説明

バレルめっき方法、および電子部品の製造方法

【課題】 たとえば電子部品の外部電極などの被めっき物を、めっきするためのバレルめっき方法において、短時間のめっき処理で、平滑性の高いめっき膜厚を得るためのバレルめっき方法を提供すること。
【解決手段】 被めっき物をバレル内に入れ、前記バレルを回転させながら、電気めっきにより前記被めっき物の表面にめっきするバレルめっき方法であって、第1電流にて、所定のめっき膜厚を形成する第1工程と、その後、前記第1電流よりも電流密度の大きい第2電流に切り替えて、前記第2電流にて、所定のめっき膜厚を得る第2工程と、を有するバレルめっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレルめっき方法、および外部電極を有する電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転式バレル内に、外部電極を有するチップ形状の電子部品(たとえば、積層セラミックコンデンサ、インダクタ、抵抗など)と、これら電子部品に通電させるための導電性メディアとを投入し、バレルをめっき液に浸漬させるとともに、これを回転させつつ、電気めっきを行うバレルめっき方法が知られている。
【0003】
バレルめっき方法において、所望のめっき膜厚を得ようとする場合、そのめっき膜厚は、電流密度と時間との積で求められる積算電流量で決定される。このようなバレルめっき方法において、たとえば、低い電流密度でめっき処理を行った場合には、比較的に平滑性の高いめっき膜を得ることができるが、めっき処理に多大な時間を要するため、生産性が低下してしまい、実用性に欠ける。一方、高い電流密度でめっき処理を行った場合には、得られるめっき膜の平滑性が悪化してしまうという課題があった。
【0004】
そのため、このようなバレルめっき方法においては、得られるめっき膜の平滑性と、生産性とのバランスを考慮し、所定(一定)の電流密度で金属を析出させて、めっき膜厚の均質化を図っている(たとえば、特許文献1)。
【0005】
たとえば、特許文献1では、端子電極を有するチップ状の電子部品を製造する際に、まず、金属粉末を含むペーストを用いて、下地層を形成し、次いで、この下地層上にめっきして、金属膜からなる外皮層を形成している。なお、この特許文献1では、めっき処理を、一定の電流密度である0.2A/dmにて行っており、さらに、めっき時間は、60分で行っている。
【0006】
一方で、生産性の向上という観点より、短時間のめっき処理で、平滑性の高いめっき膜厚を得ることが望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−58306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされ、たとえば電子部品の外部電極などの被めっき物を、めっきするためのバレルめっき方法において、短時間のめっき処理で、平滑性の高いめっき膜厚を得るためのバレルめっき方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このようなバレルめっき方法を用いた電子部品の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るバレルめっき方法は、
被めっき物をバレル内に入れ、前記バレルを回転させながら、電気めっきにより前記被めっき物の表面にめっきするバレルめっき方法であって、
第1電流にて、所定のめっき膜厚を形成する第1工程と、
その後、前記第1電流よりも電流密度の大きい第2電流に切り替えて、前記第2電流にて、所定のめっき膜厚を得る第2工程と、を有する。
【0010】
本発明のバレルめっき方法において、好ましくは、前記被めっき物の単位表面積に対する、前記第1電流の電流密度が、0.001〜1.0A/dmの範囲であり、
前記第2電流の電流密度が、0.01〜2.0A/dmの範囲である。
【0011】
本発明のバレルめっき方法において、好ましくは、前記第2電流の電流密度を、前記第1電流の電流密度の1.2倍以上とする。
【0012】
本発明のバレルめっき方法において、好ましくは、所望のめっき膜厚とするために必要な積算電流量を、総積算電流量とした場合に、
前記第1電流から、前記第2電流への切り替えを、総積算電流量100%に対して、積算電流量20〜80%の範囲で行う。
【0013】
本発明に係る電子部品の製造方法は、
外部電極を形成した素子本体を、バレル内に入れ、前記バレルを回転させながら、電気めっきにより前記外部電極の表面にめっきするバレルめっき工程を有する電子部品の製造方法であって、
前記バレルめっき工程が、第1電流にて、所定のめっき膜厚を得る第1工程と、
その後、前記第1電流よりも電流密度の大きい第2電流に切り替えて、前記第2電流にて、所定のめっき膜厚を得る第2工程と、を有する。
【0014】
本発明の電子部品の製造方法において、好ましくは、前記第1電流と、第2電流との関係を、上述の本発明のバレルめっき方法と同様の構成とする。
【0015】
