説明

ヒンジ

【課題】コストの増大および外形寸法の大型化を抑制しつつ、ヒンジの回動角度を制限することができるヒンジを提供する。
【解決手段】ヒンジ10は、上端部にカム部21が形成されたカム部材20と、カム部材20の上端部に回動可能に支持される収容部材30と、収容部材30に収容され、収容部材30の軸方向に摺動可能な摺動部材50と、バネ40と、を具備し、カム部材20においてカム部21に連なる位置にはカム部材側突起部23が形成され、摺動部材50においてカム部21に当接する位置には摺動部材側突起部52が形成され、カム部材側突起部23と摺動部材側突起部52とが係合することによりカム部材20に対する収容部材30の回動が規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの物品を相互に回動可能に連結するヒンジの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二つの物品を相互に回動可能に連結するヒンジは、複写機、ファクシミリ、スキャナ等、オフィスで使用される事務機器等に広く用いられている。
このようなヒンジが組み込まれる事務機器等の多くは、その本体の上面に原稿読み取り部(コンタクトガラス)が設けられるとともに、当該原稿読み取り部を覆う原稿圧着板が設けられる。
原稿圧着板は、原稿読み取り部に載置された原稿を原稿読み取り部に密着させるとともに原稿読み取り部に対する原稿の位置を保持するものであり、一般的には原稿圧着板の端部がヒンジにより事務機器等の本体の上面の端部に回動可能に連結される。
事務機器等の本体の上面の端部に連結されるヒンジとして、例えば、特許文献1のようなヒンジが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたヒンジは、ヒンジケース、バネ、スライダ、回動アーム、およびピンを具備する。
ヒンジケースは、筒状に形成される。ヒンジケースは、ヒンジケースの軸方向(以下単に「軸方向」という)において、どちらか一方が閉塞されるとともに、他方が開口している。
スライダはヒンジケースに収容され、スライダの側面は軸方向に沿って摺動可能にヒンジケースの内周面に当接する。
バネは、その一端部がヒンジケースの閉塞されている方の端部に当接するとともに他端部がスライダに当接した状態でヒンジケースに収容される。すなわち、スライダは、バネによって軸方向の他方側へ(ヒンジケースにおいて開口している方の端部に向かって)付勢される。
回動アームはピンを介してヒンジケースに回動可能に支持され、閉じた位置から開いた位置に向かって(閉じた状態から開いた状態となるように)回動する方向にスライダを介してバネに付勢される。
【0004】
以上のような特許文献1に開示されたヒンジは、閉じた状態から完全に開いた状態までの成す角度(以下単に「回動角度」とする)を制限するために、一定の回動角度以上となるとヒンジケースとカム部材とが当接する構成としていた。
【0005】
しかし、このような構成においては、ヒンジケースのカム部材と当接する部分に強度が必要となり、厚みを持たせたり、強度のある素材で構成したりすることが必要となるためコスト増大および外形寸法の大型化の要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−186884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は係る課題に鑑み、コストの増大および外形寸法の大型化を抑制しつつ、ヒンジの回動角度を制限することができるヒンジを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、一端部にカム部が形成されたカム部材と、一端部が閉塞されるとともに他端部が開放され、前記カム部材の一端部に回動可能に支持される収容部材と、前記収容部材に収容され、前記収容部材の軸方向に摺動可能な摺動部材と、前記収容部材に収容され、一端部が前記収容部材の一端部に当接するとともに他端部が前記摺動部材に当接し、前記摺動部材を前記収容部材の一端部から他端部に向かって付勢することにより前記摺動部材を前記カム部材のカム部に当接させる付勢部材と、を具備し、前記カム部材において前記カム部に連なる位置にはカム部材側突起部が形成され、前記摺動部材において前記カム部に当接する位置には摺動部材側突起部が形成され、前記カム部材側突起部と前記摺動部材側突起部とが係合することによりカム部材に対する収容部材の回動が規制されるものである。
【0010】
請求項2においては、前記摺動部材側突起部は曲げ方向に弾性変形可能であって、前記収容部材には前記摺動部材側突起部の弾性変形を許容する許容空間が形成されるものである。
【0011】
請求項3においては、前記収容部材をカム部材に相対回動可能に連結する略円柱形状のピンを具備し、前記ピンは、前記カム部材に形成されるカム部材側ピン孔および前記収容部材に形成される収容部材側ピン孔のいずれか一方に脱落不能に圧入されるとともに他方に相対回転可能に嵌装されるものである。
【0012】
請求項4においては、前記摺動部材において前記摺動部材側突起部に連なる位置には窪み部が形成され、前記カム部材側突起部と前記摺動部材側突起部とが係合する方向に前記収容部材が前記カム部材に対して回動するときには前記カム部材側突起部が前記窪み部に収容されるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、コストの増大および外形寸法の大型化を抑制しつつ、ヒンジの回動角度を制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係るヒンジの全体的な構成を示した側面図。
【図2】ヒンジの斜視図。
【図3】ヒンジの側面断面図。
【図4】ヒンジのA−A線断面図。
【図5】閉じた状態におけるヒンジの側面断面図。
【図6】カム部当接回動状態におけるヒンジの側面断面図。
【図7】突起部係合状態におけるヒンジの側面断面図。
【図8】突起部係合状態において開く方向へ力を加えたときのヒンジの側面断面図。
【図9】摺動部材と後方突起部とが当接した状態におけるヒンジの側面断面図。
【図10】ヒンジの別実施例のA−A線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明の一実施例であるヒンジ10の全体構成について説明する。
なお、以下では便宜上、図1における紙面の左右方向を基準として「前方」および「後方」を定義するとともに、図1における紙面の上下方向を基準として「上方」および「下方」を定義する。また、図1における紙面の手前方向を「左方」、奥方向を「右方」と定義する。
【0016】
本実施形態におけるヒンジ10は、板状の部材等を所望の角度まで回動させるとともに所望の角度で保持する所定の装置に組み込まれるものである。ヒンジ10が組み込まれる所定の装置としては、例えば、事務機器(複写機、ファクシミリ、スキャナ等)がある。この場合、原稿圧着板が「板状の部材」に相当する。
【0017】
ヒンジ10は、図1、図2及び図3に示すように、カム部材20、収容部材30、付勢部材であるバネ40、及び摺動部材50等を具備する。
【0018】
カム部材20は、図1、図2、図3及び図4に示すように、柱状の部材である。カム部材20には、カム部21とカム部材側ピン孔22とカム部材側突起部23と回動停止部24と後方突起部25とが形成される。このようなカム部材20は、例えば、樹脂材料を金型等によって成形することで構成される。
【0019】
カム部21は、カム部材20の上端部に形成される部分である。カム部21は後で詳述する摺動部材50の摺動部材側突起部52と当接する。図3に示す如く、カム部21は、カム部材20の上端部において、側面視で前方に膨らんだ略半楕円状に形成される。
なお、図3においては、摺動部材50及びカム部材20のそれぞれの構造を明確にするために、説明の便宜上、敢えて摺動部材50がカム部21から浮いた状態で描いている。
【0020】
カム部材側ピン孔22はカム部材20の上部に形成される。カム部材側ピン孔22は後述するピン60を圧入するための孔であり、カム部材20の左側面から右側面まで貫通する。
【0021】
カム部材側突起部23は、カム部21と連なってカム部材20の後上端部に形成される。
ここで、「カム部21と連なる」とは、図3に示すようにカム部21の半楕円状の曲面が終了する部分とカム部材側突起部23の前面下端部とがほぼ同じ位置に設けられている(カム部材側突起部23とカム部21とが大きく離れることなく、連続している)ことを意味する。
図3に示すように、カム部材側突起部23は、側面断面視略台形状に形成されており、前面は上方へ向かうにつれて前方へと傾斜している。
【0022】
