説明

バリア性積層体、ガスバリアフィルムおよびこれらを用いたデバイス、ならびに、バリア性積層体の製造方法

【課題】バリア性、耐屈曲性および各層間の密着性に優れたバリア性積層体を提供する。
【解決手段】少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層を有し、有機層の鉛筆硬度が2Bよりやわらかく、かつ、有機層が、重合性化合物を含む重合性組成物を硬化させてなり、前記重合性化合物の85重量%〜99重量%がウレタン(メタ)アクリレートであり、1重量%〜15重量%がリン酸(メタ)アクリレートあり、かつ、有機層の厚さが、100nm〜2000nmであり、前記無機層が、アルミニウムおよび/または、ケイ素の酸化物もしくは窒化物であるバリア性積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性積層体、ガスバリアフィルムおよびこれらを用いたデバイスに関する。また、バリア性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機層と無機層を有する、いわゆる有機無機積層型ガスバリアフィルムが種々検討されている(例えば、特許文献1)。ここで、有機無機積層型ガスバリアフィルムは、一般的に、屈曲させるとバリア性が劣るという問題がある。また、有機無機積層型ガスバリアフィルムは、多層構造であるため、各層間の密着性が悪くなり易いという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開平10−278167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、バリア性、耐屈曲性および各層間の密着性に優れたバリア性積層体を提供することを目的とする。また、前記バリア性積層体を用いたガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、発明者が鋭意検討を行った結果、耐屈曲性を向上させるために、有機層を軟らかくすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
具体的には、以下の手段により本発明の課題は達成された。
(1)有機層と、無機層を有し、有機層の鉛筆硬度がHBより軟らかいことを特徴とするバリア性積層体。
(2)有機層の鉛筆硬度が、Bかそれより軟らかいことを特徴とする、(1)に記載のバリア性積層体。
(3)無機層が真空製膜によってされることを特徴とする、(1)または(2)に記載のバリア性積層体。
(4)有機層が、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(5)有機層が、ウレタン(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(6)有機層が、リン酸(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(7)少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層を有し、有機層の鉛筆硬度が2Bよりやわらかく、かつ、有機層が、重合性化合物を含む重合性組成物を硬化させてなり、前記重合性化合物の85重量%〜99重量%がウレタン(メタ)アクリレートであり、1重量%〜15重量%がリン酸(メタ)アクリレートである、バリア性積層体。
(8)有機層の厚さが、100nm〜2000nmである、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(9)無機層が、アルミニウムおよび/またはケイ素の酸化物もしくは窒化物である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(10)少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機層とが、交互に積層している、(1)〜(9)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(11)支持体上に、(1)〜(10)のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたガスバリアフィルム。
(12)(11)に記載のガスバリアフィルムを基板に用いたデバイス。
(13)(11)に記載のガスバリアフィルムを用いて封止したデバイス。
(14)(1)〜(10)のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いて封止したデバイス。
(15)デバイスが、電子デバイスである、(12)〜(14)のいずれか1項に記載のデバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、バリア性、耐屈曲性、および、密着性に優れたバリア性積層体を提供することが可能になった。特に、本発明のバリア性積層体は耐屈曲性に優れているので、取り扱い性に優れるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本発明における有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を含む意味で使用される。
【0009】
本発明における鉛筆硬度とは、JIS K5400に従って測定した値をいう。また、鉛筆硬度は、軟らかいものから順に、6B、5B、4B、3B、2B、B、HB、F、H、2H、3H、4H、5H、6Hとなる。また、鉛筆硬度が10H、7B、8B、9B、10Bものを測定する場合は、三菱鉛筆株式会社製、ハイユニ アートセットの10H、7B、8B、9B、10B鉛筆を使って同様に行った値をいう。
【0010】
<バリア性積層体>
本発明のバリア性積層体は、少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を含むものであり、有機層の表面に無機層を設けた構造を有するものが好ましい。より好ましくは、少なくとも2層の有機層と少なくとも2層の無機層とが交互に積層した構造を有するものである。また、本発明におけるバリア性積層体は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、バリア性積層体を構成する組成が膜厚方向に有機領域と無機領域が連続的に変化するいわゆる傾斜材料層を含んでいてもよい。前記傾斜材料の例としては、キムらによる論文「Journal of Vacuum Science and Technology A Vol. 23 p971−977(2005 American Vacuum Society) ジャーナル オブ バキューム サイエンス アンド テクノロジー A 第23巻 971頁〜977ページ(2005年刊、アメリカ真空学会)」に記載の材料や、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように有機領域と無機領域が界面を持たない連続的な層等が挙げられる。
バリア性積層体を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。また、有機層および無機層以外の他の構成層を含んでいてもよい。
【0011】
(有機層)
本発明における有機層は、鉛筆硬度がHBより軟らかいことを特徴とするが、Bかそれより軟らかいことが好ましく、2Bかそれより軟らかいことがより好ましく、4Bかそれより軟らかいことがさらに好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。また、有機層の鉛筆硬度は、通常、10Bかそれより硬く、8Bかそれより硬いことが好ましい。
