説明

ナノ改質ワイヤエナメルおよびそれらのエナメル加工ワイヤ

本発明は、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、および/またはポリウレタン樹脂に基づき、1つあるいはそれより多くの前記の樹脂を結合剤、ナノ材料、有機溶剤、触媒および添加剤として含有するナノ改質ワイヤエナメルに関する。それらのエナメルで被覆されたワイヤは硬化の後、改善された熱特性および機械的特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁マグネットワイヤ分野において公知且つ通常の種類の組成物、好ましくはポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミドおよび/またはポリウレタンに基づき、ナノ材料を添加することを含む、ナノ改質ワイヤエナメルの製造方法に関する。このエナメルから、改善した熱特性および機械的特性を示すマグネットワイヤが製造される。
【0002】
電気および電子素子において用いられるエナメル加工ワイヤは、磁場を生じる電流に由来するジュール効果によって生じる熱のために高温に曝される。劣化および変形を防ぐために、エナメル加工ワイヤは耐熱性でなければならない。さらには、機械のサイズは連続的に減少しているので、苛酷な条件、例えば高温状態、あるいは大きな過電流の中で電気自動車部品における特定のモーターあるいはコイルが稼働しなければならず、改善された耐熱性を有するワイヤへの要求の高まりが生じている。
【0003】
現状ではポリイミド被覆されたワイヤの使用が優れた熱特性を示しており、ポリイミドは公知であり、且つGB898651号、US3207728号、EP0274602号およびEP0274121号に記載されている。
【0004】
優れた熱特性を有するワイヤを提供する、無機改質されたポリイミドもまた公知である(JP2001351440号、JP2002304915号)。しかしながら、ポリイミド絶縁ワイヤは多くの欠点を有する:
それらは他の種類のもの(例えばPVFまたはナイロンでオーバーコートされたワイヤ)ほど摩耗耐性がない;
それらは水分を含有する密閉系において強い加水分解傾向を有する;
それらは巻き応力が緩和しない限り(例えば熱処理によって)、溶剤ひび割れ性であり得る;
それらはストリップするのが非常に困難であり、腐蝕性の高いストリッパーを必要とする;
固体含有率範囲に関するそれらの利用率が極めて制限されている(他のエナメルタイプに比べて非常に低い)。
【0005】
優れた耐熱性を有する他の被膜は、無機物の被膜に基づいている(JP2006143543号、JP2003123551号、US20060128548号)。かかる材料は、特別な適用を必要とし、且つ無機成分の連続的な摩耗作用に曝される塗布装置の寿命を縮めるという欠点を有する。さらに、ワイヤ被膜は、ワイヤを例えば圧縮、延伸および摩擦などの機械的応力に曝す、巻き作業の間に損傷され得る。さらには、セラミクスのエナメルは熱サイクルの間にひび割れる傾向を強く有し、導線を剥離する。
【0006】
本発明の課題は、改善した熱特性を有するワイヤエナメル組成物の製造方法を提供することであり、改質された従来のエナメル、例えばポリエステル、ポリエステルイミド、ポリウレタンおよびポリアミドイミドで被覆され、標準的なエナメルと比べて改善した機械的特性、特に熱特性を示すエナメル加工ワイヤを提供することである。本発明のワイヤエナメルは、標準以外の特定の適用条件を必要とせず、且つエナメル加工機において、通常のエナメル加工と比べて増加したメンテナンス作業を含まない。
【0007】
本発明の課題は、改善した熱特性を有するワイヤエナメル組成物の製造方法において、ワイヤエナメル適用前に、ナノ材料をワイヤエナメル組成物のポリマーベースに添加することを特徴とする方法、得られるワイヤエナメル、およびワイヤエナメル中のナノ材料をワイヤエナメルの熱特性を改善するために用いる使用によって解決される。
【0008】
本発明を以下に詳細に説明する。
【0009】
