説明

バスバーへの溶接構造、およびバスバーへの溶接方法

【課題】導体抵抗の増加による製品機能の低下を招くことなく、低コストにてバスバーへ導体を安定して溶接し、溶接品質を高めることが可能なバスバーへの溶接方法を提供すること。
【解決手段】電流が流される金属板からなるバスバー11に対して電線21の芯線23を溶接するバスバー11への溶接方法であって、バスバー11に、通電方向に沿うスリット31を形成して細片部32を形成する切断工程と、細片部32を、バスバー11の上面11a側へ打ち出して被溶接部12を形成する打ち出し工程と、被溶接部12に芯線23を配置させ、これら被溶接部12と芯線23との接触個所を加熱して溶接する溶接工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバーへ導体を溶接する溶接構造、およびその溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バスバーへ電線の芯線からなる導体を接続する技術として、バスバーの一部に湾曲状に膨出させた圧着部を形成し、この圧着部に電線の芯線を通して押圧して圧潰するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、バスバー同士あるいはバスバーとタブ端子とを溶接する際に、溶接個所の一方に突部を形成し、溶接時の加圧力および通電時の電流を突部に集中させて溶接性を高める技術も知られている(例えば、特許文献2〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−11677号公報
【特許文献2】特開2000−324657号公報
【特許文献3】特開2001−45634号公報
【特許文献4】特開2002−95134号公報
【特許文献5】特開2006−50830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電線の芯線を圧着によってバスバーに接続する場合、バスバーに湾曲状の圧着部を形成し、さらに、その圧着部に芯線を通して押圧するという煩雑な作業を要する。
【0006】
このため、電線の芯線をバスバーに溶接して接続することが考えられるが、例えバスバーの芯線との溶接個所に突部を形成したとしても、バスバーは放熱性が高く、溶接時に発熱しにくいため、電線の芯線との溶接を安定して行うことが困難であり、溶接品質の低下を招いてしまう。また、溶接時の消費電力も多く、コストアップを招いてしまう。
【0007】
また、バスバーの放熱性を低く抑えるためにバスバーの幅や板厚を小さくすると、通電方向と直交する断面積が減少してしまい、バスバーの導体抵抗が高くなり、製品機能が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導体抵抗の増加による製品機能の低下を招くことなく、低コストにてバスバーへ導体を安定して溶接し、溶接品質を高めることが可能なバスバーへの溶接構造、およびその溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係るバスバーへの溶接構造は、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1) 電流が流される金属板からなるバスバーと、前記バスバーに対して溶接される導体と、を有するバスバーへの溶接構造であって、
前記バスバーには、通電方向に沿うスリットを設けることによって形成された細片部を該バスバーの一方の面側へ打ち出した被溶接部が形成され、
前記被溶接部と該被溶接部に配置された前記導体との接触個所が溶接されている、
こと。
(2) 上記(1)の構成のバスバーへの溶接構造において、
前記被溶接部は、その長手方向の軸を中心として捻られていること。
(3) 上記(1)または(2)の構成のバスバーへの溶接構造において、
前記細片部は、前記バスバーの板厚以上に打ち出されていること。
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明に係るバスバーへの溶接方法は、下記(4)〜(6)を特徴としている。
(4) 電流が流される金属板からなるバスバーに対して導体を溶接するバスバーへの溶接方法であって、
前記バスバーに、通電方向に沿うスリットを形成して細片部を形成するスリット形成工程と、
前記細片部を、前記バスバーの一方の面側へ打ち出して被溶接部を形成する打ち出し工程と、
前記被溶接部に前記導体を配置させ、これら被溶接部と導体との接触個所を加熱して溶接する溶接工程と、
を含むこと。
