説明

バルブのシール構造

【課題】バルブの開閉作動に合わせて一対のシール要素が互いに接離する構造のバルブのシール構造において、シール要素にはみ出し現象が発生するのを抑え、もってその破損を防止することが可能なバルブのシール構造を提供する。
【解決手段】一対のシール要素を、金属等の剛性部品と、表面に金属等の剛材層3を被着したゴム状弾性体2との組み合わせとする。剛材層3の表面には、薄膜状のゴム層を被着しても良い。ゴム状弾性体2を装着する保持部材の装着溝4aの底面部または前記底面部と対向するゴム状弾性体2の底面には、弁閉時におけるゴム状弾性体2のつぶし代を拡大するための空間部を設定しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブの開閉作動に合わせて一対のシール要素が互いに接離する構造のバルブのシール構造に関するものである。本発明のシール構造は例えば、燃料電池用高圧ガスバルブの開閉作動部に用いられる。
【背景技術】
【0002】
図6に示す従来のバルブ装置51においてはその閉弁作動時、図7(A)に示すように一方のシール要素である金属部品よりなる弁体52が、他方のシール要素であるゴムリップ(外側シール部)53および金属部(内側シール部)54に順次当接するように構成され、すなわち先ずゴムリップ53に当接してから金属部54に当接するように構成されている。
【0003】
しかしながらこの構造によると、シールすべきガス圧力の高圧化に伴ってゴムリップ53が圧力に押されて変形し、はみ出し現象を生じることから、図7(B)に示すようにゴムリップ53が弁体52と金属部54との間に挟まれて破損してしまうことがある。
【0004】
【特許文献1】特開平9−150728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて、シール要素にはみ出し現象が発生するのを抑えることができ、もってその破損を防止することが可能なバルブのシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるシール構造は、バルブの開閉作動に合わせて一対のシール要素が互いに接離する構造のバルブのシール構造において、前記一対のシール要素は、金属等の剛性部品と、表面に金属等の剛材層を被着したゴム状弾性体との組み合わせとされていることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の請求項2によるシール構造は、上記した請求項1記載のシール構造において、剛材層の表面に薄膜状のゴム層が被着されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の請求項3によるシール構造は、上記した請求項1または2記載のシール構造において、ゴム状弾性体を装着する保持部材の装着溝の底面部または前記底面部と対向する前記ゴム状弾性体の底面に、弁閉時における前記ゴム状弾性体のつぶし代を拡大するための空間部が設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
上記構成を有する本発明の請求項1によるシール構造のように、金属等の剛性部品と組み合わされるシール要素として従来のゴムリップに代えて、表面に金属等の剛材層を被着したゴム状弾性体を使用すると、このゴム状弾性体はその表面を金属等の剛材層で被覆されているので弾性変形しにくく、よって高圧が作用してもはみ出し現象を生じるほど大きく弾性変形することがない。すなわちゴム状弾性体はこれ単体であると、高圧が作用したときに大きく弾性変形してはみ出し現象を生じ破損する虞があるが、本発明では、ゴム状弾性体は金属等の剛材層で被覆されているので被覆されていない場合よりも弾性変形しにくく、よって高圧が作用しても大きく変形することがない。また、金属等の剛材層はこれ単体であるとやはり、高圧が作用したときに大きく変形して破損する虞があるが、本発明では、剛材層はゴム状弾性体で裏打ちされているので裏打ちされていない場合よりも変形しにくく、よって高圧が作用しても大きく変形することがない。態様としては、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)またはフッ素ゴム(FKM)等よりなるゴム状弾性体の表面にステンレス等よりなる薄板状の剛材層を被着するのが好適である。
【0010】
またこれに加えて、本発明の請求項2によるシール構造のように、剛材層の表面に薄膜状のゴム層を被着すると、剛材層が接触の相手方(剛性部品)に接触するのではなく、薄膜状のゴム層が相手方に接触し、この薄膜状のゴム層が剛材層と相手方との間に圧縮された状態で挟み込まれることになる。
【0011】
また、本発明の請求項3によるシール構造のように、ゴム状弾性体を装着する保持部材の装着溝の底面部またはこの底面部と対向するゴム状弾性体の底面に空間部を設けると、この空間部がゴム状弾性体の弾性変形時における逃げ空間として利用されるので、弁閉時におけるゴム状弾性体のつぶし代が大きく設定されることになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0013】