ポリエステルのワイヤエナメルは、芳香族および/または脂肪族の多価カルボン酸およびそれらの無水物、芳香族および/または脂肪族の多価アルコールおよび/またはクレゾール溶剤中に溶解されたトリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(THEIC)の縮合生成物を含有する。さらには、それらは通常、ソルベントナフサ、および1つあるいはそれより多くの架橋触媒を含有する。詳細はUS3342780号、US3249578号、EP0144281号およびWO92/02776号を参照のこと。それらは専門家に公知の商品である。通常、ポリエステルのワイヤエナメルは二層コート系においてポリアミドイミドオーバーコートの下のベースコートとして使用される。
【0010】
ポリエステルイミドのワイヤエナメルは通常、クレゾール酸とソルベントナフサとの混合物中に溶解されたポリエステルイミド樹脂を含有する。さらに、それらは硬化触媒および添加剤を含有する。該ポリエステルイミド樹脂は、芳香族および/または脂肪族の多価カルボン酸およびそれらの無水物、トリメリト酸無水物(TMA)と芳香族または脂肪族ジアミン、好ましくはジアミノジフェニルメタンとの反応生成物として得られるジカルボン酸、芳香族および/または脂肪族の多価アルコール、および/またはトリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(THEIC)の縮合生成物である。詳細は、特許、例えばDE1445263号、DE1495100号、WO91/07469号、WO90/01911号内に見出され、それらが技術水準を示す。
【0011】
ポリウレタンのワイヤエナメルは通常、ポリエステルポリオール樹脂とブロックポリイソシアネートとを含有する。通常、それらはクレゾール酸とソルベントナフサとの混合物中で溶解されている。硬化触媒は一般に第三級アミン、スズ、亜鉛、鉄、および他の金属の有機塩である。該ポリエステルは通常、芳香族および/または脂肪族多価カルボン酸およびそれらの無水物、芳香族および/または脂肪族の多価アルコールの縮合生成物である。いくつかのポリウレタンのワイヤエナメルにおいては、ポリエステルイミドをポリエステルの代わりに使用する。該ブロックイソシアネートは、芳香族ジイソシアネートあるいはポリイソシアネートのクレゾール酸あるいはフェノールとの反応生成物である。詳細は、特許、例えばDE144749号、DE957157号、DE2840352号、DE2545912号およびWO90/01911号内に見出される。
【0012】
ポリエステル、ポリエステルイミドおよびポリウレタンは1〜90%、クレゾール、1〜99%、キシレノール、1〜99%、トリーメチルフェノール、0〜30%、エチルフェノール、0〜20%、アニソール、および他の低分子量アルキル化フェノール(2<C<5)のフェノールの混合物であるクレゾール酸中で極めてよく溶ける。該クレゾール酸を、通常、高沸点芳香族炭化水素、例えばソルベントナフサ、キシレン、ソルベッソ(Solvesso)100、ソルベッソ150およびその他のものとの配合物で、ワイヤエナメルの溶剤として使用する。時として他の溶剤、例えば高沸点アルコールまたは高沸点グリコールエーテルおよびその他のものも使用できる。
【0013】
ポリアミドイミドのワイヤエナメルは、非プロトン性極性有機溶剤の混合物中に溶解されたポリアミドイミド樹脂を含有する。該樹脂をトリカルボン酸無水物とジイソシアネートとを直接的に反応させることによって調製する。用いることができるトリカルボン酸無水物として、トリメリト酸無水物(TMA)が好ましい。用いることができるイソシアネートとして、芳香族ジイソシアネート(例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびトリレンジイソシアネート)が好ましい。溶剤として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチル−2−ピロリドン(NEP)、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルホルムアミドを、キシレン、ソルベントナフサおよび他の炭化水素と共に用いる。技術水準は特許、例えばUS3554984号、DE2441020号、DE2556523号、DE1266427号、およびDE1956512号内に記載されている。
【0014】
