説明

パルプ繊維複合体原料

【課題】高い曲げ弾性率を得るために扁平状の充填材を加えたパルプ繊維複合PPは、繊維表面のフィブリル化した微細繊維に残存する空気が射出成形時に分離して成形品に気泡として残留して意匠性を著しく低下させる。このため、パルプ繊維にエラストマーなどの希薄溶液を付与後に絞液して付着させる手段などによって対処していたが、反面、衝撃強度の低下をもたらしていた。
【解決手段】この発明に係るパルプ繊維複合体原料は、含浸した界面活性剤と同系の界面活性剤を用いて水分散させた微粒子状態の低弾性エラストマーを保持したパルプ繊維が、表面に鱗片状の無機物を保持して成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルプ繊維複合体原料に関する。更に詳しくは、回収古紙を解繊するなどして得られたパルプ繊維を主体とする充填材を用いた熱可塑性樹脂の複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガス排出量の抑制と資源の有効利用を目的とした天然素材の活用が進められ、PP(ポリプロピレン)などの汎用樹脂の使用量削減を目的に、回収紙を繊維状に粉砕して得たパルプ繊維を混入することによる前記目的を達成する手段が注目されつつある。
【0003】
例えば、パルプ繊維との複合体について、粉砕によって得た解繊状の古紙とPP(ポリプロピレン)とを混合したものを溶融混合する手段が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、嵩高な植物繊維の取扱いを容易にするため、融点200℃以下の可塑剤またはセルロース疎水化剤を用いて植物繊維の分散を促進出来る状態の塊状物またはペレットを用いてPP(ポリプロピレン)と混練することによって、樹脂への分散性を向上する手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、パルプ繊維の表面にあって部分的にフィブリル化して成る微細繊維は、パルプ繊維と樹脂の混合に伴う絡みを促す作用を呈することから、繊維と樹脂とが直接的に強固な接合を備えた複合化の態様を得ることが困難である。この結果、パルプ繊維を複合化したPP(ポリプロピレン)は剛性と耐熱性に優れる反面、衝撃強度や引っ張り伸び量の低下をもたらすなどの脆性が増して、複合化の向上効果を損なわせることになる。さらに、前記微細繊維間にある空気が残留し易く、単純な混練では容易に排出されずに射出成形などの高圧下の流動過程で分離し、成形品に気泡として残留して意匠性を低下させるという課題を備える。
【0006】
この課題を解決するために、パルプ繊維の表面を樹脂被覆する手段として、オレフィン系の熱可塑性樹脂を溶剤に分散させた液状態で吹き付けるなどして繊維表面に被覆させた後にマトリックスである樹脂と混合して一体化させたことによって、機械強度を改善する手段が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、フィブリル化した繊維表面に弾性樹脂溶液を付与後に絞液して付着させたことによって、繊維本体にフィブリル化した繊維を固着させるようにして用いることで、白化を防止する手段が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
また、回収紙を解繊して得たパルプ繊維を用いて複合化した熱可塑性樹脂は、射出成形時の流動性の低下が著しいことから、ファンなどの曲げ応力による変形を抑止する必要のある部品への適用を困難としていた。
【0009】
これに対し、射出成形が可能な弾性率の向上手段として、有機長繊維に扁平状の無機充填材のタルクを併用したオレフィン系樹脂との長繊維強化複合樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−320367号公報
【特許文献2】特開平06−073231号公報
