説明

ヒトHIF3alpha遺伝子およびタンパク質の神経変性疾患に関する診断的および治療的用途

本発明は、アルツハイマー病患者の特定の脳領域内でHIF3aをコードする遺伝の発現差を開示する。この知見に基づいて、本発明は、被験者中で神経変性疾患、特にアルツハイマー病、を診断しまたは予後診断するための、または被験者がこのような疾患を発症するリスクが上昇しているかどうかを決定するための方法を提供する。さらに、本発明は、HIF3a遺伝子およびそれに対応する遺伝子産物を用いて、アルツハイマー病および関連する神経変性疾患を治療または予防する治療的および予防的方法を提供する。神経変性疾患の物質を調節するためのスクリーニングの方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者における神経変性疾患の進行を診断、予測、および監視する方法に関する。さらに、神経変性疾患の調節物質の治療コントロールおよびスクリーニングの方法を提供する。本発明はまた、医薬組成物、キット、および組み換え動物モデルも開示する。
【0002】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)は、患者の生活を強く衰弱させる影響を与える。さらに、これらの疾患は、甚大な健康上の、社会的な、および経済的な負担を構成する。ADは最も一般的な神経変性疾患であり、痴呆の症例全体の約70%を占め、65歳超の人口の約10%および85歳超の最大45%が罹患する、おそらく最も破壊的な加齢関連神経変性症状である(最近の総説はヴィッカーズ(Vickers)ら、Progress in Neurobiology 2000,60;139−165を参照)。現在、これは米国、欧州、および日本において推定約1200万例に達する。この状況は、発展途上国における高齢者数の人口統計上の増加(「ベビーブーマーの高齢化」)に伴い不可避的に悪化する。ADを有する人の脳に生じる神経病理学的な顕著な特徴は、アミロイド−βタンパク質で構成される老人斑、および異常な線維状構造の出現および神経原線維変化の形成と一致して現れる著しい細胞骨格変化である。
【0003】
アミロイド−β(Aβ)タンパク質は、さまざまな種類のプロテアーゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の開裂から生じる。β/γ−セクレターゼによる開裂はさまざまな長さのAβペプチドの形成に繋がり、典型的には、40アミノ酸から構成される短くより可溶性が高く凝集が遅いペプチド、および細胞外で迅速に凝集し特徴的なアミロイド斑を形成する、より長い42アミノ酸ペプチドである(セルコー(Selkoe),Physiological Rev 2001,81;741−66;グリーンフィールド(Greenfield)ら,Frontiers Bioscience 2000,5;D72−83)。それらは主に大脳皮質および海馬に見出される。脳における毒性のAβ沈着物の生成は、ADの経過のごく早期に開始し、およびADの病理に繋がるその後の破壊過程の中心的存在であると論じられている。ADの他の病理学的な顕著な特徴は、神経原線維変化(NFT)および、ニューロピル・スレッドと表現される異常な神経突起である(ブラーク(ブラーク)およびブラーク(ブラーク),Acta Neuropathol 1991,82;239−259)。NFTは神経細胞の内部に出現し、および互いに絡まり合う対のらせん状線維を形成する、化学的に変化したタウタンパク質から成る。神経原線維変化の出現およびその数の増加は、ADの臨床的重症度とよく相関する(シュミット(Schmitt)ら,Neurology 2000,55;370−376)。
【0004】
ADは進行性疾患であり、初期の記憶形成の障害を伴い、および最終的にはより高次の認知機能の完全な衰退に繋がる。認知障害には、とりわけ、記憶障害、失語症、失認症、および実行機能の喪失がある。ADの病因の特徴的性質は、脳の特定の領域および神経細胞の部分集団の、変性過程に対する選択的な不安定性である。具体的には、側頭葉領域および海馬は、疾患の経過中に早期におよびより重度に冒される。一方、前頭皮質、後頭皮質、および小脳内の神経細胞は大体は損なわれないままであり、神経変性から守られている(テリー(Terry)ら,Annals of Neurology 1981,10;184−92)。ADの発症年齢は50年の範囲内でさまざまであり、65歳未満の人で起こる早発型AD、65歳超の人で起こる遅発型ADがある。
【0005】
現在、ADに治療法は無く、ADの進行を止めるか、または高確率で死亡前にADを診断するためさえ、有効な方法は無い。個人がADを発症する素因となるいくつかのリスク因子が特定されており、中でも非常に重要なのは、アポリポタンパク質E遺伝子(ApoE)の既存の3つの異なる対立遺伝子(イプシロン2、3、および4)のイプシロン4対立遺伝子である(シュトリトマター(Strittmatter)ら,Proc Natl Acad Sci USA 1993,90;1977−81;ローゼス(Roses),Ann NY Acad Sci 1998,855;738−43)。多型血漿タンパク質ApoEは、低密度タンパク脂質受容体と結合することによって細胞内コレステロールおよびリン酸輸送の役割を果たし、および神経突起の成長及び再生にも役割を果たしているようである。さらに感受性遺伝子および疾患を−多型と関連付けて−検出する試みは、ヒト染色体10および12上の特異的領域および遺伝子が遅発性ADと関連しうるとの仮定を導いた(マイヤー(Myers)ら,Science2000,290:2304−5;バートラム(Bertram)ら,Science2000,290:2303;スコット(Scott)ら,Am J Hum Genet 2000,66:922−32)。染色体21上のアミロイド前駆体タンパク質(APP)、染色体14上のプレセニリン−1、および染色体1上のプレセニリン−2の遺伝子における遺伝的欠損を原因とするADの早期発症の例はまれであるが、遅発性散発性ADの優勢な形態の病因学的由来はこれまで未知であった。
【0006】
神経変性疾患の遅い発症および複雑な病因は、治療用および診断用薬の開発に困難な問題をもたらす。医薬標的および診断マーカーの候補のプールを拡大することが極めて重大である。したがって、神経疾患の病因に関する洞察を与えること、およびこれらの疾患の治療の診断および開発に特に適した方法、材料、物質、組成物、および動物モデルを提供することは、本発明の目的である。この目的は、独立請求項の特徴によって解決される。下位請求項は、本発明の好ましい実施形態を定義する。
【0007】
本発明は、低酸素誘導性因子3(HIF3α、HIF3アルファ、HIF−3アルファ)、別名HIF3aをコードするための遺伝子、およびヒトアルツハイマー病の脳試料中のタンパク質産物の、検出および無調節な発現差に基づく。低酸素誘導性因子(HIF)は、「PAS」ドメインを含有するより多くのタンパク質に属する。略語「PAS」は、3つのタンパク質−ファミリー:PER(ショウジョウバエピリオド遺伝子のタンパク質)、ARNT(AHR細胞核の移行分子)およびSIM(ショウジョウバエsingle−minded遺伝子座のタンパク質)に由来する。PASドメインは、他のPASタンパク質との同型相互作用またはシャペロン類との異型相互作用のいずれかに参画する。最も高頻度には、塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックスモチーフ(bHLH)がPASドメインのN末端にみとめられ、他のbHLH−PASタンパク質のための同型二量化ドメインとして機能する。両ドメインは、DNA結合および二量化特異性を有する(チアン(Jiang)ら,J.Biol.Chem.1996,271:17771−17778)。C末端では、PASタンパク質は転写活性のあるドメイン、たとえば、一つ以上の低酸素応答ドメイン(HRD)を含有してもよい。PASタンパク質は、様々なシグナル伝達経路に関与し、環境の変化、たとえば低酸素誘導性因子(HIF)系によって媒介される大気中および細胞内酸素の変化への適合において、役割を果たす(グ(Gu)ら,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.2000,40:519−561)。HIF類は、bHLH−PASタンパク質のスーパーファミリーに属し、および、α−およびβ−サブユニットから成るヘテロ二量体性転写因子(TF)である。HIF1−およびHIF2−TFsのα型サブユニットでは、その発現レベルは、細胞の低酸素状態、鉄キレート剤、活性酸素種(ROS)、遷移金属、および二価陽イオン(すなわちCo2+およびその他)への曝露に応答して上方調節されることが示されてきた。これら物質は、α−サブユニットタンパク質を安定させ、これによって、β−サブユニットとの二量化、およびそれゆえ、転写活性のあるHIF DNA結合複合体の形成を可能にする(ホーゲンエッシュ(Hogenesch)ら,J.Biol.Chem.1997,271:8581−8593、およびワン(Wang)ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1995,92:5510−5514)。HIFα−サブユニットは継続して合成されるが、しかし、正常酸素圧条件下でのユビキチンープロテアソーム系による急速な分解のため、低酸素細胞においてのみ存在する。したがって、α型タンパク質の低酸素調節は、転写活性のあるHIF−複合体の形成を導く。β−サブユニットは、構成的に発現され、および対応するα−サブユニットと相互作用し、核に移行した複合体を形成する。よく研究されたβ−サブユニット、HIF1βは、アリル炭化水素受容体の細胞核移行分子(ARNT)(ウッド(Wood)ら,J.Biol.Chem.1996,271:15117−15123、およびワン(Wang)ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1995,92:5510−5514)である。いくつかの低酸素感受性遺伝子が同定された。それらは、各遺伝子の遺伝子プロモーターの5’位または3’位に配置されているヘテロ二量体性HIF複合体を低酸素応答要素(HRE)に結合させることによって調節される。このようなHIF調節された遺伝子産物は、たとえば、赤血球生成の調節に対して責任を負うペプチドホルモンエリスロポエチン(EPO)、血管内皮増殖因子(VEGF)といった血管新生因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)、エネルギー代謝に関与する様々な糖分解酵素およびGLUT1といったブドウ糖輸送担体である(グ(Gu)ら,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.2000,40:519−561)。HIFタンパク質は、タンパク質を含有する非PAS、たとえば低酸素誘導アポトーシスにおいて役割を果たすp53、とも相互作用する。さらに、HIF1αは、フォンヒッペルリンドウ腫瘍抑制遺伝子産物(pVHL)と相互反応し、プロテアソームの分解につながる(Maxwellら, Nature 1999,399:271−275)。酸素の存在時には、pVHLは、ポリユビキチン化するHIF複合体のα型タンパク質をヒドロキシル化しおよび標的化する(イワン(Ivan)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2002,99:13459−13464、およびチャン(Chan)ら,J.Biol.Chem.1999,274:12115−12123)。現在のところ、低酸素調節のメカニズムはよく研究されたHIF1αタンパク質に基づくが、他の既知のHIFα−ファミリーメンバーも同様に調節されると推測される(セメンザ(Semenza)およびワン(Wang),Mol.Cell.Biol.1992,12:5447−5454)。
【0008】
ヒトの脳が酸素に高度に依存していることは周知である。脳は全体重の約2%を構成しているが、呼吸による酸素摂取の20%を利用する。酸素欠乏は、数分以内に脳内に損傷を引き起こす。最近発表された再検討は、低酸素症がどのようにして、進行性機能障害、アポトーシス、壊死、および脳細胞死を引き起こすかの概略を示す(バザン(Bazan)ら,Mol.Neurobiol.2002,26:283−298)。今日まで、HIFタンパク質のアルファファミリーのうち3つのメンバーHIF1α、HIF2α、別名内皮PASタンパク質1(EPAS−1)、またはPASファミリー2のメンバー(MOP2)、およびHIF3αが同定された。HIF2αは、bHLH−PASドメインではHIF1αと高度に相同性であり、HIF1βと二量化し、および低酸素応答VEGFプロモーターを活性化することがみとめられた。HIF1αの広範囲にわたる発現とは対照的に、HIF2αは主として内皮細胞中に発現する(ティエン(Tian)ら,Genes Dev.1997,11:72−82およびホゲネッシュ(Hogenesch)ら,J.Biol.Chem.1997,271:8581−8593)。約15アミノ酸の領域は、ヒトHIF1αサブユニット中のアミノ酸557〜571に相当し、HIFαタンパク質の全メンバー中における強い保存を示す。スリニバス(Srinivas)らは、この保存された配列が低酸素条件下でのHIFαタンパク質の安定化に関与し、およびこのため、低酸素調節につながる可能性があると推測した(スリニバス(Srinivas)ら,Biochem.Biophys.Res.Comm.1999,260:557−561)。
【0009】
ごく近年になって、新しいbHLH−PASタンパク質を同定する試みにおいて、新規のα型低酸素誘導性因子cDNA、HIF3αが、グ(Gu)および同僚によってクローンされた(グ(Gu)ら, Gene Expression 1998,7:205−213)。マウスESTクローン(GenBank受入番号AA028416)を、ヒトHIF1α遺伝子部分への類似点に基づいて同定した。マウスESTは、マウスHIF3α cDNAの完全なオープン・リーディング・フレームの一部であり(GenBank受入番号AF060194)、1.98kbにわたり、および、分子量が約73kDaの662アミノ酸のタンパク質をコードすることがわかった。マウスHIF3αの転写産物は、胸腺、肺、脳、心臓、および腎臓中に発現しているとみとめられた。マウスのHIF3α配列に基づいて、著者らはヒトHIF3α cDNA断片(Genbank受入番号AF079154)を同定し、および、染色体19q13.13−q13.2上のヒトHIF3α遺伝子座をマッピングした。HIF3αのN末端部の、HIF1αおよびHIF2αとの、それぞれ約57%および53%の配列類似性(bHLH−PAS領域)が記載されてきた。配列分析は、N末端トランス活性化ドメイン(NAD、HRD1)がHIF3α中に存在するが、C末端トランス活性化ドメイン(CAD、HRD2)は存在しないことが示唆された。こうして、HIF3αはN末端領域において、ヒトHIF1αおよびHIF2αと高い程度の類似性を共有するが、C末端領域では共有しない。他のHIFα型タンパク質に対してすでに説明したように、HIF3αはHIF1β(ARNT)と二量化する。レポーター遺伝子を含有するHREで実施した実験によって、HIF3αが低酸素誘導遺伝子の発現を抑制し、およびしたがって、HIFに媒介された遺伝子発現の負の調節因子となりうることが明らかになった(ハラ(Hara)ら,Biochem.Biophys.Res.Comm.2001,287:808−813)。ハラ(Hara)および同僚は、部分的ヒトHIF3α cDNA(Genbank受入番号AF079154)、受入番号AA359276のESTクローン、およびGenbank受入番号AC007193のゲノムDNA配列に基づいて、ヒトHIF3αをさらに特徴付けた。著者らは、完全長HIF3α cDNAが15のエクソンを持ち(Genbank受入番号AB054067)、マウスHIF3α、ヒトHIF1α、およびヒトHIF2αとそれぞれ81.9%、35.9%、および35.1%同一である668アミノ酸のタンパク質をコードし、およびそこには、bHLHドメイン(aa12−65)、aPASドメイン(aa87−338)、およびaNADドメイン(aa454−506)が存在することを示した。HIF3αの発現および機能に関しては、今日までほとんど知られていない。HIF3αの発現は発達中の気管、嗅上皮およびヒト腎臓中で検出された。HIF3αの機能に関する仮定は、α型の相同HIF1αに対する既存のデータに基づく。HIF3αのC末端構造が異なるため、タンパク質は、遺伝子導入実験において、HIF1αまたはHIF2α以外、たとえば低酸素条件下での非操作HIF3αレベルの特性を示す(ハラ(Hara)ら,Biochem.Biophys.Res.Comm.2001,287:808−813)。こうして、HIF3αは低酸素症への応答を媒介する明確な役割を果たしうる。興味深いことは、マキノ(Makino)および同僚による、マウスのHIF3α遺伝子座のスプライス変異体の検出である。このスプライス産物は、α型スタンパク質と二量化する際のHIFに対する優勢な負の調節因子として機能し、およびしたがって、阻害PASドメインタンパク質(IPAS)と名づけられた(Genbank受入番号AF481145−AF481147)(マキノ(Makino)ら,J.Biol.Chem. 2002,277:32405−32408)。IPASは、小脳および角膜上皮のプルキンエ神経細胞中に主に発現し、それぞれの標的遺伝子のHRE要素と結合できないHIFタンパク質との複合体を形成する。さらに、マキノ(Makino)らは、低酸素症によって上方調節されたIPAS mRNAレベル、および対応するHIF3αmRNAの下方調節を示した。近年、データベース中に似の配列を持たないオーファンHIF様タンパク質を同定する試みにおいて、メイナード(Maynard)および同僚((メイナード(Maynard)ら,J.Biol.Chem.2003,278:11032−11040)は、ヒトHIF3アルファ遺伝子座の複数のスプライス変異体:hHIF−3アルファ1(すでにより早期に、ハラ(Hara)ら,Biochem.Biophys.Res.Comm.2001,287:808−813によって報告済のGenbank受入番号AB054067、NM_152794、AC007193)、ヒト阻害PASドメインタンパク質(hIPAS)とも呼ばれるhHIF−3アルファ2(Genbank受入番号NM_152795、AF463492およびEST BG699633、AL528423およびAL519496)、hHIF−3アルファ3(Genbank受入番号NM_022462,AK021653およびEST BQ067192)、hHIF−3アルファ4(Genbank受入番号BC026308)、hHIF−3アルファ5(Genbank受入番号NM_152796およびEST AL535689)およびhHIF−3アルファ6(Genbank受入番号AK024095)を見い出し、および記載した。マキノ(Makino)らによると、ヒトHIF−3アルファ遺伝子は19エクソンから成り、約43kbにわたり、および3つのエクソン1a、1bおよび1cは、同定された少なくとも6つのスプライス変異体の転写開始部位を含む。
【0010】
ここでおよび請求項で用いられる単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈でそうでないと示されない限り、複数への言及を含む。たとえば、「a細胞(一つの細胞)」は複数の細胞をも意味する、など。本明細書および請求項で用いられる「および/または」の語句は、この語句の前および後の語句が選択肢としてまたは組み合わせて考えられるべきであることを示す。たとえば、「レベルおよび/または活性の測定」という言い回しは、レベルだけ、または活性だけ、またはレベルおよび活性の両方が測定されることを意味する。ここで用いられる「レベル」の語は、転写産物、たとえばmRNA、または翻訳産物、たとえばタンパク質またはポリペプチドの、量または濃度の尺度または指標を含むことを意図する。ここで用いられる「活性」の語は、転写産物または翻訳産物が生物学的効果を生じる能力についての指標、または、生物学的に活性な分子のレベルの指標と理解すべきである。「活性」の語はまた、酵素活性を、または、結合、拮抗、抑制、阻害または中和をいう生物活性および/または薬理活性をいう。ここで用いられる「レベル」および/または「活性」の語はさらに、遺伝子発現レベルまたは遺伝子活性をいう。遺伝子発現は、遺伝子産物の産生に繋がる、転写および翻訳による、遺伝子に含まれる情報の利用と定義される。「調節障害」は遺伝子発現のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを意味することとする。遺伝子産物はRNAまたはタンパク質のどちらかを含み、および遺伝子の発現の結果である。遺伝子産物の量は、遺伝子がどの程度活性であるかを測定するのに用いることができる。本明細書および請求項で用いられる「遺伝子」の語は、コード領域(エクソン)および非コード領域(たとえばプロモーターまたはエンハンサー、イントロン、リーダーおよびトレーラー配列といった非コード調節配列)の両方を含む。「ORF」の語は「オープン・リーディング・フレーム」の頭文字であり、および、少なくとも1つの読み枠に終止コドンを持たずおよびしたがって潜在的にアミノ酸の配列に翻訳されうる核酸配列をいう。「調節配列」は、遺伝子発現を推進し調節する、誘導性および非誘導性プロモーター、エンハンサー、オペレーター、およびその他の配列を含む。ここで用いられる「断片」の語は、たとえば択一的にスプライシングされ、または短縮され、またはさもなければ切断された転写産物または翻訳産物を含むことを意図する。ここで用いられる「誘導体」の語は、突然変異の、またはRNA改変された、または化学的に修飾された、または別の方法で改変を受けた転写産物、または、突然変異の、または化学的に修飾された、または別の方法で改変を受けた翻訳産物をいう。明確には、誘導体転写産物は、たとえば、一塩基または複数塩基の欠失、挿入、または交換といった変化を核酸配列に有する転写産物をいう。「誘導体」は、変化したリン酸化、またはグリコシル化、またはアセチル化、または脂質化といった過程によって、または変化したシグナルペプチド開裂またはその他の型の成熟開裂によって生じうる。これらの過程は翻訳後に起こりうる。本発明および請求項で用いられる「調節因子」の語は、遺伝子、または遺伝子の転写産物、または遺伝子の翻訳産物のレベルおよび/または活性を変化または改変することができる分子をいう。好ましくは、「調節因子」は、遺伝子の転写産物または翻訳産物の生物学的活性を変化または改変することができる。前記の調節は、たとえば、生物活性および/または薬理活性、酵素活性の上昇または低下、結合特性の変化、または遺伝子の前記翻訳産物の生物学的、機能的、または免疫学的性質の何らかのその他の変化または改変でありうる。「調節因子」は、イオンチャンネルサブユニットまたはイオンチャンネルの機能的性質を促進または阻害、したがって「調節する」、イオンチャンネルまたはイオンチャンネルサブユニットの結合、拮抗、抑制、阻害、中和または封鎖を「調節する」、および活性化、作用、アップレギュレーションを「調節する」ことができる能力を有する分子をいう。「調節」はまた、細胞の生物活性に影響を与える能力をいうのにも用いられる。「調節因子」、「物質」、「試薬」、または「化合物」の語は、細胞、組織、体液に対して、または任意の生物学的系または被験分析系の背景内で、正または負の生物学的効果を有する任意の物質、化学物質、組成物または抽出物をいう。それらは標的の作用因子、拮抗因子、部分的作用因子または逆作用因子でありうる。それらは、核酸、天然または合成ペプチドまたはタンパク質複合体、または融合タンパク質でありうる。それらはまた、抗体、有機または無機分子または組成物、低分子、薬物、および上の前記物質のうち任意のものの任意の組み合わせでありうる。それらは診断のまたは治療の目的のための試験に用いることができる。そのような調節因子、物質、試薬または化合物は、細胞培地、または細胞培養に用いられる血清中に存在する因子、栄養因子といった因子でありうる。本発明で用いられる「栄養因子」は、神経栄養因子を、サイトカインを、ニューロカインを、神経免疫因子を、脳由来因子(BDNF)を、およびTGFベータファミリーの因子を含むがそれらに限定されない。