説明

ビニル系共重合体とその製造方法、およびそれを用いた顔料組成物

【課題】
本発明の目的は、分散性、流動性、および保存安定性に優れた顔料分散体を製造することのできるビニル系共重合体とその製造方法を提供することにある。更に、およびそれを用いた顔料組成物を提供することにある。
【解決手段】
一分子あたり平均0.3個以上4.0個以下の量で酸基を含むビニル系共重合体であって、
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)と、その他のエチレン性不飽和単量体(b)とをリビング重合してなる水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、
水酸基と反応しうる官能基および酸基を有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸類(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物中の、水酸基と反応しうる官能基、とを反応してなるビニル系共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系共重合体およびその製造方法に関し、酸基を有し、リビング重合により得られたビニル系共重合体およびその製造方法に関する。更に詳しくは、分散性、流動性、および保存安定性に優れた顔料分散体を製造することのできるビニル系共重合体とその製造方法、およびそれを用いた顔料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インキ等を製造する場合、顔料を安定に高濃度で分散することが難しく、製造工程や製品そのものに対して種々の問題を引き起こすことが知られている。
【0003】
例えば、微細な粒子からなる顔料を含む分散体は往々にして高粘度を示し、製品の分散機からの取り出しや輸送が困難となるばかりでなく、悪い場合は保存中にゲル化を起こし、使用困難となることさえある。更に展色物の表面に関しては光沢の低下、レベリング不良等の状態不良を生じる。また、異種の顔料を混合して使用する場合、凝集による色別れや、沈降などの現象により展色物に色むらや著しい着色力の低下が現れることがある。
【0004】
そこで一般的には分散状態を良好に保つために分散剤が利用されている。分散剤は顔料に吸着する部位と、分散媒である溶剤に親和性の高い部位との構造を持ち合わせ、この2つの部位のバランスで分散剤の性能は決定される。分散剤は被分散物である顔料の表面状態に合わせ種々のものが使用されているが、塩基性に偏った表面を有する顔料には酸性の分散剤が使用されるのが一般的である。この場合、酸性官能基が顔料の吸着部位となる。
【0005】
酸性の官能基としてリン酸基やスルホン酸基を有する分散剤が知られている(例えば、特許文献1又は特許文献2)。これらは高い分散能力を持ち合わせ、ある程度少ない使用量で低粘度の顔料分散体をつくることができる。しかしながら、これらの樹脂は、低分子の場合は分散体の立体安定化能力に乏しいために径時で高粘度化しやすく、高分子量の場合には樹脂粘度由来の高粘度化が分散直後から顕著であるとともに、実質的に分子量分布が2より大きいことで顔料吸着能力の高い酸性官能基が顔料間橋架け凝集を引き起こし、分散体が径時で高粘度となる問題があった。さらに、ポリエステル骨格やウレタン骨格がリン酸基やスルホン酸基などの強酸と共存することで保存安定性の悪化、耐熱性の低さ、耐薬品性の低さなど、分散体の利用上、問題を生じる場合が多く、このような分散剤は、応用するインキや塗料などへの展開性に乏しかった。
【0006】
こういった背景から、酸性の官能基としてリン酸基やスルホン酸基を有する分散剤としては、分子量分布および分子中の酸性官能基の位置が厳密に制御され、かつ、リン酸基やスルホン酸基などの強酸に対して比較的安定な樹脂骨格からなる樹脂が求められていた。
【0007】
また、酸性の官能基としてカルボキシル基を有する分散剤は、リン酸基や、スルホン酸基を有する分散剤が抱える問題はないが、顔料吸着能力の低さから、分散能力において劣る傾向があり、使用量を多くしてもリン酸基や、スルホン酸基を有する分散剤を用いたときのような低粘度化は難しかった。
【0008】
近年、カルボキシル基を用い、分散剤としての能力を向上させた分散剤が提案されている。カルボキシル基を有するアクリル樹脂をブロック共重合させた例や、カルボキシル基を有するアクリル樹脂にポリエステル、ポリエーテル、若しくはポリウレタンなどをグラフトさせた例である(例えば、特許文献3又は特許文献4)。
【0009】
前者はカルボキシル基をブロック状に密集させることで従来のカルボキシル基を有する分散剤に比べれば高い分散能力を有してはいるものの、顔料吸着部位(すなわちカルボキシル基ブロック部位)が長くなることで、顔料間の橋架け凝集を引き起こしやすく、径時安定性に乏しい場合があった。また、後者は、構造的に顔料の立体安定化能力に優れるものの、分子全体として嵩高くなっていることで、顔料を微細に解砕する能力に乏しい場合があった。
【0010】
このように、酸性の官能基としてカルボキシル基を有する分散剤としては、比較的顔料吸着能の弱いカルボキシル基であっても、その顔料吸着効果を効率よく引き出すために精密に設計(すなわち分子量分布およびカルボキシル基の位置の制御)された樹脂が求められていた。
【特許文献1】特許第2633075号公報
【特許文献2】特許第2747769号公報
【特許文献3】特開2005−194487号公報
【特許文献4】特許第3049407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、高い顔料分散能力を有する酸性官能基含有樹脂の開発を鋭意研究していたところ、酸性官能基を有する精密に制御された特定の分子構造のビニル系重合体が、優れた分散能を有することを見出した。また、本発明者は、前記のビニル系重合体を製造する有利な方法も新たに見出した。
【0012】
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一分子あたり平均0.3個以上4.0個以下の量で酸基を含むビニル系共重合体であって、
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)と、その他のエチレン性不飽和単量体(b)とをリビング重合してなる水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、
水酸基と反応しうる官能基および酸基を有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸類(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物中の、水酸基と反応しうる官能基、とを反応してなるビニル系共重合体に関する。
【0014】
さらに本発明は、リビング重合が、原子移動ラジカル重合である上記ビニル系共重合体に関する。
【0015】
さらに本発明は、一分子あたり平均0.3個以上4.0個以下の量で酸基を含むビニル系共重合体中の酸基が、カルボキシル基、リン酸基、およびスルホン酸基より選択される少なくとも1種の官能基である上記ビニル系共重合体に関する。
【0016】
さらに本発明は、水酸基含有ビニル系共重合体(c)の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が、1.0〜2.0である上記ビニル系共重合体に関する。
【0017】
さらに本発明は、水酸基含有ビニル系共重合体(c)が、ブロック共重合体であって、
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)からなるAブロックと、その他のエチレン性不飽和単量体(b)からなるBブロックとからなるABブロック共重合体、または、
Bブロックと、Aブロックと、BブロックとからなるBABブロック共重合体である上記ビニル系共重合体に関する。
【0018】
さらに本発明は、上記ビニル系共重合体と、顔料とを含んでなる顔料組成物に関する。
【0019】
さらに本発明は、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)と、その他のエチレン性不飽和単量体(b)とをリビング重合して水酸基含有ビニル系共重合体(c)を得る第一の工程、および、
前記水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、水酸基と反応しうる官能基および酸基を有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸類(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物中の、水酸基と反応しうる官能基、とを反応させる第二の工程を含む、一分子あたり平均0.3個以上4.0個以下の量で酸基を含むビニル系共重合体の製造方法に関する。
【0020】
さらに本発明は、リビング重合により水酸基含有ビニル系共重合体(c)を得る第一の工程が、原子移動ラジカル重合であることを特徴とする上記ビニル系共重合体の製造方法に関する。
【0021】
さらに本発明は、水酸基含有ビニル共重合体(c)を得る第一の工程が、その他のエチレン性不飽和単量体(b)を重合した後、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)を重合する工程、または、
前記工程の後さらに、その他のエチレン性不飽和単量体(b)を重合する工程を含む上記ビニル系共重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のビニル系共重合体を顔料組成物に使用することにより、低使用量で、分散性、流動性、および保存安定性を得ることができ、同時に展色物の耐熱性、および耐薬品性を得ることができた。
【0023】
また、本発明の製造方法によれば、本発明のビニル系共重合体を包含する広範な構造を有するビニル系共重合体を、有利に製造することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、リビング重合によって得られる水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、水酸基と反応しうる官能基と、酸基とを有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸類(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物中の、水酸基と反応しうる官能基、とを反応することによって、ビニル系重合体の一分子あたり平均0.3個以上4.0個以下の量で酸基を含むことを特徴とするビニル系重合体に関する。
【0025】
一般に、顔料分散剤は、顔料に吸着する部位と、分散媒である溶剤に親和性の高い部位との構造を持ち合わせ、この2つの部位のバランスで分散剤の性能が決定されるということは先に説明した。つまり、分散性を発現させるためには、分散剤の顔料に吸着する性能と分散媒である溶剤への親和性がともに非常に重要である。さらに、顔料に吸着する部位と溶剤に親和性の高い部位との位置関係が重要である。本発明は、これらの導入量および位置関係を、精密に制御したビニル系共重合体であり、さらにその製造方法である。
【0026】
本発明の場合、酸基が顔料に吸着する部位となり、酸基以外の部分が溶剤に親和性の高い部位となる。例えば酸基を有さない場合(つまり本発明の範囲外)では、高い分散性、流動性、および保存安定性を発現せず、好ましくない。
【0027】
また、たとえば溶剤親和性の高い部位である主鎖に対して、顔料吸着性能の高い酸基がランダムに導入された重合体の場合、高い分散性、流動性および保存安定性を得ることが困難な場合が多い。本発明のように、溶剤親和性の高い部位である主鎖に対して、顔料吸着性能の高い酸基がほぼ中心、もしくはほぼ末端に導入されるように合成することで、高い分散性、流動性および保存安定性を得ることができるのである。
【0028】
本発明のビニル系共重合体は、ビニル系重合体の一分子に対して酸基を平均0.3個以上4.0個以下含むことが重要である。更に好ましくは0.35個以上3.5個以下、最も好ましくは0.4個以上2.5個以下である。0.3個より少ない場合、顔料に吸着する部位が少なく、結果として分散能力が低下する。また、4.0個より多い場合、顔料に吸着する部位が多くなりすぎて、逆に分散性の低下を招く。
【0029】
本発明の、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)としては、水酸基を有し、エチレン性不飽和二重結合を有する単量体であればどのようなものでも構わないが、具体的には、水酸基を有する(メタ)アクリレート系単量体、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2(又は3)−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2(又は3又は4)−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びシクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、あるいは水酸基を有する(メタ)アクリルアミド系単量体、例えば、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN−(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド、あるいは、水酸基を有するビニルエーテル系単量体、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−(又は3−)ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−(又は3−又は4−)ヒドロキシブチルビニルエーテルなどのヒドロキシアルキルビニルエーテル、あるいは水酸基を有するアリルエーテル系単量体、例えば、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−(又は3−)ヒドロキシプロピルアリルエーテル、2−(又は3−又は4−)ヒドロキシブチルアリルエーテルなどのヒドロキシアルキルアリルエーテルが挙げられる。
