説明

ヒューズ用薄板状接点材料

【課題】 ヒューズ用薄板状接点材料において、より少ない酸化物などの添加量で加工性の低下や電気抵抗の増大を抑制すると共に耐粘着性を向上させること。
【解決手段】 Agと添加金属と不可避不純物とからなる組成を有するAg合金を内部酸化してなり、前記添加金属として、重量%でSn:3〜10%、In:0.5〜5%が含有されている。これにより、Snが内部酸化処理によって熱的に安定でかつ微細な酸化物(SnO等)分散相を形成し、耐粘着性を向上させる。さらに、Inが内部酸化処理におけるSnの酸化を促進すると共に、In自身も安定な酸化物(In等)分散相を形成し、耐粘着性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常高温時に電流遮断を行う温度ヒューズの可動電極などに好適なヒューズ用薄板状接点材料に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電気電子機器などには、異常高温時に電流を遮断して機器を保護する温度ヒューズが内蔵されている。この温度ヒューズとしては、例えば特許文献1に、感温ペレットが動作温度で溶融して圧縮バネを除荷し、圧縮バネが伸長することにより、圧縮バネにより圧接されていた可動電極とリード線とが離隔して電流を遮断する温度ヒューズが記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載の温度ヒューズでは、リード線との接触面における耐溶着性(耐粘着性)を改善することを目的として、可動電極の材料としてAg−CuO合金を採用している。従来、温度ヒューズでは、接点閉成時の荷重、閉成状態(荷重が付与された状態)での熱の影響により、接点接触面において粘着現象を起こす場合があり、特に長時間高温環境に曝された場合では、粘着による開離不良が発生するおそれが高くなる。
【0004】
この粘着現象は、接点接触面が溶融固化若しくは機械的にかみ合うことなく、開離困難になる現象である。電流値の増大による発熱が大きい近年の高負荷環境では、特にこの粘着現象が発生する傾向が顕著になっている。この対策として、特許文献1では、重量%で1〜20%のCuOを含有したAg−CuO合金材料で接点(可動電極)を形成することで、リード線との接点表面に酸化物粒子を分布させて耐溶着性(耐粘着性)を持たせている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−162704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
従来の技術では、酸化物の含有量を増加させることで耐粘着性を向上させることができるが、電気抵抗の増大が少なからず発生してしまう問題があった。また、温度ヒューズなどの接点機構の都合上、接点形状を厚さ0.3mm以下の薄いシート状(薄板状)の接点形状が必要とされる場合が少なくなく、良好な加工性や生産性が要望されているが、酸化物の含有量を増加することでシート形状への加工性が低下してしまうという問題もあった。上記特許文献1に記載の技術であっても、上述した近年の厳しい高負荷環境では、これらの問題を十分に解決することが困難であった。なお、このような問題の解決は、温度ヒューズの電極接点だけでなく、リレーなどの薄板形状の接点においても、同様に求められている。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、より少ない酸化物などの添加量で加工性の低下や電気抵抗の増大を抑制すると共に耐粘着性を向上させることができるヒューズ用薄板状接点材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のヒューズ用薄板状接点材料は、Agと添加金属と不可避不純物とからなる組成を有するAg合金を内部酸化してなり、前記添加金属として、重量%でSn:3〜10%、In:0.5〜5%が含有されていることを特徴とする。
このヒューズ用薄板状接点材料では、添加金属として、重量%でSn:3〜10%、In:0.5〜5%が含有されているので、Snが内部酸化処理によってCuOと比べて熱的に安定で、かつ微細な酸化物(SnO等)分散相を形成し、耐粘着性を向上させる。さらに、Inが内部酸化処理におけるSnの酸化を促進すると共に、In自身も安定な酸化物(In等)分散相を形成し、耐粘着性を向上させる。したがって、少ない酸化物などの添加量で加工性や電気特性の劣化を抑えつつ、十分な耐粘着性を得ることができる。なお、Sn及びInの含有量を上記範囲内に設定している理由は後述する。なお、ここでいうヒューズ用とは、通常時に電極に接触状態で電流の導通状態が保持され異常時に電極から開離されて電流遮断を行う温度ヒューズ等に用いるものを指す。
【0009】
また、本発明のヒューズ用薄板状接点材料は、前記添加金属として、さらにFe、Ni、Coのうち少なくとも一種を重量%で0.05〜0.2%含有していることを特徴とする。
このヒューズ用薄板状接点材料では、添加金属として、さらにFe、Ni、Coのうち少なくとも一種を重量%で0.05〜0.2%含有しているので、Fe、Ni、Coの成分に酸化物及びAg結晶粒を微細化する作用があり、より耐粘着性を向上させることができる。なお、Fe、Ni、Coのうち少なくとも一種の含有量を上記範囲内に設定している理由は後述する。
【0010】
