説明

パルス光発振器及びパルス光生成装置

【課題】高コントラストを有する高出力パルス光のパルス幅を任意に変化させることのできるパルス光生成装置を提供する
【解決手段】本発明によって、レーザー光を連続出射する連続発振レーザー光源1と、前記連続発振レーザー光源1から出射されたレーザー光の光路上に配置され、印加される駆動電圧に基づいて入射されたレーザー光の伝播方向を電気光学効果により偏向する電気光学ビーム偏向器2と、を備えることを特徴とするパルス光発振器10が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス光生成装置に関し、特に高コントラストを有する高出力のパルス光の生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスファイバーレーザーは、主にパルス光を生成するシード光源と、1段または複数段の増幅器から構成される。パルスファイバーレーザーのパルス幅は、シード光源のパルス幅を変化させることによって変化させることができる。
【0003】
ここで、シード光源のパルス幅を変化させる方法としては、繰り返し周波数に合わせて変化させる方法と、繰り返し周波数と独立して変化させる方法とがある。しかし、繰り返し周波数に合わせて変化させる方法の場合、繰り返し周波数を増加させるとパルス幅が広くなるという欠点があることがわかっている。
【0004】
そこで、パルス幅を繰り返し周波数とは独立して変えられるシード光源が求められており、例えば特許文献1に、半導体レーザーをパルスで駆動してシード光源とし、1段以上の増幅器で増幅するものが提案されている。半導体レーザーの注入電流を直接変調することで任意のパルス波形を得ることができる。しかし、この方法では半導体デバイスを用いているため、得られるピーク出力に限界があり(出力が、mWレベルである)、高出力を得ることができない。特に、狭い発振線幅を得る必要がある場合には、注入電流の変調によって、モードポップなどの発振線幅を広げる効果を持つ現象が起こるため、注入電流の最大値に限界がある。また、電流の大きさによって発振波長が変わってしまい、温度によっても発振波長が変わってしまう欠点がある。即ち、電流が増加すると発振波長が長くなってしまい(これを、チャープという。)、一般的に発振波長の0.01%程度にまで発振波長域が広がってしまう。
【0005】
そこで、高出力を得るために、連続発振レーザー(Continuous_wave_laser 以下CWレーザーと記す。)と音響光学変調器(acoust−optic_modulator 以下A−O変調器と記す。)を用いる方法が、特許文献2および非特許文献1に提案されている。A−O変調器によってCWレーザー光から任意の波形でその出力を切り出すことができる。ここで、最短パルス幅は、音響光学素子の立ち上がり時間(応答時間)に依存することがわかっており、また、音響光学素子は立ち上がりに時間を要することもわかっている。従って、上記の方法では、音響光学素子の立ち上がり時間(応答時間)がネックとなり、達成できる最短パルス幅には限界がある。
【0006】
このようなCWレーザーとA−O変調器とを用いる方法の最短パルス幅の限界を解消する方法として、A−O変調器の変わりに、非特許文献2においてマッハツェンダー型変調器を用いる方法も提案されている。マッハツェンダー型変調器を用いることで立ち上がり時間を短くすることができ、達成できる最短パルス幅をさらに短くすることができる。しかし、この方法は光波干渉を利用しているため、パルス波形のオンとオフの間のコントラスト比を高くすることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US6,433,306B1号公報
【特許文献2】特開2002−372691号公報
【0008】
【非特許文献1】“High−energy and high−peak−power nanosecond pulse generation with beam quality control in 200−μm core highly multimode Yb−doped fiber amplifiers” OPTICS LETTERS/vol.30,No.4/February 15,2005
【0009】
