説明

バルブ装置

【課題】開口形成面に密着する弁体の円環状突部をつぶれやすくすることにより、開口部を確実に閉鎖できるバルブ装置を提供すること。
【解決手段】開口部10が形成された開口形成面212bに対して垂直方向から押し付けられるダイヤフラム弁11の円環状突部123は、一定高さの円環状の頂部123aと、この頂部123aに対して径方向内側で連接する内周側傾斜面123bと、頂部123aに対して径方向外側で連接する外周側傾斜面123cとが全周にわたって形成された略三角形の径方向断面を有する。開口形成面212bと内周側傾斜面123bとが成す内周側当接角θ1を開口形成面212bと外周側傾斜面123cとが成す外周側当接角θ2よりも小さくしたので、円環状突部123がつぶれやすく、この結果、円環状突部が開口形成面に確実に密着し、これらの間のシール性が良好になり、開口部を確実に閉鎖できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路の開口部が設けられた開口形成面と、この開口形成面に対して垂直に駆動される可撓性の弁体を有するバルブ装置に関する。より詳細には、開口形成面に密着する弁体の円環状突部をつぶれやすくすることにより、開口部を確実に閉鎖できるバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流路の開口部が設けられている開口形成面を弁座とし、この弁座に可撓性の弁体を密着させて開口部を閉鎖するバルブ装置は、例えば、特許文献1に記載されている。同文献のバルブ装置では、弁体はゴム製のダイヤフラム弁であり、開口形成面に対向する閉鎖部と、この閉鎖部から開口形成面に向けて突出して開口部の周りに当接可能な円環状突部を備えている。バルブ装置が開口部を閉鎖する際には、閉鎖部は、開口形成面に対して垂直に変位させられて開口部に接近する。円環状突部は、閉鎖部の変位に伴って開口形成面に押し付けられ、弾性変形した状態で開口形成面に密着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−162511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなバルブ装置では、稀に、開口形成面と円環状突部との密着が確実ではなく、これらの間のシール性が良好に保たれない状態が発生するという問題がある。そこで、本発明者らは、かかる問題点を調査、検討したところ、開口形成面と当接する円環状突部の径方向断面の形状によって円環状突部のつぶれ方が異なり、開口形成面と円環状突部との間のシール性が変化するという知見を得た。
【0005】
図6は、開口形成面101と円環状突部103との間のシール性を検証するための参考例のダイヤフラム弁である。ダイヤフラム弁100は、図6(a)に示すように、その平面形状が円形をしており、中央部分に、開口形成面101に対向する閉鎖部102と、この閉鎖部102から開口形成面101に向けて突出して開口部101aの周りに当接可能な円環状突部103を備えている。円環状突部103は、図6(b)に示すように、頂部103aと、この頂部103aに対して径方向内側で連接する内周側傾斜面103bと、頂部103aに対して径方向外側で連接する外周側傾斜面103cが全周にわたって形成された略三角形の径方向断面を有している。また、図6(c)に示すように、円環状突部103が開口形成面101に当接した状態では、開口形成面101と内周側傾斜面103bとが成す内周側当接角αと、開口形成面101と外周側傾斜面103cとが成す外周側当接角βとが同じ大きさになっている。
【0006】
参考例のダイヤフラム弁100について、本発明者らは、円環状突部103が開口形成面101に垂直に押し付けられたときに荷重、硬度、面粗度等の関係でつぶれ難く、この結果、開口形成面101と円環状突部103が確実に密着せず、これらの間のシール性が良好に保たれない状態が発生するという結論に達した。
【0007】
以上の点に鑑みて、本発明の課題は、開口形成面に密着する弁体の円環状突部の形状に着目し、この円環状突部をよりつぶれやすくすることにより、開口部を確実に閉鎖できるバルブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、流路の開口部が設けられた開口形成面と、この開口形成面に対して垂直に駆動される可撓性の弁体とを有し、前記弁体が、前記開口形成面に対向する閉鎖部と、この閉鎖部から前記開口形成面に向けて突出して前記開口部の周りに当接可能な円環状突部とを備えているバルブ装置において、前記円環状突部は、頂部、この頂部に対して径方向内側で連接する内周側傾斜面、および前記頂部に対して径方向外側で連接する外周側傾斜面が全周にわたって形成された三角形あるいは略三角形の径方向断面を有し、前記開口形成面と前記内周側傾斜面とが成す内周側当接角と、前記開口形成面と前記外周側傾斜面とが成す外周側当接角とは、大きさが異なっていることを特徴とする。
