説明

ナノカーボン被覆耐火原料を使用した耐火物

【課題】ナノカーボン被覆耐火原料を使用した耐火物において、とくにその熱間強度を向上させること。
【解決手段】耐火原料粒子の表面の少なくとも一部にカーボンナノファイバーおよび/またはカーボンナノチューブが被覆されたナノカーボン被覆耐火原料を含む耐火原料配合物に有機樹脂を添加して混練し、得られた坏土を成形後熱処理して製造される耐火物であって、有機樹脂から得られる残炭量が耐火原料配合物全体の質量に対して1.2質量%以上10.0質量%以下であるナノカーボン被覆耐火原料を使用した耐火物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属用、焼却炉などの高温プロセスに使用される耐火物、その中で主として鉄鋼用に使用される耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼用に使用される耐火物として、黒鉛、ピッチ、カーボンブラック、またはフェノールレジン等の炭素原料を含有するカーボン含有耐火物は、耐熱衝撃性および耐スラグ性に優れており、例えば、転炉、取鍋、混銑車、もしくは真空脱ガス炉等の内張り材、浸漬ノズル、スライディングノズル等の連続鋳造用ノズル、または焼き付け材等の補修材として広く使用されている。
【0003】
これらの耐火物は耐食性の改善や溶鋼中へのカーボンピックアップを防止するため低カーボン化が図られる場合があるが、そうすると耐熱衝撃性が低下するため、耐熱衝撃性の改善手法が検討されている。
【0004】
これに対して本発明者らは、特許文献1にて、耐火原料粒子の表面にカーボンナノチューブ(以下「CNT」という。)またはカーボンナノファイバー(以下「CNF」という。)を被覆したナノカーボン被覆耐火原料を耐火原料配合物中に含有させることで耐熱衝撃性が大幅に改善されることを開示した。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示した耐火物は、溶鋼流やガス流が激しい部位あるいはスクラップの落下による衝撃を受ける部位などに使用すると、摩耗溶損や衝撃による損傷が激しい場合があった。この原因を検討した結果、耐火物の熱間での強度が必ずしも十分ではないことが原因であると判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−133177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ナノカーボン被覆耐火原料を使用した耐火物において、とくにその熱間強度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明で用いるナノカーボン被覆耐火原料のCNFおよびCNTは、工業上、応用が広く試みられるようになり、強度付与を目的として用いられることも多い。そのため耐火物に応用する際においても同様の効果が期待されるところであったが、その応用例は報告されていない。本発明者らは、CNFおよびCNTを耐火物の組織中に均一に分散させるために、これらを耐火原料粒子の表面に被覆させることが非常に有効であることを特許文献1にて開示したが、さらにこれらを組織中に強固に固定するためには有機樹脂から生成する残炭分を十分に付与する必要があること、さらにそのときの残炭量は耐火原料配合物全体の質量に対して1.2質量%以上10.0質量%以下である必要があることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち本発明は、耐火原料粒子の表面の少なくとも一部にカーボンナノファイバーおよび/またはカーボンナノチューブが被覆されたナノカーボン被覆耐火原料を含む耐火原料配合物に有機樹脂を添加して混練し、得られた坏土を成形後熱処理して製造される耐火物であって、有機樹脂から得られる残炭量が耐火原料配合物全体の質量に対して1.2質量%以上10.0質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
