説明

パン製造方法及び自動製パン器

【課題】 製造時間の短時間化を図ることが可能であり、好適なパンを製造することができるパン製造方法及び自動製パン器を提供する。
【解決手段】 グルテンを含ませることなく米粉と水と増粘剤と酵母菌を含ませて得られるパン材料からパン生地を調製するパン生地調製工程と、パン生地調製工程の直後に実行され、パン生地調製工程で得られたパン生地を発酵させる成形発酵工程と、成形発酵工程を経たパン生地を焼成する焼成工程とを順次に連続して行ってパンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉を含みグルテンを含有しないパン材料からパンを製造するパン製造方法及び該方法に基づきパンを製造するための自動製パン器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、米粉の用途拡大を図る等の観点から、小麦粉に代えて米粉を含むパン材料からパンを製造する方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、米粉とグルテンとを含むパン材料又は米粉を含みグルテンを含有しないパン材料からパンを製造するパン製造方法が記載されている。この特許文献1のパン製造方法においては、パン材料の混合工程、一次発酵工程、捏ね工程、パン生地の成形発酵工程、焼成工程が連続して行われるようになっている。また、特許文献2には、米粉を含むパン材料にグルテンを実質的に含ませることなく、該パン材料からパンを製造するパンの製造方法が記載されている。この特許文献2のパンの製造方法においては、まず、パン材料として使用する米粉全量のうちの一部を水と混合しつつ加熱して米粉中のデンプンをα化することでスラリー状物を調製した後、該スラリー状物と残りの米粉、水、酵母、調味料等とを混合してパン生地を調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−255163号公報(請求項6〜請求項11、図11)
【特許文献2】特開2004−267144号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、米粉は、小麦粉に比して含水率は高いものの、加水されて一旦吸収した水を長時間にわたって保持することが難しいという性質を有する。そのため、米粉を含むパン材料を使用して好適なパンを製造しようとする場合には、パンの製造に要する時間をできる限り短時間とすることが望まれる。また、焼成工程を経て得られるパンについては、米粉を使用した場合でも小麦粉を使用した場合と同様に、ふっくらとしたパンであることが望まれる。
【0005】
この点、特許文献1のパンの製造方法では、米粉及び水等からなるパン材料を混合工程で撹拌処理した後、このパン材料を捏ね工程を経てパン生地とするまでの間に、前記パン材料を長時間にわたって放置する一次発酵工程が存在していた。また、特許文献1のパンの製造方法においては、米粉を含みグルテンを含有しないパン材料の場合、米粉とグルテンとを含むパン材料の場合よりも、グルテンを含有していないことから、焼き上がったパンのふっくら感において劣る可能性があった。
【0006】
一方、特許文献2のパンの製造方法では、パン材料として使用する米粉の一部から粘稠なスラリー状物を作る工程が該スラリー状物と残りの米粉及び水等との混合によりパン生地を調整する工程の前に存在しており、この点で、パンの製造に要する時間が長くなっていた。また、特許文献2のパンの製造方法においては、上記スラリー状物が有する粘性(すなわち、α化デンプンの粘性)によりパン生地に粘性膜を形成させるものと思われるが、かかるα化デンプンの粘性のみではパン生地内に炭酸ガスを閉じこめるに十分な粘性膜を形成するに至らず、ふっくら感に劣るパンが製造される可能性があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、米粉を含みグルテンを含有しないパン材料から、ふっくら感のある好適なパンを製造することができるパン製造方法及び自動製パン器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、パン製造方法に係る請求項1に記載の発明は、グルテンを含ませることなく米粉と水と増粘剤と酵母菌を含ませて得られるパン材料からパン生地を調製するパン生地調製工程と、当該パン生地調製工程の直後に実行され、前記パン生地調製工程で得られたパン生地を発酵させる成形発酵工程と、該成形発酵工程を経たパン生地を焼成する焼成工程とを順次に連続して行ってパンを製造することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の自動製パン器は、グルテンを含ませることなく米粉と水と増粘剤