【0009】
本発明者らは、開口形成面と当接する円環状突部の径方向断面の形状を検討した結果、円環状突部の径方向断面を三角形あるいは略三角形とし、円環状突部の内周側傾斜面と開口形成面とが成す内周側当接角と、円環状突部の外周側傾斜面と開口形成面とが成す外周側当接角の大きさを異ならせておくことにより、円環状突部がつぶれやすくなるという新たな知見を得た。これには、バルブ装置が開口部を閉鎖する閉動作において、円環状突部が開口形成面に当接した状態から更に開口形成面に対して垂直に押し付けられたときに、円環状突部の頂部が変形しながら開口形成面上を開口形成面と直交する方向からずれるという理由が考えられる。可撓性のゴムなどは変形に伴い体積は変わらない特徴があり、当接角の大きい方は圧縮変形をし、当接角の小さい方は伸び変形するからである。弁体を開口形成面に押し付けたときに、円環状突部がつぶれやすければ、円環状突部が開口形成面に確実に密着するので、これらの間のシール性が良好になり、開口部を確実に閉鎖できる。
【0010】
ここで、円環状突部が開口形成面に押し付けられたときに円環状突部に大きな圧縮応力が生じると、円環状突部の頂部よりも内周の内周側部分に発生する圧縮応力に周方向のムラが発生し、この圧縮応力のムラによって開口形成面と円環状突部との間のシール性が低下してしまうという問題がある。また、この圧縮応力のムラによって円環状突部に皺が発生して、開口形成面と円環状突部との間のシール性が低下してしまうという虞がある。これに対して、前記内周側当接角を前記外周側当接角よりも小さくしておけば、円環状突部が開口形成面に押し付けられたときに、内周側部分に発生する圧縮応力が、頂部よりも外側の外周側部分に発生する圧縮応力よりも小さくなる。この結果、内周側部分に発生する圧縮応力の周方向のムラが低減し、開口部を囲む円環状突部の内周側部分に皺が発生することを低減できるので、開口形成面と円環状突部との間のシール性が低下することを抑制できる。
【0011】
本発明において、前記流路を経由するように流体が流れているときに前記開口部を閉鎖すると、前記円環状突部の内側の空間の圧力は、前記円環状突部の外側の空間の圧力よりも高いことが望ましい。このようにすれば、外側の空間よりも高圧である内側の空間の圧力によってさらに、内周側部分に発生する圧縮応力が、頂部よりも外側の外周側部分に発生する圧縮応力よりも小さくなる。また、円環状突部と開口形成面とが密着せず一時的に流体が漏れてしまう場合は、円環状突部の頂部が外周側に変形して隙間を作る。すなわち、流体が漏れる際に頂部が変形してしまう方向と、円環状突部が開口形成面に押し付けられたときに頂部がずれる方向とが同じ方向なので、漏れが発生したときに、円環状突部が元の形状に復帰できない形状に変化してしまうことを回避できる。この結果、流体が一時的に漏れた後でも、円環状突部が開口形成面と密着する状態に戻ることができるので、開口形成面と円環状突部との間のシール性が低下しない。また、このようにすれば、皺の発生が低減されている円環状突部の内周側部分が高圧の空間に面しているので、流体の圧力によって、皺が広がり、開口形成面と円環状突部との間のシール性を低下させることを抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弁体の円環状突部の径方向断面を三角形あるいは略三角形とし、円環状突部の内周側傾斜面と開口形成面とが成す内周側当接角と円環状突部の外周側傾斜面と開口形成面とが成す外周側当接角との大きさを異ならせたので、円環状突部が開口形成面に対して垂直に押し付けられたときに、円環状突部がつぶれやすい。円環状突部がつぶれやすければ、円環状突部が開口形成面に確実に密着するので、これらの間のシール性が良好になり、開口部を確実に閉鎖できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るバルブ装置の外観斜視図である。
【図2】第1流路の開口部が開放されている状態におけるバルブ装置の縦断面図である。
【図3】(a)はダイヤフラム弁を上方から見た平面図であり、(b)はその縦断面図であり、(c)はこのダイヤフラム弁の円環状突部が開口形成面に当接した状態を模式的に示した説明図である。
【図4】ダイヤフラム弁が第1流路の開口部を閉鎖した状態におけるバルブ装置の縦断面図である。
【図5】(a)は別の円環状突部を備えたダイヤフラム弁を上方から見た平面図であり、(b)はその縦断面図であり、(c)はこのダイヤフラム弁の円環状突部が開口形成面に当接した状態を模式的に示した説明図である。
【図6】(a)は参考例のダイヤフラム弁を上方から見た平面図であり、(b)はその縦断面図であり、(c)はこのダイヤフラム弁の円環状突部が開口形成面に当接した状態を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したバルブ装置について説明する。
