説明

パターン形成方法及びインクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】フォトリソグラフィーによりパターンを形成しても、パターン開口部のエッジをシャープな状態に保ちながら、パターンの凹部壁面をテーパー形状とすることが可能なパターン形成方法および前記方法を応用したインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】基体上に、光重合可能な樹脂を含有する被覆樹脂層を形成する工程と、前記被覆樹脂層上に光重合開始剤を含有する溶液を塗布し、該被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤濃度の分布を形成する工程と、パターンが描かれたマスクを介して、前記被覆樹脂層上方から光を照射する工程と、光が照射された前記被覆樹脂層を現像処理して、前記パターンを有する被覆樹脂層とする工程と、を有することを特徴とするパターン形成方法とし、この方法をインクジェット記録ヘッドの製造に応用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィーによるパターンの形成方法および前記方法を応用したインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMSに代表されるようなミクロンオーダーの3次元構造物の形成手法が盛んに研究されている。その代表的なものとして、高アスペクト比のパターンが形成可能な感光性樹脂を用いる方法が挙げられる。しかしながら、従来の方式では、パターン開口部のエッジ形状とパターン凹部壁面のテーパー角度を同時に制御することは困難であった。即ち、感光性樹脂からなる被覆樹脂層表面近傍に露光機によるパターンのフォーカス(結像位置)を設定すればパターン開口部がシャープなエッジ形状が得られるものの、パターン凹部壁面をテーパー形状とすることは困難であった。逆に、露光機によるパターンの結像位置を感光性樹脂からなる被覆樹脂層表面近傍からオフセット(デフォーカス)させれば、パターン凹部壁面をテーパー形状とすることは容易となるものの、パターン開口部をシャープなエッジ形状に保つことは困難であった。
【0003】
ここで、パターン開口部のエッジ形状とパターン凹部壁面のテーパー角度を制御することが必要なデバイスの一例としてインクジェット記録方式におけるインクジェット記録ヘッドのノズル(インク吐出口)の形状が挙げられる。
【0004】
従来、液体をインク吐出口から小滴として吐出させ、紙に代表される被記録媒体に付着させ画像記録を行うインクジェット記録方式においては、記録特性をより高度なものにするため、より小さい液滴、より高い駆動周波数、より多いノズル数といった性能向上に対する技術開発が続けられている。本件出願人は、より高画質なインクジェット記録方法として特許文献1〜3記載の方法を提案している。
【0005】
更に本件出願人は、特許文献1〜3記載のインクジェット記録方法に好適なインクジェット記録ヘッドの製造方法として特許文献4記載の方法を提案している。この方法は、ノズルを形成する層に感光性材料を用い、フォトリソグラフィー技術により精密なノズル構造を実現するものである。
【0006】
更に本件出願人は、インクジェット記録ヘッドの性能向上に効果が高い、ノズル表面処理技術に関する提案も行っている。即ちノズル表面処理材(撥液層)として感光性を有する、フッ素含有加水分解性化合物の縮合物を用いることで、優れた耐久性を実現している。
【0007】
ここで、ノズルのテーパー角度がインクの吐出特性に大きな影響を与える場合がある。一般的に、ノズル壁面をテーパー形状とする方がインクの吐出特性に有利であるとされている。フォトリソグラフィーによるノズルの形成においては、パターン露光する際にデフォーカスすることで、ノズルをテーパーとすることが可能であるが、デフォーカス状態でのパターン露光では、ノズル先端(インク吐出口開口部)のエッジが、適性フォーカスからずれるために丸まる傾向が見られる場合があり、インク吐出特性上好ましくない場合がある。
【特許文献1】特開平4−10940号公報
【特許文献2】特開平4−10941号公報
【特許文献3】特開平4−10942号公報
