説明

ノズル、液晶材料吐出装置、ノズル製造方法、ノズル製造装置

【課題】長期にわたって安定した液滴の精度を保つための技術を提供する。
【解決手段】液晶材料吐出装置のノズルの貫通孔202内には、ノズル本体201の表面を露出させた状態で、吐出口付近の外周側面をパーフルオロアルキル基を有する高分子化合物から成る撥液被膜で覆う。液滴がノズルの表面に接触しても拡がらないので、ノズル先端に液溜まりが生じず、吐出不良が生じない。また、貫通孔202内に気泡が付着せず、吐出方向不良や異物混入が生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶材料などを液滴として吐出させるための液体材料吐出ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラウン管を使った表示装置は広く普及しているが、大画面になるに伴いその奥行きが大きくなってしまうという欠点があり、ノート型コンピュータや携帯電話、PDAといった各種携帯用電子機器の発展に伴って、これらに適用できる軽薄短小型の平板表示装置の開発が進んでいる。
【0003】
例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、電界放出ディスプレイ、真空蛍光ディスプレイが挙げられ、この他にもエレクトロルミネセンス(EL)や発光ダイオード(LED)を用いた手段も開発されてきている。この中で、液晶表示装置は高画質、消費電力および量産化の技術といった点で優位性が認められている。
【0004】
液晶表示装置は液晶材料をガラス基板で挟み、さらに特定の偏光方向の光のみを透過させる偏光フィルタを前記ガラス基板の前後に配置する事で液晶パネルとし、映像を表示させる装置である。液晶材料は電圧を加える事によって液晶分子の配向が変化する特性を有し、この液晶材料の配向変化を光源からの光のシャッターとして利用する。複雑な映像を表示させる場合には、画素となるマトリクスを格子状に均等配列したドットマトリクスタイプの液晶パネルを用い、各画素に薄膜トランジスタ(TFT)のような駆動素子を形成することで実現される。
【0005】
このような液晶表示装置を作製する際に、液晶材料を二枚のガラス基板を貼り合わせた液晶セルに封止する方法として以下のような方法が考案されている。
二枚のガラス基板を貼り合わせ液晶セルとした後に液晶材料を注入する方法として、液晶材料注入口を備えた液晶セルで液晶セル内外の圧力差を用いて液晶材料を注入する方法や、液晶材料注入口および排気口を備えた液晶セルで液晶注入口から液晶材料を注入する方法(特開平7−281200号公報)がある。
【0006】
しかし、前記のような二枚のガラス基板を貼り合わせた液晶セルに液晶材料を注入する方法では、液晶セルに液晶材料注入口が設けてあるためにこれを紫外線硬化樹脂などの封止材を用いて封止する必要があり、また、封止材の汚染や封止部分からの気泡の混入が生じてしまう。
【0007】
さらには大型基板での液晶セルでは均一な液晶注入は量産性に欠ける。そこで、ガラス基板上に形成されたシール剤の内側に液晶材料を滴下し、真空容器内でもう一枚のガラス基板を貼り合わせ液晶材料を封止する方法(特開昭63−179323号公報)が考案されている。
この方法では基板サイズに対して液晶材料の封止精度が十分満たされ、さらには液晶材料注入口を備える必要がなく液晶表示装置の製造方法として有効な手段である。
【0008】
ガラス基板上に形成されたシール剤の内側に液晶材料を滴下するための手段として、ガスの圧力を用いて液晶材料を液滴吐出ノズルから滴下する方法(特許公開2003−287730号公報)、ピストンを用いて液晶材料自体に圧力をかけ液滴吐出ノズルから液晶材料を吐出する方法(特許公開2001−272640号公報)さらには、マイクロシリンジを液滴吐出ノズルとし、液晶材料の計測および吐出を行う方法(特許公開2006−106150号公報)等が考案されている。
【特許文献1】特開平7−281200号公報
