説明

ヒドロキシスチレンおよびそのアセチル化誘導体を製造する方法

非アミン塩基性触媒の存在下にてフェノール性基質を熱的脱炭酸化して、ビニルモノマーを製造する方法を提供する。脱炭酸反応の生成物は、同一反応器内でアセチル化剤の存在下にてさらにアセチル化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成分野に関する。さらに具体的には、本発明は、単一反応器内で2工程プロセスにおいて、フェノール性基質を熱的塩基触媒脱炭酸化し、続いて得られた生成物をアセチル化することによって、ヒドロキシスチレンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−ヒドロキシスチレン(pHS)などのヒドロキシスチレンおよび4−アセトキシスチレン(pAS)などのそのアセチル化誘導体は、多種多様な工業用途において潜在的な有用性を有する芳香族化合物である。例えば、これらの化合物は、樹脂、エラストマー、接着剤、コーティング、自動車仕上げ塗装およびインクの製造用のモノマーにおける用途、ならびに電子材料における用途を有する。これらの化合物は、エラストマーおよび樹脂配合物において添加剤として使用することもできる。
【0003】
ヒドロキシスチレンおよびそのアセチル化誘導体を化学合成する多くの方法が知られている。しかしながら、これらの方法には、高価な試薬、厳しい条件が必要であり、一般に収率が30〜63%と比較的低い。例えば、ソルヴィッシュ(Sovish)(非特許文献1)によって、p−ヒドロキシケイ皮酸(pHCA)から4−ヒドロキシスチレン(p−ビニルフェノールとしても知られる)を製造する方法が記載されている。pHCAは、温度約225℃で銅粉末によってキノリン中で脱炭酸化される。4−ヒドロキシスチレンの収率は約41%であった。
【0004】
ピテ(Pittet)らは、特許文献1において、p−ビニルフェノールの製造方法を記述している。その方法では、最初に、エチレンジアミンを触媒として使用して、p−ヒドロキシベンズアルデヒドをマロン酸と反応させ、pHCAを生成し、それを温度115〜120℃にてその場で脱炭酸化し、純粋でないp−ビニルフェノールが形成される。p−ビニルフェノールを反応混合物から単離し、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの塩基の存在下にて無水酢酸と反応させ、4−アセトキシスチレンを形成し、それを反応混合物から分離し、強塩基の存在下において加水分解して、精製p−ビニルフェノールが得られる。4−ビニルフェノールの収率は約31%であった。
【0005】
シャデリ(Schaedeli)は、特許文献2において、pHCAで開始して4−ヒドロキシスチレンを製造する方法を記述している。その方法では、アミン触媒、つまり1,8−ジアザビシクロ[5,4−0]ウンデカ−7−エンおよびヒドロキノンの存在下にて、pHCAをジメチルスルホキシド中で135℃にて脱炭酸化し、4−ヒドロキシスチレンを生成する。この方法での収率は63%であった。
【0006】
ララ(Lala)らは、特許文献3において、非プロトン性溶媒中でアミン触媒を使用して、オルトまたはパラ−ヒドロキシアリールカルボン酸を熱的脱炭酸化して、ビニル誘導体を形成する方法を記述している。さらに、ヒドロキシアリールカルボン酸をその場で形成し、続いて熱的脱炭酸化することによってビニルヒドロキシアリール化合物を製造する方法が記載されている。ヒドロキシアリールカルボン酸は、塩基媒体中で脂肪族ジカルボン酸または脂肪族無水物をヒドロキシアリールアルデヒドと反応させることによって形成される。これらの方法における収率の範囲は15〜60%であった。
【0007】
シュタインマン(Steinmann)は、特許文献4において、触媒の非存在下にて150℃でジメチルホルムアミド中でコーヒー酸を熱的脱炭酸化することによる3,4−ジヒドロキシスチレンの合成を記述している。この方法で得られる収率は記載されていない。
【0008】
ムンテアーヌ(Munteanu)ら(非特許文献2)は、双極性非プロトン性溶媒中で非アミン塩基触媒を使用して、および使用することなく、トランス−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシケイ皮酸を熱分解することによる3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシスチレンの製造を記述している。報告されている収率は95%であった。他のケイ皮酸誘導体の熱的脱炭酸化は、その開示内容において記載されていない。
【0009】
置換ケイ皮酸の熱的脱炭酸化が水性媒体中で研究されている。ピサロ(Pyysalo)ら(非特許文献3)は、pH1〜6の水性バッファー中での100℃での置換ケイ皮酸誘導体の熱的脱炭酸化を記述している。コーエン(Cohen)ら(非特許文献4)は、pH1〜12の水性バッファー中でのp−ヒドロキシケイ皮酸の熱的脱炭酸化を記述している。脱炭酸化生成物の単離は、これらの開示内容において報告されていない。
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,316,995号明細書
【特許文献2】米国特許第5,274,060号明細書
【特許文献3】豪州特許出願第7247129号明細書
【特許文献4】米国特許第5,324,804号明細書
【非特許文献1】ソルヴィッシュ(Sovish)、J.Org.Chem.24:1345−1347(1959)
【非特許文献2】ムンテアーヌ(Munteanu)ら、J.Thermal Anal.37:411−426(1991)
【非特許文献3】ピサロ(Pyysalo)ら、Lebensmittel−Wissenschraft u.Technol.10(Food Science and Technology):145−147(1977)
【非特許文献4】コーエン(Cohen)ら、J.Amer.Chem.Soc.82:1907−1911(1960)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、比較的安価な試薬、比較的穏やかな条件を使用し、高い収率が得られる、ヒドロキシスチレンおよびそのアセチル化誘導体を製造する方法が必要とされている。
【0012】
本出願人は、比較的穏やかな条件の下で比較的安価な試薬を使用して、100%までの収率でヒドロキシスチレンおよびそのアセチル化誘導体を製造する方法を発見することによって上記の問題を解決した。ヒドロキシスチレンは、非アミン塩基性触媒の存在下においてフェノール性基質を熱的脱炭酸化することによって製造される。アセチル化誘導体は、同一反応器内で得られたヒドロキシスチレンをアセチル化剤と反応させることによって形成される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、非アミン塩基性触媒の存在下でフェノール性基質を熱的脱炭酸化する方法に関する。脱炭酸反応の生成物はさらに、同一反応器内でアセチル化剤の存在下にてアセチル化される。場合により重合防止剤または重合遅延剤が反応混合物に添加される。脱炭酸化またはアセチル化生成物の収率は一般に、63%を超える。
【0014】
したがって、
a)一般構造:
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、R、R、およびRは、H、OH、またはOCHであり;RおよびRは、H、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;RおよびRは、H、ハロ、またはシアノであり、ただし、R、R、またはRのうち少なくとも1つはOHであり、そしてRおよびRは両方同時にt−ブチルではない]
を有するフェノール性基質を準備する工程;
b)i)非アミン塩基性触媒;および
ii)少なくとも1種の極性有機溶媒または極性有機溶媒混合物;
を含んでなる反応混合物を準備する工程;
c)フェノール性基質を脱炭酸化生成物に脱炭酸化するのに十分な時間、少なくとも約100℃の温度で(a)のフェノール性基質を(b)の反応混合物と接触させる工程;
を含んでなる、フェノール性基質を脱炭酸化してビニルモノマーを製造する方法を提供することは本発明の範囲内である。場合により脱炭酸化生成物は当技術分野でよく知られている手段によって回収される。
【0017】
他の実施形態において、本発明は、
a)一般構造:
【0018】
【化2】

【0019】
[式中、R、R、およびRは、H、OH、またはOCHであり;RおよびRは、H、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;RおよびRは、H、ハロ、またはシアノであり、ただしR、R、またはRのうち少なくとも1つがOHである]
を有するフェノール性基質を準備する工程;
b)i)非アミン塩基性触媒;および
ii)少なくとも1種の極性非プロトン性有機溶媒または極性非プロトン性有機溶媒混合物;
を含んでなる反応混合物を準備する工程;
c)フェノール性基質を脱炭酸化して脱炭酸化生成物を生成せしめるのに十分な時間、少なくとも約100℃の温度で(a)のフェノール性基質を(b)の反応混合物と接触させる工程;
d)(c)の脱炭酸化生成物をアセチル化剤と接触させて、一般構造:
【0020】
【化3】

