説明

パーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体及びそれを含む表面処理剤

【課題】溶剤への溶解性及び硬化性に優れ、基材への密着性が高く、透明且つ、滑らかな表面を形成する表面処理剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表され、数平均分子量(ポリスチレン換算)が2,000〜20,000であるパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体。

W2−Q−Rf−Q−(W1−Q−Rf−Q)−W2 (1)

[式中、Rfはパーフルオロポリエーテルブロック、W1は下記式(2)で表される基を少なくとも1つ有するポリオルガノシロキサンブロック、Qは酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の2価の連結基、W2は下記式(2)で表される基を1つ有する1価のオルガノシロキサン残基であり、gは1〜11の整数である


(Xは加水分解性基であり、R1は炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油性の被膜を形成するための、パーフルオロポリエーテルブロックを有する重合体に関し、詳細には、加水分解性基を有するポリオルガノシロキサン部分を分子鎖の両末端及び両末端以外の少なくとも1箇所に備え、基材への接着性、硬化性及び塗工性に優れた重合体及び該重合体を含む表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいため、耐薬品性、潤滑性、離型性、撥水撥油性などを有する。その性質を利用して、工業的には、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、紙・繊維・ガラス・樹脂などの撥水撥油防汚剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。
【0003】
しかし、その性質は同時に他の基材に対する非粘着性、非密着性があることを示しており、基材表面に塗布するだけでは、被膜を形成し、基材に密着させることが難しい。
【0004】
一方、ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させるものとしては、シランカップリング剤が良く知られている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基)を有する。アルコキシシリル基は、空気中の水分などによって加水分解し、自己縮合反応をおこしてシロキサンとなり被膜を形成する。それと同時に、ガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することによって、耐久性を有する強固な被膜となる。シランカップリング剤はこの性質を利用して各種基材表面のコーティング剤として幅広く利用されている。
【0005】
これらの両方の特徴を活かしたものとして、下記式で示されるパーフルオロポリエーテル変性アミノシランを防汚層に用いた反射防止膜が知られている(特許文献1、2)。


(式中、X3は加水分解性基、R5は低級アルキル基、R6は水素原子又は低級アルキル基、Q2はCH2CH2CH2又はCH2CH2NHCH2CH2CH2、eは6〜50の整数、fは2又は3、c及びdはそれぞれ1〜3の整数。)
しかし、この反射防止膜は硬化までに時間を要することや、基材への密着性の点などの問題点を有する。
【0006】
また、下記式で示されるパーフルオロポリエーテル基含有シランカップリング剤は両末端に加水分解性基を2または3個有し、基材との密着性に優れ、汚れにくく、その汚れを拭き取り易く、表面の滑り性が良好で傷付きにくく、それらの性能を持続する被膜を与えるとされている(特許文献3)。


(式中、Rfは二価の直鎖型パーフルオロポリエーテル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基、Xは加水分解性基、pは0〜2、qは1〜5の整数、aは2又は3である。)しかし、硬化膜の透明性が悪い。
【0007】
さらに、片末端、又は両末端に比較的大きなオルガノポリシロキサン部分を備え、耐擦傷性に優れた、パーフロロポリーエーテル基を有するオルガノポリシロキサンが知られている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平11−29585号公報
【特許文献2】特開2000−143991号公報
【特許文献3】特開2003−238577号公報
【特許文献4】特開2007−197425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記各表面処理剤は、極性部、例えばシラン部分、同士が凝集しやすく、塗り斑、さらには、被膜に不透明もしくは白濁部を生じる場合がある。反射防止膜や透明基材上表面にこれを塗布して処理すると、光学特性に悪影響を及ぼすことがあり得る。また、金型離型剤やインプリント離型剤としてこれらを用いた場合、転写パターンの微細化が進むにつれて離型層の凹凸が問題となる可能性がある。
【0009】
本発明者らは、上記各表面処理剤を溶解することができる溶剤の種類が限定されること、及び、表面の滑り性を向上するために、分子主鎖中にオルガノシロキサンブロックを備えた共重合体を開発した(特願2007−215233)。該共重合体を用いて処理した表面は、滑り性及び透明性に優れる。しかし、硬化性及び基材への密着性の点で、改良の余地あることが見出された。そこで、本発明はこれらの点を改良することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、種々検討した結果、極性基が末端部分のみに存在することが、凝集を起こし易くし、また、硬化性を低くしている原因であることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は下記のものである。
下記式(1)で表され、数平均分子量(ポリスチレン換算)が2,000〜20,000であるパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体。