回動停止部24は、板状の部分であり、カム部21の前下端部に連なって形成される板状の突起である。回動停止部24は、カム部21の前下端部よりも前方に突出して形成されている。また、回動停止部24は、カム部21の前下端部と連なって形成される。
ここで、「カム部21の前下端部と連なる」とは、図3に示すようにカム部21の半楕円状の曲面が終了する前下端部と回動停止部24の上面後端部とがほぼ同じ位置に設けられている(回動停止部24の上面後端部とカム部21の前下端部とが大きく離れることなく、連続している)ことを意味する。
【0023】
図4に示すように、後方突起部25は、カム部21のカム部材側ピン孔22よりも下方の部分から後方へ突出して形成される平面視略長方形状の部分である。本実施形態の後方突起部25は後方へ向かうに従い上方へ湾曲している。
【0024】
収容部材30は、図1、図2及び図3に示すように、筒状に形成された部材であり、一端部(図1では上端部)が閉塞されるとともに他端部(図1では下端部)が開放され、カム部材20の上部に回動可能に支持される。このような収容部材30は、例えば、樹脂材料を金型等によって成形することで構成される。
ここで「収容部材30の上端部が閉塞される」とは、バネ40を係止して、摺動部材50を収容部材30の軸方向(以下単に「軸方向」という)の上端部から下端部に向かって付勢可能となる程度に閉塞されていることをいう。
すなわち、収容部材30の上端部の形状は、バネ40を係止できる形状であればよく、全く開口部が無い形状に限定されるものでない。バネ40を係止できる他の形状としては、例えば、収容部材30の上端部および下端部が開口するとともに収容部材30の内周面の上端部寄りとなる位置にバネ40を係止するための突起部が形成されるような形状等がある。
以下、収容部材30の二つの端部のうち、開放されている方の端部を「開放側端部」、閉塞されている方の端部を「閉塞側端部」という。
図1および図4に示すように、収容部材30の開放側端部には、左右一対の収容部材側ピン孔31・31が形成される。収容部材側ピン孔31は収容部材30の左右側面に一対に形成されている。収容部材側ピン孔31は後述するピン60を嵌装するための孔である。
また、収容部材30の閉塞側端部の内周面にはバネ40の一端部(図3においては上端部)を固定支持するためのバネ受け部32が形成されている。
【0025】
なお、収容部材30の形状は、バネ40および摺動部材50を収納可能な形状かつカム部材20に回動可能に支持される形状であればよく、筒状に限定されるものでない。
【0026】
ここで、軸方向とは、本実施形態では収容部材30の閉塞側端部から開放側端部へ向かう方向、より厳密にはバネ40および摺動部材50を収容する収容部材30の内部空間(孔)の長手方向である。つまり、収容部材30の内部に形成される内部空間の長手方向が収容部材30の長手方向に対して傾斜している(平行ではない)場合、軸方向とは、かかる収容部材30の内部に形成される内部空間の長手方向である。
【0027】
摺動部材50は、図3に示すように、収容部材30に収容される部材である。摺動部材50は、収容部材30に収容された状態で収容部材30の軸方向に沿って摺動可能となっている。
収容部材30に収容された摺動部材50の径方向の長さ(軸方向に対して直交する方向の大きさ)および摺動部材50の軸方向の長さ(軸方向に平行な方向の大きさ)は、摺動部材50が収容部材30に摺動可能に収容されるように、収容部材30の内周面の形状に合わせて設定される。
図3に示す如く、摺動部材50の基部(収容部材30に収容されたとき、収容部材30の閉塞側端部に近い方の端部)には窪みが形成され、バネ40の他端部(図3においては下端部)を収容することが可能である。
【0028】
摺動部材50には、バネ受け部51と、摺動部材側突起部52と、窪み部53とが形成される。
【0029】
バネ受け部51は、摺動部材50の基部に形成された窪みの底部に形成されており、バネ40の下端部を固定し、支持する。
【0030】
図3に示す如く、摺動部材側突起部52は摺動部材50の先端部かつ前方寄りとなる位置(カム部21に対向する位置)に形成される。摺動部材側突起部52は、摺動部材50が収容部材30に収容されたときに軸方向に向かって、より厳密には、閉塞側端部から開放側端部に向かって突出する形状を有し、摺動部材側突起部52の先端部(カム部21に当接する部分)は曲面に面取りされている。
【0031】
