説明

パワー半導体モジュールおよびその製造方法

【目的】炭化シリコン素子を用いたパワー半導体モジュールの素子近傍の温度と、外周部の温度に適した封止材を使用したパワー半導体モジュールを提供する。
【解決手段】絶縁層と、この絶縁層の一方の面と他方の面にそれぞれ固着された、第1銅ブロックと第2銅ブロックとを備える銅ベース基板と、第1銅ブロックの上にその一方の面が導電接合層により固着された、炭化シリコンを用いた複数のパワー半導体素子と、このパワー半導体素子のそれぞれの他方の面に導電接合層により固着された複数のインプラントピンと、このインプラントピンに固着され、パワー半導体素子に対向して配置されたプリント基板と、少なくともパワー半導体素子とプリント基板との間に配置された、難燃剤を添加しない第1の封止材と、この第1の封止材を覆うように配置された、難燃剤を添加した第2の封止材と、を備えるパワー半導体モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールの封止構造に関するもので、特に、炭化シリコンを用いたパワー半導体モジュールとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図2に、従来のパワー半導体モジュールの断面構造図を示す。パワー半導体モジュール200は、絶縁層21と回路パターン22を有する銅ベース基板23に、半田層24aによってシリコンパワー半導体素子25が半田付けされる。そして、さらに半田層26bによりリードフレーム27が半田付けされ、外部接続端子28が取り付けられる。
【0003】
パワー半導体モジュール200に搭載されるシリコンパワー半導体素子25の数は、パワー半導体モジュール200の容積で決まり、この容積に合わせた大きさの銅ベース基板23に取り付けられる。
【0004】
この状態で、ケース29が取り付けられ、銅ベース基板23との接合部を接着剤(図示せず)でシールし、封止材層30が充填される。封止材層30として使用されるのはシリコーンゲル材料で、2液混合型の反応材料である。このシリコーンゲル材料を所定量計量したのち、混合攪拌し、13.33Pa(0.1Torr)の真空状態で10分間一次脱泡したのちに、ケース29内に注型される。その後、13.33Paの真空状態で10分間2次脱泡したのちに、120℃で2時間加熱硬化し、フタ31が取り付けられ、パワー半導体モジュール200が完成する。
【0005】
その後、熱伝導ペーストが塗布された冷却フィンに取り付けられて、パワー半導体モジュール200は使用される。
パワー半導体モジュール200の動作時は、パワー半導体素子25や回路パターン22に大電流が流れるため、パワー半導体素子25で発生した熱を、銅ベース基板23から熱伝導ペースト12を介して冷却フィンに伝熱し冷却することが大切となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−116172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭化シリコンはシリコンに比べて優れた電気的特性を有しているため、パワー半導体素子の材料は、将来的に、シリコンから炭化シリコンに置き換わることが想定されている。炭化シリコンからなるパワー半導体素子は、シリコンに比べて高温での動作特性が優れているため、パワー半導体素子に炭化シリコンを用いた場合、パワー半導体素子に流れる電流密度を高めることができる。
【0008】
しかし、パワー半導体素子に高電流密度の電流を流すと、発熱量が増大し、パワー半導体素子を封止する封止材の素子近傍の温度が高温になる。パワー半導体素子をシリコンから炭化シリコンに変更した場合、素子温度は200℃程度で使用される。一方、パワー半導体モジュールの外周温度は、素子近傍の温度に比べて、低い温度となる傾向を示す。
【0009】
このため、素子近傍の封止材の耐熱性能が重要となり、高温での動作領域においても安定な性能を有する封止材を適用することが重要となる。
炭化シリコン素子を搭載したパワー半導体モジュールの封止材には、ノンハロゲン化に対応するため、難燃剤として、水酸化アルミニウム等を添加した封止材が使用される。しかしこの場合、封止材は、難燃剤の影響で熱劣化し易くなり、耐熱性の低下が問題であった。
【0010】
本発明の目的は、上述の問題点を解決するため、炭化シリコン素子を用いたパワー半導体モジュールの素子近傍の温度と、外周部の温度とに適した封止材を使用したパワー半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記の目的は、
絶縁層と、
この絶縁層の一方の面と他方の面にそれぞれ固着された、第1銅ブロックと第2銅ブロックとを備える銅ベース基板と、
第1銅ブロックの上にその一方の面が導電接合層により固着された、炭化シリコンを用いた複数のパワー半導体素子と、
