説明

バクテリオシン含有乳酸菌培養物の製造法及びそれを用いる食品の保存方法

ワイセラ属等の乳酸菌を培養することによりプロテアーゼ耐性バクテリオシンを含有する乳酸菌培養物を製造することができ、該培養物を食品に用いることで食品の保存性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、1)バクテリオシン含有乳酸菌培養物の製造法、2)当該バクテリオシンを含有する乳酸菌培養物を用いる食品の保存方法、及び3)バクテリオシン生産乳酸菌のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
食品の腐敗や品質の低下等を防止する目的で、食品保存料が種々の食品に添加されている。かかる食品保存料としては、これまでは主に化学的に合成された食品保存料が用いられている。しかしながら、化学的に合成された食品保存料は残留性や毒性等安全面が懸念される場合がある。このような問題を解決するためには、伝統的な食品由来の安全な抗菌性物質の開発が望まれている。
ところで、乳酸菌は、古来より醤油、味噌、漬け物、日本酒等の様々な発酵食品(発酵飲料も含む)の生産に利用されている有用な微生物の1つである。また、乳酸菌は発酵食品の製造過程で用いられていた。これは、乳酸発酵により産生される乳酸によって系のpHが低下することで、製造過程及び製品中での雑菌等の生育を阻害し、その結果、製品の腐敗や品質の低下を防ぐことができるからである。また、乳酸菌が生産する抗菌性物質も製品の腐敗や品質の低下防止に有効であることも実証されている。
抗菌性物質の中でも、各種細菌によって生産されるタンパク質性の抗菌性物質はバクテリオシンと称されている。乳酸菌の産出するバクテリオシンの中でもナイシンは、GRAS物質としてFDAに認可され、WHOやFAOでも安全な抗菌活性物質であることが認められている。尚、ナイシンは現在、世界50カ国以上で食品保存料として利用されている。
しかし、ナイシンをはじめとする既知のバクテリオシンはプロテアーゼで容易に分解されるという問題がある。すなわち、発酵食品である清酒、醤油及び味噌の製造では、アスペルギルス・オリゼ等が産出するプロテアーゼ等によって、バクテリオシンは容易に分解されるため、充分な抗菌性を保つことができない。例えば、清酒の火入れ前にナイシンを添加する場合(特開平6−319516)や別のバクテリオシンであるアシドシン8912を添加する場合(特開平6−319516号公報)には、これらのバクテリオシンが原酒中のプロテアーゼ等の酵素で分解されるため、抗菌効果が得られないことが報告されている。尚、現時点では、乳酸菌がプロテアーゼ耐性のバクテリオシンを生産することは、報告されていない。
また、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品は元来原材料に存在する微生物や製造工程中に付着した微生物によって自然発酵することにより、好ましい風味や保存性が付与される。現在、品質の安定化、製造期間の短縮、有害微生物の生育防止等を目的として、スターターカルチャー法が開発されている(乳酸菌の科学と技術、学会出版センター239頁、1996年)。
例えば、チュング(Chung)等は、ナイシン溶液に浸漬することによる未調理の食肉の処理、又は予めある種の細菌を接種した生の食肉に及ぼすナイシンの効果を論じている。この報告によると、生肉に用いられたナイシンは極めて短時間に活性が消失する(Env.Microbiol.55:(6)p1329−1333(1989))。これは、食肉中にあるカテプシン(Cathepsin)等のプロテアーゼによって、ナイシンが分解されたため、抗菌活性が極めて短時間で消失する為と推定されている。
上記のようなナイシンの酵素による分解を防ぐために、食肉を加熱処理した後で、当該加熱処理食肉にナイシン等のランチオニン系バクテリオシンを表面使用する発明も報告されている(特開平6−22685)。しかし、ナイシン添加前に食肉を加熱処理に付す必要があり、利用範囲がやや限定される。
従って、発酵食品、食肉加工食品等の食品において、広範囲に使用できるプロテアーゼ耐性バクテリオシンの提供は食品業界では待望されているのが現状である。
