バイオセンサー
試験試料における被検体の存在を測定するためのセンサーであり、該センサーは:
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有するナノ粒子膜を含み、ここで、オキシドレダクターゼおよび電気化学的活性化剤が該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている。
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有するナノ粒子膜を含み、ここで、オキシドレダクターゼおよび電気化学的活性化剤が該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサー、特に試験試料における被検体の存在を測定するためのセンサー、に関する。さらに本発明はナノ粒子膜に関する。また、本発明は水溶性レドックスポリマーおよびそのポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、重合体材料が広い範囲に及ぶ理論的興味と多くの分野での実際的使用を獲得している(G. Harsanyi. Materials Chemistry and Physics Vol. 43, Issue 3, 1996, 199)。特に導電ポリマーはバイオセンシング分野での使用が増大し、導電ポリマーは利口なセンサーと判断力のある分子受容体の間の界面として独得の機能を与える。イオン伝導性ポリマー、電荷移動ポリマー、および共役導電ポリマーのような、すべての公知の導電ポリマーのうち、レドックスポリマーはバイオセンシング分野で断然最も広く使用されている。
【0003】
最近、重要な研究がなされてきたバイオセンシングにおける一領域である、グルコースセンシング(検出)は、必要とされるグルコースオキシダーゼによってグルコースをグルコン酸に酵素酸化する電子媒介に依る。レドックスポリマーの電子媒介は広く研究され、多くの電流滴定グルコースバイオセンサーに適用されている。
【0004】
その自然な酵素反応において、補酵素フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)は、グルコースオキシダーゼ中に存在する電子キャリアであり、FADH2(FADの還元形態)され、分子状酵素によりもとのFADに酸化される。O2はH2O2に還元される。この循環酸化および還元はFADが電子受容体として作用するのを可能にする。グルコースもグルコン酸も−0.5〜1.0Vの作用電位窓内で電気活性ではないので、H2O2濃度の増加もしくはO2濃度の減少はグルコース濃度を定量するために測定されている。
【0005】
しかしながら、H2O2およびO2の測定にもとづく測定精度には問題がある。なぜなら、第1に大気のO2の分圧が電流滴定応答に影響を及ぼし、そして第2に高いグルコース濃度でのO2の定量測定はO2がセンシングの進行につれて使い尽されるので困難であるからである。白金電極での酸化によるH2O2の検出は0.5〜0.6V(Ag/AgClに対して)の作用電位を必要とし、したがって、この電位で電気化学的に活性であるアスコルビン酸および尿酸のような、血中で電気活性種の妨害に服される。
【0006】
O2もしくはH2O2を含むグルコース監視に関連する上述の問題を回避するために、レドックス能動的なメディエーターがFADH2についての酸素分子に代わって人工電子受容体として提案されている。
【0007】
主として、好結果のメディエーターは3つの要件に合致する:(1)酵素および電極との速い電子交換速度、(2)電極へ安定な付着、および(3)水性媒体中で処理可能である。
【0008】
このために、2つのグループのメディエーターが集中的に検討された、すなわち遷移金属錯体およびフェロセン材料である。最近、多くのグループがその合成ならびにフェロセン材料(モノマーおよびポリマー)のバイオセンシング適用について関心が集められている。たとえば、ポリフェロセン化合物は分子認識におけるレドックス指示剤として(J.E. Kinston, et al, J. Chem. Soc., Dalton. Trans (1999) 251.);バイオセンサーにおけるメディエーターとして(S. Koide, et al, J. Electroanal. Chem., 468 (1999) 193.);そして修飾電極表面へのコーティングとして(S. Niate, et al, Chem. Commun., (2000) 417.)、使用されている。しかし、公知のフェロセン材料の大部分は非極性媒体に溶解するにすぎず、わずかなフェロセンおよびポリフェロセン材料のみが水溶性である(O. Hatozaki, et al, J. Phys. Chem., 199 (1996) 8448.)。水溶性フェロセン材料はバイオセンシングにおいてレドックスメディエーターとして特に興味深い。たとえばビニルフェロセンのようなアルケン置換フェロセンを適切な水溶性ポリマーと共重合することにより、水に易溶性であるフェロセン材料を調製することが可能である。しかし、ビニルフェロセンのフリーラジカル開始重合は通常ではないことが示された(A.J. Tinker, et al, J. Polym. Sci. Polym. Chem. Ed., 13 (1975) 2133; M.H. George, et al, J. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., 14 (1975) 475.)。ビニルフェロセンの共重合は困難であることが知られている。なぜならフェロセニウムは重合系においてラジカルスキャベンジャーであり、反応は通常のラジカル重合に従わないことになるからである。重合反応の終結はフェロセン核から成長鎖ラジカルへの分子間電子移動により生じる。これはポリマー鎖および高スピンFe(III)種を含有するポリマーの不活性化を導く。
【0009】
ポリアクリルアミドは、その良好な化学的および機械的安定性ならびに微生物分解への不活性のために、酵素固定化およびバイオセンシングにおいて支持マトリックスとして広く使用されている(I. Willner, et al, J. Am. Chem. Soc., 112 (1990) 6438.)。しかし、ビニルフェロセンおよびアクリルアミドならびにその誘導体の共重合の試みは成功していなかった(H. Bu, et al, Anal. Chem., 67 (1995) 4071およびそこにある文献)。代わりに、不十分なビニルフェロセンの共重合をバイパスするために、化学グラフト法がフェロセン材料を製造するのに提案された(S. Koide, et al, J. Electroanal. Chem., 468 (1999) 193; J. Hodak, et al, Langmuir, 13 (1997) 2708; A. Salmon, et al, J. Organomet. Chem., 637-639 (2001) 595.)。2つの最近の報告において(N. Kuramoto, et al, Polymer 39 (1998) 669; H. Ahmad, et al, Colloids and Surfaces, 186 (2001) 221)、ビニルフェロセン共重合体が合成されたが、これらのポリマーにおけるフェロセンの微細な担持および架橋性基の欠落はバイオセンサーにおける使用を制約する。
【0010】
商業的に入手しうるバイオセンサーは、Therasense Inc.(たとえばUS特許第6,338,790号参照)、Inverness Medical Technology(たとえばUS特許第6,241,862号参照)および松下電器(たとえば、US特許第6,547,954号参照)により製造されるものを含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、優れた性能特性を有するビニルフェロセン系ポリマーメディエーターに対する要望は存在する。このように、本発明の目的は新規なビニルフェロセン系ポリマーメディエーターのための新規な合成方法を開発することである。さらに、本発明の目的は向上した性能を有するバイオセンサーを提供することであり、それはできる限り、バイオセンサーの最終ユーザーに最小の不便を与えるものである。
【0012】
これらの目的は、本発明の種々の態様、すなわち各請求項に規定されるセンサー、膜、ポリマーおよび方法により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1態様において、本発明は、試験試料における被検体の存在を測定するためのセンサーを提供し、該センサーは周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有するナノ粒子膜を含み、ここで、オキシドレダクターゼおよび電気化学的活性化剤が該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている。
【0014】
もう1つの態様において、本発明は周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有する、非導電性のナノ粒子膜を提供し、オキシドレダクターゼ酵素および電気化学的活性化剤は該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている。
【0015】
さらなる態様において、本発明は非導電性のナノ粒子膜の製造方法を提供し、その方法は、電気化学的レドックスメディエーターを、オキシドレダクターゼならびに周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の無機酸化物のナノ粒子と混合し、ナノコンポジットインクを生成させること;ならびに基板上に該ナノコンポジットインクを塗布すること、を含む。
【0016】
もう1つの態様において、本発明は、重合しうるフェロセン誘導体を含む第1モノマーユニット;ならびに実効電荷を取得しうる(末端)1級酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニット、を含む水溶性レドックスポリマーを提供する。
【0017】
1つの態様において、この新規な水溶性レドックスポリマーにおけるアクリル酸誘導体は、一般式(I)
【化1】
で表わされ、ここでRはCnH2n−NH2,CnH2n−COOH,NH−CnH2n−PO3HおよびNH−CnH2n−SO3Hからなる群より選ばれ、アルキル鎖は任意に置換されていてもよく、そしてnは0〜12の整数である。
【0018】
なおもう1つの態様において、本発明は水溶性レドックスポリマーの製造方法を提供し、その方法は:重合しうるフェロセン誘導体を含む第1モノマーユニットを、有効電荷を取得しうる酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニットと重合させること、を含み、その重合は水性アルコール媒体中で実施される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1つの態様において、本発明は、水溶性で架橋しうるレドックスポリマーがエタノールおよび水とラジカル開始剤としての過硫酸塩との混合物中で容易に製造されうるという知見に基づく。この製造方法は、フェロセン分子を含む重合反応の好ましくないエネルギー論のような従来直面していた課題が克服されるのを可能にした。試験は、この方法から得られるビニルフェロセンアクリルアミド共重合体の分子量が、2000〜4000ダルトンの範囲にあり、3〜14%のフェロセン担持を伴う400モノマーユニットに相当することを示した。このようなレベルのフェロセン担持は、従来、フリーラジカル重合法を用いて達成し得た(たとえば、N. Kuramoto et al参照)。この制約を克服することにより、本発明は、バイオセンシングへの適用および被検体の電気化学的検出の他の方法に有用な特性を有する新規ポリマーを伴う。
【0020】
本発明のレドックスポリマーのフェロセン中心は局在化した電気化学的活性、ならびにポリマー中で分子内結合の再構成をもたらさないでレドックス反応に加わる能力を与えることができる。さらに、本発明のレドックスポリマーは適した官能基を有する他の分子で架橋を容易にする官能基を持つ側鎖を含む。これは、同様に幅広い分子にポリマーが付着するのを可能にする。これらの2つの特性を結合して、これらのポリマーは電子仲介を必要とする用途への使用によく適合し、たとえば、バイオセンサーおよびバイオ燃料電池に用いられる酵素電極、ならびに電子酵素反応器で実施される酵素合成、である。
【0021】
もう1つの態様において、本発明によるグルコースセンサーは非常に少量の流体中に見出されるグルコース濃度を正確に測定することができるセンシング要素を組み入れるので、1μL未満、好ましくは約0.2μL〜0.3μLの試験試料が必要である。通常、試験試料は、生物流体(たとえば、血液試料、汗試料、尿試験);ふん便試料;ならびに脂肪組織および皮下脂肪を含む肉組織試料のような動的生物試料を含む。本発明センサーを用いて分析しうる他の試料は、科学実験で利用される試薬、またはグルコース含量を有する食品、およびワインもしくはビール製造産業において見出される醗酵液を含む。さらに、試験試料は微生物培養媒体(たとえば、通常ポリペプチドの組換え製造に用いられる、大腸菌、酵母菌もしくは他の宿主有機体の高密度醗酵用培養媒体)。
【0022】
診断試験を実施するのに要求される少量の試験試料により、最小の不都合が最終ユーザーに課される。たとえば、連続した血液グルコース評価を要求する糖尿病について、mL以下のレベルの血液試料の回収は患者に最小の痛みと不安を課す。
【0023】
通常、本発明のセンサーは、ここで詳細に記載されるナノ粒子膜を利用する。μL以下のレベルで血液試料を試験するのに適するという事実に加えて、このような膜は低コストで製造され得、長期間の貯蔵にも安定であるという利点を有する。
【0024】
その膜は電気化学的活性化剤および基質特異性酵素を配合し得、ともにグルコースが酸化される、センサーの電極上に堆積された膜内に拡散的に分散される。「電気化学的活性化剤」という用語は、ここではグルコースおよびセンサーの作用(検出)電極間で電子を移動させる酵素を活性化しうる、いかなる化合物をもいう。その電気化学的活性化剤は重合体レドックスメディエーターでありうる。あるいは、単量体電気化学的活性化剤も使用され得、たとえば、水溶性フェロセン誘導性、オスミウム−ビピリジン錯体、ルテニウム錯体(たとえば(ペンタアミンピリジンルテニウムおよびRu(NH3)63+)、ならびにヘキサシアノフェレートおよびヘキサシアノルテネートである。本発明のいくつかの態様において、電気化学的活性化剤はレドックス活性金属イオンを含む。このような金属イオンの例は、銀、金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、オスミウムもしくはルテニウムイオンもしくはそれらの混合物である。
【0025】
通常、本発明のナノ粒子膜に配合されるべき、適した重合体レドックスメディエーターは、試料が分析される時間の間、レドックス種の拡散損失を妨げるか、もしくは減少させる化学構造を有すべきである。レドックスメディエーターの拡散損失は、センサーにおいて作用電極から非放出性の重合体レドックスメディエーターを与えることにより減少されうる。これは、たとえば電極上のポリマーにレドックスメディエーターを共有結合で付着するかもしくは二共役的に結合することにより、レドックスメディエーターを結合もしくは固定化して達成されうる。あるいは、レドックスメディエーターは、対電荷種またはレドックスメディエーターに対して高い親和性を有する種を有するバインダーを与えることにより固定化されうる。本発明の1つの態様において、1つの型の非放出性重合体レドックスメディエーターは重合体化合物に共有結合で付着したレドックス種を含む。このようなレドックスポリマーは遷移金属化合物であるのが通常であり、そこではレドックス活性遷移金属系のペンダント基が適切な、それ自体電気能動的であってもよいポリマー主鎖に共有結合で結合されている。この型の例は、ポリ(ビニルフェロセン)およびポリ(ビニルフェロセンアクリルアミド)である。あるいは、重合体レドックスメディエーターはイオン結合したレドックス種を含みうる。通常、これらのメディエーターは反対に荷電したレドックス種と対をなす荷電ポリマーを含む。この型の例は、オスミウムもしくはルテニウムポリピリジルカチオンのような正に荷電したレドックス種と対をなす「Nafion」(登録商標)(DuPont)のような負に荷電したポリマー、または反対にフェリシアニドもしくはフェロシアニドのような負に荷電したレドックス種と対をなすポリ(1−ビニルイミダゾール)のような正に荷電したポリマー、を含む。さらに、レドックス種はポリマーに配位して結合されうる。たとえば、レドックスメディエーターはポリ(1−ビニルイミダゾール)もしくはポリ(4−ビニルピリジン)に対してオスミウムもしくはコバルト2,2′−ビピリジル錯体の配位により形成されうる。もう1つの例はオスミウム4,4′−ジメチル−2,2′−ビピリジル錯体と配位されたポリ(4−ビニルピリジンアクリルアミド)である。有用なレドックスメディエーターならびにその合成方法は米国特許第5,264,104;5,356,786;5,262,035;5,320,725;6,336,790;6,551,494;および6,576,101号明細書に記載されている。
【0026】
本発明のさらなる態様において、電気化学的活性化剤は、ここで後述される新規なレドックスポリマーから選ばれる。すなわち、この新規なレドックスポリマーは、ポリ(ビニルフェロセン)、ポリ(ビニルフェロセン)−コ−アクリルアミド、ポリ(ビニルフェロセン)−コ−アクリル酸、およびポリ(ビニルフェロセン)−コ−アクリルアミド−(CH2)n−スルホン酸、ならびにポリ(ビニルフェロセン)−コ−アクリルアミド−(CH2)n−ホスホン酸を含み、ここでnは0〜12、好ましくは0〜8の整数である。
【0027】
さらに、本発明の膜は、酵素もしくは抗原のようなタンパク質と架橋され、そして電極表面上に固定化されるレドックスポリマーを配合しうる。
【0028】
センサーの1態様は、試験試料を保持するチャンバーを含み、それによりチャンバーは少くとも作用電極上の作用領域と基準電極上の作用領域の間に結合される。さらにこの態様において、オキシドレダクターゼ酵素および水溶性レドックスポリマーは作用電極の作用領域上に被覆される。
【0029】
図面に関して、本発明のセンサーは次のように記載される。図1は本発明の態様による先端充填(tip−filling)バイオセンサー2の分解等角図を示す。バイオセンサー2は数層で形成されたスタックを含む。スタックは図1の底部から頂部へ、基板層4、作用電極6、スペーサ8、対電極10および頂部層12を含む。スペーサ8は作用電極6および対電極10から離れて位置し、それによりそれらと電気的に絶縁する。凹部14は、スペーサ8の2つに分岐した端部の2つの脚の間に形成され、作用電極6と対電極10の間に試料チャンバ14(図2A参照)を形成する。このように、試料チャンバ14はそれぞれ対電極10および作用電極6の反対側の対向表面により頂部および底部上に境界づけられ;側面には側壁によりスペーサ8が境界づけられる。試料チャンバ14の一面は、図2に示されるように露出されている。作用電極6の表面は、作用表面といわれる。ナノ粒子膜18のようなセンシング化学材料キャリアは、試料チャンバ14内に配置される。この膜18は作用電極6と物理的に接触している。センシング化学材料は拡散しうるレドックスメディエーター(図示され得ない)のような電子移動剤を含むのが好ましい。レドックスメディエーターおよび他のセンシング化学材料は後述される。ベント孔16は、試料チャンバ14を通って頂部層12および対極10内に形成される。基板4および頂部層12は作用電極6および対電極10の部分20,22(図2B)が電子回路に接続しうるように露出されたままであるように、凹部を形成している。
【0030】
試料チャンバ14は、試料すなわち被検体がチャンバ14に供給されるとき、被検体が作用電極6および対電極10と電解接触するように配置もしくは形状化されている。この電解接触はレドックスメディエーターにより仲介された電流を、被検体の電解(電子酸化もしくは電解還元)を作用させるように電極6,10間を流れることを可能にする。レドックスメディエーターは作用電極6上の直接的電気化学的反応に適していない被検体分子の電気化学的分析を可能にする。試料チャンバ14の体積は0.1〜1μLでありうるか、他の体積も可能である。測定帯域である試料チャンバ14の領域は、被検体アセイの間に検査される被検体の部分のみを含む。図1のバイオセンサー2において、測定帯域は試料チャンバ14の体積とほとんど等しい体積を有する。しかし、試料チャンバ14のサイズの80%もしくは90%のような、比較的小さい測定帯域も可能であることが留意されるべきである。
【0031】
試料チャンバ14の高さは、スペーサ8の厚さにより決定されるように、被検体の迅速電荷を促進するために小さいのが好ましい。もっと多くの被検体が所与の被検体体積で電極6,10の表面と接触するからである。さらに、小さい高さの試料チャンバ14は被検体アセイの間、試料チャンバ14の他の部分から比較的小さいサイズの測定帯域への被検体の拡散からの誤差を減少するのを助ける。なぜなら拡散時間は測定時間に対して長いからである。通常、試料チャンバの厚さは約0.1mm以下であり、もっと好ましくは試料チャンバの厚さは焼く0.05mm以下である。
【0032】
基板4および頂部層12はポリエステルのような不活性な非電導性材料から形成されうる。あるいは、基板および頂部層12は成型された炭素繊維コンポジットから形成されうる。作用電極6は好ましくは比較的低い電気抵抗を有し、操作時にバイオセンサーの電位範囲にわたって電気化学的に不活性であるのが通常である。作用電極を形成するのに適切な材料は、金、炭素、白金、二酸化ルテニウム、パラジウムおよび導電性エポキシ、たとえばECCOCOAT CT5079−3 Carbon-Filled Conductive EPOXY Coating (W.R. Grace Company,マサチューセッツ州 Woburnより入手しうる)、ならびに当業者に知られている他の非腐食材料である。さらに、対電極10は作用電極6を形成するのに適したこれらの材料を用いて形成されうる。作用電極6および対電極10は、たとえば化学蒸着もしくは印刷によるような適切な方法により、基板4および頂部層12の表面上に堆積されうる。
【0033】
スペーサは、感圧接着剤、ポリエステル、Mylar(登録商標)、Kevlar(登録商標)もしくは他の強くて薄いポリマーフィルム、あるいは化学的不活性の点から選ばれるTeflon(登録商標)フィルムのような薄いポリマーフィルム、のような不活性な非電導材料から構成されるのが通常である。
【0034】
1つの態様において、基板4および頂部層12はポリエステルフィルム、作用電極6はスクリーン印刷炭素層、対電極10はスクリーン印刷Ag/AgCl層、そしてスペーサ8は両面粘着テープである。
【0035】
バイオセンサー2の使用中、試料チャンバ14の露出された面は血液もしくは血清のような被検体と接触するのに使用される。その中にナノ粒子膜を有する試料チャンバ14は、ウィッキングもしくは毛細管作用により、その分析のために被検体を受取る。レドックスメディエーターの種類に依存して、拡散しうるレドックスメディエーターは被検体へ急速に拡散し得、または拡散はある時間にわたって生じうる。同様に、膜18中の拡散しうるレドックスメディエーターは、まず溶解し、ついで急速にもしくはある時間にわたって、被検体中に拡散しうる。もしレドックスメディエーターがある時間にわたって拡散すると、ユーザーはある時間待つように指示され得、ついでレドックスメディエーターの拡散を可能にする被検体濃度を測定する。
【0036】
バイオセンサーの構造および構成は上述のものに限定されると解釈されるべきではなく、他の構造を有し、他の方法を用いて構成されるバイオセンサーも可能である。図2は本発明のもう1つの態様によるバイオセンサー24を示す。図1におけるバイオセンサー2の変形であるバイオセンサー24は、バイオセンサー2の層4,6,10,12および膜18を含む。しかし、この態様におけるスペーサ8は第1スペーサ部8Aおよび第2スペーサ部8Bを含み、それらはその間のすき間26により分離されている。このすき間26は、スペーサ8が作用電極6と対電極10の間にはさまれているとき、試料チャンバ14を規定する。試料チャンバの2つの対向面は露出されている。したがって、バイオセンサー20にベント孔は必要がない。
【0037】
いくつかの他のバイオセンサーは、「拡散しうるもしくは浸出できないレドックスメディエーターを有する小容量インビトロ被検体」という名称の、Feldmanらの米国特許第6,338,790号明細書に開示されている。これらのバイオセンサーのいくつかは1つより多い対電極6を含む。
【0038】
