説明

ニトリドシリケート系化合物の製造方法、及びニトリドシリケート蛍光体とそれを用いた発光装置

【課題】高品質のニトリドシリケート系化合物を、安価に工業生産する。
【解決手段】加熱によってアルカリ土類金属酸化物を生成しうるアルカリ土類金属化合物、又は、加熱によって希土類酸化物を生成しうる希土類化合物を、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって還元及び窒化しながら、前記アルカリ土類金属化合物又は前記希土類化合物を、少なくとも珪素化合物と反応させてニトリドシリケート系化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス材料や蛍光体材料等として応用可能なニトリドシリケート系化合物(例えば、ニトリドシリケート、オクソニトリドシリケート、ニトリドアルミノシリケート、オクソニトリドアルミノシリケートなどの、少なくともアルカリ土類金属元素又は希土類元素と、珪素元素と、窒素元素とを含む化合物)の製造方法、及びニトリドシリケート蛍光体とそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、少なくとも、(1)アルカリ土類金属元素M(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、Baの中から選ばれる少なくとも一つの元素)と、(2)珪素と、(3)窒素とを主要構成元素として含むニトリドシリケート系化合物、及び、少なくとも、(1)希土類元素Ln(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57〜71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素)と、(2)珪素と、(3)窒素とを主要構成元素として含むニトリドシリケート系化合物が知られている。
【0003】
上記ニトリドシリケート系化合物の一例としては、Sr2Si58、Ba2Si58(下記特許文献1〜3、非特許文献1参照。)、BaSi710(下記特許文献1〜3参照。)、SrSiAl232、Sr2Si4AlON7、La3Si611(下記特許文献4参照。)、Eu2Si58、EuYbSi47(下記非特許文献2参照。)、(Ba,Eu)2Si58(下記非特許文献3参照。)、Ce4(Si446)O、Sr3Ce10Si18Al121836(下記非特許文献4参照。)、CaSiN2(下記非特許文献5参照。)などであり、本明細書では、一般式Mp/2Si12-p-qAlp+qq16-q(但し、MはCa単独又はSrと組み合わせたCa、qは0〜2.5、pは1.5〜3)で表されるサイアロン(下記特許文献5参照。)を除くものとしている。
【0004】
なお、上記CaSiN2は、Eu2+イオンを発光中心として付活することによって、630nm付近に発光ピークを有する赤色光を放つCaSiN2:Eu2+蛍光体となることが知られている。この蛍光体の励起スペクトルは370nm付近にピークを有し、440nm以上500nm未満の青色光の励起では強度の強い赤色光を放つことはないものの、330〜420nmの近紫外光励起では、出力の強い赤色光を放つことも知られている。このため、近紫外光を放つ発光素子を励起源とする発光装置への応用が有望視されている(下記非特許文献5参照。)。
【0005】
また、上記ニトリドシリケート系化合物は、セラミックス材料としての応用だけでなく、蛍光体材料としての応用も可能であり、例えば、Eu2+イオンやCe3+イオンを含有する、上記ニトリドシリケート系化合物は、高効率の蛍光体となることも知られている(下記特許文献1〜6参照。)。
【0006】
さらに、ニトリドシリケート系化合物によって構成される上記高効率蛍光体は、近紫外〜青色光で励起され、青、緑、黄、橙、又は赤の可視光を放つため、LED光源用として適するものであることも知られている(下記特許文献1〜3、非特許文献5参照。)。
【0007】
従来から、このようなニトリドシリケート系化合物の製造には、アルカリ土類金属の供給源として、アルカリ土類金属(金属Ca、金属Sr、金属Baなど)又はアルカリ土類金属の窒化物(Ca32、Sr32、Ba32など)が用いられ、希土類の供給源として、希土類金属(金属La、金属Ce、金属Euなど)が用いられ、アルカリ土類金属や希土類金属を除く還元剤(下記固体炭素など)を用いることのない製造方法が用いられていた(下記特許文献1〜6、非特許文献1〜4参照。)。
【0008】
その一方で、従来から、このような製造方法で製造したニトリドシリケート系化合物の蛍光体を、LED光源などの発光装置に用いることが検討されていた。
【0009】
【特許文献1】特表2003−515655号公報
【特許文献2】特表2003−515665号公報
【特許文献3】特開2002−322474号公報
【特許文献4】特開2003−206481号公報
【特許文献5】特開2003−203504号公報
【特許文献6】特開2003−124527号公報
【非特許文献1】T.Schlieper et al.,Z.anorg.allg.Chem.,第621巻、(1995年)、第1380−1384頁
【非特許文献2】H.Huppertz and W.Schnick,Acta Cryst.,第53巻、(1997年)、第1751−1753頁
【非特許文献3】H.A.Hoppe et al.,J.Phys.Chem.Solids,第61巻、(2000年)、第2001−2006頁
【非特許文献4】W.Schnick,Int.J.Inorg.Mater.,第3巻、(2001年)、第1267−1272頁
【非特許文献5】上田恭太ほか、電気化学会第71回大会学術講演予稿集、(2004年)、第75頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来のニトリドシリケート系化合物の製造方法、とりわけ酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物(例えば、M2Si58、MSi710、M2Si4AlON7、MSiN2(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素)など)、特に、酸素成分を実質的に含まないニトリドシリケート系化合物の製造方法では、化学的に不安定であり発火などの危険性も有り得るアルカリ土類金属や希土類金属、又は、入手が困難で極めて高価かつ大気中での取扱いが困難なアルカリ土類金属や希土類の窒化物を、アルカリ土類金属又は希土類の供給源として用いていたために、以下の課題を抱え、工業生産が著しく難しいという課題があった。
【0011】
(1)大量生産が困難
(2)純度の高い高品質の化合物を再現性良く製造することが困難
(3)安価な化合物の提供が困難
【0012】