【発明の開示】
上記したように、乳酸菌は、古くから発酵食品を初めとする種々の食品加工に利用されており、安全性の面で心配がない。また、乳酸菌が生産する抗菌性物質は、化学的に合成された物質よりも安全性が高いと考えられる。従って、本発明の課題は、1)プロテアーゼ耐性を有するバクテリオシン含有乳酸菌培養物の製造法、2)当該バクテリオシンを含有する乳酸菌培養物を用いる食品の保存方法、及び3)プロテアーゼ耐性を有するバクテリオシン生産乳酸菌のスクリーニング法の提供である。
本発明者は、上記課題を解決する為に、発酵乳等の発酵食品に存在する乳酸菌を分離して、プロテアーゼ耐性新規バクテリオシン生産能を有する菌株の探索を行った。その結果、同物質を生産する乳酸菌の分離に成功した。また、本菌によって生産されるバクテリオシンは、新規物質であることも確認した。即ち、本発明は以下の通りである。
1.プロテアーゼ耐性を有するバクテリオシンを含有する乳酸菌培養物の製造法。
2.乳酸菌がワイセラ属、ペディオコッカス属、ラクトバシラス属、ロイコノストック属のいずれかに属する前記1記載の製造法。
3.ワイセラ属に属する乳酸菌がワイセラ・エスピー FERM P−19577、ワイセラ・シバリア JCM12495、ワイセラ・コンフューサ JCM1093、ワイセラ・ヘレニカ JCM10103、ワイセラ・カンドレリ JCM5817、ワイセラ・マイナー JCM1168、ワイセラ・パラメセンテロイデス JCM9890、ワイセラ・タイランデンシス JCM10694のいずれかである前記2記載の製造法。
4.ペディオコッカス属に属する乳酸菌がペディオコッカス・ペントサセウスである前記2記載の製造法。
5.ラクトバシラス属に属する乳酸菌がラクトバシラス・プランタラム、ラクトバシラス・サリバリウス、ラクトバシラス・ペントサスのいずれかである前記2記載の製造法。
6.ロイコノストック属に属する乳酸菌がロイコノストック・シトレウム、ロイコノストック・シュードメセンテロイデス、ロイコノストック・アルジェンティナム、ロイコノストック・カルノサム、ロイコノストック・メセンテロイデスのいずれかである前記2記載の製造方法。
7.前記1乃至6記載の乳酸菌培養物を食品の製造工程で用いることを特徴とする食品の保存方法。
8.食品が発酵食品又は食肉加工品である前記7記載の保存方法。
9.バクテリオシン生産乳酸菌のスクリーニング法において、プロテアーゼ存在下においても抗菌活性を有する乳酸菌培養物をスクリーニングすることを特徴とする乳酸菌のスクリーニング方法。
以下に、本発明を詳細に説明する。
長寿国としても知られているアルメニア国には、昔から、健康によく、病気の時に処方される食品が多数ある。例えば、マトゥーン(Matsoon)やナリーン(Narine)等の乳酸食品やアプリコットの乾物、赤ワイン、ジェシイン、チィナフ等が上げられる。本発明者は、アルメニア国において食されている発酵乳マトゥーン(Matsoon)や、発酵食品の原料である麹等に主に着目して研究を展開した。
本発明において、「プロテアーゼ耐性を有するバクテリオシン」、「プロテアーゼ耐性バクテリオシン」とは、プロテアーゼ存在下、例えばアスペルギルス・オリゼ由来のプロテアーゼ存在下においても抗菌活性を有するバクテリオシンを示し、アミラーゼによってその抗菌活性が低下するという特徴を有するものも含まれる。
「プロテアーゼ耐性を有するバクテリオシン」あるいは「プロテアーゼ耐性バクテリオシン」を含有する乳酸菌培養物とは、具体的には、下記方法において検定菌の増殖阻止円を形成する乳酸菌培養物を指す。
(1)従来の培養方法(あるいは分離した培養方法)にて乳酸菌培養液を調製する。乳酸菌培養液はNaOHを用いてpH5.5−6.0に調整した後、12,000rpm×10minで遠心分離し、Disposable Syringe Filter Unit(ADVANTEC社製)「Dismic−25cs」,Cellulose Acetate 0.45μmにてフィルター濾過したものをサンプルとする。抗菌活性が低い場合は、室温で減圧にて4倍に濃縮を行う。さらに必要ならば、10倍まで濃縮を行う。
