説明

パターン描画装置

【課題】光源としてのランプとマイクロミラーデバイスを用いたパターン描画装置で、マイクロミラーデバイスに対して紫外光を斜めから入射させる必要がなくかつ反射した紫外光の光路を邪魔しない装置を提供する。
【解決手段】パターン描画装置100では、水銀ランプ101からの紫外光を偏光変換光学系103に入射させ、無偏光の光を直線偏光のS波に変換する。紫外光は、偏光ビームスプリッタ105に入射し100%近く反射して上方に進み、1/4波長板106を通過し円偏光となってマイクロミラーデバイス107に入射する。 マイクロミラーデバイスで反射する紫外光の内、パターン露光に寄与する紫外光は真っ直ぐに下方に進み、再度、1/4波長板を通過することでP波となり、偏光ビームスプリッタを100%近く透過し下方に進む。下方に進む紫外光の内、パターン露光に寄与するものは、ピンホール板110を通過して基板114に到達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路製造時の露光工程で用いられるマスクを製造するために用いられるマスク描画装置として利用でき、さらに、マスクを用いずに回路パターンをウエハ上に直接描画するマスクレス露光装置にも適用できるパターン描画装置の構造に関する。なお、パターン描画する対象であるマスクやウエハを本発明では区別しないため、以下、単に基板と呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路の製造時の露光工程では、回路パターンが描かれたマスク(フォトマスク、あるいはレチクルと呼ばれることもあるが、ここではマスクと呼ぶ。)を用いてレジストが塗布されたウエハ上に回路パターンを描画させる(パターン露光と呼ばれる。)必要があり、そのための装置は露光装置あるいは露光機と呼ばれる。
【0003】
一方、マスクを製造するには、マスクの基板となる石英ガラスなどの表面に、目的とする回路パターンに相当するパターン状に露光光を通過させるように遮光用のクロム膜などを付ける必要がある。このクロム膜はパターン露光によって形成され、そのパターン露光を行う装置はマスク描画装置と呼ばれる。マスク描画装置の手法には、電子ビームを用いた電子ビーム描画装置(以下、EB描画装置と示す。)が広く利用されている。
【0004】
ただし、マスク描画装置には、EB描画装置の他に、紫外域のレーザ光(以下、紫外レーザ光と略す。)を用いてパターン描画(すなわち、レジストが塗布されたマスク基板にパターン露光)する手法に基づくレーザビーム描画装置も製品化されている。その装置の従来例としては、1辺10〜20ミクロンの正方形である微小なマイクロミラーを二次元配列状に多数並べたミラーデバイス(空間光変調器、あるいはSLMと呼ばれる。)を用いて、これにパルス状の紫外レーザ光を照射し、各マイクロミラーごとに制御されたSLMからの反射光をマスク基板に照射して露光するものがある。このレーザビーム描画装置は、EB描画装置よりも描画速度が速い特徴があることが知られている。なお、これに関しては、例えば、非特許文献1(Proceedings of SPIE, Vol.4186, 第16〜21頁)、あるいは、特許文献1(USP6,428,940)において示されている。
【0005】
一方、前記SLMとは異なり、マイクロミラーがデジタル的にON/OFF動作のみを行うデジタルミラーデバイス(以下、DMDと示す。)を用いたパターン描画装置が、マスクレス露光装置などとして用いられることがある。そのおもな構成を図3に示した従来のパターン描画装置200を用いて説明する。露光光源としては、水銀ランプ201が用いられ、ここから発生する紫外光を集光ミラー202によって、平行ビームの紫外光UVL21にして、ミラー204に照射し、当該ミラー204で反射された紫外光UV22がマイクロミラーデバイス207に照射されている。マイクロミラーデバイス207として、ここでは、前記DMDが用いられている。
【0006】
パターン描画に利用する紫外光UV23は、マイクロミラーデバイス207で直下に進むように反射され、レンズ208aと208bとで構成された投影光学系209によってマイクロレンズアレイ211上に投影される。即ち、マイクロミラーデバイス207における各マイクロミラーが、マイクロレンズアレイ211における各マイクロレンズに1対1に対応するように、投影光学系209によって、マイクロミラーデバイス207の面がマイクロレンズアレイ211の面に投影されている。
【0007】