【0021】
[式中、R、R10、およびR12は、H、O(C=O)CH、またはOCHであり;RおよびR11は、H、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;R13およびR14は、H、ハロ、またはシアノであり、ただし、R、R10、またはR12のうちの少なくとも1つはO(C=O)CHである]
を有するアセチル化生成物を生成せしめる工程;
の連続した工程を含んでなる、フェノール性基質からアセチル化生成物を合成する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、フェノール性基質を熱的非アミン塩基触媒脱炭酸化することによりヒドロキシスチレンを製造する方法を提供する。得られたヒドロキシスチレンは、アセチル化剤を添加することによって同一反応器内でアセチル化される。ヒドロキシスチレンおよびそのアセチル化誘導体が、樹脂、エラストマー、接着剤、コーティング、自動車仕上げ塗装、インクおよび電子材料の製造に使用されるモノマーとしての、およびエラストマーおよび樹脂配合物における添加剤としての用途を有することから、この方法は有用である。
【0023】
以下の定義が本明細書において使用され、特許請求の範囲および明細書の解釈のために言及される。
【0024】
「p」はパラを意味する。
【0025】
「pAS」は、パラ−アセトキシスチレンに使用される略語であり、p−アセトキシスチレンまたは4−アセトキシスチレンとしても表される。
【0026】
「pHS」は、パラ−ヒドロキシスチレンに使用される略語であり、p−ヒドロキシスチレンまたは4−ヒドロキシスチレンとしても表される。
【0027】
「CA」はケイ皮酸を意味する。
【0028】
本明細書で使用される「収率」という用語は、化学反応で生成される生成物の量を意味する。収率は一般に、反応の理論収量のパーセンテージとして表される。「理論収量」という用語は、最初に存在する基質の量に対してされる予想される生成物の期待量および反応の化学量論を意味する。
【0029】
本発明の溶媒に適用される「極性」という用語は、かなり大きな永久双極子モーメントを有する分子によって特徴付けられる溶媒を意味する。
【0030】
本発明の溶媒に適用される「非プロトン性」という用語は、不安定な陽子供与体または受容体として働くことができない溶媒を意味する。
【0031】
本発明の溶媒に適用される「プロトン性」という用語は、不安定な陽子供与体または受容体として働くことができる溶媒を意味する。
【0032】
「極性有機溶媒混合物」という用語は、少なくとも1種の極性溶媒を含んでなる有機溶媒の混合物を意味する。
【0033】
「極性非プロトン性有機溶媒混合物」という用語は、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を含んでなる有機溶媒の混合物を意味する。
【0034】
「TAL」は、チロシンアンモニアリアーゼに使用される略語である。
【0035】
「PAL」は、フェニルアラニンアンモニアリアーゼに使用される略語である。
【0036】
「PAH」は、フェニルアラニンヒドロキシラーゼに使用される略語である。
【0037】
「TAL活性」という用語は、チロシンのpHCAへの直接変換を触媒するタンパク質の能力を意味する。
【0038】
「PAL活性」という用語は、フェニルアラニンのケイ皮酸への変換を触媒するタンパク質の能力を意味する。
【0039】
「pal」とは、PAL活性を有する酵素をコードする遺伝子を表す。
【0040】
「tal」とは、TAL活性を有する酵素をコードする遺伝子を表す。
【0041】
「PAL/TAL活性」または「PAL/TAL酵素」という用語は、PAL活性およびTAL活性のどちらも含むタンパク質を意味する。かかるタンパク質は、酵素基質としてチロシンとフェニルアラニンの両方に対して少なくともいくらかの特異性を有する。
【0042】
「P−450/P−450レダクターゼ系」という用語は、ケイ皮酸のpHCAへの触媒変換を担うタンパク質系を意味する。P−450/P−450レダクターゼ系は、シンナメート4−ヒドロキシラーゼ機能を果たす、当技術分野で公知のいくつかの酵素または酵素系のうちの1つである。本明細書で使用される「シンナメート4−ヒドロキシラーゼ」という用語は、ケイ皮酸のpHCAへの変換を生じさせる一般的な酵素活性を意味するのに対して、「P−450/P−450レダクターゼ系」は、シンナメート4−ヒドロキシラーゼ活性を有する特異的な二元タンパク質系を意味する。
【0043】
本明細書に記載のすべての範囲は、その範囲の終端およびそのすべての中間範囲点も含む。
【0044】
本発明は、
一般式:
【0045】
【化4】

【0046】
[式中、R、R、およびRは、H、OH、またはOCHであり;RおよびRは、H、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;RおよびRは、H、ハロ、またはシアノであり、RおよびRが両方同時にt−ブチルではないことが好ましい、ただし、R、R、またはRのうちの少なくとも1つはOHである]
を有する、ビニルモノマー、具体的にはヒドロキシスチレンを製造する方法を含んでなる。本発明の方法によって製造されるヒドロキシスチレンの例としては、限定されないが、4−ヒドロキシスチレン、3−メトキシ−4−ヒドロキシスチレン、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシスチレン、3,4−ジヒドロキシスチレン、2−ヒドロキシスチレンおよびα−シアノ−4−ヒドロキシスチレンが挙げられる。
【0047】
さらに、反応器にアセチル化剤を添加することによって、得られたヒドロキシスチレンをアセチル化して、一般構造:
【0048】
【化5】

【0049】
[式中、R、R10、およびR12は、H、O(C=O)CH、またはOCHであり;RおよびR11は、H、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;R13およびR14は、H、ハロ、またはシアノであり、ただし、R、R10、またはR12のうちの少なくとも1つはO(C=O)CHである]
を有するアセチル化生成物が得られる。
【0050】
アセチル化生成物の例としては、限定されないが、4−アセトキシスチレン、3−メトキシ−4−アセトキシスチレン、3,5−ジメトキシ−4−アセトキシスチレン、3,4−ジアセトキシスチレン、2−アセトキシスチレン、およびα−シアノ−4−アセトキシスチレンが挙げられる。
【0051】
フェノール性基質
本発明で使用されるフェノール性基質は、一般構造:
【0052】
【化6】

