説明

バイオセンサ

【課題】 磁性体粒子の測定において、高感度で、かつ、ノイズや検知の素子の感度のバラツキの影響が少なく測定精度の高いバイオセンサを提供する。
【解決手段】 交流磁場を磁性体粒子に向けて印加して磁場検出素子により磁束密度を検出することで、磁性体粒子の量を測定するバイオセンサにおいて、検出素子の磁束密度信号をフーリエ変換し、交流磁場の周波数の基本波と、当該周波数の高調波を抽出する。磁性体粒子がない場合には、2次高調波は出現しないため、2次高調波の信号強度の測定に基づき、磁性体粒子の定量が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオセンサに関し、特に磁性体粒子の量を測定することにより測定対象物の分析を行うためのバイオセンサ、磁性分子測定方法、及び、測定対象物測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、臨床診断・検出や遺伝子の解析においては、抗原、抗体、DNA(Deoxyribonucleic Acid)、RNA(Ribonucleic Acid)等を検出するために、抗原とそれに対する抗体との結合等の特定の分子同士の特異的な結合を利用した免疫学的手法が用いられている。
これらの分析の手法の1つである固相結合分析には、磁性体粒子を用いる方法がある。磁性体粒子を用いた固相分析の模式図を図9に示す。
図9に示されるように、この分析は、固相91と、第2の分子受容体95と、磁性体粒子Mgと、第1の分子受容体93としての2次抗体と、を用いて行われ、測定対象物94の分析を行う。
【0003】
固相91は、試料溶液と接する固相面を有し、該固相面に第2の分子受容体95を固定する。固相91には、ポリスチレンビーズ、反応槽壁、基板等が用いられる。
第2の分子受容体95は、試料溶液中に存在する抗原、抗体、DNA、RNA等の測定対象物94を選択的に固相91に保持する物質である。第2の分子受容体95としては、測定対象物94に特異的に結合する分子が用いられ、抗原、抗体、DNA、RNA等が用いられる。
【0004】
磁性体粒子Mgは、磁性を帯びた粒子であり標識物質として用いられる。すなわち、この磁性体粒子Mgの形成する磁場を検知することにより磁性体粒子Mgの量を特定し、試料溶液中の測定対象物94の有無あるいは濃度を認識する。磁性体粒子Mgのほかに標識として、放射性物質、蛍光体、化学発光体、酵素など検知可能な信号を発するものが用いられている。これら標識を用いた検査法としては、抗原−抗体反応を利用した酵素免疫測定法(EIA法)や、イムノアッセイの標識化合物として化学発光性化合物で標識する狭義の化学発光法(CLIA)や化学発光性化合物を検出系に用いて酵素活性を高感度に検出する化学発光酵素法(CLEIA)等の化学発光法(CL法)等が公知である。
第1の分子受容体93は、測定対象物94に特異的に結合するものであり、あらかじめ磁性体粒子Mgに固定される。
【0005】
図9に示す分析では、まず、あらかじめ第2の分子受容体95を固定した固相91に、測定対象物94を含む試料溶液を投入する。これにより、測定対象物94が、第2の分子受容体95を介して固相91に結合する。試料溶液中に含まれる他の物質は、固相91に結合することなく、試料溶液中を浮遊する。次に、第1の分子受容体93を固定した磁性体粒子Mgを試料溶液中に投入する。このとき、第1の分子受容体93が測定対象物94に特異的に結合することで、磁性体粒子Mgが第2の分子受容体95を介して固相91に結合する。次に、この磁性体粒子Mgの磁気を検知し、固相91に結合した磁性体粒子Mgの量を特定する。これにより、固相91に結合した測定対象物94の濃度あるいは、位置を特定することができる。この磁性体粒子により形成される磁気を、アレイ状に配置した磁気抵抗素子により検出する方法が特許文献1により開示されている。
【0006】
上記特許文献1では磁気抵抗素子が素子面に対して水平方向の磁場しか検知できない。従って、水平方向の外部磁場を印加し、これにより磁性体粒子が水平方向に磁化され、この磁化による素子面での水平方向の磁場の変化を検知する手段と、垂直方向の外部磁場を印加し、これにより磁性体粒子が垂直方向に磁化され、この磁化による素子面での水平方向の磁場の変化を検知する手段が開示されている。
【0007】
また、ホール素子をアレイ状に配置し磁性体粒子を検知する方法が、特許文献2及び特許文献3に開示されている。このホール素子は素子面に対して垂直方向の磁場しか検知できない。
特許文献2によれば垂直方向の外部磁場を印加し、これにより磁性体粒子が垂直方向に磁化され、この磁化による素子面での垂直方向の磁場の変化を検知する。
【0008】
