説明

ハイサイクル成形用エポキシ樹脂組成物、硬化樹脂、および繊維強化複合材料

【課題】ハイサイクル成形による強化繊維複合材料の製造に適したエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】以下の成分
A:フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、
B:グリシジルアミン型エポキシ樹脂、
C:フルオレン骨格を有さないグリシジルエーテル型樹脂、及び
D:脂肪族環式第一アミン
を含有し、全エポキシ樹脂100質量部中、成分Aが5〜40質量部であり、20℃における組成物粘度が0.1Pa・s以上3Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用構造材料、鉄道車両用構造材料をはじめとして、ゴルフシャフト、釣り竿等のスポーツ用途、その他一般産業用途に好適に適用しうる繊維強化複合材料に関するものである。又、本発明は、繊維強化複合材料をハイサイクル成形するのに適したエポキシ樹脂組成物及び該組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業界では、現在使用されている金属材料に代わる、より軽量、強靭で難熱性の高い繊維強化複合材料が要求されている。例えば、航空宇宙産業では、金属に代わる構造用複合材料の利用についてかなり研究がなされてきた。熱可塑性もしくは熱硬化性樹脂とガラスもしくは炭素繊維とを主体とする構造用複合材料は、比強度、比弾性率等の機械強度に優れるため、ゴルフシャフトや釣り竿等のスポーツ用途や航空機用構造材料等に従来から現在まで広く使用され、好結果を得ている。
【0003】
かかる複合材料を構成する樹脂には、含浸性や耐熱性に優れる熱硬化性樹脂が用いられることが多く、熱硬化性樹脂には、炭素繊維との接着性に優れること、成形性に優れること、高温、湿潤環境にあっても高度の機械強度を発現することが必要とされる。高度の機械強度を発現するためには、炭素繊維のみでなく樹脂の弾性率も影響するため、樹脂の弾性率の高いものが望まれている。そのため熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、エポキシ樹脂などが用途に応じて使用されている。
【0004】
また、繊維強化複合材料の成形法は、従来のプリプレグを介するオートクレーブ成形等に変わり、今後は生産性の良い、成形型内にマトリックス樹脂を注入し硬化させる、いわゆる注入成形法が主流となると考えられている。また、この注入成形法として、強化繊維の基材を予めセットした成形型内にマトリックス樹脂を注入する、いわゆるレジン・トランスファー・モルディング(RTM)成形法が検討されている。
【0005】
RTM成形法では型内の強化繊維の充填率によって製品のVfがほぼ定まるため、高Vfの繊維強化複合材料を製造するには、型内の強化繊維の充填率を高くしなければならない。充填率が高くなるほど、空隙率は小さくなり、マトリックス樹脂の注入時間が長くかかるようになる。
【0006】
一般的なRTM成形法による成形シーケンスは、繊維基材(プリフォーム)を準備する工程、繊維基材の成形型への設置工程、樹脂注入工程、加熱硬化工程、冷却後脱型する工程とからなっており、樹脂注入工程のみならず、加熱硬化にも数時間を要し、さらに冷却後に脱型するため冷却時間も必要となっている。
【0007】
そこで、これら一連の成形工程を簡略化して、時間短縮を図るハイサイクル成形が提案されている。ハイサイクル成形では、成形型の昇温、降温工程を省略し、成形時間を短縮するため、成形型をマトリックス樹脂の硬化に適した一定温度に保持し、強化繊維基材の成形型への設置、マトリックス樹脂注入、樹脂硬化、脱型を行う。例えば、特許文献1には、このようなハイサイクル成形に適したエポキシ樹脂組成物が開示されている。また、ハイサイクル成形では、注入開始から注入終了までの時間tが10分以下、注入開始から脱型開始までの時間tが60分以下、t/tが1より大きく6以下であることが好ましいとされている。
【0008】
一方、繊維強化複合材料の特性も、例えば、航空機向け材料に使用するには更なる高耐熱性、高強度を有することが要求される。例えば、特許文献2では、フルオレン骨格を有するエポキシ化合物と平均分子量3000以下のアミン官能性ポリエーテルを含み、硬化後に均一な相構造を有するフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−254447号公報
【特許文献2】特開平7−196771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1のエポキシ樹脂組成物は、ハイサイクル成形性には優れているものの、強度の点で改善の余地がある。また、耐熱性に関しては、100℃前後の耐熱性(Tg)しか得られていない。
【0011】
