説明

バタフライ弁およびその製造方法

【課題】全閉時における漏洩を防止する。
【解決手段】円筒形状の弁箱内に円板形状の弁体が回転自在に支持されたバタフライ弁において、弁箱10にはEGRガスが流入する流入口11と、EGRガスが流出する流出口12と、流入口11に連続した流入路13と、流出口12に連続した流出路14とを形成する。流入路13および流出路14は同一口径の円形孔形状に形成し、流入路13の中心線と流出路14の中心線とは一致する。流入路13の流入口11と反対側端部半分に流入側弁座15を流入路13よりも大きい口径の半だるま孔形状に形成し、流出路14の流出口12と反対側端部に流出側弁座16を流出路14よりも大きい口径の半だるま孔形状に形成する。流入側弁座15と流出側弁座16とは中心が一致し、互いに対向位置に配置するとともに、弁体30の厚さの分だけ軸方向にずれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バタフライ弁およびその製造方法に関する。
例えば、自動車用ディーゼルエンジンの排気ガス再循環装置に利用して有効なものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ディーゼルエンジンの排気ガス成分、特に、NOxを低減する方法の一つとしてEGR(Exhaust Gas Recirculation)法がある。
このEGR法は、排気ガス再循環バルブ(Exhaust Gas Recirculation Valve。以下、EGRバルブという。)をエンジンの排気通路と吸気通路との間のEGR路(以下、EGR管という。)に介設し、EGRバルブによってエンジンの排気ガスの一部を吸気系に戻してやり、新しい空気(吸入空気)と混ぜて燃焼室に送り込むことにより、燃焼室内に吸入された空気の過剰な酸素濃度を下げ、かつ、燃焼熱を奪う分だけ燃焼温度を下げてNOxの生成を抑制する方法、である。
【0003】
EGR法を実施する排気ガス再循環装置(以下、EGR装置という)のEGRバルブとしては、バタフライ弁を使用したものがある。例えば、特許文献1参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−278351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バタフライ弁が使用されたEGRバルブにおいては、バタフライ弁の弁軸近傍におけるシート代(接触面積)が狭小であるために、バタフライ弁の全閉時に、排気ガスが漏洩し、EGR装置の制御精度が低下するという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、全閉時における漏洩を防止することができるバタフライ弁およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するための手段のうち代表的なものは、次の通りである。
(1)流入側弁座と流出側弁座とを有する弁箱と、前記弁箱内に回転自在に支持されて前記流入側弁座と前記流出側弁座とに着座する弁体と、を備えたバタフライ弁において、
前記流入側弁座および前記流出側弁座が半だるま孔形状にそれぞれ形成されていることを特徴とするバタフライ弁。
(2)弁箱の長さ方向の中間部内周面に環帯溝を形成する環帯溝形成工程と、
前記弁箱内周面の流入路側部分における片側半分を前記環帯溝から切除して流入側弁座を形成する流入側弁座形成工程と、
前記弁箱内周面の流出路側部分における前記流入側弁座と反対の片側半分を前記環帯溝から切除して流出側弁座を形成する流出側弁座形成工程と、
を備えたバタフライ弁の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
前記したバタフライ弁によれば、全閉時における漏洩を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態であるバタフライ弁を使用したEGR装置を示す模式図である。
【図2】そのバタフライ弁を示しており、(a)は正面断面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図である。
【図3】バタフライ弁の主要部を示す一部省略一部切断斜視図である。
【図4】バタフライ弁の製造方法を示す各一部切断斜視図である。
【図5】弁体および弁軸を示す分解斜視図である。
【図6】漏洩防止効果を示す各模式的側面図であり、(a)は従来例を示し、(b)は本実施形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に即して説明する。
【0011】
図1〜図4は本発明の一実施形態を示している。
