説明

ニッケル−銅合金粉末およびその製法、導体ペースト、ならびに電子部品

【課題】 超微粒のニッケル−銅合金粉末と、このような超微粒の合金粉末を大量に生産するための製法を提供することを目的とするものであり、また、こうして得られた超微粒のニッケル−銅合金粉末を導体ペーストに用いて、絶縁体の表面に薄層の導体膜を有し、デラミネーション等の発生を抑制できる電子部品を提供する。
【解決手段】 ニッケルと銅とを含む合金粉末であって、平均粒径が5〜30nmであり、X線回折パターンにおいて、前記ニッケルと前記銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、前記ニッケルの酸化物の主ピークおよび前記銅の酸化物の主ピークのうちの強い方の回折強度が、前記ニッケルと前記銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度の10%以下である合金粉末を得、次いで、この合金粉末から導体ペーストを調製し、絶縁体の表面に前記導体ペーストを印刷して焼結体とする電子部品を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒のニッケル−銅合金粉末とその製法、および、この合金粉末を用いた導体ペースト、並びに、その導体ペーストを用いて形成される導体膜を備えた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化および薄型化に伴い、積層セラミックコンデンサ、インダクタおよびICパッケージなどの電子部品は、これらを構成する誘電体層などの絶縁体の薄層化および多層化が図られている。この場合、絶縁体の薄層化に伴って、その表面に形成される導体膜との厚み差が小さくなってきていることから、導体膜の厚みによる段差に起因して絶縁体と導体膜との間でデラミネーション等の不良が発生しやすくなってきている。そのため絶縁体の表面に設けられる導体膜についても薄層化の要求が高まっており、以下に示すように、大量生産に適した液相法を用いた微粒の卑金属粉末の製法が提案されている。
【0003】
例えば、出発原料として水酸化ニッケルを用い、これにアルカリ土類金属の酸化物を混合し、水素還元雰囲気中にて、800℃以上の温度に加熱することにより、1粒子の最大投影直径が500〜3000nmで、厚みが50〜900nmの扁平な形状のニッケル粉末を得る技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、出発原料として塩化ニッケルを用い、これにチタンイソプロポキシド、水酸化バリウムおよび水酸化ナトリウムを加え、これらをイオン交換水に溶解させて、60℃にて、1時間放置することにより、粒子径100nmのニッケルを主成分とする卑金属粉末を得る技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、出発原料として、水酸化ニッケルにパラジウムなどの貴金属を添加し、これをエチレングリコール溶液中に投入して加熱して還元することにより、平均粒径が20〜100nmで、かつ粒径のばらつきの小さいニッケル粉末を得る技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
一方、銅については、平均粒径が1〜100μmの微粉末を得る手法として、酢酸を含む水溶液中で銅化合物をヒドラジンで還元する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平11−152505号公報
【特許文献2】特開2003−129106号公報
【特許文献3】特開2006−336060号公報
【特許文献4】特開平6−10014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまで平均粒径が30nm以下で、かつ高純度のニッケルと銅とを含む合金粉末、および、このような超微粒で高純度の合金粉末を製造する方法については何ら知られていない。
【0008】
従って本発明は、超微粒のニッケル−銅合金粉末と、このような超微粒の合金粉末を大量に生産するための製法を提供することを目的とするものであり、また、こうして得られた超微粒のニッケル−銅合金粉末を導体ペーストに用いて、絶縁体の表面に薄層の導体膜を有し、デラミネーション等の発生を抑制できる電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のニッケル−銅合金粉末は、ニッケルと銅とを99質量%以上含有する合金粉末であって、平均粒径が5〜30nmであり、X線回折パターンにおいて、前記ニッケルと前記銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、前記ニッケルの酸化物の主ピークおよび前記銅の酸化物の主ピークのうちの最も強い回折強度の割合が、前記ニッケルと前記銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度の10%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、そのニッケル−銅合金粉末の平均粒径が7〜10nmであることが望ましい。
【0011】
