説明

ヒートシンク材の作製方法

【課題】 熱伝導性が改善された高熱伝導性材料と低熱膨張性硬質材料との複合材料からなるヒートシンク材を低コストで提供すること。
【解決手段】
粉末混合、成形、焼結の粉末冶金プロセスに沿って作製するに際して、複合材料を構成する原料粉末の複数の局所的な組成をXとし、その測定値の平均値をXaveとし、標準偏差をSとしたとき、M=S/Xave×100によって表わされ混合粉末の混合度Mを20以下に規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Cu,Ag等の高熱伝導性材料とMo,W等の低熱膨張性硬質材料との複合材料からなるヒートシンク材の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CPUやGPUなどの集積回路の高出力化に伴い、電子機器の発する熱量は増加し、一方で機器の小型化も進んでいるため、これら高発熱素子の熱密度はかつてないほどに高くなっている。このような高発熱素子の発熱対策のひとつとしてヒートシンク用材料の利用がある。
【0003】
しかし、ヒートシンク用材料は単に高い放熱性能だけを有していれば良いというものではなく、半導体装置の場合のようにGaAsのような熱膨張率の低い半導体と合わせて使用する場合とか、あるいは一定の強度を必要とする場合などのように、使用する環境によって柔軟に特性を適合させ得る材料が求められる。
【0004】
その中でも、Cu−Mo複合材料は、熱伝導性に優れたCuと低い熱膨張率と高強度というMoの特性を併せもった材料であり、CuとMoの組成を変化させることで、ヒートシンク用材料としての特性を調整することができる。例えば、下記特許文献に記載のように、このCu−Mo複合材料と同様の特性をもつ材料としてCu−W系の複合材料が知られているが、WはMoに比べ密度が大きいため、航空宇宙分野のような軽量化が重要視されるような分野ではCu−Mo系が支持されている。
【0005】
ところが、Cu−Mo系は、Cu−W系と較べ、反応が遅いために、緻密化は困難を伴い、緻密化のための最適な処理条件は未だ見出されていないのが現状である。
【0006】
また、従来のCu−Mo複合材料の製造には、下記特許文献、非特許文献に記載されているように、Mo粒子表面へのCuの皮膜処理等の複雑な工程が必要とされている。
【0007】
このような状況の下では、Cu−Mo複合材料に代表されるように、ヒートシンク用材料として複合材料の製造には、多額の費用を要し、材料として高価なものにならざるを得ず、そのため、その用途は特殊なものに留まらざるを得ないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−78578
【特許文献2】特開2003−309232
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.W.Kirik,S.G.Galdwell andJ.J.Oakes: Advances in Powder Metallurgy, Vol.9.pp.115-122
【非特許文献2】P. Yih and D.D.L.Chung : J.Electric Mater.24 841-851
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明の第1の課題は、高熱伝導性材料と低熱膨張性硬質材料との複合材料からなるヒートシンク材としての特性の改善にある。
【0011】
また、他の課題は、熱伝導性が改善された前記複合材料からなるヒートシンク用材料を低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る複合材料からなるヒートシンク用材料は、粉末混合、成形、焼結の粉末冶金プロセスに沿って作製する。
【0013】
一般的に粒子が均一に混っている粉末からは良い特性の焼結体が得られることが知られている。そして、複合材料の混合状態と焼結体の熱伝導率の間には相関関係があることも従来概念的に知られている。
【0014】
