説明

バイオマスの加水分解方法および加水分解装置

【課題】過分解物の生成を抑制するとともに、糖化率の増加を図ることのできる加圧熱水によるバイオマスの加水分解法および加水分解装置を提供すること。
【解決手段】加水分解装置100は、第一の加水分解装置110と第二の加水分解装置120とを備えている。第一の加水分解装置110は、バイオマスが投入される原料槽10と、加水分解(糖化)処理を行う糖化槽20と、加水分解後の水可溶分を回収する受器30と、加水分解後の残渣を回収する固液分離槽40と、を備えている。糖化槽20は、バイオマス含有水スラリーが流入する流入口と、この流入口とは反対側に設けられ、加水分解後の残渣が流出される出口と、この出口側に設けられたフィルター21と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧熱水によるバイオマスの加水分解方法および加水分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化防止の観点から再生可能エネルギーであるバイオマスの活用が注目されている。特に、バイオエタノールの利用に関しては関心が高まっている。
バイオエタノール(バイオマスエタノールとも言う)の製造方法としては、従来デンプンから製造する方法が中心であったが、デンプン系バイオマスの資源量および穀物価格への影響から、最近ではセルロース系バイオマスからエタノールを製造する方法の開発が進められている。セルロース系バイオマスからエタノールを製造する方法としては、セルロース系バイオマスを加水分解(糖化)することで、従来の発酵エタノール法を活用することができる。したがって、セルロース系バイオマスの加水分解(糖化)技術の開発が重要となる。
【0003】
バイオマスの加水分解(糖化)技術として、硫酸中で加水分解を行う方法が提案されているが、エタノールを得る迄に硫酸を除去、中和するなどの複雑な工程になってしまう。また、硫酸を使用するために反応器の腐食や廃液処理の問題もある。
また、超臨界水または亜臨界水を用いてバイオマスを糖化する技術も検討されているが、単糖(ヘキソース、ペントース)が二次分解してしまい、発酵阻害物質が生成(沖野ら、“次世代バイオエタノール生産プロセスの開発” 、触媒,49(4), 271-275, (2007)参照)したり、糖収率が低下するという問題がある。
そこで、処理温度を低下させ過分解物の生成を抑制し、且つ糖収率の増加を図る手段として処理温度を低下させた加圧熱水による糖化処理が特許文献1および非特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1には、セルロース粉末を充填させた糖化槽に加圧熱水を流すことにより水溶性オリゴ糖類を得る技術が記載されている。
また、非特許文献1には、原料であるコーンストーバーを加圧熱水に接触させることにより、ヘミセルロースからキシロオリゴ糖を得る方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3041380号
【非特許文献1】Bioresource Technology,96,1986-1993(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バイオエタノールの原料として用いられるセルロース系バイオマスには、セルロース以外にもヘミセルロースが含まれており、これらは結晶性の違いから糖化に最適な温度が異なっている。したがって、特許文献1または非特許文献1のような構成では、セルロース系バイオマスの糖化において十分な糖収率を得ることができない。
【0007】
本発明の目的は、過分解物の生成を抑制するとともに、糖化率の増加を図ることのできる加圧熱水によるバイオマスの加水分解法および加水分解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のバイオマスの加水分解方法は、加圧熱水で行うバイオマスの加水分解方法であって、加水分解反応が行われる糖化槽から、加水分解反応により得られた水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を、選択的に逐次抽出することを特徴とする。
【0009】