【非特許文献2】山本杲也著、「マルチメディア伝送技術選書 光ファイバ通信技術」、日刊工業新聞社、1995年6月、130〜131ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかる問題を解決するために、本発明は、高コントラストを有する高出力パルス光のパルス幅を任意に変化させることのできるパルス光生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施の形態によって、レーザー光を連続出射する連続発振レーザー光源と、前記連続発振レーザー光源から出射されたレーザー光の光路上に配置され、印加される駆動電圧に基づいて入射されたレーザー光の伝播方向を電気光学効果により偏向する電気光学ビーム偏向器と、を備えることを特徴とするパルス光発振器が提供される。
【0012】
また、本発明の一実施の形態によって、レーザー光を連続出射する連続発振レーザー光源と、前記連続発振レーザー光源から出射されたレーザー光の光路上に配置され、印加される駆動電圧に基づいて入射されたレーザー光の伝播方向を電気光学効果により偏向する電気光学ビーム偏向器と、前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光の偏向軸上に配置され、前記偏向されたレーザー光を集光して光ファイバーの端部に結合する少なくとも一つの集光レンズと、前記光ファイバーを介して伝播されたレーザー光を増幅して外部に出射する少なくとも1段の増幅器と、を備えることを特徴とするパルス光生成装置が提供される。
【0013】
さらに、前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光の光路上に配置され、前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光の入射を受けて前記偏向されたレーザー光の偏向角度を増大して出射する体積型回折格子を備えてもよい。
【0014】
前記電気光学ビーム偏向器は、前記印加される駆動電圧の大きさに応じて前記電気光学効果により偏向する角度が変更されてもよい。
【0015】
さらに、前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光または前記体積型回折格子から出射されたレーザー光の光路上に配置され、前記レーザー光を集光して光ファイバーの端部に結合する少なくとも一つの集光レンズを備えてもよい。
【0016】
さらに、前記集光レンズの位置を自在に移動する集光レンズ可動機構と、前記集光レンズ可動機構及び駆動電圧供給装置に接続され、前記駆動電圧供給装置から供給される駆動電圧に応じて、前記集光レンズが前記電気光学ビーム偏向器または前記体積型回折格子から出射された偏向されたレーザー光の光路に対して垂直に位置するように、前記集光レンズ稼動機構に対して前記集光レンズの位置を調整するように指示する制御部と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、高コントラストを有する高出力パルス光のパルス幅を任意に変化させることのできるパルス光生成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係るパルス光発生装置の概略構成図である。
【図2】図1に破線で囲んで示す本発明の一実施の形態に係るパルス光発振器の概略構成図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るパルス光発振器及びパルス光発生装置の電気光学ビーム偏向器の概略図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るパルス光発生装置における励起レーザー出力と平均出力の関係を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係るパルス光発生装置における、100KHzでパルス幅10ns、20ns、30ns、40ns、50nsのパルス波形を示す図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係るパルス光発振器の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の一実施の形態に係るパルス光発振器及びパルス光生成装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施の形態においては、本発明のパルス光発振器及びパルス光生成装置の一例を示しており、本発明のパルス光発振器及びパルス光生成装置は、それら実施の形態に限定されるわけではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係るパルス光発生装置の概略構成図である。図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100は、概略、CWレーザー光源1、電気光学ビーム偏向器2、集光レンズ3及び少なくとも1段配設される増幅器から構成される。図1においては、増幅器は、第1増幅器20、第2増幅器30及び第3増幅器40の3段が配設されているが、本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100の増幅器の配設個数はこれに限定されるわけではなく、所望の出力に応じて適宜変更される。