多くの種類のオキシドレダクターゼが本発明のセンサーに使用しうる。センサーにおける酵素の1機能は、電極の除去もしくは付加により酵素基質の酸化もしくは還元を触媒することである。たとえば、検出されるべき基質もしくは被検体がグルコースである場合には、グルコースオキシダーゼがグルコースを酸化してグルコン酸にするために用いられうる。グルコースの酸化を酵素なしで進めることは熱力学的には実施可能でありうるが、適切なオキシドレダクターゼは酸化反応を促進するのを助け、それにより酵素活性および基質分析が容易に研究されうる。さらに、このような酵素は安価に容易に入手しうる。
【0039】
本発明のいくつかの態様において、オキシドレダクターゼは、グルコースオキシダーゼ、水素ペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、水素ヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、NADHデヒドロゲナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシブチルデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸オキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、キサンチンデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コリンデヒドロヘナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、シュウ酸オキシダーゼ、ビリルビン酸オキシダーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、チトクロームCオキシダーゼ、およびアクテコールオキシダーゼからなる群より選ばれる。
【0040】
周期律表における族の命名のために通常用いられる3つの規則は、新IUPAC規則、旧IUPAC規則(ヨーロッパ規則としても知られている)、ならびにCAS族命名規則(アメリカ規則としても知られている)である。CAS規則は本出願において使用される。CAS規則において、IA,IIA,IIIAおよびIVA族は1族(Li,Na,K等)、2族(Be,Mg,Ca等)、3族(B,Al,Ga等)および4族(C,Si,Ge等)の主な族元素をそれぞれいうが、IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBおよびVIIIB族は遷移元素をいう。CAS規則のもとで、IA,IIA,IIIAおよびIVA族は旧ICPAC規則のもとでのIA,IIA,IIIBおよびIVB族にそれぞれ等しく、そして新IUPAC規定のもとでの1,2,13および14族にそれぞれ等しい。CAS規則のもとでのIB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBおよびVIIIB族は、それぞれ旧IUPAC規則のもとでのIA,IIA,IIIA,IVA,VA,VIA,VIIAおよびVIIIA族に等しく、そしてそれぞれ新IUPAC規則のもとでの3,4,5,6,7,8−10,11および12族に等しい。
【0041】
使用されうるナノ粒子は周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素のいかなる無機化合物であってもよい。ナノ粒子は、酸化電極の表面近くの位置までグルコース分子が膜に移送されるための効率的な拡散通路を提供しうるものであれば、いかなる適切な大きさおよび形状を有するものであってもよい。さらに、本発明で使用されるナノ粒子は多孔質もしくは非多孔質でありうる。本発明の膜に用いられる無機ナノ粒子の平均サイズは通常約5nm〜約1μm、もしくは約100〜約1000nmであり、約100〜約500nm、または約200〜約300nm、を含む。ナノ粒子のサイズは意図される用途に応じて(たとえば、上述のように拡散通路の長さに影響するために)、または本発明の膜の製造に用いられるスラリーインクの粘度もしくは密度を変えるために、選択されうる。
【0042】
本発明の膜における使用に適した酸化物の例は酸化リチウムマンガン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化イットリウム、酸化ニオブ、酸化カルシウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、およびそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0043】
シリカ粒子に関して、いかなる適切なシリカ粒子(たとえば、フュームドシリカもしくはコロイダルシリカ)も本発明において使用されうる。ここで規定さるように、他の無機酸化物粒子と同様にシリカ粒子は、径、アスペクト比、平均細孔径のような種々のファクターにもとづいて選択されうる。これらのパラメータは、ナノ粒子膜における所望の移送特性を達成するために選択されうる。適切な粒子の選択は、堆積法の選択に依存しうる。シリカ粒子は5〜約1000nm、もしくは約100〜約1000nm、の粒径を有し得、約100〜約500nm、もしくは約200〜約300nmを含む。シリカ粒子は実験室で合成され、または商業的供給者より入手されうる。たとえば、コロイダルシリカ(ケミカルアブストラクトNo.7631−86−9)は多くの供給者から商業的に入手しうる。たとえば、日産化学より「Snowtex」(登録商標)の商標で、またはNyacol Nanotechnologies, Inc.より「NYACOL」(登録商標)の商標で、販売されている。
【0044】
本発明のナノ粒子膜の厚さは、約50〜1000μm、もしくは100〜700μm、もしくは好ましくは250〜500μmである。膜の厚さはたとえば、所望の電極サイズもしくは膜の構成成分のようないくつかのファクターに依存しうる。それは、堆積法(たとえばスクリーン印刷、ディップコーティングもしくはスピンコーティング)、ナノ粒子材料の中味もしくはインクスラリーの濃度の選択により調節されうる。スクリーン印刷が、膜の製造されるインクスラリーの堆積に用いられる場合、膜の厚さはなかんずくスクリーンのメッシュサイズにより調節されうる。
【0045】
センサーのなおもう1つの態様において、本発明のナノ粒子膜は、さらに重合体バインダーを含みうる。いかなる適切な重合体バインダーも膜中に使用され得、静電的に不活性なポリマー、イオンポリマー、有効電荷を取得しうるポリマー、二共役を与えうるポリマー、およびタンパク質を含む。ポリウレタン、セルロースもしくはエラストマーポリマーは静電的に不活性なポリマーの例である。有効電荷を取得し得、それにより正もしくは負に荷電される、ポリマーの例は、ピリジンもしくはイミダゾールのような窒素含有ヘテロ環である。グリコタンパク質は本発明に有用なタンパク質の1つの種類である。具体的な例は、アビジン、ビオチンおよびストレプトアビジンを含み、膜中に存在する電気化学的活性化剤と複合して、本発明に使用する適切な重合体バインダーを形成しうる。有用なバインダーならびにそれらの合成方法は、たとえば米国特許第6,592,745号明細書に記載されている。
【0046】
1つの態様において、重合体バインダーは、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アクリルアミド、アクリルニトリルおよびアクリルヒドラジドならびにアクリル酸モノマーユニットからなる群より選ばれるモノマーユニットを含む、ポリマーもしくはコポリマーである。その群から選ばれたモノマーを有する重合体バインダーの具体例はビニルピリジンである。これらのモノマーユニットに由来するバインダーは、膜において結合と被検体調節の2つの機能のために、たとえば血液試料を含むグルコースセンシング用途に適している。ビニルピリジンのようなバインダーを膜に配合することにより、膜は水和で破壊されることはないが、ふくれてゲル化層を形成し、スクリーン印刷された炭素表面で膜の種々の成分を持ち上げる。メディエーター、酵素、およびグルコースのような被検体は、この層内で自由に移動しうるが、酸化されたヘモグロビンを含む赤血球のような妨害種は静電反発により膜に入るのを排除される。アニオンアスコルビン酸および尿酸はアニオンバインダーにより追出され、ナノ粒子膜への溶解酸素の分配はこの層の高度の親水性により大いに最小化される。
【0047】
さらに、本発明は非電導性のナノ粒子膜の製造法に関する。レドックスポリマーのような電気化学的活性化剤、酵素およびナノ粒子を含むナノコンポジットスラリーインクの製造は、スラリーの量、粘度および均一性に依存して、商業的に入手しうるミキサー、ブレンダーもしくは撹拌機中で実施されうる。スラリーは、ナノ粒子膜の処理を容易にしうる、いかなる適切な液体もしくは分散媒体、たとえば極性溶媒、水溶液、PBSバッファーおよび有機化合物もしくは溶媒(たとえばアルコール)、中で調製されうる。
【0048】
スラリーインクを形成するのに用いられ成分の適切な割合は変動する。たとえば、その組成は、用途、使用される酵素もしくはスラリーインクを堆積するのに用いられる堆積法により変動し得、そして各成分に用いられる量は実験的に決定されうる。たとえば、グルコースセンサーの膜の製造に用いられるスラリーインクのために適切な組成は次の範囲の成分を含みうる。グルコースオキシダーゼ:0.10〜1.0mg/mL;レドックスメディエーター:5〜50mg/mL;ナノ粒子:10〜200mg/mL;バインダー:10〜300mg/mL。この例において、放置時間は要求されず、スラリーインクはすぐに使用されうる。しかし、他の製造のために、スラリーインクは適切な基板上に塗布される前に適切な時間保持されなければならないことがある。もう1つの特定の例において、スラリーインクはグルコースオキシダーゼ、ポリ(VFc−コ−AA)、アルミナナノ粒子およびPVPACバインダーを、混合比1:50:150:200〜1:40:200:300質量部で混合して、含みうる。本発明のレドックスポリマーはミキサーに添加され、そこでは酵素、ナノ粒子および水と均一化される。したがって、均一化された混合物が適切な基板に塗布される。種々の堆積法が表面にその膜を堆積するのに使用され得、スプレー、塗装、ディップコーティング、スピンコーティング、インクジェット印刷およびスクリーン印刷を含むが、これらに限定されない。
【0049】
上述のように、スラリーインク中のレドックスメディエーターの濃度は、たとえば5〜50mg/mLに変動しうる。ビニルフェロセン−コ−アクリルアミドレドックスメディエーターが使用される、下記の1例において、10〜20mg/mLのメディエーターがスラリーインクに添加された。1つの態様において、ナノコンポジットインクにおけるレドックスの濃度は約15mg/mLである。
【0050】
スラリーにおける酵素の濃度も変動しうる。典型的な範囲は0.1〜1mg/mLである。1つの態様において、ナノコンポジットインクにおける酵素の濃度は約0.2mg/mLである。
【0051】
ナノコンポジットインクの処方は次のように変動しうる。触媒反応はメディエーターと酵素の間で生じるので、メディエーターの濃度は高い密度ならびに触媒酸化電流とグルコース濃度間の直線関係を有するのに十分に高くなければならない。もしメディエーターの量が制限されると、センサーの電流滴定応答は、試料中のグルコース濃度が増加しても平らに頭打ちになる。このことが生じると、メディエーターの量が障害となり、センサーの読みは試料中のグルコース濃度よりも、代わって膜中のメディエーターの量に依存するようになる。後述する特定の例に関して、最適化されたメディエーター濃度は約15mg/mLであり、そしてGOXの最適濃度は約0.20mg/mLであることがわかった。
さらに本発明は、とりわけ本発明のグルコースセンサーにおいて、さらには公知のたとえば被検体の電気化学的検出において電気化学的活性化剤として使用するのに適した新規なフェロセン系レドックスポリマーに関する。フェロセン含有モノマーは非常な困難さでフリーラジカル重合を受けるのが通常であるが、本発明者はフェロセンを含むレドックスポリマーが、たとえばエタノールと水の混合物から、ラジカル開始剤として過硫酸塩とともに、調製されたアルコール性媒体を用いて的確に容易に製造されうることを見出した。
【0052】
いかなる有機金属レドックス種もレドックスメディエーターとして使用しうるが(たとえば、ニッケロセンおよびコバルトセン)、たとえばフェロセンからフェロシニウムイオンへの酸化に由来する適切なレドックス電位により、フェロセン系レドックスメディエーターが好適である。
【0053】
フェロセン誘導体は均一系で拡散電子移送メディエーターとして使用されうる。拡散メディエーターは通常低分子量であり、電極から浸出し得、測定される試料中で失なわれることを留意すべきである。このために、拡散メディエーターにもとづくセンサーは一度使用されると、その後すぐに廃棄されるディスポーザルセンサーとして適切である。
【0054】
さらに、フェロセン誘導体は、メディエーターとして使用され得、電極表面に固定化され、ついで酵素もしくは抗原のようなタンパク質分子に、酵素およびレドックスポリマー側鎖にみられる架橋性官能基間で架橋して、付着される。
【0055】
第1モノマーとして用いられ、レドックスポリマーを形成しうる、適切な重合性フェロセン誘導体は、C−C二重もしくは三重結合、またはN−N二重結合もしくはS−S二重結合のような不飽和結合を有する側鎖を所有すべきである。このような側鎖ユニットの例は、一般式R1−C=C−により表わされる、アルケニル基を含む。二重結合は炭素鎖に沿って、いかなる位置にも配置されうる。芳香族基、たとえばフェニル、トルオイルおよびナフチル基、も使用されうる。さらに、重合性基は置換炭素原子を含み得、そこではハロゲン(たとえば、フッ素、塩素、ホウ素もしくはヨウ素)、酸素もしくはヒドロキシル部位は、たとえば基の炭素原子に接する1つ以上の水素原子を置換する。
【0056】
好適な態様において、重合性フェロセン誘導体は、ビニルフェロセン、アセチレンフェロセン、スチレンフェロセンおよびエチレンオキシドフェロセンからなる群より選ばれる。
【0057】
これらの誘導体における不飽和結合の存在は、フェロセン分子が少くとも1つの不飽和C−C二重もしくは三重結合、またはN−N二重結合もしくはS−S二重結合を有するもう1つの種とフリーラジカル重合によって共重合させて、ポリマー主鎖に付着されるのを可能にする。
【0058】
重合性フェロセン誘導体との共重合に使用される第2モノマーユニットについては、実効電荷を取得しうる1級酸もしくは塩基官能基を有する、いかなる適切なアクリル酸誘導体も使用されうる。これは、本発明が正に、ならびに負に荷電したポリマーを備えることを意味し、上述のような導電性2層が、捕獲分子と被検体分子の間に形成される複合体の実効電荷にかかわりなく、形成されうることを確保する。通常、モノマーとして使用するために適切なアクリル酸誘導体を選択するのに2つの要件がある。フェロセン誘導体と共重合するために、少くとも1つの不飽和結合を有すべきであり、それはたとえばC−C二重もしくは三重結合、またはN−N二重結合もしくはS−S二重結合により与えられうる。第2に、アクリル酸誘導体は、それぞれH+イオンを産生することにより、またはH+イオンを受取ることにより、ブレンステッド−ローリー酸もしくは塩基として作用しうるべきである。ブレンステッド−ローリー酸もしくは塩基機能を与えうる官能基の例は、H+イオンを受けとって荷電アミノ基を形成しうる1級アミン基、または酸官能性が解離してH+イオンを放出するときH+イオンを供与しうるカルボキシル基もしくは硫酸塩、を含む。この点で、1級アミンの使用は本発明において好適であるが、アクリル酸誘導体に存在する2級および3級アミン基も正に荷電したレドックスポリマーを発生させるために使用されうることは当業者に明らかであることが、留意される。この点に関して、さらに、酸もしくは塩基官能性は、1級ではあるが、末端基である必要はなく、分岐側鎖の場合には、側鎖の比較的短いものの範囲内に存在しうる。
【0059】
酸もしくは塩基官能基を有する、いかなる適切なアクリル誘導体も使用されうるが、本発明センサーのレドックスポリマーにおいて第2モノマーとして使用される好適なモノマーは、一般式(I)で表わされるアクリル酸誘導体である。
【化2】
ここでRはCnH2n−NH2,CnH2n−COOH,NH−CnH2n−PO3HおよびNH−CnH2n−SO3Hからなる群より選ばれ、アルキル鎖は任意に置換されていてもよく、そしてnは0〜12、好ましくは0〜8の整数である。アルキル基は直鎖もしくは分岐していてもよく、二重もしくは三重結合またはシクロヘキシルのような環状構造を含んでいてもよい。置換基内の適切な脂肪族部分の例は、たとえばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、もしくはオクチルである。さらに、脂肪族基は、フェニルのような芳香族基、ハロゲン原子、さらに塩基もしくは酸基、またはたとえばo−アルキル基により置換されていてもよい。置換基として存在しうる例示的な芳香族基はフェニル、トルオイルもしくはナフチルである。ハロゲン原子はフッ素、塩素もしくは臭素から選択されうる。適切なo−アルキル基の例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシもしくはブトキシであり、n−アルキル基は−NHMe,−N(Me)2,−N(Ethyl)2もしくは−N(Propyl)2から選ばれる。
【0060】
アクリル酸誘導体のモノマーは、もし商業的に入手できなければ、たとえば末端NH2基を、ここで規定されるアルキル鎖を有する酸もしくは塩基化合物の適切な活性化誘導体との反応により、アクリルアミドから求核置換により出発して、製造されうる。たとえば、アクリルアミドは4−ブロモブタン酸もしくはそのエステル誘導体と反応させることができ、対応するアクリルアミドモノマーを生成する。類似の手順がスルホン酸もしくはリン酸誘導体に対しても使用されうる。
【0061】
通常、生物試料に対して、pHは約6.5〜7.5でありうる。このようなpH範囲で、レドックスポリマー中のアクリルアミドユニットは正の電荷を取得し、すなわちカチオンになる。この正の電荷は、静電相互作用によりポリマー中のフェロセン部分をグルコースオキシダーゼ上のレドックス中心にもっと近づける(そこで、グルコースオキシダーゼは選択されたオキシドレダクターゼ酵素である)。なぜならグルコースオキシダーゼはこのpH範囲で負に荷電される、すなわちアニオン、からである。
【0062】
本発明の1つのセンサーにおいて、オキシドレダクターゼ酵素は架橋によりレドックスポリマーに共有結合で結合される。本発明のレドックスポリマーは電極表面でオキシドレダクターゼ酵素とともに共固定化され得、酵素を電極の不可欠(機能)部とする。酵素とメディエーターの共固定化はレドックスメディエーターで酵素を標識化し、ついで電極表面で酵素固定化することにより達成され得る。あるいは、レドックスポリマーはまず電極表面で固定化され得、ついで酵素はレドックスポリマー内で固定化される。さらに、導電性ポリマーから形成されるマトリックス中で、酵素およびレドックスポリマーの両方を固定することも可能である。
【0063】
本発明のもう1つのセンサーにおいて、オキシドレダクターゼ酵素およびレドックスポリマーは、周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含むナノ粒子膜中に拡散して分散されている。
【0064】
このようなセンサーにおいて、レドックスポリマーは電極表面と試験試料間を往復する拡散メディエーターとして作用する。レドックスポリマーを配合するナノ粒子膜は、電子仲介機能を与えるだけでなく、被検体フィルター機能も与えて電極が試料中の他の電気化学的活性材料と接触するようになるのを防止する。膜中のナノ粒子は微細チャンネルを与え、そこでは被検体分子はセンサー中の酸化電極に到達するために拡散しうる。
【0065】
本発明のセンサーの1態様において、式(I)のレドックスポリマーは約1000〜5000ダルトン、もしくは好ましくは約2000〜4000ダルトン、の分子量を有する。
【0066】
本発明のもう1つの態様において、式(I)のレドックスポリマーは約2%〜17%、もしくは約3〜14%のフェロセン担持を有する。高レベルのフェロセン担持、好ましくは少くとも約3%、が望ましい。通常、低レベルのフェロセン担持は測定されうるグルコース濃度に制約を課す。たとえば、グルコース濃度が存在するフェロセン分子の仲介能力よりもはるかに高いとき、発生される電流滴定応答は少数の仲介フェロセン分子により制限され得、不正確な測定を生じさせる。したがって、比較的高レベルのフェロセン担持を有する式(I)のレドックスポリマーを使用することにより、センサーで試験されうるグルコース濃度の上限は上昇し、比較的少量の試料が要求される。
【0067】
さらに本発明は、水溶性レドックスポリマーの製造方法に関する。その方法は、重合しうるフェロセン誘導体の第1モノマーユニットを1級、2級もしくは3級アクリルアミドのような、アクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニットと重合させてコポリマーを製造することを含む。そのアクリル酸誘導体は実効電荷を取得しうる酸もしくは塩基官能基を有する。重要なことに、重合反応は開始剤の存在下に水性アルコール媒体中で実施される。
【0068】
モノマーおよび開始剤の添加順序は変動しうる。たとえば、第1および第2モノマーをアルコール性媒体中で混合し、ついで反応を開始するために開始剤を添加することが可能である。さらに、まず水性アルコール媒体中でモノマーの1つを溶解し、ついで混合物に残りのモノマーを添加する前に、開始剤を添加することも可能である。
【0069】
アルコール媒体はいかなる有機アルコール、たとえばエタノールのような脂肪族アルコール、もしくはフェノールのような芳香族アルコール、でも調製されうる。その容量比は通常約5:1〜1:1(アルコール/水)である。ある態様において、それは約3:1である。
【0070】
本発明による方法の1態様において、重合は容積比で約2:1〜3:1でエタノールおよび水を含む水性アルコール溶媒を用いて実施される。
【0071】
重合は開始剤の添加なしに進行するが、モノマー中の不飽和結合でみられる電子リッチ中心を攻撃するラジカル開始剤を添加するのが望ましい。したがって、本発明のもう1つの態様において、重合はフリーラジカル開始剤を添加することにより開始される。
【0072】
いかなるフリーラジカル開始剤も使用されうる。その例は過硫酸塩のような無機塩、ならびに過酸化ベンゾイルもしくは2,2′−アゾ−ビス−イソブチリルニトリル(AIBN)のような有機化合物を含み、それらは開始剤フラグメントと呼ばれるラジカルフラグメントを生成し得、その各々はモノマーユニットの不飽和結合を攻撃するフリーラジカルとして作用しうる1つの不対電子を有する。
【0073】
ある態様において、フリーラジカル開始剤は過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる。
【0074】
本発明の1態様において、添加されるフリーラジカル開始剤の質量比はモノマー1gあたり約20mg〜40mgである。本発明者は、ラジカル開始剤の量が重合の度合いに影響することを見出した。高い量のラジカル開始剤は重合効率を著しく低下させ、比較的低分子量を有するレドックスポリマーを生じさせる。さらに、これは通常のフリーラジカル重合反応と比較して、比較的少量のラジカル開始剤が重合プロセスにおいて必要とされることを意味する。使用されるフリーラジカル開始剤の量とは別に、反応物の添加順序(本発明方法に関して下記参照)も重合効率に影響する。
【0075】
本発明による方法は標準的な条件の室温および圧力で実施されうる。しかし、反応を促進するために、還流下に反応混合物を実施するのが好適であるのが通常である。ポリマーもしくは反応物の分解を導びくような過度の高温を用いないように留意されるべきである。したがって、適切な上限は通常100℃未満である。本方法の好適な態様において、重合は還流下に約60℃〜80℃の温度で実施されうる。
【0076】
さらなる態様において、重合は還流下に不活性雰囲気で実施される。不活性雰囲気は、たとえば窒素ガス、ヘリウムガスもしくはアルゴンガスにより付与されうる。
【0077】
重合に必要とされる時間の長さは、用いられる温度および反応液に添加される開始剤の量に依存しうる。通常、重合は10〜40時間、好ましくは約24時間、実施される。
【0078】
本発明方法の1態様は、第1および第2のモノマーの重合に先立ち、予備反応混合物を生成することをさらに含み:
水性アルコール媒体中にアクリル酸誘導体モノマーユニットを溶解すること、ついでフリーラジカル開始剤を添加すること、そして重合しうるフェロセン誘導体モノマーユニットを添加して、予備反応混合物を生成すること、を含む。
【0079】
