説明

パターン観察方法

【課題】凹パターンと凸パターンを有する絶縁膜における凹パターンの底面を明瞭に観察する。
【解決手段】絶縁膜に形成された、ラインパターン2とスペースパターン3を有するパターン1を観察するパターン観察方法であって、パターン1に電子ビームを照射してパターン1の仮画像を取得し、この仮画像を用いてラインパターン領域4とスペースパターン領域5を算出し、ラインパターン領域4に対して正帯電条件で電子ビームを照射し、かつ、スペースパターン領域5に対して負帯電条件で電子ビームを照射することにより、ラインパターン2の上面とスペースパターン3の底面との間に、スペースパターン3の底面から放出される二次電子をパターン1の外側に引き出すための電界を形成し、その後、パターン1に電子ビームを照射して、スペースパターン3の底面の情報を有するパターン1の画像を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン観察方法、例えば、荷電粒子線を照射することによって半導体装置のパターンを観察するパターン観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の微細化および多層化の進展に伴い、アスペクト比の大きいホールパターン(コンタクトホール、ビアホール)が多用されるようになっている。それに応じて、ホールパターンの底面の絶縁物が十分に除去されていることの確認や、ホールパターンの底面の幅が仕様を満たしているかなど、パターン底面の加工状態の確認する必要性が増している。
【0003】
このような半導体プロセスにおける微細な構造を観察する手法として、光学的手法と荷電粒子線を用いた手法がある。
【0004】
まず、光学的パターン観察手法の一つとして、スキャッテロメトリ(Scatterometry)と呼ばれる手法が知られている(特許文献1)。この方法では、観測対象のパターンに光を照射し、反射光のスペクトルからパターンの形状を推測する。この手法は光の回折現象を利用するため、観測対象は規則的なパターンである必要がある。よって、システムLSIのデバイスパターンなどの規則的でないパターンは観察できない。また、規則的なパターンであっても、一番端のパターンの観測といった局所的なパターン観察を行うことはできない。
【0005】
次に、荷電粒子線を用いたパターン観察手法の一つとして、電子ビームをプローブとする走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)が知られている。例えば半導体装置の配線パターンを観察する場合、SEMは電子ビーム(一次電子)を配線パターンに照射することにより、配線パターンの表面から二次電子を生成させる。そして、SEMは、この二次電子を検出器で検出し、二次電子の検出データから観察画像(以下、二次電子画像という。)を生成する。この二次電子画像を用いて、配線パターンの形状を観察することや配線幅を測定することができる。
【0006】
しかし、SEMによる通常の観察方法では、二次電子画像からアスペクト比の大きいパターンの底面を明瞭に観察することは困難である。この理由について説明する。一例として、ラインパターン(残しパターン)とスペースパターン(抜きパターン)が周期的に並んでいるラインアンドスペースパターン(Line and Space pattern。以下、LSパターンという。)を観測対象として説明する。
【0007】
スペースパターンの幅がラインパターンの高さに比べて大きい場合(つまり、アスペクト比が小さい場合)、電子ビームが照射された際にスペースパターンの底面(以下、スペース底面という。)から発生する二次電子は、ラインパターンの側壁にほとんど衝突することなくLSパターンの外部に放出され、検出器に到達する。このため、スペース底面を明るく観察することができる。一方、アスペクト比が大きい場合、スペース底面から発生した二次電子はラインパターンの側壁に衝突し易くなるため、検出器に到達する二次電子は減少する。よって、スペース底面を明るく観察することはできない。
【0008】
ところで、スペース底面が接地電位に保たれた基板と導通している場合であって、ラインパターンが基板と非導通状態である場合において、スペース底面を明るく観察する方法が提案されている(例えば特許文献2)。この方法では、予めLSパターンの全面に電子ビームを照射して試料を正に帯電させておき、その後、電子ビームを照射して二次電子画像を得る。この方法によれば、アスペクト比が大きい場合でもスペース底が明るく観察される。この理由について説明する。LSパターン全面に照射された電子ビームによって、ラインパターンの上面(以下、ライン上面という。)は正に帯電するが、スペース底面は接地されているため帯電しない。このような帯電状態を形成した後に電子ビームを照射すると、スペース底面から放出される二次電子は、ライン上面の正電荷によってLSパターンの外側に引き出されて検出器に到達する。よって、スペース底面を明るく観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−260994号公報
