説明

パーフルオロエーテル部含有ポリマー及び該ポリマーを含む面処理剤

【課題】表面の滑り性に特に優れる表面処理剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。


[式中、Rfはパーフルオロポリオキシアルキレン基を含む基、Wは下記式(2)で表される基を少なくとも1つ有する2価のオルガノシロキサン残基、Wはフッ素置換されていてよい、炭素数1〜300の、アルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、アリール基、特定のオルガノシロキサン残基、及び、これらの組合せから選ばれる1価の基、Qは互いに独立に、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の2価の連結基、及びpは1〜20の整数である


(Xは加水分解性基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油性の被膜を形成するための、パーフルオロポリエーテル部を有する重合体に関し、詳細には、加水分解性基を有する部分を分子鎖の両末端以外の少なくとも1箇所に備え、基材への接着性、硬化性に優れ、該表面処理剤で処理された表面が撥水撥油性かつ低動摩擦である処理剤及び表面の動摩擦係数が低い防汚性物品を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、輸送機器の窓ガラス、ボディ、高層ビルの窓ガラスや外壁の汚れ防止のため、撥水、撥水撥油、親水化等の表面処理がなされている。特に、最近は、外観や視認性をよくするために、薄型テレビ、携帯電話、タッチパネル、カーナビ、ポーダブルオーディオプレーヤーなどの表面に「汚れを付きにくくする」処理や、「汚れを落とし易くする」処理が行われている。
【0003】
視認装置等の表面に設けられることが一般的な反射防止膜にあっては、手垢や指紋、汗や唾液、整髪料等の汚染物が付着し易く、その付着で表面反射率が変化したり、付着物が白く浮き出て見えて表示内容が不鮮明になるなど、単なる透明板等の場合に比べて汚染が目立ち易いという難点がある。そこで、かかる汚染物の付着防止性や付着汚染の除去性に優れかつ長期に防汚性能を保つ反射防止膜の提供が久しい課題となっている。
【0004】
一般に、パーフルオロポリオキシアルキレン基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、精密機器の防油剤、シール剤、離型剤、化粧料、保護膜、レンズ、反射防止膜、記録メディアなどの光学材料の防汚剤、傷付き防汚剤として幅広く利用されている。
【0005】
例えば、下記式で示されるパーフルオロポリオキシアルキレン基含有シランカップリング剤が知られている。該カップリング剤は、両末端に加水分解性基を2または3個有し、基材との密着性に優れ、該カップリング剤で処理された表面は撥水撥油性で、汚れが付着しても拭き取り易い(特許文献1)。


(式中、Rfは二価の直鎖型パーフルオロポリオキシアルキレン基、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基、Xは加水分解性基、bは0〜2、cは1〜5の整数、1は2又は3である。)
【0006】
近年、タッチパネルや各種電子機器のディスプレイ等日常的に汚れ拭取り作業を行う用途が増え、拭取りの際の表面の滑り性、耐摩耗性に対する要求が厳しくなってきている。本発明者らは、斯かる要求に応えるべく、片末端に加水分解性基を有するパーフルオロポリオキシアルキレン基含有シランカップリング剤(特許文献2)を提案した。また、表面の感触を向上するために、パーフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体剤を含む表面処理剤(特許文献3)を提案した。
【特許文献1】特開2003−238577号公報
【特許文献2】特開2007−297589号公報
【特許文献3】特開2008−088412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さらに、加水分解性基を末端と分子鎖中に有するパーフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体を含む表面処理剤(特願2007−311075)も提案した。しかし、近年、タッチパネル式機器の増加に伴い、表面の滑り性に対する要求がより厳しくなっている。そこで、本発明は、該要求に応える表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、下記式(1)で表されるパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。