【0015】
(全体構成)
図1は本発明の実施の形態に係るバルブ装置の外観斜視図である。図2は図1に示すバルブ装置の縦断面図であり、第1流路の開口部が閉鎖されていない状態を示している。
【0016】
図1に示すように、バルブ装置1は、直方体形状のハウジング2と、このハウジング2の下端側に取り付けられたモータ3を備えている。ハウジング2の上端面2aには第1円筒部4と第2円筒部5が形成されている。第1円筒部4は上端面2aの中心部分から突出しており、その中心孔4aは液体や気体などの流体が通過する第1流路7となっている。第2円筒部5は第1円筒部4の側方において第1円筒部4と平行に突出しており、その中心孔5aは流体が通過する第2流路8となっている。
【0017】
図2に示すように、ハウジング2の内部には、第1流路7と、第2流路8と、第1流路7と第2流路8との間を連通させる連通部9と、連通部9に開口している第1流路7の開口部10を閉鎖するための可撓性のダイヤフラム弁(弁体)11と、モータ3からの駆動力をダイヤフラム弁11へ伝達し、ダイヤフラム弁11の中央部分に形成されている閉鎖部12を変位させる駆動力伝達機構13が構成されている。駆動力伝達機構13はモータ3の回転駆動力を直動部材14の直動往復運動に変換して伝達するものである。直動部材14は、モータ3の回転中心軸線L上を移動するように構成されている。直動部材14はダイヤフラム弁11の閉鎖部12に連結されている。
【0018】
モータ3は、ステッピングモータ3であり、モータ本体15と、このモータ本体15から突出する出力軸16を備えている。モータ本体15の出力側端面は、ハウジング2の後端面に取り付けられており、出力軸16はハウジング2内に挿入されている。モータ本体15の外周面部分には、このモータ3に電力を供給するための端子部17が形成されている。
【0019】
モータ3が正方向に回転駆動され、直動部材14が開口部10に接近する方向に移動すると、直動部材14に連結されているダイヤフラム弁11の閉鎖部12が回転中心軸線L上を開口部10に接近する方向に変位して、開口部10を閉鎖する。モータ3が逆方向に回転駆動され、直動部材14が開口部10から離れる方向に移動すると、ダイヤフラム弁11の閉鎖部12が回転中心軸線L上を開口部10にから離れる方向に変位して、開口部10を開放する。
【0020】
(ハウジング)
ハウジング2は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂からなり、第1ケース21、第2ケース22および端板23を備えている。第1ケース21には第1流路7と第2流路8が形成されており、第2ケース22内には駆動力伝達機構13が構成されている。第1ケース21と第2ケース22との間には連通部9が構成されている。端板23の中心部分には円形の貫通孔231が形成されており、モータ3の出力軸16はこの貫通孔231を貫通して第2ケース22内に延びている。
【0021】
第1ケース21は、直方体形状をしており、上端面21aには、第1円筒部4と第2円筒部5が形成されている。第1ケース21の下端面21bには、上方に凹む円形の第1凹部211が形成されている。第1凹部211の底面211aの中心からは第3円筒部212が下方に向かって突出している。第3円筒部212の中心孔212aは第1流路7の下端部分を構成している。すなわち、第1流路7は、第1円筒部4の中心孔4aと第3円筒部212の中心孔212aと第1ケース21を貫通してこれらの中心孔212aを連通させている第1連通孔213よって構成されている。第3円筒部212の開口形成面212bは、第1ケース21の下端面21bと略同一平面上に位置している。
【0022】
ここで、第3円筒部212の開口形成面212bは円環状の端面であり、径方向の幅は0.15mm程度となっている。また、開口形成面212bは、回転中心軸線Lと直交する平面であり、第1流路7の開口部10を閉鎖する際にはダイヤフラム弁11の弁座として機能する。開口部10の中心は回転中心軸線L上に位置している。
【0023】
第1凹部211の底面211aの第3円筒部212の外周側には第2流路8の開口部8aが形成されている。すなわち、第2流路8は、第2円筒部5の中心孔5aと、第1ケース21を貫通して第2円筒部5の中心孔5aと開口部8aとを連通させている第2連通孔214によって構成されている。
【0024】
第1ケース21の下端面21bには、第1凹部211の外周縁部分から下方に向かって延びる円環状壁215が設けられている。円環状壁215の内周面の下端部分215aは下端に向かって内径寸法が広がるテーパー面となっている。ここで、第1凹部211、第3円筒部212、中心孔212a、および、円環状壁215は、回転中心軸線Lを中心として同軸に形成されている。