ナノカーボンとしてCNFまたはCNTを耐火原料粒子の表面に被覆させる方法は特許文献1に記載しているので省略する。なお、CNFおよびCNTは同様の効果を発揮するのでそれぞれ単独の被覆でも両者が混在した状態での被覆でも構わない。また、被覆は耐火原料粒子全体を被覆することが最も好ましいが、部分的な被覆でも効果を発揮することができる。
【0011】
表面にCNFおよび/またはCNTが被覆される耐火原料粒子の平均径は300μm以下でより効率的に効果を発現し、これよりも粗い粒子では効果が小さくなる。さらに好ましくは100μm以下である。
【0012】
CNFおよび/またはCNTの被覆量はとくに限定されるものではないが、耐火原料粒子全体に対して0.1質量%以上30質量%以下が適当である。0.1質量%未満の場合は組織を強化する効果が小さく、30質量%よりも多い場合は緻密な耐火物が得られ難くなって耐食性の低下が大きくなる。好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上10質量%以下である。なお、被覆量はナノカーボン被覆耐火原料全体の平均値である。
【0013】
CNFおよび/またはCNTを被覆する耐火原料粒子およびナノカーボン被覆耐火原料粒子と混合されて耐火原料配合物を構成する耐火原料としては、一般に耐火物用として使用される原料であればとくに限定されるものではなく、例えばマグネシア、アルミナ、シリカ、スピネル、ムライト、カルシア、ドロマイト、ジルコニア、ジルコン、クロミアおよびこれらの化合物、複合物などが使用可能である。
【0014】
残炭分を付与する有機樹脂としてはフェノール樹脂、フラン樹脂あるいはそれらにピッチ成分を相溶させた残炭率が高い有機樹脂が好ましい。フェノール樹脂の場合、ノボラック型、レゾール型のいずれでもよい。とくにノボラック型の場合は通常と同じく硬化促進剤としてヘキサメチレンテトラミンを適量添加する。その溶剤はエチレングリコールやフルフラールなどのアルコール系溶剤が使用でき、ピッチ成分を相溶させることもできる。また、粉末状のノボラック型樹脂を適量の溶剤とともに使用する方法もある。これらの有機樹脂の残炭率は10質量%以上が適当で、好ましくは35質量%以上である。10質量%未満では揮発分の増加によって緻密な耐火物が得られなくなり耐食性の低下が大きくなる。
【0015】
有機樹脂から得られる残炭量を1.2%質量以上とする理由は、1.2質量%未満では熱間強度向上の効果が小さく、10.0質量%よりも多いときは有機樹脂を多量に添加することになるため、揮発分の増加や有機樹脂の膨張収縮などによって加熱された際に耐火物に亀裂を生じて熱間強度が低下する場合があるためである。
【0016】
有機樹脂は坏土の成形体の熱処理中に分解しながら重合し炭素のネットワークを生成する。この炭素のネットワークがCNFおよびCNTと結合あるいは物理的に絡み合うことで結合組織が強化され熱間強度の向上に寄与するものと考えられる。
【0017】
さらに高強度化の効果を一層発現させるためには、アルミニウム、シリコン、マグネシウムおよびこれらの合金(以下、総称して「特定金属類」という。)を併用添加することが有効である。これらの特定金属類が炭素と反応する過程で炭化物を生成するが、この反応に供される炭素源としてCNFおよびCNTが非常に有効に作用する。すなわち、これらの特定金属類がCNFおよびCNTと反応することで従来生成されるものよりも遥かに微小な炭化物が生成し、これが結合組織を強化することで、熱間強度がより一層向上すると考えられる。
【0018】
これらの特定金属類は単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもその効果を発揮することができる。添加量は耐火原料配合物全体の質量に対して外掛けで0.1質量%以上6.0質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満では添加した効果が明確に現れず、6.0質量%を超える添加は過剰に結合組織を強化することになり耐熱衝撃性が低下するためである。
【0019】