[式中、Rfはパーフルオロポリオキシアルキレン基を含む基、Wは下記式(2)で表される基を少なくとも1つ有する2価のオルガノシロキサン残基、Wはフッ素置換されていてよい、炭素数1〜300の、アルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、アリール基、下記式(3)で表されるオルガノシロキサン残基、及び、これらの組合せから選ばれる1価の基、Qは互いに独立に、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の2価の連結基、及びpは1〜20の整数である

(Xは加水分解性基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)


(R及びRは、夫々、互いに独立に、フッ素置換されていてよい、炭素数1〜200のアルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、及びアリール基から選ばれる基であり、nは0〜50の整数である)]
【0009】
また、本発明は、上記パーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマーを主成分とする表面処理剤、並びにこのシラン及び/又はその部分加水分解縮合物を主成分とする硬化被膜を表面に有する物品、特には、表面滑り性が良く、容易に汚れ拭取り可能な防汚層を有する反射防止フィルター、偏光板、ガラス、樹脂フイルム、カバーガラスに関する。
【発明の効果】
【0010】
上記式(1)のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマーは加水分解性基を分子鎖の略中央部に有し、及び、分子末端には所定の基から選ばれた基を備えるので、耐摩耗性等の他の特性が損なわれることなく、表面滑り性に優れた表面を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明する。下記式(1)において、
【化1】

Rfはパーフルオロポリオキシアルキレン基を含む基(以下「パーフルオロポリエーテル部」という場合がある)である。該基が直鎖型であるか分岐型であるかは問わないが、表面滑り性の観点から直鎖型が好ましい。該パーフルオロエーテル部の構造としては、例えば一般式−(C2cO)−で示されるものが挙げられ、ここで、各繰返し単位のcは、互いに独立に1〜6の整数であり、dは2〜100、好ましくは2〜80、より好ましくは10〜50の整数である。
【0012】
上記式で示される繰り返し単位−C2cO−としては、例えば下記の単位が挙げられ、これら2種以上の組み合わせであってもよい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
−CF2CF2CC2CF2O−
−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−
−C(CF3)2O−
【0013】
これらのうち、下記に示す、炭素数1〜約4のパーフルオロオキシアルキレン基を繰返し単位として含む基が好ましい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
【0014】
好ましくは、Rfは下記一般式(4)、(5)、(6)又は(7)で示される基から選ばれる。
【化2】

(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF基、eは1〜3の整数、gは2〜6の整数、f、iはそれぞれ0〜100の整数、但しf+iは2〜100であり、hは0〜6の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムである。)
【化3】

(式中、jは1〜100の整数、eは1〜3の整数である。)
【化4】

(式中、YはF又はCF基、eは1〜3の整数、k、lはそれぞれ0〜100の整数、但しk+lは2〜100であり、各繰り返し単位の配列はランダムである。)

(式中、mは0〜50の整数、nは1〜50の整数、但しm+nは2〜60の整数である。)
【0015】
上記化学構造式中の括弧で示す各繰り返し単位の合計は2〜80、より好ましくは10〜50の範囲である。
【0016】
式(2)で表される加水分解性基を少なくとも1つ有する基Wとしては、例えば、下記一般式(A)又は(B)で表される基が挙げられる。



これらの式中、Rは、互いに独立に、水素原子又は1価の炭化水素基、例えばアルキル基であり、特にメチル基が好ましい。Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、Xは加水分解性基、及びaは2又は3である。nは4〜42、好ましくは4〜12の整数であり、mは3〜5の整数、kは1〜5の整数である。
【0017】
式(A)又は(B)で表される基の例として、下記式(8)〜(10)で表される基を挙げることができる。式(8)のものは、式(A)において、Xがメトキシ基、Rがメチル基、y=2、n=4、k=1であり、(9−1)及び(9−2)はn=4または5、k=2ものである。式(10−1)のものは、式(B)において、Xがメトキシ基、m=4、k=2である。