【特許文献4】特開平6−286149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記諸点に鑑みなされたものであって、フォトリソグラフィーによりパターンを形成しても、パターン開口部のエッジをシャープな状態に保ちながら、パターンの凹部壁面をテーパー形状とすることが可能なパターン形成方法および前記方法を応用したインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基体上に、パターンを有する層を形成するパターン形成方法であって、
a)前記基体上に光重合可能な樹脂を含有する被覆樹脂層を形成する工程と、
b)前記被覆樹脂層上に光重合開始剤を含有する溶液を塗布し、該被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤濃度の分布を形成する工程と、
c)パターンが描かれたマスクを介して、前記被覆樹脂層上方から光を照射する工程と、
d)光が照射された前記被覆樹脂層を現像処理して、前記パターンを有する被覆樹脂層とする工程と、
を有することを特徴とするパターン形成方法である。
【0010】
また、上記方法をインクジェット記録ヘッドの製造に応用した本発明は、
A)インク吐出圧力発生素子が形成された基体上に、インク流路となるパターンを有する、溶解可能な樹脂層を形成する工程と、
B)該溶解可能な樹脂層を形成した基体上に光重合可能な樹脂(i)を含有する被覆樹脂層を形成する工程と、
C)前記被覆樹脂層上に光重合可能な樹脂(ii)及び光重合開始剤を含有する撥液層を形成し、該被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤濃度の分布を形成する工程と、
D)インク吐出口を形成するためのパターンが描かれたマスクを介して、前記撥液層上方から光を照射する工程と、
E)光が照射された前記撥液層及び前記被覆樹脂層を現像処理して、前記インク吐出圧力発生素子の上方の位置にインク吐出口を有する撥液層及び被覆樹脂層とする工程と、
F)前記溶解可能な樹脂層を形成する樹脂を溶出して除去し、インク流路とする工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、パターン開口部のエッジをシャープな状態に保ちながら、パターンの凹部壁面をテーパー形状とすることが可能なパターン形成方法を提供することができる。更に、本発明をインクジェット記録ヘッドのインク吐出口の製造に適用した場合、インク吐出口開口部のエッジをシャープな状態に保ちながら、壁面がテーパー形状となるインク吐出口を簡単な方法で形成可能となり、結果高品位な画像を得ることができるインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
従来のパターン形成方法において、基体上に被覆樹脂層を形成する方法としては、少なくとも光重合可能な樹脂と光重合開始剤を混合した塗布液を、スピンコート、ロールコートなどに代表されるソルベントコート法で基体上に塗布し、必要に応じて乾燥させて成膜する方法が採られている。この方法では、当然のことながら、被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤の濃度分布を持たせることは困難であり、パターン露光する際に被覆樹脂層表面近傍にパターンを結像すると、パターンの凹部壁面はテーパー形状とならない。
【0013】
本件発明らは、例えば光重合開始剤を含有しない状態で光重合可能な樹脂を含有する被覆樹脂層を成膜し、次いで光重合開始剤を溶かした溶液を被覆樹脂層上に塗布し、光重合開始剤を被覆樹脂層中に浸透、拡散させることで、被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤濃度に分布を持たせることができることを見出し、本発明に至った。即ち、パターンが描かれたマスクを介して被覆樹脂層上方から光を照射する際に、被覆樹脂層表面近傍にパターンを結像させることで、パターン開口部のエッジをシャープな形状に保ちながら、被覆樹脂層の膜厚方向での光重合開始剤の濃度分布による反応率の差を利用し、パターンの凹部壁面をテーパー形状とすることができる。
【0014】