【特許文献2】特開昭63−179323号公報
【特許文献3】特許公開2003−287730号公報
【特許文献4】特許公開2001−272640号公報
【特許文献5】特許公開2006−106150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
液晶表示装置の高精度化に伴い、液晶材料の改善に伴う高粘度化や表面張力が低い材料に変わってきており、さらには滴下量、滴下位置の高精度化が求められている。
【0010】
しかし、前述したようなノズルを介して液晶材料を滴下する手段においては液晶材料がノズル先端部に回り込み不均一な液溜りが生じたり、吐出時に気泡を含んでしまったりすることで、結果として液晶材料の吐出の滞り、吐出位置精度が満たされないといった問題が生じている。
【0011】
そこで、本発明では液状材料を長期にわたって安定した吐出の精度を保つための液状材料吐出ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、内部に貫通孔を有し、前記貫通孔を通った液晶材料が、前記貫通孔の先端の吐出口から吐出されるノズルであって、 前記貫通孔が形成されたノズル本体と、前記ノズル本体の前記吐出口の周囲の外周面に配置され、前記貫通孔の内周面よりも撥液性が高い撥液被膜とを有するノズルである。
また、本発明は、前記撥液被膜が、パーフルオロアルキル基を含む高分子化合物で構成されたノズルである。
また、本発明は、前記撥液被膜が、フッ素樹脂粒子が分散された金属膜で構成されたノズルである。
また、本発明は、上記いずれかのノズルと、前記ノズルに液晶材料を供給するシリンダとを有し、前記貫通孔内の前記液晶材料が間欠的に押し出され、前記液晶材料が液滴となって吐出される液晶材料吐出装置である。
また、本発明は、内部に貫通孔を有し、前記貫通孔を通った液晶材料が、前記貫通孔の先端の吐出口から吐出されるノズルを製造するノズル製造方法であって、前記貫通孔の前記吐出口とは反対側の供給口から、前記貫通孔内に流体を供給し、前記流体を前記吐出口から放出させながら、前記貫通孔を有するノズル本体をパーフルオロアルキル基を含む樹脂原料液中に浸漬し、前記ノズル本体の少なくとも前記吐出口の周囲の部分を前記樹脂原料液で被覆し、前記樹脂原料液を硬化させ、撥液被膜を形成するノズル製造方法である。
また、本発明は、液晶原料が配置される原料容器と、前記原料容器の上方位置で内部に貫通孔が形成されたノズル本体を保持する、保持腕と、前記保持腕を降下させ、前記保持腕に保持された一乃至複数個の前記ノズル本体の下端を前記原料容器に配置された前記液晶原料に浸漬する昇降機構と、前記ノズル本体の上端に接続され、前記貫通孔内に流体を供給するポンプとを有するノズル製造装置である。
【0013】
液滴を吐出するノズルを構成する部材としては、ガラス、シリコン、ルビー、サファイア、酸化アルミニウム(アルミナ)、ステンレス、といった合金、鉱物、無機物等の剛性材料を用いることができる。
これら材料に機械加工やレーザ加工といった従来の加工手段によって液状材料の通るノズル孔を形成してノズルとする。これにより、液滴吐出位置および位置精度を十分満たす事ができる。
【0014】
液状材料の吐出液量精度を保つためには、液状材料がノズル部吐出口先端部表面に回りこみ、不均一な液溜りが生じる事を防がなければならない。
この問題を解決するためには、ノズルの表面のうち、特に、吐出口に近い位置に撥液性が高い撥液被膜を形成すれば良いと考えられる。
【0015】
撥液被膜としては、液晶材料は誘電率の低い溶媒や粘度の高い溶媒が使用されるため、フッ素樹脂やパーフルオロアルキルから構成されるシラン、シラザン等のカップリング剤もしくはポリマーの被膜を用いることができる。
【0016】