W2−Q−Rf−Q−(W1−Q−Rf−Q)−W2 (1)

[式中、Rfはパーフルオロポリエーテルブロック、W1は下記式(2)で表される基を少なくとも1つ有するポリオルガノシロキサンブロック、Qは酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の2価の連結基、W2は下記式(2)で表される基を1つ有する1価のオルガノシロキサン残基であり、gは1〜11の整数である

(Xは加水分解性基であり、R1は炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)]
【発明の効果】
【0012】
本発明の共重合体は、分子の両末端以外にも加水分解性基を有しているため、凝集を起こし難く、透明度の高い被膜を与える。また、常温または加熱により、従来のものよりも速やかに硬化し且つ基材に強固に密着した、撥水・撥油性、潤滑性、離型性、さらには耐摩耗性を備えた被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の共重合体は、下記式(1)で表されるパーフルオロポリエーテルブロック(Rf)と、ポリオルガノシロキサンブロック(W1)が、交互に存在する。

W2−Q−Rf−Q−(W1−Q−Rf−Q)−W2 (1)

W2に加えて、W1も加水分解性基を備えるので、基材への密着性が高い。
【0014】
式(1)中、gは1〜11、好ましくは、gは1〜3の整数である。式(1)において、g=1である下記式(1−1)のもの、

W2−Q−Rf−Q−W1−Q−Rf−Q−W2 (1−1)

g=2である下記式(1−2)のもの、

W2−Q−Rf−Q−W1−Q−Rf−Q−W1−Q−Rf−Q−W2 (1−2)

がより好ましい。
【0015】
該共重合体は、数平均分子量(ポリスチレン換算)が2000〜20000、好ましくは3000〜15000、より好ましくは4000〜10000である。分子量が前記下限値未満では、被膜の撥水撥油性、離型性が十分ではなく、前記上限値を超えては密着性が悪くなる。
【0016】
好ましくは、分子中のケイ素量が分子重量の1〜30wt%である。ケイ素含有量が前記下限値未満の共重合体は、溶解性に劣り、表面処理の際の取り扱い性が悪い傾向がある。一方、ケイ素含有量が前記上限値を超える共重合体は、撥水撥油性が不足する傾向がある。該ケイ素量は、NMRスペクトル、蛍光X線、X線光電子スペクトル分析等により求めることができる。
【0017】
オルガノシロキサンブロック(W1)及び末端のオルガノシロキサン残基(W1)は、下記式(2)で表される基を有する。


式(2)中、Xは加水分解性基を表し、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のオキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられる。中でも炭素数1〜10のアルコキシ基、特にメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、及び、クロル基が好適である。Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基で、中でもメチル基が好適である。aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から、3が好ましい。yは、1〜5、好ましくは2〜4、の整数である。
【0018】
該加水分解基は、両末端及び分子内の少なくとも3つ、好ましくは少なくとも4つ、存在し、多くとも24、好ましくは12個以下である。なお、オルガノシロキサンブロック(W1)及び末端のオルガノシロキサン残基(W1)における式(2)の基は、互いに異なっていてよい。
【0019】
上記式(2)の基を少なくとも1つ有するポリオルガノシロキサンブロック(W1)としては、例えば、下記一般式(A)又は(B)で表される基が挙げられる。


式中Rは、互いに独立に、水素原子又は1価の炭化水素基であり、R、y、及びaについては式(2)で表される基に関して説明したとおりである。nは4〜42、好ましくは4〜12の整数であり、mは3〜5の整数、kは1〜5の整数である。Rとしては、アルキル基、特にメチル基が好ましい。
【0020】
式(A)又は(B)で表される基の例として、下記式(7)〜(9)で表される基を挙げることができる。式(7)のものは、式(A)において、Rがメトキシ基、Rがメチル基、n=4、k=1であり、(8)はk=2ものである。式(9)のものは、式(B)において、m=4、k=2である。







【0021】
式(2)の基を一つ有する分子末端のオルガノシロキサン残基(W2)としては、下記一般式(C)で表される基が例示される。

は、水素原子又は1価の炭化水素基であり、好ましくはメチル基である。zは、1〜12、好ましくは2〜5の整数であり、R、y、及びaについては式(2)で表される加水分解性の基に関して説明したとおりである。式(2)の基は、W2の末端に存在することが好ましく、例えば下記式(10)で表される基が好ましい。