一方、特許文献2の樹脂組成物では、高靱性を有する樹脂が得られ、また、複合材料用樹脂としての適用も示されてはいる。しかしながら、その実施例ではビスフェノールA型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、p−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ポリテトラメチレン・オキシド・ジプライマリー・アミン(PTMO)の混合物を約115−125℃で2時間予備反応させ、さらに、フルオレン骨格を有するアミン(9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン:BAF)を相当量添加してさらに2時間かけて硬化させている。このような樹脂組成では、数十分で繊維基材の設置から脱型まで行うハイサイクル成形には適用できない。また、高靱性を付与するPTMOの添加量の増加と共に耐熱性が低下しており、耐熱性と高靱性の両立に限度がある。
【0012】
そこで、本発明においては、ハイサイクル成形に適し、より高速硬化性、且つ高強度が得られる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂を配合し、さらにRTM成形法によるハイサイクル成形に適したエポキシ樹脂組成物を提供するために種々検討した。その結果、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂は、成形温度においても比較的高粘度であることから、比較的低粘度のグリシジルアミン型エポキシ樹脂を配合して組成物粘度を調整し、さらに、硬化剤として室温付近での活性が低く、加熱下で活性が高くなり、得られる樹脂硬化物の耐熱性を損なわないものを使用することが肝要であることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、
以下の成分
A:フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、
B:グリシジルアミン型エポキシ樹脂、
C:フルオレン骨格を有さないグリシジルエーテル型樹脂、及び
D:脂肪族環式第一アミン
を含有し、全エポキシ樹脂100質量部中、成分Aが5〜40質量部であり、20℃における組成物粘度が0.1Pa・s以上3Pa・s以下である組成物に関する。
【0015】
また、本発明は上記樹脂組成物の硬化物、並びに該樹脂組成物を強化繊維に含浸硬化せしめた強化繊維複合材料に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、強化繊維複合材料を低コストで製造可能なRTM成型法に適し、ハイサイクル成形するに適した速い硬化性を有しており、1サイクルあたり、10分以下という高い成形性を実現できる。また、得られる樹脂硬化物、並びに強化繊維複合材料の強度向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本明細書において、「エポキシ樹脂」とは、重合体(ポリマー)を意味するものではなく、分子内に2個以上のエポキシ基を有する多分子性化合物の総称である。
【0018】
本発明の樹脂組成物に使用される成分Aのフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表されるビス(ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はエポキシ基の反応に実質的に不活性な基、例えばアルキル基を表す。nは0又は1以上の整数を示す。)
【0021】
このようなフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂は市販されており、例えば、ナガセケムテック社製の商品名「オンコートEXシリーズ」(型番:EX−1010、1011、1012、1020,1030,1040、1050)や、大阪ガスケミカル社製の商品名「オグソールシリーズ」(型番:PG、PG−100、EG、EG−210)などが挙げられる。フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂は1種でも、複数種を混合しても良い。
【0022】
成分Bのグリシジルアミン型エポキシ樹脂は、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の酸素原子に代えて窒素原子にグリシジル基が結合した化合物であり、一般的に低粘度(室温で液状)のエポキシ樹脂である。特に、20℃での粘度が1Pa・s以下であるグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。室温で固形のイソシアヌレート型グリシジルアミンは好ましくない。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、ベンゼン環やシクロヘキサン環等の環状構造にジグリシジルアミノ基が直接又は連結基を介して結合した化合物が好ましい。また、分子内に3級アミン構造を有することで、エポキシ樹脂の硬化促進作用を有する。例えば、以下の構造式を有するエポキシ樹脂が例示される。
【0023】
【化2】

【0024】