すなわち、本発明の請求項1によるシール構造においては上記したように、金属等の剛性部品と組み合わされるシール要素として従来のゴムリップに代えて表面に金属等の剛材層を被着したゴム状弾性体を使用するようにしたために、ゴム状弾性体は高圧が作用してもはみ出し現象を生じるほど大きく弾性変形することがない。したがって、従来生じていたシール要素のはみ出し現象等を抑えることができ、もってその破損を防止することができる。
【0014】
またこれに加えて、本発明の請求項2によるシール構造においては、剛材層の表面に薄膜状のゴム層が被着されているために、剛材層ではなく薄膜状のゴム層が相手方に接触し、薄膜状のゴム層は剛材層と相手方との間に圧縮された状態で挟み込まれる。したがって、薄膜状のゴム層の弾性を有効に利用して弁閉時のシール性を一層向上させることができる。尚、ゴム層は薄膜状であって剛材層に被着されていることから、従来のゴムリップのようにはみ出し現象を生じることはない。
【0015】
また、本発明の請求項3によるシール構造においては、ゴム状弾性体を装着する保持部材の装着溝の底面部またはこの底面部と対向するゴム状弾性体の底面に空間部が設けられているために、この空間部が設けられた分、弁閉時におけるゴム状弾性体のつぶし代が大きく設定されている。したがって、これに伴い弁閉時にゴム状弾性体が大きく弾性変形して大きな弾性反発力が発生することから、この大きな反発力を有効に利用して弁閉時のシール性を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0017】
第一実施例・・・
図1は、本発明の第一実施例に係るバルブのシール構造を示している。
【0018】
当該実施例に係るシール構造は、バルブの開閉作動に合わせて一対のシール要素が互いに接離するものであって、この一対のシール要素が、金属等の剛性部品である弁体1と、弁座側の、表面2aに金属等の剛材層3を被着したゴム状弾性体2との組み合わせにより構成されている。後者の、表面2aに剛材層3を被着したゴム状弾性体2は、保持部材であるバルブボディ4に設けた装着溝4aに装着されている。
【0019】
ゴム状弾性体(シール本体とも称する)2は、EPDMまたはFKM等の所定のゴム材料によって環状に成形されるとともに図示するように断面略D字状に成形され、軸方向一方の曲面状の表面2aと軸方向他方の平面状の底面(裏面)2bとを有している。前者の曲面状の表面2aは断面略円弧状ないし略U字状に形成されている。
【0020】
剛材層(材質によって金属層または金具とも称する)3は、ステンレス等の金属または樹脂等よりなる所定の剛板によって環状に成形され、ゴム状弾性体2の表面2aの全面に亙って被着されている。したがってこの剛材層3はゴム状弾性体2の表面2aと同じく断面略円弧状ないし略U字状をなしている。被着は接着または焼き付け等の手段によって行われている。剛材層3は薄板状であることから弾性変形することが可能とされている。装着溝4aに装着された状態で剛材層3は上記円弧の凸側が装着溝4aの外部へ突出するので、この凸側突出部の頂端部位に弁体1が接離し、よって該部位における剛材層3が当接部3aとされている。
【0021】
一方、弁体1は、金属または硬質樹脂等の剛材によって成形され、その一部に軸直角平面状の当接面1aを有している。
【0022】
図1はバルブの弁開状態を示しており、高圧側空間Hから低圧側空間Lへ高圧ガスが流れている。表面2aに金属等の剛材層3を被着したゴム状弾性体2よりなるシール体は、装着溝4aに気密的に装着されて弁体1と対向している。この弁開状態からバルブが閉弁作動して弁体1がバルブボディ4に近付く方向に移動すると、弁体1の当接面1aが剛材層3の当接部3aに当接し、剛材層3およびゴム状弾性体2を弾性変形させ、弁閉のシール状態が実現される。弾性変形した剛材層3およびゴム状弾性体2はその弾性反発力によって弁体1に強く押し付けられる。
【0023】
上記構成のシール構造は、金属等の剛性部品である弁体1と組み合わされるシール要素として従来のゴムリップに代えて表面2aに金属等の剛材層3を被着したゴム状弾性体2を使用するようにしたものであって、ゴム状弾性体2はその表面2aを金属等の剛材層3で被覆されているので弾性変形しにくく、よって高圧が作用してもはみ出し現象を生じるほど大きく弾性変形することがない。薄板状の剛材層3はゴム状弾性体2に裏打ちされているので、これもそれほど大きく弾性変形することがない。したがって、従来生じていたシール要素のはみ出し現象を抑えることができ、もってその破損を防止することができる。
【0024】
また、この構造によると、弁閉時、剛材層3およびゴム状弾性体2がそれぞれ弾性変形するので、両者が相俟って比較的大きな弾性反発力が発生する。したがって、この大きな反発力によって剛材層3が弁体1に強く押し付けられることから密接力が高くなり、よって優れたシール性を発揮することができる。
【0025】
第二実施例・・・
尚、それでも弁体1および剛材層3が共に金属である場合は、いわゆるメタルタッチ(金属同士の接触)となって金属表面の表面粗さによる微少漏れが発生することがあるので、これを解消する必要がある場合には、図2に示すように剛材層3の表面に薄膜状のゴム層5をシール層として被着すると良い。
【0026】