本発明の著者らは、ワイヤエナメルの適用前に、ナノ材料をワイヤエナメル組成物のポリマーベースに添加することによって製造したナノ改質ワイヤエナメルが、非改質エナメルと比べて改善した特性を生じることを見出した。特に、かかるエナメルは、含まれているナノサイズの無機材料のおかげで、従来のものと比べて際立った機械的特性、特に熱特性を示し、且つ、標準以外の特別な適用条件を必要としない。さらには、基本的に各種のエナメルを本発明の方法を用いて標準的な特性を損なわずにナノ改質でき、前記の標準的な特性は改善されるか、あるいは変わらないままである。
【0015】
ナノ材料は通常、平均半径が1〜数百ナノメートル(nm)の範囲である無機材料である。これらの材料は販売元(Degussa AG、Nanophase Technologies Coprporation、およびその他)から入手できる。様々なプラスチック材料または膜内に配合されたナノ材料は、機械的特性、例えば擦り傷耐性および膜の硬度の著しい改善をもたらす("Nanocomposite 2001"、Baltimore 2001;"Second annual Wood Coatings and Substrates Conference"、Greensboro、2006の会報)。
【0016】
本発明の方法に使用できるナノ粒子は、平均半径が1〜300nmの範囲、好ましくは2〜100nmの範囲、特に好ましくは5〜65nmの範囲の粒子である。好ましいナノ粒子の例は、アルミニウム、スズ、ホウ素、ゲルマニウム、ガリウム、鉛、遷移金属およびランタノイドおよびアクチノイド、特にアルミニウム、ケイ素、チタン、亜鉛、イットリウム、バナジウム、ジルコニウムおよび/またはニッケルを含む列、好ましくはアルミニウム、ケイ素、チタン、および/またはジルコニウムのナノ酸化物、ナノ金属酸化物、金属酸化物または酸化物の水和物であり、それらは分散相においてナノサイズ化され、単独あるいは組み合わせて用いられる。ナノ金属酸化物の中で、ナノアルミナが最も好ましい。ナノアルミナの例は、BYK−Chemie GmbH製のBYK(登録商標)−LP X 20693およびNanoBYK 3610、Nycol Nano Technologies Inc.製のNycol AI20OSD、Sasol Germany GmbH製のDispal X−25 SRおよびSRL、Disperal P2, P3, OS1およびOS2である。ナノアルミナの中で、極性溶剤中に予め分散されたアルミニウム酸化物のセラミック粒子、例えば、BYK−Chemie GmbH製のBYK(登録商標)−LP X 20693およびNanoBYK 3610が好ましい。
【0017】
本発明の好ましい実施態様において、該ナノ粒子をカップリング剤と共に使用できる。
【0018】
カップリング剤として、任意の公知の機能性アルコキシシランあるいはアリールオキシシランを使用できる。機能性シランの中で、(イソシアナトアルキル)−トリアルコキシシラン、(アミノアルキル)−トリアルコキシシラン、(トリアルコキシシリル)−アルキル酸無水物、オリゴマージアミノ−シラン系が好ましい。該機能性シランのアルキルラジカルおよびアルコキシ基は、1〜6つの炭素原子、およびより好ましくは1〜4つの炭素原子を有している。上述のアルキルおよびアルコキシ基はさらにそれらの上に置換基を有する。カップリング剤として、チタネートおよび/またはジルコネートもまた有用である。任意の一般的なオルト−チタンあるいはジルコン酸エステル、例えばテトライソプロピル、テトラブチル、アセチルアセトン、アセトン酢酸エステル、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、クレジルチタネートあるいはジルコネートを使用できる。
【0019】
本発明の好ましい方法は、ワイヤエナメルが以下を含むことを特徴とする:
a) 10〜80質量%、好ましくは20〜70質量%、特に25〜60質量%のポリマーベース、
b) 0.01〜50質量%、好ましくは0.2〜20質量%、特に1.0〜10質量%のナノ材料、
c) 19〜90質量%、好ましくは29〜80質量%、特に39〜74質量%の溶剤、硬化触媒、カップリング剤、および添加剤、ここで、パーセンテージはワイヤエナメル全体に基づいており、且つ、どんな場合でも合計100%となる。