【0021】
[パルス光発振器]
図1において破線で囲んで示したCWレーザー光源1、電気光学ビーム偏向器2及び集光レンズ3を含んで構成される部材を、以下においてパルス光発振器10という。パルス光発振器10は、パルスのレーザー光を生成する機器であり、本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100は、このパルス光発振器10によって生成したパルスレーザー光を1つ以上の増幅器を用いて増幅することで所望の出力のパルスレーザー光を得ることができる。そこで、まずパルス光発振器10について説明する。図2に、本発明の一実施の形態に係るパルス光発振器10の概略構成を示す。
【0022】
図1及び図2に示すように、パルス光発振器10内のCWレーザー光源1は、連続発振レーザー光を発生させる光源である。CWレーザー光は、パルスレーザー光に比して瞬間的なパワーは低いが高い時間的コヒーレンスを得ることができるレーザー光である。本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100は、光源にCWレーザー光源1を用いてパルスレーザー光を生成する。
【0023】
本実施の形態においては、CWレーザー光源1としてCWマイクロチップ固体レーザーを用いた。ここで、固体レーザーに用いられる材料としては、母材には各種ガラス、酸化物結晶、フッ化物結晶などに、Nd,Er,Ho,Ce,Tm,Pr,Gd,Eu,Yb,Sm,Dy,Cr,Ni,Co,Ti,Vなどの多価イオンが添加されたものが用いられる。なお、本実施の形態においては、CWマイクロチップ固体レーザーとして1064nmの波長のレーザー光を出力するCWマイクロチップ固体レーザーを用いたが、CWマイクロチップ固体レーザーの波長はこれに限定されるものではなく適宜変更することができる。また、本願発明のCWレーザー光源1は、CWマイクロチップ固体レーザーに限定されず、半導体レーザーをCWレーザー光源1として用いてもよい
【0024】
CWレーザー光源1で生成されたCWレーザー光は、該CWレーザー光の光路に対して垂直に配設された電気光学ビーム偏向器2に入射される。
【0025】
電気光学ビーム偏向器2は、可変高圧電圧供給装置(図示せず)から供給される駆動電圧を受けて、入射されたCWレーザー光の伝播方向を電気光学効果(Electro−optical_effect)によって変更する機器である。ここで、電気光学効果とは、光が透過する物質に電場をかけると、屈折率等が変化する現象をいう。電気光学効果には、電場の強さに比例して屈折率が変化するポッケルス効果と、電場の強さの2乗に比例するカー効果とがあるが、本実施の形態で使用した電気光学ビーム偏向器2は、ポッケルス効果によって入射されたレーザー光の伝播方向を偏向するものである。図3に、本発明の一実施の形態に係るパルス光発振器10及びパルス光発生装置100の電気光学ビーム偏向器2の概略図を示す。
【0026】
図3に示すように、本実施の形態に係る電気光学ビーム偏向器2は、長さ(L)10mm×幅3mm×高さ3mmの略直方体状であり、長さ方向の4面中央部分が円弧状に切り取られたような形状(即ち、円弧状の窪部を有する形状。以下この部分をクワドラントという)である。従って、幅方向の断面形状は略十字架状の形状である。図3に示すとおり、断面中心部の径D1は1.5mmである。また図示していないが、本実施の形態においては、クワドラントのそれぞれは、最大径1.5mm、深さ0.25mmを中心に形成されている。
【0027】
図3に示すように、各クワドラントの表面の一部には、金の電極7が形成される。本実施の形態においては、金電極7の径D2は0.75mmに設定されているが、これに限定されるものではなく、クワドラントの最大径に応じて適宜変更され得る。
【0028】