本発明方法のさらなる態様において、予備反応混合物における重合しうるフェロセン誘導体に対するアクリル酸誘導体の供給比は、添加されるモノマー質量の約5%〜15%であり、適切な分子量および粘度を有するレドックスポリマーが得られる。
【0080】
さらなる態様において、重合しうるフェロセン誘導体モノマーユニットは添加される前に水性アルコール媒体中に溶解される。
【0081】
本発明方法の1態様において、レドックスポリマーは有機溶媒中で沈殿する。含まれるモノマーを溶解するのに用いられうる有機溶媒は、たとえばエーテル、ケトンおよびアルコールを含む。
【実施例】
【0082】
例1 拡散メディエーターバイオセンサーの作製
図1は、本発明の1態様による先端充填バイオセンサー2の分解等角図を示す。特定の態様によるバイオセンサー2の製造方法は次に示される。第1に、Acheson Colloids Co.,カリフォルニア州 Ontario(米国)から入手しうるElectrodag 423SSのような炭素電極アレイが、ポリエステルフィルム基板上に適切なマスクを用いて印刷される。ついで印刷された基板は所定の時間、たとえば24時間、約70℃の温度で乾燥される。その後、そこに適切に形成された孔を有する両面テープが印刷された基板上に置かれた。これらの孔は凹部14および電極部20,22を露出するための開口を境界づける。ついで均一なナノ粒子膜は、PVFcAA(以下の例2に示されるように調製される)、GOX、ポリ(ビニルピリジン−コ−アクリル酸)(PVPAC)バインダーおよびアルミナナノ粒子)の水性スラリー「インク」で、炭素電極の作用表面上に、適切なマスクを用いて、スクリーン印刷される。ついで得られる構造は調節された雰囲気で約37℃の温度で乾燥される。ナノ粒子膜の厚さはインク中の全含量を調節することにより制御され得るが、作用電極上に塗布される一定容積を保持し、たとえばスクリーン印刷機におけるスクリーンのメッシュサイズを調節することにより、またはナノ粒子材料の含量、もしくは印刷スラリーの「濃度」を調節することにより取扱われる。
【0083】
上述の構造が形成されるが、Ag/AgClもしくは炭素対電極の配列は適切なマスクを用いて第2のポリエステルフィルム上に同様にスクリーン印刷され、乾燥される。ついで第2のポリエステルフィルムは、粘着テープにわたって配置され、対電極は対応する作用電極とともに並べられる。その後、その構造は多数のバイオセンサー2を製造するために単一化される。
【0084】
例2 ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)、ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリル酸)およびポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド−スルホン酸)コポリマーの合成
グルコースオキシダーゼ(GOX,EC1.1.3.4,Aspergillus nigerより、191units/mg)がFluka(CH−9470 Buchs,スイス)により購入された。フェロセン(Fc)、ビニルフェロセン(VFc)、アクリルアミド(AA)、アクリル酸(AC)、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパン−スルホン酸(CAT.No.28,273、「アクリルアミド−スルホン酸」もしくはAAS)および過硫酸塩はSigma−Aldrich(ミネソタ州セントルイス、米国)より購入された。使用されたアセトン、エタノールおよびリン酸塩緩衝塩類溶液のようなすべての化学品は認定分析グレードであった。使用されたすべての溶液は脱イオン水で調製された。
【0085】
実験で生成されたポリマーのUVスペクトルがAgilent 8453 UV−可視分光光度計で測定、記録された。分子量は、水ならびに検定用の標準ポリ(エチレンオキシド)およびポリ(エチレングリコール)中で、Toyo Soda高性能ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定された。
【0086】
i)ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)ポリマーの合成
エタノール/水(3部/1部)の混合溶媒10mLに溶解したアクリルアミド1.0gを含む3つの試料が調製された。酸素を含まない過硫酸溶液0.10g/mLの分割量0.30mLが10分間脱酸素された後に各試料に添加された。0.05g〜0.16gの範囲の3つの量のビニルフェロセンが脱気したエタノールに溶解され、3つのビニルフェロセン溶液試料を形成し、各試料に添加されるフェロセン量はそれぞれ95:5、90:10および85:15のアクリルアミド/ビニルフェロセン供給比(w/w)を得るように算出された。ついで、各ビニルフェロセン試料はアクリルアミド開始剤混合物に添加された。反応混合物は窒素雰囲気中で70℃、24時間、還流された。冷却後、反応混合物はレドックスポリマーを沈殿させるために急速撹拌されているアセトンに別々に滴下された。沈殿レドックスポリマーはアセトンで洗浄され、水溶解−アセトン沈殿のサイクルを複数回くりかえして精製された。ついで精製生成物は真空下、50℃で乾燥された。
【0087】
ii)ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリル酸)ポリマーの合成
エタノール/水(3部/1部)の混合溶媒10mLに溶解したアクリル酸1gを含む3つの試料が調製された。酸素を含まない過硫酸溶液0.10g/mLの分割量0.30mLが10分間脱酸素された後に各試料に添加された。0.05g〜0.16gの範囲の3つの量のビニルフェロセンが脱気したエタノールに溶解され、3つのビニルフェロセン溶液試料を形成し、各試料に添加されるフェロセン量はそれぞれ95:5、90:10および85:15のアクリルアミド/ビニルフェロセン供給比(w/w)を得るように算出された。ついで、各ビニルフェロセン試料はアクリルアミド開始剤混合物に添加された。反応混合物は窒素雰囲気中で70℃、24時間、還流された。冷却後、反応混合物はレドックスポリマーを沈殿させるために急速撹拌されているアセトンに別々に滴下された。沈殿レドックスポリマーはアセトンで洗浄され、水溶解−アセトン沈殿のサイクルを複数回くりかえして精製された。ついで精製生成物は真空下、50℃で乾燥された。
【0088】
iii)ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)ポリマーの調製
エタノール/水(3部/1部)の混合溶媒10mLに溶解したアクリル酸1gを含む3つの試料が調製された。酸素を含まない過硫酸溶液0.10g/mLの分割量0.30mLが10分間脱酸素された後に各試料に添加された。0.05g〜0.16gの範囲の3つの量のビニルフェロセンが脱気したエタノールに溶解され、3つのビニルフェロセン溶液試料を形成し、各試料に添加されるフェロセン量はそれぞれ95:5、90:10および85:15のアクリルアミド/ビニルフェロセン供給比(w/w)を得るように算出された。ついで、各ビニルフェロセン試料はアクリルアミド開始剤混合物に添加された。反応混合物は窒素雰囲気中で70℃、24時間、還流された。冷却後、反応混合物はレドックスポリマーを沈殿させるために急速撹拌されているアセトンに別々に滴下された。沈殿レドックスポリマーはアセトンで洗浄され、水溶解−アセトン沈殿のサイクルを複数回くりかえして精製された。ついで精製生成物は真空下、50℃で乾燥された。
【0089】
結果および検討
ビニルフェロセンとアクリルアミドおよびその誘導体との共重合は従来法のラジカル重合反応に基づいて実施された。概括的な反応式は図6に示される。
【0090】
しかし、モノマーをうまく共重合させるために、系内のビニルフェロセンの終結効果に大きな注意が払われた。導入部で述べたように、ビニルフェロセンは通常、共重合系でラジカルスキャベンジャーとして作用する。ラジカル開始剤の量が正常な重合系で必要とされる量よりもかなり少ないことが見出された。比較的大きい量のラジカル開始剤は重合効率および生成物の分子量を著しく減少させた。さらに、添加順序も重合効率に影響する。
【0091】
ビニルフェロセンおよびアクリルアミドの溶液に過硫酸塩ラジカル開始剤を添加するとき、20%未満の重合が観察された。これは、おそらく、反応混合物におけるフェロセニウム生成のためであり、それは重合の抑制およびポリマー鎖成長プロセスのはるかに早い終結をもたらした。表1に示されるように、最適条件下でかなり高収率が得られた。
【0092】
【表1】
【0093】
しかし、ポリマー収率はビニルフェロセン供給比の増加とともに減少した。これはラジカル重合における終結効果が重合プロセスで大きな注意が払われているにもかかわらず、なお存在することを示した。さらに、反応混合物が青になると微小な収率が得られたことが見出されたが、これは重合溶液中にかなりの量のフェロセニウムが生成したためである。フェロセン担持は3〜14%で変動し、モノマー供給におけるフェロセン含量よりもいつも少ない。
【0094】
レドックスポリマーにおけるフェロセン担持は、元素分析から決定された。エネルギー分散型X線分析(EDX)がこの目的のために用いられた。製造されたレドックス試料について用いられた電子ビームのエネルギーは120KeVである。試料により発生されるX線はリチウムドリフトケイ素検出器により分析に供された。
【0095】
レドックスポリマーの分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定された。通常、比較的高いフェロセン供給比で製造されたレドックスポリマーは、比較的低い分子量および比較的広い分子量分布を有していた。
【0096】
合成されたレドックスポリマーの特徴づけ
合成された共重合体は明るい黄色の、粉末状物質であった。共重合体の分子量は2000〜4000ダルトンである。FT−IR実験(図7参照)は1650cm-1でのビニル吸収の完全な消失を明らかに示し、アクリルアミドおよびビニルフェロセンの両方がうまく重合され、得られたレドックスポリマーが高純度でモノマーを含まないことを示唆している。さらに、証拠は1000〜1300cm-1領域でも見付しうる。1126cm-1における弱い吸収を伴う非常に強い吸収は、レドックスポリマー中のフェロセニルユニットの存在を示し、1218cm-1における強い吸収はポリマー中のアミド基を示唆した。さらに、UV実験はビニルフェロセンおよびアクリルアミドのうまくいった共重合を確認した。300nmにおける微小なショルダーは共重合体におけるフェロセン部分を明らかに示す(図8参照)。レドックスポリマー中にフェロセニルおよびアミンもしくはカルボン酸部分を有することはポリマーに2つの機能を付与した:電子仲介のためのレドックス活性およびタンパク質との架橋のための化学的活性。
【0097】
ビニルフェロセンの供給比の増加は、レドックスポリマー内のフェロセニル部分の割合を増加させるように意図された。しかし、ビニルフェロセン量の変動は、ポリマー収率に影響した。得られた最高収率は、ビニルフェロセン供給比が最低のときであり、ラジカル重合におけるフェロセニル化合物の異常な挙動と良く一致する。表1に示すように、ポリマー中のフェロセニル部分の含量はビニルフェロセン供給比の増加とともに増加したが、それは線状では全くなかった。バイオセンシング目的には、ビニルフェロセン供給比10%は十分であり、良好な仲介機能および良好な経済性を与えることがわかった。重合に使用される開始剤の量もレドックスポリマーの組成および収率に影響した。良好なレドックスポリマーは開始剤がモノマー1gあたり20〜40mgであるときに得られることがわかった。
【0098】
例3 レドックスポリマーのサイクリックボルタンモグラムを得ること
レドックスポリマーが、0.0μg GOx、10μg GOxおよび10μg GOxと10mMグルコースの存在下でリン酸塩緩衝塩類溶液(PBS)中で調製された。
【0099】
電気化学的試験が一般目的電気化学システム(GPES)マネージャーバージョン4.9のもとで操作するAutoLabポテンショスタット/ガルバノスタットで実施された。3つの電極システムセルがファラデーケージに納められている。その電極は(Ag/AgCl)基準電極、白金ワイヤ対電極およびAu作用電極(表面積7.94mm2)であった。
【0100】
ビニルフェロセンと異なり、合成されたレドックスポリマーは水に高い溶解性を有していたが、ほとんどの有機溶媒に不溶である。この特性は、バイオセンシング、特に酵素結合バイセンシングにおけるメディエーターとしての使用にレドックスポリマーを理想的なものとする。なぜなら大部分の酵素は水性媒体でのみ作用するからである。
【0101】
図9はレドックスポリマーのみを含むPBS中での典型的なサイクリックボルタンモグラムを示し、そのボルタンモグラムは高度に可逆的な溶液電気化学を示した:レドックス波は〜0.18Vを中心とし(vs.Ag/AgCl)、ボルタンモグラムは拡散制約形状を有し、アノードおよびカソードピーク電流の大きさは同一であり、ピーク/ピーク電位分離は60mVであり、25℃での理論値59mVに非常に近い。これらのレドックス波はレドックスポリマーのフェロセニル部分の酸化および還元に帰され得、ポリマーの優れたレドックス活性を示す。ボルタン実験は、ビニルフェロセンがアクリルアミドおよびその誘導体とうまく共重合され、ポリマー中のフェロセニル部分はその電気活性を保持していることを示した。PBS中のレドックスポリマーは自由な拡散挙動を有する溶液形態にある。種々の量のグルコースをこの溶液に添加すること(spiking)は、ボルタンモグラムを全く変化させなかったが、これはレドックスポリマーのみによってはグルコースの触媒的酸化がないことを示唆する。さらに、レドックスポリマー溶液に少量のGOxを添加するとき、明白な変化はみられなかった。得られる溶液の電気化学はレドックスポリマーのみの溶液と実際上は同じである。しかし、10mMグルコースがこの溶液に添加されると、GOxによるグルコースの酵素酸化が進行する。レドックスはGOxに集中し、FADはFADH2に転換された。電極電位がレドックスポリマーのレドックス電位をすぎて走査されると、レドックスポリマー中のかなりの量のフェロセン部分が電極表面近くでフェロセニウムに酸化された。GOxにおけるFAD/FADH2のレドックス電位は−0.36V(vs.Ag/AgCl)であり、フェロセン/フェロセニウムカップルよりもはるかに低く、FADH2近くのフェロセニウム部分はそれを酸化してFADにもどし、そしてレドックスポリマーのフェロセニウム部分はもとのフェロセン部分に還元される。これらの2つの反応は、図4に示されるように、触媒サイクルを形成し、すなわちGOxによるグルコース酸化はレドックスポリマーにより仲介される。
【0102】
このように、レドックスポリマーによる触媒反応は、図9(明るい灰色の線)にみられるように、グルコースを含む溶液において酸化電流を大いに高める。FADH2、レドックスポリマーおよび電極の間の電子の交換がすべて非常に速いならば、大部分のフェロセニウム部分は電気化学的酸化の間に生成され、そして代わりにそれらはFADH2により急速に消費される。これは、グルコースを含まない溶液で得られる電流に比較して、フェロセニウム部分のはるかに低い還元電流の理由である。これらのデータは、レドックスポリマーが酵素反応においてレドックスメディエーターとして有効に機能し、酵素のレドックス中心から電極表面に電子を往復させることを示唆する。
【0103】
例4 グルコースオキシダーゼ−子ウシ血清アルブミンン(GOx−BSA)で架橋されたビニルフェロセン−コ−アクリルアミドを含む膜の合成
タンパク質とのレドックスポリマーの架橋反応が実施され得られた膜の電気化学的性質を検討した。酵素GOxが本例で使用された。グルタルアルデヒドおよびポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(PEG)が架橋剤として選ばれた。生物グレードグルタルアルデヒド(水中、50%、製品コード00867−1EA)およびポリ(エチレングリコール)グリシジルエーテル(PEGDE)(製品コード03800)はSigma−Aldrichから入手された。
【0104】
第1に、例1で得られたポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)が金電極上に堆積された。GOx−BSAは架橋剤で修飾され、末端アルデヒド官能基を持つ脂肪族炭素鎖を有するGOx−BSAが得られたが、それは固定化メディエーター上の適切な官能基で架橋を付与しうる。ついで、修飾されたGOx−BSAは堆積され、固定化された開始剤と反応された。修飾GOx−BSA上のアルデヒド基はPAA−VFc上のアミン基と反応して共有結合架橋を形成した。反応が実施された後、PAA−VFc−GOx−BSA膜は乾燥された。
【0105】
金電極上の架橋PAA−VFc−GOx−BSA膜はボルタン分析に供された。ブランクPBSが用いられ、そして50mV/sの電位走査速度が適用された。
【0106】
図10はブランクPBS中における、金電極上にGOxおよびBSAでPEG架橋されたPAA−VFcのサイクリックボルタンモグラムを示す。図10に示されるように、その架橋膜はまさに期待されたとおり、高度に可逆的な表面固定化レドックスカップであることを示し(A.J. Bard, L.R. Faulkner, Electrohemical Methods, John Wiley & Sons: New York, 2001.)、水およびPBSで徹底的洗浄後に、そして−0.2V〜+0.8Vでの数多くのくりかえし電位サイクルの後に、ほとんど変化がなく、そして金電極上で高度に安定な固定化フェロセニル膜であることを明らかにした。100mV/s未満の低走査速度で、著しく対称的な信号が、理想的なNernstian挙動を示す、表面制約一電子レドックス系に対して期待されるように記録された:ピーク電流は電位走査速度に比例し、溶液での拡散挙動の場合にみられるように(図9参照)ピーク/ピーク電位分離は59mVよりはるかに小さく、そして半ピーク高さでの電流幅は約90mVである。このような結果はフェロセニルレドックス中心のすべてが電極表面に到達し、可逆的な均一電子移動を進めるのを可能にすることを確めるものである。PBS溶液に10mMのグルコースを添加する際に、典型的な電気化学的曲線が得られた。しかし、レドックスポリマーの還元ピークは消失した(図10、明るい灰色の線)。これは、センシング層が還元されたGOxからフェロセニル部分への電子移動により還元状態に均一に維持されたことを意味する。検出された急速な応答および電流は、レドックスポリマーの優れた仲介機能およびバイオセンサーの高電流感度(750mA/mMグルコース)を示した。
【0107】
これらのポジティブな結果にもとづいていて、さらなる例はナノ粒子膜においてグルコースオキシダーゼと共分散された拡散メディエーターとして、本発明のレドックスポリマーを組込んだバイオセンサーの性能を調べるために実施された。
例5 共分散された拡散ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)およびグルコースオキシダーゼを組み入れるナノ粒子膜の製造
i)ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)レドックスポリマーの製造
D−(+)−グルコースおよびグルコースオキシダーゼ(GOx、EC1.1.3.4、Aspergilliusnigerより、191ユニット/mg)がSigma-Aldrich(ミネソタ州St Louis, 米国)より購入した。粒径が10〜1000nmに及ぶアルミナナノ粒子は次のように自家合成された。硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O、88.30g)が水471mLに溶解され、ついで水411.93mL中の濃水酸化アンモニウム205.9mLから調製された塩基溶液に滴下された。得られた沈殿物は攪拌され、一夜熟成され、ついで上清除去のために遠心分離された。洗浄、乾燥および磨砕後に、沈殿物は空気中で700℃、3時間、仮焼された。得られるγ−ナノ結晶は数十〜数百nmの範囲で調節可能なサイズを有する。
リン酸塩緩衝塩類溶液(PBS)(pH7.4)がリン酸塩(0.020M)および塩化ナトリウム(0.15M)から調製された。ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)、グルコースおよびGOx溶液はPBS緩衝液で調製された。グルコース貯蔵溶液は使用前少なくとも24時間、変旋光しうる。すべての溶液はミリポアから得られる脱イオン水で調製された。本例で用いたすべての化学品は認定分析グレードであった。
ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)(PVFcAA)レドックスポリマーは次の手順により合成された:ビニルフェロセン0.15gおよびアクリルアミド1.0gが水性アルコール(エタノール2部:水1部)10mLに溶解された。重合を開始するために、酸素を含まない過硫酸アンモニウム溶液0.10g/mLの分割量0.50mLが10分間の脱酸素化後に反応混合物に添加された。混合物は窒素下に24時間、還流された。冷却後にレドックスポリマーはアセトン中で沈殿された。精製は粗生成物を水に溶解させ、アセトン/水混合物中で沈殿させることにより実施された。
ii)ナノコンポジット膜の合成
ナノコンポジット膜は、PVFcAA、GOx、ポリ(ビニルピリジン−コ−アクリル酸)(PVPAC)バインダーおよびアルミナナノ粒子の水性スラリー「インク」を用いて炭素ストリップ上にスクリーン印刷された。水性スラリーインクは、上で調製されたPVFcAA、GOx、ポリ(ビニルピリジン−コ−アクリル酸)(PVPAC)もしくはポリ(ビニルピリジン−コ−アクリルアモ−スルホン酸)(PVPPAS)バインダーならびにアルミナナノ粒子を水に次の範囲の濃度で混合することにより調製された:グルコースオキシダ−ゼ0.20−0.50mg/mL、メディエーター10−20mg/mL、ナノ粒子30−100mg/mL、PVPACもしくはPVPPASバインダー40−150mg/mL。スラリーインクは貯蔵もしくはすぐに使用され得る。センサー電極を膜層で被覆するのが望ましいとき、スラリーインクはスクリーン印刷機のような堆積装置に充填され、電極上に堆積され膜を形成する。センサーへのアセンブリングの前に膜はまず乾燥される。
例6 ナノ粒子膜中に共分散された拡散ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)メディエーターおよびグルコースオキシダ−ゼを用いたグルコースバイオセンサーのサイクリックボルタンメトリー分析
センサーは、例5で調製されたスラリーインクを用いて、本例においてはスクリーン印刷された炭素作用電極およびAg/AgCl基準電極で組み立てられた。センサーの性能はサイクリックボルタンメトリーを用いて分析された。すべての電気化学的測定は室温でモデルCHI 660A 電気化学ワークステーション(CH Instruments, Austin, 米国)で実施された。サイクリックボルタンメトリー測定は、スクリーン印刷された炭素作用電極、小型Ag/AgCl基準電極(Cypress Systems, カンサス州Lawrence, 米国)および白金ワイヤ対電極からなる、従来の3電極系を用いて行なわれた。2mm径の作用領域を超えて印刷インクが拡散するのを避けるために、パターン化された疎水性膜が炭素電極に塗布された。電極汚損および可能なインク濃度変化を避けるために、新しい電極およびインクが各ボルタンメトリー試験に用いられた。すべてのグルコース試験はPBS溶液中で実施された。pHが変動された実験において、1.0MのHClおよび1.0MのNaOH溶液がPBS緩衝液のpHを調節するために用いられた。電流滴定実験において、作用電極は0・30V(vs. Ag/AgCl)に保持された。
結果および検討
ナノコンポジットインクにおいてPVFcAAメディエーターの典型的なサイクリックボルタンモグラムが図12に示される。電極は拡散が調節され、速度の速いレドックスカップルの伝統的な特徴を示した。ピーク電流は電位走査速度の平方根で直線的に増加し、還元と酸化のピーク電位の差異は200mV/sまでの走査速度に対し59mVで変わらず、メディエーターから電極への電荷移動が急速であることを示した。このインクへのグルコースの添加はボルタンモグラムを全く変化させず、メディエーターのみによるグルコースの触媒酸化がないことを示唆した。さらに、図12aに示されるように、実際上、同一のボルタンモグラムが、0.1〜20mg/mLの範囲の異なる量のGOxの存在下で得られ、酵素がインク中のFc+/Fcレドックスカップルの電気化学にあまり影響しないことを示した。しかし、インクへの非常に少量のグルコースの添加は、増加したアノード電流と減少したカソード電流をもたらした(図12b)。さらに、図12bにみられるように、ボルタンモグラムはメディエーターのレドックス電位のまわりのアノード側に向かって上昇した。このような変化は典型的な化学的に対をなす電極プロセスを示す(電気触媒作用)。電気触媒作用は次の反応式で説明されうる。