【0020】
ナノ改質ワイヤエナメルの製造方法をいくつかのやり方で実施できる。
【0021】
ナノ粒子は適した溶剤中に種々の温度で分散される。得られる分散液をその後、ワイヤエナメルに添加する。
【0022】
ナノ材料を溶剤中で分散させ、そしてこの分散液の中で樹脂の合成を実施することも可能である。
【0023】
ポリマー溶液基質中でのナノ粒子の分散を強化するために、カップリング剤、例えば機能性シラン、チタネート、あるいはジルコネートを、直接的にナノ粒子分散液に添加して、そこで混合した後、それをポリマー樹脂溶液に充填するか、あるいはポリマー溶液に直接的に添加し、その後、ナノ粒子分散液を添加できる。選択的に、無機成分を有機成分により良く結合させるためには、ナノ粒子分散液を充填する前にカップリング剤を選択的にポリマー溶液に混合する。ポリマー溶液とカップリング剤との混合物を、室温あるいは比較的低い温度で数時間撹拌した後、ナノ−金属酸化物溶液を添加できる。
【0024】
本発明は上述のように調製された、開示された組成物を使用することによるエナメル加工ワイヤの製造にも関する。
【0025】
本発明による組成物の塗布および硬化は、従来の適用方法以外の特定の方法を必要としない。使用されるワイヤは、そのタイプと直径が非改質の同類のエナメルに対して用いられるものと同じであり、0.005〜6mmの直径で被覆される。適したワイヤは従来の金属、好ましくは銅、アルミニウムまたはそれらの合金のものを含む。ワイヤの形状に関する制限はなく、特に丸形および矩形のワイヤの両方を使用できる。
【0026】
本発明の組成物を1層コート、2層コートあるいは多層コートとして適用できる。2層あるいは多層コートとして、ナノ改質エナメルを非改質エナメルと一緒に適用できる。好ましくは、それぞれの被膜に対するナノ改質エナメルの使用である。
【0027】
該組成物を従来の層厚で適用する。乾燥した層の厚さは、薄いワイヤおよび厚いワイヤに対して標準化された値と一致している。
【0028】
本発明の組成物をワイヤに適用し、そして水平あるいは垂直なオーブン内で硬化させる。
【0029】
1回から数回連続で、ワイヤを被覆し、且つ硬化させる。同類の非改質エナメルに対して使用される従来のパラメータ、および被覆されるワイヤの性質に従って、硬化温度として適した範囲は300〜800℃にわたる。エナメル加工条件、例えばパスの回数、エナメル加工速度、オーブンの温度は被覆されるワイヤの性質に依存する。
【0030】
製造されたエナメル加工ワイヤをIEC 60851に従って試験した。
【0031】
上記のように調製されたワイヤエナメル配合物は、ワイヤ上で塗布および硬化されたとき、従来の非改質の同類のエナメルと比べてより高い耐熱性を示すことが見出された。特に向上した耐熱性は、強化されたカットスルー値として測定される。熱ショックも強化され、ナノ改質エナメルワイヤが決まった時間の間、傷ついたワイヤのひび割れがなく、より高い温度に耐えることを可能にする。さらには、本発明によるナノ改質エナメルを用いて得られる被膜は、強化された摩耗耐性を示し、且つ、時としてそれらは従来の被膜に比べて強化された柔軟性を有する。
【0032】
本発明はまた、特に上記の方法によって製造されたワイヤエナメルに関連して、ワイヤエナメル中のナノ材料をワイヤエナメルの熱特性を改善するために用いる使用も包含する。
【0033】
本発明を下記の実施例に基づいて以下により詳細に説明するが、本発明はそれらの実施態様に限定されない。
【0034】
実施例
先行技術によるワイヤ被膜の製造。
【0035】
実施例1 (比較用のポリアミドイミド)
2リットルの容量を有する4ツ口フラスコに攪拌機、冷却チューブ、および塩化カルシウムチューブを装備し、そして該フラスコに192.1gのトリメリト酸無水物(TMA)、250.3gのメチレンジフェニル4,4’−ジイソシアネート(MDI)および668gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を装入した。得られる混合物を80℃で2時間反応させ、その後、140℃に加熱し、そしてその温度で攪拌しながら二酸化炭素が形成されなくなるまで維持した。その後、該反応混合物を50℃に冷却し、そして257gのキシレンを該反応混合物に添加した。上記の方法によって、樹脂濃度33.0質量%、および20℃での粘度900cPsを有するポリアミドイミド樹脂溶液が得られた。