そのような栄養因子の例は、ニューロトロフィン3(NT−3)、ニューロトロフィン4/5(NT−4/5)、神経成長因子(NGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、インターロイキン−ベータ、膠細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インシュリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF)および血小板由来成長因子(PDGF)である。「オリゴヌクレオチドプライマー」または「プライマー」の語は、相補的塩基対のハイブリダイゼーションによって、与えられた標的ポリヌクレオチドとアニーリングすることができ、およびポリメラーゼによって伸長することができる、短い核酸配列をいう。それらは特定の配列に対して特異的であるように選択することができ、または任意に選択することができ、たとえばそれらはある混合物中のすべての可能な配列のプライマーとなることができる。ここで用いられるプライマーの長さは10ヌクレオチドから80ヌクレオチドまで変動しうる。「プローブ」はここで記載および開示される核酸配列の短い核酸配列またはそれと相補的である配列である。それらは完全長配列、または任意の配列の断片、誘導体、アイソフォーム、または変異体を含むことができる。「プローブ」と分析試料との間のハイブリダイゼーション複合体の同定は、その試料内の他の類似配列の存在の検出を可能にする。ここで用いられる「ホモログまたはホモロジー」は、ヌクレオチドまたはペプチド配列の、別のもう一つのヌクレオチドまたはペプチド配列との関連性を表す本分野の語であり、比較される前記配列間の同一性および/または類似性の程度によって測定される。本分野では、「同一性」および「類似性」の語は、問い合わせ配列と、好ましくは同一の種類の別の配列(核酸またはタンパク質配列)とを、互いにマッチングさせることによって決定される、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列関連性の程度を意味する。「同一性」および「類似性」を計算および決定するための好ましいコンピュータープログラム法は、GCG BLAST(基礎局所整列検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool))(アルチュール(Altschul)ら,J.Mol.Biol.1990,215:403−410;アルチュールら,Nucleic Acids Res.1997,25:3389−3402;デベロー(Devereux)ら,Nucleic Acids Res.1984,12:387)、 BLASTN 2.0(ギッシュ(Gish)W.,http://blast.wustl.edu,1996−2002)、FASTA(ピアソン(Pearson)およびリップマン(Lipman),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988,85:2444−2448)、および最長の重複を有する一対のコンティグを決定および整列するGCG GelMerge(ウィルバー(Wilbur)およびリップマン(Lipman),SIAM J.Appl.Math.1984,44:557−567;ニードルマン(Needleman)およびビュンシュ(Wunsch),J.Mol.Biol.1970,48:443−453)を含むがそれらに限定されない。ここで用いられる「変異体」の語は、本発明で開示されたポリペプチドおよびタンパク質に関して、本発明の天然のポリペプチドまたはタンパク質の天然のアミノ酸配列のN末端および/またはC末端におよび/または中に、1個以上のアミノ酸が付加されたおよび/または置換されたおよび/または欠失したおよび/または挿入された、任意のポリペプチドまたはタンパク質をいう。さらに、「変異体」の語は、ポリペプチドまたはタンパク質の任意のより短いかまたはより長い形を含む。「変異体」はまた、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5のHIF3aのアミノ酸配列と、少なくとも約80%配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%配列同一性、および非常に好ましくは少なくとも約95%配列同一性を有する配列も含む。タンパク質分子の「変異体」は、たとえば、高度に保存された領域に保存されたアミノ酸置換を有するタンパク質を含む。本発明の「タンパク質およびポリペプチド」は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5のHIF3aのアミノ酸配列を含むタンパク質の、変異体、断片、および化学的誘導体を含む。コドンが代替的な塩基配列によって別のコドンに置き換えられ、しかしそのDNA配列によって翻訳されるアミノ酸配列が変化しないままである配列変異を含めるべきである。この本分野で知られる現象は、特定のアミノ酸を翻訳するコドンの組の冗長性と呼ばれる。アルギニンをリジンに、バリンをロイシンに、アスパラギンをグルタミンにといった、機能性にまったく影響しないアミノ酸の交換もまた含めるべきである。天然から単離することができるかまたは、組み換えおよび/または合成の方法によって製造することができるタンパク質およびポリペプチドを含めることができる。ネイティブタンパク質またはポリペプチドは、天然に存在する短縮型または分泌型、天然に存在する変異型(たとえばスプライス変異体)および天然に存在する対立遺伝子変異体をいう。ここで用いられる「単離された」の語は、天然の環境から変化および/または取り出された、すなわち通常存在する細胞からまたは生体から単離され、および天然で付随して見出される共存成分から分離されたかまたは本質的に精製された分子または物質をいうと考えられ、またそれらは「非ネイティブ」であるともいう。この概念はさらに、そのような分子をコードする配列を人間の手で、自然状態では結合していないポリヌクレオチドと結合させることができること、およびそのような分子を組み換えおよび/または合成の方法によって製造することができることを意味する(非ネイティブ)。前記の目的のためにそれらの配列が、当業者に既知である方法によって生体または死んだ生物に導入されても、およびそれらの配列が前記生物中にまだ存在していても、それらはなお単離されており、非ネイティブであると考えられる。本発明では、「リスク」、「感受性」、および「素因」の語は同等であり、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を発症する確率に関して用いられる。
【0011】
「AD」はアルツハイマー病を意味する。ここで用いられる「AD型神経病理」は、本発明に記載されている通りの、および最先端の文献から一般に既知である通りの、神経病理学的、神経生理学的、組織病理学的、および臨床的な顕著な特徴をいう(イクバル(Iqbal),スワーブ(Swaab),ウィンブラッド(Winblad)およびウィスニュースキ(Wisniewski),『アルツハイマー病と関連疾患(疫学、病因論および治療薬)』(Alzheimer’s Disease and Related Disorders(Etiology,Pathogenesis and Therapeutics)),ワイリー・アンド・サンズ社(Wiley & Sons),ニューヨーク(NewYork)、ワインハイム(Weinheim),トロント(Toronto),1999;シント(Scinto)およびダフナー(Daffner),『アルツハイマー病の早期診断』(Early Diagnosis of Alzheimer’s Disease),ヒューマナ・プレス社(Humana Press),ニュージャージー州トトワ(Totowa)2000;マイユ(Mayeux)およびクリステン(Christen)『アルツハイマー病の疫学:遺伝子から予防まで』(Epidemiology of Alzheimer’s Disease;From Gene to Prevention),シュプリンガー・プレス社(Springer Press),ベルリン(Berlin),ハイデルベルク(Heidelberg),ニューヨーク(New York),1999;ヨーンキン(Younkin),タンジ(Tanzi)およびクリステン(Christen),『プレセニリンとアルツハイマー病』(Presenilins and Alzheimer’s Disease),シュプリンガー・プレス社,ベルリン,ハイデルベルク,ニューヨーク,1998を参照)。「ブラーク病期」または「ブラーク病期分類」の語は、ブラークおよびブラークによって提案された判定基準に従った脳の分類をいう(ブラーク(ブラーク)およびブラーク(ブラーク),Acta Neuropathology 1991,82:239−259)。神経原線維変化およびニューロピル・スレッドの分布に基づいて、ADの神経病理学的進行は6つの病期に分けられる(病期0から6)。本発明では、ブラーク病期0から2は対照健常者(「対照」)を表し、およびブラーク病期4から6はアルツハイマー病の患者(「AD患者」)を表す。前記「対照」から得られた値が、「既知の健康状態」を表す「参照値」であり、および前記「AD患者」から得られた値が、「既知の疾患状態」を表す「参照値」である。ブラーク病期3は、対照健常者またはAD患者のどちらかを表しうる。ブラーク病期が高いほど、ADの症状を示す可能性が高い。神経病理学的評価、すなわちADの病理学的変化が痴呆の根本にある原因である確率の推定については、ブラーク(ブラーク)Hによる提言が与えられている(www.alzforum.org)。
【0012】
本発明に記載の神経変性疾患または障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、前頭側頭性痴呆症、進行性核麻痺、大脳皮質基底核変性症、脳血管性痴呆症、多系統変性症、嗜銀性顆粒痴呆症およびその他のタウオパシー、および軽度の認知障害を含む。神経変性過程を含むその他の症状は、たとえば、加齢黄斑変性、ナルコレプシー、運動神経細胞疾患、プリオン病および外傷性神経損傷および修復、および多発性硬化症である。
【0013】
本発明は、特定の試料、AD患者の特定の脳領域において、および/または対照者と比較した、HIF3α−、別名HIF3アルファ−、別名HIF3aをコードするための遺伝子の同定、差次的発現、差次的調節および調節異常を開示する。本発明は、HIF3a mRNAレベルが上昇し、前頭皮質と比較して側頭皮質および/または海馬において上方調節され、または、側頭皮質および/または海馬と比較して前頭皮質において下方調節されるという点において、HIF3aに対する遺伝子発現が、AD罹患脳において変化し、無調節となることを開示する。さらに、本発明は、AD患者の前頭皮質および側頭皮質および/または海馬と比較して、年齢対応する対照健常者の前頭皮質および側頭皮質および/または海馬間でのHIF3a発現が異なることを開示する。年齢対応する対照健常者から取得した試料中にはこのような調節異常はみとめられなかった。HIF3aは、対照と比較してAD患者において、側頭皮質では上昇しているが、しかし、前頭皮質では上昇していない。この調節異常はおそらく、AD罹患脳におけるHIF3aシグナリングの病理学的変化と関連する。今日まで、HIF3a遺伝子発現の調節異常と神経変性疾患の病変との間の関係を示す、実験は記載されていない。同様に、どのHIF3a遺伝子における変異体も、該疾患と関連すると記載されていない。HIF3a遺伝子をこれら疾患と結びつけることによって、とりわけ、該疾患の診断および治療のための新しい方法を提供する。
【0014】
本発明は、AD患者の特定の脳領域をコードするHIF3aの調節異常を開示する。後側頭葉、内嗅皮質、海馬、および扁桃体内のニューロンが、ADにおける変性過程の影響を受ける(テリー(Terry)ら,Annals of Neurology 1981,10:184−192)。これら脳領域は、学習および記憶機能の処理において主に関与し、およびADにおける神経細胞脱落および変性に対する選択的な脆弱性を示す。対照的に、前頭皮質、後頭部皮質、および小脳神経細胞は、ほとんど無傷のままであり、および神経変性から保護されている。AD患者および年齢対応する対照健常者の前頭皮質(F)、側頭皮質(T)および海馬(H)に由来する脳組織は、本明細書中で開示される実施例に使用されている。その結果、HIF3a遺伝子およびその対応する転写および/または翻訳産物は、ADに典型的にみとめられる限局的な選択的神経細胞の変性において原因となる。あるいは、残存する神経細胞に対するHIF3aは神経保護的機能を有しうる。これら開示に基づいて、本発明は、神経変性疾患、とりわけADに対する素因の診断評価および予後予測、ならびに、同定に対して有用性を持つ。さらに本発明は、これら疾患に対する治療を受ける患者の診断監視のための方法を提供する。
【0015】
一態様では、本発明は、被験者において神経変性疾患を診断または予測診断する、または被験者が前記疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定する方法を扱う。その方法は:前記被験者由来の試料中の(i)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定すること、および、前記レベル、および/または、前記転写および/または前記翻訳産物の前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、および、前記レベル、および/または前記活性は既知の健康状態を表す参照値(対照)と比較して、異なりまたは改変され、および/または既知の疾患状態、好ましくはAD(AD患者)を表す参照値と同様または等しく、それによって前記被験者において前記神経変性疾患を診断または予測診断すること、または前記被験者が前記神経変性疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定することを含む。「被験者において」という言い回しは、被験者が罹患する疾患に結果が関係する限りの、すなわち、前記疾患が被験者「において」存在する、開示された方法の結果をいう。
【0016】
本発明はまた、本発明に開示される通りの核酸配列、またはその断片、または変異体に独自のプライマーおよびプローブの構築および用途に関する。そのオリゴヌクレオチドプライマーおよび/またはプローブは、蛍光、生物発光、磁性、または放射性物質で特異的に標識することができる。本発明はさらに、適当な組み合わせの前記特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いた、前記核酸配列、またはその断片および/または変異体の検出および製造に関する。PCR分析は、当業者によく知られた方法であるが、核酸を含む試料から前記遺伝子特異的核酸配列を増幅するために、前記プライマーの組み合わせを用いて実施することができる。そのような試料は、健常者または患者のどちらかから得ることができる。増幅の結果として特定の核酸産物を生じるかどうか、および異なる長さの断片を得ることができるかどうかは、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を示しうる。このように、本発明は、調べる核酸配列を含む任意の試料中の、神経変性疾患、特にアルツハイマー病と関連している可能性がある、遺伝子突然変異および一塩基多型の検出に有用な、少なくとも長さ10塩基、最大でコード配列および遺伝子配列全体の、核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー、およびプローブを提供する。この機能は、好ましくはまたキットの形式である、DNAに基づく迅速診断検査を開発するために有用である。HIF3aのプライマーの典型的な例は実施例(viii)に開示される。
【0017】
別の一態様では、本発明は被験者における神経変性疾患の進行を監視する方法を扱う。前記被験者由来の試料中の(i)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定する。前記レベルおよび/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較する。それによって前記被験者において前記神経変性疾患の、アルツハイマー病の、進行を監視する。
【0018】
さらに別の一態様では、本発明は、前記疾患について治療されている被験者由来の試料中の(i)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定することを含む、神経変性疾患の治療を評価する方法を扱う。前記レベル、または前記活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記神経変性疾患の、アルツハイマー病の、治療を評価する。
【0019】
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および用途の好ましい一実施形態では、低酸素誘導性因子(HIF)をコードするための前記遺伝子は、HIF3α、HIF−3アルファ、HIF3アルファまたは単にHIF3aとも呼ばれる、低酸素誘導性因子3アルファタンパク質をコードするための遺伝子である。遺伝子HIF3aは、配列番号6のcDNA配列(Genbank受入番号AK021421、GenbankデータベースからのESTおよびmRNA配列情報に基づいて補正された配列、図12を参照)によって表されるスプライス変異体(sv)HIF3a sv1とも呼ばれ、および、配列番号の7のcDNA配列(Genbank受入番号BC026308、GenbankデータベースからのESTおよびmRNA配列情報に基づいて補正された配列、図13を参照)によって表されるスプライス変異体HIF3a sv2とも呼ばれ、および、配列番号8のcDNA配列(Genbank受入番号AK027725、GenbankデータベースからのESTおよびmRNA配列情報に基づいて補正された配列、図14を参照)によって表されるスプライス変異体HIF3a sv3とも呼ばれ、および、配列番号9のcDNA配列(Genbank受入番号AK021653、GenbankデータベースからのESTおよびmRNA配列情報に基づいて補正された配列、図15を参照)によって表されるスプライス変異体HIF3a sv5とも呼ばれる。本発明では、ここで使用されている場合、前記配列は「単離」されている。さらに、本発明では、HIF3aタンパク質および開示されているすべてのスプライス変異体をコードする遺伝子は、HIF3a遺伝子、または単にHIF3aとも一般に呼ばれる。
【0020】
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および用途の別の好ましい一実施形態では、前記低酸素誘導性因子(HIF)タンパク質は、低酸素誘導性因子3アルファタンパク質であり、HIF3α、HIF−3アルファ、HIF3アルファまたはHIF3aとも呼ばれる。タンパク質HIF3aは、配列番号2(図8)およびHIF3a sv1のコード配列(配列番号10、図16)によって表されるHIF3aスプライス変異体1(sv1)タンパク質とも呼ばれ、および、配列番号3(図9)およびHIF3a sv2のコード配列(配列番号11、図17)によって表されるスプライス変異体2(sv2)タンパク質とも呼ばれ、および、配列番号4(図10)およびHIF3a sv3のコード配列(配列番号12、図18)によって表されるスプライス変異体3(sv3)タンパク質とも呼ばれ、および、Genbankデータベースのタンパク質BAB13865.1と類似している配列番号5(図11)およびHIF3a sv5のコード配列(配列番号13、図19)によって表されるスプライス変異体5(sv5)タンパク質とも呼ばれる。本発明では、ここで使用されている場合、前記配列は「単離」されている。さらに、本発明では、HIF3a遺伝子、HIF3a sv1、HIF3a sv2、HIF3a sv3、HIF3a sv5によってコードされた前記HIF3aタンパク質は、一般にHIF3aタンパク質、または単にHIF3aとも呼ばれる。
【0021】
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および用途の別の好ましい一実施形態では、前記神経変性疾患または障害はアルツハイマー病であり、および前記被験者はアルツハイマー病患者である。
【0022】
分析および測定する前記試料は、脳組織,脳細胞または他の組織または他の体細胞から成る群から選択されるのが好ましい。試料はまた、脳脊髄液または、唾液、尿、血液、血清、血漿、または粘液を含むその他の体液を含むことができる。好ましくは、本発明に記載の神経変性疾患の診断、予測診断、進行の監視、または治療の評価の方法は、体外で実施することができ、およびそのような方法は好ましくは、たとえば、被験者または患者または対照健常者から摘出、採取、または単離された体液または細胞といった試料に関する。
【0023】
さらに好ましい実施形態では、前記参照値は、前記神経変性疾患に罹患していない被験者由来の試料中の(対照健常者、対照試料、対照)、または、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を罹患している被験者由来の試料中の(患者試料、患者)、(i)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方の値である。
【0024】
好ましい実施形態では、既知の健康状態を表す参照値(対照試料)に対する、被験者に由来する試料細胞、または組織、または体液中の、HIF3aをコードする遺伝子の転写産物の、および/またはHIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、レベルおよび/または活性における変化、変化したレベルおよび/または活性が、神経変性疾患、特にADに罹患する診断、または予測診断、または高リスクを示す。
【0025】
別の好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の既知の疾患状態を表す参照値(AD患者試料)に対する、被験者に由来する試料細胞、または組織、または体液中の、HIF3aをコードする遺伝子の転写産物の、および/またはHIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、等しいかまたは類似のレベルおよび/または活性は、前記神経変性疾患に罹患する診断、または予測診断、または高リスクを示す。
【0026】
好ましい実施形態では、HIF3aをコードする遺伝子の転写産物のレベルの測定が、被験者から得られた試料において、被験者の試料から抽出されたRNAの逆転写によって得られたcDNAに由来する前記遺伝子特異的配列を増幅するために、プライマーの組み合わせを用いた定量的PCR分析を使用して実施される。プライマーの組み合わせは本発明の実施例(viii)に示されるが、本発明で開示される通りの配列から生成される他のプライマーもまた用いることができる。前記遺伝子に特異的なプローブを用いたノーザンブロットもまた適用することができる。チップを基礎とするマイクロアレイ技術によって転写産物を測定することがさらに好ましい。これらの手法は当業者に公知である(サムブルック(Sambrook)およびラッセル(Russell),『分子クローニング:実験の手引き』(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,2001;シェーナ(Schena)M.,『マイクロアレイバイオチップ技術』(Microarray Biochip Technology),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),2000を参照)。免疫測定法の一例は、特許出願国際公開第02/14543号パンフレットに開示され記載される通り、酵素活性の検出および測定である。
【0027】