本実施形態において、本発明に係るバタフライ弁は、大型トラックに搭載されるディーゼルエンジンの排気ガスを再循環させるEGR装置のEGRバルブに使用されている。
【0012】
図1に示されているように、EGRバルブとしてのバタフライ弁7は、大型トラックに使用されるディーゼルエンジン1の吸気通路2と排気通路3とを連結するEGR管4と吸気通路2との接続部に介設されている。吸気通路2と排気通路3との間には可変容量形のターボチャージャ5が介設されている。ターボチャージャ5はマフラ(図示せず)に至る排気通路3を流れる排気によってタービン5aが回転駆動され、コンプレッサ5bによって新鮮な空気をエアクリーナ(図示せず)から吸い込んでインタクーラ6に送り込む。バタフライ弁7からなるEGRバルブは、インタクーラ6に送り込まれた新鮮な空気にEGR管4からの排気ガスを混合させて、ディーゼルエンジン1のシリンダ1aに接続された吸気マニホールド1bに供給する。
【0013】
図2および図3に示されているように、バタフライ弁7は弁箱10を備えている。弁箱10はアルミニウム、鋳鉄、構造用鋼、ステンレス鋼等が使用されて円筒形状に形成されている。
弁箱10には、EGR管4に取り込まれたEGRガスが流入する流入口11と、EGRガスが流出する流出口12と、流入口11に連続した流入路13と、流出口12に連続した流出路14と、が形成されている。流入路13および流出路14は同一口径の円形孔形状にそれぞれ形成されており、流入路13の中心線と流出路14の中心線とは一致されている。流入路13の流入口11と反対側端部半分には、流入側弁座15が流入路13よりも大きい口径の半だるま孔形状に形成されており、流出路14の流出口12と反対側端部には、流出側弁座16が流出路14よりも大きい口径の半だるま孔形状に形成されている。流入側弁座15と流出側弁座16とは中心が一致しており、互いに対向位置に配置されているとともに、弁体30の厚さの分だけ軸方向にずれている。流入路13と流出路14とにより弁通路が構成されている。
弁箱10の長さ方向の中央には一対の軸受部17、17が、弁箱10の中心線を挟んで対向するように配置されて設けられており、一対の軸受部17、17は弁軸20を回転自在に支持するように構成されている。
【0014】
ここで、本発明の一実施形態であるバタフライ弁の製造方法に係る流入側弁座15および流出側弁座16の形成方法を、図4に即して説明する。
【0015】
図4(a)に示されているように、弁箱10は円筒形状に形成される。弁箱10には長さ方向の中央に、一対の軸受部17、17が中心線と直交する線分上に配置されてそれぞれ形成されている。弁箱10の内周面における一対の軸受部17、17が形成された部位には、環帯溝18がエンドミル等の溝切り工具41を使用して形成される。
環帯溝18は軸方向幅Sが弁体30の厚さTよりも若干大きめに設定され、溝底の内径(口径)dが弁体30の外径Dよりも若干大きめに設定される。
【0016】
図4(b)に示されているように、エンドミル等の切削工具42が使用されることにより、弁箱10の内周面における流入路13に対応する右側部分の上側半分が、環帯溝18から流入口11にわたって切除される。この切除により、環帯溝18の左側壁面上側半分には、流入路13よりも大きい口径の半だるま孔形状の流入側弁座15が形成される。
【0017】
図4(c)に示されているように、同様に、切削工具42が使用されることにより、弁箱10の内周面における流出路14に対応する左側部分の下側半分が、環帯溝18から流出口12にわたって切除される。この切除により、環帯溝18の右側壁面下側半分には、流出路14よりも大きい口径の半だるま孔形状の流出側弁座16が形成される。
なお、本実施形態においては、例えば、流入口11の側から切削工具42を挿入して、弁箱10の内周面における流入路13に対応する右側部分の上側半分と、弁箱10の内周面における流出路14に対応する左側部分の下側半分の両方とも、弁箱10を冶具から外したり、軸受部17を中心に180度回転させることなく加工することができる。また、流出口12の側から加工してもよい。
【0018】
翻って、図2および図3に示されているように、弁箱10の中心線上には弁軸20が中心線と直交するように架設されており、弁軸20の両端部は弁箱10に形成された一対の軸受部17、17によって回転自在に支持されている。弁軸20の一端部は弁箱10の外部に突出しており、突出端部には弁軸20を90度往復回動させるアクチュエータが連結される。
【0019】
図5に示されているように、弁軸20の中間部には取付部21が形成されており、取付部21には円形平板形状に形成された弁体30が締結されている。
弁軸20はアルミニウム、鋳鉄、構造用鋼、ステンレス鋼等が使用されて円柱形状に形成されており、弁軸20の中間部の片面には面取り部22がエンドミル等を使用した切削加工によって一定幅および一体深さに形成されている。面取り部22は軸方向の幅が弁体30の直径よりも大きく、深さが弁軸20の直径の1/4程度に形成される。