(5) 上記(4)の構成のバスバーへの溶接方法において、
前記打ち出し工程によって形成された前記被溶接部を、その長手方向の軸を中心として捻ること。
(6) 上記(4)または(5)の構成のバスバーへの溶接方法において、
前記打ち出し工程にて、前記細片部を、前記バスバーの板厚以上に打ち出すこと。
【0011】
上記(1)、および(4)の構成のバスバーへの溶接構造、およびバスバーへの溶接方法では、バスバーにスリットを形成することにより形成された細片部を打ち出して被溶接部を形成し、この被溶接部に導体を溶接するので、溶接個所からの放熱を、被溶接部の両端からバスバー側へ伝達される程度に抑えることができる。
また、通電方向に沿うスリットを形成することにより、被溶接部となる細片部を形成するので、被溶接部を形成しても、通電方向と直交する方向の断面積を減少させるようなこともない。
これにより、放熱を抑えるためにバスバーの幅や板厚を小さくすることにより、バスバーの導体抵抗を増加させて製品機能の低下を招くようなことなく、安定して溶接することができる。
しかも、溶接個所での放熱量を極力抑えることができるので、溶接に要する電力を抑え、低コスト化を図ることができる。
上記(2)、および(5)の構成のバスバーへの溶接構造、およびバスバーへの溶接方法では、被溶接部を、その長手方向の軸を中心として捻ることにより、被溶接部の角部に導体を容易に配置させて溶接することができる。つまり、被溶接部の角部をビード部として、この角部からなるビード部に導体を良好に溶接することができる。
上記(3)、および(6)の構成のバスバーへの溶接構造、およびバスバーへの溶接方法では、細片部をバスバーの板厚以上に打ち出すので、被溶接部をバスバーの他の部分から離すことができ、被溶接部からバスバー全体への熱の伝達を良好に抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導体抵抗の増加による製品機能の低下を招くことなく、低コストにてバスバーへ導体を安定して溶接し、溶接品質を高めることが可能なバスバーへの溶接構造、およびその溶接方法を提供できる。
【0013】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のバスバーへの溶接構造が適用されたバスバーの斜視図である。
【図2】本発明のバスバーへの溶接方法の手順を説明するスリットを形成したバスバーの斜視図である。
【図3】本発明のバスバーへの溶接方法の手順を説明する被溶接部を形成したバスバーの斜視図である。
【図4】本発明のバスバーへの溶接方法の手順を説明する溶接作業時におけるバスバーの斜視図である。
【図5】本発明のバスバーへの溶接方法の手順を説明する図4におけるA−A断面図である。
【図6】本発明のバスバーへの溶接方法の変形例を説明する溶接作業時におけるバスバーの断面図である。
【図7】参考例を説明する突部を形成したバスバーの斜視図である。
【図8】参考例における溶接作業時のバスバーの斜視図である。
【図9】図8におけるB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明のバスバーへの溶接構造が適用されたバスバーの斜視図である。
【0017】
図1に示すように、バスバー11は、銅または銅合金などからなる板材であり、平面視長方形状に形成され、その長手方向に沿う矢印A方向へ電流が流される。
【0018】
このバスバー11には、その一側部側に、被溶接部12が形成されている。この被溶接部12は、バスバー11の幅寸法に対して十分に狭い幅寸法を有しており、その両端がバスバー11に連結された状態にて、バスバー11の一方の面である上面11a側へ突出されている。
【0019】
この被溶接部12は、バスバー11の本体(バスバー11における被溶接部12を除く部分)から上方に突出した台形状に形成されており、その直線部12aには、電線21の端部にて、被覆22から露出された芯線(導体)23が溶接されている。電線21は、たとえば、バスバー11の分岐回路や電圧降下の測定用として用いられるもので、測定器による測定時に、その測定器へ接続される。
【0020】
次に、バスバー11へ電線21の芯線23を溶接する場合について説明する。
【0021】
図2はバスバーへの溶接方法の手順を説明するスリットを形成したバスバーの斜視図、図3はバスバーへの溶接方法の手順を説明する被溶接部を形成したバスバーの斜視図、図4はバスバーへの溶接方法の手順を説明する溶接作業時におけるバスバーの斜視図、図5はバスバーへの溶接方法の手順を説明する図4におけるA−A断面図である。
