説明

ハロゲン含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体およびハロゲン含有ジフェニルアセチレン化合物

【課題】 高い気体透過性および高い熱安定性を示すポリマー膜を調製できる、新規なハロゲン含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を提供する。
【解決手段】 上記ハロゲン含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は下記式(1)で表される構造を有するものである。
【化1】
(式中、Arはハロゲン化フェニル基であり、Rは水素、水酸基、シリル基またはシロキシ基から選択される少なくとも1種の基であり、nは10以上の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なハロゲン含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体およびその原料となる新規なハロゲン含有ジフェニルアセチレン化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
置換ポリアセチレンは遷移金属触媒を用いた置換アセチレンの重合によって得られ、様々な置換基を有し、主鎖が交互二重結合からなり、着色、半導性、常磁性、高気体透過性などの興味深い特性を示すことが知られている。
【0003】
本発明者らは、置換ポリアセチレンの研究過程で、1-(p-trimethylsilyl)phenyl-2-phenylacetylene(PTMSDPA)の重合により得られるポリマーは様々な有機溶媒に可溶であること、当該ポリマーの分子量は非常に高いこと(重量平均分子量は100万以上)、当該ポリマーはキャスト法により丈夫な自立膜を与え、この膜は高い気体透過性および高い熱安定性を示すことを見出した。具体的には、当該自立膜の酸素透過係数(PO)は25℃で1500barrersであり、空気中での熱重量損失開始温度(T)は420℃と高い(非特許文献1および2参照)。
【0004】
さらに、本発明者らは、上記トリメチルシリル基を有するポリマー膜を脱シリル化することによって、あらゆる溶媒に不溶であるポリ(ジフェニルアセチレン)膜を調製することが可能であるという、非常に興味深い知見を得た(非特許文献3参照)。従来、あらゆる溶媒に不溶なポリマー膜はキャスト法により直接調製することが不可能であったため、得ることができなかった。本発明者らが見出した、シリル基を有するポリマー膜の脱シリル化は、溶媒に不溶なポリマー膜を調製できるという点で、たいへん興味深い膜調製法である。すなわち、あらゆる溶媒に不溶な膜を調製できるということは、気体分離だけでなく有機混合物の分離など、様々な条件で利用可能な分離膜材料の提供を可能とする。上記の脱シリル化反応では、膜状態でシリル基が脱離するため、ポリマー膜内にある程度のミクロボイドを形成すると考えられる。
【0005】
一方、従来、フッ素原子を有するポリアセチレン膜が比較的高い気体透過性を示すことが知られている(非特許文献4および5参照)。また、フッ素は撥水性と撥油性とを併せ持つことから、フッ素含有ポリマーは特異な性質や機能を示すことがよく知られている。しかしながら、フッ素をはじめとするハロゲンを含有する二置換アセチレンポリマーを合成したことは、過去に報告されていない。
【非特許文献1】Tsuchihara, K., Masuda, T., Higashimura, T. J. Am. Chem. Soc., 113, 8548 (1991).
【非特許文献2】Tsuchihara, K., Masuda, T., Higashimura, T. Macromolecules, 25, 5816 (1992).
【非特許文献3】Teraguchi, M., Masuda, T. Macromolecules, 35, 1149 (2002).
【非特許文献4】Hayakawa, Y., Nishida, M., Aoki, T., Muramatsu, H. J. Polym. Sci., PartA: Polym. Chem., 30, 873 (1992).
【非特許文献5】Seki, H., Masuda, T. J. Polym. Sci., PartA: Polym. Chem., 33, 1907 (1995).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
あらゆる溶媒に不溶であり、かつ、高い気体透過性および高い熱安定性を示すポリマー膜を調製可能な上記ポリ(ジフェニルアセチレン)に、フッ素、またはフッ素と同様の性質を示すハロゲンを導入すれば、より一層高い気体透過性やその他の特異な性質を示すポリマー膜が得られることが期待される。
【0007】
しかしながら、上述したように、フッ素を始めとするハロゲンを含有した二置換アセチレンポリマーを合成したことは、過去に報告されていない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来報告されていないハロゲン含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体およびその原料となるハロゲン含有ジフェニルアセチレン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、アセチレンの一方の水素がフェニル基、シリルフェニル基またはシロキシフェニル基で置換されており、他方の水素がハロゲン化フェニル基(例えばフルオロフェニル基)で置換されているジフェニルアセチレン化合物を合成し、これらのモノマーを重合することにより、ハロゲン化フェニル基含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を合成した。さらに、得られたポリマーを製膜し、その後当該ポリマー膜を脱シリル化することにより、あらゆる溶媒に不溶であり、かつ、高い気体透過性を有するポリマー膜が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、次の一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Arは、ハロゲン化フェニル基であり、nは10以上の整数である。)
で表される構造を有することを特徴とする。
【0013】
上記式(1)中、Arは、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、およびブロモフェニル基より選択される少なくとも1種のハロゲン化フェニル基であることが好ましい。
【0014】
また、上記式(1)のArは、下記群(2)
【0015】
【化2】

【0016】
より選択される少なくとも1種のハロゲン化フェニル基であることが好ましい。
【0017】
また、上記式(1)のRに含まれるシリル基またはシロキシ基は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、ジメチルヘキシルシリル基およびt−ブチルジメチルシロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。
【0018】
上記構成により、従来報告されていないハロゲン含有二置換アセチレンポリマーを実現することができる。
【0019】
本発明に係るポリマー膜は、上記本発明に係るポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体の少なくとも一種を含むことを特徴としている。
【0020】
上記構成により、高い気体透過性を有する膜を実現することができる。
【0021】
本発明に係るジフェニルアセチレン化合物は、次の一般式(3)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、Arはハロゲン化フェニル基であり、Xは水素、シリル基またはシロキシ基である。)
で表される構造を有することを特徴としている。
【0024】
上記式のArは、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、およびブロモフェニル基より選択される少なくとも1種のハロゲン化フェニル基であることが好ましい。
【0025】
上記式(3)のArは、下記群(2)
【0026】
【化4】

