説明

ハニカム構造体

【課題】欠陥の発生を抑制することができるハニカム構造体を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様であるハニカム構造体200は、互いに略平行な複数の貫通孔70aが形成され、貫通孔70aを隔てる隔壁170cを有するハニカム状の柱状体170と、貫通孔70aの一方の端部を塞ぐ封口部170bと、を備え、一部の貫通孔70aは、貫通孔70aに略直交する柱状体170の第一端面において封口部170bで塞がれ、第二端面において開き、他の貫通孔70aは、第二端面において封口部170bで塞がれ、第一端面において開いており、柱状体170及び封口部170bがセラミックスを含み、セラミックスがチタン酸アルミニウム系セラミックス及び/又はコージェライト系セラミックスであり、隔壁170cと封口部170bとが一体化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム(honeycomb)構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン(diesel engine)などの内燃機関から排出される排ガスに含まれるカーボン粒子等の微細粒子を捕集するためのセラミックスフィルター(DPF:Diesel Particulate Filter)として、多孔質のセラミックスからなるハニカム構造体が用いられている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−119663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DPF用のハニカム構造体は通常柱状体である。柱状のハニカム構造体には、その対向する端面間を貫通する複数の貫通孔が形成されている。ハニカム構造体の一方の端面(第一端面)では、開いた貫通孔の端部と封口部で塞がれた貫通孔の端部とが、格子状に交互に配置されている。第一端面において端部が開いている貫通孔は、第一端面と反対側の第二端面において封口部で塞がれている。また、第一端面において端部が封口部で塞がれている貫通孔は、第二端面において開いている。よって、第二端面においても、開いた貫通孔の端部と封口部で塞がれた貫通孔の端部とが、格子状に交互に配置されている。
【0005】
上記のように貫通孔が封口部で塞がれたハニカム構造体を製造するためには、生の柱状体を焼成する工程と、焼成した柱状体の貫通孔の一端を生の封口材で塞ぐ工程(以下、「封口工程」という。)が必要となる。さらに、封口工程後の柱状体を再び焼成することにより生の封口材を焼結させて封口部を形成する工程も必要となる。そして、従来、封口材としては、柱状体と同様の原料粉末を、同様の配合比で含有するものが用いられてきた。
【0006】
しかし、従来の製造方法では、封口工程後に2回目の焼成工程を実施しても、封口部の焼結収縮の程度が大きかったり、封口部と隔壁の収縮率が大きく相違したりする結果、封口部と貫通孔の隔壁とが十分に焼結しない場合があった。この場合、封口部と隔壁との間に隙間が形成されたり、封口部が貫通孔から脱落したりする。封口部と隔壁との間に隙間が形成された場合、ディーゼル車の走行に伴う振動やPM(Particulate Matter)の燃焼による再生(熱衝撃)によって、隙間を起点としてハニカム構造体にクラック(crack)等の欠陥が発生してしまう。クラックや封口部の脱落等の欠陥は、ハニカム構造体による微細粒子の捕捉率を低下させる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、欠陥の発生を抑制することができるハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のハニカム構造体の一態様は、互いに略平行な複数の貫通孔が形成され、複数の貫通孔を隔てる隔壁を有するハニカム状の柱状体と、貫通孔の一方の端部を塞ぐ封口部と、を備え、複数の貫通孔のうち一部の貫通孔は、貫通孔に略直交する柱状体の第一端面及び第二端面のうち第一端面において封口部で塞がれ、第二端面において開き、他の貫通孔は、第二端面において封口部で塞がれ、第一端面において開いており、柱状体及び封口部が多孔質のセラミックス(ceramics)を含み、セラミックスがチタン酸アルミニウム(aluminum titanate)系セラミックス及び/又はコージェライト(cordierite)系セラミックスであり、隔壁と封口部とが一体化している。
【0009】
上記本発明の一態様では、隔壁と封口部とが焼結し、一体化しているため、封口部と隔壁との間に隙間が形成されない。したがって、本発明では、ハニカム構造体における欠陥の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、欠陥の発生を抑制することができるハニカム構造体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)は、本発明の一実施形態に係るグリーン成形体の斜視図であり、図1(b)は、図1(a)の柱状体の第一端面の正面図である。
【図2】図2(a)は、図1(a)及び1(b)に示すグリーン成形体を焼成することにより形成したハニカム構造体の斜視図であり、図2(b)は、図2(a)のハニカム構造体の第一端面の正面図である。
【図3】図3(a)は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した実施例1のハニカム構造体の第一端面の写真であり、図3(b)は図3(a)の拡大写真であり、図3(c)は図3(b)の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。また、上下左右の位置関係は図面に示す通りであるが、寸法の比率は図面に示すものに限定されない。
【0013】
<グリーン成形体>
図2(a),2(b)に示す本実施形態のハニカム構造体200は、図1(a)及び1(b)に示すグリーン(green)成形体100を焼成することにより得られる。なお、グリーン成形体とは、焼成される前の生の成形体を意味する。
【0014】
グリーン成形体100は、ハニカム構造を有する円柱体(柱状体70)である。柱状体70は、その中心軸(柱状体70の円形の断面に垂直であり、円形の断面の中心を通る直線)に平行であり、互いに直交する複数の隔壁70cを有する。つまり、柱状体70は、その中心軸方向に垂直な断面において格子構造を有する。換言すれば、柱状体70には、同一方向(中心軸方向)に延びる多数の貫通孔70a(流路)が形成されており、隔壁70cが各貫通孔70aを隔てる。各貫通孔70aは柱状体70の両端面に垂直である。なお、柱状体70が有する複数の隔壁70cが互いになす角は特に限定されず、図1(b)のように90°であってもよく、120°であってもよい。