【0022】
まず、図2に示すように、バスバー11の一側部近傍部分において、バスバー11における通電方向(図1中矢印A方向)に沿ってスリット31を形成する(スリット形成工程)。
【0023】
このようにすると、バスバー11の一側部には、通電方向に沿う細片部32が形成される。
【0024】
次に、図3に示すように、細片部32をバスバー11の上面11a側へ打ち出し、直線部12aを有する台形状の被溶接部12を形成する(打ち出し工程)。
【0025】
ここで、細片部32の打ち出し寸法hとしては、バスバー11の板厚tよりも大きくすることが望ましく、このようにすると、被溶接部12は、被溶接部12以外のバスバー11の他の部分に対して隙間をあけた状態に離される。
【0026】
なお、スリット31の形成及び細片部32の打ち出しは、プレス加工によって同時に行うことも可能である。
【0027】
その後、電線21の端部にて露出された芯線23を、図3中矢印Bに示すように、被溶接部12の直線部12aの上部へ移動させて配置させ、被溶接部12と芯線23とを溶接する(溶接工程)。
【0028】
具体的には、図4及び図5に示すように、互いに重ね合わされた被溶接部12と芯線23とを、電極41によって上下から所定の押圧力にて挟持し、この状態にて、電極41同士の間に電流を流す。このようにすると、電流によって発生したジュール熱により、これら被溶接部12と芯線23とが互いに溶融して接合する。
【0029】
このとき、被溶接部12は、バスバー11から打ち出された細片部32からなるので、溶接個所からの放熱は、被溶接部12の両端からバスバー11側へ伝達される程度に抑えられる。
【0030】
このように、上記実施形態に係るバスバーへの溶接方法によれば、バスバー11にスリット31を形成することにより形成された細片部32を打ち出して被溶接部12を形成し、この被溶接部12に電線21の芯線23を溶接するので、溶接個所からの放熱を、図4中矢印Cで示すように、被溶接部12の両端からバスバー11側へ伝達される程度に抑えることができる。
【0031】
また、通電方向に沿うスリット31を形成することにより、被溶接部12となる細片部32を形成するので、被溶接部12を形成しても、通電方向と直交する方向の断面積を減少させるようなこともない。
【0032】
これにより、放熱を抑えるためにバスバー11の幅や板厚を小さくすることによりバスバー11の導体抵抗を増加させて製品機能の低下を招くようなことなく、安定して溶接することができる。
【0033】
しかも、溶接個所での放熱量を極力抑えることができるので、溶接に要する電力を抑え、低コスト化を図ることができる。
【0034】
また、細片部32をバスバー11の板厚t以上に打ち出せば、被溶接部12を、この被溶接部12以外のバスバー11の他の部分から確実に離すことができ、被溶接部12からバスバー11全体への熱の伝達を良好に抑えることができる。
【0035】
なお、被溶接部12に、上方へ突出するビード部をプレス加工によって形成しても良く、このようにビード部を形成することにより、芯線23との溶接を、より良好に行うことができる。
ここで、被溶接部12は、その幅寸法が小さい程、溶接時の放熱量を小さくすることが可能であるが、幅寸法が小さ過ぎると、プレス加工によって被溶接部12にビード部を形成することが困難となる。
【0036】
このように、被溶接部12へのビード部の形成が困難である場合を考慮したバスバーへの溶接方法を変形例として説明する。
【0037】
図6はバスバーへの溶接方法の変形例を説明する溶接作業時におけるバスバーの断面図である。
【0038】
図6に示すように、変形例に係る溶接方法では、芯線23が溶接される被溶接部12を打ち出した後に、この被溶接部12を、その長手方向の軸を中心として図6中矢印D方向へ略45°捻る。そして、このように被溶接部12を捻ることにより、バスバー11の上下に被溶接部12の角部12bを配置させる。なお、被溶接部12は、逆方向へ捻っても良い。
【0039】
その後、被溶接部12の角部12bに芯線23を配置させ、互いに重ね合わせた被溶接部12と芯線23とを、電極41によって上下から所定の押圧力にて挟持し、電極41同士の間に電流を流して被溶接部12と芯線23とを溶接する。
【0040】
この変形例によれば、被溶接部12を、その長手方向の軸を中心として略45°捻ることにより、被溶接部12の角部12bに芯線23を容易に配置させて溶接することができる。
【0041】
つまり、被溶接部12の幅寸法が小さいために、プレス加工によってビード部を形成することができない場合であっても、被溶接部12の角部12bをビード部として、この角部12bからなるビード部に芯線23を良好に溶接することができる。