また、本発明に係る電子部品としては、外部電極を有する電子部品であれば何でも良く、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品などが例示される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、バレルめっきを、所定の関係を有する第1電流と第2電流とで行うため、短時間のめっき処理で、平滑性の高いめっき膜厚を得ることができる。そして、短時間で所望のめっき膜厚を形成できることにより、生産性の向上を図ることができ、また、平滑性の高いめっき膜厚を形成できることにより、被めっき物の酸化を有効に防止することができる。
【0017】
さらに、本発明の方法によると、たとえば、一定の電流値でめっき処理を行った場合と比較して、少ない積算電流量(電気量)で、所望のめっき膜厚を得ることができる。そのため、めっき時のトータルエネルギー消費を少なく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2は本発明の実施例に係るめっき時における積算電流量とめっき厚さとの関係を示すグラフ、
図3〜5は比較例に係るめっき時における積算電流量とめっき厚さとの関係を示すグラフ、
図6は本発明の実施例および比較例に係るめっき時間とめっき厚さとの関係を示すグラフ、
図7(A)は本発明の実施例に係るめっき膜の表面写真、図7(B)は比較例に係るめっき膜の表面写真である。
【0019】
本実施形態においては、本発明のバレルめっき方法および電子部品の製造方法を、図1に示す積層セラミックコンデンサを例示して説明する。
【0020】
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素体10を有する。このコンデンサ素体10の両側端部には、素体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4,4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4,4は、コンデンサ素体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0021】
コンデンサ素体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
【0022】
誘電体層2は、誘電体酸化物から構成され、その材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。
【0023】
内部電極層3は、導電材を含んで構成される。内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料として耐還元性を有する材料を使用した場合には、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、たとえば、NiやNi合金などが挙げられる。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましい。
【0024】
外部電極4の材質は、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。外部電極4の厚みは、特に限定されないが、通常5〜100μmとする。
【0025】
本実施形態では、外部電極4の表面には、Niを主成分として含有する第1のめっき膜と、さらに、この第1のめっき膜の表面には、Snを主成分として含有する第2のめっき膜と、が形成される。これらのめっき膜は、積層セラミックコンデンサのハンダでの実装を可能とすることを主たる目的として、形成されるめっき膜である。本実施形態は、これらの第1のめっき膜、第2のめっき膜の少なくとも一方、特に、第1のめっき膜を、後に説明するバレルめっき方法で形成することを特徴とする。
【0026】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例を説明する。
【0027】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を形成し、次いで、外部電極の表面に第1、第2のめっき膜を形成することにより製造される。
【0028】
まず、図1に示す誘電体層2を形成するための誘電体層用ペースト、および内部電極層3を形成するための内部電極層用ペーストをそれぞれ準備する。
【0029】
誘電体層用ペーストは、誘電体磁器組成物原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。誘電体磁器組成物原料は、各種原料を使用して、焼成後の誘電体層2が所望の組成となるように、適宜調整すればよい。
【0030】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものであり、有機ビヒクルに用いられるバインダは、特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、このとき用いられる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じてテルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0031】