【特許文献3】特開平08−020021号公報
【特許文献4】特開平09−228250号公報
【特許文献5】特開2009−13330号公報
【特許文献6】特開平11−5203号公報
【特許文献7】特開2003−169978号公報
【特許文献8】特開平08−252557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これら手段によれば、繊維表面にあるフィブリル化した微細繊維が成す隙間に残存する空気が樹脂成形品の表面に移行して白化を来すのを防止するため、上記樹脂溶液が侵入してパルプ繊維とマトリックスを成す樹脂との一体化を達成する。しかし、この改質に伴う脆性増加が強度や弾性率の上昇を促す反面、衝撃強度の大幅な低下を来すことになる。
【0012】
しかし、パルプの繊維状充填材は極めて凝集しやすく、押出機などによる樹脂との溶融混練によって容易に解繊できないことから、繊維間の空隙にある空気が排出されて分散するので、得られた複合体のペレットを用いた射出成形によって得た成形品の表面には,残存空気による気泡に起因した流動方向に筋状の白化が散在するという課題を残すことになる。
【0013】
同様に、凝集しやすいパルプの繊維状充填材にタルクなどの曲げ弾性率向上に寄与する扁平状の充填材を加えても、熱可塑性樹脂との溶融混練による複合化において、均一分散を達成することが困難である。
【0014】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、パルプ繊維の微細繊維間にある残存空気の排除に伴って成形品表面の白化生成が抑止されるとともに、パルプ繊維表面にある低弾性エラストマーによる緩衝効果によって充填材の添加に伴う耐衝撃性の低下を抑制したパルプ繊維複合体原料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係るパルプ繊維複合体原料は、含浸した界面活性剤と同系の界面活性剤を用いて水分散させた微粒子状態の低弾性エラストマーを保持したパルプ繊維が、表面に鱗片状の無機物を保持して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係るパルプ繊維複合体原料は、含浸した界面活性剤と同系の界面活性剤を用いて水分散させた微粒子状態の低弾性エラストマーを保持したパルプ繊維が、表面に鱗片状の無機物を保持して成るので、パルプ繊維の微細繊維間にある残存空気を排除して成形品表面の白化生成を抑止するとともに、パルプ繊維表面にある低弾性エラストマーによる緩衝効果によって充填材の添加に伴う耐衝撃性の低下を抑制して衝撃強度の向上にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は実施の形態1を示す図で、パルプ繊維およびマイカ粉末と複合化したPP(ポリプロピレン)を成形材料として射出成形した試験片を用い、一般物性を測定した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
<概要>
回収紙などを解繊して得たパルプ繊維を熱可塑性樹脂と溶融混練による複合化することによって、成形材料の製造に係る炭酸ガス排出量を削減することができる。加えて、その繊維長に応じて衝撃強度などの各種物性が向上するなど、成形品特性に大きな有効性を付与する。反面、成形樹脂への適用には、繊維表面にある部分的にフィブリル化して成る微細繊維が、パルプ繊維を互いに絡み易くする。これは、熱可塑性樹脂と複合化した成形材料が、溶融混練時におけるせん断応力を受けても繊維同士が綿状に凝集して絡み合った状態を解消することができずに分散しない、という課題を生む。
【0019】
従って、剛性向上を目的として、この状態で曲げ応力に対して鱗片状の補強材であるマイカ微粉末やタルクを添加した場合、これら充填材の分散性も損なわれ、各充填材の相互作用による補強効果が十分に発現できない、ことになる。
【0020】