(2)検定菌としてListeria innocua ATCC33090T、Bacillus circulans JCM2504T、Bacillus coagulans JCM2257、Micrococcus luteus IFO12708、Bacillus subtilis JCM1465T、Bacillus subtilis IAM1381、Lactococcus lactis sub sp.Lactis ATCC19435、Enterococcus faecium JCM5804T、Enterococcus faecium JCM5803T、Lactobacillus plantarum ATCC14917T、Lactobacillus sakei JCM1157Tを用いて、後述するspot−on−lawn methodあるいは生菌数測定にて抗菌活性を測定し、最も強く抗菌活性を示す検定菌を選定する。
(3)酵素にはアスペルギルス由来プロテアーゼ(天野エンザイム(株)製「ウマミザイムG」等)を用いる。
(4)(1)記載のサンプルに(3)記載の酵素を10〜100Unit/mlを添加し、30℃、1hrs以上反応する。
(5)(2)の最も強く抗菌活性を示した検定菌を塗抹した、検定菌が増殖可能な培地、例えばMRS培地等に(4)の酵素処理したサンプルを0.01ml滴下し、検定菌の増殖最温度(Listeria innocua、Bacillus coagulans、Enterococcus faecium、Pediococcus pentosaceusは37℃、それ以外は30℃)で20〜24時間培養後、検定菌の増殖阻止円を確認する。
本発明で使用されるプロテアーゼ耐性を有するバクテリオシンを生産する乳酸菌は発酵食品等から分離された乳酸菌である。勿論、発酵食品等以外からでも、後述するスクリーニング法を用いて抗菌活性のある乳酸菌をスクリーニングし、使用してもかまわない。即ち、プロテアーゼ耐性バクテリオシンを生産する乳酸菌であれば何でも使用でき、分離源は特に拘らない。本発明者が検討した結果、乳酸菌の中でも、ワイセラ属、ペディオコッカス属、ラクトバシラス属、ロイコノストック属等が目的とするプロテアーゼ耐性バクテリオシンを生産していることを発見した。勿論、上記以外の乳酸菌でも、プロテアーゼ耐性バクテリオシンを生産する乳酸菌であれば何でも使用できることは言うまでもない。
これらのプロテアーゼ耐性バクテリオシンを生産する乳酸菌を培養して得たプロテアーゼ耐性バクテリオシンを含有する培養物を、醤油、味噌、魚醤等の各種発酵食品及びハム、ソーセージ等の各種食肉加工食品の製造工程で用いることにより、目的とする食品の腐敗や品質劣化等を防止できる。バクテリオシンを単離して用いてもよいし、又、単離せず培養物そのものを用いてもかまわない。単離等の精製操作は通常、煩雑であるので、培養物をそのまま各種発酵食品の製造工程で添加するのが好ましい。更に、プロテアーゼ耐性バクテリオシンを含有する培養物を発酵食品、食肉加工食品等の製造工程で1回又は複数回にわけて添加すればよく、添加回数も自由に選択すればよい。
目的とするプロテアーゼ耐性バクテリオシンを含有する乳酸菌培養物を取得するためには乳酸菌を培養しなければならないが、培養温度、培養時間、培養方法、培地等の培養条件は通常の乳酸菌の培養に使用されるものを用いればよい。また、単離する場合は通常の、ゲルろ過等の分離精製方法を駆使すれば良い。本発明の乳酸菌培養物とは乳酸菌の菌体をそのまま含む乳酸菌を培養した培地又は乳酸菌を培養した培地から乳酸菌を遠心分離等により分離したものを指し、その培地は液体培地でも固体培地でもゲル状の培地でもかまわない。液体培地を用いる場合、乳酸菌培養液と記載される場合があるが、当然、乳酸菌培養液は乳酸菌培養物に含まれる。また、乳酸菌培養液を凍結乾燥、噴霧乾燥などにより乾燥したもの、膜処理、減圧濃縮等により濃縮、ペースト化したもの、抗菌活性画分を限外ろ過、クロマトグラフィ等で分画したものも乳酸菌培養物に含まれる。