と酵母菌を含ませて得られるパン材料を収容するための容器と、該容器内に収容されたパン材料を撹拌するための撹拌手段と、前記容器内の温度を調整するための温度調整手段と、前記撹拌手段及び前記温度調整手段を制御することにより、前記容器内において、前記パン材料からパン生地を調製するパン生地調製工程と、当該パン生地調製工程の直後に実行され、前記パン生地調製工程で得られたパン生地を発酵させる成形発酵工程と、該成形発酵工程を経たパン生地を焼成する焼成工程と、を順次に連続して実行させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パン生地調製工程の直後に成形発酵工程が実行されるため、パンの製造に係る時間の短時間化を図れることが可能であり、その結果デンプンのβ化を抑制することができる。
【0011】
又、成形発酵工程において、発酵温度に保持された酵母菌が、パン生地中で炭酸ガスを発生させる。この炭酸ガスは、増粘剤によってパン生地内に形成された粘性膜により、パン生地内に閉じこめられる。また、この増粘剤による粘性膜は、過剰に発生した炭酸ガスを好適に逃がす性質を有している。そして、パン生地は、粘性膜によって過剰に発生した炭酸ガスが適度に逃がされつつ、適量の炭酸ガスが閉じこめられることにより、ふくらみ感のあるパンを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態の自動製パン器を示す分解斜視図。
【図2】実施形態の自動製パン器の電気的構成を示すブロック図。
【図3】実施形態のパン製造方法に係る工程を示すフロー図。
【図4】(a)は実施例1におけるパンの製造工程を示す工程図、(b)は比較例1におけるパンの製造工程を示す工程図、(c)は比較例2におけるパンの製造工程を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を米粉を含みグルテンを含有しないパン材料からなるパンを製造するための自動製パン器に具体化した一実施形態について説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、自動製パン器の外観を示す斜視図である。この自動製パン器10は、該自動製パン器10の外殻を構成するケース11及び開閉蓋12と、該ケース11の内部に収容される調製容器13とを備えている。ケース11は箱状に形成されており、その内部に上方に開口する収納空間14を有している。開閉蓋12は、収納空間14の開口を開閉することができるように、ケース11に取付けられている。パン材料を収容するための容器である調製容器13は、上方に開口する箱状に形成され、ケース11の収納空間14に収納することができるように構成されている。この調製容器13の内底面上には、スピンドル15が突設されており、スピンドル15は調製容器13の底壁に対して回転可能に構成されている。さらに、このスピンドル15には、撹拌部材としての撹拌羽根16が装着されている。
【0015】
前記ケース11の収納空間14において、その内底部には調理器17が内装されている。調理器17の上面には、環状をなす係止部18aが設けられている。この係止部18aと対応して、前記調製容器13の底面には係合部18bが設けられている。係合部18bは、係止部18aに比べて一回り大きな環状に形成されており、調製容器13が収納空間14に収納された場合、係合部18bを係止部18aの外側に係合して調製容器13を調理器17上に固定するように構成されている。また、前記調理器17の内部にはモータ(図示略)及びヒータ(図示略)が設けられている。調理器17の上面で略中央には回転軸19が突設されている。この回転軸19は前記モータにより回転するようになっており、収納空間14内に調製容器13が収納された場合、回転軸19にスピンドル15を介して撹拌羽根16が接続されることにより、撹拌羽根16が回転して調製容器13内のパン材料を撹拌するように構成されている。また、調理器17に調製容器13が固定された場合、調理器17内のヒータにより調製容器13が加熱されるように構成されている。さらに、ケース11の上面で前部(図1中で手前側)には操作パネル20が設けられており、この操作パネル20には自動製パン器10によるパンの製造を開始するためのスタートキー21が配設されている。
【0016】
次に、自動製パン器10の電気的構成について、図2に示した自動製パン器の電気的構成を示すブロック図を用いて説明する。
【0017】
自動製パン器10は、パン製造に係る動作を制御すべく、制御装置31を備えている。この制御装置31は、CPU、ROM、RAM、I/O回路部等からなるマイクロコンピュータ32(図中には「マイコン32」と記載する)と、このマイクロコンピュータ32に電気的に接続されたモータ駆動回路33及びヒータ駆動回路34とを具備している。また、該制御装置31のマイクロコンピュータ32には、雰囲気温度センサ35が電気的に接続されている。さらに、該制御装置31のマイクロコンピュータ32には、前記操作パネル20のスタートキー21が電気的に接続されている。
