説明

ハードコート用樹脂組成物

【課題】十分な透明性、表面硬度、耐磨耗性を維持しつつ、耐汚染性(指紋除去性)が顕著に向上したハードコート用組成物を提供する。
【解決手段】(A) (メタ)アクリレートモノマー及び/又はオリゴマー及び/又はポリマー;100重量部に、(B) 分子内に反応性(メタ)アクリレート基を有するシランカップリング剤にて表面処理されたコロイダルシリカ;3〜60重量部、(C) 分子内に1個以上のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤;0.05〜2.0重量部、(D) 分子内に1個以上の(メタ)アクリレート基を有する反応性シリコーン界面活性剤;0.05〜1.2重量部、(E) 重合開始剤を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート、アクリルに代表される透明プラスチック基材、特に光信号を高速、高密度に記録再生する光ディスク記録媒体の表面保護、あるいは金属様光沢を有する基材の表面保護に用いられる、特に付着した指紋の除去性に優れたハードコート用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパクトディスク、光磁気ディスク等をはじめとする光ディスクは、ポリカーボネートやポリメタクリレート等の透明性基板が使用されており、特に加工性、取扱い性、価格の面で優れているポリカーボネートが用いられている。しかしながら、軽量、耐衝撃性に優れるなどの長所を持つ反面、硬度や耐擦傷性が不十分で容易に傷がつきやすく、特に読み取り面に生じたスクラッチ傷や擦り傷の影響で情報の読み取りができなくなるという不具合があった。またDVDおよびブルーレイ、HDDVDに代表される次世代DVDにおいては、単位面積あたりの記録情報量が増加するに従い、読み取り面の微細な傷がさらに容易に読み取り不良に直結することになるために、ポリカーボネートのようなプラスチック透明保護基材上にさらにハードコート層を設けることが必要とされている。このようなハードコート剤の硬化皮膜に要求される性能として、充分な表面硬度、耐磨耗性、耐擦傷性、透明性等が挙げられる。このような要求に応えるべく、特許文献1では、特定のシランカップリング剤で処理されたコロイダルシリカを含有するアクリレート系組成物が提案されている。
【0003】
一方、ハードコート剤の硬化皮膜に要求される更なる性能として、表面の耐汚染性、特に人間由来の皮脂成分(指紋等)を簡単に落とすことができることが求められる分野が増えている。例えば、パソコン、携帯電話、携帯ゲーム機、デジタルカメラ液晶画面、車載ナビゲーションのディスプレイ等においては、指紋が付着したままでは視認性が著しく低下する。また、上記したような光ディスク、特にブルーレイに代表される次世代DVDにおいては、単位面積あたりの記録情報量が増加するに従い、読み取り面の指紋ですら容易に読み取り不良に直結する。更に、アクセサリー等の意匠性を有する物品においては、指紋が付着しているとその意匠性を損ない、特に下地が金属様光沢を有している場合は、指紋の付着が顕著になり、特に目立つことになるため、付着した指紋を容易に除去できるハードコート層が求められる。
【0004】
従来、ハードコート層の耐汚染性(指紋除去性)については、特許文献2で着目されており、特許文献3では非架橋型フッ素系界面活性剤の配合、特許文献4では非架橋型フッ素系界面活性剤と架橋型フッ素系界面活性剤との併用が提案されているが、何れもその効果は十分とは言えなかった。
【特許文献1】特開昭57−131214号公報
【特許文献2】特開2000−289172号公報
【特許文献3】特開平10−110118号公報
【特許文献4】特開平11−293159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、十分な透明性、表面硬度、耐磨耗性を維持しつつ、耐汚染性(指紋除去性)が顕著に向上したハードコート用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、硬化性アクリレート成分、表面処理されたコロイダルシリカと共に、特定2種の界面活性剤を併用配合することにより、表面硬度、耐磨耗性を低下させることなく、耐汚染性(指紋除去性)を顕著に向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち本発明は、
(A) (メタ)アクリレートモノマー及び/又はオリゴマー及び/又はポリマー;100重量部
(B) 分子内に反応性(メタ)アクリレート基を有するシランカップリング剤にて表面処理されたコロイダルシリカ;3〜60重量部
(C) 分子内に1個以上のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤;0.05〜2.0重量部
(D) 分子内に1個以上の(メタ)アクリレート基を有する反応性シリコーン界面活性剤;0.05〜1.2重量部
(E) 重合開始剤