水平方向の外部磁場を印加した場合、磁性体粒子が水平方向に磁化され、これによる素子面での垂直方向磁場の変化はある特定の2つの領域で見るとそれぞれ逆向きの磁場の変化を示す。そこで、それぞれの領域に配置したホール素子出力の差分により検出する方法が特許文献3により開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,981,297号明細書
【特許文献2】国際公開第03/67258号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/102546号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁性体粒子の磁化は微量であるため、外部磁場の方向と磁場検知素子の磁場の検知方向が同じ時は、外部磁場による磁場検知素子の出力信号に対して磁性体粒子の磁化による変化量が微小である。従って、検知素子の感度のドリフトやノイズの影響を受け易い。
外部磁場の方向と磁場検知素子の磁場の検知方向が異なる場合、例えば特許文献1により開示されている磁気抵抗素子では、理想的な状態では外部磁場による磁気抵抗素子の出力信号変化はゼロであり、磁性体粒子が存在する時のみ出力信号が変化する為、高感度な測定が可能である。しかしながら、外部磁場を印加する方向が少しでもずれると、外部磁場による磁気抵抗素子の出力はゼロにはならず、測定結果に影響する。
【0010】
特許文献3により開示されている2つのホール素子出力の差分によれば、外部磁場による出力信号はそれぞれ打ち消され、外部磁場方向のずれの影響は理想的には無い。しかしながら、実際には2つのホール素子の感度には製造工程のバラツキ等によるミスマッチが存在し、外部磁場による信号はゼロにはならない。
本発明の目的は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、磁性体粒子の測定において、高感度で、かつ、ノイズや検知の素子の感度のバラツキの影響が少なく測定精度の高いバイオセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1によるバイオセンサは、測定対象物と特異的に結合した磁性体粒子の量を測定することにより、前記測定対象物を分析するバイオセンサにおいて、前記磁性体粒子に向けて単一の周波数の交流磁場を少なくとも発生する磁場発生手段と、前記磁場発生手段により発生した磁場と前記磁性体粒子とにより形成される磁束の磁束密度を検出し、その磁束密度に応じた磁束密度信号を出力する磁場検出手段と、前記磁場検出手段により出力される磁束密度信号の内、前記交流磁場の周波数の高調波成分を抽出する高調波成分抽出手段と、前記高調波成分抽出手段により抽出された高調波成分の大きさに基づいて、前記磁性体粒子を定量する定量手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
磁性体の磁化は一般的に外部磁場の変化に対して線形に変化しない。従って外部磁場として単一の周波数の交流磁場を印加し、磁性体粒子により変調された磁束を検出したときの信号出力波形は歪み、印加磁場の周波数以外に高調波成分を含む。この高調波成分は磁性体粒子が存在しない場合、現れないので、高調波成分を測定することにより、磁性体粒子を検出することができる。
【0013】
本発明の請求項2によるバイオセンサは、請求項1において、前記定量手段は、前記交流磁場の周波数である基本波の振幅を基準とした、前記高調波成分の振幅の大きさに基づいて、定量することを特徴とする。
磁場発生手段により発生する磁場が一定であれば、ある量の磁性体粒子が存在する時の基本波の振幅と高調波の振幅の比は一定であるから、磁場検出手段の感度がばらついても影響されない。
【0014】
本発明の請求項3によるバイオセンサは、請求項1又は2において、前記磁場発生手段により発生する磁場が交流磁場のみであり、かつ、その振幅が少なくとも一部の磁性体粒子の磁化が飽和状態となるような磁場であり、前記高調波成分抽出手段は、前記交流磁場の周波数の3次高調波を抽出することを特徴とする。
磁性体粒子の磁化が飽和するような交流磁場を印加することにより、磁場検知手段の出力信号には3次高調波が現れ、これを測定することにより磁性体粒子を検出することが出来る。
【0015】
本発明の請求項4によるバイオセンサは、請求項1又は2において、前記磁場発生手段は、少なくとも一部の磁性体粒子の磁化が飽和状態となるような直流磁場と、前記直流磁場の2倍以下の振幅となる交流磁場と、を発生し、前記高調波成分抽出手段は、前記交流磁場の周波数の2次高調波を抽出することを特徴とする。