より具体的には、被覆樹脂層の表面側が基体側に比べて光重合開始剤の濃度が高くなるため、パターン露光後において被覆樹脂層の表面側の感光性樹脂の重合率が高く、基体側は低い。したがって、その後の現像処理において、被覆樹脂層の表面側の現像速度は基体側に比べて遅く、結果として得られるパターンの凹部壁面がパターン開口部方向に向かって先細りとなるテーパー形状が実現できる。同時に、フォトリソグラフィーによる露光の際に被覆樹脂層表面近傍にパターンを結像させるため、被覆樹脂層表面のパターン開口部のエッジがシャープな形状を保つことが可能となる。
【0015】
次いで、本発明のパターン形成方法を図面を用いて更に詳細に説明する。
【0016】
まず、図1(a)に示すように、基体1を準備する。基体1としては、例えば、シリコン基板、その他金属もしくは金属酸化物からなる基板、プラスチック材料からなる基板を使用できる。
【0017】
次いで、図1(b)に示すように、基体1上に、光重合可能な樹脂を含有する被覆樹脂層3を形成する。光重合可能な樹脂は、光エネルギーの付与で重合が開始されるものであり、例えば、開環重合が可能なエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、チイラン環を有する樹脂、付加重合が可能なアクリル樹脂を使用できる。この光重合可能な樹脂は重合後にパターンとなる層を形成するものであることから、必要な機械的強度、基体に対する密着性等を有するものが好ましく、光カチオン重合性の樹脂、更に言えばエポキシ樹脂が好適に用いられる。
【0018】
ここで、被覆樹脂層3の形成段階では、被覆樹脂層3は光重合開始剤を含まないようにすることが好ましい。このようにすることで、後述するように被覆樹脂層3上に光重合開始剤を含有する溶液5を塗布し、被覆樹脂層3に光重合開始剤を浸透、拡散させて、被覆樹脂層3の膜厚方向に濃度分布を持たせるのが容易になる。その観点から、光重合可能な樹脂としては、光重合開始剤の浸透、拡散を制御可能な常温(25℃)で固体状の樹脂であることが好ましい。また、被覆樹脂層3の形成段階で、次工程において被覆樹脂層3の膜厚方向に目的とする濃度分布を持たせることを妨げない程度、例えば0.01〜1質量%の光重合開始剤を含有させることもできる。
【0019】
被覆樹脂層3は、適宜スピンコーティング、ダイレクトコーティング等により形成できる。この被覆樹脂層3は、通常10〜100μmの厚さになるように形成する。
【0020】
そして、図1(c)に示すように、被覆樹脂層3上に、光重合開始剤を含有する溶液5を塗布する。光重合開始剤を含有する溶液5は、適宜スピンコーティング、ダイレクトコーティング等で形成可能であるが、特にダイレクトコーティングが好適に用いられる。ここで、光重合開始剤を含有する溶液5の塗布時又は必要に応じて塗布後に加熱処理を施すことで、光重合開始剤が被覆樹脂層3中に浸透、拡散し、被覆樹脂層3の膜厚方向で光重合開始剤の濃度分布を生じた状態を形成することができる。なお、被覆樹脂層3の一部に光重合開始剤濃度が0となる領域が生じても構わない。その後、乾燥・洗浄等によって、被覆樹脂層3表面に残存する溶液を除去することもでき、溶液が残存したままでも良い。
【0021】
光重合開始剤としては、フォトリソグラフィーによるパターン形成を考慮すると、光カチオン重合開始剤が好適に用いられる。例えば、芳香族スルフォニウム、芳香族ヨードニウムのヘキサフルオロアンチモネート塩、ヘキサフルオロフォスフェート塩等が挙げられる。この光重合開始剤は、被覆樹脂層3に浸透、拡散させるため、必要に応じて極性溶媒を用いることが好ましい。高沸点の極性溶媒であることが好ましい。例えば、プロピレンカーボナート、エチレンカーボナート、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる極性溶媒が好ましい。
【0022】
光重合開始剤を含有する溶液5の光重合開始剤濃度は、目的とする被覆樹脂層3における光重合開始剤濃度分布を形成できる範囲で適宜設定できるが、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、また、10質量%以下であることが好ましい。
【0023】
次いで、図1(d)に示すように、パターンが描かれたマスク21介して、被覆樹脂層3の上方から光20を照射して、パターン露光を行う。この際、露光機からの光によりパターンが結像する位置は、被覆樹脂層3表面近傍になるように、適宜結像工学系22により調整される。