上記の基のうち、式(8)又は式(10−1)で表される基が好ましい。
【0018】
式(1)において、Wはフッ素置換されていてよい、炭素数1〜300、好ましくは1〜200の、アルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、アリール基及び下記式(3)で表されるオルガノシロキサン残基から選ばれる1価の基であり、これらの組合せであってもよい。Wは、式(2)中の加水分解性基Xが加水分解する条件で基材と反応が進行しない。また、基材との間で、表面滑り性を悪くするような物理的相互作用も生じない。好ましくは、高い撥水撥油性が達成できる点で、フッ素化、より好ましくはパーフロロ化された炭素数1〜200の基を含む。

(R及びRは、夫々、互いに独立に、フッ素置換されていてよい、炭素数1〜200のアルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、及びアリール基から選ばれる基であり、nは0〜50の整数である)]
【0019】
の例としては下記式が挙げられる。













【0020】
式(1)中、Qは、互いに独立に、炭素数2〜12の2価の有機基であり、RfとW、RfとWとの連結基である。酸素原子、窒素原子及びフッ素原子を含んでいてよい。例えば、アミド、エーテル、エステル、ビニル結合を含む、下記の基が挙げられる。なお、Wがアルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、アリール基である場合には、Qとの区別が必ずしも明確でなくなり、例えばWの末端がQを兼ねていてもよい。
【化5】

【0021】
(2)式で示される基は、分子内に少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ存在し、多くとも20、好ましくは10個以下である。