また、本発明のニッケル−銅合金粉末の製法は、(a)ニッケルおよび銅の硝酸塩と、オレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムとを、水および該水よりも極性の低い溶媒との混合溶媒中に溶解してニッケルおよび銅を含有する溶液を調製する工程と、(b)該溶液から、前記ニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を得る工程と、(c)前記ニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を、還元雰囲気中にて、250〜400℃の温度で加熱する工程とを具備することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のニッケル−銅合金粉末の製法では、前記水よりも極性の低い溶媒として、ヘキサンおよびエタノールを用いることが望ましい。
【0013】
また、本発明の導体ペーストは、上記ニッケル−銅合金粉末と有機ビヒクルとを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の電子部品は、絶縁体と該絶縁体の表面に設けられた上記導体ペーストを焼成して形成された導体膜とを具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のニッケル−銅合金粉末および導体ペーストによれば、極めて薄い導体膜を形成できる。このため絶縁体と導体膜とが多層に積層された電子部品においてデラミネーション等の発生を抑制できる。
【0016】
また、本発明のニッケル−銅合金粉末の製法によれば、極めて薄い導体膜を形成することが可能な超微粒で高純度のニッケル−銅合金粉末を大量生産の工程で容易に得ることができる。
【0017】
本発明の電子部品によれば、さらなる小型化および薄型化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明のニッケル−銅合金粉末の一例を示す電子顕微鏡写真である。本発明のニッケル−銅合金粉末(以下、合金粉末という)は、ニッケルと銅とを99質量%以上含むものである。この場合、ニッケルと銅とは全率固溶を示す任意の組成を有するものであり、このためニッケルの融点(1453℃)と銅の融点(1083℃)との間で融点を任意に変化させることが可能となる。
【0019】
この場合、絶縁体としてチタン酸バリウムを主成分とする材料を用いる場合にはニッケルの含有量が50質量%以上、特に70質量%以上であるものを用いるのが望ましく、一方、絶縁体に微粒の原料粉末を用いるかまたは多くのガラス成分等の焼結助剤を含み1000℃以下の温度での焼成を必要とする場合銅の含有量が50質量%よりも多いことが望ましい。こうして微粒の誘電体粉末などを用いた場合や焼結助剤等の添加量により焼成温度が変化した場合においても、設定される焼成温度に合わせた合金組成で焼成することが可能になる。また、ニッケルの含有量が50モル%よりも少ないニッケル−銅合金は透磁率を低くできることから高周波部品用の導体膜としても有用となる。
【0020】
本発明の合金粉末は不可避不純物を除き、元素としてニッケルと銅とを合計で99質量%以上含有するものであり、これによりニッケルと銅との合金において立方最密構造の割合の多い合金粉末を得ることができる。一方、合金粉末中のニッケルおよび銅の含有量が99質量%よりも少ない場合には、異相が生成しやすくなるためニッケル−銅の立方最密構造の割合が低下するため焼結時に凝集等が起こりやすく、絶縁体との積層体を形成した場合にデラミネーションが発生しやすくなるおそれがある。
【0021】
なお、合金粉末中に含まれるニッケルおよび銅の合計の含有量はそれぞれの標準液を用いてICP(Inductively coupled Plasma)発光分光分析により求める。
【0022】
また、ニッケルと銅との合金はニッケルのみの場合または銅のみの場合に比較して耐酸化性が増すことから、例えば、大気中など酸素濃度の高い雰囲気で脱脂する温度を高められることから、これによっても積層型の電子部品におけるデラミネーションを抑制できるという利点がある。
【0023】
さらに、ニッケルおよび銅は、金、銀、パラジウムおよび白金などの貴金属に比較して安価であることから、内部電極層が多層化された積層型の電子部品を構成する導体膜に適用した場合に製造コストを低減できるという利点がある。
【0024】
本発明の合金粉末は平均粒径が5〜30nmである。合金粉末の平均粒径が5nm以上であると結晶性が高くなり、不均一な反応が抑えられ加熱時の凝集を抑制できる。合金粉末の平均粒径が30nm以下であると、誘電体層等の絶縁体の表面に、きわめて薄い導体膜を形成できることから導体膜による段差を低減でき、このため絶縁体と導体膜とが多層に積層された電子部品においてデラミネーション等の発生を抑制できる。
【0025】
そして、より好ましい合金粉末の平均粒径としては7〜10nmが良い。合金粉末の平均粒径がこの範囲であると合金粉末の反応性をより安定化できることから凝集が抑制され薄層化が容易になり、デラミネーションの発生をさらに低減することが可能になる。
【0026】
これに対して、平均粒径が5nmよりも小さいと結晶性が低くなり、立方最密構造の割合が低下し、さらには、合金粉末の形状が不揃いになりやすいことから不均一な反応が起こりやすく、このため凝集しやくなり、その結果、導体膜を薄層化することが困難となる。
【0027】