これまで、有機無機積層型ガスバリアフィルムでは、有機層は硬い方が好ましいと考えられていた。しかしながら、本願発明者が検討を行った結果、有機層を軟らかくすることにより、バリア性、耐屈曲性および密着性に総合的に優れたガスバリアフィルムが得られることが分かった。特に、耐屈曲性を付与するために、有機層を軟らかくするというのは、当業者の通常の常識に反するものである。
【0012】
本発明における有機層の材料は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者の通常の知識に従って適宜選択することができる。好ましくは、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる層であり、より好ましくは、ウレタン(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる層である。
さらに、本発明における有機層は、リン酸(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる層であってもよい。リン酸(メタ)アクリレートを添加することにより、密着性がより向上する傾向にある。リン酸(メタ)アクリレートは、有機層を構成する重合性組成物に含まれる全重合性化合物の1〜15重量%の割合で添加されることが好ましく、2〜10重量%の割合で添加されることがより好ましい。特に、本発明の有機層は、重合性化合物を含む重合性組成物を硬化させてなり、前記重合性化合物の85重量%〜99重量%がウレタン(メタ)アクリレートであり、1重量%〜15重量%がリン酸(メタ)アクリレートであり、かつ、有機層の鉛筆硬度を4Bより軟らかくすることにより、屈曲後のバリア性能および密着性が顕著に向上する傾向にある。
【0013】
(重合開始剤)
本発明における重合性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。光重合開始剤を用いる場合、その含量は、重合性化合物の合計量の0.1モル%以上であることが好ましく、0.5〜2モル%であることがより好ましい。このような組成とすることにより、活性成分生成反応を経由する重合反応を適切に制御することができる。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZTなど)、同じくオリゴマー型のエザキュアKIPシリーズ等が挙げられる。
【0014】
(有機層の形成方法)
有機層の形成方法としては、特に定めるものではないが、例えば、溶液塗布法や真空成膜法により形成することができる。溶液塗布法としては、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法により塗布することができる。真空成膜法としては、特に制限はないが、蒸着、プラズマCVD等の成膜方法が好ましい。本発明においてはポリマーを溶液塗布しても良いし、特開2000−323273号公報、特開2004−25732号公報に開示されているような無機物を含有するハイブリッドコーティング法を用いてもよい。
【0015】
本発明では、通常、重合性化合物を含む組成物を、光照射して硬化させるが、照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.1J/cm2以上が好ましく、0.5J/cm2以上がより好ましい。本発明で用いるような(メタ)アクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で0.5J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0016】
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは100nm〜2000nmが好ましく、500nm〜1000nmがより好ましい。
また、有機層は平滑であることが好ましい。有機層の平滑性は1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満が好ましく、0.5nm未満であることがより好ましい。有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0017】
(無機層)
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などの真空製膜法がある。一般的に、有機無機積層型バリア性積層体では、無機層を真空製膜法によって製膜すると、屈曲後にバリア性が著しく低下してしまうという問題があった。しかしながら、本発明では、無機層を真空製膜法によって製膜しても、屈曲性試験後にも高いバリア性を維持できる。
無機層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化窒化物または金属酸化炭化物であり、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、CeおよびTaから選ばれる1種以上の金属を含む、酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物または酸化炭化物などを好ましく用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、ZnおよびTiから選ばれる金属の酸化物、窒化物または酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物または酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
本発明により形成される無機層の平滑性は、1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満であることが好ましく、0.5nm以下がより好ましい。
無機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0018】
無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層に付き、通常、5〜500nmの範囲内であり、好ましくは10〜200nmである。無機層は複数のサブレイヤーから成る積層構造であってもよい。この場合、各サブレイヤーが同じ組成であっても異なる組成であってもよい。
【0019】
(有機層と無機層の積層)
有機層と無機層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機層を順次繰り返し製膜することにより行うことができる。
特に、本発明は、少なくとも2層の有機層と少なくとも2層の無機層を交互に積層した場合に、さらに高いバリア性を発揮することができる。交互積層は支持体側から有機層/無機層/有機層/無機層の順に積層していても、無機層/有機層/無機層/有機層の順に積層していても良い。
【0020】
(機能層)
本発明のデバイスにおいては、バリア性積層体上、もしくはその他の位置に、機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、耐溶剤層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0021】
バリア性積層体の用途
本発明のバリア性積層体は、通常、支持体の上に設けるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体には、基材フィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明のバリア性積層体はガスバリアフィルムのバリア層として用いることができる。また、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、バリア性を要求するデバイスの封止にも用いることができる。本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0022】
<ガスバリアフィルム>