グルコース+GOX−FAD+2H+→グルコノラクトン+GOX−FADH2(1)
GOX−FADH2+2Fc+→GOX−FAD+2Fc+2H+(2)
Fc→Fc++e−(3)
このように、GOX−FADは膜を透過するグルコースによりGOX−FADH2に還元され(式1)、電子はGOX−FADH2からFc+サイトに移動され(式2)、そして電子は重合体メディエーターのFc+/Fcサイトをとおって電極表面に移動される(式3)。下にある炭素電極でのフェロセン部分の酸化は図12bにみられるように増加したアノード電流を説明する。
FcとGOXの間の触媒反応の速度定数kは、酵素が完全に還元されることを確実にするために大過剰のグルコースの存在下に得られるボルタンメトリーデータから評価されうる。このような状況で、GOXとFcの間の反応(式2)は実際上、擬一次である。NicholsonおよびShain、ならびにLiaudetおよび共同研究者により示されるように、FcとGOXの間の仲介レドックスプロセスによる制限電流ILは次のように示され得る:
IL=nFACFc(2DFcKCGOX)1/2(4)
ここでCFcおよびCGOXはそれぞれFcおよびGOXの濃度である。DFcはFcの拡散係数であり、たの記号はそれらの通常の意味である。式4から予見されるように、制限電流は十分に遅い速度で電位走査速度と独立しており、Fc濃度およびGOX濃度の平方根に比例した。これらの観察は仲介されたグルコース酸化の速度定数を決定するのに式4の使用を正当にする。式4とピーク電流ipを組合わせることにより、線形掃引ボルタンメトリーにおける表現IL/ip関係は次のように得られる。
IL/ip=(2kCGOX)1/2/[0.4463(nFv/RT)]1/2](5)
これは測定が容易な実験パラメーターを含み、速度定数を決定する目的によく合致する。なぜならFc/Fc+カップルの電極プロセスは拡散により専ら調節されるからである。速度定数は、Fc 0.50mM,グルコース60mMおよびGOX 0〜30μMを含む溶液において、50mV/s未満の低走査速度で得られたデータから評価されて、約3.8×103I/sであるとわかった。このような速度定数はPVFcAAがGOXの酸化を効率的に仲介し、電極表面にグルコースの酵素酸化をカップリングする優れたメディエーターであることを示唆する。この研究で得られた速度定数はは従来発表された他のフェロセン誘導体GOX系の定数より著しく大きい。可能な原因はpH7.4でのレドックスポリマーにおけるカチオンアクリルアミドの存在であろう、そしてそれはGOXはこのpHでアニオンであるので、静電相互作用によりGOXのレドックス中心のすぐ近くにFc部分を運ぶのである。
例7 ナノ粒子膜中に共分散された拡散ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)メディエーターおよびグルコースオキシダ−ゼを用いたグルコースバイオセンサーの電流滴定応答
センサーは、例5で調製されたスラリーインクを用いて、本例においてはスクリーン印
刷された炭素作用電極およびAg/AgCl基準電極で組み立てられた。バイオセンサーにおける空気飽和PBS緩衝液中のグルコースの典型的な電流滴定応答は、図13aに示される。電流滴定試験は、バイオセンサーがグルコースに対して急速な応答時間と高感度性を有することを示した。0.30Aで、グルコース濃度を変えると、酸化電流は増加し、非常に急速に、5秒以内に最大値に達し、20秒内にピーク電流の60%より多く維持される、ゆるやかな過渡状態に続く。同一の実験条件下でブランクPBS緩衝液中で触媒酸化は見られなかったが、ナノ粒子膜の存在はバックグラウンド電流を増加させ、低レベルになるのにかなり長い時間を要した。
バイオセンサーの満足すべき性能を得るために、ナノコンポジットの処方が最適化された。触媒反応はメディエーターおよびGOXの間で生じるので、メディエーターの濃度は触媒酸化電流とグルコース濃度の間の高感度と直線関係を有するのに十分に高い必要がある。そうでないと、仲介されたグルコース酸化のフラクションは小さく、グルコース濃度に代わり、膜中のメディエーターの量に依存する。感度およびバイオセンサーの経済性を考慮して、15mg/mLのメディエーター濃度が目的のために最良であり、GOXの最適濃度は0.20mg/mLであること、が見出された(図14aおよび14b)。そのポイズ(平衡)電位はバイオセンサーの電流滴定の応答に作用すると期待される。したがって、0.0〜0.70Vの範囲で試験された。図13cに示されるように、電流感度は増加するポイズ電位とともに増加し、0.30Vで平たんになった。感度のわずかな増加は、ポイズ電位が0.50Vを超えるときにみられたが、おそらく増加したバックグラウンド電流によるとものであろう。さらに、ポイズ電位が高すぎると非常に増加したバックグラウンド電流および下にある多くの電気活性種の直接酸化の両方の複合によりグルコース測定の精度が低下する。したがって、グルコースの電流滴定のために、バイオセンサーの電位は0.30Vに平衡保持される。
ナノ粒子膜の厚さへのグルコースの触媒酸化電流の依存性が試験された(図14d)。図14dにみられるように、触媒酸化電流は250〜500μmの厚さでナノ粒子膜について最大値に達した。比較的薄い膜の不十分な材料は低感度と電流ピークの消失を生じさせた。一方、500μm超の膜厚の増加はグルコースの膜透過性およびGOX触媒反応の酸化生成物に逆に作用する。さらに、比較的長い応答時間がもっと厚い膜について必要となる。
これらの表面固定化センシング膜の利用と異なり、非導電性ナノ粒子センシング膜は選択性で公知のディスポーザルグルコースバイオセンサーに比べて大きな利点をもたらす。前者の系において、センシング膜は電極の一部であり、血液試料と直接接触している。血液中のいくつかの成分、たとえば赤血球および白血球、タンパク質、ならびにアスコルビン酸はセンシング膜と相互作用し得、血糖値測定の精度を低下させ得る。この研究において、ナノ粒子膜は非導電性であり、したがって構造的にも機能的にも電極の一部ではない。グルコースの触媒酸化のみが電極/ナノ粒子膜界面で生じる。すなわち、電気活性種はナノ粒子膜を通過してその界面に到達しなければ、電極と電子を交換しない。したがって、ナノ粒子膜は血球およびタンパク質のような血液中のバルキー種の可能な妨害の通路に対してバリアを提供する。この処方がナノ粒子膜を印刷するのに用いられると、PVPACバインダーはセンシング膜において2つの機能でゆうようである:結合および被検体制御。再水和に際して、膜は破壊せず、膨潤してスクリーン印刷された炭素表面上にゲル化層を形成する。グルコースおよびメディエーターのような反応物はこの層内を自由に移動し、一方酸化されたヘモグロビンを含む赤血球のような妨害種は排除される。アニオン性アスコルビン酸および尿酸はアニオンPVACポリマーにより追い出され、溶解酸素のナノ粒子膜への分配はこの層の高度の親水性により大いに最小化される。これはセンシング膜をもたらし、それにより、40〜60%のヘマトクリット範囲にわたって、5.0%未満で変動する所与グルコース濃度に応じて、そして0.20mMアスコルビン酸および0.10mM尿酸の存在下で、その量の電流が発生した。さらに、望ましくもこのように血液中の妨害成分に影響を受けないことは全血試料においても観察された。さらに、ナノ粒子膜はグルコースに対しても被検体制御層を示し、系が速度的に制御されないようにグルコースの移動を著しく遅くし、それにより直線的領域を完全な生理的関連グルコース濃度範囲40〜540mg/dLに渡って拡げる。
前述のとおり、酸素はグルコースバイオセンサーの感度に影響する。なぜなら溶解した酸素によるグルコース酸化は副反応として同時に起るからである。疎水性ポリビニルピロリドン(PVP)バインダーを使用する薄いナノ粒子膜についての初期電流滴定試験は、その応答が溶解酸素を伴なうよりも酸素不存在において比較的高いことを示した。たとえば50mg/dLの低グルコース濃度で、酸素との競合はピーク電流において著しい(〜20%)減少を生じさせた。したがって、高度に選択的で、正確なバイオセンサーを得るために系における酸素妨害を抑制する必要性があった。疎水性PVPへのアクリル酸ユニットの導入はバイオセンサーの性能に著しい改良をもたらした。得られたナノ粒子膜は高度に親水性であり、グルコース/酸素透過比を改良し、そしてバイオセンサー応答の精度および直線性を最適化した。窒素(図15a)および酸素(図15b)でバブリングされた200mg/dLグルコース溶液についての2つの電流滴定グラフはピーク電流5%未満の差異でよく重複し、そのバイオセンサーは試料中の酸素含量にむしろ影響されないことを示した。
例8 ナノ粒子膜中に共分散された拡散ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)メディエーターおよびグルコースオキシダ−ゼを用いたグルコースバイオセンサーの特徴の分析
センサーは、例5で調製されたスラリーインクを用いて、本例においてはスクリーン印刷された炭素作用電極およびAg/AgCl基準電極で組み立てられた。その感度は600mg/dL以下のグルコースについてのピーク電流〜76mg/dLであった。図16にみられるように、触媒酸化電流は600mg/dLまでのグルコース濃度に直接的に比例し、完全な生理的関連血糖含量をカバーした。興味深いことに、電流ピーク後のいかなる時点で得られる電流もグルコース濃度に直線的に依存し(図16b参照)、電流滴定試験の最初の20秒以内の代替サンプリングの可能性を与える。その精度は40〜300mg/dLグルコース溶液の2系列の20回繰り返し測定から評価された。相対的な標準偏差はそれぞれ4.0%および8.6%であった。最適条件下での5mg/dLグルコースの繰り返し測定の標準偏差の3倍から評価された検出限界は1.8mg/dLであることが判明し、バイオセンサーの荷電電流により制約される。もっとじゅうようなことに、一回の試験に要求される全血容積は約0.20〜0.30μLであり、市場で入手しうるすべてのディスポーザルグルコースバイオセンサーの中で最小の試験容積である。安定性試験は異なる温度で実施された。室温で最初の180日間貯蔵についての初期感度の100%を維持したバイオセンサーは50℃、60分後に初期感度の10%を失い、60℃、60分後に初期感度の約50%を失った。これはバイオセンサーにおける酵素活性の喪失による。この提案される方法は全血におけるグルコースの測定にうまく適応された(表2)。
【表2】
得られた結果はyellow spring 血糖アナライザー(YSI Model 2300)で得られた基準値とよく一致した。得られる回収は実用的使用に十分であった。
一連の水溶性および架橋性フェロセニルレドックスポリマーがビニルフェロセンならびにアクリルアミドおよびその誘導体の一般的なラジカル重合により調製された。得られるレドックスポリマーはGOxの存在下にグルコースに対する典型的な触媒酸化電流を生成した。その実験結果はレドックスポリマーがその迅速な電子移動性を保持し、GOxはPBSに導入された後にも触媒活性を保持することを示した。側鎖の1つとしてアミンもしくはカルボン酸部分を有するレドックスポリマーは、酵素ならびに抗体および抗原のようなタンパク質で都合よく架橋されることを可能にする。架橋レドックスポリマー膜の電気化学試験は溶液中の基板の酸化への優れた触媒活性、高感度、良好な再現性および安定性、を示し、したがってバイオセンサーにおけるセンシング膜として使用されるのに適していることを示す。
別の実験において、グルコースオキシダーゼおよびPVFcAAは親水性PVPAAとともにナノ粒子アルミナに容易にかつ均一に分散され得、得られた膜はグルコースに対する典型的な触媒酸化電流を生成したことを示した。実験結果はメディエーターがその迅速な電子移動性を保持し、GOxはPBSに導入された後にも触媒活性を保持することを示した。それらはこのバイオセンサーが血糖に対し良好な感度と安定性を有し、0.20μLもの少量で血液試料をモニタリングすることを示した。バイオセンサーの作製においてスクリーン印刷法の使用は、容易で低コストの大量生産を可能にする。これらのバイオセンサー特性は商業価値の高い小型グルコースバイオセンサーの開発を有望にする。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の1態様によるバイオセンサーの分解等角図。
【図2A】図1の矢印Aの方向にみられる、図1のバイオセンサーの端面図。
【図2B】図1の矢印Bの方向にみられる、図1のバイオセンサーの端面図。
【図3】本発明のもう1つの態様によるバイオセンサーの分解等角図。
【図4】レドックスポリマーメディエーターバイオセンサーで生じるカップリングレドックス反応の模式図。
【図5】本発明の水溶性で架橋性ポリマーの基本ユニット構造を示す。ビニルフェロセンおよびアクリル酸誘導体にみられる繰返し単位を示す。
【図6】ビニルフェロセンおよびアクリル酸誘導体の共重合反応における概括的式を示す。
【図7】本発明方法により製造されるレドックスポリマーであるPAA−VFcおよびPAAS−VFcのフーリエ変換赤外(FT−IR)スペクトルを示す。
【図8】Fc,PAA,PAAS、およびVFcとの共重合で得られる共重合体、の紫外線(UV)−可視光スペクトルを示す。
【図9】種々の系におけるレドックスポリマーのサイクリックボルタンモグラムを示す。リン酸塩緩衝塩類溶液が用いられ、ボルタンモグラムを得るのに適用された電位走査速度は100mV/sであった。
【図10】金電極上にグルコースオキシダーゼ−子ウシ血清アルブミン(GOx−BSA)膜で架橋されるレドックスポリマーPAA−VFcの、もう1つのサイクリックボルタンモグラムを示す。リン酸塩緩衝塩類溶液が用いられ、ボルタンモグラムを得るのに適用された電位走査速度は50mV/sであった。
【図11】この研究で用いられたディスポーザルグルコースバイオセンサーの分解図。
【図12】100mg/dLのグルコース添加なし(a)および添加あり(b)のナノ粒子印刷インクのサイクリックボルタンモグラムを示す。適用された電位走査速度は100mV/sであった。
【図13】200mg/dL(a)および0.0mg/dL(b)のグルコースを含むPBS中でのバイオセンサーの電流滴定応答を示す。適用されたポイズ電位は0.30Vであった。
【図14】(a)PVFcAA濃度、(b)GOX濃度、(c)ポイズ電位および(d)ナノ粒子膜厚さ、について、300mg/dLグルコースの電流滴定ピーク電流の依存性を示す。
【図15】溶解酵素の不存在(a)および存在(b)でのPBS中での200mg/dLグルコースの電流滴定応答を示す。適用されたポイズ電位は0.30Vであった。
【図16】(a)PBS中における100mg/dLグルコースの連続的増加への電流滴定応答および(b)異なるサンプリング時間における検定曲線、を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサー、特に試験試料における被検体の存在を測定するためのセンサー、に関する。さらに本発明はナノ粒子膜に関する。また、本発明は水溶性レドックスポリマーおよびそのポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、重合体材料が広い範囲に及ぶ理論的興味と多くの分野での実際的使用を獲得している(G. Harsanyi. Materials Chemistry and Physics Vol. 43, Issue 3, 1996, 199)。特に導電ポリマーはバイオセンシング分野での使用が増大し、導電ポリマーは利口なセンサーと判断力のある分子受容体の間の界面として独得の機能を与える。イオン伝導性ポリマー、電荷移動ポリマー、および共役導電ポリマーのような、すべての公知の導電ポリマーのうち、レドックスポリマーはバイオセンシング分野で断然最も広く使用されている。
【0003】
最近、重要な研究がなされてきたバイオセンシングにおける一領域である、グルコースセンシング(検出)は、必要とされるグルコースオキシダーゼによってグルコースをグルコン酸に酵素酸化する電子媒介に依る。レドックスポリマーの電子媒介は広く研究され、多くの電流滴定グルコースバイオセンサーに適用されている。
【0004】
その自然な酵素反応において、補酵素フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)は、グルコースオキシダーゼ中に存在する電子キャリアであり、FADH2(FADの還元形態)され、分子状酵素によりもとのFADに酸化される。O2はH2O2に還元される。この循環酸化および還元はFADが電子受容体として作用するのを可能にする。グルコースもグルコン酸も−0.5〜1.0Vの作用電位窓内で電気活性ではないので、H2O2濃度の増加もしくはO2濃度の減少はグルコース濃度を定量するために測定されている。
【0005】
しかしながら、H2O2およびO2の測定にもとづく測定精度には問題がある。なぜなら、第1に大気のO2の分圧が電流滴定応答に影響を及ぼし、そして第2に高いグルコース濃度でのO2の定量測定はO2がセンシングの進行につれて使い尽されるので困難であるからである。白金電極での酸化によるH2O2の検出は0.5〜0.6V(Ag/AgClに対して)の作用電位を必要とし、したがって、この電位で電気化学的に活性であるアスコルビン酸および尿酸のような、血中で電気活性種の妨害に服される。
【0006】
O2もしくはH2O2を含むグルコース監視に関連する上述の問題を回避するために、レドックス能動的なメディエーターがFADH2についての酸素分子に代わって人工電子受容体として提案されている。
【0007】
主として、好結果のメディエーターは3つの要件に合致する:(1)酵素および電極との速い電子交換速度、(2)電極へ安定な付着、および(3)水性媒体中で処理可能である。
【0008】
このために、2つのグループのメディエーターが集中的に検討された、すなわち遷移金属錯体およびフェロセン材料である。最近、多くのグループがその合成ならびにフェロセン材料(モノマーおよびポリマー)のバイオセンシング適用について関心が集められている。たとえば、ポリフェロセン化合物は分子認識におけるレドックス指示剤として(J.E. Kinston, et al, J. Chem. Soc., Dalton. Trans (1999) 251.);バイオセンサーにおけるメディエーターとして(S. Koide, et al, J. Electroanal. Chem., 468 (1999) 193.);そして修飾電極表面へのコーティングとして(S. Niate, et al, Chem. Commun., (2000) 417.)、使用されている。しかし、公知のフェロセン材料の大部分は非極性媒体に溶解するにすぎず、わずかなフェロセンおよびポリフェロセン材料のみが水溶性である(O. Hatozaki, et al, J. Phys. Chem., 199 (1996) 8448.)。水溶性フェロセン材料はバイオセンシングにおいてレドックスメディエーターとして特に興味深い。たとえばビニルフェロセンのようなアルケン置換フェロセンを適切な水溶性ポリマーと共重合することにより、水に易溶性であるフェロセン材料を調製することが可能である。しかし、ビニルフェロセンのフリーラジカル開始重合は通常ではないことが示された(A.J. Tinker, et al, J. Polym. Sci. Polym. Chem. Ed., 13 (1975) 2133; M.H. George, et al, J. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., 14 (1975) 475.)。ビニルフェロセンの共重合は困難であることが知られている。なぜならフェロセニウムは重合系においてラジカルスキャベンジャーであり、反応は通常のラジカル重合に従わないことになるからである。重合反応の終結はフェロセン核から成長鎖ラジカルへの分子間電子移動により生じる。これはポリマー鎖および高スピンFe(III)種を含有するポリマーの不活性化を導く。
【0009】
ポリアクリルアミドは、その良好な化学的および機械的安定性ならびに微生物分解への不活性のために、酵素固定化およびバイオセンシングにおいて支持マトリックスとして広く使用されている(I. Willner, et al, J. Am. Chem. Soc., 112 (1990) 6438.)。しかし、ビニルフェロセンおよびアクリルアミドならびにその誘導体の共重合の試みは成功していなかった(H. Bu, et al, Anal. Chem., 67 (1995) 4071およびそこにある文献)。代わりに、不十分なビニルフェロセンの共重合をバイパスするために、化学グラフト法がフェロセン材料を製造するのに提案された(S. Koide, et al, J. Electroanal. Chem., 468 (1999) 193; J. Hodak, et al, Langmuir, 13 (1997) 2708; A. Salmon, et al, J. Organomet. Chem., 637-639 (2001) 595.)。2つの最近の報告において(N. Kuramoto, et al, Polymer 39 (1998) 669; H. Ahmad, et al, Colloids and Surfaces, 186 (2001) 221)、ビニルフェロセン共重合体が合成されたが、これらのポリマーにおけるフェロセンの微細な担持および架橋性基の欠落はバイオセンサーにおける使用を制約する。
【0010】
商業的に入手しうるバイオセンサーは、Therasense Inc.(たとえばUS特許第6,338,790号参照)、Inverness Medical Technology(たとえばUS特許第6,241,862号参照)および松下電器(たとえば、US特許第6,547,954号参照)により製造されるものを含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、優れた性能特性を有するビニルフェロセン系ポリマーメディエーターに対する要望は存在する。このように、本発明の目的は新規なビニルフェロセン系ポリマーメディエーターのための新規な合成方法を開発することである。さらに、本発明の目的は向上した性能を有するバイオセンサーを提供することであり、それはできる限り、バイオセンサーの最終ユーザーに最小の不便を与えるものである。
【0012】
これらの目的は、本発明の種々の態様、すなわち各請求項に規定されるセンサー、膜、ポリマーおよび方法により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1態様において、本発明は、試験試料における被検体の存在を測定するためのセンサーを提供し、該センサーは周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有するナノ粒子膜を含み、ここで、オキシドレダクターゼおよび電気化学的活性化剤が該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている。
【0014】
もう1つの態様において、本発明は周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有する、非導電性のナノ粒子膜を提供し、オキシドレダクターゼ酵素および電気化学的活性化剤は該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている。
【0015】
さらなる態様において、本発明は非導電性のナノ粒子膜の製造方法を提供し、その方法は、電気化学的レドックスメディエーターを、オキシドレダクターゼならびに周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の無機酸化物のナノ粒子と混合し、ナノコンポジットインクを生成させること;ならびに基板上に該ナノコンポジットインクを塗布すること、を含む。
【0016】
もう1つの態様において、本発明は、重合しうるフェロセン誘導体を含む第1モノマーユニット;ならびに実効電荷を取得しうる(末端)1級酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニット、を含む水溶性レドックスポリマーを提供する。
【0017】
1つの態様において、この新規な水溶性レドックスポリマーにおけるアクリル酸誘導体は、一般式(I)
【化1】
で表わされ、ここでRはCnH2n−NH2,CnH2n−COOH,NH−CnH2n−PO3HおよびNH−CnH2n−SO3Hからなる群より選ばれ、アルキル鎖は任意に置換されていてもよく、そしてnは0〜12の整数である。
【0018】
