説明

ナノ粒子の製造方法

【課題】十分に微細なナノ粒子を、均一な粒度で製造することができるナノ粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】金属原子を含む化合物を、その金属原子を含む化合物を金属原子に還元できる温度に加熱される流路に輸送して、連続的に加熱し(連続加熱還元工程)、その後、還元により得られる金属原子を、急冷する(冷却工程)ことにより、ナノ粒子を製造する。このようなナノ粒子の製造方法によれば、十分に微細なナノ粒子を、均一な粒度で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の製造方法、詳しくは、金属原子を含有するナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が100nm以下の物質であるナノ粒子は、その比表面積が大きく、表面原子の占める割合が大きいため、例えば、磁気特性、触媒能などの各種物性において、バルク粒子(粒径が100nmを超える粒子)とは異なる性質を示すことが知られている。
【0003】
そのため、ナノ粒子は、近年、燃料電池などにおける各種触媒や、積層セラミックコンデンサの内部電極材料、導体配線を形成する導体材料などとして注目されており、そのため、ナノ粒子の製造方法が、種々検討されている。
【0004】
例えば、金属塩とポリオールとを金属塩の還元温度まで加熱し、金属塩を金属原子に還元した後、還元停止温度まで冷却することにより、金属原子のナノ粒子を製造する方法(ポリオール法)が、知られている。
【0005】
より具体的には、例えば、酢酸ニッケル・4水和物と、テトラエチレングリコールまたはトリメチレングリコールとを混合し、次いで、その混合液をマントルヒーターおよび還流管を備える容器に投入した後、溶剤の沸点程度(具体的には、473K、563K)に加熱して、ニッケルを溶解および還元させ、その後、核成形および粒成長させる方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 97,10J309(2005) Chinnasamy et al.(presented on 11 November 2004;published online 12 May 2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載されるように、酢酸ニッケル・4水和物と、テトラエチレングリコールまたはトリメチレングリコールとの混合液を投入した容器を、マントルヒーターなどで還元温度まで加熱する場合には、容器内において、温度に偏りが生じる。このような場合には、酢酸ニッケル・4水和物を均一に還元できず、その結果、ナノ粒子を均一な粒度で製造できないという不具合がある。
【0008】
また、非特許文献1に記載される方法では、還元により金属原子が生成した後、混合液を効率良く還元停止温度まで冷却することができないため、金属原子が還元停止温度に至るまで高温で長時間保持される。
【0009】
金属原子が高温で長時間保持されると、それら金属原子が凝集し、その粒径が大きくなる(例えば、200nm程度)場合がある。そのため、このような方法では、十分に微細なナノ粒子を製造することができないという不具合がある。
【0010】
本発明の目的は、十分に微細なナノ粒子を、均一な粒度で製造することができるナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のナノ粒子の製造方法は、金属原子を含む化合物を、前記化合物を金属原子に還元できる温度に加熱される流路に輸送して、連続的に加熱する連続加熱還元工程と、前記還元により得られる前記金属原子を急冷する冷却工程とを備えることを特徴としている。
【0012】
このようなナノ粒子の製造方法では、金属原子を含む化合物を流路に輸送して連続的に加熱することにより、温度条件を偏らせることなく化合物を加熱することができる。そのため、化合物を均一に金属原子に還元させることができ、その結果、均一な粒度のナノ粒子を製造することができる。
【0013】
また、このようなナノ粒子の製造方法では、還元により得られる金属原子を急冷、すなわち、高温で長時間保持することなく冷却するので、金属原子の凝集を抑制でき、その結果、十分に微細なナノ粒子を得ることができる。
【0014】
また、本発明のナノ粒子の製造方法では、前記連続加熱還元工程において、前記化合物および/または前記金属原子を、層流状態で輸送することが好適である。
【0015】
化合物を層流状態で輸送すれば、化合物をより均一に加熱できるため、化合物をより均一に還元することができ、その結果、より一層、均一な粒度のナノ粒子を製造することができる。
【0016】
また、本発明のナノ粒子の製造方法では、前記連続加熱還元工程の前に、前記化合物と還元剤とを混合する混合工程を備えることが好適である。
【0017】
このようなナノ粒子の製造方法では、金属原子を含む化合物と還元剤とを予め混合した状態で加熱するので、化合物を偏りなく還元剤と反応させることができる。
【0018】
そのため、このようなナノ粒子の製造方法によれば、より均一に化合物を還元することができ、その結果、より一層、均一な粒度のナノ粒子を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のナノ粒子の製造方法によれば、十分に微細なナノ粒子を、均一な粒度で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のナノ粒子の製造方法の一実施形態に用いられる製造装置の概略説明図を示す。
【図2】実施例1において得られたナノ粒子のTEM像を示す。
【図3】実施例1において得られたナノ粒子の電子回折像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のナノ粒子の製造方法では、まず、金属原子を含む化合物と還元剤とを混合する(混合工程)。
【0022】
金属原子としては、特に制限されないが、例えば、遷移金属が挙げられ、好ましくは、周期律表第3〜11族第4〜6周期(IUPAC Periodic Table of the Elements(version date 22 June 2007)に従う。以下同じ。)の遷移金属が挙げられる。
【0023】
金属原子として、より具体的には、例えば、周期律表第4周期の遷移金属(例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)など)、周期律表第5周期の遷移金属(例えば、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)など)、周期律表第6周期の遷移金属(例えば、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)など)などが挙げられる。
【0024】
これら金属原子は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0025】
金属原子として、好ましくは、周期律表第4周期の遷移金属が挙げられ、より好ましくは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。
【0026】
また、このような金属原子を含む化合物(以下、金属化合物と称する場合がある。)としては、例えば、上記の遷移金属の無機塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、水酸化物、ハロゲン化物など)、有機塩(例えば、酢酸塩、しゅう酸塩など)、金属アルコキシド、金属アセチルアセトナートなどが挙げられる。
【0027】
これら金属化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0028】
金属化合物として、好ましくは、上記の金属原子の有機塩が挙げられ、より好ましくは、金属原子の酢酸塩が挙げられる。
【0029】
還元剤は、加熱時において、金属化合物を金属原子に還元反応させることができる化合物であって、例えば、ポリオールなどが挙げられる。
【0030】
ポリオールは、水酸基を2つ以上有する化合物であって、例えば、1,2−エタンジオール(エチレングリコール、沸点:197℃)、1,3−プロパンジオール(トリメチレングリコール、沸点:210〜212℃)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール、沸点:188℃)、1,4−ブタンジオール(沸点:235℃)、1,3−ブタンジオール(沸点:208℃)、2,3−ブタンジオール(177℃)、1,2−ブタンジオール(沸点:193℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点:239℃)、ネオペンチルグリコール(沸点:211℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点:250℃)、3−メチル1,5−ペンタンジオール(沸点:250℃)、2−エチル1,3−ヘキサンジオール(沸点:243℃)、ヘキサデカンジオール、ステアリルグリコール、ジエチレングリコール(沸点:245℃)、トリエチレングリコール(沸点:278℃)、テトラエチレングリコール(沸点:327℃)などのジオール、例えば、グリセリン(沸点:290℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(沸点:178℃/5mmHg)、トリメチロールプロパン(沸点:159〜161℃/2mmHg)などのトリオール、ソルビトール(沸点:296℃)などの水酸基を4つ以上有するポリオールなどが挙げられる。
【0031】
また、ポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリマーポリオールなども挙げられる。
【0032】
これらポリオールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0033】
ポリオールとして、好ましくは、ジオールが挙げられる。
【0034】
ポリオールの沸点は、例えば、150〜327℃、好ましくは、180〜230℃である。
【0035】
ポリオールの沸点が上記範囲であれば、金属化合物を、効率良く金属原子に還元することができる。
【0036】
また、還元剤としては、ポリオールに限定されず、例えば、水素、アルコールアミン、水素化ホウ酸塩、ヒドラジン、クエン酸など、公知の還元剤も挙げられる。
【0037】
還元剤として、好ましくは、ポリオールが挙げられる。
【0038】
金属化合物と還元剤との配合割合は、金属化合物1質量部に対して、還元剤が、例えば、4〜4500質量部、好ましくは、150〜250質量部である。
【0039】
金属化合物と還元剤との配合割合が上記範囲であれば、粒度分布が狭い(粒度の均一な)ナノ粒子を製造することができる。
【0040】
また、混合工程では、必要により、分散剤を配合することもできる。
【0041】
分散剤は、例えば、反応により生成するナノ粒子の表面を被覆し、立体障害などにより金属原子の凝集を抑制する成分であって、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(2―メチル―2−オキサゾリン)などの窒素含有有機化合物、さらには、例えば、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0042】
これら分散剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0043】
分散剤として、好ましくは、窒素含有有機化合物、より好ましくは、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0044】
分散剤の配合割合は、金属化合物1質量部に対して、分散剤が、例えば、0.02〜1000質量部、好ましくは、1〜50質量部である。
【0045】
分散剤の配合割合が上記範囲であれば、還元剤および分散剤中において、ナノ粒子を、高分散させることができる。
【0046】
さらに、混合工程では、必要により、金属化合物および還元剤(および、必要により分散剤)の混合物中に、不活性ガスを通気することができる。
【0047】
不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガスなどが挙げられ、好ましくは、窒素ガスが挙げられる。
【0048】
不活性ガスの通気量は、特に制限されないが、混合物100質量部に対して、例えば、0.006〜0.07Nm/hr、好ましくは、0.02〜0.03Nm/hrである。
【0049】
混合物中に不活性ガスを通気すれば、混合物中に溶存する空気を除去できるため、連続加熱還元工程において、混合物中に気泡が発生することを抑制することができ、その結果、後述するように、混合物を層流状態で輸送することができる。
【0050】
次いで、この方法では、上記により得られた金属化合物および還元剤(および、必要により分散剤)の混合物を、後述する還元温度未満の温度に加熱する(予備加熱工程)。
【0051】
予備加熱工程における加熱条件としては、予備加熱温度が、金属化合物の還元開始温度(例えば、150〜300℃)未満であり、例えば、還元開始温度よりも10〜100℃低い温度である。
【0052】
このような予備加熱温度として、より具体的には、例えば、100〜250℃である。また、予備加熱時間は、例えば、60〜240秒である。
【0053】
また、予備加熱時の圧力は、通常、大気圧であるが、必要により加圧することができ、さらには、必要により減圧することもできる。
【0054】
金属化合物および還元剤(および、必要により分散剤)の混合物を予備加熱することにより、後述する連続加熱還元工程において、金属化合物をより均一に加熱および還元することができるため、均一な粒度のナノ粒子を得ることができる。
【0055】
次いで、この方法では、金属化合物および還元剤(および、必要により分散剤)の混合物を、金属化合物を金属原子に還元できる温度(以下、還元温度)に加熱される流路に輸送して、連続的に加熱する(連続加熱還元工程)。
【0056】
連続加熱還元工程における流路の加熱条件としては、還元温度が、金属化合物の還元開始温度(例えば、150〜300℃)以上であり、例えば、還元開始温度よりも、例えば、10〜100℃高い温度である。
【0057】
このような還元温度として、より具体的には、例えば、180〜350℃である。また、金属化合物の流路での滞留時間、すなわち、加熱還元時間は、例えば、60〜600秒である。
【0058】
また、流路の圧力は、通常、大気圧であるが、必要により加圧することができ、さらには、必要により減圧することもできる。
【0059】
なお、金属化合物の還元が、発熱反応または吸熱反応である場合などには、連続加熱還元工程では、加熱還元温度を、必要により、適宜調整することができる。
【0060】
そして、連続加熱還元工程では、上記条件とした流路に金属化合物を輸送する。
【0061】
なお、流路としては、後で詳述するが、反応管などが用いられる。また、流量や流速は、適宜決定される。
【0062】
これにより、混合物中の金属化合物が、金属原子に還元され、例えば、還元剤がポリオールである場合には、金属原子は、ポリオールに分散された分散液などとして得られる。
【0063】
分散液中の金属原子の濃度は、例えば、0.005〜6質量%、好ましくは、0.05〜0.5質量%である。
【0064】
その後、この方法では、上記の還元により得られる金属原子を含む分散液を急冷する(冷却工程)。
【0065】
冷却工程における冷却条件としては、降温速度が、例えば、5〜50℃/秒である。また、冷却最終温度が、金属化合物の還元開始温度(例えば、150〜300℃)以下であり、還元開始温度(例えば、150〜300℃)よりも、例えば、100〜150℃低い温度である。
【0066】
このような冷却最終温度として、より具体的には、例えば、10〜50℃である。また、冷却工程における冷却時間(上記冷却最終温度まで冷却するための所要時間)は、例えば、0.1〜300秒、好ましくは、1〜10秒である。
【0067】
急冷方法としては、特に制限されないが、例えば、溶液トラップ法が採用される。
【0068】
溶液トラップ法では、上記により得られる分散液を、トラップ液中に投入する。
【0069】
トラップ液としては、例えば、上記ポリオール、上記の分散剤などが挙げられる。
【0070】
また、トラップ液の温度としては、例えば、−210〜40℃、好ましくは、0〜30℃である。
【0071】
そして、これにより、還元反応を停止させるとともに、金属原子の凝集を抑制することができ、その結果、低温溶液中において、金属原子のナノ粒子が得られる。
【0072】
得られるナノ粒子(一次粒子)の粒径(長さ平均粒子径)は、例えば、1〜200nm、好ましくは、1〜12nmである。
【0073】
ナノ粒子の粒径が上記範囲であれば、ナノ粒子の比表面積を大きくすることができるため、磁気特性、触媒能などの各種物性において、バルク粒子(粒径が100nmを超える粒子)とは異なる性質を、良好に示すことができる。
【0074】
なお、ナノ粒子は、例えば、遠心分離、濾過などの公知の方法により、低温溶液から分離することができる。
【0075】
このようなナノ粒子の製造方法では、金属原子を含む化合物を流路に輸送して連続的に加熱することにより、温度条件を偏らせることなく化合物を加熱することができる。そのため、化合物を均一に金属原子に還元させることができ、その結果、均一な粒度のナノ粒子を製造することができる。
【0076】
また、このようなナノ粒子の製造方法では、還元により得られる金属原子を急冷、すなわち、高温で長時間保持することなく冷却するので、金属原子の凝集を抑制でき、その結果、十分に微細なナノ粒子を得ることができる。
【0077】
さらに、このようなナノ粒子の製造方法では、連続加熱還元工程における加熱時間を適宜調整することにより、得られるナノ粒子の粒径を、必要に応じて調整することができる。
【0078】
しかも、通常、ナノ粒子を大量に製造する場合には、巨大な装置を必要とするため、工業的に不向きである一方、このようなナノ粒子の製造方法では、装置を巨大化することなく、省スペースで、工業的に多量のナノ粒子を製造することができる。
【0079】
それに加えて、このようなナノ粒子の製造方法では、金属化合物と還元剤とを予め混合した状態で加熱するので、金属化合物を偏りなく還元剤と反応させることができる。
【0080】
そのため、このようなナノ粒子の製造方法によれば、より均一に金属化合物を還元することができ、その結果、より一層、均一な粒度のナノ粒子を製造することができる。
【0081】
図1は、本発明のナノ粒子の製造方法の一実施形態に用いられる製造装置の概略説明図である。
【0082】
以下において、上記した本発明のナノ粒子の製造方法の一実施形態について、図1を参照して説明する。
【0083】
図1において、製造装置1は、上記したナノ粒子の製造方法が採用されるナノ粒子の製造装置であって、混合装置2と、反応装置3と、冷却装置4とを備えている。
【0084】
混合装置2は、製造装置1において、金属化合物と還元剤とを混合するために設備されている。
【0085】
この混合装置2は、混合槽5と、混合槽5に接続される輸送管6とを備えている。
【0086】
混合槽5は、金属化合物および還元剤(および、必要により分散剤)を混合するための原料混合槽であって、図示しないが、必要により、例えば、混合槽5内を撹拌するための撹拌装置、上記各成分(金属化合物、還元剤、および、必要により分散剤)の混合物に不活性ガスを通気するための不活性ガス供給管などを備えている。
【0087】
輸送管6は、混合槽5において混合された上記の混合物を、反応装置3に輸送するための輸送ラインであり、その上流側端部が混合槽5に接続されるとともに、下流側端部が反応装置3(反応管10(後述))に接続されている。
【0088】
また、輸送管6の途中には、混合槽5において混合された各成分の混合物を反応装置3に向けて圧力輸送するための圧送ポンプ7が介在されている。
【0089】
さらに、輸送管6の途中には、圧送ポンプ7の上流側において、各成分の混合物を脱気するための脱気装置8が介在されている。
【0090】
反応装置3は、製造装置1において、金属化合物と還元剤との反応により金属化合物を金属原子に還元するために、例えば、マイクロリアクターとして設備されている。
【0091】
この反応装置3は、反応管10と、反応管10を収容するように設備される予備加熱機11および加熱還元機12とを備えている。
【0092】
反応管10は、その内側において、混合装置2で混合された各成分の混合物を輸送し、予備加熱機11および加熱還元機12を順次通過させるとともに、金属化合物を金属原子に還元反応させるための輸送および反応ラインであって、輸送管6の下流側端部に連続するように備えられている。
【0093】
より具体的には、反応管10は、供給部13、予備加熱部14、中継部15、加熱還元部16および排出部17を直列で一体的に備えている。
【0094】
供給部13は、その上流側端部が輸送管6の下流側端部に接続され、また、供給部13の下流側端部は、予備加熱部14の上流側端部に接続されている。
【0095】
予備加熱部14は、その上流側端部が供給部13の下流側端部と連続しており、予備加熱機11内に収容されるとともに、その予備加熱機11内を蛇行するように(葛籠折りの状態で)、あるいは、図示しないが、旋回するように(スプリング状に巻かれた状態で)、配置されている。
【0096】
中継部15は、その上流側端部が予備加熱部14の下流側端部に接続され、また、中継部15の下流側端部は、加熱還元部16の上流側端部に接続されている。また、中継部15は、予備加熱部14と加熱還元部16とを中継するように、予備加熱機11と加熱還元機12との間に配置されている。
【0097】
加熱還元部16は、その上流側端部が中継部15の下流側端部に連続しており、加熱還元機12内に収容されるとともに、その加熱還元機12内を蛇行するように(葛籠折りの状態で)、あるいは、図示しないが、旋回するように(スプリング状に巻かれた状態で)、配置されている。
【0098】
排出部17は、その上流側端部が予備加熱部14の下流側端部に接続され、また、排出部17の下流側端部は、冷却装置4(冷却管20)に接続されている。
【0099】
このような、反応管10は、例えば、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレンなど)などの公知の樹脂材料などから、可撓性を備える管として形成されている。
【0100】
また、反応管10の熱伝導率は、例えば、0.1〜150W/(m・K)、好ましくは、5〜30W/(m・K)である。
【0101】
また、反応管10の内径は、例えば、0.05〜5mm、好ましくは、0.5〜1mmであり、厚みは、例えば、0.1〜3mm、好ましくは、0.1〜1mmであり、外径は、例えば、0.25〜11mm、好ましくは、1〜2mmである。
【0102】
また、反応管10の全長は、例えば、1〜20m、好ましくは、3〜5mである。また、そのうち、予備加熱部14の全長は、例えば、0.5〜10m、好ましくは、2〜5mであり、加熱還元部16の全長は、例えば、0.5〜5m、好ましくは、0.5〜2mである。
【0103】
このような反応管10の、外周の表面積は、例えば、7.5×10−4〜7×10−1、好ましくは、9×10−3〜3.5×10−2であり、中空空間の体積が、例えば、2×10−9〜4×10−4、好ましくは、5.5×10−7〜4×10−6である。
【0104】
そして、このような反応管10の表面積は、反応管10の中空空間の体積に対して、例えば、800〜560000m/m、好ましくは、10000〜30000m/mの範囲とされている。
【0105】
このようなナノ粒子の製造方法によれば、反応管10内の金属化合物の加熱効率を向上することができ、また、金属化合物をより均一に加熱できるため、より均一なナノ粒子を効率良く製造することができる。
【0106】
なお、中継部15および排出部17の全長は、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、必要に応じて適宜設定されており、例えば、中継部15の全長は、反応管10の全長に対して、例えば、0.01〜50%、好ましくは、0.01〜0.1%の範囲であり、また、排出部17の全長は、反応管10の全長に対して、例えば、0.1〜10%の範囲である。
【0107】
予備加熱機11は、反応管10の内部を輸送される上記各成分を、反応管10の外周表面側から加熱(予備加熱)するための加熱装置であって、公知の加熱機からなる。
【0108】
このような予備加熱機11は、混合装置2の下流側、および、加熱還元機12の上流側において、反応管10の予備加熱部14を収容するように備えられている。
【0109】
また、予備加熱機11には、図示しないが、必要により、例えば、加熱温度を測定するための温度計、加熱温度を調節するための温度調節機(ヒータなど)などが備えられている。
【0110】
加熱還元機12は、反応管10の内部を輸送される上記各成分を、反応管10の外周表面側から、金属化合物の還元温度まで加熱するための加熱装置であって、公知の加熱機からなる。
【0111】
このような加熱還元機12は、予備加熱機11の下流側、および、冷却装置4の上流側において、反応管10の加熱還元部16を収容するように備えられている。
【0112】
また、加熱還元機12には、図示しないが、必要により、例えば、加熱温度を測定するための温度計、加熱温度を調節するための温度調節機(ヒータなど)などが備えられている。
【0113】
冷却装置4は、製造装置1において、反応装置3で得られる金属原子を急冷し、ナノ粒子を製造するために、設備されている。
【0114】
この冷却装置4は、冷却管20と、冷却管20の下端部が挿通されるように設備される冷却機21とを備えている。
【0115】
冷却管20は、その内側において、反応装置3で得られた金属原子を含む混合物(還元剤および必要により分散剤、未還元の金属化合物、および、それらの誘導体を含む)を冷却機21に輸送するための輸送ラインであって、反応管10の下流側端部に接続されるように備えられている。
【0116】
より具体的には、冷却管20は、その上流側端部が反応管10の排出部17の下流側端部に接続されるとともに、その下流側端部が冷却機21に挿通され、その下流側が冷却機21に収容されている。
【0117】
このような、冷却管20は、例えば、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレンなど)などの公知の樹脂材料などから、可撓性を備える管として形成されている。
【0118】
また、冷却管20の熱伝導率は、例えば、0.1〜150W/(m・K)、好ましくは、5〜30W/(m・K)である。
【0119】
また、冷却管20の内径は、例えば、0.05〜5mm、好ましくは、0.5〜1mmであり、厚みは、例えば、0.1〜3mm、好ましくは、0.1〜1mmであり、外径は、例えば、0.25〜11mm、好ましくは、1〜2mmである。
【0120】
また、冷却管20の全長は、例えば、0.5〜1m、好ましくは、0.6〜0.7mである。また、そのうち、冷却機21に収容される部分の全長は、例えば、0.1〜0.4m、好ましくは、0.2〜0.3mである。
【0121】
また、冷却管20における冷却機21に収容されず露出する部分の全長は、反応管10の全長に対して、例えば、0.5〜90%、好ましくは、10〜20%の範囲である。
【0122】
このような冷却管20の、外周の表面積は、例えば、4×10−4〜3.5×10−2、好ましくは、1.8×10−3〜4×10−3であり、中空空間の体積が、例えば、9.8×10−10〜2×10−5、好ましくは、4.5×10−7〜2×10−6である。
【0123】
そして、このような冷却管20の表面積は、冷却管20の中空空間の体積に対して、例えば、800〜560000m/m、好ましくは、10000〜30000m/mの範囲とされている。
【0124】
冷却機21は、金属原子を急冷する装置であって、公知の冷却機からなる。
【0125】
例えば、上記の溶液トラップ法が採用される場合には、冷却機21は、例えば、還元剤(および必要により分散剤)を含む溶液が、冷却状態で注入された冷却槽として設けられる。
【0126】
このような冷却機21は、冷却管20の下流側端部を収容し、反応管10の内部を輸送される金属原子を含む混合物(還元剤および必要により分散剤、未還元の金属化合物、および、それらの誘導体を含む)をトラップするように備えられている。
【0127】
また、冷却機21には、図示しないが、必要により、例えば、冷却最終温度を測定する温度計、冷却最終温度を調節するための温度調節機(チラーまたはクーラなど)などが備えられている。
【0128】
次に、この製造装置1によって、金属化合物および還元剤(および、必要により分散剤)を混合し、次いで、得られた混合物を加熱還元させ、金属原子のナノ粒子を製造する方法について、説明する。
【0129】
この方法では、まず、混合装置2において、金属化合物および還元剤を混合する(混合工程)。
【0130】
この混合装置2では、まず、混合槽5に、金属化合物、還元剤および分散剤が、上記した割合で投入され、撹拌装置(図示せず)により混合されるとともに、その混合物に、必要により、不活性ガス(例えば、窒素ガス)が上記した割合で通気され、混合物中の溶存空気が除去される。
【0131】
そして、この方法では、圧送ポンプ7を駆動させることにより、混合物を輸送管6に供給し、脱気装置8に輸送する。脱気装置8では、混合物が脱気され、混合物中に溶存する空気が除去されることにより、層流状態で輸送される。
【0132】
すなわち、上記の不活性ガスの通気、および、脱気により、混合物中に溶存する空気を除去できるため、連続加熱還元工程において、混合物中に気泡が発生することを抑制することができ、その結果、混合物を層流状態で輸送することができる。
【0133】
混合物(金属化合物を含む)を層流状態で輸送すれば、連続加熱還元工程において、金属化合物をより均一に加熱できるため、金属化合物をより均一に還元することができ、その結果、より一層、均一な粒度のナノ粒子を製造することができる。
【0134】
次いで、この方法では、混合および脱気された混合物を、層流状態で反応管10に輸送し、これにより、混合物を予備加熱機11に向けて輸送し、予備加熱機11内を通過させる(予備加熱工程)。
【0135】
このとき、予備加熱機11は、反応管10内の混合物を上記予備加熱温度で加熱できるよう温度が調整されており、また、反応管10の予備加熱部14は、混合物が上記予備加熱時間で予備加熱機11内に滞留するように、蛇行または旋回している。
【0136】
これにより、混合物は、反応管10内において、上記予備加熱時間および上記予備加熱温度で予備加熱される。
【0137】
次いで、この方法では、予備加熱された混合物を、加熱還元機12に向けて輸送し、加熱還元機12内を通過させる(連続加熱還元工程)。
【0138】
このとき、加熱還元機12は、反応管10内の混合物を上記還元温度で加熱できるよう温度が調整されており、また、反応管10の加熱還元部16は、混合物が上記加熱還元時間で加熱還元機12内に滞留するように、蛇行または旋回している。
【0139】
これにより、混合物は、反応管10内において、上記加熱還元時間および上記還元温度で、連続的に加熱され、混合物に含まれる金属化合物が、金属原子に還元される。これにより、金属原子のナノ粒子が生成する。
【0140】
このようなナノ粒子の製造方法では、金属化合物を連続的に加熱することにより、温度条件を偏らせることなく金属化合物を加熱することができる。
【0141】
また、このようなナノ粒子の製造方法では、金属化合物と還元剤とを予め混合した状態で加熱するので、金属化合物を偏りなく還元剤と反応させることができる。
【0142】
そのため、このようなナノ粒子の製造方法によれば、より均一に金属化合物を還元することができ、その結果、より一層、均一な粒度のナノ粒子を製造することができる。
【0143】
次いで、この方法では、金属原子を含む混合物を、冷却管20に輸送し、これにより、混合物を冷却機21に向けて輸送し、急冷する(急冷工程)。
【0144】
このとき、冷却機21は、冷却管20内を輸送された金属原子を、上記冷却最終温度まで上記の冷却時間で冷却できるように、温度調整されている。
【0145】
これにより、金属原子を、冷却機21において上記冷却最終温度および上記冷却時間で急冷し、ナノ粒子を製造する。
【0146】
通常、金属化合物の加熱および還元により得られる金属原子が、その加熱による高温状態から徐々に冷却される場合には、金属原子が凝集し、十分に微細なナノ粒子を製造することができない場合がある。
【0147】
一方、このようなナノ粒子の製造方法では、還元により得られる金属原子を急冷、すなわち、高温で長時間保持することなく冷却するので、金属原子の凝集を抑制でき、その結果、十分に微細なナノ粒子を得ることができる。
【0148】
そして、本発明のナノ粒子の製造方法によれば、十分に微細なナノ粒子を、均一な粒度で製造することができる。
【0149】
また、本発明のナノ粒子の製造方法によれば、連続加熱還元工程における加熱時間の調整によりナノ粒子の粒径を調整することができ、さらに、多量のナノ粒子を製造する場合にも、省スペース化を図ることができる。
【実施例】
【0150】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
(製造装置の用意)
図1に示す製造装置を用意した。
【0151】
なお、製造装置では、圧送ポンプとしてダブルプランジャーポンプ(型番:AI12−33、FLOM社製)を用い、また、不活性ガスとして、窒素ガスを用いた。
【0152】