【0015】
複数の貫通孔70aのうち一部の貫通孔は、貫通孔に直交する第一端面において封口材70bで塞がれている。第一端面では、封口材70bで塞がれた貫通孔70aの端部と開いた貫通孔70aの端部とが、格子状に交互に配置されている。第一端面において封口材70bで塞がれた貫通孔70aは、第一端面と反対側の第二端面において開いている。第一端面において開いている貫通孔70aは、第二端面において封口材70bで塞がれている(図示省略)。よって、第二端面においても、封口材70bで塞がれた貫通孔70aの端部と開いた貫通孔70aの端部とが、格子状に交互に配置されている。このように、複数の貫通孔70aは、第一端面又は第二端面のいずれか一方の面において封口材70bで塞がれている。
【0016】
(柱状体)
柱状体70は、無機化合物源粉末、造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を混練機等により混合して調製した原料混合物を成形することにより得られる。無機化合物源粉末は、チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末を含む。なお、セラミックスの原料粉末とは、焼成によりセラミックスになるものである。チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末とは、例えば、チタン源粉末及びアルミニウム源粉末である。無機化合物源粉末は、更にマグネシウム源粉末及びケイ素源粉末を含んでもよい。原料混合物は、チタン酸アルミニウム系セラミックスそのものを含んでもよい。これにより、焼結に伴う柱状体70の収縮率が低減される。なお、チタン酸アルミニウム系セラミックスとは、例えば、チタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムである。
【0017】
[アルミニウム源]
アルミニウム源は、チタン酸アルミニウム焼結体を構成するアルミニウム成分となる化合物である。アルミニウム源としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)が挙げられる。アルミナの結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0018】
アルミニウム源は、単独で空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0019】
アルミニウム塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。具体的なアルミニウム無機塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩、炭酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、例えば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0020】
アルミニウムアルコキシドとして具体的には、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0021】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、例えば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、例えば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0022】
アルミニウム源としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記のなかでも、アルミニウム源としては、アルミナが好ましく用いられ、より好ましくは、α型のアルミナである。なお、アルミニウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0024】
アルミニウム源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するアルミニウム源粉末の粒子径は20〜60μmの範囲内であればよい。なお、この粒子径は、D50又は平均粒子径とも呼ばれる。焼成時の収縮率低減の観点からは、D50が30〜60μmの範囲内であるアルミニウム源粉末を用いることが好ましい。
【0025】
原料混合物にはアルミナゾルや後述のシリカゾルを添加することができる。このように、アルミナゾル、シリカゾル等を添加することにより、原料混合物中の微小な粒子同士を吸着させ、グリーン成形体中の粒子径0.1μm以下の粒子の量を、無機化合物源粉末(固形分)の100重量部に対して1〜5重量部とすることができ、これにより500℃における脱脂後の成形体の強度を例えば0.2kgf以上とすることができる。
【0026】
アルミナゾルとは、微粒子状のアルミナを分散質とし、液体を分散媒とするコロイドである。アルミナゾルは、単独でアルミニウム源とすることもできるが、他のアルミニウム源と共に併用されることが好ましい。アルミナゾルの分散媒は、例えば、混合時や仮焼時に蒸発等により除去される。
【0027】
アルミナゾルの分散媒としては、水溶液や各種有機溶媒、例えば、塩酸水溶液、酢酸水溶液、硝酸水溶液、アルコール、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。アルミナゾルとしては、平均粒子径が1〜100nmのコロイド状アルミナゾルが好適に用いられる。このような平均粒子径を有するアルミナゾルを用いることにより、原料混合物中の粒子同士を吸着させられるといった利点がある。また、アルミナゾルの市販品としては、例えば、日産化学工業社製「アルミナゾル100」、「アルミナゾル200」、「アルミナゾル520」、シーアイ化成製「NanoTekAl」等が挙げられる。このうち、日産化学工業社製「アルミナゾル200」を用いることが好ましい。
【0028】
アルミナゾルは、無機化合物源粉末(固形分)の100重量部に対して固形分で0〜10重量部、好ましくは0〜5重量部用いることができる。アルミナゾルは、2種以上混合して用いてもよい。
【0029】
[チタン源]
チタン源は、チタン酸アルミニウム焼結体を構成するチタン成分となる化合物であり、かかる化合物としては、例えば酸化チタンが挙げられる。酸化チタンとしては、例えば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、なかでも酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0030】
