説明

ナビゲーション装置

【目的】自動二輪車などの旋回時のロール角が大きな移動体の位置を精度良く求めるこ
とができ、ジャイロセンサの学習機能の構築が容易なカーナビゲーション装置を提供する

【構成】ナビゲーション装置10は、移動体1に設置されるとともにジャイロセンサに
よって前記移動体1の旋回角速度ωを検知・算出する旋回角速度検知・算出手段18を備
えており、特に、この旋回角速度検知・算出手段18は、移動体1の正立状態における上
下方向(X軸方向)及び前後方向(Y軸方向)に対して左右方向(Z軸方向)において、
上下方向のX軸に対して互いに逆方向に同一角度θ1、θ2(θ1=θ2=θ0)傾けて
左右対称に設置された同感度の2つのジャイロセンサ2A、2Bと、2つのジャイロセン
サ2A、2Bのセンサ出力回路9、9と、センサ出力回路9、9の出力信号の変化x1、
x2から移動体1の旋回角速度ωを算出する演算手段と、を備える構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車、自動二輪車などの移動体を搭載対象とするナビゲーション
装置に関し、特に、その慣性測位システムで用いられているジャイロセンサによって移動
体の旋回角速度を検知・算出する旋回角速度検知・算出手段に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの移動体に搭載されるナビゲーション装置は、一般に慣性測位システムを備
えており、ジャイロセンサ(方位角センサとも称する。)を使用して前記移動体の旋回を
検知して所定のアルゴリズムの演算処理をマイクロコンピュータなどの制御装置で行って
旋回角速度を算出し、これを移動体の慣性測位システムによる位置推定のための基礎デー
タとして用いている。
【0003】
上記ジャイロセンサによる移動体の旋回角速度を求める手段としては、従来は以下の(
1)或いは(2)の旋回角速度検知・算出手段が主に用いられている。
【0004】
(1)図4は移動体1(自動車の例)の動作方向を示す斜視図であり、本図において、
移動体1の進行方向をY軸、移動体1の水平面上の正立状態での垂直方向をX軸、進行方
向と直交する水平面上の方向をZ軸とする。なお、X軸周りの移動体の旋回角をヨー角、
Y軸周りの回転角(移動体1の左右方向の傾き)をロール角という。
【0005】
前記移動体1の旋回時のX軸周りの旋回角速度をω、そのときのX軸周りの旋回角速度
ωを検知するように設置されたジャイロセンサの出力変化分をx、移動体1の進行方向Y
軸回りの左右の傾き(ロール角)をθとすると、それらの関係は下式[数1]になる。
【0006】
【数1】


通常、瞬時の旋回角速度ωを求めるとき、ロール角θは変動が緩やかでほぼ一定(又は
θ=0)と見なせるので、cosθ=const.と考え、下式[数2]のようにxから旋回角
速度ωを求めている。
【0007】
【数2】


なお、上記ジャイロセンサは図5に示される概略図のように、電圧を加えると音叉のよ
うに振動する振動部を有する圧電セラミックス素子3a、3bが左右に備わっており、ジ
ャイロセンサ(筺体)5が角速度ωでX軸周りに回転すると前記圧電セラミックス素子3
a、3bの振動と垂直方向にコリオリ力が働き、ジャイロセンサ5の圧電セラミックス素
子3a、3bの振動部が歪み、この歪みを電気的に検出する原理となっている。検出され
た電気信号はセンサ出力回路で角速度ωに比例したセンサ出力電圧として出力される。
【0008】
(2)より精密な旋回角速度を求める旋回角速度検知・算出手段として、前記移動体1
の左右の傾き(ロール角)検出専用のジャイロセンサと旋回(ヨー角)検出専用のジャイ
ロセンサを使用する方式がある。この方式は、傾き検出専用のジャイロセンサは傾きが生
じるY軸、旋回検出専用のジャイロセンサは旋回が生じるX軸に対して取り付けられ、そ
れぞれのジャイロセンサのなす角は90°になる。
【0009】
前記旋回検出専用のジャイロセンサのセンサ出力電圧の変化分をx、傾き検出専用のジ
ャイロセンサのセンサ出力電圧の変化分をy、旋回角速度をω、前記移動体1の傾き(ロ
ール角)をθとすると、それらの関係は下式[数3]、[数4]になる。
【0010】
【数3】