【特許文献2】特開2002−270655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は凹パターンと凸パターンを有する絶縁膜における凹パターンの底面を明瞭に観察できるパターン観察方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、絶縁膜に形成された、凹パターンと凸パターンを有するパターンを観察するパターン観察方法であって、前記パターンにおける前記凹パターンと前記凸パターンの両方に第1の観察用荷電粒子線を照射して、前記凸パターンに対応する凸パターン領域の領域情報と前記凹パターンに対応する凹パターン領域の領域情報を有する、前記パターンの仮画像を取得し、
前記凸パターン領域の前記領域情報および前記凹パターン領域の前記領域情報に基づいて、前記パターンにおける前記凸パターン領域に対して第1の入射電圧の電界形成用荷電粒子線を照射し、かつ、前記凹パターン領域に対して前記第1の入射電圧とは異なる第2の入射電圧の電界形成用荷電粒子線を照射することにより、前記凸パターンの上面と前記凹パターンの底面との間に、荷電粒子線の照射によって前記凹パターンの前記底面から放出される荷電粒子を前記パターンの外側に引き出すための電界を形成し、その後、前記パターンにおける前記凹パターンと前記凸パターンの両方に第2の観察用荷電粒子線を照射して、前記凹パターンの前記底面の情報を有する前記パターンの画像を取得する、パターン観察方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、凹パターンと凸パターンを有する絶縁膜における凹パターンの底面を明瞭に観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】酸化膜(SiO)の二次電子放出効率の入射電圧依存性を示す図である。
【図2】LSパターンの構造を説明するための図である。(a)はLSパターンの平面図であり、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図3】第1の実施形態に係るパターン観察方法のフローチャートである。
【図4】第1の実施形態に係るパターン観察方法を説明するための図である。(a)及び(c)は二次電子画像の模式図を示している。(b)はLSパターンの断面図であり、走査完了後の帯電状態を示している。
【図5】第2の実施形態に係るパターン観察方法のフローチャートである。
【図6】第2の実施形態に係るパターン観察方法を説明するための図である。
【図7】2段のホールパターンの構造を説明するための図である。(a)はホールパターンの平面図であり、(b)はA−A線に沿う断面図である。
【図8】第3の実施形態に係るパターン観察方法のフローチャートである。
【図9】第3の実施形態における入射電圧と二次電子放出効率の関係を示す図である。
【図10】第3の実施形態に係るパターン観察方法を説明するための図である。(a)及び(c)は二次電子画像の模式図を示している。(b)は2段のホールパターンの断面図であり、走査完了後の帯電状態を示している。
【図11】比較例に係るパターン観察方法を説明するための図である。(a)は観察対象となるLSパターンの平面図であり、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図12】比較例に係るパターン観察方法を説明するための図である。(a)はLSパターンの帯電状態を示す断面図であり、(b)は取得された二次電子画像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る実施形態を説明する前に、本発明者が本発明をなすに至った経緯について説明する。
【0015】
上記の特許文献2に係る方法によれば、アスペクト比が大きいパターンであっても、スペース底面を明瞭に観察することができる。しかし、この方法は、スペース底面が所定の電位に保たれた基板と導通している場合に有効であるが、スペース底面がフローティングしている場合には有効でない。
【0016】
スペース底面がフローティングしている場合として、例えば全体が絶縁膜から構成されたLSパターンが挙げられる。昨今の多層構造を有する半導体装置の製造プロセスにおいては、絶縁膜を堆積した後、この絶縁膜に溝を形成することにより、基板と導通していないLSパターンを形成することが多い。
【0017】
スペース底面がフローティングしている他の場合として、いわゆる側壁加工プロセスにおけるマスクパターンが挙げられる。この側壁加工プロセスは露光装置の最小解像度よりも小さいパターンを形成可能な半導体プロセスである。絶縁膜(マスク材)の上にリソグラフィを用いてパターンを形成した後、ウエットエッチングによりパターンを細らせる。そして細らせたパターンの側壁に絶縁膜(側壁絶縁膜)を形成し、その後、この側壁絶縁膜の間にあるパターンを除去する。これにより、露光装置の最小解像度以上のピッチのLSパターンが形成される。このLSパターンはマスクパターンとなるため、側壁絶縁膜の間のパターンが十分に除去されていることが極めて重要となる。