【0027】
より選択されるハロゲン化フェニル基であることが好ましい。
【0028】
また、上記式(3)のXに含まれるシリル基またはシロキシ基は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、ジメチルヘキシルシリル基およびt−ブチルジメチルシロキシ基からなる群より選択される基であることが好ましい。
【0029】
上記構成のジフェニルアセチレン化合物は、従来報告されていない新規化合物であり、これらを原料モノマーとして、上記本発明に係るポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を製造することができる。
【0030】
すなわち、本発明に係るポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、上記本発明に係るジフェニルアセチレン化合物を重合してなることを特徴としている。さらに、本発明に係るポリマー膜は、上記本発明に係るジフェニルアセチレン化合物を重合してなるポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を製膜することにより得られることを特徴としている。また、上記ポリマー膜のうちシリル基を有するポリマー膜については、さらに脱シリル化することにより得られるポリマー膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、過去に合成例がない、新規なハロゲン含有二置換アセチレンポリマーである。これにより、高い気体透過性および高い熱安定性を示し、さらにハロゲンに起因する特異な性質を示すポリマー膜の素材を提供できるという効果を奏する。また脱シリル化ポリマーおよび脱シロキシ化ポリマーは通常いずれの溶媒にも不溶であるので、有機混合物の浸透気化膜に使用することができるという効果を奏する。
【0032】
本発明のジフェニルアセチレン化合物は、ハロゲンを含有する新規なジフェニルアセチレン化合物である。これらを原料モノマーとして重合することにより、本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
〔ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体〕
本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、上記一般式(1)に示される構造を有するハロゲン含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体であって、Arがハロゲン化フェニル基であり、Rが水素、水酸基、シリル基またはシロキシ基から選択される少なくとも1種の基であればよい。
【0035】
ハロゲン化フェニル基としては、フェニル基の少なくとも1個以上の水素がハロゲンまたはハロゲンを含有する置換基と置換されたものであればよく、特に限定されない。また、本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、上記式(1)のArが一種類のハロゲン化フェニル基からなるものに限定されず、上記式(1)のArに二種類以上のハロゲン化フェニルが含まれているものでもよい。すなわち、本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体には、複数種類のハロゲンを含有する共重合体が含まれる。
【0036】
具体的に、本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、フッ素(F)、塩素(Cl)、および臭素(Br)の少なくとも1種のハロゲンを有することが好ましい。つまり、上記(1)式のArは、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、およびブロモフェニル基より選択される少なくとも1種の基を含むことが好ましい。より具体的には、上記式(1)のArは、上記群(2)に示すフルオロフェニル基、クロロフェニル基、およびブロモフェニル基より選択される少なくとも1種の基を含むことが好ましい。
【0037】
上記群(2)に示すように、上記(1)式のArに含まれるフルオロフェニル基としては、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、3,4-フルオロフェニル基、3,5-フルオロフェニル基、3,4,5-フルオロフェニル基、2,4,6-フルオロフェニル基および4-トリフルオロメチルフェニル基が挙げられる。
【0038】
また、上記群(2)に示すように、上記(1)式のArに含まれるクロロフェニル基としては、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基が挙げられる。
【0039】
また、上記群(2)に示すように、上記(1)式のArに含まれるブロモフェニル基としては、3,4-ジブロモフェニル基、3,5-ジブロモフェニル基、が挙げられる。
【0040】
また、フルオロフェニル基は、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、3,4-フルオロフェニル基、3,5-フルオロフェニル基であることが好ましい。これらの置換基を有するポリマーは高分子量であり、溶解性も優れている。特に好ましくは、3,4-フルオロフェニル基である。この置換基を有するポリマーは特に高い酸素透過性を示す。
【0041】
また、上記式(1)のRは、水素、水酸基、シリル基またはシロキシ基から選択される少なくとも1種の基であればよく、一種類の置換基のみからなるものに限定されず、Rに二種類以上の置換基が含まれているものでもよい。すなわち、本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体には、複数種類のフェニル誘導体を含有する共重合体が含まれる。
【0042】
上記シリル基またはシロキシ基としては、特に限定されないが、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、ジメチルヘキシルシリル基およびt−ブチルジメチルシロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。より好ましくは、トリメチルシリル基およびt−ブチルジメチルシロキシ基である。トリメチルシリル基を有するポリマーから得られる膜は非常に高い気体透過性を示す。また、トリメチルシリル基は脱シリル化が容易である。t−ブチルジメチルシロキシ基はベンゼン環上に水素でなく水酸基を残存させることができる。
【0043】
本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、重合度nが10以上であればよい。好ましくは100〜10の範囲内で選択される。
【0044】
また、上記本発明に係るポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体の分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量は1万以上であることが好ましく、100万以上であることがより好ましい。強度の高い膜を得ることができるからである。
【0045】
上記本発明に係るポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、例えば以下のようにして製造することができる。すなわち、乾燥不活性気体雰囲気下において、その繰り返し単位であるジフェニルアセチレン化合物(原料モノマー)を適当な溶媒中で触媒の存在下に重合させることにより製造することができる。溶液中の原料モノマーの濃度は0.01M〜1M、好ましくは0.05〜0.5Mの範囲に調製する。反応温度は0℃〜150℃、好ましくは60℃〜120℃の範囲で選択され、反応時間10分〜48時間の範囲で選択される。
【0046】
上記不活性気体としては、例えば窒素、アルゴン等を挙げることができる。
【0047】
上記重合溶媒としては、モノマーおよび触媒の種類により種々のものを用いることができ、例えば炭化水素(脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等)、ハロゲン化炭化水素(脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族ハロゲン化炭化水素等)等を挙げることができる。中でも、触媒および生成ポリマーをよく溶解させるトルエン、シクロヘキサン、クロロホルム、クロロベンゼン等が好ましい。溶媒は2種類以上を混合した混合溶媒でもよい。
【0048】
上記重合触媒としては、5族遷移金属触媒が好ましく、具体的には、例えば、五塩化タンタルとテトラブチルスズ、トリエチルシランなどの有機金属化合物との混合触媒などを挙げることができる。
【0049】
なお、本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体の製造に用いられる原料モノマーとしては、後述のジフェニルアセチレン化合物が用いられる。
【0050】
さらに、原料モノマーの重合により製造された本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を脱シリル化して得られるポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体も本発明に含まれる。脱シリル化の方法は特に限定されないが、トリメチルシリル基を有するポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を脱シリル化する方法としては、例えば、トリフルオロ酢酸/ヘキサン混合溶液、トリエチルアミン/ヘキサン混合溶液およびメタノールに順次浸漬する方法を挙げることができる。また、シロキシ基を有するポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を脱シリル化する方法としては、例えば、トリフルオロ酢酸/水混合溶液、炭酸ナトリウム水溶液、水およびメタノールに順次浸漬する方法を挙げることができる。
【0051】
上記式(1)のRが水素である本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、アセチレンの一方の水素がフェニル基で置換されており、他方の水素がハロゲン化フェニル基(例えばフルオロフェニル基)で置換されているジフェニルアセチレン化合物を重合することにより製造することができるが、アセチレンの一方の水素が(トリメチルシリル)フェニル基で置換されており、他方の水素がハロゲン化フェニル基(例えばフルオロフェニル基)で置換されているジフェニルアセチレン化合物を重合することにより製造されるポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を脱シリル化することによっても製造することができる。
【0052】
また、上記式(1)のRが水酸基である本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、アセチレンの一方の水素が(t−ブチルジメチルシロキシ)フェニル基で置換されており、他方の水素がハロゲン化フェニル基(例えばフルオロフェニル基)で置換されているジフェニルアセチレン化合物を重合することにより製造されるポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を脱シリル化することによって製造することができる。
【0053】
本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、従来得られていない新規なハロゲン(例えばフルオロ基)含有二置換アセチレンポリマーであり、後述するポリマー膜(酸素富化膜、二酸化炭素富化膜、浸透気化膜等)の原料、導電性樹脂の原料、フォトレジスト材料、EL材料などに利用することができる。
【0054】
〔ポリマー膜〕
本発明のポリマー膜は、上記本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体の少なくとも一種を含むものであればよい。したがって、一種類の上記ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体のみからなるものでもよく、二種類以上の上記ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体からなるものでもよく、一種類以上の上記ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体とそれ以外の物質とからなるものででもよい。上記ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体以外の物質は、特に限定されない。また、上記ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体以外の物質は、一種類でもよく、複数種類でもよい。
【0055】
本発明のポリマー膜は、例えば以下のようにして製造することができる。すなわち、上記本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を適当な溶媒(例えば、トルエン)に溶解させ、ガラス等にキャストする。溶媒を蒸発させ、完全に乾燥させた後、ガラス等から膜を剥がすことで、ポリマー膜を製造することができる。なお、この方法に限定されるものではない。
【0056】
また、ケイ素を含有する置換基(シリル基またはシロキシ基)を有するポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体から得られたポリマー膜については、さらに脱シリル化することが好ましい。脱シリル化することにより、あらゆる溶媒に不溶のポリマー膜を製造することができる。脱シリル化の方法は特に限定されず、例えば、上記ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体の脱シリル化と同様の方法を用いることができる。
【0057】
本発明のポリマー膜は、ハロゲンを含有しているため、本発明者らにより報告されているPTMSDPA(1-(p-trimethylsilyl)phenyl-2-phenylacetylene)の重合により得られるポリマー膜(非特許文献1および2)と同等以上の熱安定性および気体透過性を有しているため、酸素富化膜等のガス分離膜として有用である。また、脱シリル化後のポリマー膜は、耐溶剤性を有しているため、有機混合物の分離膜として有用である。さらに、シロキシ基を有するポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体膜の脱シリル化により得られる水酸基を有するポリマー膜は、水に対する親和性を有するため、水の分離精製膜、有機無機ハイブリッド膜、有機水溶液の浸透気化膜などに有用である。また、水酸基を有するポリマー膜は二酸化炭素に対して高い選択性を有しており、二酸化炭素分離膜として有用である。
【0058】
〔ジフェニルアセチレン化合物〕
本発明のジフェニルアセチレン化合物は、上記一般式(3)に示される構造を有するハロゲン含有ジフェニルアセチレン化合物であって、Arがハロゲン化フェニル基であり、Xが水素、シリル基またはシロキシ基であればよい。
【0059】
ハロゲン化フェニル基としては、フェニル基の少なくとも1個以上の水素がハロゲンまたはハロゲンを含有する置換基と置換されたものであればよく、特に限定されない。具体的には、上記式(3)のArは、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、およびブロモフェニル基より選択される少なくとも1種の基を含むことが好ましい。より具体的には、上記式(1)のArは、上記記群(2)に示されるフルオロフェニル基、クロロフェニル基、およびブロモフェニル基より選択される少なくとも1種の基を含むことが好ましい。
【0060】
上記群(2)に示すように、フルオロフェニル基としては、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、3,4-フルオロフェニル基、3,5-フルオロフェニル基、3,4,5-フルオロフェニル基、2,4,6-フルオロフェニル基および4-トリフルオロメチルフェニル基からなる群より選択される基が挙げられる。
【0061】
また、上記群(2)に示すように、クロロフェニル基としては、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基からなる群より選択される基が挙げられる。
【0062】
また、上記群(2)に示すように、ブロモフェニル基としては、3,4-ジブロモフェニル基、3,5-ジブロモフェニル基からなる群より選択される基が挙げられる。
【0063】
また、フルオロフェニル基は、3,4-フルオロフェニル基、3,5-フルオロフェニル基であることが特に好ましい。これは、3,4-フルオロフェニル基、3,5-フルオロフェニル基を含むジフェニルアセチレン化合物を重合してなるポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体は、特に高い物質透過性を示すからである。
【0064】
また、上記式(3)のXに含まれるシリル基またはシロキシ基としては、特に限定されないが、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、ジメチルヘキシルシリル基およびt−ブチルジメチルシロキシ基からなる群より選択される基であることが好ましい。より好ましくは、トリメチルシリル基およびt−ブチルジメチルシロキシ基である。トリメチルシリル基は安価に入手可能な試薬を用いて導入することができ、またt−ブチルジメチルシロキシ基は触媒の失活をもたらさず、高分子反応により容易に水酸基に変換できるからである。
【0065】
本発明のジフェニルアセチレン化合物は、例えば以下のようにして合成することができる。すなわち、乾燥不活性気体雰囲気下において、フェニルアセチレン化合物と1-ブロモ-フルオロベンゼンとを適当な溶媒中で触媒の存在下に反応させることにより合成することができる。
【0066】
上記不活性気体としては、例えば窒素、アルゴン等を挙げることができる。上記溶媒としては、例えば、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トルエン、ピリジン、ピペリジンなどを挙げることができる。上記触媒としては、例えば、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、ヨウ化銅、トリフェニルホスフィンなどを挙げることができる。
【0067】
本発明のジフェニルアセチレン化合物は、ハロゲンを含有する新規なジフェニルアセチレン化合物であり、これを重合することにより上記本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を製造することができる。したがって、本発明のジフェニルアセチレン化合物は、上記本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体の原料モノマーとして価値の高いものである。
【0068】
なお本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
〔実施例1.モノマー(ハロゲン化フェニル基含有ジフェニルアセチレン化合物)の合成〕
化合物1a〜1d、1C‐a、および1B‐aの合成について、下記式(4)にしたがって説明する。
【0071】
【化5】