このパワー半導体素子のそれぞれの他方の面に導電接合層により固着された複数のインプラントピンと、
このインプラントピンに固着され、パワー半導体素子に対向して配置されたプリント基板と、
少なくともパワー半導体素子とプリント基板との間に配置された、難燃剤を添加しない第1の封止材と、
この第1の封止材を覆うように配置された、難燃剤を添加した第2の封止材と、
を備えることにより達成される。
【0012】
パワー半導体素子と銅ベース基板、ならびにパワー半導体素子と複数のインプラントピンとの固着は、導電接合層で行なう。
ここで、第1の封止材の熱変形温度が、175℃〜225℃であることが好ましい。
また、第1の封止材の熱膨張係数が1.5×10−5/℃〜1.8×10−5/℃であることが好ましい。
さらに、第1の封止材の銅ベース基板に対する接着強さが10MPa〜30MPaであることが好ましい。
また、第2の封止材の熱変形温度が100℃〜175℃であることが好ましい。
第2の封止材の熱膨張係数が1.5×10−5/℃〜1.8×10−5/℃であることが好ましい。
【0013】
第2の封止材の銅ベース基板に対する接着強さが、10MPa〜30MPaであることが好ましい。
第1の封止材ならびに第2の封止材に液状エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の半導体装置の製造方法によれば、
絶縁層を用意する工程と、
この絶縁層の一方の面と他方の面にそれぞれ第1銅ブロックと第2銅ブロックを備える銅ベース基板を用意する工程と、
第1の銅ブロックの上に炭化シリコンを用いた複数のパワー半導体素子の一方の面を導電接合層により固着する工程と、
このパワー半導体素子のそれぞれの他方の面に複数のインプラントピンを導電接合層により固着する工程と、
このインプラントピンに固着されパワー半導体素子に対向するようにプリント基板を配置する工程と、
少なくともパワー半導体素子とプリント基板との間に難燃剤を添加しない第1の封止材を充填する工程と、
この第1の封止材を覆うように難燃剤を添加した第2の封止材を配置する工程と、
を有することとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記の構成を採用した結果、パワー半導体素子の上下の導電接合層の熱疲労による熱抵抗の増大が防止され、信頼性の高いパワー半導体モジュールを提供することが可能となる。
【0016】
また、第1の封止材として、難燃剤を添加しない封止材を用いることにより、耐熱性能を高めることができ、第2の封止材として難燃剤を添加した封止材を用いることにより、耐熱性は難燃剤を添加しない場合に比べ劣るものの、温度が素子周囲よりは低いため、問題の無いパワー半導体モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例の、炭化シリコンパワー半導体モジュールの成形構造体の断面構造図である。
【図2】従来のシリコンパワー半導体モジュールの断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の実施の形態を、以下に、図1に記載した実施例を用いて詳細に説明する。
[実施例]
図1は、本発明の実施例である炭化シリコンパワー半導体モジュールの成形構造体の断面構造図である。
【0019】
図1により、炭化シリコンパワー半導体モジュールの成形構造体の製造方法について説明する。
絶縁層1の両面に銅ブロック2と銅ブロック3とを配置した銅ベース基板4の上面に、導電接合層5aにより炭化シリコンパワー半導体素子6が複数個、搭載されて取り付けられ、さらに、炭化シリコンパワー半導体素子6の上面に導電接合層7bにより、インプラントピン8を有するインプラント方式のプリント基板9が取り付けられる。
【0020】
ここで、インプラントピン8について説明すると、インプラントピン8の大きさは例えば直径120μm、長さ300μmであり、各パワー半導体素子6に対して、最大で11個程度が配置される。
【0021】
インプラントピン8はプリント基板9の図示しない導電パターンに固着されている。プリント基板9と銅ブロック3との間隔は1mm程度であり、最も狭いところでは200μm程度である。プリント基板9は、例えばエポキシ樹脂やポリイミド樹脂からなる。
さらに外部接続端子10を取り付け、銅ベース基板4とインプラント方式のプリント基板9の間の炭化シリコンパワー半導体素子6の近傍に第1の封止材11をディスペンサーにより注入形成し、図示しない金型内に載置して、第2の封止材12により封止され、炭化シリコンパワー半導体モジュール成形構造体100が完成する。
【0022】
炭化シリコンパワー半導体モジュール成形構造体100における、第1の封止材11の封止材注入方法は、銅ベース基板4とインプラント方式プリント基板9の間の、炭化シリコンパワー半導体素子6の近傍の位置に、ディスペンサーにより注入形成するものである。