電気光学ビーム偏向器2の端部表面は平坦に形成され、両端面はほぼ並列に形成される。そして、電気光学ビーム偏向器2の端部表面は、1064nm波長のCWレーザー光に対して反射防止処理が施される。
【0029】
このような形状によって、本実施の形態に係る電気光学ビーム偏向器2は、図3に示すように四重極を有する。対向する2極が同一極性で、隣接する2極が互いに異なる極性である。
【0030】
電気光学ビーム偏向器2は、可変高圧電圧供給装置(図示せず)に接続され、可変高圧電圧供給装置から駆動電圧が供給される。このような構成によって、本発明の一実施の形態に係る電気光学ビーム偏向器2は、可変高圧電圧供給装置から印加された駆動電圧に応じて中央部に電場が発生し、これによって屈折率が変化することで入射されたCWレーザー光の伝播方向が変化してCWレーザー光が偏向する。なお、可変高圧電圧供給装置は、パルス光発振器10内またはパルス光生成装置100内に設けてもよいし、外部に設けても良い。本実施の形態においては、可変高圧電圧供給装置をパルス光発振器10内に設けた。
【0031】
図2及び図3を基に具体的に説明する。図2に示すように、電気光学ビーム偏向器2には、可変高圧電圧供給装置から駆動電圧として変調電圧が供給される。CWレーザー光源1から出射されたCWレーザー光は、電気光学ビーム偏向器2に入射される。具体的には、図3に示すように、電気光学ビーム偏向器2の一端面に入射される。電気光学ビーム偏向器2は、駆動電圧が印加されているときだけ入射されたCWレーザー光を偏向し、駆動電圧が印加されていないときは入射されたCWレーザー光は直進する。従って、駆動電圧で決まる偏向軸方向上及び直進するCWレーザー光の光路上に光ファイバーを配設してCWレーザー光を結合させることで、それぞれの光ファーバーでパルス光が得られる。それぞれの光ファイバーで得られる出力光パルスは、180°位相がずれたパルスである。そして、電気光学ビーム偏向器2の偏向角度は、印加される電圧によって決定される。本実施の形態においては、電気光学ビーム偏向器2は、最大電圧1kV印加時において1064nmのレーザー光を6mrad/kV偏向した。なお、電気光学ビーム偏向器2から出射されたレーザー光を光ファイバーに結合させるために、図2に示すように、レーザー光の偏向軸方向及び直進方向に対して垂直に集光レンズ3を配設する。
【0032】
以上のような構成による電気光学ビーム偏向器2を用いることで、CWレーザー光源1から出射されて電気光学ビーム偏向器2に入射されたCWレーザー光は、電気光学ビーム偏向器2からパルスレーザー光として出射される。
【0033】
ここで、電気光学ビーム偏向器2にクワドラントを形成しているのは、中央部に電場の分布が発生するようにするためである。そしてクワドラントを長さ方向の4面中央部分が円弧状に切り取られたような形状(即ち、円弧状の窪部を有する形状)に形成しているのは、電界集中によって電気光学ビーム偏向器2が破壊されてしまうのを防ぐためである。例えばV字状等の角を有する形状に形成した場合には角部において絶縁破壊が生じる可能性があるからである。また、クワドラントの最大径を1.5mmに形成しているのは、クワドラント同士が接近してショートが発生することを防止するためである。従って、クワドラントの形状は円弧状に限定されず、角を有しない対称性のある形状であればよく、またクワドラントの最大径も材質に応じてショートが発生しない距離に離隔されるように形成すればよい。
【0034】
本実施の形態においては、電気光学ビーム偏向器2の材質として、光通信の導波路等に使用されている安価なタンタル酸リチウム(LiTaO)結晶を用いた。但し、電気光学ビーム偏向器2の材質はこれに限定されず、ニオブ酸リチウム(LiNbO)結晶、酸化マグネシウムドープニオブ酸リチウム(MgO−doped_LiNbO)結晶あるいはRTP(RbTiOPO)結晶でもよい。単結晶の絶縁体で、反転対象性のない結晶であり、ポッケルス効果を有する電気光学係数が大きな材質を好適に用いる。電気光学係数が28pm/V以上の材質が好適であり、ちなみにタンタル酸リチウム結晶の電気光学係数は30pm/Vである。なお、RTP結晶はへき開があるため、クワドラントの形成加工において工夫が必要である。
【0035】
以上のような構成及び材質による本実施の形態に係る電気光学ビーム偏向器2の素子は、50pf程度のコンデンサのようなものであり、数nsで立ち上がる(応答時間が短い)。従って、かかる電気光学ビーム偏向器2を用いた本発明の一実施の形態に係るパルス光発振器10及びパルス光生成装置100は、達成できる最短パルス幅を縮小することができ、応答時間が遅いA−O変調器を用いた特許文献2に記載された方法の問題点を解消することができる。