本実施の形態は、パルプ繊維同士の絡み合いを抑止して鱗片状充填材とともに均一な分散状態を確保する手段に関し、タルクやマイカなどの鱗片状粉粒を表面に保持させてパルプ繊維絡の凝集を抑制したパルプ繊維複合体原料に関し、複合樹脂に均一分散させる効果が得られる成形材料に関する。
【0021】
<先行技術>
パルプ繊維の表面を樹脂被覆する手段には、特許文献3(特開平08−020021号公報)によれば、オレフィン系の熱可塑性樹脂を溶剤に分散させた液状態で吹き付けるなどして繊維表面に被覆させることによって機械強度を改善する事例がある。
【0022】
また、特許文献4(特開平09−228250号公報)では、フィブリル化した繊維表面に弾性樹脂溶液を付与後に絞液して付着させたものを用いることによって、白化を防止する手段が記載されている。
【0023】
パルプ繊維との複合体については、特許文献1(特開平05−320367号公報)において、粉砕によって得た解繊状の古紙とPP(ポリプロピレン)とを混合したものを溶融混合する手段が紹介されている。
【0024】
また、特許文献2(特開平06−073231号公報)において、融点200℃以下の可塑剤またはセルロース疎水化剤を用いて、植物繊維の分散を促進させたものをPP(ポリプロピレン)と混練することによって分散性を向上する手段が開示されている。
【0025】
一方、パルプ繊維の樹脂複合体に関する先行文献は、特許文献6(特開平11−5203号公報)に古紙原料を乾式解繊後に接着剤を添加して熱可塑性樹脂を添加空いた成形材料を用いて所定の温度で加熱加圧成形を行う手段が紹介されている。
【0026】
また、特許文献7(特開2003−169978号公報)には、撹拌によって浮遊した球状綿の表面にバインダー液を吹付けるクッション材の製造方法が示されている。
【0027】
さらに、特許文献8(特開平08−252557号公報)には、古紙パルプと熱可塑性微細繊維を加熱処理前に均一に混合して古紙ボードを製造する手段が開示されている。
【0028】
<先行技術との相違点>
本発明は、パルプ繊維表面のフィブリル化した微細繊維が備える空間内にある空気の排除を容易とするため、疎水基と親水基を併せ持つ界面活性剤の希薄溶液を用いたことにより、前記微細繊維と親和性に優れた親水基を備える界面活性剤が容易に含浸して繊維本体が収束した状態を確保した後、樹脂との親和性に優れる疎水基の作用によって、希薄溶液に分散した粘性に優れるエラストマーを強固に被覆できる。
【0029】
一方で、粘性に優れた樹脂を表面部分に被覆したことにより、PP(ポリプロピレン)との混練によって相互が一体化し、両材料の界面部分における緩衝効果を増し、衝撃強度の向上に寄与できる。
【0030】
また、パルプ繊維と樹脂との複合体の形成において、繊維を凝集状態から解放後に再度の凝集を抑止する手段に関する記述が先行技術文献には無く、本発明の技術上の特徴を捕捉するに至らない。
【0031】
<効果(進歩性)>
以上の手段によって鱗片状の充填材を保持したパルプ繊維を、押出機などを用いてPP(ポリプロピレン)などの熱可塑性樹脂と溶融混練を行うことによって相互が一体化して複合化した成形材料が得られる。該成形材料は、パルプ繊維の微細繊維間にある残存空気の排除に伴って成形品表面の白化生成を抑止するとともに、パルプ繊維表面にあるPIB(ポリイソブチレン)による緩衝効果によって充填材の添加に伴う耐衝撃性の低下を抑制して衝撃強度の向上にも寄与する。
【0032】
また、繊維同士の絡み合いを抑制してそれら充填材が複合樹脂に均一分散するので、各種強度向上を促進する。
【0033】
低弾性エラストマーであるPIB(ポリイソブチレン)の希薄水分散液を塗布して改質したパルプ繊維にマイカを併用した充填材とPP(ポリプロピレン)とを混練して得る複合樹脂の製造方法について、以下に詳述する。
【0034】