を含有するハードコート用組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いる(A) 成分は、(メタ)アクリレートモノマー及び/又はオリゴマー及び/又はポリマーであって、従来よりハードコート用アクリル樹脂原料として用いられている2官能性(メタ)アクリレート、3官能性以上の多官能性(メタ)アクリレートから適宜選択される。
【0009】
2官能性(メタ)アクリレートとしては、エチレンオキサイド変性ジアクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)ジアクリレート、ウレタン(メタ)ジアクリレート等が、3官能性以上の多官能性(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートやトリメチロールプロパントリエトキシ(メタ)アクリレート、ウレタントリ(メタ)アクリレート、ウレタンテトラ(メタ)アクリレート、ウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエステルテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0010】
またハードコートにおける硬度には寄与しないが、硬化収縮率および粘度の調整、少量添加物の溶解性向上といった目的のために、適時1官能性(メタ)アクリレートを加えることができる。1官能性(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレン(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0011】
以上用いられる(メタ)アクリレート成分において、ハードコート中配合される少なくとも1種類は分子内に1個以上のエーテル結合を有する構造を持つことが望ましい。エーテル結合を持たせることにより、後述する反応性シリコーン界面活性剤およびパーフルオロアルキル界面活性剤との親和性が適度に改良され、皮膜の濁りを抑えることができるとともに良好なレベリング性が発現する。
【0012】
本発明に用いる(B) 成分の表面処理シリカとは、分子内に反応性(メタ)アクリレート基を有するシランカップリング剤にて表面処理されたコロイダルシリカであって、特開昭57−131214号公報、特開2000−289172号公報等に記載の周知のものであり、加えていない場合に比べ皮膜の耐擦傷性を大きく向上させることができる。
【0013】
(B) 成分の配合量は、(A) 成分100重量部に対し3〜60重量部であり、さらに望ましくは5〜40重量部である。(B)成分が少ない場合においては、耐擦傷性の低下が著しくなり、多くなると皮膜が脆くなる不具合がある。
【0014】
本発明に用いる(C) 成分は、分子内に1個以上のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤であり、含まれるパーフルオロアルキル基は炭素数4以上のものが望ましく、具体的にはパーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロネオペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基等が挙げられる。界面活性剤の構造としてはパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルプロピレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルエチレンプロピレンオキサイド付加物、パーフルオロスルホニルパーフルオロアルキル基変性シリコーンオイル、パーフルオロアルキル基変性―ポリエーテル変性シリコーンオイル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル燐酸エステル、パーフルオロアルキルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート−ポリエーテル含有(メタ)アクリレート共重合物等が挙げられる。特にノニオン系でポリエーテル構造を有するパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルプロピレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルエチレンプロピレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート−ポリエーテル含有(メタ)アクリレート共重合物が相溶性の観点から好適に用いられ、(株)ジェムコ製EF122A、EF122B、EF122C、EF351、EF352、EF801、EF802、住友スリーエム(株)製FC-4430、FC-4432、大日本インキ化学工業(株)製F-443、F-444、F-445、F-446、F470等が入手可能である。
【0015】