また、水溶系塗料とは、水に水溶性バインダ、分散剤等を溶解させたものであり、水溶系バインダは、特に限定されず、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョン等から適宜選択すればよい。
【0032】
内部電極層用ペーストは、上述した各種導電材あるいは焼成後に上述した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。
【0033】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0034】
次に、このグリーンチップに脱バインダ処理、焼成、および必要に応じてアニール処理を施して、焼結体(素子本体10)を作製する。
【0035】
脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよい。たとえば、空気雰囲気において、昇温速度を5〜300℃/時間程度、保持温度を180〜400℃程度、温度保持時間を0.5〜24時間程度とする。
【0036】
グリーンチップの焼成は、通常の条件で行えばよい。たとえば、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧を10−7〜10−3Pa、昇温速度を50〜500℃/時間程度、保持温度を1000〜1400℃程度、温度保持時間を0.5〜8時間程度、冷却速度を50〜500℃/時間程度とする。保持温度が低すぎると緻密化が不充分となり、保持温度が高すぎると内部電極の異常焼結による電極の途切れを生じる傾向がある。
【0037】
還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。アニール処理は、通常の条件で行えばよい。たとえば、アニール雰囲気中の酸素分圧を0.1Pa以上、特に0.1〜10Pa、保持温度を1100℃以下、特に500〜1100℃とする。
【0038】
次いで、得られた焼結体(素子本体10)に、たとえば、バレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。また、外部電極用ペーストは、上述した各種導電材と、必要に応じて添加されるガラスフリットと、上述した有機ビヒクルと、を混練して調製される。外部電極用ペーストに、ガラスフリット含有させることにより、焼結体(素子本体10)を構成する誘電体層2との接合性を向上させることができる。
【0039】
次いで、外部電極4の表面に、Niを主成分として含有する第1のめっき膜を形成する。本実施形態では、この第1のめっき膜は、以下に説明するバレルめっき方法により形成する。
【0040】
まず、上記にて外部電極4を形成した複数のコンデンサ素子本体10と、必要に応じて添加される導電性メディアと、を所定の大きさを有するバレル内に入れる。次いで、複数のコンデンサ素子本体10の入ったバレルを、めっき浴内に浸漬させる。なお、この際には、バレル内には所定の陰極を、めっき浴内のバレル外部にはNiを含有する陽極を、外部回路にて通電可能な状態で、それぞれ配置する。また、バレルは、複数のコンデンサ素子本体10がバレル内で撹拌されるように、回転可能な状態でめっき浴中に浸漬される。
【0041】
次いで、コンデンサ素子本体10に形成された外部電極4の表面に、バレルめっきにより厚さが、好ましくは0.3〜10μm、より好ましくは2〜4μmのNiを主成分として含有する第1のめっき膜を形成する。本実施形態では、まず、所定の電流密度を有する第1電流にて、めっき処理を施し、所定のめっき膜厚を形成する。次いで、めっき電流を、第1電流の電流密度よりも大きな電流密度を有する第2電流に切り替えて、この第2電流にて、めっき処理を施し、最終的に所望のめっき膜厚を得る。
【0042】
本実施形態では、第1電流の電流密度は、外部電極4の表面積に対して、0.001〜1.0A/dmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは、0.05〜0.1A/dmの範囲とする。また、第2電流の電流密度は、外部電極4の表面積に対して、0.01〜2.0A/dmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.1A/dmの範囲とする。第1電流、第2電流の電流密度が低すぎると、生産性が低下してしまう。一方、第1電流、第2電流の電流密度が高すぎると、得られるめっき膜の平滑性が悪化してしまう。特に、第1電流の電流密度が高すぎると、外部電極4の表面で、Hガスが発生し、ピットが生じ易くなってしまう。
【0043】
第2電流の電流密度は、第1電流の電流密度よりも大きければ良いが、好ましくは、第2電流の電流密度は、第1電流の電流密度の1.2倍以上であり、より好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上である。