式(2)において、Xは加水分解性基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である。
【0022】
式(2)中、Xはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。Xの例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のオキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0023】
の例としては、メチル基、エチル基、フェニル基が挙げられ、中でもメチル基が好適である。aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から、3が好ましい。yは2以上であり、基材への密着性と表面特性との両立から2〜5が好ましい。
【0024】
(1)式において、pは1〜20の整数であり、要求される性能に合わせてpを選択することが好ましい。例えば、滑り性の点ではpは小さい方がよく、耐久性の点ではpは大きい方がよい。恒常的に拭取り作業が必要となる携帯電話、タッチパネル、メガネレンズ等の用途には、1〜5が好ましく、より好ましくは1または2である。電子機器のディスプレイ、テレビ、屋外の大型ディスプレイ等の用途には、3〜10が好ましい。
【0025】
本発明のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマーは、Wの両末端に反応性の基、例えばSiH結合、を有するオルガノシロキサンと、Rfの両末端に不飽和基を有するフッ素化合物とを、1:2の比で、定法に従い付加反応触媒、例えば白金触媒、の存在下で付加反応に付した後、Rfの残りの不飽和基に、Wを含む化合物を付加反応させて作ることができる。或いは、予めRf−Q−Wの構造を作っておいた後に、Wを含むオルガノシロキサンと反応させてもよい。
【0026】
本発明は、上記パーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー及び/又はその部分加水分解縮合物を主成分とする表面処理剤組成物をも提供する。該表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機チタン化合物(テトラn-ブチルチタネートなど)、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、カルボン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよく、フッ素で置換されていると溶解性の点でなお好ましい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、パーフロロカルボン酸などが望ましい。添加量は触媒量であり、通常シラン及び/又はその部分加水分解縮合物100重量部に対して0.01〜5重量部、特に0.1〜1重量部である。
【0027】
また、本発明の表面処理剤は、適当な溶剤で希釈して用いてもよい。このような溶媒としては、フッ素化脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素化芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなど)、フッ素化エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素化アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素化溶剤が望ましく、特には、m−キシレンヘキサフロライド、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミン及びこれらの混合物が好ましい。
【0028】
表面処理剤中、式(1)のシラン及び/又はその部分加水分解縮合物の濃度は、0.01〜50重量%、特に0.05〜20重量%であることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の表面処理剤は、必要に応じて、他の表面処理剤やシランカップリング剤と混合して用いてもよく、ハードコート剤、反射防止コート剤、防眩コート剤等の各種機能性コーティング剤に添加して用いても良い。
【0030】
このように溶媒に希釈した表面処理剤の処理方法としては、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、スピンコート、蒸着処理など公知の方法で処理できる。また、処理温度は処理方法によって最適な温度は異なるが、例えば刷毛塗りやディッピングの場合は、室温から120℃の範囲が望ましい。処理湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。
【0031】
なお、使用するシラン化合物や他の添加剤によって処理条件は異なるため、その都度最適化することが望ましい。
【0032】
上記表面処理剤で処理される基材は、特に制限されないが、基材としては、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、陶磁器、セラミックなど各種材質のものを用いることができる。これらの基材を、予めシランカップリング剤で処理したり、プライマーで処理したり、ハードコート処理や、反射防止処理等をほどこしてもよい。また、撥水撥油処理、防汚処理だけでなく、離型剤として、粘着テープ、樹脂成形用金型にも使用することができる。
【0033】
上記各種基材表面に形成される硬化皮膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1nm〜5μm、特に1〜100nmである。反射防止膜等に処理する際には、光学特性に影響を与えないため、10nm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の表面処理剤は、例えば下記のものに応用することができる。カーナビゲーション、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、保護フイルム、反射防止フイルム、など光学部材の指紋、皮脂付着防止コーティング;浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の撥水、防汚コーティング;自動車、電車、航空機などの窓ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング;外壁用建材の撥水、防汚コーティング;台所用建材の油汚れ防止用コーティング;電話ボックスの撥水、防汚及び貼り紙、落書き防止コーティング;美術品などの撥水性、指紋付着防止付与のコーティング;コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング;その他、塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性、分散性を改質、テープ、フィルムなどの潤滑性の向上等。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0036】
実施例において使用した試験方法は、以下のとおりである。
[撥水撥油性の評価方法]
接触角計(協和界面科学社製DropMaster)を用いて、硬化皮膜の水接触角及びオレイン酸に対する接触角を測定した。
【0037】
[動摩擦係数]
ベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を、新東科学社製の表面性試験機を用いて下記条件で、測定した。
接触面積:35mm x 35mm
荷重:200g
【0038】
[滑り性の評価方法]
7人のパネラーにより、親指と基材との間にベンコット(旭化成社製)をはさみ、硬化被膜の表面を擦った際の感触を、下記評価基準により評価した。
A :特に滑り性が良い。
B :滑り性が良い。
C :普通。
D :滑り難い。
【0039】
[皮脂汚れ拭取り性の評価方法]
7人のパネラーにより、額の皮脂を指で硬化皮膜の表面に転写し、ベンコット(旭化成社製)で拭取りした際の拭取り性を、下記評価基準により評価した。
A :汚れを簡単に拭取れる。
B :汚れを拭取れる。
C :汚れを拭取り後に少し油が残る。
D :汚れを拭取れない。
【0040】
[耐摩耗試験]
新東科学社製往復摩耗試験機HEIDON 30Sを用いて、以下の条件で硬化被膜の耐摩耗試験を実施した。
評価環境条件:25℃、湿度40%
擦り材:試料と接触するテスターの先端部(20mm x 30mm)に不織布を8枚重ねて包み、輪ゴムで固定した。
荷重:1kg
擦り距離(片道):40mm
擦り速度:4,800mm/min
往復回数:10,000往復
【0041】
[合成例1]
下記式
【化6】


(p/q=0.9 p+qの合計の平均=45)
で示される両末端に不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル1,100gと、
下記式(II)で示される両末端にSiH基を有するシロキサン56gと、

m−キシレンヘキサフロライド1,320g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.35g(Pt単体とし9x10−8モルを含有)を入れて90℃に加熱し、3時間撹拌した。その後、溶剤を減圧溜去し、淡黄色透明の液体パーフルオロポリエーテル(化合物1)1,100gを得た。
【0042】
化合物1のH−NMRスペクトルを図1に、そのケミカルシフトを以下に示す。

H−NMR (TMS基準、ppm)