磁性体粒子の磁化が飽和し始める磁場に直流磁場を固定し、これに交流磁場を加えることにより、磁場検知手段の出力信号には2次高調波が現れ、これを測定することにより磁性体粒子を検出することができる。すなわち、直流磁場に対して磁場を弱める方向に交流磁場が加わっている時、磁性体粒子の磁化は飽和しないが、強める方向に加わっている時、磁性体粒子の磁化は飽和する。これにより出力信号の交流成分の非対称性が生じ、2次高調波が現れる。交流磁場の振幅が、直流磁場強度の2倍を超えると弱める方向に交流磁場を加えた場合も磁性体粒子の磁化が飽和するようになり、交流成分の非対称性が小さくなり、基本波に対する2次高調波成分の割合が小さくなる。
【0016】
本発明の請求項5によるバイオセンサは、請求項1〜4のいずれか1項において、前記磁場検出手段が半導体ホール素子であることを特徴とする。
半導体ホール素子は感受面での磁束密度に比例した信号を出力するため、磁性体粒子による高調波を正確に検出することが出来る。
本発明の請求項6によるバイオセンサは、請求項1〜5のいずれか1項において、前記磁場検出手段が誘導コイルであることを特徴とする。
誘導コイルは感受面での磁束密度変化に比例した信号を出力するため、磁性体粒子による高調波を正確に検出することが出来る。
本発明の請求項7によるバイオセンサは、請求項1〜6のいずれか1項において、前記磁場検出手段が複数の磁場検知素子がX行Y列(X及びYは自然数である)の2次元に配置されてなる磁気センサであることを特徴とする。
複数の磁場検知素子を用いることにより磁性体粒子の検出を正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、精度の高い測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1に本実施形態に係るバイオセンサの概略構成を示す。なお、本実施形態のバイオセンサは、従来技術の項で説明したように、第1の分子受容体、測定対象物、及び第2の磁性体分子を介して、固相であるセンサチップに結合した磁性体粒子の量を測定することで、測定対象物の分析を行うものである。
図1のバイオセンサは、分析器本体6と、分析器本体6に抜き差し可能に構成されたカートリッジ5と、を備える。
カートリッジ5は、内底部にセンサチップ1を配置した筺体である。センサチップ1の表面には、第2の分子受容体を配置し、筺体内に磁性体粒子や測定対象物を含有した試料溶液を導入することで、試料溶液の反応を行わせる。センサチップ1は、分析器本体6からの信号により制御されるとともに、試料溶液の反応により第2の分子受容体に特異的に結合した磁性体粒子を検出し、その検出結果を分析器本体6に測定結果を送る。
【0019】
(センサチップの構成について)
図2はセンサチップ1の一部の概略図、図3はセンサチップ1の構成を示すブロック図である。センサチップ1は、本発明の磁場検出手段に相当するホール素子がアレイ状に配置されたホール素子アレイ9と、アレイ選択回路71と、増幅回路81と、を備える。
ホール素子2は、外部から感磁面に対して垂直な磁束が加わると、感磁面における磁束密度に比例した電圧を出力する。アレイ選択回路71は、制御装置64からのホール素子2の選択信号に基づいて、指定されたホール素子を選択し、そのホール素子の出力電圧を増幅回路81に出力する。また、増幅回路81は、ホール素子2の検知信号を増幅し、制御装置64に出力する。例えば、差動増幅回路を備えて構成される。
【0020】
このセンサチップ1は、例えば、前記特許文献2に示すように、n型MOSFETの構成に、そのソース−ドレイン極間を流れる電流とセンサチップ1表面に垂直に印加される磁場とに対して垂直に電流が流れるように出力電極を設けることで構成することができる。これは、公知の構成であるため、詳細な説明は省略する。なお、この構成の場合、感磁面は、ゲート電極とPウエル領域との界面となる。
【0021】
上記センサチップ1は、周知の技術であるCMOS(complementary mental−oxide semiconductor device)製造プロセスによりシリコン基板11上に形成される。図2では、センサチップ1表面の凹部13の下には、ホール素子が形成されており、個々のホール素子の入力及び出力はゲート電極30及び金属配線4を介して行われる。
【0022】
また、センサチップ1表面には測定対象物と特異的に結合する第2の分子受容体を固定する為の固定層を予め形成する。例えば第2の分子受容体が抗体の場合、固定層はシランカップリング剤により形成することが望ましい。固定層表面を疎水性とし、疎水結合により抗体をセンサチップ表面に固定する。固定層の形成はセンサチップ製造時、チップに分割する前のウエハー状態でスピンコーターで塗布してもよいし、センサチップ1上にディスペンサで塗布してもよい。