チタン源は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えば、チタン塩、チタンアルコキシド、水酸化チタン、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属などが挙げられる。
【0031】
チタン塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタンアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0032】
チタン源としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記のなかでも、チタン源としては、酸化チタンが好ましく用いられ、より好ましくは、酸化チタン(IV)である。なお、チタン源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0034】
チタン源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%に相当するチタン源粉末の粒子径(D50)は0.5〜25μmの範囲内であればよい。十分に低い焼成収縮率の達成のためには、チタン源粉末のD50が1〜20μmの範囲内であることが好ましい。なお、チタン源粉末は、バイモーダルな粒径分布を示すことがあるが、このようなバイモーダルな粒径分布を示すチタン源粉末を用いる場合においては、レーザー回折法により測定される粒径分布における、粒径が大きい方のピークの粒径が20〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0035】
レーザー回折法により測定されるチタン源粉末のモード径は、特に限定されないが、0.3〜60μmの範囲内であればよい。
【0036】
[マグネシウム源]
原料混合物は、マグネシウム源を含有していてもよい。マグネシウム源を含むグリーン成形体100から製造されたハニカム構造体200は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶の焼結体である。
【0037】
マグネシウム源としては、マグネシア(酸化マグネシウム)のほか、単独で空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物が挙げられる。後者の例としては、例えば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0038】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0039】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。なお、マグネシウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0040】
マグネシウム源として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、マグネシアスピネル(MgAl)が挙げられる。
【0041】
マグネシウム源として、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するマグネシウム源粉末の粒子径(D50)は0.5〜30μmの範囲内であればよい。焼成時の収縮率低減の観点からは、D50が3〜20μmの範囲内であるマグネシウム源粉末を用いることが好ましい。
【0043】
グリーン成形体中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源のモル量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源とTiO(チタニア)換算でのチタン源との合計モル量に対して、0.03〜0.15であることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.12である。マグネシウム源の含有量をこの範囲内に調整することにより、耐熱性がより向上された、大きい細孔径および開気孔率を有するチタン酸アルミニウム焼結体を比較的容易に得ることができる。
【0044】
[ケイ素源]
原料混合物は、ケイ素源をさらに含有していてもよい。ケイ素源は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム焼結体に含まれる化合物である。ケイ素源の併用により、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム焼結体を得ることが可能となる。ケイ素源としては、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)が挙げられる。
【0045】
ケイ素源は、単独で空気中で焼成することによりシリカに導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリットなどが挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。なお、ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。ケイ素源として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いることもできる。
【0046】
ケイ素源がガラスフリットである場合、得られるチタン酸アルミニウム焼結体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて、低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0047】
ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸(SiO)を主成分(全成分中50重量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ(Al)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化カルシウム(CaO)、マグネシア(MgO)等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrOを含有していてもよい。
【0048】
ケイ素源として、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