【0018】
前記モータ駆動回路33は、前記撹拌羽根16、前記調理器17のモータ等とともに、本実施形態の撹拌手段を構成している。このモータ駆動回路33は、前記調製容器13内に収容されたパン材料を撹拌すべく、前記制御装置31によって制御される。前記ヒータ駆動回路34は、前記雰囲気温度センサ35、前記調理器17のヒータ等とともに、本実施形態の温度調整手段を構成している。このヒータ駆動回路34は、前記調製容器13内の温度を調整すべく、前記制御装置31によって制御される。前記制御装置31は、本実施形態の制御手段を構成している。この制御装置31は、スタートキー21からの入力信号に基づいて起動し、ROM等に格納されたパン製造に係るプログラムをマイクロコンピュータ32が必要に応じて読み出し、モータ駆動回路33及びヒータ駆動回路34を制御する。そして、制御装置31は自動製パン器10に、パン材料からパン生地を調製するパン生地調製工程と、該パン生地調製工程で得られたパン生地を発酵させる成形発酵工程と、該成形発酵工程を経たパン生地を焼成する焼成工程とを順次に連続して実行させる。
【0019】
次に、自動製パン器10で使用するパン材料について説明する。
【0020】
本実施形態のパン材料は、その成分として米粉、増粘剤、水、酵母菌、砂糖、塩、油脂及び脱脂粉乳を含み、グルテンを含有しないものである。このパン材料は各成分を混合したのみでは粘性を有しておらず、各成分を捏ねることで粘性が生じてパン生地となる。これ以降の本実施形態中では、各成分が混合されたのみで粘性が無い状態を「パン材料」と記載し、各成分の捏ねが終了して粘性を有する状態を「パン生地」と記載する。また、パンは、発酵により膨張したパン生地を焼成することによって製造されるものであり、その内部に多数の気泡(スダチ)を有している。なお、本実施形態のパン材料及びパン生地は、双方共に流動性を有している。
【0021】
前記米粉は、本実施形態のパンの主成分であり、デンプンを含んでいる。このデンプンは、前記水に加えて加熱した場合に糊化(α化)してゲル体となり、このα化デンプンがパンに餅感を付与し、該パンを好適な食感とする。但し、米粉は水を吸収しやすくα化デンプンを形成しやすいものの、水に対する親和性に劣り(水和しづらく)、該水を放出しやすいため、α化デンプンが老化(β化)しやすいという性質も有する。従って、米粉を主成分としたパンにおいては、α化デンプンがβ化する前に該パン生地を焼成してパンを製造することが望ましく、製造時間の短時間化が好適なパンを得るための重要な要因となる。
【0022】
前記増粘剤は、パン材料に粘性を付与してパン生地を調製するために用いられる。この増粘剤は、粘性膜を形成して同粘性膜でパン生地の内部に炭酸ガスを閉じこめ、該炭酸ガスによる略均一なスダチをパンの内部に形成することにより、該パンにふっくら感を付与し、同パンを好適な食感とする。この増粘剤には、植物系の多糖類からなるものと、海藻系の多糖類からなるものとが存在する。植物系の多糖類からなる増粘剤としては、グァガム、アラビアガム、ガティガム、カラヤガム、プルラン、ペクチンの他、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン類、カードラン、デキストラン等のブドウ糖多糖類、セルロース、メチルセルロース等のセルロース類等が挙げられる。海藻系の多糖類からなる増粘剤としては、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等の昆布類粘質物、カラギナン等の紅藻抽出物、海藻セルロース等のセルロース類等が挙げられる。これらのうち、増粘剤には、適度な粘性を有し取扱いが簡易である等の観点から、植物系の多糖類からなるものを使用することが好ましい。なお、アレルギーの発症にはタンパク質が密接に関与していると考えられており、このアレルギーの発症の要因となるタンパク質の使用を避けるという観点からも、増粘剤には植物系の多糖類からなるものを使用することが好ましい。
【0023】
各成分のうち、水は上記の各成分を分散等させるとともに、米粉中のデンプンをα化するために用いられる。酵母菌は、パン生地の発酵時に炭酸ガスを発生させ、パン生地を膨張させるために用いられる。この酵母菌には、ドライイースト等のイースト菌、天然酵母が挙げられるが、発酵時間の短縮化を図ることができるという観点から、イースト菌を使用することが好ましい。砂糖は、製造されるパンの味付けの他、パン生地の発酵時に酵母菌に取り込まれ、分解されることにより、炭酸ガスを発生させるべく用いられる。塩は、製造されるパンの味付けの他、パン生地の発酵時に酵母菌による炭酸ガスの発生を阻害する発酵阻害物質の発生を抑えるべく用いられる。油脂及び脱脂粉乳は、パンの味付け、風味等の向上を図るべく、所望に応じて適宜混入される。
