説明

バイオフィルム関連感染を処置するためのガリウムの使用

本発明は、個体におけるバイオフィルム関連感染の処置または予防のための方法、組成物およびキットを提供する。本発明の方法は、確立されたバイオフィルムの処置のためまたはバイオフィルムの形成防止のためのガリウム含有組成物を投与することを含む。いくつかの方法は、抗生物質とともにガリウム含有組成物を投与することを含む。いくつかの方法は、歯磨剤、洗口剤またはチューインガム組成物の形のガリウム含有組成物を用いる口腔関連バイオフィルムの処置または防止を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2006年1月30日提出の米国仮出願第60/763,676号および2006年5月16日提出の米国仮出願第60/801,082号の利益を主張する。これらの両出願の開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、個体における存在するバイオフィルムの処置またはバイオフィルムの形成の予防のためのガリウム含有組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
細菌バイオフィルムは、細胞外マトリクスにより被包化された細菌のコロニーである。
【0004】
バイオフィルムに被包化された細菌は、しばしば、洗浄剤および抗生物質の影響を比較的受けにくい。バイオフィルム中の細菌の抗生物質耐性は、詳細に文書化され、細菌のバイオフィルムは、嚢胞性線維症、慢性尿路感染、慢性副鼻腔感染、カテーテルおよび人工呼吸器のような医療機器による感染、ならびに歯垢の悪化を含むいくつかの疾患の設定に重要な役割を演じている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
化学元素の鉄は、バイオフィルムの形成および維持に必要であり、病原性細菌は、宿主から鉄を抽出する特別な機序を発展させた。例えば、日和見病原菌であるPseudomonas aeruginosaは、嚢胞性線維症および尿路感染において、2つのシデロフォアであるピオシディン(pyocydin)およびピオベルディン(pyoverdin)を発現して、宿主環境から細胞外鉄分を捕捉する。Pseudomonas aeruginosaのバイオフィルム形成は、宿主の粘膜分泌物中に発現される重要な鉄結合タンパク質であるラクトフェリン20μg/mlの存在下での鉄分隔離により阻害されることが示されている(非特許文献2)。その結果、これらの細菌は、マクロライド抗生物質およびトブラマイシンのようなその他のアミノグリコシドに感受性であった。培地に鉄分を補給すると、細菌が著しく再増殖し、抗生物質耐性細菌のバイオフィルムが形成される。低速度撮影の顕微鏡観察により、ラクトフェリンによる鉄分の隔離は、P.aeruginosaがミクロコロニーを形成してバイオフィルムに凝集する代わりに、表面を移動することを誘導することが示された。鉄分が豊富な条件は、細菌が細胞クラスタを形成し、その後にバイオフィルムを形成する表現型を誘発する。
【0006】
慢性尿路感染(UTI)の原因病原菌は、Escherichia coil、Proteus spp.およびKlebsiella pneumoniaeのようなグラム陰性桿菌であり、これらの3種はすべて、バイオフィルムを形成することが示されている。UTIを処置するために利用可能な抗生物質の数は増加しているが、耐性病原菌の発生も増加している。UTI病原菌での耐性は、種々の因子によるものであり、そのうちの1つは細菌バイオフィルムの形成である。
【0007】
細菌バイオフィルムは、カテーテル関連UTI、スツルバイト結石症および慢性前立腺炎、ならびに他の通常のUTIシナリオに関連する。バイオフィルム関連細菌感染は、しばしば、本質的に院内で始まり、急激にUTI、集中治療部での肺感染、熱傷犠牲者での皮膚感染、および好中球現象性の癌に関連する敗血症に突発する。コアグラーゼ陰性のStaphylococci、Enterococcus spp.、Klebsiella pneumoniaeおよびPseudomonas aeruginosaは、尿路カテーテルでのバイオフィルムに通常、関連している。
【0008】
尿路カテーテルに付着しているバイオフィルムに埋伏されている細菌の抗生物質耐性は、十分に文書化されている(非特許文献1)。このようなバイオフィルムでの抗生物質治療に対する耐性の増加は、バイオフィルムマトリクス自体への抗生物質の浸透が乏しいこと、またはバイオフィルム内での代謝活性が低減することに次いで従属的であり得る。抗生物質耐性バイオフィルムから分散された個々の細菌は、バイオフィルム環境での保護を一旦失うと、低レベルの抗生物質に対する感受性を回復する。
【非特許文献1】Costertonら(1999年)Science 284巻(5418号)1318〜22頁
【非特許文献2】Singhら(2002年)Nature 417巻(6888号):552〜55頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バイオフィルムの形成を処置または予防する改善された方法に対する必要性が、当該技術において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、必要とする個体においてバイオフィルムを処置するための方法、組成物およびキットを提供する。
【0011】
一態様において、本発明は、必要とする個体においてバイオフィルムを処置する方法であって、個体にガリウム含有組成物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。処置は、予防、治療または治癒を含む。いくつかの実施形態において、上記の方法は、個体にガリウム含有組成物の予防有効量を投与することを含むバイオフィルムの形成の予防を含む。一実施形態において、上記の方法は、バイオフィルム関連感染の個体の別の部位への広がりの阻害または防止を含む。別の実施形態において、上記の方法は、細胞外バイオフィルムマトリクスの破壊、およびそれによる宿主の免疫系による感染の浄化を可能にすることを含む。
【0012】
種々の実施形態において、バイオフィルムは、膀胱、腎臓、心臓、中耳、洞、皮膚、肺、関節、皮下組織、軟組織、血管組織および/または眼に存在する。一実施形態において、上記の方法は、尿路感染に関連するバイオフィルムの処置を含む。別の実施形態において、バイオフィルムは、慢性細菌性膣疾患に関連する。別の実施形態において、バイオフィルムは、細菌性角膜炎に関連する。一実施形態において、バイオフィルムは、前立腺炎に関連する。一実施形態において、バイオフィルムは、嚢胞性線維症でない個体の肺の中に存在する。一実施形態において、バイオフィルムは、個体の肺の中に存在し、ここで、バイオフィルムはPseudomonas aeruginosaを含まない。一実施形態において、バイオフィルムは、個体の熱傷を含まない皮膚に存在する。
【0013】
いくつかの実施形態において、バイオフィルムは、少なくとも1種の細菌を含む。細菌種は、グラム陽性種またはグラム陰性種であってよい。グラム陽性種は、限定されないが、Bacillus、Corynebacteria、Clostridium、Enterococcus、Listeria、StaphylococcusまたはStreptococcusを含む。グラム陰性種は、限定されないが、Pseudomonas aeruginosa、Branhamella、Campylobacteria、Escherichia coli、Enterobacteria、Pasteurella、Proteus、Klebsiella、Neisseria、Salmonella、ShigellaまたはSerratiaを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、上記の方法は、少なくとも1種の抗生物質を、ガリウム含有組成物と併用して投与することを含む。少なくとも1種の抗生物質の投与は、ガリウム含有組成物の投与と同時または連続的であってよい。いくつかの実施形態において、抗生物質は、ガリウム含有組成物と相乗的に作用して、バイオフィルムを処置する。いくつかの実施形態において、抗生物質は、ガリウム含有組成物に相加的に作用して、バイオフィルムを処置する。本発明の方法に従って用い得る抗生物質は、限定されないが、シプロフラキシン、アンピシリン、アジスロマイシン、セファロスポリン、ドキシサイクリン、フシジン酸、ゲンタマイシン、リネゾリド、レボフロキサシン、ノルロキサシン(norloxacin)、オフロキサシン(ofloxacin)、リファンピン、テトラサイクリン、トブラマイシン、バンコマイシン、アミカシン、デフタジジム(deftazidime)、セフェピム、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、ピペラシリン/タゾバクタム、アズトレアナム(aztreanam)、メロペネム、コリスチンおよびクロラムフェニコールを含む。本発明の方法に従って用い得る抗生物質のクラスは、限定されないが、アミノグリコシド、カルバセフェム、カルバペネム、第一世代セファロスポリン、第二世代セファロスポリン、第三世代セファロスポリン、第四世代セファロスポリン、糖ペプチド、マクロライド、モノバクタム、ペニシリン、ポリペプチド、キノロン、スルホンアミド、テトラサイクリン、リンコサミド、およびオキサゾリジノンを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、各ヒドロキシピロン分子が置換されていないか、1、2または3つのC〜Cアルキル置換基で置換されている、中性の3:1(ヒドロキシピロン:ガリウム)錯体の形の配位錯体を含む。いくつかの実施形態において、各ヒドロキシピロン分子は、3−ヒドロキシ−4−ピロン、3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン、3−ヒドロキシ−2−エチル−4−ピロンおよび3−ヒドロキシ−6−メチル−4−ピロンからなる群から選択される。一実施形態において、各ヒドロキシピロン分子は、3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロンである。
【0016】
いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、非経口投与される。いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、経口投与される。いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、局所または表面に投与される。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、必要とする個体においてバイオフィルムを処置する方法であって、ガリウム含有組成物の治療有効量および抗生物質を個体に投与することを含み、ガリウム含有組成物と抗生物質とが相乗的に作用してバイオフィルムを処置する方法を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、個体において口腔関連バイオフィルムを処置する方法であって、バイオフィルムを、ガリウム含有組成物の治療有効量と接触させることを含む方法を提供する。一実施形態において、上記の方法は、ガリウム含有組成物の予防有効量を投与することにより、バイオフィルムの形成を防止すること、および/または個体の別の部位にバイオフィルムが広がることを防止することを含む。
【0019】
一実施形態において、口腔関連バイオフィルムは、例えば歯に存在する歯垢のような歯に存在する。別の実施形態において、口腔関連バイオフィルムは、舌、口腔粘膜または歯肉に存在する。ガリウム含有組成物は、例えば練り歯磨きのような歯磨剤、洗口剤もしくはチューインガムとして、またはフッ素処置用のフッ素含有組成物中のようなペイント、フォーム、ゲルもしくは歯科用バーニッシュとして処方してよい。
