説明

パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法

【課題】パラ型全芳香族コポリアミド製法を提供する。
【解決手段】式(1)、および式(2)で示される構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドの製造において、式(2)の含有量を全反復単位に対し30〜90モル%とし、特定UV吸収ピークを有するジアミン溶液を用いる。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法に関する。さらに詳しくは、紡糸性に優れた特定の構造を有するパラ型全芳香族コポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなるアラミド繊維、特にパラ系のアラミド繊維は、その強度、高弾性率、高耐熱性といった特性を活かして、産業用途や衣料用途に広く用いられている。
【0003】
代表的なパラ型アラミド繊維としては、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維がある。ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維は、多くの利点を有するが、PPTAポリマーは汎用の有機溶剤に不溶であるため、溶媒に濃硫酸を使用したポリマードープを用いなければならないという問題があった。また、ポリマードープの重合度が上がるに従い、紡糸性が悪化するという問題も存在していた。
【0004】
そこで、汎用のアミド系溶媒に対して高い溶解性を示し、これにより濃硫酸を用いることなく紡糸でき、さらに、延伸処理後に高い強度と高い初期モジュラスを有する芳香族コポリアラミドを開発する試みがなされてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、アミド系溶媒に対して等方性溶液を形成するような、パラ配向の芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなるアラミドに、メタ配向の酸成分またはジアミン成分を共重合したコポリアラミド、例えばテレフタル酸、p−フェニレンジアミン、および3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなる芳香族コポリアラミドが提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、等方性のポリマードープを用いた様々な分子構造を有するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている芳香族コポリアミド繊維は、ポリマーの重合度コントロールが困難であり、紡糸性に優れたコポリアミドポリマー溶液の製造方法については、未だ提案されていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51−76386号公報
【特許文献2】特開平7−300534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたもので、その目的とするところは、紡糸性に優れた特定構造を有するパラ型全芳香族コポリアミドを、効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、特定構造のパラ型全芳香族コポリアミドを製造するにあたり、特定のモノマー組成とするとともに、特定範囲のUV吸収ピークを有するジアミン溶液を用いれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドの製造方法であって、前記化学構造式(2)の構造反復単位の含有量を、前記化学構造式(1)および前記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して30〜90モル%とし、370〜390nmにUV吸収ピークを有するジアミン溶液を用いることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミドの製造方法である。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【発明の効果】
【0013】
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドの製造方法は、紡糸性に優れた特定構造を有するパラ型全芳香族コポリアミドを、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
<パラ型全芳香族コポリアミド>
本発明に用いるパラ型全芳香族コポリアミドとは、下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位からなり、1種類または2種類以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、一般に公知の方法に従って、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により得られるものである。このとき、該芳香族基は2個の芳香族環が酸素、硫黄、アルキル基で結合されたものであっても特に差し支えない。また、これらの2価の芳香環は、非置換またはメチル基やメチル基等の低級アルキル基や、メトキシ基、または塩素基等のハロゲン基で置換されたものであっても、複素環等が結合されたものであっても特に差し支えはなく、その置換基の種類や置換基の数は特に限定されるものではない。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
本発明においては、上記化学構造式(2)の構造反復単位の含有量が、上記化学構造式(1)および上記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して、30〜90モル%であることが好ましい。さらに好ましくは、50〜90モル%の範囲である。該含有量が30モル%未満の場合には、重合反応においては反応溶液が濁るという問題が生じ、この様な濁ったドープでは製糸することが困難となる。一方で、該含有量が90モル%を超える場合には、UV吸収ピークを確認することができず本発明の効果が得られない。
【0019】
[パラ型全芳香族コポリアミドの原料]
〔芳香族ジカルボン酸ジクロライド〕
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸ジクロライドとしては、例えば、テレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これらの中では、汎用性や繊維の機械的物性等の面から、テレフタル酸ジクロライドが最も好ましい。またこれら芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみを用いても、あるいは、2種類以上を併用してもよく、その場合の組成比は特に限定されるものではない。
【0020】
〔芳香族ジアミン〕
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジアミンとしては、例えば、パラフェニレンジアミン、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール、パラビフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ジクロロパラフェニレンジアミン等が挙げられる。本発明においては、これらに限定されるものではなく、芳香環に置換基がついていたり、その他複素環等がついていたりしても差し支えない。
【0021】
