説明

ヒトにおけるケトコナゾールエナンチオマー

該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー、またはその医薬的許容される塩、水和物、および溶媒和物による患者の治療は、全身性炎症およびコレステロール値を低下しおよび血糖コントロールを改善するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第60/848,963号(2006年10月2日)の優先権を主張し、その全ての内容は参照することにより本明細書に含まれる。
【0002】
本発明の分野
本発明は糖尿病および他の症状を治療するためのケトコナゾールのエナンチオマーの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
ケトコナゾール、1-アセチル-4-[4-[[2-(2,4-ジクロロフェニル)-2-[(1H-イミダゾール-1-イル)-メチル]-1,3-ジオキソラン-4-イル]メトキシ]フェニル]ピペラジンは、シスエナンチオマー(-)-(2S,4R)および(+)-(2R,4S)のラセミ混合物である。ラセミのケトコナゾールは、真菌感染症の治療のための承認薬(NIZORAL登録商標)である。
【0004】
最近では、ケトコナゾールは血漿コルチゾールを下げることが認められ、単独で、および他の薬物と組み合わせて、さまざまな疾患および症状(2型糖尿病、メタボリックシンドローム(インスリン抵抗性症候群、ジスメタボリックシンドローム(Dysmetabolic Syndrome)またはシンドロームXとしても知られる)、および他の高コルチゾール値に関連する医学的状態を含む)の治療に有用であることが認められている。米国特許第5,584,790号; 第6,166,017号;および第6,642,236号(各々、参照することにより本明細書に含まれる)を参照。コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるストレス関連ホルモンである。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)は、コルチゾール分泌を増加する。ACTHは脳下垂体によって分泌され、視床下部からのコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)の分泌によって活性化されるプロセスである。
【0005】
ケトコナゾールがヒトのコレステロール値を下げることもまた(Sonino et al.(1991). “Ketoconazole treatment in Cushing’s syndrome: experience in 34 patients.” Clin Endocrinol(Oxf). 35(4): 347-52; Gylling et al.(1993)“Effects of ketoconazole on cholesterol precursors and low density lipoprotein kinetics in hypercholesterolemia.” J Lipid Res. 34(1): 59-67)各々、参照することにより本明細書に含まれる)に報告されている。該2S,4Rエナンチオマーは、もう一つの(2R,4S)エナンチオマーと比較して、コレステロール合成酵素14a-ラノステロールデメチラーゼに対してより活性である(Rotstein et al.(1992)"Stereoisomers of ketoconazole: preparation and biological activity." J Med Chem 35(15): 2818-2)。しかしながら、ヒト患者のコレステロール値は代謝速度および排泄速度、ならびに合成速度によって調節されるため、このことから、該ケトコナゾールの2S,4Rエナンチオマーが、ヒト患者のコレステロール値を下げるという点で、より有効であるかどうかを予測することは不可能である。
【0006】
治療法としてのケトコナゾールの使用は、該ケトコナゾールが薬物代謝に関与するP450酵素に影響することによって複雑となる。これらP450酵素のいくつかは、ケトコナゾールによって阻害される(Rotstein et al., supra)。この阻害は、ケトコナゾール自体(Brass et al., "Disposition of ketoconazole, an oral antifungal, in humans." Antimicrob Agents Chemother 1982; 21(1): 151-8, 参照することにより本明細書に含まれる)およびいくつかの他の重要な薬物、例えばグリベック(Dutreix et al., "Pharmacokinetic interaction between ketoconazole and imatinib mesylate(Glivec)in healthy subjects." Cancer Chemother Pharmacol 2004; 54(4): 290-4)およびメチルプレドニゾロン(Glynn et al., "Effects of ketoconazole on methylprednisolone pharmacokinetics and cortisol secretion." Clin Pharmacol Ther 1986; 39(6): 654-9)のクリアランスの変化をもたらす。結果として、患者へ投与された薬物の量が増加しないにもかかわらず、患者のケトコナゾールへの曝露は、繰り返し投与と共に増加する。この曝露および曝露の増加は測定することができ、”濃度曲線下面積”(AUC)を用いて、血漿中に認められる薬物濃度および測定を行った時間に基づいて示すことができる。最初の曝露後のケトコナゾールのAUCは、反復暴露後のケトコナゾールのAUCと比較して、有意に小さい。この薬物曝露の増加は、正確でかつ一貫性のある該薬物の患者への投与を得るのは難しいことを意味する。さらに、薬物曝露の増加は、ケトコナゾール使用に関連する有害な副作用の可能性を増大する。上記のとおり、ケトコナゾールは、薬物代謝に関与するいくつかのP450酵素を阻害し、この阻害により、ケトコナゾールと併用される薬物の高い血漿中値がもたらされ得る。この併用する薬物の該血漿中値の増加は、ケトコナゾールまたは該併用する薬物の最適使用を抑える可能性がある。
【0007】
Rotstein et al.(Rotstein et al., supra)は、薬物代謝に関与する主要なP450酵素に対する2つのケトコナゾールシスエナンチオマーの影響を調査し、そして、「…該ケトコナゾール異性体について、選択性はほとんど認められなかった。」そして「薬物代謝P450酵素に関して: 該シスエナンチオマーのIC50値は、ラセミ体ケトコナゾールに関して以前に報告されたものと同様であった」と報告した。この報告は、該両方のシスエナンチオマーは、ケトコナゾールラセミ体で認められたAUC問題に有意に寄与する可能性があることを示した。
【0008】