【0024】
前述のごとく、被覆樹脂層3は膜厚方向に光重合開始剤の濃度分布を有するため、結像位置が表面近傍に設定されていても、重合反応速度が膜厚方向で異なる。したがって、現像処理して所定のパターンを有する被覆樹脂層3とすることで、図1(e)に示すように、パターン凹部13壁面は開口部方向に向かって先細りとなるテーパー形状となる。基体1に対するパターン凹部13壁面のテーパー角度としては、使用目的に応じて適宜設定することができるが、形成のし易さから65〜85°とする場合に好適に適用できる。現像処理に使用する溶媒及び条件は、壁面が目的とする角度のテーパー形状を有するパターン凹部13を形成可能なように適宜設定する。
【0025】
また、パターン結像位置が被覆樹脂層3表面近傍に設定されているため、パターン凹部13の開口部のエッジ12の形状を、図2(a)に示すようにシャープなものとすることができる。従来のように、被覆樹脂層3が光重合開始剤を含有する場合、光重合開始剤は被覆樹脂層3中に均一に分布するため、パターン結像位置を被覆樹脂層3表面近傍に設定すると、図2(b)に示すように、パターン凹部13壁面をテーパー形状とすることが困難な場合がある。一方、パターン結像位置を被覆樹脂層3表面近傍からずらすことでパターン凹部13壁面をテーパー形状とする方法では、図2(c)に示すように、パターン凹部13の開口部のエッジ12の形状が丸まってしまう。
【0026】
以下にインクジェット記録ヘッドのインク吐出口の製造への応用を例示して、本発明を詳細に説明する。
【0027】
例えば従来の方法である特許文献4記載の方法においては、インク吐出口は、少なくとも光重合性の樹脂と光重合開始剤を混合した塗布液を、ソルベントコートにより基体上に成膜させた被覆樹脂層に形成する。この方法では、光重合性の樹脂と光重合開始剤は混合されているため、ソルベントコート時に被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤の濃度分布を持たせることは原理的に困難である。
【0028】
そこで、本件発明者らは、例えば光重合開始剤を含有しない状態で被覆樹脂層を成膜し、被覆樹脂層上に形成する撥液層に光重合開始剤を含有させ、光重合開始剤を撥液層から被覆樹脂層に浸透、拡散させることで、被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤濃度に分布を持たせることができることを見出した。即ち、被覆樹脂層の表面側(撥液層側)には光重合開始剤が高濃度で存在し、基体側には低濃度で存在する。上記構成においては、フォトリソグラフィーでパターン露光を施し、露光部の被覆樹脂層及び撥液層を硬化させて、露光部以外の部分にインク吐出口を形成する際に、被覆樹脂層表面近傍(撥液層表面近傍)にパターンを結像させた状態での露光でも、被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤の濃度分布があるために、インク吐出口壁面をテーパー形状とすることが可能となる。
【0029】
より具体的には、被覆樹脂層表面(撥液層側)に近いほど光重合開始剤濃度が高いためより重合反応が進み、結果、その後の現像処理において、被覆樹脂層の表面側の現像速度は基体側に比べて遅く、壁面が被覆樹脂層表面(撥液層表面)に向かって先細りとなるテーパー形状が実現できる。同時に、本発明においては、フォトリソグラフィーによる露光の際に被覆樹脂層表面近傍(撥液層表面近傍)にパターンを結像させてインク吐出口を形成するため、被覆樹脂層表面(撥液層表面)のインク吐出口開口部のエッジがシャープな形状を保つことが可能となる。
【0030】
一般的に、被覆樹脂層のパターンの凹部壁面をテーパー形状とする方法として、露光時のパターンの結像位置を被覆樹脂層表面近傍からずらす(デフォーカス)方法が知られているものの、この方法では被覆樹脂層表面のパターン開口部のエッジがシャープな状態にならず、パターン開口部のエッジが丸まる場合が多い。インクジェット記録ヘッドのインク吐出特性の観点から、表面のインク吐出口開口部のエッジはよりシャープな形状が望まれる。即ち、インクをインク吐出口内に保持する力(メニスカス維持力)は、表面の撥液性能とインク吐出口表面部の形状に強く依存し、メニスカス維持力を強く保つことで、高い駆動周波数でインク吐出を行う際のメニスカス振動を押さえ込むことが可能になり、高品位な画像を得ることができる。
【0031】
次いで、本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法を図面を用いて更に詳細に説明する。
【0032】
まず、図3(a)に示すように、電気熱変換素子からなるインク吐出圧力発生素子10が形成された基体1を準備する。基体1としては、例えば、シリコン基板を使用できる。基体1上に形成されたインク吐出圧力発生素子10の個数は1つでも良く複数でも良い。
【0033】
そして、図3(b)に示すように、基体1上に溶解可能な樹脂層2を形成する。このとき、溶解可能な樹脂層2は後にインク流路となるパターンを有するものとする。溶解可能な樹脂層2としては、ポジ型レジスト、特に被覆樹脂層を積層時に型崩れがおきないように分子量が比較的高い光分解型のポジ型レジストを用いて形成することが好ましい。そのような樹脂としては、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリアルキルメタクリレート、およびその共重合物を使用できる。そして、パターン露光をすることで、上記のインク流路となるパターンを形成する。この溶解可能な樹脂層2は、通常10〜60μmの厚さになるように形成する。
【0034】
次いで、図3(c)に示すように、溶解可能な樹脂層2を形成した基体1上に、光重合可能な樹脂(i)を含有する被覆樹脂層3を形成する。光重合可能な樹脂(i)は、光エネルギーの付与で重合が開始されるものであり、例えば、開環重合が可能なエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、チイラン環を有する樹脂、付加重合が可能なアクリル樹脂を使用できる。この樹脂(i)は重合後にインク吐出口の壁となるものであることから、インク吐出口として必要な機械的強度、基体に対する密着性、インクに対する耐性を兼ね備えたものが好ましく、光カチオン重合性の樹脂、更に言えばエポキシ樹脂が好適に用いられる。
【0035】
ここで、被覆樹脂層3の形成段階では、被覆樹脂層3は光重合開始剤を含まないようにすることが好ましい。このようにすることで、後述するように被覆樹脂層3上に形成される撥液層4中に光重合開始剤を含有させ、撥液層4から被覆樹脂層3に光重合開始剤を浸透、拡散させて、被覆樹脂層3の膜厚方向に濃度分布を持たせるのが容易になる。その観点から、光重合可能な樹脂(i)としては、光重合開始剤の浸透、拡散を制御可能な常温(25℃)で固体状の樹脂であることが好ましい。また、被覆樹脂層3の形成段階で、次工程において被覆樹脂層3の膜厚方向に目的とする濃度分布を持たせることを妨げない程度、例えば0.01〜1質量%の光重合開始剤を含有させることもできる。
【0036】
被覆樹脂層3は、適宜スピンコーティング、ダイレクトコーティング等により形成できる。この被覆樹脂層3は、通常、溶解可能な樹脂層2上で10〜100μmの厚さになるように形成する。
【0037】
そして、図3(d)に示すように、被覆樹脂層3上に、光重合可能な樹脂(ii)及び光重合開始剤を含有する撥液層4を形成する。撥液層4は、適宜スピンコーティング、ダイレクトコーティングに等で形成可能であるが、特にダイレクトコーティングが好適に用いられる。ここで、撥液層4の形成時又は必要に応じて形成後に加熱処理を施すことで、撥液層4に存在する光重合開始剤が被覆樹脂層3中に浸透、拡散し、被覆樹脂層3の膜厚方向で光重合開始剤の濃度分布を生じた状態を形成することができる。なお、被覆樹脂層3の一部に光重合開始剤濃度が0となる領域が生じても構わない。この撥液層4は、通常0.1〜1μmの厚さになるように形成する。
【0038】
光重合可能な樹脂(ii)としては、十分な撥液性と被覆樹脂層3に対する密着性が要求され、カチオン重合性の化合物が好適に用いられる。具体的には、フッ化アルキルシランを含む感光性化合物等が挙げられる。特に、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合可能な基を有する加水分解性シラン化合物、の縮合物がより好適に用いられる。