【0023】
第2の分子受容体の固定は、固定層が形成された状態で分子受容体を含む溶液をセンサチップ1上に塗布することにより行う。第2の分子受容体はセンサチップ1上のホール素子アレイ9領域のみに固定してもよいし、センサチップ1の表面が露出している領域全面に固定してもよい。
なお、本発明に係る磁場検出手段は、上述のようなものに限定されない。例えば、センサチップ1に複数のホール素子を設けるのではなく、ホール素子2つでもよい。また、磁場検知素子はホール素子に限定されるものではなく、検出する磁場の変化に対して出力信号がその1次関数となる磁場検出素子であればよい。例えば誘導コイルでもよい。
【0024】
(磁性体粒子について)
磁性体粒子Mgは、磁性材料そのものを粒子状にしたものでも、ポリスチレン等のポリマーに磁性材料を含浸させたものでもよい。磁気特性としては磁性体粒子Mgの状態で超常磁性を示し、8kA/m以上の磁場中で磁化が飽和するものが望ましい。磁性体粒子Mg表面は第1の分子受容体93を固定するための固定層が形成されており、その上に第1の分子受容体93を固定する。
【0025】
(分析器本体の構成について)
分析器本体6は、図1及び図3に示すように、磁場発生手段としてのコイル61及び磁性体コア62と、表示装置63と、制御装置64と、カートリッジ5裏面の電極と接続するコネクタ65と、を備える。
磁性体コア62は、センサチップ1の対向位置に配置され、周囲に巻かれたコイル61に通電することにより、センサチップ1上に存在する磁性体粒子Mgを上向きに引きつける磁場を形成する。コイル61に単一周波数の交流を流すことで、単一周波数の交流磁場が形成される。また、コイル61に単一周波数の交流と直流電流を同時に流すことで、交流磁場と直流磁場が形成される。
【0026】
表示装置63は、制御装置64により制御され、測定の経過や測定結果を操作者に表示する。
制御装置64は、測定実行部64Aと、フーリエ変換部64Bと、ノイズ除去部64Cと、定量部64Dと、記憶装置64FFと、センサチップ制御回路64Eと、磁場発生手段制御回路64Gと、表示装置制御回路64Hと、を備える。
測定実行部64Aは、予め定められた手順に従って、各部に指令を出力することにより測定を進行させる。
【0027】
フーリエ変換部64Bは、記憶装置64FFに記憶されたホール素子の磁束密度信号を取得し、交流磁場の1周期分をフーリエ変換することで交流磁場の高調波成分(後述する)を抽出し、その高調波成分の信号強度(振幅スペクトル)を得て、ノイズ除去部64C又は記憶装置64FFに出力する。このフーリエ変換部64Bが、本発明の高調波成分抽出手段に相当し、例えばFFT(fast Fourier transform)アルゴリズムを用いる。
【0028】
ノイズ除去部64Cでは、フーリエ変換部64Bから入力される周波数スペクトルの全高調波成分にわたって出現しているノイズを基に、交流磁場の周波数の基本波と2次高調波又は3次高調波とのノイズを推定し、それぞれのノイズを除去した信号強度を得て、定量部64D又は記憶装置64Fに出力する。図5(b)にフーリエ変換部64Bにより得た周波数スペクトルを示す。図中、全周波数帯域に渡って斜線で示した部分がノイズである。ノイズを除去することで、より正確な定量が可能である。
【0029】
定量部64Dでは、ノイズ除去部64Cからの交流磁場の周波数の基本波、及び、2次高調波又は3次高調波のノイズを除去した信号強度の入力を受け、基本波信号強度に対する2次高調波又は3次高調波信号強度の比(2次高調波又は3次高調波の信号強度/基本波の信号強度)を、磁束密度信号を出力した全ホール素子について算出し、さらにそれらの平均値又は積算値を算出する。そして、基本波信号強度に対する2次高調波又は3次高調波信号強度の比の平均値又は積算値から、予め定めた、基本波信号強度に対する2次高調波又は3次高調波信号強度の比の平均値又は積算値との対応関係に基づき、磁性体粒子量を定量する。
【0030】
本実施形態では、上記測定実行部64A、フーリエ変換部64B、ノイズ除去部64C及び定量部64Dの機能は、RAM及びROM等で構成される記憶装置64FFと演算装置とを備えて構成される演算処理装置によりプログラムとして実行され、このプログラム化された測定手順に基づいて、各種制御回路に指令を送出することで、測定を自動的に実行する。
【0031】
センサチップ制御回路64Eは、上記測定実行部64Aからの指令に基づき、センサチップ1のアレイ選択回路71に選択信号を出力し、これに基づき増幅回路81から入力される磁束密度信号を測定実行部64Aに出力する。このとき、交流電圧として入力される磁束未度信号をA/D変換し、N個の時系列データとして出力する。