本発明に用いる(D) 成分は、分子内に1個以上の(メタ)アクリレート基を有する反応性シリコーン界面活性剤であり、具体的には、ポリジアルキルシロキサン主鎖を有し、片末端または両末端に(メタ)アクリレートを有しているもの、ポリジアルキルシロキサン主鎖を有してその両末端にポリエーテル基を有しさらにそのポリマー全体の片末端または両末端に(メタ)アクリレート基を有しているもの、ポリジアルキルシロキサンとポリエーテル置換アルキルシロキサンとの共重合物の片末端または両末端に(メタ)アクリレートを有しているもの、ポリジアルキルシロキサンとポリエーテル置換アルキルシロキサンおよび(メタ)アクリレート変性シロキサンとの共重合物等が挙げられる。ジアルキルシロキサンはジメチルシロキサンのものが一般的に用いられる。また皮膜の摩擦係数を減少させる効果が大きく、樹脂に対する相溶性も優れていることから、ポリジアルキルシロキサン主鎖を有してその両末端にポリエーテル基を有しさらにそのポリマー全体の片末端または両末端に(メタ)アクリレート基を有しているものが望ましい。このような反応性シリコーン界面活性剤としては、GEシリコーン社製CoatOSil3503、CoatOSil3509、ダイセル・サイテック(株)製Ebecryl350、Degussa社製TEGO RAD2250、TEGO RAD2300等が入手可能である。
【0016】
従来、ハードコート層中にはシリコーン系界面活性剤が配合されることがあるが、これは表面における皮脂の拭き取り性向上に寄与しない。一方、前述したように、特許文献3(特開平10−110118号公報)では非架橋型フッ素系界面活性剤の配合が、特許文献4(特開平11−293159号公報)では非架橋型フッ素系界面活性剤と架橋型フッ素系界面活性剤との併用が提案されており、皮脂の接触角を高め、表面から離脱させやすくしているが、これだけでは拭き取り性向上が不十分である。(C)成分においては優れた撥水撥油性から皮脂汚れをはじき、汚れを付着しにくくする効果が高いが、一旦付着した汚れが容易に落ちることはなく、拭き取り時においても少量残った皮脂成分が皮膜上にミクロン単位の液滴として残存する結果、光線散乱がおきヘイズが高くなるため、目視において白く濁ったような跡が認められる。また表面の滑り性向上の観点からもシリコーン系界面活性剤に比べその効果は少ない。(D)成分においてはシリコーンの特徴として、ある程度の撥水撥油性を有しているが、皮脂汚れの拭き取り性については寄与しない。特に表面の滑り性を高め、感触を向上させたものにおいては、拭き取り時に汚れが薄く広がっていくという現象が顕著となる。本発明者は、今回、(C) パーフルオロアルキル基を有する界面活性剤と(D) 反応性シリコーン界面活性剤を組み合わせ、(C) 成分による接触角向上効果と(D) 成分による動摩擦係数低下効果の相乗効果により、顕著に皮脂の拭き取り性を向上させたものである。
【0017】
(C)成分においては、極力皮膜の表面エネルギーを低下させ、皮脂に対して高い接触角を有するものが選択される。特に(D)成分を用いない時に、(C)成分を0.5重量%含有する皮膜が人間由来の皮脂成分に近いとされるホホバ油、トリオレインに対してその接触角(25℃における)を60°以上にすることができるものが望ましい。
【0018】
(D)成分においては表面の摩擦係数を下げ、拭き取り時の感触を高めるとともに、(C)成分によって効果的にはじかれている皮脂を容易に拭き取ることができるものが選択される。特に摩擦係数を考えたときには、直鎖シリコーンの(両)末端に親水基を有し、さらにその末端に反応性(メタ)アクリレート基を有しているものが好適に用いられる。反応性基を有しないシリコーン界面活性剤においても表面の滑り性を付与することはできるが、添加量が多くなり、(C)成分の効果を発揮できなくなる不具合がある。
【0019】
以上のことから、(C) 、(D) 成分の配合量は、(A) 成分100重量部に対し、(C) 成分は0.05〜2.0重量部、(D) 成分は0.05〜1.2重量部が望ましい。
【0020】
また、(C) パーフルオロアルキル基含有界面活性剤と(D) 反応性シリコーン界面活性剤の重量比率は(C) /(D) =1.0〜10.0の範囲が望ましく、さらに望ましくは(C) /(D) =1.2〜4.0である。これ以下であると表面のパーフルオロ基由来の撥油性が失われ、これ以上であれば摩擦係数が上昇し、拭き取り性能が低下する。また(C)+(D)成分量は、(A) 成分100重量部に対して0.1〜3.2重量部が望ましく、さらに0.2〜2.0重量部が望ましく、さらに望ましくは0.3〜1.2重量部である。これ以下では汚れ拭き取り性が発現せず、これ以上では皮膜の硬度の低下が顕著になる。
【0021】