【0022】
パーフルオロポリエーテルブロック(Rf)は、下記一般式で表される繰返し単位が複数結合されたブロックである。

−C2jO−

ここで、jは1以上、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4の整数である。
【0023】
上記式で示される繰り返し単位−Cj2jO−は直鎖型、分岐型であってよく、例えば下記の単位等が挙げられる。
−CFO−
−CFCFO−
−CFCFCFO−
−CF(CF)CFO−
−CFCFCFCFO−
−CFCFCFCFCFCFO−
−C(CFO−
【0024】
パーフルオロポリエーテルブロックは、これらの繰り返し単位の2種以上が結合されたものであってもよい。好ましくは、該ブロックは下記一般式(3)、(4)、又は(5)で示される。


(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF基、rは2〜6の整数、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数、但しm+n=2〜200、sは0〜6の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい)


(式中、lは1〜200の整数、dは1〜3の整数である。)

(式中、YはF又はCF基、dは1〜3の整数、及びm、nはそれぞれ0〜200の整数、但しm+nは2〜200であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
【0025】
より好ましくは、上記各式中の繰り返し単位の合計が1〜60、最も好ましくは10〜50である。式(5)において、d=1、YがFである下記のブロックが、動摩擦係数の点で特に好ましく、汚れ拭き取り時の感触に優れる。
−CF(OC(OCFOCF− (6)
(式中、m=0〜50、n=1〜50、及びm+n=2〜60の整数である。)
【0026】
上記式(1)中、Qは、アミド、エーテル、エステル結合等の酸素原子及び/または窒素原子を含んでいてよい、炭素数2〜12の2価の基である。オルガノシロキサン部分とパーフルオロエーテル部分を連結することができればよく、例えば、下記の基が挙げられる。
【0027】




共重合体の調製が容易である点で、−CHOCHCHCH−が好ましい。
【0028】
本発明の重合体は、以下に述べる方法で作ることができる。
先ず、下記式で表される不飽和基を有する化合物を、

(R、X、a、yについては上述のとおりであり、zは2y−1である)
W1を誘導するための、少なくとも3つのSiH結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと定法に従い付加反応触媒、例えば白金触媒、の存在下で付加反応させて、W1を誘導するための加水分解性基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンW1’を用意する。同様に、上記化合物を、W2を誘導するための、少なくとも2つのSiH結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加反応させて、加水分解性基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンW2’を用意する。
【0029】
次いで、オルガノハイドロジェンシロキサンW1’の残存するSiH結合を、Rfの両側に不飽和基を有する基Q’を備えた化合物に、白金触媒の存在下で付加反応させる。

2(Q’RfQ’) + HW1’H → Q’RfQW1QRfQ’

(上式において、Rfは上記パーフルオロポリエーテルブロックであり、及びQ’は、例えば下記で示す不飽和基を含む基である。)

【0030】
最後に、両末端のRfQ’の不飽和基に、W2’を付加反応させる。これにより式(1−1)で表される共重合体を得ることができる。

W2−Q−Rf−Q−W1−Q−Rf−Q−W2 (1−1)
【0031】
本発明は、上記パーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサン共重合体及び/又はその部分加水分解縮合物(以下「共重合体」と略する)を含む表面処理剤にも関する。該表面処理剤は、各種基材に施与されて、室温または加熱下ですばやく硬化して、撥水撥油性、離型性、耐摩耗性に優れた無色透明な被膜を形成する。該表面処理剤は、該重合体の加水分解物、さらには該加水分解物が縮合した縮合物、及び任意成分として、シランカップリング剤を含んでよい。
【0032】
該表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、パーフルオロカルボン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫などが望ましい。添加量は触媒量であり、通常、共重合体100重量部に対して0.01〜5重量部、特に0.1〜1重量部である。
【0033】
該表面処理剤は、適当な溶剤を含んでよい。このような溶媒としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特には、m−キシレンヘキサフロライド、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミン、エチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
【0034】
上記溶媒はその2種以上の混合物であってもよく、該共重合体及び/又はその部分分解縮合物を均一に溶解させることが好ましい。なお、共重合体の濃度は処理方法により最適濃度は異なるが、0.01〜50重量%、特に0.05〜20重量%であることが好ましい。
【0035】
表面処理剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与することができる。また、処理温度は、処理方法によって異なるが、例えば刷毛塗りやディッピングで施与した場合は、室温から120℃の範囲が望ましい。処理湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。また、硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1nm〜5μm、特に1〜100nmである。
【0036】
上記表面処理剤で処理される基材は、特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、合成石英など各種材質のものであってよく、これらに撥水撥油性、離型性、汚れ拭き取り性を付与することができる。
【0037】
本発明の表面処理剤で処理される物品及び処理目的としては、例えば、眼鏡レンズ、反射防止フィルター、ハードコート処理フイルムなど光学部材の指紋、皮脂付着防止コーティング;浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の撥水、防汚コーティング;自動車、電車、航空機などの窓ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング;外壁用建材の撥水、防汚コーティング;台所用建材の油汚れ防止用コーティング;コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング;その他、塗料添加剤、樹脂改質剤、ナノインプリント用離型剤、金型離型剤、無機質充填剤の流動性、分散性を改質、テープ、フィルムなどの潤滑性の向上などが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
反応容器に、下記式(I)で示される両末端にα−不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル200gと、
【0040】
【化1】