【0020】
一実施形態において、本発明は、個体において細菌性角膜炎を処置する方法であって、個体の目の細菌性角膜炎に関連するバイオフィルムを、ガリウム含有組成物の治療有効量と接触させることを含む方法を提供する。ガリウム含有組成物は、ガリウムを含有する眼の点眼剤またはコンタクトレンズ液として処方してよい。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、バイオフィルム処置用のガリウム含有組成物を提供する。一実施形態において、ガリウム含有組成物は、例えば練り歯磨きのような歯磨剤として処方される。別の実施形態において、ガリウム含有組成物は、洗口剤として処方される。別の実施形態において、ガリウム含有組成物は、咀嚼のためのガムとして処方される。別の実施形態において、ガリウム含有組成物は、眼の点眼剤として処方される。別の実施形態において、ガリウム含有組成物は、コンタクトレンズ液として処方される。別の実施形態において、ガリウム含有組成物は、例えばシプロフラキシン、アンピシリン、アジスロマイシン、セファロスポリン、ドキシサイクリン、フシジン酸、ゲンタマイシン、リネゾリド、レボフロキサシン、ノルロキサシン、オフロキサシン、リファンピン、テトラサイクリン、トブラマイシン、バンコマイシン、アミカシン、デフタジジム、セフェピム、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、ピペラシリン/タゾバクタム、アズトレアナム、メロペネム、コリスチンまたはクロラムフェニコールのような少なくとも1種の抗生物質と、所望により、薬学的に許容される担体とを含む。別の実施形態において、ガリウム含有組成物は、限定されないが、アミノグリコシド、カルバセフェム、カルバペネム、第一世代セファロスポリン、第二世代セファロスポリン、第三世代セファロスポリン、第四世代セファロスポリン、グリコペプチド、マクロライド、モノバクタム、ペニシリン、ポリペプチド、キノロン、スルホンアミド、テトラサイクリン、リンコサミド、およびオキサゾリジノンを含む抗生物質のクラスからの少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、バイオフィルム関連感染の処置(防止を含む)のためのキットを提供する。本発明のキットは、ガリウム含有組成物と、パッケージとを含む。キットは、バイオフィルム関連感染の処置における使用のための指示書を含んでよい。いくつかの実施形態において、キットは、少なくとも1種の抗生物質を含む。いくつかの実施形態において、キットは、練り歯磨きのような歯磨剤、洗口剤組成物、もしくはチューインガム組成物として、またはフッ素処置用のフッ素含有組成物中のペイント、フォーム、ゲル、もしくは歯科用バーニッシュとして処方されたガリウム含有組成物を含む。いくつかの実施形態において、キットは、眼の点眼剤またはコンタクトレンズ液として処方されたガリウム含有組成物を含む。いくつかの実施形態において、キットは、ガリウム含有組成物と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(詳細な説明)
本発明は、バイオフィルム関連感染の処置のための方法、組成物およびキットを提供する。特に、ガリウム含有組成物が、所望により、1もしくは複数種の抗生物質または1もしくは複数種の非抗生物質性抗菌物質の投与とともに、必要とする個体におけるバイオフィルム関連感染の処置(予防、治療および治癒を含む)のための本発明の方法において投与される。
【0024】
一般的な技術
本発明の実施は、特に記載しない限り、当該分野の範囲内の分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の一般的な技術を用いる。このような技術は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989年)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J. Gait編、1984年);Methods in Molecular Biology、Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook(J.E. Cellis編、1998年)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I. Freshney編、1987年);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P. MatherおよびP.E. Roberts、1998年)Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures(A. Doyle、J.B. Griffiths、およびD.G. Newell編、1993〜8年)J. Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press, Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M. WeirおよびC.C. Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M. MillerおよびM.P. Calos編、1987年);Current Protocols in Molecular Biology(F.M. Ausubelら編、1987年);PCR: The Polymerase Chain Reaction(Mullisら編、1994年);Current Protocols in Immunology(J.E. Coliganら編、1991年);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999年);Immunobiology(C.A. JanewayおよびP. Travers、1997年);Antibodies(P. Finch、1997年);Antibodies: a practical approach(D. Catty.編、IRL Press、1988〜1989年);Monoclonal antibodies : a practical approach(P. ShepherdおよびC. Dean編、Oxford University Press、2000年);Using antibodies: a laboratory manual(E. HarlowおよびD. Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999年);およびThe Antibodies(M. ZanettiおよびJ.D. Capra編、Harwood Academic Publishers、1995年)のような文献に十分に記載されている。
【0025】
定義
特に記載しない限り、本発明は、特定の合成法、類縁体、置換基、製剤、処方成分、投与形態などに限定されず、これら自体は変動してよい。本明細書で用いられる用語は、具体的な実施形態を記載する目的だけのためであり、限定することを意図しないことも理解される。
【0026】
明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる場合、「a」、「an」および「the」の単数形は、文脈が特に明確に指示しない限り、複数の対照物を含む。つまり、例えば、「置換基」についての言及は、単数の置換基とともに、同一または異なっていてもよい2以上の置換基を含み、「化合物」についての言及は、異なる化合物の組合せまたは混合物とともに、単一の化合物を含み、「薬学的に許容される担体」についての言及は、2以上のこのような担体とともに、単一の担体を含むなどである。
【0027】
本明細書で用いる場合、用語「アルキル」は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、オクチル、デシルなどのような必須ではないが典型的には1〜約24個の炭素原子を含む分岐または非分岐の飽和炭化水素基とともに、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのようなシクロアルキル基のことである。一般に、これも必須ではないが、本明細書におけるアルキル基は、1〜約18個の炭素原子、好ましくは1〜約12個の炭素原子を含む。用語「低級アルキル」は、1〜6個の炭素原子のアルキル基を意図する。好ましい低級アルキル置換基は、1〜3個の炭素原子を含み、特に好ましいこのような置換基は、1または2個の炭素原子を含む(すなわちメチルおよびエチル)。「置換アルキル」は、1または複数の置換基で置換されたアルキルのことであり、用語「ヘテロ原子含有アルキル」および「ヘテロアルキル」は、以下にさらに詳細に記載するように、少なくとも1個の炭素原子がヘテロ原子で置き換えられたアルキルのことである。特に記載しない限り、用語「アルキル」および「低級アルキル」は、直鎖、分岐、環状、非置換、置換および/またはヘテロ原子含有のそれぞれアルキルあるいは低級アルキルを含む。
【0028】
本明細書で用いる場合、用語「アリール」は、特に記載しない限り、単一の芳香族環またはともに縮合しているか、直接結合しているか、もしくは(異なる芳香族環がメチレンまたはエチレン部分のような共通の基に結合するように)間接的に結合している複数の芳香族環を含む芳香族置換基のことである。好ましいアリール基は、5〜24個の炭素原子を含み、特に好ましいアリール基は、5〜14個の炭素原子を含む。アリール基の例は、例えばフェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン、ベンゾフェノンなどの1つの芳香族環、または2つの縮合もしくは結合した芳香族環を含む。「置換アリール」は、1または複数の置換基で置換されたアリール部分のことであり、用語「ヘテロ原子含有アリール」および「ヘテロアリール」は、以下にさらに詳細に記載するように、少なくとも1個の炭素原子がヘテロ原子で置き換えられたアリール置換基のことである。特に記載しない限り、用語「アリール」は、非置換、置換および/またはヘテロ原子含有の芳香族置換基を含む。
【0029】
「ヘテロ原子含有アルキル基」(「ヘテロアルキル」基ともいう)または「ヘテロ原子含有アリール基」(「ヘテロアリール」基ともいう)におけるような用語「ヘテロ原子含有」は、1または複数の炭素原子が例えば窒素、酸素、硫黄、リン、ゲルマニウムまたはケイ素、典型的には窒素、酸素または硫黄、好ましくは窒素または酸素のような炭素以外の原子で置き換えられた分子、結合または置換基のことである。同様に、例えば用語「ヘテロアルキル」は、ヘテロ原子含有であるアルキル置換基のことであり、用語「ヘテロ環式」は、ヘテロ原子含有である環状置換基のことであり、用語「ヘテロアリール」および「ヘテロ芳香族」はそれぞれ、ヘテロ原子含有である「アリール」および「芳香族」置換基のことである。ヘテロアルキル基の例は、アルコキシアリール、アルキルスルファニル置換アルキル、N−アルキル化アミノアルキルなどを含む。ヘテロアリール置換基の例は、ピロリル、ピロリジニル、ピリジニル、キノリニル、インドリル、ピリミジニル、イミダゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリルなどを含み、ヘテロ原子含有脂環式基の例は、ピロリジノ、モルホリノ、ピペラジノ、ピペリジノなどである。
【0030】
「ヒドロカルビル」は、アルキル基、アルケニル基、アリール基などのような直鎖、分岐、環状、飽和および不飽和の種を含む1〜約30個の炭素原子、好ましくは1〜約24個の炭素原子、より好ましくは1〜約18個の炭素原子、最も好ましくは約1〜12個の炭素原子を含む1価のヒドロカルビル基のことである。「置換ヒドロカルビル」は、1または複数の置換基で置換されたヒドロカルビルのことであり、用語「ヘテロ原子含有ヒドロカルビル」は、少なくとも1個の炭素原子がヘテロ原子で置き換えられたヒドロカルビルのことである。特に記載しない限り、用語「ヒドロカルビル」は、置換および/またはヘテロ原子含有のヒドロカルビル部分を含むと解釈される。