【0072】
(1)1-フェニル-2-(3,4-ジフルオロフェニル)アセチレン(化合物1a)の合成
500mLの三口フラスコに還流管、三方コックをつけ撹拌子を入れた。容器を窒素置換し1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼン(5.0 g, 26 mmol)、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(0.084 g, 0.12 mmol)、ヨウ化銅(0.14 g, 0.72 mmol)およびトリフェニルホスフィン(0.13 g, 0.48 mmol)を入れ、トリエチルアミン(100 mL)を加えた。この溶液にフェニルアセチレン(3.1 g, 30 mmol)を加えて撹拌し、90℃で5時間還流した。反応後、溶媒を減圧留去し、ジエチルエーテルで抽出した。不溶部はろ別し、エーテル溶液を塩酸、水で洗浄後に無水硫酸マグネシウムで脱水した。硫酸マグネシウムをろ別し、ろ液を減圧留去し、茶褐色固体の粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル、移動層:ヘキサン)を用いて精製し、白色固体の化合物1aを得た(収量:3.2 g, 15 mmol、収率:58%、融点81.5−83.0 ℃)。
【0073】
図1に1H-NMRスペクトルチャートを、図2に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.48 (m, 2H, Ar), 7.31 (m, 4H, Ar), 7.18 (m, 1H, Ar), 7.04 (q, 1H, Ar)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 150.4 (Ar), 150.3 (Ar), 131.5 (Ar), 128.5 (Ar), 128.3 (Ar), 128.1 (Ar), 122.5 (Ar), 120.3 (Ar), 120.1 (Ar), 117.3 (Ar), 89.8 (sp-C), 87.2 (sp-C)。
【0074】
(2)1-フェニル-2-(3,5-ジフルオロフェニル)アセチレン(化合物1b)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-3,5-ジフルオロベンゼンを用いて合成した。白色固体の化合物1bを収率70%で得た(融点40.5−41.0 ℃)。
【0075】
図3に1H-NMRスペクトルチャート、図4に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.52 (m, 2H, Ar), 7.36 (m, 3H, Ar), 7.03 (m, 2H, Ar), 6.79 (m, 1H, Ar)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 162.5 (Ar), 131.7 (Ar), 128.9 (Ar), 128.4 (Ar), 125.9 (Ar), 122.2 (Ar), 114.5 (Ar), 104.3 (Ar), 91.2 (sp-C), 87.1 (sp-C)。
【0076】
(3)1-フェニル-2-(3,4,5-トリフルオロフェニル)アセチレン(化合物1c)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼンを用いて合成した。白色固体の化合物1cを収率75%で得た(融点95.5−96.5 ℃)。
【0077】
図5に1H-NMRスペクトルチャート、図6に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.50 (s, 2H, Ar), 7.36 (m, 3H, Ar), 7.13 (s, 2H, Ar)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 131.6 (Ar), 128.9 (Ar), 128.4 (Ar), 122.1 (Ar), 116.0 (Ar), 115.9 (Ar), 115.8 (Ar), 115.7 (Ar), 90.9 (sp-C), 86.3 (sp-C)。
【0078】
(4)1-フェニル-2-(2,4,6-トリフルオロフェニル)アセチレン(化合物1d)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-2,4,6-トリフルオロベンゼンを用いて合成した。白色固体の化合物1dを収率63%で得た(融点59.5−61.5 ℃)。
【0079】
図7に1H-NMRスペクトルチャート、図8に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.55 (t, 2H, Ar), 7.35 (m, 3H, Ar), 6.70 (t, 2H, Ar)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 164.4 (Ar), 161.9 (Ar), 128.4 (Ar), 122.1 (Ar), 116.0 (Ar), 115.9 (Ar), 115.8 (Ar), 115.7 (Ar), 90.9 (sp-C), 86.3 (sp-C)。
【0080】
(5)1-フェニル-2-(3,4-ジクロロフェニル)アセチレン(1C‐a)の合成
上記(1)と同様の方法で、1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ヨード-3,4-ジクロロベンゼン(7.0 g, 26 mmol)を用い、三口フラスコの容量を200mLとし、各試薬の使用量を、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(0.073 g, 0.010 mmol)、ヨウ化銅(0.12 g, 0.62 mmol)、トリフェニルホスフィン(0.11 g, 0.42 mmol)、フェニルアセチレン(3.1 g, 30 mmol)として、化合物1C‐aを合成した。白色固体の化合物1C‐aを収率92%で得た(融点74.0−76.0℃)。
【0081】
図42に1H-NMRスペクトルチャート、図43に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H NMR (CDCl3, ppm): 7.61 (d, 1H, Ar), 7.51 (m, 2H, Ar), 7.48-7.32 (m, 5H, Ar). 13C NMR (CDCl3, ppm): 133.1 (Ar), 132.55 (Ar), 132.50 (Ar), 131.6 (Ar), 130.6 (Ar), 130.3 (Ar), 128.7 (Ar), 128.4 (Ar), 123.2 (Ar), 122.4 (Ar), 91.3 (sp-C), 87.0 (sp-C)。
【0082】
(6)1-フェニル-2-(3,4-ジブロモフェニル)アセチレン(1B‐a)の合成
上記(5)と同様の方法で、1-ヨード-3,4-ジクロロベンゼンの代わりに1-ヨード-3,4-ジブロモベンゼンを用いて化合物1B‐aを合成した。白色固体の化合物1B‐aを収率67%で得た(融点95.5−96.5℃)。
図44に1H-NMRスペクトルチャート、図45に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H NMR (CDCl3, ppm): 7.78 (s, 1H, Ar), 7.58 (d, 1H, Ar), 7.51 (t, 2H, Ar), 7.40-7.33 (m, 3H, Ar), 7.30 (d, 1H, Ar). 13C NMR (CDCl3, ppm): 136.2 (Ar), 133.4 (Ar), 131.6 (Ar), 131.3 (Ar), 128.8 (Ar), 128.4 (Ar), 124.8 (Ar), 124.6 (Ar), 124.0 (Ar), 122.4 (Ar), 91.5 (sp-C), 86.9 (sp-C)。
【0083】
次に、化合物1e〜1h、1C‐b、1C‐c、1B‐b、および1B‐cの合成について、下記式(5)にしたがって説明する。
【0084】
【化6】