【0044】
また、本実施形態のバレルめっき方法においては、第1電流から第2電流へと切り替えるタイミングを、次のようにすることが好ましい。すなわち、所望のめっき膜厚(第1電流により形成されるめっき膜厚と、第2電流により形成されるめっき膜厚との合計)を得るために必要な積算電流量(すなわち、総積算電流量)を100%とした場合に、積算電流量が、総積算電流量に対して、20〜80%の範囲にある時に、第1電流から第2電流へと切り替えることが好ましい。
【0045】
具体的には、たとえば、所望のめっき膜厚(たとえば、1μm)を得るために必要な積算電流量が、10A・min.(アンペア分)である場合には、第1電流から第2電流へと切り替えるタイミングを、10A・min.の20〜80%の範囲、すなわち、積算電流量が2〜8A・min.の範囲となった時とすることが好ましい。なお、上記積算電流量は、通常、供給した電流量と、供給時間と、の積で求めることができる。また、第1電流から第2電流へと切り替えるタイミングは、積算電流量が、20〜60%の範囲とすることがより好ましい。第1電流から第2電流へと切り替えるタイミングが早すぎると(すなわち、第1電流による積算電流量が少なすぎると)、得られるめっき膜の平滑性が悪化してしまう。一方、切り替えるタイミングが遅すぎると(すなわち、第1電流による積算電流量が多すぎると)、生産性が低下してしまう。
【0046】
上記めっき浴を構成するめっき液としては、特に限定されず、たとえば、Ni金属塩を含む水溶液などが使用できる。また、このようなNi金属塩を含む水溶液中には、必要に応じて、弱酸や弱塩基等からなる各種緩衝材や、アルカリ性の化合物等のめっき液の伝導性を向上させるための各種イオン伝導性物質などが含有されていても良い。
【0047】
次いで、上記にて形成したNiを主成分として含有する第1のめっき膜の表面に、Snを主成分とする第2のめっき膜を形成する。第2のめっき膜を形成する方法としては、陽極としてSnを、めっき液としてSn金属塩を含有するめっき液を使用する以外は、上述の第1のめっき膜の形成方法と同様とすれば良い。第2のめっき膜の厚みは、好ましくは1〜15μm、より好ましくは3〜8μmとする。
【0048】
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0049】
本実施形態によると、外部電極4の表面に、第1、第2のめっき膜を形成するためのバレルめっきを、めっき初期には、比較的に電流密度の小さい第1電流で行い、その後、第1電流よりも高い電流密度を有する第2電流で行う。そのため、短時間のめっき処理で、平滑性の高いめっき膜厚を得ることができる。
【0050】
一方で、従来においては、バレルめっきする際の電流値を、一定の電流値で行っていたため、めっき処理を短時間化することが困難であった。従来の方法において、たとえば、めっき処理の時間を短くすることを目的として、単にめっき時の電流密度を大きくした場合には、得られるめっき膜の平坦性が悪化してしまうという問題や、外部電極4表面に、水の分解に起因するHガスが発生してしまい、めっき膜表面に、ピットが生じてしまうという問題があった。
【0051】
これに対して、本実施形態では、上述の関係を有する第1電流、第2電流にて、めっき処理を行うため、このような問題を防止しつつ、短時間でのめっき処理を可能とすることができる。
【0052】
しかも、本実施形態では、従来のように、一定の電流値でめっき処理を行った場合と比較して、少ない積算電流量(電気量)で、所望のめっき膜厚を得ることができる。そのため、めっき時のトータルエネルギー消費を少なく抑えることができる。なお、この理由としては、必ずしも明らかではないが、めっき反応以外の副反応(たとえば、水の分解反応など)が、効果的に抑制されていることによると考えられる。また、本実施形態によれば、上記第1電流と第2電流との大きさや、切り替えのタイミングを適宜調整することにより、めっき処理に要する時間を最適化することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0054】
たとえば、上述した実施形態では、本発明のバレルめっき方法によりめっきする被めっき物として、積層セラミックコンデンサの外部電極を例示したが、本発明に係るバレルめっき方法は、積層セラミックコンデンサの外部電極以外にも、適用することができる。
【0055】
また、上述の実施形態においては、バレルめっきする際の電流を、第1電流と第2電流とで所望のめっき膜厚とする方法を例示したが、第2電流によりめっきした後に、さらに第2電流とは異なる電流密度を有する第3電流を供給しても良い。なお、この際の第3電流の電流密度は、第2電流よりも大きな値としても良いし、また、小さな値としても良い。さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、第4電流、第5電流等を供給しても良い。