なお、従来の製造方法がこのような課題を抱えていたために、従来のニトリドシリケート系化合物は、(1)不純物酸素が多く、純度が低い、(2)このため、例えば、蛍光体の発光性能が低いなど、材料性能が低い、(3)かつ高価である、などの課題があり、例えば、従来のニトリドシリケート系蛍光体を発光源として用いた従来の発光装置には、(1)光束や輝度が低く、(2)高価になる、などの課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、炭素とを含む材料を、窒化性ガス雰囲気中で反応させることを特徴とするニトリドシリケート系化合物の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、加熱によって希土類酸化物LnO又はLn23(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57〜71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、Oは酸素元素)を生成しうる希土類化合物と、珪素化合物と、炭素とを含む材料を、窒化性ガス雰囲気中で反応させることを特徴とするニトリドシリケート系化合物の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の窒化物、希土類金属、及び希土類の窒化物から選ばれる少なくとも一つと、珪素化合物と、炭素とを含む材料を、窒化性ガス雰囲気中で反応させることを特徴とするニトリドシリケート系化合物の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、MSiN2の一般式で表されるニトリドシリケート化合物を蛍光体母体とし、発光中心としてEu2+イオンを含むニトリドシリケート蛍光体であって、前記Mの主成分は、Baであることを特徴とするニトリドシリケート蛍光体である。
【0017】
また、本発明は、上記ニトリドシリケート蛍光体を発光源として用いたことを特徴とする発光装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、化学的に不安定で大気中での取扱いが困難かつ入手が困難で高価な、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の窒化物や、希土類金属又は希土類の窒化物を用いることなく、取扱いや入手が容易で安価なアルカリ土類金属塩や希土類酸化物などをアルカリ土類金属又は希土類の供給源として用いて、ニトリドシリケート系化合物を製造することができ、材料性能の良好なニトリドシリケート系化合物やそれを用いた蛍光体を、再現性良く安価に工業生産することができる。
【0019】
また、本発明は、安価で高性能のニトリドシリケート系化合物やニトリドシリケート系蛍光体を提供するとともに、安価で高性能のニトリドシリケート系化合物の応用製品(LED光源など)を提供することもできる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明のニトリドシリケート系化合物(ニトリドシリケート系蛍光体を含む)の製造方法の一例は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物を、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって還元及び窒化しながら、上記アルカリ土類金属化合物を、少なくとも珪素化合物と反応させるものである。
【0022】
また、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法の他の一例は、加熱によって希土類酸化物LnO又はLn23(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57〜71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素)を生成しうる希土類化合物を、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって還元及び窒化しながら、上記希土類化合物を、少なくとも珪素化合物と反応させるものである。
【0023】
このようにすると、上記ニトリドシリケート系化合物を構成するアルカリ土類金属又は希土類の供給源として、例えば、炭酸塩、蓚酸塩、水酸化物、酸化物などの、安価で取扱いが容易なアルカリ土類金属化合物や希土類化合物を用いることができるようになる。
【0024】
また、ニトリドシリケート系化合物の製造に際して使用する、アルカリ土類金属又は希土類以外の供給材料(炭素、珪素化合物など)や供給ガス(窒素ガスなど)も、比較的入手が容易で取扱いも易しく安価であるので、ニトリドシリケート系化合物を安価に再現性良く提供できるようになる。
【0025】
さらに、還元剤となる炭素との反応によって、積極的に焼成原料を還元し、焼成原料中の酸素成分を一酸化炭素ガス或いは二酸化炭素ガスとして除去できるので、ニトリドシリケート系化合物中の不純物酸素の混入量が低くなり、ニトリドシリケート系化合物の純度が高まり、結果として、さまざまな性能がより高く発揮できる。
【0026】
このような材料性能向上に関する作用効果は、とりわけ、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物、及び希土類金属の原子数を1.5倍した数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物を製造する際に発揮される。特に、酸素成分を含まないニトリドシリケート系化合物(例えば、M2Si58やM2Si58:Eu2+蛍光体、MSiN2やMSiN2:Eu2+蛍光体)の製造において顕著なものとなる。
【0027】
ここで、本発明のニトリドシリケート系化合物は、例えば、ニトリドシリケート、オクソニトリドシリケート、ニトリドアルミノシリケート、オクソニトリドアルミノシリケートなどの、少なくともアルカリ土類金属元素又は希土類元素と、珪素元素と、窒素元素とを含む化合物を意味するが、本明細書では、サイアロン型の結晶構造を有する化合物を除くものとしている。
【0028】
本発明の製造方法は、例えば、還元窒化反応法と呼び得るニトリドシリケート系化合物の製造方法であり、特に、粉末状のニトリドシリケート系化合物の工業生産に適する製造方法である。
【0029】
上記アルカリ土類金属化合物は、上記アルカリ土類金属酸化物MOを生成しうるアルカリ土類金属化合物であれば特に限定されるものではないが、高純度化合物の入手の容易さや大気中での取扱いの容易さ、価格などの面から、好ましくはアルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物の中から選ばれる少なくとも一つのアルカリ土類金属化合物、より好ましくはアルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、水酸化物、特に好ましくはアルカリ土類金属の炭酸塩である。また、純度の高いニトリドシリケート系化合物を得る目的で、好ましいMは、Sr及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素である。
【0030】
上記アルカリ土類金属化合物の性状については特に限定されるものではなく、粉末状、塊状などから適宜選択すればよい。なお、粉末状のニトリドシリケート系化合物を得る目的で好ましい性状は粉末である。