【0025】
第2ケース22は、直方体形状をしている。第2ケース22の上端面22aには、下方に凹む円形の第2凹部221が形成されている。第2凹部221は第1凹部211と同軸であり、その内径寸法は円環状壁215の外形寸法とほぼ同一である。第2ケース22の下端面22bには上方に凹む円形の第3凹部222が深く形成されている。第3凹部222は第2凹部221と同軸であり、下端側から、第2凹部221の内径寸法とほぼ同一の内径寸法を備えている大径部分222aと、この大径部分222aよりも内径寸法が小さい小径部分222bを備えている。小径部分222bの内周面には、180度離れた角度位置で回転中心軸線L方向に延びている第1溝222cと第2溝222dが形成されている。大径部分222aには、モータ3の出力軸16が第3凹部222と同軸状態になるように挿入されている。
【0026】
第2凹部221と第3凹部222の間には、これら第2凹部221と第3凹部222とを連続させる貫通孔223が第2凹部221および第3凹部222と同軸に形成されている。貫通孔223の内径寸法は第1凹部211の内径寸法よりも僅かに小さい。
【0027】
第2凹部221の円環状底面221aの内周縁部分には、円環状底面221aから上方に突出する円環状突部221bが形成されている。第3凹部222の円環状底面222eの内周縁部分は貫通孔223内に向かって切り欠かれた切り欠き部222fとなっており、この切り欠き部222fは、上方に向かって内径寸法が小さくなるテーパー面となっている。
【0028】
(ダイヤフラム弁)
図3(a)はダイヤフラム弁を上方から見た平面図であり、図3(b)はダイヤフラム弁の縦断面図であり、図3(c)はこのダイヤフラム弁の円環状突部の断面形状を模式的に示した説明図である。
【0029】
ダイヤフラム弁11は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)などからなるゴム製の弾性体であり、図3(a)に示すように、回転中心軸線L方向から見た平面形状は円形をしている。ダイヤフラム弁11は、中央部分に閉鎖部12を備え、外周縁部分に厚肉部111を備えている。閉鎖部12と厚肉部111の間には、上方に膨らむように湾曲する一定厚さの連結膜部112を備えている。
【0030】
また、ダイヤフラム弁11は、第2凹部221の円環状底面221aに載置された厚肉部111が第1ケース21の円環状壁215と円環状底面221aとによって挟まれることによりハウジング2に固定される(図2参照)。ダイヤフラム弁11がハウジング2に固定された状態では、厚肉部111の内周側への移動は円環状底面221aの円環状突部221bによって規制されており、閉鎖部12は開口部10と対向する位置で、回転中心軸線L上を開口部10に接近する方向および開口部10から離れる方向に変位可能となっている。
【0031】
図3(b)に示すように、閉鎖部12は、全体として円柱形状をしており、連結膜部112は閉鎖部12の上端に近い部分から外周側に延びている。閉鎖部12の上端面12aは平面であり、この上端面12aには、開口形成面212bに向けて突出して開口部10の周りに当接可能な円環状突部123が形成されている。上端面12aの外周側には下方に向かって外径寸法が大きくなるテーパー面12bが連続しており、このテーパー面12bの外周側には連結膜部112の上端面112aに連続している。
【0032】
円環状突部123は、バルブ装置1が開口部10を閉鎖する際に、閉鎖部12が開口部10に接近させられ、円環状突部123が開口形成面212bに線接触した状態からさらに変位することで開口形成面212bに押し付けられ、弾性変形して開口形成面212bに密着する。円環状突部123は、一定高さの円環状の頂部123aと、この頂部123aに対して径方向内側で連接する内周側傾斜面123bと、頂部123aに対して径方向外側で連接する外周側傾斜面123cとが全周にわたって形成された略三角形の径方向断面を有している。また、図3(c)に示すように、開口形成面212bと内周側傾斜面123bとが成す内周側当接角θ1が30度、開口形成面212bと外周側傾斜面123cとが成す外周側当接角θ2が60度、内周側当接角θ1と外周側当接角θ2の間の頂部123aの角度θ3が90度となるように形成されており、上端面12aから頂部123aまでの高さ寸法は0.1mmとなっている。
【0033】
ここで、本形態では、円環状突部123が形成されている閉鎖部12の上端面12aが、平坦面であり、上端面12aは開口形成面212bと平行な状態で開口形成面212bに対向するように配置される。従って、円環状突部123の径方向断面において、内周側当接角θ1の錯角となる内周側の底角θ4は30度、外周側当接角θ2の錯角である外周側の底角θ5は60度となっている。
【0034】