【0056】
また、上述の実施形態では、Niを主成分とする第1のめっき膜およびSnを主成分とする第2のめっき膜の両方を、本発明のバレルめっき方法により形成したが、いずれか一方を本発明のバレルめっき方法により形成すれば良く、たとえば、第1のめっき膜だけを、本発明のバレルめっき方法により形成する工程を採用しても良い。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0058】
実施例1
まず、上述の方法に従い、図1に示すコンデンサ素子本体10を製造した。本実施例では、誘電体層2をBaTiOを主成分とする誘電体材料で形成し、内部電極層3をNiで形成した。
【0059】
次いで、素子本体10の端部に、外部電極用ペーストを塗布し、その後、乾燥し、焼付けすることにより外部電極4を形成した。本実施例では、外部電極用ペーストは、導電材としてのCu粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクル(エチルセルロースをブチルカルビトールに溶解したもの)とを含有するペーストを使用した。また、外部電極4の厚みは、50μmとした。
【0060】
バレルめっき
次いで、上記にて作製した外部電極4を有するコンデンサ素子本体10を複数準備し、以下に説明するバレルめっき方法にて、外部電極4の表面にNiを主成分とする第1のめっき膜を形成した。
【0061】
まず、複数のコンデンサ素子本体10と、導電性メディアと、を所定の大きさを有するバレル内に入れた。次いで、複数のコンデンサ素子本体10の入ったバレルを、めっき浴内に浸漬させた。そして、バレル内に陰極を配置するとともに、めっき浴内のバレル外部にはNiを含有する陽極を、それぞれ配置した。めっき浴としては、Ni金属塩を含む水溶液を使用した。
【0062】
次いで、バレルを回転させながら、陽極と陰極との間に、20A(アンペア)の電流(第1電流)を、20分の条件で流し、次いで、電流値を40Aに切り替えて、40Aの電流(第2電流)を、15分の条件で流して、Niを主成分とする第1のめっき膜を形成した。本実施例においては、めっき厚さが2μmとなるようにめっき処理を行った。
【0063】
第1電流である20A、第2電流である40Aは、外部電極の表面積に対する電流密度に換算すると、それぞれ、0.06A/dm、0.06A/dmに相当する。また、総積算電流量(第1電流の積算電流量と第2電流の積算電流量との合計)は、1000A・min.とし、第1電流(20A)から、第2電流(40A)への切り替えは、積算電流量が400A・min.となった時点とした。すなわち、第1電流から第2電流への切り替えは、総積算電流量100%(1000A・min.)に対して、40%(400A・min.)の時点とした。
【0064】
図2に積算電流量と、めっき厚さと、の関係を示す。めっき厚さの測定は、積算電流量のそれぞれ異なる試料を準備し、蛍光X線分析により行った。本実施例では、めっき厚さの測定は、それぞれ10個の試料を用い、10個の試料の平均値をめっき厚さとした。
【0065】
比較例1
めっき時の電流を、一定電流である20Aとし、めっき時間を50分とした以外は、実施例1と同様にして、めっき処理を行った。図3に、比較例1における積算電流量と、めっき厚さと、の関係を示す。
【0066】
比較例2
めっき時の電流を、まず、40A、15分の条件とし、次いで、電流を20Aに切り替えて、20A、20分の条件とした以外は、実施例1と同様にして、めっき処理を行った。図4に、比較例2における積算電流量と、めっき厚さと、の関係を示す。
【0067】
比較例3
めっき時の電流を、一定電流である28.6Aとし、めっき時間を35分とした以外は、実施例1と同様にして、めっき処理を行った。図5に、比較例3における積算電流量と、めっき厚さと、の関係を示す。なお、28.6Aは、外部電極の表面積に対する電流密度に換算すると、0.08A/dmに相当し、実施例1のめっき時間である35分間で、積算電流量が、実施例1と同じ1000A・min.となる電流値である。
【0068】
評価1
図2〜図5を比較することにより、次のことが確認できる。
図2より、第1電流(20A)、第2電流(40A)にてめっき処理を行った実施例1は、積算電流量を900A・min.とした段階で、目標のめっき膜厚である2μmに到達する結果となった。すなわち、以下に説明する比較例1のように積算電流量が1000A・min.となるまで電流を流す必要がなく、少ない電気量(エネルギー)で所望のめっき膜厚を形成できることが確認できた。なお、実施例1においては、めっき処理の時間は、合計で35分である。
【0069】
図3より、一定電流である20Aでめっき処理を行った比較例1では、所望のめっき膜厚を得るために、積算電流量が1000A・min.となるまで電流を流す必要があった。すなわち、所望のめっき膜厚を得るためには、上述の実施例1よりも多くの電気量(エネルギー)が必要であった。さらに、この比較例1では、所望のめっき膜厚を得るためには、50分間のめっき処理を行う必要があり、上述の実施例1の35分間よりも長い時間を要した。