また、図3における摺動部材側突起部52の径方向(摺動部材50が収容部材30に収容されたときに軸方向に対して直交する方向)の幅を適宜設定する、より厳密には、図3における摺動部材側突起部52の曲げ方向(摺動部材側突起部52の径方向)の長さを圧縮方向(摺動部材50が収容部材30に収容されたときの軸方向)の長さに比べて短く設定することにより、摺動部材側突起部52は曲げ方向に弾性変形するが圧縮方向にはほとんど弾性変形しないようにしている。
収容部材30には摺動部材側突起部52の弾性変形を許容する許容空間が形成されている。許容空間とは、摺動部材側突起部52が収容部材30内壁側へ弾性変形した場合にも収容部材30と当接しないように形成された空間である。
本実施例では、図3において収容部材30の前面下部(摺動部材50が収容部材30に収容されたときに摺動部材側突起部52の曲げ方向に対応する部分)に切欠33を形成することにより摺動部材側突起部52の曲げ方向に許容空間が形成されるので、収容部材30が摺動部材側突起部52に干渉することにより摺動部材側突起部52の曲げ方向の弾性変形が妨げられることはない。
なお、許容空間については、本実施例に限定されるものではなく、例えば、収容部材30の内周面の前面下部を前方へ張り出した形状に形成することもできる。
【0032】
摺動部材50の先端部(カム部材20に対向する位置)かつ摺動部材側突起部52に連なる位置には窪み部53が形成される。窪み部53は少なくともカム部材側突起部23よりも大きい(カム部材側突起部23を収容可能な大きさを有する)。本実施例では、図3に示すように、窪み部53は側面視略台形状に形成されており、角の部分は曲面に面取りされて形成されている。
【0033】
バネ40は、収容部材30に収容され、バネ40の一端部(図3においては上端部)が収容部材30の閉塞側端部に当接するとともにバネ40の他端部(図3においては下端部)が摺動部材50のバネ受け部51に当接する。
バネ40は、摺動部材50を収容部材30の閉塞側端部から開放側端部に向かって付勢することにより摺動部材50(より詳細には、摺動部材側突起部52)をカム部材20のカム部21に当接させる。このようなバネ40は、例えば、バネ鋼からなる丸棒を螺旋状に成形することにより得られる圧縮コイルバネ等によって構成される。
【0034】
このように構成することにより、摺動部材50は、バネ40によって収容部材30の軸方向に向かって、厳密には、収容部材30の閉塞側端部から開放側端部に向かって付勢される。つまり、摺動部材50は、収容部材30内を軸方向に沿って移動(摺動)し、カム部材20に当接する。
【0035】
なお、本実施形態において、摺動部材50を付勢する部材として、バネ40を用いたが、これに限定されるものでない。すなわち、収容部材30に収容可能であるとともに、摺動部材50を収容部材30の軸方向に向かって、厳密には、収容部材30の閉塞側端部から開放側端部に向かって付勢可能である適宜の部材(例えば、樹脂製のバネ、ゴム製のブロック等)を用いても構わない。
【0036】
摺動部材50の軸方向を除く方向への移動は、収容部材30の内周面の形状と摺動部材50の外周面の形状とが干渉するため規制される。言い換えれば、摺動部材50は、軸方向に沿ってのみ摺動可能な構成である。このような摺動部材50は、例えば、樹脂材料を金型等によって成形することで構成される。
【0037】
また、ヒンジ10は略円柱形状のピン60を具備する。
ピン60は、図4に示すように、カム部材20に形成されるカム部材側ピン孔22に脱落不能に圧入されるとともに、収容部材30に形成される収容部材側ピン孔31・31に相対回転可能に嵌装される。
より詳細には、カム部材側ピン孔22は、その入口部及び出口部がピン60の断面積直径とほぼ同径で形成されており、ピン孔軸方向中心部がピン60の断面積直径よりも小さい径で形成されている。これにより、ピン60をカム部材側ピン孔22へ圧入したとき、ピン60はカム部材20に対して脱落不能となる。
また、収容部材側ピン孔31・31は、ピン60の断面積直径より大きい径で形成されている。これにより、ピン60を収容部材側ピン孔31・31へ嵌装したとき、ピン60は収容部材30に相対回転可能に支持(軸支)される。
このように構成することにより、ピン60は収容部材30をカム部材20に相対回動可能に連結することができる。
【0038】
次に、収容部材30とカム部材20との関係について説明する。
収容部材30は、図6に示すように、カム部材20の上部に回動可能に支持される。すなわち、収容部材30は、ピン60の軸心を中心として回動する。