【0036】
実施例2 (比較用のポリエステル)
2リットルの容量を有する3ツ口フラスコに温度計、攪拌機および蒸留ユニットを取り付け、54gのエチレングリコールを179gのトリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(THEIC)、177gのジメチルテレフタレート(DMT)および0.33gのオルト−チタン酸テトラブチルエステル(テトラブチルチタネート)と共に装入した。該混合物を210℃まで加熱し、そして攪拌しながら55gのメタノールが留去されるまで維持した。得られるポリエステルをその後、冷却し、そして13gのテトラブチルチタネートと、80部のクレゾール酸と20部のソルベントナフサの充分な量の混合物とを配合して固体含有率37.0質量%を有する溶液を形成した。
【0037】
実施例3 (比較用のポリエステルイミド)
2リットルの容量を有する3ツ口フラスコに温度計、攪拌機および蒸留ユニットを取り付け、300gのクレゾール酸を62.0gのエチレングリコール、261.1gのTHEIC、194.2gのDMTおよび0.35gのテトラブチルチタネートと共に装入した。該混合物を200℃まで加熱し、そして攪拌しながら60gのメタノールが留去されるまで維持した。140℃への冷却の後、192.1gのTMAおよび99.0gのDADMを添加した。該溶液をその後、2時間以内の時間で205℃に加熱し、そして攪拌しながら33gの水が留去されるまで維持した。得られるポリマー混合物をその後、冷却し、そして23gのテトラブチルチタネートおよび110gの市販のフェノール樹脂と攪拌しながら配合した。該溶液をさらに、70部のクレゾール酸と30部のソルベントナフサとの充分な量の混合物で希釈して固体含有率37.0質量%を有するワイヤエナメルを形成した。
【0038】
実施例4 (比較用のポリウレタン)
ポリエステルポリオールの調製:
2リットルの容量を有する3ツ口フラスコに温度計、攪拌機および蒸留ユニットを取り付け、194.1gのDMT、170.0gのエチレングリコールおよび92.1gのグリセリンおよび0.06gの酢酸鉛を装入した。該混合物を220℃に加熱し、そして攪拌しながら数時間、64gのメタノールが留去されるまで維持した。充分なクレゾール酸をその後、熱い樹脂に添加して、固体含有率44.8質量%を有するポリエステルポリオール溶液を形成した。
【0039】
ブロックポリイソシアネートの調製:
2リットルの容量を有する4ツ口フラスコに攪拌機、冷却チューブ、および塩化カルシウムチューブを装備し、該フラスコに150gのフェノール、150gのキシレノール、174gの市販のトルエンジイソシアネート(TDI)および44.7gのトリメチロールプロパン(TMP)を装入した。該混合物を攪拌しながら120℃に加熱し、そして前記の温度で該反応混合物にイソシアネートがなくなるまで維持した。その後、120gのソルベントナフサを該混合物に冷却しながら添加した。上記の方法によって、樹脂濃度46.5%を有するイソシアネートベースの樹脂溶液が得られた。
【0040】
ポリウレタンのワイヤエナメルの調製:
2lの容量を有する2ツ口フラスコに攪拌機を装備し、調製された30部のポリエスエルポリオール樹脂と、調製された70部のポリイソシアネートベースの樹脂とを装入した。この混合物に、40部のフェノールと、20部のキシレノールと、20部のキシレンと、20部のソルベントナフサとの充分な量の溶剤配合物を添加した。得られたポリウレタンのワイヤエナメルは固体含有率33.0質量%を有していた。
【0041】
本発明によるワイヤ被膜の製造。
【0042】
実施例1a (ナノ改質ポリアミドイミドの調製)
2リットルの容量を有する4ツ口フラスコに攪拌機、冷却チューブ、および塩化カルシウムチューブを装備し、そして該フラスコに33.0gのBYK−LP X20693および77gのN−メチル−ピロリドン(NMP)を装入した。該混合物をその後、40℃で2時間攪拌し、その後、濃度33質量%を有する実施例1のポリアミドイミド樹脂の溶液1000gを前記の容器に添加した。該混合物を室温で数時間攪拌した。該溶液をその後、濾過して随時の固体不純物を除去し、固体含有率32.2質量%を有するナノ改質ポリアミドイミドを得る。この場合、アルミナ(Al23)の含有率は5質量%であった。