【0018】
次に、スペース底面がフローティングしている場合、パターン底面を明瞭に観察できない理由について、図11及び図12を用いて説明する。
【0019】
図11(a)は、絶縁膜からなるLSパターン11の平面図を示している。図11(b)は、図11(a)のA−A線に沿う断面図である。この図11(a)及び(b)に示すように、LSパターン11は、ラインパターン12とスペースパターン13が交互に配置されている。
【0020】
このLSパターン11の観察領域に対して、電子ビームを正帯電条件(二次電子放出効率が1を越える条件)で照射する。これにより、図12(a)からわかるように、ラインパターン12及びスペースパターン13はともに正に帯電する。
【0021】
この後、観察条件(例えば二次電子放射効率が1となる入射電圧の電子ビームを用いる。)で、LSパターン11を走査する。これにより、ライン上面12aだけでなく、スペース底面13aも帯電する。ライン上面12aとスペース底面13aとの帯電量は同じであるため、ライン上面12aとスペース底面13aとの間に電位差(電界)は発生しない。このため、図12(a)からわかるように、スペース底面13aから放出された二次電子を真空側(図中上側)に引き出す効果が得られず、二次電子は効率良く検出器に到達することができない。その結果、取得された二次電子画像は、図12(b)からわかるように、通常の方法で観察した場合と同様、ラインパターン領域14は明るいが、スペースパターン領域15は暗くなってしまう。
【0022】
上記のように、スペース底面13aが接地されていない場合には、上記比較例の方法によっても、スペース底面13aを明るく観察することはできない。
【0023】
そのため、従来、凹凸パターンを有する絶縁膜の凹パターンの底面を検査するためには、ウェーハを劈開して断面を観察するなどの手法が採られていた。しかし、この方法では時間がかかる上、インラインで検査できないという問題がある。ここで、インラインで検査するとは、半導体装置の製造プロセスからウェーハを抜き取り、パターン観察を行った後、ウェーハを製造ラインに戻すことをいう。このように、従来、絶縁膜に形成された凹パターンの底面を明瞭に観察できるパターン観察方法が強く求められていた。
【0024】
本発明は、上記の本発明者独自の技術的認識に基づいてなされたものであり、以下の各実施形態において述べるように、凹凸パターンを有する絶縁膜の凹パターンの底面を明瞭に観察できるパターン観察方法を提供するものである。より具体的には、まず、凹凸パターンを有する絶縁膜における、凹パターンと凸パターンの両方に観察用の荷電粒子線を照射する。これにより、凸パターンに対応する凸パターン領域の領域情報および凹パターンに対応する凹パターン領域の領域情報を有する、凹凸パターンの仮画像を取得する。ここで、領域情報とは、凸パターン領域(又は凹パターン領域)の位置、形状及び寸法(大きさ)のうち少なくともいずれか1つに関する情報を含むものである。
【0025】
次いで、凸パターン領域の領域情報および凹パターン領域の領域情報に基づいて、凸パターン領域に対して第1の入射電圧の電界形成用荷電粒子線を照射し、かつ、凹パターン領域に対して第1の入射電圧とは異なる第2の入射電圧の電界形成用荷電粒子線を照射する。これにより、凸パターンの上面と凹パターンの底面との間に電界を形成する。この電界は、観察用の荷電粒子線を照射する際に、凹パターンの底面から放出される荷電粒子をパターンの外側に引き出すためのものである。
【0026】
そして、このような電界を形成した後、凹凸パターンにおける凹パターンと凸パターンの両方に観察用の荷電粒子線を照射する。これにより、凹パターンの底面の情報を有する凹凸パターンの画像を取得する。
【0027】
上記のようにすることで、凹パターンの底面がフローティングしている場合であっても、凸パターンの上面と凹パターンの底面との間に形成された電界により、凹パターンの底面から放出される荷電粒子を効率良くパターンの外側に引き出すことができる。その結果、凹パターンの底面を明瞭に観察することができる。
【0028】
以下、本発明に係る3つの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、同等の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、詳しい説明は省略する。
【0029】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。
【0030】