なおもう1つの態様において、本発明は水溶性レドックスポリマーの製造方法を提供し、その方法は:重合しうるフェロセン誘導体を含む第1モノマーユニットを、有効電荷を取得しうる酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニットと重合させること、を含み、その重合は水性アルコール媒体中で実施される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1つの態様において、本発明は、水溶性で架橋しうるレドックスポリマーがエタノールおよび水とラジカル開始剤としての過硫酸塩との混合物中で容易に製造されうるという知見に基づく。この製造方法は、フェロセン分子を含む重合反応の好ましくないエネルギー論のような従来直面していた課題が克服されるのを可能にした。試験は、この方法から得られるビニルフェロセンアクリルアミド共重合体の分子量が、2000〜4000ダルトンの範囲にあり、3〜14%のフェロセン担持を伴う400モノマーユニットに相当することを示した。このようなレベルのフェロセン担持は、従来、フリーラジカル重合法を用いて達成し得た(たとえば、N. Kuramoto et al参照)。この制約を克服することにより、本発明は、バイオセンシングへの適用および被検体の電気化学的検出の他の方法に有用な特性を有する新規ポリマーを伴う。
【0020】
本発明のレドックスポリマーのフェロセン中心は局在化した電気化学的活性、ならびにポリマー中で分子内結合の再構成をもたらさないでレドックス反応に加わる能力を与えることができる。さらに、本発明のレドックスポリマーは適した官能基を有する他の分子で架橋を容易にする官能基を持つ側鎖を含む。これは、同様に幅広い分子にポリマーが付着するのを可能にする。これらの2つの特性を結合して、これらのポリマーは電子仲介を必要とする用途への使用によく適合し、たとえば、バイオセンサーおよびバイオ燃料電池に用いられる酵素電極、ならびに電子酵素反応器で実施される酵素合成、である。
【0021】
もう1つの態様において、本発明によるグルコースセンサーは非常に少量の流体中に見出されるグルコース濃度を正確に測定することができるセンシング要素を組み入れるので、1μL未満、好ましくは約0.2μL〜0.3μLの試験試料が必要である。通常、試験試料は、生物流体(たとえば、血液試料、汗試料、尿試験);ふん便試料;ならびに脂肪組織および皮下脂肪を含む肉組織試料のような動的生物試料を含む。本発明センサーを用いて分析しうる他の試料は、科学実験で利用される試薬、またはグルコース含量を有する食品、およびワインもしくはビール製造産業において見出される醗酵液を含む。さらに、試験試料は微生物培養媒体(たとえば、通常ポリペプチドの組換え製造に用いられる、大腸菌、酵母菌もしくは他の宿主有機体の高密度醗酵用培養媒体)。
【0022】
診断試験を実施するのに要求される少量の試験試料により、最小の不都合が最終ユーザーに課される。たとえば、連続した血液グルコース評価を要求する糖尿病について、mL以下のレベルの血液試料の回収は患者に最小の痛みと不安を課す。
【0023】
通常、本発明のセンサーは、ここで詳細に記載されるナノ粒子膜を利用する。μL以下のレベルで血液試料を試験するのに適するという事実に加えて、このような膜は低コストで製造され得、長期間の貯蔵にも安定であるという利点を有する。
【0024】
その膜は電気化学的活性化剤および基質特異性酵素を配合し得、ともにグルコースが酸化される、センサーの電極上に堆積された膜内に拡散的に分散される。「電気化学的活性化剤」という用語は、ここではグルコースおよびセンサーの作用(検出)電極間で電子を移動させる酵素を活性化しうる、いかなる化合物をもいう。その電気化学的活性化剤は重合体レドックスメディエーターでありうる。あるいは、単量体電気化学的活性化剤も使用され得、たとえば、水溶性フェロセン誘導性、オスミウム−ビピリジン錯体、ルテニウム錯体(たとえば(ペンタアミンピリジンルテニウムおよびRu(NH3)63+)、ならびにヘキサシアノフェレートおよびヘキサシアノルテネートである。本発明のいくつかの態様において、電気化学的活性化剤はレドックス活性金属イオンを含む。このような金属イオンの例は、銀、金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、オスミウムもしくはルテニウムイオンもしくはそれらの混合物である。
【0025】
通常、本発明のナノ粒子膜に配合されるべき、適した重合体レドックスメディエーターは、試料が分析される時間の間、レドックス種の拡散損失を妨げるか、もしくは減少させる化学構造を有すべきである。レドックスメディエーターの拡散損失は、センサーにおいて作用電極から非放出性の重合体レドックスメディエーターを与えることにより減少されうる。これは、たとえば電極上のポリマーにレドックスメディエーターを共有結合で付着するかもしくは二共役的に結合することにより、レドックスメディエーターを結合もしくは固定化して達成されうる。あるいは、レドックスメディエーターは、対電荷種またはレドックスメディエーターに対して高い親和性を有する種を有するバインダーを与えることにより固定化されうる。本発明の1つの態様において、1つの型の非放出性重合体レドックスメディエーターは重合体化合物に共有結合で付着したレドックス種を含む。このようなレドックスポリマーは遷移金属化合物であるのが通常であり、そこではレドックス活性遷移金属系のペンダント基が適切な、それ自体電気能動的であってもよいポリマー主鎖に共有結合で結合されている。この型の例は、ポリ(ビニルフェロセン)およびポリ(ビニルフェロセンアクリルアミド)である。あるいは、重合体レドックスメディエーターはイオン結合したレドックス種を含みうる。通常、これらのメディエーターは反対に荷電したレドックス種と対をなす荷電ポリマーを含む。この型の例は、オスミウムもしくはルテニウムポリピリジルカチオンのような正に荷電したレドックス種と対をなす「Nafion」(登録商標)(DuPont)のような負に荷電したポリマー、または反対にフェリシアニドもしくはフェロシアニドのような負に荷電したレドックス種と対をなすポリ(1−ビニルイミダゾール)のような正に荷電したポリマー、を含む。さらに、レドックス種はポリマーに配位して結合されうる。たとえば、レドックスメディエーターはポリ(1−ビニルイミダゾール)もしくはポリ(4−ビニルピリジン)に対してオスミウムもしくはコバルト2,2′−ビピリジル錯体の配位により形成されうる。もう1つの例はオスミウム4,4′−ジメチル−2,2′−ビピリジル錯体と配位されたポリ(4−ビニルピリジンアクリルアミド)である。有用なレドックスメディエーターならびにその合成方法は米国特許第5,264,104;5,356,786;5,262,035;5,320,725;6,336,790;6,551,494;および6,576,101号明細書に記載されている。
【0026】
本発明のさらなる態様において、電気化学的活性化剤は、ここで後述される新規なレドックスポリマーから選ばれる。すなわち、この新規なレドックスポリマーは、ポリ(ビニルフェロセン)、ポリ(ビニルフェロセン)−コ−アクリルアミド、ポリ(ビニルフェロセン)−コ−アクリル酸、およびポリ(ビニルフェロセン)−コ−アクリルアミド−(CH2)n−スルホン酸、ならびにポリ(ビニルフェロセン)−コ−アクリルアミド−(CH2)n−ホスホン酸を含み、ここでnは0〜12、好ましくは0〜8の整数である。
【0027】
さらに、本発明の膜は、酵素もしくは抗原のようなタンパク質と架橋され、そして電極表面上に固定化されるレドックスポリマーを配合しうる。
【0028】
センサーの1態様は、試験試料を保持するチャンバーを含み、それによりチャンバーは少くとも作用電極上の作用領域と基準電極上の作用領域の間に結合される。さらにこの態様において、オキシドレダクターゼ酵素および水溶性レドックスポリマーは作用電極の作用領域上に被覆される。
【0029】
図面に関して、本発明のセンサーは次のように記載される。図1は本発明の態様による先端充填(tip−filling)バイオセンサー2の分解等角図を示す。バイオセンサー2は数層で形成されたスタックを含む。スタックは図1の底部から頂部へ、基板層4、作用電極6、スペーサ8、対電極10および頂部層12を含む。スペーサ8は作用電極6および対電極10から離れて位置し、それによりそれらと電気的に絶縁する。凹部14は、スペーサ8の2つに分岐した端部の2つの脚の間に形成され、作用電極6と対電極10の間に試料チャンバ14(図2A参照)を形成する。このように、試料チャンバ14はそれぞれ対電極10および作用電極6の反対側の対向表面により頂部および底部上に境界づけられ;側面には側壁によりスペーサ8が境界づけられる。試料チャンバ14の一面は、図2に示されるように露出されている。作用電極6の表面は、作用表面といわれる。ナノ粒子膜18のようなセンシング化学材料キャリアは、試料チャンバ14内に配置される。この膜18は作用電極6と物理的に接触している。センシング化学材料は拡散しうるレドックスメディエーター(図示され得ない)のような電子移動剤を含むのが好ましい。レドックスメディエーターおよび他のセンシング化学材料は後述される。ベント孔16は、試料チャンバ14を通って頂部層12および対極10内に形成される。基板4および頂部層12は作用電極6および対電極10の部分20,22(図2B)が電子回路に接続しうるように露出されたままであるように、凹部を形成している。
【0030】
試料チャンバ14は、試料すなわち被検体がチャンバ14に供給されるとき、被検体が作用電極6および対電極10と電解接触するように配置もしくは形状化されている。この電解接触はレドックスメディエーターにより仲介された電流を、被検体の電解(電子酸化もしくは電解還元)を作用させるように電極6,10間を流れることを可能にする。レドックスメディエーターは作用電極6上の直接的電気化学的反応に適していない被検体分子の電気化学的分析を可能にする。試料チャンバ14の体積は0.1〜1μLでありうるか、他の体積も可能である。測定帯域である試料チャンバ14の領域は、被検体アセイの間に検査される被検体の部分のみを含む。図1のバイオセンサー2において、測定帯域は試料チャンバ14の体積とほとんど等しい体積を有する。しかし、試料チャンバ14のサイズの80%もしくは90%のような、比較的小さい測定帯域も可能であることが留意されるべきである。
【0031】
試料チャンバ14の高さは、スペーサ8の厚さにより決定されるように、被検体の迅速電荷を促進するために小さいのが好ましい。もっと多くの被検体が所与の被検体体積で電極6,10の表面と接触するからである。さらに、小さい高さの試料チャンバ14は被検体アセイの間、試料チャンバ14の他の部分から比較的小さいサイズの測定帯域への被検体の拡散からの誤差を減少するのを助ける。なぜなら拡散時間は測定時間に対して長いからである。通常、試料チャンバの厚さは約0.1mm以下であり、もっと好ましくは試料チャンバの厚さは焼く0.05mm以下である。
【0032】
基板4および頂部層12はポリエステルのような不活性な非電導性材料から形成されうる。あるいは、基板および頂部層12は成型された炭素繊維コンポジットから形成されうる。作用電極6は好ましくは比較的低い電気抵抗を有し、操作時にバイオセンサーの電位範囲にわたって電気化学的に不活性であるのが通常である。作用電極を形成するのに適切な材料は、金、炭素、白金、二酸化ルテニウム、パラジウムおよび導電性エポキシ、たとえばECCOCOAT CT5079−3 Carbon-Filled Conductive EPOXY Coating (W.R. Grace Company,マサチューセッツ州 Woburnより入手しうる)、ならびに当業者に知られている他の非腐食材料である。さらに、対電極10は作用電極6を形成するのに適したこれらの材料を用いて形成されうる。作用電極6および対電極10は、たとえば化学蒸着もしくは印刷によるような適切な方法により、基板4および頂部層12の表面上に堆積されうる。
【0033】
スペーサは、感圧接着剤、ポリエステル、Mylar(登録商標)、Kevlar(登録商標)もしくは他の強くて薄いポリマーフィルム、あるいは化学的不活性の点から選ばれるTeflon(登録商標)フィルムのような薄いポリマーフィルム、のような不活性な非電導材料から構成されるのが通常である。
【0034】
1つの態様において、基板4および頂部層12はポリエステルフィルム、作用電極6はスクリーン印刷炭素層、対電極10はスクリーン印刷Ag/AgCl層、そしてスペーサ8は両面粘着テープである。
【0035】
バイオセンサー2の使用中、試料チャンバ14の露出された面は血液もしくは血清のような被検体と接触するのに使用される。その中にナノ粒子膜を有する試料チャンバ14は、ウィッキングもしくは毛細管作用により、その分析のために被検体を受取る。レドックスメディエーターの種類に依存して、拡散しうるレドックスメディエーターは被検体へ急速に拡散し得、または拡散はある時間にわたって生じうる。同様に、膜18中の拡散しうるレドックスメディエーターは、まず溶解し、ついで急速にもしくはある時間にわたって、被検体中に拡散しうる。もしレドックスメディエーターがある時間にわたって拡散すると、ユーザーはある時間待つように指示され得、ついでレドックスメディエーターの拡散を可能にする被検体濃度を測定する。
【0036】
バイオセンサーの構造および構成は上述のものに限定されると解釈されるべきではなく、他の構造を有し、他の方法を用いて構成されるバイオセンサーも可能である。図2は本発明のもう1つの態様によるバイオセンサー24を示す。図1におけるバイオセンサー2の変形であるバイオセンサー24は、バイオセンサー2の層4,6,10,12および膜18を含む。しかし、この態様におけるスペーサ8は第1スペーサ部8Aおよび第2スペーサ部8Bを含み、それらはその間のすき間26により分離されている。このすき間26は、スペーサ8が作用電極6と対電極10の間にはさまれているとき、試料チャンバ14を規定する。試料チャンバの2つの対向面は露出されている。したがって、バイオセンサー20にベント孔は必要がない。
【0037】
いくつかの他のバイオセンサーは、「拡散しうるもしくは浸出できないレドックスメディエーターを有する小容量インビトロ被検体」という名称の、Feldmanらの米国特許第6,338,790号明細書に開示されている。これらのバイオセンサーのいくつかは1つより多い対電極6を含む。
【0038】
多くの種類のオキシドレダクターゼが本発明のセンサーに使用しうる。センサーにおける酵素の1機能は、電極の除去もしくは付加により酵素基質の酸化もしくは還元を触媒することである。たとえば、検出されるべき基質もしくは被検体がグルコースである場合には、グルコースオキシダーゼがグルコースを酸化してグルコン酸にするために用いられうる。グルコースの酸化を酵素なしで進めることは熱力学的には実施可能でありうるが、適切なオキシドレダクターゼは酸化反応を促進するのを助け、それにより酵素活性および基質分析が容易に研究されうる。さらに、このような酵素は安価に容易に入手しうる。
【0039】
本発明のいくつかの態様において、オキシドレダクターゼは、グルコースオキシダーゼ、水素ペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、水素ヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、NADHデヒドロゲナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシブチルデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸オキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、キサンチンデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コリンデヒドロヘナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、シュウ酸オキシダーゼ、ビリルビン酸オキシダーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、チトクロームCオキシダーゼ、およびアクテコールオキシダーゼからなる群より選ばれる。
【0040】
周期律表における族の命名のために通常用いられる3つの規則は、新IUPAC規則、旧IUPAC規則(ヨーロッパ規則としても知られている)、ならびにCAS族命名規則(アメリカ規則としても知られている)である。CAS規則は本出願において使用される。CAS規則において、IA,IIA,IIIAおよびIVA族は1族(Li,Na,K等)、2族(Be,Mg,Ca等)、3族(B,Al,Ga等)および4族(C,Si,Ge等)の主な族元素をそれぞれいうが、IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBおよびVIIIB族は遷移元素をいう。CAS規則のもとで、IA,IIA,IIIAおよびIVA族は旧ICPAC規則のもとでのIA,IIA,IIIBおよびIVB族にそれぞれ等しく、そして新IUPAC規定のもとでの1,2,13および14族にそれぞれ等しい。CAS規則のもとでのIB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBおよびVIIIB族は、それぞれ旧IUPAC規則のもとでのIA,IIA,IIIA,IVA,VA,VIA,VIIAおよびVIIIA族に等しく、そしてそれぞれ新IUPAC規則のもとでの3,4,5,6,7,8−10,11および12族に等しい。
【0041】
使用されうるナノ粒子は周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素のいかなる無機化合物であってもよい。ナノ粒子は、酸化電極の表面近くの位置までグルコース分子が膜に移送されるための効率的な拡散通路を提供しうるものであれば、いかなる適切な大きさおよび形状を有するものであってもよい。さらに、本発明で使用されるナノ粒子は多孔質もしくは非多孔質でありうる。本発明の膜に用いられる無機ナノ粒子の平均サイズは通常約5nm〜約1μm、もしくは約100〜約1000nmであり、約100〜約500nm、または約200〜約300nm、を含む。ナノ粒子のサイズは意図される用途に応じて(たとえば、上述のように拡散通路の長さに影響するために)、または本発明の膜の製造に用いられるスラリーインクの粘度もしくは密度を変えるために、選択されうる。
【0042】
本発明の膜における使用に適した酸化物の例は酸化リチウムマンガン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化イットリウム、酸化ニオブ、酸化カルシウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、およびそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0043】
シリカ粒子に関して、いかなる適切なシリカ粒子(たとえば、フュームドシリカもしくはコロイダルシリカ)も本発明において使用されうる。ここで規定さるように、他の無機酸化物粒子と同様にシリカ粒子は、径、アスペクト比、平均細孔径のような種々のファクターにもとづいて選択されうる。これらのパラメータは、ナノ粒子膜における所望の移送特性を達成するために選択されうる。適切な粒子の選択は、堆積法の選択に依存しうる。シリカ粒子は5〜約1000nm、もしくは約100〜約1000nm、の粒径を有し得、約100〜約500nm、もしくは約200〜約300nmを含む。シリカ粒子は実験室で合成され、または商業的供給者より入手されうる。たとえば、コロイダルシリカ(ケミカルアブストラクトNo.7631−86−9)は多くの供給者から商業的に入手しうる。たとえば、日産化学より「Snowtex」(登録商標)の商標で、またはNyacol Nanotechnologies, Inc.より「NYACOL」(登録商標)の商標で、販売されている。
【0044】
本発明のナノ粒子膜の厚さは、約50〜1000μm、もしくは100〜700μm、もしくは好ましくは250〜500μmである。膜の厚さはたとえば、所望の電極サイズもしくは膜の構成成分のようないくつかのファクターに依存しうる。それは、堆積法(たとえばスクリーン印刷、ディップコーティングもしくはスピンコーティング)、ナノ粒子材料の中味もしくはインクスラリーの濃度の選択により調節されうる。スクリーン印刷が、膜の製造されるインクスラリーの堆積に用いられる場合、膜の厚さはなかんずくスクリーンのメッシュサイズにより調節されうる。
【0045】
センサーのなおもう1つの態様において、本発明のナノ粒子膜は、さらに重合体バインダーを含みうる。いかなる適切な重合体バインダーも膜中に使用され得、静電的に不活性なポリマー、イオンポリマー、有効電荷を取得しうるポリマー、二共役を与えうるポリマー、およびタンパク質を含む。ポリウレタン、セルロースもしくはエラストマーポリマーは静電的に不活性なポリマーの例である。有効電荷を取得し得、それにより正もしくは負に荷電される、ポリマーの例は、ピリジンもしくはイミダゾールのような窒素含有ヘテロ環である。グリコタンパク質は本発明に有用なタンパク質の1つの種類である。具体的な例は、アビジン、ビオチンおよびストレプトアビジンを含み、膜中に存在する電気化学的活性化剤と複合して、本発明に使用する適切な重合体バインダーを形成しうる。有用なバインダーならびにそれらの合成方法は、たとえば米国特許第6,592,745号明細書に記載されている。
【0046】
1つの態様において、重合体バインダーは、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アクリルアミド、アクリルニトリルおよびアクリルヒドラジドならびにアクリル酸モノマーユニットからなる群より選ばれるモノマーユニットを含む、ポリマーもしくはコポリマーである。その群から選ばれたモノマーを有する重合体バインダーの具体例はビニルピリジンである。これらのモノマーユニットに由来するバインダーは、膜において結合と被検体調節の2つの機能のために、たとえば血液試料を含むグルコースセンシング用途に適している。ビニルピリジンのようなバインダーを膜に配合することにより、膜は水和で破壊されることはないが、ふくれてゲル化層を形成し、スクリーン印刷された炭素表面で膜の種々の成分を持ち上げる。メディエーター、酵素、およびグルコースのような被検体は、この層内で自由に移動しうるが、酸化されたヘモグロビンを含む赤血球のような妨害種は静電反発により膜に入るのを排除される。アニオンアスコルビン酸および尿酸はアニオンバインダーにより追出され、ナノ粒子膜への溶解酸素の分配はこの層の高度の親水性により大いに最小化される。
【0047】
さらに、本発明は非電導性のナノ粒子膜の製造法に関する。レドックスポリマーのような電気化学的活性化剤、酵素およびナノ粒子を含むナノコンポジットスラリーインクの製造は、スラリーの量、粘度および均一性に依存して、商業的に入手しうるミキサー、ブレンダーもしくは撹拌機中で実施されうる。スラリーは、ナノ粒子膜の処理を容易にしうる、いかなる適切な液体もしくは分散媒体、たとえば極性溶媒、水溶液、PBSバッファーおよび有機化合物もしくは溶媒(たとえばアルコール)、中で調製されうる。
【0048】
スラリーインクを形成するのに用いられ成分の適切な割合は変動する。たとえば、その組成は、用途、使用される酵素もしくはスラリーインクを堆積するのに用いられる堆積法により変動し得、そして各成分に用いられる量は実験的に決定されうる。たとえば、グルコースセンサーの膜の製造に用いられるスラリーインクのために適切な組成は次の範囲の成分を含みうる。グルコースオキシダーゼ:0.10〜1.0mg/mL;レドックスメディエーター:5〜50mg/mL;ナノ粒子:10〜200mg/mL;バインダー:10〜300mg/mL。この例において、放置時間は要求されず、スラリーインクはすぐに使用されうる。しかし、他の製造のために、スラリーインクは適切な基板上に塗布される前に適切な時間保持されなければならないことがある。もう1つの特定の例において、スラリーインクはグルコースオキシダーゼ、ポリ(VFc−コ−AA)、アルミナナノ粒子およびPVPACバインダーを、混合比1:50:150:200〜1:40:200:300質量部で混合して、含みうる。本発明のレドックスポリマーはミキサーに添加され、そこでは酵素、ナノ粒子および水と均一化される。したがって、均一化された混合物が適切な基板に塗布される。種々の堆積法が表面にその膜を堆積するのに使用され得、スプレー、塗装、ディップコーティング、スピンコーティング、インクジェット印刷およびスクリーン印刷を含むが、これらに限定されない。
【0049】
上述のように、スラリーインク中のレドックスメディエーターの濃度は、たとえば5〜50mg/mLに変動しうる。ビニルフェロセン−コ−アクリルアミドレドックスメディエーターが使用される、下記の1例において、10〜20mg/mLのメディエーターがスラリーインクに添加された。1つの態様において、ナノコンポジットインクにおけるレドックスの濃度は約15mg/mLである。