【0043】
実施例1b (ナノ改質ポリアミドイミドの調製)
実施例1aに記載されたように、実施例1bをNANOBYK 3610 (BYK Chemie製)を使用して調製し、固体含有率32.3質量%を有するナノ改質ポリアミドイミドを得た。この場合、アルミナ(Al23)の含有率は5質量%であった。
【0044】
実施例1c (ナノ改質ポリアミドイミドの調製)
実施例1aに記載されたように、実施例1cをDisperal P2(Sasol製)を使用して調製し、固体含有率32.4質量%を有するナノ改質ポリアミドイミドを得た。この場合、アルミナ(Al23)の含有率は5質量%であった。
【0045】
実施例1d (ナノ改質ポリアミドイミドの調製)
実施例1aに記載されたように、実施例1dをNycol AL20SD(Nycol製)を使用して調製し、固体含有率32.4質量%を有するナノ改質ポリアミドイミドを得た。この場合、アルミナ(Al23)の含有率は5質量%であった。
【0046】
エナメル加工および試験:
ベアワイヤの太さ0.71mmを有する銅ワイヤを絶縁ワイヤの導線として使用した。該エナメルを塗布し、そして空気再循環エナメル加工機MAG HEL 4/5内で、温度520℃、エナメル加工速度32m/分で14回ベイクした。ダイを塗布システムとして使用した。得られる層厚は0.070mmであった。
【0047】
表1: 種々のナノ粒子を有するナノ改質ポリアミドイミドの試験結果
【表1】

【0048】
表1から、ナノ改質製品は比較例より高いカットスルーを有することがわかる。より高い摩耗耐性もまた達成される。実施例1aからのエナメルは、240℃での熱ショック試験に完全に合格した(3試料中3試料)。
【0049】
実施例1e (ナノ改質ポリアミドイミドの調製)
実施例1aに記載されたように、実施例1eをBYK−LP X 20693を使用することによって、得られたナノ改質ポリアミドイミドが固体含有率32.8質量%且つアルミナ(Al23)含有率2質量%を有する量で調製した。
【0050】
実施例1f (ナノ改質ポリアミドイミドの調製)
実施例1aに記載されたように、実施例1fをBYK−LP X 20693を使用することによって、得られるナノ改質ポリアミドイミドが固体含有率32.1質量%且つアルミナ(Al23)含有率7.5質量%を有する量で調製した。
【0051】
実施例1g (ナノ改質ポリアミドイミドの調製)
実施例1aに記載されたように、実施例1gをBYK−LP X 20693を使用することによって、得られるナノ改質ポリアミドイミドが固体含有率31.8質量%且つアルミナ(Al23)含有率10質量%を有する量で調製した。
【0052】
表2: 種々の量のナノ粒子を有するナノ改質ポリアミドイミドの試験結果
【表2】

【0053】
表2から、ナノ粒子の最適量は試験された系において7.5%であることがわかる。実施例1fの製品は、極めて高いカットスルー、改善された摩耗耐性および熱ショックを有する。
【0054】
実施例1h (ナノ改質ポリアミドイミドの調製)
実施例1aに記載されたように、実施例1hをBYK−LP X 20693と(3−アミノプロピル)−トリエトキシシランとを使用することによって調製した。シランをナノアルミナと共に、4時間40℃でNMPにおいて予め混合した。ナノ改質ポリアミドイミドは固体含有率33.0質量%、アルミナ含有率7.5質量%、およびシラン0.5質量%を有した。
【0055】
表3: カップリング剤の影響を示すナノ改質ポリアミドイミドの試験結果
【表3】

【0056】
表3はカップリング剤の使用が特性、特にカットスルーおよびタンジェントデルタをさらに改善することを示す。
【0057】
実施例2a (ナノ改質ポリエステルの調製)
2リットルの容量を有する3ツ口フラスコに温度計、攪拌機および蒸留ユニットを取り付け、37.0gのBYK−LP X20693、1.85gの(3−アミノプロピル)−トリエトキシシランおよび172.6gのクレゾール酸を装入した。該混合物をその後、40℃で4時間攪拌し、その後、実施例2のポリエステル樹脂溶液1000gを添加した。該混合物をその後、40℃で2時間攪拌し、固体含有率36.7質量%を有するナノ改質ポリエステルを得た。この場合、シランの含有率は0.5質量%であり、且つ、ナノアルミナの含有率は5質量%であった。