本発明で用いる(E) 重合開始剤は、一般的に光重合開始剤が用いられ、公知の一般に入手可能なものがいずれも使用可能であるが、特に可視領域における透明性を確保するために、光吸収の最大波長ピークが400nm以下のもの、もしくは光照射によって速やかに吸収強度が減衰するものが望ましい。このような重合開始剤として、アセトフェノン系の1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1−オン、フォスフィンオキシド系の2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、さらにはベンゾフェノンと重合促進剤のエチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、2−エチルヘキシル−4−ジメチルアミノベンゾエートといった組み合わせのものも使用できる。これらは単独で用いられてもよいし、複数を組み合わせて光硬化時の光源に合わせて硬化条件の最適化を図ることもできる。特に液状で取扱が簡便な2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンは液体で取扱が簡便なため望ましく、上記にあげたような他重合開始剤をあらかじめ溶解させて使用することもできる。配合量は、光重合開始に必要な量であって特に制限されないが、一般的には(A) 〜(D) 成分の合計量100重量部に対して1〜10重量部が望ましく、硬化速度と経時安定性との兼ね合いから3〜8重量部がさらに望ましい。
【0022】
また熱硬化システムの場合は過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性ラジカル発生剤を用いることができ、光重合開始剤と併用して、光および熱硬化併用系とすることもできる。EB硬化を用いる場合においては(E)重合開始剤成分は不要となるが、光および/または熱硬化系に比べ大規模な設備が必要とされる。
【0023】
本発明のハードコート膜には、所望に応じて、帯電防止剤、艶消剤、紫外線安定剤および染料を含有していてもよい。ハードコート剤の光硬化に悪影響を与えず、透明または半透明性に悪影響を与えない限りで、これらの化合物のいずれも使用できる。さらに硬度を維持するために添加量はハードコート剤100重量部に対して0.1〜10重量部が望ましい。これより少ない場合には、帯電防止効果や紫外線吸収効果が期待できず、また多い場合においては硬度および耐擦傷性の低下が顕著となる。特にアクリル官能基といったバインダー樹脂と化学結合を伴う構造を有していない帯電防止剤、艶消剤、紫外線安定剤および染料においては硬度の低下がさらに顕著になるために、添加量はハードコート剤100重量部に対して5重量部以下が望ましい。
【0024】
本発明に用いるハードコート剤を製造するには、水性コロイドシリカ(コロイドシリカ水分散液)、シリル(メタ)アクリレート、多官能価アクリルモノマーまたはその混合物、光開始剤および所望に応じて上述した他の添加剤のうち任意のものを配合させる。またコロイドシリカはアルコール溶媒、ケトン系溶媒にあらかじめ分散されているものでも同様に可能であり、アルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−メトキシー2−プロパノール等が挙げられ、ケトン系溶媒としてはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。コロイドシリカの粒径は、皮膜透明性を確保するため1次粒子径が30nm以下、特に25nm以下のものが望ましい。
【0025】
第1の工程で、シリルアクリレートを水性コロイドシリカおよび水混和性アルコールの存在下で加水分解する。適当なアルコールとしては、例えば水混和性アルコール、具体的にはt−ブタノール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど、またはエーテルアルコール、例えばエトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノールなどが挙げられる。水性コロイドシリカとシリルアクリレートを、加水分解が終わるまで加熱攪拌する。シリルアクリレートの加水分解は、大気条件下で行う、あるいは加水分解混合物を加熱還流することによって行うことができる。
【0026】
第2の工程で、上記1の溶液にアクリル樹脂を添加し、反応に用いた水および溶媒を蒸留除去する。
【0027】
さらに第3の配合工程では、第2の工程のコロイドシリカが分散されたアクリル樹脂に、所望の界面活性剤、光開始剤、光増感剤などを添加する。
【0028】
本発明において用いるハードコート剤への上述した成分の添加順序は重要ではないが、上述した加水分解シリルアクリレートとコロイドシリカの混合物に多官能価アクリルモノマーまたはその混合物を加えるのが好ましい。好ましくは、シリルアクリレートとコロイドシリカの混合物を適当な加水分解媒体、例えば前述した通りの水混和性アルコールの水溶液中で攪拌しながら、この混合物に多官能価アクリルモノマーまたはその混合物を加える。
【0029】
本発明に用いるハードコート剤を製造する場合、水とアルコールの共沸混合物を上記配合物から蒸留除去する。最初の加水分解混合物にアルコールを使用しなかった場合には、十分な量のアルコールを加えて蒸留による水の除去を容易にすることができる。他の溶剤、例えば、トルエンまたは他の芳香族炭素水素を加えて水の除去を促進することもできる。
【0030】