【0023】
第1の封止材11として使用されるのは、環状脂肪族系のエポキシ樹脂と酸無水物硬化剤との混合組成物で、シリカ充填材が85wt%配合された、1液状型の成形封止材料で、難燃剤を添加しない状態の液状封止材である。
【0024】
第1の封止材11の硬化条件は、100℃、1時間である。
硬化後の材料物性は、第1の封止材11の熱変形温度が225℃で、熱膨張係数が1.5×10−5/℃、銅ベース基板4に対する接着強さが23MPaである。
【0025】
ここで、第1の封止材11の材料物性について述べる。
封止材11の熱変形温度が、175℃から225℃であると、封止材11の熱特性に対する変曲点が高くなり、パワー半導体素子6の上下の導電接合層5a、7bの、熱疲労による熱抵抗の増大を防止できるので、耐熱性能が高く、信頼性の高い、パワー半導体モジュールを得ることができる。パワー半導体素子の温度は、200℃程度になるので、封止材11の熱変形温度は最低でも175℃が必要である。熱変形温度の上限は、余裕を持って225℃としている。
【0026】
さらに、封止材11の上記した熱膨張係数は、銅の熱膨張係数と同等であるので、絶縁層1、銅ブロック2、3を備える銅ベース基板4の反りと、パワー半導体素子6の上下の導電接合層5a、7bの熱疲労とによる熱抵抗の増大を防止し、信頼性の高いパワー半導体モジュールを提供することができる。
【0027】
加えて、封止材11の銅ブロック2、3に対する接着強さが10MPaから30MPaであることにより、パワー半導体素子6を銅ベース基板4に強固に接着できるので、パワー半導体素子6の上下の導電接合層5a、7bの熱抵抗の増大を防止し、信頼性の高いパワー半導体モジュールを提供することができる。したがって、本発明のパワー半導体装置は、パワーサイクルやヒートショック試験などの負荷試験において、高い信頼性を備えることが確認される。ヒートショック試験において、サイクル数の増加とともに銅ベース基板4の反りとパワー半導体モジュールの熱抵抗が増加する傾向が小さい。
【0028】
さて、炭化シリコンパワー半導体ユニット100の第2の封止材12による封止方法は、液状トランスファー成形用の上下型(図示せず)によって作られるキャビティに収納され成形温度160℃に昇温させて、保温状態で待機する。トランスファー成形用の上下型には、第2の封止材12のポット部とランナー部とが設けられている。なお、ここで、キャビティ、ポット部、ランナー部とは、上下型に設けられている、樹脂を収容するポット、樹脂封止すべきパワー半導体素子6が収容されるキャビティ、及びポットに収容された樹脂をキャビティに導くための樹脂の通り道であるランナーのことである。
【0029】
第2の封止材12として使用されるのは、環状脂肪族系のエポキシ樹脂と酸無水物硬化剤との混合組成物で、シリカ充填材が85wt%に、難燃剤として水酸化アルミニウムが配合された1液状型の成形封止材料である。
【0030】
硬化後の材料物性としては、封止材の熱変形温度が175℃で、熱膨張係数が1.5×10−5/℃で、第1の封止材に対する接着強さが20MPaである。
第2の封止材12の材料物性は基本的には第1の封止材11と同様である。
【0031】
熱変形温度としては、パワー半導体素子6の温度が200℃程度であるので、素子近傍の温度は高いので、第1の封止材11程度の熱変形温度が必要となるが、素子の外側はそれほど高温にはならないので、それほどの耐熱性能は要求されず、比較的安価な封止材を用いることができる。そこで、封止材12の熱変形温度の上限は、パワー半導体素子6の温度が200℃程度になることから、封止材11の熱変形温度の下限である、175℃としており、封止材12の熱変形温度の下限は、封止材12まではそれほど熱が伝わらないことから、100℃としている。
【0032】
熱膨張係数については、銅の熱膨張係数に合わせている。このようにすれば、第1の封止材11と第2の封止材12の熱膨張係数が同等であるので、モジュール全体として、不均一な応力がかからず、同じ動きをする。
【0033】
接着強さも、第1の封止材と同程度である。30MPa以上では、封止材料自体の強度が限界であり、10MPa以下であると、封止材と銅との接着が弱くなり、剥離し、素子をガードする力が無くなってしまう。
【0034】
液状封止材によるトランスファー成形方法としては、環状脂肪族系のエポキシ樹脂と酸無水物硬化剤とからなる1液状型の成形封止材を、予め13.33Paの真空状態で10分間1次脱泡したのちにシリンダー容器に注入する。その後、シリンダー容器から金型内のポット部に必要量注入し、その後、上下金型の型締めを行い、成形封止材料は、ポット部からランナー部を経由して金型キャビティに圧入されて、炭化シリコンパワー半導体モジュールの成形が完了する。成形条件は上下金型の型締め圧は150kg/cm(14.7MPa)で、160℃でのゲル化時間は1分で、硬化時間は3分である。