【0036】
また、本発明の一実施の形態に係る電気光学ビーム偏向器2は、電気光学効果によってレーザー光を偏向するものであるため、パルス波形のオンとオフのコントラスト比を高くすることも可能である。従って、応答時間が短く最短パルス幅を縮小できるが、光波干渉を利用するためにコントラスト比を高くすることが困難であった非特許文献2に記載された方法の問題点を解消することができる。
【0037】
(変形実施例)
本発明の一実施形態に係るパルス光発振器10の変形実施例について説明する。本変形実施例においては、パルス光発振器10は、さらに集光レンズ3を有する。集光レンズ3は、電気光学ビーム偏向器2から出射されたレーザー光を光ファイバーの端部(一般的には、光ファイバーの端部に取り付けられたエンドキャップ50)に結合させる。従って、集光レンズ3は、それぞれ、電気光学ビーム偏向器2から出射されたレーザー光の進行方向(電気光学ビーム偏向器2に駆動電圧が印加されていないときのレーザー光の進行方向)及びレーザー光の偏向軸方向(電気光学ビーム偏向器2に駆動電圧が印加されたときの、印加された電圧に応じて決まるレーザー光の進行方向)に対して垂直に配設される。配置する集光レンズ3の枚数は、それぞれの方向に少なくとも1枚配置される。
【0038】
ここで、電気光学ビーム偏向器2の偏向軸方向は、上述したように印加された駆動電圧に応じて決まり、印加される駆動電圧が変化することによって偏向軸が変化する。そこで、本変形実施例においては、駆動電圧が印加された場合及び駆動電圧が印加されない場合のそれぞれのレーザー光の進行方向にそれぞれ配置される集光レンズ3は、それぞれ集光レンズ可動機構6に搭載される。集光レンズ可動機構6は、搭載された集光レンズ3の位置を、レーザー光の光路に対応して移動自在にするための機構である。集光レンズ可動機構6は、電気光学ビーム偏向器2と、駆動電圧が電気光学ビーム偏向器2に印加されていないときのCWレーザー光の進行方向に配設される集光レンズ3(以下、この集光レンズを第1集光レンズ3aという)が常に直線状に位置するように、集光レンズ3の位置を一定に保持する。また、集光レンズ可動機構6は、電気光学ビーム偏向器2の偏向軸方向に配設される集光レンズ3(以下、この集光レンズを第2集光レンズ3bという)が、電気光学ビーム偏向器2に印加される駆動電圧に応じて変化する偏向されたレーザー光の光路上に常に垂直に位置するように、第2集光レンズ3bの位置を、印加される駆動電圧に応じて調整する。
【0039】
かかる集光レンズ可動機構6による第2集光レンズ3bと電気光学偏向器2との対向位置の調整は、集光レンズ可動機構6及び可変高圧電圧供給装置に接続される制御部5によって制御される。制御部5は、印加される駆動電圧に応じたCWレーザー光の偏向角度を記憶し、記憶した駆動電圧と偏向角度に基づいて、集光レンズ稼動機構6に対して第2集光レンズ3bと電気光学偏向器2との対向位置を駆動電圧に合わせて調整するように指示信号を発信する。そして、指示信号を受信した集光レンズ可動機構6は両者の対向位置を調節する。これによって、印加される駆動電圧に応じてCWレーザー光の偏向軸方向が変化しても、第2集光レンズ3bは常に偏向されたレーザー光の光路に対して垂直に位置し、偏向されたレーザー光を光ファイバーに結合させることができる。なお、本変形実施例においては可変高圧電圧供給装置及び制御部5をパルス光発振器10内に配設したが、これに限定されるわけではなく、可変高圧電圧供給装置及び制御部5の双方またはいずれかをパルス光発振器10の外部に設けてもよい。
【0040】
以上、本発明の一実施の形態に係るパルス光発振器10について説明したが、本パルス光発振器10は、電気光学ビーム偏向器2によって、与えられる駆動電圧に応じて、CWレーザー光源1から出射されて電気光学ビーム偏向器2に入射されたCWレーザー光の伝播方向を偏向する。そして偏向軸方向に設けられた集光レンズ3を介してパルス光として出力する。パルス光のパルス幅は、電気光学ビーム偏向器2に供給される駆動電圧のパルスに依存し、従って、繰り返し周波数と独立してパルス幅を変えることができる。また電気光学ビーム偏向器2を使用するため応答時間が短く、最短パルス幅を縮小することができる。さらに、パルス波形のオンとオフとの間の高コントラスト比を得ることができる。
【0041】
[パルス光生成装置]
次に、パルス光生成装置100について説明する。本発明の一実施形態に係るパルス光生成装置100は、上述したパルス光発振器10と少なくとも1つの増幅器を含んで構成される。パルス光発振器10については上述の通りであるので、詳細な説明は省略する。