【0053】
[式中、R、R、およびRは、H、OH、またはOCHであり;RおよびRは、H、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;RおよびRは、H、ハロ、またはシアノであり、ただし、R、R、またはRのうちの少なくとも1つはOHである]
を有する。適切なフェノール性基質の例としては、限定されないが、4−ヒドロキシケイ皮酸、フェルラ酸、シナピン酸、コーヒー酸、2−ヒドロキシケイ皮酸、およびα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸が挙げられる。立体障害のあるフェノールよりも生成物分解する傾向がある、立体障害のないフェノール基質でさえ、高収率の脱炭酸化生成物が得られることが発見された。本明細書において立体障害のあるフェノールは、RおよびR位置の両方で、t−ブチルなどの大きな嵩高い基として定義される。立体障害のないフェノールは、RおよびR位置の両方で、大きな嵩高い基を保持しないフェノールである。立体障害のないフェノール基質としては、限定されないが、RまたはRのうちの少なくとも1つが、H、OH、OCH、メチル、エチル、またはプロピルであるフェノールが挙げられる。さらに、生成物分解する傾向があるオルト非置換フェノール基質でさえ、高収率の脱炭酸化生成物が得られることが発見された。本明細書においてオルト非置換フェノールは、RまたはRのうちの少なくとも1つがHであるフェノールとして定義される。
【0054】
これらのフェノール性基質は多くの方法で得ることができる。例えば、主にトランス形の4−ヒドロキシケイ皮酸(pHCA)は、アルドリッチ社(Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI))およびTCIアメリカ社(TCI America)(オレゴン州ポートランド(Portland,OR))などの会社から市販されている。さらに、pHCAは、当技術分野で公知の方法を使用して化学合成によって製造することができる。例えば、米国特許第4,316,995号明細書にピテ(Pittet)らによって、または米国特許第5,990,336号明細書にアレキサンドラトス(Alexandratos)によって記載されているように、マロン酸をパラ−ヒドロキシベンズアルデヒドと反応させることによって、pHCAを製造することができる。代替方法としては、植物からpHCAを単離することもできる(R.ベンリエフ(Benrief)ら,Phytochemistry 47:825−832(1998)および米国特許出願公開第20020187207号明細書)。一実施形態において、pHCAの源は、生産宿主を使用した生物産生(bioproduction)に由来する。他の実施形態において、生産宿主は、標準DNA技術を使用して製造される組換え宿主細胞である。これらの組換えDNA技術は、参照により本明細書に組み込まれる、サンブルック(Sambrook),J.、フリッチュ(Fritsch),E.F.およびマニアティス(Maniatis),T.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY(1989)に記載されている。
【0055】
一実施形態において、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20030079255号明細書にチー(Qi)らによって記載されているようにpHCAが生成される。開示内容に従って、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)活性をコードする少なくとも1つの遺伝子およびチロシンアンモニアリアーゼ(TAL)活性をコードする少なくとも1つの遺伝子を発現するように遺伝子操作された組換え微生物を使用して、pHCAが生成される。この形質転換された微生物は、グルコースなどの発酵性炭素源を、PAHによってチロシンに変換されるフェニルアラニンへと代謝する。生成されたチロシンは、TAL酵素によってpHCAに変換される。TAL活性を有する適切な酵素が使用される。例えば、PAL活性とTAL(PAL/TAL)活性のどちらも有する酵素が使用される。米国特許第6,368,837号明細書にゲートンビー(Gatenby)らによって記載されるように、向上したTAL活性を有するように、野生型酵母PAL酵素の突然変異生成によって生成されたTAL酵素も使用することができる。代替方法としては、米国特許出願公開第20040023357号明細書に記載される酵母トリコスポロン−クタネウム(Trichosporon cutaneeum)からの誘導性TAL酵素、またはキント(Kyndt)ら(FEBS Lett.512:240−244(2002))もしくはファング(Huang)ら(米国特許出願公開第20040059103号明細書)に記述されるような細菌TAL酵素が使用される。
【0056】
他の実施形態において、pHCAは、参照により本明細書に組み込まれる上記のゲートンビー(Gatenby)らにより開示されている方法のうちのいずれか1つによって生成される。例えば、pHCAは、酵母PAL活性をコードする遺伝子および植物P−450/P−450レダクターゼ系をコードする遺伝子を発現するように遺伝子操作された組換え微生物を使用して生成される。この形質転換された微生物は、グルコースなどの発酵性炭素源を、PAL酵素によってケイ皮酸(CA)に変換されるフェニルアラニンへと代謝する。続いて、CAは、P−450/P−450レダクターゼ系の作用によってpHCAに変換される。代替方法として、TAL活性をコードする遺伝子を発現する組換え微生物を使用して、pHCAを生成することができる。TAL酵素は直接、チロシンをpHCAに変換する。上述のように、いずれかの適切なTAL酵素を使用することができる。
【0057】
他の実施形態において、pHCAは、参照により本明細書に組み込まれる、係属中かつ同一出願人による米国特許出願第60/563633号明細書にベン−バサット(Ben−Bassat)により記載されているように2段階発酵を用いて生成される。第1段階は、芳香族アミノ酸チロシンを生成する向上した能力を有する微生物の生産宿主(過剰産生体(over−producer))を提供することを含んでなる。これらの細胞は、生理学的pHにて、チロシンが増殖培地に蓄積する時点まで増殖する。発酵の第2段階中に、細胞をpH約8.0〜約11.0でTALの源と接触させる。この段階中、チロシンは、比較的高い速度および収率でpHCAに変換される。代替方法として、2つの段階は、2つの別々の段階として行うことができ、チロシンを第1段階の発酵培地から単離し、次いでTALの源と接触させる。
【0058】
pHCAの生物産生に関しては、使用される微生物を発酵槽内で適切な増殖培地において培養する。攪拌タンク発酵槽、エアリフト発酵槽、気泡発酵槽、またはそのいずれかの組み合わせを含む、いずれかの適切な発酵槽を使用することができる。微生物培養物の維持および増殖のための材料および方法は、微生物学または発酵科学の当業者にはよく知られている(例えば、ベイリー(Bailey)ら、Biochemical Engineering Fundamentals、第2版、McGraw Hill、New York、1986参照)。生物産生されたpHCAは、当技術分野で公知の方法を用いて、本発明で使用される発酵培地から単離される。例えば、遠心分離によって、発酵培地から固体が除去される。次いで、培地を酸性化することによって、pHCAを沈殿させ、遠心分離によって回収する。所望の場合には、例えば有機溶媒抽出を用いて、pHCAをさらに精製することができる。
【0059】
同様に、フェルラ酸、シナピン酸、およびコーヒー酸は、アルドリッチ社(Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI))およびTCIアメリカ社(TCI America)(オレゴン州ポートランド(Portland,OR))などの会社から市販されている。代替方法としては、リグニン生合成経路の要素を含んでなるこれらの基質は、すべて天然植物産物であるため、植物組織から容易に単離することができる(例えばチャン(Jang)ら、Archives of Pharmacal Research(2003)、26(8)、585−590;マツフジ(Matsufuji)ら、Journal of Agricultural and Food Chemistry(2003)、51(10)、3157−3161;国際公開第2003046163号パンフレット;クテアウ(Couteau)ら、Bioresource Technology (1998)、64(1)、17−25;およびバルトロメ(Bartolome)ら、Journal of the Science of Food and Agriculture(1999)、79(3)、435−439参照)。さらに、多くのより一般的なフェノール性基質についての化学合成法が知られている(例えば、国際公開第2002083625号パンフレット(「Preparation of ferulic acid dimers and their pharmaceutically acceptable salts,and use thereof for treating dementia」);特開2002155017号公報(「Preparation of caffeic acid from ferulic acid」);およびタニグチ(Taniguchi)ら、Anticancer Research (1999)、19(5A)、3757−3761参照)。アルキル化pHCA誘導体の製造は、豪州特許出願第7247129号明細書にララ(Lala)らによって記述されている。
【0060】
非アミン塩基性触媒
本発明の方法では、非アミン塩基性触媒を使用する。非アミン塩基性触媒は、アミンを含有しない本発明の反応を促進することができる塩基性化合物である。比較として、アミン含有触媒の例は、ピリジンおよびエチレンジアミンである。実質的に、本発明の反応条件と適合性の非アミン塩基性触媒が使用され、金属塩および特にカリウム塩または酢酸塩が好ましい。本発明において特に適している触媒としては、限定されないが、酢酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび酸化マグネシウムが挙げられる。
【0061】
本発明の非アミン触媒はすべて、例えば、EMサイエンス社(EM Science)(ニュージャージー州ギブスタウン(Gibbstown,NJ))またはアルドリッチ社(Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI))から市販されている。
【0062】
非アミン塩基性触媒の最適濃度は、基質の濃度、使用する溶媒の性質および反応条件に応じて異なる。一般に、反応混合物中で基質に対して約1モル%〜約30モル%の濃度が好ましい。
【0063】
有機溶媒