(p/q=0.9、p+qの平均が45、以下「p+q=45」と表す。)
下記式(II)で示される両末端にSiH基を有するシロキサン10.2gと、
【0041】
【化2】


m−キシレンヘキサフロライド400gを入れて90℃に加熱撹拌した。得られた混合物に、触媒(ビニルシロキサン変性塩化白金酸)のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10-7モルを含有)を滴下して90℃で4時間熟成した。次いで、下記式(III)に示すテトラメチルジシロキサン(HM)とビニルトリメトキシシラン(VMS)との1:1付加反応物(HM−VMS)16.7gを滴下して90℃で2時間熟成した後、溶剤及び未反応のHM−VMSを減圧溜去した後、微白濁の液状生成物(「共重合体1」とする)210.7gを得た。
なお上記HM−VMSは、下記の方法で調製した。
反応容器に、テトラメチルジシロキサン(HM)400gとトルエン400gとを混合し、80℃に加熱した。ビニルトリメトキシシラン(VMS)442gと塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液20g(Pt単体として1.1×10-6モルを含有)の混合物をゆっくりと滴下した。得られた混合物を、蒸留精製し、1:1付加反応物(HM−VMS)84gを得た。
【0042】
【化3】

【0043】
得られた共重合体1の1H−NMRスペクトルを図1に、ケミカルシフト(TMS基準、ppm)のデータを以下に示す。
【0044】
【化4】

【0045】
以上の結果から、共重合体1は下記式で表される構造を有することが分かった。また、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量は9000であった。
【0046】
【化5】

上式において、Qのメチレン基側にRfが結合されている(以下同様)。
【0047】
[実施例2]
実施例1で使用した式(I)のパーフロロポリエーテルに代えて、式(I)においてp/q=0.9、p+qの平均が23であるものを用いた以外は同様の方法で、液状生成物(以下「共重合体2」とする)を合成した。
【0048】
共重合体2の1H−NMRスペクトルを図2に及びそのケミカルシフト(TMS基準、ppm)のデータを以下に示す。
【0049】
【化6】

【0050】
以上の結果から、下記式で表される反応生成物(共重合体2)が得られたことが分かった。また、GPCにより測定した数平均分子量は5000であった。
【0051】
【化7】

【0052】
[比較例1〜4、参考例1]
比較または参考化合物として、下記のものを用いた他は、実施例と同様の方法で表面処理剤を作り、同様に評価した。
【0053】
比較化合物1


(p/q=0.9 p+q=45)
【0054】
比較化合物2




(p/q=0.9 p+q=45)
【0055】
比較化合物3



(p/q=0.9 p+q=23)