このAUC問題によって悪化させられたケトコナゾール投与の有害な副作用の一つは、肝臓の反応である。無症状の肝臓の反応を、血清中に認められる肝臓の特定の酵素の値の増加によって、測定することができる。これらの酵素の増加は、ケトコナゾール治療患者に示された(Sohn, ”Evaluation of ketoconazole.” Clin Pharm 1982; 1(3): 217-24, and Janssen and Symoens, ”Hepatic reactions during ketoconazole treatment.” Am J Med 1983; 74(1B): 80-5, 各々は、参照することにより本明細書に含まれる)。加えて 1:12,000患者がより重度の肝不全となるであろう(Smith and Henry, ”Ketoconazole: an orally effective antifungal agent. Mechanism of action, pharmacology, clinical efficacy and adverse effects.” Pharmacotherapy 1984; 4(4): 199-204, 参照することにより本明細書に含まれる)。上記のとおり、たとえ一日当たりに取った薬物の量は増加しなくても患者が曝露されるケトコナゾールの量は、繰り返し投与と共に増加する(「AUC問題」)。該AUCは、ウサギにおいて肝臓の損傷に相関し(Ma et al., ”Hepatotoxicity and toxicokinetics of ketoconazole in rabbits.” Acta Pharmacol Sin 2003; 24(8): 778-782 参照することにより本明細書に含まれる)、該薬物の曝露の増加は、ケトコナゾール治療患者において報告された肝臓の損傷の頻度を増加すると考えられる。
【0009】
加えて、米国特許第6,040,307号(参照することにより本明細書に含まれる)は、該2S,4Rエナンチオマーが真菌感染症の治療に有効であることを報告する。同特許出願はまた、摘出したモルモットの心臓に関する研究を報告し、それによると、ラセミ体ケトコナゾールの投与が不整脈のリスクの増加にいかに関連しうることが示されるが、その主張をサポートするデータは提供されていない。しかしながら、その特許に開示される通り、不整脈は、それまで全身性ラセミ体ケトコナゾールの副作用として報告されていなかったが、ラセミ体ケトコナゾールをテルフェナジンと同時に投与したときに、不整脈の特定のサブタイプである多形性心室頻拍が報告されている。さらに、いくつかの公表された文献(例えば、Morganroth et al.(1997). “Lack of effect of azelastine and ketoconazole coadministration on electrocardiographic parameters in healthy volunteers.” J Clin Pharmacol. 37(11): 1065-72)は、ケトコナゾールはQTc間隔を増加しないことを実証している。この間隔は、薬物が不整脈を引き起こす可能性があるかどうかを決定するための代替マーカーとして使用される。米国特許第6,040,307号はまた、該2S,4Rエナンチオマーに関連する肝毒性の減少にふれているが、その主張をサポートするデータは提供されていない。米国特許第6,040,307号に記載される方法は、該方法は凍結組織から分離されたミクロソームを使用するので、該肝毒性の評価はできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、ケトコナゾールと同様に有効ではあるが、薬物相互作用およびケトコナゾールの有害な副作用の問題を示さないかまたは示しても重大でない程度である、コルチゾールの値または活性の上昇に関連する、あるいはコルチゾールの値または活性を低下することによって治療されうる疾患および症状を治療するための新しい治療法の必要性が存在する。本発明は、これらのおよび他の必要性に適合する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の概要
1つの態様において、本発明は、3-ヒドロキシ3-メチルグルタリル補酵素A(HMG CoA)レダクターゼ阻害剤(スタチン)を、治療の必要がある患者に、治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的にまたは完全に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)(場合によっては単に「2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー」)と組み合わせて投与することに関する。下記のとおり、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーの併用は該HMG CoAレダクターゼ阻害剤の薬物動態プロファイルを変化し、該HMG CoAレダクターゼ活性のCmaxを低下する。これにより、単剤療法として該HMG CoAレダクターゼ阻害剤を投与する場合に予期される副作用を避けながら、患者に投与する該HMG CoAレダクターゼ阻害剤の用量の増加が可能となる。
【0012】
該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーと併用される該HMG CoAレダクターゼ阻害剤は、これらに制限されないが例えば、アトルバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、リバスタチン、イタバスタチン、またはロスバスタチンであり得る。1つの実施態様において、該HMG CoAレダクターゼ阻害剤がアトルバスタチンである。
【0013】
通常、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーを100mg〜600mgの1日量にて投与する。該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー/HMG CoAレダクターゼ阻害剤の併用療法を使用して治療される患者は、例えば、糖尿病患者、メタボリックシンドローム患者、または糖尿病と診断されなかった患者であり得る。
【0014】
別の態様において、本発明は治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーを、C-反応性タンパク(CRP)値の低下から利益を受けるであろう患者に投与することに関する。CRPは急性期タンパク質であり、高CRPは、全身性炎症の指標である。従って、CRP値を下げる薬剤は、全身性炎症を減少すると考えられる。従って、本発明は、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーを患者に投与することによって、その減少が必要である患者の全身性炎症を減少するための方法を提供する。2型糖尿病患者またはメタボリックシンドローム患者はまた一般的に、これらの患者の循環器疾患のリスクを増加する全身性炎症が増加している。現在の治療は、これらの患者の全身性炎症を治療するのに不十分である。
【0015】