【0030】
また、上記のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、N−(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキルビニルエーテルあるいはヒドロキシアルキルアリルエーテルにアルキレンオキサイド及び/又はラクトンを付加して得られるエチレン性不飽和単量体も、本発明方法において、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)として用いることができる。付加されるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、1,4−、2,3−又は1,3−ブチレンオキサイド及びこれらの2種以上の併用系が用いられる。2種以上のアルキレンオキサイドを併用するときの結合形式はランダム及び/又はブロックのいずれでもよい。付加されるラクトンとしては、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、炭素原子数1〜6のアルキル基で置換されたε−カプロラクトン及びこれらの2種以上の併用系が用いられる。アルキレンオキサイドとラクトンを両方とも付加したものでも構わない。
本発明の、その他のエチレン性不飽和単量体(b)としては、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体であればどのようなものでも構わないが、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などの強い酸性官能基を有するものは、本発明のリビング重合に用いる触媒を失活させる場合があるため、使用を避けることが好ましい。
【0031】
エチレン性不飽和単量体(b)の例としては、たとえば、エチレン、ブタ−1,3−ジエン、2−メチルブタ−1,3−ジエン、2−クロロブタ−1,3−ジエンのようなジエン類;
スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン類;
アクリル酸メチル、アクリル酸ノルマルブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸エチルヘキシル、パラクミルフェノールEO変性アクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレート、アクリル酸2−ビニロキシエチル、アクリル酸2−(2'−ビニロキシエトキシ)エチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸グリセリン、アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、アクリル酸フェノキシポリエチレングリコールなどのアクリル酸エステル類;
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ノルマルブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリセリン、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸フェノキシポリエチレングリコール、グリシジルメタクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸2−ビニロキシエチル、メタクリル酸2−(2'−ビニロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸シクロペンタジエニルなどのメタクリル酸エステル類;
アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの(メタ)、アクリル酸誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類;
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどのビニルエーテル類;
ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルケトン類、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾル、N−ビニルインドール、N-ビニルピロリドンなどのN-ビニル化合物;
アリルアルコール、塩化アリル、酢酸アリル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのアリル化合物;
フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのフッ素アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;
グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、グリシジルアリルエーテル、2,3−エポキシ−2−メチルプロピル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、4−ビニル−1−シクロヘキセン1,2エポキシド、グリシジルシンナメート、1,3−ブタジエンモノエポキサイド、セロキサイド2000(ダイセル化学工業株式会社製)、
メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)、アクリロイルオキシエチルイソシアネート(AOI)、メタクリロイルオキシエチルイソチオシアネート、アクリロイルオキシエチルイソチオシアネート、メタクリロイルイソチオシアネート、アクリロイルイソチオシアネート、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート(MAI)、イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート(TMI)、オキセタニル(メタ)アクリレート等がある。
【0032】
本発明では、まず前記の水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)と、前記のその他のエチレン性不飽和単量体(b)とをリビング重合して、水酸基含有ビニル系共重合体(c)を得る。ここでリビング重合とは、一般的なラジカル重合に起こる副反応が抑制され、さらには重合の成長が均一に起こる為、容易にブロックポリマーや分子量の揃った樹脂を合成できる重合方法である。重合時に添加する重合開始剤とビニル系モノマーとの仕込み比によって、重合体の分子量やブロック共重合するモノマーの比率を自由にコントロールでき、ブロックポリマー・グラジエントポリマー・星型ポリマー・くし型ポリマーさらには末端官能性ポリマーなどの製造に利用することができる。
【0033】
リビングラジカル重合としては、大きく分けてニトロキシルラジカルによるもの、遷移金属錯体によるもの、ジチオエステル基によるものが広く用いられ、研究されている。
【0034】
なかでも、有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、遷移金属を中心金属とする金属錯体を触媒として重合する原子移動ラジカル重合法は、重合体の分子量、分子量分布の制御だけでなく、特定の官能基の導入位置の制御、ブロック共重合体、星型重合体などの分子形態の精密制御が可能である。
【0035】
さらに、広範囲の単量体に適応できる点、既存の設備に適応可能な重合温度を採用できる点で原子移動ラジカル重合法は、好ましい。原子移動ラジカル重合法は、下記の参考文献1〜8などに記載された方法で行うことができる。
(参考文献1)Fukudaら、Prog. Polym. Sci. 2004, 29, 329。
(参考文献2)Matyjaszewskiら、Chem.R e v.2001,10 1,2921。
(参考文献3)Matyjaszewskiら、J.Am.Chem.Soc.1995,117,5614。
(参考文献4)Macromolecules 1995,28,7901,Science 1996,272,866
(参考文献5)国際公開第96/30421号パンフレット
(参考文献6)国際公開第97/18247号パンフレット
(参考文献7)特開平9−208616号公報
(参考文献8)特開平8−41117号公報
原子移動ラジカル重合法では、レドックス重合触媒として銅、ルテニウム、鉄、ニッケルなどの遷移金属錯体を用いて行われる。遷移金属錯体の具体的な例としては、塩化銅(I)、臭化銅(I)などの低原子価のハロゲン化遷移金属が挙げられるが、重合速度をコントロールするために、周知の方法に従って塩化銅(II)や臭化銅(II)などの高原子価の遷移金属を重合系に添加してもよい。
【0036】
上記遷移金属錯体には有機配位子が使用される。有機配位子は、重合溶剤への可溶性およびレドックス重合触媒の可逆的な変化を可能にするために使用される。遷移金属の配位原子としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられるが、好ましくは窒素原子またはリン原子である。有機配位子の具体例としては、スパルテイン、2,2'-ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等が挙げられる。
【0037】
前記の遷移金属と有機配位子とは、別々に添加して重合体中で金属錯体を生成させてもよいし、予め金属錯体を合成して重合系へ添加しても良い。特に、遷移金属が銅の場合、前者の方法が好ましく、ルテニウム、鉄、ニッケルでは、後者の方法が好ましい。
【0038】
予め合成されるルテニウム、鉄、ニッケル錯体の具体例としては、トリストリフェニルホスフィノニ塩化ルテニウム(RuCl2(PPh3)3)、ビストリスフェニルホスフィノニ塩化鉄(FeCl2(PPh32)、ビストリスフェニルホスフィノニ塩化ニッケル(NiCl2(PPh32)、ビストリブチルホスフィノニ臭化ニッケル(NiBr2(PBu3)2)等が挙げられる。
【0039】
また、公知の方法により、これらの遷移金属触媒と還元剤とを組み合わせることで、使用する遷移金属の量を低減することができる。
【0040】
原子移動ラジカル重合法に使用される開始剤としては、公知のものを使用できるが、主に反応性の高い炭素ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物、ハロゲン化スルホニル化合物等が用いられる。具体的に例示すると、ブロモイソ酪酸エチル、ブロモ酪酸エチル、クロロイソ酪酸エチル、クロロ酪酸エチル、パラトルエンスルホン酸クロライド、1−ブロモエチルベンゼン、クロロエチルベンゼンなどである。これらは単独または併用で用いる。
【0041】
上記原子移動ラジカル重合において、原子移動ラジカル重合の開始剤は、ビニル系モノマー全量に対し、0.01〜10モル%、好ましくは0.1〜8モル%の割合で用いられる。
【0042】
また、遷移金属の使用量は、ハロゲン化物などの形態として、開始剤1モルに対して、0.03〜3モル、好ましくは0.1〜2モルの割合で用いられる。さらに、その有機配位子は、上記の遷移金属(ハロゲン化物などの形態)1モルに対して、通常1〜5モル、好ましくは2〜3モルの割合で用いられる。上記原子移動ラジカル重合の開始剤と遷移金属および有機配位子とをこのような使用割合にすると、リビングラジカル重合の反応性、生成ポリマーの分子量などの点で好適となる。
【0043】
また、原子移動ラジカル重合の特性上、得られた重合体の停止末端には活性な炭素-ハロゲン結合を有し、公知の方法でこれを変性して官能基を導入することができる。
【0044】
原子移動ラジカル重合は、無溶剤でも進行させることができるが、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンジエン等のエーテル系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンジエン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤を単独または組み合わせて使用してもよい。溶剤を用いる場合、重合速度の低下を防ぐため、重合終了後の溶剤濃度が50重量%以下となる使用量とするのがよい。無溶剤または少量の溶剤量でも、重合熱の制御などに関する安全性の問題は特に無く、むしろ溶剤削減によって経済性や環境対策などの面で好適である。
【0045】
重合条件としては、重合速度や触媒の失活の点から、60〜130℃の重合温度で、最終的な分子量や重合温度にも依存するが、約1〜100時間の重合時間とすればよい。また、重合反応に際しては、酸素による重合触媒の失活を防ぐ為、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われるのが望ましい。
【0046】
本発明におけるリビング重合法では、前記水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)および前記その他のエチレン性不飽和単量体(b)から選ばれる2種類以上使用してランダム共重合やブロック共重合を行ってもよいし、重合の途中に別種のビニル系モノマーを徐々に添加してグラジエント共重合することができる。
【0047】
本発明は、水酸基含有ビニル系共重合体(c)の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]が、1.0〜2.0であることが好ましい。分子量分布が2.0を超えると、一分子あたりの酸基の量を十分に制御することができない場合がある。水酸基含有ビニル系共重合体(c)は、リビング重合法において製造される為、その分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、通常2.0以下に制御することが可能である。
【0048】
例えば、反応系の酸素濃度を、窒素などの不活性ガスを用いて可能な限り低減した状態で反応を行うことにより、原子移動ラジカル重合に用いる触媒系の失活を抑制することができ、分子量分布を1.3以下に制御することも可能である。
【0049】
さらに本発明は、水酸基含有ビニル系共重合体(c)が、ブロック共重合体であって、
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)からなるAブロックと、その他のエチレン性不飽和単量体(b)からなるBブロックとからなるABブロック共重合体、または、Bブロックと、Aブロックと、BブロックとからなるBABブロック共重合体であることを特徴としている。特に、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)からなるブロックAは、後述するように酸基が導入されるブロックとなり、これが顔料に対する吸着部位として有効に機能する。また、その他のエチレン性不飽和単量体(b)からなるブッロクBは、溶媒親和部位として機能し、使用する顔料や溶媒にあわせて組成を自由に調整することができる。ブロック共重合体は、AブロックとBブロックからなれば特に制限はないが、ABブロック共重合体またはBABブロック共重合体が好適である。また、Bブロックと組成の異なるB’ブロックを導入してなる、BAB’ブロック共重合体であってもかまわない。
【0050】
本発明は、上記リビング重合によって得られる水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、水酸基と反応しうる官能基と、酸基とを有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物中の、水酸基と反応しうる官能基、とを反応することによって得ることができる。
【0051】
水酸基と反応しうる官能基および酸基を有する化合物(d)としては、分子内にカルボキシル基を2個以上有する化合物、分子内にイソシアネート基とカルボキシル基とを併有する化合物、分子内にブロックイソシアネート基とカルボキシル基とを併有する化合物、分子内に酸クロライド基とカルボキシル基とを併有する化合物などが挙げられる。
【0052】
分子内にカルボキシル基を2個以上有する化合物としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、
イソフタル酸、5−tert−ブチル−1,3−ベンゼンジカルボン酸、テレフタル酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−2,4−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−3,4−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−3,3’−ジカルボン酸、1,2−ジフェニルエタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−2,4−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−3,4−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−3,3’−ジカルボン酸、2,2’−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン、2−(2−カルボキシフェニル)−2−(4−カルボキシフェニル)プロパン、2−(3−カルボキシフェニル)−2(4−カルボキシフェニル)プロパン、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,4−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−2,4−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,4−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,3’−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3’−ジカルボン酸、ピリジン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス〔(4−カルボキシ)フタルイミド〕−4,4’−ジフェニルエーテル、ビス〔(4−カルボキシ)フタルイミド〕−α,α’−メタキシレン、5ースルホキシイソフタル酸モノナトリウム等の芳香族ジカルボン酸類、
トリメリット酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,5,8−テトラカルボン酸及びこれらの酸無水物等の多価カルボン酸類が挙げられる。
【0053】
これら分子内に2個以上のカルボキシル基を有する化合物は、単独でも2種類以上を併用してもかまわない。
【0054】
これらは分子内のカルボキシル基の1つが、本発明の水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基1つと反応する割合で添加し、エステル化させることで本発明の、酸基を含むビニル系共重合体を得ることができる。
【0055】
分子内にイソシアネート基とカルボキシル基とを併有する化合物としては、イソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネート類に、12−ヒドロキシステアリン酸などの一分子中に1個の水酸基とカルボキシル基とを併有する化合物を反応させることで得られる化合物が挙げられる。
【0056】
分子内にブロックイソシアネート基とカルボキシル基とを併有する化合物としては、前述の分子内にイソシアネート基とカルボキシル基とを併有する化合物のイソシアネート基を、メチルエチルケトン、ピラゾールなどでブロック化した化合物が挙げられる。
【0057】
分子内に酸クロライド基とカルボキシル基とを併有する化合物について、酸クロライド基としては、カルボン酸クロライド、ホスホニルクロライド、スルホン酸クロライドなどが挙げられる。このような化合物の具体例としては、p−カルボキシ安息香酸クロライドなどが挙げられる。
【0058】
また、本発明において、これらの化合物(d)は、一種類を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0059】
カルボン酸無水物(e)としては、ジカルボン酸無水物、トリカルボン酸無水物、テトラカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0060】
ジカルボン酸無水物としては、分子内に少なくとも1つのカルボン酸無水物基を有する化合物であれば特に制限はないが、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸などが挙げられる。
【0061】
トリカルボン酸無水物としては、まず、脂肪族トリカルボン酸無水物、芳香族トリカルボン酸無水物、又は多環式トリカルボン酸無水物が挙げられる。
【0062】
脂肪族トリカルボン酸無水物としては、例えば、3−カルボキシメチルグルタル酸無水物、1,2,4−ブタントリカルボン酸−1,2−無水物、cis−プロペン−1,2,3−トリカルボン酸−1,2−無水物、1,3,4−シクロペンタントリカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0063】
芳香族トリカルボン酸としては、例えば、ベンゼントリカルボン酸無水物(1,2,3−ベンゼントリカルボン酸無水物、トリメリット酸無水物(1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物)など)、ナフタレントリカルボン酸無水物(1,2,4−ナフタレントリカルボン酸無水物、1,4,5−ナフタレントリカルボン酸無水物、2,3,6−ナフタレントリカルボン酸無水物、1,2,8−ナフタレントリカルボン酸無水物など)、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルトリカルボン酸無水物、2,3,2’−ビフェニルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルメタントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルスルホントリカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0064】
また、本発明では、後述するテトラカルボン酸無水物において、1分子あたりに酸無水物が2つ存在するテトラカルボン酸二無水物中の1個の酸無水物基を炭素原子数1〜18のアルコールあるいは炭素原子数5〜18のシクロアルコール(例えばメタノール、エタノール、直鎖状若しくは分岐状のプロパノール、直鎖状若しくは分岐状のブタノール、直鎖状若しくは分岐状のペンタノール若しくはシクロペンタノール、直鎖状若しくは分岐状のヘキサノール若しくはシクロヘキサノール、直鎖状若しくは分岐状のヘプタノール若しくはシクロヘプタノール、直鎖状若しくは分岐状のオクタノール若しくはシクロオクタノール、直鎖状若しくは分岐状のノナノール若しくはシクロノナノール、直鎖状若しくは分岐状のデカノール若しくはシクロデカノール、直鎖状若しくは分岐状のドデカノール若しくはシクロドデカノール、直鎖状若しくは分岐状のミリスチルアルコール若しくはシクロミリスチルアルコール、直鎖状若しくは分岐状のセチルアルコール若しくはシクロセチルアルコール、直鎖状若しくは分岐状のステアリルアルコール若しくはシクロステアリルアルコールなどが挙げられる)で開環したテトラカルボン酸無水物モノエステルモノ無水物も、本発明において、トリカルボン酸無水物として用いることができる。脂肪族テトラカルボン酸モノエステルモノ無水物は、脂肪族トリカルボン酸無水物、芳香族テトラカルボン酸モノエステルモノ無水物は、芳香族トリカルボン酸無水物、多環式テトラカルボン酸無水物モノエステルモノ無水物は、多環式トリカルボン酸無水物として使用することができる。これらテトラカルボン酸無水物モノエステルモノ無水物の具体例は、以下に例示するテトラカルボン酸無水物から得られることは当業者には自明である。
【0065】
テトラカルボン酸無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸無水物、芳香族テトラカルボン酸無水物、又は多環式テトラカルボン酸無水物が挙げられる。
【0066】
脂肪族テトラカルボン酸無水物としては、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物などを挙げることができる。
【0067】
芳香族テトラカルボン酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸無水物、エチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、プロピレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、ブチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン酸無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン酸無水物などを挙げることができる。
【0068】
多環式テトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メチル−1−ナフタレンコハク酸無水物などを挙げることができる。
【0069】
なおテトラカルボン酸無水物は、一無水物でも二無水物でもどちらでもよい。
【0070】
本発明の場合、後述するようにカルボン酸無水物類を用いることが好ましいが、その場合、上記のうち、芳香族トリカルボン酸無水物、又は芳香族テトラカルボン酸無水物を用いるのが好ましく、更に好ましくはトリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、2,3,6−ナフタレントリカルボン酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸無水物が好ましい。
【0071】
次に、ポリリン酸類(f)としては、リン酸が脱水縮合した五酸化二リン、トリポリリン酸などが挙げられる。
【0072】
さらに、スルトン類(g)としては、1,4−ブタンスルトン、1,3−プロパンスルトンなどの環状スルトンが挙げられる。
【0073】
前述した水酸基と反応しうる官能基および酸基を有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸類(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物を用いて、水酸基含有ビニル共重合体(c)中の水酸基を変性することで、本発明におけるビニル系共重合体中の酸基として、カルボキシル基、リン酸基、およびスルホン酸基より選択される少なくとも1種の官能基を導入することができる。
【0074】
上記化合物の中でもカルボン酸無水物(e)を用いることがより好ましい。その理由としては、ポリリン酸類(f)の場合、水酸基と反応させる際にオルソリン酸(遊離のリン酸)が同時に生成する場合があり、このオルソリン酸が系内に残存することによって、系のアルカリ耐性、耐水性などが劣化する場合がある。また、スルトン類(g)の場合、水酸基との反応に過酷な条件が必要となる場合があり、また、酸基として生成するスルホン酸基は、顔料吸着基として非常に有効なものの、前述のオルトリン酸のように、系のアルカリ耐性、耐水性などが劣化する場合がある。
【0075】
以上の理由から、反応性に富み、本発明の所望の用途に対して比較的副作用の少ない化合物である、カルボン酸無水物(e)を用いることが好ましい。
【0076】
本発明のビニル系共重合体は、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)と、その他のエチレン性不飽和単量体(b)とをリビング重合して水酸基含有ビニル系共重合体(c)を得る第一の工程、および、前記水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、水酸基と反応しうる官能基および酸基を有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸類(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物中の、水酸基と反応しうる官能基、とを反応させる第二の工程を含む製造方法で得ることができる。
【0077】
さらに、リビング重合により水酸基含有ビニル系共重合体(c)を得る第一の工程が、原子移動ラジカル重合であることが好ましい。
【0078】
さらに、水酸基含有ビニル共重合体(c)を得る第一の工程が、その他のエチレン性不飽和単量体(b)を重合した後、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)を重合する工程、または、前記工程の後さらに、その他のエチレン性不飽和単量体(b)を重合する工程を含む製造方法でブロック共重合体を得る製造方法であることが好ましい。
【0079】
水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、水酸基と反応しうる官能基とを反応させる方法としては、たとえばカルボン酸無水物(e)を用いる場合、水酸基とカルボン酸無水物基とを反応させる既知の条件を用いればよい。
【0080】
具体的には、水酸基含有ビニル系共重合体(c)と、カルボン酸無水物(e)とを混合し、窒素雰囲気下、70℃〜150℃の条件で加熱させる方法が挙げられるが、この際、水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基1モルに対して、カルボン酸無水物(e)を、0.1〜1.0モルの範囲で反応させることが好ましい。0.1モル未満の場合、顔料吸着部位が不足することで所望の顔料分散性が得られない場合があり、また、1.0モルより多い場合は、化合物(e)が遊離の状態で系内に残存し、系のアルカリ耐性、耐水性などを劣化させる場合がある。
【0081】
また、この反応では、必要に応じて触媒を用いることができる。具体的には、3級アミン系化合物が好ましく、例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]−5−ノネン等が挙げられる。
【0082】
本発明において、酸基を含むビニル系共重合体中の酸基としては、カルボキシル基、リン酸基、およびスルホン酸基より選ばれるものであれば特に制限はないが、上述したとおり、リン酸基、スルホン酸基の場合は系のアルカリ耐性、耐水性などを劣化させる場合がある。本発明では、これらの物性を把握した上で、目的とする顔料分散性との兼ね合いを考慮して適宜使用すればよい。例えば、顔料吸着基として優れるスルホン酸基を、系のアルカリ耐性に影響を及ぼさない最小限の量だけ導入することで分散性を確保し、系の安定性は、カルボキシル基を導入することで補うという方法である。このように、本発明において、ビニル系共重合体中の酸基は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基をそれぞれ単独で使用してもよいし、目的とする物性に合わせて適宜組み合わせて使用しても良い。
【0083】
次に、本発明の酸基を含むビニル系共重合体と、顔料を用いることで得られる、本発明の顔料組成物について説明する。本発明の顔料組成物は、本発明の酸基を含むビニル系共重合体を使用することにより、分散性、流動性、及び保存安定性に優れた顔料組成物となる。
【0084】
本発明に使用する顔料は、インキ等に使用される種々の顔料が使用できる。このような顔料としては溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ジアンスラキノニル顔料、アンスラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ピランスロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等があり、更に具体的な例をカラーインデックスのジェネリックネームで示すと、ピグメントブラック7、ピグメントブルー6,15,15:1,15:3,15:4,15:6,60、ピグメントグリーン7,36、ピグメントレッド9,48,49,52,53,57,97,122,144,146,149,166,168,177,178,179,185,206,207,209,220,221,238,242,254,255、ピグメントバイオレット19,23,29,30,37,40,50、ピグメントイエロー12,13,14,17,20,24,74,83,86,93,94,95,109,110,117,120,125,128,137,138,139,147,148,150,151,154,155,166,168,180,185,ピグメントオレンジ13,36,37、38,43,51,55,59,61,64,71,74等が挙げられる。但し、例示には限定されない。
【0085】
また、二酸化チタン、酸化鉄、五酸化アンチモン、酸化亜鉛、シリカなどの金属酸化物、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、カーボンブラックなどの無機顔料も使用することができる。カーボンブラックについては中性、酸性、塩基性等のあらゆるカーボンブラックを使用することができる。
【0086】
本発明のビニル系分散剤は上記顔料に限らず、例えば、金、銀、銅、白金、鉄、コバルト、ニッケル、及び/又はこれらの合金などの金属微粒子を含む固体微粒子の分散に使用することができる。
【0087】
本発明の顔料組成物には、更に塩基性基を有する顔料誘導体、塩基性基を有するアントラキノン誘導体、塩基性基を有するアクリドン誘導体及び塩基性基を有するトリアジン誘導体の群から選ばれる少なくとも一種の塩基性誘導体を含むことが好ましい。
【0088】
ここで、顔料誘導体とは、前記のカラーインデックスに記載されている有機顔料残基に、特定の置換基を導入したものであり、本発明では塩基性基を有するものを使用する。
【0089】
塩基性誘導体を含むことにより、塩基性誘導体なしでは分散の難しい顔料(特に、有機顔料の場合)も、分散性、流動性、保存安定性に優れた顔料組成物とすることができ好ましい。本発明のビニル系共重合体と塩基性誘導体との相乗効果で、顔料を効果的に分散性、流動性、保存安定性に優れた顔料組成物とすることができる。
【0090】
本発明の顔料組成物において用いることのできる塩基性誘導体は、塩基性基を有する顔料誘導体、塩基性基を有するアントラキノン誘導体、塩基性基を有するアクリドン誘導体及び塩基性基を有するトリアジン誘導体の群から選ばれるものである。
【0091】
本発明の顔料組成物において用いることのできる塩基性誘導体の塩基性基は、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で示される基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基である。
【0092】
一般式(1)
【0093】
【化1】

【0094】
一般式(2)
【0095】
【化2】

【0096】
一般式(3)
【0097】
【化3】

【0098】
一般式(4)
【0099】
【化4】

【0100】
前記一般式(1)〜(4)において、
X:−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2−又は直接結合を表す。
v:1〜10の整数を表す。
1、R2:それぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいフェニル基、又はR1、R2とで一体となって更なる窒素、酸素又は硫黄原子を含む置換されていてもよい複素環残基を表す。
3:置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基又は置換されていてもよいフェニル基を表す。
4、R5、R6、R7:それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基又は置換されていてもよいフェニル基を表す。
Y:−NR8−Z−NR9−又は直接結合を表す。
8、R9:それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基又は置換されていてもよいフェニル基を表す。
Z:置換されていてもよいアルキレン基、置換されていてもよいアルケニレン基、又は置換されていてもよいフェニレン基を表す。
P:一般式(5)で示される置換基又は一般式(6)で示される置換基を表す。
Q:水酸基、アルコキシル基、一般式(5)で示される置換基又は一般式(6)で示される置換基を表す。
【0101】
一般式(5)
【0102】
【化5】

【0103】
一般式(6)
【0104】
【化6】

【0105】
式(1)〜式(4)で示される置換基を形成するために使用されるアミン成分としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、N,N−エチルイソプロピルアミン、N,N−エチルプロピルアミン、N,N−メチルブチルアミン、N,N−メチルイソブチルアミン、N,N−ブチルエチルアミン、N,N−tert−ブチルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジプロピルアミン、N,N−sec−ブチルプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、N,N−イソブチル−sec−ブチルアミン、ジアミルアミン、ジイソアミルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ(2−エチルへキシル)アミン、ジオクチルアミン、N,N−メチルオクタデシルアミン、ジデシルアミン、ジアリルアミン、N,N−エチル−1,2−ジメチルプロピルアミン、N,N−メチルヘキシルアミン、ジオレイルアミン、ジステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノアミルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノヘキシルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノペンチルアミン、N,N−ジプロピルアミノブチルアミン、N,N−ジブチルアミノプロピルアミン、N,N−ジブチルアミノエチルアミン、N,N−ジブチルアミノブチルアミン、N,N−ジイソブチルアミノペンチルアミン、N,N−メチルーラウリルアミノプロピルアミン、N,N−エチルーヘキシルアミノエチルアミン、N,N−ジステアリルアミノエチルアミン、N,N−ジオレイルアミノエチルアミン、N,N−ジステアリルアミノブチルアミン、ピペリジン、2−ピペコリン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、2,4−ルペチジン、2,6−ルペチジン、3,5−ルペチジン、3−ピペリジンメタノール、ピペコリン酸、イソニペコチン酸、イソニコペチン酸メチル、イソニコペチン酸エチル、2−ピペリジンエタノール、ピロリジン、3−ヒドロキシピロリジン、N−アミノエチルピペリジン、N−アミノエチル−4−ピペコリン、N−アミノエチルモルホリン、N−アミノプロピルピペリジン、N−アミノプロピル−2−ピペコリン、N−アミノプロピル−4−ピペコリン、N−アミノプロピルモルホリン、N−メチルピペラジン、N−ブチルピペラジン、N−メチルホモピペラジン、1−シクロペンチルピペラジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、1−シクロペンチルピペラジン等が挙げられる。
【0106】
塩基性基を有する顔料誘導体を構成する有機色素は、例えば、ジケトピロロピロール系色素、アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系色素、フタロシアニン系色素、ジアミノジアントラキノン、アントラピリミジン、フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、チオインジゴ系色素、イソインドリン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、スレン系色素、金属錯体系色素等の色素である。また、塩基性基を有するアントラキノン誘導体及び塩基性基を有するアクリドン誘導体は、メチル基、エチル基等のアルキル基、アミノ基、ニトロ基、水酸基又はメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基又は塩素等のハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0107】