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料としては、上記化学構造式(1)で示される構造反復単位と上記化学構造式(2)で示される構造反復単位とをそれぞれ構成するため、少なくとも2種類以上の芳香族ジアミンを用いる。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性、曳糸性等の面からパラフェニレンジアミンと5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールの組み合わせが最も好ましい。
【0022】
その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、パラフェニレンジアミンを10〜70モル%、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを30〜90モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、パラフェニレンジアミンを15〜60モル%、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを40〜85モル%、最も好ましくは、パラフェニレンジアミンを20〜50モル%、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを50〜80モル%とする範囲である。
【0023】
<パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法>
[パラ型全芳香族コポリアミドの重合]
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの重合にあたっては、アミド系極性溶媒を重合溶媒として、これに、例えば、パラフェニレンジアミンおよび5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール等の芳香族ジアミン、例えば、テレフタル酸ジクロライド等の芳香族ジカルボン酸ジクロライドをそれぞれ溶解させ、公知の方法による重縮合反応を行う。
【0024】
用いられるアミド系極性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPを記す場合がある)、ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられるが、特に、芳香族ポリアミドの重合からドープ調整、湿式紡糸工程に至るまでの取扱い性や安定3性、および毒性等の点から、N−メチル−2−ピロリドンが最も好ましい。
【0025】
[ジアミン溶液のUVピーク]
本発明に用いるジアミン溶液は、370nm以上390nm以下の範囲に、UV吸収ピークを有するものとする必要がある。この範囲にUV吸収ピークを有さないジアミン溶液を用いた場合には、重合度のコントロールが困難となり、紡糸性の優れたパラ型全芳香族コポリアミドを得ることができない。
【0026】
[中和反応]
反応終了後、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加して、中和反応する。
【0027】
[重合後処理等]
得られたパラ型全芳香族コポリアミドは、NMP等のアミド系極性溶媒に溶解した等方性のポリマー溶液であり、単離することなくそのまま、製糸工程で用いることができる。ただし、パラ型全芳香族コポリアミドの濃度は、ポリマー溶液の粘度や安定性に著しく影響し、ひいては、後の製糸工程における曵糸性等に大きく影響する。このため、ポリマー濃度は、2〜10質量%の範囲に調整することが好ましい。とりわけ3〜8%の範囲とすると、より安定した均質な重合度のポリマーを得ることができる。ポリマー濃度や粘度調整をするためには、得られたポリマー溶液にNMP等のアミド系極性溶媒を適量添加することができる。
【0028】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維>
本発明の製造方法によって得られるパラ型全芳香族コポリアミドの溶液からは、従来公知の製造方法により、パラ型全芳香族コポリアミド繊維を製糸することができる。例えば、半乾半湿式紡糸法によりドープを凝固液中に押し出し、ドラフト率0.5〜5倍にて凝固液から凝固糸として引き取り、水洗工程にて溶媒を十分に除去した後に、乾燥工程にて充分に乾燥し、さらに熱処理を行う等の方法が採用できる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各特性値は下記の方法にて測定した。
【0030】
(1)UV吸収波長
ジアミン溶液のUV吸収波長は、分光光度計(日立製作所製、商品名:分光光度計、型式:U−3010)を用いて以下の方法で測定し、溶媒のピークを除して算出した。
測定範囲 :350nm〜750nm
スキャンスピード:120nm/min
光源 :無調整重水素ランプ
セル長 :10mm
【0031】
(2)紡糸性
紡糸性の良否は、コポリアミドポリマー溶液を半乾半湿式紡糸法により凝固液中に押し出し、ドラフト率2.3倍にて凝固液から凝固糸として引き取った際の、10分間における単糸切れの発生有無により判定した。
【0032】
<実施例1>
塩化カルシウム/N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液1.940Lに、パラフェニレンジアミン(PPD)11.0g(30mol%)と、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾール(DAPBI)53.0g(70mol%)とを秤量して投入して溶解させ、380nmにUV吸収ピークを有するジアミン溶液を得た。
得られたジアミン溶液に、テレフタル酸クロライド(TPC)68.6g(100mol%)を投入して反応せしめ、ポリマー溶液を得た。続いて、22.5質量%の水酸化カルシウムを含有するNMP分散液110.0gを添加して、中和反応を行うことにより、最終的なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液を用いて、孔径0.15mm、孔数24ホールの紡糸口金からドラフト2.5倍で紡糸したところ、単糸切れは無く紡糸調子は良好であった。
【0033】
<比較例1>
370〜390nmにUV吸収ピークを示さないジミン溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして重合を行ない、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を用いて、実施例1と同様に紡糸したが、単糸切れが多く紡糸調子は不調であった。
【0034】
<比較例2>
5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールのモル比率を99モル%とした以外は、実施例1と同様にして重合を行ない、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を用いて、実施例1と同様に紡糸したが、単糸切れが多く紡糸調子は不調であった。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドの製造方法であって、
前記化学構造式(2)の構造反復単位の含有量を、前記化学構造式(1)および前記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して30〜90モル%とし、
370〜390nmにUV吸収ピークを有するジアミン溶液を用いることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミドの製造方法。
【化1】

【化2】


【公開番号】特開2012−77419(P2012−77419A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224805(P2010−224805)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】