ガスバリアフィルムは、基材フィルムと、該基材フィルム上に形成されたバリア性積層体とを有する。ガスバリアフィルムにおいて、本発明のバリア性積層体は、基材フィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。本発明のバリア性積層体は、基材フィルム側から無機層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機層の順に積層していてもよい。本発明のバリア性積層体の最上層は無機層でも有機層でもよい。
また、本発明におけるガスバリアフィルムは大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等を遮断する機能を有するバリア層を有するフィルム基板である。
ガスバリアフィルムを構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
ガスバリアフィルムはバリア性積層体、基材フィルム以外の構成成分(例えば、易接着層等の機能性層)を有しても良い。機能性層はバリア性積層体の上、バリア性積層体と基材フィルムの間、基材フィルム上のバリア性積層体が設置されていない側(裏面)のいずれに設置してもよい。
【0023】
(プラスチックフィルム)
本発明におけるガスバリアフィルムは、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機層等のバリア性積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0024】
本発明のガスバリアフィルムを後述する有機EL素子等のデバイスの基板として使用する場合は、プラスチックフィルムは耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0025】
本発明のガスバリアフィルムを偏光板と組み合わせて使用する場合、ガスバリアフィルムのバリア性積層体がセルの内側に向くようにし、最も内側に(素子に隣接して)配置することが好ましい。このとき偏光板よりセルの内側にガスバリアフィルムが配置されることになるため、ガスバリアフィルムのレターデーション値が重要になる。このような態様でのガスバリアフィルムの使用形態は、レターデーション値が10nm以下の基材フィルムを用いたガスバリアフィルムと円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの基材フィルムを用いたガスバリアフィルムに直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0026】
レターデーションが10nm以下の基材フィルムとしてはセルローストリアセテート(富士フイルム(株):富士タック)、ポリカーボネート(帝人化成(株):ピュアエース、(株)カネカ:エルメック)、シクロオレフィンポリマー(JSR(株):アートン、日本ゼオン(株):ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマー(三井化学(株):アペル(ペレット)、ポリプラスチック(株):トパス(ペレット))ポリアリレート(ユニチカ(株):U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学(株):ネオプリム)等を挙げることができる。
また1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
【0027】
本発明のガスバリアフィルムは有機EL素子等のデバイスとして利用されることから、プラスチックフィルムは透明であること、すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
本発明のガスバリアフィルムをディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明のガスバリアフィルムに用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、上述したもののほか、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に記載されているものを好ましく採用できる。
【0028】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、特開2010−131993号公報、特開2010−120255号公報、特開2010−089397号公報、特開2010−76288号公報、特開2010−045119号公報、特開2005−349769号公報、特開2005−349650号公報、特開2005−342995号公報、特開2005−335067号公報、特開2005−342976号公報に記載の技術を採用できる。
【0029】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ有機EL素子に好ましく用いられる。
【0030】
本発明のバリア性積層体は、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のバリア性積層体を設ける方法である。バリア性積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0031】
本発明のガスバリアフィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリアフィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0032】
(有機EL素子)
ガスバリアフィルム用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0033】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリアフィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、IPS型(In-Plane Switching)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
【0034】
(太陽電池)
本発明のガスバリアフィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のガスバリアフィルムは、接着層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。本発明のガスバリアフィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
【0035】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー等が挙げられる。
【0036】
<光学部材>
本発明のガスバリアフィルムを用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるガスバリアフィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0038】
ガスバリアフィルムの作製
1.常圧下での重合による有機層の形成、およびガスバリアフィルムの作成
ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、100μm厚、帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)を20cm角に裁断し、その平滑面側に以下の手順でバリア層を形成して評価した。
【0039】
(1)第1層(有機層)の形成
PETフィルム上に、下記表に示す組成を有する重合製化合物7.2g、紫外線重合開始剤(日本シーベルヘグナー製、商品KTO46)0.6g、2−ブタノン110gからなる重合製組成物を、ワイヤーバーを用いて塗布し、窒素置換法によって酸素濃度が0.1%以下で高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量1.5J/cm2)して有機層を硬化させ、膜厚が約700nmの有機層を形成した。