さらに、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物のおよび/または前記翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体のレベルおよび/または活性、および/または、前記翻訳産物および/または前記翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の活性のレベルは、免疫測定法、活性測定法、および/または結合測定法によって検出することができる。これらの測定法は、前記タンパク質分子と抗タンパク質抗体との間の結合の量を、抗タンパク質抗体かまたはその抗タンパク質抗体と結合する二次抗体のどちらかに結合した、酵素、色力学、放射性、磁性、または発光標識を用いることによって測定することができる。加えて、他の高親和性リガンドを用いることができる。使用することができる免疫測定法は、たとえばELISA、ウェスタンブロット、および当業者に公知のその他の技術を含む(ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane),(Harlow and Lane,『抗体を用いて:実験の手引き』(Using Antibodies:A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1999およびエドワーズ(Edwards)R,『免疫診断:実践的手法』(Immunodiagnostics: A Practical Approach),オックスフォード大学出版会(Oxford University Press),英国オックスフォード,1999を参照)。これらの検出方法すべてはまた、マイクロアレイ、タンパク質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップ、またはタンパク質チップを基礎とする技術の形式で使用することができる(シェーナ(Schena)M.,『マイクロアレイバイオチップ技術』(Microarray Biochip Technology),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),2000を参照)。
【0028】
好ましい一実施形態では、前記疾患の進行を監視するため、ある期間にわたって前記被験者から採取された一連の試料中の(i)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が比較される。さらに好ましい実施形態では、前記被験者は前記試料収集の1回以上の前に治療を受ける。さらに別の好ましい一実施形態では、前記レベルおよび/または活性は、前記被験者の前記治療の前および後に測定される。
【0029】
別の一態様では、本発明は被験者において神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、または被験者の神経変性疾患、特にADを発症する傾向または素因を判定するためのキットを扱い、前記キットは下記を含む:
(a)(i)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬(ii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、から成る群から選択された少なくとも1つの試薬;および
(b)・前記被験者に由来する試料中の、HIF3aをコードする遺伝子の前記転写産物および/または前記翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出する;および神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、および/またはそのような疾患を発症する前記被験者の傾向または素因を判定する段階を記載することによる、神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、またはそのような疾患を発症する被験者の傾向または素因を判定するための指示であって、既知の健康状態を表す参照値(対照)と比較した前記転写産物および/または前記翻訳産物の、変化したレベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方、および/または、既知の疾患状態、好ましくはADの疾患状態を表す参照値と同様であるかまたは等しい、前記転写産物および/または前記翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、神経変性疾患、特にADの診断または予測診断、またはそのような疾患を発症する高い傾向または素因を示す。本発明に記載のキットは、神経変性疾患、特にADを発症するリスクがある人の特定に特に有用である可能性がある。
【0030】
別の一態様では、本発明は、被験者において神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断または予測診断する方法における、およびそのような疾患を発症する被験者の高い傾向または素因を判定する方法における、(i)前記被験者に由来する試料中の、HIF3aをコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出、および(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、前記レベルまたは活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の健康状態を表す参照値および/または既知の疾患状態を表す参照値と比較し、および前記転写産物および/または前記翻訳産物の前記レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、既知の健康状態を表す参照値と比較して変動し、および/または既知の疾患状態を表す参照値と類似または等しい段階を含むキットの使用を扱う。
【0031】
本発明の記載のキットは、疾患経過において不可逆的損傷が与えられる前に、特定された人を疾患の発症前の早期予防処置または治療的介入の対象とする方法となりうる。さらに、好ましい実施形態では、本発明で扱うキットは、被験者において神経変性疾患、特にADの進行を監視、および前記被験者のそのような疾患について治療的処置の成功または失敗を監視および評価するのに有用である。
【0032】
別の一態様では、本発明は、(i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方に直接的にまたは間接的に影響を及ぼす、治療的にまたは予防的に有効な量の一または複数の物質の前記被験者への投与を含む、被験者において神経変性疾患、特にADを治療または予防する方法を扱う。前記物質は低分子を含むことができ、またはペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドを含むこともできる。前記ペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドは、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物のアミノ酸配列、またはその断片、または誘導体、または変異体を含むことができる。本発明に記載の、神経変性疾患、特にADを治療するかまたは予防するための物質はまた、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドから成ることができる。前記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、HIF3aをコードする遺伝子のヌクレオチド配列を、センス方向かまたはアンチセンス方向のどちらかで含むことができる。
【0033】
好ましい実施形態では、本方法は前記の一または複数の物質を投与するための遺伝子治療および/またはアンチセンス核酸技術の本質的に既知である方法の応用を含む。一般的に、遺伝子治療はいくつかの手法を含む: 変異遺伝子の分子的置換、治療用タンパク質の合成を結果として生じる新しい遺伝子の付加、および組み換え発現方法によるかまたは薬剤による内因性細胞遺伝子発現の調節。遺伝子導入法は詳細に記載されており(たとえばベール(Behr),Ace Chem Res 1993,26:274−278およびムリガン(Mulligan),Science 1993,260:926−931を参照)、および細胞へのDNAの機械的マイクロインジェクションといった直接的遺伝子導入法、および生物ベクター(組み換えウイルス、特にレトロウイルスのような)またはモデルリポソームを用いる間接的方法、またはDNAのポリカチオンとの共沈を用いた遺伝子導入に基づく方法、化学的(溶媒、界面活性剤、ポリマー、酵素)または物理的手段(機械的、浸透圧、熱、電気ショック)による細胞膜の不安定化を含む。出生後の中枢神経系への遺伝子導入は詳細に記載されている(たとえばウォルフ(Wolff),Curr Opin Neurobiol 1993,3:743−748を参照)。
【0034】
特に、本発明は、アンチセンス核酸治療、すなわちある種の重要な細胞へのアンチセンス核酸またはその誘導体の導入による、不適切に発現されたかまたは欠陥のある遺伝子のダウンレギュレーションを用いた、神経変性疾患を治療するかまたは予防する方法を扱う(たとえばギレスピー(Gillespie),DN&P 1992,5:389−395;アグラワル(Agrawal)およびアクター(Akhtar),Trends Biotechnol 1995,13: 197−199;クルック(Crooke),Biotechnology 1992,10: 882−6を参照)。ハイブリダイゼーション戦略以外に、リボザイム、すなわち酵素として作用するRNA分子の、疾患のメッセージを運ぶRNAを破壊する適用もまた記載されている(たとえばバリナガ(Barinaga),Science 1993,262:1512−1514を参照)。好ましい実施形態では、治療される被験者はヒトであり、および治療的アンチセンス核酸またはその誘導体はHIF3aをコードする遺伝子の転写産物に対して向けられる。被験者の中枢神経系、好ましくは脳の細胞は、そのような方法で治療されるのが好ましい。細胞透過は、アンチセンス核酸およびその誘導体のキャリヤー粒子へのカップリング、または上記の方法といった既知の戦略によって実施することができる。標的化した治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与するための戦略は当業者に公知である(たとえばウィックシュトロム(Wickstrom),Trends Biotechnol 1992,10:281−287を参照)。一部の場合では、デリバリーは単なる局所投与によって実施することができる。別の手法はアンチセンスRNAの細胞内発現に向けられる。この戦略では、細胞は標的核酸の領域と相補的であるRNAの合成を指示する組み換え遺伝子を用いてex vivoで形質転換される。細胞内で発現されたアンチセンスRNAの治療的用途は、手続的に遺伝子治療と同様である。RNA干渉(RNAi)としてさまざまに知られる、二本鎖RNAを用いて遺伝子の細胞内発現を調節する近年開発された方法は、核酸治療のもう一つの有効な手法である可能性がある(ハノン(Hannon),Nature 2002,418:244−251)。
【0035】
さらに好ましい実施形態では、本方法は前記被験者の中枢神経系、好ましくは脳に、ドナー細胞、または好ましくは移植片拒絶を最小化または低減するように処理されたドナー細胞を移植することを含み、前記ドナー細胞は前記一または複数の物質をコードする少なくとも一つの導入遺伝子の挿入によって遺伝子組み換えされている。前記導入遺伝子は、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって運ばれうる。導入遺伝子は、導入遺伝子をコードするDNAの非ウイルス物理的遺伝子導入によって、特にマイクロインジェクションによってドナー細胞へ挿入することができる。導入遺伝子の挿入はまた、エレクトロポレーション、化学的媒介遺伝子導入、特にリン酸カルシウム遺伝子導入またはリポソーム媒介遺伝子導入によっても実施することができる(マクセランド(Mc Celland)およびパーディー(Pardee),『発現遺伝学:迅速および高処理量法』(Expression Genetics;Accelerated and High−Throughput Methods),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),1999を参照)。
【0036】
好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にADを治療および予防するための前記物質は、対象細胞を前記被験者に導入し、ここで前記対象細胞は前記治療用タンパク質をコードするDNA断片を挿入するためにin vitroで処理されており、前記対象細胞がin vivoで前記被験者において治療的に有効な量の前記治療用タンパク質を発現することを含む過程によって、前記被験者、好ましくはヒトに投与することができる治療用タンパク質である。前記DNA断片は、前記細胞へin vitroでウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって挿入することができる。
【0037】
本発明に記載の、治療の方法は、前記の細胞治療的および遺伝子治療的方法の任意のものと組み合わせた、治療的クローニング、移植、および胚性幹細胞または胚性生殖細胞および神経細胞性成体幹細胞を用いた幹細胞治療の適用を含む。幹細胞は全能性または多能性でありうる。それらはまた器官特異性でもありうる。罹患および/または損傷した脳細胞または組織を修復する戦略は、(i)ドナー細胞を成体組織から採取することを含む。これらの細胞の核は、遺伝物質が除去されている未受精卵細胞に移植される。胚性幹細胞は、体細胞核移植を受けた細胞の胚盤胞期から単離される。その時、分化因子の使用は、特化した細胞型、好ましくは神経細胞への幹細胞の分化誘導に繋がる(ランザ(Lanza)ら,Nature Medicine 1999,9:975−977)、または(ii)in vitroでの拡大およびその後の移植のために、中枢神経系から、または骨髄(間葉性幹細胞)から単離された成体幹細胞を精製する、または(iii)内因性神経幹細胞を直接、増殖、移動、および機能する神経細胞へ分化するように誘導する(ピーターソン(Peterson)DA,Curr.Opin.Pharmacol.2002,2:34−42)。成体脳の胚中心は神経細胞損傷または機能障害が存在しないため、成体神経幹細胞は、損傷したかまたは罹患した脳組織を修復する大きな可能性がある(コルマン(Colman)A,Drug Discovery World2001,7: 66−71)。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明に記載の治療または予防の被験者は、ヒト、実験動物、たとえばマウスまたはラットまたはハエ、家畜、または非ヒト霊長類であることができる。実験動物は、神経変性疾患の動物モデル、遺伝子改変動物、たとえば、好ましくはADの症状を示しAD型神経病理を示す、遺伝子導入マウスまたはハエおよび/またはノックアウトマウスまたはハエであることができる。
【0039】
別の一態様では、本発明は、(i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子を扱う。
【0040】
別の一態様では、本発明は、前記調節因子および好ましくは医薬キャリヤーを含む医薬組成物を扱う。前記キャリヤーは、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または調節因子と共に投与する媒体をいう。
【0041】
別の一態様では、本発明は、医薬組成物における用途のための(i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子を扱う。
【0042】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にADを治療するかまたは予防するための薬剤の調製のための(i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子の用途を提供する。
【0043】
一態様では、本発明はまた、治療的にまたは予防的に有効な量の前記医薬組成物を詰めた一個以上の容器を含むキットを提供する。
【0044】
別の一態様では、本発明はヒトおよび/またはマウスHIF3aをコードする遺伝子の非天然核酸分子のおよび翻訳産物、タンパク質分子の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13に示す核酸分子の、および配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5に示すタンパク質分子の、遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物である組み換え、遺伝子操作された非ヒト動物を作製するための標的分子としての用途を扱う。前記遺伝子操作非ヒト動物は、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスまたはラットまたはモルモットであることが好ましい。前記遺伝子操作非ヒト動物は、非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)といったハエであることがさらに好ましい。さらに、前記遺伝子操作非ヒト動物は、家畜、または非ヒト霊長類でありうる。一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、神経変性疾患に類似した神経病理の症状、特に、とりわけADの組織学的性質およびADに特徴的な行動変化を含む、AD(AD型神経病理)に類似した神経病理の症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す非ヒト動物を結果として生じる。別の一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた有益な作用のために、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示すおよび/またはADの症状を有しない非ヒト動物を結果として生じる。
【0045】
一態様では、本発明は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13に示す通りの、および配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5に示す通りの、HIF3aをコードする非天然遺伝子配列、またはその断片または誘導体、または変異体を含む組み換え、遺伝子操作非ヒト動物を扱う。HIF3aをコードする前記非天然遺伝子配列は、ヒトおよび/またはマウスHIF3a遺伝子配列でありうる。前記組み換え、遺伝子操作非ヒト動物の作製は、(i)配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13に示す通りの、および配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5に示す通りの、遺伝子標的構築物を産生するための、非天然核酸分子および翻訳産物、ヒトおよび/またはマウスHIF3aおよび/またはその断片、または誘導体、または変異体をコードする遺伝子のタンパク質分子の使用、(ii)ヒトおよび/またはマウスHIF3aの遺伝子配列、または断片、または前記遺伝子配列の変異体、および選択可能なマーカー配列を含む遺伝子ターゲッティング構造を提供、および(iii)前記ターゲッティング構造を非ヒト動物の幹細胞へ、胚性幹(ES)細胞へ導入、および(iv)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚へ導入、および(v)前記胚を偽妊娠非ヒト動物へ移植、および(vi)前記胚を満期まで発生させること、および(vii)ゲノムが一方または両方の対立遺伝子に前記遺伝子配列の修飾を含む遺伝子操作非ヒト動物を特定すること、および(viii)段階(vii)の遺伝子操作非ヒト動物を繁殖させて、ゲノムが前記内因性遺伝子の修飾を含む遺伝子操作非ヒト動物を得ることを含む。前記遺伝子操作非ヒト動物は、発現が異所性発現、または低発現、または過剰発現、または非発現である、組み換え、操作された遺伝子を発現することが好ましい。ヒトおよび/またはマウスHIF3aの遺伝子配列および選択可能なマーカー配列を含むそのようなターゲッティング構造、および、前記組み換え、操作されたHIF3a遺伝子の非ヒト遺伝子操作動物、好ましくはマウスもしくはハエのような動物における発現の例は本発明に開示される(実施例(xii)および図39から44を参照)。
【0046】
好ましい一実施形態では、前記遺伝子破壊または抑制または活性化または前記遺伝子操作の発現は、神経変性疾患の神経病理に類似した症状、特にADに類似した神経病理(AD型神経病理)の症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す前記非ヒト動物を結果として生じる。
【0047】
別の好ましい一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた、有益な作用でありうる作用のために、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示す、および/またはADの症状を有しない非ヒト動物を結果として生じる。
【0048】
本発明の別の好ましい一実施形態では、前記遺伝子操作非ヒト動物は、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスまたはラットまたはモルモットである。前記遺伝子操作非ヒト動物は、非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)といったハエであることがさらに好ましい。さらに、前記遺伝子操作非ヒト動物は、家畜、または非ヒト霊長類でありうる。前記遺伝子操作非ヒトは、遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物である。
【0049】
別の好ましい一実施形態では、前記組み換え、遺伝子操作非ヒト動物は、そのゲノムがヒトおよび/またはマウスHIF3a、またはその断片または誘導体、または変異体をコードするための非天然遺伝子配列を含み、(i)から(viii)の手順によっておよび本発明に記載の通り生成され、前記組み換え、当業において一般に知られているアルツハイマー病動物モデルと交雑させてアルツハイマー病のバックグラウンド上に遺伝子導入HIF3a動物および/またはHIF3aノックアウト動物を産生する。前記遺伝子操作非ヒト遺伝子導入HIF3a動物および/またはHIF3aノックアウト動物におけるアルツハイマー病病変に対する、HIF3a発現の影響は、組織学的分析、免疫組織化学および/または脳内の定量化びまん性および成熟したプラークによって、所定の細胞母数および/または炎症および神経変性の徴候の染色によって、およびさらに、Abetaの微分抽出および/またはタウタンパク質のリン酸化状態といった生物化学的分析によって、定義される。神経学的機能は、微小神経学的検査、ロータロッド、グリップ検査、ホットプレート試験、ゼロ迷路、オープンフィールド試験、Y迷路、Morris水迷路および/または能動的回避試験を含むがこれらに限定されない一連の行動試験によって評価される。さらに、前記非ヒト遺伝子導入HIF3a動物および/またはHIF3aノックアウト動物の表現型は、遺伝子発現分析、タンパク質検出法、および様々な臓器の組織病理を用いて分析される。
【0050】
別の好ましい一実施形態では、遺伝子導入HIF3a動物および/またはHIF3aノックアウト動物と交雑されるのに用いられるアルツハイマー病動物モデルは、ヒトアルツハイマー前駆体タンパク質(APP)および/またはAPPの突然変異型、たとえばスウェーデン変異を有するAPP、および/または文献に記載された通りの既知の変異を有するヒトプレセニリン−1または−2(ジェイナス(Janus)およびウェスタウェイ(Westaway),Physiology Behavior 2001,873−886;リチャーズ(Richards)ら,J.Neuroscience 2003,23:8989−9003)および/または既知の変異を有するヒトTau、たとえばP301L変異(ゴッツ(Gotz)ら,J.Biological Chemistry 2001,276:529−534)を発現する遺伝子導入マウスおよび/またはハエ、またはアルツハイマー様病理を発症するこれらまたは他のマウス突然変異体からの二または三遺伝子導入動物といった、アルツハイマー病マウスモデルが用いられる。さらに、ヒトAPP(hAPP)およびショウジョウバエプレセネリン遺伝子導入ハエといった遺伝子操作非ヒト動物が、たとえば、UAS−ウシTAU遺伝子導入ハエ、アクチン−GAL4ハエおよび/またはgmr−GAL4ハエといった、UAS−APP695IIおよびUAS−DPsn−変異体(L235P)として選択される。他のアルツハイマー病動物モデルは、神経原線維変化および/またはアミロイド斑を生じることができる組み換え動物モデル;ヒトまたはマウスtauまたは4反復アイソフォームまたはP301L変異tauといったtauアイソフォームのようなtauタンパク質をコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;アミロイド前駆体タンパク質または変異アミロイド前駆体タンパク質、またはβ−アミロイドをコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;セクレターゼ、ガンマ−セクレターゼ、ベータ−セクレターゼまたはアルファ−セクレターゼ、プレセニリン1またはプレセニリン2をコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;および上記の組み換え遺伝子の組み合わせを発現する任意の組み換え動物モデルでありうる。