合金粉末の平均粒径が30nmよりも大きい場合には、誘電体層等の絶縁体の表面に薄層の導体膜を形成することが困難となり、このため絶縁体と導体膜とが多層に積層された電子部品において、導体膜の厚みによる段差が大きくなり、デラミネーション等の不良が発生しやすくなる。
【0028】
なお、本発明において、合金粉末の平均粒径とは、この合金粉末を構成する個々の粒子を複数個集めたときの各粒子径の平均値のことである。この場合、合金粉末の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いて合金粉末の写真を撮り、その写真上で粒子が約30個入る円を描き、円内および円周にかかった粒子を選択し、各粒子の輪郭を画像処理し、各粒子を円と見立てて円相当径を算出し、その平均値より求める。
【0029】
図2は、本発明の合金粉末のX線回折パターンの例である。図2に示すX線回折パターンのうち(a)は、実施例における試料No.3の加熱温度が300℃の場合、(b)は、実施例における試料No.6の加熱温度が400℃の場合である。図2の(a)のX線回折パターンでは、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、ニッケルの酸化物の主ピークおよび銅の酸化物の主ピークのうちの最も強い回折強度を示したものはニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金であったため、この六方最密構造(hcp)のピークを選択して、立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークに対する割合を求めたものである。図2の(b)のX線回折パターンについては、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、ニッケルの酸化物の主ピークおよび銅の酸化物の主ピークのうちの最も強い回折強度を示したものは銅の酸化物であったため、この銅の酸化物の主ピークを選択して、立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークに対する割合を求めたものである。
【0030】
本発明の合金粉末は、X線回折パターンにおいて、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、ニッケルの酸化物の主ピークおよび銅の酸化物の主ピークのうちの最も強い回折強度の割合が、ニッケルと銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度の10%以下である。
【0031】
本発明の合金粉末は、上述のような平均粒径を有していても、金属として高い最密充填構造を有する立方最密構造の割合が多いために、金属のすべり面が現れやすいことから展性や延性に富み、かつ導電性の高いものを得ることができる。
【0032】
この場合、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、ニッケルの酸化物の主ピークおよび銅の酸化物の主ピークのうちの最も強い回折強度の割合がニッケルと銅とからなる立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度の5%以下であることがより望ましく、これによりニッケル−銅合金粉末の焼結体中における異相の生成を抑制でき、これにより展性や延性および導電性を高めることが可能になる。
【0033】
これに対して、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、ニッケルの酸化物の主ピークおよび銅の酸化物の主ピークのうちの最も強い回折強度の割合が、ニッケルと銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度に対して10%よりも高い場合には展性や延性および高い導電率を得ることが困難となる。
【0034】
次に、本発明のニッケル−銅合金粉末(以下、合金粉末という)の製法について説明する。
【0035】
(a)工程では、ガラス製容器に、それぞれ純度が99%以上(質量比)のニッケルおよび銅の硝酸塩と、オレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムとを入れ、さらに水および水よりも極性の低い2種の溶媒とを加えて、これら3種の混合溶媒中にニッケルおよび銅の成分が溶解したニッケル−銅を含有する溶液を調製する。
【0036】
本発明ではニッケルおよび銅の硝酸塩として硝酸ニッケルおよび硝酸銅を用いる。これらの硝酸塩は水和物であっても良いが、高純度の合金粉末が得られるという理由から、用いる硝酸塩の純度は99%以上であることが好ましい。
【0037】
また、添加剤として、オレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムを、硝酸塩100質量部に対して5〜20質量部添加する。オレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムの添加量が上記範囲であると、反応終了後に生成するニッケルおよび銅を含む前駆体の凝集を抑制できるとともに、前駆体を構成する有機物の分解反応を促進でき、微粒の合金粉末が得られるという利点がある。
【0038】
また、本発明の合金粉末の製法では、上記ニッケルおよび銅を含む硝酸塩を溶解させ、かつ反応終了後にこれらの金属成分を含む前駆体を形成するための溶媒として、水と、水よりも極性の低い2種の溶媒を用いる。