CRP値はさまざまなアッセイで測定することができる。好ましくは、高感度C-反応性タンパク アッセイを使用する。1つの実施態様において、血漿CRP値が2.0mg/Lを超える患者は全身性炎症を示す高CRPであると見なされる。本発明の1つの実施態様において、該患者が、CRP値を下げるために(または該患者のCRP値を低い値に維持するために)、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーを用いて治療される。1つの実施態様において、血漿CRP値が3.0mg/Lを超える患者は、全身性炎症を示す高CRPであると見なされる。1つの実施態様において、血漿CRP値が4.0mg/Lを超える患者は、全身性炎症を示す高CRPであると見なされる。1つの実施態様において、血漿CRP値が5.0mg/Lを超える患者は、全身性炎症を示す高CRPであると見なされる。1つの実施態様において、血漿CRP値が10.0mg/Lを超える患者は、全身性炎症を示す高CRPであると見なされる。
【0016】
一つの例において、該方法は、(i)患者を糖尿病と確認または診断する、(ii)該患者を彼/彼女のCRP値を低下させる必要があると確認または診断する、および(iii)治療的に有効な用量の該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(例えば、100〜600mg/日を少なくとも14日間)を投与する;ことを含む。
【0017】
一つの例において、該方法は(i)患者が代謝性疾患であると確認または診断する、(ii)該患者のCRP値を低下させる必要があると確認または診断する、および(iii)治療的に有効な用量の該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(例えば、100〜600mg/日を少なくとも14日間)を投与する;ことを含む。
【0018】
一つの例において、該方法は、(i)該患者のCRP値を低下させる必要があると確認または診断する、および(ii)治療的に有効な用量の該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(例えば、100〜600mg/日を少なくとも14日間)を投与することを含む。該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー治療を用いて治療される患者は、例えば、糖尿病患者、メタボリックシンドローム患者、または糖尿病と診断されなかった患者であり得る。
【0019】
2型糖尿病患者またはメタボリックシンドローム患者はまた、総コレステロールおよびLDLコレステロールが高く、これらの高い脂質値はこれらの患者の循環器疾患のリスクを増加する。2型糖尿病患者は高血糖およびインスリン耐性を特徴とし、およびメタボリックシンドローム患者は下記のいくつかを特徴とする: インスリン耐性、空腹時の高血糖値、脂質異常症、高血圧、および中心性肥満。多くの2型糖尿病患者またはメタボリックシンドローム患者において、高い総コレステロール値および高いLDLコレステロール値の治療は不十分である。
【0020】
本発明は、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的にまたは完全に該2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を100mg〜600mgの1日量にて投与することによって、該治療過程で、コレステロール値が低下し、およびCRP値が低下し、ならびに血糖コントロールが改善する、2型糖尿病患者またはメタボリックシンドローム患者を治療するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ケトコナゾールエナンチオマー(DIO-902)の2週間投与のフルクトサミン値への影響を示す。
【0022】
【図2】ケトコナゾールエナンチオマー(DIO-902)の2週間投与のフルクトサミン値(薬物曝露に基づく(AUC tercile))に対する影響を示す。
【0023】
【図3】DIO-902の2週間コースを受けた対象がグルコースホメオスタシスが改善する傾向を示す。
【0024】
【図4】ケトコナゾールエナンチオマー(DIO-902)の2週間投与の総コレステロールおよびLDL-コレステロール値への影響(ベースラインと比較して変化(%)として示される)を示す。
【0025】
【図5】ケトコナゾールエナンチオマー(DIO-902)の2週間投与の総コレステロールおよびLDL-コレステロール値(血漿デシリットルあたりのコレステロール(mg)の変化として示される)への影響を示す。
【0026】
【図6】ケトコナゾールエナンチオマー(DIO-902)の2週間投与のCRP値への影響を示す。
【0027】
【図7】両薬物を受けた対象におけるDIO-902のアトルバスタチンの薬物動態学的レベルに対する影響を示す。
【0028】
本発明の詳細な説明
本発明は、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的にまたは完全に該2R,4Sエナンチオマーを含まない)を含む医薬組成物の治療的使用を提供する。該2R,4Sエナンチオマーを「実質的に含まない」とは、一つの実施態様において、該医薬組成物に含まれる該ケトコナゾールは、該2R,4Sエナンチオマーが2%未満であり、かつ該2S,4Rエナンチオマーが98%を超えることを意味する。別の実施態様において、「実質的に2R,4Sエナンチオマーを含まない」とは、該医薬組成物に含まれる該ケトコナゾールは、該2R,4Sエナンチオマーが10%未満であり、かつ該2S,4Rエナンチオマーが90%を超えることを意味する。別の実施態様において、「実質的に2R,4Sエナンチオマーを含まない」とは、該医薬組成物に含まれる該ケトコナゾールは、該2R,4Sエナンチオマーが20%未満であり、かつ該2S,4Rエナンチオマーが80%を超えることを意味する。
【0029】
該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー、および該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的にまたは完全に該2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を含む医薬組成物、および該ケトコナゾールの2S,4Rエナンチオマーの医薬的許容される塩は、国際公開WO06072881(名称”Methods And Compositions For Treating Diabetes, Metabolic Syndrome And Other Conditions,”(参照することによりその全ては本明細書に含まれる))に記載のように製造することができる。国際公開WO06072881に記載されるように、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーはさまざまな単位用量製剤、頻度、および投与ルートにて投与され得る。
【0030】
本明細書において使用される”DIO-902”は、臨床試験で使用される、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーの医薬製剤を意味する。DIO-902はラセミ混合物から精製された2S,4Rケトコナゾールを含み(98%を超える)、該2R,4Sエナンチオマーをほどんど含まない。DIO-902は経口投与用即時放出錠であり、下記テーブル1のように処方される。
【表1】

【0031】