【0039】
光重合開始剤としては、フォトリソグラフィーによるインク吐出口形成を考慮すると、光カチオン重合開始剤が好適に用いられる。例えば、芳香族スルフォニウム、芳香族ヨードニウムのヘキサフルオロアンチモネート塩、ヘキサフルオロフォスフェート塩等が挙げられる。この光重合開始剤は、撥液層4より被覆樹脂層3に浸透、拡散させるため、必要に応じて極性溶媒に溶解させた状態で撥液層4中に存在させることが好ましい。高沸点の極性溶媒であることが好ましい。例えば、プロピレンカーボナート、エチレンカーボナート、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる極性溶媒が好ましい。
【0040】
本発明においては、撥液層4から被覆樹脂層3に光重合開始剤を供給するため、撥液層4中には通常より高濃度で光重合開始剤を含有させることが好ましい。実施形態にもよるが、撥液層4を形成する際に用いる組成物中の光重合開始剤濃度としては、5質量%以上が好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、また、40質量%以下であることが好ましい。
【0041】
次いで、図3(e)に示すように、インク吐出口を形成するためのパターンが描かれたマスク21介して、撥液層4の上方から光20を照射して、パターン露光を行う。この際、露光機からの光によりパターンが結像する位置は、撥液層4表面近傍又は被覆樹脂層3表面近傍になるように、適宜結像工学系22により調整される。尚、一般的に撥液層4は被覆樹脂層3に比べて非常に薄く形成されているため、結像位置が撥液層4表面近傍でも、被覆樹脂層4表面近傍でも、得られるインク吐出口11の形状は実質同じとなる。
【0042】
前述のごとく、被覆樹脂層3は膜厚方向に光重合開始剤の濃度分布を有するため、結像位置が表面近傍に設定されていても、重合反応速度が膜厚方向で異なる。したがって、現像処理してインク吐出圧力発生素子10の上方の位置にインク吐出口11を有する撥液層4及び被覆樹脂層3とすることで、図3(f)に示すように、インク吐出口11の壁面は開口部方向に向かって先細りとなるテーパー形状となる。基体1に対するインク吐出口11壁面のテーパー角度としては、インク吐出性能から65〜85°が好ましい。現像処理に使用する溶媒及び条件は、壁面が目的とする角度のテーパー形状を有するインク吐出口11を形成可能なように適宜設定する。
【0043】
また、パターン結像位置が撥液層4表面近傍又は被覆樹脂層3表面近傍に設定されているため、インク吐出口11の開口部のエッジ12の形状を、図4(a)に示すようにシャープなものとすることができる。従来のように、被覆樹脂層3が光重合開始剤を含有する場合、光重合開始剤は被覆樹脂層3中に均一に分布するため、パターン結像位置を撥液層4表面近傍又は被覆樹脂層3表面近傍に設定すると、図4(b)に示すように、インク吐出口11の壁面をテーパー形状とすることが困難な場合がある。一方、パターン結像位置を撥液層4表面近傍又は被覆樹脂層3表面近傍からずらすことでインク吐出口11の壁面をテーパー形状とする方法では、図4(c)に示すように、インク吐出口開口部のエッジ12の形状が丸まってしまう。
【0044】
次いで、溶解可能な樹脂層2を形成する樹脂を溶出して除去することで、図3(g)に示すようにインク流路13とする。上記の樹脂を溶出させるための溶媒としては、その樹脂の種類に合わせて適宜決定することができる。そして、不図示のインク供給口を適宜形成し、インクジェット記録ヘッドを完成させる。インク供給口の形成をした後に、溶解可能な樹脂層2を形成する樹脂を溶出して除去することも可能である。
【実施例】
【0045】
次に、本発明のより具体的な一実施形態について説明する。なお、本実施例では、図3(a)〜(g)に示す手順にしたがって、インクジェット記録ヘッドを作製した。
【0046】