【0039】
第1の溶媒である水(極性:21)はイオン交換水を用いるのが良い。水よりも極性の低い溶媒である第2の溶媒としては、ブチルアルコール(極性:10.7)、ヘキサン(極性:7.3)およびオクタン(極性:7.0)から選ばれる1種の溶媒を用いることが好ましい。なお、溶媒の極性とは、成分原子の電気陰性度の違いのために電子雲の分布が偏り、正負の電荷の重心が一致しないで双極子が形成された状態を表す量であり、溶媒のモル蒸発エネルギーを1モル当たりの体積で除した値の平方根で表される値である。
【0040】
また、水よりも極性の低い第3の溶媒としては、水と第2の溶媒との中間の極性を持つ溶媒を選択するのがよく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコールおよびプロピルアルコールから選ばれる1種の溶媒をもちいることが好ましい。
【0041】
本発明の合金粉末の製法において、極性の異なる3種の溶媒を用いるのは以下の理由からである。第1の溶媒として、極性の高い水を溶媒として用いるのはニッケルおよび銅を含む硝酸塩を溶解し易く、また、後述のオレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムに含まれるナトリウム成分を水に溶解させておくことができるからである。第2の溶媒として水よりも極性の低いブチルアルコール、ヘキサンおよびオクタンから選ばれる1種の溶媒を用いるのは、上述のオレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムが溶解しやすく、またオレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムを核として形成されるニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体が形成されすいからである。
【0042】
さらに、水と第2の溶媒との中間の極性を有する第3の溶媒を用いるのは、第1の溶媒である水と第2の溶媒であるメチルアルコール(極性:12.9)、エチルアルコール(極性:11.2)およびプロピルアルコール(極性:11.5)から選ばれる1種の溶媒とを分離することなく均一に混合するためであり、これにより、水に溶解しやすいニッケルおよび銅の硝酸塩と第2の溶媒に溶解しやすいオレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムとを均一に混合することが可能になる。
【0043】
図3は、本発明の合金粉末の製法における(b)工程において、生成するオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体が溶液中で分離した状態を示す模式図である。
【0044】
(b)工程では、ニッケルおよび銅を含有する溶液を放置して、これらの金属成分を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を得る。ニッケルおよび銅を含有する溶液を放置することにより、この金属含有溶液は、水と、ブチルアルコール、ヘキサンおよびオクタンから選ばれる1種の溶媒との間で分離していき、生成するオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体が第2の溶媒中に生成する。このときオレイン酸の前駆体およびマレイン酸の前駆体は重合体となっている。
【0045】
ニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を放置するときの条件は、ニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体の収率を高めるとともに、これらの前駆体の加熱による分解性を高めるという理由から、温度10〜50℃にて1〜48時間が好ましい。
【0046】
次に、ガラス製容器の排出口を開けて分離した下層側の溶液を排出させて、ニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を含む第2の溶媒のみを抽出する。この後、ニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を含む溶液から溶媒を乾燥させてニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を得る。この後、水洗を行いアルカリ成分などのイオンを除去し、さらにエチルアルコールとヘキサンとの混合溶液を用いて除くことのできる有機成分を除去する。
【0047】
次に、(c)工程では、得られたニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を還元雰囲気(N/5%H)中にて250〜400℃の温度で加熱する。加熱する温度が250℃よりも低くなると、オレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体の分解反応が促進されず前駆体が残留しやすくなる。一方、加熱する温度が400℃よりも高い場合には、オレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体の分解反応が進み、残留する前駆体の量は少なくなるものの、得られる合金粉末が粒成長するため、超微粒の合金粉末を得ることが困難となる。この場合、得られる合金粉末において、立方最密構造の割合が高く、平均粒径を7〜10nmにできるという点で、加熱する温度は270〜370℃がより好ましい。