【0085】
(7)1-[(4-トリメチルシリル)フェニル]-2-(4-フルオロフェニル)アセチレン(化合物1e)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ヨード-4-トリフルオロベンゼン、フェニルアセチレンの代わりに4-トリメチルシリルフェニルアセチレンを用いて合成した。白色固体の化合物1eを収率77%で得た(融点64.0−65.5 ℃)。
【0086】
図9に1H-NMRスペクトルチャート、図10に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.52-7.48 (m, 6H, Ar), 7.03 (t, 2H, Ar), 0.27 (s, 9H, SiCH3)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 162.1 (Ar), 141.1 (Ar), 133.4 (Ar), 133.2 (Ar), 130.6 (Ar), 123.3 (Ar), 119.3 (Ar), 115.7 (Ar), 89.2 (sp-C), 88.6 (sp-C), -1.2 (Si-CH3)。
【0087】
(8)1-[(4-トリメチルシリル)フェニル]-2-(3,4-ジフルオロフェニル)アセチレン(化合物1f)の合成
上記(1)と同様の方法でフェニルアセチレンの代わりに4-トリメチルシリルフェニルアセチレンを用いて合成した。無色透明液体の化合物1fを収率78%で得た。
【0088】
図11に1H-NMRスペクトルチャート、図12に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.48 (m, 4H, Ar), 7.31 (t, 1H, Ar), 7.22 (s, 1H, Ar), 7.08 (m, 1H, Ar), 0.27 (s, 9H, SiCH3)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 151.7 (Ar), 149.2 (Ar), 141.5 (Ar), 133.2 (Ar), 130.6 (Ar), 128.2 (Ar), 122.8 (Ar), 120.5 (Ar), 120.2 (Ar), 117.5 (Ar), 90.0 (sp-C), 87.5 (sp-C), -1.2 (Si-CH3)。
【0089】
(9)1-[(4-トリメチルシリル)フェニル]-2-(3,5-ジフルオロフェニル)アセチレン(化合物1g)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-3,5-ジフルオロベンゼン、フェニルアセチレンの代わりに4-トリメチルシリルフェニルアセチレンを用いて合成した。白色固体の化合物1gを収率71%で得た(融点41.5−42.5 ℃)。
【0090】
図13に1H-NMRスペクトルチャート、図14に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.50 (dd, 4H, Ar), 7.04 (d, 2H, Ar), 6.79 (t, 1H, Ar), 0.28 (s, 9H, SiCH3)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 163.8 (Ar), 142.0 (Ar), 133.3 (Ar), 130.7 (Ar), 126.1 (Ar), 122.5 (Ar), 114.4 (Ar), 104.3 (Ar), 91.5 (sp-C), 87.4 (sp-C), -1.2 (Si-CH3)。
【0091】
(10)1-[(4-トリメチルシリル)フェニル]-2-(3,4,5-トリフルオロフェニル)アセチレン(化合物1h)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼン、フェニルアセチレンの代わりに4-トリメチルシリルフェニルアセチレンを用いて合成した。白色固体の化合物1hを収率82%で得た(融点49.0−50.0 ℃)。
【0092】
図15に1H-NMRスペクトルチャート、図16に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.49 (dd, 4H, Ar), 7.14 (t, 2H, Ar), 0.28 (s, 9H, SiCH3)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 152.4 (Ar), 141.6 (Ar), 131.6 (Ar), 128.9 (Ar), 128.4 (Ar), 122.1 (Ar), 119.2 (Ar), 115.9 (Ar), 90.9 (sp-C), 86.3 (sp-C), -1.2 (Si-CH3)。
【0093】
(11)1-[(4-トリメチルシリル)フェニル]-2-(3,4-ジクロロフェニル)アセチレン(1C‐b)の合成
上記(5)と同様の方法で、フェニルアセチレンの代わりに、4-トリメチルシリルフェニルアセチレン(4.5 g, 26 mmol)を用いて、化合物1C‐bを合成した。白色固体の化合物1C‐b(7.0 g, 22 mmol)を収率85%で得た(融点56‐58℃)。
【0094】
図46に1H-NMRスペクトルチャート、図47に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H NMR (CDCl3, ppm): 7.62 (s, 1H, Ar), 7.50 (d, 2H, Ar), 7.48 (d, 2H, Ar), 7.41 (d, 1H, Ar), 7.34 (d, 1H, Ar), 0.28 (s, 9H, SiCH3). 13C NMR (CDCl3, ppm): 141.8 (Ar), 133.3 (Ar), 133.2 (Ar), 133.1 (Ar), 132.5 (Ar), 130.7 (Ar), 130.6 (Ar), 130.3 (Ar), 123.3 (Ar), 122.7 (Ar), 91.5 (sp-C), 87.3 (sp-C), -1.2 (SiC)。
【0095】
(12)1-[(4-トリメチルシリル)フェニル]-2-(3,5-ジクロロフェニル)アセチレン(1C‐c)の合成
上記(11)と同様の方法で、1-ヨード-3,4-ジクロロベンゼンの代わりに1-ヨード-3,5-ジクロロベンゼンを用いて、化合物1C‐cを合成した。白色固体の化合物1C‐cを収率85%で得た(融点80.5‐81.5 °C)。
【0096】
図48に1H-NMRスペクトルチャート、図49に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H NMR (CDCl3, ppm): 7.52 (d, 2H, Ar), 7.48 (d, 2H, Ar), 7.41 (s, 2H, Ar), 7.32 (s, 1H, Ar), 0.29 (s, 9H, Ar). 13C NMR (CDCl3, ppm): 142.0 (Ar), 134.8 (Ar), 133.3 (Ar), 130.7 (Ar), 129.7 (Ar), 128.5 (Ar), 126.1 (Ar), 122.4 (Ar), 91.9 (sp-C), 87.0 (sp-C), -1.2 (SiC)。
【0097】
(13)1-[4-(トリメチルシリル)フェニル]-2-(3,4-ジブロモフェニル)アセチレン(1B‐b)の合成
上記(11)と同様の方法で、1-ヨード-3,4-ジクロロベンゼンの代わりに1-ヨード-3,4-ジブロモベンゼンを用いて、化合物1B‐bを合成した。白色固体の化合物1B‐bを収率55%で得た(融点95.5-96.5 °C)。
【0098】
図50に1H-NMRスペクトルチャート、図51に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H NMR (CDCl3, ppm): 7.78 (s, 1H, Ar), 7.58 (d, 1H, Ar), 7.50 (d, 2H, Ar), 7.47 (d, 2H, Ar), 7.29 (d, 1H, Ar), 0.28 (SiCH3). 13C NMR (CDCl3, ppm): 141.8 (Ar), 136.2 (Ar), 133.4 (Ar), 133.3 (Ar), 131.3 (Ar), 130.6 (Ar), 124.8 (Ar), 124.6 (Ar), 124.0 (Ar), 122.7 (Ar), 91.7 (sp-C), 87.3 (sp-C), -1.2 (SiC)。
【0099】
(14)1-[4-(トリメチルシリル)フェニル]-2-(3,5-ジブロモフェニル)アセチレン(1B‐c)の合成
上記(11)と同様の方法で、1-ヨード-3,4-ジクロロベンゼンの代わりに1,3,5-トリブロモベンゼンを用いて、化合物1B‐cを合成した。白色固体の化合物1B‐cを収率64%で得た(融点86.0-88.0 °C)。
【0100】
図52に1H-NMRスペクトルチャート、図53に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H NMR (CDCl3, ppm): 7.65-7.52 (m, 3H, Ar), 7.50 (d, 2H, Ar), 7.46 (d, 2H, Ar), 0.28 (SiCH3). 13C NMR (CDCl3, ppm): 142.0 (Ar), 134.9 (Ar), 133.8 (Ar), 133.3 (Ar), 132.9 (Ar), 130.7 (Ar), 126.7 (Ar), 122.6 (Ar), 92.1 (sp-C), 86.7 (sp-C), -1.2 (SiC)。
【0101】
次に、化合物1iの合成について、下記式(6)にしたがって説明する。
【0102】
【化7】