重要なことは、下記の実施例で報告されるデータ、観察および結論は、この特定のDIO-902製剤に限られることを意図しないと理解すべき点である。コレステロールおよびCRP値を低下させるための、血糖コントロールを改善するための該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーの使用、および本明細書に記載される他の使用は、この特定の製剤に限られない。
【0032】
「併用」および「併用療法」とは、2つ(またはそれ以上)の薬物を、どちらかの薬物単独の投与では生じないタイプのまたは水準の利益を達成するために、同一治療過程で投与することをいう。
【0033】
「投与」とは、薬物または薬物の組み合わせを、少なくとも1日間、より多くの場合では少なくとも7日間、さらにより多くの場合では少なくとも14日間、さらにより多くの場合では少なくとも1箇月間、多くの場合では少なくとも4箇月(120日間)、およびときには数年間投与することを意味する。対象(およびこの語句に文法的に相当するもの)に薬物を「投与する」、または対象への薬物の「投与」とは、直接投与(自己投与など)、および間接投与(薬物を処方する行為など)を意味しうる。例えば、患者に薬物を自己投与することを指示する、および/または患者に薬物の処方箋を提供する医師は、該薬物を該患者に投与しうる。
【0034】
治療上有効量の該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sエナンチオマーを含まない)を投与することは、糖尿病、特に2型糖尿病の症状を治療、管理、および改善するのに有効である。治療上有効量の該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sエナンチオマーを含まない)を投与することはまた、治療の必要があるヒト患者の、脂質異常症(例えば、高コレステロール血症)からなる群から選択される脂質疾患を治療するのに有効である。
【0035】
下記実施例に示されるように、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーでの2週間治療過程で、糖尿病対象おいて、劇的に、コレステロール値は低下し、血糖コントロールは改善し、およびC-反応性タンパク値は低下した。ほとんどの2型糖尿病患者は、血漿グルコースの上昇に加えて、血漿CRP(C反応性タンパク)上昇によって示される全身炎症活性が増加している。この全身性炎症は循環器疾患のリスクの増加の一因となると考えられている。既存の糖尿病医薬による該全身性炎症の管理は不十分である。
【0036】
この短期間の結果に基づいて、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーの長期間(例えば、4週、12週、26週、またはそれ以上)の投与は、2週間の治療後に認められたよりもより大きな規模の影響を有するであろうことが予想される。
【0037】
通常、該ケトコナゾールエナンチオマーを、100〜600mgの1日量で、より一般的には100〜450mgの用量で、および大抵200〜400mgの用量で投与する。代表的な1日量には、100、125、150、200、250、300、375、400または450mgが含まれる。150mg強度、300mg重量錠剤の組成物の例を、テーブル2に示す。
【表2】

【0038】
該ケトコナゾールエナンチオマーの上記の用量での投与は、ベースラインと比較してコレステロール値の低下を有利に生じる。該ケトコナゾールエナンチオマーの上記の用量での投与は、ベースラインと比較して血糖コントロールの改善を有利に生じる。該ケトコナゾールエナンチオマーの上記の用量での投与は、ベースラインと比較してCRP値の低下を有利に生じる。本明細書で使用される「ベースライン」とは、治療開始前の値を意味する。いくつかの実施態様において、「ベースライン」を、コレステロールを下げる、および/または血糖コントロールを改善することを意図する別の治療(インスリン、グルカゴンまたはそれらの類似体を用いる治療を除く)、および/または炎症を減少することを意図する別の治療を受けていない対象で決定した。ベースラインおよび該治療開始後でのマーカーの変化の評価は、単一の患者の測定に基づくことができ、または、より多くの場合では、いくつかの個体または大きな個体群の統計的に有意な平均または平均に基づくことができる。例えば、臨床的エンドポイント(例えば、コレステロールの低下)は個体または統計的に関連する個体群に基づくことができる。
【0039】
1つの態様において、本発明は、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を患者に100〜600mg、好ましくは200〜450mgの1日量で投与することによって、14日間の治療により、ベースラインと比較して、LDLコレステロールが少なくとも15%および/または総コレステロールが少なくとも25%の低下がする、糖尿病患者のコレステロール値を低下させるための方法を提供する。
【0040】
1つの態様において、本発明は、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を患者に100〜600mg、好ましくは150mg〜500mg、例えば150mg〜450mg、または200〜450mgの1日量で投与することによって、90日間の治療により、ベースラインと比較して、LDLコレステロールが少なくとも15%、少なくとも20%または少なくとも30%低下する、および/または総コレステロールが少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、または少なくとも40%低下する、糖尿病患者のコレステロール値を低下させるための方法を提供する。
【0041】
1つの態様において、本発明は、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を患者に100〜600mg、好ましくは150mg〜500mg、例えば150mg〜450mg、または200〜450mgの1日量で投与することによって、14日間の治療により、ベースラインと比較して(a)HbA1c値が少なくとも0.3%、および/または(b)フルクトサミン値が少なくとも10umol/L、および/または(c)空腹時血糖値が少なくとも15mg/dL低下する、糖尿病患者の血糖コントロールを改善するための方法を提供する。
【0042】
1つの態様において、本発明は、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を患者に100〜600mg、例えば150mg〜500mg、150mg〜450mg、または好ましくは200〜450mgの1日量で投与することによって、90日間の治療により、ベースラインと比較して、(a)HbA1c値が少なくとも0.4%、好ましくは少なくとも0.6%、およびときには少なくとも0.8%、および/または(b)フルクトサミン値が少なくとも20umol/L、好ましくは少なくとも30umol/L、およびときには少なくとも40umol/L、および/または(c)空腹時血糖値が少なくとも20mg/dL、好ましくは少なくとも25mg/dLおよびときには少なくとも30mg/dL低下する、糖尿病患者の血糖コントロールを改善するための方法を提供する。
【0043】
