説明

バインダー繊維用ポリエステル樹脂

【課題】 生分解性に優れ、かつ、風合いの柔らかな繊維構造物に加工可能なポリエステル樹脂を提供しようとするものである。
【解決手段】
エチレングリコールを主たるジオール成分としてなるポリエステルであって、全酸成分に対して、テレフタル酸が50〜80モル%、イソフタル酸が10〜40モル%、脂肪族ジカルボン酸が3〜30モル%、下記式(1)で示されるリン化合物が0.3〜1.5モル%、それぞれ共重合されており、ガラス転移温度が40〜80℃以上、軟化温度が80〜180℃であることを特徴とするバインダー繊維用ポリエステル樹脂。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた生分解性を有し、かつ、繊維構造物に良好な風合いを付与することが可能となるバインダー繊維用ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ルーフィング資材、自動車用内装材、カーペットの基布などに用いる不織布、枕やマットレスなどの寝装用品の詰め物、キルティング用の中入れ綿などの繊維構造物において構成繊維(以下、主体繊維という)相互間を接着する目的で、ホットメルト型バインダー繊維が広く使用されている。主体繊維としては、比較的安価で、優れた物性を有するポリエステル繊維が最も多く使用されている。したがって、これを接着するバインダー繊維もポリエステルとすることが好ましく、種々のポリエステル系バインダー繊維、及びそれを用いて接着したポリエステル繊維構造物が提案されている。一般に、ポリエステル系バインダー繊維は、芯鞘複合繊維となっており、その鞘部にコポリエステルを用いている (例えば、特許文献1参照) 。しかし、このような複合繊維からなる繊維構造物は風合いが固いという欠点があった。
【0003】
また、繊維構造物の風合いに柔らかさをもたらすため、バインダー成分としてポリエステルエラストマーを用い、接着点に弾性を持たせる方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ポリエステルエラストマーを鞘部に含むバインダー繊維を生産する場合、ポリエステルエラストマーと金属との摩擦抵抗が大きいために製糸工程で延伸ローラーに巻き付いたり、ウェブ製造工程でカード通過性が悪いなど、生産性が非常に悪いという問題があった。
【0004】
このような問題点を改善するために、芯部がポリエステルエラストマーで、鞘部が低融点ポリマーである複合バインダー繊維も提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、この場合は、芯鞘の両部分とも柔軟性を有している反面、耐熱性に乏しいため用途が限定されるものであり、また該複合バインダー繊維単独では形態を保持しにくいという問題があった。さらには、これらのポリエステルはいずれも生分解性を有しておらず、使用後の廃棄や焼却処分に際しては環境負荷の高いものとなり、問題を残している。
【特許文献1】特公昭45−2345号公報
【特許文献2】特開平4−240219号公報
【特許文献3】特開平7−305233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点を解決するものであって、生分解性に優れ、かつ、風合いの柔らかな繊維構造物に加工可能なバインダー繊維用ポリエステル樹脂を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をした結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(a)エチレングリコールを主たるジオール成分としてなるポリエステルであって、全酸成分に対して、テレフタル酸が50〜80モル%、イソフタル酸が10〜40モル%、脂肪族ジカルボン酸が3〜30モル%、下記式(1)で示されるリン化合物が0.3〜1.5モル%、それぞれ共重合されており、ガラス転移温度が40〜80℃、軟化温度が80〜180℃であることを特徴とするバインダー繊維用ポリエステル樹脂。
【0007】
【化1】

【発明の効果】
【0008】
本発明のバインダー繊維用ポリエステル樹脂は、バインダー繊維として十分な接着性を有すると共に、風合いの柔らかな繊維構造物を得ることができるものであり、特に不織布において好適にその特性が得られる。しかも繊維化が容易であり通常の製造装置で簡易に製造できる。さらには、分子骨格内にリン原子を含むため、加水分解性や生分解性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のバインダー繊維用ポリエステル樹脂(以下、本発明のポリエステル樹脂と略す)としては、エチレングリコール(以下、EGと略す)を主たるジオール成分としてなるポリエステルであり、テレフタル酸(以下、TPAと略す)、イソフタル酸(以下、IPAと略す)、脂肪族ジカルボン酸、及びリン化合物を所定量共重合させてなるポリエステル樹脂である。
【0010】