プロテアーゼ耐性バクテリオシンを含有する乳酸菌培養物を添加する食品は限定されない。従って、いかなる食品にも使用できるが、微生物が生産工程で関与する発酵食品及び食肉加工食品にプロテアーゼ耐性バクテリオシンを含有する乳酸菌培養物を添加するのが最も好ましい。
発酵食品としては、具体的には醤油、魚醤、酒、味噌、漬物、チーズ等のものを挙げることができる。勿論、これらは一例であり、これ以外のものに使用しても構わない。
尚、発酵食品では、従来、制菌剤として食塩を用いてきたが、近年減塩化のニーズも高まっていること及び減塩及び無塩化によって蛋白質の分解速度を向上できるという利点もあるため、ナイシンのようなバクテリオシンを発酵食品で利用する研究がなされている。しかしながら、製造工程中に存在するプロテアーゼによってナイシンや既知のバクテリオシンは分解されるため、その制菌効果がみられないのが現状である。こうした発酵食品の製造工程にもプロテアーゼ耐性を有するバクテリオシンを含有する乳酸菌培養物は利用できる。
また、食肉加工食品としては、ハム、ソーセージ等を挙げることができる。勿論、これらは一例であり、これ以外のものに使用しても構わない。
プロテアーゼ耐性バクテリオシンを含有する乳酸菌培養物を添加して得た発酵食品、食肉加工食品等の食品は保存安定性が著しく優れている。
以下に本発明の重要な点であるプロテアーゼ耐性バクテリオシンを生産する乳酸菌のスクリーニング法について、発酵食品マトゥーン(Matsoon)からの分離を1例にとって述べる。
発酵食品の1つである発酵乳マトゥーン(Matsoon)から採取した試料を乳酸菌の生育できる培地、例えばMRS培地(表1)やM17培地(表2)に0.5%添加し、30℃から37℃で培養する。培養日数は、1日、5日及び10日とする。培養終了後、0.5%の炭酸カルシウムを含む前述の寒天培地(Agar1.2%)に塗抹培養し、生じたコロニーから乳酸菌を採取する。


採取した乳酸菌は、前述の液体培地及び培養条件で同様に培養する。次に、予めフィルター濾過したアスペルギルス・オリゼ由来のプロテアーゼであるウマミザイムG(天野エンザイム(株)製)を添加したMRS寒天培地プレートに、これらの乳酸菌を植菌し24時間培養する。次いで、このプレートに検定菌を混釈したLactobacilliAOAC培地(表3)を重層し、本プレートを24時間培養し、検定菌の生育阻止円を形成させる。

尚、プロテアーゼを添加する方法は、寒天培地に混釈する本方法以外の方法を次に挙げる方法を用いても構わない。
1)検定菌とともにプロテアーゼを混釈する方法。2)寒天培地にプロテアーゼを塗布する方法。3)乳酸菌コロニーを培養する際に、プロテアーゼを添加する方法。この際に、プロテアーゼは、培養開始時や培養途中さらには培養終了時に添加してもよい。4)乳酸菌コロニーを培養した後、培養液中の菌体を除菌もしくは死滅させた後プロテアーゼを添加したサンプルの適量を、検定菌を混釈したプレートに滴下し、阻止円の形成を確認する方法。繰り返し述べるが、上記1)から4)方法に限定されるものではない。またプロテアーゼもウマミザイムGに限定されるものではない。
次に、抗菌スペクトル解析による評価を行う。後述する抗菌活性プレート上に、抗菌活性のみられた乳酸菌の培養液上清を順次希釈しスポットする
spot−on−lawn methodを用いて抗菌スペクトルを調べる。
まず、抗菌活性サンプルを調整する。前述の方法で取得した抗菌活性を有する菌株の培養液を10,000rpmで10分間遠心分離し、培養上清を得、さらに上清液をフィルター濾過し、無菌サンプルとした。本サンプルを2倍ずつ希釈し段階的に211希釈液を作成した。また活性が低い場合は必要に応じて、室温にて2倍ずつ減圧濃縮し段階的に2−3希釈液を作成した。
次に、抗菌活性プレートに混釈する検定菌の培養を行う。表4に記載した検定菌はTSBYE(表5、表6)もしくはMRS培地にて培養する。Bacillus属及びMicrococcus属は振盪培養を行うが、それ以外は静置にて培養する。また、Bacillus coagulans,Listeria,Pediococcus,Enterococcusは37℃、それ以外は30℃で培養する。