これらのグリシジルアミン型エポキシ樹脂も市販品が入手可能であり、例えば、日本化薬製の商品名「GAN」(B−1)や「GOT」(B−2)、三菱ガス化学製の商品名「TETRAD−X」(B−3)や「TETRAD−C」(B−4)、三菱化学製の商品名「jER630」(B−5)、Huntsman社製の商品名「MY0500」(B−5)、「MY0510」(B−5)、「MY0600」(B−6)などが挙げられる。成分Bのグリシジルアミン型エポキシ樹脂は1種でも複数種を混合しても良く、特に、得られる樹脂組成物が本発明に規定される粘度となるように適宜調整すればよい。
【0025】
成分Cのフルオレン骨格を含まないグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、フルオレン骨格ほどではないが、芳香環を有することで、得られる硬化物の機械的物性、耐熱性の向上に寄与する。成分Cのフルオレン骨格を含まないグリシジルエーテル型エポキシ樹脂も1種でも複数種を混合しても良い。
【0026】
また、これらエポキシ樹脂を硬化させるために硬化剤(成分D)を含有するが、本発明の樹脂組成物における硬化剤としては、脂肪族環式第一アミン、特に脂環式ポリアミンを使用する。脂肪族環式第一アミンの例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0027】
【化3】

【0028】
これら脂肪族環式第一アミンは、室温付近での活性が低く、樹脂組成物のポットライフが得られると共に、硬化温度においては高い活性を有するようになることで、所定の含浸(樹脂注入)時間を保持し、その後、短時間での硬化を可能とする。また、脂肪族環式第一アミンは、脂肪族非環式第一アミンや芳香族第一アミンよりも、硬化速度や得られる硬化樹脂の耐熱性及び強度に優れる。成分Dの硬化剤は、1種でも複数種を混合して用いても良い。中でも、ノルボルナンジアミン(NBDA)が好ましい。
【0029】
樹脂組成物は、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂が、全エポキシ樹脂100質量部中、5〜40質量部であって、20℃における粘度が、0.1Pa・s以上3Pa・s以下となるように調製される。フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂が、全エポキシ樹脂100質量部中5質量部よりも少ないと、得られる硬化物及び樹脂組成物を含浸硬化させた繊維強化複合材料の機械的強度が十分に得られなくなる。また、20℃における粘度が3Pa・s以下であれば、樹脂含浸時の温度(成形型温度)にて0.3Pa・s以下とすることができるが、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂が、40質量部を超えると、樹脂組成物の20℃における粘度を3Pa・s以下とすることが困難となり、強化繊維への含浸ができなくなる。なお、本発明では、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂を5質量部以上使用するため、20℃における粘度を0.1Pa・sより低くすることは困難である。
【0030】
組成物の粘度調整は、各エポキシ樹脂の成分比を適宜調整して行うが、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂の使用量が多くなるほど、低粘度のグリシジルアミン型エポキシ樹脂の配合量が多くなる傾向にある。しかし、グリシジルアミン型エポキシ樹脂は分子内に3級アミン構造を有するため、その量が多くなるほど、注入温度における粘度上昇が速くなり、強化繊維への含浸時間が短くなる傾向を示す。したがって、グリシジルアミン型エポキシ樹脂の配合量としては、組成物中の全エポキシ基(Ep)中、グリシジルアミノ基(−N−CH−Ep)が20〜80モル%、好ましくは25〜75モル%となるように調整することが望ましい。なお、ジグリシジルアミノ基(−N(CHEP))は2モルとして計算する。
【0031】
通常、全エポキシ樹脂100質量部中、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂が5〜40質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が20〜50質量部、残部がフルオレンを含まないグリシジルエーテル型エポキシ樹脂となる。
【0032】
また、硬化剤である脂肪族環式第一アミンは、ハイサイクル成形に要求される硬化時間を達成するように配合され、特に制限されるものではないが、エポキシ樹脂のエポキシ基とアミノ基の官能基モル比(NH/Ep)が0.1〜2.0、好ましくは、0.2〜1.0となるように配合する。
【0033】
本発明の樹脂組成物には、上記構成成分に加えて、高い難燃性を付与するために、公知の難燃剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。その他、界面活性剤、内部離型剤、色素、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。