ケイ素源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するケイ素源の粒子径(D50)は0.5〜30μmの範囲内であればよい。グリーン成形体の比重をより向上させ、機械的強度のより高い焼成体を得るためには、ケイ素源のD50が1〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0050】
原料混合物がケイ素源を含む場合、原料混合物中におけるケイ素源の含有量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源とTiO(チタニア)換算でのチタン源との合計量100重量部に対して、SiO(シリカ)換算で、通常0.1重量部〜10重量部であり、好ましくは5重量部以下である。また、原料混合物中におけるケイ素源の含有量は、原料混合物中に含まれる無機化合物源中、2重量%以上5重量%以下とすることがより好ましい。ケイ素源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0051】
マグネシアスピネル(MgAl)などの複合酸化物のように、チタン、アルミニウム、ケイ素およびマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を原料として用いることができる。
【0052】
原料混合物中の無機化合物源粉末100重量部における粒子径0.1μm以下の粒子の含有量を1〜5重量部とする場合、上述のように、原料混合物にアルミナゾルおよび/またはシリカゾルを添加して混合することが好ましい。シリカゾルとは、微粒子状のシリカを分散質とし、液体を分散媒とするコロイドである。シリカゾルは、単独でケイ素源とすることもできるが、他のシリカ源と共に併用されることが好ましい。シリカナゾルの分散媒は、例えば、混合時や仮焼時に蒸発等により除去される。
【0053】
シリカゾルの分散媒としては、水溶液や各種有機溶媒、例えば、アンモニア水溶液、アルコール、キシレン、トルエン、トリグリセリドなどが挙げられる。シリカゾルとしては、平均粒子径が1〜100nmのコロイド状シリカゾルが好適に用いられる。このような平均粒子径を有するシリカゾルを用いることにより、原料混合物中の粒子同士を吸着させ、焼成時に融解し結合させることができるといった利点がある。
【0054】
シリカゾルの市販品としては、例えば、日産化学工業社製「スノーテックス20、30、40、50、N、O、S、C、20L、OL、XS、XL、YL、ZL、QAS−40、LSS−35、LSS−45」、旭電化社製「アデライトAT−20、AT−30、AT−40、AT−50、AT−20N、AT−20A、AT−30A、AT−20Q、AT−300、AT−300Q」、触媒化成工業社製「Cataloid S−20L、S−20H、S−30L、S−30H、SI−30、SI−40、SI−50、SI−350、SI−500、SI−45P、SI−80P、SN、SA、SC−30」、デュポン社製「ルドックスHS−40、HS−30、LS、SM−30、TM、AS、AM」等が挙げられる。このうち、中性域でコロイド状態が安定な「スノーテックスC」を用いることが好ましい。
【0055】
原料混合物におけるシリカゾルの含有量は、無機化合物源粉末(固形分)の100重量部に対して固形分で0〜10重量部、好ましくは0〜5重量部であればよい。2種以上のシリカゾルを混合して用いてもよい。
【0056】
[有機バインダ]
有機バインダとしては、水溶性の有機バインダが好ましい。水溶性の有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩などが挙げられる。
【0057】
有機バインダの量は、無機化合物源粉末の100重量部に対して、通常20重量部以下であり、好ましくは15重量部以下、さらに好ましくは6重量部である。また、有機バインダの下限量は、通常0.1重量部、好ましくは3重量部である。
【0058】
[溶媒]
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類、および水などの極性溶媒を用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。溶媒の使用量は、無機化合物源粉末の100重量部に対して、通常、10重量部〜100重量部、好ましくは20重量部〜80重量部である。なお、溶媒として非極性溶媒を用いてもよい。
【0059】
[その他の添加物]
原料混合物は、有機バインダ以外の有機添加物を含むことができる。その他の有機添加物とは、例えば、造孔剤、潤滑剤および可塑剤、分散剤である。
【0060】
造孔剤としては、グラファイト等の炭素材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類、でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物材料、氷、及びドライアイス等などが挙げられる。造孔剤の添加量は、無機化合物源粉末の100重量部に対して、通常、0〜40重量部であり、好ましくは0〜25重量部である。造孔剤はグリーン成形体の焼成時に消失する。したがって、チタン酸アルミニウム焼結体では、造孔剤が存在していた箇所に微細孔が形成される。
【0061】
潤滑剤及び可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ステアリン酸Al等のステアリン酸金属塩などが挙げられる。潤滑剤及び可塑剤の添加量は、無機化合物源粉末の100重量部に対して、通常、0〜10重量部であり、好ましくは1〜5重量部である。
【0062】
分散剤としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸等の有機酸、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の界面活性剤などが挙げられる。分散剤の添加量は、無機化合物源粉末の100重量部に対して、通常、0〜20重量部であり、好ましくは2〜8重量部である。
【0063】
(封口材)
図1bに示される封口材70bは、チタン酸アルミニウム系セラミックスを含む。セラミックスとは、例えば、チタン酸アルミニウム系セラミックスの粉末又は粒子である。また、封口材70bは、柱状体70と同様に、上記の造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を含有する。これらの成分を所定の比率で混合することにより、ペースト状の封口材70bが得られる。なお、ハニカム構造体の製造過程で得られるセラミックスの屑やハニカム構造体の破損品等を粉砕して得たセラミックスの粉末を、封口材70b用のセラミックス粉末として再利用しても良い。これにより、ハニカム構造体の原料コストが削減される。封口材70bは、チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末(無機化合物源粉末)を含んでもよく、含まなくてもよい。焼結に伴う封口材70bの収縮率を低減するためには、封口材70bがセラミックス粉末を含有し、セラミックスの原料粉末を含有しないことが好ましい。セラミックス粉末の平均粒径は、特に限定されないが、5〜50μm程度であればよい。
