説明

パンタグラフ式免震システム

【課題】震動に伴う構造物の上下の揺れを低減する簡素なパンタグラフ式免震システムを提供する。
【解決手段】構造物2に作用する震動を免震するための免震システム10であって、構造物2を支持可能に構造物2の下部4に設けたパンタグラフ12と、構造物2からの震動力を受けてパンタグラフ12の形状が変化した際にパンタグラフ12を元の形状に戻す方向に付勢する一方で、震動力のエネルギーを吸収するエネルギー吸収手段16とを備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフ機構を利用したパンタグラフ式免震システムに関し、特に、構造物の上下方向の震動を免震するパンタグラフ式免震システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の上下方向の震動を免震するための免震システムや免震装置が知られている(例えば、特許文献1〜8参照)。
【0003】
特許文献1は、鉛直方向の振動を減衰させるオイルダンパーを上部構造体と下部構造体との間に複数配置したものである。このオイルダンパーは、シリンダー内に配置したピストンと、ピストンの上下に設けたオイルタンク室と、オイルタンク室を連通する調圧弁とを備えている。
【0004】
特許文献2は、構造物の下方に配置した鉛直免震部と、慣性質量を増加させる質量付加機構の円盤とを備えたものである。構造物の上下振動を円盤の回転運動に変換し、上下振動の固有周期の長周期化を達成することで上下免震効果を得ようとするものである。
【0005】
特許文献3は、上下に間隔を空けて設けた上部プレートと下部プレートとを接近離間可能に連結する水平リンク機構を備えたものである。この水平リンク機構にコイルバネとオイルダンパの各一端を取り付け、各他端を下部プレートに取り付けた構成となっている。
【0006】
特許文献4は、垂直免震手段と水平免震手段とを直列に連結したものであり、垂直免震手段として、基礎版に形成した空気室とその上方に昇降自在に配置した作動筒との間にゴム製ダイアフラムを介装してなる空気ばねを用いている。
【0007】
特許文献5は、構造物が上下方向に変位したとき復元力を生じる上下方向復元手段と、減衰力を生じる上下方向減衰手段とを備えたものである。この上下方向減衰手段は、互いに嵌合可能な第1筒手段および第2筒手段と、双方間の締め付け力を調整する締め付け調整手段とを有するものである。
【0008】
特許文献6は、水平方向に変形可能な支承体と、軸方向ダンパーと、2本1組の斜め柱とからなる免震装置を建物の最下部と基礎構造との間に複数設置して建物を支持するものである。上下方向の地震エネルギーは斜め柱の開脚変形に対応する軸方向ダンパーの水平方向への伸縮変形でエネルギー吸収を行うようになっている。
【0009】
特許文献7は、建物を水平方向に可動状態に支持する水平な支承板を建物の底面に設け、支承板と基礎との間を傾斜した複数の支持ロッドで連結した平行リンク機構からなる。平行リンク機構の内部に上下方向に配置したダンパーと、平行リンク機構の端部と外周構造体との間を連結する復元バネとを備えている。
【0010】
特許文献8は、台座上に架台を外筒および内筒からなる案内部材を介して設置し、架台の下面にピンを介して一対の連接棒の上端を取り付けたものであり、連接棒の各下端に転動輪が取り付けられ、転動輪間はコイルばねで接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−291918号公報
【特許文献2】特開2007−71399号公報
【特許文献3】特開2006−336733号公報
【特許文献4】特開2002−188688号公報
【特許文献5】特開2002−364706号公報
【特許文献6】特開平9−60334号公報
【特許文献7】特開平9−112068号公報
【特許文献8】特開平6−129486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記の従来の特許文献1〜8の免震システムないし装置は、機構が複雑であるとともに、機構を構成する部材数が多く、維持管理が難しい。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、震動に伴う構造物の上下の揺れを低減する簡素なパンタグラフ式免震システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るパンタグラフ式免震システムは、構造物に作用する震動を免震するための免震システムであって、前記構造物を支持可能に前記構造物下部に設けたパンタグラフと、前記構造物からの震動力を受けて前記パンタグラフの形状が変化した際に前記パンタグラフを元の形状に戻す方向に付勢する一方で、前記震動力のエネルギーを吸収するエネルギー吸収手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2に係るパンタグラフ式免震システムは、上述した請求項1において、前記エネルギー吸収手段は、バネダンパーからなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に係るパンタグラフ式免震システムは、上述した請求項1または2において、前記バネダンパーは、パンタグラフの水平に位置する対角部間を接続する態様で設けられることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