本発明に用いるハードコート剤は、使用前にフィルターろ過されることが望ましい。フィルター材質はPTFE、ポリプロピレンなど、アクリル化合物によって容易侵食されないものが望ましく、ろ過時のフィルター径は0.2〜10ミクロン程度のものが入手も容易であり望ましい。特にフィルター径を2段階に分け、初期に2〜10ミクロン、後期に0.2〜1ミクロンのものを通すことにより、コロイドシリカの凝集物とアクリル樹脂由来のゲル物、および大気より混入する塵を効率良く除くことができ、最終的な皮膜の外観を良好に保つことができる。
【0031】
上に述べたハードコート液をディップ、スピン、コーター、フロー、スプレーおよびはけ塗り等により基材表面に塗工し、光重合開始剤を適宜選択することにより、市販されている光照射装置で硬化することができる。また適時揮発性溶媒で希釈して使うことも可能であり、溶媒としてアルコール系のメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール、ケトン系のメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エステル系の酢酸エチル、酢酸ブチル、芳香族系のトルエン、キシレンなどが用いられ、これらは単独でも2種類以上の組み合わせにおいても用いることができる。また光ディスクの保護層として用いられる場合は、溶媒で希釈することなく、塗布方法としてスピンコート法が好適に用いられる。
【0032】
また、本発明においてハードコート剤の形成厚さは1〜200μm、好ましくは3〜100μmである。膜厚が少なくなると、光硬化時に酸素による重合阻害の影響が大きくなり、窒素などの不活性ガス下による硬化システムが必要となる。膜厚が極度に大きくなると硬化収縮の影響で成形物の変形や、深部硬化性の低下が起こる。
【0033】
本発明のハードコート剤はプラスチック基材、特にポリカーボネート、アクリル、ABS、PET、TAC等に塗布することができる。また金属蒸着されたプラスチックへも適時密着向上剤の添加やプライマー層を設けることにより塗工することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例中、部は重量部を示す。
実施例1〜2および比較例1〜5
IPA120部、Nalcoag 1034A(35%コロイドシリカ水分散液) 60.6部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5.4部の混合物を80℃に加熱して3時間還流させた。冷却後、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート26.0部を加えて、減圧下で溶剤を蒸留した。約半分の溶剤を蒸留したところで、メトキシプロパノ−ル120部を加え、次いで溶剤のすべてを蒸留して透明な溶液を得た。
【0035】
次に表面処理されたコロイドシリカ分散1,6−ヘキサンジオールジアクリレートに、PEG400#ジアクリレート13.0部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート13.0部、トリメチロールプロパントリエトキシトリアクリレート52.0部をそれぞれ加え、さらに光重合開始剤の2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパンー1−オンを7.8部加えたものを調製したものに、表1に示す種類・量の界面活性剤を加えて、ハードコート剤を得た。
【0036】
このようにして得られたハードコート液を直径12cm、厚さ0.6mmのディスク形状の透明ポリカーボネート(GEプラスチックス社製OQ1030)にスピンコートにより塗布し、Xenon社製Dタイプキセノンフラッシュランプにて光硬化させ、ハードコート膜の形成された試験片を得た。
【0037】
この試験片について、各種物性を調べた。結果を表1に示す。
【0038】
使用した界面活性剤、並びに評価方法は以下の通りである。
(界面活性剤)
・シリコーン界面活性剤1(反応型);ダイセル・サイテック社製Ebecryl 350
・シリコーン界面活性剤2(反応型);デグサ社製TEGO RAD 2250
・シリコーン界面活性剤3(非反応型);ジーイーシリコーン社製CoatOSil 3500
・パーフルオロアルキル界面活性剤1;住友3M社製FC−4432
(接触角)
協和界面科学(株)製接触角計を用い、接触角を測定した。対象とした測定液は、人間の皮脂に近いとされているホホバ油、トリオレインを用いた。接触角が高いほど表面からの離脱性に優れている。
(動摩擦係数)
Instrumentors. Inc.製Slip/Peer Testerを用いて、試験片に200g荷重の紙(接触面縦4cmx横2cm)を滑らせたときの動摩擦係数を測定した。動摩擦係数が低いほど滑り性が良く優れている。
(テーバー摩耗)
摩耗輪CS10F、片輪250g加重で2輪用い、100回転させた時点での曇度(ヘイズ)を初期の曇度から差し引くことにより、摩耗性を評価した。値が低いほど耐摩耗性に優れている。
(汚れ拭き取り性)