まず、図1を用いて一次電子の入射電圧(入射エネルギー)と二次電子放出効率の関係について説明する。二次電子放出効率とは、試料に入射した一次電子数と放出される二次電子数の比率(二次電子数/一次電子数)である。図1は、シリコン酸化膜(SiO)の二次電子放出効率の入射電圧依存性を示している。この図1からわかるように、シリコン酸化膜のような絶縁膜の場合、正帯電条件と、負帯電条件(二次電子放出効率が1を下回る条件)とが存在する。
【0031】
図1からわかるように、シリコン酸化膜の場合、一次電子の入射電圧が100Vより小さい条件と2000Vより大きい条件は負帯電条件であり、入射電圧が100Vより大きく2000Vより小さい条件は正帯電条件である。
【0032】
負帯電条件で電子ビームを絶縁膜に照射すると、二次電子放出効率が1未満であるため、試料から放出される二次電子は入射した一次電子よりも少ない。よって、電子ビームが照射された領域は負に帯電する。
【0033】
一方、正帯電条件で電子ビームを絶縁膜に照射すると、二次電子放出効率は1より大きいため、入射した一次電子よりも多い二次電子が試料から放出される。よって、電子ビームが照射された領域は正に帯電する。
【0034】
なお、二次電子放出効率が1の条件は、試料が帯電しないことから、好ましくは観察時の条件(観察条件)として用いられる。
【0035】
本実施形態において観察対象とする試料は、図2(a)に示す絶縁膜(シリコン酸化膜)からなるLSパターン1である。図2(b)は、図2(a)のA−A線に沿う断面図である。図2(a)及び図2(b)からわかるように、LSパターン1は、ラインパターン2とスペースパターン3が交互に設けられている。
【0036】
以下、図3に示すフローチャートに沿って、本実施形態に係るパターン観察方法を説明する。
【0037】
(1)まず、正帯電条件となる電子ビームの入射電圧および負帯電条件となる電子ビームの入射電圧を決める(ステップS11)。二次電子放出効率は試料の材質により大きく変わるため、試料の材質に応じて正帯電条件および負帯電条件となる入射電圧をそれぞれ決める必要がある。例えばシリコン酸化膜(SiO)の場合、図1からわかるように、正帯電となる電子ビームの入射電圧Vinは100<Vin<2000[V]であり、負帯電となる電子ビームの入射電圧はVin<100[V]又はVin>2000[V]である。
【0038】
(2)次に、電子ビームをLSパターン1に照射し、観察領域の二次電子画像(仮画像)を取得する(ステップS12)。図4(a)は取得された二次電子画像の模式図を示している。この図4(a)からわかるように、ラインパターン領域4は明るいが、スペースパターン領域5は暗い。これは、前述のように、LSパターン1のスペース底面3aから放出された二次電子を効率よく検出することができないことによる。図4(a)中、白線の部分は、ラインパターン2の側壁2bを示している。一次電子の試料への入射角度が浅くなるにつれて試料から放出される二次電子の数が増加するため、側壁2bはラインパターンやスペースパターンに比べて明るく観察される。
【0039】
なお、本工程のように試料表面を観察する際の電子ビームの入射電圧は、絶縁膜が帯電しないように、二次電子放出効率が1となる入射電圧を選択するのが好ましい。例えば絶縁膜がシリコン酸化膜の場合、入射電圧として100V又は2000Vを用いることが好ましい。
【0040】
(3)次に、ステップS12で取得した二次電子画像を用いて、ラインパターン2に対応するラインパターン領域4と、スペースパターン3に対応するスペースパターン領域5とを算出する(ステップS13)。算出する方法としては、LSパターンの階調値の差から判別する方法、又は、画像処理によりパターンの輪郭を抽出する方法などが挙げられる。このようにして算出されたラインパターン領域4とスペースパターン領域5を図4(a)に示す。この図4(a)からわかるように、ラインパターン領域4及びスペースパターン領域5は、それぞれラインパターン2及びスペースパターン3の位置、形状及び寸法(線幅)に関する情報を含んでいる。
【0041】
(4)次に、図4(a)からわかるように、ラインパターン領域4に対して正帯電条件で電子ビームを照射し、スペースパターン領域5に対して負帯電条件で電子ビームを照射する(ステップS14)。例えば、ラインパターン領域4に対して正帯電条件である入射電圧800Vの電子ビームを照射し、スペースパターン領域5に対して負帯電条件である入射電圧2500V又は50Vの電子ビームを照射する。なお、照射する順序は任意である。
【0042】
ここで、電子ビームの走査方法について説明する。
【0043】
第1の走査方法として、LSパターン1の長手方向に電子ビームを走査する方法がある。即ち、図4(a)において、負帯電条件でスペースパターン領域5を長手方向(図中上下方向)に走査する。この走査を例えば図中左側から右側に向かって行う。観察領域の一番左のスペースパターン領域5の走査が完了すると、入射電圧を正帯電条件に切り替えて走査の完了したスペースパターン領域5の右に隣接するラインパターン領域4を走査する。このように観察領域全体にわたって走査していく。