なお、以下において、収容部材30が回動するときに中心となる位置を「回動中心C」とする(図5参照)。本実施形態では、回動中心Cは、ピン60の軸心および収容部材側ピン孔31の中心に一致する。
【0039】
図5に示すように、収容部材30が閉じた状態である場合において、バネ40の付勢力により摺動部材50が収容部材30の閉塞側端部から開放側端部に向かって付勢される。
その結果、摺動部材50が収容部材30の閉塞側端部から開放側端部に向かって移動(摺動)し、摺動部材50の摺動部材側突起部52とカム部材20のカム部21とが当接する。
また、摺動部材側突起部52とカム部21とが当接することにより、カム部材20から摺動部材50に反力(反作用の力)が加わるが、摺動部材側突起部52とカム部21との当接面は収容部材30の軸方向に対して直交する状態から傾斜しているので、バネ40の付勢力とカム部材20から摺動部材50に加わる反力とが完全にはバランスしない。
従って、ヒンジ10に外力が作用しない状態では、収容部材30が開いた状態に向かって回動しようとする。
【0040】
ここで、収容部材30が閉じた状態とは、収容部材30の収容部材側ピン孔31とカム部材20の下端とを結ぶカム部材20の長手方向に平行な線と、収容部材30の軸方向に平行な線とが成す角度(図1中のθ)が小さくなる状態を指す。例えば、ヒンジ10を事務機器の本体と原稿圧着板とを回動可能に連結する用途に適用した場合、収容部材30が閉じた状態のときには原稿圧着板が事務機器の本体に対して閉じた状態(原稿圧着板が事務機器の本体のコンタクトガラスに当接した状態)となる。
ヒンジ10を事務機器に適用し、カム部材20を事務機器の本体に固定するとともに収容部材30を原稿圧着板に固定した場合、原稿圧着板の重量により収容部材30を閉じる方向に回動させようとする回転力(トルク)が収容部材30に作用する。このような原稿圧着板の重量に起因する回転力、バネ40の付勢力、およびカム部材20から摺動部材50に加わる反力の三つの力がバランスすることにより、カム部材20に対する収容部材30の回動角度が保持される。
【0041】
図5に示すように、収容部材30が閉じた状態では、摺動部材側突起部52がカム部21と当接するとともに、回動停止部24と当接する。そして、摺動部材側突起部52と回動停止部24とが当接することにより、これ以上収容部材30が閉じる方向(図5における反時計回りの方向、以下単に「閉じる方向」とする)に回動することが規制される。ここで、収容部材30の収容部材側ピン孔31とカム部材20の下端とを結ぶカム部材20の長手方向に平行な線と、軸方向に平行な線とが成す角度は略90°となる。
【0042】
次に、収容部材30のカム部材20に対する回動について説明する。
図6に示すように、閉じた状態の収容部材30が開く方向(図6における時計回りの方向、以下単に「開く方向」とする)に回動したとき、摺動部材50は、図5に示す状態から比較して収容部材30の開放側端部寄りに摺動するが、摺動部材50の摺動部材側突起部52がカム部材20のカム部21に当接した状態が保持される。
【0043】
図6に示すように、摺動部材側突起部52とカム部21とが当接しつつ収容部材30がカム部材20に対して回動可能な状態を「カム部当接回動状態」という。
【0044】
図7に示すように、「カム部当接回動状態」より収容部材30がさらに開く方向に回動したとき、摺動部材50は、図6に示す状態から比較して収容部材30の開放側端部寄りに摺動する。
その結果、摺動部材側突起部52とカム部21とが当接した状態が保持され、かつ摺動部材50の摺動部材側突起部52とカム部材20のカム部材側突起部23とが係合する。
言い換えれば、摺動部材側突起部52の後面とカム部材側突起部23の前面とが接触することにより、収容部材30がカム部材20に対してそれ以上開く方向に回動することが規制された状態となる。
【0045】
図7に示すように、摺動部材側突起部52とカム部21とが当接し、かつ摺動部材側突起部52とカム部材側突起部23とが係合している状態を「突起部係合状態」という。
【0046】
「突起部係合状態」においては、収容部材30の収容部材側ピン孔31とカム部材20の下端とを結ぶカム部材20の長手方向に平行な線と、軸方向に平行な線とが成す角度が略155°となる。
【0047】