【0042】
増幅器は、パルス発振器10から出射されたパルスレーザー光の出力を増幅して、パルス生成装置100の外部に出力する。増幅器は、要求される出力に応じて少なくとも一つ以上配設される。本実施の形態においては、イッテルビウムドープ偏向保持ファイバーを使用した2段階のシングルモードファイバー増幅器(第1増幅器20、第2増幅器30)及びコア直径25μmのラージモードエリアファイバー増幅器(第3増幅器40)を配設しているが、これに限定されるわけではない。
【0043】
図1に示すように、本実施の形態において、シングルモードファイバー増幅器である第1増幅器20及び第2増幅器30は、インラインアイソレーター21,31、ゲインファイバー22,32、光結合器23,33及び励起レーザー光源24,34から構成される。
【0044】
一方、ラージモードエリアファイバー増幅器である第3増幅器40は、インラインアイソレーター41、光コンバータ45、ゲインファイバー42、光結合器43及び2つの励起レーザー光源44から構成される。
【0045】
パルス光発振器10から射出され、光ファイバーのエンドキャップ50に結合したパルスレーザー光は、それぞれの増幅器20,30,40において、インラインアイソレーター21,31,41及びゲインファイバー22,32,42を経由して、光結合器23,33,43において励起レーザー光源24,34,44で生成された励起レーザー光と結合されて増幅される。本実施の形態においては、イッテルビウムドープ偏向保持ファイバーを励起させるために、各増幅器の励起レーザー光源24,34,44として976nm波長レーザーダイオードを使用したが、励起レーザー光源24,34,44はこれに限定されるわけではなく、用いられるゲインファイバー22,32,42に応じて適宜変更され得る。以上が本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100の概略構成である。
【0046】
パルス光生成装置100において、高電圧(<800V)が電気光学ビーム偏向器2に印加された場合、電気光学ビーム偏向器2に入射された1064nm波長のCWレーザー光が偏向された。偏向の振れ角は、最大電圧1kV印加時において1064nmのレーザー光で6mrad/kVであった。
【0047】
また、本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100の平均出力は、増幅器から発射される励起レーザー光の出力に比例する。図4は、本発明の一実施の形態に係るパルス光発生装置におけるは励起レーザー出力と平均出力の関係を示す図である。図4に示すように、本パルス光生成装置100の平均出力は、励起レーザー光の出力に比例し、61Wの励起レーザー光発射時に、最大平均出力21Wの出力を得ることができた。スロープ効率は、44%である。
【0048】
また、本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100で得られるパルス光の持続時間は、高電圧が印加される時間を変更することによって調整することができる。
図5は、本発明の一実施の形態に係るパルス光発生装置の100KHzでパルス幅10ns、20ns、30ns、40ns、50nsのパルス波形を示す図である。図5に示すように、それぞれの波形はほぼ一致し、約7ナノ秒で立ち上がり、高電圧が印加された時間に応じて減衰している。
【0049】
以上説明した構成による本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100によって、パルス幅を繰り返し周波数と独立して変えられる高出力のパルス光を得ることができる。また、電気光学ビーム偏向器2は印加される駆動電圧によって最短パルス幅を縮小することができ、パルス波形のオンとオフとの間のコントラスト比が高いパルス光を得ることができる。言い換えれば、本発明の一実施の形態に係るパルス光生成装置100によって、CWレーザー光から任意の波形で、かつ高コントラストでその出力を切り出すことができる。
【0050】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施形態に係るパルス光発振器10及びパルス光生成装置100について、図面を基に説明する。なお、説明に際し、第1の実施の形態と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0051】