【0048】
上述したように、本発明の合金粉末の製法は、超微粒の合金粉末を得ることができるものであるが、この製法はニッケルおよび銅に限らず、コバルト,亜鉛,クロム,バナジウム,ニオブ,モリブデン,タングステン,チタン,ジルコニウムおよび鉄等の他の元素を主成分とする金属粉末ならびにこれらの合金粉末にも適用できるものである。
【0049】
次に、本発明の合金粉末を用いて得られる導体ペーストについて説明する。本発明の導体ペーストは上記の合金粉末と有機ビヒクルとを含むものである。このとき、必要に応じて、導体ペースト本来の導電性(低抵抗率)、半田耐熱性、接着強度等を著しく損なわない限りにおいて種々の無機添加剤を副成分として含ませることができる。有機ビヒクルとしては、例えば、エチルセルロース等のセルロース系高分子、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ブチルカルビトール、ターピネオール等の有機溶媒が挙げられる。また、無機添加剤としては、ガラス粉末、無機酸化物、その他種々のフィラー等が挙げられる。この場合、無機添加剤は平均粒径が合金粉末と同等かもしくはそれ以下の平均粒径を有するものが好ましい。
【0050】
導体ペーストを調製する場合には、例えば、三本ロールミルその他の混練機を用いて、合金粉末および各種添加剤を有機ビヒクルとともに所定の配合比で直接混合し、相互に練り合わせる。
【0051】
導体ペースト中の合金粉末の含有量は、特に限定するものではないが、好ましくは、主成分たる合金粉末の含有率がペースト全体の60〜95質量%となるように各材料を混練するのがよい。
【0052】
導体ペーストの調製に用いられる有機ビヒクルの添加量は、ペースト全体のほぼ1〜40質量%となる量が適当であり、1〜20質量%となる量が特に好ましい。また、無機添加剤としてガラス粉末やセラミック粉末を加える場合には、合金粉末100質量部に対して5質量部以下の割合で添加するのが好ましい。
【0053】
図4は、本発明の電子部品の一例として積層セラミックコンデンサを示す断面模式図である。本発明の導体ペーストを用いて、以下のようなコンデンサを形成できる。
【0054】
本発明における積層セラミックコンデンサはコンデンサ本体1の端部に外部電極2が設けられている。コンデンサ本体1は、絶縁体である誘電体層3(絶縁体3)と導体膜である内部電極層4とが交互に積層され構成されている。ここでの内部電極層4(導体膜4)は上述した本発明の導体ペーストによって形成されるものであり、その厚みは100nm以下、特に、50nm以下であることが望ましい。この場合、誘電体層3の厚みは絶縁性を確保できる厚みとして0.3μm以上、一方、電子部品の小型化に、より有利な厚みとして1μm以下である範囲が好ましい。これにより本発明の合金粉末を用いて得られる電子部品を薄型にでき、導体膜による段差を低減でき、これによりデラミネーションなどの発生を抑制することが可能になる。
【0055】
次に、本発明の導体ペーストを用いて得られる電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの製造方法について以下に説明する。
【0056】
まず、上述の導体ペーストを、焼成後に絶縁体となるセラミックグリーンシート上に印刷し、焼成後に導体膜となる導体パターンを形成する。このとき導体パターンの乾燥後の厚みは100nm以下、特に、50nm以下が好ましい。次いで、上述の導体パターンが形成されたセラミックグリーンシートを複数層積層し、加圧加熱して一体化させて母体積層体を形成する。
【0057】
次に、得られた母体積層体を所定の寸法に切断し、焼成後にコンデンサ本体となる生の状態の積層体を得る。次に、この生の積層体を、大気中もしくは窒素雰囲気中にて脱脂した後、水素−窒素の混合ガスの還元雰囲気中にて1000〜1300℃の範囲で1〜5時間の条件で焼成する。なお、必要に応じて、焼成温度よりも低い温度(900〜1100℃)にて再加熱して酸化処理を行ってもよい。こうして絶縁体である誘電体層3と導体膜である内部電極層4とが交互に積層され一体化されたコンデンサ本体1が得られる。次に、このコンデンサ本体1の対向する端部に、外部電極ペーストを塗布して焼付けを行い外部電極2が形成される。また、この外部電極2の表面には実装性を高めるためにメッキ膜が形成される。
【実施例】
【0058】
まず、金属源として、純度が99.1%の硝酸ニッケル(Ni(NO)および純度が99.2%の硝酸銅(Cu(NOを準備し、これら硝酸ニッケルおよび硝酸銅を表1に示す割合になるように加え、さらに各種溶媒および添加剤をガラス製容器に投入し、室温(25℃)にて混合して、ニッケルおよび銅を含有する溶液を調製した。これらの混合割合は、金属源としての硝酸塩100質量部に対して、添加剤を10質量部とし、これに第1の溶媒としてイオン交換水を用い、表1に示した第2の溶媒および第3の溶媒の添加量はそれぞれ300質量部とした。その後、35℃で、5時間放置して、ニッケルおよび銅を含む溶液を上下2層に分離させて、上部側の溶液中にオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を形成した。
【0059】
