じられた場合を5点として、5段階の評価を行い、14名の評価員の合計点から平均点を集計した。尚、当該評価は、試験する飲料に添加したフレーバーがどのような製造を経て調製されたものか評価員に伏せた状態で行った。その結果を表1に示す。
【0031】
<紅茶飲料の処方>
紅茶抽出液(Bx.0.7) 29 g
砂糖 3 g
各紅茶フレーバー 表1参照
水にて合計 100.0g
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果より、本発明により製造された紅茶ナチュラルフレーバーは、他の製造方法によって調製されたフレーバーに比べて、自然な素材感が強く、まるで茶葉をそのまま嗅いだような印象で、全体の香調のバランスが非常によく表現されているフレーバーであった。このフレーバーを添加した飲料は、紅茶飲料として飲用したときに嗜好性を刺激する優れたものであった。
【0034】
また、本発明により製造された紅茶ナチュラルフレーバーは、他のフレーバーに比べて極微量の添加でありながら、濃厚でいて、優れた香調を呈していた(紅茶ナチュラルフレーバーの添加量は、比較例1の紅茶水蒸気蒸留フレーバーの40分の1)。実際に、本発明により製造された紅茶ナチュラルフレーバーは、原料茶葉40kgに対し3.00kg(原料茶葉10kgに対し0.75kg)のフレーバーを回収したが、それは他の製造方法により得られたフレーバーに比べて1桁以上少ない回収量である。つまり、本発明により製造された紅茶ナチュラルフレーバーは、従来のフレーバーの濃縮方法に比べて、極めて高い濃縮倍率が実現可能であることが示された。
【0035】
実験例2:コーヒーナチュラルフレーバーの調製
(実施例2)
粉砕した焙煎コーヒー豆(ガテマラ豆;L値=23,東京アライドコーヒーロースターズ株式会社)40kgを、常圧下、蒸気流量 800L/時の条件で、120kgの溜出液が回収できる程度まで水蒸気蒸留した。水蒸気蒸留で得られた溜出液は、引き続き、次工程の気液向流接触蒸留装置(SCC,フレーバーテック社製)に600L/時の流量速度で供給した。同時に気液向流接触蒸留装置の下部から、蒸留温度100℃、18kg/時の速度で水蒸気を供給し、コーヒーナチュラルフレーバー3.05kgを得た。
【0036】
(比較例5)
粉砕した焙煎コーヒー豆(ガテマラ豆;L値=23,東京アライドコーヒーロースターズ株式会社)10kgを、常圧下、蒸気流量200kg/時の条件で水蒸気蒸留を行い、コーヒー水蒸気蒸留フレーバー30kgを得た。
【0037】
(比較例6)
コーヒー豆(ガテマラ豆;L値=23,東京アライドコーヒーロースターズ株式会社)10kgを、90kg/時、水道水510kg/時の比でコミトロールプロセッサ(アーシェル社製)に連続的に供給し湿式粉砕し、15%のコーヒースラリーを得た。得られたスラリーは均一になるようスラリータンク内で常時攪拌し、気液向流接触蒸留装置(SCC,フレーバーテック社製)に600L/時の流量速度で供給した。同時に気液向流接触蒸留装置の下部から、蒸留温度100℃、30kg/時の速度で水蒸気を供給し、コーヒーSCCフレーバー2.6kgを得た。
【0038】
(比較例7)
粉砕した焙煎コーヒー豆(ガテマラ豆;L値=23,東京アライドコーヒーロースターズ株式会社)10kgを、常圧下、蒸気流量200L/時の条件で水蒸気蒸留を行い、水蒸気蒸留溜出液30kgを得た。次いで、合成吸着剤SP−700(三菱化学株式会社製)8Lを充填した樹脂塔に、前記水蒸気蒸留溜出液30kgをSV=5で通液した。その後、SV=5で8Lの水で洗浄した。水洗い後、合成吸着剤に吸着された香気成分を脱着させるために、エタノール濃度が60容量%のエタノール水溶液を用いてSV=5の条件で通液し、コーヒー合成吸着フレーバー5kgを得た。
【0039】
(比較例8)
粉砕した焙煎コーヒー豆(ガテマラ豆;L値=23,東京アライドコーヒーロースターズ株式会社)10kgを、常圧下、蒸気流量200L/時の条件で水蒸気蒸留を行い、水蒸気蒸留溜出液30kgを得た。次いで、前記水蒸気蒸留溜出液30kgを、逆浸透膜FILMTEC膜(TW30−2521、ダウ・ケミカル社)を用いて濃縮し、コーヒーROフレーバー5kgを得た。
【0040】
実施例2及び比較例5〜8の方法により得られた各コーヒーフレーバーを、下記の処方に基づいて調製したコーヒー飲料に、豆換算でそれぞれ等量含まれるように添加し、その香気に関してよく訓練された14名の評価員によって「自然な素材感」が表現されているか官能評価し、さらに、それぞれのフレーバーが有する香気の特徴について評価した。官能評価に関して、フレーバーの添加が全くないコーヒー飲料を1点として、「自然な素材感」に関する香気が極めて強く感じられた場合を5点として、5段階の評価を行い、14名の評価員の合計点から平均点を集計した。尚、当該評価は、試験する飲料に添加したフレーバーがどのような製造を経て調製されたものか評価員に伏せた状態で行った。その結果を表2に示す。
【0041】
<コーヒー飲料の処方>
コーヒー抽出液(Bx.0.7) 29 g
砂糖 3 g
各コーヒーフレーバー 表2参照
水にて合計 100.0g
【0042】
【表2】