具体的には、サイトップシリーズ(商標、旭硝子株式会社製)、メガファック(商標、大日本インキ化学工業株式会社製)、ディックガード(商標、大日本インキ化学工業株式会社製)、FPX−30G(商標、JSR株式会社製)、オプツールDSX(商標、ダイキン化学工業社製)、ノベックEGC−1720(商標、住友3M社製)、Patinalシリーズ(substance WR1,WR2,WR3)(商標、メルク株式会社製)や、この他にもフルオロアルキルシランや少なくともこれを含む樹脂原料を用いることができる。
これらの樹脂原料を重合させてポリマーを形成し、パーフルオロアルキル基を有する高分子化合物から成る撥液被膜とすることができる。
【0017】
しかし、ノズルの外周面に加え、ノズル内部の貫通孔の表面にも撥液被膜が形成されていると、ノズルの吐出口から貫通孔内に侵入した空気が、貫通孔の内壁面に気泡となって付着してしまう。
この気泡は貫通孔内の液晶材料の流れを乱し、液滴の吐出方向がばらついてしまう。
また、貫通孔内の撥液被膜が剥離すると、細片となって液滴中に混入し、液晶表示装置の品質を悪化させる虞がある。
【0018】
そこで、本発明の発明者等は、貫通孔内には撥液被膜を形成せずに、ノズルの少なくとも吐出口の周囲に撥液被膜を配置した。
即ち、ガラス、シリコン、ルビー、サファイア、酸化アルミニウム(アルミナ)、ステンレス、といった合金、鉱物、無機物等の剛性材料から成るノズル本体の、少なくとも吐出口に近い外周側面に撥液被膜を配置し、他方、貫通孔内はノズル本体の表面を露出させた。
【0019】
ノズル本体の表面の撥液性に比べ、パーフルオロアルキル基を有する高分子化合物から成る撥液被膜の撥液性は高く、具体的には、水、アルコール、その他の有機溶媒の接触角は、撥液被膜の方がノズル本体よりも高く、貫通孔内では気泡が形成されず、吐出口近くの外周表面では、液晶材料が撥液被膜に接触しても拡がらず、液溜まりが形成されない。
従って、本発明によれば、吐出精度や液滴の純度を悪化させずに、液状材料のノズル先端部分表面への回り込みを防止することが可能になる。
【0020】
貫通孔を有するノズル本体をパーフルオロアルキル基を有する樹脂原料液中に浸漬し、ノズルの表面を樹脂原料液で被覆する場合は、貫通孔の吐出口とは反対側に位置する供給口から、貫通孔内に流体を供給し、浸漬する際、浸漬中、及び樹脂原料液から引き上げる際に、吐出口から流体を放出させ、貫通孔内に樹脂原料液が侵入しないようにすることができる。流体は、液体であっても気体であってもよい。
【0021】
気体を用いる場合、大気、窒素、酸素などをポンプによって連続的に貫通孔内に供給することができる。
液体を用いる場合、樹脂原料液と誘電率が異なり、樹脂原料液と混合しない液体を用いればよい。出来れば誘電率が5以上異なった方が良い。これは、樹脂原料液中に流体が溶解すると、樹脂原料液の濃度が低下するからであり、流体は樹脂原料中で小胞となれば、撥液被膜形成の障害とはならない。
【0022】
樹脂原料液を構成する物質はパーフルオロアルキル基を含むため、誘電率の値は小さい。樹脂原料液に含有される溶媒も誘電率の値は小さい。
従って、流体に液体を用いる場合、誘電率の高い値を持つ純水、メタノール、アルコール、アセトン、2−プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、酢酸などを用いることができる。
【0023】
また、本発明のノズル製造装置には、ノズルの貫通孔内に流体を一定の速度で送り続けるためのポンプと、ノズルとポンプとを繋ぐ配管を設けることができる。
また、均一な膜厚の撥液被膜を形成するために、昇降機構が、一定速度で上下に移動することが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
吐出される液晶材料の液滴の位置精度および液滴特性が十分満足される。液滴中に剥離小片が混入することがない。着弾位置の精度も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(ノズル製造装置)
図1は、本発明のノズル製造装置を示している。
このノズル製造装置は、ボールネジ107と保持腕103と、原料容器108と、ポンプ104とを有している。