本発明のポリエステル樹脂におけるTPAの共重合量としては、全酸成分に対して50〜80モル%である。TPAの共重合量が50モル%未満であると、ポリエステルの熱安定性が低下したり、繊維とした場合の強度が低いものとなるなど、本発明の優れた特性が発現しなくなる。一方、TPAの共重合量が80モル%を超える場合、他の酸成分による変性効果が小さくなるため、ガラス転移温度や軟化温度が高くなるとともに、柔軟性や生分解性が低下することとなる。
【0011】
また、本発明のポリエステル樹脂におけるIPAの共重合量としては、全酸成分に対し10〜40モル%である。IPAの共重合量が10モル%未満であると、軟化温度が高すぎるために汎用の加工設備では加熱接着が困難となり、バインダー繊維用途として使用に適さないものとなる。一方、IPAの共重合量が40モル%を超えると、軟化温度が低くなる。さらに、接着した繊維構造物を高温雰囲気下で使用する際に、接着強力が低下し繊維構造物の力学強度を維持し得なくなる。
【0012】
また、本発明のポリエステル樹脂における脂肪族ジカルボン酸の共重合量としては、全酸成分に対して、3〜30モル%である。脂肪族ジカルボン酸の共重合量が3モル%未満である場合、生分解性が不足するとともに本発明の効果である柔らかな風合いを損なうこととなる。一方、脂肪族ジカルボン酸の共重合量が30モル%を超える場合、重合性が悪くなり、繊維とするのに十分な極限粘度が得られない場合や、熱安定性の低下により重合時に樹脂が着色する場合がある。さらには、樹脂のガラス転移温度が後述の本発明で規定する温度域より低くなり、本発明の効果が得られなくなる。本発明において使用できる脂肪族ジカルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ダイマー酸などが挙げられ、これらを1種類又は複数種類、共重合成分として用いることができる。
【0013】
また、本発明の効果を損ねない範囲で他の酸成分を共重合させてもよい。具体例として、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ブタンテトラカルボン酸等のポリカルボン酸、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、グリコール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸などのラクトン及びヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
【0014】
一方、本発明のポリエステル樹脂におけるジオール成分としては、EGを主体成分とする。本発明においてEGが主体成分であるとは、全ジオール成分に対して80モル%以上含まれることをいう。EGが80モル%に満たない場合、得られる本発明のポリエステル樹脂の軟化点が低くなり、樹脂の乾燥工程や紡糸工程においてブロッキングや融着が起こり易くなる。
【0015】
また、本発明の効果を損なわない範囲で他のジオール成分を共重合させてもよい。具体的には、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオールなどが挙げられる。さらには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどのポリオールを共重合させることもできる。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂においては、下記式(1)で示されるリン化合物が全酸成分に対し0.3〜1.5モル%共重合されていることが必要である。
【化1】

該リン化合物の共重合量が0.3モル%未満では、繊維に加工した際の柔軟性、及び加水分解性ひいては生分解性が不足することとなり、本発明の効果を損なうこととなる。一方、1.5モル%を超える場合、ポリマーの架橋化が顕著となりポリマー鎖の柔軟性が損なわれると共に加水分解性並びに生分解性が低下することとなる。加えて、溶融紡糸を行う際には糸切れなどのトラブルが多発し、操業性が低下する。
【0017】
本発明においてリン化合物を共重合させることの効果としては、リン化合物が三官能であるため、ポリエステルの分子構造内においてある程度分枝構造が形成され、これによりポリエステル分子の配向結晶化が阻害されるため、バインダー繊維とした場合に柔軟性を付与できることにある。また、ポリエステル骨格内に導入されるリン酸エステル結合が、炭素原子を骨格とするエステル結合に比べて加水分解され易いため、土壌埋設等の廃棄環境下にあっては、ポリエステルの低分子量化が加速されることとなる。これに伴い生分解性の共重合成分を含むポリエステル全体の生分解性も加速されることとなる。
【0018】