【0044】
第2の走査方法として、まずスペースパターン領域5のみを負帯電条件で走査していき、観察領域にある全てのスペースパターン領域5を走査し終えた後、入射電圧を切り替えてラインパターン領域4のみを正帯電条件で走査していくようにしてもよい。逆に、まずラインパターン領域4のみを正帯電条件で走査していき、観察領域にある全てのラインパターン領域4を走査し終えた後、スペースパターン領域5のみを負帯電条件で走査していくようにしてもよい。この第2の方法の場合、入射電圧をパターンに応じて高速に切り替える必要がないという利点がある。
【0045】
第3の走査方法として、LSパターン1に直交する方向(図4(a)中水平方向)に電子ビームを走査してもよい。電子ビームの照射領域がラインパターン領域4からスペースパターン領域5に、若しくは、スペースパターン領域5からラインパターン領域4に変わる毎に入射電圧を切り替える。
【0046】
なお、上記のような方法により観察領域を一通り走査することを1フレームという。通常、1フレームの走査だけでは所望の帯電状態を得ることはできない。帯電状態はある時定数で徐々に飽和するため、以降の工程で示すように、帯電状態が飽和しているかどうかを判断する必要がある。
【0047】
(5)次に、ステップS14における電子ビームの照射の際にLSパターン1から放出された二次電子の検出データを用いて、ラインパターン領域4およびスペースパターン領域5の階調値をそれぞれ演算する(ステップS15)。
【0048】
(6)次に、ステップS15で得られたラインパターン領域4の階調値と、前回のフレームで走査した際のラインパターン領域4の階調値との差分Δを算出する。同様に、ステップS15で得られたスペースパターン領域5の階調値と、前回のフレームで走査した際のスペースパターン領域5の階調値との差分Δを算出する(ステップS16)。なお、本工程を初めて行う場合(1回目のフレーム)には、ステップS15で得られた階調値をそのまま差分とする。
【0049】
(7)次に、ステップS16で算出されたラインパターン領域4の階調値の差分Δを、予め設定した閾値Xと比較する。同様に、ステップS16で算出されたスペースパターン領域5の階調値の差分Δを、予め設定した閾値Xと比較する。その結果、ステップS16で算出された差分が閾値を下回れば、即ち、Δ<XかつΔ<Xであれば、走査は終了としステップS18に進む。そうでなければ、ステップS14に戻る(ステップS17)。
【0050】
このように階調値の差分が閾値(所定値)を下回るまでステップS14〜ステップS17を繰り返すことで、所望の帯電状態を得る。
【0051】
なお、試料の材質や構造などによっては、ステップS14〜ステップS17を何回繰り返しても、階調値の差分が閾値を下回らない可能性がある。このため、フレーム数(ステップS14〜ステップS16の実行回数)の上限値を予め決めておき、上限値に達した場合には差分が閾値を下回らない場合であってもステップS18に進むようにしてもよい。
【0052】
上記のようにパターンに応じて電子ビームの入射電圧を正帯電条件と負帯電条件とで切り替えながら観察領域を走査することで、図4(b)に示す帯電状態が得られる。この図4(b)は、LSパターン1の断面図であり、上記の走査が完了した後(即ち、階調値の差分が閾値を下回った後)の帯電状態を示している。この図4(b)からわかるように、ライン上面2aは正に帯電し、スペース底面3aは負に帯電している。このような帯電状態を形成することで、ライン上面2aとスペース底面3aの間に局所的な電界が発生する。
【0053】
(8)次に、電子ビームをLSパターン1に照射し、観察領域の二次電子画像を取得する(ステップS18)。ステップS12のときと同様、電子ビームの入射電圧は観察条件(例えば100V又は2000V)であることが好ましい。図4(b)に示す帯電状態により形成される局所的な電界によって、スペース底面3aから放出された二次電子はライン上面2aの正電荷に引っ張られ、真空側(図中上側)に抜け出す。その結果、スペース底面3aから放出された二次電子を検出器で効率良く検出することができる。図4(c)は本工程で得られた二次電子画像の模式図である。この図4(c)からわかるように、ラインパターン領域4だけでなく、スペースパターン領域5も明るく観察される。
【0054】
以上説明したように、本実施形態では、予め観察されたLSパターンの二次電子画像を用いて、スペースパターン領域とラインパターン領域を算出する。そして、ラインパターン領域に対して正帯電条件で電子ビームを照射し、スペース領域に対して負帯電条件で電子ビームを照射する。これにより、ラインパターンの上面とスペースパターンの底面との間に局所的な電界が形成される。その後、観察領域に対して電子ビームを照射すると、スペースパターンの底面から放出された二次電子は、局所的な電界によって引っ張られ、ラインパターンに効率良く取り出される。その結果、本実施形態に係るパターン観察方法によれば、二次電子の検出効率が向上し、絶縁膜からなるLSパターンの場合であってもスペースパターンの底面を明瞭に観察することができる。