また、本発明のヒューズ用薄板状接点材料は、前記添加金属として、さらに重量%でTe:0.1〜0.8%又はBi:0.005〜0.06%を含有していることを特徴とする。
このヒューズ用薄板状接点材料では、添加金属として、さらに重量%でTe:0.1〜0.8%又はBi:0.005〜0.06%を含有しているので、Te又はBiが、内部酸化処理によって酸化物(TeO、Bi等)を形成し、粘着部を脆弱化して破断を容易にする作用を有し、粘着による開離不能を抑制する。なお、Te及びBiの含有量を上記範囲内に設定している理由は後述する。
【0011】
さらに、本発明のヒューズ用薄板状接点材料は、前記添加金属として、さらに重量%でCu:0.1〜2%を含有していることを特徴とする。
このヒューズ用薄板状接点材料では、添加金属として、さらに重量%でCu:0.1〜2%を含有しているので、Cuが内部酸化処理におけるSnの酸化を促進すると共に、Cu自身も安定な酸化物(CuO等)分散相を形成し、耐粘着性を向上させる。さらに、Cuが、電気伝導性を改善すると共に、材料硬度を低下させて加工性を向上させる効果を奏する。なお、Cuの含有量を上記範囲内に設定している理由は後述する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るヒューズ用薄板状接点材料によれば、添加金属として、重量%でSn:3〜10%、In:0.5〜5%が含有されているので、所定含有量のSn及びInの添加により、従来に比べて少ない酸化物などの添加量で形状付与性(加工性)と電気特性と耐粘着性とを両立させることができ、温度ヒューズやリレー等の薄板形状の接点用材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るヒューズ用薄板状接点材料の一実施形態を説明する。
【0014】
本実施形態のヒューズ用薄板状接点材料は、温度ヒューズやリレー等の接点に用いられる薄板状の材料であって、次の製造工程により作製される。まず、Agと添加金属と不可避不純物とからなる材料を所定の割合で配合して高周波溶解炉等により溶解させ、所定組成のAg合金を溶製する。
【0015】
上記添加金属としては、重量%でSn:3〜10%、In:0.5〜5%が含有される。また、添加金属として、さらにFe、Ni、Coのうち少なくとも一種を重量%で0.05〜0.2%含有させてもよい。また、添加金属として、Fe、Ni、Coのうち少なくとも一種と共に、又はこれに代えて重量%でTe:0.1〜0.8%又はBi:0.005〜0.06%を含有させても構わない。さらに、これらに、添加金属として、重量%でCu:0.1〜2%を含有させたものでも構わない。
【0016】
次に、いわゆる前酸化法として、上記組成のAg合金を溶解、鋳造した後に、酸化雰囲気中、例えば温度700℃で24時間保持して内部酸化処理を施す。さらに、中間焼鈍処理(アニール)を施しながらの熱間及び冷間圧延加工により所定の厚みの薄板形状とすることでヒューズ用薄板状接点材料が得られる。そして、プレス加工等によりこのヒューズ用薄板状接点材料を所定形状に加工することで、例えば温度ヒューズやリレーの接点とする。なお、いわゆる後酸化法として、溶解、鋳造後に、圧延加工及び焼鈍処理を行って最終製品の厚みよりも厚目の薄板状にしてから、内部酸化処理を施し、その後に所定の厚みまで仕上げ圧延加工を行っても構わない。この後酸化法では、厚み方向で酸化物の濃度分布を持たせることができ、表面付近の酸化物濃度を高めることによって、さらに耐粘着性を改善することも可能である。
【0017】
本実施形態では、添加金属として、重量%でSn:3〜10%、In:0.5〜5%が含有されているので、Snが内部酸化処理によって、CuOと比べて熱的に安定で、かつ微細な酸化物(SnO等)分散相を形成し、耐粘着性を向上させる。さらに、Inが内部酸化処理におけるSnの酸化を促進すると共に、In自身も安定な酸化物(In等)分散相を形成し、耐粘着性を向上させる。
なお、Snの含有量を3%未満とすると、所望の耐粘着性を得ることができない。一方、Snの含有量を、10%を超えて設定すると、実用上接触抵抗に問題が生じ、接点発熱量が増えると共に、薄板加工性が著しく低下する。また、Inの含有量を0.5%未満とすると、前記作用に所望の向上効果が得られず、一方、Inの含有量を、5%を超えて設定すると、実用上接触抵抗に問題が生じ、接点発熱量が増えると共に、薄板加工性が著しく低下する。
【0018】
また、添加金属として、さらにFe、Ni、Coのうち少なくとも一種を重量%で0.05〜0.2%含有することで、Fe、Ni、Coの成分に酸化物及びAg結晶粒を微細化する作用があり、より耐粘着性を向上させることができる。
なお、Fe、Ni、Coのうち少なくとも一種の含有量を重量%で0.05〜0.2%に設定しているのは、0.05%未満では上記所望の効果が得られないと共に、0.2%を超えると、加工性に低下傾向が現れるためである。
【0019】
また、上述したように添加金属として、さらに重量%でTe:0.1〜0.8%又はBi:0.005〜0.06%を含有させると、Te又はBiが、内部酸化処理によって酸化物(TeO、Bi等)を形成し、粘着部を脆弱化して破断を容易にする作用を有し、粘着による開離不能を抑制することができる。