ボールネジ107は、鉛直に配置されており、保持腕103が取り付けられている。
【0026】
ボールネジ107はステッピングモータ106に接続され、ステッピングモータ106の回転によって回転し、その回転に伴い、保持腕103が上下方向に昇降移動するように構成されている。
保持腕103には、複数のコネクタ102が固定されており、各コネクタ102には、ノズル101が、先端を下方に向けて取り付けられている。
【0027】
各コネクタ102は、配管105によってポンプ104に接続されており、各コネクタ102内には、ポンプ104から気体もしくは液体の流体が、配管105を通って、一定量、一定速度で導入されるように構成されている。
【0028】
図2は、ノズル101の概要図である。このノズル101は、ルビーからなるノズル本体201の内部に、レーザ加工によって点線で示されている直線状の貫通孔202が形成されている。ノズル本体201の上部には、外周にネジ溝204が形成されたステンレス製のネジ部材203が装着されており、このネジ部材203がコネクタ102に取り付けられている。
【0029】
ネジ部材203の反対側は先窄まりに形成され、直線状の貫通孔202の一端は、先窄まりの先端に開放されており、開放された部分によって液晶材料を吐出するための吐出口が形成されている。
【0030】
図3は、ノズル101の先窄まりの先端部分の断面図である。ルビーから成るノズル本体301に液状材料を吐出するための吐出口302が配置されている。ノズル孔の液状材料吐出口302の開口径は0.3mm、ノズル先端部の肉厚301は0.1mmである。また、ノズル外形として、先端部からの傾斜角度はノズル孔に対して10°である。
【0031】
各ノズル101の下方には、原料容器108が配置されている。原料容器108の内部には、樹脂原料液109が配置されている(ここでは、樹脂原料液に、ダイキン工業(株)製、オプツールDSX(商標)を用いた)。
各ノズル101はネジ部材203が上、先窄まりの先端が下に向けて保持腕103に取り付けられており、従って、吐出口を有する先窄まりの先端が、原料容器108内部の樹脂原料液109の液面に向けられており、ポンプ104を動作させ、各ノズル101内に流体を供給して、各ノズル101の下端の吐出口から流体を放出させながら保持腕103を降下させると、ノズル101の下部が、樹脂原料液109内に浸漬され、ノズル101の下部の外周表面が樹脂原料液109と接触する。
【0032】
一定時間浸漬した後、保持腕103を上昇させ、各ノズル101を樹脂原料液109の液面上に移動させた。上方への移動速度は5mm/秒にした。
浸漬する際、浸漬中、液面上に移動させる際には、各ノズル101の下端の吐出口から流体を放出させておき、貫通孔202の内部に樹脂原料液が侵入しないようにしておいた。
【0033】
ノズル101の下端の吐出口から流体を放出させながら、一定時間保持し、樹脂原料液中に含まれる溶剤を蒸発させた。
ノズル101をコネクタ102から外し、さらに10時間風乾すると、図4に示すように、ノズル本体401の表面に、パーフルオロアルキル基を有する高分子化合物から成る撥液被膜402が形成される。
貫通孔内部には、撥液被膜は形成されておらず、ノズル本体の表面が露出されている。
最後に、撥液被膜は、フッ素系溶媒であるハイドロフルオロエーテルにて15分間超音波洗浄した。
【0034】
なお、図4は、図3の符号Aで示した部分である。
図5は、本発明の液晶材料吐出装置であり、符号503は、上記製造方法によって製造したノズルを示している。
【0035】
この液晶材料吐出装置は、シリンジ501内に溜めた液状材料をピストン504にてシリンジ501内の液状材料に圧力をかけ、ノズル接続部502に接続しているノズル503から液状材料を吐出する機構となっている。
【0036】
また、液晶材料はタンクへ接続されている配管505により供給される。ピストン504は、ステッピングモータ506により駆動するボールネジ507によってピストンコネクタ508部が上下に動作し駆動する機構となっている。これらは架台509によって一体型となっている。