更に、抗菌活性プレートの作成を行う。即ち、MRS寒天培地(agar1.2%)10ml及びLactobacilliAOAC寒天培地(agar1.2%)5mlを、それぞれ別途に121℃で15分殺菌し、55℃にて保温する。滅菌シャーレに上記殺菌したMRS寒天培地を撒き、1時間クリーンベンチ内に置いておく。次に、55℃で保温しておいたLactobacilliAOAC寒天培地に検定菌培養液50μlを添加して混釈し、MRSプレートに重層する。クリーンベンチ内でプレートの蓋を開けておき(約15分)表面を乾燥させた。
上記で作成した抗菌活性含有サンプルを10μlずつ滴下し、蓋をして1時間ほど置いて乾燥させ、プレートを各検定菌の培養温度にて20時間培養し、生育阻止円の形成を調べた。なお、抗菌活性(AU/ml)は、以下のように定義した。
抗菌活性(AU/ml)=(阻止円を形成した最大の希釈率)×1000/10
このように抗菌スペクトルを解析したサンプルは、プロテアーゼ耐性を有しており、かつ幅広い抗菌スペクトルを示すものであった。
上記の手法で選択した乳酸菌AJ110263株の菌学的性質を調べたところ、16SリボソームDNA(rDNA)塩基配列の相同性解析(Altschul,S.F.,Madden,T.F.,Schaffer,A.A.,Zhang,J.,Zhang Z.,Miller,W.,and Lipman,D.J.(1997)Gapped BLAST and PSI−BLAST:a new generation of protein database search programs.Nucleic Acids Res.25:3389−3402.)によりワイセラ・コンフューサ(Weissella confusa)ATCC 10881株と98.22%の相同性(表7)を示した。なお、相同性評価はATCCに寄託されている基準株(type culture)を用いた。

基本特性(表8)より乳酸菌の一般性状に一致し、糖質の発酵性(表9)は、ワイセラ・コンフューサの発酵性に類似すると考えられた。しかしながら、L−アラビノースの発酵性が異なること及び16SrDNAにおいて100%のホモロジーを示さなかったことから、公知菌とは明らかに異なる新規な菌株と認め、本菌をワイセラ・エスピー(Weissella sp.)AJ110263株と命名した。本菌は、独立法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託されており、その寄託番号はFERM P−19577である。


【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。もちろん、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
発酵乳マトゥーン(Matsoon)から分離したWeissella sp.AJ110263(FERM P−19577)、及びタイプカルチャーから取得したPediococcus pentosaceus JCM5885、Pediococcus pentosaceus JCM5890、Lactobacillus plantarum JCM1149、Lactobacillus salivarius JCM1231をMRS液体培地(表1)で前培養及び本培養を行った。Weissella sp.は30℃、それ以外の菌株は37℃とした。ウマミザイムGを0U/ml(未添加)、200U/ml及び400U/mlそれぞれ添加したMRS寒天培地プレートに先の乳酸菌を植菌し24時間培養した。
尚、培養は500mlの坂口フラスコにMRS培地100mlを張込み、前培養液100μlを植菌し、振盪数100回/分にて培養した。
次いで、ラクトバチラス・サケイ(Lactobacillus sakei)JCM1157株を検定菌として混釈したLactobacilliAOAC培地を重層した。これらプレートを24時間培養した結果、検定菌の生育阻止円が形成された(表10)。この結果から、いずれの株もプロテアーゼ耐性バクテリオシンを生産していることが確認された。

【実施例2】