比較化合物4



参考化合物1



(p/q=0.9 p+q=45)
【0056】
表面処理剤組成物の調製
共重合体1、2及び各化合物を、夫々、エチルパーフルオロブチルエーテル(HFE−7200、住友3M社製)に溶解して、0.3wt%溶液を調製した。
【0057】
硬化被膜の形成
スライドガラスを各表面処理剤に10秒間浸漬後、150mm/minの速度で引き上げ、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間放置し、硬化被膜を形成させた。得られた硬化被膜につき、下記評価を行なった。なお、硬化性の評価用には、24時間ではなく、10分間だけ放置した後の被膜を用いた。
【0058】
撥水撥油性の評価
接触角計(協和界面科学社製)を用いて、硬化皮膜の水及びオレイン酸に対する接触角を測定し、撥水撥油性を評価した。
【0059】
離型性の評価
硬化皮膜表面にニットーNo.31B(幅19mm;日東電工社製)を貼り、20g/cm2荷重、25℃、24時間エージングした後、引張り試験機を用いて180°の角度、剥離速度300mm/minで、剥離に要する力(N)を測定した。
【0060】
被膜の耐久性の評価
ラビングテスターを用いて、以下の条件で硬化被膜を擦った後、水接触角を評価した。評価環境条件:25℃、湿度40%、擦り材:試料と接触するテスターの先端部(1.5cm×1.5cm)に不織布を8枚重ねて包み、輪ゴムで固定した。荷重を2kgかけ、10,000往復回摩耗した。
【0061】
硬化性の評価
塗工後、25℃、湿度40%の雰囲気下で10分間硬化により得られた被膜の水接触角を測定した。
【0062】
被膜の透明性の評価
被膜が無色透明であるか目視により観察した。表において、「A」は無色透明であることを、「B」は、光を当てる角度を変化させると濁りを感じることを、「C」は明らかに白濁していることを示す。
【0063】
評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、いずれの処理剤も、24時間硬化後の撥水撥油性は、水接触角が100°以上、オレイン酸接触角が60°以上であった。硬化性は10分間硬化後の被膜の水接触角であるが、これが24時間硬化後のものと同程度であったのは、実施例1、2だけであり、比較例、参考例はいずれも硬化が遅かった。
又、耐久性試験において、実施例1,2の被膜は、擦られる前の撥水性を維持したが、比較例1、3、4は顕著に低下し、耐久性に劣った。
さらに、実施例はいずれも透明性の高い被膜を与えたが、比較例1〜3は処理剤中で凝集を起こし、被膜の透明性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサン共重合体は、基材表面に強固に接着され、透明性、撥水撥油性、離型性、耐摩耗性に優れた被膜を短時間で与える表面処理剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】共重合体1のNMRチャートである。
【図2】共重合体2のNMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、数平均分子量(ポリスチレン換算)が2,000〜20,000であるパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体。

W2−Q−Rf−Q−(W1−Q−Rf−Q)−W2 (1)

[式中、Rfはパーフルオロポリエーテルブロック、W1は下記式(2)で表される基を少なくとも1つ有するポリオルガノシロキサンブロック、Qは酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の2価の連結基、W2は下記式(2)で表される基を1つ有する1価のオルガノシロキサン残基であり、gは1〜11の整数である

(Xは加水分解性基であり、R1は炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)]
【請求項2】
式(2)において、Xが炭素数1〜10のアルコキシ基である請求項1記載のパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体。
【請求項3】
式(2)において、Xがメトキシ基であり、ポリオルガノシロキサンブロック(W1)が下記式(7)で表される、請求項1または2記載のパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体。

【請求項4】
式(1)において、g=1または2である請求項1〜3のいずれか1項記載のパーフルオロポリエーテル含有重合体。
【請求項5】
前記パーフルオロポリエーテルブロック(Rf)が、下記式(3)、(4)、又は(5)で表される、請求項1〜4のいずれか1項記載のパーフルオロポリエーテル−ポリシロキサン共重合体。

(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF基であり、rは2〜6の整数、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数、但しm+nは2〜200、及びsは0〜6の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい)


(式中、lは1〜200の整数、dは1〜3の整数である)



(式中、YはF又はCF基、dは1〜3の整数、及びm、nはそれぞれ0〜200の整数、但しm+nは2〜200であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
【請求項6】
前記パーフルオロポリエーテルブロックが下記式(6)で示される請求項5記載のパーフルオロポリエーテル含有重合体。

−CF(OC(OCFOCF− (6)

(式中、mは0〜50の整数、nは1〜50の整数、但しm+nは2〜60の整数である。)
【請求項7】
式(2)において、Xがメトキシ基であり、前記オルガノシロキサン残基(W2)が下記式(10)で表される、請求項2〜6のいずれか1項記載のパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体。


(Meはメチル基を表す)
【請求項8】
Qが、アミド結合、エーテル結合、及びエステル結合からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する炭素数2〜12の基である、請求項1〜7のいずれか1項記載のパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のパーフルオロポリエーテル−ポリオルガノシロキサンブロック共重合体及び/又はその部分加水分解縮合物を含む表面処理剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−132826(P2009−132826A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311075(P2007−311075)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】