【0051】
別の好ましい一実施形態では、前記交雑は、アルツハイマー病の背景で、神経変性疾患に類似の神経病理の症状、特に、とりわけADの組織学的性質およびADに特徴的な行動変化を含む、ADに類似の神経病理の症状(AD型神経病理)を発症するおよび/または示す強化および促進された素因を有する、HIF3aノックアウト動物および/または遺伝子導入HIF3a動物を結果として生じる。
【0052】
別の好ましい一実施形態では、前記交雑は、アルツハイマー病の背景で、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた有益な作用のために、AD症状が低減した、または神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、および/またはADの症状を有しないHIF3aノックアウト動物および/または遺伝子導入HIF3a動物を結果として生じる。
【0053】
遺伝子操作非ヒト遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物は、実験動物として、被験動物として、神経変性疾患についての動物モデルとして、好ましくはアルツハイマーについての動物モデルとして、用いることができる。神経病理学的性質を示すおよび/または症状の低減を示すそのような遺伝子操作非ヒト動物の例は、本発明に開示される(実施例(xii)および図面39から44を参照)。
【0054】
そのような遺伝子導入および/またはノックアウト動物の作製および構築のための戦略および技術は当業者に公知であり(たとえばカペッキ(Capecchi),Science 1989,244:1288−1292およびホーガン(Hogan)ら,『マウス胚操作:実験の手引き』(Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1994 およびジャクソン(Jackson)およびアボット(Abbott),『マウス遺伝学および遺伝子組み換え:実践的手法』(Mouse Genetics and Transgenics; A Practical Approach),オックスフォード大学出版会,英国オックスフォード,1999を参照)、および本発明に詳細に記載される(実施例(xii)を参照)。
【0055】
本発明の別の一態様では、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を調べるための動物モデルとして、そのような組み換え、遺伝子操作非ヒト動物、遺伝子導入またはノックアウト動物を利用するのが好ましい。そのような動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬および治療薬の開発において、化合物、物質、および調節因子を、スクリーニング、試験、および評価するのに有用な被験動物または実験動物でありうる。
【0056】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にAD、または (i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される一種類以上の物質の、関連する疾患および異常の、調節因子についてのスクリーニングのための測定法を扱い、その方法は下記を含む(a)神経変性疾患または関連する疾患または障害を発症する素因を有するかまたはすでに発症している、被験動物または実験動物または動物モデルへ被験化合物を投与、および(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定、および(c)等しく前記疾患を発症する素因を有するかまたはすでに発症している、およびそのような被験化合物が投与されていない、対応する対照動物中の前記物質の、活性および/またはレベルを測定、および(d)段階(b)および(c)の動物中の物質の活性および/またはレベルを比較し、ここで被験動物、または実験動物、または動物モデル中の物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患および障害の調節因子であることを示す。
【0057】
好ましい一実施形態では、本発明に開示される通り、前記被験動物、または実験動物、または動物モデルおよび/または前記対照動物は、天然HIF3a遺伝子転写調節配列でない転写調節配列の調節下にある、HIF3aをコードする遺伝子、またはその断片、または誘導体、または変異体を発現する、組み換え、遺伝子操作非ヒト動物である(下記参照)。
【0058】
別の一態様では、本発明に記載の遺伝子操作非ヒト動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療のための治療法、または調節物質、または化合物の有効性を測定または評価するためのin vivo検定法を提供する。
【0059】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にAD、または(i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される一種類以上の物質の、関連する疾患および異常の、調節因子についてのスクリーニングのための測定法を扱う。このスクリーニング方法は下記を含む(a)細胞を被験化合物、物質、または調節因子と接触させること、および(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方を測定すること、および(c)前記被験化合物と接触させていない対照細胞中の前記物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方を測定すること、および(d)段階(b)および(c)の細胞中の物質のレベルを比較し、ここで、接触させた細胞中の前記物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物、または物質、または調節因子が前記疾患および障害の調節因子であることを示し、前記調節因子は(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方でありうる。本発明で開示される通りの、HIF3aタンパク質を過剰発現する細胞、好ましくはHIF3a sv3タンパク質を安定に過剰発現する細胞といった、前記スクリーニング検定法で用いられる細胞の例を下記に示す(実施例(x)および図35)。前記細胞を用いる検定法の詳細な例が本発明で開示される(実施例(vi)および図19を参照)。遺伝子操作動物および細胞およびスクリーニング検定法の例は単なる説明であり、および開示の残りを限定することを決して意図しない。
【0060】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述のスクリーニング測定の方法によって神経変性疾患の調節因子を特定する、および(ii)調節因子を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記調節因子はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定することができる。
【0061】
別の一態様では、別の一態様では、本発明は、リガンドと、HIF3aにコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体との間の結合の阻害について、化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための測定法を提供する。前記スクリーニング測定法は、(i)前記HIF3a翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加える、および(ii)前記阻害についてスクリーニングする一または複数の化合物を前記複数の容器に加える、および(iii)検出可能な、好ましくは蛍光標識リガンドを前記容器に加える、および(iv)前記HIF3a翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体、および前記一または複数の化合物、および前記検出可能な、好ましくは蛍光標識リガンドをインキュベートする、および(v)前記HIF3a翻訳産物に、またはその前記断片、または誘導体、または変異体に結合した蛍光の量を測定する、および(vi)前記リガンドの、前記HIF3a翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への結合の、一種類以上の前記化合物による阻害の程度を測定する段階を含む。リガンドと前記HIF3a翻訳産物との間の結合の阻害を測定するためには、前記HIF3a翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体を、人工リポソーム中に再構成し、対応するプロテオリポソームを作製するのが好ましい可能性がある。界面活性剤からリポソームへのHIF3a翻訳産物の再構成の方法は詳しく説明されている(シュワルツ(Schwarz)ら,Biochemistry 1999,38:9456−9464;クリヴォシェフ(Krivosheev)およびウサノフ(Usanov),Biochemistry−Moscow 1997,62:1064−1073)。蛍光標識リガンドを利用する代わりに、一部の態様では、当業者に公知である任意のその他の検出可能な標識、たとえば放射性標識を用い、およびそれをしかるべく検出するのが好ましい可能性がある。前記方法は、新規化合物の同定に、および、HIF3aをコードする遺伝子の遺伝子産物、またはその断片、または誘導体、または変異体へのリガンドの結合を阻害する能力が改良されたかまたはそうでなければ最適化された化合物を評価するために有用である可能性がある。キャリヤー粒子の使用を基礎としたこの場合の蛍光結合測定法の一例は、特許出願国際公開第00/52451号パンフレットに開示され記載されている。別の一例は、特許国際公開第02/01226号パンフレットに記載された競合測定法である。本発明のスクリーニング測定法のために好ましいシグナル検出方法は、下記の特許出願に記載されている:国際公開第96/13744号、第98/16814号、第98/23942号、第99/17086号、第99/34195号、第00/66985号、第01/59436号および第01/59416号パンフレット。
【0062】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述の阻害結合測定法によって、化合物を、リガンドとHIF3aをコードする遺伝子の遺伝子産物との間の結合の阻害因子として特定する、および(ii)その化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定できる可能性がある。
【0063】
別の一態様では、本発明は、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物との、またはその断片、または誘導体、または変異体との前記化合物の結合の程度を測定する、化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための測定法を扱う。前記スクリーニング測定法は、(i)HIF3a翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加える、および(ii)前記結合についてスクリーニングする検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、または検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物を前記複数の容器に加える、および(iii)前記HIF3a翻訳産物と、またはその前記断片、または誘導体、または変異体と、前記検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、または検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物をインキュベートする、および(iv)前記HIF3aタンパク質と、またはその前記断片、または誘導体、または変異体と結合した好ましくは蛍光の量を測定する、および(v)前記HIF3a翻訳産物への、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への、一種類以上の前記化合物による結合の程度を測定する段階を含む。この型の測定では、蛍光標識を用いるのが好ましい。しかし、任意の他の種類の検出可能な標識もまた使用することができる。またこの型の測定では、HIF3a翻訳産物またはその断片、または誘導体、または変異体を、本発明に記載の通り、人工リポソーム中に再構成するのが好ましい可能性がある。前記測定法は、新規化合物の同定に、およびHIF3a翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体へ結合する能力が改良されたかまたはそうでなければ最適化された化合物を評価するために有用である可能性がある。
【0064】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述の結合測定法によって、HIF3a遺伝子の遺伝子産物への結合因子として化合物を特定する、および(ii)その化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定できる可能性がある。
【0065】
別の一実施形態では、本発明は、ここで請求するスクリーニング測定法に記載の方法のうち任意のものによって得ることができる薬剤を提供する。別の一実施形態では、本発明は、ここで請求するスクリーニング測定法に記載の方法のうち任意のものによって得られた薬剤を提供する。
【0066】
本発明は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5に示される、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、またはその断片、または誘導体、または変異体、および、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断標的としてのその用途を扱う。
【0067】
さらに、本発明は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5に示される、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、またはその断片、または誘導体、または変異体、および、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防、または治療、または改善する試薬または化合物についてのスクリーニング標的としての用途のためのその用途を扱う。
【0068】
本発明は、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、配列番号2または配列番号3または配列番号4または配列番号5、またはその断片、または誘導体、または変異体である免疫原と、特異的に免疫反応する抗体を扱う。その免疫原は、前記遺伝子の翻訳産物の免疫原性または抗原性のエピトープまたは部分を含むことができ、ここで翻訳産物の前記免疫原性または抗原性部分はポリペプチドであり、および前記ポリペプチドは抗体反応を動物において導き、前記ポリペプチドは前記抗体によって免疫特異的に結合している。抗体を作製する方法は本分野でよく知られている(ハーロウ(Harlow)ら,『抗体−実験の手引き』(Antibodies,A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(ColdSpring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1988を参照)。本発明で使用される「抗体」の語は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、組み換え、抗イディオタイプ、ヒト化、または一本鎖抗体、およびその断片といった、当該分野で既知のすべての型の抗体を包含する(デュベル(Dubel)およびブライトリンク(Breitling),『組み換え抗体』(Recombinant Antibodies),ワイリー・リース社(Wiley−Liss),ニューヨーク州ニューヨーク,1999)。本発明の抗体は、たとえば(ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane),(Harlow and Lane,『抗体を用いて:実験の手引き』(Using Antibodies:A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1999およびエドワーズ(Edwards)R,『免疫診断:実践的手法』(Immunodiagnostics:A Practical Approach),オックスフォード大学出版会(Oxford University Press),英国オックスフォード,1999を参照)、酵素免疫測定法(たとえば酵素結合免疫吸収測定法、ELISA)、ラジオイムノアッセイ、化学発光免疫測定法、ウェスタンブロット、免疫沈降法、および抗体マイクロアレイといった、最先端の方法を基礎とするさまざまな診断および治療方法で有用である。これらの方法は、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の検出を含む。
【0069】
本発明の好ましい一実施形態では、前記抗体は被験者に由来する試料中の細胞の病理状態を検出するのに用いることができ、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学染色を含み、ここで既知の健康状態を表す細胞と比較した前記細胞における染色の程度の変化、または染色パターンの変化は、前記細胞の病理状態を示す。好ましくは、病理状態は神経変性疾患、特にADに関係する。細胞の免疫細胞化学染色は、本分野でよく知られたいくつかの異なる実験法によって実施することができる。しかし、抗体結合の検出には自動化法を適用するのが好ましく、ここで、細胞の染色の程度の判定、または細胞の細胞染色または細胞成分染色のパターンの判定、または細胞表面上または細胞内のオルガネラおよびその他の細胞下構造の間の抗原のトポロジカルな分布は、米国特許第6150173号明細書に記載の方法に従って実施される。
【0070】
本発明のその他の特性および利点は、単なる説明であり、および開示の残りを限定することを決して意図しない下記の図および実施例の説明から明らかになる。
【実施例】
【0071】
(i)AD患者由来の脳組織解剖:
AD患者および対応する年齢の対照被験者由来の脳組織(側頭皮質、T、前頭皮質、F、海馬、H)を死後平均5時間以内に採取し、直ちにドライアイス上で凍結した。診断の組織病理的確認のため、各組織からの試料切片はパラホルムアルデヒドで固定した。発現差の分析のための脳の部分を特定し、RNA抽出を実施するまで-80℃にて保存した。
【0072】
(ii)総mRNAの単離:
総RNAは、RNeasyキット(キアゲン(Qiagen))を取扱説明書に従って使用することによって、死後脳組織から抽出した。正確なRNA濃度およびRNA品質は、DNAラブチップ(LabChip)系を用いてアジレント(Agilent)2100バイオアナライザー(アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))を使用して測定した。調製したRNAの追加の品質試験、すなわち部分分解の排除およびDNA混入に関する試験は、特に設計したイントロンGAPDHオリゴヌクレオチドおよび参照対照としてゲノムDNAを使用して、ライトサイクラー(LightCycler)技術を取扱説明書(ロシュ(Roche))に従って用いて融解曲線を作成した。
【0073】
(iii)cDNA合成およびRsaIの切断
異なる組織中の遺伝子発現の変化を同定するために、cDNA合成、抑制サブトラクティブ・ハイブリダイゼーション(SSH)、およびSSHに由来する多様なcDNAプローブによるマイクロアレイチップのスクリーニングを組み合わせたスクリーニング法を採用した。この技法は、mRNAの異なる母数を比較し、および、細胞の一母集団では発現するが、細胞の他の母集団では発現しないか、低レベルしか発現しない遺伝子のクローンを提供する。本発明では、AD患者および対応する年齢の対照被験者の死後の脳組織(前頭および側頭皮質)から選択されたRNA母集団を比較した。
【0074】
抑制サブトラクティブマイクロアレイ分析用の開始物質として、上記(ii)の通り総RNAを抽出した。好ましくは完全長のcDNAの産生のために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく手法である「SMARTcDNA合成」を製造業者(クロンテック(Clontech))の手順書通りに実施した。「SMARTcDNA合成」の原理は詳細に記載されている、(チェンチック(Chenchik)ら,『遺伝子クローニングおよびRT−PCRによる分析』、eds. シーバート(Siebert)およびラリック(Larrick)、Biotechniques Books、ナティック(Natick) 1998:305−320)。SMARTcDNA合成のためには、それぞれ8μgの総RNAを含有する4個のRNAプールを調製した。各プールは、4つの異なる、すなわち、対照脳の下前頭皮質(CF)由来および下側頭皮質(CT)由来の、患者脳の下前頭皮質(PF)由来および下側頭皮質(PT)由来の、試料をそれぞれ2μg含有する。量が1μgの総RNA混和物を、50μlの反応体積中で利用した(PCRサイクラー:マルチサイクラーPTC200、MJリサーチ(MJ Research))。第2のSMART PCR手順を、19サイクルを用いて実施した。SuperScript II RNaseH 逆転写酵素および5x一本鎖緩衝液(インビトロゲン(Invitrogen))を用いた。
【0075】
PCR産物の抽出および精製の後、30U RsaI(MBIファーメンタス(MBI Fermentas))を用いて37℃にて2.5時間制限切断を実施した。RsaI制限部位は、二本鎖(ds)cDNAの普遍的なプライミング部位中に配置されている。切断の品質をアガロースゲル電気泳動によって分析し、切断した試料を精製し(QIAquick PCR精製キット、キアゲン(Qiagen))、およびcDNA濃度を紫外分光光度法(バイオラッド(Biorad))によって決定した。
【0076】
(iv)抑制サブトラクティブ・ハイブリダイゼーション(SSH)
抑制サブトラクティブ・ハイブリダイゼーションを用いて、4つのSMARTcDNAプール(iii)を比較した。これによって、異なって発現する遺伝子を含有するcDNAのプールは「テスター」と、参照cDNAプールは「ドライバー」と指定される。2つのプールがハイブリダイズされ、および両方のプールに存在するすべてのcDNAは排除される。すなわち、ドライバー−プールはテスター−プールからサブトラクトされる。こうして、テスター母集団に主に発現する遺伝子のクローンを入手する。
【0077】