まず、インク吐出圧力発生素子としての電気熱変換素子を形成したシリコン基板上に、溶解可能な樹脂層として、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業(株)社製ODUR−1010(商品名))をスピンコートで塗布、成膜した。次いで、120℃にて6分間プリベークした後、ウシオ電機製マスクアライナーUX3000(商品名)にてインク流路となるパターンを形成するためのパターン露光を行った。露光は3分間行い、その後メチルイソブチルケトン(MIBK)/キシレン=2/1(質量比)の混合溶媒で現像し、キシレンでリンスを行った。前記ポリメチルイソプロペニルケトンは、UV照射により分解し有機溶剤に対して可溶となる、所謂ポジ型レジストである。すなわち、溶解可能な樹脂層に形成されたパターンは、パターン露光の際露光されていない部分で形成されており、インク流路を確保するためのものである。なお、現像後の上記溶解可能な樹脂層の膜厚は17μmであった。
【0047】
次いで、表1に示す組成の光カチオン重合性の樹脂をメチルイソブチルケトン/ジグライム(1/1(質量比))混合溶媒に60質量%の濃度で溶解し、スピンコートにて溶解可能な樹脂層が形成されたシリコン基板上に塗布し、90℃にて4分間プリべークを行った。以上の塗布およびプリベークは2回行い、溶解可能な樹脂層上で膜厚40μmとなる被覆樹脂層を形成した。ここで、表1に示すエポキシ樹脂は、融点がおよそ80℃の固体状エポキシ樹脂である。また、この段階で、被覆樹脂層には光重合開始剤は含まれていない。
【0048】
【表1】

【0049】
次いで、グリシジルプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシランの加水分解性縮合物に対して、15質量%の比率で光カチオン重合開始剤として芳香族スルフォニウムヘキサフルオルアンチモネート塩(商品名:SP170、旭電化工業社製)を加えた組成物の、10質量%エタノール溶液を調製した。そして、ダイレクトコート法により前記エタノール溶液を被覆樹脂層上に塗布し、90℃にて1分間プリベークを行い0.5μmの膜厚の撥液層を形成した。
【0050】
次いで、キヤノン製マスクアライナー「MPA600 super(商品名)」を用いて、インク吐出口となるパターンを形成するためのパターン露光を行った。ここで結像位置は撥液層表面に設定した。次に90℃で4分間加熱し、メチルイソブチルケトン/キシレン=2/3(質量比)の混合溶媒で現像し、イソプロピルアルコールでリンスを行い、インク吐出口となるパターンを形成した。ここで、インク吐出口となる部分以外の被覆樹脂層は、光カチオン重合開始剤によって硬化しており、得られたインク吐出口開口部のエッジ形状はシャープなものであり、かつインク吐出口の壁面はテーパー形状となった。基板に対するインク吐出口壁面のテーパー角度は、75°であった。
【0051】
次いで、基板裏面にインク供給口を形成し、更にインク流路となる溶解可能な樹脂層を除去した。
【0052】
次いで、200℃にて1時間過熱処理を施して被覆樹脂層及び撥液層を完全に硬化させ、最後に、インク供給口にインク供給部材を接着してインクジェット記録ヘッドを完成させた。
【0053】
こうして得られたインクジェット記録ヘッドに、キヤノン製インクBCI−3Bk(商品名)を充填し、印字を行ったところ、得られた画像は高品位なものであった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明によりパターン形成方法の一例を説明するための図であり、(a)〜(e)は時系列で形成時の構成を示す図である。
【図2】形成されたパターン凹部のエッジ付近の拡大図であり、(a)は本発明の方法により形成したパターン凹部のエッジ付近、(b)及び(c)は従来の方法により形成したパターン凹部のエッジ付近を示す。
【図3】本発明によりインクジェット記録ヘッドの製造する方法の一例を説明するための図であり、(a)〜(g)は時系列で製造時の構成を示す図である。
【図4】インクジェット記録ヘッドのインク吐出口開口部のエッジ付近の拡大図であり、(a)は本発明の方法により形成したインク吐出口開口部のエッジ付近、(b)及び(c)は従来の方法により形成したインク吐出口開口部のエッジ付近を示す。
【符号の説明】
【0055】
1 基体
2 溶解可能な樹脂層
3 被覆樹脂層
4 撥液層
5 光重合開始剤を含有する溶液
10 インク吐出圧力発生素子
11 インク吐出口
12 エッジ
13 インク流路
14 パターン凹部
20 光
21 マスク
22 結像光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、パターンを有する層を形成するパターン形成方法であって、