すなわち、本発明においてリン化合物の共重合量が0.3〜1.5モル%であることによって、上記の柔軟性と剛直性との好適なバランスの中で、通常のリン化合物を含まない直鎖状ポリエステル系バインダー繊維に比べ柔軟性を付与できる。 加えてポリマー鎖中にリン原子の骨格を含んだ場合、炭素原子の場合に比べてコンフォメーションの自由度が高くなるため、多官能の炭化水素で架橋させるより柔軟性の付与効果が高くなる。また、ポリマーとしての耐水性と加水分解性との好適なバランスの中で、使用時の耐久性と土壌埋設等の廃棄時の生分解性とを併せ持つことが可能となる。
【0019】
本発明で使用できるリン化合物としては、リン酸、リン酸モノエステルとしてモノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノプロピルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノアミルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、また、リン酸ジエステルとしてジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジアミルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、及び、リン酸トリエステルとしてトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリアミルホスフェート、トリヘキシルホスフェートなどが挙げられ、この中で好ましいものとしては、リン酸、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルがある。
【0020】
また、本発明のポリエステル樹脂におけるガラス転移温度としては、40〜80℃である。ガラス転移温度が40℃未満の場合、重合後のチップ化工程やその後の乾燥工程におけるブロッキング、さらには紡糸後の繊維においても融着等が起こり易く、操業性が悪くなるため本発明の目的を損なうこととなる。一方、ガラス転移温度が80℃を超える場合、ポリエステル樹脂ならびに最終的に得られるバインダー繊維が剛直なものとなり、本発明の効果である柔らかな風合いを損なうこととなる。
【0021】
また、本発明のポリエステル樹脂における軟化温度としては、80〜180℃であり、好ましくは90〜160℃である。軟化温度が80℃未満である場合、樹脂の乾燥工程や紡糸工程においてブロッキングや融着が起こり易くなる。また、軟化温度が180℃を超える場合、繊維構造物を熱融着する際に接着温度を高くする必要があり、これに伴い繊維構造物を構成する主体繊維までが軟化し捲縮が損なわれる場合があるため、得られる繊維構造物の風合いが悪くなる。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではなく通常の方法を応用して行うことができる。例えば、以下のような方法により製造することができる。
まず、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよび/またはその低重合体(以下PETオリゴマーと略す)の存在するエステル化反応槽に、EG/TPA(モル比1.1〜2.0)のスラリーを添加し、常圧下、滞留時間7〜8時間で、反応率95%程度のエステル化反応物を得る。このエステル化反応物を重合反応缶に移送し、IPA、脂肪族ジカルボン酸としてアジピン酸(以下ADと略す)、リン化合物としてリン酸などを所定量添加し、温度230〜250℃で、1〜2時間エステル化反応を行う。
【0023】
次に、このエステル化物に重合触媒を添加し、0.01〜13.3hPaの減圧下、温度250〜280℃で、極限粘度が0.5以上となるまで重縮合反応を行う。重合触媒としては、従来一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、コバルト、亜鉛などの金属化合物が好ましい。また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、本発明のポリエステル樹脂において、ヒンダードフェノール系化合物のような抗酸化剤、コバルト化合物や蛍光剤並びに染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような顔料及び酸化セリウムのような耐光剤などの添加物を含有させてもよい。
【0024】
また、本発明のポリエステル樹脂を用いてバインダー繊維を製造するにあたっても、特に限定はなく、通常の方法で行うことができる。例えば、芯鞘構造を有する複合化されたバインダー繊維を製造する場合、複合化させるポリエステル樹脂等をそれぞれ常法により乾燥させ、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置を用いて、紡出速度700〜1000m/分にて紡糸した後、収束し、60〜80℃の加熱ローラーを使用して3〜5倍に延伸することで本発明におけるバインダー繊維を得ることができる。さらに、これを押し込み式クリンパーにて捲縮を与えた後、カッターにて30〜100mmに切断することでバインダー短繊維とすることができる。
【0025】