【0043】
表2の結果より、本発明により製造されたナチュラルフレーバーは、他の製造方法によって調製されたフレーバーに比べて、自然な素材感が強く、まるで挽きたてのコーヒー豆で淹れたコーヒーのような香ばしさを呈しており、全体の香調のバランスが非常によく表現されていた。このフレーバーを添加した飲料は、コーヒー飲料として飲用したときに嗜好性を刺激する優れたものであった。さらに、実施例2のナチュラルフレーバーは、他の比較例のフレーバーに比べて極めて高倍率に濃縮されており、少ない添加量で上述したような優れた効果を示した。
【0044】
実験例3:嗜好性フレーバーの応用
(実施例3)紅茶アイスクリーム
実施例1で調製した紅茶ナチュラルフレーバーを用いて下記処方の紅茶アイス(本発明の紅茶アイス)を調製した。
【0045】
<紅茶アイスクリームの処方>
全脂加糖煉乳 10 g
無塩バター 8.5g
生クリーム 10 g
脱脂粉乳 5 g
砂糖 5 g
水飴 10 g
安定剤(サンベスト※NN−303*) 0.3g
乳化剤(ホモゲン※DM*) 0.2g
香料組成物 0.1g
水にて合計 100.0g。

処方中の「香料組成物」は、実施例1の紅茶ナチュラルフレーバーとバニラフレーバー(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、製品名「ワニラフレーバーNo.69575」)を1:2の比率で調香したもの。また、処方中の「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0046】
上記により得られた本発明の紅茶アイスクリームは、実施例1の紅茶ナチュラルフレーバーの添加量が微量ながら、口溶けとともに、原料素材として用いた紅茶葉の有する自然で濃厚な香りが漂い、従来のものに比べ高級感のある嗜好性に富んだ風味を呈していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気蒸留法により植物性素材から香気成分を溜出させて溜出液を回収する工程と、前記工程で得られた溜出液を気液向流接触蒸留法に供し、香気成分を回収する工程とを含む、ナチュラルフレーバーの製造方法。
【請求項2】
前記植物性素材が、茶またはコーヒーの何れかである、請求項1に記載のナチュラルフレーバーの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2によって得られるナチュラルフレーバーを、飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の呈味増強方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法により製造された、ナチュラルフレーバー。
【請求項5】
請求項4のナチュラルフレーバーを含有する香料組成物。
【請求項6】
請求項4のナチュラルフレーバーを含有する飲食品。

【公開番号】特開2011−92044(P2011−92044A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247498(P2009−247498)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】