【0050】
スラリーにおける酵素の濃度も変動しうる。典型的な範囲は0.1〜1mg/mLである。1つの態様において、ナノコンポジットインクにおける酵素の濃度は約0.2mg/mLである。
【0051】
ナノコンポジットインクの処方は次のように変動しうる。触媒反応はメディエーターと酵素の間で生じるので、メディエーターの濃度は高い密度ならびに触媒酸化電流とグルコース濃度間の直線関係を有するのに十分に高くなければならない。もしメディエーターの量が制限されると、センサーの電流滴定応答は、試料中のグルコース濃度が増加しても平らに頭打ちになる。このことが生じると、メディエーターの量が障害となり、センサーの読みは試料中のグルコース濃度よりも、代わって膜中のメディエーターの量に依存するようになる。後述する特定の例に関して、最適化されたメディエーター濃度は約15mg/mLであり、そしてGOXの最適濃度は約0.20mg/mLであることがわかった。
さらに本発明は、とりわけ本発明のグルコースセンサーにおいて、さらには公知のたとえば被検体の電気化学的検出において電気化学的活性化剤として使用するのに適した新規なフェロセン系レドックスポリマーに関する。フェロセン含有モノマーは非常な困難さでフリーラジカル重合を受けるのが通常であるが、本発明者はフェロセンを含むレドックスポリマーが、たとえばエタノールと水の混合物から、ラジカル開始剤として過硫酸塩とともに、調製されたアルコール性媒体を用いて的確に容易に製造されうることを見出した。
【0052】
いかなる有機金属レドックス種もレドックスメディエーターとして使用しうるが(たとえば、ニッケロセンおよびコバルトセン)、たとえばフェロセンからフェロシニウムイオンへの酸化に由来する適切なレドックス電位により、フェロセン系レドックスメディエーターが好適である。
【0053】
フェロセン誘導体は均一系で拡散電子移送メディエーターとして使用されうる。拡散メディエーターは通常低分子量であり、電極から浸出し得、測定される試料中で失なわれることを留意すべきである。このために、拡散メディエーターにもとづくセンサーは一度使用されると、その後すぐに廃棄されるディスポーザルセンサーとして適切である。
【0054】
さらに、フェロセン誘導体は、メディエーターとして使用され得、電極表面に固定化され、ついで酵素もしくは抗原のようなタンパク質分子に、酵素およびレドックスポリマー側鎖にみられる架橋性官能基間で架橋して、付着される。
【0055】
第1モノマーとして用いられ、レドックスポリマーを形成しうる、適切な重合性フェロセン誘導体は、C−C二重もしくは三重結合、またはN−N二重結合もしくはS−S二重結合のような不飽和結合を有する側鎖を所有すべきである。このような側鎖ユニットの例は、一般式R1−C=C−により表わされる、アルケニル基を含む。二重結合は炭素鎖に沿って、いかなる位置にも配置されうる。芳香族基、たとえばフェニル、トルオイルおよびナフチル基、も使用されうる。さらに、重合性基は置換炭素原子を含み得、そこではハロゲン(たとえば、フッ素、塩素、ホウ素もしくはヨウ素)、酸素もしくはヒドロキシル部位は、たとえば基の炭素原子に接する1つ以上の水素原子を置換する。
【0056】
好適な態様において、重合性フェロセン誘導体は、ビニルフェロセン、アセチレンフェロセン、スチレンフェロセンおよびエチレンオキシドフェロセンからなる群より選ばれる。
【0057】
これらの誘導体における不飽和結合の存在は、フェロセン分子が少くとも1つの不飽和C−C二重もしくは三重結合、またはN−N二重結合もしくはS−S二重結合を有するもう1つの種とフリーラジカル重合によって共重合させて、ポリマー主鎖に付着されるのを可能にする。
【0058】
重合性フェロセン誘導体との共重合に使用される第2モノマーユニットについては、実効電荷を取得しうる1級酸もしくは塩基官能基を有する、いかなる適切なアクリル酸誘導体も使用されうる。これは、本発明が正に、ならびに負に荷電したポリマーを備えることを意味し、上述のような導電性2層が、捕獲分子と被検体分子の間に形成される複合体の実効電荷にかかわりなく、形成されうることを確保する。通常、モノマーとして使用するために適切なアクリル酸誘導体を選択するのに2つの要件がある。フェロセン誘導体と共重合するために、少くとも1つの不飽和結合を有すべきであり、それはたとえばC−C二重もしくは三重結合、またはN−N二重結合もしくはS−S二重結合により与えられうる。第2に、アクリル酸誘導体は、それぞれH+イオンを産生することにより、またはH+イオンを受取ることにより、ブレンステッド−ローリー酸もしくは塩基として作用しうるべきである。ブレンステッド−ローリー酸もしくは塩基機能を与えうる官能基の例は、H+イオンを受けとって荷電アミノ基を形成しうる1級アミン基、または酸官能性が解離してH+イオンを放出するときH+イオンを供与しうるカルボキシル基もしくは硫酸塩、を含む。この点で、1級アミンの使用は本発明において好適であるが、アクリル酸誘導体に存在する2級および3級アミン基も正に荷電したレドックスポリマーを発生させるために使用されうることは当業者に明らかであることが、留意される。この点に関して、さらに、酸もしくは塩基官能性は、1級ではあるが、末端基である必要はなく、分岐側鎖の場合には、側鎖の比較的短いものの範囲内に存在しうる。
【0059】
酸もしくは塩基官能基を有する、いかなる適切なアクリル誘導体も使用されうるが、本発明センサーのレドックスポリマーにおいて第2モノマーとして使用される好適なモノマーは、一般式(I)で表わされるアクリル酸誘導体である。
【化2】
ここでRはCnH2n−NH2,CnH2n−COOH,NH−CnH2n−PO3HおよびNH−CnH2n−SO3Hからなる群より選ばれ、アルキル鎖は任意に置換されていてもよく、そしてnは0〜12、好ましくは0〜8の整数である。アルキル基は直鎖もしくは分岐していてもよく、二重もしくは三重結合またはシクロヘキシルのような環状構造を含んでいてもよい。置換基内の適切な脂肪族部分の例は、たとえばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、もしくはオクチルである。さらに、脂肪族基は、フェニルのような芳香族基、ハロゲン原子、さらに塩基もしくは酸基、またはたとえばo−アルキル基により置換されていてもよい。置換基として存在しうる例示的な芳香族基はフェニル、トルオイルもしくはナフチルである。ハロゲン原子はフッ素、塩素もしくは臭素から選択されうる。適切なo−アルキル基の例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシもしくはブトキシであり、n−アルキル基は−NHMe,−N(Me)2,−N(Ethyl)2もしくは−N(Propyl)2から選ばれる。
【0060】
アクリル酸誘導体のモノマーは、もし商業的に入手できなければ、たとえば末端NH2基を、ここで規定されるアルキル鎖を有する酸もしくは塩基化合物の適切な活性化誘導体との反応により、アクリルアミドから求核置換により出発して、製造されうる。たとえば、アクリルアミドは4−ブロモブタン酸もしくはそのエステル誘導体と反応させることができ、対応するアクリルアミドモノマーを生成する。類似の手順がスルホン酸もしくはリン酸誘導体に対しても使用されうる。
【0061】
通常、生物試料に対して、pHは約6.5〜7.5でありうる。このようなpH範囲で、レドックスポリマー中のアクリルアミドユニットは正の電荷を取得し、すなわちカチオンになる。この正の電荷は、静電相互作用によりポリマー中のフェロセン部分をグルコースオキシダーゼ上のレドックス中心にもっと近づける(そこで、グルコースオキシダーゼは選択されたオキシドレダクターゼ酵素である)。なぜならグルコースオキシダーゼはこのpH範囲で負に荷電される、すなわちアニオン、からである。
【0062】
本発明の1つのセンサーにおいて、オキシドレダクターゼ酵素は架橋によりレドックスポリマーに共有結合で結合される。本発明のレドックスポリマーは電極表面でオキシドレダクターゼ酵素とともに共固定化され得、酵素を電極の不可欠(機能)部とする。酵素とメディエーターの共固定化はレドックスメディエーターで酵素を標識化し、ついで電極表面で酵素固定化することにより達成され得る。あるいは、レドックスポリマーはまず電極表面で固定化され得、ついで酵素はレドックスポリマー内で固定化される。さらに、導電性ポリマーから形成されるマトリックス中で、酵素およびレドックスポリマーの両方を固定することも可能である。
【0063】
本発明のもう1つのセンサーにおいて、オキシドレダクターゼ酵素およびレドックスポリマーは、周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含むナノ粒子膜中に拡散して分散されている。
【0064】
このようなセンサーにおいて、レドックスポリマーは電極表面と試験試料間を往復する拡散メディエーターとして作用する。レドックスポリマーを配合するナノ粒子膜は、電子仲介機能を与えるだけでなく、被検体フィルター機能も与えて電極が試料中の他の電気化学的活性材料と接触するようになるのを防止する。膜中のナノ粒子は微細チャンネルを与え、そこでは被検体分子はセンサー中の酸化電極に到達するために拡散しうる。
【0065】
本発明のセンサーの1態様において、式(I)のレドックスポリマーは約1000〜5000ダルトン、もしくは好ましくは約2000〜4000ダルトン、の分子量を有する。
【0066】
本発明のもう1つの態様において、式(I)のレドックスポリマーは約2%〜17%、もしくは約3〜14%のフェロセン担持を有する。高レベルのフェロセン担持、好ましくは少くとも約3%、が望ましい。通常、低レベルのフェロセン担持は測定されうるグルコース濃度に制約を課す。たとえば、グルコース濃度が存在するフェロセン分子の仲介能力よりもはるかに高いとき、発生される電流滴定応答は少数の仲介フェロセン分子により制限され得、不正確な測定を生じさせる。したがって、比較的高レベルのフェロセン担持を有する式(I)のレドックスポリマーを使用することにより、センサーで試験されうるグルコース濃度の上限は上昇し、比較的少量の試料が要求される。
【0067】
さらに本発明は、水溶性レドックスポリマーの製造方法に関する。その方法は、重合しうるフェロセン誘導体の第1モノマーユニットを1級、2級もしくは3級アクリルアミドのような、アクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニットと重合させてコポリマーを製造することを含む。そのアクリル酸誘導体は実効電荷を取得しうる酸もしくは塩基官能基を有する。重要なことに、重合反応は開始剤の存在下に水性アルコール媒体中で実施される。
【0068】
モノマーおよび開始剤の添加順序は変動しうる。たとえば、第1および第2モノマーをアルコール性媒体中で混合し、ついで反応を開始するために開始剤を添加することが可能である。さらに、まず水性アルコール媒体中でモノマーの1つを溶解し、ついで混合物に残りのモノマーを添加する前に、開始剤を添加することも可能である。
【0069】
アルコール媒体はいかなる有機アルコール、たとえばエタノールのような脂肪族アルコール、もしくはフェノールのような芳香族アルコール、でも調製されうる。その容量比は通常約5:1〜1:1(アルコール/水)である。ある態様において、それは約3:1である。
【0070】
本発明による方法の1態様において、重合は容積比で約2:1〜3:1でエタノールおよび水を含む水性アルコール溶媒を用いて実施される。
【0071】
重合は開始剤の添加なしに進行するが、モノマー中の不飽和結合でみられる電子リッチ中心を攻撃するラジカル開始剤を添加するのが望ましい。したがって、本発明のもう1つの態様において、重合はフリーラジカル開始剤を添加することにより開始される。
【0072】
いかなるフリーラジカル開始剤も使用されうる。その例は過硫酸塩のような無機塩、ならびに過酸化ベンゾイルもしくは2,2′−アゾ−ビス−イソブチリルニトリル(AIBN)のような有機化合物を含み、それらは開始剤フラグメントと呼ばれるラジカルフラグメントを生成し得、その各々はモノマーユニットの不飽和結合を攻撃するフリーラジカルとして作用しうる1つの不対電子を有する。
【0073】
ある態様において、フリーラジカル開始剤は過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる。
【0074】
本発明の1態様において、添加されるフリーラジカル開始剤の質量比はモノマー1gあたり約20mg〜40mgである。本発明者は、ラジカル開始剤の量が重合の度合いに影響することを見出した。高い量のラジカル開始剤は重合効率を著しく低下させ、比較的低分子量を有するレドックスポリマーを生じさせる。さらに、これは通常のフリーラジカル重合反応と比較して、比較的少量のラジカル開始剤が重合プロセスにおいて必要とされることを意味する。使用されるフリーラジカル開始剤の量とは別に、反応物の添加順序(本発明方法に関して下記参照)も重合効率に影響する。
【0075】
本発明による方法は標準的な条件の室温および圧力で実施されうる。しかし、反応を促進するために、還流下に反応混合物を実施するのが好適であるのが通常である。ポリマーもしくは反応物の分解を導びくような過度の高温を用いないように留意されるべきである。したがって、適切な上限は通常100℃未満である。本方法の好適な態様において、重合は還流下に約60℃〜80℃の温度で実施されうる。
【0076】
さらなる態様において、重合は還流下に不活性雰囲気で実施される。不活性雰囲気は、たとえば窒素ガス、ヘリウムガスもしくはアルゴンガスにより付与されうる。
【0077】
重合に必要とされる時間の長さは、用いられる温度および反応液に添加される開始剤の量に依存しうる。通常、重合は10〜40時間、好ましくは約24時間、実施される。
【0078】
本発明方法の1態様は、第1および第2のモノマーの重合に先立ち、予備反応混合物を生成することをさらに含み:
水性アルコール媒体中にアクリル酸誘導体モノマーユニットを溶解すること、ついでフリーラジカル開始剤を添加すること、そして重合しうるフェロセン誘導体モノマーユニットを添加して、予備反応混合物を生成すること、を含む。
【0079】
本発明方法のさらなる態様において、予備反応混合物における重合しうるフェロセン誘導体に対するアクリル酸誘導体の供給比は、添加されるモノマー質量の約5%〜15%であり、適切な分子量および粘度を有するレドックスポリマーが得られる。
【0080】
さらなる態様において、重合しうるフェロセン誘導体モノマーユニットは添加される前に水性アルコール媒体中に溶解される。
【0081】
本発明方法の1態様において、レドックスポリマーは有機溶媒中で沈殿する。含まれるモノマーを溶解するのに用いられうる有機溶媒は、たとえばエーテル、ケトンおよびアルコールを含む。
【実施例】
【0082】
例1 拡散メディエーターバイオセンサーの作製
図1は、本発明の1態様による先端充填バイオセンサー2の分解等角図を示す。特定の態様によるバイオセンサー2の製造方法は次に示される。第1に、Acheson Colloids Co.,カリフォルニア州 Ontario(米国)から入手しうるElectrodag 423SSのような炭素電極アレイが、ポリエステルフィルム基板上に適切なマスクを用いて印刷される。ついで印刷された基板は所定の時間、たとえば24時間、約70℃の温度で乾燥される。その後、そこに適切に形成された孔を有する両面テープが印刷された基板上に置かれた。これらの孔は凹部14および電極部20,22を露出するための開口を境界づける。ついで均一なナノ粒子膜は、PVFcAA(以下の例2に示されるように調製される)、GOX、ポリ(ビニルピリジン−コ−アクリル酸)(PVPAC)バインダーおよびアルミナナノ粒子)の水性スラリー「インク」で、炭素電極の作用表面上に、適切なマスクを用いて、スクリーン印刷される。ついで得られる構造は調節された雰囲気で約37℃の温度で乾燥される。ナノ粒子膜の厚さはインク中の全含量を調節することにより制御され得るが、作用電極上に塗布される一定容積を保持し、たとえばスクリーン印刷機におけるスクリーンのメッシュサイズを調節することにより、またはナノ粒子材料の含量、もしくは印刷スラリーの「濃度」を調節することにより取扱われる。
【0083】
上述の構造が形成されるが、Ag/AgClもしくは炭素対電極の配列は適切なマスクを用いて第2のポリエステルフィルム上に同様にスクリーン印刷され、乾燥される。ついで第2のポリエステルフィルムは、粘着テープにわたって配置され、対電極は対応する作用電極とともに並べられる。その後、その構造は多数のバイオセンサー2を製造するために単一化される。
【0084】
例2 ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)、ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリル酸)およびポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド−スルホン酸)コポリマーの合成
グルコースオキシダーゼ(GOX,EC1.1.3.4,Aspergillus nigerより、191units/mg)がFluka(CH−9470 Buchs,スイス)により購入された。フェロセン(Fc)、ビニルフェロセン(VFc)、アクリルアミド(AA)、アクリル酸(AC)、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパン−スルホン酸(CAT.No.28,273、「アクリルアミド−スルホン酸」もしくはAAS)および過硫酸塩はSigma−Aldrich(ミネソタ州セントルイス、米国)より購入された。使用されたアセトン、エタノールおよびリン酸塩緩衝塩類溶液のようなすべての化学品は認定分析グレードであった。使用されたすべての溶液は脱イオン水で調製された。
【0085】
実験で生成されたポリマーのUVスペクトルがAgilent 8453 UV−可視分光光度計で測定、記録された。分子量は、水ならびに検定用の標準ポリ(エチレンオキシド)およびポリ(エチレングリコール)中で、Toyo Soda高性能ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定された。
【0086】
i)ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)ポリマーの合成
エタノール/水(3部/1部)の混合溶媒10mLに溶解したアクリルアミド1.0gを含む3つの試料が調製された。酸素を含まない過硫酸溶液0.10g/mLの分割量0.30mLが10分間脱酸素された後に各試料に添加された。0.05g〜0.16gの範囲の3つの量のビニルフェロセンが脱気したエタノールに溶解され、3つのビニルフェロセン溶液試料を形成し、各試料に添加されるフェロセン量はそれぞれ95:5、90:10および85:15のアクリルアミド/ビニルフェロセン供給比(w/w)を得るように算出された。ついで、各ビニルフェロセン試料はアクリルアミド開始剤混合物に添加された。反応混合物は窒素雰囲気中で70℃、24時間、還流された。冷却後、反応混合物はレドックスポリマーを沈殿させるために急速撹拌されているアセトンに別々に滴下された。沈殿レドックスポリマーはアセトンで洗浄され、水溶解−アセトン沈殿のサイクルを複数回くりかえして精製された。ついで精製生成物は真空下、50℃で乾燥された。
【0087】
ii)ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリル酸)ポリマーの合成
エタノール/水(3部/1部)の混合溶媒10mLに溶解したアクリル酸1gを含む3つの試料が調製された。酸素を含まない過硫酸溶液0.10g/mLの分割量0.30mLが10分間脱酸素された後に各試料に添加された。0.05g〜0.16gの範囲の3つの量のビニルフェロセンが脱気したエタノールに溶解され、3つのビニルフェロセン溶液試料を形成し、各試料に添加されるフェロセン量はそれぞれ95:5、90:10および85:15のアクリルアミド/ビニルフェロセン供給比(w/w)を得るように算出された。ついで、各ビニルフェロセン試料はアクリルアミド開始剤混合物に添加された。反応混合物は窒素雰囲気中で70℃、24時間、還流された。冷却後、反応混合物はレドックスポリマーを沈殿させるために急速撹拌されているアセトンに別々に滴下された。沈殿レドックスポリマーはアセトンで洗浄され、水溶解−アセトン沈殿のサイクルを複数回くりかえして精製された。ついで精製生成物は真空下、50℃で乾燥された。
【0088】
iii)ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)ポリマーの調製
エタノール/水(3部/1部)の混合溶媒10mLに溶解したアクリル酸1gを含む3つの試料が調製された。酸素を含まない過硫酸溶液0.10g/mLの分割量0.30mLが10分間脱酸素された後に各試料に添加された。0.05g〜0.16gの範囲の3つの量のビニルフェロセンが脱気したエタノールに溶解され、3つのビニルフェロセン溶液試料を形成し、各試料に添加されるフェロセン量はそれぞれ95:5、90:10および85:15のアクリルアミド/ビニルフェロセン供給比(w/w)を得るように算出された。ついで、各ビニルフェロセン試料はアクリルアミド開始剤混合物に添加された。反応混合物は窒素雰囲気中で70℃、24時間、還流された。冷却後、反応混合物はレドックスポリマーを沈殿させるために急速撹拌されているアセトンに別々に滴下された。沈殿レドックスポリマーはアセトンで洗浄され、水溶解−アセトン沈殿のサイクルを複数回くりかえして精製された。ついで精製生成物は真空下、50℃で乾燥された。
【0089】
結果および検討
ビニルフェロセンとアクリルアミドおよびその誘導体との共重合は従来法のラジカル重合反応に基づいて実施された。概括的な反応式は図6に示される。
【0090】
しかし、モノマーをうまく共重合させるために、系内のビニルフェロセンの終結効果に大きな注意が払われた。導入部で述べたように、ビニルフェロセンは通常、共重合系でラジカルスキャベンジャーとして作用する。ラジカル開始剤の量が正常な重合系で必要とされる量よりもかなり少ないことが見出された。比較的大きい量のラジカル開始剤は重合効率および生成物の分子量を著しく減少させた。さらに、添加順序も重合効率に影響する。
【0091】
ビニルフェロセンおよびアクリルアミドの溶液に過硫酸塩ラジカル開始剤を添加するとき、20%未満の重合が観察された。これは、おそらく、反応混合物におけるフェロセニウム生成のためであり、それは重合の抑制およびポリマー鎖成長プロセスのはるかに早い終結をもたらした。表1に示されるように、最適条件下でかなり高収率が得られた。
【0092】
【表1】
【0093】
しかし、ポリマー収率はビニルフェロセン供給比の増加とともに減少した。これはラジカル重合における終結効果が重合プロセスで大きな注意が払われているにもかかわらず、なお存在することを示した。さらに、反応混合物が青になると微小な収率が得られたことが見出されたが、これは重合溶液中にかなりの量のフェロセニウムが生成したためである。フェロセン担持は3〜14%で変動し、モノマー供給におけるフェロセン含量よりもいつも少ない。
【0094】
レドックスポリマーにおけるフェロセン担持は、元素分析から決定された。エネルギー分散型X線分析(EDX)がこの目的のために用いられた。製造されたレドックス試料について用いられた電子ビームのエネルギーは120KeVである。試料により発生されるX線はリチウムドリフトケイ素検出器により分析に供された。
【0095】
レドックスポリマーの分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定された。通常、比較的高いフェロセン供給比で製造されたレドックスポリマーは、比較的低い分子量および比較的広い分子量分布を有していた。
【0096】
合成されたレドックスポリマーの特徴づけ
合成された共重合体は明るい黄色の、粉末状物質であった。共重合体の分子量は2000〜4000ダルトンである。FT−IR実験(図7参照)は1650cm-1でのビニル吸収の完全な消失を明らかに示し、アクリルアミドおよびビニルフェロセンの両方がうまく重合され、得られたレドックスポリマーが高純度でモノマーを含まないことを示唆している。さらに、証拠は1000〜1300cm-1領域でも見付しうる。1126cm-1における弱い吸収を伴う非常に強い吸収は、レドックスポリマー中のフェロセニルユニットの存在を示し、1218cm-1における強い吸収はポリマー中のアミド基を示唆した。さらに、UV実験はビニルフェロセンおよびアクリルアミドのうまくいった共重合を確認した。300nmにおける微小なショルダーは共重合体におけるフェロセン部分を明らかに示す(図8参照)。レドックスポリマー中にフェロセニルおよびアミンもしくはカルボン酸部分を有することはポリマーに2つの機能を付与した:電子仲介のためのレドックス活性およびタンパク質との架橋のための化学的活性。
【0097】