ここで、本発明におけるバインダー繊維を芯鞘構造のような複合化された形態として用いる場合、複合化される相手の樹脂としては、本発明のポリエステル樹脂の軟化点よりも20℃以上高い融点又は軟化点を有するポリエステル樹脂であることが好ましい。本発明のポリエステル樹脂の軟化温度と、相手のポリエステル樹脂の融点又は軟化点との差が20℃を満たさない場合、熱接着処理に際しバインダー繊維における捲縮等の形態が損なわれる他、繊維構造物である不織布などの物性が低下するため好ましくない。
【0026】
この場合、相手となるポリエステル樹脂の具体例としては、本発明のポリエステル樹脂が生分解性であることに照らして、例えば、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ポリカプロラクトン及びこれらの共重合体などの生分解性ポリエステル樹脂であることが好ましい。そのような芯鞘構造とすることで全体としても生分解性に優れた繊維構造物とすることができる。
【0027】
本発明において複合化されたバインダー繊維の形態としては、芯鞘型、サイドバイサイド型、海島構造型などが挙げられる。特に芯鞘型は、製糸操業性、コスト、繊維構造物の形態安定性の面から好ましい。また、バインダー繊維の断面形状は、丸断面、三角断面、星形断面などが挙げられるが、接着点の面積が大きくなることなどから丸断面が好適に用いられる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、これに限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値の測定法及び評価方法は次のとおりである。
(a)ポリマー組成
リン化合物以外の成分量を日本電子社製NMR JNM−LA400型FT−NMRにて測定し、リン化合物の共重合量をリガク社製蛍光X線スペクトロメータ3270型にて測定し、NMRの結果と合わせて組成を算出した。
(b)極限粘度([η])
フェノールとテトラクロロエタンとの等質量混合物を溶媒とし、溶質濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で、常法により測定した。
(c)ガラス転移温度(℃)(Tg)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−2型を用いて、窒素気流中、昇温速度20℃/分で測定した。
(d)軟化温度(℃)(Ts)
柳本製作所社製の自動軟化温度測定装置AMP−2型を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0029】
(e)不織布剛軟度
JIS L−1096に基づき、目付け50g/m、試料幅100mm、試料長100mmの試料片(不織布)を3枚準備し、DAIEI KEIEI社製風合いメーターMODEL FM−2を使用して測定した。15mm幅のスリット上に試料片を置いて、アームが試料をスリット間に押し込む時に必要な力を試料の表裏について、縦横方向の4箇所で測定し、その合計値を求めた。これを、試料片3枚について測定し、その平均値を不織布剛軟度とした。不織布剛軟度が60cNを超えると、得られる不織布は柔軟性に劣るものとなり好ましくない。
(f)不織布の風合い
10人のパネラーによる官能試験により次の3段階で評価した。
1:軟らかい 2:ふつう 3:硬い
10人中7人以上が1または2であれば合格、4人以上が3であれば不合格とした。
(g)生分解性
試料を土壌中に6ヶ月間埋設した後、取り出し、引張強度を測定し、初期の引張強度に対する強度保持率で評価した。強度保持率が50%以下であれば合格(○)とした。
【0030】
実施例1
−ポリエステル樹脂の製造−
PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶にTPAとEGとのスラリー(モル比1/ 1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、反応率95%のエステル化物(A)を連続的に得た。
一方、別のエステル化反応缶に、IPAとEGとからなるスラリー(IPA/EGモル比=1/3.1)を仕込み、温度200℃で3時間エステル化反応を行い、IPAとEGとの反応溶液(B)を得た。
【0031】
次に、重縮合反応缶に上記のエステル化物(A)30.2kgと反応溶液(B)24.2kg(ポリエステルの全酸成分に対してIPAが30モル%となる量)とを移送した。さらに、該重縮合反応缶に、濃度50質量%のADのEGスラリー6.6kg(ポリエステルの全酸成分に対してADが9モル%となる量)、濃度3質量%のリン酸のEG溶液8.2kg(ポリエステルの全酸成分に対してリン酸が1.0モル%となる量)を添加した後、エステル化反応を温度250℃、圧力0.1MPaの条件で撹拌しながらエステル化反応を1時間行った。次いで、重縮合触媒として、濃度4質量%のテトラブチルチタネートのEG溶液0.43kg(ポリエステルの全酸成分に対して触媒が2×10−4モル比となる量)添加し、反応缶内の温度を30分で270℃に昇温し、反応缶内の圧力を徐々に減じて70分後に1.2hPa以下とした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を3時間行い、ポリエステル樹脂を得た。