まず、PIB(ポリイソブチレン)は高温で界面活性剤を備えた水中で高速攪拌することによって、エマルジョン(水に乳化、分散させたもの)の状態になるまで分散させた。但し、分子量が100K(Kは×1000を意味し、100K=100000である。以下、同じ。)以上のものは、溶剤を用いて膨潤または溶解させるなどして粘度を低下させ、分散を容易化することが好ましい。反面、120K以上のものは分散に要する濃度が5%以下のものしか得られないので不適である。
【0035】
パルプ繊維に含浸及び低弾性エラストマー(PIB(ポリイソブチレン))を水分散させた界面活性剤は、エチレンオキサイドを主体とする親水基と直鎖状アルキル基から成る疎水基を併せ持つものである。
【0036】
一方のパルプ繊維は、回収古紙などで酸や塩素などの変色や変質を促す残留薬品が無いものを選択し、これを対向する二枚のディスク間に設けた間隙内に投入して、各ディスクが反対方向に回転して得られるせん断力を付与することによって解繊したものを用いる。
【0037】
パルプ繊維の解繊は、前記パルプ繊維をヘンシェルミキサーなどの高速回転する羽根を備えた混合機中で攪拌しながら浮遊させた状態で、界面活性剤の希薄水溶液を霧状で吹き付ける。添加する界面活性剤の量は、パルプ繊維に対して0.5〜2.0%、吹付ける水溶液はパルプ繊維と同量〜倍量とすることが好ましい。
【0038】
また、パルプ繊維への含浸およびPIB(ポリイソブチレン)の水分散化に用いる界面活性剤は、エチレンオキサイドを主体とする親水基と直鎖状アルキル基から成る疎水基を併せ持つことを特徴とし、疎水性のPP(ポリプロピレン)と親水性のパルプ繊維との親和と、該界面活性剤とその後に添加するPIB(ポリイソブチレン)の親和を促すことが出来る。
【0039】
次に、界面活性剤の水溶液を含有して湿潤状態のパルプ繊維が混合機内で浮遊する状態を維持しながら、PIB(ポリイソブチレン)の希薄水分散液を吹付ける。PIB(ポリイソブチレン)は極めて微細な粒子状で水中に均一分散しており、パルプ繊維が含んでいる界面活性剤との優れた親和性によって、繊維間への侵入が容易となる。ここで用いたPIB(ポリイソブチレン)は、常温で高い粘着性を呈する分子量80K程度のものを5wt%の希薄分散液とし、パルプ繊維100部に対して2.5部が被覆するように吹付けた。
【0040】
もし、PIB(ポリイソブチレン)の水分散液を噴霧せずに直接投入をした場合は均質な塗布状態が得られず、部分的に過度な湿潤状態を形成し、該部分がパルプ繊維の表面に備える微細繊維が収束するため、十分な強度向上の効果を得ることができない、という課題を有することになる。
【0041】
上述したPIB(ポリイソブチレン)のパルプ繊維への塗布により、過度な湿潤状態を成した場合は、混合機内でパルプ繊維が浮遊し難くなり、壁面に付着して継続したPIB(ポリイソブチレン)の均一な塗布を阻害する状態に陥る。これが予測された場合、各原料の噴霧を停止し、混合機内に乾燥空気を投入してパルプ繊維の乾燥を促すことが好ましい。
【0042】
次に、上記の処理を完了したパルプ繊維にマイカ(鱗片状の無機物)粉末を加えて、同様に混合する。マイカ粉末の添加は、上述したパルプ繊維へのPIB(ポリイソブチレン)を塗布した工程に継続して、所定量を投入する。混合機内ではパルプ繊維が解繊状態を維持して成り、この状態下でマイカ粉末を投入して両材料が浮遊した状態で均一に混合した状態を得た段階で撹拌を停止する。
【0043】
ここで用いたPP(ポリプロピレン)粉末は、パルプ繊維との複合化による射出成形時の流動性低下を勘案し、低粘度のものを適用する。本実施の形態では、MI(メルトフローインデックス)が40g/10minのものを選択し、溶融混練時にパルプ繊維に塗布したPIB(ポリイソブチレン)の添加量は過度に溶出せずに適度に残存する塗布量を得ており、パルプ繊維の含有量が流動性喪失を抑制するように30wt%、マイカ粉末が曲げ弾性率の向上に寄与する20wt%、を各々、投入して成る。
【0044】