【0042】
したがって、被溶接部12の幅寸法を極力小さくすることができ、これにより、被溶接部12での放熱量をさらに低減することができる。
【0043】
なお、上記実施形態では、バスバー11の一側部近傍部分の一か所にスリット31を形成して細片部32を形成したが、例えば、バスバー11の幅方向中央付近の二か所にスリット31を通電方向(図1中矢印A方向)へ平行に形成して細片部32を形成しても良い。
【0044】
また、上記実施形態では、電極41によって溶接個所を挟持して電極41間に電流を流して溶接を行う抵抗溶接(スポット溶接)を例にとって説明したが、溶接の方式としては、溶接個所を加熱するものであれば抵抗溶接に限定されない。
【0045】
ここで、本発明の更なる優位性を説明するため、図7〜図9に参考例を示す。
【0046】
図7は突部を形成したバスバーの斜視図、図8は溶接作業時のバスバーの斜視図、図9は図8におけるB−B断面図である。
【0047】
この参考例では、図7に示すように、まず、プレス加工によってバスバー11に、バスバー11の上面11a側へ突出するビード部51を形成する。そして、図8及び図9に示すように、ビード部51に、電線21の芯線23を配置させ、電極41によって上下から挟持して溶接する。
【0048】
そして、この参考例の場合では、溶接個所にて生じる熱が、図8及び図9中矢印Eにて示すように、溶接個所からバスバー11の全体へ伝達されることとなり、安定した溶接が困難となる。したがって、参考例では、溶接に十分な熱を生じさせるために、電極41同士の間に流す電流として大電流が必要となり、消費電力も多くなり、コストアップを招いてしまう。
【0049】
また、参考例におけるバスバー11の放熱性を低く抑えるためには、バスバー11の幅や板厚を小さくしなければならないが、このように、バスバー11の幅は板厚を小さくすると、通電方向に直交する断面積が減少してしまい、バスバー11の導体抵抗が高くなり、製品機能が低下してしまう。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0051】
11 バスバー
11a 上面(一方の面)
12 被溶接部
23 芯線(導体)
31 スリット
32 細片部
t 板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が流される金属板からなるバスバーと、前記バスバーに対して溶接される導体と、を有するバスバーへの溶接構造であって、
前記バスバーには、通電方向に沿うスリットを設けることによって形成された細片部を該バスバーの一方の面側へ打ち出した被溶接部が形成され、
前記被溶接部と該被溶接部に配置された前記導体との接触個所が溶接されている、
ことを特徴とするバスバーへの溶接構造。
【請求項2】
前記被溶接部は、その長手方向の軸を中心として捻られていることを特徴とする請求項1に記載のバスバーへの溶接構造。
【請求項3】
前記細片部は、前記バスバーの板厚以上に打ち出されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバスバーへの溶接構造。
【請求項4】
電流が流される金属板からなるバスバーに対して導体を溶接するバスバーへの溶接方法であって、
前記バスバーに、通電方向に沿うスリットを形成して細片部を形成するスリット形成工程と、
前記細片部を、前記バスバーの一方の面側へ打ち出して被溶接部を形成する打ち出し工程と、
前記被溶接部に前記導体を配置させ、これら被溶接部と導体との接触個所を加熱して溶接する溶接工程と、
を含むことを特徴とするバスバーへの溶接方法。
【請求項5】
前記打ち出し工程によって形成された前記被溶接部を、その長手方向の軸を中心として捻ることを特徴とする請求項4に記載のバスバーへの溶接方法。
【請求項6】
前記打ち出し工程にて、前記細片部を、前記バスバーの板厚以上に打ち出すことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のバスバーへの溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−70847(P2011−70847A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219568(P2009−219568)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】