脱炭酸反応のみについては、極性非プロトン性有機溶媒およびプロトン性極性有機溶媒を含む多種多様な有機溶媒が使用される。単一のプロトン性極性溶媒または単一の極性非プロトン性溶媒を使用することができる。さらに、極性非プロトン性溶媒の混合物、プロトン性極性溶媒の混合物、極性非プロトン性溶媒とプロトン性極性溶媒との混合物、および非プロトン性もしくはプロトン性溶媒と非極性溶媒との混合物を使用することができ、極性非プロトン性溶媒またはその混合物が好ましい。適切な極性非プロトン性溶媒としては、限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、およびヘキサメチル亜リン酸トリアミドが挙げられる。適切なプロトン性極性溶媒としては、限定されないが、ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル(ドワノール(Dowanol)(商標)DPM)、ジ(エチレングリコール)メチルエーテル、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、プロピレングリコールメチルエーテル、n−ヘキサノール、およびn−ブタノールが挙げられる。
【0064】
2工程脱炭酸化−アセチル化プロセスに関しては、有機溶媒は、非プロトン性および極性の両方の最終的な特性を有するべきである。単一の極性非プロトン性溶媒を使用してもよいし、または極性非プロトン性溶媒の混合物を使用してもよい。代替方法としては、極性非プロトン性溶媒を非極性溶媒と組み合わせて使用することができる;しかしながら、プロトン性溶媒は、その反応性のためにアセチル化剤を消費する傾向があるため望ましくない。本発明の2工程プロセスにおいて特に適している溶媒としては、限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、およびヘキサメチル亜リン酸トリアミドが挙げられる。
【0065】
重合防止剤
本発明の方法において重合防止剤が有用であるが、必要ではない。本発明に記載の脱炭酸反応に必要な温度に耐性のある適切な重合防止剤が使用される。適切な重合防止剤の例としては、限定されないが、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4−tert−ブチルカテコール、フェノチアジン、N−オキシル(ニトロキシド)防止剤、例えば、プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415(ニューヨーク州タリータウンのチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals,Tarrytown,NY)から市販されているビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート,CAS#2516−92−9)、4−ヒドロキシ−TEMPO(TCIアメリカ社(TCI America)から市販されている4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−イルオキシ,CAS#2226−96−2)およびユビナル(Uvinul)(登録商標)4040P(マサチューセッツ州ウスターのBASF社(BASF Corp.,Worcester,MA)から市販されている1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ホルミル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミン)が挙げられる。
【0066】
重合遅延剤
場合によっては、本発明の反応に重合防止剤と組み合わせて重合遅延剤を使用することも有利である。重合遅延剤は当技術分野でよく知られており、重合反応を遅くするが、重合をすべては防ぐことができない化合物である。一般的な遅延剤は、ジニトロ−オルト−クレゾール(DNOC)およびジニトロブチルフェノール(DNBP)などの芳香族ニトロ化合物である。重合遅延剤の製造方法は一般的であり、技術分野でよく知られており(例えば米国特許第6,339,177号明細書;パーク(Park)ら、Polymer(Korea)(1988)、12(8)、710−19参照)、スチレン重合の制御でのその使用はかなり記録に残されている(例えばブッシュビー(Bushby)ら、Polymer(1998)、39(22)、5567−5571参照)。
【0067】
反応条件
フェノール性基質、非アミン塩基性触媒、および有機溶媒を反応器に添加して、反応混合物を形成する。いずれかの適切な反応器が使用される。
【0068】
反応温度は、基質の濃度、形成された生成物の安定性、触媒の選択および所望の収率に応じて異なる。一般に、少なくとも約100℃の温度が適しており、少なくとも約100℃〜約200℃の範囲の温度が生成物の有効な生成と一致する。基質として4−ヒドロキシケイ皮酸を使用した反応では、好ましい温度範囲は約120℃〜約150℃である。それより低い安定性の生成物、例えばコーヒー酸を生成する基質には、範囲約100℃〜約120℃の低い温度が使用される。それより高い安定性の生成物、例えば3,5−ジメチル−4−ヒドロキシケイ皮酸を生成する基質では、範囲約150℃〜約200℃の高い温度が使用される。
【0069】
反応は、気圧〜約1000psig(6895kPa)の範囲の圧力で行われ、約500psig(3447kPa)の圧力もまた使用することができる。窒素などの不活性ガスを使用して、圧力を調節することができる。高圧での反応には、限定されないが、振とう容器、ロッカー容器(rocker vessel)および攪拌オートクレーブを含む従来の圧力反応器が使用される。
【0070】
反応に対する時間の制限はない;しかしながら、大部分の反応は4時間未満で行われ、反応時間約45分〜約180分が一般的である。
【0071】
ヒドロキシスチレンのアセチル化
一実施形態において、脱炭酸反応が終了した後に、アセチル化剤を反応混合物に直接添加することによって、脱炭酸化されたフェノール系生成物がアセチル化誘導体に変換される。一般に、アセチル化剤は過剰量で添加され、基質に比べて少なくとも1モル当量の濃度が好ましい。適切なアセチル化剤としては、限定されないが、無水酢酸、塩化アセチル、および酢酸が挙げられる。一実施形態において、アセチル化剤は無水酢酸である。
【0072】
アセチル化反応は、温度範囲約25℃〜約150℃、さらに温度範囲約100℃〜約140℃、圧力範囲気圧〜約1000psig(6895kPa)にて高収率で行われる。当業者には、基質と触媒の両方が可溶性である温度が使用されるべきであることは理解されよう。最も簡単な方法は、脱炭酸反応工程の終了直後にアセチル化剤を添加し、脱炭酸反応と同じ温度でアセチル化を行うことである。
【0073】
脱炭酸化およびアセチル化生成物の単離および精製
反応の終了後に、当技術分野で公知の適切な方法を使用して、脱炭酸化生成物またはアセチル化生成物を単離する。例えば、反応混合物を氷水上に注ぎ、酢酸エチルまたはジエチルエーテルなどの有機溶媒中に抽出する。次いで、減圧での蒸発を用いて溶媒を除去することによって、生成物を回収する。一実施形態において、ヒドロキシスチレン生成物の生成物収率は、理論収量の少なくとも63%である。他の実施形態において、アセチル化生成物の収率は、理論収量の少なくとも63%である。
【0074】
当技術分野でよく知られている再結晶化、真空蒸留、フラッシュ蒸留またはクロマトグラフィー技術を用いて、脱炭酸化生成物またはそのアセチル化誘導体をさらに精製する。
【0075】
次いで、樹脂、エラストマー、接着剤、コーティング、自動車仕上げ塗装、インクの製造に使用されるモノマーとして、およびエラストマーおよび樹脂配合物における添加剤として、得られたヒドロキシスチレンまたはそのアセチル化誘導体を使用することができる。
【実施例】
【0076】
本発明は、以下の実施例においてさらに定義される。本発明の好ましい実施形態を示すこれらの実施例は、単に例証として示されることを理解されたい。上記の説明およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴を把握し、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に種々の変更および修正を加えて、種々の用途および条件にそれを適応させることができる。
【0077】
使用される略語の意味は以下のとおりである:「min」は分(間)、「h」は時(間)、「sec」は秒(間)、「mL」はミリリットル、「L」はリットル、「μL」はマイクロリットル、「μm」はマイクロメートル、「mol」はモル、「mmol」はミリモル、「g」はグラム、「mg」はミリグラム、「ppm」は百万分率、「M」はモル濃度、「m」は重量モル濃度、「eq」は当量、「v/v」は容積対容積比、「Pa」はパスカル、「mPa」はミリパスカル、「psig」はゲージpsi、「MHz」はメガヘルツ、「TLC」は薄層クロマトグラフィー、「HPLC」は高性能液体クロマトグラフィー、「LC−MS」は液体クロマトグラフィー−質量分析法、「NMR」は核磁気共鳴分光法、「DMF」はN,N−ジメチルホルムアミド、「DMAc」はN,N−ジメチルアセトアミド、「NMP」は1−メチル−2−ピロリジノン、「nd」は未決定、「kPa」はキロパスカル、「rpm」は毎分回転数、「UV」は紫外線を意味する。
【0078】
一般的方法:
試薬:
別段の指定がない限り、パラ−ヒドロキシケイ皮酸は、アルドリッチ社(Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI))およびTCIアメリカ社(TCI America)(オレゴン州ポートランド(Portland,OR))から入手し;3,4ジヒドロキシケイ皮酸は、アルドリッチ社(Aldrich)から入手した。すべての溶媒は試薬用であり、アルドリッチ社(Aldrich)から入手した。塩基性触媒は、アルドリッチ社(Aldrich)またはEMサイエンス社(EM Science)(ニュージャージー州ギブスタウン(Gibbstown,NJ))から入手した。重合防止剤プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415は、ニューヨーク州タリータウンのチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals,Tarrytown,NY)から入手した。
【0079】
分析方法:
TLC法:
固体担体としてシリカゲル(Silica gel)60F254(EMサイエンス社(EM Science))を使用して、TLCを行った。pHCAの分析に移動相として、エチルアセテートとヘキサンの1:1混合物を使用し、エチルアセテートとヘキサンの1:4混合物をpHSに使用した。その試料をpHCAおよびpHSの基準試料と比較した。254nmの紫外線ランプを使用して、TLCプレートを観察した。
【0080】
HPLC法:
方法1:
逆相ゾルバックス(Zorbax)SB−C8カラム(4.6mm×150mm,3.5μm,ペンシルバニア州チャッズフォードのMAC−MODアナリティカル社(MAC−MOD Analytical Inc.,Chadds Ford,PA)によって供給されている)と共に、アジレント(Agilent)1100HPLCシステム(デラウェア州ウィルミントンのアジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies,Wilmington,DE))を使用した。2種類の溶媒:溶媒A、HPLCグレードの水中の0.1%トリフルオロ酢酸および溶媒B、アセトニトリル中の0.1%トリフルオロ酢酸を合わせた勾配を用いて、HPLC分離を達成した。移動相の流量は1.0mL/分であった。使用された溶媒勾配を表1に示す。温度45℃および試料注入量5μLを用いた。
【0081】
【表1】