【0103】
(15)1-[(4-トリエチルシリル)フェニル]-2-(3,4,5-トリフルオロフェニル)アセチレン(化合物1i)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼン、フェニルアセチレンの代わりに4-トリエチルシリルフェニルアセチレンを用いて合成した。無色透明液体の化合物1iを収率80%で得た。
【0104】
図17に1H-NMRスペクトルチャート、図18に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.47 (m, 4H, Ar), 7.11 (t, 2H, Ar), 0.96 (t, 9H, SiCCH3), 0.80 (q, 6H, SiCH2C)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 152.3 (Ar), 139.2 (Ar), 134.1 (Ar), 131.3 (Ar), 130.6 (Ar), 122.2 (Ar), 119.3 (Ar), 115.8 (Ar), 91.1 (sp-C), 86.6 (sp-C), 7.3 (SiCH2CH3), 3.3 (SiCH2CH3)。
【0105】
次に、化合物1jの合成について、下記式(7)にしたがって説明する。
【0106】
【化8】

【0107】
(16)1-[(4-トリ-n-プロピルシリル)フェニル]-2-(3,4,5-トリフルオロフェニル)アセチレン(化合物1j)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼン、フェニルアセチレンの代わりに4-トリ-n-プルピルシリルフェニルアセチレンを用いて合成した。無色透明液体の化合物1jを収率75%で得た。
【0108】
図19に1H-NMRスペクトルチャート、図20に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.46 (m, 4H, Ar), 7.13 (t, 2H, Ar), 1.38-1.30 (m, 6H, SiCH2CH2), 0.96 (t, 9H, SiCH2CH2CH3), 0.80-0.77 (m, 6H, SiCH2)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 152.3 (Ar), 140.0 (Ar), 134.0 (Ar), 130.6 (Ar), 122.1 (Ar), 119.1 (Ar), 116.0 (Ar), 91.1 (sp-C), 86.7 (sp-C), 18.5 (SiCH2CH2), 17.4 (SiCH2CH2CH3), 15.1 (SiCH2)。
【0109】
次に、化合物1kの合成について、下記式(8)にしたがって説明する。
【0110】
【化9】

【0111】
(17)1-[(4-ジメチルヘキシルシリル)フェニル]-2-(3,4,5-トリフルオロフェニル)アセチレン(化合物1k)の合成
上記(1)と同様の方法で1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンの代わりに1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼン、フェニルアセチレンの代わりに4-ジメチルヘキシルシリルフェニルアセチレンを用いて合成した。無色透明液体の化合物1kを収率73%で得た。
【0112】
図21に1H-NMRスペクトルチャート、図22に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.48 (m, 4H, Ar), 7.14 (t, 2H, Ar), 1.30-1.25 (m, 8H, SiCH2(CH2)4CH3), 0.86 (t, 3H, SiCH2(CH2)4CH3), 0.74 (t, 2H, SiCH2(CH2)4CH3), 0.26 (s, 6H, SiCH3)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 152.3 (Ar), 141.4 (Ar), 138.9 (Ar), 133.5 (Ar), 130.6 (Ar), 122.3 (Ar), 119.3 (Ar), 115.9 (Ar), 91.1 (sp-C), 86.6 (sp-C), 33.3 (sp3-C), 31.6 (sp3-C), 23.8 (sp3-C), 22.6 (sp3-C9), 15.6 (sp3-C), 14.1 (sp3-C), -3.1 (SiCH2), -3.2 (SiCH3)。
【0113】
次に、化合物1m、1n、1p〜1tの合成について、下記式(9)にしたがって説明する。
【0114】
【化10】