ピストン504の上下動によって、一定量の液晶材料が液滴となって、ノズル503の吐出口から下方の液晶基板上に吐出される。
【実施例1】
【0037】
φ0.3mmの吐出口を有するノズル503を用い、液晶材料の液滴吐出試験を行った。
前記撥液被膜402を有さず、ルビーから成るノズル本体401が露出したノズルによって液晶材料を吐出すると、図6(a)に示すように、ノズルの側面に液晶材料が接触したときに液晶材料がノズルの表面上を広がり、ノズルの先端が液溜まり603で覆われた状態になってしまう。
【0038】
実験では、液晶材料としてネマチック液晶を用い、186ミリ秒間隔で2μLの吐出を249回連続吐出すると、ルビーから成るノズル本体が露出したノズルでは、図11の写真に示すような液溜まりが形成された。液溜まり603によってノズルの吐出口が覆われると、液晶材料の液滴を吐出できなくなる。
【0039】
本発明の液晶材料吐出装置では、ノズルの吐出口に近い外周表面が撥液被膜で被覆されているので、図6(b)に示すように、液溜まりが形成されず、液晶材料の吐出量およびその位置精度が十分満たされる。本発明の液晶材料吐出装置の場合、撥液被膜を形成していないノズルと同じ条件で吐出試験を6時間行っても図12の写真に示すように、液溜まりは生じず、液晶材料の吐出の滞りや不均一な液量での吐出は見られなかった。
さらに、吐出された液晶材料には撥液被膜に由来する微小片等の汚染は見られなかった。液滴の吐出精度も高く、着弾位置の誤差が少なかった。
【実施例2】
【0040】
ステンレス製のノズルを用いて、実施例1に示したような液晶材料の吐出試験を行った例を記載する。
図7は、本発明のノズルの他の例であり、ステンレス製のノズル本体701を有している。ノズル本体701の内部には、貫通孔703が形成されており貫通孔の一端は、ノズル本体701の先窄まりの先端に開放されている。
【0041】
ノズル本体701の上部の周囲には、ネジ溝702が形成されており、図1のノズル製造装置のコネクタ102に、先窄まりの先端を鉛直下方に向けて取り付けられるように構成されている。貫通孔703、及び吐出口は、φ0.4mmである。このノズルは機械加工により加工され、電解研磨処理が行なわれている。
【0042】
先窄まりの先端の拡大図を、図8に示す。
吐出口802の開口径は0.4mm、ノズル先端部の肉厚は0.15mm、ノズル先端部の傾斜角度は貫通孔の中心軸線に対して30°である。
このノズルは、上記ノズル製造装置によって、貫通孔703内には、ノズル本体701の表面が露出した状態で、ノズル本体701の外周表面に撥液被膜が形成されている。
【0043】
樹脂原料液には、住友3M(株)製ノベックEGC−1720(商標)を用い、流体に純水を用いて形成した。純水は、ノズル1個あたり5mL/分〜10mL/分の流速で送った。引き上げ速度は1mm/秒にした。
【0044】
引き上げ後、ポンプを停止し、純水を放出させずに10分間風乾した後、取り外し、100℃で30分間加熱処理を行い、さらに24時間風乾して撥液被膜をノズル外側表面にコーティングした。この状態を図9に示す。少なくとも、吐出口に近い外周表面を構成する先端部分901に撥液被膜902が形成されている。図9は、図8の符号Bで示された部分の拡大図である。
撥液被膜が吐出口に近い外周表面に形成されていないノズルと、形成されているノズルを上記液晶材料吐出装置に装着し、エマチック液晶材料の吐出試験を行った。
【0045】
前記撥液被膜902を有さず、ステンレスから成るノズル本体701が露出したノズルによって液晶材料を吐出すると、図10(a)に示すように、ノズルの側面に液晶材料が接触したときに液晶材料がノズルの表面上を広がり、ノズルの先端が液溜まり1003で覆われた状態になってしまう。
【0046】
実験では、液晶材料としてネマチック液晶を用い、191ミリ秒間隔で5μLの吐出を249回連続吐出すると、ステンレスから成るノズル本体701が露出したノズルでは、図13の写真に示すような液溜まりが形成された。液溜まり1003によってノズルの吐出口が覆われると、液晶材料の液滴を吐出できなくなる。