【0055】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態と第1の実施形態との相違点の一つは、局所的な電界を発生させる際の電子ビームの照射方法である。第1の実施形態では、電子ビームの焦点位置が試料表面にくるように設定された電子ビームを照射している。この場合、試料を十分に帯電させるためには多数の走査本数(1つの観察領域につき、例えば400本以上)が必要となる。それに対して、本実施形態では、試料表面における電子ビームのビーム径がパターンの線幅に等しくなるように、電子ビームの焦点位置を試料表面からずらした電子ビームを用いる。さらに、電子ビームの電子密度を高くすることにより、試料を十分に帯電させるために必要な電子ビームの走査本数を大幅に低減させる。その結果、観察に要する時間を大幅に短縮することができる。
次に、図5に示すフローチャートに沿って、本実施形態に係るパターン観察方法を説明する。ステップS21〜ステップS23は、第1の実施形態で説明したステップS11〜ステップS13と同様のため説明を省略し、ステップS24から説明する。
【0056】
(1)ステップS23において算出されたラインパターン領域4とスペースパターン領域5を用いて、ラインパターン2及びスペースパターン3の線幅をそれぞれ算出する(ステップS24)。
【0057】
(2)次に、ラインパターン領域に照射する電子ビームの焦点位置を、電子ビームのビーム径がステップS24で算出されたラインパターン2の線幅に等しくなるように決め、同様に、スペースパターン領域に照射する電子ビームの焦点位置を、電子ビームのビーム径がステップS24で算出されたスペースパターン3の線幅に等しくなるように決める(ステップS25)。
【0058】
図6はステップS22で取得された二次電子画像の模式図と、照射する電子ビームとの関係を示している。図6からわかるように、この例ではスペースパターン領域5の方がラインパターン領域4よりも線幅が大きい。このため、スペースパターン領域5では電子ビームの焦点位置を大きくずらし、一方、ラインパターン領域4では焦点位置を小さくずらしている。このように焦点位置を調整することにより、電子ビームのビーム径は、ステップS24で算出されたパターンの線幅と同一となる。
【0059】
この後のステップS26〜ステップS30は、第1の実施形態で説明したステップS14〜ステップS18と同様なので説明を省略する。但し、ステップS26の電子ビームの照射において、第1の実施形態よりも高い電子密度の電子ビームを照射する。これは焦点位置を試料表面からずらすことに伴って試料の単位面積あたりに入射する電子数が減少することを補うためである。
【0060】
前述のように、1つの観察領域につき電子ビームの走査本数は、通常400本以上である。しかし、本実施形態によれば、上記のように焦点位置を調整して電子ビームのビーム径をパターンの線幅に等しくし、且つ電子ビームの電子密度を高めている。これにより、ラインパターン領域及びスペースパターン領域をそれぞれ1回ずつ走査すれば、1フレームの電子ビーム照射を完了させ、所定の帯電状態を形成することができる。つまり、図6(a)のようにスペースパターンが4本とラインパターンが3本を含む観察領域の場合、各パターンを1回走査するだけで所定の帯電状態が得られるため、計7回の走査で1フレームの走査が完了することになる。
【0061】
以上、本実施形態によれば、絶縁膜からなるLSパターンの場合であってもスペースパターンの底面を明瞭に観察することができ、さらに、走査本数を大幅に低減させることができるため、観察時間を大幅に短縮することができる。
【0062】
ここまで、本発明に係る2つの実施形態について説明した。第1及び第2の実施形態の説明では、ラインパターン(凸パターン)に対して正帯電条件で電子ビームを照射し、スペースパターン(凹パターン)に対して負帯電条件で電子ビームを照射したが、これに限らず、LSパターンの外側に二次電子を引き出すための電界が形成されるように電子ビームを照射すればよい。つまり、ラインパターンに二次電子放出効率ηの照射条件で電子ビームを照射し、スペースパターンに二次電子放出効率η(η>η)の照射条件で電子ビームを照射するようにしてもよい。
【0063】
また、第1及び第2の実施形態の説明では観察対象のパターンとしてLSパターンを例にとったが、本発明に係る観測方法はLSパターン以外のパターンにも適用可能である。即ち、本発明に係る観測方法によれば、任意の形状の凹パターンと凸パターンを有する絶縁膜における凹パターンの底面を明瞭に観察することができる。