ゴム層5は、ゴム状弾性体2と同種または異種のゴム材料によって薄膜状に成形され、剛材層3の表面の全面に亙って被着されており、剛材層3に代わってこのゴム層5の頂端部位に当接部5aが設定されている。被着は、接着または焼き付け等の手段によるが、ゴム層5が薄膜状であることからコーティング法が適している。
【0027】
この構造によると、剛材層3の表面に薄膜状のゴム層5が被着されているために、剛材層3に代わってゴム層5が接触の相手方である弁体1に接触し、このときゴム層5は剛材層3と弁体1との間に圧縮された状態で挟み込まれることになる。したがって、このゴム層5の弾性が有効に利用されて金属表面の表面粗さが実質的にキャンセルされることから、弁閉時のシール性を一層向上させることができる。新たに設けられるゴム層5は薄膜状であって剛材層3に被着されていることから、はみ出し現象を生じることはないものである。
【0028】
第三実施例・・・
また、上記第一および第二実施例においてはそれぞれ、ゴム状弾性体2を装着するバルブボディ4の装着溝4aの底面部4bが軸直角の平面状に設定されているが、図3に示すようにこの装着溝4aの底面部4bに空間部6を設けると、この空間部6をゴム状弾性体2の逃げ空間として利用することができるために、弁閉時におけるゴム状弾性体2のつぶし代を大きく設定することが可能となる。したがってこれに伴い、弁閉時にゴム状弾性体2が大きく弾性変形して大きな弾性反発力が発生することから、この大きな反発力を有効に利用して弁閉時のシール性を一層向上させることができる。空間部6は、装着溝4aの底面部4bに環状溝として形成されている。
【0029】
第四実施例・・・
また、この空間部6は、図4に示すように、ゴム状弾性体2の底面2bに設けても良く、この場合も上記第三実施例と同様の作用効果を得ることができる。空間部6は、ゴム状弾性体2の底面2bに環状溝として形成されている。
【0030】
第五実施例・・・
また、上記各実施例では、保持部材であるバルブボディ4に設ける装着溝4aが断面矩形状の矩形溝とされているが、図5に示すように、断面台形状の蟻溝(あり溝)とすると、抜け防止の作用効果を得ることができる。この場合、装着作業時は、剛材層3を被着したゴム状弾性体2を径方向に圧縮して径方向幅を縮小した状態で装着する。装着後、剛材層3を被着したゴム状弾性体2が径方向に弾性復帰すると、剛材層3の先端部(図では下端部)がハの字状に拡がって装着溝4aの側面部4cに係合するので、爾後、高圧が作用しても抜けにくくなる。
【0031】
上記第二ないし第五実施例のその他の構成および作用効果は上記第一実施例と同様である。したがって図面に同一の符号を付して、説明を省略する。
【0032】
更にまた、上記各実施例では、金属等の剛性部品がバルブの弁体を形成し、剛材層を被着したゴム状弾性体がバルブの弁座側を形成しているが、反対に金属等の剛性部品がバルブの弁座側を形成し、剛材層を被着したゴム状弾性体がバルブの弁体側を形成することにしても良い。この場合は、剛材層を被着したゴム状弾性体が金属等の剛性部品に対して進退することになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第一実施例に係るシール構造の要部断面図
【図2】本発明の第二実施例に係るシール構造の要部断面図
【図3】本発明の第三実施例に係るシール構造の要部断面図
【図4】本発明の第四実施例に係るシール構造の要部断面図
【図5】本発明の第五実施例に係るシール構造の要部断面図
【図6】従来例に係るバルブ装置の断面図
【図7】同バルブ装置に備えられるシール構造の断面図
【符号の説明】
【0034】
1 弁体(剛性部品)
1a 当接面
2 ゴム状弾性体
2a 表面
2b 底面
3 剛材層
3a,5a 当接部
4 バルブボディ
4a 装着溝
4b 底面部
4c 側面部
5 ゴム層
6 空間部
H 高圧側空間
L 低圧側空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブの開閉作動に合わせて一対のシール要素が互いに接離する構造のバルブのシール構造において、
前記一対のシール要素は、金属等の剛性部品と、表面に金属等の剛材層を被着したゴム状弾性体との組み合わせとされていることを特徴とするバルブのシール構造。
【請求項2】
請求項1記載のシール構造において、
剛材層の表面に薄膜状のゴム層が被着されていることを特徴とするバルブのシール構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のシール構造において、
ゴム状弾性体を装着する保持部材の装着溝の底面部または前記底面部と対向する前記ゴム状弾性体の底面に、弁閉時における前記ゴム状弾性体のつぶし代を拡大するための空間部が設けられていることを特徴とするバルブのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−25720(P2008−25720A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199094(P2006−199094)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】