【0047】
本発明のノズルは、吐出口に近い外周表面が撥液被膜で被覆されているので、図10(b)に示すように、液溜まりが形成されず、液晶材料の吐出量およびその位置精度が十分満たされる。本発明の液晶材料吐出装置の場合、撥液被膜を形成していないノズルと同じ条件で吐出試験を6時間行っても、図14の写真に示すように、液溜まりは生じず、液晶材料の吐出の滞りや不均一な液量での吐出は見られなかった。
さらに、吐出された液晶材料には撥液被膜に由来する微小片等の汚染は見られず、また、液滴の吐出精度も高く、液滴の着弾位置の精度も高かった。
【0048】
上記各実施例では、ルビーやステンレスのノズル本体が貫通孔内に露出されていたが、ノズル本体の表面に非撥液性の膜が配置されている場合、非撥液性の膜もノズル本体に含まれる。要するに、貫通孔内は、撥液被膜が形成されていなければよい。
【0049】
なお、水と各材料との間の接触角を測定したところ、ステンレス上では60.5°であり、上記の撥液被膜上では109°〜110°であった。水のルビー上の接触角は、少なくともステンレスよりも小さい。ステンレスや他の材料を被覆する非撥液性の薄膜上の接触角も少なくともステンレスよりも小さい。
【0050】
上記のパーフルオロアルキル基を含む樹脂は、化学構造中にパーフルオロアルキル基を主鎖や側鎖に有する高分子化合物であり、単分子膜の場合も含む。パーフルオロアルキル基を有する樹脂も同じ意味である。
【実施例3】
【0051】
ノズル孔開口径が0.3mmのルビー製ノズル本体の表面に、スパッタリング法により、厚さ20nmのクロム層と、厚さ300nmのプラチナ層を記載した順番に積層した。このとき、クロム層とプラチナ層の導電膜は、ノズル本体の表面(外周面)には形成されるが、ノズル本体の貫通孔内壁面は、ノズル本体の影となってスパッタリング粒子が到達せず、導電膜が形成されない。
ニッケルと、カチオン系界面活性剤と、PTFE(ポリテトラフルオロエタン)粒子とが分散された樹脂原料液を作成し、導電膜が形成された状態のノズル本体301を樹脂原料液に浸漬し、電界メッキ法により、ニッケル金属膜中にPTFE粒子が分散された状態の撥液被膜(膜厚20μm)を導電膜のプラチナ層表面に形成してノズルを得た。
上述したように、貫通孔内壁面には導電膜は形成されず、ルビーが露出しており、電界メッキ法ではルビーのような絶縁材料に金属膜が析出しないから、貫通孔内壁面には撥液被膜が形成されない。従って、このノズルはノズル本体の表面上だけに撥液被膜が形成されている。
【0052】
このノズルを図1の液晶材料吐出装置に取り付け、液晶材料としてネマチック液晶を用い、186ミリ秒間隔で2μLの吐出を249回連続吐出する液晶材料吐出試験を行ったところ、ノズル先端部やその表面には不均一な液溜まりは見られず、液晶材料の吐出量及びその位置精度が十分満たされていることが分かる。
更に、上記液晶材料吐出試験と同じ条件で4時間連続液晶材料の吐出を行っても、液晶材料の吐出が滞るといった不具合は見られなかった。
以上は、撥液被膜の金属膜としてニッケル金属膜を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の金属膜を用いることもできる。
以上は、導電膜をスパッタリング法により成膜する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、蒸着法で成膜してもよい。蒸着法で成膜する場合も、貫通孔内壁面は、ノズル本体の影となって、導電性材料の蒸気が到達しないので、導電膜が形成されない。
要するに、真空雰囲気中で、スパッタリング粒子や蒸気のような導電材料粒子をノズル本体に到達させて導電膜を形成する方法では、ノズル本体表面には導電膜が形成されるが、貫通孔内壁面は導電材料粒子が到達せず、導電膜が形成されない。従って、導電膜形成後に、電解メッキ法で撥液被膜を形成すれば、ノズル本体表面上に撥液被膜が形成され、貫通孔内壁面には撥液被膜が形成されていないノズルが得られる。