【0031】
上記希土類化合物は、上記希土類酸化物LnO又はLn23のいずれかを生成しうる希土類化合物であれば特に限定されるものではないが、高純度化合物の入手の容易さや大気中での取扱いの容易さ、価格などの面から、好ましくは、希土類の炭酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物の中から選ばれる少なくとも一つの希土類化合物、より好ましくは、希土類の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、水酸化物、特に好ましくは希土類の酸化物である。
【0032】
上記希土類化合物の性状についても特に限定されるものではなく、粉末状、塊状などから適宜選択すればよい。なお、粉末状のニトリドシリケート系化合物を得る目的で好ましい性状は粉末である。
【0033】
また、上記珪素化合物は、上記反応によってニトリドシリケート系化合物を形成し得る珪素化合物であれば特に限定されるものではないが、上記アルカリ土類金属化合物及び希土類化合物の場合と同様の理由で、好ましくは、窒化珪素(Si34)、酸窒化珪素(Si2ON2)、酸化珪素(SiO又はSiO2)、シリコンジイミド(Si(NH)2)、より好ましくは、窒化珪素、シリコンジイミドの中から選ばれる少なくとも一つの珪素化合物、特に好ましくは窒化珪素である。
【0034】
上記珪素化合物の性状についても特に限定されるものではなく、粉末状、塊状などから適宜選択するが、粉末状のニトリドシリケート系化合物を得る目的で好ましい性状は粉末である。
【0035】
なお、本発明の製造方法において、珪素の供給源は珪素単体であってもよい。この場合、窒化性ガス雰囲気中の窒素などと反応して、珪素の窒素化合物(窒化珪素など)を形成し、上記アルカリ土類金属窒化物や上記希土類窒化物と反応させるようにする。この理由で、本発明にあっては、上記珪素化合物は珪素単体も含めるものとする。
【0036】
上記炭素の性状についても特に限定されるものではない。好ましい性状は固体炭素であり、その中でも特に黒鉛(グラファイト)である。しかし、無定形炭素(石炭類、コークス、木炭、ガスカーボンなど)であってもよい。この他にも、例えば、浸炭性ガスである天然ガス、メタン(CH4)、プロパン(C38)、ブタン(C410)などの炭化水素や、一酸化炭素(CO)などの炭素酸化物などを、炭素供給源として用いてもよい。
【0037】
なお、真空雰囲気や例えば不活性ガス雰囲気中などの中性雰囲気中で、炭素質の焼成容器や発熱体を用いた場合、炭素の一部が蒸発することもあるが、このような蒸発炭素を還元剤として用いることも原理上は可能である。
【0038】
上記固体炭素については、その大きさや形状についても特に限定されない。入手の容易さから、好ましい固体炭素の大きさと形状は、1μm以上1cm以下の粉末或いは粒であるが、これ以外の固体炭素であってもよい。粉末状、粒状、塊状、板状、棒状など、様々な形状の固体炭素を用いることができる。固体炭素の純度についても特に限定されるものではない。但し、高品質のニトリドシリケート系化合物を得る目的で、固体炭素の純度は高ければ高いほどよく、例えば純度99%以上、好ましくは純度99.9%以上の高純度炭素を用いる。
【0039】
なお、反応させる上記固体炭素は、発熱体を兼ねるもの(カーボンヒーター)や焼成容器を兼ねるもの(カーボンるつぼ等)であってもよい。還元剤として用いる上記炭素は、ニトリドシリケート系化合物の原料と混合して用いてもよいし、単に接触させるだけでもよい。
【0040】
また、上記窒化性ガスは、窒化反応を起こし得るガスであれば特に限定されるものではないが、高純度ガスの入手の容易さや取扱いの容易さ、価格などの面から、好ましくは、窒素ガス又はアンモニアガスの中から選ばれる少なくとも一種のガス、より好ましくは窒素ガスである。
【0041】
窒化性ガスを含む好ましい反応雰囲気は、単純な設備を利用できる理由で、常圧雰囲気であるが、高圧雰囲気、加圧雰囲気、減圧雰囲気、真空雰囲気のいずれであってもよい。得られる化合物(又は蛍光体)の高性能化を目的とした好ましい反応雰囲気は、高圧雰囲気であり、例えば、2気圧以上100気圧以下、雰囲気の取扱いの面を考慮すると、好ましくは5気圧以上20気圧以下の、窒素ガスを主体にしてなる雰囲気である。このような高圧雰囲気にすると、高温焼成中に生じる化合物(窒化物)の分解を防止又は抑制でき、得られる化合物の組成ずれを抑制して、発揮性能の高い化合物を製造できる。なお、反応物(焼成物)の脱炭を促す目的で、上記反応雰囲気中に少量又は微量の水蒸気を含ませるようにしてもよい。
【0042】
また、反応物(化合物原料)同士の反応性を高めるために、フラックスを添加して反応させてもよい。フラックスとしては、アルカリ金属化合物(Na2CO3、NaCl、LiF)やハロゲン化合物(SrF2、CaCl2など)などから、適宜選択して用いる。
【0043】
本発明の最大の特徴は、(1)ニトリドシリケート系化合物の原料として、アルカリ土類金属や希土類金属、又は、アルカリ土類金属の窒化物や希土類の窒化物を、実質的に用いず、(2)代わりに、加熱によってアルカリ土類金属酸化物や希土類酸化物を生成しうるアルカリ土類金属化合物又は希土類化合物を用い、(3)これら化合物が含有する酸素成分を、炭素、好ましくは固体炭素との反応によって除去し、(4)さらに窒化性ガスとの反応によって、上記アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物を窒化しながら、(5)珪素化合物と反応させて、ニトリドシリケート系化合物を製造することにある。
【0044】
なお、本発明の製造方法では、上記珪素化合物も窒化性ガスに曝され、原料同士の反応過程で窒化作用を受けながら上記アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物と反応することになるので、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、実質的に、(1)アルカリ土類金属酸化物と、(2)炭素、特に固体炭素と、(3)窒素と、(4)窒化珪素とを、少なくとも反応させて製造する製造方法、又は、実質的に、(1)希土類酸化物と、(2)炭素、特に固体炭素と、(3)窒素と、(4)窒化珪素とを、少なくとも反応させて製造する製造方法とみなすこともできる。
【0045】
また、上記した本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法において、さらに、アルミニウム化合物(窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなど)を反応させて製造すると、ニトリドアルミノシリケート化合物やオクソニトリドアルミノシリケート化合物も製造可能である。
【0046】