また、塩基性基を有するトリアジン誘導体を構成するトリアジンは、アルキル基(メチル基、エチル基、ブチル基等)、アミノ基、アルキルアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基等)、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等)、ハロゲン(塩素、臭素等)、フェニル基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい)、及びフェニルアミノ基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい)等の置換基を有していてもよい1,3,5−トリアジンである。
【0108】
前記塩基性基を有する顔料誘導体、アントラキノン誘導体及びアクリドン誘導体は、種々の合成経路で合成することができる。例えば、有機色素、アントラキノン若しくはアクリドンに式(7)〜式(10)で示される置換基を導入した後、上記置換基と反応して式(1)〜式(4)で示される置換基を形成するアミン成分、例えば、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N−メチルピペラジン、ジエチルアミン又は4−[4−ヒドロキシ−6−[3−(ジブチルアミノ)プロピルアミノ]−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ]アニリン等を反応させることによって得られる。
式(7):−SO2Cl
式(8):−COCl
式(9):−CH2NHCOCH2Cl
式(10):−CH2Cl
一般式(7)〜(10)で示される置換基と上記アミン成分との反応の際に、一般式(7)〜(10)で示される置換基の一部が加水分解して、塩素原子が水酸基に置換したものが混在していてもよい。その場合、一般式(7)又は一般式(8)で示される置換基は、それぞれスルホン酸基又はカルボキシル基となるが、何れも遊離酸のままでもよく、また、1〜3価の金属又は上記のモノアミンとの塩であってもよい。
【0109】
また、有機色素がアゾ系色素である場合は、前記一般式(1)〜式(4)で示される置換基を予めジアゾ成分又はカップリング成分に導入し、その後カップリング反応を行うことによってアゾ系顔料誘導体を製造することもできる。
【0110】
前記塩基性基を有するトリアジン誘導体は、種々の合成経路で合成することができる。例えば、塩化シアヌルを出発原料とし、塩化シアヌルの少なくとも1つの塩素に式(1)〜式(4)で示される置換基を形成するアミン成分、例えば、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン又はN−メチルピペラジン等を反応させ、次いで塩化シアヌルの残りの塩素と種々のアミン又はアルコール等を反応させることによって得られる。
【0111】
本発明の顔料組成物において、塩基性誘導体の配合量は、顔料100重量部に対し好ましくは1〜50重量部、更に好ましくは3〜30重量部、最も好ましくは5〜25重量部である。顔料100重量部に対し塩基性誘導体が1重量部未満であると分散性が悪くなる場合があり、50重量部を超えると耐熱性、耐光性が悪くなる場合がある。また、本発明のビニル系共重合体の配合量は、顔料100重量部に対し好ましくは0.1〜100重量部、更に好ましくは0.5〜75重量部、最も好ましくは1.0〜50重量部である。顔料100重量部に対しビニル系共重合体が0.1重量部未満であると分散性が悪くなる場合があり、100重量部を超えるとこれも分散性が悪くなる場合がある。
【0112】
本発明の顔料組成物は、必要により各種溶剤、樹脂、添加剤等を混合して、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター等で分散することにより、顔料組成物をワニスに分散せしめてなる顔料分散体を調製することができる。顔料、塩基性誘導体、本発明のビニル系共重合体、その他の樹脂、添加剤は、すべての成分を混合してから分散してもよいが、初めに顔料と塩基性誘導体(とのみ、あるいは、塩基性誘導体と本発明のビニル系共重合体とのみ、あるいは、顔料と塩基性誘導体と本発明のビニル系共重合体とのみを分散し、次いで、他の成分を添加して再度分散を行ってもよい。
【0113】
また、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター等で分散を行う前に、ニーダー、3本ロールミル等の練肉混合機を使用した前分散、2本ロールミル等による固形分散、又は顔料への塩基性誘導体及び/又は本発明のビニル系共重合体の処理を行ってもよい。また、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ロールミル、石臼式ミル、超音波分散機等のあらゆる分散機や混合機が、顔料分散体を製造するために利用できる。前記の顔料分散体に用いることができる各種溶剤としては、有機溶剤、水等が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化型組成物に用いる場合、活性エネルギー線硬化性の液状モノマーや液状オリゴマーを溶剤代わりの媒体として用いてもよい。
【0114】
また、前記の顔料分散体に用いることができる樹脂の例としては、石油樹脂、カゼイン、セラック、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、環化ゴム、塩化ゴム、酸化ゴム、塩酸ゴム、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、乾性油、合成乾性油、スチレン変性マレイン酸、ポリアミド樹脂、塩素化ポリプロピレン、ブチラール樹脂、塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。
【0115】
前記の顔料分散体は、非水系、水系、又は無溶剤系の塗料、グラビアインキ、オフセットインキ、インキジェットインキ、カラーフィルタ用インキ、デジタルペーパー用インキ、プラスチック着色剤等に利用できる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。また、数平均分子量は、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)で、展開溶媒にTHFを用いたときのポリスチレン換算分子量である。また、FT−IRはNicolet社製「AVATAR 360E.S.P」を用い、KBrディスクに樹脂溶液を均一に塗付して溶剤を充分乾燥させた後、測定を行った。
【0117】
(合成例1)AB型ブロックポリマー[D1]の合成
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置にノルマルブチルメタクリレート108.0部、ベンジルメタクリレート133.8部、メチルエチルケトン175.0部、テトラメチルエチレンジアミン13.2部を仕込み、窒素を流しながら50℃で1時間攪拌し、系内を窒素置換した。次にブロモイソ酪酸エチル9.3部、塩化第一銅5.6部、メチルエチルケトン25.0部を投入し、窒素気流下で75℃まで昇温して第一ブロック(Bブロック)の重合を開始した。4時間重合後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン50部、第二ブロック(Aブロック)モノマーとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート8.2部を投入し、75℃・窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、反応を継続した。2−ヒドロキシエチルメタクリレート投入から2時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第二ブロック(Aブロック)の重合転化率が98%以上であることを確認し、反応溶液を室温まで冷却して重合を停止した。
GPC測定の結果、ポリマーのMwは9200、Mw/Mn=1.24であり、重合後の溶液の不揮発分は51.87%、反応の転化率は98.50%であった。
この重合処方では、第二ブロック(Aブロック)として2−ヒドロキシエチルメタクリレートが重合末端に高濃度で重合されるため、得られたポリマーは、ポリマー鎖の末端付近に、ポリマー1分子に対して2−ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基が平均1.33個の割合で導入されている。
このようにして得られた樹脂を、ABブロックポリマー[D1]とする。
【0118】
(合成例2)BAB型トリブロックポリマー[T1]の合成
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置にノルマルブチルメタクリレート54.0部、ベンジルメタクリレート66.9部、メチルエチルケトン175.0部、テトラメチルエチレンジアミン13.2部を仕込み、窒素を流しながら50℃で1時間攪拌し、系内を窒素置換した。次にブロモイソ酪酸エチル9.3部、塩化第一銅5.6部、メチルエチルケトン25.0部を投入し、窒素気流下で75℃まで昇温して第一ブロック(Bブロック)の重合を開始した。3時間重合後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン25部、第二ブロック(Aブロック)モノマーとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート8.2部を投入し、75℃・窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、重合を継続した。2−ヒドロキシエチルメタクリレート投入から2時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第二ブロックの重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン25部、第三ブロック(Bブロック)モノマーとしてノルマルブチルメタクリレート54.0部、ベンジルメタクリレート66.9部を投入し、80℃に昇温して窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、重合を継続した。第三ブロック(Bブロック)モノマー投入から4時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第三ブロックの重合転化率が98%以上であることを確認し、反応溶液を室温まで冷却して重合を停止した。
GPC測定の結果、ポリマーのMwは8840、Mw/Mn=1.38であり、重合後の溶液の不揮発分は52.24%、反応の転化率は99.20%であった。
この重合処方では、第二ブロック(Aブロック)として2−ヒドロキシエチルメタクリレートが重合中期に高濃度で重合されるため、得られたポリマーは、ポリマー鎖の中心付近に、ポリマー1分子に対して2−ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基が平均1.33個の割合で導入されている。
このようにして得られた樹脂を、BABトリブロックポリマー[T1]とする。
【0119】
(実施例1)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例1で得られたABブロックポリマー[D1]の溶液を200.0部(樹脂固形分として103.7部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌してABブロックポリマー[D1]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水トリメリット酸5.0部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水トリメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9900、Mw/Mn=1.33であり、溶液の不揮発分は50.12%、樹脂酸価は27であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の末端付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水トリメリット酸の無水環の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の末端付近にトリメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均1.33個(カルボキシル基換算で2.66個)の割合で導入されている。
【0120】
(実施例2)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例1で得られたABブロックポリマー[D1]の溶液を200.0部(樹脂固形分とし103.7部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート106.6部を投入し、50℃で攪拌してABブロックポリマー[D1]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水ピロメリット酸2.9部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水ピロメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは13200、Mw/Mn=1.89であり、溶液の不揮発分は50.06%、樹脂酸価は19であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の末端付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水ピロメリット酸の無水環の1モルが反応することで、ABブロックポリマー[D1]がピロメリット酸ユニットを介して二両化する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にピロメリット酸ユニットが平均1.33個(カルボキシル基換算で2.66個)の割合で導入されている。
【0121】
(実施例3)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例1で得られたABブロックポリマー[D1]の溶液を200.0部(樹脂固形分とし103.7部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌してABブロックポリマー[D1]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置にベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物4.2部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは14690、Mw/Mn=2.16であり、溶液の不揮発分は50.23%、樹脂酸価は17であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の末端付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物の無水環の1モルが反応することで、ABブロックポリマー[D1]がベンゾフェノンテトラカルボン酸ユニットを介して二両化する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にベンゾフェノンテトラカルボン酸ユニットが平均1.33個(カルボキシル基換算で2.66個)の割合で導入されている。
【0122】
(実施例4)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例1で得られたABブロックポリマー[D1]の溶液を200.0部(樹脂固形分として103.7部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にポリリン酸2.2部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。ポリリン酸投入から6時間後、室温に冷却して反応を停止させた。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌して樹脂を完全に溶解させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9620、Mw/Mn=1.28であり、溶液の不揮発分は50.03%、樹脂酸価は35であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の末端付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、ポリリン酸の無水基の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の末端付近にリン酸基が、ポリマー1分子につき平均1.33個の割合で導入されている。
【0123】
(実施例5)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例1で得られたABブロックポリマー[D1]の溶液を200.0部(樹脂固形分として103.7部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置に1,4−ブタンスルトン3.6部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。1,4−ブタンスルトン投入から4時間後、室温に冷却して反応を停止させた。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート107.0部を投入し、50℃で攪拌して樹脂を完全に溶解させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9460、Mw/Mn=1.29であり、溶液の不揮発分は49.99%、樹脂酸価は25であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の末端付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、1,4−ブタンスルトンの1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の末端付近にスルホン酸基が、ポリマー1分子につき平均1.33個の割合で導入されている。
【0124】
(実施例6)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例2で得られたBABトリブロックポリマー[T1]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.5部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート109.6部を投入し、50℃で攪拌してBABトリブロックポリマー[T1]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水トリメリット酸5.1部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水トリメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9030、Mw/Mn=1.40であり、溶液の不揮発分は50.23%、樹脂酸価は28であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の中心付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水トリメリット酸の無水環の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にトリメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均1.33個(カルボキシル基換算で2.66個)の割合で導入されている。
【0125】
(実施例7)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例2で得られたBABトリブロックポリマー[T1]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.5部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート107.4部を投入し、50℃で攪拌してBABトリブロックポリマー[T1]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水ピロメリット酸2.9部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水ピロメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは14600、Mw/Mn=2.14であり、溶液の不揮発分は50.10%、樹脂酸価は17であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の中心付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水ピロメリット酸の無水環の1モルが反応することで、BABトリブロックポリマー[T1]がピロメリット酸ユニットを介して二両化する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にピロメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均1.33個(カルボキシル基換算で2.66個)の割合で導入されている。
【0126】
(実施例8)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例2で得られたBABトリブロックポリマー[T1]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.5部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.7部を投入し、50℃で攪拌してBABトリブロックポリマー[T1]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置にベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物4.3部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは17133、Mw/Mn=2.47であり、溶液の不揮発分は50.11%、樹脂酸価は16であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の中心付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、ベンゾフェノンテトラカルボン酸の無水環の1モルが反応することで、BABトリブロックポリマー[T1]がベンゾフェノンテトラカルボン酸ユニットを介して二両化する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にベンゾフェノンテトラカルボン酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均1.33個(カルボキシル基換算で2.66個)の割合で導入されている。
【0127】
(実施例9)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例2で得られたBABトリブロックポリマー[T1]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.5部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にポリリン酸2.2部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。ポリリン酸投入から6時間後、室温に冷却して反応を停止させた。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌して樹脂を完全に溶解させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9330、Mw/Mn=1.42であり、溶液の不揮発分は50.07%、樹脂酸価は33であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の中心付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、ポリリン酸の無水基の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にリン酸基が、ポリマー1分子につき平均1.33個の割合で導入されている。
【0128】
(実施例10)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例2で得られたBABトリブロックポリマー[T1]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.5部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置に1,4−ブタンスルトン3.6部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。1,4−ブタンスルトン投入から4時間後、室温に冷却して反応を停止させた。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌して樹脂を完全に溶解させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9490、Mw/Mn=1.38であり、溶液の不揮発分は50.03%、樹脂酸価は22であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の中心付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、1,4−ブタンスルトンの1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にスルホン酸基が、ポリマー1分子につき平均1.33個の割合で導入されている。
【0129】
以下に、実施例1〜実施例10までをまとめて表1に示す。
【0130】
【表1】

TMA・・・無水トリメリット酸
PMDA・・・無水ピロメリット酸
BTDA・・・ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物
【0131】
(合成例3)AB型ブロックポリマー[D2]の合成
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置にノルマルブチルメタクリレート111.5部、ベンジルメタクリレート138.1部、メチルエチルケトン175.0部、テトラメチルエチレンジアミン13.4部を仕込み、窒素を流しながら50℃で1時間攪拌し、系内を窒素置換した。次にブロモイソ酪酸エチル9.2部、塩化第一銅5.6部、メチルエチルケトン25.0部を投入し、窒素気流下で75℃まで昇温して第一ブロック(Bブロック)の重合を開始した。4時間重合後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン50部、第二ブロック(Aブロック)モノマーとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.4部を投入し、75℃・窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、反応を継続した。2−ヒドロキシエチルメタクリレート投入から2時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第二ブロック(Aブロック)の重合転化率が98%以上であることを確認し、反応溶液を室温まで冷却して重合を停止した。
GPC測定の結果、ポリマーのMwは9500、Mw/Mn=1.22であり、重合後の溶液の不揮発分は52.01%、反応の転化率は98.80%であった。
この重合処方では、第二ブロック(Aブロック)として2−ヒドロキシエチルメタクリレートが重合末端に高濃度で重合されるため、得られたポリマーは、ポリマー鎖の末端付近に、ポリマー1分子に対して2−ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基が平均0.07個の割合で導入されている。
このようにして得られた樹脂を、ABブロックポリマー[D2]とする。
【0132】
(合成例4)AB型ブロックポリマー[D3]の合成
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置にノルマルブチルメタクリレート98.5部、ベンジルメタクリレート122.1部、メチルエチルケトン175.0部、テトラメチルエチレンジアミン13.5部を仕込み、窒素を流しながら50℃で1時間攪拌し、系内を窒素置換した。次にブロモイソ酪酸エチル9.4部、塩化第一銅5.7部、メチルエチルケトン25.0部を投入し、窒素気流下で75℃まで昇温して第一ブロック(Bブロック)の重合を開始した。4時間重合後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン50部、第二ブロック(Aブロック)モノマーとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート29.4部を投入し、75℃・窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、反応を継続した。2−ヒドロキシエチルメタクリレート投入から2時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第二ブロック(Bブロック)の重合転化率が98%以上であることを確認し、反応溶液を室温まで冷却して重合を停止した。
GPC測定の結果、ポリマーのMwは9400、Mw/Mn=1.25であり、重合後の溶液の不揮発分は52.20%、反応の転化率は99.00%であった。
この重合処方では、第二ブロック(Aブロック)として2−ヒドロキシエチルメタクリレートが重合末端に高濃度で重合されるため、得られたポリマーは、ポリマー鎖の末端付近に、ポリマー1分子に対して2−ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基が平均4.67個の割合で導入されている。
このようにして得られた樹脂を、ABブロックポリマー[D3]とする。
【0133】
(合成例5)BAB型トリブロックポリマー[T2]の合成
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置にノルマルブチルメタクリレート55.7部、ベンジルメタクリレート69.1部、メチルエチルケトン175.0部、テトラメチルエチレンジアミン13.1部を仕込み、窒素を流しながら50℃で1時間攪拌し、系内を窒素置換した。次にブロモイソ酪酸エチル9.2部、塩化第一銅5.6部、メチルエチルケトン25.0部を投入し、窒素気流下で75℃まで昇温して第一ブロック(Bブロック)の重合を開始した。3時間重合後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン25部、第二ブロック(Aブロック)モノマーとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.4部を投入し、75℃・窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、重合を継続した。2−ヒドロキシエチルメタクリレート投入から2時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第二ブロックの重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン25部、第三ブロック(Bブロック)モノマーとしてノルマルブチルメタクリレート55.7部、ベンジルメタクリレート69.1部を投入し、80℃に昇温して窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、重合を継続した。第三ブロック(Bブロック)モノマー投入から4時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第三ブロックの重合転化率が98%以上であることを確認し、反応溶液を室温まで冷却して重合を停止した。
GPC測定の結果、ポリマーのMwは8910、Mw/Mn=1.36であり、重合後の溶液の不揮発分は52.23%、反応の転化率は99.20%であった。
この重合処方では、第二ブロック(Aブロック)として2−ヒドロキシエチルメタクリレートが重合中期に高濃度で重合されるため、得られたポリマーは、ポリマー鎖の中心付近に、ポリマー1分子に対して2−ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基が平均0.07個の割合で導入されている。
このようにして得られた樹脂を、BABトリブロックポリマー[T2]とする。
【0134】
(合成例6)BAB型トリブロックポリマー[T3]の合成
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置にノルマルブチルメタクリレート49.3部、ベンジルメタクリレート61.1部、メチルエチルケトン175.0部、テトラメチルエチレンジアミン13.5部を仕込み、窒素を流しながら50℃で1時間攪拌し、系内を窒素置換した。次にブロモイソ酪酸エチル9.4部、塩化第一銅5.7部、メチルエチルケトン25.0部を投入し、窒素気流下で75℃まで昇温して第一ブロック(Bブロック)の重合を開始した。3時間重合後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン25部、第二ブロック(Aブロック)モノマーとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート29.4部を投入し、75℃・窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、重合を継続した。2−ヒドロキシエチルメタクリレート投入から2時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第二ブロックの重合転化率が98%以上であることを確認した。
次に、この反応装置にメチルエチルケトン25部、第三ブロック(Bブロック)モノマーとしてノルマルブチルメタクリレート49.3部、ベンジルメタクリレート61.1部を投入し、80℃に昇温して窒素雰囲気を保持したまま攪拌し、重合を継続した。第三ブロック(Bブロック)モノマー投入から4時間後、重合溶液をサンプリングして固形分測定を行い、不揮発分から換算して第三ブロックの重合転化率が98%以上であることを確認し、反応溶液を室温まで冷却して重合を停止した。
GPC測定の結果、ポリマーのMwは8850、Mw/Mn=1.32であり、重合後の溶液の不揮発分は51.97%、反応の転化率は98.60%であった。
この重合処方では、第二ブロック(Aブロック)として2−ヒドロキシエチルメタクリレートが重合中期に高濃度で重合されるため、得られたポリマーは、ポリマー鎖の中心付近に、ポリマー1分子に対して2−ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基が平均4.67個の割合で導入されている。
このようにして得られた樹脂を、BABトリブロックポリマー[T3]とする。
【0135】
(比較例1)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例3で得られたABブロックポリマー[D2]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.2部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌してABブロックポリマー[D2]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水トリメリット酸0.3部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水トリメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9600、Mw/Mn=1.22であり、溶液の不揮発分は50.07%、樹脂酸価は8であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の末端付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水トリメリット酸の無水環の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の末端付近にトリメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均0.07個(カルボキシル基換算で0.14個)の割合で導入されている。
【0136】
(比較例2)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例3で得られたABブロックポリマー[D3]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.2部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート122.0部を投入し、50℃で攪拌してABブロックポリマー[D3]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水トリメリット酸18.1部およびジメチルベンジルアミン0.6部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水トリメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9700、Mw/Mn=1.32であり、溶液の不揮発分は50.14%、樹脂酸価は90であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の末端付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水トリメリット酸の無水環の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の末端付近にトリメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均4.67個(カルボキシル基換算で9.34個)の割合で導入されている。
【0137】
(比較例3)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例5で得られたBABトリブロックポリマー[T2]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.5部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌してBABトリブロックポリマー[T2]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水トリメリット酸0.3部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水トリメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9000、Mw/Mn=1.37であり、溶液の不揮発分は50.10%、樹脂酸価は8であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の中心付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水トリメリット酸の無水環の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にトリメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均0.07個(カルボキシル基換算で0.14個)の割合で導入されている。
【0138】
(比較例4)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例6で得られたABAトリブロックポリマー[T3]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.2部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート122.0部を投入し、50℃で攪拌してBABトリブロックポリマー[T3]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水トリメリット酸18.1部およびジメチルベンジルアミン0.6部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水トリメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9100、Mw/Mn=1.36であり、溶液の不揮発分は50.18%、樹脂酸価は87であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の中心付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水トリメリット酸の無水環の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にトリメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均4.67個(カルボキシル基換算で9.34個)の割合で導入されている。