いくつかの実施態様において、ケトコナゾールエナンチオマーが投与される該患者はまた、高血糖治療薬、例えばメトホルミンで治療される。
【0044】
1つの態様において、本発明は、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を患者に100〜600mg、好ましくは150mg〜500mg、例えば150mg〜450mg、200mg〜450mg、または300mg〜450mgの1日量で投与することによって、14日間の治療により、CRP値が少なくとも15%、少なくとも25%、好ましくは少なくとも40%、およびより好ましくは少なくとも45%低下する、血管性疾患が進行するリスクを減らすための方法を提供する。該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)の投与はまた、単独でまたは他の薬剤と組み合わせて、これらに制限されないが、循環器疾患の防止、心筋梗塞のリスクの減少、脳卒中のリスクの減少、および血行再建術およびアンギナのリスクの減少のために適応される。
【0045】
1つの態様において、本発明は、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を患者に100〜600mg、好ましくは200〜450mgの1日量で投与することによって、90日間の治療により、CRP値が少なくとも40%、および好ましくは少なくとも45%低下する、血管性疾患が進行するリスクを減らすための方法を提供する。代表的な1日量には、150mg、300mgおよび450mgが含まれる。
【0046】
1つの実施態様において、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を患者に100〜600mg、好ましくは200〜450mgの1日量で投与することにより、血糖コントロールが改善し、およびコレステロールが低下し、CRPが低下する。
【0047】
1つの実施態様において、上記利益は、該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーが100〜450mg、例えば200〜400mg(例えば、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、420または450mg)の1日量に由来する。
【0048】
1つの実施態様において、14日間または90日間の治療後、薬物を投与する該患者のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアルカリホスファターゼ(AP)値が正常範囲である。1つの実施態様において、該患者の少なくとも1つの肝機能検査値(AST/ALT/AP)がベースライン(該治療開始前)において正常範囲になかった。
【0049】
別の態様において、本発明は、(a)治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を該患者に投与する、および(b)治療上有効量のコレステロールを低下させるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を投与することによる、糖尿病患者の治療ための方法を提供する。いくつかの実施態様において、投与されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤の量は、ケトコナゾールエナンチオマーの投与が無い場合に該患者に適応される量を超える量(例えば、20%多い、50%多い、100%多い(すなわち2倍多い)またはそれ以上)である。いくつかの実施態様において、ケトコナゾールエナンチオマーを受けている、ケトコナゾールエナンチオマーが無い場合に該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の投与が禁忌である患者に該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を投与する。いくつかの実施態様において、該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤が、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、ZD-4522、またはリバスタチンである。
【0050】
HMG-CoAレダクターゼ阻害剤は、アテローム硬化性の血管性疾患の対応において主要な治療である。スタチン治療の利益は、それらのLDL-コレステロール(LDL-C)を低下させる能力に起因すると考えられる。しかしながら、コレステロールを低下することだけが、スタチン治療の該有益な効果の全てを説明することはできないことが示唆されている。最近の知見により、スタチンは全身性(generalized)の 抗炎症性作用を引き起こすことが示唆される(Lutgens and Daemen, 2004, ”HMG-coA reductase inhibitors: lipid-lowering and beyond” Drug Discovery Today: Therapeutic Strategies 1:189-194に総説される)。該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーのコレステロール値および全身性炎症への影響は、スタチンと組み合わせて使用するときの相加効果または相乗効果を示唆する。この観察に基づいて、治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーを併用するとき、患者に投与されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤の用量を減らし得る。従って、別の態様において、本発明は、治療効果のために患者に投与される必要があるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤の量を減らすための方法を提供し、該方法は、治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を該患者に投与することを含む。いくつかの実施態様において、該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、ZD-4522、またはリバスタチンである。
【0051】
他の態様において、本発明は、(a)治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を該患者に投与する、および(b)治療上有効量のコレステロール-吸収阻害剤(例えば、エジテミベ)を投与することによる、糖尿病患者の治療ための方法を提供する。
【0052】