【0034】
本発明において用いる強化繊維は、航空機用途、鉄道車両用途で要求される高度の耐湿熱特性、比強度、比弾性率を繊維強化複合材料に発現させることができる。
【0035】
本発明における強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、ナイロン繊維、炭化珪素繊維等を用いることができる。より高い力学特性を得るためには、ガラス繊維、炭素繊維が好ましく用いられ、炭素繊維がより好ましく用いられる。
【0036】
強化繊維として炭素繊維を用いる場合、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性と剛性を両立するために引張弾性率が200GPa以上であるものが好ましい。このような炭素繊維のなかでも、ストランド引張試験における引張伸度が1.5%以上の炭素繊維を用いることが、より耐衝撃性に優れた繊維強化複合材料が得られるため好ましく、引張伸度が1.7%以上の炭素繊維を用いることがより好ましい。
【0037】
また、炭素繊維の引張強度は、3800MPa以上であることが好ましく、より好ましくは4000MPa以上、さらに好ましくは4500MPa以上であるのがよい。3800MPa未満であると、得られる複合材料の引張強度が不充分となり、高度の機械強度が要求される航空機用構造材料や鉄道車両用構造材料などへの適用が困難となる場合がある。
【0038】
本発明における強化繊維は、複数の強化繊維を組み合わせて使用することも可能である。
【0039】
強化繊維の形態や配列については、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップド等から適宜選択できるが、軽量、耐久性がより高い水準にある繊維強化複合材料を得るためには、強化繊維が、織物、一方向ストランド、ロービング等連続繊維の形態であるのが好ましい。ここで、織物は従来公知の織物を使用することができる。また、織物組織としては、縦糸に強化繊維、横糸に目ずれ防止のガラス繊維または有機繊維等を用いた一方向織物、平織、綾織、絡み織、繻子織がよい。なお、織物に色艶等の美観が付与されることから、織物の表面は炭素繊維からなる織物とするのが好ましく使用される。
【0040】
また、強化繊維の形態としてはプリフォームを適用することができる。ここで、プリフォームとは通常、長繊維の強化繊維からなる織物基布を積層したもの、またはこれをステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物・編組物などの繊維構造物を意味する。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて製造される繊維強化複合材料は、その繊維体積分率(Vf)が、好ましくは10〜85%、より好ましくは30〜70%であるのがよい。10%未満であると、得られる複合材料の重量が過大となり、比強度、比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、85%を越えると、樹脂の含浸不良が生じ、得られる複合材料が、ボイドの多いものとなり易く、その機械強度が大きく低下することがある。
【0042】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、以下の工程(1)〜(3)をこの順に行う。
(1)加熱された成形型に、強化繊維を配置させる工程、
(2)前記温度で本発明の樹脂組成物を注入し、強化繊維に樹脂組成物を含浸させる工程、及び
(3)含浸後、前記温度を維持し、脱型可能な硬化度まで硬化させ、成形型から脱型し、繊維強化複合材料を得る工程。
【0043】
本発明における工程(1)では、上記の強化繊維と樹脂組成物を配置させる方法は、目的とする複合材料の生産量、寸法、或いは形状等により適宜使い分けることができる。例えば、比較的、形状が複雑な複合材料を、短時間で大量生産する場合は、RTM法が好ましく用いられる。RTM法では、金属板、フォームコア、ハニカムコア等、前記したプリフォーム以外の素材を成形型内に予めセットしておくことができるため、種々の用途に対応可能である。
【0044】
工程(1)で用いる成形型には、密閉されたものを用いるのが好ましいが、いわゆる真空バギングを使用することもできる。また、成形型の材料には、通常アルミニウム、鋼、ステンレス等の金属を用いるのが好ましい。また、成形型を加熱するため、熱媒循環やヒーターによる加熱機能を付与するのが好ましい。
【0045】
成形型の温度は、樹脂組成物の硬化温度に設定されるが、温度が低すぎると硬化に時間を要し、逆に温度が高すぎると十分な含浸時間が得られない場合がある。本発明では、成形型温度を80〜150℃、好ましくは90〜120℃に設定する。
【0046】