【0115】
(18)1-(3-フルオロフェニル)-2-[(4-t-ブチルジメチルシロキシ)フェニル]アセチレン(化合物1m)の合成
500mLの三口フラスコに三方コックおよび滴下ロートを取り付け、撹拌子を入れて窒素置換した。そこにp-ヨードフェノール(25 g、110 mmol)、イミダゾール(21 g、330 mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(300 mL)を入れた。次ぎにt-ブチルジメチルシリルクロライド (7.1 g、120 mmol)をDMF(250 mL)に溶解させて0℃で滴下ロートからゆっくりと滴下した。滴下後に室温に戻し、そのまま10時間撹拌した。反応溶液にエーテルを加え、さらに水を加えて抽出した。その後エーテル層を1N HClaqで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。エーテルを減圧留去後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル、移動相:ヘキサン)を用いて精製した(収量:34 g、収率:88% )。
【0116】
500mLの三口フラスコに還流管、三方コックをつけ撹拌子を入れた。上記により得られたシロキシヨードベンゼン(34 g、97 mmol)、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(0.28 g, 0.40 mmol)、ヨウ化銅(0.46 g, 2.4 mmol)、トリフェニルホスフィン(0.42 g, 1.6 mmol)を入れ、トリエチルアミン(300 mL)を加えた。この溶液に3-メチル-1-ブチン-3-オール(8.4 g, 100 mmol)を加えて撹拌し、90℃で5時間還流した。反応後、溶媒を減圧留去し、ジエチルエーテルで抽出した。不溶部はろ別し、エーテル溶液を塩酸、水で洗浄後に無水硫酸マグネシウムで脱水した。硫酸マグネシウムをろ別し、ろ液を減圧留去し茶褐色固体の粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル、移動層:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)を用いて精製し目的物を得た。
【0117】
これを500 mLのフラスコに入れ、トルエン(300 mL)と水素化ナトリウム(2.4 g、100 mmol)を加えて5時間還流させた。その後、少量のメタノールを加え、さらに水を加えて分液ロートに移し、数回水で洗浄した。トルエン溶液を硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧留去し、粗成生物をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル、移動層:ヘキサン)により精製し、無色透明液体(シロキシフェニルアセチレン)を収率65%で得た。
【0118】
得られたシロキシフェニルアセチレンと1-ブロモ-3-フルオロベンゼンとを用いて上記(1)と同様の方法により合成した。無色透明液体の化合物1mを収率61%で得た。
【0119】
図23に1H-NMRスペクトルチャート、図24に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.40 (d, 2H, Ar), 7.28 (t, 1H, Ar), 7.26 (s, 1H, Ar), 7.18 (d, 1H, Ar), 7.02 (d, 1H, Ar), 6.81 (d, 2H, Ar), 0.99 (s, 9H), 0.21 (s, 6H)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 163.6 (Ar), 156.2 (Ar), 133.1 (Ar), 129.8 (Ar), 127.3 (Ar), 125.4 (Ar), 120.2 (Ar), 118.1 (Ar), 115.4 (Ar), 115.1 (Ar), 90.3 (sp3-C), 87.0 (sp3-C), 25.7 (SiCCH3), 18.2 (SiC), -4.4 (SiCH3)。
【0120】
(19)1-(4-フルオロフェニル)-2-[(3-t-ブチルジメチルシロキシ)フェニル]アセチレン(化合物1n)の合成
シロキシフェニルアセチレンと1-ブロモ-4-フルオロベンゼンとを用いて上記(1)と同様の方法により合成した。白色固体の化合物1nを収率76%で得た(融点54.0−55.0 ℃)。
【0121】
図25に1H-NMRスペクトルチャート、図26に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.50 (d, 2H, Ar), 7.19 (t, 1H, Ar), 7.11 (d, 1H, Ar), 7.04 (s, 1H, Ar), 7.01 (d, 2H, Ar), 6.82 (d, 1H, Ar), 0.99 (s, 9H), 0.21 (s, 6H)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 163.6 (Ar), 155.4 (Ar), 133.5 (Ar), 129.4 (Ar), 124.8 (Ar), 124.0 (Ar), 123.0 (Ar), 120.6 (Ar), 119.3 (Ar), 115.5 (Ar), 88.9 (sp3-C), 88.0 (sp3-C), 25.7 (SiCCH3), 18.2 (SiC), -4.4 (SiCH3)。
【0122】
(20)1-(3-フルオロフェニル)-2-[(3-t-ブチルジメチルシロキシ)フェニル]アセチレン(化合物1p)の合成
シロキシフェニルアセチレンと1-ブロモ-3-フルオロベンゼンとを用いて上記(1)と同様の方法により合成した。無色透明液体の化合物1pを収率60%で得た。
【0123】
図27に1H-NMRスペクトルチャート、図28に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.29 (d, 1H, Ar), 7.26 (t, 1H, Ar), 7.22 (s, 1H, Ar), 7.19 (t, 1H, Ar), 7.13 (d, 1H, Ar), 7.00 (s, 1H, Ar), 6.98 (d, 1H, Ar), 6.83 (d, 1H, Ar), 0.99 (s, 9H), 0.21 (s, 6H)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 163.5 (Ar), 155.5 (Ar), 129.9 (Ar), 129.8 (Ar), 127.4 (Ar), 125.0 (Ar), 124.9 (Ar), 123.7 (Ar), 123.1 (Ar), 120.9 (Ar), 118.2 (Ar), 115.4 (Ar), 90.1 (sp3-C), 87.8 (sp3-C), 25.7 (SiCCH3), 18.2 (SiC), -4.4 (SiCH3)。
【0124】
(21)1-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-[(4-t-ブチルジメチルシロキシ)フェニル]アセチレン(化合物1q)の合成
シロキシフェニルアセチレンと1-ブロモ-3,5-ジフルオロベンゼンとを用いて上記(1)と同様の方法により合成した。無色透明液体の化合物1qを収率70%で得た。
【0125】
図29に1H-NMRスペクトルチャート、図30に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.39 (d, 2H, Ar), 7.00 (d, 2H, Ar), 7.00 (s, 2H, Ar), 6.81 (d, 2H, Ar), 6.78 (s, 1H, Ar), 0.98 (s, 9H), 0.21 (s, 6H)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 163.8 (Ar), 156.5 (Ar), 133.2 (Ar), 126.3 (Ar), 120.3 (Ar), 114.9 (Ar), 114.2 (Ar), 103.9 (Ar), 91.5 (sp3-C), 86.1 (sp3-C), 25.6 (SiCCH3), 18.2 (SiC), -4.4 (SiCH3)。
【0126】
(22)1-(3,4-ジフルオロフェニル)-2-[(4-t-ブチルジメチルシリル)フェニル]アセチレン(化合物1r)の合成
シロキシフェニルアセチレンと1-ブロモ-3,4-ジフルオロベンゼンとを用いて上記(1)と同様の方法により合成した。白色固体の化合物1rを収率71%で得た(融点34.0−35.0 ℃)。
【0127】
図31に1H-NMRスペクトルチャート、図32に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.38 (d, 2H, Ar), 7.29 (d, 1H, Ar), 7.21 (s, 1H, Ar), 7.11 (d, 1H, Ar), 6.81 (d, 2H, Ar), 0.99 (s, 9H), 0.21 (s, 6H)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 156.3 (Ar), 151.2 (Ar), 148.7 (Ar), 133.0 (Ar), 127.9 (Ar), 120.5 (Ar), 120.3 (Ar), 117.5 (Ar), 117.3 (Ar), 115.3 (Ar), 89.9 (sp3-C), 86.1 (sp3-C), 25.7 (SiCCH3), 18.2 (SiC), -4.4 (SiCH3)。
【0128】
(23)1-[(4-トリフルオロメチル)フェニル]-2-[(4-t-ブチルジメチルシリル)フェニル]アセチレン(化合物1s)の合成
シロキシフェニルアセチレンと1-ブロモ-4-(トリフルオロメチル)ベンゼンとを用いて上記(1)と同様の方法により合成した。無色透明液体の化合物1sを収率85%で得た。
【0129】
図33に1H-NMRスペクトルチャート、図34に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3, ppm): 7.59 (d, 2H, Ar), 7.56 (d, 2H, Ar), 7.41 (d, 2H, Ar), 6.82 (d, 2H, Ar), 0.99 (s, 9H), 0.21 (s, 6H)。13C-NMR (CDCl3, ppm): 156.4 (Ar), 133.2 (Ar), 131.6 (Ar), 130.7 (Ar), 125.2 (Ar), 125.1 (Ar), 120.3 (Ar), 115.2 (Ar), 86.9 (sp3-C), 25.7 (SiCCH3), 18.2 (SiC), -4.4 (SiCH3)。
【0130】
(18)1-[(3,4,5-トリフルオロ)フェニル]-2-[(4-t-ブチルジメチルシリル)フェニル]アセチレン(化合物1t)の合成
シロキシフェニルアセチレンと1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼンとを用いて上記(1)と同様の方法により合成した。無色透明液体の化合物1tを収率78%で得た。
【0131】
図35に1H-NMRスペクトルチャート、図36に13C-NMRスペクトルチャートを示した。結果は以下のとおりである。1H-NMR (CDCl3): 7.34 (d, 2H, Ar), 7.08 (d, 2H, Ar), 6.77 (d, 2H, Ar), 0.99 (s, 9H), 0.21 (s, 6H)。13C-NMR (CDCl3): 156.5 (Ar), 156.2 (Ar), 133.5 (Ar), 133.1 (Ar), 120.3 (Ar), 120.1 (Ar), 115.5 (Ar), 114.8 (Ar), 91.0 (sp3-C), 83.7 (sp3-C), 25.7 (SiCCH3), 18.2 (SiC), -4.4 (SiCH3)。
【0132】
〔実施例2:ポリマー(フルオロ基含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体)の重合〕
上記実施例1で合成した各モノマーを、下記式(10)にしたがって重合し、各二置換アセチレンポリマーを得た。
【0133】
【化11】