この発明では、糖化槽内でバイオマスの加水分解反応が進行中の間も、加水分解により得られた水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を糖化槽から逐次抽出している。これにより、単糖の過分解を抑えて水可溶性オリゴ糖および/又は単糖(以下、水可溶性オリゴ糖等と呼ぶこともある)を回収することができ、収率が向上する。一方、糖化槽に残存している水スラリーは加水分解反応する時間が長くなるので、より確実に加水分解され、糖収率が向上する。
【0010】
本発明のバイオマスの加水分解方法において、前記糖化槽内に設けられた無機分離膜で水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を選択的に逐次抽出することが好ましい。
この本発明では、糖化槽内に無機分離膜が設けられ、糖化槽内の加水分解反応により生成した水可溶性オリゴ糖等は無機分離膜を透過する。したがって、水可溶性オリゴ糖等を選択的に抽出することができ、糖収率の向上を図ることができる。
【0011】
本発明のバイオマスの加水分解方法において、前記糖化槽の出口に設けられた固液分離槽で水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を分離することが好ましい。
この発明では、糖化槽で加水分解反応されなかった重質分が固液分離槽に導入され、固体と液体とに分離される。液体中には水可溶性オリゴ糖等が溶け込んでいるので液体を回収することにより、糖収率がさらに向上する。
【0012】
本発明のバイオマスの加水分解方法において、前記加水分解反応は、少なくとも2段の前記糖化槽で行われ、加水分解反応後に前記糖化槽に残った重質分が次の糖化槽へ連続的に導入されることが好ましい。
この発明では、少なくとも2段の糖化槽にて、少なくとも2回の加水分解を行う。したがって、1回の処理で加水分解されなかった重質分を再度糖化槽に導入することにより、確実に加水分解することができる。すなわち、糖収率が向上する。
【0013】
本発明のバイオマスの加水分解方法において、前記バイオマスは、セルロース系バイオマスであることが好ましい。また、1段目の前記糖化槽の加圧熱水は、150℃以上220℃以下の温度であり、2段目以降の少なくとも1段の前記糖化槽の加圧熱水は、220℃以上300℃以下の温度であることが好ましい。
【0014】
セルロースには、ヘミセルロースとセルロースとが含まれており、これらの加水分解温度はそれぞれ異なっている。
この発明によれば、1段目の糖化槽では、加圧熱水の温度150℃以上220℃以下で加水分解反応を行う。ここでは主にヘミセルロースが分解される。また、2段目以降の少なくとも1段の糖化槽では、加圧熱水の温度220℃以上300℃以下で加水分解を行う。ここでは主にセルロースが分解される。
このように、各物質が分解されるのに最適な温度でそれぞれ加水分解を行うので、各物質が確実に分解され、また、過分解物の生成を抑制することができる。また、加水分解されにくい重質分が再度糖化槽に導入されることにより、加水分解される可能性が高くなり、糖収率が向上する。
【0015】
本発明のバイオマスの加水分解方法において、最終段の糖化槽出口からの重質分は80℃以下に冷却されることが好ましい。
この発明によれば、オリゴ糖等の過分解を抑制すると共に、排熱からのエネルギー回収を図ることができる。また、最終段の糖化槽からの重質分が80℃を超えると、後段の酵素による糖化や発酵に障害を与えるおそれがある。
【0016】
本発明のバイオマスの加水分解方法において、前記加圧熱水の圧力は、前記糖化槽内の飽和水蒸気圧以上であることが好ましい。また、バイオマスに対する体積基準のスラリー液空間速度(LHSV:Liquid Hourly Space Velocity)は、0.5/hr以上60/hr以下であることが好ましい。さらに好ましくは、1/hr以上10/hr以下である。
このような条件下で加水分解反応を行うので、加水分解反応がより促進され、糖収率の向上を図ることができる。
【0017】
本発明のバイオマスの加水分解方法において、前記糖化槽内に充填された固体酸触媒を用いて加水分解することが好ましい。
固体酸触媒を使用することにより、糖化槽内の加水分解反応がより促進される。したがって、低圧低温であっても糖収率が高いため、糖収率の向上とともにエネルギーの低減を図ることができる。
なお、固体酸触媒としては、例えば、ゼオライトやアルミナ等を使用することができる。
【0018】
本発明のバイオマスの加水分解方法において、加水分解反応後に得られた水可溶性オリゴ糖および/又は残渣に酵素を作用させることが好ましい。