【0024】
次に、自動製パン器10を使用したパンの製造について以下に記載する
さて、自動製パン器10は、上記パン材料を前記調製容器13内に収容し、同調製容器13を自動製パン器10にセットした状態で前記スタートキー21をオンすることにより、パンの製造を開始する。そして、自動製パン器10は、図3に示すように、パン材料からパン生地を調製するパン生地調製工程(ステップS1)と、該パン生地調製工程S1でで得られたパン生地を発酵させる成形発酵工程(ステップS2)と、該成形発酵工程S2を経たパン生地を焼成する焼成工程(ステップS3)とを順次に連続して行ってパンを製造する。なお、これらパンの製造に係る各工程を通じて前記調製容器13は共用されており、各工程毎、或いは各工程間で調製容器13の入れ替え操作は行わないこととする。
【0025】
前記パン生地調製工程S1は、パンの製造に係る各工程の中でも最も重要な工程である。このパン生地調製工程S1は、前記パン材料を混合する混合工程(ステップS11)と、該混合工程S11で混合された前記パン材料を捏ねてパン生地とする捏ね工程(ステップS12)とを含む。また、混合工程S11と、捏ね工程S12とは、順次に連続して行われる。
【0026】
前記混合工程S11は、米粉の飛散を抑制しつつ、パン材料の各成分を水中に均一に分散させることが重視される。例えば、米粉が水中に不均一に分散された場合にはパンが食感に劣るものとなり、酵母菌が水中に不均一に分散された場合にはパン生地を均一に発酵さることが不可能となってパンがふくらみ感に劣るものとなる。そこで、この混合工程S11において、前記撹拌羽根16は、一定の回転速度で回転しつつ、所定時間おきに停止する間欠回転となるように、前記制御装置31によって制御される。そして、間欠回転する撹拌羽根16により撹拌されたパン材料は、各成分が水中に均一に分散されて混合されることとなる。
【0027】
前記捏ね工程S12は、パン材料中に空気を混入させること、パン材料に粘性を付与することが重視される。即ち、前記酵母菌から発生した炭酸ガスは、パン生地中に混入された空気を核として集まるため、空気の混入が少ない場合、粗いスダチのパンとなり、食感に劣るものとなる。また、発酵時のパン生地は、前記酵母菌から発生した炭酸ガスを粘性膜によって内部に閉じこめることにより膨張するため、粘性が不十分となった場合、ふくらみ感に劣るパンとなる。そこで、この捏ね工程S12において、前記撹拌羽根16は、一定の回転速度で回転し続ける連続回転となるように、前記制御装置31によって制御される。そして、連続回転する撹拌羽根16により撹拌されたパン材料は、適度な衝撃が与えられて捏ねられることにより、空気が混入されるとともに増粘されて、パン生地となる。
【0028】
前記調製工程は、パン材料中の酵母菌の死滅を抑制するという観点から、調製容器内の温度が60℃以下の雰囲気となるように、前記制御装置31によって制御される。従って、同調製工程を経たパン生地中においては、デンプンのα化が抑えられている。なお、デンプンをα化させた後のパン材料を冷やして酵母菌を混入した場合、酵母菌の死滅を抑制しつつ、パン生地中にα化デンプンを含ませることができるようになる。しかし、上記のように製造時間の短時間化という観点と、パン材料を冷やすことによってデンプンのβ化が進行する可能性も高いという観点から、採用し難い方法である。
【0029】
前記成形発酵工程S2は、デンプンのβ化を抑制すべく、パンの製造に係る時間の短時間化を図るため、前記パン生地調製工程S1に続いて連続して行われる。この成形発酵工程S2において前記調製容器13は、その内部の温度が酵母菌の発酵温度となるように、前記制御装置31によって温度調整される。発酵温度に保持された酵母菌は、パン生地中で炭酸ガスを発生させる。この炭酸ガスは、前記増粘剤によってパン生地内に形成された粘性膜により、パン生地内に閉じこめられる。また、この増粘剤による粘性膜は、過剰に発生した炭酸ガスを好適に逃がす性質を有している。そして、パン生地は、粘性膜によって過剰に発生した炭酸ガスが適度に逃がされつつ、適量の炭酸ガスが閉じこめられることにより、その内部に複数の気泡(スダチ)をそれぞれ略均一な大きさで形成しつつ、膨張する。
【0030】
当該成形発酵工程S2では、パン生地を膨張させるべく、前記増粘剤が重要な役割を担う。すなわち、前述のように前記パン生地調製工程S1ではデンプンのα化が抑えられており、もし前記増粘剤をパン材料中に含ませなかった場合、炭酸ガスをパン生地内に閉じこめることができず、製造されるパンはふくらみ感に劣るものとなってしまう。また、α化デンプンによってパン生地に粘性を付与した場合でも、α化デンプンによる粘性のみでは、パン生地内に炭酸ガスを閉じこめるに十分な粘性膜を形成するに至らず、ふくらみ感に劣るパンとなってしまう。一方、従来公知のグルテンを使用したパンの場合、グルテンが弾性膜を形成することにより、この弾性膜に炭酸ガスが抱きこまれてパン生地が膨張する。しかし、グルテンによる弾性膜は、炭酸ガスを必要以上に閉じこめる性質を有していることから、従来公知のグルテンを使用したパンの場合、パン材料を捏ねた後に一次発酵を行い、該パン材料からガス抜きをしてパン生地を調製する必要が生じる。なお、グルテンを使用したパンにおいて、一次発酵、ガス抜き等を省略した場合、パン生地内の気泡(スダチ)がそれぞれ不均一な大きさとなり、食感に劣るものとなる。
【0031】
前記焼成工程S3は、前記成形発酵工程S2に続いて連続して行われる。この焼成工程S3において前記調製容器13は、その内部の温度がパン生地の焼成温度となるように、前記制御装置31によって温度調整される。焼成温度とされたパン生地は、その内部にα化デンプンを発生させるとともに、各スダチを縮小させたり、潰したり等されることなく焼成される。そして、パン生地が焼成されて製造されたパンは、略均一な大きさに揃えられたスダチにより好適なふくらみ感を有するとともに、α化デンプンによって餅感が付与され、ふくらみ感及び餅感の相乗効果により優れた食感を有するものとなる。
【0032】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
【0033】
(1)実施形態の自動製パン器10によれば、パンの製造をパン生地調製工程S1、成形発酵工程S2及び焼成工程S3の3工程で行うことができる。これらパン生地調製工程S1から焼成工程S3までの各工程は、順次に連続して行われる。このため、従来公知のグルテンを使用したパンに比して一次発酵等の工程を省略することが可能であり、パンの製造に係る時間を大幅に短縮することができるようになる。従って、パンの製造中に米粉から水分が放出されることを防止することが可能である。また、パン材料に増粘剤を含ませたことにより、成形発酵工程S2の際にパン生地の膨張が不十分となることを抑制することができ、パンのふっくら感を維持することができる。その結果、米粉を含みグルテンを含有しないパン材料から、ふっくら感のある好適なパンを製造することができる。
(2)また、パン生地調製工程S1において、撹拌羽根16の回転を制御するのみで混合工程S11及び捏ね工程S12を連続して行うことができ、パンの製造に係る時間をさらに短くすることができる。
(3)また、パン材料は米粉及び増粘剤に加え、酵母菌、砂糖、塩、油脂及び脱脂粉乳を含んでいることから、味感に優れたパンを得ることが可能となる。
(4)また、増粘剤は、多糖類からなるものであり、例えばグルテンのようにアレルギー発症の一因となるタンパク質からなるものではないことから、アレルギーの発症を抑制することができる。
【0034】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0035】
<実施例1>
粳米からなる米粉を514.7g、増粘剤としてグァガムを51.5g、油脂を51.5g、乳化剤を15.4g、脱脂粉乳を46.3g、塩を10.3g、酵母菌としてイースト菌を10.3g、水を630gとして実施例1のパン材料を調製した。この実施例1のパン材料から、パン生地調製工程を経てパン生地を得た後、成形発酵工程及び焼成工程の3工程を経て、実施例1のパンを製造した。このときの各工程における温度と、各工程に要した時間を図4(a)に示す。なお、図中ではパン生地調製を「調製」と略示した。
【0036】
<比較例1>
米粉に代えて小麦粉を514.7g、グァガムに代えてグルテンを51.5gとした以外は、実施例1と同様にして比較例1のパン材料を調製した。この比較例1のパン材料から、図4(b)に示すように、捏ね工程、一次発酵工程、ガス抜き工程、生地休め工程、生地丸め工程を経てパン生地を得た後、成形発酵工程及び焼成工程を経て、比較例1のパンを製造した。このときの各工程における温度と、各工程に要した時間を図4(b)に示す。
【0037】
<比較例2>
グァガムに代えてグルテンを51.5gとした以外は、実施例1と同様にして比較例2のパン材料を調製した。この比較例2のパン材料から、図4(c)に示すように、混合工程、一次発酵工程、捏ね工程を経てパン生地を得た後、成形発酵工程及び焼成工程を経て、比較例2のパンを製造した。このときの各工程における温度と、各工程に要した時間を図4(c)に示す。
【0038】
<考察>