【0134】
重合の典型例として1-フェニル-2-(3,4-ジフルオロフェニル)アセチレン(化合物1a)の重合方法を説明する。
【0135】
乾燥窒素雰囲気下、化合物1a(0.43 g, 2.0 mmol)を蒸留したトルエン(5.0 mL)に溶解させた。別の試験管に五塩化タンタル(71 mg, 0.20 mmol)とテトラブチルスズ (0.13 mL, 0.40 mmol)と蒸留したトルエン(4.9 mL)を入れて触媒溶液を調製した。それぞれの試験管を80℃の恒温槽に10分間入れた後、モノマー溶液を触媒溶液に加え、さらに恒温槽にて80℃で24時間反応させた。非常に粘度の高い生成ポリマーはトルエンを加え粘度を下げて多量のメタノールに沈殿させることにより精製した。同様の手順により他のポリマーも得ることができた。
【0136】
表1に、化合物1a〜1t、化合物1C‐a〜1C‐c、または1B‐a〜1B‐c(モノマー)の重合により得られたポリマーの収率、重量平均分子量(Mw)、分散比(Mw/Mn)を示した。表1のポリマーの分子量はGPC(ポリスチレン換算)により算出した。
【0137】
【表1】

【0138】
表1に示したように、化合物1a〜1tのうち化合物1sを除く各モノマーから、対応するポリマー2a〜2r、および2tが収率よく得られた。化合物1sは全く重合が進行しなかった。2e、2f、2g、2j、2k、2m、2n、2p、2qおよび2rはトルエン、クロロホルム、THFなどの一般の有機溶媒に可溶であった。しかし、シリル基を有していないポリマー(2a〜2d)は上述した有機溶媒の全てに不溶であった。また、2h、2iおよび2tもあらゆる溶媒に不溶であった。2e、2f、2g、2j、2k、2m、2qおよび2rは非常に高い分子量を有していた。2nおよび2pは比較的分子量の低いポリマーであった。
【0139】
非常に高い分子量を有するポリマーの1H NMRスペクトルは非常にブロードなピークを示した。また13C NMRを観測することは困難であった。図37にポリマー2eの1H NMRスペクトルチャートを示し、図38にポリマー2fの1H NMRスペクトルチャートを示し、図39にポリマー2gの1H NMRスペクトルチャートを示し、図40にポリマー2jの1H NMRスペクトルチャートを示し、図41にポリマー2kの1H NMRスペクトルチャートを示した。
【0140】
また、表1に示したように、化合物1C‐a〜1C‐c、および化合物1B‐a〜1B‐cの各モノマーから、対応するポリマー2C‐a〜2C‐c、および2B‐a〜2B‐cが収率よく得られた。これらのポリマー2C‐a〜2C‐c、および2B‐a〜2B‐cは、非常に高い分子量を有していた。また、これらのポリマーのうち、2C‐b、2C‐c、2B‐b、および2B‐cは、トルエン、クロロホルム、THFなどの一般の有機溶媒に可溶であった。また、これらポリマーのうち、シリル基を有していないポリマー2C‐aおよび2B‐aは、上述した有機溶媒の全てに不溶であった。また、これらのポリマーは非常に高い分子量を有しており、1H NMRスペクトルは非常にブロードなピークを示した。また13C NMRを観測することは困難であった。図54にポリマー2C‐bの1H NMRスペクトルチャートを示し、図55にポリマー2C‐cの1H NMRスペクトルチャートを示し、図56にポリマー2B‐bの1H NMRスペクトルチャートを示し、図57にポリマー2B‐cの1H NMRスペクトルチャートを示す。
【0141】
〔実施例3:製膜および膜の脱シリル化〕
可溶性のポリマー(2e、2f、2g、2j、2k、2m、2n、2p、2q、2r)についてトルエン溶液を調製し(0.50〜1.0 wt%)、ガラスシャーレにキャストし室温でゆっくりと溶媒を蒸発させた。完全に乾燥した後、膜をはがしポリマーの自立膜を得た。2e、2f、2g、2j、2k、2m、2qおよび2rから自立膜を得ることができた。
【0142】
また、可溶性のポリマー(2C‐b、2C‐c、2B‐b、2B‐c)について、トルエン溶液を調整し(0.30〜0.8 wt%)、ガラスシャーレにキャストし室温でゆっくりと溶媒を蒸発させた。完全に乾燥した後、膜をはがしポリマーの自立膜を得た。
【0143】
トリメチルシリル基を有するポリマー膜(2e、2f、2g、2C‐b、2C‐c、2B‐b、2B‐c)の脱シリル化は、上記非特許文献3に記載の方法と同様にして行った。具体的には、膜をトリフルオロ酢酸/ヘキサン(1/1 vol%)の混合溶液に24〜48時間浸漬し、次にトリエチルアミン/ヘキサン(1/1 vol%)の溶液に24時間浸漬した。最後にメタノールに24時間浸した後、室温で膜を乾燥した。これにより、下記式(11)に示すように、脱シリル化膜(3e、3f、3g、3C‐b、3C‐c、3B‐b、3B‐c)が得られた。
【0144】
【化12】