撹拌の停止によって攪拌機の槽内下部で均一混合した状態を滞留したことにより、粘着性に優れたPIB(ポリイソブチレン)を介してパルプ繊維と接触したマイカ粉末が繊維表面を覆うように保持して、パルプ繊維同士の凝集が抑止された流動性を呈する粉末(粉末流体)として扱うことが可能な混合物となった。
【0045】
以上の粉末流体の特性を得て連続投入が可能になった上記混合物は、押出機を用いてPP(ポリプロピレン)との溶融混練を行った。このときの押出機のシリンダー温度を調整して、樹脂温度が190℃、好ましくは180℃を越えないように設定したうえで溶融混練を行うことが好ましい。混練が完了したPP(ポリプロピレン)とパルプ繊維の複合体は、押出機から吐出されたストランドを空冷で固化し、これを適度に裁断してペレットを作製した。
【0046】
以下に、上述手段によってパルプ繊維およびマイカ粉末と複合化したPP(ポリプロピレン)を成形材料として射出成形した試験片を用い、一般物性(MI、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、表面外観)を測定した結果を図1に示す。
【0047】
図1は実施の形態1を示す図で、パルプ繊維およびマイカ粉末と複合化したPP(ポリプロピレン)を成形材料として射出成形した試験片を用い、一般物性を測定した結果を示す図である。
【0048】
本実施の形態の手段に依らない比較例として、比較例1−1はパルプ繊維に界面活性時のみを塗布した後にマイカ粉末を混合し、押出機による溶融混練とペレット化を行った成形材料である。また、比較例1−2は無処理で凝集した状態のパルプ繊維にマイカ粉末を直接混合した後に押出機を用いて溶融混練およびペレット化した成形材料である。
【0049】
本実施の形態によるパルプ繊維複合PP(ポリプロピレン)はPIB(ポリイソブチレン)をパルプ繊維表面に保持して成り、PIB(ポリイソブチレン)を保持しないものと比較して、耐衝撃性、表面意匠性が有意に優れている。本実施の形態のパルプ繊維複合PP(ポリプロピレン)は、押出機における溶融混練時に繊維が保持するPIB(ポリイソブチレン)がPP(ポリプロピレン)に先行して溶融して混練される際に、繊維間にある空気が排除され易く、射出成形時の金型内で受ける高圧によって排除されることがないので、白化を来すことがない。
【0050】
これに対し、PIB(ポリイソブチレン)を保持せずに界面活性剤のみを含浸させたパルプ繊維(比較例1−1)は、湿潤状態を保持した状態でPP(ポリプロピレン)粉末とともに攪拌機内で高速回転する羽根によって受けるせん断力で分散を来す反面、PIB(ポリイソブチレン)を表面に保持しないので、押出機による溶融混練時に繊維間の空気を十分に排除できず、射出成形時の金型内で受ける高い圧力で排出されて、僅かながらも白化として視認されることになる。
【0051】
一方、界面活性剤とPIB(ポリイソブチレン)を用いた処理を行うこと無しに、攪拌機の槽内で高速回転させたPP(ポリプロピレン)とともに撹拌混合したものを押出機で溶融混練して得たペレット(比較例1−2)は、パルプ繊維と繊維間に保持する空気をPP(ポリプロピレン)の溶融時に受ける高いせん断力を受けても完全に排除できない。その結果、射出成形時の金型内で受ける高圧下での射出流動時に微細な気泡が排出され、これが成形品表面におけるパルプ繊維の凝集した状態を成す部位で、0.1〜3mm程度の白化点が成形品表面に視認できた。
【0052】
また、界面活性剤およびPIB(ポリイソブチレン)を含まない何れの試験片とも、パルプ繊維の表面に付着したPIB(ポリイソブチレン)の高い粘性による緩衝作用を受けることなく衝撃応力を吸収することになるので破壊しやすく、衝撃強度が優位に低い結果となった。併せて、パルプ繊維にマイカ粉末を保持できず、押出機への投入が不均一であることに起因して、複合化した樹脂内での前記マイカ粉末の分散が不十分であった。特に、界面活性剤をも用いてない比較例1−2は、パルプ繊維が解繊すること無しに凝集した状態にあり、この結果、応力の分散も不十分であったことから、衝撃強度の低下が顕著であった。