この発明は、複合材料からなるヒートシンク用材料の熱伝導率を複合材料粉末の混合度Mによって規定することによって、得られた焼結材料の熱伝導率特性を定量的に管理するものである。
【0015】
具体的には、複合材料を構成する原料粉末の複数の局所的な組成をXとし、その測定値の平均値をXaveとし標準偏差をSとしたとき、下記の式によって表わされる混合粉末の混合度Mを20以下に規定し、得られた焼結体の特性を管理するものである。
【0016】
M=S/Xave×100
【発明の効果】
【0017】
粉末冶金法によって複合材料系ヒートシンク用材料を得るに当たって、混合粉末の混合度Mを20以下の低い値に維持することによって、熱伝導特性と機械的特性の均一性に優れたヒートシンク用材料を得ることができる。
【0018】
この発明によって得られた最も高い熱伝導率を有するCu−Mo複合材料は、熱伝導率166.4W・m−1K−1、密度9.18g/cmを示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】混合状態の評価方法の概要を示す。
【図2】混合速度の相違による焼結体のミクロ組織を示す。
【図3】混合雰囲気の差による焼結体の熱伝導の差異を示す。
【図4】混合速度の差に基づく熱伝導の差を示す。
【図5】作製試料の熱伝導率を市販材料と比較したグラフである。
【図6】作製試料の密度を市販材料と比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態を、Cu−Mo複合材料を作製する実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0021】
作製したCu−Mo複合体からなる焼結体試料の物性値の測定を行い、高い熱伝導率が得られる最適な混合条件を探索した。また、CuおよびMo粒子の分散状態(混合状態)が熱伝導率に及ぼす影響を調べるために、粒子の分散状態の定量的な評価を行った。
【0022】
(原料粉末の混合)
表1に示すCu,Mo粉末を出発原料として遊星型ボールミルを用いて混合した。
【0023】
【表1】

【0024】
混合粉末の組成は、液相焼結による緻密化を最大にするような体積率とするために、Cuを28.75質量%とした。
【0025】
秤量した原料粉末は遊星型ボールミルを用いて混合した。ボールミルポットはSUS304製の250ccのものを使用し、ボールには同じくSUS304製のφ5mmを使用した。ボールミルの回転速度は、250rpmと、300rpmと、400rpmの3パターンとし、混合時間は60分および600分とした。
【0026】
混合は、乾式または湿式で行った。乾式混合の場合、容器内の雰囲気を置換せずに大気のまま混合する方法、および、99.9%のArガスに置換して混合する方法を行った。
【0027】
湿式混合の場合、溶媒として2−ブロパノールを用い、雰囲気は置換せずに大気のままとした。湿式混合後はエバボレ一タを用いて1時間程度の乾燥を行った。
【0028】
さらに、容器内が高温になる5時間以上の混合に際しては、5時間おきにミリングを中断して容器の過熱を防止した。
【0029】
(成形)
混合粉末の成形にはCIP(冷間静水圧加圧法)を利用した。混合後の粉末から成形量約25gを秤量し、発泡スチロール製の容器(内径19mm)に封入した。封入した容器はプロカバー(天然ゴムラテックス)で覆い、アスピレータによってカバー内の空気の除去した後に密封した。成形条件は1500kgf/cmとした。成形後は試料に付着した発泡スチロールを除去した。
【0030】
(焼結)
成形後の試料はArフローの下でシリコニット炉を用いて焼結を行った。その際、試料の酸化を防ぐ目的でボール盤によって削り出したチタン片をゲッターとして試料と共に炉内に配置して液相焼結を行った。焼結終了後は炉内で常温まで冷却した。
【0031】
(特性評価)
作製した焼結体は旋盤やダイヤモンドカッターによってφ10mm、厚さ約2mmに加工し、耐水研磨紙を用いて表面を研磨したものを熱伝導率測定用試料とした。熱伝道率測定にはレーザーフラッシュ定熱定数測定装置TC−7000H型(真空理工株式会社製)を用いた。熱伝導率測定後の試料は、再び研磨を行い、密度測定や微細組織の観察を行った。密度の測定はアルキメデス法で行った。微細組織の観察には光学顕微鏡(Nikon製)を用いた。
【0032】
(混合状態の測定)
微細組織写真を用いて混合度測定を行った。混合度測定の方法を図1に示す。 同図に示すように、微細組織写真上に100μmの線を引き、この線上におけるCuおよびMoの長さの合計をそれぞれΣLCu,ΣLMoとする。ここで、試料の局所的な組成をXとし、次のように定義する。
【0033】
X=ΣLCu/(ΣLCu+ΣLMo)×100
【0034】
このような試料の局所的な組成の測定を36箇所行った。これらの36個の測定値の平均値と標準偏差Sを用いて混合度Mは以下の式で表される。
【0035】
M=S/Xave×100
【0036】
CuおよびMo粒子が均一に分散しているとき混合度Mは小さな値を示す。
【0037】
(混合速度の影響)
混合条件における混合速度(ボールミルの回転速度)のみを変化させて試料を作製した。
【0038】
雰囲気はAr雰囲気とし、混合時間は60minとした。混合速度は、400rpmの高速度(a)と、300rpmの中間速度(b)と、250rpmの低速度(c)の3つのパターンの試料特性への影響を調査した。
【0039】
混合速度の異なる混合粉末から作製した焼結試料の微細組織写真を、混合速度のパターンに応じて、図2の(a)、(b)および(c)に示す。
【0040】
これらの図の微細組織写真において、黒い部分は気孔であり、灰色の部分はCu、白色の部分はMoである。図から明らかなように混合速度が異なるだけで、焼結体の概観および微細組織に大きな違いが見られた。
【0041】
微細組織において、混合速度が小さい試料(c)では、全体的に気孔が多数分布している様子が観察された。混合速度が大きい試料(a)では、混合速度が小さい試料よりも数は少ないもののやや大きい気孔が観察された。
【0042】
密度測定結果からも混合速度が中間速度の試料(b)が最も密度が高く、緻密化しており、混合度Mは20以下であった。これに対し、高速度(a)と低速度(c)の場合は、何れも混合度Mは20以上であった。
【0043】
これらの結果より、混合速度の差が、焼結体の密度、すなわち、混合度Mに大きな影響を与えるといえる。混合速度は大きければ大きいほど密度に良い影響を与えるわけではなく、最適な混合速度が存在する。混合速度が大き過ぎると、混合中にCu粒子同士の圧着よりCuの偏析を引き起こすと考えられる。Cuの大きな偏析が存在すると、焼結中における溶解一析出反応が効率よく進まないために緻密化が阻害されるものと考えられる。
【0044】
また、焼結前にCuの偏析が存在すると、焼結時に粒子の再配列に起因するMoに囲まれた閉気孔の形成が起こり、緻密化を阻害すると推察される。混合速度の最適化は試料内の気孔を小型化させ、密度を向上させる。熱伝導率は密度に比例するので、結果的に密度の向上は熱伝導度の改善に繋がると考えられる。
【0045】
また、ボールミルによる混合では粒子の形状変化が起こり得ると考えられる。 とくに、角ばった形から球形へのMo粒子の形状変化は、焼結における粒子の再配列を促進させる。
【0046】
(混合方法と混合時間の影響)
混合条件における混合速度および混合時間のみを変化させて試料を作製した。 混合粉末の焼結は同一条件で行った。
【0047】
これらの結果から、混合における雰囲気を制御しない場合、混合時間の増加に伴って混合粉末が酸化され、焼結体の熱伝導率が低下することが分かっている。そこで酸化を抑制する目的で、Ar雰因気中での乾式混合と、溶媒として2−ブロパノールを用いた湿式混合を行った。
【0048】
また、混合時間は、60分と600分とし、混合速度はすべて250rpmとした。各条件で混合した粉末から焼結試料を作製して熱伝導率を比較した。その結果を図3に示す。
【0049】
同図に示すように、短時間(60min)混合の場合、Ar雰囲気で混合した試料の方が高い熱伝導率を示した。
【0050】
2−プロパノールを用いた湿式混合では、混合後に溶媒を除去するために乾燥しなければならない。
【0051】
この実施例の場合、混合粉末乾燥中に混合粉末が1時間程度大気に曝されることに加え、装置が溶媒の沸点以上加熱されるため、混合粉末はAr雰囲気で混合した試料に比べて著しく酸化されたと考えられる。
【0052】
一方、長時間(600min)混合の場合、Ar雰囲気中で混合した試料の熱伝導率は5%程度低下した。
【0053】
これに対して2−ブロパノール中で混合した試料の熱伝導率は15%程度上昇した。Ar雰囲気中での長時間混合における熱伝導率低下の要因は、Arガス内に含まれる酸素による粉末の酸化が考えられる。
【0054】
また、2−ブロパノール中での長時間混合に伴う熱伝導率の上昇は、ボールミルの粉砕効果が高まったことによるCuおよびMo粒子の微細化と形状変化に起因すると推察される。溶媒を使用した混合の場合、焼結前に溶媒を完全に除去する必要があることを考慮するとAr雰囲気中での混合がより効率的であるといえる。
【0055】
(混合度の測定)
CuおよびMo粒子の分散状態が熱伝導率に及ぼす影響を調べるために、混合方法および雰囲気、混合時間が異なる5種類の焼結試料ついて混合度の測定を行った。
【0056】
混合速度はすべて250rpmで混合を行った。測定した混合度と熱伝導率との関係を図4に示す。この図から、混合速度が等しい場合、混合方法および混合時間が異なると測定した混合度に差異があることがわかる。また、熱伝導率と混合度には明確な相関関係があることがわかる。すなわち、CuおよびMo粒子が均一に分布している混合度(M)が20以下の小さい試料は高い熱伝導率を示し、反対に混合度が大きい試料は熱伝導率が低い。この図4において、大気中で混合した試料が高い熱伝導率を示しているのは、熱伝導率が酸化の影響よりも混合度に強く支配されていることを示している。このことから高い熱伝導率を得るためには、CuおよびMo粒子ができるだけ均一に分布している必要があると言える。従って、高い熱伝導率を有するCu−Mo複合材料を得るためにはCuおよびMo粒子が均一に分散した混合粉末の作製が不可欠である。
【0057】
図5は作製試料の熱伝導率を市販材料と比較したグラフである。また、図6は密度について比較したものを示す。ここでの比較にはアライドマテリアル社およびAMETEK社のカタログから引用した市販のCu−Mo複合材料のデータを利用した。This study として示すものが、本実施例のもので、混合速度の高速度と中間速度と低速度の3つのパターンのものを示す。これら3つのパターンのうち、何れも、中間速度の場合(middle)が最も優れた結果を示した。本実施例において、熱伝導率166.4W・m−1−1、密度9.18g/cmを得た。これは、従来の市販材料と比べて熱伝導率比において約90%、密度比において約94%の値まで向上している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明の実施例として、Cu−Moの複合体を例に挙げて説明したが、この発明は、Cu−Moの複合体に限らず、他の複合体系のヒートシンク材の作製に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料からなるヒートシンク用材料を、粉末混合、成形、焼結の各プロセスに沿って粉末冶金法によって作製する方法における粉末混合プロセスにおいて、
複合材料を構成する原料粉末の複数の局所的な組成を微細組織写真を用いて測定して、その測定値の平均値をXaveとし、標準偏差をSとしたとき、
M=S/Xave×100
によって表される混合粉末の混合度Mを20以下とする複合材料からなるヒートシンク用材料の作製方法。
【請求項2】
混合プロセスを乾燥Ar雰囲気で行う請求項1に記載のヒートシンク材の作製方法。
【請求項3】
混合粉末の混合度Mを遊星型ボールミルの回転速度によって調整する請求項1に記載のヒートシンク材の作製方法。
【請求項4】
焼結前の高密度化圧縮成形を発砲スチロールに包み、CIPにより加圧成型する請求項1に記載のヒートシンク材の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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