【0145】
シロキシ基を有するポリマー膜(2m、2q、2r)の脱シリル化は上記非特許文献3と同様にして行った。具体的には、膜をトリフルオロ酢酸/水(9/1 vol%)の混合溶液に24時間浸漬し、次に炭酸水素ナトリウム水溶液に24時間浸漬し、さらに24時間水に浸した。最後にメタノールに24時間浸した後、室温で膜を乾燥した。これにより、下記式(12)に示すように、脱シリル化膜(3m、3q、3r)が得られた。
【0146】
【化13】

【0147】
得られた自立膜および脱シリル化膜について、気体透過性を測定した。測定は、各気体について単独ガスを使用し、1atm以下の圧力領域で理化精機社製K-315-N気体透過測定装置を用いて25℃で行った。結果を表2に示した。
【0148】
【表2】

【0149】
表2に示したように、得られたポリマー膜は比較的高い気体透過性を有していることが分かった。例えば、2f膜の酸素透過係数(PO)は、3600 barrers であり、ハロゲンを有していないPTMSDPA(1-(p-trimethylsilyl)phenyl-2-phenylacetylene)と比較しても2倍以上に上昇していた。また、例えば2C‐b膜の酸素透過性(PO)は、5800 barrers であり、合成したポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体の中で最も高い酸素透過性を示した。同様に、他のポリマー膜も非常に高い気体透過性を示しており、ハロゲンを導入したこれらのポリマー膜が高い気体透過性を示すことが明らかとなった。
【0150】
また、脱シリル化により得られた3e膜、3f膜、3g膜、3C‐b膜、3C‐c膜、3B‐b膜、および3B‐c膜も同様に高い気体透過性を示した。これらは不溶性のポリマー膜であることから、様々な用途に使用できると考えられる。
【0151】
一方、脱シリル化により得られたヒドロキシル基を有する3m膜、3q膜および3r膜は、ヒドロキシル基だけを有するポリ(ジフェニルアセチレン)膜より高い気体透過性を示した。これらのポリマー膜はヒドロキシル基を有しているため、水の分離精製膜や有機無機ハイブリッド膜などへの応用が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体およびこれを含むポリマー膜は、酸素富化膜などのガス分離膜、有機混合物の分離膜、水の分離精製膜、有機無機ハイブリッド膜などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】化合物1aのH−NMRスペクトルチャートである。
【図2】化合物1aの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図3】化合物1bのH−NMRスペクトルチャートである。
【図4】化合物1bの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図5】化合物1cのH−NMRスペクトルチャートである。
【図6】化合物1cの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図7】化合物1dのH−NMRスペクトルチャートである。
【図8】化合物1dの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図9】化合物1eのH−NMRスペクトルチャートである。
【図10】化合物1eの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図11】化合物1fのH−NMRスペクトルチャートである。
【図12】化合物1fの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図13】化合物1gのH−NMRスペクトルチャートである。
【図14】化合物1gの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図15】化合物1hのH−NMRスペクトルチャートである。
【図16】化合物1hの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図17】化合物1iのH−NMRスペクトルチャートである。
【図18】化合物1iの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図19】化合物1jのH−NMRスペクトルチャートである。
【図20】化合物1jの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図21】化合物1kのH−NMRスペクトルチャートである。
【図22】化合物1kの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図23】化合物1mのH−NMRスペクトルチャートである。
【図24】化合物1mの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図25】化合物1nのH−NMRスペクトルチャートである。
【図26】化合物1nの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図27】化合物1pのH−NMRスペクトルチャートである。
【図28】化合物1pの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図29】化合物1qのH−NMRスペクトルチャートである。
【図30】化合物1qの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図31】化合物1rのH−NMRスペクトルチャートである。
【図32】化合物1rの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図33】化合物1sのH−NMRスペクトルチャートである。
【図34】化合物1sの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図35】化合物1tのH−NMRスペクトルチャートである。
【図36】化合物1tの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図37】ポリマー2eのH−NMRスペクトルチャートである。
【図38】ポリマー2fのH−NMRスペクトルチャートである。
【図39】ポリマー2gのH−NMRスペクトルチャートである。
【図40】ポリマー2jのH−NMRスペクトルチャートである。
【図41】ポリマー2kのH−NMRスペクトルチャートである。
【図42】化合物1C‐aのH−NMRスペクトルチャートである。
【図43】化合物1C‐aの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図44】化合物1B‐aのH−NMRスペクトルチャートである。
【図45】化合物1B‐aの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図46】化合物1C‐bのH−NMRスペクトルチャートである。
【図47】化合物1C‐bの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図48】化合物1C‐cのH−NMRスペクトルチャートである。
【図49】化合物1C‐cの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図50】化合物1B‐bのH−NMRスペクトルチャートである。
【図51】化合物1B‐bの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図52】化合物1B‐cのH−NMRスペクトルチャートである。
【図53】化合物1B‐cの13C−NMRスペクトルチャートである。
【図54】ポリマー2C‐bのH−NMRスペクトルチャートである。
【図55】ポリマー2C‐cのH−NMRスペクトルチャートである。
【図56】ポリマー2B‐bのH−NMRスペクトルチャートである。
【図57】ポリマー2B‐cのH−NMRスペクトルチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

(式中、Arは、ハロゲン化フェニル基であり、Rは水素、水酸基、シリル基またはシロキシ基から選択される少なくとも1種の基であり、nは10以上の整数である。)
で表される構造を有することを特徴とするポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体。
【請求項2】
上記式(1)のArは、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、およびブロモフェニル基より選択される少なくとも1種の基を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体。
【請求項3】
上記式(1)のArは、下記群(2)
【化2】

より選択される少なくとも1種の基を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体。
【請求項4】
上記式(1)のRに含まれるシリル基またはシロキシ基は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、ジメチルヘキシルシリル基およびt−ブチルジメチルシロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項1に記載のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリマー膜。
【請求項6】
次の一般式(3)
【化3】

(式中、Arは、ハロゲン化フェニル基であり、Xは水素、シリル基またはシロキシ基である。)
で表される構造を有することを特徴とするジフェニルアセチレン化合物。
【請求項7】
上記式(3)のArは、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、およびブロモフェニル基より選択される少なくとも1種のハロゲン化フェニル基を含むことを特徴とする請求項6に記載のジフェニルアセチレン化合物。
【請求項8】
上記式(3)のArは、下記群(2)
【化4】

より選択される少なくとも1種の基を含むことを特徴とする請求項6に記載のジフェニルアセチレン化合物。
【請求項9】
上記式(3)のXに含まれるシリル基またはシロキシ基は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、ジメチルヘキシルシリル基およびt−ブチルジメチルシロキシ基からなる群より選択される基であることを特徴とする請求項6に記載のジフェニルアセチレン化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【公開番号】特開2006−265511(P2006−265511A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132686(P2005−132686)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻2号」に発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】