マイクロレンズアレイ211に入射する紫外光UV24は多数の細い光線に分割され、マルチピンホール板212における各ピンホールにそれぞれが集光する。マルチピンホール板212の各ピンホールの出射面での光の像が、縮小投影光学系213によって、基板214上に、多数の離散スポットの集合体となって、パターン投影される。
【0008】
図3に示されたパターン描画装置200におけるマルチピンホール板212を上から見ると、図4に示されたように、各ピンホールの並びが、X、Y方向から僅かに傾けられたように斜めに取り付けられている。その結果、描画中、基板214を図5のY方向にスキャンさせると、DMDの1回のON動作で露光されるマルチピンホール板212の投影領域215が上記スキャンによって順次部分的に重なりあって、1回の投影領域215を形成する多数の離散スポットの集合体における隣接するスポット間も露光が行われ、結果として基板214のスキャンによって次第に露光され、露光領域216が形成される。
【0009】
以上のようなパターン描画装置に関しては、例えば、特許文献2(USP 6,473,237)等においても、示されている。
【0010】
【非特許文献1】Proceedings of SPIE, Vol.4186, 第16〜21頁)
【特許文献1】USP6,428,940
【特許文献2】USP6,473,237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のマイクロミラーデバイス、特に、DMDを用いたパターン描画装置では、マイクロミラーデバイスに対して紫外光を下方、斜めから入射させている。これは、マイクロミラーデバイスから反射して露光に寄与する紫外光の光路を邪魔しないように、ミラー等を配置しているためである。ところが、マイクロミラーデバイスにおける各マイクロミラーの偏向角度は12度程度(例えば、TI社から販売されているDMDは12度となっている。)と小さいことから、マイクロミラーデバイスへの入射角度と反射角度の開き角も同じ12度程度と小さくする必要が生じ、その結果、マイクロミラーデバイスを離れた位置、すなわち装置内で高い場所に配置しなければならず、装置全体が大きく(高く)なることが問題であった。即ち、従来、マイクロミラーデバイスにおける各マイクロミラーの偏向角度と当該偏向角度による装置の大型化の問題については何等指摘されていない。
【0012】
本発明の目的は、ランプを光源としてマイクロミラーデバイスを用いたパターン描画装置をコンパクト化する技術を提供し、これによって、コンパクトなパターン描画装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明のパターン描画装置では、無偏光を偏光に変換する偏光変換光学系を用いて、紫外光発生部から発生した紫外光を、前記偏光変換光学系に入射させてからマイクロミラーデバイスに入射させたものである。なお、偏光変換光学系とは、無偏光あるいはランダム偏光の光を入射させると、損失無く、直線偏光の光が100%近く得られる光デバイスのことを示す。
【0014】
この構成によれば、無偏光の光を発生するランプを光源として用いても、損失無く、直線偏向の紫外光に変換できることから、その紫外光をマイクロミラーデバイスに入射する際に、偏光ビームスプリッタを用いることができ、かつマイクロミラーデバイスから出射する紫外光も同一の偏光ビームスプリッタを通過させることができる。したがって、レンズとピンホール板を用いることで、マイクロミラーデバイスから反射する光の内、パターン露光に利用しない光をカットすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパターン描画装置では、前述したように、マイクロミラーデバイスの配置位置を低くできるため、装置全体をコンパクト化できるようになった。特に本発明では偏向角には全く関係無いため、マイクロミラーデバイスにおける各マイクロミラーの偏向角が小さい場合に、従来では装置サイズが非常に高くなってしまうが、本発明では装置サイズが高くなって大型化することはない。
【0016】
また、本発明では特に光源として、無偏光であるランプだけでなく、一般に直線偏光で発振しやすいレーザ装置にも適用できる。すなわち、レーザ装置に対して直線偏光で発振させることが不要となり、ランダム偏光で発振させればよく、その結果、取り出されるレーザ光の平均出力を増大できるようになり、露光パワーを向上できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0018】