【0031】
上記の定義のいくつかで言及したような「置換アルキル」、「置換アリール」などにおけるような「置換」により、アルキル、アリールまたはその他の部分において、炭素(またはその他の)原子に結合している少なくとも1個の水素原子が、1または複数の非水素置換基で置き換えられていることを意味する。このような置換基の例は、限定されないが、ハロ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、C〜C24アルコキシ、C〜C24アルケニルオキシ、C〜C24アルキニルオキシ、C〜C24アリールオキシ、アシル(C〜C24アルキルカルボニル(−CO−アルキル)およびC〜C24アリールカルボニル(−CO−アリール)を含む)、アシルオキシ(−O−アシル)、C〜C24アルコキシカルボニル(−(CO)−O−アルキル)、C〜C24アリールオキシカルボニル(−(CO)−O−アリール)、ハロカルボニル(−CO)−X(ここで、Xはハロである)、C〜C24アルキルカルボナト(−O−(CO)−O−アルキル)、C〜C24アリールカルボナト(−O−(CO)−O−アリール)、カルボキシ(−COOH)、カルボキシラト(−COO)、カルバモイル(−(CO)−NH)、モノ−(C〜C24アルキル)−置換カルバモイル(−(CO)−NH(C〜C24アルキル))、ジ−(C〜C24アルキル)−置換カルバモイル(−(CO)−N(C〜C24アルキル))、モノ−(C〜C24アリール)−置換カルバモイル(−(CO)−NH−アリール)、ジ−(C〜C24アリール)−置換カルバモイル(−(CO)−N(アリール))、ジ−N−(C〜C24アルキル)、N−(C〜C24アリール)−置換カルバモイル、チオカルバモイル(−(CS)−NH)、カルバミド(−NH−(CO)−NH)、シアノ(−C≡N)、イソシアノ(−N≡C)、シアナト(−O−C≡N)、イソシアナト(−O−N≡C)、イソチオシアナト(−S−C≡N)、アジド(−N=N=N)、ホルミル(−(CO)−H)、チオホルミル(−(CS)−H)、アミノ(−NH)、モノ−(C〜C24アルキル)−置換アミノ、ジ−(C〜C24アルキル)−置換アミノ、モノ−(C〜C24アリール)−置換アミノ、ジ−(C〜C24アリール)−置換アミノ、C〜C24アルキルアミド(−NH−(CO)−アルキル)、C〜C24アリールアミド(−NH−(CO)−アリール)、イミノ(−CR=NH(ここで、R=水素、C〜C24アルキル、C〜C24アリール、C〜C24アルカリル、C〜C24アラルキルなど))、アルキルイミノ(−CR=N(アルキル)(ここで、R=水素、C〜C24アルキル、C〜C24アリール、C〜C24アルカリル、C〜C24アラルキルなど))、アリールイミノ(−CR=N(アリール)(ここで、R=水素、C〜C24アルキル、C〜C24アリール、C〜C24アルカリル、C〜C24アラルキルなど))、ニトロ(−NO)、ニトロソ(−NO)、スルホ(−SO−OH)、スルホナト(−SO−O)、C〜C24アルキルスルファニル(−S−アルキル;「アルキルチオ」ともいう)、アリールスルファニル(−S−アリール;「アリールチオ」ともいう)、C〜C24アルキルスルフィニル(−(SO)−アルキル)、C〜C24アリールスルフィニル(−(SO)−アリール)、C〜C24アルキルスルホニル(−SO−アルキル)、C〜C24アリールスルホニル(−SO−アリール)、ホスホノ(−P(O)(OH))、ホスホナト(−P(O)(O)、ホスフィナト(−P(O)(O))、ホスホ(−PO)、およびホスフィノ(−PH);ならびにヒドロカルビル部分C〜C24アルキル(好ましくはC〜C18アルキル、より好ましくはC〜C12アルキル、最も好ましくはC〜Cアルキル)、C〜C24アルケニル(好ましくはC〜C18アルケニル、より好ましくはC〜C12アルケニル、最も好ましくはC〜Cアルケニル)、C〜C24アルキニル(好ましくはC〜C18アルキニル、より好ましくはC〜C12アルキニル、最も好ましくはC〜Cアルキニル)、C〜C24アリール(好ましくはC〜C14アリール)、C〜C24アルカリル(好ましくはC〜C18アルカリル)、ならびにC〜C24アラルキル(好ましくはC〜C18アラルキル)のような官能基を含む。
【0032】
さらに、上記の官能基は、具体的な基が許容するならば、上記で具体的に列挙したもののような1もしくは複数のさらなる官能基、または1もしくは複数のヒドロカルビル部分でさらに置換されていてよい。同様に、上記のヒドロカルビル部分は、具体的に列挙したもののような1もしくは複数の官能基、またはさらなるヒドロカルビル部分でさらに置換されていてよい。
【0033】
用語「置換」が置換される可能性のある一連の基の前に記載される場合、この用語がその群のそれぞれのメンバーに適用されることが意図される。例えば、「置換アルキル、アルケニルおよびアリール」の句は、「置換アルキル、置換アルケニル、および置換アリール」と解釈される。同様に、用語「ヘテロ原子含有」がヘテロ原子含有の可能性がある一連の基の前に記載される場合、この用語がその群のそれぞれのメンバーに適用されることが意図される。例えば、「ヘテロ原子含有アルキル、アルケニルおよびアリール」の句は、「ヘテロ原子含有アルキル、ヘテロ原子含有アルケニル、およびヘテロ原子含有アリール」と解釈される。
【0034】
「任意の」または「所望により」は、その後に記載される状況が発生する場合と発生しない場合があるので、該記載がその状況が発生する場合と、発生しない場合とを含むことを意味する。例えば、「所望により置換されていてもよい」の句は、非水素置換基が所定の原子に存在する場合と存在しない場合があり、よって、該記載が、非水素置換基が存在する構造と、非水素置換基が存在しない構造とを含むことを意味する。同様に、点線または断続線−−−−により表される「所望により存在していてもよい」結合の句は、結合が存在する場合と存在しない場合があることを意味する。
【0035】
本発明の化合物を活性物質と言及する場合、本出願人らは、用語「化合物」または「活性物質」が、特定の分子部分だけでなく、限定されないが塩、エステル、アミド、水和物、溶媒和物、プロドラッグ、コンジュゲート、活性代謝物を含むその薬学的に許容され、薬理学的に活性な類縁体、ならびに他のこのような誘導体、類縁体および関連する化合物も含むことを意図する。
【0036】
本明細書で用いる場合、用語「処置する」および「処置」は、症状の重篤さおよび/または頻度の低減、症状および/または根本的な原因の除去、症状および/またはそれらの根本的な原因の発生の防止、ならびに/あるいは損傷の改善または救済を引き起こすことである。よって、本発明の化合物を用いて患者を「処置する」ことは、感受性のある個体での具体的な障害または有害な生理的事象の防止とともに、障害もしくは疾患を阻害するかまたは退行を引き起こすような臨床症状のある個体の管理を含む。処置は、予防、治療または治癒を含み得る。例えば、バイオフィルムの処置は、バイオフィルムの発生に感受性がある(例えば遺伝的素因、環境因子、素因となる疾患または障害などの結果としてより高い危険性にある)患者におけるバイオフィルムの形成の防止とともに、疾患を阻害するかまたは退行を引き起こすことによりバイオフィルムを有する患者を処置することを含む。
【0037】
用語「有効量」は、所望の処置結果が得られるのに十分な量のガリウムを提供するガリウム含有組成物の量のことである。有効量は、1または複数の投与量に含まれていてよく、すなわち、単回投与量または複数回投与量が、所望の治療結果を達成するために必要とされてよい。「治療有効量」は、所望の治療結果(例えばバイオフィルムの重篤さの低減またはバイオフィルムの除去)を生み出すのに十分なガリウム含有組成物の量のことである。「予防有効量」は、バイオフィルムに感受性があり、そして/またはバイオフィルムを発生し得る個体に投与したときに、将来のバイオフィルムを防止するかまたはその重篤さを低減するのに十分なガリウム含有組成物の量のことである。
【0038】
用語「制御放出」は、薬物の放出が即座ではない薬物含有製剤またはその画分のことであり、すなわち、「制御放出」製剤では、投与によって、薬物は吸収プールに即座に放出されない。この用語は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy、Nineteenth編(Easton, PA: Mack Publishing Company、1995年)で定義される「非即時放出」と交換可能に用いられる。一般に、本明細書で用いる場合、用語「制御放出」は、徐放性放出および遅延放出製剤を含む。
【0039】
「薬学的に許容される」により、生物学的にまたはそうでなく望ましくないのではない物質を意味し、すなわち、該物質は、いずれの著しい望ましくない生物学的影響を引き起こすことなく、またはそれが含有される組成物の任意の他の成分と有害な様式で相互作用することなく、患者に投与される医薬組成物中に組み込まれ得る。用語「薬学的に許容される」が薬学的な担体または賦形剤に言及するのに用いられる場合、該担体または賦形剤が、毒理学的および製造上の試験の必須の基準を満たしているか、またはそれが米国食品医薬品局により作製された不活性成分指針(Inactive Ingredient Guide)に含まれることを意味する。
【0040】
「個体」は、脊椎動物、典型的には哺乳類、通常、ヒトのことである。
【0041】
使用方法
バイオフィルム関連感染の処置を必要とする個体へのガリウム含有組成物の投与のための方法が提供される。本発明の方法は、バイオフィルム関連感染の予防、治療または治癒を含む。該方法は、治療有効量または予防有効量のガリウム含有組成物の1または複数の単位投与量の投与を含む。本発明の方法において、ガリウム含有組成物は、一般に、薬学的に許容される担体中で投与される。いくつかの実施形態において、該方法は、バイオフィルム関連院内感染の処置を含む。
【0042】
本発明の方法において、ガリウム含有組成物は、個体における既存のバイオフィルム関連感染の処置またはバイオフィルム関連感染の確立の防止のために、治療有効量または予防有効量で個体に投与される。いくつかの実施形態において、バイオフィルム関連感染の個体の別の部位への広がりが阻害される。種々の実施形態において、ガリウム含有組成物は、非経口、経口、局所または表面で投与してよい。
【0043】
ガリウム含有組成物は、単回1日投与量、または例えば2、3、4回以上の投与量の複数回投与量で1日当たりに投与してよい。一般に、ヒトに投与する場合、ガリウム含有組成物は、約2mg〜約800mgのガリウムの合計1日量を与えるように投与される。いくつかの実施形態において、投与されるガリウムの合計1日量は、約2mg〜約15mg、約8mg〜約40mg、約15mg〜約80mg、約40mg〜約160mg、約150mg〜約325mg、または約300mg〜約500mg、約500mg〜約700mg、または約600mg〜約800mgである。
【0044】
実際の用量は、投与されるガリウム化合物に応じて変動してよく、用量は、患者の体重の1キログラム当たり送達されるGa(III)の所定の用量を提供するように選択され得る。例えば、本発明のいくつかの方法は、約0.1〜約20mgのGa(III)/kg、しばしば約1〜約12mgのGa(III)/kgを提供するガリウム化合物を投与することを含んでよい。
【0045】
全身投与(例えば非経口、経口)を伴う本発明のいくつかの方法において、ガリウム含有組成物は、バイオフィルムの防止または治療のための治療または予防に有効な血清ガリウムレベルを提供するのに十分な量で個体に投与される。一実施形態において、ガリウム含有組成物は、投与の約24時間後に、少なくとも約10ng/mLのガリウム血清レベルをもたらす単位投与量で投与される。種々の実施形態において、投与の約24時間後のガリウムの治療または予防に有効な血清レベルは、少なくとも約10、25、50、100、200、500、1000、2000、3000、4000、5000、6000または7000ng/mLのいずれかである。治療または予防に有効な血清レベルは、典型的には、個体へのガリウム含有組成物の投与の約1、2、6、12、24、48または72時間後以内に達成される。