【0082】
各実施後に、A95%とB5%との溶媒混合物で、再度カラムを5分間平衡化した。
【0083】
標準pHS溶液を使用して、適切な較正曲線が形成された。ロイツェリッツ(Leuteritz)ら(Polymer Preprints43(2):283−284(2002))によって記載されている方法と同様な方法を用いて、アセトキシスチレンを使用して標準のためのpHSを調製した。較正曲線を用いて、HPLCピーク領域から各試料におけるpHCAおよびpHSの重量%を決定した。サンプリングの時点での反応混合物のこの情報および全重量に関しては、pHCAの転化率%およびpHSの収率%を計算した。
【0084】
方法2:逆相ゾルバックス(Zorbax)SB−C18カラム(4.6mm×150mm,3.5μm,アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies)によって供給されている)と共に、アジレント(Agilent)1100HPLCシステムを使用した。2種類の溶媒:溶媒A、HPLCグレードの水中の0.1%トリフルオロ酢酸および溶媒B、アセトニトリル中の0.1%トリフルオロ酢酸を合わせた勾配を用いて、HPLC分離を達成した。移動相の流量は1.25mL/分であった。使用された溶媒勾配を表2に示す。温度40℃および試料注入量1μLを用いた。
【0085】
【表2】

【0086】
上述のように、適切な較正曲線を形成し、それを用いて、HPLCピーク領域から各試料におけるpHCAおよびpHSの重量%を決定した。それぞれの時点での反応混合物のこの情報および全重量(脱炭酸化時のCOの減少に対する補正を含む)に関しては、時間に対するpHCAおよびpHSの重量およびモルを計算した。
【0087】
方法3:逆相ゾルバックス(Zorbax)XDB−C18カラム,2.1×50mm(アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies)によって供給されている)と共に、アジレント(Agilent)1100HPLCシステムを使用した。2種類の溶媒:溶媒A、HPLCグレードの水+0.05%トリフルオロ酢酸および溶媒B、HPLCグレードのアセトニトリル+0.05%トリフルオロ酢酸を合わせた勾配を用いて、HPLC分離を達成した。勾配は、45分間にわたってA95%からA0%となり、それを0.5分間維持し、次いで最初の状態に戻った。移動相の流量は0.8mL/分であった。温度60℃および試料注入量1μLを用いた。
【0088】
方法4:逆相ゾルバックス(Zorbax)SB−C18カラム(4.6mm×150mm,3.5μm,アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies)によって供給されている)と共に、アジレント(Agilent)1100HPLCシステムを使用した。2種類の溶媒:溶媒A、HPLCグレードの水中の0.1%トリフルオロ酢酸および溶媒B、アセトニトリル中の0.1%トリフルオロ酢酸を合わせた勾配を用いて、HPLC分離を達成した。移動相の流量は1.0mL/分であった。使用された溶媒勾配を表3に示す。温度40℃および試料注入量1μLを用いた。
【0089】
【表3】

【0090】
上述のように適切な較正曲線を形成し、それを用いて、HPLCピーク領域から各試料におけるpHCAおよびpHSの重量%を決定した。それぞれの時点での反応混合物のこの情報および全重量(脱炭酸時のCO2の減少に対する補正を含む)に関しては、時間に対するpHCAおよびpHSの重量およびモルを計算した。
【0091】
H NMR:
ブルカー(Bruker)DRX(マサチューセッツ州ビルリカのブルカーNMR社(Bruker NMR,Billerica,MA))を使用して、500MHzでプロトンNMRデータを得た。
【0092】
LC−MS方法:
ヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)LC/MSDシリーズ1100装置(デラウェア州ウィルミントンのアジレント社(Agilent Technologies,Wilmington,DE))をLC−MS分析に使用した。2つの溶媒:溶媒A、水中の0.05%トリフルオロ酢酸および溶媒B、アセトニトリル中の0.05%トリフルオロ酢酸からなる溶媒勾配でのLC分離において、ゾルバックス・エクリプス(Zorbax Eclipse)XDB−C18カラム(2.1mm×50mm,MAC−MODアナリティカル社(MAC−MOD Analytical Inc.))を使用した。勾配は、4.5分間にわたって溶媒A95%から溶媒A0%となり、続いて溶媒A0%で2.5分間、次いで溶媒A95%に戻り、流量は0.8mL/分であった。220nmでの検出で、温度60℃にてLC分離を行った。
【0093】
実施例1〜13
パラ−ヒドロキシケイ皮酸の脱炭酸化による4−ヒドロキシスチレンの製造
これらの実施例の目的は、塩基性触媒および溶媒の種々の組み合わせを用いて、重合防止剤の存在下にて、パラ−ヒドロキシケイ皮酸の熱的塩基触媒脱炭酸化によって4−ヒドロキシスチレンを製造することである。
【0094】
これらの実施形態において、溶媒1mL中で濃度1Mでパラ−ヒドロキシケイ皮酸をフェノール性基質として使用した。実施例で使用される塩基性触媒および溶媒を表4に示す。塩基性触媒は、フェノール性基質に対して3モル%の濃度で使用した。重合防止剤プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415をすべての反応において濃度1000ppmで使用した。特注のミニブロック圧力反応器において、500psig窒素下にて温度150℃で反応を行った。ミニブロック圧力反応器は、それぞれが別々の反応混合物を含有する1〜2mLガラスバイアル8個を収容するように設計されたステンレス鋼製反応器である。反応器は、1250psigで260℃の最大定格を有する。反応混合物を含有するガラスバイアルを反応器に装入した後、それを密閉し、窒素で加圧し、ブロックヒーターで加熱した。
【0095】
1時間の反応時間後、反応器を減圧し、反応混合物の試料を上述のように方法1を用いて、HPLCによって分析した。各実施例について、反応で消費されたフェノール性基質の量(pHCA転化率)および4−ヒドロキシスチレンの収率を表4にまとめる。
【0096】
【表4】