【0064】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態について説明する。第3の実施形態と第1の実施形態の相違点の一つは、第1の実施形態では、観察領域の二次電子画像から算出された2つの照射領域(ラインパターン領域とスペースパターン領域)に対してそれぞれ異なる条件で電子ビームを照射したのに対して、本実施形態では3つの照射領域を算出し、それぞれ異なる条件で電子ビームを照射する点である。これにより、例えばデュアルダマシン構造のような2段のホールパターンについてもパターンの底面を明瞭に観察することができる。
【0065】
図7は観察対象の2段のホールパターン21の構造を示している。図7(a)はこの2段のホールパターン21の平面図であり、図7(b)は図7(a)のA−A線に沿う断面図である。図7(a)と(b)からわかるように、比較的浅い1段目のホール22が形成され、この1段目のホール22の中に深い2段目のホール23が形成されている。
【0066】
次に、図8に示すフローチャートに沿って、本実施形態に係るパターン観察方法を説明する。
【0067】
(1)まず、第1の照射条件となる電子ビームの入射電圧V、第2の照射条件となる電子ビームの入射電圧V及び第3の照射条件となる電子ビームの入射電圧Vを決める(ステップS31)。ここで、入射電圧V,V,Vは、入射電圧V,V,Vに対応する二次電子放出効率をそれぞれη,η,ηとすると、η>η>ηとなるように決める。図9は、入射電圧V,V,Vと二次電子放出効率η,η,ηの関係を示している。
【0068】
(2)次に、電子ビームを2段のホールパターン21に照射し、観察領域の二次電子画像(仮画像)を取得する(ステップS32)。
【0069】
(3)次に、ステップS32で取得した二次電子画像を用いて、2段のホールパターン21の表面21a(最上面)に対応する第1の領域24と、1段目のホール22の底面22aに対応する第2の領域25と、2段目のホール23の底面23aに対応する第3の領域26とを算出する(ステップS33)。算出された第1の領域24、第2の領域25及び第3の領域26を図10(a)に示す。
【0070】
(4)次に、第1の領域24に対して第1の条件で電子ビームを照射し、第2の領域25に対して第2の条件で電子ビームを照射し、第3の領域26に対して第3の条件で電子ビームを照射する(ステップS34)。なお、照射する順序は任意である。
【0071】
これ以降のステップS35〜ステップ38は、第1の実施形態で説明したステップS15〜ステップS18と同様なので説明を省略する。
【0072】
図10(b)は、ステップS38で観察領域の二次電子画像を取得する前の、2段のホールパターン21の帯電状態の一例を示す2段のホールパターン21の断面図である。この図10(b)からわかるように、2段のホールパターン21の表面21aは正に帯電し、1段目のホール22の底面22aは表面21aよりも弱く正に帯電し、2段目のホール23の底面23aは負に帯電している。このような帯電状態を形成することで、表面21aと底面22aの間、底面22aと底面23aの間、及び表面21aと底面23aの間には、それぞれ局所的な電界が発生する。これにより、ステップS38において電子ビームを照射して2段のホールパターン21の観察領域における二次電子画像を取得する際、1段目のホール22の底面22aから放出された二次電子は表面21aの正電荷に引っ張られて真空側(図10(b)中上側)に抜け出す。また、2段目のホール23の底面23aから放出された二次電子は表面21a及び底面22aの正電荷に引っ張られて真空側に抜け出す。その結果、底面22a及び底面23aから放出される二次電子を効率良く検出することができる。図10(c)は、ステップS38で得られた2段のホールパターン21の観察領域における二次電子画像の模式図である。この図10(c)からわかるように、2段のホールパターン21の表面21aだけでなく、第1のホール22の底面22a及び第2のホール23の底面23aも明るく観察される。
【0073】
なお、本実施形態では2段のホールパターンについて説明したが、3段以上のホールパターンであっても、本実施形態に係る方法を拡張することで、それぞれのパターンの底面を明瞭に観察することができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係るパターン観察方法によれば、浅いホールと深いホールを有するホールパターンであっても、それぞれのホールの底面を明瞭に観察することができる。
【0075】
以上、本発明に係る3つの実施形態について説明した。上記の実施形態の説明では、荷電粒子線として電子ビームを用いたが、電子ビーム以外の荷電粒子線(イオンビーム)を用いてもよい。
【0076】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではない。異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1、11 LSパターン(ラインアンドスペースパターン)