なお、Teの含有量を0.1〜0.8%に設定しているのは、0.1%未満では粘着部の脆弱化作用が明確に現れないと共に、0.8%を超えると薄板加工性が著しく低下するためである。また、Biの含有量を0.005〜0.06%に設定しているのは、0.005%未満では粘着部の脆弱化作用が明確に現れないと共に、0.06%を超えると薄板加工性が著しく低下するためである。
【0020】
また、これらに加えて、添加金属として、さらに重量%でCu:0.1〜2%を含有させることで、Cuが内部酸化処理におけるSnの酸化を促進すると共に、Cu自身も安定な酸化物(CuO等)分散相を形成し、耐粘着性を向上させる。さらに、Cuが、電気伝導性を改善すると共に、材料硬度を低下させて加工性を向上させる効果を奏する。
なお、Cuの含有量を0.1〜2%に設定しているのは、0.1%未満では加工性の向上を得ることができないと共に、2%を超えると耐粘着性に低下傾向が現れるためである。
【実施例】
【0021】
次に、本発明に係るヒューズ用薄板状接点材料を、実施例により具体的に説明する。
まず、上記本実施形態におけるAgと添加金属と不可避不純物とからなる材料を用意し、これらを表1に示す実施例1〜7の各組成になるように配合し、上記製造工程によって薄板状に加工した際の加工性、耐粘着性及び通電性について試験を行って評価した。その結果を、表1に示す。また、比較例として、表1に示す比較例1〜4の各組成、すなわちSn及びInが本発明の上記所定範囲外の割合で含有された材料も同様に作製し、同様の試験を行って評価した。さらに、別の比較例として、表1に示す比較例5,6の各組成、すなわち上記特許文献1に記載の材料も同様に作製し、同様の試験を行って評価した。
【0022】
【表1】

【0023】
上記加工性の試験では、板厚0.07mmの薄板加工が良好だった場合を「◎」、板厚0.10mmの薄板加工が良好だった場合を「○」、板厚0.10mmの薄板加工が不良だった場合を「×」として評価を行った。
また、上記耐粘着性の試験では、直径φ4接点と直径φ4Cuの板とを1.5kgfの荷重で押し付けたまま、大気中で温度150℃の環境に500時間保持した後、粘着の有無を判定した。この判定は、除荷後落下した場合「◎」、除荷後せん断荷重10gf以下で落下した場合「○」、除荷後せん断荷重11gf以上で落下した場合「×」として評価した。
また、上記通電性の試験では、DC30V、12Aにて10分間通電を行った後の温度上昇を測定した。この際、温度上昇が10℃以内の場合「◎」、10℃を超えて15℃以内の場合「○」、15℃を超えた場合「×」として評価した。
【0024】
上記表1の評価結果からわかるように、Sn及びInが上記所定範囲の割合で含有されている実施例1〜3では、加工性、耐粘着性及び通電性がいずれも良好な特性を示している。また、Sn及びInと共にさらにTe又はBiが上記所定範囲の割合で含有されている実施例4、5では、さらに耐粘着性がより良好な特性を示している。また、Sn、In及びCuが上記所定範囲の割合で含有されている実施例6では、加工性及び通電性がより良好な特性を示している。また、Sn及びInと共にFe、Ni、Coのうち少なくとも一種が上記所定範囲の割合で含有されている例としてNiを含有させた実施例7では、耐粘着性がより良好な特性を示している。
【0025】
これら実施例1〜7に対して比較例1〜6は、いずれも加工性、耐粘着性又は通電性の少なくとも一つの特性が不十分であり、特に特許文献1に記載の材料では、耐粘着性において十分な特性を得ることができなかった。
このように、本発明に係る実施例1〜7では、いずれも加工性、耐粘着性及び通電性の全てが良好であり、温度ヒューズやリレー等の薄板形状の接点材料として好適であることがわかる。特に、Te、Bi、Fe、Ni、Coのうち少なくとも一種の所定含有量での添加により、耐粘着性をさらに向上させることができ、Cuの添加により、加工性及び通電性をさらに向上させることができる。
【0026】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agと添加金属と不可避不純物とからなる組成を有するAg合金を内部酸化してなり、
前記添加金属として、重量%でSn:3〜10%、In:0.5〜5%が含有されていることを特徴とするヒューズ用薄板状接点材料。
【請求項2】
請求項1に記載のヒューズ用薄板状接点材料において、
前記添加金属として、さらにFe、Ni、Coのうち少なくとも一種を重量%で0.05〜0.2%含有していることを特徴とするヒューズ用薄板状接点材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヒューズ用薄板状接点材料において、
前記添加金属として、さらに重量%でTe:0.1〜0.8%又はBi:0.005〜0.06%を含有していることを特徴とするヒューズ用薄板状接点材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のヒューズ用薄板状接点材料において、
前記添加金属として、さらに重量%でCu:0.1〜2%を含有していることを特徴とするヒューズ用薄板状接点材料。

【公開番号】特開2007−169702(P2007−169702A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368076(P2005−368076)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(594111292)三菱マテリアルシ−エムアイ株式会社 (54)
【Fターム(参考)】