「PCR選択cDNAサブトラクションキット」を使用して、サブトラクティブ・ハイブリダイゼーション(クロンテック(Clontech))を実施した。対照脳の前頭および側頭皮質(CFおよびCT)由来の、および患者脳(iii)の前頭および側頭皮質(PFおよびPT)由来の「テスター」SMARTcDNAプールを、それぞれ2つのプールへとさらに分割した。それぞれのプールを、アダプター1またはアダプター2でリゲーションし、こうして、6つの異なる「テスター」cDNAプールを取得した。3つの「ドライバー」SMARTcDNAプール、CT、PFおよびPTは、リゲーションされていないままであった。異なって発現する配列を濃縮するために使用される第1のハイブリダイゼーション手順では、下記の3つの異なる「テスター」SMARTcDNAプールを、下記の過剰分の「ドライバー」SMARTcDNAと組み合わせた:SSH(1):PF−「テスター」およびPT−「ドライバー」;SSH(2):PT−「テスター」およびPF−「ドライバー」;SSH(3):CT−「テスター」およびPT−「ドライバー」; SSH(4):PT−「テスター」およびCT−「ドライバー」。98℃にて1.5分間の変性手順の後、68℃にて8時間ハイブリダイゼーションを実施した。第2の手順では、アダプター1または2にそれぞれリゲーションした「テスター」SMARTcDNAプールの2つの対応する一次ハイブリダイゼーション試料を、混和し、および、前に使用した過剰な「ドライバー」SMARTcDNAプールと68℃にて15時間再ハイブリダーゼーションした。こうして、後に続く増幅に適した、すなわち5’位端および3’位端に両アダプター配列を有し、およびしたがって異なるアニール部位を有する、二本鎖cDNAを産生した。下記のPCR手順を適用して、効率的に増幅された特異的産物を取得し、および非特異的増幅を抑制した。第1のPCRでは、DNA−ポリメラーゼ活性によってアダプターの欠損する鎖を充填した。取得したハイブリダイゼーション産物1μlをそれぞれ、25μlの最終体積中に対応する「プライマー1」(10μM)(クロンテック(Clontech))を、1xPCR反応緩衝液(クロンテック(Clontech))、10mMのdNTP−Mix(dATP、dGTP、dCTP、dTTP、アマシャムファルマシアバイオテック(Amersham Pharmacia Biotech)、および0.5μlの50xAdvantage cDNAポリメラーゼ混合物(クロンテック(Clontech))とともに用いて、PCRにそれぞれ供した。PCR条件を下記の通り設定した:75℃にて5分間の1ラウンド、その後、27ないし30サイクル:94℃にて30秒間、64℃ないし66℃にて30秒、72℃にて1.5分間。72℃にて5分間の最後の一手順を最後のサイクルに追加した。第2のネスティッドPCRを、「プライマー1」の代わりにネスティッドプライマー「ネスティッドプライマー 1」および「2R」を用い、66℃ないし68℃のアニール温度および12ないし15サイクルを適用したことを除いて、第1のPCRについて記載した通りに実施した。異なる条件によって取得したPCR産物を後に続く分析のためにプールした。使用したプライマー配列は、供給業者(クロンテック(Clontech))の取扱説明書の付属書Bを参照のこと。
【0078】
(v)サブトラクトされたPCR産物のクローニングおよびDNAバイオチップの産生
4つの異なる組み合わせSSH(1)−SSH(4)、(iv)を参照、のSSH SMART二本鎖cDNAを、pCR2.1−ベクターへとリゲーションし、および製造業者の取扱説明書(TAクローニングキット、インビトロゲン(Invitrogen))に従ってINVアルファF‘細胞へと形質転換した。細菌コロニーを取り出し、および「ネスティッドプライマー1」および「ネスティッドプライマー2」を用いて、MTP上のコロニーPCRで分析した(マイクロタイタープレート、96ウェル、アブゲン(Abgene))。90%を上回る陽性クローンを示すMTPを、調製コロニーPCRアプローチに供した。1ウェルあたり、下記のPCR混合物を生成した:最終体積120μl中の、対応するオリゴヌクレオチド「ネスティッドプライマー1」および「ネスティッドプライマー2」(各0.5μM)、1xチタニウムPCR緩衝液(クロンテック(Clontech))、200μMのdNTP−Mix(アマシャムファルマシアバイオテック(Amersham Pharmacia Biotech))、0.2xチタニウム Taq DNA−ポリメラーゼ(クロンテック(Clontech))。PCR条件を下記の通り設定した:変性のための94℃にて30秒間の1ラウンド、次のラウンドに35サイクル:94℃にて30秒および68℃にて3分間。増幅した産物の品質を確認および分析し(DNAラボチップ(LabChip)系、アジレント(Agilent)2100バイオアナライザー、アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))、引き続き精製した(マルチスクリーンPCR精製システム、ミリポア(Millipore))。
【0079】
さらに、下記の標準対照試料を産生した:3つの異なるシロイヌナズナ遺伝子、polyA−DNA、サケ精子DNA、ヒトCot−1 DNA、および3xSSC緩衝液を陰性対照として用い(マイクロアレイバリデーションシステム、Stratagene(ストラタジーン));ベータアクチンおよびXenopus cDNAを正規化対照として用いた。
【0080】
いくつかのMTPは、1プレートあたり96の異なるクローンの増幅産物を有するそれぞれのSSHの組み合わせSSH(1)−(4)から成る。増幅された産物は、ジーンスキャン・ヨーロッパ(GeneScan Europe)によって、GAPSグラススライド(CMT−GAPS、コーニング(Corning))上に3部スポットされた。
【0081】
(vi)プローブ合成およびDNAバイオチップのスクリーニングによる異なって発現する遺伝子の同定
A:cDNAプローブ合成
シアニン3(Cy3)およびシアニン5(Cy5)で標識したcDNAプローブの生成のための開始物質として、総RNAを抽出し、および上記(ii)および(iii)のように用いた。2μgの総RNAおよび追加的な2ngのXenopusRNA(標準RNA)の混合物を、1つの標識反応あたり2試料を、特異的逆転写酵素反応に供し、それによってpolyA−mRNAをフルオレセイン−12−dCTP(FL)またはビオチン−11−dCTP(B)で標識したcDNAへと変換する。対照脳の前頭皮質(CF)に由来するRNA試料はフルオレセインで、患者脳の側頭皮質(PT)に由来するRNAはビオチンでそれぞれ標識した。cDNA反応は、マイクロマックスTSAラベリング手順書(ネンライフサイエンス(NEN Life Science))に従って実施した。精製されたcDNAプローブを、ハイブリダイゼーション緩衝液中で再懸濁し、および100℃にて7分間変性する。引き続き、フルオレセイン−標識反応の半量(すなわち1μgのRNA)およびビオチン−プローブの半量を、5xSSC、0.1%SDS、25%ホルムアミド緩衝液中で混合し、およびプレハイブリダイズした(5xSSC、0.1%SDS、1%BSA、42℃にて45分間)1枚のマイクロアレイ上に均一に塗布した。アレイハイブリダイゼーションを42℃にて一晩実施した。
【0082】
高厳密度の洗浄手順の後、TSA検出キット手順書(ネンライフサイエンス(NEN Life Science))の取扱説明書に従って、結合したフルオレセイン−およびビオチン標識プローブの検出を実施した。これによって、第1の手順では、抗FL−HRP(フルオレセイン−ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ)はFL標識cDNAプローブと結合し、およびHRPは蛍光レポーターCy3タイラミドの沈積を触媒する。第2の手順では、ストレプトアビジン−ホースラディッシュはB標識cDNAプローブに結合し、および蛍光レポーター分子Cy5タイラミドの沈積を触媒する。バイオチップ3をcDNA混合物PF(Cy3)およびPT(Cy5)でハイブリダイズした。適切な波長(635nm、532nm)でマイクロアレイを走査することによって、両方のシアニン染料を同時に検出することができた。
【0083】
B:SMARTプローブ合成
シアニン3(Cy3)およびシアニン5(Cy5)で標識したSMARTcDNAプローブの産生のために、PCRに基づく手法「SMART cDNA合成」を(iii)節に記載の通り実施した。ここでは著者らは開始物質として、上記(ii)に記載の通り抽出した総RNAを用いた。4つのRNA混合物を(iii)節に記載の通り調製した。それぞれ1μgのRNA混合物および1ngのXenopus総RNAをSMARTcDNA反応に供した。PCR増幅、cDNAの抽出および精製、RsaIによる制限切断および後に続く切断された試料の精製は、(iii)節を参照。
【0084】
SMARTcDNA試料を、Cy3またはCy5(アトラス(Atlas)ガラス蛍光標識キット、クロンテック(Clontech))のいずれかで標識した。第1の標識手順では、脂肪族アミノ基、すなわちアミノアリル−dUTP(クロンテック(Clontech))を、変性した(100℃、7分間)RsaIで切断したPCR産物へと組み入れた。反応は、クレノウ断片(MBIファーメンタス(MBI Fermentas))によって触媒した。第2の標識手順において、蛍光レポーター染料Cy3またはCy5を組み込まれた官能基に結合させた。精製したCy3およびCy5標識SMARTcDNAプローブ(アトラスヌクレオスピン(NucleoSpin)抽出キット、クロンテック(Clontech))を、100℃にて7分間変性させた後、ハイブリダイゼーション緩衝液(5xSSC、0.1%SDS、25%ホルムアミド)中で再懸濁した。引き続き、Cy3標識SMARTプローブをCy5標識SMARTプローブと混合し、およびプレハイブリダイズした(5xSSC、0.1%SDS、1%BSA、42℃にて45分間)1枚のマイクロアレイ上に均一に塗布した。アレイハイブリダイゼーションを42℃で一晩実施した。TSA検出キット手順書(ネンライフサイエンス(NEN Life Science))の取扱説明書に従って、バイオチップの高厳密度の洗浄手順を続いて行った。バイオチップ2および7をSMARTcDNA混合物PF(Cy3)およびPT(Cy5)でハイブリダイズした。適切な波長(635nm、532nm)でマイクロアレイを走査することによって、両方のシアニン染料を同時に検出することができた。
【0085】
C:サブトラクションプローブ合成
シアニン3(Cy3)およびシアニン5(Cy5)で標識したSSHcDNAプローブの産生のために、PCRに基づく手法「SMARTcDNA合成」を(iii)節に記載の通り実施した。ここでは著者らは開始物質として、上記(ii)に記載の通り抽出した総RNAを用いた。4つのRNA混合物を(iii)節に開示する通り調製した。それぞれ1μgのRNA混合物をSMART cDNA反応に供した。PCR増幅、cDNAの抽出および精製、RsaIによる制限切断および後に続く切断された試料の精製は、(iii)節を参照。サブトラクティブ・ハイブリダイゼーションのために、PCR選択cDNAサブトラクションキット(クロンテック(Clontech))を、(iv)節で詳細に記載される通り利用した。組み合わせSSH(1)およびSSH(2)、および組み合わせSSH(3)およびSSH(4)のサブトラクトされたPCR産物を、それぞれ精製し(ストラタクリーン(StrataClean)キット、Stratagene(ストラタジーン))、および、アダプター1および2をRsaIおよびSmaI(MBIファーメンタス(MBI Fermentas))による制限切断によって除去した。SSH cDNAプールをCy3またはCy5(アトラス(Atras)ガラス蛍光標識キット、クロンテック(Clontech))のいずれかで標識した。第1の標識手順では、脂肪族アミノ基、すなわちアミノアリル−dUTP (クロンテック(Clontech))を、変性した(100℃、7分間)RsaIおよびSmaIで切断したSSH cDNA産物へと組み入れた。反応は、クレノウ断片(MBIファーメンタス(MBI Fermentas))によって触媒した。第2の標識手順において、蛍光レポーター染料Cy3およびCy5を、組み込まれた官能基に結合させた。
【0086】
精製したCy3およびCy5標識SSH cDNAプローブ(精製については、アトラス(Atlas)ヌクロスピン(NucleoSpin)抽出キット、クロンテック(Clontech)を参照)を、100℃にて7分間変性させた後、ハイブリダイゼーション緩衝液(5xSSC、0.1%SDS、25%ホルムアミド)中で再懸濁した。引き続き、Cy3標識SSH1プローブをCy5標識SSH2プローブと、およびCy3標識SSH3プローブをCy5標識SSH4プローブと、それぞれ混合した。それぞれの組み合わせを、プレハイブリダイズした(5xSSC、0.1%SDS、1%BSA、42℃にて45分間)1枚のマイクロアレイ上に均一に塗布した。アレイハイブリダイゼーションを42℃にて一晩実施した。TSA検出キット手順書(ネンライフサイエンス(NEN Life Science))の取扱説明書に従って、バイオチップの高厳密度の洗浄手順を続いて行った。バイオチップ1および4を、SSH(1)(Cy3)とSSH(2)(Cy5)のcDNA混合物、およびSSH(3)(Cy3)とSSH(4)(Cy5)の混合物で、それぞれハイブリダイズした。適切な波長(635nm、532nm)でマイクロアレイを走査することによって、両方のシアニン染料を同時に検出することができた。
【0087】
(vii)DNAバイオチップデータの評価
635および532nmでそれぞれ測定された、Cy3およびCy5に対する蛍光生データは、(cDNA1個あたり3スポットのそれぞれについて)数倍にされた。一連の測定は、スポット部分(シグナル)内で実施し、および他の一連の測定を近傍で行った(バックグラウンド)。引き続きスポットの正味蛍光強度(FI635、FI532)を下記の通り算出した:
FI635/532=(M FIスポット−1 SD FIスポット)−(M FIバックグラウンド+1 SD FIバックグラウンド
【0088】
この算出において、Mはスポットあたりの反復測定の中央値、SDは対応する中央値の標準偏差を定義する。続いて、FI635およびFI532の値が2より大きい場合、およびFI635およびFI635の値が2未満で第2の波長に対応する値が3より大きい場合のみ、さらなる評価のために検討される。
【0089】
類似した方法で、Xenopus cDNA対照および一組の標準(ハウスキーピング)遺伝子に対応する値を評価した。Xenopus cDNAを、疾患関連mRNAのDNA合成の効率に対する内部キャリブレーターとして用いた。次に、バックグラウンドを補正した3つの複製スポットのFI635/532の中央値から、統計的平均値を算出し、およびcDNAプローブに対するシグナル比Rを公式を用いて導き出した:
635/532=FI635、較正済/FI532、較正済
【0090】
最後の評価手順では、異なるハイブリダイゼーションの結果を論理的一貫性について考慮した。
【0091】
(viii)発現の差の定量RT−PCR分析による確認:
側頭皮質対前頭皮質における、および海馬対前頭皮質におけるヒトHIF3a遺伝子の発現レベルの差の裏付けを、ライトサイクラー(LightCycler)技術(ロシュ((Roche))を用いて分析した。この方法は、ポリメラーゼ連鎖反応についての迅速熱サイクリング、および増幅中の蛍光シグナルのリアルタイム測定を扱い、およびしたがって、終点計測値でなく動力学を用いたRT−PCR産物の高精度な定量を可能にする。AD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の側頭皮質由来、AD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の前頭皮質由来、AD患者および対応する年齢の健常対照者の海馬由来の、HIF3acDNAの比、およびAD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の側頭皮質および前頭皮質由来のHIF3acDNAの比、およびAD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の海馬および前頭皮質由来のHIF3acDNAの比をそれぞれ測定した(相対的定量)。
【0092】
HIF3aの、前頭皮質組織(F)と下側頭皮質組織(T)との間のmRNA発現プロファイリングを、各ブラーク病期につき4〜最大9の組織で分析した。ブラーク3病理を有するドナー1名からの高品質組織が無かったため、ブラーク3病理を有する追加の1名のドナーの組織を含め、およびブラーク6病理を有するドナー1名からの高品質組織が無かったため、ブラーク5病理を有する追加の1名のドナーの組織試料を含めた。
【0093】
プロファイリングの分析のため、2つの一般的手法を用いている。HIF3aの、AD生理における関連の複合像に寄与する、下側頭皮質に対する前頭皮質、およびAD患者に対する対照の両方の比較プロファイリング試験を下記に詳細に示す。
【0094】
1)対照の、およびAD患者の、前頭皮質組織と下側頭皮質組織との間のmRNA発現の相対比較。
【0095】
この手法は、同定されたHIF3aが、変性に対する脆弱性のより低い組織(前頭皮質)の保護に関与しているか,または、脆弱性のより高い組織(下側頭皮質)の変性過程に関与するかまたはそれを促進するかを検証することを可能にした。
【0096】
最初に、PCRの効率を測定するため、HIF3aスプライス変異体1をエンコードする遺伝子についての特異的プライマー:
5’−GGGCTCAAGTGATCCTCCTACTT−3’(配列番号6、ヌクレオチド1466−1488)および5'−CATGATGGCACATAGCTGCAGT−3'(配列番号6、ヌクレオチド1510−1531)を用いて、および;
HIF3aスプライス変異体2をエンコードする遺伝子のための特異的プライマー:5’−TTTGCGTGAACCTCTGCTTAAG−3’(配列番号7、ヌクレオチド1305−1326)および5’−CACCATGCCAGGCCAAAT−3’(配列番号7、ヌクレオチド1360−1377)を用いて、および;
HIF3aスプライス変異体3をエンコードする遺伝子のための特異的プライマー:5’−TCTCTGGCCCTCATTACCTAGCT−3’(配列番号8、ヌクレオチド1866−1888)および5’−CTGTATGACCCTCAACCAGCC−3’(配列番号8、ヌクレオチド1935−1955)および;
HIF3aスプライス変異体5をエンコードする遺伝子のための特異的プライマー:5'−ACTCTTGGTCTCCCACAGGAAA−3'(配列番号9、ヌクレオチド2318−2339)および5'−AACAGAGCGAGCAGTGCCTT−3'(配列番号9、ヌクレオチド2380−2399);
を用いて、標準曲線を作成した。
【0097】
PCR増幅(95℃で1秒間,56℃で5秒間、および72℃で5秒間)を、ライトサイクラー・ファストスタートDNAマスターSYBRグリーンI(LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I)混合物(ファストスタートTaqDNAポリメラーゼ、反応緩衝液、dTTPの代わりにdUTPを含むdNTP混合物、SYBRグリーンI色素、および1mM MgCl;ロシュ(Roche))、0.5μMプライマー、2μlのcDNA希釈系列(終濃度40、20、10、5、1および0.5ngヒト脳総cDNA;クローンテック(Clontech))および、使用プライマーに応じて追加の3mM MgClを含む20μl容量中で実施した。
融解曲線分析は、約83.5℃にてHIF3aスプライス変異体1遺伝子特異的プライマーについて、78℃にてHIF3aスプライス変異体2遺伝子特異的プライマーについて、82℃にてHIF3aスプライス変異体3遺伝子特異的プライマーについて、85℃にてHIF3aスプライス変異体5遺伝子特異的プライマーについて、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物の品質および大きさはDNAラブチップ(LabChip)システムを用いて測定した (アジレント2100バイオアナライザー、アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))。試料の電気泳動図でHIF3aスプライス変異体1遺伝子について66bpの予測サイズに、HIF3aスプライス変異体2遺伝子について73bpに、およびHIF3aスプライス変異体3遺伝子について90bpに、HIF3aスプライス変異体5遺伝子について82bpにそれぞれ、単一ピークが観察された。
【0098】
同様の方法で、PCR手順を適用して、定量用の参照標準として選択された参照遺伝子の組のPCR効率を測定した。本発明では、5種類のそのような参照遺伝子の平均値を測定した;(1)シクロフィリンB、特異的プライマー、
5'−ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3' および5'−AGCCGTTGGTGTCTTTGCC−3'を用いMgClを省いて(別に1mMを3mMの代わりに加えた)。融解曲線分析は約87℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(62bp)の単一バンド一本を示した。(2)リボソームタンパク質S9(RPS9)、特異的プライマー5'−GGTCAAATTTACCCTGGCCA−3'および5'−TCTCATCAAGCGTCAGCAGTTC−3'を用いて(例外;別に1mM MgClを3mMの代わりに加えた)。融解曲線分析は約85℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(62bp)を有する単一バンド一本を示した。(3)ベータアクチン、特異的プライマー5'−TGGAACGGTGAAGGTGACA−3'および5'−GGCAAGGGACTTCCTGTAA−3'を用いて。融解曲線分析は約87℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(142bp)を有する単一バンド一本を示した。(4)GAPDH、特異的プライマー51CGTCATGGGTGTGAACCATG−3'および5'−GCTAAGCAGTTGGTGGTGCAG−3'を用いて。融解曲線分析は約83℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(81bp)を有する単一バンド一本を示した。(5)トランスフェリン受容体TRR、特異的プライマー5'−GTCGCTGGTCAGTTCGTGATT−3'および5'−AGCAGTTGGCTGTTGTACCTCTC−3'を用いて。融解曲線分析は約83℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(80bp)を有する単一バンド一本を示した。
【0099】
値の計算のために、まずcDNA濃度の対数を、HIF3aをコードする遺伝子について、すなわちHIF3aスプライス変異体1、HIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3およびHIF3aスプライス変異体5について、および5種類の参照標準遺伝子についてのサイクル数閾値Cに対してプロットした。標準曲線の傾きおよび切片(すなわち直線回帰)をすべての遺伝子について計算した。次の段階で、前頭皮質由来、側頭皮質由来、および海馬由来のcDNAを、それぞれ平行して分析しシクロフィリンBに対して正規化した。C値を測定し、対応する標準曲線を用いてng総脳cDNAに変換した:
10^((C値−切片)/傾き) [ng総脳cDNA]
【0100】
側頭および前頭皮質についての値、HIF3a cDNAの海馬および前頭皮質についての値(すなわち、HIF3aスプライス変異体1、HIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3および/またはHIF3aスプライス変異体5それぞれについて)およびAD患者(P)および対照者(C)の前頭皮質HIF3a cDNAからの値、およびAD患者(P)および対照者(C)の側頭皮質HIF3a cDNAについての値は、シクロフィリンBに対して正規化し、および比を下記の式に従って計算した:

HIF3a側頭[ng]/シクロフィリンB側頭[ng]
比=−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
HIF3a前頭[ng]/シクロフィリンB前頭[ng]

HIF3a海馬[ng]/シクロフィリンB海馬[ng]
比=−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
HIF3a前頭[ng]/シクロフィリンB前頭[ng]