「閉じた状態」から「カム部当接回動状態」を経て「突起部係合状態」となる過程、すなわち、カム部材側突起部23と摺動部材側突起部52とが係合する方向、すなわち、収容部材30が開く方向に収容部材30がカム部材20に対して回動するときには、カム部材側突起部23が窪み部53に徐々に収容されていくこととなる。言い換えれば、カム部材側突起部23と摺動部材側突起部52とが係合するまではカム部材側突起部23が摺動部材50のどの部分とも当接しないように、カム部材側突起部23、摺動部材側突起部52および窪み部53の形状が定められる。
【0048】
次に、「突起部係合状態」において、更に開く方向に力が加わった場合の収容部材30のカム部材20に対する回動について説明する。
図8に示すように、突起部係合状態より収容部材30が更に開く方向に力が加わった場合、摺動部材側突起部52の後面がカム部材側突起部23の前面によって前方に押される。
この押す力によって、摺動部材側突起部52は前方に曲げられる(弾性変形する)。摺動部材側突起部52の先端部は弾性変形により前方へ押し出されるため、摺動部材側突起部52の先端部は、それまでに当接していたカム部材側突起部23の基部よりも先端寄り(上端部寄り)となる位置に当接する。これにより、摺動部材50は、図7に示す状態から比較して収容部材30の閉塞側端部寄りに摺動する。
【0049】
更に収容部材30が開く方向に力が加わると、図9に示すように、摺動部材側突起部52がカム部材側突起部23の上端部を乗り越え、収容部材30が更に開く方向へ回動する。
摺動部材50はバネ40によって付勢されるので、摺動部材側突起部52はカム部材側突起部23の上面及び後面に当接しながら図8に示す状態から比較して収容部材30の開口側端部寄りに摺動する。
そして、図9に示すように、カム部材20の後部に設けられた後方突起部25に摺動部材50が当接したときに、収容部材30の回動は終了する。より詳細には、摺動部材50の先端部であって窪み部53と連なり、かつ摺動部材側突起部52の反対側となる部分がカム部材20の後部に設けられた後方突起部25と当接したときに、収容部材30の回動は規制される。
【0050】
また、図10に示すように、ピン60は、収容部材30に形成される収容部材側ピン孔31・31に相対回転不能に圧入されるとともに、カム部材20に形成されるカム部材側ピン孔22に相対回転可能に嵌装される構成とすることもできる。このように構成することにより、ピン60は収容部材30に対して相対回転不能に支持され、カム部材20に対して相対回転可能に支持されることとなり、カム部材20が収容部材30に対して回動することができる。なお、図10に示すように、収容部材側ピン孔31・31及びカム部材側ピン孔22以外の構成は前記実施例に示すヒンジ10の構成と同様であるので説明を省略する。
ピン60を圧入する収容部材側ピン孔31・31は、その入口部及び出口部がピン60の断面積直径とほぼ同径で形成されており、ピン孔軸方向中心部がピン60の断面積直径よりも小さい径で形成されている。これにより、ピン60を収容部材側ピン孔31・31へ圧入することができ、ピン60は収容部材30に対して相対回転不能に支持されることとなる。
また、ピン60を嵌装するカム部材側ピン孔22は、ピン60の断面積直径より大きい径で形成されている。これにより、ピン60をカム部材側ピン孔22へ嵌装することができ、ピン60はカム部材20に対して相対回転可能に支持される。
【0051】
なお、本実施例ではカム部材20及び収容部材30のうちどちらか一方が事務機器の本体に固定され、他方が原稿圧着板に固定されていればよく、その組み合わせは限定されるものではない。
【0052】
以上のように、ヒンジ10は、上端部にカム部21が形成されたカム部材20と、軸方向の上端部が閉塞されるとともに下端部が開放され、カム部材20の上端部に回動可能に支持される収容部材30と、収容部材30に収容され、収容部材30の軸方向に摺動可能な摺動部材50と、収容部材30に収容され、上端部が収容部材30の上端部に当接するとともに下端部が摺動部材50に当接し、摺動部材50を収容部材30の閉塞側端部から開放側端部に向かって付勢することにより摺動部材50をカム部材20のカム部21に当接させるバネ40と、を具備し、カム部材20においてカム部21に連なる位置にはカム部材側突起部23が形成され、摺動部材50においてカム部21に当接する位置には摺動部材側突起部52が形成され、カム部材側突起部23と摺動部材側突起部52とが係合することによりカム部材20に対する収容部材30の回動が規制される。