【0097】
表4の結果から分かるように、酢酸カリウム、ナトリウムメトキシド、水酸化カリウム、および炭酸カリウムを塩基性触媒として使用して、DMF、DMAc、およびNMPにおいて最も高い生成物収率が得られた。
【0098】
実施例14
DMF中で塩基性触媒として酢酸カリウムを使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化することによる4−ヒドロキシスチレンの製造
この実施例の目的は、重合防止剤(プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 1000ppm)の存在下にて、DMF中で塩基性触媒として酢酸カリウム(10モル%)を使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を熱的塩基触媒脱炭酸化することによって、4−ヒドロキシスチレンを製造することである。三口丸底フラスコに、pHCA(5g,30.458mmol,1当量)、DMF30mL(pHCAの1M溶液を調製するため)、プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 1000ppm(5mg)、および酢酸カリウム(0.3g,10モル%)を添加した。攪拌しながら、かつ還流冷却器を使用して、窒素下にて反応を行った。油浴および温度調節器(ガス温度過昇防止装置を備えた)を用いて、反応を150℃に加熱した。酢酸カリウムは室温では可溶性ではないが、熱を加えると溶解し、淡黄色の溶液が得られた。上記のようにTLCによって、反応をモニターした。150℃で1.5時間後、TLCによって決定されるように、反応が終了した。加熱を止め、反応混合物を室温に冷却した。次いで、反応混合物を氷水100mL上に注ぎ、それを塩化ナトリウムで飽和させ、酢酸エチル(75mL分)で2回抽出した。2回の抽出から得られた有機層を合わせ、2%NaHCO溶液100mLで洗浄し、次いで水100mLで洗浄した。有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、回転蒸発器で蒸発させることによって濃縮した。残留物を−20℃で一晩保存した。次いで、その残留物をさらに、減圧(10Pa)下にて乾燥させ、淡黄色/黄褐色固体3.44gを得た(理論収量の94%)。H NMRを用いて、生成物を分析した。
H NMR(500MHz,MeOD):δ(ppm)7.998(0.04H,s),7.275(2H,ABq,J=9.0Hz),6.758(2H,ABq,J=9.1Hz),6.65(1H,dd,J=17.6および11.0Hz),5.575(1H,dd,J=17.6および1.1Hz),5.048(1H,dd,J=11.0および1.4Hz)。
【0099】
実施例15
DMF中で塩基性触媒として酢酸カリウムを使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化することによる4−ヒドロキシスチレンの製造
この実施例の目的は、重合防止剤(プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 100ppm)の存在下にて、DMF中で塩基性触媒として酢酸カリウム(3モル%)を使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を熱的塩基触媒脱炭酸化することによって、4−ヒドロキシスチレンを製造することである。
【0100】
プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 100ppm(0.5mg,DMF中の2mg/mL溶液250μLとして添加された)および酢酸カリウム3モル%(90mg)を使用したことを除いては、実施例14に記載のように反応を行った。実施例14に記載のように生成物を単離し、その結果、鮮黄色の半固体3.82gが得られた(理論収量の104.6%)。H NMRを用いて、生成物を分析した。
H NMR(500MHz,MeOD):δ(ppm)7.993(0.22H,s),7.275(2H,ABq,J=8.6Hz),6.76(2H,ABq,J=8.6Hz),6.65(1H,dd,J=17.6および10.9Hz),5.577(1H,dd,J=17.6および1.4Hz),5.048(1H,dd,J=11.0および0.7Hz)。
【0101】
実施例16
単一容器反応においてパラ−ヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化し、続いてアセチル化することによる4−アセトキシスチレンの製造
この実施例の目的は、2工程の単一容器反応において、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を熱的塩基触媒脱炭酸化し、続いて、得られた4−ヒドロキシスチレンを無水酢酸でアセチル化することにより4−アセトキシスチレンを製造することである。濃度100ppmでプロスタブ(Prostab)(登録商標)5415を重合防止剤として使用した。
【0102】
三口丸底フラスコに、pHCA(5g,30.458mmol,1当量)、DMF30mL(pHCAの1M溶液を調製するため)、プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 100ppm(0.5mg,DMF中の2mg/mL溶液250μLとして添加された)、および酢酸カリウム(30mg,1モル%)を添加した。攪拌しながら、かつ還流冷却器を使用して、窒素下にて反応を行った。油浴および温度調節器(ガス温度過昇防止装置を備えた)を用いて、反応を150℃に加熱した。酢酸カリウムは室温では可溶性ではないが、熱を加えると溶解し、淡黄色の溶液が得られた。上記のようにTLCによって、反応をモニターした。150℃で2時間後、TLCによって決定されるように、反応が終了した様子であった。次いで、反応温度を140℃に下げ、無水酢酸(4.32mL,45.687mmol,1.5当量)を反応混合物に一滴ずつ添加し、それを140℃に維持した。反応混合物の色は薄くなった。TLCを用いて決定されるように、反応は0.75時間後に終了した。加熱を止め、反応混合物を室温に冷却した。反応混合物を−20℃で一晩保存した。
【0103】
4−ヒドロキシスチレンを単離するための実施例14に記載の手順を用いて、4−アセトキシスチレンを単離し、淡黄色の半固体5.39gが得られた(理論収量の109%)。H NMRを用いて、生成物を分析した。得られた収量が理論収量よりも高いこと、かつ生成物(つまり、淡黄色の半固体)の性質によって、生成物はいくらかの不純物を含有することが示唆されている。
H NMR(500MHz,CDCl):δ(ppm)7.40(2H,ABq,J=8.6Hz),7.045(2H,ABq,J=8.5Hz),6.693(1H,dd,J=17.5および11.0Hz),5.693(1H,dd,J=17.6および0.7Hz),5.234(1H,dd,J=10.9および0.8Hz),2.29(2.64H,s)
【0104】
実施例17
単一容器反応においてパラ−ヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化し、続いてアセチル化することによる4−アセトキシスチレンの製造
この実施例の目的は、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を熱的塩基触媒脱炭酸化し、続いて、2工程の単一容器反応において、得られた4−ヒドロキシスチレンを無水酢酸でアセチル化することにより4−アセトキシスチレンを製造することである。濃度1000ppmでプロスタブ(Prostab)(登録商標)5415を重合防止剤として使用した。
【0105】
プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 1000ppm(5mg)を重合防止剤として使用したことを除いては、実施例16に記載のように脱炭酸化およびアセチル化反応を行った。実施例16に記載のように4−アセトキシスチレン生成物を単離し、その結果、黄色のオイル4.82g(理論収量の97.5%)が得られた。H NMRを用いて、生成物を分析した。
H NMR(500MHz,CDCl):δ(ppm)7.40(2H,ABq,J=8.4Hz),7.04(2H,ABq,J=8.5Hz),6.695(1H,dd,J=17.6および11.0Hz),5.695(1H,d,J=17.6Hz),5.235(1H,d,J=10.9Hz),2.29(3H,s)。
【0106】
実施例18
単一容器反応において3,4−ジヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化し、続いてアセチル化することによる3,4−ジアセトキシスチレンの製造
この実施例の目的は、2工程の単一容器反応において、3,4−ジヒドロキシケイ皮酸を熱的塩基触媒脱炭酸化し、続いて、得られた3,4−ヒドロキシスチレンを無水酢酸でアセチル化することにより3,4−ジアセトキシスチレンを製造することである。濃度1000ppmでプロスタブ(Prostab)(登録商標)5415を重合防止剤として使用した。
【0107】
窒素下にて、かつ機械混合しながら、1L三口丸底フラスコに、プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 0.5g、酢酸カリウム2.725g、および3,4−ジヒドロキシケイ皮酸50.0gを添加した。次いで、DMF(280mL)を添加し、その結果、暗褐色の溶液が得られた。水凝縮器を使用して、この反応混合物を100℃に加熱した。試料を抜き取り、LC−MSを使用してそれを分析することによって、反応の進行を一定間隔をあけて確認した。4.5時間後、3,4−ジヒドロキシスチレン中間体の理論収量の96.6%が形成したことが決定された。反応をさらに45分間加熱した。次いで、無水酢酸132.7mLを15分間にわたって反応混合物に添加した。反応をさらに15分間続け、その後、反応混合物を45分間にわたって室温に冷却した。
【0108】
水約400mLを含有するビーカーに反応混合物を注ぎ、次いでジエチルエーテルで3回抽出した。これらの抽出から得られた、合わせた有機層を2%NaHCO溶液で3回抽出し、続けてブラインで1回抽出した。有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、回転蒸発器で40℃で1時間蒸発させることによって濃縮し、暗褐色のオイル95.2gが得られた。オイルを−20℃で一晩保存した。次いで、105〜107℃、圧力1.3mPaで真空蒸留を用いて、オイルを蒸留し、透明な粘性の液体45.11g(理論収量の79.1%)を得た。H NMRおよびLC−MSによって、3,4−ジアセトキシスチレン生成物を分析し、純度99.7%であることが判明した。
H NMR(500MHz,CDCl):δ(ppm)7.26(1H,dd,J=8および2Hz),7.22(1H,d,J=2Hz),7.13(1H,d,J=9Hz),6.65(1H,dd,J=18および11Hz),5.68(1H,dd,J=18および1Hz),5.26(1H,d,J=11Hz),2.27(3H,s),2.26(3H,s)。
【0109】
実施例19
重合防止剤の非存在下でのパラ−ヒドロキシケイ皮酸の脱炭酸化による4−ヒドロキシスチレンの製造
この実施例の目的は、重合防止剤の非存在下でDMAc中で塩基性触媒として酢酸カリウム(1モル%)を使用して、濃(concentrated)パラ−ヒドロキシケイ皮酸(4mまたは2.54M)を熱的塩基触媒脱炭酸化することによって4−ヒドロキシスチレンを製造することである。
【0110】
三口丸底フラスコに、pHCA(20.035g,122.05mmol)およびDMAc30.034g(pHCAの2.54M溶液を調製するため)を添加した。反応フラスコを150℃の予熱された油浴中に沈め、溶液は約15分後にその温度に達した。酢酸カリウム(0.124g,1モル%)を一度にすべて添加した。攪拌しながら、還流冷却器を使用して、窒素下にて反応を8時間行った。酢酸カリウムを添加する直前(時点0)で、かつ15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、および8時間の時点で、試料を採取し、上記の方法2を用いてpHCAおよびpHSについてHPLCによって分析した。表5に示す結果から、pHCAの転化は4時間後に本質的に完了しており、その時点でのpHSの収率は87.1%であることが示されている。
【0111】
【表5】