閉鎖部12の下端面12cには、上方に凹む円形のダイヤフラム弁側凹部124が形成されている。ダイヤフラム弁側凹部124の底面124aは、円環状突部123と同軸に形成されており、その直径は円環状突部123の外形寸法よりも大きい。また、底面124aは、中心が上方に窪む凹曲面となっている。ダイヤフラム弁側凹部124の内周面部分には、回転中心軸線L方向の途中で内周側の突出する環状の係止部124bが設けられている。
【0035】
ここで、第1ケース21の第1凹部211の内周面、円環状壁215の内周面、ダイヤフラム弁11の連結膜部112の上端面112aおよび閉鎖部12の上端面12aによって囲まれた空間が、第1流路7と第2流路8を連通させる連通部9となっている。
【0036】
(駆動力伝達機構)
次に、再び、図2を参照して、駆動力伝達機構13を説明する。駆動力伝達機構13は、第2ケース22内の貫通孔223から第3凹部222に渡る空間内に構成されている。
【0037】
駆動力伝達機構13は、モータ3の出力軸16に圧入固定されて出力軸16と一体に回転するリードスクリュー131と、リードスクリュー131の外周の雄ネジ部131aと螺合している雌ネジ部14aを内周面に備えたカップ状の直動部材14と、直動部材14がリードスクリュー131と一体に回転することを阻止するとともに、直動部材14が回転中心軸線L上を移動するようにガイドする回り止め機構を備えている。
【0038】
リードスクリュー131と直動部材14とは、雄ネジ部131aのネジピッチと雌ネジ部14aのネジ山角度が同じになっており、これらの間には、回転中心軸線L方向に隙間が生じるようになっている。
【0039】
直動部材14は、上端側の外周面部分14bが小径部分222bの内周面と狭い隙間を空けて対向するように配置されている。この外周面部分14bには、180度離れた角度位置から突出する第1突部141、第2突部142が形成されている。
【0040】
回り止め機構は、直動部材14の第1突部141および第2突部142、並びに、小径部分222bの第1溝222c、第2溝222dから構成されている。第1突部141は第1溝222cにスライド可能な状態で挿入されており、第2突部142は第2溝222dにスライド可能な状態で挿入されている。
【0041】
モータ3が回転すると、モータ3の回転駆動力はリードスクリュー131を介して直動部材14に伝達される。このとき、直動部材14は、第1突部141と第1溝222cの係合および第2突部142と第2溝222dの係合により、リードスクリュー131と一体に回転することが阻止されているとともに、第1溝222cおよび第2溝222dの延設方向にスライドすることのみが許容されている。したがって、直動部材14は、回転中心軸線L上を直動する。
【0042】
直動部材14の上端面14dの中心部分からは、ダイヤフラム弁側凹部124の凹部と嵌合する形状を備えた直動部材側突部143が上方に向かって突出している。直動部材側突部143は、円柱状であり、上端部分143aと基端部分143bの外形寸法がこれらの間に位置している中間部分143cの外形寸法よりも大きくなるように形成されている。直動部材側突部143の上端面143dは、中心が上方に向かって膨らむ凸曲面となっている。
【0043】
直動部材側突部143がダイヤフラム弁側凹部124に挿入されると、ダイヤフラム弁側凹部124は弾性変形しながら直動部材側突部143を受け入れる。直動部材側突部143がダイヤフラム弁側凹部124に連結された状態では、直動部材側突部143の上端面143dがダイヤフラム弁側凹部124の底面124aと当接した状態となる。また、直動部材側突部143の中間部分143cとダイヤフラム弁側凹部124の係止部124bとが当接した状態となるので、直動部材14とダイヤフラム弁11とは、直動部材側突部143がダイヤフラム弁側凹部124から抜けることが防止された状態で連結される。さらに、直動部材側突部143とダイヤフラム弁側凹部124は弾性接着剤などで接着される。
【0044】
直動部材14において、第1突部141および第2突部142よりも下方の外周面部分14cには、全周にわたって外側に突出しているバネ係合部144が形成されている。バネ係合部144には、直動部材14の外周側において、このバネ係合部144と端板23の上端面23aとの間に圧縮状態で配置されたコイルバネ18の一方の開口端部が係合している。コイルバネ18はその復元力により、直動部材14を上方に付勢している。ここで、コイルバネ18が直動部材14を上方に付勢する付勢力は、円環状突部123を開口形成面212bに密着させた状態で、開口形成面212bから受ける反作用の力と釣り合うように設定されている。
【0045】
(開閉動作)
図2および図4を参照して、バルブ装置1による開口部10の開閉動作を説明する。図4はダイヤフラム弁が第1流路の開口を閉鎖した状態におけるバルブ装置の縦断面図である。
【0046】