実施例1のパンと比較例1,2のパンとを試食した結果、何れのパンもふくらみ感、餅感に差異がなく、優れた食感を有していた。一方、パン生地を得るまでに要した時間は、実施例1が20分であることに対し、比較例1は103分18秒、比較例2は73分であった。これらの結果から、グルテンを含ませず、増粘剤であるグァガムを含ませたパン材料は、グルテンを含ませたパン材料に比べ、パン生地を得るまでに要した時間が圧倒的に短い。さらに、パンの製造に要した合計時間は、実施例1が122分であることに対し、比較例1は210分18秒、比較例2は178分であった。これらの結果から、グルテンを含ませず、増粘剤であるグァガムを含ませたパン材料は、パンの製造に要する時間が明らかに短く、優れた食感を有するという結論が得られた。
【0039】
なお、本実施形態は以下のような別の実施形態(別例)に変更してもよい。
撹拌部材は、撹拌羽根16に限らず撹拌棒等としてもよい。
【0040】
パン生地調製工程S1において、制御装置31によって撹拌羽根16の回転速度を制御することにより、混合工程S11及び捏ね工程S12を行ってもよい。或いは、捏ね工程S12で撹拌羽根16を連続回転とすることに限らず、回転速度を可変させつつ間欠回転とする等のように制御装置31で制御してもよい。このように構成した場合においても、上記(1)及び(2)に記載の作用効果を奏し得る。
【0041】
増粘剤は、実施例で挙げたグァガムに限らず何れを用いてもよい。但し、アレルギーの発症を抑制するという観点から、植物系の多糖類からなるものを用いることが好ましい。このように構成した場合においても、上記(1)に記載の作用効果を奏し得る。
【0042】
油脂、脱脂粉乳及び乳化剤のうち少なくとも何れか1つを省略してパン材料を調製してもよい。このように構成した場合においても、上記(1)に記載の作用効果を奏し得る。
【0043】
例えば、パン材料を手作業で混合した後、調製容器13に収容する等して、混合工程S11を省略してもよい。このように構成した場合においても、上記(1)に記載の作用効果を奏し得る。
【0044】
実施形態では自動製パン器10を用いてパンを製造したが、実施形態又は実施例で挙げたパン材料を使用し、手作業でパンを製造してもよい。このように構成した場合においても、上記(1)に記載の作用効果を奏し得る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るパン製造方法及び自動製パン器は、上記実施例に示した構成に限定されず、種々の形態のものに適用できるものであり、本発明の技術範囲において種々の形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0046】
S1…パン生地調製工程
S2…成形発酵工程
S3…焼成工程
S11…混合工程
S12…捏ね工程
10…自動製パン器
13…容器としての調製容器
16…撹拌部材としての撹拌羽根
31…制御手段を構成する制御装置
33…撹拌手段を構成するモータ駆動回路
34…温度調整手段を構成するヒータ駆動回路
35…温度調整手段を構成する雰囲気温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルテンを含ませることなく米粉と水と増粘剤と酵母菌を含ませて得られるパン材料からパン生地を調製するパン生地調製工程と、当該パン生地調製工程の直後に実行され、前記パン生地調製工程で得られたパン生地を発酵させる成形発酵工程と、該成形発酵工程を経たパン生地を焼成する焼成工程とを順次に連続して行ってパンを製造することを特徴とするパン製造方法。
【請求項2】
グルテンを含ませることなく米粉と水と増粘剤と酵母菌を含ませて得られるパン材料 を収容するための容器と、
該容器内に収容されたパン材料を撹拌するための撹拌手段と、
前記容器内の温度を調整するための温度調整手段と、
前記撹拌手段及び前記温度調整手段を制御することにより、前記容器内において、前 記パン材料からパン生地を調製するパン生地調製工程と、当該パン生地調製工程の直後 に実行され、前記パン生地調製工程で得られたパン生地を発酵させる成形発酵工程と、 該成形発酵工程を経たパン生地を焼成する焼成工程と、を順次に連続して実行させる制 御手段と、を備えることを特徴とする自動製パン器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−193905(P2010−193905A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123948(P2010−123948)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【分割の表示】特願2004−318113(P2004−318113)の分割
【原出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】