【0112】
実施例20〜22
DMAc中で塩基性触媒として異なるレベルの酢酸カリウムを使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化することによる4−ヒドロキシスチレンの製造
これらの実施例の目的は、塩基性触媒として異なるレベルで酢酸カリウムを使用して、DMAc中で濃パラ−ヒドロキシケイ皮酸(2.5M)を熱的塩基触媒脱炭酸化することにより4−ヒドロキシスチレンを製造することである。
【0113】
これらの実施例において、反応溶液に添加される酢酸カリウムの量を除いては、実施例19に記載の手順と同じ手順を使用した。三口丸底フラスコに、pHCA(19.11g,116.4mmol)およびDMAc30.0g(pHCAの2.5M溶液を調製するため)に添加した。反応フラスコを135℃の予熱された油浴中に沈め、溶液は約15分後にその温度に達した。酢酸カリウム(表6に示す量)を一度にすべて添加した。攪拌しながら、還流冷却器を使用して、窒素下にて4〜6時間反応を行った。酢酸カリウムを添加する直前(時点0)で、かつ15分、30分、1時間、2時間、4時間、および6時間の時点で、試料を採取し、上記の方法2を用いてpHCAおよびpHSについてHPLCによって分析した。酢酸カリウムを使用していない比較例22については、時点0は、反応溶液の温度が135℃に平衡化した時点であると解釈した。
【0114】
【表6】

【0115】
表6に示す結果から分かるように、実施例20では2時間後にpHSの収率92.7%が得られ、実施例21では、1時間後にpHSの収率90.4%が得られている。どちらの実施例からも、4時間未満でのpHCAの完全な転化が示されている。対照的に、塩基性触媒を使用しなかったことを除いて同じ条件で行われた比較例22では、4時間後でさえpHSの収率がわずか29.3%、pHCAの転化率がわずか33.9%であることが示されている。
【0116】
実施例23
ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル中で塩基性触媒として酢酸カリウムを使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化することによる4−ヒドロキシスチレンの製造
この実施例の目的は、プロトン性溶媒ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル(ドワノール(Dowanol)(商標)DPM;ミシガン州ミッドランドのダウ・ケミカル社(Dow Chemical Co.,Midland,MI))中で塩基性触媒として酢酸カリウム(10モル%)を使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸(2.5m)を熱的塩基触媒脱炭酸化することによって4−ヒドロキシスチレンを製造することである。
【0117】
三口丸底フラスコに、pHCA(12.318g,75.04mmol)およびジ(プロピレングリコール)メチルエーテル30.052gを添加した(pHCAの2.5m溶液を調製するため)。反応フラスコを135℃の予熱された油浴中に沈め、溶液は約15分後にその温度に達した。溶液を加熱すると、pHCAは完全に溶解した。酢酸カリウム(0.739g,10モル%)を一度にすべて添加した。攪拌しながら、還流冷却器を使用して、窒素下にて8時間反応を行った。塩基を添加すると固体が形成し、約3時間まで増加し、次いで、再び約5時間で完全に溶解した。酢酸カリウムを添加する直前(時点0)で、かつ15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、および8時間の時点で、試料を採取し、上記の方法2を用いてpHCAおよびpHSについてHPLCによって分析した。その結果(表7参照)から、2時間後のpHSの収率は67.3%であることが示されている。追加の反応時間によって、収率が低下した。この結果から、プロトン性溶媒を熱的脱炭酸化反応に使用することができることが実証されている。
【0118】
【表7】

【0119】
実施例24
マイクロ波加熱を用いて、DMF中で塩基性触媒として酢酸カリウムを使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化することによる4−ヒドロキシスチレンの製造
この実施例の目的は、重合防止剤(プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 1000ppm)の存在下で、DMF中で塩基性触媒として酢酸カリウムを使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を熱的塩基触媒脱炭酸化することによって4−ヒドロキシスチレンを製造することである。この実施例では、マイクロ波加熱を用い、その結果、温度が高いほど、反応時間が短くなる。
【0120】
撹拌子を備えた5mLバイオタージ(Biotage)試験管バイアル(バージニア州シャーロッツヴィルのバイオタージAB社(Biotage AB,Charlottesville,VA))に、pHCA(1.002g,6.104mmol)、DMF3mL(pHCAの約2M溶液を調製するため)、プロスタブ(Prostab)(登録商標)5415 1000ppm(1mg)、および酢酸カリウム(63mg,10モル%)を添加した。窒素を試験管中に吹き込み、試験管をすぐにクリンプキャップした。密閉されたバイアルをバイオタージ・イニシエーター(Biotage Initiator)60マイクロ波反応器(バイオタージAB社(Biotage AB))に入れた。150ワットの中間電力下にて、70〜80秒の昇温時間後に、試料温度が190℃に達した。短時間の間、約200℃に上昇し過ぎたが、試料を190℃で3分間維持した。実施中、試料圧力は16バール(1600kPa)に達した。上記のように方法3を使用して、露出試料の定性的HPLCによって、pHCAの完全な転化が示され;紫外線スペクトル範囲220〜312nmにわたって、pHCAは検出されなかった。pHSによるピークは、220nmで領域73.3%であり、312nmでは領域100%であり、反応の優れた選択性が示されている。
【0121】
実施例25
単一容器反応においてパラ−ヒドロキシケイ皮酸を脱炭酸化し、続いてアセチル化することによる4−アセトキシスチレンの製造
この実施例の目的は、2工程の単一容器反応において、パラ−ヒドロキシケイ皮酸を熱的塩基触媒脱炭酸化し、続いて、得られた4−ヒドロキシスチレンを無水酢酸でアセチル化することにより4−アセトキシスチレンを製造することである。重合防止剤はこの実施例では使用せず、出発pHCAは、チロシンの生物変換から誘導され、およそ純度85%であった。
【0122】
係属中かつ同一出願人による米国特許出願第60/563633号明細書にベン・バサット(Ben Bassat)らにより記載されている方法と同様な方法を用いて、出発pHCA材料を製造した。この方法は、グルコースからpHCAを生成するための2段階プロセスを含む。この実施例で使用される方法において、2つの段階は、2つの別々の工程として行われた。第1の段階では、チロシン過剰産生株を使用して発酵させることによってグルコースからチロシンを生成した。低速遠心分離を用いて、発酵ブロスからチロシンを分離した。得られた沈殿物を水に懸濁し、低速遠心分離を再び使用して分離した。チロシンの純度は、HPLCを用いて90〜98%であると推定された。次いで、第2段階において、チロシンアンモニアリアーゼ活性を有する酵素を含んでなる宿主細胞を使用してpH10.0で、チロシンをpHCAに変換した。pHCAは発酵培地中に蓄積した。pHCA含有ブロス約7.5kgを遠心し、固体を廃棄した。35℃および600rpmで操作される14Lブラウン(Braun)発酵槽、バイオスタット(BioStat)C.B.(ドイツ,メルスンゲンのブラウン・バイオテック・インターナショナル社(Braun Biotech International,Melesungen,Germany))に上清を移した。硫酸を使用して、溶液のpHを9.0に調節した。次いで、アルカラーゼ(Alcalase)(登録商標)(デンマーク,バグスバード2880,クログシューヴェイ36,ノボザイムズ社(Novozymes,Krogshoejvej36,2880Bagsvaerd,Denmark))0.254mLおよびブロメライン(Bromelain)(アクロスオーガニクス社(Acros Organics),ペンシルバニア州ピッツバーグのフィッシャー・サイエンティフィック社(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)から入手された)0.134gを添加した。1時間インキュベートした後、溶液を滴定してpH2.2とし、pHCAを沈殿させた。得られた懸濁液を遠心し、固形分約40%の湿ったケーク600gとしてpHCAを回収した。pHCAの他に、湿ったケークは、タンパク質、細胞壊死組織片、塩、ケイ皮酸約0.21%、およびチロシン0.1%も含有した。その湿ったケークを窒素下にて80℃で12時間乾燥させて、pHCA約85%を含有する乾燥ケーキを得た。
【0123】
生物産生されたpHCAを以下のように抽出によって精製した。1L反応がまに、pHCAを含有する乾燥ケーク163.88gを添加した。その反応がまに、DMAc350mLを添加し、機械攪拌しながら、内容物を2時間、60℃に加熱した。混合物をワットマン(Whatmann)No.4濾紙を通して濾過し、不溶物をDMAc50mLで洗浄した。
【0124】
オーバーヘッドスターラー、還流冷却器、添加漏斗、および温度プローブを備えた1L四口フラスコに、抽出から得られた、合わせた濾液および洗液を添加した。上述のようにHPLC法4によって、反応混合物を分析し、pHCA122.98gを含有することが見出された。その混合物に酢酸カリウム8.8g(10モル%)を添加し、混合物を窒素下にて3時間、135℃に加熱した。無水酢酸91.77g、84.97mLを8分間にわたって添加漏斗によって添加した。反応混合物をさらに0.5時間攪拌し、次いで室温に冷却した。2.8トル(0.37kPa)および65℃で回転蒸発器によって溶媒を除去した。固体を混合物から分離し、ワットマン(Whatmann)No.4濾紙を通して濾過除去した。固体をDMAc30mLで洗浄した。2.5トル(0.33kPa)および65℃で回転蒸発器によって、溶媒が蒸留除去されなくなるまで、合わせた濾液をさらに濃縮した。
【0125】
このようにして得られた未精製pAS157.5gを、メチルヒドロキノン200ppmを添加することによって安定化し、薄膜蒸発器(UIC社,シャナホン通り1225,ジョリエット,II60436(UIC Inc.1225Channahon Rd.,Joliet,II60436)から市販の表面積0.04mを有するモデルKDL−4)で蒸留した。流量2.0mL/分、攪拌速度300rpmで2.00mmHg(0.267kPa)にて蒸留を行った。入口温度は71℃であり、出口温度は70℃であり、指形冷却器は10℃に維持した。pASは、オーバーヘッド中に残留DMAc112.9gと共にあり、重質留分(27.6g)は、最終蒸留中に形成したpASおよびそのオリゴマーを含有した。0.02トル(2.7Pa)および45℃で蒸留することによってDMAcをオーバーヘッド留分から除去し、pAS86.2g(収率71%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一般構造:
【化1】