Lactococcus lactis NCD0497(NisinA生産菌)、Lactococcus lactis NCIMB702054(NisinZ生産菌)をMRS液体培地で30℃にて培養を行った。実施例1と同様にラクトバチラス・サケイ(Lactobacillus sakei)JCM1157株を検定菌として抗菌評価を実施した。
また、Nisin生産菌株を用いる代わりにICN Biomedical社製 NisinA1000IU/ml液10μlをMRS寒天培地プレート上にスポットし、上記抗菌評価を実施した。
プロテアーゼ非存在下では検定菌の生育阻止円が形成されたが、プロテアーゼ存在下ではプロテアーゼ濃度が高くなるほど活性が低下した(表11)。

【実施例3】
Weissella sp.AJ110263(FERM P−19577)、Pediococcus pentosaceus JCM5885、Lactococcus lactis NCD0497(NisinA生産菌)及びLactobacillus sakei JCM1157株を培養し、培養液を10,000rpmで10分遠心分離し、培養上清を得た。ウマミザイム200U/mlを培養上清に添加し30℃、24時間酵素処理した後に、上清液をフィルター(ADVANTEC社製 DISMIC25CS,0.45μm)濾過し、無菌サンプルとした。
spot−on−lawn methodを用いて抗菌スペクトルを調べた結果、Nisin生産菌培養液やバクテリオシンを生産しない乳酸菌Lactobacillus sakei JCM1157に比べ、Weissella sp.AJ110263(FERM P−19577)、Pediococcus pentosaceus JCM5885はプロテアーゼ処理しても抗菌活性が観られた(表12)。これより、Weissella sp.AJ110263(FERM P−19577)、Pediococcus pentosaceus JCM5885はプロテアーゼ耐性バクテリシンを生産していることが確認された。

【実施例4】
表13に示したWeisella sp.AJ110263(FERM P−19577)、Pediococcus pentosaceus JCM5885、Lactobacillus plantarum JCM1149、Lactobacillus salivarius JCM1231、Leuconostoc citreum JCM9698、Leuconostoc pseudomesenteroides JCM9696,JCM11045、Lactococcus lactis NCIMB702054(NisinZ生産菌)等各種乳酸菌の培養液を実施例3と同様に酵素にて処理した後、Bacillus subtilis IAM1381を検定菌とし、spot−on−lawn methodにて抗菌活性を測定した。酵素は実施例3同様アスペルギルス・オリゼ由来のプロテアーゼであるウマミザイムGを使用した。また、バチルス・ズブチルス由来のα−アミラーゼ(和光純薬社製)を乳酸菌培養液に100Unit/mlを添加し、30℃、1hrs以上反応させた後、同様にBacillus subtilis IAM1381を検定菌とし、spot−on−lawn methodにて抗菌活性を測定し、α−アミラーゼによる抗菌活性への影響も調べた。表13に示したようにWeisella sp.AJ110263(FERM P−19577)、Weissella cibaria JCM12495、Weissella confuse JCM1093、Weissella hellenica JCM10103、Weissella kandleri JCM5817、Weissella minor JCM1168、Weissella paramesenteroides JCM9890、Weissella thailandensis JCM10694、Pediococcus pentosaceus JCM5885、Lactobacillus plantarum JCM1149、Lactobacillus salivarius JCM1231、Lactobacillus pentosus JCM1558、Leuconostoc citreum JCM9698、Leuconostoc pseudomesenteroides JCM9696,JCM11045、Leuconostoc argentinum JCM11052、Leuconostoc carnosum JCM9695、Leuconostoc mesenteroides JCM6124の培養液はプロテアーゼ処理をしても抗菌活性が観られたことから各株は、プロテアーゼ耐性バクテリオシンを生産していることが確認された。また、これらの培養液はα−アミラーゼ処理により、抗菌活性が低下することも確認された。尚、表13の残存活性は、抗菌活性(AU/ml)=阻止円を形成した最大の希釈率×1000/10×(酵素処理サンプルの阻止円径/コントロールの阻止円径)として算出した。

【実施例5】
三角フラスコ(200ml容)6本にそれぞれ大豆(10g)及び純水(10ml)を添加し120℃、30分間オートクレーブ殺菌した。冷却した後、麹菌(醤油用1紫1号菌)0.04gを添加し、30℃で2日間静置培養した。各々の麹は、サンプル1に殺菌済みの純水40ml、サンプル2に最終濃度が18%になるようにした食塩水40ml、サンプル3にLactococcus lactis NCIMB702054(NisinZ生産菌)培養上清液40ml、サンプル4にWeisella sp.AJ110263(FERM P−19577)培養上清液40ml、サンプル5にPediococcus pentosaseceus JCM5885培養上清液40ml、サンプル6にLactobacillus salivarius JCM1231培養上清液40mlを加え、フィルター濾過した6N塩酸及び6NNaOHを用いてpH6.5〜7.0とした。
さらにTSBYE培地にて30℃で20時間振盪培養したBacillus subtilus IAM1381を200μL植菌し、よく混ぜて30℃にて培養した。培養1日、2日、7日目に培養液を採取し、GAM寒天培地(日水製薬(株)社製GAMブイヨン”NISSUI”)にて、Bacillus subtilus IAM1381の生菌数を測定した。純水添加区では、汚染菌Bacillus subtilus IAM1381が10以上存在し、食塩18%条件区では汚染されなかった。他方、無塩でナイシン上清液を添加した場合、分解1日目よりナイシンが麹菌由来のプロテアーゼで分解される為に10以上汚染され、抗菌効果がみられなかった。
しかしながら、Weisella sp.AJ110263(FERM P−19577)、Pediococcus pentosaseceus JCM5885、Lactobacillus salivarius JCM1231の培養上清液を用いた場合には、分解初日より7日まで汚染菌Bacillus subtilus IAM1381はみられなった(表14)。

【実施例6】
Lactococcus lactis NCIMB702054(NisinZ生産菌)及びWeissella sp.AJ11026(FERM P−19577)をMRS培地にて培養した培養液を、NaOHを用いてpH5.5に調製し、さらにpH調製した培養液を遠心分離して菌体をのぞいた培養上清液を作成した。pH5.5に調製した乳酸菌体を含む培養液及び、除菌培養上清液を下記の実験に用いた。
ファルコン社製無菌チューブ6本(50ml)に黒毛和牛の挽肉5gを加え、サンプル1に生理食塩水、サンプル2に18%食塩水、サンプル3にLactococcus lactis NCIMB702054培養上清液、サンプル4にLactococcus lactis NCIMB702054培養液、サンプル5にWeissella sp.AJ11026培養上清液、サンプル6にWeissella sp.AJ11026培養液をそれぞれ5mlずつ入れた。さらにTSBYE培地にて37℃で24時間静置培養したLisiteria innocua ATCC33090を10cfu/mlとなるように添加し、室温にて静置熟成させた。保存熟成1日、7日目に熟成液を採取し、Oxoid社製のLisiteria選択培地にて、Lisiteria innocua ATCC33090の生菌数を測定した。表15に示したように生理食塩水では汚染菌Lisiteria innocua ATCC33090が10cfu/ml以上存在し、18%食塩水でも10cfu/ml以上存在した。またナイシン乳酸菌培養液及び上清液を用いた場合も、ナイシンが、肉由来のプロテアーゼ(カテプシン)で分解されるため、10cfu/ml以上汚染された。しかしながら、Weissella sp.AJ11026(FERM P−19577)の培養液及び上清液を用いた場合には、熟成1日より7日目まで汚染菌Lisiteria innocua ATCC33090を10cfu/mlに低減できた。