ビニルフェロセンの供給比の増加は、レドックスポリマー内のフェロセニル部分の割合を増加させるように意図された。しかし、ビニルフェロセン量の変動は、ポリマー収率に影響した。得られた最高収率は、ビニルフェロセン供給比が最低のときであり、ラジカル重合におけるフェロセニル化合物の異常な挙動と良く一致する。表1に示すように、ポリマー中のフェロセニル部分の含量はビニルフェロセン供給比の増加とともに増加したが、それは線状では全くなかった。バイオセンシング目的には、ビニルフェロセン供給比10%は十分であり、良好な仲介機能および良好な経済性を与えることがわかった。重合に使用される開始剤の量もレドックスポリマーの組成および収率に影響した。良好なレドックスポリマーは開始剤がモノマー1gあたり20〜40mgであるときに得られることがわかった。
【0098】
例3 レドックスポリマーのサイクリックボルタンモグラムを得ること
レドックスポリマーが、0.0μg GOx、10μg GOxおよび10μg GOxと10mMグルコースの存在下でリン酸塩緩衝塩類溶液(PBS)中で調製された。
【0099】
電気化学的試験が一般目的電気化学システム(GPES)マネージャーバージョン4.9のもとで操作するAutoLabポテンショスタット/ガルバノスタットで実施された。3つの電極システムセルがファラデーケージに納められている。その電極は(Ag/AgCl)基準電極、白金ワイヤ対電極およびAu作用電極(表面積7.94mm2)であった。
【0100】
ビニルフェロセンと異なり、合成されたレドックスポリマーは水に高い溶解性を有していたが、ほとんどの有機溶媒に不溶である。この特性は、バイオセンシング、特に酵素結合バイセンシングにおけるメディエーターとしての使用にレドックスポリマーを理想的なものとする。なぜなら大部分の酵素は水性媒体でのみ作用するからである。
【0101】
図9はレドックスポリマーのみを含むPBS中での典型的なサイクリックボルタンモグラムを示し、そのボルタンモグラムは高度に可逆的な溶液電気化学を示した:レドックス波は〜0.18Vを中心とし(vs.Ag/AgCl)、ボルタンモグラムは拡散制約形状を有し、アノードおよびカソードピーク電流の大きさは同一であり、ピーク/ピーク電位分離は60mVであり、25℃での理論値59mVに非常に近い。これらのレドックス波はレドックスポリマーのフェロセニル部分の酸化および還元に帰され得、ポリマーの優れたレドックス活性を示す。ボルタン実験は、ビニルフェロセンがアクリルアミドおよびその誘導体とうまく共重合され、ポリマー中のフェロセニル部分はその電気活性を保持していることを示した。PBS中のレドックスポリマーは自由な拡散挙動を有する溶液形態にある。種々の量のグルコースをこの溶液に添加すること(spiking)は、ボルタンモグラムを全く変化させなかったが、これはレドックスポリマーのみによってはグルコースの触媒的酸化がないことを示唆する。さらに、レドックスポリマー溶液に少量のGOxを添加するとき、明白な変化はみられなかった。得られる溶液の電気化学はレドックスポリマーのみの溶液と実際上は同じである。しかし、10mMグルコースがこの溶液に添加されると、GOxによるグルコースの酵素酸化が進行する。レドックスはGOxに集中し、FADはFADH2に転換された。電極電位がレドックスポリマーのレドックス電位をすぎて走査されると、レドックスポリマー中のかなりの量のフェロセン部分が電極表面近くでフェロセニウムに酸化された。GOxにおけるFAD/FADH2のレドックス電位は−0.36V(vs.Ag/AgCl)であり、フェロセン/フェロセニウムカップルよりもはるかに低く、FADH2近くのフェロセニウム部分はそれを酸化してFADにもどし、そしてレドックスポリマーのフェロセニウム部分はもとのフェロセン部分に還元される。これらの2つの反応は、図4に示されるように、触媒サイクルを形成し、すなわちGOxによるグルコース酸化はレドックスポリマーにより仲介される。
【0102】
このように、レドックスポリマーによる触媒反応は、図9(明るい灰色の線)にみられるように、グルコースを含む溶液において酸化電流を大いに高める。FADH2、レドックスポリマーおよび電極の間の電子の交換がすべて非常に速いならば、大部分のフェロセニウム部分は電気化学的酸化の間に生成され、そして代わりにそれらはFADH2により急速に消費される。これは、グルコースを含まない溶液で得られる電流に比較して、フェロセニウム部分のはるかに低い還元電流の理由である。これらのデータは、レドックスポリマーが酵素反応においてレドックスメディエーターとして有効に機能し、酵素のレドックス中心から電極表面に電子を往復させることを示唆する。
【0103】
例4 グルコースオキシダーゼ−子ウシ血清アルブミンン(GOx−BSA)で架橋されたビニルフェロセン−コ−アクリルアミドを含む膜の合成
タンパク質とのレドックスポリマーの架橋反応が実施され得られた膜の電気化学的性質を検討した。酵素GOxが本例で使用された。グルタルアルデヒドおよびポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(PEG)が架橋剤として選ばれた。生物グレードグルタルアルデヒド(水中、50%、製品コード00867−1EA)およびポリ(エチレングリコール)グリシジルエーテル(PEGDE)(製品コード03800)はSigma−Aldrichから入手された。
【0104】
第1に、例1で得られたポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)が金電極上に堆積された。GOx−BSAは架橋剤で修飾され、末端アルデヒド官能基を持つ脂肪族炭素鎖を有するGOx−BSAが得られたが、それは固定化メディエーター上の適切な官能基で架橋を付与しうる。ついで、修飾されたGOx−BSAは堆積され、固定化された開始剤と反応された。修飾GOx−BSA上のアルデヒド基はPAA−VFc上のアミン基と反応して共有結合架橋を形成した。反応が実施された後、PAA−VFc−GOx−BSA膜は乾燥された。
【0105】
金電極上の架橋PAA−VFc−GOx−BSA膜はボルタン分析に供された。ブランクPBSが用いられ、そして50mV/sの電位走査速度が適用された。
【0106】
図10はブランクPBS中における、金電極上にGOxおよびBSAでPEG架橋されたPAA−VFcのサイクリックボルタンモグラムを示す。図10に示されるように、その架橋膜はまさに期待されたとおり、高度に可逆的な表面固定化レドックスカップであることを示し(A.J. Bard, L.R. Faulkner, Electrohemical Methods, John Wiley & Sons: New York, 2001.)、水およびPBSで徹底的洗浄後に、そして−0.2V〜+0.8Vでの数多くのくりかえし電位サイクルの後に、ほとんど変化がなく、そして金電極上で高度に安定な固定化フェロセニル膜であることを明らかにした。100mV/s未満の低走査速度で、著しく対称的な信号が、理想的なNernstian挙動を示す、表面制約一電子レドックス系に対して期待されるように記録された:ピーク電流は電位走査速度に比例し、溶液での拡散挙動の場合にみられるように(図9参照)ピーク/ピーク電位分離は59mVよりはるかに小さく、そして半ピーク高さでの電流幅は約90mVである。このような結果はフェロセニルレドックス中心のすべてが電極表面に到達し、可逆的な均一電子移動を進めるのを可能にすることを確めるものである。PBS溶液に10mMのグルコースを添加する際に、典型的な電気化学的曲線が得られた。しかし、レドックスポリマーの還元ピークは消失した(図10、明るい灰色の線)。これは、センシング層が還元されたGOxからフェロセニル部分への電子移動により還元状態に均一に維持されたことを意味する。検出された急速な応答および電流は、レドックスポリマーの優れた仲介機能およびバイオセンサーの高電流感度(750mA/mMグルコース)を示した。
【0107】
これらのポジティブな結果にもとづいていて、さらなる例はナノ粒子膜においてグルコースオキシダーゼと共分散された拡散メディエーターとして、本発明のレドックスポリマーを組込んだバイオセンサーの性能を調べるために実施された。
例5 共分散された拡散ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)およびグルコースオキシダーゼを組み入れるナノ粒子膜の製造
i)ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)レドックスポリマーの製造
D−(+)−グルコースおよびグルコースオキシダーゼ(GOx、EC1.1.3.4、Aspergilliusnigerより、191ユニット/mg)がSigma-Aldrich(ミネソタ州St Louis, 米国)より購入した。粒径が10〜1000nmに及ぶアルミナナノ粒子は次のように自家合成された。硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O、88.30g)が水471mLに溶解され、ついで水411.93mL中の濃水酸化アンモニウム205.9mLから調製された塩基溶液に滴下された。得られた沈殿物は攪拌され、一夜熟成され、ついで上清除去のために遠心分離された。洗浄、乾燥および磨砕後に、沈殿物は空気中で700℃、3時間、仮焼された。得られるγ−ナノ結晶は数十〜数百nmの範囲で調節可能なサイズを有する。
リン酸塩緩衝塩類溶液(PBS)(pH7.4)がリン酸塩(0.020M)および塩化ナトリウム(0.15M)から調製された。ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)、グルコースおよびGOx溶液はPBS緩衝液で調製された。グルコース貯蔵溶液は使用前少なくとも24時間、変旋光しうる。すべての溶液はミリポアから得られる脱イオン水で調製された。本例で用いたすべての化学品は認定分析グレードであった。
ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)(PVFcAA)レドックスポリマーは次の手順により合成された:ビニルフェロセン0.15gおよびアクリルアミド1.0gが水性アルコール(エタノール2部:水1部)10mLに溶解された。重合を開始するために、酸素を含まない過硫酸アンモニウム溶液0.10g/mLの分割量0.50mLが10分間の脱酸素化後に反応混合物に添加された。混合物は窒素下に24時間、還流された。冷却後にレドックスポリマーはアセトン中で沈殿された。精製は粗生成物を水に溶解させ、アセトン/水混合物中で沈殿させることにより実施された。
ii)ナノコンポジット膜の合成
ナノコンポジット膜は、PVFcAA、GOx、ポリ(ビニルピリジン−コ−アクリル酸)(PVPAC)バインダーおよびアルミナナノ粒子の水性スラリー「インク」を用いて炭素ストリップ上にスクリーン印刷された。水性スラリーインクは、上で調製されたPVFcAA、GOx、ポリ(ビニルピリジン−コ−アクリル酸)(PVPAC)もしくはポリ(ビニルピリジン−コ−アクリルアモ−スルホン酸)(PVPPAS)バインダーならびにアルミナナノ粒子を水に次の範囲の濃度で混合することにより調製された:グルコースオキシダ−ゼ0.20−0.50mg/mL、メディエーター10−20mg/mL、ナノ粒子30−100mg/mL、PVPACもしくはPVPPASバインダー40−150mg/mL。スラリーインクは貯蔵もしくはすぐに使用され得る。センサー電極を膜層で被覆するのが望ましいとき、スラリーインクはスクリーン印刷機のような堆積装置に充填され、電極上に堆積され膜を形成する。センサーへのアセンブリングの前に膜はまず乾燥される。
例6 ナノ粒子膜中に共分散された拡散ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)メディエーターおよびグルコースオキシダ−ゼを用いたグルコースバイオセンサーのサイクリックボルタンメトリー分析
センサーは、例5で調製されたスラリーインクを用いて、本例においてはスクリーン印刷された炭素作用電極およびAg/AgCl基準電極で組み立てられた。センサーの性能はサイクリックボルタンメトリーを用いて分析された。すべての電気化学的測定は室温でモデルCHI 660A 電気化学ワークステーション(CH Instruments, Austin, 米国)で実施された。サイクリックボルタンメトリー測定は、スクリーン印刷された炭素作用電極、小型Ag/AgCl基準電極(Cypress Systems, カンサス州Lawrence, 米国)および白金ワイヤ対電極からなる、従来の3電極系を用いて行なわれた。2mm径の作用領域を超えて印刷インクが拡散するのを避けるために、パターン化された疎水性膜が炭素電極に塗布された。電極汚損および可能なインク濃度変化を避けるために、新しい電極およびインクが各ボルタンメトリー試験に用いられた。すべてのグルコース試験はPBS溶液中で実施された。pHが変動された実験において、1.0MのHClおよび1.0MのNaOH溶液がPBS緩衝液のpHを調節するために用いられた。電流滴定実験において、作用電極は0・30V(vs. Ag/AgCl)に保持された。
結果および検討
ナノコンポジットインクにおいてPVFcAAメディエーターの典型的なサイクリックボルタンモグラムが図12に示される。電極は拡散が調節され、速度の速いレドックスカップルの伝統的な特徴を示した。ピーク電流は電位走査速度の平方根で直線的に増加し、還元と酸化のピーク電位の差異は200mV/sまでの走査速度に対し59mVで変わらず、メディエーターから電極への電荷移動が急速であることを示した。このインクへのグルコースの添加はボルタンモグラムを全く変化させず、メディエーターのみによるグルコースの触媒酸化がないことを示唆した。さらに、図12aに示されるように、実際上、同一のボルタンモグラムが、0.1〜20mg/mLの範囲の異なる量のGOxの存在下で得られ、酵素がインク中のFc+/Fcレドックスカップルの電気化学にあまり影響しないことを示した。しかし、インクへの非常に少量のグルコースの添加は、増加したアノード電流と減少したカソード電流をもたらした(図12b)。さらに、図12bにみられるように、ボルタンモグラムはメディエーターのレドックス電位のまわりのアノード側に向かって上昇した。このような変化は典型的な化学的に対をなす電極プロセスを示す(電気触媒作用)。電気触媒作用は次の反応式で説明されうる。
グルコース+GOX−FAD+2H+→グルコノラクトン+GOX−FADH2(1)
GOX−FADH2+2Fc+→GOX−FAD+2Fc+2H+(2)
Fc→Fc++e−(3)
このように、GOX−FADは膜を透過するグルコースによりGOX−FADH2に還元され(式1)、電子はGOX−FADH2からFc+サイトに移動され(式2)、そして電子は重合体メディエーターのFc+/Fcサイトをとおって電極表面に移動される(式3)。下にある炭素電極でのフェロセン部分の酸化は図12bにみられるように増加したアノード電流を説明する。
FcとGOXの間の触媒反応の速度定数kは、酵素が完全に還元されることを確実にするために大過剰のグルコースの存在下に得られるボルタンメトリーデータから評価されうる。このような状況で、GOXとFcの間の反応(式2)は実際上、擬一次である。NicholsonおよびShain、ならびにLiaudetおよび共同研究者により示されるように、FcとGOXの間の仲介レドックスプロセスによる制限電流ILは次のように示され得る:
IL=nFACFc(2DFcKCGOX)1/2(4)
ここでCFcおよびCGOXはそれぞれFcおよびGOXの濃度である。DFcはFcの拡散係数であり、たの記号はそれらの通常の意味である。式4から予見されるように、制限電流は十分に遅い速度で電位走査速度と独立しており、Fc濃度およびGOX濃度の平方根に比例した。これらの観察は仲介されたグルコース酸化の速度定数を決定するのに式4の使用を正当にする。式4とピーク電流ipを組合わせることにより、線形掃引ボルタンメトリーにおける表現IL/ip関係は次のように得られる。
IL/ip=(2kCGOX)1/2/[0.4463(nFv/RT)]1/2](5)
これは測定が容易な実験パラメーターを含み、速度定数を決定する目的によく合致する。なぜならFc/Fc+カップルの電極プロセスは拡散により専ら調節されるからである。速度定数は、Fc 0.50mM,グルコース60mMおよびGOX 0〜30μMを含む溶液において、50mV/s未満の低走査速度で得られたデータから評価されて、約3.8×103I/sであるとわかった。このような速度定数はPVFcAAがGOXの酸化を効率的に仲介し、電極表面にグルコースの酵素酸化をカップリングする優れたメディエーターであることを示唆する。この研究で得られた速度定数はは従来発表された他のフェロセン誘導体GOX系の定数より著しく大きい。可能な原因はpH7.4でのレドックスポリマーにおけるカチオンアクリルアミドの存在であろう、そしてそれはGOXはこのpHでアニオンであるので、静電相互作用によりGOXのレドックス中心のすぐ近くにFc部分を運ぶのである。
例7 ナノ粒子膜中に共分散された拡散ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)メディエーターおよびグルコースオキシダ−ゼを用いたグルコースバイオセンサーの電流滴定応答
センサーは、例5で調製されたスラリーインクを用いて、本例においてはスクリーン印
刷された炭素作用電極およびAg/AgCl基準電極で組み立てられた。バイオセンサーにおける空気飽和PBS緩衝液中のグルコースの典型的な電流滴定応答は、図13aに示される。電流滴定試験は、バイオセンサーがグルコースに対して急速な応答時間と高感度性を有することを示した。0.30Aで、グルコース濃度を変えると、酸化電流は増加し、非常に急速に、5秒以内に最大値に達し、20秒内にピーク電流の60%より多く維持される、ゆるやかな過渡状態に続く。同一の実験条件下でブランクPBS緩衝液中で触媒酸化は見られなかったが、ナノ粒子膜の存在はバックグラウンド電流を増加させ、低レベルになるのにかなり長い時間を要した。
バイオセンサーの満足すべき性能を得るために、ナノコンポジットの処方が最適化された。触媒反応はメディエーターおよびGOXの間で生じるので、メディエーターの濃度は触媒酸化電流とグルコース濃度の間の高感度と直線関係を有するのに十分に高い必要がある。そうでないと、仲介されたグルコース酸化のフラクションは小さく、グルコース濃度に代わり、膜中のメディエーターの量に依存する。感度およびバイオセンサーの経済性を考慮して、15mg/mLのメディエーター濃度が目的のために最良であり、GOXの最適濃度は0.20mg/mLであること、が見出された(図14aおよび14b)。そのポイズ(平衡)電位はバイオセンサーの電流滴定の応答に作用すると期待される。したがって、0.0〜0.70Vの範囲で試験された。図13cに示されるように、電流感度は増加するポイズ電位とともに増加し、0.30Vで平たんになった。感度のわずかな増加は、ポイズ電位が0.50Vを超えるときにみられたが、おそらく増加したバックグラウンド電流によるとものであろう。さらに、ポイズ電位が高すぎると非常に増加したバックグラウンド電流および下にある多くの電気活性種の直接酸化の両方の複合によりグルコース測定の精度が低下する。したがって、グルコースの電流滴定のために、バイオセンサーの電位は0.30Vに平衡保持される。
ナノ粒子膜の厚さへのグルコースの触媒酸化電流の依存性が試験された(図14d)。図14dにみられるように、触媒酸化電流は250〜500μmの厚さでナノ粒子膜について最大値に達した。比較的薄い膜の不十分な材料は低感度と電流ピークの消失を生じさせた。一方、500μm超の膜厚の増加はグルコースの膜透過性およびGOX触媒反応の酸化生成物に逆に作用する。さらに、比較的長い応答時間がもっと厚い膜について必要となる。
これらの表面固定化センシング膜の利用と異なり、非導電性ナノ粒子センシング膜は選択性で公知のディスポーザルグルコースバイオセンサーに比べて大きな利点をもたらす。前者の系において、センシング膜は電極の一部であり、血液試料と直接接触している。血液中のいくつかの成分、たとえば赤血球および白血球、タンパク質、ならびにアスコルビン酸はセンシング膜と相互作用し得、血糖値測定の精度を低下させ得る。この研究において、ナノ粒子膜は非導電性であり、したがって構造的にも機能的にも電極の一部ではない。グルコースの触媒酸化のみが電極/ナノ粒子膜界面で生じる。すなわち、電気活性種はナノ粒子膜を通過してその界面に到達しなければ、電極と電子を交換しない。したがって、ナノ粒子膜は血球およびタンパク質のような血液中のバルキー種の可能な妨害の通路に対してバリアを提供する。この処方がナノ粒子膜を印刷するのに用いられると、PVPACバインダーはセンシング膜において2つの機能でゆうようである:結合および被検体制御。再水和に際して、膜は破壊せず、膨潤してスクリーン印刷された炭素表面上にゲル化層を形成する。グルコースおよびメディエーターのような反応物はこの層内を自由に移動し、一方酸化されたヘモグロビンを含む赤血球のような妨害種は排除される。アニオン性アスコルビン酸および尿酸はアニオンPVACポリマーにより追い出され、溶解酸素のナノ粒子膜への分配はこの層の高度の親水性により大いに最小化される。これはセンシング膜をもたらし、それにより、40〜60%のヘマトクリット範囲にわたって、5.0%未満で変動する所与グルコース濃度に応じて、そして0.20mMアスコルビン酸および0.10mM尿酸の存在下で、その量の電流が発生した。さらに、望ましくもこのように血液中の妨害成分に影響を受けないことは全血試料においても観察された。さらに、ナノ粒子膜はグルコースに対しても被検体制御層を示し、系が速度的に制御されないようにグルコースの移動を著しく遅くし、それにより直線的領域を完全な生理的関連グルコース濃度範囲40〜540mg/dLに渡って拡げる。
前述のとおり、酸素はグルコースバイオセンサーの感度に影響する。なぜなら溶解した酸素によるグルコース酸化は副反応として同時に起るからである。疎水性ポリビニルピロリドン(PVP)バインダーを使用する薄いナノ粒子膜についての初期電流滴定試験は、その応答が溶解酸素を伴なうよりも酸素不存在において比較的高いことを示した。たとえば50mg/dLの低グルコース濃度で、酸素との競合はピーク電流において著しい(〜20%)減少を生じさせた。したがって、高度に選択的で、正確なバイオセンサーを得るために系における酸素妨害を抑制する必要性があった。疎水性PVPへのアクリル酸ユニットの導入はバイオセンサーの性能に著しい改良をもたらした。得られたナノ粒子膜は高度に親水性であり、グルコース/酸素透過比を改良し、そしてバイオセンサー応答の精度および直線性を最適化した。窒素(図15a)および酸素(図15b)でバブリングされた200mg/dLグルコース溶液についての2つの電流滴定グラフはピーク電流5%未満の差異でよく重複し、そのバイオセンサーは試料中の酸素含量にむしろ影響されないことを示した。
例8 ナノ粒子膜中に共分散された拡散ポリ(ビニルフェロセン−コ−アクリルアミド)メディエーターおよびグルコースオキシダ−ゼを用いたグルコースバイオセンサーの特徴の分析
センサーは、例5で調製されたスラリーインクを用いて、本例においてはスクリーン印刷された炭素作用電極およびAg/AgCl基準電極で組み立てられた。その感度は600mg/dL以下のグルコースについてのピーク電流〜76mg/dLであった。図16にみられるように、触媒酸化電流は600mg/dLまでのグルコース濃度に直接的に比例し、完全な生理的関連血糖含量をカバーした。興味深いことに、電流ピーク後のいかなる時点で得られる電流もグルコース濃度に直線的に依存し(図16b参照)、電流滴定試験の最初の20秒以内の代替サンプリングの可能性を与える。その精度は40〜300mg/dLグルコース溶液の2系列の20回繰り返し測定から評価された。相対的な標準偏差はそれぞれ4.0%および8.6%であった。最適条件下での5mg/dLグルコースの繰り返し測定の標準偏差の3倍から評価された検出限界は1.8mg/dLであることが判明し、バイオセンサーの荷電電流により制約される。もっとじゅうようなことに、一回の試験に要求される全血容積は約0.20〜0.30μLであり、市場で入手しうるすべてのディスポーザルグルコースバイオセンサーの中で最小の試験容積である。安定性試験は異なる温度で実施された。室温で最初の180日間貯蔵についての初期感度の100%を維持したバイオセンサーは50℃、60分後に初期感度の10%を失い、60℃、60分後に初期感度の約50%を失った。これはバイオセンサーにおける酵素活性の喪失による。この提案される方法は全血におけるグルコースの測定にうまく適応された(表2)。
【表2】
得られた結果はyellow spring 血糖アナライザー(YSI Model 2300)で得られた基準値とよく一致した。得られる回収は実用的使用に十分であった。