[式中、R、R、およびRはH、OH、またはOCHであり;RおよびRはH、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;RおよびRはH、ハロ、またはシアノであり、ただし、R、R、またはRのうち少なくとも1つはOHであり、そしてRおよびRは両方同時にt−ブチルではない]
を有するフェノール性基質を準備する工程;
b)i)非アミン塩基性触媒;および
ii)少なくとも1種の極性有機溶媒または極性有機溶媒混合物;
を含んでなる反応混合物を準備する工程;
c)フェノール性基質を脱炭酸化生成物に脱炭酸化するのに十分な時間、少なくとも約100℃の温度で(a)のフェノール性基質を(b)の反応混合物と接触させる工程;
を含んでなる、フェノール性基質を脱炭酸化してビニルモノマーを製造する方法。
【請求項2】
がOHである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フェノール性基質が4−ヒドロキシケイ皮酸、フェルラ酸、シナピン酸、コーヒー酸、2−ヒドロキシケイ皮酸、およびα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸よりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
脱炭酸化生成物が4−ヒドロキシスチレン、3−メトキシ−4−ヒドロキシスチレン、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシスチレン、3,4−ジヒドロキシスチレン、2−ヒドロキシスチレンおよびα−シアノ−4−ヒドロキシスチレンよりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
非アミン塩基性触媒がカリウムを含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
非アミン塩基性触媒が酢酸塩である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
非アミン塩基性触媒が金属塩である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
非アミン塩基性触媒が酢酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび酸化マグネシウムよりなる群から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
非アミン塩基性触媒が反応混合物中で基質に対して約1モル%〜約30モル%の濃度である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
極性有機溶媒が非プロトン性である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
極性非プロトン性有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、およびヘキサメチル亜リン酸トリアミドよりなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
極性有機溶媒がプロトン性である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
プロトン性溶媒がジ(プロピレングリコール)メチルエーテル(ドワノール(Dowanol)(商標)DPM)、ジ(エチレングリコール)メチルエーテル、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、プロピレングリコールメチルエーテル、n−ヘキサノール、およびn−ブタノールよりなる群から選択される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
反応混合物が場合により重合防止剤を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
重合防止剤がヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4−tert−ブチルカテコール、フェノチアジン、N−オキシル(ニトロキシド)防止剤、4−ヒドロキシ−TEMPO(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−イルオキシ,CAS#2226−96−2)およびユビナル(Uvinul)(登録商標)4040P(1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ホルミル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミン)よりなる群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
重合防止剤がプロスタブ(Prostab)(登録商標)5415(ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート,CAS#2516−92−9)である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
反応混合物が場合により重合遅延剤を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項18】
重合遅延剤がジニトロ−オルト−クレゾール(DNOC)およびジニトロブチルフェノール(DNBP)よりなる群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
脱炭酸化生成物の収率が63%を超える請求項1に記載の方法。
【請求項20】
温度が約100℃〜約200℃である請求項1に記載の方法。
【請求項21】
a)一般構造:
【化2】


[式中、R、R、およびRはH、OH、またはOCHであり;RおよびRはH、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;RおよびRは、H、ハロ、またはシアノであり、ただし、R、R、またはRのうち少なくとも1つはOHである]
を有するフェノール性基質を準備する工程;
b)i)非アミン塩基性触媒;および
ii)少なくとも1種の極性非プロトン性有機溶媒または極性非プロトン性有機溶媒混合物;
を含んでなる反応混合物を準備する工程;
c)フェノール性基質を脱炭酸化して脱炭酸化生成物を生成せしめるのに十分な時間、少なくとも約100℃の温度で(a)のフェノール性基質を(b)の反応混合物と接触させる工程;
d)(c)の脱炭酸化生成物をアセチル化剤と接触させて、一般構造:
【化3】


[式中、R、R10、およびR12はH、O(C=O)CHまたはOCHであり;RおよびR11はH、OH、OCHまたは直鎖状もしくは分岐状アルキルであり;R13およびR14はH、ハロ、またはシアノであり、ただし、R、R10、またはR12のうちの少なくとも1つはO(C=O)CHである]
を有するアセチル化生成物を生成せしめる工程;
の連続した工程を含んでなる、フェノール性基質からアセチル化生成物を合成する方法。
【請求項22】
アセチル化剤が無水酢酸、塩化アセチル、および酢酸よりなる群から選択される請求項21に記載の方法。
【請求項23】
アセチル化剤が無水酢酸である請求項21に記載の方法。
【請求項24】
アセチル化生成物が4−アセトキシスチレン、3−メトキシ−4−アセトキシスチレン、3,5−ジメトキシ−4−アセトキシスチレン、3,4−ジアセトキシスチレン、2−アセトキシスチレン、およびα−シアノ−4−アセトキシスチレンよりなる群から選択される請求項21に記載の方法。
【請求項25】
アセチル化生成物が4−アセトキシスチレンである請求項21に記載の方法。
【請求項26】
フェノール性基質が4−ヒドロキシケイ皮酸、フェルラ酸、シナピン酸、コーヒー酸、2−ヒドロキシケイ皮酸、およびα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸よりなる群から選択される請求項21に記載の方法。
【請求項27】
非アミン塩基性触媒がカリウムを含んでなる請求項21に記載の方法。
【請求項28】
非アミン塩基性触媒が酢酸塩である請求項21に記載の方法。
【請求項29】
非アミン塩基性触媒が金属塩である請求項21に記載の方法。
【請求項30】
非アミン塩基性触媒が酢酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび酸化マグネシウムよりなる群から選択される請求項28に記載の方法。
【請求項31】
非アミン塩基性触媒が反応混合物中で基質に対して約1モル%〜約30モル%の濃度である請求項21に記載の方法。
【請求項32】
極性非プロトン性有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、およびヘキサメチル亜リン酸トリアミドよりなる群から選択される請求項21に記載の方法。
【請求項33】
反応混合物が場合により重合防止剤を含んでなる請求項21に記載の方法。
【請求項34】
重合防止剤がヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4−tert−ブチルカテコール、フェノチアジン、N−オキシル(ニトロキシド)防止剤、4−ヒドロキシ−TEMPO(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−イルオキシ,CAS#2226−96−2)およびユビナル(Uvinul)(登録商標)4040P(1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ホルミル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミン)よりなる群から選択される請求項33に記載の方法。
【請求項35】
重合防止剤がプロスタブ(Prostab)(登録商標)5415(ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート,CAS#2516−92−9)である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
反応混合物が場合により重合遅延剤を含んでなる請求項21に記載の方法。
【請求項37】
重合遅延剤がジニトロ−オルト−クレゾール(DNOC)およびジニトロブチルフェノール(DNBP)よりなる群から選択される請求項36に記載の方法。
【請求項38】
アセチル化生成物の収率が63%を超える請求項21に記載の方法。
【請求項39】
工程(c)における温度が約100℃〜約200℃であり、そして工程(d)における温度が室温〜約150℃である請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2007−530548(P2007−530548A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505052(P2007−505052)
【出願日】平成17年3月21日(2005.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/009290
【国際公開番号】WO2005/097719
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】