【0011】
【数4】


移動体1の左右の傾き(ロール角)θは、上式[数4]から求められる。また、旋回角
速度ωは式[数3]と式[数4]より求められる下式[数5]から求めることができる。
【0012】
【数5】


なお、ジャイロセンサを用いた旋回角速度検知・算出手段に関する技術文献として、下
記[特許文献1]に、加速度センサと2つの異なる目的のジャイロセンサ(ピッチ角を検
出するためのジャイロセンサとヨー角を検出するためのジャイロセンサ)を利用して精度
良く車両の位置を演算するナビゲーション装置の技術が開示されている。
【0013】
【特許文献1】特開平9−96534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来技術の前記(1)の旋回角速度検知・算出手段では、例えば移動体が自動二輪車の
ように、旋回するたびに車体が大きく左右に傾き、毎回、傾く角度が異なるような移動体
に対して適用する場合、式[数1]のcosθの変動が無視できなくなり、xはωとco
sθで変化することになる(式[数2]が使用できない)。このため、傾きθが求められ
ないと、xから精度よく旋回角速度ωを求めることができない結果となる。
【0015】
また、前記(2)の旋回角速度検知・算出手段のように、傾き専用、旋回専用の2つの
ジャイロセンサを使用する旋回角速度検知・算出手段の場合、それぞれの出力信号の処理
(フィルタリング、補正など)の学習を行う際に、それぞれ専用の処理、教師信号が必要
となってそのシステム構成はかなり複雑、高コストなものとなる。
【0016】
例えば、衛星測位システム(GPS)と地図データベースとを併用してマップマッチン
グを行うナビゲーション装置で使用する場合、通常、慣性測位システムにおける旋回方向
の学習(センサの補正)は、衛星航法システムと地図データベースとを教師信号として行われる。しかし、この2つの別個の専用ジャイロセンサを用いる方法では、旋回を求めるためには傾き情報が必要であり、傾き専用ジャイロセンサの学習を行うためには、それ専用に学習システムを構築する必要があるのである。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成でありながら精度良く移動
体の旋回角速度が算出できる構成の旋回角速度検知・算出手段を備えたナビゲーション装
置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するために、移動体1に設置されるとともにジャイロセンサ
によって前記移動体1の旋回角速度ωを検知・算出する旋回角速度検知・算出手段18を
備えるナビゲーション装置において、前記旋回角速度検知・算出手段18は、前記移動体
1の正立状態における上下方向(X軸方向)及び前後方向(Y軸方向)に対して左右方向
(Z軸方向)において、前記上下方向のX軸に対して互いに逆方向に同一角度θ0傾けて
左右対称に設置された同感度の2つのジャイロセンサ2A、2Bと、前記2つのジャイロ
センサ2A、2Bのセンサ出力回路9、9と、前記センサ出力回路9、9の出力信号の変
化x1、x2から前記移動体1の旋回角速度ωを算出する演算手段と、を備えることを特
徴とするナビゲーション装置10を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るナビゲーション装置は、上記のように構成されているため、
(1)傾き角度検出専用及び旋回角速度検出専用の異なる専用ジャイロセンサを必要とし
ないため、システム構成が簡素であり、コストダウンが実現する。
(2)特に、自動二輪車などの旋回時の左右の傾き角度(ロール角度)が大きな移動体の
位置を精度良く求めることができる。
(3)ジャイロセンサ出力の処理(フィルタリング、補正など)の学習機能の構築が容易
となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係るナビゲーション装置の実施の形態について図面に基づいて説明する。なお
、従来技術と同等であるナビゲーション装置における衛星測位システムのGPS受信機、
ジャイロセンサ以外のセンサ及び慣性測位システム、表示装置、操作部、制御部、地図デ
ータベース等の説明は簡略に留め、専ら2つのジャイロセンサによる旋回角速度検知・算
出手段について詳述する。