また、上記本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法において、さらに、金属亜鉛又は亜鉛化合物(酸化亜鉛、窒化亜鉛など)、金属チタン又はチタン化合物(酸化チタンや窒化チタンなど)、金属ジルコニウム又はジルコニウム化合物(酸化ジルコニウムや窒化ジルコニウムなど)、金属ハフニウム又はハフニウム化合物(酸化ハフニウムや窒化ハフニウムなど)、金属タングステン又はタングステン化合物(酸化タングステンや窒化タングステンなど)、金属錫又は錫化合物(酸化錫や窒化錫など)などの遷移金属又は遷移金属化合物を反応させて製造すると、これら遷移金属元素を含むニトリドシリケート系化合物を製造することもできる。また、燐又は燐化合物(五酸化燐、五窒化燐、燐酸塩類、燐酸水素二アンモニウムなど)を反応させて製造すると、燐を含むニトリドシリケート系化合物を製造することもできるし、硼素又は硼素化合物(硼酸、窒化硼素、無水硼酸など)を反応させて製造すると、硼素を含むニトリドシリケート系化合物を製造することもできる。
【0047】
本発明の製造方法における反応は、反応材料にエネルギーを加える操作、例えば、加熱などによって開始され維持される。
【0048】
上記本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法において、好ましい反応温度は1400℃以上2000℃以下、より好ましい反応温度は1500℃以上1800℃以下である。また、反応は、数回に分けて実施してもよい。このようにすると、上記アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物が、加熱によってアルカリ土類金属酸化物又は希土類酸化物となり、さらに炭素との反応によって、上記アルカリ土類金属酸化物又は希土類酸化物が一酸化炭素や二酸化炭素を発生しながら還元されることになる。さらに、還元された上記アルカリ土類金属酸化物又は希土類酸化物は窒化性ガスによって窒化され、窒化物を形成しながら、上記珪素化合物などの他の化合物やガスなどと反応する。このようにしてニトリドシリケート系化合物が生成されることになる。
【0049】
なお、上記温度範囲よりも低い温度では上記反応や還元が不十分であり、高品質のニトリドシリケート系化合物を得ることが困難になるし、これよりも高い温度ではニトリドシリケート系化合物が、分解或いは融解して、所定の組成や形状(粉末状、成形体状など)の化合物を得ることが困難になったり、製造設備に高価な発熱体や耐熱性の高い断熱材を使用せざるを得なくなるなどして設備費用が高くなり、安価にニトリドシリケート系化合物を提供することが困難になる。
【0050】
本発明の製造方法に用いる上記材料の量は、目的とするニトリドシリケート系化合物の組成に合わせて調整すればよい。但し、炭素の量は、用いる各材料が含有する酸素成分の中の所定の酸素量を完全に還元できるように過剰にすることが好ましい。
【0051】
本発明の製造方法によって、CaSiN2、BaSiN2、Sr2Si58、Ba2Si58、(Sr,Eu)2Si58、Eu2Si58、BaSi710、Sr2Si4AlON7、CaAlSiN3をはじめ、先に記述した数多くのニトリドシリケート系化合物が製造できる。このようなニトリドシリケート系化合物は、セラミックス部材などへの応用が可能なだけでなく、蛍光体としての応用も可能である。M2Si58、MSiN2などのニトリドシリケート系化合物は、高効率蛍光体の蛍光体母体として機能するので、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、ニトリドシリケート系蛍光体の製造方法に広く応用可能である。
【0052】
さらに、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法の他の一例として、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の窒化物、希土類金属、及び希土類の窒化物から選ばれる少なくとも一つと、珪素化合物と、炭素とを含む材料を、窒化性ガス雰囲気中で反応させる方法を採用することができる。より具体的には、ニトリドシリケート系化合物を形成するための原料として用いる、アルカリ土類金属(M)又はアルカリ土類金属の窒化物(M32)と窒化珪素(Si34)などの珪素化合物、又は、希土類金属又は希土類金属の窒化物と珪素化合物に、還元剤として炭素を添加して、窒化性ガス雰囲気中で焼成すると、焼成中に不純物酸素を一酸化炭素ガス(CO)として除去でき、上記化合物中への、上記不純物酸素の混入を防止又は抑制できるので、純度の高い、高性能のニトリドシリケート系化合物を製造できるようになる。
【0053】
なお、ニトリドシリケート系蛍光体を製造するには、上記反応過程において、さらに、発光中心となり得る元素を含む金属又は化合物を少なくとも反応させればよい。このような元素としては、原子番号58〜60、又は62〜71のランタニドや遷移金属、特にCe、Pr、Eu、Tb、Mnがあり、このような元素を含む化合物としては、上記ランタニドや遷移金属の酸化物、窒化物、水酸化物、炭酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、燐酸塩などがある。
【0054】
すなわち、本発明は、金属ランタン及び金属プロメチウム、又はランタン化合物及びプロメチウム化合物を除く、金属ランタニド又はランタニド化合物の少なくとも一つをさらに反応させて製造するニトリドシリケート系蛍光体の製造方法や、遷移金属又は遷移金属化合物の少なくとも一つをさらに反応させて製造するニトリドシリケート系蛍光体の製造方法とすることもできる。
【0055】
なお、Ce3+、Pr3+、Eu2+、Tb3+などのランタニドイオンやMn2+イオンを発光中心として含むニトリドシリケート系蛍光体の製造方法では、反応雰囲気が還元雰囲気であることが好ましく、強い還元力が比較的安価かつ容易に得られる理由から、窒素水素混合ガス雰囲気であることが特に好ましい。このようにすると、Ce4+、Pr4+、Eu3+、Tb4+、Mn3+など、所望とする高効率蛍光体の発光中心として実質的に機能しないイオンの生成を防止でき、Ce3+、Pr3+、Eu2+、Tb3+、Mn2+など、高効率発光を放つ、ランタニドイオン或いは遷移金属イオンの濃度が高くなるので、高効率のニトリドシリケート系蛍光体を提供できるようになる。また、水素を用いる還元雰囲気では、水素ガスによる脱炭の効果によって、焼成物の高純度化が図れることも期待できる。
【0056】
本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法によれば、高効率のニトリドシリケート系蛍光体を安価に提供できるようになる。なお、代表的な上記ニトリドシリケート系蛍光体としては、MSiN2:Eu2+、M2Si58:Eu2+、M2Si58:Ce3+、Sr2Si4AlON7:Eu2+などが挙げられる。
【0057】
このようなニトリドシリケート系蛍光体は、例えば、(1)照明用LED光源の発光源、(2)BaAl24:Eu2+などの青色蛍光体を発光層として用い、さらに、波長変換層を組み合わせて構成した多色表示無機薄膜EL(エレクトロルミネッセンス)パネルの波長変換層、(3)蛍光ランプ(放電灯)の温色系(黄〜橙〜赤色)発光成分の発光源などとして用いることができ、また、温度特性に優れ、高温下にあっても高い発光性能を維持するので、温度特性を改善した前記発光装置を安価に提供することができるようにもなる。