HIF3a(P)側頭[ng]/シクロフィリンB(P)側頭[ng]
比=−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
HIF3a(C)側頭[ng]/シクロフィリンB(C)側頭[ng]

HIF3a(P)前頭[ng]/シクロフィリンB(P)前頭[ng]
比=−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
HIF3a(C)前頭[ng]/シクロフィリンB(C)前頭[ng]
【0101】
三番目の段階で、参照標準遺伝子の組を平行して分析し、個別の脳試料それぞれについて参照標準遺伝子の発現レベルの、対照者対AD患者側頭皮質比の、対照者対AD患者前頭皮質比、およびAD患者および対照者の前頭対側頭比の、およびAD患者および対照者の前頭対海馬比の平均値をそれぞれ決定したシクロフィリンBを段階2および段階3で分析し、また、一つの遺伝子から別の遺伝子への比は別々の分析で一定のままであったため、HIF3aについての値、すなわちHIF3aスプライス変異体1、HIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3およびHIF3aスプライス変異体5についてそれぞれを、単一の遺伝子だけに対して正規化するのでなく、参照標準遺伝子の組の平均値に対して正規化することが可能であった。計算は、上記に示すそれぞれの比を、すべてのハウスキーピング遺伝子の平均値からのシクロフィリンBの偏差で割ることによって行なった。HIF3a遺伝子についてのそのような定量的RT−PCR分析の結果およびHIF3a遺伝子について、すなわち、HIF3aスプライス変異体1、HIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3およびHIF3aスプライス変異体5のそれぞれの計算値を図1、2、3および25、26に、図3および27に、図4および28に、図5および29にそれぞれ示す。
【0102】
2)対照とAD患者との間のmRNA発現の比較
この分析に関して、別の時点での別の実験間のリアルタイム定量PCR(ライトサイクラー(Lightcycler)法)の絶対値は、キャリブレーターを使用しない定量比較に用いるのに十分に一貫性があることが証明された。シクロフィリンを、100を超える組織について、qPCR実験のどれでも正規化のための標準物質として用いた。我々の正規化実験において、中でもシクロフィリンは最も一貫して発現されたハウスキーピング遺伝子であることが見出された。したがって、シクロフィリンに関して生じた値を用いることによって概念実証が行われた。
【0103】
第一の分析は、3名の異なるドナー由来の前頭皮質および下側頭皮質組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を用いた。分析したすべての実験で、各組織から同一のcDNA調製物を用いた。この分析の中では、データ数の小ささのため、値の正規分布は達成されなかった。したがって、中央値およびその98%信頼レベルの方法を用いた。この分析は、絶対値の比較について中央値から8.7%の中間偏差、および相対値の比較について中央値から6.6%の中間偏差を明らかにした。
【0104】
第二の分析は、それぞれ2名の異なるドナー由来の前頭皮質および下側頭皮質組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を用いたが、異なる時点からの異なるcDNA調製物を用いた。この分析、絶対値の比較について中央値から29.2%の中間偏差、および相対値の比較について中央値から17.6%の中間偏差を明らかにした。この分析から、qPCR実験からの絶対値を使用できるが、しかし中央値からの中間偏差はさらに考慮されるべきであると結論されたHIF3aについて絶対値の詳細な分析を実施した。したがって、シクロフィリンを用いた相対的正規化後にHIF3aの絶対レベルを用いた。中央値および98%信頼レベルを対照群(ブラーク0〜ブラーク3)および患者群(ブラーク4〜ブラーク6)についてそれぞれ計算した。同じ分析を、対照群(ブラーク0〜ブラーク2)および患者群(ブラーク3〜ブラーク6)を再定義して実施し、および対照群(ブラーク0〜ブラーク1)および患者群(ブラーク2〜ブラーク6)を再定義して実施した。後者の分析は、対照とAD患者との間のmRNA発現差の初期出現を見出すことを目的とした。この分析の別の視点では、遺伝子発現調節および初期出現差の傾向を見出すため、それぞれブラーク病期0〜1、ブラーク病期2〜3、およびブラーク病期4〜6を含む3群を互いに比較した。上記の通りの前記分析を図30、31、32、33に示す。
【0105】
(ix)免疫ブロット法:
総タンパク質抽出物を、HIF3a sv3−mycを発現しているH4APPsw細胞から、1mlのRIPA緩衝液(150mM塩化ナトリウム、50mMトリス−HCl、pH7.4、1mMエチレンジアミン−4酢酸、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル、1%Triton X−100、1%デオキシコール酸ナトリウム、1%ドデシル硫酸ナトリウム、5μg/mlのアプロチニン、5μg/mlのロイペプチン)中での氷上でのホモジナイゼーションによって取得した。4℃、3000rpmにて5分間の遠心分離を2回行った後、上清をSDS−添加緩衝液中で5倍に希釈した。希釈試料のアリコート12μlをSDS−PAGE(8%ポリアクリルアミド)で溶解し、およびPVDFウェスタンブロッティング膜(ベーリンガーマンハイム(Boehringer Mannheim))に移した。ブロットは、ウサギポリクローナル抗myc抗体(MBL、1:5000)、続いて、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ−結合ヤギ抗ウサギIgG抗血清(サンタクルーズsc−2030、1:5000に希釈)でプローブし、およびECL化学発光検出キット(アマシャムファルマシア(Amersham Pharmacia)で展開した(図34)。
【0106】
(x)免疫蛍光分析(IF):
細胞中のHIF3aタンパク質の免疫蛍光染色のために、スウェーデン変異を有するヒトAPP695アイソフォームを安定に発現する(K670N、M671L)ヒト神経膠腫細胞株(H4細胞)を使用した(H4APPsw細胞)。
【0107】
H4APPsw細胞を、強いCMVプロモーターの調節下で、HIF3a sv3(HIF3a sv3 cds)(配列番号12、1899bp)のコード配列を含むpFB−Neoベクター(Stratagene(ストラタジーン)、#217561)、およびmyc−タグ(pFB−Neo−HIF3a sv3 cds−myc、HIF3a sv3−mycベクター、9181bp、EcoRI/XhoI)で遺伝子導入した。HIF3a sv3−mycベクターの産生のために、HIF3a sv3 cds−myc配列を、pFB−Neoベクターの多重クローニング部位(MCS)のEcoRI/XhoI制限部位へと導入した。HIF3a sv3−mycベクターによるH4APPsw細胞の遺伝子導入のために、Stratagene(ストラタジーン)のレトロウイルス発現システムウィラポート(ViraPort)を用いた。
【0108】
myc標識HIF3a sv3を過剰発現する細胞(H4APPsw−HIF3a sv3−myc)を、24ウェルプレート(ヌンク(Nunc)、デンマークロスキレ;#143982)中のガラス製カバースリップ上に5x10の細胞密度で播種し、および37℃、5%のCOにて一晩インキュベートした。細胞をカバースリップ上に固定するために、培地を取り除き、および冷却したメタノール(−20℃)を添加した。−20℃、15分間のインキュベーション時間の後、メタノールを除去し、および固定された細胞を室温で1時間ブロッキング溶液(200μlPBS/5%BSA/3%ヤギ血清)中でブロッキングした。第1の抗体(ポリクローナル抗myc抗体、ウサギ、1:5000、MBL)およびPBS/1%ヤギ血清中のDAPI(DNA−染色、0.05μg/ml、1:1000)を添加し、および室温で1時間インキュベートした。第1の抗体を取り除いた後、固定された細胞をPBSで5分間、3回洗浄した。第2の抗体(Cy3複合抗ウサギ抗体、1:1000、アマシャムファルマシア(Amersham Pharmacia)、ドイツ)をブロッキング溶液に添加し、および室温で1時間インキュベートした。細胞をPBSで5分間、3回洗浄した。カバースリップをパーマフルーア(Permafluor)(ベックマンコールター(Beckman Coulter))を用いて顕微鏡用スライドに載せ、および4℃にて一晩保存し、封入培地を硬化した。顕微鏡暗視野エピ蛍光法および明視野位相差照明条件(IX81、オリンパス光学(Olympus Optical))を用いて細胞を可視化した。顕微鏡画像(図35)をPCOセンシカムでデジタル撮像し、および適切なソフトウェア(アナリシス、オリンパス光学(Olympus Optical))を用いて分析した。
【0109】
(xi)免疫組織化学:
HIF3aの免疫蛍光染色のために、ヒト脳内のHIF3a sv1、HIF3a sv3およびHIF3a sv5をそれぞれ、およびAD罹患組織と対照組織との比較のために、様々なブラーク病期(P016、P011、P017−ブラーク4、5、6)でアルツハイマー病と臨床的に診断されおよび神経病理学的に確認された患者、ならびにアルツハイマーのない対応する年齢の対照者(C029−ブラーク1)、および中等度のブラーク病期レベル(C035−ブラーク3)の被験者を含むドナーに由来する、死後の新鮮凍結前頭および側頭の前脳試料をクリオスタット(レイカ(Leica)CM3050S)を用いて厚さ14μmに切断した。組織切片を空気乾燥し、および室温にて10分間アセトン中で固定した。PBS中で洗浄した後、切片をブロッキング緩衝液(10%正常ヤギ血清、PBS中の0.2%TritonX−100)中で30分間プレインキュベートし、および次にアフィニティ精製したウサギポリクローナル抗HIF3a抗血清(ブロッキング緩衝液中で1:40に希釈;デイビッズバイオテクノロジー(Davids Biotechnology);アミノ酸290−304)で4℃にて一晩インキュベートした。0.1%TritonX−100/PBS中で3回すすいだ後、切片をFITC−複合ヤギ抗ウサギIgG抗血清(ジャクソン(Jackson)/ディアノバ(Dianova)、No.111−096−045、1%BSA/PBS中で1:150に希釈)で室温にて2時間インキュベートし、および次に再びPBS中で洗浄した。神経細胞の染色を、神経細胞系特異的マーカーNeuNに対するマウスモノクローナル抗体(ケミコン(Chemicon)、MAB377、1:400に希釈)および二次Cy3−複合ヤギ抗マウス抗体(ディアノバ(Dianova)、115−166−062、1:600に希釈)を用いて実施した。星状細胞の染色は、星状細胞特異的マーカーGFAPに対する抗体を用いて実施し(アブカム(Abcam)、AB780b、1:300に希釈)、ミクログリアの染色はミクログリアl特異的マーカーCD68に対する抗体を用いて実施し(ダコ(DAKO)、Mo718、1:200に希釈)、および乏突起膠細胞に対する染色は、乏突起膠細胞特異的マーカーCNPaseに対する抗体を用いて実施した(シグマ(Sigma)、C5P22、1:400に希釈)。核の染色は、切片をPBS中の5μMのDAPIで3分間インキュベーションすることによって実施した。ヒト脳内のリポフスチンの自己蛍光を遮断するために、切片を70%エタノール中の1%スーダンブラックBで室温にて2〜10分間処理し、および次に順次70%エタノール、蒸留水およびPBS中に浸漬した。切片を「ベクタシールド(Vectashield)」封入培地(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)、カリフォルニア州バーリンゲーム)でカバースリップした。顕微鏡画像を、暗視野エピ蛍光法および明視野 位相差照明条件(IX81、オリンパス光学(Olympus Optical))を用いて取得した。顕微鏡画像をPCOセンシカムでデジタル撮像し、および適切なソフトウェア(アナリシス、オリンパス光学(Olympus Optical))を用いて分析した(図36、37および38を参照)。
【0110】
(xii)遺伝子導入ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の作製:
ヒトBACE遺伝子導入ハエおよびヒトHIF3a遺伝子導入ハエを、グリーブら(Greeveら,J.Neurosci.2004,24:3899−3906)に従って、および本発明に記載の通り作製した。HIF3a sv3(配列番号12、配列番号4)の全オープンリーディングフレームを含有し、およびフレーム内でmyc−タグ(aa EQKLISEEDL)と3’位で融合するHIF3a sv3 cDNA(配列番号 8)の1942bpのEcoRI/XhoI断片を、GAL4−結合部位UASの下流にあるベクターpUASTのEcoRI/XhoI制限部位へとサブクローンした(ブランド(Brand)およびペリモン(Perrimon),Development 1993,118:401−15)。Pエレメント媒介生殖細胞系列形質転換を、スプラドリング(Spradling)およびルビン(Rubin)によって記載された通り実施した(ルビンおよびスプラドリング,Science 1982,218:348−53;スプラドリングおよびルビン,Science 1982,218:341−7)。20の独立したヒトHIF3a sv3遺伝子導入ハエ系統を作製し、および3つの異なる系統を本分析に用いた。
【0111】
ヒトAPPおよびショウジョウバエ(Drosophila)プレセニリン遺伝子導入ハエ、UAS−APP695IIおよびUAS−DPsn−変異体(L235P)、はR.パロ(Paro)および E.フォーティニ(Fortini)より提供を受けた(フォスグリーン(Fossgreen)ら,ProcNatlAcadSci USA 1998,95: 13703−8;イエ(Ye)およびフォーティニ(Fortini),J Cell Biol 1999,146: 1351−64)。アクチン−GAL4系統はブルーミントン・ストック・センター(Bloomington stock center)から入手した。F.ピグノニ(Pignoni)からのgmr−GAL4系統を、導入遺伝子の眼特異的発現を達成するために用いた。
【0112】
遺伝交雑を標準ショウジョウバエ培地上で25℃にて設定した。使用した遺伝子型は:w;UAS−hAPP695, UAS−hBACE437/CyO;gmr−GAL4/Tm3−W;UAS−hAPP695,UAS−hBACE437/CyO;gmr−GAL4,UAS−DPsnL235P/Tm3−w;UAS−HIF3a−sv3−myc#3−w;UAS−HIF3a−sv3−myc#4−w;UAS−HIF3a−sv3−myc#57.
【0113】
免疫組織化学的および組織学的分析のために、成体ハエを下記の方法にしたがって免疫染色しおよび調製した。免疫染色のためには、成体ハエを4%パラホルムアルデヒド中で3時間固定し、1xPBSで洗浄し、および25%ショ糖中へ移して4℃にて一晩インキュベートした。ハエを剃刀で頭部切断し、および頭部をティシュー・テック(Tissue Tek)(サクラ(Sakura))に包埋しおよび急速凍結した。10μm凍結横断切片をクリオスタット(ライカ(Leica)CM3050S)で調製した。免疫染色はベクタステイン・エリート(Vectastain Elite)キット(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)を用いて取扱説明書に従って実施した。下記の一次抗体を使用した:24B10(アルファ−カオプチン、1:5)、デベロップメンタル・スタディーズ(Developmental Studies)より供給;およびウサギポリクローナル抗myc抗体(MBL、MBL、メディカル アンド バイオロジカルラボラトリーズ(Medical and Biological Laboratories))。成体頭部のパラフィン切片および塊の組織学的分析を、ジャガー(Jager)およびフィッシュバック(Fischbach)(アシュバーナー(Ashburner)、『ショウジョウバエ:実験の手引き』(Drosophila: A Laboratory Manual)1989,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー:254−259)によって記載の通り行った。ハイブリドーマバンクの作製:チオフラビンS染色については、切片を5分間マイヤーヘマトキシリン(シグマ(Sigma))で対比染色し、水道水中で10分間洗浄し、および3分間1%チオフラビンS(シグマ)水溶液中で染色した。スライドを、蒸留水を何回か交換して洗浄し、15分間1%酢酸中でインキュベートし、水道水で洗浄し、およびベクタシールド(Vectashield)封入剤(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)に封入した。スライドはオリンパスBX51蛍光顕微鏡下で分析した(励起430nm、放出550nm)。
【0114】
ウェスタンブロッティングによるタンパク質分析については、ハエ頭部を1xPBS、5mM EDTA、0.5%トリトンX−100およびプロテアーゼインヒビターミックス・コンプリート(ロシュ・アプライドサイエンス(Roche Applied Science))中でホモジナイズした。等量のタンパク質を10% SDS−PAGEにより分離し、イモビロン(Immobilon)膜(ミリポア社(Millipore GmbH))へ転写し、5%低脂肪ミルク中で2時間室温にてブロッキングし、およびウサギポリクローナル抗体22C11(MBL、メディカル アンド バイオロジカルラボラトリーズ(Medical and Biological Laboratories))とインキュベートした。結合した抗体を、ヤギ 抗マウスペルオキシダーゼ結合二次抗体 (ディアノバ(Dianova))で検出した。免疫沈降については、ハエ頭部を上記の通りホモジナイズし、および 溶解物をクローンテック社(Clontech)の抗体手順ガイドに記載の通り処理した。抗体 mab 6E10(アルファ−Aベータ1−16,シグネット・パソロジー・システムズ(Signet Pathology Systems))を免疫沈降に用いた。試料を10〜20%勾配ノベックス(Novex)トリス−トリシンゲル(インビトロジェン(Invitrogen))で分離し、およびプロトラン(Protran)BA79硝酸セルロース膜(0.1μm、シュライヒャー・シュール(Schleicher/Schuell)、ドイツ・ダッセル(Dassel))へブロットした。ベータ−アミロイドの検出は、記載の通り(イダ(Ida)ら,J Biol Chem 1996,271:22908−14)、mab6E10およびヤギ抗マウスペルオキシダーゼ結合二次抗体(ディアノバ)を用いて実施した。
【0115】
遺伝子導入ショウジョウバエにおけるヒトHIF3a発現の検出については、逆転写酵素PCR(RT−PCR反応)反応を、本発明に記載の通り(実施例(viii))HIF3aスプライス変異体3特異的プライマーを用いて実施した。すべての実験に使用された3つのHIF3a sv3遺伝子導入ハエ細胞株の発現レベルにおける相対的な差を算出するために、ショウジョウバエハウスキーピング遺伝子rp49(リボソームタンパク質L32)を、下記のrp49特異的プライマー対を用いて、同一のライトサイクラーの作動において、プロファイルした:5’−GAAGAAGCGCACCAAGGACT−3’および3’−TTGAATCCGGTGGGCAGCAT−5’。
【0116】
遺伝子導入ハエにおけるヒトAPP(ベータ−アミロイド前駆体タンパク質、hAPP)のアミロイド形成過程に伴う神経病理に及ぼすヒトHIF3a sv3発現の潜在的影響を特徴づけるため、眼特異的GAL4系統gmr−GAL4を用いることによって、成体網膜でHIF3a sv3をhAPPおよびヒトBACE(ベータ位APP切断酵素、hBACE)と同時発現させた。
【0117】
gmr−GAL4の調節下のHIF3a sv3の遺伝子導入発現は、RT−PCRによって、HIF3a sv3特異的プライマーを用いて確認された
(実施例viii参照)。3つの異なる遺伝子導入ハエ系統を用いた(HIF3a−sv3−myc#3,#4および#57)。発現効率(図39)における相対差を、HIF3a sv3プライマー対のサイクル数にしたがって算出し、ショウジョウバエのrp49遺伝子のサイクル数に対して正規化した(リボソームタンパク質L32)。この算出に基づくと、HIF3a sv3遺伝子導入ハエ細胞株#57は、ハエ細胞株#3よりも2.4倍高く発現し、およびハエ細胞株#4よりも5.3倍強い(図39)。gmr−GAL4の調節下でのヒトHIF3a sv3の遺伝子導入発現の結果、ショウジョウバエの網膜中のタンパク質の核局在性(図40、矢印)をきたす。ウェスタンブロット上でポリクローナル抗myc抗体(MBL)は、HIF3a sv3の予想された分子量(70kD、図41矢印)を有し、非遺伝子導入対照ハエのタンパク質抽出物が存在しないタンパク質を検出する。興味深いことに、HIF3a sv3発現は、他の遺伝子導入ハエ(図41、レーン2、3および4、赤い星印)ならびにヒトHIF3a sv3−myc構築物を安定的に遺伝子導入したH4−APPsw細胞(レーン5、例(X)に示す通り)中のタンパク質レベルではほとんど検出されず、これは、ショウジョウバエおよびヒトH4−神経膠腫細胞における正常酸素圧条件において、遺伝子導入HIF3a sv3−mycのタンパク質分解または低発現を示唆する。
【0118】
ショウジョウバエの成体網膜におけるhAPPおよびhBACEの発現は、光受容体細胞の加齢依存性変性に繋がる(グリーブ(Greeve)ら,J.Neurosci.2004,24:3899−3906)。HIF3a sv3の共発現は、光受容体細胞特異的モノクローナル抗体24B10で染色した成体ハエの脳および複眼のクリオスタット切片上に示すように(図42)、対応する週齢の8日齢のオスおよびメスのハエにおいて光受容体細胞変性を救済する(図42b)。光受容体の細胞変性は、プレセネリンの変異型を共発現しているハエにおいて加速される(PsnL235P、図43およびグリーブ(Greeve).I.ら,J.Neurosi.2004,24:3899−3906)。光受容体細胞変性の救済は、対応する年齢の対照ハエと比較して、hAPP、hBACEおよびDPsnL235PとともにHIF3a−sv3#57を共発現している3日齢のオスおよびメスのハエにおいてさらに顕著である(図42C)。
【0119】
hAPP/hBACEを発現しているハエ中での光受容体細胞変性に対するHIF3a sv3の神経保護的効果をさらに特徴付けるために、3つの遺伝子導入ハエにおけるhAPPのアミロイド生成性処理を調査し、および、モデル系中のAPP処理と関連する神経学的病変に対して最も高い影響を示すHIF3a−sv3#57の共発現を検討した。アベタ(Abeta)N末端特異的抗体6E10でプローブした免疫沈降したアベタペプチドのウェスタンブロット上に示すように(図43)、アベタレベルは、hAPP/hBACEおよびHIF3a sv3を共発現しているハエと比較した場合、対照ハエにおいて変化しない(hAPP/hBACE)。
【0120】
さらに、hAPP/hBACE/DPsnL235Pを発現しているハエ中の、チオフラビンS陽性アミロイド斑の発症を調査し(図44上図)、およびhAPP/hBACE/DPsnL235PおよびHIF3a−sv3#4を発現しているハエと比較した(図44下図)。図44は、対照ハエとHIF3a−sv3#4を共発現しているハエとの間でのプラーク沈積の開始時期に差がないことを示す。
【0121】