【0139】
(比較例5)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例3で得られたABブロックポリマー[D2]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.2部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌してABブロックポリマー[D2]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水ピロメリット酸0.2部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水ピロメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは10000、Mw/Mn=1.38であり、溶液の不揮発分は50.02%、樹脂酸価は3であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の末端付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水ピロメリット酸の無水環の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にピロメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均0.07個(カルボキシル基換算で0.14個)の割合で導入されている。
【0140】
(比較例6)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例3で得られたABブロックポリマー[D3]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.2部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート122.0部を投入し、50℃で攪拌してABブロックポリマー[D3]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水ピロメリット酸9.0部およびジメチルベンジルアミン0.6部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水ピロメリット酸投入から2時間後、反応溶液が急激に増粘し、系全体がゲル化した。
これは、1分子あたりの水酸基量が多いABブロックポリマーに対して、1分子中に2個以上の酸無水物基を有する化合物を反応させたために、分子間架橋が促進されることでゲル化したと考えられる。
【0141】
(比較例7)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例5で得られたBABトリブロックポリマー[T2]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.5部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート108.0部を投入し、50℃で攪拌してBABトリブロックポリマー[T2]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水ピロメリット酸0.2部およびジメチルベンジルアミン0.5部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水トリメリット酸投入から4時間後、反応溶液をFT−IRで観察し、1785cm-1付近および1860cm-1付近の酸無水物由来の吸収ピークが消失しているのを確認し、室温に冷却して反応を停止させた。
GPC測定の結果、得られたポリマーのMwは9400、Mw/Mn=1.42であり、溶液の不揮発分は50.03%、樹脂酸価は5であった。
この合成処方では、ポリマー鎖の中心付近にAブロックとして重合されている2-ヒドロキシエチルメタクリレート由来の水酸基の1モルに対して、無水ピロメリット酸の無水環の1モルが反応する。したがって、この処方で得られるポリマーは、ポリマー鎖の中心付近にトリメリット酸ユニットが、ポリマー1分子につき平均0.07個(カルボキシル基換算で0.14個)の割合で導入されている。
【0142】
(比較例8)
ガス導入管、コンデンサー、攪拌翼、及び温度計を備え付けた反応装置に、合成例6で得られたBABトリブロックポリマー[T3]の溶液を200.0部(樹脂固形分として104.2部)投入し、窒素を激しく吹き込みながら80℃で攪拌し、溶媒であるメチルエチルケトンを脱溶剤した。
次に、この反応装置にメトキシプロピルアセテート122.0部を投入し、50℃で攪拌してBABトリブロックポリマー[T3]を完全に溶解させた。
次に、この反応装置に無水ピロメリット酸9.0部およびジメチルベンジルアミン0.6部を投入して120℃に昇温し、窒素雰囲気下、攪拌しながら反応させた。
無水トリメリット酸投入から3時間後、反応溶液が急激に増粘し、系全体がゲル化した。
これは、比較例6同様に、1分子あたりの水酸基量が多いBABブロックポリマーに対して、1分子中に2個以上の酸無水物基を有する化合物を反応させたために、分子間架橋が促進されることでゲル化したと考えられる。
【0143】
以下に、比較例1〜比較例8までをまとめて表2に示す。
【0144】
【表2】

TMA・・・無水トリメリット酸
PMDA・・・無水ピロメリット酸
【0145】
<物性評価>
(分散液の調整)
実施例1〜10、比較例1〜5および7で得られたビニル系共重合体、および比較例9として市販分散剤「BYK111」(ポリエステル末端にリン酸基が導入された分散樹脂)と、顔料としてフタロシアニンブルー(Pigment Blue 15:3)と、塩基性誘導体として次の構造式で表される化合物(Y1)と、溶剤としてメトキシプロピルアセテートと、ジルコニアビーズ(φ1.25mm)とを表3および表4に示す重量(g)比(全て固形分基準)で140mLのガラス瓶に仕込み、スキャンデックスに設置して2時間分散した。
分散終了後の分散液からガラスビーズを濾別し、顔料分散液を回収した。
【0146】
次に、これらの分散液について、固形分(すなわち、「顔料+塩基性誘導体(Y1)+樹脂固形分」の和)が25重量%となるように、メトキシプロピルアセテートを適宜添加し、調整した顔料分散液について、下記の試験を行った。
化合物(Y1):
CuPc−SO2−NH(CH2)3−N(C2H5)2
(ただし、CuPcは、銅フタロシアニン残基を表す。)
【0147】
(1)粘度測定
分散液を、直径60mm、角度0度59分のコーンプレートを用いたコーンプレート型粘度計で、測定温度25℃、回転速度10rad/秒の条件で粘度測定を行った。得られた粘度を「初期粘度」とし、結果を表3および表4に示す。
【0148】
(2)保存安定性
分散液を、40℃の恒温機に一週間保存して径時促進させた後、(1)と同様の条件で粘度測定を行い、径時前後での分散体の粘度変化より保存安定性を判断した。得られた粘度を「径時粘度」とし、また、保存安定性は、「粘度変化率」として次の式より算出した。
「粘度変化率」(%)=(「径時粘度」−「初期粘度」)/「初期粘度」×100
得られた粘度変化率を用いて、次のように保存安定性を判定した。
「○」・・・粘度変化率が±10%以内、かつ、沈殿物を生じなかった場合。
「×」・・・粘度変化率が±10%より大きい場合、あるいは、粘度変化率が±10%
以内であっても沈殿物を生じていた場合。
径時粘度、粘度変化率および保存安定性の評価結果を表3および表4に示す。
【0149】
(3)HAZE値の測定
分散液を、バーコーター#4を用いてガラス盤に塗布し、乾燥させた後、HAZEメーター(日本電色工業株式会社製「NDH2000」)を用いてHAZE値を測定した。HAZE値の測定は、測定時の透過率が20%となるように、分散液を適宜メトキシプロピルアセテートで希釈して行った。
得られた結果を表3および表4に示す。
【0150】
(4)耐熱性の測定
HAZE値の測定と同様にして作成した分散液塗布ガラス板サンプルを、260℃のオーブンに1時間静置して加熱処理した。加熱処理前と、加熱処理後のサンプルについて、(3)と同様にHAZE値を測定した。顔料分散体中に、耐熱性に乏しい樹脂が用いられる場合、加熱処理後のHAZE値が上昇する傾向にある。これは、熱によって樹脂が分解することで塗膜の顔料分散状態が崩壊し、顔料の凝集・結晶成長等が発生することで塗膜の透明性が悪化する現象であり、この加熱条件でHAZE値が大幅に上昇する場合(すなわち塗膜の透明度が著しく悪化する場合)は、顔料分散体として耐熱性の面で実用上問題である。
得られた結果を表3および表4に示す。
【0151】
【表3】

【0152】
【表4】

【0153】
これらの結果から、本発明のビニル系共重合体を用いた顔料分散液は、初期粘度およびHAZE値が低く、保存安定性・耐熱性も極めて優れている。初期粘度およびHAZE値が低いことから、顔料がより微細に分散されていることがわかり、本発明のビニル系共重合体は、顔料をより微細に分散でき、かつ、その微細な分散状態を安定に保ち、過酷な加熱条件においてもその分散状態を保持できることができると言える。
【0154】
本発明のビニル系共重合体は、例えば、顔料分散液や顔料組成物の調整に有効に用いることができる。また、本発明の製造方法により、前期ビニル系共重合体を効率的に製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子あたり平均0.3個以上4.0個以下の量で酸基を含むビニル系共重合体であって、
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)と、その他のエチレン性不飽和単量体(b)とをリビング重合してなる水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、
水酸基と反応しうる官能基および酸基を有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸類(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物中の、水酸基と反応しうる官能基、とを反応してなるビニル系共重合体。
【請求項2】
リビング重合が、原子移動ラジカル重合である請求項1記載のビニル系共重合体。
【請求項3】
一分子あたり平均0.3個以上4.0個以下の量で酸基を含むビニル系共重合体中の酸基が、カルボキシル基、リン酸基、およびスルホン酸基より選択される少なくとも1種の官能基である請求項1または2記載のビニル系共重合体。
【請求項4】
水酸基含有ビニル系共重合体(c)の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が、1.0〜2.0である請求項1〜3いずれか記載のビニル系共重合体。
【請求項5】
水酸基含有ビニル系共重合体(c)が、ブロック共重合体であって、
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)からなるAブロックと、その他のエチレン性不飽和単量体(b)からなるBブロックとからなるABブロック共重合体、または、
Bブロックと、Aブロックと、BブロックとからなるBABブロック共重合体である請求項1〜4いずれか記載のビニル系共重合体。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載のビニル系共重合体と、顔料とを含んでなる顔料組成物。
【請求項7】
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)と、その他のエチレン性不飽和単量体(b)とをリビング重合して水酸基含有ビニル系共重合体(c)を得る第一の工程、および、
前記水酸基含有ビニル系共重合体(c)中の水酸基と、水酸基と反応しうる官能基および酸基を有する化合物(d)、カルボン酸無水物(e)、ポリリン酸類(f)、およびスルトン類(g)より選択される少なくとも1種の化合物中の、水酸基と反応しうる官能基、とを反応させる第二の工程を含む、一分子あたり平均0.3個以上4.0個以下の量で酸基を含むビニル系共重合体の製造方法。
【請求項8】
リビング重合により水酸基含有ビニル系共重合体(c)を得る第一の工程が、原子移動ラジカル重合であることを特徴とする請求項7記載のビニル系共重合体の製造方法。
【請求項9】
水酸基含有ビニル共重合体(c)を得る第一の工程が、その他のエチレン性不飽和単量体(b)を重合した後、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(a)を重合する工程、または、
前記工程の後さらに、その他のエチレン性不飽和単量体(b)を重合する工程を含む請求項7または8記載のビニル系共重合体の製造方法。



【公開番号】特開2007−314617(P2007−314617A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143639(P2006−143639)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】