【0040】
(2)第2層(無機層)の形成
スパッタリング装置を用いて、前記有機層の上にSiNH膜を形成した。製膜圧力は0.1Pa、膜厚は50nmであった。このようにして有機層の上に無機層を積層してガスバリアフィルムを作成した。
【0041】
(鉛筆硬度の測定)
上記有機層に対し、鉛筆引掻き試験機(東洋精機(株)製)を用いてJISK5400に従い測定した。
【0042】
(密着強度の測定)
得られたバリアフィルムの表面にドライラミネート用接着剤(大日精化製E−372/C−76を17:2の比率で混合し、固形分濃度50%の酢酸エチル溶液にしたもの)を、ワイヤーバーを用いてコートし、80℃で5分間熱風乾燥させた後、PETフィルム(A4300)と80℃に加熱したニップロールにてラミネートを行った。このとき、フィルムの半分は、間にアルミホイルを間に挟むことで貼りあわされない部分も用意した。その後、40℃で76時間養生し、ラミネートフィルムを作成した。
得られたラミネートフィルムをアルミ箔の境目を中心として100mm×15mmの短冊に裁断し、引っ張り試験器により引っ張り速度10mm/minにてT型剥離試験を行った。このときの平均の強度を密着強度とした。
【0043】
(屈曲性試験)
円筒型マンドレル法(JIS5600−5−1)に従い、直径10mmで100回繰り返し屈曲試験を行った。
【0044】
(カルシウム法によるバリア性能評価)
作成直後のガスバリアフィルムと、上記屈曲性試験後のガスバリアフィルムについて、G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-1438頁に記載の方法を用いて水蒸気透過率(g/m2/day)を測定した。このときの温度は40℃、相対湿度は90%とした。以下のとおり評価した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記表中の化合物は下記のとおりである。
U−108A:新中村化学製、NKオリゴU−108A
UA−160T:新中村化学製、NKオリゴUA−160T
BA−134:共栄社化学製、ライトアクリレートBA−134
A−DOG:新中村化学製、NKエステルA−DOG
EB1290K:ダイセルサイテック製、EB1290K
PM21:日本化薬製、KAYAMER PM−21
【0047】
2.多層積層ガスバリアフィルムの作成
上記1で作成したガスバリアフィルムにおいて、有機層と無機層をそれぞれ2層づつ設け、他は同様に行い、多層積層ガスバリアフィルムを作成した。これらの多層積層ガスバリアフィルムは、それぞれ、対応する上記1で作成したガスバリアフィルムよりも、バリア性能がより向上することが確認された。
【0048】
3.有機EL素子の作成と評価
有機EL素子の作成
ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の有機化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン 膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン 膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム 膜厚60nm
最後にフッ化リチウムを1nm、金属アルミニウムを100nm順次蒸着して陰極とし、その上に厚さ5μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作成した。
【0049】
熱硬化型の接着剤(ダイゾーニチモリ(株)製、エポテック310)を用いて、上記本発明のガスバリアフィルムとそれぞれ貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を各20素子ずつ作成した。
【0050】
作成直後の有機EL素子をKeithley社製SMU2400型ソースメジャーユニットを用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察したところ、いずれの素子もダークスポットの無い均一な発光を与えることが確認された。
次に各素子を60℃・相対湿度90%の暗い室内に500時間静置した後、発光面状を観察した。直径300μmよりも大きいダークスポットが観察された素子の比率を故障率と定義し、各素子の故障率を測定したところ、いずれも1%以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のバリア性積層体は、バリア性に優れる。特に屈曲試験後のバリア性に優れる。さらに、本発明のバリア性積層体は、密着性にも優れる。そのため、有機EL素子、太陽電池をはじめ各種素子に好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機層と、無機層を有し、有機層の鉛筆硬度がHBより軟らかいことを特徴とするバリア性積層体。
【請求項2】
有機層の鉛筆硬度がBか、それより軟らかいことを特徴とする、請求項1に記載のバリア性積層体。
【請求項3】
無機層が真空製膜によってされることを特徴とする、請求項1または2に記載のバリア性積層体。
【請求項4】
有機層が、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項5】
有機層が、ウレタン(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項6】
有機層が、リン酸(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項7】
少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層を有し、有機層の鉛筆硬度が2Bよりやわらかく、かつ、有機層が、重合性化合物を含む重合性組成物を硬化させてなり、前記重合性化合物の85重量%〜99重量%がウレタン(メタ)アクリレートであり、1重量%〜15重量%がリン酸(メタ)アクリレートである、バリア性積層体。
【請求項8】
有機層の厚さが、100nm〜2000nmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項9】
無機層が、アルミニウムおよび/またはケイ素の酸化物もしくは窒化物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項10】
少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機層とが、交互に積層している、請求項1〜9のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項11】
支持体上に、請求項1〜10のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたガスバリアフィルム。
【請求項12】
請求項11に記載のガスバリアフィルムを基板に用いたデバイス。
【請求項13】
請求項11に記載のガスバリアフィルムを用いて封止したデバイス。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いて封止したデバイス。
【請求項15】
デバイスが、電子デバイスである、請求項12〜14のいずれか1項に記載のデバイス。

【公開番号】特開2012−20409(P2012−20409A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157708(P2010−157708)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】