【0043】
以上の結果から、得られた化合物1の主成分の構造は、下記式で表されるものであることがわかった。

(p/q=0.9 p+qの合計の平均=45)
【0044】
[合成例2]
化合物1を50gと、ペンタメチルジシロキサン1.9gとm−キシレンヘキサフロライド100gを混合攪拌し、90℃に加熱後、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.18g(Pt単体とし4.5x10−8モルを含有)を入れて90℃で、3時間撹拌した。その後、溶剤と未反応シロキサンを減圧溜去し、淡黄色透明の液体パーフルオロポリエーテル(化合物2)48gを得た。
【0045】
化合物2のH−NMRチャートを図2に、そのケミカルシフトを以下に示す。
H−NMR (TMS基準、ppm)

【0046】
以上の結果から、得られた化合物2は、下記構造式で表されることが分った。


(p/q=0.9 p+qの合計の平均=45)

【0047】
[合成例3]
化合物1を50gと、下記式(III)で示されるフッ素含有シロキサン8.3gとm−キシレンヘキサフロライド100gを混合攪拌し、90℃に加熱後、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.18g(Pt単体とし4.5x10−8モルを含有)を入れて90℃で、3時間撹拌した。その後、溶剤と未反応シロキサンを減圧溜去し、淡黄色透明の液体パーフルオロポリエーテル(化合物3)52gを得た。



【0048】
化合物3の1H NMRチャートを図3に、そのケミカルシフトを以下に示す。
H NMR(TMS基準、ppm)

【0049】
以上の結果から、得られた化合物3は、下記式で表されることが分った。

(p/q=0.9 p+qの合計の平均=45)

であることがわかった。
【0050】
[実施例1]
20gの化合物1をm−キシレンヘキサフロライド80gに溶解させた溶液0.5gを、直径5mm、高さ3mmの円筒形状の多孔質セラミックペレットに含浸させ、次いで70℃で一時間乾燥させた。このペレットを抵抗加熱体であるモリブデンボード上に乗せ、真空蒸着機(佐藤真空社製HSV−3−3G)内に装着した。別途、スライドガラス6枚を前記真空蒸着機内に装着した。次に、真空蒸着機内の圧力が5x10−3Torr以下の真空になるように排気した後、前記リブデンボードを500℃以上に加熱し、スライドガラス上に化合物1を真空蒸着した。得られたスライドガラスを、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間放置した後、3枚は直ちに、また、残りの3枚は上記磨耗試験を行なった後に、上記各評価を行った。
【0051】
[実施例2]
合成された化合物2を用いて、実施例1と同様の方法で評価した。
【0052】
[実施例3]
合成された化合物3を用いて、実施例1と同様の方法で評価した。
【0053】
[比較例1〜7、参考例1]
実施例で用いた化合物1〜3のパーフルオロ変性シランのかわりに、下記化合物4〜11を用いた他は実施例と同様の方法で評価した。
【0054】
化合物4
【化7】