【0032】
−バインダー繊維ならびに不織布の製造−
次いで、このポリエステル樹脂とポリ−L−乳酸(極限粘度1.35 、融点170℃、光学純度99%)とをそれぞれ乾燥させた後、通常の同心芯鞘型複合溶融紡糸装置を用いて、吐出孔数560の紡糸口金により、複合比を溶融容積比で50/50、紡糸温度230℃、紡糸速度900m/minとし、本発明のポリエステル樹脂が鞘となるように溶融紡糸し、複合未延伸糸を得た。この未延伸糸を11万dtexのトウに集束し、延伸温度62℃、延伸倍率4.15倍で延伸し、押し込み式クリンパーにて捲縮を与え、仕上げ油剤(ラウリルリン酸カリウム塩)を付与後、長さ51mmに切断して、繊度2.2dtexのバインダー繊維(短繊維)とした。
このバインダー繊維(短繊維)20質量%と、単糸繊度が33dtex、カット長が51mmのポリ乳酸繊維(短繊維)80質量%とを混綿した後、カード機にてカードウェブを作成し、これを表1に示す温度に設定した連続熱処理機に1分間通し、構成繊維どうしを熱接着させ、目付が50g/mの不織布を得た。
【0033】
実施例2
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を29.9kg、IPAとEGの反応溶液を16.1kg、濃度50質量%のグルタル酸(以下、GUと略す)のEGスラリーを13.2kg、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を4.1kgとし、不織布の製造において熱処理温度を表1に示した温度とした以外は、実施例1と同様にして実施例2のポリエステル樹脂ならびに不織布を得た。
実施例3
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を29.9kg、IPAとEGの反応溶液を24.2kg、濃度50質量%のセバシン酸(以下、SEと略す)のEGスラリーを10.1kg、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を4.1kgとし、不織布の製造において熱処理温度を表1に示した温度とした以外は、実施例1と同様にして実施例3のポリエステル樹脂ならびに不織布を得た。
実施例4
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を32.0kg、IPAとEGの反応溶液を16.1kg、濃度50質量%のADのEGスラリーを14.6kg、濃度3質量%のトリエチルホスフェート(以下、TEPと略す)のEG溶液を39.5kgとし、不織布の製造において熱処理温度を表1に示した温度とした以外は、実施例1と同様にして実施例4のポリエステル樹脂ならびに不織布を得た。
【0034】
実施例5
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を32.4kg、IPAとEGの反応溶液を24.2kg、ダイマー酸(以下、DAと略す)を7.3kg、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を4.1kgとし、不織布の製造において熱処理温度を表1に示した温度とした以外は、実施例1と同様にして実施例5のポリエステル樹脂ならびに不織布を得た。
実施例6
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を34.7kg、IPAとEGの反応溶液を12.1kg、濃度50質量%のADのEGスラリーを11.0kg、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を8.2kgとし、不織布の製造において熱処理温度を表1に示した温度とした以外は、実施例1と同様にして実施例6のポリエステル樹脂ならびに不織布を得た。
【0035】
比較例1
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を42.2kg、IPAとEGの反応溶液を4.0kg、濃度50質量%のADのEGスラリーを7.3kg、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を8.2kgとして比較例1のポリエステル樹脂を得た。しかし、バインダー繊維の加熱接着が困難なため、対応する不織布は得られなかった。
比較例2
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を19.9kg、IPAとEGの反応溶液を36.3kg、濃度50質量%のADのEGスラリーを11.0kg、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を4.1kgとした以外は、実施例1と同様にして比較例2のポリエステル樹脂を得た。しかし、バインダー繊維の紡糸加工時における糸状融着のため、対応する不織布は得られなかった。