貫通孔の内壁面には撥液被膜が形成されず、ノズル本体の構成材料が露出しており、撥液被膜は、ノズル本体の構成材料(ここではルビー)よりも撥液性が高いので、ノズル表面は貫通孔内壁面よりも撥液性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のノズル製造装置を説明するための図
【図2】ルビーから成るノズルの概要図
【図3】そのノズルの先端部分を説明するための断面図
【図4】そのノズルの撥液被膜を説明するための図
【図5】本発明の液晶材料吐出装置を説明するための図
【図6】ルビーから成るノズルの、(a):液溜まりが生じた場合の模式図 (b):液溜まりが生じない場合の模式図
【図7】ステンレスから成るノズルを説明するための図
【図8】そのノズルの先端部分を説明するための断面図
【図9】撥液被膜を説明するための先端部分の拡大図
【図10】ステンレスから成るノズルの、(a):液溜まりが生じた場合の模式図 (b):液溜まりが生じない場合の模式図
【図11】ルビーから成るノズルの液溜まりが生じた場合の写真
【図12】ルビーから成るノズルの液溜まりが生じない場合の写真
【図13】ステンレスから成るノズルの液溜まりが生じた場合の写真
【図14】ステンレスから成るノズルの液溜まりが生じない場合の写真
【符号の説明】
【0054】
101、503……ノズル
201、301、401、701……ノズル本体
103……保持腕
108……原料容器
109……樹脂原料液
202……貫通孔
402……撥液被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に貫通孔を有し、前記貫通孔を通った液晶材料が、前記貫通孔の先端の吐出口から吐出されるノズルであって、
前記貫通孔が形成されたノズル本体と、
前記ノズル本体の前記吐出口の周囲の外周面に配置され、前記貫通孔の内周面よりも撥液性が高い撥液被膜とを有するノズル。
【請求項2】
前記撥液被膜が、パーフルオロアルキル基を含む高分子化合物で構成された請求項1記載のノズル。
【請求項3】
前記撥液被膜が、フッ素樹脂粒子が分散された金属膜で構成された請求項1記載のノズル。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のノズルと、
前記ノズルに液晶材料を供給するシリンダとを有し、
前記貫通孔内の前記液晶材料が間欠的に押し出され、前記液晶材料が液滴となって吐出される液晶材料吐出装置。
【請求項5】
内部に貫通孔を有し、前記貫通孔を通った液晶材料が、前記貫通孔の先端の吐出口から吐出されるノズルを製造するノズル製造方法であって、
前記貫通孔の前記吐出口とは反対側の供給口から、前記貫通孔内に流体を供給し、前記流体を前記吐出口から放出させながら、前記貫通孔を有するノズル本体をパーフルオロアルキル基を含む樹脂原料液中に浸漬し、前記ノズル本体の少なくとも前記吐出口の周囲の部分を前記樹脂原料液で被覆し、
前記樹脂原料液を硬化させ、撥液被膜を形成するノズル製造方法。
【請求項6】
液晶原料が配置される原料容器と、
前記原料容器の上方位置で内部に貫通孔が形成されたノズル本体を保持する、保持腕と、
前記保持腕を降下させ、前記保持腕に保持された一乃至複数個の前記ノズル本体の下端を前記原料容器に配置された前記液晶原料に浸漬する昇降機構と、
前記ノズル本体の上端に接続され、前記貫通孔内に流体を供給するポンプとを有するノズル製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−178852(P2008−178852A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59502(P2007−59502)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】