また、輸送管として、全長2mのマイクロチューブ(型番:0.5×1.5、パッキンランド社製、内径0.5mm(0.0005m)、外径1.5mm(0.0015m)、厚み0.5mm(0.0005m))を用いた。
【0153】
また、反応装置としては、マイクロリアクター(型番:0.5×1.5、パッキンランド社製)を用い、反応管として、全長3mのマイクロチューブ(型番:0.5×1.5、パッキンランド社製、内径0.5mm(0.0005m)、外径1.5mm(0.0015m)、厚み0.5mμm(0.0005m))を用いた。
【0154】
このとき、反応管の表面積は、1.413×10−2(=0.0015m×π×3m)であり、その中空空間の体積は、5.89×10−7(=(0.0005m/2)×π×3m)であり、それらの比(表面積/中空空間の体積)は、約24000m/mであった。
【0155】
また、予備加熱機として、マントルヒーターにより150℃に加熱したシリコンオイルバスを用いた。このシリコンオイルバス中には、反応管2.5mを、スプリング状に巻いた状態で浸漬させた。
【0156】
このとき、予備加熱部(シリコンオイルに浸漬される反応管)の表面積は、1.178×10−2(=0.0015m×π×2.5m)であり、中空空間の体積は、4.91×10−7(=(0.0005m/2)×π×2.5m)であり、それらの比(表面積/中空空間の体積)は、約24000m/mであった。
【0157】
また、加熱還元機として、マントルヒーターにより210〜220℃に加熱したシリコンオイルバスを用いた。このシリコンオイルバス中には、反応管0.5mを、スプリング状にまいた状態で浸漬させた。
【0158】
このとき、加熱還元部(シリコンオイルに浸漬される反応管)の表面積は、2.355×10−3(=0.0015m×π×0.5m)であり、中空空間の体積は、9.81×10−8(=(0.0005m/2)×π×0.5m)であり、それらの比(表面積/中空空間の体積)は、約24000m/mであった。
【0159】
また、冷却機としては、容器にポリビニルピロリドンとトリメチレングリコールとを、ポリビニルピロリドン:トリメチレングリコール=10:211(質量基準)で混合した混合液を投入し、これをトラップ溶液とした。また、トラップ溶液の温度を、ウォーターバスにより25℃に設定し、そのトラップ溶液中に、反応管の下流側端部を挿入した。
(実施例1)
混合槽に、トリメチレングリコール210.6質量部と、酢酸ニッケル0.995質量部と、ポリビニルピロリドン10質量部とを投入し、混合した(混合工程)。
【0160】
次いで、得られた混合液を、流量が0.1mL/minとなるようにダブルプランジャーポンプにて輸送管に供給し、脱気装置を通過させ、層流状態とした。
【0161】
次いで、混合液を層流状態で反応管に流入させ、予備加熱機を236秒、加熱還元機を118秒で、それぞれ通過させた。これにより、混合液中の酢酸ニッケルを、ニッケル(金属原子)に還元した。
【0162】
その後、ニッケルを含む混合液(未反応の酢酸ニッケルなどを含む)を、トラップ溶液中に放出し、25℃まで約10秒で急冷した。これにより、ナノ粒子を製造した。
(評価)
実施例1において得られたナノ粒子を、透過型電子顕微鏡(型番:H−800、日立社製)にて観察した。得られたTEM像(明視野像)を図2に、得られた電子回折像を図3に、それぞれ示す。
【0163】
図2より、得られたナノ粒子は、その長さ平均粒子径が約10nmであり、単分散していることが確認された。
【0164】
また、図3において、各結晶配向のニッケル金属、具体的には、Ni(111)、Ni(220)、Ni(311)による回折点が確認され、これにより、得られたナノ粒子がニッケルであると確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子を含む化合物を、前記化合物を金属原子に還元できる温度に加熱される流路に輸送して、連続的に加熱する連続加熱還元工程と、
前記還元により得られる前記金属原子を急冷する冷却工程と
を備えることを特徴とする、ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記連続加熱還元工程において、
前記化合物および/または前記金属原子を、層流状態で輸送することを特徴とする、請求項1に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記連続加熱還元工程の前に、
前記化合物と還元剤とを混合する混合工程を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195852(P2011−195852A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60954(P2010−60954)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】