【0058】
本発明のニトリドシリケート系蛍光体の製造方法は、特に、近紫外〜青色系光で励起され、高効率の温色系発光(黄〜橙〜赤色発光)を放つ、LED照明用の、Sr2Si58:Eu2+、Ba2Si58:Eu2+、Sr2Si58:Ce3+、Ba2Si58:Ce3+、CaSiN2:Eu2+、BaSiN2:Eu2+、Sr2Si4AlON7:Eu2+などの蛍光体の工業生産に適する製造方法である。
【0059】
なお、赤色発光を放つM2Si58:Eu2+蛍光体などについては、Ce3+イオンを共付活して、M2Si58:Ce3+,Eu2+蛍光体とすることもできる。例えば、赤色光を放つM2Si58:Eu2+の励起スペクトルと黄緑色光を放つM2Si58:Ce3+の発光スペクトルとは、重なりを有するので、このようにすると、Ce3+イオンからEu2+イオンへのエネルギー伝達が生じることに関係し、M2Si58:Ce3+,Eu2+蛍光体は、その励起スペクトル形状が、M2Si58:Ce3+蛍光体の励起スペクトルに似通ったものに変化し、250〜400nmの紫外〜近紫外励起条件下で、上記M2Si58:Eu2+蛍光体よりも高い発光効率を示す赤色蛍光体になる。このため、M2Si58:Ce3+,Eu2+蛍光体は、上記M2Si58:Eu2+蛍光体よりも、このような波長範囲にある紫外光又は近紫外光を励起光とする発光装置において、有効な赤色蛍光体になる。
【0060】
本発明の製造方法によって製造したニトリドシリケート系化合物は、安価で入手や取扱いが容易な、アルカリ土類金属化合物や希土類化合物、固体炭素又は炭素系ガス、珪素化合物、窒化性ガスを用いて製造するので、安価かつ簡便である。
【0061】
また、本発明の製造方法によって製造したニトリドシリケート系化合物、とりわけ、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物、又は希土類金属の原子数を1.5倍した数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物、特に、酸素成分を実質的に含まないニトリドシリケート系化合物は、還元剤となる炭素との反応によって、積極的に焼成原料を還元し、焼成原料中の酸素成分を一酸化炭素や二酸化炭素として除去しながら製造するので、不純物酸素の混入量が少なく、純度が高く、結果として、高い材料性能を示す。
【0062】
したがって、本発明の製造方法を用いて製造したニトリドシリケート系化合物を用いた応用製品(LED光源など)についても、安価で高性能(高光束など)なものが提供可能となる。
【0063】
次に、本発明の発光装置の実施の形態を図面に基づき説明する。図1に、ニトリドシリケート系蛍光体を発光源として用いた発光装置(応用製品)の一例を示す。図1に示す発光装置は、LEDを応用した光源でもある。図1は、照明又は表示装置用として多用される半導体発光素子の一例でもあり、その断面図である。
【0064】
図1は、サブマウント素子4の上に、少なくとも一つの発光素子1を導通搭載するとともに、少なくとも上記ニトリドシリケート系蛍光体2を内在し、蛍光体層3を兼ねる母材(例えば、樹脂や低融点ガラスなど)のパッケージによって発光素子1を封止した構造の半導体発光素子を示す。
【0065】
図1において、発光素子1は電気エネルギーを光に換える光電変換素子であり、具体的には、発光ダイオード、レーザーダイオード、面発光レーザーダイオード、無機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子などが該当する。特に、光源の高出力化の面からは、発光ダイオード又は面発光レーザーダイオードが好ましい。発光素子1が放つ光の波長については、基本的には特に限定されるものではなく、ニトリドシリケート系蛍光体を励起し得る波長範囲内(例えば、250〜550nm)であればよい。しかし、ニトリドシリケート系蛍光体が高効率励起され、需要の多い白色系発光を放つ高発光性能の光源を製造し得るためには、340nmを超え500nm以下、好ましくは350nmを超え420nm以下又は420nmを超え500nm以下、好ましくは360nmを超え410nm以下又は440nmを超え480nm以下の波長範囲、すなわち、近紫外又は青色の波長領域に発光ピークを有する発光素子1にする。
【0066】
また、図1において、蛍光体層3は、少なくともニトリドシリケート系蛍光体2を含む蛍光体層であり、例えば、透明樹脂(エポキシ樹脂やシリコン樹脂など)や低融点ガラスなどの透明母材に少なくともニトリドシリケート系蛍光体2を分散させて構成する。ニトリドシリケート系蛍光体2の透明母材中における含有量は、例えば、上記透明樹脂の場合では、5〜80質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましい。蛍光体層3中に内在するニトリドシリケート系蛍光体2は、駆動によって上記発光素子1が放つ光の一部又は全部を吸収して、発光素子1が放つ光のピーク波長よりも波長の長い可視光(青、緑、黄、橙、又は赤の光)に変換する光変換材料であるので、発光素子1にニトリドシリケート系蛍光体2が励起され、半導体発光素子が少なくともニトリドシリケート系蛍光体2が放つ発光成分を含む光を放つようになる。
【0067】
したがって、例えば、以下のような組み合わせ構造の発光装置にすると、発光素子1が放つ光と蛍光体層3が放つ光との混色などによって、白色系光が得られ、需要の多い白色系光を放つ光源になる。
【0068】
(1)近紫外光を放つ発光素子と、青色蛍光体と、緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0069】
(2)近紫外光を放つ発光素子と、青色蛍光体と、緑色蛍光体と、黄色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0070】
(3)近紫外光を放つ発光素子と、青色蛍光体と、黄色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0071】
(4)青色光を放つ発光素子と、緑色蛍光体と、黄色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0072】
(5)青色光を放つ発光素子と、黄色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0073】
(6)青色光を放つ発光素子と、緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0074】
(7)青緑色光を放つ発光素子と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0075】
なお、Sr2Si58:Eu2+やCaSiN2:Eu2+などの、赤色発光を放つニトリドシリケート系蛍光体は、青色光励起下で高い内部量子効率を示す蛍光体である。したがって、このようなニトリドシリケート系蛍光体の励起源として、440nm以上500nm未満、好ましくは450nm以上480nm未満の青色系の波長領域に発光ピークを有する青色発光素子を用い、上記ニトリドシリケート蛍光体が、上記青色発光素子が放つ青色系光によって励起され、かつ、上記青色発光素子が放つ青色系光成分と、上記ニトリドシリケート蛍光体が放つ発光成分とを、少なくとも出力光として含んで放つように発光装置を構成すると、赤色発光成分強度の強い、暖色系発光を放つ高光束の発光装置を構成でき好ましいものとなる。