また、抗菌スペクトルを調べた結果、エンテロコッカス・ファセウムの他に、食中毒の原因となるリステリア及び醤油や味噌の製造過程で有害なバチルス・ズブチリスに対しても生育阻害効果があることが判明した。
pH及び温度の安定性も調べた。新規バクテリオシンは、pH2〜4でも約50%の活性を維持し、pH2〜11という広い範囲で抗菌活性は安定で、特にpH4〜6付近において強い抗菌活性を有していた。また100℃で10分間加熱した後も約50%の活性を維持することから、熱安定性に優れていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
ワイセラ・エスピー(Weisella sp.)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)及びラクトバシラス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)等の乳酸菌による生産されるプロテアーゼ耐性バクテリオシンを含有する乳酸菌培養物を発酵食品や食肉加工食品等の製造工程で添加することにより、極めて優れた食品の保存方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ耐性を有するバクテリオシンを含有する乳酸菌培養物の製造法。
【請求項2】
乳酸菌がワイセラ属、ペディオコッカス属、ラクトバシラス属、ロイコノストック属のいずれかに属する請求項1記載の製造法。
【請求項3】
ワイセラ属に属する乳酸菌がワイセラ・エスピー FERM P−19577、ワイセラ・シバリア JCM12495、ワイセラ・コンフューサ JCM1093、ワイセラ・ヘレニカ JCM10103、ワイセラ・カンドレリ JCM5817、ワイセラ・マイナー JCM1168、ワイセラ・パラメセンテロイデス JCM9890、ワイセラ・タイランデンシス JCM10694のいずれかである前記2記載の製造法。
【請求項4】
ペディオコッカス属に属する乳酸菌がペディオコッカス・ペントサセウスである前記2記載の製造法。
【請求項5】
ラクトバシラス属に属する乳酸菌がラクトバシラス・プランタラム、ラクトバシラス・サリバリウス、ラクトバシラス・ペントサスのいずれかである前記2記載の製造法。
【請求項6】
ロイコノストック属に属する乳酸菌がロイコノストック・シトレウム、ロイコノストック・シュードメセンテロイデス、ロイコノストック・アルジェンティナム、ロイコノストック・カルノサム、ロイコノストック・メセンテロイデスのいずれかである前記2記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6記載の乳酸菌培養物を食品の製造工程で用いることを特徴とする食品の保存方法。
【請求項8】
食品が発酵食品又は食肉加工品である請求項7記載の保存方法。
【請求項9】
バクテリオシン生産乳酸菌のスクリーニング法において、プロテアーゼ存在下においても抗菌活性を有する乳酸菌培養物をスクリーニングすることを特徴とする乳酸菌のスクリーニング方法。

【国際公開番号】WO2005/045053
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515372(P2005−515372)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016783
【国際出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】