バルブ装置1は、例えば、メタノール型燃料電池において、燃料電極層に還元剤となるメタノールを供給する流路の途中に配置され、流路の開閉およびこの流量を調節するために用いられる。本例では、バルブ装置1は、第1流路7から流入させたメタノールを連結部9を介して第2流路8から流出させるように配管されている。バルブ装置1は、外部の制御装置によってモータへの通電が制御されることにより駆動制御される。
【0047】
開口部10が開放されている状態では、図2に示すように、ダイヤフラム弁11は、その閉鎖部12が第2ケース22の貫通孔223の内側に位置している。
【0048】
開口部10を閉鎖してメタノールの流れを遮断する際には、まず、モータ3が所定のステップ数だけ正方向に回転駆動させられる。ここで、開口部10を開放状態から閉鎖状態にするためにモータ3に供給されるステップ数は、開口部10を閉鎖状態から開放状態にするためにモータ3に供給されるステップ数より多い。そのため、モータ3は開口部10を閉鎖した後も駆動され、閉鎖状態で脱調をする。
【0049】
モータ3が正方向に回転駆動されると、直動部材14は回転中心軸線L上を上方に移動する。また、直動部材14の移動に伴い、直動部材14に連結されているダイヤフラム弁11の閉鎖部12は開口形成面212bと直交する回転中心軸線Lに沿って開口部10に接近する方向に変位し、円環状突部123が開口形成面212bに線接触した状態からさらに変位することで円環状突部123を、開口形成面212bに対する垂直方向から、開口形成面212bに押し付ける。これにより、円環状突部123は、弾性変形した状態で開口形成面212bに密着し、開口部10を密閉する。
【0050】
次に、モータ3が僅かなステップ数だけ逆方向に回転駆動させられる。これにより、直動部材14は、コイルバネ18の付勢力と連結膜部112の弾性力で円環状突部123を開口形成面212bに密着させている状態とされる。
【0051】
より具体的には、直動部材14が回転中心軸線L上を開口部10に接近する方向に移動しているときには、リードスクリュー131は、このリードスクリュー131の雄ネジ部131aにおける下側斜面131bと、直動部材14の雌ネジ部14aにおける上側斜面14eとを接触させた状態で、直動部材14を移動させている。したがって、モータ3が所定のステップ数だけ駆動されて円環状突部123が開口形成面212bに密着した状態では、リードスクリュー131の雄ネジ部131aと直動部材14の雌ネジ部14aとが接触した状態で維持されている。
【0052】
そこで、モータ3を、僅かなステップ数だけ逆方向に回転させることにより、リードスクリュー131の雄ネジ部131aにおける下側斜面131bと、直動部材14の雌ネジ部14aにおける上側斜面14eとの間に隙間が形成される状態とする。これにより、直動部材14とリードスクリュー131とが係合しなくなるので、直動部材14が閉鎖部12を変位させて円環状突部123を開口形成面212bに密着させている状態が、コイルバネ18の付勢力によって維持される。この結果、ダイヤフラム弁11が開口部10を閉鎖する力が安定的するので、円環状突部123は開口形成面212bに密着した状態におけるシール性を安定化させることができる。また、ダイヤフラム弁11に過剰な力が加わることがないので、ダイヤフラム弁11の塑性変形やクリープや磨耗によってシール性がばらつくことを低減できる。
【0053】
一方、開口部10を開放してメタノールを流通させる際には、直動部材14がコイルバネ18の付勢力だけで円環状突部123を開口形成面212bに密着させている状態から、モータ3が所定のステップ数だけ逆方向に回転駆動される。
【0054】
モータ3が逆方向に回転駆動されると、直動部材14は回転中心軸線L上を下方に移動する。また、直動部材14の移動に伴い、直動部材14に連結されているダイヤフラム弁11の閉鎖部12は、回転中心軸線Lに沿って開口部10から離れる方向に変位する。この結果、円環状突部123と開口形成面212bとが離れ、開口部10は開放状態となる。したがって、第1流路7から流入したメタノールは連結部9を介して第2流路8から流出する。
【0055】
(円環状突部の形状の改良による効果)
本発明者らは、開口形成面212bに対して垂直方向から押し付けられる円環状突部123を、一定高さの円環状の頂部123aと、この頂部123aに対して径方向内側で連接する内周側傾斜面123bと、頂部123aに対して径方向外側で連接する外周側傾斜面123cとが全周にわたって形成された略三角形の径方向断面を有するものとしたときに、開口形成面212bと内周側傾斜面123bとが成す内周側当接角θ1と、開口形成面212bと外周側傾斜面123cとが成す外周側当接角θ2の大きさを異ならせておくことにより、円環状突部がつぶれやすくなるという新たな知見を得ている。これには、バルブ装置1が開口部10を閉鎖する閉動作において、円環状突部123が開口形成面212bに当接した状態から更に開口形成面212bに対して垂直に押し付けられたときに、円環状突部123の頂部123aが変形しながら開口形成面212b上を開口形成面212bと直交する方向からずれるという理由が考えられる。ゴムは変形に伴い体積は変わらない特徴があり、当接角の大きい方は圧縮変形をし、当接角の小さい方は伸び変形するからである。本実施の形態では、内周側当接角θ1が外周側当接角θ2よりも小さくなっているので、円環状突部123がつぶれやすく、この結果、円環状突部123が開口形成面212bに確実に密着するので、これらの間のシール性が良好になり、開口部10を確実に閉鎖できる。