また、これらの特定金属類に硼化物を併用添加することも有用である。硼化物としては炭化硼素、硼化カルシウム、硼化ジルコニウム、硼化マグネシウムなどが挙げられる。添加量は耐火原料配合物全体の質量に対して外掛けで0.1質量%以上3質量%以下が好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ナノカーボン被覆耐火原料を耐火原料の一部として使用し、有機樹脂を添加して混練し、得られた坏土を成形後熱処理して製造する耐火物において、有機樹脂から得られる残炭量が耐火原料配合物全体の質量に対して1.2質量%以上10.0質量%以下となるようにすることで、熱間強度が飛躍的に向上する。
【0021】
また、この効果はアルミニウム、シリコン、マグネシウムおよびこれらの合金の中から選択される1種または2種以上を耐火原料配合物全体の質量に対して外掛けで0.1質量%以上6.0質量%以下添加することでさらに向上する。
【0022】
その結果、熱間強度と耐熱衝撃性に優れた耐火物が得られるため、例えばMgO−C系のれんがとして、転炉においてはスクラップが直撃する装入壁の寿命向上、溶鋼流が通過する際の摩耗、外的応力による折損が発生しやすい出鋼孔スリーブの寿命向上に寄与できる。あるいはAl−C系のれんがとして、溶鋼流による内孔摩耗が激しいロングノズルや長尺なため折損しやすい浸漬ノズルやロングストッパーに適用することで寿命の向上やトラブルの防止に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】残炭量と熱間強度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0025】
表1は、本発明の実施例および比較例に使用した配合物の配合割合および有機樹脂の残炭量と各種物性を評価した結果を示す。
【0026】
表1において、ナノカーボン被覆耐火原料としてのCNFおよびCNT被覆マグネシアは、単体として平均粒径70μmの電融マグネシア(純度98質量%)を硝酸鉄およびモリブデン酸アンモニウムを溶解した水溶液に浸漬し、ろ過、乾燥することにより触媒を担持させた後、CVD処理を行うことで得た。CVD処理は850℃のメタン気流中で行い、CNFおよびCNTを生成させ耐火原料粒子(電融マグネシア粒子)を被覆させた。CNTの被覆量は6質量%であった。CNFおよびCNTの被覆量は、CVD処理後の重量から処理中に減少する触媒量の分を補正し、CVD処理前後の重量差から算出した。なお、使用した電融マグネシアの粒径の測定はレーザー回折式粒度分布測定装置で行った。
【0027】
表1に示すように、純度98%のマグネシアを80質量%、純度99%の鱗状黒鉛を15質量%、および上記のCNFおよびCNT被覆マグネシアを5質量%配合した耐火原料配合物に、有機樹脂としてノボラック型樹脂をエチレングリコールで希釈した残炭率40質量%の液状フェノール樹脂および残炭率60質量%のノボラック型粉末フェノール樹脂と適量のヘキサメチレンテトラミンおよびメタノールを添加しミキサーにて混練して坏土を得た。この坏土を並型形状にプレス成形し、250℃で5時間加熱した。
【0028】
有機樹脂の残炭量についてはJIS−K6910の5.20に記載の固定炭素分の測定方法に準拠した測定より有機樹脂の残炭率を算出し、耐火原料配合物に対する添加量と残炭率から有機樹脂の残炭量を算出した。
【0029】
こうして得られた供試れんがについて熱間曲げ強さ、耐食性および耐熱衝撃性を評価した。熱間曲げ強さについてはJIS−R2656に準拠して窒素雰囲気中1400℃にて測定を行った。耐食性については回転浸食法により、CaO/SiO=3.0(質量比)、T.Fe=16質量%のスラグを用いて1700℃で5時間試験を行った。評価結果は実施例1の溶損寸法を100として指数で表示した。指数は数字が小さいほど耐食性が良好であることを意味する。耐熱衝撃性については40×40×230mmのサンプルを1500℃の溶銑中に3分間浸漬し、その後空冷を15分間行い、この操作を10回繰り返した後の亀裂の大きさを目視で観察し、亀裂無し、微、中、大の4段階で評価した。
【0030】
図1には有機樹脂の残炭量と熱間曲げ強さの関係を示す。図1において、◇印はCNFおよびCNT被覆マグネシアを配合した例(図1では「CNFおよびCNT被覆原料使用」と表記)で、表1上段の各例に対応する。△印はCNFおよびCNT被覆マグネシアに加えて特定金属類としてアルミニウムを添加した例(図1では「同アルミ添加」と表記)で、表1中段の各例に対応する。□印はCNFおよびCNT被覆マグネシアを配合していない例(図1では「従来品」と表記)で、表1下段の各例に対応する。