別の態様において、本発明は、治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sエナンチオマーを含まない)を該患者に投与する、および(b)治療上有効量のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を投与することによって、コレステロールの高い非糖尿病患者を治療するための方法を提供する。いくつかの実施態様において、投与されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤の量は、ケトコナゾールエナンチオマーの投与がない場合に該患者に適応される量を超える(例えば、20%多い、50%多い、100%多い(すなわち2倍多い)またはそれ以上)。いくつかの実施態様において、該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を、ケトコナゾールエナンチオマーを受けている、ケトコナゾールエナンチオマーが無い場合に該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の投与が禁忌である患者に投与する。これらに制限されないが、説明として、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の例は、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、ZD-4522およびリバスタチンである。適応症、禁忌および適切な用量(ケトコナゾールエナンチオマーがない場合)に関する情報は知られており、該医学文献(例えば、2007 Physicians’ Desk Reference, Thomson Corp., Torontoを参照)にて容易に入手できる。
【0053】
別の態様において、本発明は、肝機能の少なくとも1つのマーカー(例えば、ALT、ASTまたはAP)が異常値を示している糖尿病患者の治療ための方法であって、該患者はコレステロールを低下させおよび/または 血糖コントロールを改善するための治療を必要とし、該患者に治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を投与することを含む方法を提供する。
【0054】
該2つのケトコナゾールエナンチオマーの血漿薬物動態学は異なっていることが報告されている。該実施例(実施例4を参照)に示されるように、該2R,4Sエナンチオマーは該2S,4Rエナンチオマーと比較してはるかに急速に循環から該肝臓によって除去されることが、今発見された。より急速な該2R,4Sエナンチオマーのクリアランスは、このエナンチオマーについて該2S,4Rエナンチオマーと比較してより高い肝臓Cmaxを生じうる。結果として、該2S,4Rエナンチオマー(実質的に2R,4Sエナンチオマーを含まない)の投与は、該ラセミ体の投与と比較して、肝細胞中のより低いケトコナゾールCmaxを生じうる。すなわち、ケトコナゾールを該ラセミ体として投与するとき、肝細胞での該薬物(両エナンチオマーの合計)の該Cmaxは、該2S,4Rエナンチオマーとして投与するときの該薬物(単一エナンチオマー)の該Cmaxを超えるであろう。従って、驚いたことに、該2S,4Rエナンチオマーの投与は(いずれの投与量でも)、肝細胞のより低いCmaxを生じ、肝毒性の可能性を低くするであろう。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0055】
実施例1: 2型糖尿病における、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的にケトコナゾールの2R4Sエナンチオマーを含まない)の臨床試験
2型真性糖尿病患者のフェーズ2a試験を、DIO-902の安全性および認容性を調べるために行った。該試験は該ケトコナゾールの2S,4Rエナンチオマー(実質的に2R,4Sエナンチオマーを含まない)を投与する初のヒト臨床試験であった。
【0056】
第一目的は、2型糖尿病の対象における該2S,4Rエナンチオマーの14日の連日投与の安全性および認容性を評価することであった。
【0057】
第二目的は、1回の投与後および14日の連日投与後に、該2S,4Rエナンチオマーの血漿中の薬物動態(PK)プロファイルを決定することであった。加えて、該2S,4Rエナンチオマーの14日の連日投与の、血圧、総コレステロール、LDLコレステロール、CRP、血漿コルチゾール、唾液コルチゾールおよびコルチゾール結合グロブリンの変化によって反映される、薬力学的活性、ならびに血糖コントロール(フルクトサミン、HbA1cおよび空腹時血糖値)の測定である。
【0058】
5つの用量群を試験した。該用量群は下記の通りである(N=該試験を完了した対象):
1)ケトコナゾール(”KTZ”)400mg po QD(N=8)
2)2S,4Rエナンチオマー200mg po QD(N=10)
3)2S,4Rエナンチオマー400mg po QD(N=-6)
4)2S,4Rエナンチオマー600mg po QD(N=3)
5)偽薬 po QD(N=6)
【0059】
該対象の該ベースライン人口統計は
・平均年齢: 55.3
・性別: 女性 59.5%/男性 40.5%
・平均BMI: 33.1
・真性糖尿病の平均期間: 4.9年
・平均HbA1c: 8.1%
であった。
【0060】
該治験薬の最初の投与を1日目の2200 hに投与した。該薬物の投与に先立って、活性マーカーの1日目の測定を行った(”巡回1”)。最後の治験薬を14日目の2200 hに投与し、そして活性マーカーを15日目に測定した(”巡回3”)。安全性マーカーの測定を巡回1および3、ならびに巡回2(8日目)および巡回4(28日目)に行った。
【0061】
活性の測定は、: A)血糖コントロール; b)脂質レベルの変化(総コレステロールおよびLDL-コレステロール); 3)血圧、およびD)炎症のマーカーとしてのCRPであった。
【0062】
血糖コントロール
ヘモグロビンA1c試験(HbA1c)の結果が、テーブル3および図3に示される。この試験は、糖化ヘモグロビン値を測定して、そして(おおよそ)3箇月前の対象の平均血糖値を反映する。糖尿病では一般的に高値である。該ヘモグロビンA1c数の低下により、糖尿病患者の深刻な眼、腎、および神経疾患の進行を遅らせ、または予防することができる。
【表3】

【0063】
テーブル2に示されるように、DIO-902を14日間投与することにより、HbA1cが低下する傾向が生じる。薬物の長期間の投与(例えば12週間または26週間)により、ベースラインに対して最大0.8%またはそれ以上の低下(例えば、少なくとも0.4%、少なくとも0.6%または少なくとも0.8%)をもたらされることが見込まれる。
【0064】
治療のベースラインおよび2週間後に、フルクトサミン値を測定した(テーブル4、ならびに図1および2を参照)。図1に、15日目の各試験群についてベースラインと比較したフルクトサミン値の変化が示される。図2に、15日目の各AUCtercileについてベースラインと比較したフルクトサミン値の変化が示される。フルクトサミン値は、2〜3週間前の血糖値を反映する。フルクトサミンの低下は該DIO-902治療群で大きかった。
【表4】

【0065】
HbA1c値と同様に、DIO-902の14日間の投与により、フルクトサミンは低下する傾向にある。とりわけ、他の糖降下化合物(例えばグリタゾン(glitazones))は、作用の発現に数週間を要しうる。長期間の薬物の投与(例えば12週間または26週間)は、ベースラインに対して最大40μmol/Lまたはそれ以上の低下(例えば、少なくとも10μmol/L、少なくとも20μmol/L、少なくとも30μmol/L、または少なくとも40μmol/L)を生じうることが見込まれる。
【0066】