前記磁場発生手段制御回路64Gは、測定実行部64Aの指令に基づき磁場発生手段を制御して磁場を発生させ、表示装置制御回路64Hは、定量部64Dの指令に基づき表示制御3を制御して、定量結果を出力させる。
【0032】
次に、上記フーリエ変換部64B、ノイズ除去部64C及び定量部64Dによる磁性体粒子の定量の原理について説明する。
(2次高調波の検出について)
図4は、外部磁場と磁場検出素子の感磁面での磁束密度の関係を磁性体粒子が磁場検知素子上にある場合とない場合についてそれぞれ模式的に示したものである。磁性体粒子が無い場合は、外部磁場と磁束密度は比例し線形であるが、磁性体粒子がある場合は、外部磁場に対して磁束密度は非線形となり、特に磁化が飽和すると、傾きは磁性体粒子が無い場合とほぼ同等になる。
【0033】
外部磁場として、磁性体粒子の磁化が飽和し始める磁場強度に直流磁場を設定し、これにある単一周波数の交流磁場を印加した時の、磁気検知素子の出力を模式的に示したものが図5(a)である。磁性体が無い場合、出力波形は正弦波であるが、磁性体粒子がある場合、正弦波が非対称な歪んだ波形となる。これをフーリエ変換した周波数スペクトルが図5(b)である。磁性体粒子が無い場合は、基本波のみであるが、磁性体粒子がある場合、基本波の2倍の周波数のところに2次高調波が現れる。従って、この2次高調波の有無又は信号強度に基づき、磁性体粒子を定量できる。このとき、さらに基本波信号強度に対する2次高調波信号強度の比を定量に用い、基本波強度を基準にすることでセンサ感度の変動に影響されない信号を得ることができる。なお、信号強度の比を求める場合には、前述したようにノイズを除去した後の信号強度を用いる。
【0034】
(3次高調波の検出について)
外部磁場としてある単一周波数の交流磁場を印加した時の、磁束密度検知素子の出力を模式的に示したものが図6(a)である。この時交流磁場の振幅は、磁性体粒子の磁化が飽和する大きさに設定してある。磁性体粒子が無い場合出力波形は正弦波であるが、磁性体粒子がある場合、正弦波の凸部がつぶれた歪んだ波形となる。これをフーリエ変換した周波数スペクトルが図6(b)である。磁性体粒子が無い場合は、基本波のみであるが、磁性体粒子がある場合、基本波の3倍の周波数のところに3次高調波が現れる。従って、この3次高調波の有無又は信号強度に基づき、磁性体粒子を定量できる。このとき、さらに基本波信号強度に対する3次高調波信号強度の比を定量に用い、基本波強度を基準にすることでセンサ感度の変動に影響されない信号を得ることができる。なお、この場合も2次高調波の場合と同じくノイズ成分を除去する。
【0035】
(測定対象物の測定方法について)
次に、図7のフローチャートを用いて、本実施形態のバイオセンサの動作及びこれを用いた測定対象物の測定方法について説明する。
まず、センサチップ1を内蔵したカートリッジ5に測定対象物及び磁性体粒子を含む溶液を滴下したものを分析器本体6に挿入することで、測定を開始する。
挿入後、ステップS101にて所定の時間静置し、測定対象物を介して磁性体粒子をセンサチップ上に結合させる。次に、ステップS102では結合していない磁性体粒子をコイル61により磁場を印加しセンサチップ表面より引き離す。
【0036】
ステップS103ではセンサチップ表面上に結合した磁性体粒子の検出を行う。上述のように2次高調波を用いて検出する場合はコイル61にて交流+直流磁場を印加し、3次高調波を用いて検出する場合は交流磁場を印加する。センサ出力をフーリエ変換すると基本波と磁性体粒子が存在する場合は高調波が現れる。ここで基本波信号強度に対する高調波信号強度を算出する。基本波信号強度を基準にすることでセンサ感度の変動に影響されない信号を得ることができる。磁場検出素子がホール素子アレイの場合、全てのホール素子の測定が終了するまでステップS104で判断し測定を継続する。
最後に、ステップS105で、全ての磁場検知素子の基本波信号強度に対する高調波信号強度の比の積算値或いは平均値を算出し、磁性体粒子量を算出する。算出された磁性体粒子量に基づき、測定対象物の定量を行う為には、予め磁性体粒子量に対する測定対象物の濃度を検量線として準備しておく。
【実施例】
【0037】
本発明を実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
センサチップは0.6umCMOSプロセスにより作製した。感磁面の大きさが約5μm角のホール素子を約15μmピッチで16×16個のアレイとして配置し、アレイ選択回路とホール素子からの信号を増幅する増幅回路を配置した。