【0076】
ニトリドシリケート系蛍光体は、組成によって、青色、緑色、黄色、又は赤色のいずれの蛍光体にもなり得るので、上記の青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体、赤色蛍光体の、少なくとも一つに用いることが可能である。
【0077】
なお、ニトリドシリケート系蛍光体以外の、上記青色蛍光体、上記緑色蛍光体、上記黄色蛍光体、上記赤色蛍光体としては、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu2+青色蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu2+青色蛍光体、(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+緑色蛍光体、BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+緑色蛍光体、Y2SiO5:Ce3+,Tb3+緑色蛍光体、(Y,Gd)3Al512:Ce3+黄色蛍光体、Y3Al512:Ce3+,Pr3+黄色蛍光体、(Sr,Ba)2SiO4:Eu2+黄色蛍光体、CaGa24:Eu2+黄色蛍光体、CaS:Eu2+赤色蛍光体、SrS:Eu2+赤色蛍光体、La22S:Eu3+赤色蛍光体等が使用できる。
【0078】
なお、Eu2+イオンを付活剤として添加したニトリドシリケート系蛍光体(化合物)を構成する上記MがSrである場合、例えば、Sr2Si58:Eu2+などの高性能の赤色蛍光体になり、発光装置用として好ましい蛍光体を提供できるようになる。
【0079】
また、Eu2+イオンを付活剤として添加したニトリドシリケート系蛍光体(化合物)を構成する上記MがBaである場合、例えば、BaSiN2:Eu2+などの高性能の緑色蛍光体になり発光装置用として好ましい蛍光体を提供できるようになる。
【0080】
従来から、MxSiyzの化学式で表されるニトリドシリケート系の化合物(但し、x、y、zは、z=2/3x+4/3yを満足する数値)を蛍光体母体とし、発光中心としてEu2+イオンを含む赤色蛍光体は知られているが、この蛍光体においてMの主成分がBaであり、x=1及びy=1であることを特徴とした蛍光体については知られていない。まして、このような蛍光体が、意外にも緑色蛍光体となることは、当業者であっても容易に予想できない。したがって、本発明は、BaSiN2の化学式で表されるニトリドシリケート化合物、又は、BaSiN2:Eu2+で表されるニトリドシリケート蛍光体とこれを用いた発光装置に関するものでもある。
【0081】
なお、Mの主成分がBaであるとは、Mの過半数以上、好ましくは80原子%以上、より好ましくはMの全てが、Baであることを意味する。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
以下、本発明にかかるニトリドシリケート系化合物の製造方法の実施例1として、Sr2Si58:Eu2+蛍光体の製造方法を説明する。
【0083】
実施例1では蛍光体原料として、以下の化合物を用いた。
(1)炭酸ストロンチウム粉末(SrCO3:純度99.9モル%):14.47g
(2)酸化ユーロピウム粉末(Eu23:純度99.9モル%):0.35g
(3)窒化珪素粉末(Si34:純度99モル%):12.36g
【0084】
また、上記炭酸ストロンチウム及び上記酸化ユーロピウムの還元剤(添加還元剤)として、以下の固体炭素を用いた。
(4)炭素(黒鉛)粉末(C:純度99.9モル%):1.20g
【0085】
まず、これら蛍光体原料と添加還元剤とを、大気中において自動乳鉢で十分混合した後、この混合粉末をアルミナるつぼに仕込み、雰囲気炉中の所定の位置に配置した。その後、脱ガスを目的として、混合粉末を800℃の窒素水素混合ガス(97容量%窒素、3容量%水素)雰囲気中で5時間加熱して仮焼成した。仮焼成後、1600℃の上記窒素水素混合ガス雰囲気中で2時間加熱して本焼成した。なお、簡略化のため、解砕、分級、洗浄などの後処理については省略した。
【0086】
(比較例1)
比較のため、アルカリ土類金属の窒化物を用いる従来の製造方法によっても、Sr2Si58:Eu2+蛍光体を製造した。比較用サンプルの製造では、蛍光体原料として、以下の化合物を用いた。
(1)窒化ストロンチウム粉末(Sr32:純度99.5モル%):25.00g
(2)酸化ユーロピウム粉末(Eu23:純度99.9モル%):0.93g
(3)窒化珪素粉末(Si34:純度99モル%):32.51g
【0087】
なお、比較用サンプルの製造では、添加還元剤としての炭素粉末を一切用いなかった。また、グローブボックスを用い、窒化ストロンチウム粉末を窒素雰囲気中で秤量し、蛍光体原料を窒素雰囲気中で十分手混合した以外は、実施例1のSr2Si58:Eu2+蛍光体の製造方法と同様の方法及び条件で製造した。
【0088】
以下、上記製造方法によって得られた焼成物(Sr2Si58:Eu2+蛍光体)の特性を説明する。
【0089】
上記焼成物の体色は鮮やかな橙色であった。図2は、上記製造方法によって得られた実施例1の焼成物のX線回折パターンである。図2は、焼成物の主体がSr2Si58化合物であることを示している。
【0090】
図3は、254nmの紫外線励起下における実施例1と比較例1の焼成物の発光スペクトルである。図3は、焼成物が波長633nm付近に発光ピークを有する赤色蛍光体であることを示している。また、実施例1の赤色蛍光体の発光ピーク高さ(発光強度)は、比較例1の蛍光体の発光強度を100%とすると107%であり、従来の製造方法で製造したSr2Si58:Eu2+蛍光体よりも高輝度であった。なお、CIE色度座標における発光の色度(x、y)は、x=0.605、y=0.380であった。
【0091】
さらに、X線マイクロアナライザー(XMA)を用いて上記焼成物の構成元素を評価したところ、焼成物はSrとEuとSiとNを主体にしてなる化合物であった。また、比較例1の焼成体からは少量の酸素(O)が検出されたのに対して、実施例1の焼成物からは、Oは実質的に検出されなかった。実施例1の焼成物を構成する金属元素の原子割合は、Sr:Eu:Si=1.96:0.04:5.0に近いものであった。
【0092】
これらの結果は、実施例1の製造方法によって、(Sr0.98Eu0.022Si58化合物、すなわち、Sr2Si58:Eu2+蛍光体が製造できたことを示すものである。
【0093】
なお、実施例1では、以下の化学反応式1に基づき、実質的に、炭素Cによって、アルカリ土類金属酸化物のSrOがランタニド酸化物のEuOとともに還元されながら、窒素及び窒化珪素と反応して、(Sr0.98Eu0.022Si58化合物が生成したと考えられる。
【0094】
(化学反応式1)