最大15mg/dLの空腹時血糖値の低下が、DIO-902を2週間受けた対象に認められた(図3を参照)。長期間の薬物の投与(例えば12週間または26週間)は、ベースラインに対して最大25-30mg/dLまたはそれ以上の低下(例えば、少なくとも20mg/dL、少なくとも25mg/dLまたは少なくとも30mg/dLの低下)を生じうることが見込まれる。
【0067】
コレステロール値
下記のテーブル5および6、および図4および5に該試験群の総コレステロール値およびLDLコレステロール値の変化が示される。統計的に有意な、総およびLDL-Cの用量依存的な減少が、DIO-902を受けた対象に認められた。
【表5】

【表6】

【0068】
長期間の薬物の投与(例えば12週間または26週間)は、少なくとも25%〜少なくとも40%の総コレステロールの低下、および少なくとも15%または少なくとも30%のLDL-コレステロールの低下を生じうることが見込まれる。
【0069】
血圧
巡回1および3の間に、継続的な血圧のモニタリングを行った。ラセミ体ケトコナゾールは血圧を低下させるとの報告がされている。しかしながら、該ラセミ体ケトコナゾールおよびDIO-902群のいずれにも、血圧数値に低下は見られなかった。より長期の投与計画は、DIO-902で処置した患者の血圧に有益な低下を生じうる。
【0070】
炎症のマーカー
C-反応性タンパク(CRP)値を測定し、それをテーブル7および図6に示す。CRPの用量依存的な減少が該DIO-902治療群で認められた。ラセミ体ケトコナゾールは有意にはCRP値を低下せず、実際はCRPの上昇を導いた。
【表7】

【0071】
糖尿病患者におけるCRP値の低下は、改善した予後、または、微小血管性および大血管性疾患の進行のリスクの低下と相関する。DIO-902 長期間の投与(例えば12週間または26週間)は、ベースラインに対して20〜50%またはそれ以上の低下(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%またはそれ以上の低下)を生じうることが見込まれる。
【0072】
実施例2: 肝毒性の不在およびDIO-902による肝保護
ラセミ体ケトコナゾールを受けた患者の中に肝毒性が認められた。その一方、DIO-902を受けた対象に肝毒性の証拠は認められなかった。さらに、DIO-902による肝保護に対応する証拠が認められた。ベースラインで測定したとき、正常範囲外の肝機能試験値であった2名(2)の患者は、DIO-902 治療で正常となった(テーブル8を参照).
【表8】

【0073】
実施例3: アトルバスタチン薬相互作用試験
3ウェイクロスオーバー試験(80mg アトルバスタチン + 400mg DIO-902、400mg ラセミ体ケトコナゾール、または偽薬)を、洗い出し期間の14日間で行った。図7に示されるように、全活性HMG CoAレダクターゼ阻害剤の血漿中値を測定したとき、DIO-902の投与は、該全活性阻害剤のCmaxを低下し、一方、アトルバスタチン-コントロールのみに対して該AUCを増加した。ラセミのケトコナゾールは、該Cmaxに対してDIO-902程大きくは影響しなかった。全活性阻害剤はアトルバスタチンおよび該生物活性のある代謝物2-ヒドロキシアトルバスタチンおよび4-ヒドロキシアトルバスタチンの総量である。
【0074】
これらのデータは、DIO-902およびコレステロール低下HMGCoAレダクターゼ阻害剤(例えば、アトルバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、リバスタチン、イタバスタチン、ロスバスタチン、および他のスタチンなどのスタチン)の併用治療は、該ラセミ体またはアトルバスタチン-コントロールのみと比較して該HMG CoAレダクターゼ活性のCmaxの低下を生じうることを示唆する。これは、該HMGCoAレダクターゼ阻害剤を単剤療法として投与する場合に予想される副作用を避けながら、患者への該スタチンのより高投与量の投与を可能とする。
【0075】
実施例4: エナンチオマークリアランス
ラセミ体ケトコナゾールの静脈内投与後の、各該ケトコナゾールエナンチオマーの薬物動態を試験した。ラセミのケトコナゾールを60mg/mlにエタノール中に溶解した。3匹の各ビーグル犬に、0.5 mlをボーラス投与(30mg/イヌ)(静脈内)した。
【0076】
投与(”0分”)に先立って、および投与後2、5、10、15、30分、および1、2、4、6、8、および24時間に、各イヌから血液を採取した。各時点にて、血液(0.3 mL/試料)を採取し、ラベル付きの該抗凝固剤としてヘパリン添加Microtainer登録商標 チューブに入れた。該ヘパリン添加血液を遠心分離し、該上清ピペットで別のラベル付きのEppendorf登録商標チューブのセットに取った。得られた血漿試料を各該2つのケトコナゾールエナンチオマー(2S,4Rおよび2R,4S)について分析し、各該エナンチオマーについて薬物動態パラメーターを決定した。該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーのターミナル(terminal)半減期は1.397時間であり、該2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーのターミナル半減期は0.93時間であることが認められた。該2つのエナンチオマーに対応するクリアランスは、485 ml/時間/kg(2S,4R)および1442 ml/時間/kgであった。これらのデータは、該肝臓中での該2R,4Sエナンチオマーの有意に高いCmaxをもたらす、該2S,4Rエナンチオマーと比較して有意に速く該肝臓への循環から除去される、該2R,4Sエナンチオマーと一致する。該単離された2S,4Rエナンチオマーは該2R,4Sエナンチオマーを含まない(該ラセミ体は含むが)ので、該単離された2S,4Rエナンチオマーについて達する該肝臓内Cmaxは該ラセミ体のそれよりも小さく、結果として該2S,4Rエナンチオマーによる肝臓の損傷のリスクは、ラセミ体ケトコナゾールと比較して、低下する。
***
【0077】
上記に詳細に記載し、例証してきた本発明には様々な実施態様があり; 従って、本発明の特定の実施態様を本明細書に詳細に記載するが、多くの別の実施態様は該下記の特許請求の範囲に含まれると意図される。
【0078】
本明細書に記載される全ての刊行物および特許文書(特許、公開された特許出願、および未公開の特許出願)は、該刊行物または文書の各々が明確におよび個別に、参照することにより本明細書に組み込まれと示されているかのように、参照することにより本明細書に組み込まれる。刊行物および特許文書の引用は、該文書がいずれも妥当な先行技術であることを承認することを意図せず、それは該在中物またはその日付についての承認を構成もしない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その低下を必要とする該患者のCRP値を低下させる方法であって、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を含むケトコナゾール組成物を、100mg〜600mgの1日量で、少なくとも14日間投与することを特徴とする、該方法。
【請求項2】