【0053】
このことから、本実施の形態によるパルプ繊維強化の手段は、得られたペレットが前記パルプ繊維における空気の残存が抑止されるとともに、比較例に比較して優位に優れた分散性が得られたことに伴って、繊維の凝集に伴う繊維間に保持することもないので白化の発生を抑制できた。また、PIB(ポリイソブチレン)の高粘性による衝撃吸収性と充填材の優れた分散状態を受けて、高い衝撃強度を発現するという特徴を確認できた。
【0054】
この発明の実施の形態に係るパルプ繊維複合体原料は、パルプ繊維表面の微細繊維間の残存空気の排除を容易に行うことを目的とし、前記微細繊維との親和性に優れる親水基と疎水基を併せ持つ界面活性剤の希薄溶液を含浸させた後、前記界面活性剤と同種の界面活性剤が備える樹脂と親和性に優れる疎水基によって、オレフィン系エラストマーの希薄水分散液を吹き付けることによって、微粒子を保持させた。
【0055】
ここで用いた界面活性剤が含浸して適度に湿潤した状態のパルプ繊維は、攪拌機の高速回転する羽根から受けるせん断力によって凝集した繊維が解きほぐされた状態を確認後、粘性と粘着性に優れるエラストマーを吹き付けたので、パルプ繊維表面にPIB(ポリイソブチレン)の微粒子が強固に付着して保持される。
【0056】
次いで、高速回転する羽根を備えた攪拌機槽内に投入した鱗片状の充填材が、十分に解繊せずに部分的に凝集した状態のパルプ繊維に衝突してせん断力を付与したことによって、凝集したパルプ繊維が完全に解繊して、両充填材が均一に分散した状態を確保できる。
【0057】
これを、攪拌機の回転が停止して槽内底部に堆積しても、パルプ繊維の表面に塗布したPIB(ポリイソブチレン)の粘着力が前記充填材を付着して保持するので、パルプ繊維が再度に凝集することを抑止できる。
【0058】
上記手段による鱗片状の充填材を保持したパルプ繊維を、押出機などを用いてPP(ポリプロピレン)などの熱可塑性樹脂と溶融混練を行うことによって相互が一体化して複合化し得た成形材料は、パルプ繊維の微細繊維間にある残存空気の排除に伴って成形品表面の白化生成を抑止するとともに、パルプ繊維表面にあるPIB(ポリイソブチレン)による緩衝効果によって充填材の添加に伴う耐衝撃性の低下を抑制して衝撃強度の向上にも寄与する。
【0059】
また、繊維同士の絡み合いを抑制してそれら充填材が複合樹脂に均一分散するので、各種強度向上を促進する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含浸した界面活性剤と同系の界面活性剤を用いて水分散させた微粒子状態の低弾性エラストマーを保持したパルプ繊維が、表面に鱗片状の無機物を保持して成ることを特徴とするパルプ繊維複合体原料。
【請求項2】
前記低弾性エラストマーが、分子量120K以下のポリイソブチレンであることを特徴とする請求項1に記載のパルプ繊維複合体原料。
【請求項3】
前記パルプ繊維に含浸及び前記低弾性エラストマーを水分散させた界面活性剤が、エチレンオキサイドを主体とする親水基と直鎖状アルキル基から成る疎水基を併せ持つものであることを特徴とする請求項1に記載のパルプ繊維複合体原料。
【請求項4】
前記鱗片状の無機物が、マイカであることを特徴とする請求項1に記載のパルプ繊維複合体原料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−102164(P2012−102164A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249068(P2010−249068)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【特許番号】特許第4799685号(P4799685)
【特許公報発行日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】