この発明では、バイオマスの加水分解の後に残った残渣に酵素を作用させる。これにより、残渣を単糖にまで分解することができ、総合的な糖収率を向上させることができる。
なお、酵素としては、例えば、セルロースについてはセルラーゼを使用することができる。
【0019】
本発明のバイオマスの加水分解装置は、加圧熱水を用いたバイオマスの加水分解を行う糖化槽と、前記糖化槽で加水分解された水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を透過する無機分離膜と、前記糖化槽で加水分解後に残った重質分を分離する固液分離槽と、を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、糖化槽でバイオマスの加水分解反応が進み、この加水分解反応で得られた水可溶性オリゴ糖等が糖化槽内に設けられた無機分離膜により抽出され、糖化槽内に残った残渣は固液分離槽によりさらに分離され、さらに水可溶性オリゴ糖等を回収することができる。したがって、糖収率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[加水分解装置の構成]
図1は、本発明のバイオマスの加水分解方法における一実施形態の加水分解装置の概略図である。
図1に示すように、本実施形態の加水分解装置100は、第一の加水分解装置110と第二の加水分解装置120とを備えている。
【0021】
第一の加水分解装置110は、原料が投入される原料槽10と、原料槽10から導入された水スラリーの加水分解(糖化)処理を行う糖化槽20と、糖化槽20の加水分解反応により得られた水可溶性オリゴ糖等を回収する受器30と、糖化槽20の加水分解反応の残渣を回収する固液分離槽40と、を備えている。
原料槽10と糖化槽20とは流路91によって接続され、原料槽10の水スラリーが流路91を通って糖化槽20へ導入される。流路91上には、原料槽10の水スラリーを糖化槽20へ押し出すポンプ15と、流路91内を流れる水スラリーの温度を調整する加熱器16とが設けられている。
【0022】
また、糖化槽20と受器30とは流路92によって接続され、糖化槽20で抽出された水可溶性オリゴ糖等が流路92を通って受器30へ回収される。流路92上には、糖化槽20から抽出した水可溶性オリゴ糖等を冷却する冷却器25と、糖化槽20内のフィルター21からの抜き出し圧力を調整する圧力調整弁26が設けられている。
さらに、糖化槽20と固液分離槽40とは流路93によって接続され、糖化槽20の加水分解反応後の残渣が固液分離槽40へ導入される。流路93上には、糖化槽20の加水分解反応後の残渣を冷却する冷却器27と、糖化槽20内の圧力を調整する圧力調整弁28が設けられている。
そして、固液分離槽40と受器30とは流路94によって接続されている。
【0023】
原料槽10に投入する原料としては、セルロース系バイオマス(またはリグノセルロースともいう)を用いる。具体的には、スギ、ブナ等の木質系や、稲わら、コーンストーバ等の草本系の素材である。
【0024】
原料槽10は、原料であるリグノセルロース含有水スラリーを生成する槽である。リグノセルロースの配合量は、ポンプの仕様、能力が適う限り、スラリー濃度を高くした方が好ましい。これにより、水の加熱が不要になるため、省エネルギーとなる傾向がある。
【0025】
糖化槽20は、リグノセルロース含有水スラリーを加水分解(糖化)する槽である。糖化槽20は、リグノセルロース含有水スラリーが流入する流入口20Aと、この流入口20Aとは反対側に設けられ、加水分解後の残渣が流出される出口20Bと、この出口20B側に設けられたフィルター21と、フィルター21を透過した水可溶性オリゴ糖等を流出させるための流出口20Cと、を備えている。
フィルター21は金属または焼結金属等の無機分離膜であり、水可溶性オリゴ糖等を選択的に透過させる。
【0026】
受器30は、糖化槽20内のフィルター21を透過した水可溶性オリゴ糖等を回収する。固液分離槽40は、糖化槽20内で加水分解反応した後の残渣を固体と液体とに分離する。
固液分離槽40で分離された液体分は流路94を通って前述の受器30に回収され、固体となった重質分は第二の加水分解装置120へ導入される。
【0027】