【0046】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、膀胱、腎臓、心臓、中耳、洞、皮膚、肺、関節、皮下組織、軟組織、血管組織および/または眼でのバイオフィルム関連感染の処置のための、必要とする個体への治療上有効なガリウム含有組成物の投与を含む。いくつかの実施形態において、バイオフィルム関連感染は、肺および/または皮膚以外の少なくとも1つの部位である。一実施形態において、ガリウム含有組成物の治療有効量は、バイオフィルム関連尿路感染の処置のために、必要とする個体に投与される。別の実施形態において、ガリウム含有組成物の治療有効量は、バイオフィルム関連慢性細菌性膣疾患の処置のために、必要とする個体に投与される。別の実施形態において、ガリウムの治療有効量は、バイオフィルム関連前立腺炎の処置のために、必要とする個体に投与される。別の実施形態において、ガリウムの治療有効量は、糖尿病性皮膚潰瘍のような糖尿病に由来するバイオフィルム関連細菌感染の処置のために、必要とする個体に投与される。別の実施形態において、ガリウムの治療有効量は、圧迫潰瘍の処置のために、必要とする個体に投与される。別の実施形態において、ガリウムの治療有効量は、バイオフィルム関連静脈カテーテル関連潰瘍の処置のために、必要とする個体に投与される。別の実施形態において、ガリウムの治療有効量は、バイオフィルム関連外科的創傷(例えば外科的部位感染)の処置のために、必要とする個体に投与される。
【0047】
一実施形態において、バイオフィルムは、嚢胞性線維症でない個体の肺に存在する。一実施形態において、バイオフィルムは、個体の肺に存在し、ここで、バイオフィルムはPseudomonas aeruginosaを含まない。本発明の方法により処置可能な肺感染の例は、限定されないが、肺放線菌症、Nocardia感染、肺膿瘍、伝染性細菌性気管支炎、および細菌性肺炎(例えばStreptococcus pneumoniae、H.influenzae、Klebsiella、Staphylococcus aureus、Legionella pneumophila、Escherichia coli、Pseudomonas、EnterobacterまたはSerratiaを含む)を含む。
【0048】
一実施形態において、バイオフィルムは、熱傷を含まない個体の皮膚に存在する。本発明の方法により処置可能な皮膚感染の例は、限定されないが、細菌性皮膚感染、川崎病、偽鬚髯毛嚢炎、サルコイドーシス、頭皮毛嚢炎、糖尿病性潰瘍および圧迫潰瘍を含む。一実施形態において、バイオフィルムは、深部組織創傷または外科的部位感染のような皮膚表面より下の皮下組織に存在する。
【0049】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、限定されないが、シプロフラキシン、アンピシリン、アジスロマイシン、セファロスポリン、ドキシサイクリン、フシジン酸、ゲンタマイシン、リネゾリド、レボフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、リファンピン、テトラサイクリン、トブラマイシン、バンコマイシン、アミカシン、デフタジジム、セフェピム、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、ピペラシリン/タゾバクタム、アズトレアナム、メロペネム、コリスチンまたはクロラムフェニコールを含む抗生物質の1または複数の単位投与量の投与をさらに含む。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、限定されないが、アミノグリコシド、カルバセフェム、カルバペネム、第一世代セファロスポリン、第二世代セファロスポリン、第三世代セファロスポリン、第四世代セファロスポリン、グリコペプチド、マクロライド、モノバクタム、ペニシリン、ポリペプチド、キノロン、スルホンアミド、テトラサイクリン、リンコサミドおよびオキサゾリジノンを含む抗生物質のクラスからの抗生物質の1または複数の単位投与量の投与を含む。
【0050】
ガリウム含有組成物と抗生物質とは、相乗的または相加的に作用して、バイオフィルム関連感染を処置してよい。ガリウム含有組成物と抗生物質とは、同じもしくは別個の組成物で同時に、または連続的に投与してよい。
【0051】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、限定されないが、セルトラリン、チオリダジンのラセミ体および立体異性体の形、過酸化ベンゾイル、タウロリジンおよびヘキシチジンを含む非抗生物質性抗菌性物質の1または複数の単位投与量の投与をさらに含む。ガリウム含有組成物と非抗生物質性抗菌性物質とは、相乗的または相加的に作用して、バイオフィルム関連感染を処置してよい。ガリウム含有組成物と非抗生物質性抗菌性物質とは、同じもしくは別個の組成物で同時に、または連続的に投与してよい。
【0052】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、口腔表面を、ガリウム含有組成物の治療有効量と接触させることを含む、個体における口腔関連バイオフィルムの処置を含む。本発明のいくつかの方法は、個体へのガリウム含有組成物の予防有効量の投与による口腔関連バイオフィルムの防止を含む。口腔関連バイオフィルムは、例えば、歯垢であり得、ガリウム含有組成物は、歯垢の処置または防止のために、練り歯磨きのような歯磨剤として処方されてよい。別の実施形態において、バイオフィルムは、舌、口腔粘膜または歯肉に存在してよい。いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、洗口剤として処方される。いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、例えばフッ素含有組成物中のペースト、フォーム、ゲルまたは歯科用バーニッシュとして処方される。いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、患者がフッ素処置のために数分間装着するマウスガードの形、または該マウスガードの中のゲルもしくはフォームである。
【0053】
本明細書に記載される方法において、2種以上のガリウム含有組成物を共投与してよい。いくつかの実施形態において、1または複数種のガリウム含有組成物は、例えば1または複数種の抗生物質、鉄キレート化剤、例えばデスフェリオキサミン(Olivieriら(1997年)Blood89巻(3号):739〜61頁)、またはクオラムセンシング薬物、例えばRNAIII阻害ペプチド(RIP)(Dell’ Acquaら(2004年)J Infect Dis190号:318〜20頁)のような1または複数種の治療上有益な物質と共投与してよい。
【0054】
ガリウム含有組成物
本明細書に記載される本発明の方法に従って、例えばガリウム(III)の配位錯体、ガリウム(III)の塩、塩以外のガリウム(III)の無機化合物またはタンパク質結合ガリウム(III)を含むガリウム含有組成物を投与できる。個体への投与のために、本明細書に記載されるガリウム含有組成物と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を投与してよい。
【0055】
ガリウム(III)配位錯体は、1または複数の配位子に配位したガリウム(III)中心を含む錯体である。ガリウム(III)の配位錯体は、限定されないが、N−ヘテロ環のガリウム(III)錯体(例えばトリス(8−キノリノラト)ガリウム(III))、3−ヒドロキシ−4−ピロンの中性3:1ガリウム錯体を含むヒドロキシピロンとのガリウム(III)錯体(例えばガリウムマルトレート)、ヒドロキシピリジノンまたは置換ヒドロキシピリジノンとのガリウム錯体、ガリウムポルフィリン(例えばガリウム(III)プロトポルフィリンIX)、ピリドキサルイソニコチノイルヒドラゾンガリウム(III)およびポリエーテル酸のガリウム塩錯体を含む。このような配位錯体は、限定されないが、3つの2座配位子または1つの3座配位子を含むものを含む。2座配位子は、2つの酸素、窒素または硫黄原子によりガリウム(III)中心にそれぞれ配位する。2つの配位原子は、同じまたは異なっていてよい。同様に、3座配位子は、3つの酸素、窒素または硫黄原子によりガリウム(III)中心に配位する。3つの配位原子は、同じまたは異なっていてよい。配位する配位子は、すべて同じであってよいか、または異なる配位子が混合していてよい。
【0056】
2座配位子は、例えば、非置換のヒドロキシピロン、または2−、5−および/もしくは6−位にてC〜Cアルキル基で置換されたヒドロキシピロンであってよい。特に、2座配位子は、3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン(マルトール)および3−ヒドロキシ−2−エチル−4−ピロン(エチルマルトール)のような2−置換または5−置換のヒドロキシピロンであり得る。2座配位子の他の例は、非置換のヒドロキシピリジノン、または2−、5−および/もしくは6−位にてC〜Cアルキル基で置換されたヒドロキシピリジノンである。3座配位子の例は、ピリドキサルイソニコチノイルヒドラゾンである。
【0057】
さらに、配位子は、式Ar−O−(式中、Arはアリール、ヘテロアリール、置換アリールまたは置換ヘテロアリール基である)のものであってよい。例えば、Ar基は、8−ヒドロキシキノリンのアニオンのように所望により置換されていてもよいヘテロアリール基であってよい。
【0058】
配位子は、構造R−(CO)−O−(式中、Rは、ヒドロカルビル、置換ヒドロカルビル、ヘテロ原子含有ヒドロカルビル、または置換ヘテロ原子含有ヒドロカルビルである)を有するカルボキシレート配位子から選択されてもよい。
【0059】
一実施形態において、本発明の方法に従って用いるために適するガリウム組成物は、例えばガリウムマルトレートのような3−ヒドロキシ−4−ピロンのガリウム錯体を含む。このような錯体の合成および該錯体の医薬製剤への調製は、例えば米国特許第5258376号、第5574027号、第5883088号、第5968922号、第5981518号、第5998397号、第6004951号、第6048851号、および第6087354号に記載されている。
【0060】
ガリウム塩は、無機塩および有機塩をともに含む。無機塩および関連する無機化合物の例は、限定されないが、塩化ガリウム、硝酸ガリウム、硫酸ガリウム、炭酸ガリウムおよびリン酸ガリウムを含む。これらの塩の水和および溶媒和された形も含まれる。有機塩の例は、限定されないが、酢酸ガリウム、クエン酸ガリウム、ギ酸ガリウム、ヒドロキサム酸ガリウム、シュウ酸ガリウム、グルタミン酸ガリウム、パルミチン酸ガリウム、および酒石酸ガリウムとともに、それらの水和および溶媒和された形を含む。ガリウム塩以外の無機ガリウム化合物の例は、酸化ガリウムおよび酸化水酸化ガリウムとともに、それらの水和および溶媒和された形である。
【0061】
本発明の方法に用いるために適する他の組成物は、結合したガリウムを含むペプチドおよびタンパク質を含む。このような組成物の例は、ガリウム−ラクトフェリンおよびガリウム−トランスフェリンを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は処置される種に由来する。いくつかの実施形態において、タンパク質結合ガリウム含有組成物は、1または複数の活性物質とコンジュゲートしている。このようなコンジュゲートの例は、ガリウム−トランスフェリン−ドキソルビシンコンジュゲートである。
【0062】
バイオフィルム