一連の水溶性および架橋性フェロセニルレドックスポリマーがビニルフェロセンならびにアクリルアミドおよびその誘導体の一般的なラジカル重合により調製された。得られるレドックスポリマーはGOxの存在下にグルコースに対する典型的な触媒酸化電流を生成した。その実験結果はレドックスポリマーがその迅速な電子移動性を保持し、GOxはPBSに導入された後にも触媒活性を保持することを示した。側鎖の1つとしてアミンもしくはカルボン酸部分を有するレドックスポリマーは、酵素ならびに抗体および抗原のようなタンパク質で都合よく架橋されることを可能にする。架橋レドックスポリマー膜の電気化学試験は溶液中の基板の酸化への優れた触媒活性、高感度、良好な再現性および安定性、を示し、したがってバイオセンサーにおけるセンシング膜として使用されるのに適していることを示す。
別の実験において、グルコースオキシダーゼおよびPVFcAAは親水性PVPAAとともにナノ粒子アルミナに容易にかつ均一に分散され得、得られた膜はグルコースに対する典型的な触媒酸化電流を生成したことを示した。実験結果はメディエーターがその迅速な電子移動性を保持し、GOxはPBSに導入された後にも触媒活性を保持することを示した。それらはこのバイオセンサーが血糖に対し良好な感度と安定性を有し、0.20μLもの少量で血液試料をモニタリングすることを示した。バイオセンサーの作製においてスクリーン印刷法の使用は、容易で低コストの大量生産を可能にする。これらのバイオセンサー特性は商業価値の高い小型グルコースバイオセンサーの開発を有望にする。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の1態様によるバイオセンサーの分解等角図。
【図2A】図1の矢印Aの方向にみられる、図1のバイオセンサーの端面図。
【図2B】図1の矢印Bの方向にみられる、図1のバイオセンサーの端面図。
【図3】本発明のもう1つの態様によるバイオセンサーの分解等角図。
【図4】レドックスポリマーメディエーターバイオセンサーで生じるカップリングレドックス反応の模式図。
【図5】本発明の水溶性で架橋性ポリマーの基本ユニット構造を示す。ビニルフェロセンおよびアクリル酸誘導体にみられる繰返し単位を示す。
【図6】ビニルフェロセンおよびアクリル酸誘導体の共重合反応における概括的式を示す。
【図7】本発明方法により製造されるレドックスポリマーであるPAA−VFcおよびPAAS−VFcのフーリエ変換赤外(FT−IR)スペクトルを示す。
【図8】Fc,PAA,PAAS、およびVFcとの共重合で得られる共重合体、の紫外線(UV)−可視光スペクトルを示す。
【図9】種々の系におけるレドックスポリマーのサイクリックボルタンモグラムを示す。リン酸塩緩衝塩類溶液が用いられ、ボルタンモグラムを得るのに適用された電位走査速度は100mV/sであった。
【図10】金電極上にグルコースオキシダーゼ−子ウシ血清アルブミン(GOx−BSA)膜で架橋されるレドックスポリマーPAA−VFcの、もう1つのサイクリックボルタンモグラムを示す。リン酸塩緩衝塩類溶液が用いられ、ボルタンモグラムを得るのに適用された電位走査速度は50mV/sであった。
【図11】この研究で用いられたディスポーザルグルコースバイオセンサーの分解図。
【図12】100mg/dLのグルコース添加なし(a)および添加あり(b)のナノ粒子印刷インクのサイクリックボルタンモグラムを示す。適用された電位走査速度は100mV/sであった。
【図13】200mg/dL(a)および0.0mg/dL(b)のグルコースを含むPBS中でのバイオセンサーの電流滴定応答を示す。適用されたポイズ電位は0.30Vであった。
【図14】(a)PVFcAA濃度、(b)GOX濃度、(c)ポイズ電位および(d)ナノ粒子膜厚さ、について、300mg/dLグルコースの電流滴定ピーク電流の依存性を示す。
【図15】溶解酵素の不存在(a)および存在(b)でのPBS中での200mg/dLグルコースの電流滴定応答を示す。適用されたポイズ電位は0.30Vであった。
【図16】(a)PBS中における100mg/dLグルコースの連続的増加への電流滴定応答および(b)異なるサンプリング時間における検定曲線、を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験試料における被検体の存在を測定するためのセンサーであり、該センサーは:
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有するナノ粒子膜を含み、ここで、オキシドレダクターゼおよび電気化学的活性化剤が該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている、センサー。
【請求項2】
オキシドレダクターゼが、グルコースオキシダーゼ、水素ペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、水素ヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、NADHデヒドロゲナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシブチルデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸オキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、キサンチンデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コリンデヒドロヘナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、シュウ酸オキシダーゼ、ビリルビン酸オキシダーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、チトクロームCオキシダーゼ、およびアクテコールオキシダーゼからなる群より選ばれる請求項1記載のセンサー。
【請求項3】
電気化学的活性化剤が、被検体とセンサー中に存在する電極との間で電子を伝達しうる重合体レドックスメディエーターである請求項1記載のセンサー。
【請求項4】
オキシドレダクターゼが架橋により重合体レドックスメディエーターに共有結合で結合している請求項3記載のセンサー。
【請求項5】
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素が、アルミニウム、ケイ素、マグネシウムおよび亜鉛からなる群より選ばれる請求項1記載のセンサー。
【請求項6】
膜の厚さが250〜500μmの範囲にわたる請求項1記載のセンサー。
【請求項7】
ナノ粒子のサイズが10nm〜1μmの範囲にわたる請求項1記載のセンサー。
【請求項8】
膜がさらに重合体バインダーを含む請求項1記載のセンサー。
【請求項9】
重合体バインダーが、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アクリルアミド、アクリロニトリル、ならびにアクリルヒドラジドおよびアクリル酸からなる群より選ばれるモノマーユニットを含むポリマーもしくはコポリマーである、請求項8記載のセンサー。
【請求項10】
さらに試験試料を保持するためのチャンバーを含み、該チャンバーは、少くとも作用電極上の作用領域と基準電極上の作用領域の間に結合されており、オキシドレダクターゼおよび電気化学的活性化剤は作用電極の作用領域上に被覆されている、請求項1記載のセンサー。
【請求項11】
作用電極が、金、炭素、白金、二酸化ルテニウム、パラジウム、および導電性エポキシからなる群より選ばれる材料を含む、請求項10記載のセンサー。
【請求項12】
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有する、非導電性のナノ粒子膜であり、オキシドレダクターゼ酵素および電気化学的活性化剤が該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている、ナノ粒子膜。
【請求項13】
電気化学的活性化剤が、電子を伝達しうる重合体レドックスメディエーターである請求項12記載の膜。
【請求項14】
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素が、アルミニウム、ケイ素、マグネシウムおよび亜鉛からなる群より選ばれる請求項12記載の膜。
【請求項15】
膜の厚さが250〜500μmの範囲にわたる請求項12記載の膜。
【請求項16】
ナノ粒子のサイズが10nm〜1μmの範囲にわたる請求項12記載の膜。
【請求項17】
膜がさらに重合体バインダーを含む請求項12記載の膜。
【請求項18】
重合体バインダーが、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アクリルアミド、アクリロニトリル、ならびにアクリルヒドラジドおよびアクリル酸からなる群より選ばれるモノマーユニットを含むポリマーもしくはコポリマーである、請求項17記載のセンサー。
【請求項19】
非導電性のナノ粒子膜の製造方法であり、その方法は、
電気化学的レドックスメディエーターを、オキシドレダクターゼならびに周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の無機酸化物のナノ粒子と混合し、ナノコンポジットインクを生成させること;ならびに基板上に該ナノコンポジットインクを塗布すること、
を含むナノ粒子膜の製造方法。
【請求項20】
該ナノコンポジットインクが所定のパターンにしたがって塗布される請求項19記載の方法。
【請求項21】
該ナノコンポジットインクがスクリーン印刷により塗布される請求項19記載の方法。
【請求項22】
混合が、重合体バイングをナノコンポジットインクに混合することをさらに含む請求項19記載の方法。
【請求項23】
ナノコンポジットインクにおける電気化学的活性化剤の濃度が約15mg/mLである請求項19記載の方法。
【請求項24】
ナノコンポジットインクにおける酵素の濃度が約0.2mg/mLである請求項19記載の方法。
【請求項25】
重合しうるフェロセン誘導体を含む第1モノマーユニット;ならびに
実効電荷を取得しうる1級酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニット、
を含む水溶性レドックスポリマー。
【請求項26】
第2モノマーユニットが、実効電荷を取得しうる末端1級酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む、請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項27】
アクリル酸誘導体が一般式(I)
【化1】
で表わされ、ここでRはCnH2n−NH2,CnH2n−COOH,NH−CnH2n−PO3HおよびNH−CnH2n−SO3Hからなる群より選ばれ、アルキル鎖は任意に置換されていてもよく、そしてnは0〜12の整数である、
請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項28】
重合しうるフェロセン誘導体がビニルフェロセン、アセチレンフェロセン、スチレンフェロセンおよびエチレンオキシドフェロセンからなる群より選ばれる請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項29】
フェロセン誘導体がビニルフェロセンである請求項28記載のレドックスポリマー。
【請求項30】
レドックスポリマーの分子量が約1000〜5000ダルトンである請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項31】
レドックスポリマーにおけるフェロセン担持が約3%〜14%である請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項32】
水溶性レドックスポリマーの製造方法であり、その方法は:
重合しうるフェロセン誘導体を含む第1モノマーユニットを、有効電荷を取得しうる酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニットと重合させること、を含み、
その重合は水性アルコール媒体中で実施される、
レドックスポリマーの製造方法。
【請求項33】
水性アルコール媒体が、容積比で約2:1〜3:1のエタノールおよび水を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
重合がフリーラジカル開始剤を添加することにより開始される請求項32記載の方法。
【請求項35】
フリーラジカル開始剤が、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる請求項34記載の方法。
【請求項36】
添加されるフリーラジカル開始剤の質量比がモノマー1gあたり約20mg〜40mgである請求項34記載の方法。
【請求項37】
重合が還流下に約60℃〜80℃の温度で実施される請求項32記載の方法。
【請求項38】
重合が不活性ガス雰囲気下で実施される請求項33記載の方法。
【請求項39】
重合が約24時間実施される請求項32記載の方法。
【請求項40】
該第1および第2のモノマーの重合に先立ち、予備反応混合物を生成することをさらに含み:
水性アルコール媒体中にアクリル酸誘導体モノマーユニットを溶解すること、ついで
フリーラジカル開始剤を添加すること、そして
重合しうるフェロセン誘導体モノマーユニットを添加して、予備反応混合物を生成すること、
を含む請求項32記載の方法。
【請求項41】
予備反応混合物における重合しうるフェロセン誘導体に対するアクリル酸誘導体の供給比が添加されるモノマー質量の約5%〜15%である請求項40記載の方法。
【請求項42】
重合しうるフェロセン誘導体モノマーユニットが添加される前に水性アルコール媒体中に溶解される請求項40記載の方法。
【請求項43】
有機溶媒中にレドックスメディエーターを沈殿させることをさらに含む請求項40記載の方法。
【請求項44】
有機溶媒がエーテルおよびケトンからなる群より選ばれる請求項40記載の方法。
【請求項45】
センサーがグルコース濃度の測定用である請求項1記載のセンサー。
【請求項1】
試験試料における被検体の存在を測定するためのセンサーであり、該センサーは:
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有するナノ粒子膜を含み、ここで、オキシドレダクターゼおよび電気化学的活性化剤が該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている、センサー。
【請求項2】
オキシドレダクターゼが、グルコースオキシダーゼ、水素ペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、水素ヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、NADHデヒドロゲナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシブチルデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸オキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、キサンチンデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コリンデヒドロヘナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、シュウ酸オキシダーゼ、ビリルビン酸オキシダーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、チトクロームCオキシダーゼ、およびアクテコールオキシダーゼからなる群より選ばれる請求項1記載のセンサー。
【請求項3】
電気化学的活性化剤が、被検体とセンサー中に存在する電極との間で電子を伝達しうる重合体レドックスメディエーターである請求項1記載のセンサー。
【請求項4】
オキシドレダクターゼが架橋により重合体レドックスメディエーターに共有結合で結合している請求項3記載のセンサー。
【請求項5】
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素が、アルミニウム、ケイ素、マグネシウムおよび亜鉛からなる群より選ばれる請求項1記載のセンサー。
【請求項6】
膜の厚さが250〜500μmの範囲にわたる請求項1記載のセンサー。
【請求項7】
ナノ粒子のサイズが10nm〜1μmの範囲にわたる請求項1記載のセンサー。
【請求項8】
膜がさらに重合体バインダーを含む請求項1記載のセンサー。
【請求項9】
重合体バインダーが、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アクリルアミド、アクリロニトリル、ならびにアクリルヒドラジドおよびアクリル酸からなる群より選ばれるモノマーユニットを含むポリマーもしくはコポリマーである、請求項8記載のセンサー。
【請求項10】
さらに試験試料を保持するためのチャンバーを含み、該チャンバーは、少くとも作用電極上の作用領域と基準電極上の作用領域の間に結合されており、オキシドレダクターゼおよび電気化学的活性化剤は作用電極の作用領域上に被覆されている、請求項1記載のセンサー。
【請求項11】
作用電極が、金、炭素、白金、二酸化ルテニウム、パラジウム、および導電性エポキシからなる群より選ばれる材料を含む、請求項10記載のセンサー。
【請求項12】
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の少くとも1つの無機酸化物のナノ粒子を含有する、非導電性のナノ粒子膜であり、オキシドレダクターゼ酵素および電気化学的活性化剤が該ナノ粒子膜中に拡散して分散されている、ナノ粒子膜。
【請求項13】
電気化学的活性化剤が、電子を伝達しうる重合体レドックスメディエーターである請求項12記載の膜。
【請求項14】
周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素が、アルミニウム、ケイ素、マグネシウムおよび亜鉛からなる群より選ばれる請求項12記載の膜。
【請求項15】
膜の厚さが250〜500μmの範囲にわたる請求項12記載の膜。
【請求項16】
ナノ粒子のサイズが10nm〜1μmの範囲にわたる請求項12記載の膜。
【請求項17】
膜がさらに重合体バインダーを含む請求項12記載の膜。
【請求項18】
重合体バインダーが、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アクリルアミド、アクリロニトリル、ならびにアクリルヒドラジドおよびアクリル酸からなる群より選ばれるモノマーユニットを含むポリマーもしくはコポリマーである、請求項17記載のセンサー。
【請求項19】
非導電性のナノ粒子膜の製造方法であり、その方法は、
電気化学的レドックスメディエーターを、オキシドレダクターゼならびに周期律表のIA,IIA,IIIA,IVA,IB,IIB,IIIB,IVAB,VB,VIB,VIIBもしくはVIIIB族から選ばれる元素の無機酸化物のナノ粒子と混合し、ナノコンポジットインクを生成させること;ならびに基板上に該ナノコンポジットインクを塗布すること、
を含むナノ粒子膜の製造方法。
【請求項20】
該ナノコンポジットインクが所定のパターンにしたがって塗布される請求項19記載の方法。
【請求項21】
該ナノコンポジットインクがスクリーン印刷により塗布される請求項19記載の方法。
【請求項22】
混合が、重合体バイングをナノコンポジットインクに混合することをさらに含む請求項19記載の方法。
【請求項23】
ナノコンポジットインクにおける電気化学的活性化剤の濃度が約15mg/mLである請求項19記載の方法。
【請求項24】
ナノコンポジットインクにおける酵素の濃度が約0.2mg/mLである請求項19記載の方法。
【請求項25】
重合しうるフェロセン誘導体を含む第1モノマーユニット;ならびに
実効電荷を取得しうる1級酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニット、
を含む水溶性レドックスポリマー。
【請求項26】
第2モノマーユニットが、実効電荷を取得しうる末端1級酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む、請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項27】
アクリル酸誘導体が一般式(I)
【化1】
で表わされ、ここでRはCnH2n−NH2,CnH2n−COOH,NH−CnH2n−PO3HおよびNH−CnH2n−SO3Hからなる群より選ばれ、アルキル鎖は任意に置換されていてもよく、そしてnは0〜12の整数である、
請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項28】
重合しうるフェロセン誘導体がビニルフェロセン、アセチレンフェロセン、スチレンフェロセンおよびエチレンオキシドフェロセンからなる群より選ばれる請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項29】
フェロセン誘導体がビニルフェロセンである請求項28記載のレドックスポリマー。
【請求項30】
レドックスポリマーの分子量が約1000〜5000ダルトンである請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項31】
レドックスポリマーにおけるフェロセン担持が約3%〜14%である請求項25記載のレドックスポリマー。
【請求項32】
水溶性レドックスポリマーの製造方法であり、その方法は:
重合しうるフェロセン誘導体を含む第1モノマーユニットを、有効電荷を取得しうる酸もしくは塩基官能基を有するアクリル酸誘導体を含む第2モノマーユニットと重合させること、を含み、
その重合は水性アルコール媒体中で実施される、
レドックスポリマーの製造方法。
【請求項33】
水性アルコール媒体が、容積比で約2:1〜3:1のエタノールおよび水を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
重合がフリーラジカル開始剤を添加することにより開始される請求項32記載の方法。
【請求項35】
フリーラジカル開始剤が、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる請求項34記載の方法。
【請求項36】
添加されるフリーラジカル開始剤の質量比がモノマー1gあたり約20mg〜40mgである請求項34記載の方法。
【請求項37】
重合が還流下に約60℃〜80℃の温度で実施される請求項32記載の方法。
【請求項38】
重合が不活性ガス雰囲気下で実施される請求項33記載の方法。
【請求項39】
重合が約24時間実施される請求項32記載の方法。
【請求項40】
該第1および第2のモノマーの重合に先立ち、予備反応混合物を生成することをさらに含み:
水性アルコール媒体中にアクリル酸誘導体モノマーユニットを溶解すること、ついで
フリーラジカル開始剤を添加すること、そして
重合しうるフェロセン誘導体モノマーユニットを添加して、予備反応混合物を生成すること、
を含む請求項32記載の方法。
【請求項41】
予備反応混合物における重合しうるフェロセン誘導体に対するアクリル酸誘導体の供給比が添加されるモノマー質量の約5%〜15%である請求項40記載の方法。
【請求項42】
重合しうるフェロセン誘導体モノマーユニットが添加される前に水性アルコール媒体中に溶解される請求項40記載の方法。
【請求項43】
有機溶媒中にレドックスメディエーターを沈殿させることをさらに含む請求項40記載の方法。
【請求項44】
有機溶媒がエーテルおよびケトンからなる群より選ばれる請求項40記載の方法。
【請求項45】
センサーがグルコース濃度の測定用である請求項1記載のセンサー。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2007−510155(P2007−510155A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537945(P2006−537945)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/SG2004/000352
【国際公開番号】WO2005/040404
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/SG2004/000352
【国際公開番号】WO2005/040404
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
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