【0058】
実施例3a (ナノ改質ポリエステルイミドの調製)
2リットルの容量を有する3ツ口フラスコに温度計、攪拌機および蒸留ユニットを取り付け、37.0gのBYK−LP X20693、1.85gの(3−アミノプロピル)−トリエトキシシランおよび172.6gの を装入した。該混合物をその後、40℃で4時間攪拌し、その後、実施例3のポリエステルイミド樹脂溶液1000gを前記のフラスコに添加した。該混合物をその後、40℃で2時間攪拌し、固体含有率36.8質量%を有するナノ改質ポリエステルを得た。この場合、シランの含有率は0.5質量%であり、且つ、ナノアルミナの含有率は5質量%であった。
【0059】
表4: ナノ改質ポリエステルおよびポリエステルイミドの試験結果
【表4】

【0060】
表4はナノ改質製品が比較例よりも高いカットスルーを有することを示す。より高い摩耗耐性もまた達成される。
【0061】
実施例2b (ナノ改質ポリエステルの調製)
実施例2aに記載されるように、実施例2bをN−ジメトキシ(メチル)シリルメチル−O−メチル−カルバメートを0.5質量%使用することによって調製した。エナメル加工結果は実施例2aと同値である。
【0062】
表5において試験されたエナメル加工ワイヤは、ベアワイヤの太さ0.71mmを有する銅ワイヤから製造された。エナメルをまず、ベースコート(11層)としてポリエステルあるいはポリエステルイミド、加えて3層のポリアミドイミドのトップコートで被覆した。
【0063】
表5: 2層被覆ワイヤの試験結果
【表5】

【0064】
表5は、2層被覆されたナノ材料改質系が両方の場合において非改質製品より優れていることを示す。全ての場合において、全ての特性が強化された。
【0065】
実施例4a (ナノ改質ポリウレタンの調製)
2リットルの容量を有する3ツ口フラスコに温度計、攪拌機および蒸留ユニットを取り付け、33.0gのBYK−LP X20693、1.65gの(3−アミノプロピル)−トリエトキシシランおよび154gのクレゾール酸を装入した。該混合物をその後、40℃で4時間攪拌し、その後、実施例4のポリウレタン樹脂溶液1000gを前記のフラスコに添加した。該混合物をその後、40℃で2時間攪拌し、固体含有率33.3質量%を有するナノ改質ポリウレタンを得た。この場合、シランの含有率は0.5質量%であり、且つ、ナノアルミナの含有率は5質量%であった。
【0066】
実施例4b (ナノ改質ポリウレタンの調製)
実施例4aに記載されたように、実施例4bをBYK−LP X 20693と(3−アミノプロピル)−トリエトキシシランとを使用することによって、得られるナノ改質ポリウレタンが固体含有率33.3質量%、アルミナ(Al23)含有率2質量%およびシラン0.2質量%を有する量で調製した。
【0067】
実施例4c (ナノ改質ポリウレタンの調製)
実施例4aに記載されたように、実施例4cをBYK−LP X 20693と(3−アミノプロピル)−トリエトキシシランとを使用することによって、得られたナノ改質ポリウレタンが固体含有率33.3質量%、アルミナ(Al23)含有率1質量%およびシラン0.1質量%を有する量で調製した。
【0068】
表6: ナノ改質ポリウレタンワイヤエナメルの試験結果
【表6】

【0069】
表6は、ポリウレタン被覆の銅ワイヤ(直径0.71mm)のはんだ付け性に影響しないで、カットスルーの著しい増加にみちびくナノ粒子の最適含有率2%があることを示す。