このように構成することにより、摺動部材側突起部52及びカム部材側突起部23を設けるだけでヒンジ10の回動角度を制限することができ、コストの増大および外形寸法の大型化を抑制することが可能である。ひいては、作業手順の簡略化及び材料コストの抑制を図ることができる。
【0053】
また、摺動部材側突起部52は曲げ方向に弾性変形可能であって、収容部材30には摺動部材側突起部52の弾性変形を許容する許容空間が形成されるものである。
このように構成することにより、突起部係合状態より更に開く方向に過大な力がかかった場合であっても、摺動部材側突起部52及びカム部材側突起部23が破損することを防止できる。
【0054】
また、収容部材30をカム部材20に相対回動可能に連結する略円柱形状のピン60を具備し、ピン60は、カム部材20に形成されるカム部材側ピン孔22および収容部材30に形成される収容部材側ピン孔31のいずれか一方に脱落不能に圧入されるとともに他方に相対回転可能に嵌装されるものである。このように構成することにより、圧造加工とカシメ作業が不必要となるため、作業手順の簡略化及びコストの抑制を図ることができる。
【0055】
また、摺動部材50において摺動部材側突起部52に連なる位置には窪み部53が形成され、カム部材側突起部23と摺動部材側突起部52とが係合する方向に収容部材30がカム部材20に対して回動するときにはカム部材側突起部23が窪み部53に収容されるものである。このように構成することにより、収容部材30がカム部材20に対して回動するときでも、摺動部材50とカム部材とが当接することが無く、スムーズに回動することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 ヒンジ
20 カム部材
21 カム部
22 カム部材側ピン孔
23 カム部材側突起部
30 収容部材
31 収容部材側ピン孔
40 バネ
50 摺動部材
52 摺動部材側突起部
53 窪み部
60 ピン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部にカム部が形成されたカム部材と、
一端部が閉塞されるとともに他端部が開放され、前記カム部材の一端部に回動可能に支持される収容部材と、
前記収容部材に収容され、前記収容部材の軸方向に摺動可能な摺動部材と、
前記収容部材に収容され、一端部が前記収容部材の一端部に当接するとともに他端部が前記摺動部材に当接し、前記摺動部材を前記収容部材の一端部から他端部に向かって付勢することにより前記摺動部材を前記カム部材のカム部に当接させる付勢部材と、
を具備し、
前記カム部材において前記カム部に連なる位置にはカム部材側突起部が形成され、
前記摺動部材において前記カム部に当接する位置には摺動部材側突起部が形成され、
前記カム部材側突起部と前記摺動部材側突起部とが係合することによりカム部材に対する収容部材の回動が規制されるヒンジ。
【請求項2】
前記摺動部材側突起部は曲げ方向に弾性変形可能であって、
前記収容部材には前記摺動部材側突起部の弾性変形を許容する許容空間が形成される請求項1に記載のヒンジ。
【請求項3】
前記収容部材をカム部材に相対回動可能に連結する略円柱形状のピンを具備し、
前記ピンは、
前記カム部材に形成されるカム部材側ピン孔および前記収容部材に形成される収容部材側ピン孔のいずれか一方に脱落不能に圧入されるとともに他方に相対回転可能に嵌装される請求項1または請求項2に記載のヒンジ。
【請求項4】
前記摺動部材において前記摺動部材側突起部に連なる位置には窪み部が形成され、
前記カム部材側突起部と前記摺動部材側突起部とが係合する方向に前記収容部材が前記カム部材に対して回動するときには前記カム部材側突起部が前記窪み部に収容される請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のヒンジ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−266055(P2010−266055A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120276(P2009−120276)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(592264101)下西技研工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】