血漿CRPが高く、かつ全身性炎症を減少する必要のある患者を確認または診断する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該患者の血漿CRP値が3.0mg/Lを超える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該患者の血漿CRP値が5.0mg/Lを超える、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
該患者が糖尿病である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該患者がメタボリックシンドロームであると診断される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
3-ヒドロキシ 3-メチルグルタリル補酵素A(HMG CoA)レダクターゼ阻害剤で患者を治療する方法であって、HMG CoAレダクターゼ阻害剤と治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を併用することを含み、該HMG CoAレダクターゼ阻害剤の投与量が、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーの投与がない場合に該患者に指示される該投与量とは異なることを特徴とする、該方法。
【請求項8】
該HMG CoAレダクターゼ阻害剤がアトルバスタチンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
糖尿病患者の治療方法であって:
a)治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を該患者に投与する; および
b)治療上有効量のコレステロールを低下させる HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を該患者に投与する;
ことを含み、投与されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤の量は、ケトコナゾールエナンチオマーの投与がない場合に該患者への投与のために指示された量と比較してより多いことを特徴とする、該方法。
【請求項10】
該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を投与することが該ケトコナゾールエナンチオマーの投与がない場合に該患者には禁忌であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤が、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、ZD-4522、およびリバスタチンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がアトルバスタチンであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
高コレステロール値の非糖尿病患者を治療する方法であって、
(a)治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sエナンチオマーを含まない)を該患者に投与し、および
(b) 治療上有効量のコレステロールを低下させる HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を該患者に投与する;ことを含み、投与されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤の量は、ケトコナゾールエナンチオマーの投与がない場合に該患者の投与に指示される量より多い、該方法。
【請求項14】
該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の投与が、該ケトコナゾールエナンチオマーの投与がない場合に該患者には禁忌であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、ZD-4522およびリバスタチンからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
肝機能のマーカーの異常値を示す糖尿病患者を治療する方法であって、該患者はコレステロールを低下するためのおよび/または血糖コントロールを改善するための治療を必要とし、治療上有効量の2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を該患者に投与することを含む、該方法。
【請求項17】
該マーカーがALT、ASTまたはAPである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
糖尿病患者を治療する方法であって、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を該患者に100〜600mgの1日量で投与することを含み、14日間の治療過程の結果、下記:
a) ベースラインと比較して少なくとも0.3%のHbA1c値の低下;
b) ベースラインと比較して少なくとも10umol/Lのフルクトサミン値の低下;
c) ベースラインと比較して少なくとも15mg/dLの空腹時血糖値の低下;
d) ベースラインと比較して少なくとも15%のLDLコレステロールの低下;
e) ベースラインと比較して少なくとも25%の総コレステロールの低下; および
f) ベースラインと比較して少なくとも25%のCRP値の低下;
の1つ以上、または全てを生じる、該方法。
【請求項19】
糖尿病患者を治療する方法であって、2S,4Rケトコナゾールエナンチオマー(実質的に2R,4Sケトコナゾールエナンチオマーを含まない)を患者に100〜600mgの1日量で投与することを含み、120日間の治療過程の結果、下記:
a) ベースラインと比較して少なくとも0.8%のHbA1c値の低下;
b) ベースラインと比較して少なくとも40umol/Lのフルクトサミン値の低下;
c) ベースラインと比較して少なくとも25mg/dLの空腹時血糖値の低下;
d) ベースラインと比較して少なくとも30%のLDLコレステロールの低下;
e) ベースラインと比較して少なくとも40%の総コレステロールの低下; および
f) ベースラインと比較して少なくとも45%のCRP値の低下;
の1つ以上、または全てを生じる、該方法。
【請求項20】
該2S,4Rケトコナゾールエナンチオマーを150mg〜450mgの1日量で投与することを特徴とする、請求項18または19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−505866(P2010−505866A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531558(P2009−531558)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/080186
【国際公開番号】WO2008/042898
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(509095020)コルテンド・インヴェスト・アクチボラゲット (1)
【氏名又は名称原語表記】CORTENDO INVEST, AB
【Fターム(参考)】