本発明に係る樹脂組成物は、成形型に注入する直前にエポキシ樹脂(成分A〜C)と硬化剤(成分D)とを混合することが好ましく、その際、50℃以下の温度で加熱しても良い。また、工程(2)においては、樹脂組成物は加熱することなく注入しても良いが、加熱した成形型が樹脂注入に伴って冷却されることを避けるため、注入する直前に好ましくは成形型の加熱温度と同等の温度で加熱し、含浸時の樹脂組成物粘度を0.3Pa・s以下にして注入するのが望ましい。RTM成形においては、樹脂組成物を強化繊維に含浸させるために低粘度であることが必須であり、0.3Pa・sを超える粘度では、十分な樹脂含浸が困難となる。本発明に係る樹脂組成物は、室温付近では比較的高い粘度を有しているが、加熱することで急速に粘度が低下し、樹脂組成物の硬化温度(成形型温度)では0.3Pa・s以下まで低下することで、十分な樹脂含浸が可能となる。一方、本発明に係る樹脂組成物は、成形型温度において所定の時間0.3Pa・s以下の粘度を保持した後、急速にゲル化が進行し、短時間で脱型可能な硬化度(90%以上)を得ることができる。工程(2)では、注入時間を短縮するために、樹脂組成物を型内で強化繊維基材の表面全面に速やかに配分し、その後、強化繊維基材の厚み方向に含浸させる方法が好適に用いられる。また、注入時間短縮のため、真空引きや加圧注入等が適宜実施される。
【0047】
工程(3)は、工程(2)に連続しており、樹脂注入が終了した時点で区別される。所定時間成形型温度を維持し、脱型可能な硬化度に達した時点で脱型する。脱型は、成形型を冷却して行うこともできるが、成形型を冷却することなく実施することが好ましく、冷却しないことにより次の成形が速やかに可能となる。
【0048】
ハイサイクル成形においては、成形型の温度を一定とし、基材配置、樹脂含浸、樹脂硬化、脱型の一連の工程を10分以下で実施できることが好ましい。例えば、基材配置を1分以下、樹脂含浸を3分以下、樹脂硬化を5分以下、脱型を1分以下で実施することで、10分以下で1サイクルが完了可能である。このサイクルを繰り返すことで、昇温・降温工程がなく、エネルギーコストを抑えて大量生産が可能となる。
【0049】
脱型後の強化繊維複合材料は、成形温度よりも高温、例えば、130〜250℃の温度で後硬化することもできる。後硬化は、複数の強化繊維複合材料をオーブン等の加熱装置内に配置してまとめて行うことができる。このように後硬化することでさらに強度及び耐熱性を向上させることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は質量部を表す。
【0051】
実施例1
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:「エポトートYD−128」新日鐵化学製、エポキシ当量:184〜194g/eq)40部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(商品名「jER630」三菱化学製、エポキシ当量:90〜105g/eq)40部、フルオレン含有エポキシ樹脂(商品名「オグソールPG−100」大阪ガスケミカル製、エポキシ当量:259g/eq)20部、およびノルボルナンジアミン(NBDA)25部を混合し、100℃にて、5分間硬化し、厚さ2mmの樹脂板を得た。樹脂板は、長さ50mm、幅6mmに切断し、曲げ物性をJIS K7171に準拠して測定し、曲げ強度132MPa、曲げ弾性率2.5GPaの良好な値を得た。また、樹脂組成物を混合後、粘度(20℃)、ゲルタイム(100℃加熱、硬化度90%)、含浸時間(加熱下で粘度0.3Pa・s以下の時間)をレオメータ(ティー・エイ・インスツルメント社製、商品名「ARES」)にて測定し、それぞれ1.7Pa・s、5.1分、3.1分の値を得た。
【0052】
このように、本実施例の樹脂組成物は、初期粘度が3Pa・s以下であることで、樹脂注入時の加熱下において0.3Pa・s以下の粘度を所定時間保持し、粘度が0.3Pa・sを超え、脱型可能な硬化度まで約2分で到達することができる。このため、ハイサイクル成形による強化繊維複合材料の製造が可能となる。
【0053】
また、この樹脂組成物を用いて炭素繊維複合材料(CFRP板)を製造した。成形方法は、成形型を100℃に加熱しておき、CFシート(JX日鉱日石エネルギー社製商品名「グラノックTUクロス」(品番UHM300))を9層設置し、樹脂組成物を圧入し、5分間硬化を行い、厚み2.2mm、300×300mmの成形品を得た。燃焼法にて測定したVfは52%であった。CFRP板の曲げ物性をJIS K7074に準拠し、A法の3点曲げ試験にて、繊維方向100mm長、幅15mmに切断したサンプルにて測定したところ、曲げ強度560MPaの良好な値を得た。
【0054】
実施例2〜13,比較例1,2