ホホバ油1gにメトキシプロパノール9gを加えた溶液を、直径12cmのポリカーボネートディスク上に3000rpm/2秒の条件にてスピンコートし、乾燥させてホホバ油付着ディスクを作成した。このディスクに直径10mmのシリコーン栓(ゴム硬度40)を1kg重の力で10秒間押し付けてシリコーン栓に油を転写し、さらにそのシリコーン栓を評価片に1kg重の力で10秒間押し付けてホホバ油を試験片表面に付着させた。本試験片をキムワイプ(1枚のシートを3回折って8枚重ねにしたもの)で強く(親指にて6〜8kg重の力)、1回こすった際の目視外観を下記3段階で評価した。
【0039】
A;残存油が目視で認められない
B;残存油がわずかに認識できる
C;残存油が明らかに認識できる
実施例3
直径12cm、厚さ0.6mmの透明ポリカーボネート(GEプラスチックス社製OQ1030)に銀蒸着を施し、さらに0.6mm厚のポリカーボネートを張り合わせた、内部に金属光沢を有するディスクに対して実施例1において調製したハードコート液をスピンコートにより塗布し、Xenon社製Dタイプキセノンフラッシュランプにて光硬化させ、ハードコート膜の形成された試験片を得た。この試験片の汚れ拭き取り性を同様に評価したところ、残存油が目視で認められなく良好であった。
実施例4
実施例1において調製した表面処理されたコロイドシリカ分散1,6−ヘキサンジオールジアクリレート32.0重量部にダイセル・サイテック社製6官能ウレタンアクリレートEbecryl1290を127重量部、溶媒の1−メトキシー2プロパノール285重量部、および光重合開始剤の1−ヒドロキシーシクロヘキシルフェニルケトン6.6重量部、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェンルフォスフィンオキサイド1.6重量部を加えた溶液を調製し、さらにシリコーン界面活性剤Ebecryl 350を0.3重量部、パーフルオロ界面活性剤FC-4432を0.8重量部加えて溶媒希釈されたハードコート溶液を得た。本溶液をポリカーボネート(GEプラスチックス社製レキサンLS2)板上にフローコートし、50℃で3分乾燥後、ヒュージョン社製光硬化システム(光源Hランプ)を用いて硬化させた。この試験片の汚れ拭き取り性を同様に評価したところ、残存油が目視で認められなく良好であった。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) (メタ)アクリレートモノマー及び/又はオリゴマー及び/又はポリマー;100重量部
(B) 分子内に反応性(メタ)アクリレート基を有するシランカップリング剤にて表面処理されたコロイダルシリカ;3〜60重量部
(C) 分子内に1個以上のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤;0.05〜2.0重量部
(D) 分子内に1個以上の(メタ)アクリレート基を有する反応性シリコーン界面活性剤;0.05〜1.2重量部
(E) 重合開始剤
を含有するハードコート用組成物。
【請求項2】
(C) パーフルオロアルキル基含有界面活性剤と(D) 反応性シリコーン界面活性剤の重量比率が(C) /(D) =1.0〜10.0の範囲であり、且つ(A) 成分100重量部に対する合計配合量が0.1〜2.0重量部である請求項1記載のハードコート用組成物。
【請求項3】
(A) 成分が、分子内に1個以上のエーテル結合ユニットを有する化合物を含むものである請求項1又は2記載のハードコート用組成物。
【請求項4】
回転粘度計における粘度(25℃)が60cP以下である請求項1〜3の何れか1項記載のハードコート用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載のハードコート用組成物を揮発性溶媒で希釈したハードコート用組成物。
【請求項6】
透明支持基材上に請求項1〜5の何れか1項記載のハードコート用組成物を塗布後、光及び/又は熱で硬化してなる厚さ1〜100μmのハードコート層を有する積層体。
【請求項7】
金属様光沢を有する基材上に請求項1〜5の何れか1項記載のハードコート用組成物を塗布後、光及び/又は熱で硬化してなる厚さ1〜100μmのハードコート層を有する積層体。
【請求項8】
金属様光沢を有する基材上に透明支持基材が存在し、その上に請求項1〜5の何れか1項記載のハードコート用組成物を塗布後、光及び/又は熱で硬化してなる厚さ1〜100μmのハードコート層を有する積層体。
【請求項9】
請求項1〜4の何れか1項記載のハードコート用組成物を揮発性溶媒で希釈することなく、スピンコート法にて塗布後、光で硬化してなる厚さ1〜100μmのハードコート層を有する光記録媒体。

【公開番号】特開2007−145965(P2007−145965A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341493(P2005−341493)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】