次に、ガラス製容器の下部側の排出口を開けて容器の下層側の溶媒を排出し、次いで、オレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を含む溶液からデカンテーションにより溶媒を排出してオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を得た。この後、水洗を行いアルカリ成分などのイオンを除去し、さらにエチルアルコールとヘキサンとの混合溶液を用いて有機成分を除去した。
【0060】
次に、得られたオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を石英の容器に入れ、これを加熱炉内に置き、N−5%Hの混合ガスを供給して、表1に示す温度に加熱して、前駆体を分解させて超微粒の合金粉末を得た。そして、得られた合金粉末の平均粒径、結晶構造、および異相の割合を求めた。
【0061】
得られた合金粉末の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いて合金粉末の写真を撮り、その写真上で粒子が約30個入る円を描き、円内および円周にかかった粒子を選択し、各粒子の輪郭を画像処理し、各粒子を円と見立てて円相当径を算出し、その平均値より求めた。
【0062】
合金粉末について、ニッケルと銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピーク(111)のX線回折強度に対する、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク(111)、ニッケルの酸化物の主ピーク、銅の酸化物の主ピークのうちの最も強いX線回折強度の割合は、X線回折装置(Cukα)を用いて、2θ=30〜80°の範囲にて回折し、X線回折装置から出力される回折強度値を比較して求めた。
【0063】
次に、上記した合金粉末を用いて導体ペーストを調製し、この導体ペーストを内部電極用のペーストに用いて積層セラミックコンデンサを作製した。まず、上記合金属粉末40質量%、エチルセルロース5.5質量%とα−テルピネオール94.5重量%からなるビヒクル55質量%を3本ロールミルで混練して導体ペーストを作製した。
【0064】
次に、ニッケルの含有量が50モル%以上の組成の合金粉末およびニッケルの含有量が50モル%よりも低い組成の合金粉末にそれぞれ適用させる絶縁体を用意した。導体膜にニッケルの含有量が50モル%以上の組成の合金粉末を用いる場合は、BaTiO 97.5モル%とCaZrO 2.0モル%とMnO0.5モル%とからなる主成分100モル部に対して、Yを0.5モル部添加した組成とした。ニッケルの含有量が50モル%よりも低い組成の合金粉末を用いる場合は、上記組成100質量部に対してホウ珪酸ガラス粉末(SiO:50モル%,Al:5モル%,MgO:30モル%,B:10モル%,CaO:5モル%)を60質量部の割合で加えて、それぞれセラミックスラリを調製し、次いで、これらのセラミックスラリをポリエステルの合成樹脂より成る帯状のキャリアフィルム上に、ダイコータ法で成膜し、乾燥させることにより厚みが0.6μmのセラミックグリーンシートを得た。
【0065】
次に、セラミックグリーンシートをキャリアフィルムから剥離し、縦200mm、横200mmのサイズに打ち抜き、次いで、得られたセラミックグリーンシートの一方主面に、グラビア印刷装置を用いて、上記した導体ペーストを印刷して、印刷厚みで20〜150nmになるように導体パターンを形成した。印刷後の導体パターンの厚みは用いた合金粉末の平均粒径の10倍以下の厚みを設定した。
【0066】
次に、導体パターンが形成されたセラミックグリーンシートを360枚積層し、その上下面に導体パターンを印刷していないセラミックグリーンシートをそれぞれ20枚積層し、プレス機を用いて温度60℃、圧力10Pa、時間10分の条件で一括積層し、所定の寸法に切断し、生の積層体を得た。
【0067】
次に、生の積層体を、大気中にて400℃までの温度範囲で脱脂を行い、還元雰囲気中にて焼成した。導体膜を、ニッケルの含有量が50モル%以上の組成の合金粉末を含む導体ペーストで形成する場合には1250℃で、ニッケルが50モル%よりも低い組成の合金粉末を含む導体ペーストで形成する場合には920℃でそれぞれ2時間焼成してコンデンサ本体を得た。
【0068】
このようにして得られたコンデンサ本体の外形寸法は、長さ3.2mm、幅1.6mm、厚さ1.0mmであり、内部電極層間に介在する誘電体層の厚みは0.4μmであった。
また、誘電体層の一層当たりの対向内部電極層の有効面積は2.1mmであった。
【0069】
上述のようにして得られたコンデンサ本体を、各試料100個ずつ樹脂で固めて研磨し、倍率400倍の金属顕微鏡観察を行いデラミネーションの有無を検査した。
【0070】
なお、作製した合金粉末中のニッケルおよび銅の合計の含有量は、それぞれの標準液を用いてICP(Inductively coupled Plasma)発光分光分析により求めた。表1に結果を示した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の結果から明らかなように、本発明の製法により得られた合金粉末は、平均粒径が5〜30nmであり、X線回折パターンにおいて、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、ニッケルの酸化物の主ピークおよび銅の酸化物の主ピークのうちの強い方の回折強度が、ニッケルと銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度の10%以下であった。また、このような超微粒の合金粉末を用いて作製した積層セラミックコンデンサでは内部電極層の周囲に段差解消用のセラミックパターンを形成しなくても360層の積層体においてもデラミネーションの発生数が100個中1個以下であった。