比較例3
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を33.7kg、IPAとEGの反応溶液を24.2kg、濃度50質量%のADのEGスラリーを1.4kg、濃度3質量%のTEPのEG溶液を30.4kgとし、不織布の製造において熱処理温度を表1に示した温度とした以外は、実施例1と同様にして比較例3のポリエステル樹脂ならびに不織布を得た。
【0036】
比較例4
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を27.1kg、IPAとEGの反応溶液を8.1kg、濃度50質量%のADのEGスラリーを25.6kg、濃度3質量%のTEPのEG溶液を30.4kgとした以外は、実施例1と同様にして比較例4のポリエステル樹脂を得た。しかし、バインダー繊維の紡糸加工時における糸状融着のため、対応する不織布は得られなかった。
比較例5
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を30.1kg、IPAとEGの反応溶液を16.1kg、濃度50質量%のGUのEGスラリーを13.2kg、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を0.82kgとし、不織布の製造において熱処理温度を表1に示した温度とした以外は、実施例1と同様にして比較例5のポリエステル樹脂ならびに不織布を得た。
比較例6
実施例1のポリエステル樹脂の製造において、反応率95%のエステル化物を31.7kg、IPAとEGの反応溶液を20.2kg、濃度50質量%のGUのEGスラリーを6.6kg、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を16.3kgとした以外は、実施例1と同様にして比較例6のポリエステル樹脂を得た。しかし、バインダー繊維の紡糸時における糸切れ多発のため、対応する不織布は得られなかった。
【0037】
実施例1〜6及び比較例1〜6において、得られたバインダー繊維用ポリエステル樹脂の組成、特性値、及びそれからなるポリエステル不織布の特性値を表1に示した。
表1から明らかなように、実施例1〜6においては、得られたポリエステル樹脂の組成及び熱特性は本発明に規定された範囲にあり、かつ本発明のポリエステル樹脂を用いてなる不織布は、生分解性に優れ、かつ、風合いの柔らかな不織布を得ることができた。
【0038】
一方、比較例1では、IPAの共重合割合が10モル%未満であり、かつTPAが80モル%を超えているため、バインダー繊維用ポリエステル樹脂の軟化温度が高くなり、熱接着加工時に主体繊維までが溶融したため、目的とする不織布は得られなかった。
比較例2では、IPAの共重合割合が40モル%を超えており、かつTPAが50モル%未満であるため、得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度及び軟化温度が低下し、紡糸加工時に糸条の融着が発生したため、不織布を得ることができなかった。
比較例3では脂肪族ジカルボン酸の共重合割合が3モル%未満であるため、得られた不織布は柔軟性が無く、更に生分解性に劣るものとなった。
【0039】
比較例4では脂肪族ジカルボン酸の共重合割合が30モル%を超えているため、得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度が低下し、紡糸加工時に糸条の融着が発生するため、不織布を得ることができなかった。
比較例5ではリン化合物の共重合割合が少なすぎたために、得られた不織布は柔軟性が乏しく、風合いが悪いものとなった。
比較例6では、リン化合物の共重合割合が多すぎたために、紡糸時に糸切れが多発し、操業性が非常に悪いものとなり、不織布が得られなかった。
【0040】


【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールを主たるジオール成分としてなるポリエステルであって、全酸成分に対して、テレフタル酸が50〜80モル%、イソフタル酸が10〜40モル%、脂肪族ジカルボン酸が3〜30モル%、下記式(1)で示されるリン化合物が0.3〜1.5モル%、それぞれ共重合されており、ガラス転移温度が40〜80℃、軟化温度が80〜180℃であることを特徴とするバインダー繊維用ポリエステル樹脂。

【化1】












【公開番号】特開2006−342281(P2006−342281A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170601(P2005−170601)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】