本発明の第1の実施形態を図1を用いて説明する。図1は本発明のパターン描画装置100の構成図である。パターン描画装置100では、光源として水銀ランプ101が用いられ、ここから放射された波長365nmの紫外光を、集光ミラー102によって平行ビームにして取り出し、この紫外光UV11を偏光変換光学系103に入射させている。
【0019】
偏光変換光学系103では、入射する無偏光の光を直線偏光の光に変換する機能を有する。これによって、偏光変換光学系103から出射した紫外光UV12は直線偏光になる。なお、紫外光UV12は、ここでは、紙面に垂直な方向に電界が振動する偏向方向の光になっており、これをS波と呼ぶ。S波である紫外光UV12は、偏光ビームスプリッタ105に入射すると、100%近く反射するため、上方(図1の+Z方向)に進み、1/4波長板106を通過する。その結果、紫外光UV13は円偏光となって、マイクロミラーデバイス107に入射する。
【0020】
マイクロミラーデバイス107で反射する紫外光の内、パターン露光に寄与させたいものは、真っ直ぐに下方(−Z方向)に進む。ただし、マイクロミラーデバイス107で反射した紫外光UV13は、円偏光であるが、入射時とは反対方向の円偏光であるため、再度、1/4波長板106を通過することで、今度は、P波(電界の振動方向がX方向)となることから、偏光ビームスプリッタ105を100%近く透過することになり、紫外光UV14となって下方に進む。
【0021】
すなわち、偏光ビームスプリッタ105には、マイクロミラーデバイス107に向かう紫外光UV12と、マイクロミラーデバイス107から進んできた紫外光UV13の両方が入射することになり、これらの紫外光が直線偏光になっていることから、それぞれをほぼ100%反射、及び100%透過に制御できる。
【0022】
偏光ビームスプリッタ105を透過した紫外光UV14はレンズ108aと108bとで構成された投影光学系109を通過して、マイクロレンズアレイ111に入射する。すなわち、投影光学系109によって、マイクロミラーデバイス107の面を、マイクロレンズアレイ111の面に投影しており、その際に、紫外光UV14は、ピンホール板110を通過する。
【0023】
なお、これ以降の構成は、前述した従来のパターン描画装置200と同等である。すなわち、マイクロレンズアレイ111で集光される位置にマルチピンホール板が配置しており、ここを通過する紫外光UV15は多数の細い光線となって、縮小投影光学系113を通過する。縮小投影光学系113によって、マルチピンホール板112における多数のスポット光を基板13上に縮小投影することで、基板14にパターン描画される。
【0024】
一方、マイクロミラーデバイス107において、パターン露光に寄与しない紫外光は、下方(−Z方向)から約12度傾いて進むが、ほとんどは1/4波長板106を通過するため、大部分が偏光ビームスプリッタ105を透過して、レンズ108aに入射する。ところが、約12度傾いているため、ピンホール板110の穴を通過できない。したがって、ここでカットされることから、基板14まで進むことはない。
【0025】
以上のように、本発明のパターン描画装置100では、偏光ビームスプリッタ105によって紫外光の進行方向を前記のように制御することから、図3に示された従来のパターン描画装置200に比べて、マイクロミラーデバイス207の配置位置を低くできるようになった。
【0026】
ここで、偏光変換光学系103の構造を図2に示す。図2は偏光変換光学系103の断面構造を示してあり、多数の細長い偏光ビームスプリッタ103aと、それらに対して、1本置きに付けられた細長い1/2波長板103bが並べられている。入射波が無偏光、すなわちP波とS波の両方が混ざっている場合、偏光ビームスプリッタ103aによって分離され、直進するP波は1/2波長板103bによってS波に変換されるが、偏光ビームスプリッタ103aによって分離して反射するS波は、1/2波長板103bが無い部分から、S波のままで出射する。したがって、出射光は全てS波になっている。ここで、本発明に使用されるマイクロミラーデバイスに入射される光は直線偏光である必要は無いため、本発明のようなパターン描画装置に、図2に示されたような偏光変換光学系103が用いられることは無かった。したがって、図2に示された偏光変換光学系103を備えたパターン描画装置及び当該パターン描画装置用偏光変換光学系103は、従来見られなかった新規なものである。
【0027】