要約すると、HIF3a sv3の強力な神経保護的効果は、記載したアルツハイマー病の無脊椎動物モデル系において、hAPPの操作されたアミロイド斑生成性処理またはアミロイド斑形成とは独立している。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】図1および2は、定量RT−PCR分析によるAD脳組織中の、特にHIF3aスプライス変異体1中のヒトHIF3a遺伝子の発現差の検証を示す。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取したRNA試料(図1a)およびAD患者の前頭皮質(F)および海馬(H)からの試料(図2a)に由来するRT−PCR産物の定量化を、ライトサイクラー急速サーマルサイクル技術によって実施した。同様に、対応する年齢の対照健常者の試料を比較した(前頭皮質および側頭皮質は図1b、前頭皮質および海馬は図2b)。データを遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった一組の標準的遺伝子の全体の総平均値に対して正規化した。前記標準的遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から構成された。図は、蛍光発光によって測定された増幅された物質の量に対するサイクル数をプロットすることによる増幅の動態を表す。なお、反応の指数増殖期における、正常な対照者の前頭および側頭皮質由来の、および正常な対照者の前頭皮質および海馬由来の両方のHIF3aスプライス変異体1cDNAの増幅動態のそれぞれを並列した(図1bおよび2b、矢印)。一方、アルツハイマー病(図1aおよび2a、矢印)では、対応する曲線の有意な分離があり、それぞれの分析脳領域において、HIF3aをコードする遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体1の発現差を示唆し、前頭皮質と相対的に側頭皮質において、および前頭皮質と相対的に海馬において、ヒトHIF3a遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体1の転写産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の調節異常、好ましくは上方調節を示唆する。
【図2】図1および2は、定量RT−PCR分析によるAD脳組織中の、特にHIF3aスプライス変異体1中のヒトHIF3a遺伝子の発現差の検証を示す。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取したRNA試料(図1a)およびAD患者の前頭皮質(F)および海馬(H)からの試料(図2a)に由来するRT−PCR産物の定量化を、ライトサイクラー急速サーマルサイクル技術によって実施した。同様に、対応する年齢の対照健常者の試料を比較した(前頭皮質および側頭皮質は図1b、前頭皮質および海馬は図2b)。データを遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった一組の標準的遺伝子の全体の総平均値に対して正規化した。前記標準的遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から構成された。図は、蛍光発光によって測定された増幅された物質の量に対するサイクル数をプロットすることによる増幅の動態を表す。なお、反応の指数増殖期における、正常な対照者の前頭および側頭皮質由来の、および正常な対照者の前頭皮質および海馬由来の両方のHIF3aスプライス変異体1cDNAの増幅動態のそれぞれを並列した(図1bおよび2b、矢印)。一方、アルツハイマー病(図1aおよび2a、矢印)では、対応する曲線の有意な分離があり、それぞれの分析脳領域において、HIF3aをコードする遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体1の発現差を示唆し、前頭皮質と相対的に側頭皮質において、および前頭皮質と相対的に海馬において、ヒトHIF3a遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体1の転写産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の調節異常、好ましくは上方調節を示唆する。
【図3】図3、4および5は、定量RT−PCR分析によるAD脳組織中の、ヒトHIF3a遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2(図3)、HIF3aスプライス変異体3(図4)およびHIF3aスプライス変異体5(図5)のそれぞれの発現差の検証を示す。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取されたRNA試料(図3a、4a、5a)、および同様に、対応する年齢の対照健常者から採取された試料(図3b、4b、5b)に由来するRT−PCR産物の定量化をライトサイクラー急速サーマルサイクル技術によって実施した。データを遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった一組の標準的遺伝子の総平均値へと正規化した。前記標準的遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から構成された。図は、蛍光発光によって測定された増幅された物質の量に対するサイクル数をプロットすることによる増幅の動態を表す。なお、反応の指数増殖期における、正常な対照者の前頭および側頭皮質由来のHIF3aスプライス変異体2cDNA、HIF3aスプライス変異体3cDNA、およびHIF3aスプライス変異体5cDNAの増幅動態のそれぞれを並列した(図3b、4b、5b、矢印)。一方、アルツハイマー病(図3a、4a、5a、矢印)では、対応する曲線の有意な分離があり、それぞれの分析脳領域において、HIF3aをコードする遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3、およびHIF3aスプライス変異体5の発現差を示唆し、前頭皮質と相対的に側頭皮質において、ヒトHIF3a遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3、およびHIF3aスプライス変異体5の転写産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の調節異常、好ましくは上方調節を示唆する。
【図4】図3、4および5は、定量RT−PCR分析によるAD脳組織中の、ヒトHIF3a遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2(図3)、HIF3aスプライス変異体3(図4)およびHIF3aスプライス変異体5(図5)のそれぞれの発現差の検証を示す。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取されたRNA試料(図3a、4a、5a)、および同様に、対応する年齢の対照健常者から採取された試料(図3b、4b、5b)に由来するRT−PCR産物の定量化をライトサイクラー急速サーマルサイクル技術によって実施した。データを遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった一組の標準的遺伝子の総平均値へと正規化した。前記標準的遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から構成された。図は、蛍光発光によって測定された増幅された物質の量に対するサイクル数をプロットすることによる増幅の動態を表す。なお、反応の指数増殖期における、正常な対照者の前頭および側頭皮質由来のHIF3aスプライス変異体2cDNA、HIF3aスプライス変異体3cDNA、およびHIF3aスプライス変異体5cDNAの増幅動態のそれぞれを並列した(図3b、4b、5b、矢印)。一方、アルツハイマー病(図3a、4a、5a、矢印)では、対応する曲線の有意な分離があり、それぞれの分析脳領域において、HIF3aをコードする遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3、およびHIF3aスプライス変異体5の発現差を示唆し、前頭皮質と相対的に側頭皮質において、ヒトHIF3a遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3、およびHIF3aスプライス変異体5の転写産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の調節異常、好ましくは上方調節を示唆する。
【図5】図3、4および5は、定量RT−PCR分析によるAD脳組織中の、ヒトHIF3a遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2(図3)、HIF3aスプライス変異体3(図4)およびHIF3aスプライス変異体5(図5)のそれぞれの発現差の検証を示す。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取されたRNA試料(図3a、4a、5a)、および同様に、対応する年齢の対照健常者から採取された試料(図3b、4b、5b)に由来するRT−PCR産物の定量化をライトサイクラー急速サーマルサイクル技術によって実施した。データを遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった一組の標準的遺伝子の総平均値へと正規化した。前記標準的遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から構成された。図は、蛍光発光によって測定された増幅された物質の量に対するサイクル数をプロットすることによる増幅の動態を表す。なお、反応の指数増殖期における、正常な対照者の前頭および側頭皮質由来のHIF3aスプライス変異体2cDNA、HIF3aスプライス変異体3cDNA、およびHIF3aスプライス変異体5cDNAの増幅動態のそれぞれを並列した(図3b、4b、5b、矢印)。一方、アルツハイマー病(図3a、4a、5a、矢印)では、対応する曲線の有意な分離があり、それぞれの分析脳領域において、HIF3aをコードする遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3、およびHIF3aスプライス変異体5の発現差を示唆し、前頭皮質と相対的に側頭皮質において、ヒトHIF3a遺伝子、特にHIF3aスプライス変異体2、HIF3aスプライス変異体3、およびHIF3aスプライス変異体5の転写産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の調節異常、好ましくは上方調節を示唆する。
【図6】図6は、バイオチップ上の抑制サブトラクティブ・ハイブリダイゼーションによっておよび後に続くクローニングによって同定および取得された配列番号1、289bpのHIF3a cDNA断片のヌクレオチド配列を表す(5’位から3’位の方向の配列)。
【図7】図7は、配列番号1、289bpのヒトHIF3a cDNA断片の配列アラインメントを、ヒトHIF3aスプライス変異体1cDNA、配列番号6(ヌクレオチド1421から1709)のヌクレオチド配列とともに概略を示す。
【図8】図8は、配列番号2、450アミノ酸を含有するヒトHIF3aスプライス変異体1のポリペプチド配列を開示する。このタンパク質は、図20に示すGenbankデータベースに由来するmRNAおよびEST配列情報に基づいて構築されたコンセンサスcDNA配列、配列番号6から推定される。
【図9】図9は、配列番号3、342アミノ酸を含有するヒトHIF3aスプライス変異体2のポリペプチド配列を開示する。このタンパク質は、図21に示すGenbankデータベースに由来するmRNAおよびEST配列情報に基づいて構築されたコンセンサスcDNA配列、配列番号7から推定される。
【図10】図10は、配列番号4、632アミノ酸を含有するヒトHIF3aスプライス変異体3のポリペプチド配列を開示する。このタンパク質は、図22に示すGenbankデータベースに由来するmRNAおよびEST配列情報に基づいて構築されたコンセンサスcDNA配列、配列番号8から推定される。
【図11】図11は、配列番号5、648アミノ酸を含有するヒトHIF3aスプライス変異体5のポリペプチド配列を開示する。このタンパク質は、図23に示すGenbankデータベースに由来するmRNAおよびEST配列情報に基づいて構築されたコンセンサスcDNA配列、配列番号9から推定される。
【図12】図12は、図20に示すGenbankデータベースに由来するmRNAおよびEST配列情報に基づいて構築された、配列番号6、1709ヌクレオチドを含有するヒトHIF3aスプライス変異体1cDNAのヌクレオチド配列を表す。
【図13】図13は、図21に示すGenbankデータベースのmRNAおよびESTの配列によって定義された、配列番号7、2239ヌクレオチドを含有するヒトHIF3aスプライス変異体2cDNAのヌクレオチド配列を示す。
【図14】図14は、図22に示すGenbankデータベースのmRNAおよびESTのヌクレオチドから構築された、配列番号8、2082ヌクレオチドを含有するヒトHIF3aスプライス変異体3cDNAのヌクレオチド配列を表す。
【図15】図15は、図23に示すGenbankデータベースのmRNAおよびESTのヌクレオチドから構築された、配列番号9、2595ヌクレオチドを含有するヒトHIF3aスプライス変異体5cDNAのヌクレオチド配列を表す。
【図16】図16は、配列番号10のヌクレオチド配列、1353ヌクレオチド(配列番号6のヌクレオチド125−1477)を含有する、ヒトHIF3aスプライン変異体1のコード配列(cds)を示す。
【図17】図17は、配列番号11のヌクレオチド配列、1029ヌクレオチド(配列番号7のヌクレオチド23−1051)を含有する、ヒトHIF3aスプライン変異体2のコード配列(cds)を示す。
【図18】図18は、配列番号12のヌクレオチド配列、1899ヌクレオチド(配列番号8のヌクレオチド13−1911)を含有する、ヒトHIF3aスプライン変異体3のコード配列(cds)を示す。
【図19】図19は、配列番号13のヌクレオチド配列、1947ヌクレオチド(配列番号9のヌクレオチド226−2172)を含有する、ヒトHIF3aスプライン変異体5のコード配列(cds)である。
【図20】図20は、受入番号AK021421のヒトmRNA配列およびGenbank遺伝子情報データバンクに見い出される「発現配列タグ」(EST)のアラインメントに由来する、ヒトHIF3aスプライス変異体1cDNA、配列番号6のヌクレオチド配列のアセンブリを概略的に図表化する。ESTおよびmRNA番号は左側に記載され、全配列は5’位から3’位の方向である。
【図21】図21は、受入番号BC026308のヒトmRNA配列およびGenbank遺伝子情報データバンクに見い出される「発現配列タグ」(EST)のアラインメントに由来する、ヒトHIF3aスプライス変異体2cDNA、配列番号7のヌクレオチド配列のアセンブリを概略的に図表化する。ESTおよびmRNA番号は左側に記載され、全配列は5’位から3’位の方向である。
【図22】図22は、受入番号AK021421、AK021653、AK027725、AB054067およびAF463492のヒトmRNA配列およびGenbank遺伝子情報データバンクに見い出される「発現配列タグ」(EST)のアラインメントに由来する、ヒトHIF3aスプライス変異体3cDNA、配列番号8のヌクレオチド配列のアセンブリを概略的に図表化する。ESTおよびmRNA番号は左側に記載され、全配列は5’位から3’位に指向する。
【図23】図23は、受入番号AK021653のヒトmRNA配列およびGenbank遺伝子情報データバンクに見い出される「発現配列タグ」(EST)のアラインメントに由来する、ヒトHIF3aスプライス変異体5cDNA、配列番号9のヌクレオチド配列のアセンブリを概略的に図表化する。ESTおよびmRNA番号は左側に記載され、全配列は5’位から3’位に指向する。
【図24】図24は、サブトラクティブ抑制マイクロアレイ・ハイブリダイゼーション実験による、ヒトHIF3a遺伝子の発現差の初回同定を開示する。サブトラクトされたADのcDNAクローンおよび対照の脳cDNAライブラリを含有する同一のバイオチップを、それぞれプローブA、BまたはCと指定される、異なるシアニン3(Cy3)およびシアニン5(Cy5)標識cDNAとともにハイブリダイズした。Cy3およびCy5で標識したDNAプローブ(A)を、それぞれAD患者および対照者の前頭または側頭皮質に由来するcDNAを標識することによって産生し、実施例の説明の節(vi−a)を参照のこと。Cy3およびCy5で標識したSMARTプローブ(B)を、それぞれAD患者および対照者の前頭または側頭皮質に由来するcDNAから産生し、実施例の説明の節(vi−b)を参照のこと。Cy3およびCy5で標識したSSHプローブ(C)は、それぞれAD患者および対照者の前頭または側頭皮質に由来する脳cDNAの抑制サブトラクティブ・ハイブリダイゼーションの後cDNA母集団から導き出し、段落(vi)を参照:(PFSSH(1)=AD患者の側頭皮質cDNAのサブトラクション後のAD患者の前頭皮質;PTSSH(2)=AD患者の前頭皮質cDNAのサブトラクション後のAD患者の側頭皮質;CTSSH(3)=AD患者の側頭皮質cDNAのサブトラクション後の対照者の側頭皮質cDNA;PTSSH(4)=対照者の側頭皮質cDNAのサブトラクション後のAD患者の側頭皮質cDNA)。この表は、AD患者の前頭皮質と相対的に側頭皮質に対して測定した蛍光強度の比として示されるHIF3aの遺伝子発現レベルを一覧化する。蛍光強度の比は、AD患者の側頭および前頭皮質におけるヒトHIF3aRNA発現の差次的調節、および対照と比較したAD患者の側頭皮質におけるHIF3a転写産物の相対的な下方調節および前頭皮質における上方調節を反映する。
【図25】図25は、本明細書中では内部参照番号によってP010、P011、P012、P014、P016、P017、P019、P038、P040、P041、P042、P046、P047、P048、P049と識別される15例のAD患者(0.78〜2.30倍、下記の公式による値)、および本明細書中では内部参照番号によってC005、C008、C011、C012、C014、C025、C026、C027、C028、C029、C030、C031、C032、C033、C034、C035、C036、C038、C039、C041、C042、DE02、DE03、DE05、DE07と識別される25例の対応する年齢の対照健常者(0.67〜1.79 倍、下記の公式による値)における、前頭皮質と相対的に側頭皮質中のHIF3aスプライス変異体1発現レベルを一覧化する。それぞれ、側頭皮質における上方調節の場合は、示される値は本明細書中に記載の公式によって計算し(下記を参照)、および前頭皮質における上方調節の場合は逆数値が計算される。側頭皮質中の上方調節を反映する明らかな差が示される。棒グラフは、異なるブラーク病期(0〜6)における、前頭皮質に対する側頭皮質の各自然対数値In(IT/IF)、および側頭皮質に対する前頭皮質の調節因子In(IF/IT)を可視化する。
【図26】図26は、本明細書中では内部参照番号によってP010、P011、P012、P014、P016、P019と識別される6例のアルツハイマー病患者(0.70〜2.46倍)、および、本明細書中では内部参照番号C004、C005、C008と識別される3例の対応する年齢の対照健常者(0.65〜1.55倍)において、前頭皮質と相対的に海馬中の、HIF3aスプライス変異体1の遺伝子発現レベルを一覧化する。示される値は本明細書中に記載の公式によって計算する(下記を参照)。散布図は、対照試料(点)およびAD患者試料(三角形)における、前頭皮質に対する海馬の調節比の各対数値、log(HC/IF比)を可視化する。
【図27】図27は、本明細書中では内部参照番号によってP010、P011、P012、P014、P016、P017、P019、P038、P040、P041、P042、P046、P047、P048、P049と識別される15例のAD患者(0.55〜2.38倍、下記の公式による値)、および本明細書中では内部参照番号によってC005、C008、C011、C012、C014、C025、C026、C027、C028、C029、C030、C031、C032、C033、C034、C035、C036、C038、C039、C041、C042、DE02、DE03、DE05、DE07と識別される25例の対応する年齢の対照健常者(0.33〜2.32倍、下記の公式による値)における、前頭皮質と相対的に側頭皮質中の、HIF3aスプライス変異体2発現レベルを一覧化する。それぞれ、側頭皮質における上方調節の場合、示される値は本明細書中に記載の公式によって計算し(下記を参照)、および前頭皮質における上方調節の場合は逆数値が計算される。側頭皮質中の上方調節を反映する明らかな差が示される。棒グラフは、異なるブラーク病期(0〜6)における、前頭皮質に対する側頭皮質の各自然対数値In(IT/IF)、および側頭皮質に対する前頭皮質の調節因子In(IF/IT)を可視化する。
【図28】図28は、本明細書中では内部参照番号によってP010、P011、P012、P014、P016、P017、P019、P038、P040、P041、P042、P046、P047、P048、P049と識別される15例のAD患者(0.77〜2.56倍、下記の公式による値)、および本明細書中では内部参照番号によってC005、C008、C011、C012、C014、C025、C026、C027、C028、C029、C030、C031、C032、C033、C034、C035、C036、C038、C039、C041、C042、DE02、DE03、DE05、DE07と識別される25例の対応する年齢の対照健常者(0.47〜2.25倍、下記の公式による値)における、前頭皮質と相対的に側頭皮質中の、HIF3aスプライス変異体3発現レベルを一覧化する。それぞれ、側頭皮質における上方調節の場合、示される値は本明細書中に記載の公式によって計算し(下記を参照)、および前頭皮質における上方調節の場合は逆数値が計算される。側頭皮質における強い上方調節を反映する著明な差が示される。棒グラフは、異なるブラーク病期(0〜6)における、前頭皮質に対する側頭皮質の各自然対数値In(IT/IF)、および側頭皮質に対する前頭皮質の調節因子In(IF/IT)を可視化する。
【図29】図29は、本明細書中では内部参照番号によってP010、P011、P012、P014、P016、P017、P019、P038、P040、P041、P042、P046、P047、P048、P049と識別される15例のAD患者(0.77〜2.33倍、下記の公式による値)、および本明細書中では内部参照番号によってC005、C008、C011、C012、C014、C025、C026、C027、C028、C029、C030、C031、C033、C034、C035、C036、C038、C039、C041、C042、DE02、DE03、DE05、DE07と識別される24例の対応する年齢の対照健常者(0.63〜1.92倍、下記の公式による値)における、前頭皮質と相対的に側頭皮質中の、HIF3aスプライス変異体5発現レベルを一覧化する。それぞれ、側頭皮質における上方調節の場合、示される値は本明細書中に記載の公式によって計算し(下記を参照)、および前頭皮質における上方調節の場合は逆数値が計算される。側頭皮質における上方調節を反映する明らかな差が示される。棒グラフは、異なるブラーク病期(0〜6)における、前頭皮質に対する側頭皮質の各自然対数値In(IT/IF)、および側頭皮質に対する前頭皮質の調節因子In(IF/IT)を可視化する。
【図30】図30は、信頼度98%での中央値の統計的手法を用いた、対照およびAD病期の比較による、HIF3aスプライス変異体1の絶対mRNA発現の分析を示す。データは、ブラーク病期0〜1、ブラーク病期0〜2、またはブラーク病期0〜3のいずれかを有する被験者を含む対照群を定義することによって計算した。これらデータは、ブラーク病期2〜6、ブラーク病期3〜6およびブラーク病期4〜6をそれぞれ含む、定義されたAD患者群に対して計算されたデータと比較する。さらに、ブラーク病期0〜1、ブラーク病期2〜3およびブラーク病期4〜6のいずれかを有する被験者を含む3群のそれぞれを、互いに比較した。AD患者および対照者の、前頭皮質(F)および下側頭皮質(T)を互いに比較して、差異を検出した。前記差異は、対照者における側頭皮質および前頭皮質に対する、AD患者の側頭皮質および前頭皮質における、HIF3a sv1の上方調節を反映し、前記上方調節は、ブラーク病期0−3とブラーク病期4−6とを互いに比較することによって著明である。ブラーク病期は、AD疾患の経過進行と相関し、これは、本発明で示すように、上述のHIF3a sv1の調節、レベルおよび活性における差の増大と関連する。