a)前記基体上に光重合可能な樹脂を含有する被覆樹脂層を形成する工程と、
b)前記被覆樹脂層上に光重合開始剤を含有する溶液を塗布し、該被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤濃度の分布を形成する工程と、
c)パターンが描かれたマスクを介して、前記被覆樹脂層上方から光を照射する工程と、
d)光が照射された前記被覆樹脂層を現像処理して、前記パターンを有する被覆樹脂層とする工程と、
を有することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記工程b)における塗布を、ダイレクトコート法で行うことを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記光重合可能な樹脂として、常温で固体状の化合物を含有することを特徴とする前記請求項1または2記載のパターン形成方法。
【請求項4】
前記被覆樹脂層がカチオン重合可能な化合物を含有し、かつ前記光重合開始剤が光カチオン重合開始剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項5】
A)インク吐出圧力発生素子が形成された基体上に、インク流路となるパターンを有する、溶解可能な樹脂層を形成する工程と、
B)該溶解可能な樹脂層を形成した基体上に光重合可能な樹脂(i)を含有する被覆樹脂層を形成する工程と、
C)前記被覆樹脂層上に光重合可能な樹脂(ii)及び光重合開始剤を含有する撥液層を形成し、該被覆樹脂層の膜厚方向に光重合開始剤濃度の分布を形成する工程と、
D)インク吐出口を形成するためのパターンが描かれたマスクを介して、前記撥液層上方から光を照射する工程と、
E)光が照射された前記撥液層及び前記被覆樹脂層を現像処理して、前記インク吐出圧力発生素子の上方の位置にインク吐出口を有する撥液層及び被覆樹脂層とする工程と、
F)前記溶解可能な樹脂層を形成する樹脂を溶出して除去し、インク流路とする工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記被覆樹脂層及び前記撥液層がいずれもカチオン重合可能な化合物を含有し、かつ前記光重合開始剤が光カチオン重合開始剤であることを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記光重合可能な樹脂(i)として、常温で固体状のエポキシ化合物を含有することを特徴とする前記請求項5または6記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記撥液層が、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合可能な基を有する加水分解性シラン化合物、の縮合物を含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記工程C)における撥液層の形成を、ダイレクトコート法で行うことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記撥液層中に、前記光重合開始剤が極性溶媒に溶解させた状態で存在することを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記極性溶媒が、プロピレンカーボナート、エチレンカーボナート、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれることを特徴とする請求項10記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
請求項5〜11のいずれかに記載の方法で製造されたインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−159762(P2006−159762A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356784(P2004−356784)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】