面取り部22には取付面23と一対のシール部24、24とが、エンドミル等を使用した切削加工によって同時に形成されている。取付面23は深さが弁体30の厚さと略等しく形成されている。一対のシール部24、24はそれぞれ略二等辺三角形の平板形状に形成されており、取付面23の中心に対して点(回転)対称形に配置されている。一対のシール部24、24は先端の間隔W24が弁体30の直径Dよりも若干大きくなるように設計されている。
【0020】
弁体30は直径Dが一対のシール部24、24の先端の間隔W24よりも若干小さい円板形状に形成されており、弁体30の外周には半円形平板形状の突起31が一対、180度離れた位置にそれぞれ配置されて径方向外向きに突設されている。一対の突起31、31は先端の間隔W31が一対のシール部24、24の先端の間隔W24よりも若干大きく形成されており、一対の突起31、31の外周の一部が一対のシール部24、24の外周の一部に接触するように設定されている。
弁体30の中間部には一対の挿通孔32、32が一対の突起31、31に対応する位置に配置されて、厚さ方向に貫通するようにそれぞれ穿設されている。挿通孔32の内径は雌ねじ孔25の内径よりも若干大きく設定されている。
弁体30は弁軸20と熱膨張係数が均等の材料が使用されてプレス加工によって成形される。一対の突起31、31は弁体30のプレス加工時に形成される。
【0021】
弁軸20の取付部21に取り付けられる際に、弁体30は中心が取付面23の中心に整合されるとともに、一対の突起31、31が一対のシール部24、24に同一回転方向位置になるように配置され、続いて、弁体30が取付面23に対して水平回転されることにより、図2(b)に示されているように、一対の突起31、31の側面が一対のシール部24、24の側面にそれぞれ接触される。
次いで、図2(a)および図5に示されているように、面取り部22に対応した形状の固定部材26が面取り部22に取り付けられて、続いて、固定部材26に穿設された一対の挿通孔27、27および弁体30の一対の挿通孔32、32に一対のボルト28、28がそれぞれ挿通されて、雌ねじ孔25、25にねじ込まれることにより、弁体30が弁軸20の取付部21に締結される。
なお、弁軸20と固定部材26とは一体であってもよい。
【0022】
EGR装置におけるバタフライ弁7の作用および効果を説明する。
例えば、NOxの生成を抑制する必要がない場合には、EGRバルブとしてのバタフライ弁7は、図2に示されているように全閉される。すなわち、図2において、弁体30は上側半分の流出口12側端面が流入側弁座15に当接し、下側半分の流入口11側端面が流出側弁座16に当接することにより、流入路13と流出路14との連通を遮断する。
【0023】
この全閉状態において、図6(a)に示されているように、弁箱10の両側からオフセットした円形孔を切削して流入側弁座15' と流出側弁座16' とを形成する従来のバタフライ弁においては、流入側弁座15' および流出側弁座16' は三日月形状になるので、弁軸20近傍においてシート代(接触面積)が狭小になってしまう。
また、弁体30と流入路13および流出路14の内周面とのクリアランスCが小さいので、弁体30と流入路13および流出路14の内周面との干渉を防止するストッパを設ける必要があるが、寸法公差等が厳格になる。また、流入路13または流出路14の内周面に煤が堆積すると、弁体30と堆積した煤が干渉して弁体30の動きが重くなってしまう。
【0024】
本実施形態に係るバタフライ弁7においては、前述したように、流入側弁座15および流出側弁座16は半だるま孔形状にそれぞれ形成されているので、図6(b)に示されているように、弁軸20近傍においても他と同一のシール代を確保することができる。すなわち、半だるま孔形状の流入側弁座15および流出側弁座16は径方向幅Aが全周(半周)にわたって一定であるので、弁軸20近傍においてもシール代は減少しない。
また、弁体30と流入路13および流出路14の内周面とのクリアランスCが大きくなるので、弁体30と流入路13および流出路14の内周面との干渉を防止するためのストッパを省略することができるか、設ける場合であっても、寸法公差等の厳格性を大幅に緩和することができる。そして、クリアランスCが大きくとれるため、煤が流入路13または流出路14の内周面に堆積しても、弁体30と堆積した煤が干渉して弁体30の動きを重くすることはなく、その分、弁軸20を90度往復回動させるアクチュエータを小型化することができる。
さらに、流入側弁座15と流出側弁座16との軸方向寸法は環帯溝18の幅Sによって高精度に形成することができるので、流入側弁座15と流出側弁座16と両面において当接する弁体30は、プレス加工等によって平板形状に形成すれば済む。