更に、図1に示したように、本発明では、偏光変換光学系103及び偏光ビームスプリッタ105をランプ101とマイクロミラーデバイス107との間に設けても、マイクロミラーデバイス107を構成するマイクロミラーの偏向角度及びマイクロミラーの制御動作を変更する必要は無いため、従来使用されているマイクロミラーデバイス及びその制御回路をそのまま利用できると言う利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のパターン描画装置100の構成図である。
【図2】図1に示されたパターン描画装置100に使用される偏光変換光学系103の断面図である。
【図3】従来のパターン描画装置200の構成図である。
【図4】マルチピンホール板212の構成図である。
【図5】パターン描画装置200による描画を説明するための図である。
【符号の説明】
【0029】
100、200 パターン描画装置
101、201 水銀ランプ
102、202 集光ミラー
103 偏光変換光学系
103a、105 偏光ビームスプリッタ
103b 1/2波長板
106 1/4波長板
107、207 マイクロミラーデバイス
108a、108b、208a、208b レンズ
109、209 投影光学系
110 ピンホール板
111、211 マイクロレンズアレイ
112、212 マルチピンホール板
113、213 縮小投影光学系
114、214 基板
204 ミラー
215 ピンホール板212の投影領域
216 露光された領域
UV11、UV12、UV13、UV14、UV15、UV21、UV22、UV23、UV24、UV25 紫外光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光発生部、二次元配列状の微小ミラー(マイクロミラー)、縮小投影光学系、及び無偏光を偏光に変換する偏光変換光学系を含み、前記紫外光発生部から発生した紫外光を、前記偏光変換光学系に入射させてから前記二次元配列状の微小ミラーに入射させることを特徴とするパターン描画装置。
【請求項2】
前記二次元配列状の微小ミラーで反射した紫外光を、レンズに通して、該レンズの焦点近傍にピンホール板を配置することを特徴とする請求項1に記載のパターン描画装置。
【請求項3】
前記紫外光発生部がランプであることを特徴とする請求項1に記載のパターン描画装置。
【請求項4】
前記二次元配列状の微小ミラーで反射した紫外光をマイクロレンズアレイに通過させて、多数のスポット光を発生させ、該スポット光によって、パターン描画することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパターン描画装置。
【請求項5】
無偏光の光を発生するランプと、入射する光を個別に反射する微小ミラーからなるマイクロミラーデバイスとを含むパターン描画装置において、前記ランプで発生された無偏光の光を直線偏光に変換する偏光変換光学系を備え、当該偏光変換光学系で変換された直線偏光を前記マイクロミラーデバイスに入射させることを特徴とするパターン描画装置。
【請求項6】
前記偏光変換光学系は、無偏光の光をS波の直線偏光に変換する光学系であることを特徴とする請求項5記載のパターン描画装置。
【請求項7】
前記偏光変換光学系と前記マイクロミラーデバイスとの間には、前記偏光変換光学系からの直線偏光を反射し、前記マイクロミラーデバイスで反射された光を透過する光学系が設けられていることを特徴とする請求項5又は6記載のパターン描画装置。
【請求項8】
前記光学系は、前記偏光変換光学系からの直線偏光を反射し、前記マイクロミラーデバイスで反射された直線偏光を透過する偏光ビームスプリッタを含んでいることを特徴とする請求項7記載のパターン描画装置。
【請求項9】
前記光学系は前記偏光ビームスプリッタと前記マイクロミラーデバイスとの間に設けられた1/4波長板を備えていることを特徴とする請求項8記載のパターン描画装置。
【請求項10】
前記偏光変換光学系は複数の偏光ビームスプリッタと、所定位置に設けられた前記偏光ビームスプリッタに取り付けられた1/2波長板とを備えていることを特徴とする請求項6記載のパターン描画装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−41124(P2006−41124A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217676(P2004−217676)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】