5.88SrCO3+0.06Eu23+5Si34+6C+2N2+0.06H2→3(Sr0.98Eu0.022Si58+5.88CO2↑+6CO↑+0.06H2O↑
【0095】
このように、実施例1の製造方法を用いれば、化学的に不安定で大気中での取扱いが困難かつ高価なSr金属やSr32を一切用いることなく、取扱いが容易で安価な炭酸ストロンチウムをアルカリ土類金属の供給源として用いて、ニトリドシリケート系化合物を製造できた。
【0096】
なお、上記実施例1では、アルカリ土類金属としてSrを主たる構成成分とし、Eu2+イオンを発光中心として含むニトリドシリケート系化合物の場合を説明したが、Sr以外のアルカリ土類金属(例えば、CaやBa)を主たる構成成分とするニトリドシリケート系化合物や、Eu2+イオン以外の発光中心イオン(例えばCe3+イオン)を含むニトリドシリケート系化合物も同様の製造方法で製造できる。
【0097】
(実施例2)
以下、本発明にかかるニトリドシリケート系化合物の製造方法の実施例2として、Eu2Si58化合物の製造方法を説明する。
【0098】
化合物原料及び添加還元剤として、以下の材料を用いる以外は、実施例1と同様の製造方法、焼成条件で製造した。
(1)酸化ユーロピウム粉末(Eu23:純度99.9モル%):7.04g
(2)窒化珪素粉末(Si34:純度99モル%):4.94g
(3)炭素(黒鉛)粉末(C:純度99.9モル%):0.48g
【0099】
以下、上記製造方法によって得られた焼成物(Eu2Si58化合物)の特性を説明する。
【0100】
上記焼成物の体色は深紅であった。図4は、上記製造方法によって得られた焼成物のX線回折パターンである。図4は、焼成物の主体がEu2Si58化合物であることを示している。また、発光スペクトルのデータは省略するが、この焼成物は紫外〜近紫外〜青色光の励起によって、波長720nm付近に発光ピークを有し、かつ、スペクトル半値幅が約150nmと広い、深赤色発光を示した。XMAによる構成元素の評価結果は、焼成物がEuとSiとNとを主体にしてなる化合物であることと、金属元素のおおよその原子割合がEu:Si=2:5であることを示した。これらの結果は、実施例2の製造方法によって、Eu2Si58化合物が製造できたことを示すものである。
【0101】
なお、実施例2では、以下の化学反応式2に基づき、実質的に、炭素Cによって、ランタニド酸化物のEuOが還元されながら、窒素及び窒化珪素と反応して、Eu2Si58化合物が生成したと考えられる。
【0102】
(化学反応式2)
3Eu23+5Si34+6C+2N2+3H2 → 3Eu2Si58+6CO↑+3H2O↑
【0103】
実施例2では、希土類としてEuを主たる構成成分とするニトリドシリケート系化合物の場合を説明したが、Eu以外の希土類を主たる構成成分とするニトリドシリケート系化合物も同様の製造方法で製造できる。
【0104】
(実施例3)
以下、本発明にかかるニトリドシリケート系化合物の製造方法の実施例3として、BaSiN2:Eu2+蛍光体の製造方法を説明する。
【0105】
実施例3では蛍光体原料として、以下の化合物を用いた。
(1)炭酸バリウム粉末(BaCO3:純度99.9モル%):19.34g
(2)酸化ユーロピウム粉末(Eu23:純度99.9モル%):0.35g
(3)窒化珪素粉末(Si34:純度99モル%):4.94g
【0106】
また、上記炭酸バリウム及び上記酸化ユーロピウムの還元剤(添加還元剤)として、以下の固体炭素を用いた。
(4)炭素(黒鉛)粉末(C:純度99.9モル%):1.20g
【0107】
これら蛍光体原料と添加還元剤とを用いて、実施例1のSr2Si58:Eu2+蛍光体の製造方法と同様の方法及び条件で製造した。
【0108】
以下、上記製造方法によって得られた焼成物(BaSiN2:Eu2+蛍光体)の特性を説明する。
【0109】
上記焼成物の体色は鮮やかな緑色であった。図5は、上記製造方法によって得られた実施例3の蛍光体の254nmの紫外線励起下における発光スペクトルAと励起スペクトルBを示す。
【0110】
図5は、焼成物が波長220〜470nmの紫外〜近紫外〜青色の光で励起可能であり、波長510nm付近に発光ピークを有する緑色発光を放つ緑色蛍光体であることを示している。
【0111】
さらに、実施例1の蛍光体と同様に、上記焼成物の構成元素を評価したところ、焼成物はBaとEuとSiとNを主体にしてなる化合物であり、焼成物を構成する金属元素の原子割合は、Ba:Eu:Si=0.98:0.02:1.0に近いものであった。
【0112】
これらの結果は、実施例3の製造方法によって、(Ba0.98Eu0.02)SiN2化合物、すなわち、BaSiN2:Eu2+蛍光体が製造できたことを示すものである。
【0113】
なお、従来、赤色光を放つCaSiN2:Eu2+蛍光体が知られているが、CaをBaに置換すると、意外にも緑色蛍光体となることは、当業者であっても容易に予想できない。また、BaSiN2:Eu2+蛍光体の発光強度(ピーク高さ)も、同様の手法で製造したCaSiN2:Eu2+蛍光体の10倍以上あり、従来にない顕著な効果を有する。
【0114】
なお、実施例3では、以下の化学反応式3に基づき、実質的に、炭素Cによって、アルカリ土類金属酸化物のBaOがランタノイド酸化物のEuOとともに還元されながら、窒素及び窒化珪素と反応して、(Ba0.98Eu0.02)SiN2化合物が生成したと考えられる。
【0115】
(化学反応式3)
2.94BaCO3+0.03Eu23+Si34+3C+N2+0.03H2 → 3(Ba0.98Eu0.02)SiN2+2.94CO2↑+3CO↑+0.03H2O↑
【0116】
このように、実施例3の製造方法を用いれば、化学的に不安定で大気中での取扱いが困難かつ高価なBa金属やBa32を一切用いることなく、取扱いが容易で安価な炭酸バリウムをアルカリ土類金属の供給源として用いて、(Ba0.98Eu0.02)SiN2の化学式で表されるニトリドシリケート系化合物を製造できた。
【0117】
なお、上記実施例1〜3では、(Sr0.98Eu0.022Si58化合物、Eu2Si58化合物、(Ba0.98Eu0.02)SiN2化合物の場合を各々例に上げて説明したが、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、先に説明した上記以外のニトリドシリケート系化合物に広く応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物を生成しうるアルカリ土類金属化合物、又は、加熱によって希土類酸化物を生成しうる希土類化合物を、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって還元及び窒化しながら、上記アルカリ土類金属化合物又は上記希土類化合物を、少なくとも珪素化合物と反応させて、ニトリドシリケート系化合物を製造するので、化学的に不安定で大気中での取扱いが困難かつ高価な、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の窒化物や、希土類金属又は希土類の窒化物を用いることなく、取扱いが容易で安価なアルカリ土類金属塩や希土類酸化物などをアルカリ土類金属又は希土類の供給源として用いて、ニトリドシリケート系化合物を製造できる。したがって、材料性能の良好なニトリドシリケート系化合物やそれを用いた蛍光体を安価に工業生産することが必要な用途に適用できる。