【0064】
焼結に伴う柱状体70の収縮率は、封口材70bの収縮率以上であることが好ましい。つまり、R1がR2よりも大きくなるほど、貫通孔70aが封口材70bに対して相対的に収縮する。その結果、焼成工程における貫通孔70aの隔壁70cと封口材70bとの密着性及び焼結性が向上し易くなる。具体的には、封口材70bの焼結時の収縮率Rc1は、隔壁70cの焼結時の収縮率Rc2に対して、80〜100%であることが好ましい。なお、Rc1は、例えば下記式(1)から算出すればよい。Rc2は、例えば下記式(2)から算出すればよい。Rc1,Rc2の算出では、グリーン成形体100のセル数に応じて複数の箇所で封口材70b及び隔壁70cそれぞれの収縮率を測定し、その測定値を平均化してもよい。
Rc1=(S1−S2)/S1 (1)
Rc2=(T1−T2)/T1 (2)
【0065】
式(1)中、S1は、柱状体70の貫通孔70aの端部に充填された封口材70bの大きさである。換言すれば、S1は隔壁70cの壁面に垂直な方向における封口材70bの寸法である。よってS1は焼成工程前の貫通孔70aの内径に略等しい。S2は、焼成工程後に得られるハニカム構造体200の貫通孔70aを塞ぐ封口部170b(焼成工程後の封口材70b)の大きさである。換言すれば、S2は焼成後の隔壁70cの壁面に垂直な方向における封口部170bの寸法である。式(2)中、T1は、焼成工程前のグリーン成形体100の隔壁70cの厚さである。式(2)中、T2は、焼成工程後に得られるハニカム構造体200の隔壁170cの厚さである。S1,S2,T1,T2は、例えば以下の方法で測定すればよい。まず、焼成工程前のグリーン成形体100の端面側から任意に測定用のサンプルを切り出す。このサンプルは、セル(貫通孔70a)及びセルを囲う隔壁70c、及びセルを塞ぐ封口部170bを備えるものである。このサンプルにおいてセルを囲う隔壁70aのうち対向する2箇所を剥ぎ落とす。次に、サンプルに残存する隔壁70cの厚みをT1として測定する。また、当該隔壁70cの壁面に対して垂直な方向における封口部170bの最大径をS1として測定する。S1,T1の測定後、サンプルを焼成する。焼成後の隔壁70cの厚みをT2として測定する。当該隔壁70cの壁面に対して垂直な方向における封口部170b(焼成後の封口材70b)の最大径をS2として測定する。S1,S2,T1,T2の測定には、例えば、光学顕微鏡(キーエンス社製、VHX-1000デジタルマイクロスコープ)を使用すればよい。
【0066】
封口材70bの焼結時の収縮率Rc1が、隔壁70cの焼結時の収縮率Rc2に対して、80%未満である場合、隔壁70cが封口部170bに押されるように変形することが問題となる。またRc1がRc2に対して80%未満である場合、封口部170bの周囲の隔壁70cの一部に亀裂が生じることが問題となる。Rc1がRc2に対して100%を超える場合、封口材70bの焼結時の収縮率が柱状体70の収縮率よりも大きくなり、焼結後の封口部170と隔壁との間に隙間が生じる。
【0067】
Rc1をRc2に対して80〜100%とするためには、封口材70b中のセラミックスの含有率を柱状体70(隔壁70c)中のセラミックス及び原料粉末の含有率よりも高くすれば良い。具体的には、封口材70b中のセラミックスの質量は、封口材70b全体を100質量部としたとき、60〜100質量部程度であることが好ましく、75〜95質量部程度であることがより好ましい。柱状体70(隔壁70c)中のセラミックスの含有率は、所望のRc2に応じて適宜この数値範囲よりも小さい値に調整すればよい。例えば、柱状体70中のセラミックス粉末の質量は、柱状体70全体が含有するセラミックス粉末と原料粉末と造孔剤との合計を100質量部としたとき、1〜10質量部程度であることが好ましい。封口材70b中のセラミックスの含有量が小さ過ぎる場合、Rc1が大きくなり過ぎて、封口部170と隔壁70cとの密着性・焼結性が低下し、ハニカム構造体200の封口部170bと隔壁70cとの間に隙間が生じる傾向がある。
【0068】
また、Rc1をRc2に対して80〜100%とするためには、封口材70b中のセラミックスの原料粉末の含有率を柱状体70(隔壁70c)よりも低くすれば良い。具体的には、封口材70b中のセラミックスの原料粉末の含有率は、セラミックスの原料粉末とセラミックス粉末と造孔剤との合計100質量部に対して0〜40質量部であることが好ましい。柱状体70(隔壁70c)中のセラミックスの原料粉末の含有率は、所望のRc2に応じて適宜この数値範囲よりも大きい値に調整すればよい。例えば、柱状体70中の原料粉末の質量は、柱状体70全体が含有するセラミックス粉末と原料粉末と造孔剤との合計を100質量部としたとき、70〜90質量部程度である。封口材70b中のセラミックスの原料粉末の含有量が大き過ぎる場合、Rc1が大きくなり過ぎて、封口部170bと隔壁70cとの密着性が低下する傾向がある。
【0069】
Rc1をRc2に対して80〜100%とするためには、封口材70b中の造孔剤の含有率を柱状体70(隔壁70c)よりも小さくすれば良い。具体的には、封口材70b中の造孔剤の含有率は、セラミックスの原料粉末とセラミックス粉末と造孔剤との合計100質量部に対して0〜6質量部であることが好ましい。柱状体70(隔壁70c)中の造孔剤の含有率は、所望のRc2に応じて適宜この数値範囲よりも大きい値に調整すればよい。封口材70b中の造孔剤の含有量が小さ過ぎる場合、Rc2がRc1よりも大きくなり過ぎて隔壁70cが封口部70bを圧縮し、隔壁70が変形する傾向がある。封口材70b中の造孔剤の含有量が大き過ぎる場合、Rc1が大きくなり過ぎて、封口部170bと隔壁70cとの密着性・焼結性が低下する傾向がある。このように、造孔剤は、気孔を形成し、封口材70bと隔壁70cの収縮率を合わせるための緩衝材として機能する。
【0070】
封口材70bが含有するセラミックス粉末の質量と造孔剤の質量との合計を100質量部とするとき、封口材70bが含有するセラミックスの粉末の質量Mcは80〜100質量部であることが好ましく、90〜100質量部であることがより好ましい。これより、封口材70bと柱状体70の焼結時の収縮率が一致し、封口材70bと隔壁70cとの焼結性が向上し易くなる。Mcが小さ過ぎる場合、封口材70b中の造孔剤の質量が大きい。その結果、封口材70bの焼結時の収縮率がグリーン成形体100の収縮率よりも大きくなり、焼結後の封口部170bと隔壁70cとの間に隙間が生じる傾向がある。
【0071】
なお、封口材70bの固液分離を防止するためには、封口材70bを粘調な液状とすることが好ましい。そのためには、封口材70bが含有するセラミックス粉末の質量と造孔剤の質量との合計を100質量部とするとき、封口材70b中のバインダの質量を0.3〜3質量部、潤滑剤の質量を3〜20質量部とし、封口材70bの粘度を20〜200Pa・sとすることが好ましい。
【0072】
<ハニカム構造体>
上記のグリーン成形体100を焼成することにより、柱状体70及び封口部70bが含むセラミックス粉末やセラミックスの原料粉末が焼結する。封口材70bは隔壁70cと焼結し、一体化して、封口部170bを形成する。その結果、図2(a)及び2(b)に示すように、多孔質のチタン酸アルミニウム系セラミックスからなるハニカム構造体200(多セル型セラミックモノリス)が得られる。ハニカム構造体200は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウム(AlTiO)又はチタン酸アルミニウムマグネシウム(Al2(1−x)MgTi(1+x))の結晶パターンのほか、アルミナ、チタニアなどの結晶パターンを含んでいてもよい。ハニカム構造体200はケイ素を含有してもよい。ハニカム構造体200はグリーン成形体100と同様の構造を有し、DPFに好適である。
【0073】
特に、チタン酸アルミニウムマグネシウム焼結体からなるDPFは、SiC、コージェライト又はチタン酸アルミニウム単体からなるDPFに比べて、熱膨張係数が極めて小さく、融点が高く、再生時の耐熱衝撃性に優れ、煤の限界堆積量が大きい点において優れている。DPF用のハニカム構造体200の隔壁表面に、アルミナ等の担体に担持された白金系金属触媒や、セリア又はジルコニア等の助触媒を付着させてもよい。
【0074】
チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるアルミニウムの含有率は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム換算で40〜60モル%である。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるチタンの含有率は、特に限定されないが、例えば、酸化チタン換算で35〜55モル%である。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるマグネシウムの含有率は酸化マグネシウム換算で1〜5質量%であることが好ましい。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるケイ素の含有率は酸化ケイ素換算で2〜5質量%であることが好ましい。なお、チタン酸アルミニウム系セラミックスの組成は、原料混合物の組成により適宜調整すればよい。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、上記の成分以外に、原料に由来する成分又は製造工程において不可避的に仕掛品に混入する微量の成分を含有し得る。
【0075】
貫通孔70aの長手方向に垂直な断面の内径(正方形の一辺の長さ)は特に限定されないが、例えば0.8〜2.5mmである。貫通孔70aが延びる方向におけるハニカム構造体200の長さは特に限定されないが、例えば40〜350mmである。また、ハニカム構造体200の外径も特に限定されないが、例えば10〜320mmである。貫通孔70aが延びる方向における封口部170bの長さは特に限定されないが、例えば1〜20mmである。ハニカム構造体200の端面に開いている貫通孔70aの数(セル密度)は特に限定されないが、例えば150〜450cpsiである。cpsiとの単位は「/inch」を意味し、「/(0.0254m)」に等しい。貫通孔70aの隔壁の厚さは特に限定されないが、例えば0.15〜0.76mmである。ハニカム構造体200の有効気孔率は30〜60体積%程度である。ハニカム構造体200に形成された細孔の平均直径は1〜20μm程度である。細孔径分布(D90−D10)/D50は0.5未満程度である。なお、D10、D50、D90は、全細孔容積のうち累積細孔容積が各々10%、50%、90%になるときの細孔直径である。
【0076】
本実施形態のグリーン成形体100においては、生(未焼結)の柱状体70の貫通孔70aが既に生の封口材70b(焼結前の封口部170b)で塞がれている。よって、グリーン成形体100を1回焼成するたけで、隔壁70c及び封口材70bの焼結が略同時に進行する。その結果、焼成により得られたハニカム構造体200において、隔壁170c及び封口部170bが焼結し、両者が一体化する。すなわち、焼成前のグリーン成形体100の隔壁70cと封口材70bとの間に存在していた界面が、焼成後のハニカム構造体200において解消する。つまり、焼成前の隔壁70c中の原料粉末と封口材70b中のセラミックスとが焼結してセラミックスの結晶粒子を形成する結果、ハニカム構造体200の隔壁170cの組織構造と封口部170bと組織構造とが、識別が容易ではないほど略一体化する。なお、組織構造とは、例えば、セラミックスの結晶粒子の組成及び形状ならびに結晶粒子間に形成された細孔の形状である。
【0077】
<ハニカム構造体の製造方法>
(原料混合物の調製工程及び成形工程)
柱状体70を形成するために、無機化合物源粉末、造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を混練機等により混合して原料混合物を調製する。格子状の開口を有するダイを備える押出成形機を用いて、原料混合物を成形することにより、柱状体70を形成する。なお、押出成形前の原料混合物を混練してもよい。
【0078】
(封口材の調製工程)
セラミックス粉末を含有させ、成分の配合比を調整すること以外は、柱状体70用の原料混合物と同様の方法で、封口材70bを調製する。
【0079】
(封口工程)
封口工程では、柱状体70において複数の貫通孔70aが開いている第一端面に第一マスクを貼り付ける。第一マスクでは、貫通孔70aと略同様の寸法を有するマスク部と複数の開口部とが千鳥状に配置されている。各貫通孔70aと各マスク部及び開口部とが重なるように、柱状体70の第一端面に第一マスクを貼り付ける。また、柱状体70において第一端面とは反対側の第二端面に、第二マスクを貼り付ける。第二マスクが有する開口部とマスク部の配置関係は第一マスクとは真逆である。したがって、第一端面側で第一マスクのマスク部に塞がれた貫通孔70aは、第二端面側で第二マスクの開口部と重なる。第二端面側で第二マスクのマスク部に塞がれた貫通孔70aは、第一端面側で第一マスクの開口部と重なる。したがって、柱状体70に形成された複数の貫通孔70aのいずれも、第一端面又は第二端面のいずれか一方において開き、他方においてマスク部で塞がれる。