流路91上に設けられたポンプ15は、原料槽10のリグノセルロース含有水スラリーを糖化槽20に導入する。また、同じく流路91上に設けられた加熱器16は、糖化槽20に導入されるリグノセルロース含有水スラリーの温度を調整する。さらに、圧力調整弁26および28は、糖化槽20内のフィルター21からの抜き出し圧と糖化槽内20の圧力をおのおの調整する。
ポンプ15、加熱器16、圧力調整弁26および28は、糖化槽20内が以下の条件を満たすように適宜調製される。
【0028】
温度は、150℃以上220℃以下、好ましくは150℃以上200℃以下である。温度が150℃未満であると加水分解反応が遅くなり、糖収率が低くなってしまい実用的でない。一方、220℃を超えると、過分解が増加して全体の糖収率を低下させる恐れがある。
【0029】
圧力は、糖化槽20内が飽和水蒸気圧以上となるように圧力調整弁26または28により調整する。上記温度範囲では、例えば、0.5MPa以上10MPa以下である。
【0030】
液空間速度(LHSV)は、0.5/hr以上60/hr以下であることが好ましく、より好ましくは1/hr以上10/hr以下である。液空間速度(LHSV)が0.5/hr未満であると、処理時間が長く経済性を低下させる恐れがある。一方、60/hrを超えると、加水分解反応が遅くなり、糖収率が低くなってしまい実用的でない。
【0031】
また、糖化槽20内には図示しない固体酸触媒が充填されていてもよい。固体酸触媒は、固体であるため、糖の加水分解反応においてほとんどエネルギーを必要とせず、また、回収および再利用ができるので廃液の問題も生じない。すなわち、環境にやさしい触媒である。
固体酸触媒としては、例えば、ゼオライトやアルミナなどが挙げられる。
【0032】
流路92上に設けられた冷却器25は、糖化槽20の加水分解反応により得られた水可溶性オリゴ糖等を80℃以下に冷却する。そして、必要によりエネルギー回収を図る。また、流路93上に設けられた冷却器27は、固液分離方法に応じて冷却度合いを調整する。
なお、第一の加水分解装置110においては、この冷却器27を含まない構成としてもよい。
【0033】
次に、第二の加水分解装置120について説明する。
第二の加水分解装置120は、第一の加水分解装置110と略同じ構成である。すなわち、第一の加水分解装置110で得られた重質分が投入される原料槽50と、原料槽50から導入された水スラリーの加水分解(糖化)処理を行う糖化槽60と、糖化槽60の加水分解反応により得られた水可溶性オリゴ糖等を回収する受器70と、糖化槽60の加水分解反応の残渣を回収する固液分離槽80と、を備えている。
原料槽50と糖化槽60とは流路96によって接続され、原料槽50の水スラリーが流路96を通って糖化槽60へ導入される。流路96上には、原料槽50の水スラリーを糖化槽60へ押し出すポンプ55と、流路96内を流れる水スラリーの温度を調整する加熱器56とが設けられている。
【0034】
また、糖化槽60と受器70とは流路97によって接続され、糖化槽60で抽出された水可溶性オリゴ糖等が流路97を通って受器70へ回収される。流路97上には、糖化槽60から抽出した水可溶性オリゴ糖等を冷却する冷却器65と、糖化槽60内のフィルター61からの抜き出し圧力を調整する圧力調整弁66が設けられている。
さらに、糖化槽60と固液分離槽80とは流路98によって接続され、糖化槽60の加水分解反応後の残渣が固液分離槽80へ導入される。流路98上には、糖化槽60の加水分解反応後の残渣を冷却する冷却器67と、糖化槽60内の圧力を調整する圧力調整弁68が設けられている。
そして、固液分離槽80と受器70とは流路99によって接続されている。
【0035】
原料槽50には、第一の加水分解装置110で得られた重質分が投入される。また、熱水槽90から流路95を介して熱水が供給され、原料槽50内にて重質分含有水スラリーが生成される。熱水の温度は、原料槽50に投入される重質分の温度と同じかそれ以上であることが、エネルギー効率面から好ましい。また、熱水は、ポンプの仕様や能力に適う限り、固体の重質分の濃度が高くなるように供給される。
【0036】
糖化槽60の構成は、前述の糖化槽20と同じ構成である。糖化槽60は、重質分含有水スラリーが流入する流入口60Aと、この流入口60Aとは反対側に設けられ、加水分解後の残渣が流出される出口60Bと、この出口60B側に設けられたフィルター61と、フィルター61を透過した水可溶性オリゴ糖等を流出させるための流出口60Cと、を備えている。
フィルター61は金属または焼結金属等の無機分離膜であり、水可溶性オリゴ糖等を選択的に透過させる。
【0037】
受器70は前述の受器30と同じ構成であり、糖化槽60内のフィルター61を透過した水可溶性オリゴ糖等を回収する。
また、固液分離槽80は前述の固液分離槽40と同じ構成であり、糖化槽60内で加水分解反応した後の残渣を固体と液体とに分離する。
固液分離槽80で分離された液体分は流路99を通って前述の受器70に回収される。
【0038】
流路96上に設けられたポンプ55は、原料槽50の重質分含有水スラリーを糖化槽60に導入する。また、同じく流路96上に設けられた加熱器56は、糖化槽60に導入される重質分含有水スラリーの温度を調整する。さらに、圧力調整弁66および68は、糖化槽60内の圧力を調整する。
ポンプ55、加熱器56、圧力調製弁66および68は、糖化槽60内が以下の条件を満たすように適宜調製される。
【0039】
温度は、220℃以上300℃以下、好ましくは220℃以上270℃以下である。温度が220℃未満であると加水分解反応が遅くなり、糖収率が低くなってしまい実用的でない。一方、300℃を超えると、過分解が増加して全体の糖収率を低下させる恐れがある。
【0040】
圧力は、糖化槽60内が飽和水蒸気圧以上となるように、圧力調整弁66および68によって調整される。上記温度範囲では、例えば、2.5MPa以上10MPa以下である。
【0041】
液空間速度(LHSV)は、0.5/hr以上60/hr以下であることが好ましく、より好ましくは1/hr以上10/hr以下である。液空間速度(LHSV)が0.5/hr未満であると、処理時間が長く経済性を低下させる恐れがある。一方、60/hrを超えると、加水分解反応が遅くなり、糖収率が低くなってしまい実用的でない。
また、糖化槽60内には、糖化槽20と同様の固体酸触媒を充填していてもよい。
【0042】
流路97上に設けられた冷却器65は、糖化槽60の加水分解反応により得られた水可溶性オリゴ糖等を80℃以下に冷却する。冷却器65により、水可溶性オリゴ糖等の過分解を抑制できる。
また、流路98上に設けられた冷却器67は、糖化槽60の加水分解反応後の残渣である重質分を冷却する。重質分に一部含まれている場合がある水可溶性オリゴ糖等が過分解する恐れがあるため、速やかに80℃以下に冷却することが好ましい。固液分離器80で固体分として残った残渣を、別途、酵素等で発酵させる場合は、発酵に用いる酵素に適した温度以下まで下げないようにすると、エネルギー効率が良い。
【0043】
[加水分解装置の動作]
次に、加水分解装置100によるバイオマスの加水分解の流れの一態様を説明する。
まず、第一の加水分解装置110の原料槽10に、バイオマスであるリグノセルロースと水とを投入して、混合原料を調整する。このとき、リグノセルロースの配合量は特に限定されないが、ポンプ55の輸送能力や加水分解の効率化という点から、10〜30質量%となるように調整することが好ましい。
次に、糖化槽20内が温度150℃以上220℃以下、圧力が飽和水蒸気圧以上、液空間速度が0.5/hr以上60/hr以下となるようにポンプ15、加熱器16、圧力調製弁26および28を調整する。
このような条件下で、リグノセルロース含有水スラリーが、原料槽10から流路91を通って糖化槽20へ導入される。
【0044】
そして、糖化槽20内では加水分解反応によりオリゴ糖が生成する。この条件下で分解されるのは主にヘミセルロースである。生成したオリゴ糖は水に溶けた状態でフィルター21を透過し、流路92を通って受器30に回収される。
糖化槽20内には、加水分解されなかったリグノセルロースや水不溶のオリゴ糖を含む重質分が残渣として残り、流路93を通って固液分離槽40へ導入される。
なお、固液分離槽40へ導入する前に、この重質分を再度糖化槽20に導入してもよい。
固液分離槽40では、固体と液体とに分離され、液体は水可溶性オリゴ糖等として流路94を通って受器30に回収される。
【0045】
一方、固体として残った重質分は、第二の加水分解装置120の原料槽50に、例えば圧送で投入される。
原料槽50には、さらに熱水槽90から流路95を介して熱水が供給され、重質分含有水スラリーが生成される。重質分の配合割合は、重質分含有水スラリー全量基準で20質量%である。
次に、糖化槽60内が温度220℃以上300℃以下、圧力が飽和水蒸気圧以上、液空間速度が0.5/hr以上60/hr以下となるようにポンプ55、加熱器56、圧力調製弁66および68を調整する。
【0046】