本明細書で用いる場合、「バイオフィルム」は、微生物と、内部もしくは外部の組織または器官のような表面への接着、ならびに表面でのコロニー形成および凝集物の増殖を促進する細胞外マトリクスとの凝集物のことである。バイオフィルムは、細菌、真菌、酵母、原生動物または他の微生物を含み得る。細菌バイオフィルムは、しばしばバイオフィルムで増殖していない同じ細菌よりも1000倍まで耐性がより大きい、抗生物質に対する高い耐性により典型的に特徴付けられる。
【0063】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、膀胱、腎臓、心臓、中耳、洞、肺、関節、眼のような内部の器官または組織、あるいは皮膚のような外部組織上のバイオフィルムの処置(防止を含む)を含む。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、歯、舌、口腔粘膜または歯肉のような口腔表面上のバイオフィルムの処置(防止を含む)を含む。本発明の方法は、軟組織感染、慢性副鼻腔炎、心内膜炎、骨髄炎、尿路感染、慢性細菌性膣疾患、歯垢もしくは口臭、細菌性角膜炎または前立腺炎のようなバイオフィルム関連状態の処置に用いてよい。
【0064】
細菌バイオフィルムは、グラム陽性およびグラム陰性の両方の細菌種により形成され得る。バイオフィルムを形成可能なグラム陽性細菌の例は、限定されないが、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermisのようなコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Streptococcus pyogenes(A群)、Streptococcus種(ビリダンス群)、Streptococcus agalactiae(B群)、S.bovis、Streptococcus(嫌気性種)、Streptococcus pneumoniae、およびEnterococcus種を含む。他のグラム陽性桿菌は、Bacillus anthracis、Corynebacterium diptheriaeおよびジフテロイドであるCorynebacterium種(好気性および嫌気性)、Listeria monocytogenes、Clostridium tetaniおよびClostridium difficileを含む。バイオフィルムを形成可能なグラム陰性細菌の例は、限定されないが、Escherichia coil、Enterobacter種、Proteus mirablisおよびその他の種、Pseudomonas aeruginosa、Klebsiella pneumoniae、Salmonella、Shigella、SerratiaおよびCampylobacterjejuni、Neisseria、Branhamella catarrhalis、ならびにPasteurellaを含む。
【0065】
バイオフィルムを形成可能な他の生物は、限定されないが、皮膚糸状菌(例えばMicrosporum canisのようなMicrosporum種、Trichophyton rubrumおよびTrichophyton mentagrophytesのようなTrichophyton種)、酵母(例えばCandida albicans、Candida parapsilosis、Candida glabrata、Candida tropicalis、および薬剤耐性Candida種を含むその他のCandida種)、Epidermophytonfloccosum、Malassezia fuurfur(Pityropsporon orbiculare、Pityropsporon ovale)、Cryptococcus neoformans、Aspergillus fumigatus、および他のAspergillus種、Zygomycetes(Rizopus、Mucor)、hyalohyphomycosis(Fusarium種)、Paracoccidiodes brasiliensis、Blastmyces dermatitides、Histoplasma capsulatum、Coccidiodes immitis、Sporothrix schenckii、およびBlastomycesを含む。
【0066】
投与の形態
本発明の方法に従うガリウム含有化合物の投与は、所望の治療または予防の効果、例えばバイオフィルムの低減、除去または防止を与える任意の経路により行ってよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、1または複数のガリウム含有組成物は、口腔関連バイオフィルムの治療または防止のための局所または表面での投与用に処方される。投与は、例えば歯、舌、口腔粘膜または歯肉のような口腔部位に行ってよい。いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、例えば練り歯磨き組成物のような歯磨剤として処方される。いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、洗口剤として処方される。いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物は、例えばフッ素含有組成物中のペイント、フォーム、ゲルまたは歯科用バーニッシュとして処方される。
【0068】
練り歯磨き組成物は、1または複数のガリウム含有組成物に加えて、1または複数の研磨剤(例えばアルミナ、含水シリカ、リン酸2カルシウム、塩、軽石、カオリン、ベントナイト、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム)、1または複数の齲食防止成分(例えばモノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、キシリトール)、1または複数の抗菌物質(例えばトリクロサン、サンギナリア抽出物、重曹、クエン酸亜鉛三水和物、ポリフェノール、フッ化スズ)、1または複数の歯石コントロール物質(例えばピロリン酸4ナトリウム、Gantrez S−70、3ポリリン酸ナトリウム)、唾液の抗菌特性を増強するための1または複数の酵素(例えばグルコースオキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼ、リゾチーム)、1または複数の除痛物質(例えば硝酸カリウム、塩化ストロンチウム、クエン酸ナトリウム)、1または複数の着色料、1または複数の洗浄剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、N−ラウリルサルコシン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、ステアリル乳酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム)、1または複数の香料(例えばミント、メントール、ペパーミント、スペアミント、シナモン、ウインターグリーン、ウイキョウ)、1または複数の湿潤剤(例えばソルビトール、ペンタトール(pentatol)、グリセロールグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水、キシリトール、PEG8(ポリオキシエチレングリコールエステル)、PPG(ポリオキシエチレンエーテル))、1または複数の増粘剤(例えばカラギーナン、セルロースガム、ザンサンガム、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、カルボポル、シリカ増粘剤、ケイ酸アルミニウムナトリウム、クレイ)、1または複数の保存剤(例えば安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン)、1または複数の甘味料(例えばサッカリンカルシウムまたはナトリウム、アスパルテーム)、水、1または複数の漂白剤(例えば過酸化物、シトロキサイン(citroxain)、二酸化チタン)、および/あるいは1または複数の有益な物質(例えば安定二酸化塩素、メラルーカ、インドセンダン、CPP−ACP)を所望により含有してよい。
【0069】
口内洗浄組成物は、1または複数のガリウム含有組成物に加えて、1または複数の抗菌化合物(例えば4級アンモニウム化合物、ホウ酸、安息香酸)、1または複数のフェノール系化合物、1または複数の香料(例えばサッカリンまたはグリセリン)、1または複数の収斂剤(例えば塩化亜鉛)、エチルアルコール(典型的には水中に18〜26%)、1または複数の緩衝剤、1または複数の齲食防止成分(例えばフッ化ナトリウム、フッ化スズ)、および/あるいは1または複数の歯垢防止成分(例えばクロルヘキシジン、重金属塩、サンギナリア)を所望により含有してよい。
【0070】
いくつかの実施形態において、1または複数のガリウム含有組成物は、細菌性角膜炎の治療または予防のために処方される。ガリウム含有組成物は、眼の点眼剤またはコンタクトレンズ洗浄もしくは湿潤液として処方してよい。一実施形態において、組成物は、眼の点眼剤により眼の表面に投与してよい。
【0071】
いくつかの実施形態において、1または複数のガリウム含有組成物は、ガリウム含有組成物の単位投与量と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物で投与される。例えば、投与は、経口または非経口(例えば静脈内、皮下、筋内、経皮、皮膚、経粘膜(頬側、経鼻、直腸、舌下および経膣を含む)、吸入により、または剤形での移植レザバーにより)であってよい。
【0072】
いくつかの実施形態において、例えばガリウム(III)の配位錯体、例えばガリウムマルトレートのようなガリウム含有組成物は、経口投与される。いくつかの実施形態において、配位錯体は、ガリウム(III)と3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロンとの錯体である。いくつかの実施形態において、この錯体は、1日当たり1回経口投与されて、例えば少なくとも約10、25、50、100、200、500、1000、2000、3000、4000、5000、6000または7000ng/mlの血清レベルのガリウムの治療または予防に有効な血清レベルを達成および維持する。
【0073】
意図する投与の形態に応じて、医薬製剤は、例えば錠剤、カプセル剤、カプレット、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、軟膏、坐剤、顆粒剤、ペレット、ビーズ、散剤などのような固体、半固体または液体、好ましくは正確な用量の単一投与に適する単位剤形であってよい。適切な医薬組成物および剤形は、医薬製剤の分野の当業者に知られ、かつ関係する参考書および文献、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy(Easton, PA: Mack Publishing Co.、1995年)に記載される従来の方法を用いて調製してよい。経口で活性なこれらの化合物について、錠剤、カプセル剤、カプレット、液剤、懸濁剤およびシロップ剤を含み、被包化されていてもいなくてもよい複数の顆粒剤、ビーズ、散剤またはペレットも含んでよい経口剤形が一般に好ましい。好ましい経口剤形は、錠剤およびカプセル剤である。
【0074】