【0119】
また、上記製造方法によってニトリドシリケート系化合物を製造するので、安価で高性能のニトリドシリケート系化合物が必要な用途にも広く適用できるし、安価で高性能のニトリドシリケート系化合物を用いて機器などを構成するので、ニトリドシリケート系化合物を応用した、安価で高性能の製品(LED光源など)を提供することが必要な用途への応用も適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】ニトリドシリケート系蛍光体を用いた発光装置の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1にかかるニトリドシリケート系化合物のX線回折パターンである。
【図3】実施例1及び比較例1にかかるニトリドシリケート系化合物の発光スペクトルである。
【図4】実施例2にかかるニトリドシリケート系化合物のX線回折パターンである。
【図5】実施例3にかかるニトリドシリケート系化合物の発光/励起スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、炭素とを含む材料を、窒化性ガス雰囲気中で反応させることを特徴とするニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、及び水酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物である請求項1に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項3】
加熱によって希土類酸化物LnO又はLn23(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57〜71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、Oは酸素元素)を生成しうる希土類化合物と、珪素化合物と、炭素とを含む材料を、窒化性ガス雰囲気中で反応させることを特徴とするニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項4】
前記希土類化合物は、希土類の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、及び水酸化物から選ばれる少なくとも一つの希土類化合物である請求項3に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項5】
アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の窒化物、希土類金属、及び希土類の窒化物から選ばれる少なくとも一つと、珪素化合物と、炭素とを含む材料を、窒化性ガス雰囲気中で反応させることを特徴とするニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項6】
前記珪素化合物は、窒化珪素及びシリコンジイミドから選ばれる少なくとも一つの化合物である請求項1、3又は5に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項7】
前記窒化性ガスは、窒素ガス及びアンモニアガスから選ばれる少なくとも一つのガスである請求項1、3又は5に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項8】
前記反応は、加熱により行われる請求項1、3又は5に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項9】
前記炭素は、固体炭素である請求項1、3又は5に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項10】
ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物を製造する請求項1又は5に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項11】
ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、希土類金属の原子数を1.5倍した数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物を製造する請求項3に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項12】
2Si58(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素)の一般式で表される化合物を製造する請求項1又は5に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項13】
前記ニトリドシリケート系化合物は、ニトリドシリケート系蛍光体である請求項1、3又は5に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項14】
前記ニトリドシリケート系蛍光体は、M2Si58:Eu2+、M2Si4AlON7:Eu2+、MSiN2:Eu2+及びM2Si58:Ce3+(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素)から選ばれるいずれか一つの一般式で表される請求項13に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項15】
前記窒化性ガスは、窒素水素混合ガスである請求項13に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。
【請求項16】
MSiN2の一般式で表されるニトリドシリケート化合物を蛍光体母体とし、発光中心としてEu2+イオンを含むニトリドシリケート蛍光体であって、
前記Mの主成分は、Baであることを特徴とするニトリドシリケート蛍光体。
【請求項17】
ニトリドシリケート蛍光体を発光源として用いた発光装置であって、
前記ニトリドシリケート蛍光体は、MSiN2の一般式で表されるニトリドシリケート化合物を蛍光体母体とし、発光中心としてEu2+イオンを含み、
前記Mの主成分は、Baであることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−511452(P2007−511452A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517878(P2006−517878)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017431
【国際公開番号】WO2005/049763
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】