【0056】
また、本実施の形態では、閉鎖部12のダイヤフラム弁側凹部124の底面124aに当接する直動部材側突部143の上端面143dは中心が上方に膨らむ凸曲面となっている。したがって、円環状突部123を開口形成面212bに押し付ける際には、直動部材14から閉鎖部12に対して、円環状突部123を外周側に押し広げる方向の力が働き、円環状突部123の頂部123aが外周側にすべりやすい状態となっている。
【0057】
次に、弾性体である円環状突部123に大きな圧縮応力が生じると、円環状突部123の頂部123aよりも内周の内周側部分に発生する圧縮応力に周方向のムラが発生し、この圧縮応力のムラによって開口形成面と円環状突部との間のシール性が低下してしまうという問題がある。また、この圧縮応力のムラによって皺が発生して開口形成面212bと円環状突部との間のシール性が低下してしまうという虞がある。これに対して、本実施の形態では、内周側当接角θ1が外周側当接角θ2よりも小さくなっているので、内周側部分に発生する圧縮応力の方が外周側部分に発生する圧縮応力よりも小さくなる。この結果、内周側部分に発生する圧縮応力の周方向のムラが低減し、頂部123aよりも開口の側に位置している内周側部分の皺の発生が抑制されるので、開口形成面212bと円環状突部123との間のシール性が低下することを低減できる。
【0058】
また、本形態では、円環状突部123は、径方向断面の頂角θ3が90度となっているので、頂部123aの強度を確保することができる。よって、円環状突部123が折れ曲がることがない。
【0059】
さらに、本実施の形態では、ダイヤフラム弁11によって開口部10が閉鎖される側の第1流路7を流体の流入路とし、第2流路8を流体の流出路としている。この結果、円環状突部123を開口形成面212bに圧接させて開口部10を閉鎖した状態では、円環状突部123の内側の空間の圧力は円環状突部の外側の空間の圧力よりも高圧となっている。このような環境において、流体圧によってさらに、内周側部分に発生する圧縮応力が、頂部よりも外側の外周側部分に発生する圧縮応力よりも小さくなる。また、円環状突部123と開口形成面212bとが密着せず一時的に流体が漏れてしまうような場合には、円環状突部123の頂部123aが外周側に変形して隙間を作る。すなわち、流体が漏れる際に頂部123aが変形する方向が、円環状突部123が開口形成面212bに押し付けられたときに頂部123aのずれる方向と同じ方向になるので、漏れが発生したときに、円環状突部123が元の形状に復帰できない形状に変化してしまうことを回避できる。この結果、流体が一時的に漏れた後でも、円環状突部123が開口形成面212bと密着する状態に戻ることができるので、開口形成面212bと円環状突部123との間のシール性が低下しない。
【0060】
また、皺の発生が低減されている円環状突部123の頂部123aよりも内周側部分が高圧の空間に面しているので、流体の圧力によって皺が広がり、開口形成面212bと円環状突部123との間のシール性を低下させることを抑制できる。
【0061】
なお、上記の実施の形態では、ダイヤフラム弁側凹部124の底面124aが凹曲面であり、この底面124aに当接する直動部材側突部143の上端面143dが凸曲面となっているが、底面124aは平坦面であってもよい。また、底面124aと上端面143dの双方が平坦面であってもよい。
【0062】
(ダイヤフラム弁の別の例)
図5(a)は別の円環状突部を備えたダイヤフラム弁を上方から見た平面図であり、(b)はその縦断面図であり、(c)はこのダイヤフラム弁の円環状突部の断面形状を模式的に示した説明図である。なお、図5のダイヤフラム弁11Aは、ダイヤフラム弁11と同様の構成を備えているので、対応する部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0063】