【0070】
図4より、第1電流と、第2電流と、の電流密度を、上述の実施例1と反対の条件とした比較例2においては、積算電流量1000A・min.となるまで電流を流しても、所望のめっき膜厚を得ることができなかった。
【0071】
図5より、一定電流である28.6Aでめっき処理を行った比較例3では、積算電流量が1000A・min.となるまで電流を流しても、所望のめっき膜厚を得ることができなかった。
【0072】
評価2
図6に実施例1、比較例1〜3におけるめっき時間と、めっき厚さと、の関係を表すグラフを示す。図6より、本発明範囲内の実施例1においては、めっき時間を35分と短い時間とした場合においても、所望のめっき膜厚を得ることができるのに対し、一定電流である20Aでめっき処理を行った比較例1では、めっき時間35分では、所望のめっき膜厚の半分程度までしか形成することができないことが確認できる。また、比較例2,3においては、35分間で、積算電流量が1000A・min.となるまで電流を流しても、所望のめっき膜厚を得ることができなかった。すなわち、比較例2,3では、所望のめっき膜厚を得るためには、さらなる時間および電気量(エネルギー)が必要であることが確認できる。
【0073】
評価3
図7(A)、図7(B)に、得られためっき膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定された写真を示す。図7(A)は、本発明の実施例1に係るめっき膜の表面写真であり、図7(B)は、比較例2に係るめっき膜の表面写真であり、それぞれ、積算電流量が1000A・min.となるまで電流を流した後の試料の表面写真である。また、測定倍率は3500倍とした。
【0074】
図7(A)、図7(B)より、次のことが確認できる。すなわち、比較例2(図7(B))においては、めっき膜表面に比較的に大きな塊が存在しているのに対して、本発明範囲内の実施例1(図7(A))においては、このような塊は、存在せず、平滑性に優れていることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は実施例1に係るめっき時における積算電流量とめっき厚さとの関係を示すグラフである。
【図3】図3は比較例1に係るめっき時における積算電流量とめっき厚さとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は比較例2に係るめっき時における積算電流量とめっき厚さとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は比較例3に係るめっき時における積算電流量とめっき厚さとの関係を示すグラフである。
【図6】図6は本発明の実施例および比較例に係るめっき時間とめっき厚さとの関係を示すグラフである。
【図7】図7(A)は本発明の実施例1に係るめっき膜の表面写真、図7(B)は比較例2に係るめっき膜の表面写真である。
【符号の説明】
【0076】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき物をバレル内に入れ、前記バレルを回転させながら、電気めっきにより前記被めっき物の表面にめっきするバレルめっき方法であって、
第1電流にて、所定のめっき膜厚を形成する第1工程と、
その後、前記第1電流よりも電流密度の大きい第2電流に切り替えて、前記第2電流にて、所定のめっき膜厚を得る第2工程と、を有するバレルめっき方法。
【請求項2】
前記被めっき物の単位表面積に対する、前記第1電流の電流密度が、0.001〜1.0A/dmの範囲であり、
前記第2電流の電流密度が、0.01〜2.0A/dmの範囲である請求項1に記載のバレルめっき方法。
【請求項3】
前記第2電流の電流密度を、前記第1電流の電流密度の1.2倍以上とする請求項1または2に記載のバレルめっき方法。
【請求項4】
所望のめっき膜厚とするために必要な積算電流量を、総積算電流量とした場合に、
前記第1電流から、前記第2電流への切り替えを、総積算電流量100%に対して、積算電流量20〜80%の範囲で行う請求項1〜3のいずれかに記載のバレルめっき方法。
【請求項5】
外部電極を形成した素子本体を、バレル内に入れ、前記バレルを回転させながら、電気めっきにより前記外部電極の表面にめっきするバレルめっき工程を有する電子部品の製造方法であって、
前記バレルめっき工程が、第1電流にて、所定のめっき膜厚を得る第1工程と、
その後、前記第1電流よりも電流密度の大きい第2電流に切り替えて、前記第2電流にて、所定のめっき膜厚を得る第2工程と、を有する電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−342390(P2006−342390A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168777(P2005−168777)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】