熱ショックもまた、著しく改善される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善した熱特性を有するワイヤエナメル組成物の製造方法において、ワイヤエナメル組成物の適用前に、ナノ材料をワイヤエナメル組成物のポリマーベースに添加することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ポリマーベースがポリアミドイミド、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリウレタンおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、ナノ材料がアルミニウム、スズ、ホウ素、ゲルマニウム、ガリウム、鉛、遷移金属、ランタノイド、アクチノイド、およびそれらの混合物のナノ酸化物、ナノ金属酸化物、金属酸化物、あるいは酸化物の水和物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、ナノ材料がアルミニウム、ケイ素、チタン、亜鉛、イットリウム、バナジウム、ジルコニウム、ニッケル、およびそれらの混合物のナノ酸化物、ナノ金属酸化物、金属酸化物、あるいは酸化物の水和物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、ナノ材料がナノアルミナの群からであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、ナノ粒子の平均半径が1〜300nm、好ましくは2〜100nm、特に5〜65nmの範囲であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、ナノ材料を1つあるいはそれより多くのカップリング剤で処理することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、カップリング剤がアルコキシシラン、あるいはアリールオキシシラン、(イソシアナトアルキル)−トリアルコキシシラン、(アミノアルキル)−トリアルコキシシラン、(トリアルコキシシリル)−アルキル酸無水物、オリゴマージアミノ−シラン、チタネート、ジルコネートおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、ワイヤエナメルが、
a) 10〜80質量%、好ましくは20〜70質量%、特に25〜60質量%のポリマーベース、
b) 0.01〜50質量%、好ましくは0.2〜20質量%、特に1.0〜10質量%のナノ材料、
c) 19〜90質量%、好ましくは29〜80質量%、特に39〜74質量%の溶剤、硬化触媒、カップリング剤、および添加剤、
(ここで、パーセンテージはワイヤエナメル全体に基づいており、且つ、どんな場合でも合計100%となる)
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
ワイヤエナメル中のナノ材料を、該ワイヤエナメルの熱特性を改善するために用いる使用。
【請求項11】
請求項10に記載の使用において、ワイヤエナメルのポリマーベースがポリアミドイミド、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリウレタンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする使用。
【請求項12】
請求項10に記載の使用において、ナノ材料がアルミニウム、スズ、ホウ素、ゲルマニウム、ガリウム、鉛、遷移金属、ランタノイド、アクチノイド、およびそれらの混合物のナノ酸化物、ナノ金属酸化物、金属酸化物、あるいは酸化物の水和物からなる群から選択されることを特徴とする使用。

【公表番号】特表2010−524198(P2010−524198A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503462(P2010−503462)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054264
【国際公開番号】WO2008/125559
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(503402633)アルタナ エレクトリカル インシュレイション ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (7)
【氏名又は名称原語表記】Altana Electrical Insulation GmbH
【住所又は居所原語表記】Abelstr. 45, D−46483 Wesel, Germany
【Fターム(参考)】