【0025】
前記実施形態によれば、次の効果が得られる。
【0026】
(1)弁軸近傍においても一定のシール代を確保することにより、全閉時におけるバタフライ弁のシール性能を高めることができるので、バタフライ弁の全閉時に流入路側の排気ガスが流出路側に漏洩してしまう現象によるEGR装置の制御制度の低下を未然に防止することができる。
【0027】
(2)弁体と流入路および流出路の内周面とのクリアランスを大きくすることにより、弁体と流入路または流出路の内周面との干渉を防止するためのストッパを省略することができるか、設ける場合であっても寸法公差等の厳格性を大幅に緩和することができるので、バタフライ弁のコストを低減することができる。
【0028】
(3)流入側弁座と流出側弁座との軸方向寸法を環帯溝の幅によって高精度に形成することにより、流入側弁座と流出側弁座と両面において当接する弁体はプレス加工等によって平板形状に形成すれば済むので、バタフライ弁のコストを低減することができる。
【0029】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々に変更が可能であることはいうまでもない。
【0030】
例えば、半だるま孔形状の流入側弁座および流出側弁座は前述した方法により形成するに限らず、放電加工法、ダイキャスト法、ロストワックス法、焼結法等によって形成してもよい。
【0031】
弁体を回転自在に支持する軸受部は、流入側弁座および流出側弁座の形成前に弁箱に形成するに限らず、流入側弁座および流出側弁座の形成後に形成してもよい。
【0032】
前記実施形態においては、EGR装置に使用した場合について説明したが、本発明に係るバタフライ弁は他の用途全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…ディーゼルエンジン、1a…シリンダ、1b…吸気マニホールド、2…吸気通路、3…排気通路、4…EGR管、5…ターボチャージャ、5a…タービン、5b…コンプレッサ、6…インタクーラ、7…バタフライ弁(EGRバルブ)、
10…弁箱、11…流入口、12…流出口、13…流入路、14…流出路、15…流入側弁座、16…流出側弁座、17…軸受部、18…環帯溝、
20…弁軸、21…取付部、22…面取り部、23…取付面、24…シール部、25…雌ねじ孔、26…固定部材、27…挿通孔、28…ボルト、
30…弁体、31…突起、32…挿通孔、
41…溝切り工具、42…切削工具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入側弁座と流出側弁座とを有する弁箱と、前記弁箱内に回転自在に支持されて前記流入側弁座と前記流出側弁座とに着座する弁体と、を備えたバタフライ弁において、
前記流入側弁座および前記流出側弁座が半だるま孔形状にそれぞれ形成されていることを特徴とするバタフライ弁。
【請求項2】
前記流入側弁座と前記流出側弁座との軸方向幅が、前記弁体の厚さ以上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバタフライ弁。
【請求項3】
前記流入側弁座と前記流出側弁座とは、同軸上において同心円に形成され、径方向幅が等しく設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のバタフライ弁。
【請求項4】
弁箱の長さ方向の中間部内周面に環帯溝を形成する環帯溝形成工程と、
前記弁箱内周面の流入路側部分における片側半分を前記環帯溝から切除して流入側弁座を形成する流入側弁座形成工程と、
前記弁箱内周面の流出路側部分における前記流入側弁座と反対の片側半分を前記環帯溝から切除して流出側弁座を形成する流出側弁座形成工程と、
を備えたバタフライ弁の製造方法。
【請求項5】
前記環帯溝の幅が、前記弁箱内に回転自在に支持されて前記流入側弁座と前記流出側弁座とに着座する弁体の厚さ以上に形成されることを特徴とする請求項4に記載のバタフライ弁の製造方法。
【請求項6】
前記環帯溝形成工程、前記流入側弁座形成工程および前記流出側弁座形成工程が、切削加工によって実施されることを特徴とする請求項4または5に記載のバタフライ弁の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21726(P2011−21726A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169300(P2009−169300)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000177276)三輪精機株式会社 (34)
【Fターム(参考)】