本発明の第2の実施の形態に係るパルス光生成器100Aは、第1の実施の形態に係るパルス光生成装置100と同様に、パルス光発振器10Aと1段以上の増幅器を含んで構成される。従って、構成上の相違点はパルス光発振器10Aの部分であるので、以下に本発明の第2の実施の形態に係るパルス光発振器10Aについて説明する。図6は、本発明の他の実施の形態に係るパルス光発振器10Aの概略構成図である。
【0052】
図6に示すように、本パルス光発振器10Aは、該発振器10A内に体積型回折格子4を有する。体積型回折格子4は、電気光学ビーム偏向器2と集光レンズ3との間に設けられる。他の構成要素は、上述した第1の実施の形態に係るパルス光発振器10と同様であるので、説明を省略する。
【0053】
体積型回折格子4は、光の回折現象を利用して特定の波長(スペクトル)を得るための装置であり、微細な溝が平行に刻まれている(格子パターンの開口部)板状の素子である。この体積型回折格子4を、電気光学ビーム偏向器2から出射されたレーザー光の光路上で、かつ電気光学ビーム偏向器2と集光レンズ3との間に配設する。この時、電気光学ビーム偏向器2に印加される電圧がオフのときのレーザー光の進行方向に対して、体積型回折格子4の格子パターンの開口部が平行に位置するように体積型回折格子4を位置させる。これによって、印加電圧がオフの場合に電気光学ビーム偏向器2から出射されるレーザー光は、体積型回折格子4を透過して、第1集光レンズ3aに入射される。本実施の形態においては、体積型回折格子4として、Opti_Grate社の波長透過素子(品番:TBG−1064−90)を用いた。本体積型回折格子4のスペックは、回折効率ピーク波長が1064nm、厚みが1.5mm±0.3mm、グレーティング周期が820nm±50nm、平均相対的回折効率@1064nm(φ5mmアパーチャ上)が90%超(>95%ベストエフォート)である。但しこれは一例であり、本発明の第2の実施の形態に係る体積型回折格子4はこれに限定されない。
【0054】
一方、印加電圧がオンの場合に電気光学ビーム偏向器2で偏向されて出射されたレーザー光は、体積型回折格子4の格子パターンの開口部に対して所定の入射角で入射し、入射角度より大きな角度で入射方向下側に回折することで、レーザー光の偏向角が増大される。
【0055】
従って、本第2の実施の形態に係るパルス光発振機10Aを用いることで、偏向の振れ角の大きなレーザー光を得ることができる。体積型回折格子4を適宜選択することで80°程度までの振れ角を得ることができ、角度の選択性がよいパルス光を得ることができる。
【0056】
また、体積型回折格子4を用いることで、第1の実施の形態に係るパルス光発振器10に比して、パルス波形のオンとオフとの間のコントラスト比が更に高いパルス光を得ることができる。
【0057】
なお、パルス光発振器10Aにおいては、支持部材(図示せず)は、CWレーザー光源1、電気光学ビーム偏向器2、体積型回折格子4の格子パターンの開口部及び第1集光レンズ3aが常に直線状になるように、これらの部材を支持する。また、支持部材は、電気光学ビーム偏向器2で偏向され更に体積型回折格子4で回折されて偏向角が増大したレーザー光が、常に第2集光レンズ3bに対して直角に入射されるように、電気光学ビーム偏向器2に印加される駆動電圧に応じて第2集光レンズ3bと体積型回折格子4との対向角度を調整する。かかる制御は、第1の実施の形態と同様に、制御部(図示せず)が行う。制御部は、電気光学ビーム偏向器2に印加される駆動電圧に応じて体積型回折格子4から出射されるレーザー光の偏向角を記憶し、この情報に基づいて駆動電圧に応じて、支持部材に、第2集光レンズ3bと体積型回折格子4との対向角度を適切に調整するように指示する。
【0058】
以上説明した本発明の第2の実施の形態に係るパルス光発振器10Aと増幅器とを含んで、本発明の第2の実施の形態に係るパルス光生成装置100Aを構成することができる。これによって、角度の選択性がよく、パルス幅を繰り返し周波周と独立して変えられ、かつ高コントラス比のパルス光を得ることができる。
【符号の説明】
【0059】
1:CWレーザー光源
2:電気光学ビーム偏向器
3、3a,3b:集光レンズ
4:体積型回折格子
5:制御部
6:集光レンズ可動機構
10、10A:パルス光発振器
21、31、41:インラインアイソレーター
22、32、42:ゲインファイバー
23、33、43:光結合器
24、34、44:励起レーザー光源
20:第1段増幅器
30:第2段増幅器
40:第3段増幅器
45:光コンバータ
50:エンドキャップ
100、100A:パルス光生成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を連続出射する連続発振レーザー光源と、
前記連続発振レーザー光源から出射されたレーザー光の光路上に配置され、印加される駆動電圧に基づいて入射されたレーザー光の伝播方向を電気光学効果により偏向する電気光学ビーム偏向器と、
を備えることを特徴とするパルス光発振器。
【請求項2】
さらに、前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光の光路上に配置され、前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光の入射を受けて前記変更されたレーザー光の偏向角度を増大して出射する体積型回折格子を備えることを特徴とする請求項1に記載のパルス光発振器。
【請求項3】
前記電気光学ビーム偏向器は、前記印加される駆動電圧の大きさに応じて前記電気光学効果により偏向する角度が変更されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパルス光発振器。
【請求項4】
さらに、前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光または前記体積型回折格子から出射されたレーザー光の光路上に配置され、前記レーザー光を集光して光ファイバーの端部に結合する少なくとも一つの集光レンズを備えることを特徴とする請求項3に記載のパルス光発振器。
【請求項5】
さらに、前記集光レンズの位置を移動自在にする集光レンズ可動機構と、
前記集光レンズ可動機構及び駆動電圧供給装置に接続され、前記駆動電圧供給装置から供給される駆動電圧に応じて、前記集光レンズが前記電気光学ビーム偏向器または前記体積型回折格子から出射された偏向されたレーザー光の光路に対して垂直に位置するように、前記集光レンズ可動機構に対して前記集光レンズの位置を調整するように指示する制御部と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載のパルス光発振器。
【請求項6】
レーザー光を連続出射する連続発振レーザー光源と、
前記連続発振レーザー光源から出射されたレーザー光の光路上に配置され、印加される駆動電圧に基づいて入射されたレーザー光の伝播方向を電気光学効果により偏向する電気光学ビーム偏向器と、
前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光の光路上に配置され、前記偏向されたレーザー光を集光して光ファイバーの端部に結合する少なくとも一つの集光レンズと、
前記光ファイバーを介して伝播されたレーザー光を増幅して外部に出射する少なくとも1段の増幅器と、
を備えることを特徴とするパルス光生成装置。
【請求項7】
前記電気光学ビーム偏向器と前記集光レンズとの間に配置され、前記電気光学ビーム偏向器で偏向されたレーザー光の入射を受けて、前記偏向されたレーザー光の偏向角度を増大して出射する体積型回折格子をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載のパルス光生成装置。
【請求項8】
前記電気光学ビーム偏向器は、前記印加される駆動電圧の大きさに応じて前記電気光学効果により偏向する角度が変更されることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のパルス光生成装置。
【請求項9】
さらに、前記集光レンズの位置を移動自在にする集光レンズ可動機構と、
前記集光レンズ可動機構及び駆動電圧供給装置に接続され、前記駆動電圧供給装置から供給される駆動電圧に応じて、前記集光レンズが前記電気光学ビーム偏向器または前記体積型回折格子から出射された偏向されたレーザー光の光路に対して垂直に位置するように、前記集光レンズ可動機構に対して前記集光レンズの位置を調整するように指示する制御部と、
を備えることを特徴とする請求項8に記載のパルス光生成装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−17768(P2011−17768A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160690(P2009−160690)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【Fターム(参考)】