2,12 ラインパターン
2a、12a ライン上面(ラインパターンの上面)
2b、12b 側壁
3、13 スペースパターン
3a、13a スペース底面(スペースパターンの底面)
4、14 ラインパターン領域
5、15 スペースパターン領域
21 2段のホールパターン
21a 表面
22 1段目のホール
22a 底面
23 2段目のホール
23a 底面
24 第1の領域
25 第2の領域
26 第3の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁膜に形成された、凹パターンと凸パターンを有するパターンを観察するパターン観察方法であって、
前記パターンにおける前記凹パターンと前記凸パターンの両方に第1の観察用荷電粒子線を照射して、前記凸パターンに対応する凸パターン領域の領域情報と前記凹パターンに対応する凹パターン領域の領域情報を有する、前記パターンの仮画像を取得し、
前記凸パターン領域の前記領域情報および前記凹パターン領域の前記領域情報に基づいて、前記パターンにおける前記凸パターン領域に対して第1の入射電圧の電界形成用荷電粒子線を照射し、かつ、前記凹パターン領域に対して前記第1の入射電圧とは異なる第2の入射電圧の電界形成用荷電粒子線を照射することにより、前記凸パターンの上面と前記凹パターンの底面との間に、荷電粒子線の照射によって前記凹パターンの前記底面から放出される荷電粒子を前記パターンの外側に引き出すための電界を形成し、
その後、前記パターンにおける前記凹パターンと前記凸パターンの両方に第2の観察用荷電粒子線を照射して、前記凹パターンの前記底面の情報を有する前記パターンの画像を取得する、
ことを特徴とするパターン観察方法。
【請求項2】
絶縁膜に形成された、ラインパターンとスペースパターンを有するラインアンドスペースパターンを観察するパターン観察方法であって、
前記ラインアンドスペースパターンにおける前記ラインパターンと前記スペースパターンの両方に第1の観察用電子ビームを照射して、前記ラインパターンに対応するラインパターン領域の領域情報と前記スペースパターンに対応するスペースパターン領域の領域情報を有する、前記ラインアンドスペースパターンの仮画像を取得し、
前記ラインパターン領域の前記領域情報および前記スペースパターン領域の前記領域情報に基づいて、前記ラインパターン領域に対して第1の入射電圧の電界形成用電子ビームを照射し、かつ、前記スペースパターン領域に対して前記第1の入射電圧に対する二次電子放出効率よりも小さい二次電子放出効率が得られる第2の入射電圧の電界形成用電子ビームを照射することにより、前記ラインパターンの上面と前記スペースパターンの底面との間に、前記スペースパターンの前記底面から放出される二次電子を前記ラインアンドスペースパターンの外側に引き出すための電界を形成し、
その後、前記ラインアンドスペースパターンにおける前記ラインパターンと前記スペースパターンの両方に第2の観察用電子ビームを照射して、前記スペースパターンの前記底面の情報を有する前記ラインアンドスペースパターンの画像を取得する、
ことを特徴とするパターン観察方法。
【請求項3】
請求項2に記載のパターン観察方法であって、
前記ラインパターン領域の前記領域情報に含まれる前記ラインパターンの線幅に基づいて、前記ラインパターン領域に対して前記第1の入射電圧の電界形成用電子ビームを照射する際、この電子ビームのビーム径を前記ラインパターンの前記線幅と等しくなるように焦点位置を調整し、
前記スペースパターン領域の前記領域情報に含まれる前記スペースパターンの線幅に関する情報に基づいて、前記スペースパターン領域に対して前記第2の入射電圧の電界形成用電子ビームを照射する際、この電子ビームのビーム径を前記スペースパターンの前記線幅と等しくなるように焦点位置を調整する、
ことを特徴とするパターン観察方法。
【請求項4】
請求項2又は3のいずれかに記載のパターン観察方法であって、
前記第1の入射電圧は、二次電子放出効率が1を超える入射電圧であり、前記第2の入射電圧は、二次電子放出効率が1を下回る入射電圧である、
ことを特徴とするパターン観察方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載のパターン観察方法であって、
前記絶縁膜はシリコン酸化膜であり、
前記第1の入射電圧は、100Vより大きく且つ2000Vより小さく、
前記第2の入射電圧は、100V未満又は2000Vより大きいことを特徴とするパターン観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−22024(P2011−22024A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167793(P2009−167793)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】