【0031】
表1および図1から、まず、CNFおよびCNT被覆マグネシアを配合したれんがはこれを配合していない場合と比較して大幅に熱間強度が向上していることがわかる。また、CNFおよびCNT被覆マグネシアに加えてアルミニウムを添加することで、さらに熱間強度が向上していることがわかる。ただし、残炭量が1.2質量%未満ではその改善効果は小さく、10.0質量%を超えると強度が逆に低下している。これは熱処理中にれんがに亀裂が発生したためである。また、残炭量が10.0質量%を超えると耐食性の低下も著しい。したがって、残炭量は1.2質量%以上10.0質量%以下である必要がある。ちなみに、特許文献1の実施例は全て有機樹脂量が2質量%であるが、これは残炭量で0.8質量%に相当することから、熱間強度が低い。
【0032】
また、耐熱衝撃性の観点では、一般に強度が増大すると耐熱衝撃性が低下するにもかかわらず、アルミニウム無添加の実施例1〜6と比較例9〜14を比較すると、本発明の実施例の耐熱衝撃性は比較例と同等以上であり、本発明品が高熱間強度でかつ耐熱衝撃性にも優れていることわかる。
【0033】
【表1】

【0034】
次に特定金属類の添加量およびその種類の影響を調査するため表2に示すように、純度99%のアルミナを80質量%、純度99%の鱗状黒鉛を15質量%、CNFおよびCNTを6質量%被覆したアルミナ(CNFおよびCNT被覆アルミナ)を5質量%配合した耐火原料配合物に、有機樹脂としてノボラック型樹脂をエチレングリコールで希釈した残炭率40質量%の液状フェノール樹脂を6質量%および残炭率60質量%のノボラック型粉末フェノール樹脂を1質量%と適量のヘキサメチレンテトラミンおよびメタノールを添加してミキサーにて混練して坏土を得た。この坏土を並型形状にプレス成形し、250℃で5時間加熱した。
【0035】
こうして得られた供試れんがについて、熱間曲げ強さおよび耐熱衝撃性を前述した方法と同様に評価した。耐食性については回転浸食法により、CaO/SiO=1.2(質量比)、T.Fe=10質量%のスラグを用いて1700℃で5時間試験を行った。評価結果は実施例13の溶損寸法を100として指数で表示した。指数は数字が小さいほど耐食性が良好であることを意味する。
【0036】
表2の実施例13から16より、アルミニウムを0.1質量%以上添加することで熱間強度が大幅に向上することがわかる。ただし、実施例17に示すように6.0質量%を超えると耐熱衝撃性が低下する場合があるので6.0質量%以下が好ましい。
【0037】
また、実施例18から実施例22に示すようにシリコン、アルミ・マグネシウム合金の添加あるいは併用、さらに硼化物との併用によっても熱間強度が大幅に向上することがわかる。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料粒子の表面の少なくとも一部にカーボンナノファイバーおよび/またはカーボンナノチューブが被覆されたナノカーボン被覆耐火原料を含む耐火原料配合物に有機樹脂を添加して混練し、得られた坏土を成形後熱処理して製造される耐火物であって、有機樹脂から得られる残炭量が耐火原料配合物全体の質量に対して1.2質量%以上10.0質量%以下であることを特徴とするナノカーボン被覆耐火原料を使用した耐火物。
【請求項2】
アルミニウム、シリコン、マグネシウムおよびこれらの合金の中から選択される1種または2種以上を耐火原料配合物全体の質量に対して外掛けで0.1質量%以上6.0質量%以下添加した請求項1に記載のナノカーボン被覆耐火原料を使用した耐火物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−153038(P2011−153038A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14585(P2010−14585)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】