【0080】
第一端面に対する封口工程では、第一マスクの開口部と重なる各貫通孔70aの端部内に上記の封口材70bを導入する。なお、貫通孔70aに封口材を導入した後、柱状体70全体を振動器により振動させてもよい。これにより、貫通孔70aの端部の隙間に隈なく封口材70bが充填され易くなる。
【0081】
以上の第一端面に対する封口工程後、第一端面に対する封口工程と同様に、第二マスクが貼られた第二端面に対する封口工程を実施する。両端面に封口工程を施した後に、各端面から各マスクを剥がす。これにより、図1(a),1(b)に示すグリーン成形体100が完成する。
【0082】
(焼成工程)
グリーン成形体100を仮焼(脱脂)し、且つ焼成することにより、図2(a),2(b)に示すハニカム構造体200を得ることができる。ハニカム構造体200は、押出成形直後のグリーン成形体100の形状をほぼ維持する。本実施形態では、グリーン成形体100の1回の焼成で、隔壁70c及び封口材70bの焼結が略同時に進行してハニカム構造体200が完成するため、2回の焼成工程を必要とする従来の製造方法に比べて生産性が向上する。
【0083】
仮焼(脱脂)は、グリーン成形体100中の有機バインダや、必要に応じて配合される有機添加物を、焼失、分解等により除去するための工程である。典型的な仮焼工程は、焼成工程の初期段階、すなわちグリーン成形体100が焼成温度に至るまでの昇温段階(例えば、300〜900℃の温度範囲)に相当する。仮焼(脱脂)工程おいては、昇温速度を極力おさえることが好ましい。
【0084】
グリーン成形体100の焼成温度は、通常、1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常、1650℃以下、好ましくは1550℃以下である。この温度範囲でグリーン成形体100を加熱することにより、グリーン成形体100中の無機化合物源粉末やセラミックス粉末が確実に焼結する。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。
【0085】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、用いる原料粉末、すなわちアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0086】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0087】
焼成に要する時間は、グリーン成形体100がチタン酸アルミニウム系結晶に遷移するのに十分な時間であればよく、グリーン成形体100の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0088】
なお、グリーン成形体100の仮焼と焼成を個別に行ってもよく、連続して行ってもよい。仮焼工程では、有機バインダその他の有機添加物の熱分解温度以上であり無機化合物源粉末の焼結温度よりも低い温度でグリーン成形体100を加熱すればよい。焼成工程では、仮焼工程後のグリーン成形体100を無機化合物源粉末の焼結温度以上の温度で加熱すればよい。
【0089】
以上、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0090】
例えば、柱状体70や封口材70bは、チタン酸アルミニウム系セラミックスの代わりにコージェライト系セラミックスやシリコンカーバイド等のセラミックスを含んでもよい。また柱状体70や封口材70bは、これらセラミックスの原料粉末を含んでもよい。コージェライト系セラミックスの原料粉末としては、上述したアルミニウム源粉末、シリカ源粉末及びマグネシウム源粉末を用いればよい。ハニカム構造体200の形状は円柱に限定されず、用途に応じて任意の形状をとることができる。例えば、ハニカム構造体200の形状が、多角柱や楕円柱等であってもよい。
【0091】
ハニカム構造体の用途はDPFに限定されない。ハニカム構造体は、ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気ガス浄化に用いられる排ガスフィルター又は触媒担体、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルター、石油精製時に生じるガス成分(例えば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素等)を選択的に透過させるための選択透過フィルターなどのセラミックスフィルターなどに好適に適用することができる。なかでも、セラミックスフィルターなどとして用いる場合、チタン酸アルミニウム系セラミックスは、高い細孔容積および開気孔率を有することから、良好なフィルター性能を長期にわたって維持することができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)
<原料混合物の調製>
柱状体を形成するために、チタン酸アルミニウムマグネシウムの原料粉末(Al,TiO,MgO)、SiO、チタン酸アルミニウムマグネシウムとアルミナとアルミノシリケートガラスとの複合相をもつセラミックス粉末(仕込み時の組成式:41.4Al−49.9TiO−5.4MgO−3.3SiO、式中の数値はモル比を表す。)、有機バインダ、潤滑剤、造孔剤、可塑剤、分散剤及び水(溶媒)を含む原料混合物を調製した。原料混合物中の主な成分の含有量は下記の値に調整した。
【0094】
[原料混合物の成分]
Al:37.3質量部。
TiO:37.0質量部。
MgO:1.9質量部。
SiO:3.0質量部。
セラミックス粉末:8.8質量部。
造孔剤:馬鈴薯から得た平均粒径25μmの澱粉12.0質量部。
有機バインダ1:メチルセルロース(三星精密化学社製:MC−40H)5.5質量部。
有機バインダ2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(三星精密化学社製:PMB−40H)2.4質量部。
【0095】
上記の原料混合物を混練して押出成形することにより、互いに略平行な複数の貫通孔70aが形成され、貫通孔70aを隔てる隔壁70cを有する柱状体70を作製した(図1(a),1(b)参照)。柱状体70に形成された貫通孔70aの内径(正方形の一辺の長さ)は1.2mmであった。柱状体70の端面に開いている貫通孔70aの数(セル密度)は、0.43/mmであった。貫通孔70aが延びる方向における柱状体70の長さは171mmであった。また、柱状体70の端面の外径は162mmであった。
【0096】