次にセンサチップ表面に直径が2.8umのダイナル社製磁性体粒子(商品名:DYNABEADS)を結合させた。これを図1に示すような分析器本体6に挿入し測定を行った。コイル61によりセンサチップ面で磁場強度が直流成分が10kA/m、交流成分が10kA/m(実効値)、交流成分の周波数が625Hzとなるように設定した。基本波信号強度に対する2次高調波信号強度の比を求め、16×16個のホール素子についての前記信号強度の比の平均値を各磁性体粒子量対してプロットしたものが図8である。ここで磁性体粒子量は16×16個のアレイ領域内に結合した磁性体粒子量であり、ホール素子上だけでなくホール素子間上に結合したものも含まれる。図から明らかなように数個から約1万個の磁性体粒子が検出できている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態のバイオセンサの構成を説明する図である。
【図2】本実施形態のバイオセンサのセンサチップの一部の概略を示す図である。
【図3】本実施形態のバイオセンサの機能を示すブロック図である。
【図4】感磁面での磁性体粒子の有無による磁束密度と外部磁場との関係を説明する図である。
【図5】本実施形態の2次高調波の検出原理を説明する図である。
【図6】本実施形態の3次高調波の検出原理を説明する図である。
【図7】本実施形態の測定シーケンスを説明する図である。
【図8】実施例1の測定結果を説明する図である。
【図9】磁性体粒子を用いた測定対象物の分析を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1 センサチップ
4 金属配線
5 カートリッジ
6 分析器本体
11 シリコン基板
13 凹部
30 ゲート電極
61 コイル
62 磁性体コア
63 表示装置
65 コネクタ
91 固相
93 第1の分子受容体
94 測定対象物
95 第2の分子受容体
Mg 磁性体粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物と特異的に結合した磁性体粒子の量を測定することにより、前記測定対象物を分析するバイオセンサにおいて、
前記磁性体粒子に向けて単一の周波数の交流磁場を少なくとも発生する磁場発生手段と、
前記磁場発生手段により発生した磁場と前記磁性体粒子とにより形成される磁束の磁束密度を検出し、その磁束密度に応じた磁束密度信号を出力する磁場検出手段と、
前記磁場検出手段により出力される磁束密度信号の内、前記交流磁場の周波数の高調波成分を抽出する高調波成分抽出手段と、
前記高調波成分抽出手段により抽出された高調波成分の大きさに基づいて、前記磁性体粒子を定量する定量手段と、を備えることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項2】
前記定量手段は、前記交流磁場の周波数である基本波の振幅を基準とした、前記高調波成分の振幅の大きさに基づいて、定量することを特徴とする請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記磁場発生手段により発生する磁場が交流磁場のみであり、かつ、その振幅が少なくとも一部の磁性体粒子の磁化が飽和状態となるような磁場であり、
前記高調波成分抽出手段は、前記交流磁場の周波数の3次高調波を抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記磁場発生手段は、少なくとも一部の磁性体粒子の磁化が飽和状態となるような直流磁場と、前記直流磁場の2倍以下の振幅となる交流磁場と、を発生し、
前記高調波成分抽出手段は、前記交流磁場の周波数の2次高調波を抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオセンサ。
【請求項5】
前記磁場検出手段が半導体ホール素子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項6】
前記磁場検出手段が誘導コイルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項7】
前記磁場検出手段が複数の磁場検知素子がX行Y列(X及びYは自然数である)の2次元に配置されてなる磁気センサであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−234762(P2006−234762A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53569(P2005−53569)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】