錠剤は、標準的な錠剤加工方法および設備を用いて製造してよい。直接打錠および造粒法が好ましい。活性物質に加えて、錠剤は、一般に、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、充填剤、安定化剤、界面活性剤、着色料などの不活性で薬学的に許容される担体物質を含むであろう。結合剤は、錠剤に結合性を与えるために用いられ、よって、錠剤が損なわれないままであることを確実にする。適切な結合剤物質は、限定されないが、デンプン(トウモロコシデンプンおよびα化デンプンを含む)、ゼラチン、糖類(スクロース、グルコース、デキストロースおよびラクトースを含む)、ポリエチレングリコール、ろう、ならびに天然および合成のガム、例えばアカシア、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系ポリマー(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、微結晶性セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどを含む)、ならびにVeegumを含む。滑沢剤は、粉末の流動を進め、圧力を緩めたときに部分的なキャッピング(例えば部分的な破壊)を防止して錠剤の製造を促進するために用いられる。有用な滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムおよびステアリン酸である。崩壊剤は、錠剤の崩壊を促進するために用いられ、一般に、デンプン、クレイ、セルロース類、アルギン、ガム、または架橋ポリマーである。充填剤は、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、アルミナ、タルク、カオリン、粉末セルロース、微結晶性セルロースのような物質、ならびにマンニトール、尿素、スクロース、ラクトース、デキストロース、塩化ナトリウムおよびソルビトールのような可溶性物質を含む。これも当該技術において公知である安定剤は、例えば酸化反応を含む薬物分解反応を阻害または遅延させるために用いられる。
【0075】
カプセル剤も、好ましい経口剤形であり、この場合、活性物質含有組成物は、液体または固体の形(顆粒、ビーズ、粉末またはペレットのような粒子を含む)で被包化されていてよい。適切なカプセル剤は、硬カプセル剤または軟カプセル剤のいずれであってもよく、一般に、ゼラチン、デンプンまたはセルロース系材料で作られており、ゼラチンカプセルが好ましい。2ピースゼラチン硬カプセル剤は、例えばゼラチンバンドなどで密閉されるのが好ましい。例えば、被包化された医薬の調製のための材料および方法について記載しているRemington: The Science and Practice of Pharmacy、既出を参照されたい。
【0076】
錠剤、カプセル剤、カプレットまたは粒子のいずれの経口剤形は、所望により、長期間にわたって活性物質を徐々に持続して放出するように処方されてよい。一般に、当業者により認識されるように、徐放性放出剤形は、活性物質を、親水性ポリマーのような徐々に加水分解され得る物質のマトリクス内に分散させるか、またはこのような物質で固体の薬物含有剤形を被覆することにより処方される。徐放性放出被覆またはマトリクスを提供するために有用な親水性ポリマーは、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテート、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース系ポリマー;例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、および/またはメタクリル酸エチルのコポリマーのような好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルなどから形成されるアクリル酸ポリマーおよびコポリマー;ならびにポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、およびエチレン−酢酸ビニルコポリマーのようなビニルポリマーおよびコポリマーを含む。
【0077】
非経口投与用の本発明による製剤は、滅菌の水性および非水性液剤、懸濁剤および乳剤を含む。注射可能な水性の液剤は、水溶性の形の活性物質を含む。非水性溶媒またはビヒクルの例は、オリーブ油およびトウモロコシ油のような脂肪油、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドのような合成脂肪酸エステル、プロピレングリコールのような低分子量アルコール、ポリエチレングリコールのような合成親水性ポリマー、リポソームなどを含む。非経口製剤は、可溶化剤、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤および安定化剤のようなアジュバントも含んでよく、水性懸濁剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよびデキストランのような懸濁剤の粘度を増加させる物質を含有してよい。注射可能な製剤は、滅菌剤の混合、細菌保持フィルタを通してのろ過、照射または熱により滅菌にする。これらは、滅菌の注射可能な媒体を用いて製造することもできる。活性物質は、例えば凍結乾燥されたような乾燥した形であってもよく、これは、注射による投与の直前に適切なビヒクルを用いて再水和してよい。
【0078】
本発明の化合物は、皮膚に貼付される薬物送達デバイスとして働く積層構造内に活性物質が含有される、通常の経皮薬物送達系を用いて皮膚を通して投与してもよい。このような構造内では、薬物組成物は、上部の裏打ち層の下にある層または「レザバー」に含有される。積層構造は、単一のレザバーを含んでよいか、または複数のレザバーを含んでよい。一実施形態において、レザバーは、薬物送達の間に系を皮膚に貼付する働きをする薬学的に許容される接着剤のポリマーマトリクスを含む。あるいは、薬物含有レザバーと皮膚接着剤とは、分離された別々の層として存在して接着剤がレザバーの下にあり、この場合、レザバーは上記のようなポリマーマトリクスであってよいか、または液体もしくはハイドロゲルのレザバーであってよいか、または何か他の形をとってよい。経皮薬物送達系は、さらに、皮膚浸透増進剤を含んでよい。
【0079】
上記の製剤に加えて、化合物は、活性物質の制御放出、好ましくは長期間にわたる徐放性放出のためのデポー製剤に処方されてもよい。これらの徐放性放出剤形は、一般に、体内移植(例えば皮下もしくは筋内、または筋内注射により)により投与される。
【0080】
投与は、活性物質に加えて、坐剤用ろうのような賦形剤を含有する坐剤を好ましくは用いて、直腸または膣からであってよい。
【0081】
経鼻または舌下投与用の製剤は、当該分野において公知の標準的な賦形剤を用いても調製される。本発明の医薬組成物は、例えば塩水溶液、乾燥粉末またはエアロゾルとして吸入用に処方されてもよい。
【0082】
少なくとも1種の抗生物質と組み合わせたガリウムの投与
いくつかの実施形態において、上記のような1または複数種のガリウム含有組成物は、1または複数の抗生物質とともに投与される。ガリウム含有組成物は、抗生物質と同時、または連続的に投与してよい。同時投与のために、ガリウム含有組成物と抗生物質とは、同じまたは別個の医薬組成物で投与してよい。ガリウム含有組成物の1または複数の単位投与量、および抗生物質の1または複数の単位投与量は、本明細書に記載されるバイオフィルムの処置方法で投与してよい。
【0083】
本発明の方法で用いてよい抗生物質は、限定されないが、単独または組合せでのシプロフラキシン、アンピシリン、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、フシジン酸、ゲンタマイシン、リネゾリド、レボフラキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、リファンピン、テトラサイクリン、またはトブラマイシンを含む。2種以上の抗生物質を組み合わせて用いる場合、これらは同時または連続的に投与してよい。
【0084】
いくつかの実施形態において、ガリウム含有組成物および抗生物質は、相乗的に作用して、バイオフィルム関連感染を処置してよい。別の実施形態において、ガリウム含有組成物および抗生物質は、相加的に作用して、バイオフィルム関連感染を処置してよい。
【0085】
抗生物質は、例えばバイオフィルムの低減、除去または防止のような所望の治療または予防効果を与える任意の経路により、ガリウム含有組成物の投与とともに投与してよい。いくつかの実施形態において、抗生物質は、例えば筋内、静脈内、皮下、腹腔内、または鞘内のような非経口で投与される。いくつかの実施形態において、抗生物質は経口投与される。いくつかの実施形態において、抗生物質は、局所または表面に投与される。
【0086】
細菌性角膜炎
角膜上皮の破壊を創出する感染性細菌は、視力を脅かすプロセスである細菌性角膜炎の原因となり得る。無傷の上皮を貫通し得るいくつかの病毒細菌(例えばNeisseria gonorrhoeae)も、細菌性角膜炎の原因となり得る。
【0087】
細菌性角膜炎は、迅速に進行でき、完全な角膜の破壊は、より有毒な細菌のいくつかでは24〜48時間で生じ得る。角膜潰瘍、間質性膿瘍形成、包囲角膜浮腫および前上葉区炎症は、この疾患の特徴である。
【0088】
細菌性角膜炎の原因である最も一般的な細菌の群は、Streptococcus、Pseudomonas、Enterobacteriaceae(Klebsiella、Enterobacter、SerratiaおよびProteusを含む)およびStaphylococcus種である。真菌性角膜炎(特にカンジダ症)の症例の20%までは、細菌の同時感染により併発している。
【0089】
角膜上皮への外傷の最も一般的な原因および細菌性角膜炎への主要な危険因子は、コンタクトレンズ、特に長期装用コンタクトレンズの使用である。
【0090】
細菌性角膜炎に対する最近の標準的な治療は、広範囲の抗生物質を用いることから始まり、生物が見つからなければ、毎時間1滴の強化セファゾリン(50mg/ml)と交互に、毎時間1滴のトブラマイシン(14mg/ml)である。角膜潰瘍が小さく、重大でなく、切迫した穿孔が存在しない場合、フルオロキノロンを用いる集中的な単剤療法が、代替処置である。
【0091】
ガリウムマルトレートは、細菌の増殖の直接的な阻害、殺菌、および/またはバイオフィルムの破壊の促進により、細菌性角膜炎の処置に用い得る。バイオフィルムの被包は、標準的な抗生物質処置による感染の完全な根絶を妨げ、抗生物質治療が終了した後の感染の再発を導き得る。ガリウムマルトレートは、角膜バイオフィルムのマトリクスを破壊でき、よって、感染性細菌を抗生物質処置に対して感受性にする。
【0092】
点眼剤ならびにコンタクトレンズの洗浄および回復液は、視力を脅かす角膜感染を引き起こすことを避けるために、厳しい滅菌性の下で維持される必要がある。いくつかの異なる保存剤を用いて、点眼溶液中の微生物の増殖を抑制している。これらは、0.001%ポリヘキサニド、3%マイクロフィルタろ過過酸化水素、リン酸で安定化した過ホウ酸ナトリウム、および安息香酸ナトリウムを含む。頻繁には、これらの溶液は、多くの患者が保存剤に感受性であるので、保存剤を含まない。ガリウムマルトレートは、眼科用液剤中で保存剤として用いて、細菌の生存および増殖を妨げ得る。
【0093】
組成物
本発明は、バイオフィルムの処置(例えば予防、治療または治癒)、および/またはバイオフィルム関連感染の体内の別の部位への広がりの防止のための組成物を提供する。
【0094】
一実施形態において、本発明は、ガリウム含有組成物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であって、ガリウム含有組成物が、バイオフィルムを処置する治療有効量またはバイオフィルムの形成を妨げる予防有効量である組成物を提供する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、ガリウム含有組成物と相乗的または相加的に作用して、現存するバイオフィルムを処置し、バイオフィルムの形成を妨げ、またはバイオフィルム関連感染の体内の別の部位への広がりを妨げるのに有効な量で、抗生物質または非抗生物質性抗菌物質をさらに含む。
【0095】
別の実施形態において、本発明は、例えば歯、舌、口腔粘膜または歯肉上の口腔関連バイオフィルムの治療または防止のための組成物を提供する。いくつかの実施形態において、組成物は、例えば練り歯磨きのような歯磨剤として処方されたガリウム含有組成物を含む。別の実施形態において、組成物は、洗口剤として処方されたガリウム含有組成物を含む。別の実施形態において、組成物は、歯科用のペイント、フォーム、ゲルまたは歯科用バーニッシュ、例えばフッ素処置用の組成物として処方されたガリウム含有組成物を含む。
【0096】
別の実施形態において、本発明は、細菌性角膜炎の処置または予防用の組成物を提供する。いくつかの実施形態において、組成物は、眼の点眼剤として処方されたガリウム含有組成物を含む。
【0097】
別の実施形態において、本発明は、溶液中の細菌の増殖および/またはバイオフィルムの形成を防止するための、保存剤および/または抗バイオフィルム剤としてガリウムを含有するコンタクトレンズ液を提供する。
【0098】
キット
本発明は、本明細書に記載されるような、バイオフィルムの処置(例えば予防、治療または治癒)、および/またはバイオフィルム関連感染の体内の別の部位への広がりの防止の方法に用いるためのキットを提供する。いくつかの実施形態において、キットは、医薬組成物として一般に処方されるガリウム含有組成物を含む。キットは、抗生物質を所望により含有してもよい。いくつかの実施形態において、キットは、歯磨剤(例えば練り歯磨き)、チューインガム、もしくは洗口剤組成物、またはフッ素処置用のフッ素含有組成物の中のゲル、フォーム、ペイントもしくは歯科用バーニッシュのような口腔関連バイオフィルムの処置用のガリウム含有組成物を含む。いくつかの実施形態において、キットは、眼の点眼剤またはコンタクトレンズ液のような細菌性角膜炎の処置用のガリウム含有組成物を含む。いくつかの実施形態において、キットは、ガリウムが保存剤として提供されて、溶液中の細菌の増殖および/またはバイオフィルム形成を妨げるガリウム含有コンタクトレンズ液を含む。健康管理提供者、患者または消費者に、本明細書に記載される方法に従うバイオフィルムの処置用のガリウム含有組成物の使用に関する情報を与える指示書が含まれてよい。指示書は、印刷物の形、またはフロッピー(登録商標)ディスク、CDもしくはDVDのような電子媒体の形、またはそのような指示書を得ることができるウェブサイトのアドレスの形で提供してよい。
【0099】
適切なパッケージが与えられる。本明細書で用いる場合、「パッケージ」は、慣習的に系の中で用いられ、固定された範囲内に、個体への投与に適するガリウム含有組成物を保持できる固体のマトリクスまたは物質のことである。このような物質は、ガラスおよびプラスチック(例えばポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリカーボネート)の瓶、バイアル、紙、プラスチックおよびプラスチックホイルの積層エンベロープなどを含む。e−ビーム滅菌法を用いる場合、パッケージは、内容物の滅菌を可能にするように十分に低密度であるべきである。
【0100】
いくつかの実施形態において、キットは、それぞれがガリウム含有組成物の単位用量と薬学的に許容される担体との剤形に処方されたガリウム含有組成物であって、単位用量が個体のバイオフィルムを処置するために十分なガリウムの治療有効量または予防有効量を提供する組成物を含有する。剤形は、所望により、別々に密閉されて、個別に移動可能であってよい。キットは、薬学的に許容される担体と抗生物質または非抗生物質性抗菌物質の単位用量をそれぞれが含む1または複数の剤形であって、単位用量が、本明細書に記載されるガリウム含有組成物の投与とともに個体におけるバイオフィルムの処置に十分な抗生物質の治療有効量または予防有効量を提供し、抗生物質または非抗生物質性抗菌物質が、所望によりガリウム含有組成物と相乗的または相加的に作用してバイオフィルムを処置する剤形に所望により処方された、少なくとも1種の抗生物質または非抗生物質性抗菌物質を所望によりさらに含んでよい。いくつかの実施形態において、キット内のガリウム含有組成物は、経口活性な形であり、薬学的に許容される担体は、経口薬物送達に適し、かつキットは、バイオフィルム関連感染を処置するのに効果的な様式で剤形を経口投与することを記載した指示書を含む。
【0101】
以下の実施例は、本発明を説明することを意図するが、限定することを意図しない。
【実施例】
【0102】
(実施例1)
マウスでのPseudomonas aeruginosaバイオフィルム関連尿路感染(UTI)でのガリウムマルトレートの効力
CF−1雌性マウスでのPseudomonas aeruginosa Xen5(10CFU/カテーテル)によるカテーテル関連UTIを、Kadurugamuwaら(2005年)Infection and Immunity73巻(7号):3878〜87頁に記載されるようにして、確立した。ガリウムマルトレート(GaM)は、単独でまたはシプロフロキサシン(cipro)と組み合わせて、P.aeruginosaによる尿路感染(UTI)に対する効力について、Xenogen IVIS(登録商標)Imaging Systemを用いる感染のリアルタイムモニタリングを可能にするCF−1雌性マウスUTIモデルで工学的に改変された生物発光P.aeruginosaを用いて評価した。
【0103】
P.aeruginosa(10コロニー形成単位(CFU)/カテーテル)でのカテーテル関連UTIをマウスにおいて確立し、感染の2日後に、4日連続でGaM単独;またはcipro単独で;またはGaMとciproと組み合わせて処置した。処置の第2サイクルを、第9〜11日に開始し、研究を第21日に終了した。対照として、塩水で処置した未感染および感染動物を含めた。
【0104】
米国薬局方シプロフロキサシン(メリーランド州ロックヴィル)、およびガリウムマルトレートを、経口強制栄養により投与した。シプロフロキサシンは、水0.2mLで与え、ガリウムマルトレートは、1%カルボキシメチルセルロースを含む水0.2mLで与えた。動物の第2群は、感染カテーテルを移植され、塩水で処置された未処置の感染対照群とした。別の対照群では、動物に滅菌カテーテルを移植し、陰性対照とした。
【0105】
カテーテル関連感染の動物の処置は、表1に示すように、細菌攻撃の2日後に開始した。
【0106】
【表1】

治療物質は、最初の4日間の処置の停止の4日後に、3日連続で再投与した。試験した最高用量のガリウムマルトレートで処置した動物を図1に示す。
【0107】
予めコロニーを形成させたカテーテルを入れた後のマウスの膀胱で記録された生物発光シグナルは、移植の1日後に約10光子/秒に達した(図1)。未処置の対照群と比較すると、シプロフロキサシンで処置した動物は、処置の4日後にはほぼ検出不可能なレベルまで生物発光シグナルが迅速に低下した。しかし、シプロフロキサシン処置の停止の約2日後には生物発光シグナル強度が増加し始め、このことは、抗生物質治療の停止による感染の再確立を示す。興味深いことに、初期治療の停止の2日後に抗生物質を3日間連続で再投与すると、以前に示されたように、生物発光シグナルの低下が反復された(Kadurugamuwaら(2005年)Infection and Immunity73巻(7号): 3878〜87頁)。しかし、このひとしきりのシプロフロキサシン処置の停止のすぐ後に、感染は再び確立され、ほぼ未処置のレベルに達し、このことは、この一団での細菌の著しい再増殖を示唆する。
【0108】
300mg/kgのガリウムマルトレートでの処置の後の生物発光シグナルの低減も観察された。シグナル強度は、未感染群のレベルには決して達しなかったが、シグナルは、第21日の実験終了まで、約10光子/カテーテルで低いレベルのままであった。シプロフロキサシン処置群とは異なって、低レベルのシグナルは、ガリウムマルトレート投与の停止後でさえ、決して著しく増加せず、このことは、高レベルの感染の再発がこの群の動物では生じなかったことを示唆する。未処置対照群に比較して、30および100mg/kgの用量でのガリウムマルトレートも、抗菌成長活性を示した(表2)。
【0109】
【表2】

興味深いことに、感染した動物を高い用量(300mg/kg)のガリウムマルトレートおよびシプロフロキサシンで処置した場合、生物発光シグナルの迅速な低下が観察された(図1および2ならびに表2)。併用処置は、処置の4日後に検出不可能なレベルまで生物発光の低減をもたらした。このガリウムマルトレートの用量は、経口供給されたマウスにおいて有害事象を生じず、このことはこの薬剤の許容性を示唆した。重要なことには、シプロフロキサシンを単独で与えられた群で観察された感染の再発は、ガリウムマルトレートとの組み合わせて抗生物質を与えたときには観察されず、このことは、慢性感染の根絶におけるガリウムマルトレートとシプロフロキサシンとの相乗作用を示す。
【0110】
【表3】

顕著なことに、ガリウムマルトレート単独でおよびシプロフロキサシンと組み合わせて投与された動物は、研究の終了時に、試験したすべての用量で腎臓感染がなかった(表3)。このことは、初感染部位からの病原菌の広がりを抑制するというガリウムの付加的な役割を示し得る。未処置の感染群での生物発光シグナルは、初期は安定したままであったが、感染の10日後に、対数で約半分程度減少した。このシグナル強度の減少は、強いシグナルを有する感染動物の死亡による。しかし、数日後には、生存している動物における感染の重篤度が増加したので、シグナル強度は回復した(図1)。
【0111】
【表4】

薬物動態学
雌性成体CF−1マウス(初期体重範囲32〜39グラム)を、30および300mg/kgのガリウムマルトレートで、経口強制栄養q.d.により4日連続で処置した。どちらの用量も、同じ容量の薬物溶液で、すなわち1%カルボキシメチルセルロース中の2.5および25mg/mLガリウムマルトレート480μLを投与した。血液を、最終投与後の以下の時点で採取した:0、0.5、1、3、6、9、12、24、33および48時間。「0」時点に採取された血液は、投与後直ちに採取した。血液試料を、計画した時点の+/−5%内に回収した。全血(500〜1000μL)を、心臓穿刺により単独のマウスから採取し、各用量群について時点ごとに4匹のマウスを犠牲にした。血液回収後に、検体を室温に維持して血餅形成を可能にし、続いて、遠心分離を行って血清を得た。血清100μL中のガリウム濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)により決定した。
【0112】
重み付き線形回帰分析校正曲線を確立して品質管理分析により確認した後に、試料中の血清ガリウム濃度を測定し、結果をプロットした。
【0113】
どちらの用量でも、血清ガリウム濃度は、投与後半時間以内にピークに達し、48時間の評価期間にわたって徐々に減少し、消滅の初期半減期は8〜12時間であった。薬物動態学的分析の結果を、図3に示す。
【0114】
Pseudomonas aeruginosaバイオフィルムを有する外植されたカテーテルの長手方向切片の走査型電子顕微鏡分析
最終投与から10日後の第21日に、以下の群::未処置の対照、30mg/kg GaM、100mg/kg GaM、300mg/kg GaM、30mg/kg Cipro、30mg/kg GaM+30mg/kg Cipro、および100mg/kg GaM+30mg/kg Ciproからの1つのカテーテルをPBSで洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド固定液中に室温にて一晩入れ、次いで、走査型電子顕微鏡(SEM)分析に送った。結果を、図4に示す。
【0115】
未処置の細菌は、対照のカテーテル横断切片において、ポリマーマトリクスに埋伏された短い棒のように見える。予期せぬことに、ガリウムマルトレート処置群からのカテーテルにおける細菌の形態学的外見は、試験した最低濃度でさえも、フィラメント様に見える。細菌バイオフィルム構造の細胞形態の驚くべき変化と、それに関連するバイオフィルム内の細胞外ポリマー物質の減少は、ガリウムマルトレートの処置濃度の増加と関連するようである。
【0116】
シプロフロキサシンでの処置は、細菌の短い棒状の形態を変化させないようであった。細菌細胞は、未処置の対照群で見られるように、ポリマーマトリクスにしっかりと埋伏されているようである。
【0117】
ガリウムマルトレートとシプロフロキサシンとの併用処置は、細菌の伸長された棒およびフィラメント様細菌をもたらした。未処置群またはシプロフロキサシン処置群に見られる密に詰め込まれたバイオフィルムマトリクスは、シプロフロキサシンをガリウムマルトレートと組み合わせたときに密度がより少ないようである。
【0118】
これらの走査型電子顕微鏡写真での細菌の形態およびバイオフィルム構造に対するガリウムの効果は、ガリウムマルトレートでの最終処置の10日後に観察されたが、このことは、これらの顕著な効果が、血清ガリウムが洗い出された後もよく持続したことを示すことが注目される。
【0119】
上記の本発明は、理解を明確にする目的で説明および実施例によりいくらか詳細に記載されているが、本発明の意図および範囲を逸脱することなく、いくらかの変更および改変を行ってよいことが、当業者に理解される。よって、記載は、添付の特許請求の範囲に示される本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0120】
本明細書に引用されるすべての出版物、特許および特許出願は、それぞれ個別の出版物、特許または特許出願が、参照により援用されると具体的かつ個別に示されているかのように、すべての目的のためにかつ同じ程度でそのすべてが参照により本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、P.aeruginosa Xen5 UTIマウスモデルにおけるガリウムマルトレート(300mg/kg)およびシプロフロキサシンの影響のバイオフォトニックモニタリングを示す。カテーテル内の生存数は、マウスの膀胱からカテーテルを回収した直後に決定し、図の右側に示す(図の上部の塗りつぶした印について記載する処置に対応する白抜きの印)。
【図2】図2は、P.aeruginosa Xen5 UTIマウスモデルにおけるガリウムマルトレート(300mg/kg)およびシプロフロキサシンの影響のリアルタイムモニタリングを示す。各群からの代表の動物を示す。
【図3】図3は、雌性CF−1マウスでのガリウムマルトレート投与についての薬物動態学的データを示す。
【図4】図4は、Pseudomonas aeruginosaバイオフィルムを有する外植されたカテーテルの長手方向切片の走査型電子顕微鏡分析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフィルムの処置を必要とする個体においてバイオフィルムを処置するための方法であって、該個体に治療有効量のガリウム含有組成物を投与することを含み、該バイオフィルムが、膀胱、腎臓、心臓、中耳、洞、皮膚、関節、皮下組織、軟組織、血管組織および眼からなる群から選択される少なくとも1つの部位にある方法。
【請求項2】
前記バイオフィルムが、バイオフィルム関連尿路感染に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個体の別の部位への前記バイオフィルム関連感染の広がりが阻害される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオフィルムが、少なくとも1種のグラム陰性細菌種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオフィルムが、Pseudomonas aeruginosa、Branhamella、Campylobacteria、Escherichia coli、Enterobacteria、Pasteurella、Proteus、Klebsiella、Neisseria、Salmonella、ShigellaまたはSerratiaを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオフィルムが、少なくとも1種のグラム陽性細菌種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオフィルムが、Bacillus、Corynebacteria、Clostridium、Enterococcus、Listeria、StaphylococcusまたはStreptococcusを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記個体に抗生物質を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抗生物質が、シプロフラキシン、アンピシリン、アジスロマイシン、セファロスポリン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、レボフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、テトラサイクリン、トブラマイシン、バンコマイシン、アミカシン、デフタジジム、セフェピム、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、ピペラシリン/タゾバクタム、アズトレアナム、メロペネム、コリスチンおよびクロラムフェニコールからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ガリウム含有組成物と前記抗生物質とが相乗的に作用して前記バイオフィルムを処置する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ガリウム含有組成物と前記抗生物質とが相加的に作用して前記バイオフィルムを処置する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記ガリウム含有組成物が、各ヒドロキシピロン分子が置換されていないか、または1、2もしくは3つのC〜Cアルキル置換基で置換されている、中性の3:1(ヒドロキシピロン:ガリウム)錯体の形の配位錯体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
各ヒドロキシピロン分子が、3−ヒドロキシ−4−ピロン、3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン、3−ヒドロキシ−2−エチル−4−ピロンおよび3−ヒドロキシ−6−メチル−4−ピロンからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
各ヒドロキシピロン分子が3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ガリウム含有組成物が非経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記ガリウム含有組成物が経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ガリウム含有組成物が局所投与または表面投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記ガリウム含有組成物が、眼の点眼剤として前記眼に局所投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記バイオフィルムが慢性細菌性膣疾患に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記バイオフィルムが細菌性角膜炎に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ガリウム含有組成物と前記抗生物質とが、同時に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項22】
前記ガリウム含有組成物と前記抗生物質とが、連続的に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項23】
個体において口腔関連バイオフィルムを処置するための方法であって、口腔表面を、治療有効量のガリウム含有組成物と接触させることを含む方法。
【請求項24】
予防有効量の前記ガリウム含有組成物を投与することにより、前記個体でのバイオフィルムの形成を防止することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記口腔関連バイオフィルムが、歯に存在する歯垢である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ガリウム含有組成物が、歯磨剤として処方される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記歯磨剤が練り歯磨き組成物である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記バイオフィルムが、舌、口腔粘膜または歯肉に存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記ガリウム含有組成物が、洗口剤、チューインガム、ペイント、フォーム、ゲルまたは歯科用バーニッシュとして処方される、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記ガリウム含有組成物が、各ヒドロキシピロン分子が置換されていないか、または1、2もしくは3つのC〜Cアルキル置換基で置換されている、中性の3:1(ヒドロキシピロン:ガリウム)錯体の形の配位錯体を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
各ヒドロキシピロン分子が、3−ヒドロキシ−4−ピロン、3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン、3−ヒドロキシ−2−エチル−4−ピロンおよび3−ヒドロキシ−6−メチル−4−ピロンからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
各ヒドロキシピロン分子が3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロンである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記個体の別の部位への前記バイオフィルムの広がりが阻害される、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
表面口腔投与用に処方されたガリウム含有組成物であって、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、ペイント、フォーム、ゲルまたは歯科用バーニッシュとして処方されている、ガリウム含有組成物。
【請求項35】
眼への表面投与用の眼科用液剤として処方されているガリウム含有組成物。
【請求項36】
請求項34に記載の組成物と、口腔関連バイオフィルムを処置または予防するための方法において用いるための指示書とを備える、キット。
【請求項37】
請求項1に記載の方法で用いるためのキットであって、ガリウム含有組成物と、バイオフィルムを処置するための方法で用いるための指示書とを備える、キット。
【請求項38】
抗生物質をさらに備える、請求項37に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−525284(P2009−525284A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552508(P2008−552508)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/002674
【国際公開番号】WO2007/087461
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(502197932)タイタン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (8)
【出願人】(508228706)
【Fターム(参考)】