<封口材の調製>
セラミックス粉末、造孔剤、有機バインダ、潤滑剤及び溶媒を混合して、実施例1の封口材70bを調製した。セラミックス粉末としては、ハニカム構造体の製造過程で得られた屑や不良品を粉砕することにより調整した粉末を再利用した。このセラミックス粉末は、チタン酸アルミニウムマグネシウムとアルミナとアルミノシリケートガラスとの複合相をもつ粉末(仕込み時の組成式:41.4Al−49.9TiO−5.4MgO−3.3SiO、式中の数値はモル比を表す。)であった。セラミックス粉末の平均粒径は22μmに調整した。造孔剤としては、馬鈴薯から得た平均粒径44μmの澱粉を用いた。有機バインダとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(三星精密化学社製:PMB−15UFF)を用いた。潤滑剤としてはグリセリンを用いた。溶媒としては水を用いた。封口材中のセラミックス粉末、造孔剤、有機バインダ、潤滑剤及び溶媒の配合比は、下記の値に調整した。調製直後の封口材70bの粘度は85.2Pa・sであった。
【0097】
[封口材の成分]
セラミックス粉末:97.0質量部。
造孔剤:3.0質量部。
有機バインダ:0.5質量部。
潤滑剤:5.0質量部。
溶媒:42.0質量部。
【0098】
<封口工程>
封口材70bを用いて柱状体70の第一端面の封口工程を実施した後、第二端面に対する封口工程を実施した。これにより、複数の貫通孔70aのうち一部の貫通孔が柱状体70の第一端面において封口材70bで塞がれ、第二端面において開き、他の貫通孔は、第二端面において封口材70bで塞がれ、第一端面において開いており、封口材70bで塞がれた貫通孔70aの端部と開いた貫通孔70aの端部とが各端面において格子状に交互に配置されている実施例1のグリーン成形体100を得た。
【0099】
<焼成工程>
グリーン成形体100を乾燥させ、1530℃で5時間焼成することにより、チタン酸アルミニウムマグネシウムの焼結体からなる実施例1のハニカム構造体200を得た(図2(a),2(b)参照)。
【0100】
SEMで撮影した実施例1のハニカム構造体の第一端面の写真を図3(a),3(b),3(c)に示す。図3(b)は、図3(a)の点線で囲まれた部分の拡大写真である。図3(c)は、図3(b)の破線で囲まれた部分の拡大写真である。図3(b),3(c)それぞれに示す一対の矢印を結ぶ直線は、グリーン成形体200の隔壁70cと封口材70bとの境界であった部分に対応する。なお、図3(a),3(b),3(c)における暗視野部分は貫通孔70aであり、それを囲む部分がハニカム構造体200(隔壁170c及び封口部170b)である。また、図3(a),3(b),3(c)に示すハニカム構造体200に形成された穴は、ハニカム構造体200の製造過程で形成された欠陥ではなく、ハニカム構造体200の写真撮影のためにハニカム構造体200を研磨する作業において形成されたものである。
【0101】
図3(a),3(b),3(c)に示すように、封口部170bと貫通孔70aの隔壁70cとが剥離することなく十分に焼結していることが確認された。
【0102】
ハニカム構造体200の隔壁170c及び封口部170bのいずれもチタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックスの多孔体であることが確認された。焼成前後で、隔壁170c(70c)がほとんど変形していないことが確認された。封口部170bの角部は中心部に比べて粗な構造を有することが確認された。これは、おそらく、ペースト状の封口材70bが乾燥時に隔壁70c付近から先に乾燥し始めて、最後に、中心部のみが粘性の低いペースト状となり、中心部を構成するセラミックス粉末が凝集したことに起因すると考えられる。隔壁170c近傍に位置する封口部170bの粗な構造は、焼成工程において柱状体70が焼結して大きく収縮しても、柱状体70(隔壁70c)と封口材70bの収縮率を合わせるためのバッファー層としての役割を果たしたことを示している、と考えられる。
【0103】
図3(b),3(c)の拡大写真から明らかなように、封口部170cの組織構造は、隔壁170cの組織構造と一見識別が困難なほどよく似ており、両者の明瞭な境界を確認することができなかった。これは、隔壁170cの組成と封口部170bの組成とは略同一であるため、焼成により両者の多孔質のチタン酸アルミニウムマグネシウム相の組織が一体化していることを示している。この組織の一体化は、ハニカム構造体200の化学的安定性及び耐久性に寄与する。隔壁170cは、セラミックスの原料粉末を含む原料混合物が反応焼結によりチタン酸アルミニウムマグネシウムに変化したものである。そのため、隔壁170cは、セラミックス粉末から形成される封口部170bに比べて少し微細な骨格構造を有することが確認された。一方、封口部170は、隔壁170cに比べて丸みをおびた骨格構造を有することが確認された。また、隔壁170cでは、化学量論的にアルミナが余剰であったため、アルミナ粒が残留していた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の一態様に係るハニカム構造体は、欠陥を生じ難いため、DPF等に好適である。
【符号の説明】
【0105】
70・・・焼成工程前の柱状体、70a・・・貫通孔、70b・・・封口材、70c・・・焼成工程前の隔壁、100・・・グリーン成形体、170・・・柱状体、170b・・・封口部(焼成工程後の封口材)、170c・・・隔壁、200・・・ハニカム構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに略平行な複数の貫通孔が形成され、前記複数の貫通孔を隔てる隔壁を有するハニカム状の柱状体と、
前記貫通孔の一方の端部を塞ぐ封口部と、
を備え、
前記複数の貫通孔のうち一部の前記貫通孔は、前記貫通孔に略直交する前記柱状体の第一端面及び第二端面のうち前記第一端面において前記封口部で塞がれ、前記第二端面において開き、
他の前記貫通孔は、前記第二端面において前記封口部で塞がれ、前記第一端面において開いており、
前記柱状体及び前記封口部が多孔質のセラミックスを含み、
前記セラミックスがチタン酸アルミニウム系セラミックス及び/又はコージェライト系セラミックスであり、
前記隔壁と前記封口部とが一体化している、
ハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−45541(P2012−45541A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154994(P2011−154994)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】