エポキシ樹脂を表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂の混合後、粘度(20℃)、ゲルタイム(分)、含浸時間、硬化樹脂の特性、CFRPの特性を評価した。結果を表1に示す。なお、表中、「TETRAD−C」は1,3−ビス(ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(前記式(B−4)、三菱ガス化学社製商品名)、「GOT」は1−グリシジルアミノ−2−メチルベンゼン(前記式(B−2),日本化薬社製商品名)、「YD8125」はビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:「エポトートYD−8125」新日鐵化学製、エポキシ当量:175g/eq)である。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例2では、初期粘度が高く、成形型温度100℃で0.3Pa・s以下の粘度を得ることができなかった。そのため、含浸時間の測定結果はなく、また、含浸困難と判断されたため、CFRP板の製造はしなかった。なお、硬化度10%までの時間は2.2分であった。
【0057】
比較例1では、ゲルタイム、含浸時間とも実施例と比べて遜色なかったが、硬化樹脂及びCFRP板の曲げ強度において、実施例よりも劣る結果となった。また、耐熱性の指標であるガラス転移温度(Tg:DSCにて測定)も110℃と実施例より劣っていた。
【0058】
これに対し、本発明に係る樹脂組成物では、ゲルタイム、含浸時間がハイサイクル成形に適しており、また、硬化樹脂及びCFRP板の曲げ強度において良好な結果が得られている。また、耐熱性の指標であるガラス転移温度(Tg)は、120〜135℃の範囲であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上記説明では、ハイサイクル成形による強化繊維複合材料について説明したが、本発明に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂の一般的用途、例えば、接着剤や電子材料分野への用途に使用することができ、高速硬化可能であり、充填性に優れた硬化物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分
A:フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、
B:グリシジルアミン型エポキシ樹脂、
C:フルオレン骨格を有さないグリシジルエーテル型樹脂、及び
D:脂肪族環式第一アミン
を含有し、全エポキシ樹脂100質量部中、成分Aが5〜40質量部であり、20℃における組成物粘度が0.1Pa・s以上3Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
成分B単独での20℃における粘度が1Pa・s以下であり、成分B中のグリシジルアミノ基の含有量が、全エポキシ基中、20〜80モル%である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
成分Dが、脂環式第一アミンである請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
脂環式第一アミンは、ノルボルナンジアミンである請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
成分Aが、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はエポキシ基の反応に実質的に不活性な基を表す。nは0又は1以上の整数を示す。)
で表される請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
成分Bが、環状構造にジグリシジルアミノ基が直接又は連結基を介して結合した化合物である請求項1乃至5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化樹脂。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を、強化繊維に含浸し、硬化して得られる強化繊維複合材料。
【請求項9】
強化繊維が炭素繊維である請求項8に記載の強化繊維複合材料。
【請求項10】
以下の工程(1)〜(3)をこの順に行う強化繊維複合材料の製造方法。
(1)加熱された成形型に、強化繊維を配置させる工程、
(2)前記温度で請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を注入し、強化繊維に該樹脂組成物を含浸させる工程、及び
(3)含浸後、前記温度を維持し、脱型可能な硬化度まで硬化させ、成形型から脱型し、繊維強化複合材料を得る工程。
【請求項11】
前記成形型の加熱温度が、80℃〜150℃の範囲である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程(1)〜(3)を10分以内で実施する請求項10又は11に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−31293(P2012−31293A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172364(P2010−172364)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】