項4に係るパンタグラフ式免震システムは、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、互いに平行な端面にパンタグラフを配置した六面体状の立体架構の他面をブレースまたはダンパーを含む構成にしたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項5に係るパンタグラフ式免震システムは、上述した請求項1〜4のいずれか一つにおいて、パンタグラフを載置する基礎の下部に、前記構造物に作用する震動の水平方向成分を免震する水平免震層を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、構造物に作用する震動を免震するための免震システムであって、前記構造物を支持可能に前記構造物下部に設けたパンタグラフと、前記構造物からの震動力を受けて前記パンタグラフの形状が変化した際に前記パンタグラフを元の形状に戻す方向に付勢する一方で、前記震動力のエネルギーを吸収するエネルギー吸収手段とを備えるので、震動に伴う構造物の上下の揺れを低減する簡素なパンタグラフ式免震システムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明に係るパンタグラフ式免震システムの側面図である。
【図2】図2は、本発明に係るパンタグラフ式免震システムの変形時の側面図である。
【図3】図3は、パンタグラフの伸縮変形を示す図である。
【図4】図4は、本発明に係るパンタグラフ式免震システムを床免震構造に適用した場合の側面図である。
【図5】図5は、本発明に係るパンタグラフ式免震システムを免震構造物に適用した場合の側面図である。
【図6】図6は、本発明に係るパンタグラフ式免震システムの他の実施例を示す斜視図である。
【図7】図7は、図6の免震部の拡大図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係るパンタグラフ式免震システムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
図1に示すように、本発明に係るパンタグラフ式免震システム10は、構造物2の下部4と基礎6との間にパンタグラフ12からなる免震層14を設けたものである。このパンタグラフ12には、エネルギー吸収手段としてのバネダンパー16が設けてある。
【0023】
パンタグラフ12は、上下左右に配置された4つの関節部18a〜18dと、各関節部間を連結するリンク部材20a〜20dとからなり、側面視で左右対称の菱形状に構成される。各リンク部材20a〜20dは関節部に回転自在に接続し、上側の関節部18aは構造物下部4に、下側の関節部18cは基礎6に当接している。パンタグラフ12は、副バネダンパー22とコイルバネ24とを介して、基礎6に対して水平移動可能に固定されている。この構成において、構造物2に上下方向の震動が入力された際には、図2に示すように、パンタグラフ12が変形することによって震動に伴う揺れが吸収されることとなる。
なお、エネルギー吸収手段としてのバネダンパー16を設けたパンタグラフ12同士を副バネダンパー22で連結した構成でも同様の効果が期待できる。
【0024】
バネダンパー16は、パンタグラフ12の左右の関節部18d、18b間(水平に位置する対角部間)を接続する位置に設けられ、金属製のコイルバネ16aと、このコイルバネ16aの両端に接続したダンパー16bとからなる。コイルバネ16aは、パンタグラフ12の形状が変化した際にパンタグラフ12を元の形状に戻す方向に引っ張り付勢するものである。ダンパー16bは、パンタグラフ12に作用する震動エネルギーを吸収するものであり、油圧ダンパーや棒状の鉛等からなる金属部材など震動を減衰する機構や材料を用いることができる。
【0025】
このバネダンパー16は、そのコイルバネ16aの特性やダンパー16bの減衰特性を調整することによって、パンタグラフ12の変形性能を調整することができる。例えば、図3に示すように、構造物2に上下方向の所定の震動力が入力した際に、パンタグラフ12が下方向にδv1だけ縮み、左右方向に2δh1だけ伸びるように調整してよい。
【0026】
また、同じ震動力を受けた際にパンタグラフ12が下方向にδv1+δv2だけ縮み、左右方向に2(δh1+δh2)だけ伸びるように調整することもできる。こうすることで、パンタグラフ12の変形角度θ(リンク部材20cが水平となす角)を調整することや、上下方向の変位量δvに対するコイルバネ16aの水平方向の伸び量δhを調整することができる。
【0027】
上記構成の動作および作用について説明する。
構造物2に上下方向の震動エネルギーが入力されると、パンタグラフ12が上下方向に伸縮すると同時に、左右方向に伸縮する。この際に、バネダンパー16のダンパー16bにより震動エネルギーが吸収され、伸びたコイルバネ16aはパンタグラフ12の形状を元に戻そうと付勢する。こうすることで、震動に伴う構造物2の上下の揺れを低減することができる。また、本発明のパンタグラフ式免震システム10はパンタグラフ12とバネダンパー16等からなる簡素な構成であることから、維持管理を比較的容易に行うことが可能である。
【0028】
次に、本発明に係るパンタグラフ式免震システム10を、床免震構造に適用する場合について説明する。
【0029】
図4に示すように、構造物2の床8の下に複数のパンタグラフ12からなる免震層14を設ける。パンタグラフ12の変形が震動エネルギーを吸収することで地震時や人の歩行時などに生じる床8の上下方向の振動を抑えることができる。このパンタグラフ12からなる免震層14は、床下に容易に設置可能であり、スパンの大きい床スラブの上下振動を効果的に免震することができる。
【0030】
次に、本発明に係るパンタグラフ式免震システム10を、上下および水平方向の免震を図る免震構造物に適用する場合について説明する。
【0031】
図5に示すように、構造物2の下部4と上部基礎6aとの間に複数のパンタグラフ12からなる上下免震層14を設ける。また、このパンタグラフ12を載置する上部基礎6aと下部基礎6bとの間に免震ゴムなどの免震装置26からなる水平免震層28を設ける。パンタグラフ12と免震装置26とは、ここでは上下方向に重なる位置に配置しているが、上部基礎6aに十分な剛性を持たせることにより、上下方向に重ならない位置に配置することも可能である。
【0032】
この上下免震層14と水平免震層28とを積層した構造によれば、パンタグラフ12の変形が震動エネルギーを吸収することで震動の上下方向成分を免震すると同時に、免震装置26の水平変形が震動エネルギーを吸収することで震動の水平方向成分を免震することができる。
【0033】
上記の実施の形態において、免震層14の水平方向の剛性を確保可能な構造とすることもできる。この場合、例えば、図6に示すように、パンタグラフ12を有する免震部30を構造物2の下部4の外縁側に各方向に適切に配置させる。
【0034】
この免震部30は、図7(a)〜(c)に示すように、互いに平行な端面にパンタグラフ12およびバネダンパー16を配置し、他面にブレース32を配置した六面体状の立体架構のユニットからなり、ユニットを複数並べて構成してある。ブレース32の代わりにダンパーを配置することもできる。
【0035】
このようにすれば、構造物2に入力される上下方向の地震動や歩行震動の影響を、水平剛性を確保しつつ抑制することができる。なお、図6においては、パンタグラフ12を基礎に対して左右移動可能に固定するための副バネダンパー22や、コイルバネ24の図示は省略している。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、構造物に作用する震動を免震するための免震システムであって、前記構造物を支持可能に前記構造物下部に設けたパンタグラフと、前記構造物からの震動力を受けて前記パンタグラフの形状が変化した際に前記パンタグラフを元の形状に戻す方向に付勢する一方で、前記震動力のエネルギーを吸収するエネルギー吸収手段とを備えるので、震動に伴う構造物の上下の揺れを低減する簡素なパンタグラフ式免震システムを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明に係るパンタグラフ式免震システムは、震動に伴う構造物の上下方向の震動を免震するのに有用であり、特に、維持管理を容易に行うのに適している。
【符号の説明】
【0038】
2 構造物
4 下部
6 基礎
6a 上部基礎
6b 下部基礎
8 床
10 パンタグラフ式免震システム
12 パンタグラフ
14 免震層、上下免震層
16 バネダンパー(エネルギー吸収手段)
16a コイルバネ
16b ダンパー
18a,18b,18c,18d 関節部
20a,20b,20c,20d リンク部材
22 副バネダンパー
24 コイルバネ
26 免震装置
28 水平免震層
30 免震部
32 ブレース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に作用する震動を免震するための免震システムであって、
前記構造物を支持可能に前記構造物下部に設けたパンタグラフと、
前記構造物からの震動力を受けて前記パンタグラフの形状が変化した際に前記パンタグラフを元の形状に戻す方向に付勢する一方で、前記震動力のエネルギーを吸収するエネルギー吸収手段とを備えることを特徴とするパンタグラフ式免震システム。
【請求項2】
前記エネルギー吸収手段は、バネダンパーからなることを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフ式免震システム。
【請求項3】
前記バネダンパーは、パンタグラフの水平に位置する対角部間を接続する態様で設けられることを特徴とする請求項1または2に記載のパンタグラフ式免震システム。
【請求項4】
互いに平行な端面にパンタグラフを配置した六面体状の立体架構の他面をブレースまたはダンパーを含む構成にしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のパンタグラフ式免震システム。
【請求項5】
パンタグラフを載置する基礎の下部に、前記構造物に作用する震動の水平方向成分を免震する水平免震層を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のパンタグラフ式免震システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−38617(P2011−38617A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188702(P2009−188702)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】