このような条件下で、重質分含有水スラリーが、原料槽50から流路96を通って糖化槽60へ導入される。
そして、糖化槽60内の加水分解反応によりオリゴ糖が生成する。ここで分解されるのは主にセルロースである。オリゴ糖は水に溶けた状態でフィルター61を透過し、流路97を通って受器70に回収される。
糖化槽60内には、加水分解されなかったリグノセルロースを含む重質分が残渣として残り、流路98を通って固液分離槽80へ導入される。
なお、固液分離槽80へ導入する前に、この重質分を再度糖化槽60に導入してもよい。
固液分離槽80では、固体と液体とに分離され、液体は水可溶性オリゴ糖等として流路99を介して受器70に回収される。
このように、受器30および受器70に回収されたオリゴ糖は、水溶液から公知の方法で単離、精製することにより、燃料、繊維、複合材、食品等の各種用途に利用することができる。
【0047】
さらに、最終的に得られた残渣を分解して単糖を製造することができる。残渣を単糖に加水分解する方法としては、酵素を用いることが好ましい。酵素としては、例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼなどが挙げられる。
得られた単糖は発酵によりアルコール等に利用することができる。
【0048】
以上に述べた本実施形態においては次に示す作用効果がある。
本実施形態では、糖化槽20(または糖化槽60)内にフィルター21(またはフィルター61)を設けたので、加水分解反応により生成した水可溶性オリゴ糖等を、糖化槽20(または糖化槽60)から逐次抽出することができる。したがって、糖化槽20(または糖化槽60)内に残った重質オリゴ糖の反応時間を長くすることができ、糖収率が向上する。
また、生成した水可溶性オリゴ糖等を逐次抜き出すことで、過分解を抑制できる。
すなわち、過分解物の生成を抑制して糖収率を向上させることができる。
【0049】
また、加水分解後の残渣である重質分を固液分離槽40(または固液分離槽80)で固体と液体を分離して液体を回収するので、さらなる糖収率の向上を図ることができる。
【0050】
さらに、フィルター21(またはフィルター61)が糖化槽20(または糖化槽60)の出口20B(または出口60B)側に設けられている。糖化槽20(または糖化槽60)の流入口20A(または流入口60A)から加水分解反応が始まり、出口20B(または出口60B)付近では加水分解されたオリゴ糖の含量が多くなっている。したがって、このような構成であれば、オリゴ糖の収率が高い。
【0051】
そして、バイオマスの加水分解を、反応条件の異なる2段の加水分解装置で行っている。1段目では、150℃以上220℃以下の加圧熱水で加水分解を行うので、バイオマス中のヘミセルロースが加水分解される。2段目では、220℃以上300℃以下の加圧熱水で加水分解を行うので、セルロースが加水分解される。
このように、各物質の最適温度で加水分解を行うので、各物質が確実に分解され、糖収率が向上するとともに、過分解物の生成を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態では、第一の加水分解装置110および第二の加水分解装置120の加水分解反応で得られたオリゴ糖等や残った重質分の熱回収を図っているので、エネルギー効率が向上する。
【0053】
さらに、加水分解反応の触媒として、糖化槽20または糖化槽60内に固体酸触媒を充填していてもよい。固体酸触媒を用いることで、より低圧低温にしても糖収率を低減させることなく加水分解反応を実施することができる。また、前述のとおり、固体酸触媒は環境にやさしい触媒であり、エネルギー低減を図ることができる。
【0054】
そして、本実施形態の加水分解装置100で最終的に得られた残渣を酵素により単糖に分解してもよい。これにより、総合的な糖収率の増加を図ることができる。
【0055】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、第一の加水分解装置110と第二の加水分解装置120とを連続的に運用したが、第一の加水分解装置110のみを使用したバッチ式を用いてもよい。バッチ式であれば、装置を小型化でき、導入費用を抑えることができる。
【0056】
また、第一の加水分解装置110で糖化槽20の加水分解反応終了後、糖化槽20内に残った残渣を再度、糖化槽20の流入口20Aから導入してもよい。これにより、まだ加水分解反応していないバイオマスや重質分の加水分解反応時間が長くなり、より多量に加水分解することができる。したがって、糖収率が向上する。
【0057】
そして、本実施形態では、1段目でヘミセルロースを加水分解し、2段目でセルロースを加水分解したが、ヘミセルロースのみを加水分解する際には、1段目の加水分解のみを実施すればよい。このように、加水分解の対象に応じた処理条件を選択することで、確実に加水分解することができ、糖収率が向上する。
【実施例】
【0058】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
【0059】
原料として杉粉(粒径平均152μm(80〜120メッシュ))を用いて加水分解処理を行い、過分解物、水可溶分、水不溶分の質量を測定した。なお、加水分解は、実施形態に示した2つの実験装置による連続糖化式ではなく、1つの実験装置を用いたバッチ式で2回処理を行った。
【0060】
過分解物、可溶化度の解析方法は以下の通りである。
<過分解物>
過分解物は、ゲルパーメーションクロマトグラフィ (GPC)法で示差屈折率検出器(
RID : Refractive Index Detector)を用いて分析した。
過分解物は、水可溶物を上記分析装置で分析した際の全ピーク面積に占める過分解物のピーク面積割合とする。RIDを用いているので、ピーク面積比は概略重量比に相当する。
過分解物=(過分解物のピーク面積)/(水可溶分のピーク面積)×100
ヘミセルロースの分解を対象とした場合には、ペントースのピーク以降に流出するピークを過分解物とする。
尚、加圧熱水処理による過分解物のみではなく、元来細胞中に含まれている遊離物等も考えられるが、分析上の区別はしていない。
セルロースの分解を対象とした場合には、ヘキソースのピーク以降に流出するピークを過分解物とする。
【0061】
<可溶化度(水可溶分)>
可溶化度は以下の式で定義される。
可溶化度=(原料の乾燥質量−残渣物の乾燥質量)/原料の乾燥質量×100
なお、質量は試料を室温のデシケータに一日保管して含有水分量が一定となった時点で測定する。
【0062】
[実施例1]
前述の実施形態に記載した第一の加水分解装置110を用いた。
原料の杉粉15質量%を含む水スラリーを原料槽10で作成し、ポンプ15で糖化槽20に流入させた(LHSV:4/hr)。圧力調整弁26および28で糖化槽20内を実験圧4MPaに調整し、加熱器16で190℃に調整した。そして、水スラリーを糖化槽20に15分滞留させた。
定常運転になった後、糖化槽20内のフィルター21を通し、冷却器25および27で40〜60℃に冷却し、受器30と別の受器に試料を採った。両試料ともアスピレータで吸引ろ過して析出物と濾液に分けた(一段目の加水分解処理)。
析出物は、二段目の加水分解の原料に用いる前に、室温のデシケータに一日保管して含有水分量が一定となった時点の質量を測定した。
【0063】
次に、この析出物を原料槽10にて15質量%の水スラリーに調整し、ポンプ15で糖化槽20に流入させた(LHSV:4/hr)。圧力調整弁26および28で糖化槽20内を実験圧4MPaに調整し、加熱器16で240℃に調整した。そして、水スラリーを糖化槽20に15分滞留させた。
定常運転になった後、糖化槽20内のフィルター21を通し、冷却器25および27で40〜60℃に冷却し、受器30と別の受器に試料を採った。両試料ともアスピレータで吸引ろ過して析出物と濾液に分けた(二段目の加水分解処理)。
析出物は、室温のデシケータに一日保管して質量を測定した。
【0064】
[比較例1]
糖化槽20にフィルター21を設けなかったこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、原料である杉粉の水スラリーを析出物と濾液とに分離した。
以上の測定結果を、原料に対する質量割合で評価する。
【0065】
【表1】

【0066】
表1からわかるように、実施例1では過分解物の生成が抑制され、水可溶分の割合が大きい。一方、比較例1では、過分解物が生成され、水可溶分の割合が小さい。すなわち、実施例1では、加水分解が効率よく行われたと言える。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、バイオマスを原料とした燃料、繊維、複合材および食品等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明における一実施形態の糖化装置の概略図。
【符号の説明】
【0069】
100…加水分解装置
110…第一の加水分解装置
10…原料槽
20…糖化槽
21…フィルター
30…受器
40…固液分離槽
120…第二の加水分解装置
50…原料槽
60…糖化槽
61…フィルター
70…受器
80…固液分離槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧熱水を用いたバイオマスの加水分解方法であって、
加水分解反応が行われる糖化槽から、加水分解反応により得られた水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を選択的に逐次抽出する
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオマスの加水分解方法において、
前記糖化槽内に設けられた無機分離膜で前記水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を選択的に逐次抽出する
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバイオマスの加水分解方法において、
前記糖化槽の出口に設けられた固液分離槽で前記水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を分離する
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のバイオマスの加水分解方法において、
前記加水分解反応は、少なくとも2段の前記糖化槽で行われ、
加水分解反応後に前記糖化槽に残った重質分が次の糖化槽へ連続的に導入される
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項5】
請求項4に記載のバイオマスの加水分解方法において、
前記バイオマスは、セルロース系バイオマスである
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項6】
請求項5に記載のバイオマスの加水分解方法において、
1段目の前記糖化槽の加圧熱水は、150℃以上220℃以下の温度であり、
2段目以降の少なくとも1段の前記糖化槽の加圧熱水は、220℃以上300℃以下の温度である
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれかに記載のバイオマスの加水分解方法において、
最終段の糖化槽出口からの重質分は80℃以下に冷却される
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載のバイオマスの加水分解方法において、
前記加圧熱水の圧力は、前記糖化槽内の飽和水蒸気圧以上である
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載のバイオマスの加水分解方法において、
バイオマスに対する体積基準のスラリー液空間速度(LHSV:Liquid Hourly Space Velocity)は、0.5/hr以上60/hr以下である
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載のバイオマスの加水分解方法において、
前記糖化槽内に充填された固体酸触媒を用いて加水分解する
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載のバイオマスの加水分解方法において、
加水分解反応後に得られた水可溶性オリゴ糖および/又は残渣に酵素を作用させる
ことを特徴とするバイオマスの加水分解方法。
【請求項12】
加圧熱水を用いたバイオマスの加水分解を行う糖化槽と、
前記糖化槽で加水分解された水可溶性オリゴ糖および/又は単糖を透過する無機分離膜と、
前記糖化槽で加水分解後に残った重質分を分離する固液分離槽と、を備えた
ことを特徴とするバイオマスの加水分解装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−77697(P2009−77697A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271648(P2007−271648)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】