【0021】
図1は本発明に係るナビゲーション装置の構成例を示すブロック図である。図2は本発
明に係るナビゲーション装置の旋回角速度検知・算出手段の2つのジャイロセンサの取り
付け状態を示す図である。図3はナビゲーション装置のジャイロセンサのセンサ出力回路
のブロック図である。
【0022】
図1または図2において、ナビゲーション装置10は、自動二輪車や自動車などの移動
体1(図4参照)に設置され、前記移動体1の現在位置を推定するために、衛星測位シス
テムの構成要素たるGPS受信機11と、慣性測位システムの構成要素たる方位センサと
しての地磁気センサ17とジャイロセンサ2A、2Bと、車輪の回転数により移動体の走
行距離に応じた距離信号を得る車速センサ16と、DVDーROMまたはHDDまたはC
D−ROMなどの記録媒体に記録されたマップマッチング及び案内地図表示のための地図
データベース12と、案内地図などを表示する液晶などの表示部13と、操作スイッチ、
音声認識装置、リモコンなどから構成される操作部14と、衛星測位システム及び慣性測
位システムの演算処理やナビゲーション装置全体の制御を行うマイクロコンピュータを主
体とする制御部15と、から構成されている。
【0023】
本発明では、前記移動体1の旋回角速度を検知・算出する旋回角速度検知・算出手段1
8を前記制御部15に内蔵する構成であって、特に、この旋回角速度検知・算出手段18
は、図2に示されるように、前記移動体1の水平面H上の正立状態における垂直な上下方
向(X軸方向)のXa軸、Xb軸及び前後方向(Y軸方向)に対して左右方向(Z軸方向
)において、前記上下方向のX軸に対して互いに逆方向に同一角度θ1、θ2(θ1=θ
2=θ0)傾けて左右対称に設置された同感度の2つのジャイロセンサ2A、2Bと、前
記2つのジャイロセンサ2A、2Bの電気的信号の変化をそれぞれ取り出す図3に示され
るセンサ出力回路9、9と、前記センサ出力回路9、9の出力信号の変化x1、x2から
前記移動体1の旋回角速度ωを制御部15のマイクロコンピュータのCPUがメモリに予
めプログラムされた所定のアルゴリズムにて算出する算出する演算手段と、を備える構成
となっている。
【0024】
上記同感度の2つのジャイロセンサ2A、2Bは、従来技術で説明された圧電セラミッ
ク素子からなるジャイロセンサ、或いはガスレートジャイロセンサや光ファイバジャイロ
が適用される。ここで感度[mV/(deg/sec)]は、ジャイロセンサがある角速度[deg/sec]で回転したときに出力電圧がどれくらい変化[mV]するかを示すものです。
【0025】
上記センサ出力回路9は、例えば図3のようなジャイロセンサ2A、2Bの振動部に振
動を与える発振回路4、ジャイロセンサ2A、2Bの歪み電圧を増幅する歪み検出アンプ
6、検波して歪みで発生する微弱な電気信号を取り出す同期検波回路5、ノイズを除去す
るローパスフィルタ7、DCアンプ8で構成されている。
【0026】
図2に示されるような本発明に特徴的なジャイロセンサ2A、2Bの配置構成では、移
動体1の左右の傾き(ロール角)θが簡単に算出できるという利点がある。
【0027】
以下、特性が同じ2つのジャイロセンサ2A、2Bをそれぞれ同じ角度θ1=θ2=θ
0だけ互いに反対側に傾けた状態で設置して、それぞれのジャイロセンサ2A、2Bの出
力を処理する場合について演算のアルゴリズムを説明する。
【0028】
図2のジャイロセンサの設置の概略図では、図4の移動体1におけるXYZの直交座標
を考えて、Y軸方向を移動体1の進行方向、X軸方向を上下(垂直)方向、Z軸方向を進
行方向に対して90°横方向とすると、図2はXZ面を表す図となり、ジャイロセンサ2
A、2Bの各傾きθ1、θ2はXZ面でのX軸に対する傾き角度(固定角)を示している
。また、XY面(進行方向に対して横から見たときの状態)では、ジャイロセンサはX軸
に対して傾き0で設置されている。
【0029】
移動体1が旋回して2つのジャイロセンサ2Aとジャイロセンサ2Bとが移動体ととも
にそれぞれ垂直軸に対してロール角θだけ傾き、旋回角速度ωが生じたときに前記ジャイ
ロセンサ2Aとジャイロセンサ2Bが出力するセンサ出力回路9のセンサ出力電圧の変化
xl、x2は、各ジャイロセンサの固定角をθ1、θ2として下式のように表される。
【0030】
【数6】