【図31】図31は、信頼度98%での中央値の統計的手法を用いた、対照およびAD病期の比較による、HIF3aスプライス変異体2の絶対mRNA発現の分析を示す。データは、ブラーク病期0〜1、ブラーク病期0〜2、またはブラーク病期0〜3のいずれかを有する被験者を含む対照群を定義することによって計算した。これらデータは、ブラーク病期2〜6、ブラーク病期3〜6およびブラーク病期4〜6をそれぞれ含む、定義されたAD患者群に対して計算されたデータと比較する。さらに、ブラーク病期0〜1、ブラーク病期2〜3およびブラーク病期4〜6のいずれかを有する被験者を含む3群のそれぞれを、互いに比較した。AD患者および対照者の、前頭皮質(F)および下側頭皮質(T)を互いに比較して、差異を検出した。前記差異は、対照者における側頭皮質および前頭皮質に対する、AD患者の側頭皮質および前頭皮質における、HIF3a sv2の強い上方調節を反映し、前記上方調節は、ブラーク病期0−3とブラーク病期4−6とを互いに比較することによって著明である。ブラーク病期は、AD疾患の経過進行と相関し、これは、本発明で示すように、上述のHIF3a sv2の調節、レベルおよび活性における差の増大と関連する。
【図32】図32は、信頼度98%での中央値の統計的手法を用いた、対照およびAD病期の比較による、HIF3aスプライス変異体3の絶対mRNA発現の分析を示す。データは、ブラーク病期0〜1、ブラーク病期0〜2、またはブラーク病期0〜3のいずれかを有する被験者を含む対照群を定義することによって計算した。これらデータは、ブラーク病期2〜6、ブラーク病期3〜6およびブラーク病期4〜6をそれぞれ含む、定義されたAD患者群に対して計算されたデータと比較する。さらに、ブラーク病期0〜1、ブラーク病期2〜3およびブラーク病期4〜6のいずれかを有する被験者を含む3群のそれぞれを、互いに比較した。AD患者および対照者の、前頭皮質(F)および下側頭皮質(T)を互いに比較して、差異を検出した。前記差異は、対照者における側頭皮質および前頭皮質に対する、AD患者の側頭皮質および前頭皮質における、HIF3a sv3の強い上方調節を反映し、該上方調節は、ブラーク病期0−3とブラーク病期4−6とを互いに比較することによって著明である。ブラーク病期は、AD疾患の経過進行と相関し、これは、本発明で示すように、上述のHIF3a sv3の調節、レベルおよび活性における差の増大と関連する。
【図33】図33は、信頼度98%での中央値の統計的手法を用いた、対照およびAD病期の比較による、HIF3aスプライス変異体5の絶対mRNA発現の分析を示す。データは、ブラーク病期0〜1、ブラーク病期0〜2、またはブラーク病期0〜3のいずれかを有する被験者を含む対照群を定義することによって計算した。これらデータは、ブラーク病期2〜6、ブラーク病期3〜6およびブラーク病期4〜6をそれぞれ含む、定義されたAD患者群に対して計算されたデータと比較する。さらに、ブラーク病期0〜1、ブラーク病期2〜3およびブラーク病期4〜6のいずれかを有する被験者を含む3群のそれぞれを、互いに比較した。AD患者および対照者の、前頭皮質(F)および下側頭皮質(T)を互いに比較して、差異を検出した。前記差異は、対照者における側頭皮質および前頭皮質に対する、AD患者の側頭皮質および前頭皮質における、HIF3a sv5の強い上方調節を反映し、該上方調節は、ブラーク病期0−3とブラーク病期4−6とを互いに比較することによって著明である。ブラーク病期は、AD疾患の経過進行と相関し、これは、本発明で示すように、上述のHIF3a sv5の調節、レベルおよび活性における差の増大と関連する。
【図34】図34は、ポリクローナル抗myc抗体で標識した全細胞タンパク質抽出物(MBL、1:5000)のウェスタンブロット像を表す。 レーンAおよびB:myc−タグで標識したHIF3a sv3a(HIF3a sv3−myc、A)を安定的に発現するH4APPsw細胞および対照H4APPsw細胞の(B)総タンパク質抽出物。矢印は約70kDa(レーンA)の大きなバンドを示唆し、これはHIF3asv3タンパク質の予測した分子量に相当する。
【図35】図35は、H4APPsw対照細胞およびmyc標識HIF3asv3タンパク質を安定的に過剰発現するH4APPsw細胞(H4APPsw−HIF3a sv3 cds−myc)の免疫蛍光分析を示す。HIF3a sv3−mycタンパク質を、ウサギポリクローナル抗myc抗体(MBL)およびCy3−複合抗ウサギ抗体(アマシャム社)で検出した(図35AおよびB)。細胞核をDAPIで染色した(図35CおよびD)。オーバーレイ分析は、HIF3a sv3 cds−mycタンパク質が主として核に局在し(図35E)、およびH4APPsw対照細胞(図35F)と比較して、70%を上回るH4APPsw−HIF3a sv3 cds−myc遺伝子導入細胞内で過剰発現していることを示唆する。
【図36】図36は、HIF3a sv1、HIF3a sv3、HIF3a sv5およびFITC−複合ヤギ抗ウサギIgG抗血清に存在する290〜304アミノ酸に対応するペプチドに対して惹起した、アフィニティ精製したウサギポリクローナル抗HIF3a抗血清(HSR1、1:80)で標識した、ヒト側頭皮質(皮質、CT)に由来する切片を表す(緑色のシグナル、図36の図AおよびB、中央および右側の写真)。神経細胞を神経細胞特異的マーカーNeuN(赤色のシグナル、図36図A)で標識し、および星状細胞を星状細胞マーカーGFAP(赤色のシグナル、図36図B)で標識する。青色のシグナルは、DAPIで染色した核を示唆する。上側の図Aは、神経細胞(マーカーNeuN)が強い細胞核のHIF3a免疫活性を示すことを示し、黄色の矢印はHIF3aを発現している神経細胞を説明的に示唆する(右側および中央の写真)。下側の図Bは、星状細胞の染色(マーカーGFAP)を示し、これは弱い細胞核のHIF3a免疫シグナルを呈するのみである(黄色の矢印、中央 および右側の写真)。
【図37】図37は、HIF3a sv1、HIF3a sv3、HIF3a sv5およびFITC−複合ヤギ抗ウサギIgG抗血清に存在する290〜304アミノ酸に対応するペプチドに対して惹起した、アフィニティ精製したウサギポリクローナル抗HIF3a抗血清(HSR1、1:80)で標識した、ヒト側頭皮質の白質(WM)に由来する切片を表す(緑色のシグナル、図37の図AおよびB、中央および右側の写真)。ミクログリア細胞をミクログリア特異的マーカーCD68(赤色のシグナル、図37図A)で標識し、および乏突起膠細胞を乏突起膠細胞マーカーCNPase(赤色のシグナル、図37図B)で標識する。青色のシグナルは、DAPIで染色した核を示唆する。上側の図Aは、ミクログリア(マーカーCD68)が細胞核のHIF3a免疫活性神経細胞を示すことを示し、黄色の矢印はHIF3aを発現しているミクログリア細胞を説明的に示唆する(右側および中央の写真)。下側の図Bは、乏突起膠細胞の染色(マーカーCNPase)を示し、これは中等度の細胞核のHIF3a免疫シグナルを呈し(黄色の矢印、右側および中央の写真)、ミエリンと共局在化していない。
【図38】図38は、対照ドナー(対照ブラーク1(C029))に由来する、中等度のブラーク病期(ブラーク3(C035))を有する被験者に由来する、およびアルツハイマー患者(患者ブラーク4(P016)、ブラーク5(P011)、ブラーク6(P017))に由来する、後側頭回(CT、下図)および前頭皮質(CF)の切片からデジタル撮影した顕微鏡写真を例示的に表す。組織切片を、アフィニティ精製したウサギポリクローナル抗HIF3a抗血清(HSR1)で免疫標識する(緑色のシグナル)(倍率40x)。星状細胞を星状細胞特異的マーカーGFAPに対する抗体で染色する(赤色のシグナル)。核をDAPIで染色する(青色のシグナル)。ブラークの低い対照(ブラーク1)と比較して、中等度のブラーク病期(ブラーク3および4)を有する被験者の側頭皮質、および、ブラーク病期の高い(ブラーク5および6)被験者の前頭および側頭皮質において、細胞核の星状細胞HIF3a免疫活性が増大し、HIF3aタンパク質のHIF3a翻訳産物のレベルが増大する。中等度ブラーク病期の被験者の側頭皮質において、および、高いブラーク病期被験者の前頭および側頭皮質においてすら、HIF3aタンパク質のHIF3a免疫活性、すなわち、HIF3a翻訳産物のレベルが増大するという知見は、ADの過程すなわち神経原繊維病変の進行が、ADの神経変性による変更と併発して、またはその後に、またはその前に起こりうる星状細胞HIF3aの発現に反映されることを示唆する。ここで例示的に示されるデータは、HIF3aタンパク質の星状細胞免疫活性の強度および量のレベルは、対照者(ブラーク)および中等度のブラーク病期(ブラーク3)を有する被験者に由来する下側頭皮質および/または前頭皮質と比較して、患者(ブラーク病期4〜6)由来の下側頭皮質および前頭皮質において増大し、すなわち、HIF3aタンパク質のレベルがADのブラーク病期の増加とともに増大することを明らかに示唆する。側頭皮質(CT);前頭皮質(CF);健常対照者(対照);アルツハイマー患者(患者)。
【図39】図39は、3つの異なるHIF3a sv3−mycを発現しているハエ細胞系の発現効率の比較を表す。効率は、HIF3a sv3−myc特異的プライマー対のRT−PCR反応のサイクル数および効率によって算出する。各遺伝子型ごとに3回測定を行った。使用した遺伝子型:w;UAS−HIF3a−sv3−myc#3/gmr−GAL4;w;UAS−HIF3a−sv3−myc#4/gmr−GAL4;w;UAS−HIF3a−sv3−myc#57/+;gmr−GAL4/+。
【図40】図40のHIF3a sv3タンパク質は、成体網膜における光受容細胞の核に局在する。遺伝子導入HIF3a−sv3ハエ細胞株#3をgmr−GAL4の調節下で発現させた。成虫の眼のクライオスタット切片を抗myc(MYC、赤色のシグナル)およびDAPI(DAPI、青色のシグナル)で染色して、核染を標識した。野生型非遺伝子導入ハエを陰性対照として用いた。矢印は、myc−およびDAPI−陽性シグナルをオーバーラップする核を示す。Re:網膜。
【図41】図41は、HIF3a−sv3を発現しているハエのウェスタンブロットを示す。3つの異なる遺伝子導入ハエ細胞株(#3、#4、および#14、レーン2、3および4)を用いてgmr−GAL4の調節下でHIF3a sv3を発現させ、および発現を非遺伝子導入w1118ハエ(レーン1)と比較した。等量のタンパク質をレーン1から4に投入した。レーン5:HIF3a−sv3−myc構築物で安定的に遺伝子導入したH4−APPsw細胞のタンパク質抽出物。レーン6:HIF3a−sv3−myc構築物で一過性に遺伝子導入したH4−APPsw細胞のタンパク質抽出物。レーン7:H4−APPsw対照細胞。ブロットは、ポリクローナル抗myc抗体(MBL)で探索した。赤色の星印は、遺伝子導入ハエおよびH4−神経膠腫細胞のタンパク質抽出物におけるHIF3a sv3の低い発現を示す。
【図42】図42は、gmr−GAL4の調節下でhAPPおよびhBACEを発現しているハエにおける、光受容体細胞変性の救済を示す。成虫の脳および複眼の10μmクリオスタット切片を、羽化から8日後に光受容体細胞特異的抗体24B10で染色した。(A)hAPPおよびhBACEを発現している対応する年齢の対照ハエは、年齢依存性の網膜中の光受容細胞の変性を示す。(B)HIF3a−sv3(#3、#4、#57)の共発現は、網膜の完全性から判断するように光受容体細胞変性を救済する。(C)hAPP、hBACE、DPsnL235PおよびHIF3a−sv3#57を共発現している3日齢のハエにおける、光受容体細胞変性の強い発現。Re:網膜;La:板;Me:骨髄。スケールバー:50μm。
【図43】図43は、hAPP/hBACEおよびhAPP/hBACE/HIF3a−sv3を発現しているハエのホモジネートからAbeta免疫沈降したウェスタンブロットを示す。単量体の合成Abeta40を4kDaの分子量で測定し、一方、ハエのホモジネートから単離されたAbetaペプチドを二量体としての抗体6E10によって検出する。1レーンあたり15匹のハエのホモジネートを、抗体6E10を用いて免疫沈降した。等量のハエタンパク質を各免疫沈降に使用した。対照ハエおよびHIF3a sv3を共発現しているハエとの間のAbetaレベルに差は検出することができなかった。
【図44】図44は、hAPP/hBACE/DPsnL235P(図A)またはhAPP/hBACE/DPsnL235P/HIF3a−sv3#4(図B)を発現している42日齢のオスのハエの網膜のパラフィン切片上の、チオフラビンS陽性プラーク(矢印で示す)を示す。対照ハエとhAPP/hBACE/DPsnL235P/HIF3a−sv3#4を発現しているハエとの間で、プラーク形成の開始の差は検出されなかった。遺伝子型あたり10頭を切片化し、および並列状態で染色した。倍率:20x;挿入:100x;スケールバー:10μm。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者において神経変性疾患を診断または予測診断する、または被験者が前記疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定する、
前記被験者由来の試料中の
(i)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または
(ii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体、
のレベルまたは活性を測定し、および前記レベルまたは前記活性、または前記転写または翻訳産物の前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の健康状態を表す参照値とおよび/または既知の疾患状態を表す参照値と比較し、および前記レベルおよび/または前記活性が既知の健康状態を表す参照値と比較して変動しまたは改変され、および/または既知の疾患状態を表す参照値と同様または等しく、それによって前記被験者において前記神経変性疾患を診断または予測診断すること、または前記被験者が前記神経変性疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下記の段階によって、被験者において神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断または予測診断する、または被験者のそのような疾患を発症する傾向のリスク、または素因を判定するためのキットであって、
a)(i)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬および(ii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、から成る群から選択された少なくとも一つの試薬
を含み、それによって、下記の手順(i)及び(ii)によってアルツハイマー病を診断または予測診断する、または発症する高いリスクがあるかどうかを判定する前記キット。
(i)前記被験者に由来する試料中の、HIF3aをコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出、および(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の前記レベルまたは活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の健康状態を表す参照値とおよび/または既知の疾患状態を表す参照値と比較し、および前記転写産物および/または前記翻訳産物の前記レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、既知の健康状態を表す参照値と比較して変化し、および/または既知の疾患状態を表す参照値と同様または等しい。
【請求項4】
HIF3aまたはその断片、または誘導体、または変異体をコードする非天然遺伝子配列を含む、遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項5】
非ヒト動物が、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウス、ラットまたはモルモット、または非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)といったハエである、請求項4に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項6】
前記遺伝子操作の発現が、神経変性疾患に類似した神経病理の症状、特にADに類似した症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す前記非ヒト動物を結果として生じる、請求項4および5に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項7】
前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた作用のために、前記遺伝子操作の発現が、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示すおよび/またはADの症状を有しない前記非ヒト動物を結果として生じる、請求項4および5に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項8】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬および治療薬の開発において、化合物、物質、および調節因子を、スクリーニング、試験、および評価するための、請求項4から7に記載の遺伝子操作非ヒト動物の使用。
【請求項9】
(i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または
(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された少なくとも一種類の物質の活性および/またはレベルの調節因子。
【請求項10】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病、または関連する疾患または障害の調節因子についての、
(i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または
(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された一種類以上の物質のスクリーニングのための測定法であって、
(a)細胞を被験化合物と接触させること;
(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;
(c)前記被験化合物と接触させていない対照細胞中の、(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;および
(d)段階(b)および(c)の細胞中の物質のレベルおよび/または活性を比較するが、接触させた細胞中の物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患または障害の調節因子であることを示すこと
を含む前記方法。
【請求項11】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病、または関連する疾患または障害の調節因子についての、
(i)HIF3aをコードする遺伝子、および/または
(ii)HIF3aをコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された一種類以上の物質のスクリーニングのための測定法であって、
(a)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質に関して、神経変性疾患または関連する疾患または障害の症状を発症する素因があるかまたは既に発症している被験動物に、被験化合物を投与すること;
(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;
(c)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質に関して、およびそのような被験化合物が投与されていない、神経変性疾患または関連する疾患または障害の症状を発症する素因があるかまたは既に発症している対応する対照動物において、(i)または(iv)で列挙された一種類以上の物質の活性および/またはレベルを測定すること;
(d)段階(b)および(c)の動物における物質の活性および/またはレベルを比較するが、被験動物における物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患または障害の調節因子であることを示すこと
を含む前記方法。
【請求項12】
前記被験動物および/または前記対照動物が、天然のHIF3a遺伝子転写調節配列ではない転写調節配列の調節下にある、HIF3aをコードする遺伝子、またはその断片、または誘導体、または変異体を発現する遺伝子操作非ヒト動物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
化合物の試験のための、好ましくは複数の化合物のスクリーニングのための、HIF3a翻訳産物またはその断片、または誘導体、または変異体への前記化合物の結合の程度を決定するための分析法であって、
(i)前記HIF3a翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加えること;
(ii)前記結合についてスクリーニングされる検出可能な、特に蛍光標識される化合物、または蛍光標識される複数の化合物を前記複数の容器に加えること;
(iii)前記HIF3a翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体、および前記検出可能な、特に蛍光標識される化合物または蛍光標識される複数の化合物をインキュベートすること;
(iv)前記HIF3a翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、またはその変異体と相関する好ましくは蛍光量を測定すること;
(v)一種類以上の前記化合物による前記HIF3a翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への結合の程度を判定すること
を含む分析法。
【請求項14】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断標的としての、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5のタンパク質分子の使用。
【請求項15】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防する、または治療する、または改善する試薬または化合物についてのスクリーニング標的としての使用のための、HIF3aをコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5のタンパク質分子の使用。
【請求項16】
被験者由来の試料中の細胞の病理状態を検出するための、免疫原と特異的に免疫反応性である抗体の使用であって、免疫原がHIF3a、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体であり、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学染色を含み、ここで既知の健康状態を表す細胞と比較した前記細胞における染色の程度の変化、または染色パターンの変化が、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病と関係する前記細胞の病理状態を示す、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【公表番号】特表2007−519399(P2007−519399A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544454(P2006−544454)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/053573
【国際公開番号】WO2005/059562
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(504087411)エヴォテック ニューロサイエンシス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (5)
【Fターム(参考)】