【0073】
特に、本発明の合金粉末の製法により得られたオレイン酸の前駆体およびマレイン酸前駆体を300〜350℃とした試料は、合金粉末の平均粒径が10nm以下であり、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、ニッケルの酸化物の主ピークおよび銅の酸化物の主ピークのうちの強い方の回折強度が、ニッケルと銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度の7%以下であり、また、360層の積層体においてもデラミネーションの発生が無かった。本発明の製法により作製した合金粉末に含まれるニッケルおよび銅の含有量は、いずれの試料も99.1%であった。
【0074】
これに対して、オレイン酸の前駆体およびマレイン酸の前駆体を200℃で加熱したものは前駆体の残留があり、また、230℃の加熱においても、ニッケルと銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、ニッケルの酸化物の主ピークおよび銅の酸化物の主ピークのうちの強い方の回折強度が、ニッケルと銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度の17%以上であった。また、加熱の温度を400℃よりも高くした場合には合金粉末の平均粒径が30nmを遙かに越えるものとなり、評価したコンデンサ本体においてデラミネーションの発生割合が100個中10個もあった。なお、試料No.3の条件にて合金粉末を作製する際に、中間の生成物であるオレイン酸の前駆体の水洗を行わずに合金粉末を調製し、この合金粉末を用いて試料No.3の合金粉末と同様の条件でコンデンサ本体を作製した試料ではデラミネーションの発生割合が100個中15個であった。この合金粉末におけるニッケルおよび銅の含有量は98.8質量%であった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のニッケル−銅合金粉末の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の合金粉末のX線回折パターンの例である。
【図3】本発明のニッケル−銅合金粉末の製法における(b)工程において、生成するオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体が溶液中で分離した状態を示す模式図である。
【図4】本発明の電子部品の一例として積層セラミックコンデンサを示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1 コンデンサ本体
2 外部電極
3 誘電体層(絶縁体)
4 内部電極層(導体膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルと銅とを99質量%以上含有する合金粉末であって、平均粒径が5〜30nmであり、X線回折パターンにおいて、前記ニッケルと前記銅とからなり六方最密構造(hcp)を有する合金の主ピーク、前記ニッケルの酸化物の主ピークおよび前記銅の酸化物の主ピークのうちの最も強い回折強度の割合が、前記ニッケルと前記銅とからなり立方最密構造(ccp)を有する合金の主ピークの回折強度の10%以下であることを特徴とするニッケル−銅合金粉末。
【請求項2】
平均粒径が7〜10nmであることを特徴とする請求項1に記載のニッケル−銅合金粉末。
【請求項3】
(a)ニッケルおよび銅の硝酸塩と、オレイン酸ナトリウムまたはマレイン酸ナトリウムとを、水および該水よりも極性の低い溶媒との混合溶媒中に溶解してニッケルおよび銅を含有する溶液を調製する工程と、
(b)該溶液から、前記ニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を得る工程と、
(c)前記ニッケルおよび銅を含むオレイン酸の前駆体またはマレイン酸の前駆体を、還元雰囲気中にて、250〜400℃の温度で加熱する工程と、
を具備することを特徴とするニッケル−銅合金粉末の製法。
【請求項4】
前記水よりも極性の低い溶媒として、ヘキサンおよびエタノールを用いることを特徴とする請求項3に記載のニッケル−銅合金粉末の製法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のニッケル−銅合金粉末と有機ビヒクルとを含むことを特徴とする導体ペースト。
【請求項6】
絶縁体と該絶縁体の表面に設けられた請求項5に記載の導体ペーストを焼成して形成された導体膜とを具備していることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−77501(P2010−77501A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247505(P2008−247505)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】