【0031】
【数7】


上式[数6]、[数7]とθ1=θ2(=θ0)からロール角θは下式[数8]になる。
【0032】
【数8】


また、同様に旋回角速度ωは、下式[数9]になる。
【0033】
【数9】


以上から、式[数8]でロール角θが、式[数9]で旋回角速度ωがセンサ出力電圧の
変化xl、x2から簡単に求められることが判る。
【0034】
以上の演算処理のアルゴリズムは予めマイクロコンピュータのROMなどのメモリに記
憶したプログラムにて機能されるCPUの演算処理で実現される。
【0035】
これにより、移動体の傾き(ロール角θ)と旋回角速度ωを検出できるようになり、精
度の高い慣性測位システムが構築可能になることは明らかである。
【0036】
また、2つのジャイロセンサを傾き専用或いは旋回専用として別個に使用しておらず、
各ジャイロセンサが傾きの情報と旋回の情報を出力することになり、また、同感度で、同
じ傾きの角度で対称に取り付けられているという特徴のため、ジャイロセンサ出力の処理
(フィルタリング、補正など)の学習機能の構築が簡単にできるという利点がある。
【0037】
なお、付言すれば、本発明は四輪自動車にも適用できるが、旋回時にロール角が大きく
なる自動二輪車に特に有効である。また、旋回時のロール角が大きい水上バイク、モータ
ボートなどに対するナビゲーション装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るナビゲーション装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るナビゲーション装置の旋回角速度検知・算出手段の2つのジャイロセンサの取り付け状態を示す図である。
【図3】ナビゲーション装置のジャイロセンサのセンサ出力回路のブロック図である。
【図4】移動体(自動車の例)の動作方向を示す斜視図である。
【図5】ジャイロセンサの原理を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1 移動体
2A、2B ジャイロセンサ
3a、3b 圧電セラミックス素子
4 発振回路
5 同期検波回路
6 歪み検出アンプ
7 ローパスフィルタ
8 DCアンプ
9 センサ出力回路
10 ナビゲーション装置
11 GPS受信機
12 地図データベース
13 表示部
14 操作部
15 制御部
16 車速センサ
17 地磁気センサ
18 旋回角速度検知・算出手段
x,y 出力変化分
θ1、θ2、θ0 所定角度(固定角)
θ ロール角
ω 旋回角速度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設置されるとともにジャイロセンサによって前記移動体の旋回角速度を検知・算
出する旋回角速度検知・算出手段を備えるナビゲーション装置において、
前記旋回角速度検知・算出手段は、前記移動体の正立状態における上下方向及び前後方向
に対して左右方向において、前記上下方向の軸に対して互いに逆方向に同一角度傾けて左
右対称に設置された同感度の2つのジャイロセンサと、前記2つのジャイロセンサのセン
サ出力回路と、前記センサ出力回路の出力信号の変化から前記移動体の旋回角速度を算出
する演算手段と、を備えることを特徴とするナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−126178(P2006−126178A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279488(P2005−279488)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】