図5に示すダイヤフラム弁11Aの円環状突部123Aは、一定高さの円環状の頂部123aと、この頂部123aに対して径方向内側で連接する内周側傾斜面123bと、頂部123aに対して径方向外側で連接する外周側傾斜面123cとが全周にわたって形成された略三角形の径方向断面を有している。また、図5(c)に示すように、開口形成面212bと内周側傾斜面123bとが成す内周側当接角θ11が60度、開口形成面212bと外周側傾斜面123cとが成す外周側当接角θ12が30度、内周側当接角θ11と外周側当接角θ12の間の頂部123aの角度θ13が90度となるように形成されており、上端面12aから頂部123aまでの高さ寸法は0.1mmとなっている。
【0064】
本例でも、円環状突部123が形成されている閉鎖部12の上端面12aが、平坦面であり、上端面12aは開口形成面212bと平行な状態で開口形成面212bに対向するように配置される。従って、円環状突部123の径方向断面において、内周側当接角θ11の錯角となる内周側の底角θ14は60度、外周側当接角θ12の錯角である外周側の底角θ15は30度となっている。
【0065】
このような形状にしても、円環状突部123がつぶれやすくなるので、円環状突部123Aが開口形成面212bに確実に密着する。従って、開口形成面212bと円環状突部123Aの間のシール性が良好になり、開口部10を確実に閉鎖できる。
【0066】
なお、本例のダイヤフラム弁11Aを採用する際には、ダイヤフラム弁側凹部124の底面124a、および、直動部材側突部143の上端面143dを平坦面としておく。
【0067】
(その他の実施の形態)
上記の実施の形態では、内周側当接角と外周側当接角とはいずれも90度以下となっているが、いずれか一方の角度を90度以上としてもよい。
【0068】
また、径方向断面が略三角形を備える円環状突部123として、頂部123aよりも内周側の内周面、および、頂部123aよりも外周側の外周面が、円弧から形成されていているものも含むものとすることができる。この場合には、円環状突部123の径方向断面において、円環状突部123が開口形成面212bと最初に接触する接触点と、円環状突部123の上端面21aからの隆起が始まる内周側の隆起点とを結んだ直線を含む面を内周側傾斜面103bとし、円環状突部123が開口形成面212bと最初に接触する接触点と、円環状突部123の上端面21aからの隆起が始まる外周側の隆起点とを結んだ直線を含む面を外周側傾斜面103cとして、内周側当接角と外周側当接角の大きさを異ならせればよい。
【0069】
また、上記の実施の形態では、流体を第1流路7から流入させ、連結部9を介して第2流路8から流出しているが、流体を第2流路8から流入させ、連結部9を介して第1流路7から流出させることもできる。
【符号の説明】
【0070】
1 バルブ装置
2 ハウジング
3 モータ
7 第1流路
8 第2流路
9 連通部
10、101a 開口
11、11A、100 ダイヤフラム弁(弁体)
12、102 閉鎖部
12a 閉鎖部の上端面
13 駆動力伝達機構
14 直動部材
103、123、123A 円環状突部
103a、123a 頂部
103b、123b 内周側傾斜面
103c、123c 外側傾斜面
212 第3円筒部
101、212a 開口形成面
α、θ1、θ11 内周側当接角
β、θ2、θ12 外周側当接角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路の開口部が設けられた開口形成面と、この開口形成面に対して垂直に駆動される可撓性の弁体とを有し、前記弁体が、前記開口形成面に対向する閉鎖部と、この閉鎖部から前記開口形成面に向けて突出して前記開口部の周りに当接可能な円環状突部とを備えているバルブ装置において、
前記円環状突部は、頂部、この頂部に対して径方向内側で連接する内周側傾斜面、および前記頂部に対して径方向外側で連接する外周側傾斜面が全周にわたって形成された三角形あるいは略三角形の径方向断面を有し、前記開口形成面と前記内周側傾斜面とが成す内周側当接角と、前記開口形成面と前記外周側傾斜面とが成す外周側当接角とは、大きさが異なっていることを特徴とするバルブ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブ装置において、
前記内周側当接角は、前記外周側当接角よりも小さいことを特徴とするバルブ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のバルブ装置において、
前記流路を経由するように流体が流れているときに前記開口部を閉鎖すると、前記円環状突部の内側の空間の圧力は、前記円環状突部の外側の空間の圧力よりも高いことを特徴とするバルブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−286037(P2010−286037A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139498(P2009−139498)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】