(p/q=0.9 p+qの合計の平均=45)
【0055】
化合物5
【化8】



(p/q=0.9 p+qの合計の平均=45)
【0056】
化合物6

【0057】
化合物7

【0058】
化合物8

【0059】
化合物9

【0060】
化合物10


(p/q=0.9 p+qの合計の平均=45)
【0061】
ここでXは、下記(c)と(d)が57:43の割合で混在する。



【0062】
化合物11


【0063】
被膜を調製した直後の評価結果を表1に、磨耗試験に付した後の評価結果を表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1、2に示すように、実施例の被膜は、いずれも、摩耗試験後においても、動摩擦係数が低く、表面滑り性が良く、汚れ拭取り性も優れていた。
比較例1は、末端の加水分解性基の数が多いため、接触角の耐久性は優れているが、表面滑り性が悪かった。式(d)で表される末端を有する化合物を含む比較例7、参考例1も同様であった。
比較例2(化合物5)は、末端にしかシロキサン部を有さず、また、比較例3(化合物6)もシロキサン部分が短いため、耐摩耗性が悪かった。
比較例4(化合物6)及び5(化合物7)は、ポリジメチルシロキサン基を有するために、滑り性は優れるものの、両末端が基材と結合しているために、実施例よりは滑り性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマーは、表面滑り性、汚れ拭取り性に優れ、日常的に汚れ拭取り作業をしてもそれらの性能の低下が小さい被膜を与えることができる。そのため、携帯電話、PDA、携帯音楽プレーヤー、カーナビ、ATM、メガネレンズ等、従来、滑り性、汚れ拭取り性が問題となっていた製品に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】化合物1のNMRチャートである。
【図2】化合物2のNMRチャートである。
【図3】化合物3のNMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。


[式中、Rfはパーフルオロポリオキシアルキレン基を含む基、Wは下記式(2)で表される基を少なくとも1つ有する2価のオルガノシロキサン残基、Wはフッ素置換されていてよい、炭素数1〜300の、アルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、アリール基、下記式(3)で表されるオルガノシロキサン残基、及び、これらの組合せから選ばれる1価の基、Qは互いに独立に、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の2価の連結基、及びpは1〜20の整数である

(Xは加水分解性基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)


(R及びRは、夫々、互いに独立に、フッ素置換されていてよい、炭素数1〜200のアルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、及びアリール基から選ばれる基であり、nは0〜50の整数である)]
【請求項2】
式(1)において、Rfが下記式

−(C2cO)

(式中、繰り返し単位のcは、繰返し単位間で互いに独立に1〜6の整数であり、dは2〜100の整数である)
で示される2価のパーフルオロオキシアルキレン基を含む基であることを特徴とする請求項1記載のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。
【請求項3】
式(1)において、Rfが下記一般式(4)、(5)、(6)または(7)で示される基から選ばれることを特徴とする請求項1又は2記載のパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー。

(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF基、eは1〜3の整数、gは2〜6の整数、f、iはそれぞれ0〜100の整数、但しf+iは2〜100であり、hは0〜6の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムである。)

(式中、jは1〜100の整数、eは1〜3の整数である。)


(式中、YはF又はCF基、eは1〜3の整数、k、lはそれぞれ0〜100の整数、但しk+lは2〜100であり、各繰り返し単位の配列はランダムである。)


(式中、mは0〜50の整数、nは1〜50の整数、但しm+nは2〜60の整数である。)
【請求項4】
が、下記一般式(A)又は(B)で表される基である、請求項1〜3のいずれか1項記載のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。

(R、y、a、Xは上記のとおりであり、Rは、互いに独立に、水素原子又は1価の炭化水素基であり、nは4〜42の整数、kは1〜5の整数、mは3〜5の整数である。)
【請求項5】
式(2)において、Xがアルコキシ基であり、Wが下記式(8)または(10−1)で表される、請求項1〜4のいずれか1項記載のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。


【請求項6】
Xがアルコキシ基であり、Wが式(3)で表されるオルガノシロキサン残基であり、該式(3)におけるR及びRが炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、nが1である、請求項1〜5のいずれか1項記載のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。
【請求項7】
式(2)において、Xがアルコキシ基であり、Wがアルキレン基である、請求項1〜5のいずれか1項記載のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。
【請求項8】
式(2)において、Xがアルコキシ基であり、Wが式(3)で表されるオルガノシロキサン残基であり、該式(3)におけるRの少なくも1つがパーフルオロオキシアルキルオキシアルキレン基である、請求項1〜5のいずれか1項記載のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。
【請求項9】
式(1)において、Qが、アミド、エーテル、エステル、ビニル結合を含む基であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のパーフルオロポリオキシアルキレン基含有ポリマー。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載のパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー及び/又はその部分加水分解縮合物を含む表面処理剤組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項記載のパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー及び/又はその部分加水分解縮合物の硬化被膜を表面に有する物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−31184(P2010−31184A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196812(P2008−196812)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】