【0035】
このように、液状封止材において液状エポキシ樹脂を使用することにより、銅ベース基板4とインプラント方式のプリント基板9との間に、予め注入硬化してある第1の封止材11の外周部に、第2の封止材12の充填が行なえると同時に、短時間での成形が可能となり、生産性と信頼性の高いパワー半導体モジュールを提供することができる。
【0036】
また、素子近傍に配置する第1の封止材11としては、直接空気に接していないため、酸化劣化が少ない状況から、難燃剤を添加しない封止材を使用して、耐熱性能を高めることができる。また、第2の封止材12としては、パワー半導体モジュールの外周で直接空気に接することから、難燃剤を添加した封止材を使用することにより、酸化劣化に対して強い構造を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 絶縁層
2 銅ブロック
3 銅ブロック
4 銅ベース基板
5a 導電接合層
6 炭化シリコン半導体素子
7b 導電接合層
8 インプラントピン
9 インプラント方式プリント基板
10 外部端子
11 第1の封止材
12 第2の封止材
13 取付け金具
100 炭化シリコン半導体パワーモジュール成形構造体
21 絶縁層
22 回路パターン
23 銅ベース基板
24a 半田層
25 シリコンパワー半導体素子
26b 半田層
27 リードフレーム
28 外部接続端子
29 ケース
30 封止材
31 フタ
200 シリコンパワー半導体モジュール構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、
この絶縁層の一方の面と他方の面にそれぞれ固着された、第1銅ブロックと第2銅ブロックとを備える銅ベース基板と、
第1銅ブロックの上にその一方の面が導電接合層により固着された、炭化シリコンを用いた複数のパワー半導体素子と、
このパワー半導体素子のそれぞれの他方の面に導電接合層により固着された複数のインプラントピンと、
このインプラントピンに固着され、パワー半導体素子に対向して配置されたプリント基板と、
少なくともパワー半導体素子とプリント基板との間に配置された、難燃剤を添加しない第1の封止材と、
この第1の封止材を覆うように配置された、難燃剤を添加した第2の封止材と、
を備えることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
第1の封止材の熱変形温度が、175℃〜225℃であることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項3】
第1の封止材の熱膨張係数が1.5×10−5/℃〜1.8×10−5/℃であることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
第1の封止材の銅ベース基板に対する接着強さが10MPa〜30MPaであることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項5】
第2の封止材の熱変形温度が100℃〜175℃であることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項6】
第2の封止材の熱膨張係数が1.5×10−5/℃〜1.8×10−5/℃であることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項7】
第2の封止材の銅ベース基板に対する接着強さが、10MPa〜30MPaであることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項8】
第1の封止材ならびに第2の封止材に液状エポキシ樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項9】
絶縁層を用意する工程と、
この絶縁層の一方の面と他方の面にそれぞれ第1銅ブロックと第2銅ブロックを備える銅ベース基板を用意する工程と、
第1の銅ブロックの上に炭化シリコンを用いた複数のパワー半導体素子の一方の面を導電接合層により固着する工程と、
このパワー半導体素子のそれぞれの他方の面に複数のインプラントピンを導電接合層により固着する工程と、
このインプラントピンに固着されパワー半導体素子に対向するようにプリント基板を配置する工程と、
少なくともパワー半導体素子とプリント基板との間に難燃剤を添加しない第1の封止材を充填する工程と、
この第1の封止材を覆うように難燃剤を添加した第2の封止材を配置する工程と、
を有することを特徴とするパワー半導体モジュールの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate