説明

ビニル芳香族化合物、共役脂肪族ジエン、およびエチレン性不飽和酸からなる水性ポリマー分散液

アリールシクロヘキセン不含の、もしくはアリールシクロヘキセン含有率の低い水性ポリマー分散液、および少なくとも3種類の異なったモノマータイプからラジカル的に開始される乳化重合により該水性分散液を製造する方法を記載する。1のビニル芳香族モノマー化合物、1の共役脂肪族ジエンモノマー、および1のエチレン性不飽和酸モノマーを水性媒体中で、C2〜C4−カルボン酸のメルカプトアルキルカルボン酸エステルの存在下に、かつ分子量調節剤としてのアルキルメルカプタンを用いずに共重合させる。このポリマー分散液は、結合剤、接着剤、繊維用サイズ剤として、被覆を製造するために、または紙塗工材料を製造するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールシクロヘキセン不含の、もしくはアリールシクロヘキセン化合物の含有率が90ppm未満であるアリールシクロヘキセン含有率の低い水性ポリマー分散液、ならびに少なくとも3種類の異なったモノマータイプからラジカル的に開始される乳化重合により該ポリマー分散液を製造する方法を記載する。1のビニル芳香族モノマー化合物、1の共役ジエンモノマー、および1のエチレン性不飽和酸モノマーを水性媒体中で、C2〜C4−カルボン酸のメルカプトアルキルカルボン酸エステルの存在下に、かつ分子量調節剤としてのアルキルメルカプタンを用いずに共重合させる。本発明は、結合剤、接着剤、繊維用サイズ剤として、被覆を製造するために、または紙塗工材料を製造するためのポリマー分散液の使用にも関する。
【0002】
ビニル芳香族化合物、共役脂肪族ジエン、およびエチレン性不飽和酸からなる水性ポリマー分散液は、多様な適用分野を有している。たとえばビニル芳香族化合物、たとえばスチレン、脂肪族ジエン、たとえば1,3−ブタジエン、およびエチレン性不飽和酸、たとえばアクリル酸もしくはメタクリル酸からなるコポリマーをベースとする、紙塗工材料のための結合剤が公知である。このポリマーをラジカル重合により製造する場合、それぞれの適用分野に適切な分子量を調整するために、分子量調節剤もしくは連鎖移動剤が使用される。効果的に、かつ頻繁に使用される分子量調節剤には、アルキルメルカプタン、つまりチオール基により置換されたアルカン、たとえばt−ドデシルメルカプタン(TDMC)が挙げられる。これらの物質は、ポリマーの分子量を調節する特性以外に、さらに紙塗工材料の良好な適用技術的な特性につながる。特に高い結合力を有するポリマー結合剤およびポリマー結合剤を含有する、良好な表面強度、たとえば良好なドライピッキング抵抗性および良好なウェットピッキング抵抗性を有する紙塗工材料が所望されている。TDMCはたしかにこれらの要求を満足するが、しかし不快なにおいという欠点を有する。これは製造の際にも、最終生成物中でも妨げとなることが判明した。メルカプトアルキルカルボン酸のアルキルエステルをベースとする代替的な分子量調節剤は、アルキルメルカプタンに対して、においに関しては有利であるものの、適用技術的な特性においては、かならずしも全ての観点で満足のいくものであるとは限らない。
【0003】
US5,354,800には、特に紙塗工材料中で結合剤として使用することができるコポリマー分散液の製造方法が記載されている。その製造は、共役ジエンモノマー、別のエチレン性不飽和モノマー、ならびに1のエチレン性不飽和カルボン酸モノマーを、親水性連鎖移動剤および疎水性の連鎖移動剤の組み合わせの存在下に重合することにより行われる。疎水性連鎖移動剤として、特にアルキルメルカプタンおよびアルキルカルボン酸のメルカプトアルキルエステルが挙げられる。
【0004】
アルキルカルボン酸のメルカプトアルキルエステルをベースとする分子量調節剤を、ビニル芳香族および共役エチレン性不飽和ジエンの共重合の際に使用する場合、望ましくない副生成物として、アリールシクロヘキセンが形成されうる。たとえばスチレンと1,3−ブタジエンとを共重合する際には、望ましくない4−フェニル−シクロヘキセンが著量で形成される。
【0005】
本発明は、ビニル芳香族および共役脂肪族ジエンからなるコポリマーをベースとする水性ポリマー分散液を提供するという課題に基づいており、この場合、分散液は、アルキルメルカプタンを用いて製造される分散液と比較して、できる限り中立的なにおいを有するものであり、紙塗工材料中での結合剤として、できる限り良好な適用特性を有しており、ならびにアリールシクロヘキセンの含有率ができる限り低いものであるべきである。
【0006】
上記課題は本発明により、アリールシクロヘキセン不含の、もしくはアリールシクロヘキセン含有率が低い水性ポリマー分散液であって、少なくとも3種類の異なったモノマータイプ(A)〜(C)からのラジカル開始される乳化重合によって製造可能な水性ポリマー分散液であり、その際、
(A)少なくとも1のビニル芳香族モノマー化合物、
(B)少なくとも1の共役脂肪族ジエンモノマー、および
(C)少なくとも1のエチレン性不飽和酸モノマー
を水性媒体中で共重合させ、
その際、これらのモノマーの共重合は、少なくとも1の分子量調節剤の存在下で行われ、
その際、分子量調節剤として、少なくとも1の、C2〜C4−カルボン酸のメルカプトアルキルカルボン酸エステルが使用され、
その際、分子量調節剤として、アルキルメルカプタンは使用されないか、実質的に使用されず、かつ
その際、水性ポリマー分散液中のアリールシクロヘキセン化合物の含有率は、90ppm未満である、水性ポリマー分散液により解決される。
【0007】
アリールシクロヘキセンは、1のアリール基を有し、かつ該アリール基は、少なくとも1のシクロヘキセン基により、ならびに場合により別の基によって置換されている有機化合物である。1つの例は、4−フェニル−シクロヘキセンである。アリールシクロヘキセンの含有率が低いとは、水性ポリマー分散液が、アリールシクロヘキセンを90ppm未満、特に80ppm未満含有していること、有利には4−フェニル−シクロヘキセンを90ppm未満、特に4−フェニル−シクロヘキセンを80ppm含有していることを意味している。
【0008】
有利には、
(A)少なくとも1のビニル芳香族化合物19.8〜80質量部、
(B)少なくとも1の共役脂肪族ジエン19.8〜80質量部、
(C)少なくとも1のエチレン性不飽和酸0.1〜15質量部、および
(D)少なくとも1の、モノマー(A)〜(C)とは異なった、別のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
を使用し、その際、モノマー(A)〜(D)の質量部の合計は100である。
【0009】
水性ポリマー分散液はたとえば、乳化共重合の際に、
(A)スチレンおよび/またはメチルスチレン19.8〜80質量部、有利には25〜70質量部、
(B)1,3−ブタジエンおよび/またはイソプレン19.8〜80質量部、有利には25〜70質量部、
(C)アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ビニル乳酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、ビニルホスホン酸、およびこれらの酸の塩からなる群の1もしくは複数の化合物から選択される、少なくとも1のエチレン性不飽和酸0.1〜15質量部、および
(D)アクリル酸のC1〜C18−アルキルエステル、およびメタクリル酸のC1〜C18−アルキルエステルから選択される、少なくとも1の他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部、有利には0.1〜15質量部
からなるモノマー混合物を使用することによって得られ、その際、上記モノマー(A)〜(D)の質量部の合計は100である。
【0010】
群(A)のモノマーとして、ビニル芳香族化合物が考えられ、これはたとえばスチレン、α−メチルスチレン、および/またはビニルトルエンである。これらのモノマーの群から、有利にはスチレンが使用される。重合の際に使用される全てのモノマー混合物の100質量部に対して、群(A)の少なくとも1のモノマーが、たとえば19.8〜80質量部、および有利には25〜70質量部含有されている。
【0011】
群(B)のモノマーは、たとえば1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ジメチルブタジエン、およびシクロペンタジエンである。これらのモノマーの群から、有利には1,3−ブタジエンおよび/またはイソプレンを使用する。乳化重合の際に使用される全てのモノマーの混合物100質量部に対して、群(B)の少なくとも1のモノマーが、たとえば19.8〜80質量部、有利には25〜70質量部、および特に25〜60質量部含有されている。
【0012】
群(C)のモノマーは、たとえばエチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸、およびビニルホスホン酸である。エチレン性不飽和カルボン酸として、有利には分子中に3〜6個の炭素原子を有するα,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸が使用される。このための例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸およびビニル乳酸である。エチレン性不飽和スルホン酸として、たとえばビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレートおよびスルホプロピルメタクリレートが適切である。特に有利であるのは、アクリル酸およびメタクリル酸であり、特にアクリル酸である。
【0013】
酸基を有する群(C)のモノマーは、遊離酸の形でも、ならびに適切な塩基により部分的に、もしくは完全に中和された形でも重合で使用することができる。有利には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニアを中和剤として使用する。乳化重合の際に使用されるモノマー混合物100質量部に対して、群(C)の少なくとも1のモノマーは、たとえば0.1〜15質量部、有利には0.1〜10質量部、または1〜8質量部含有されている。
【0014】
有利であるのは、ビニル芳香族化合物(A)が、スチレン、メチルスチレン、およびこれらの混合物から選択されており、共役脂肪族ジエン(B)が、1,3−ブタジエン、イソプレン、およびこれらの混合物から選択されており、かつエチレン性不飽和酸(C)が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ビニル乳酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、ビニルホスホン酸、およびこれらの酸の塩からなる群からの1もしくは複数の化合物から選択されているモノマーの組合せである。
【0015】
群(D)のモノマーとして、他のモノエチレン性不飽和化合物が考えられる。このための例は、エチレン性不飽和カルボン酸アミド、たとえば特にアクリルアミドおよびメタクリルアミド、エチレン性不飽和カルボン酸ニトリル、たとえば特にアクリルニトリルおよびメタクリルニトリル、飽和C1〜C18−カルボン酸のビニルエステル、有利には酢酸ビニル、ならびにアクリル酸およびメタクリル酸と一価のC1〜C18−アルコールとのエステル、たとえばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、s−ブチルアクリレート、s−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、飽和カルボン酸のアリルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、エチレン性不飽和カルボン酸のジアルキルエステル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリジン、N−ビニルホルムアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリレート、N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンである。これらのモノマーの群は、場合によりポリマーを変性するために使用される。乳化重合の際に使用されるモノマー混合物100質量部に対して、群(D)の少なくとも1のモノマーが、たとえば0〜20質量部、または0.1〜15質量部、および特に0.5〜10質量部含有されている。
【0016】
本発明の1実施態様では、共重合することによってアリールシクロヘキセンの含有率をさらに低減することにつながる群(D)のモノマーが使用される。特にアクリル酸のC1〜C18−アルキルエステルおよびメタクリル酸のC1〜C18−アルキルエステルが、たとえば0.1〜15質量部の使用量で使用されることが考えられる。
【0017】
ポリマーの特性を変性するために、乳化重合は少なくとも1の重合調節剤の存在下で実施される。この場合、実質的にアルキルメルカプタンは使用されない。つまりアルキルメルカプタンは、全く使用されないか、またはいずれにしてもポリマー分散液のにおいの特性に影響を与えるような量では使用されない。
【0018】
分子量調節剤として、C2〜C4−カルボン酸の少なくとも1のメルカプトアルキルカルボン酸エステルが使用される。ベースとなるカルボン酸は、酢酸、プロパン酸、イソブタン酸、またはn−ブタン酸であり、有利にはプロパン酸である。メルカプトアルキル基は、少なくとも1のSH基と、たとえば18個までの炭素原子を有する、線状、分枝鎖状、もしくは環式の炭化水素基である。有利であるのは、式
1−C(=O)−O−R2−SH
[式中、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基を表し、かつR2は、1〜18個の炭素原子を有する二価のアルキレン基を表す]の化合物である。特に有利には2−メルカプトエチル−プロピオネートを分子量調節剤として使用する。
【0019】
場合により使用することができる別の重合調節剤のための例は、硫黄を結合された形で含有している有機化合物、たとえばチオグリコール、エチルチオエタノール、ジ−n−ブチルスルフィド、ジ−n−オクチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジイソプロピルジスルフィド、2−メルカプトエタノール、1,3−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロパン−1,2−ジオール、1,4−メルカプトブタノール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸およびチオ尿素である。別の重合調節剤は、アルデヒド、たとえばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、およびプロピオンアルデヒド、有機酸、たとえばギ酸、ギ酸ナトリウムまたはギ酸アンモニウム、アルコール、たとえば特にイソプロパノール、ならびにリン化合物、たとえば次亜リン酸ナトリウムである。
【0020】
分子量調節剤の量は、重合の際に使用されるモノマーに対して、たとえば0.01〜5質量%、有利には0.1〜1質量%である。調節剤は有利にはモノマーと一緒に計量供給される。しかしこれらは受け器中に部分的に、または全量が存在していてもよい。これらはまた、段階的にモノマーに添加して計量供給することもできる。
【0021】
乳化重合の際に、通常、反応条件下でラジカルを形成する開始剤が使用される。開始剤は、重合すべきモノマーに対して、たとえば2質量%までの量で、有利には少なくとも0.9質量%まで、たとえば1.0〜1.5質量%の量で使用される。適切な重合開始剤は、たとえば過酸化物、ヒドロペルオキシド、過酸化水素、過硫酸ナトリウムまたは過硫酸カリウム、レドックス触媒、およびアゾ化合物、たとえば2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)および2,2−アゾビス(2−アミドプロパン)ジヒドロクロリドである。その他の適切な開始剤のための例は、ジベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルピバレート、t−ブチル−ペル−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジアミルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ビス(o−トルイル)ペルオキシド、スクシニルペルオキシド、t−ブチルペルアセテート、t−ブチルペルマレエート、t−ブチルペルイソブチレート、t−ブチルペルピバレート、t−ブチルペルオクトエート、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルヒドロペルオキシド、アゾ−ビス−イソブチロニトリル、2,2′−アゾ−ビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)および2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチロアミジン)−ジヒドロクロリドである。有利であるのは、ペルオキソジスルフェート、ペルオキソスルフェート、アゾ開始剤、有機ペルオキシド、有機ヒドロペルオキシド、および過酸化水素の群から選択される開始剤である。特に有利には、水溶性の開始剤、たとえば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウムおよび/またはペルオキソ二硫酸アンモニウムを使用する。重合は、高エネルギー線、たとえば電子性を用いて、またはUV光を照射することにより開始することができる。
【0022】
本発明の1実施態様では、アリールシクロヘキセンの含有率をさらに低減するために、開始剤を少なくとも1.2質量%の量で使用する。
【0023】
アリールシクロヘキセンの高含有率を回避するために特に有利であることが判明したのは、乳化重合を少なくとも2つの段階で行い、その際、ビニル芳香族モノマー化合物(A)の添加の開始を、共役脂肪族ジエンモノマー(B)の添加の開始とは、時間的にずらすことである。有利にはビニル芳香族モノマー化合物の少なくとも一部を、たとえば全てのビニル芳香族モノマー化合物の全量の少なくとも3.5質量%を、重合条件下に水性媒体中に装入するか、または重合混合物に添加し、次いで、共役脂肪族ジエンモノマーの添加を開始する。
【0024】
従って本発明の対象は、少なくとも3種類の異なったモノマー(A)〜(C)からなる、アリールシクロヘキセン不含の、もしくはアリールシクロヘキセンの含有率が低い水性ポリマー分散液の製造方法であって、
(A)少なくとも1のビニル芳香族モノマー化合物、
(B)少なくとも1の共役脂肪族ジエンモノマー、および
(C)少なくとも1のエチレン性不飽和酸モノマー
を水性エマルション中で共重合させ、
その際、これらのモノマーの共重合は、ラジカル的に開始され、かつ少なくとも1の分子量調節剤の存在下で行われ、
その際、分子量調節剤として、少なくとも1の、C2〜C4−カルボン酸のメルカプトアルキルカルボン酸エステルが使用され、
その際、分子量調節剤として、アルキルメルカプタンは使用されないか、もしくは実質的に使用されず、かつ
その際、乳化重合は少なくとも2つの段階で行われ、
その際、ビニル芳香族モノマー化合物(A)の添加の開始は、共役脂肪族ジエンモノマー(B)の添加の開始とは、時間的にずらして行われる、
アリールシクロヘキセン不含の、もしくはアリールシクロヘキセンの含有率が少ない水性ポリマー分散液の製造方法である。
【0025】
有利にはビニル芳香族モノマー化合物の少なくとも一部を重合条件下で水性媒体中に装入するか、または重合混合物に添加し、次いで共役脂肪族ジエンモノマーの添加を開始する。これは本発明によれば、重合反応の開始時に、重合混合物中でいずれにしても本質的な量で共役脂肪族ジエンモノマーが含有されていないことを意味している。この場合、本質的な量とは、重合の際に、副生成物であるアリールシクロヘキセンが実質的な量(>90ppm)で生じるような量である。重合混合物は、装入された、または重合容器に供給されたモノマーと、すでに生じたポリマーとからなる混合物である。
【0026】
本発明による方法の1の有利な実施態様では、重合混合物中に、全てのビニル芳香族モノマー化合物の全量の少なくとも5質量%、有利には7〜30質量%が重合条件下に存在し、有利には共役脂肪族ジエンモノマーの添加を開始する前にすでに重合されている。次いで残りのモノマーを重合条件下で一緒に、または互いに別々に受け器に供給する。重合条件下とは、受け器中の反応混合物が、重合が進行するために必要とされる温度に加熱されていることを意味するものである。この温度は、たとえば80〜130℃、有利には85〜120℃である。重合は有利には加圧下で、たとえば15バールまでの、たとえば2〜10バールの加圧下で実施する。
【0027】
本発明によるポリマー分散液を製造するために、たとえば混合装置を備えた加熱可能な反応器中に、共役脂肪族ジエンモノマーとは異なったモノマーの一部(たとえばモノマーの全量に対して2〜10質量部)、開始剤の一部(たとえば開始剤の全量に対して2〜10質量部)、調節剤の一部(たとえば調節剤の全量に対して2〜10質量部)、および場合によりポリマーシードを装入し、重合条件に加熱し、かつ残りのモノマー、開始剤、および調節剤を一緒に、または別々に供給する。
【0028】
水性媒体中でのモノマーの分散を支援するために、通常、分散剤として使用される保護コロイドおよび/または乳化剤を使用することができる。適切な保護コロイドの詳細な説明は、Houben−Weyl、Methoden der organischen Chemie、第XIV/1、高分子材料、Georg−Thieme−Verlag、Stuttgart、1961年、第411〜420頁に記載されている。乳化剤として、数平均分子量が通常は、2000g/モルを下回るか、または有利には1500g/モルを下回る界面活性物質が考えられるが、他方、保護コロイドの数平均分子量は、2000g/モルを上回り、たとえば2000〜100000g/モル、特に5000〜50000g/モルである。
【0029】
適切な乳化剤はたとえば3〜50のエトキシ化度を有するエトキシ化C8〜C36−脂肪アルコール、3〜50のエトキシ化度を有するエトキシ化モノ−、ジ−およびトリ−C4〜C12−アルキルフェノール、スルホコハク酸のジアルキルエステルのアルカリ金属塩、C8〜C12−アルキルスルフェートのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、C12〜C18−アルキルスルホン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、およびC9〜C18−アルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩である。カチオン活性乳化剤はたとえば少なくとも1のアミノ基またはアンモニウム基と、少なくとも1のC8〜C22−アルキル基とを有する化合物である。乳化剤および/または保護コロイドをモノマーの分散助剤として併用する場合には、これらの使用量はモノマーに対してたとえば0.1〜5質量%である。
【0030】
適切な保護コロイドは、たとえば分解されたデンプン、特にマルトデキストリンである。分解されたデンプンを製造するための原料デンプンとして、全ての天然のデンプン、たとえばトウモロコシ、コムギ、オートムギ、オオムギ、コメ、キビ、ジャガイモ、エンドウマメ、タピオカ、ソルガムまたはサゴのデンプンが適切である。さらに、アミロペクチン含有率が高い天然デンプン、たとえばワキシーコーンのデンプンおよびワキシーポテトのデンプンも興味深いものである。これらのデンプンのアミロペクチン含有率は、90%を上回り、多くの場合、95〜100%である。エーテル化またはエステル化により化学的に変性されたデンプンもまた、本発明によるポリマー分散液を製造するために使用することができる。このような生成物は公知であり、かつ市販されている。これらはたとえば天然デンプン、または分解された天然デンプンを、無機酸または有機酸、これらの無水物または塩化物によりエステル化することにより製造される。特に興味深いものは、硫酸化およびアセチル化された分解デンプンである。デンプンをエーテル化するための慣用の方法は、アルカリ性の水溶液中での有機ハロゲン化合物、エポキシド、または硫酸塩によるデンプンの処理である。公知のデンプンエーテルは、アルキルエーテル、ヒドロキシアルキルエーテル、カルボキシアルキルエーテルおよびアリルエーテルである。さらに、デンプンと2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとの反応生成物が適切である。特に有利であるのは、分解された天然デンプン、特にマルトデキストリンへと分解された天然デンプンである。その他の適切なデンプンは、カチオン性に変性されたデンプン、つまりアミノ基またはアンモニウム基を有するデンプン化合物である。分解されたデンプンは、たとえば0.07dl/gより小さい、または0.05dl/gより小さい固有粘度ηiを有する。分解されたデンプンの固有粘度ηiは、有利には0.02〜0.06dl/gの範囲である。固有粘度ηiは、DIN EN1628により、23℃で測定される。
【0031】
本発明の1実施態様では、アリールシクロヘキセン含有率をさらに低減するために乳化重合をシード粒子の存在下に行う。この場合、受け器は、ポリマーシード、特にポリスチレンシード、つまり20〜40nmの粒径を有する微粒子状のポリマー、たとえばポリスチレンの水性分散液を含有している。
【0032】
乳化重合は、水性媒体中で行う。これは、たとえば完全に脱塩された水であってもよいし、または水、および水と混和可能な溶剤、たとえばメタノール、エタノールまたはテトラヒドロフランの混合物であってもよい。そのつど所望される重合温度に達したら、または重合温度に達してから1〜15分、有利には5〜15分以内に、モノマーの供給を開始する。モノマーはたとえば連続的にたとえば60分〜10時間以内に、多くの場合、2〜4時間以内に、反応器へポンプで供給する。
【0033】
少なくとも共役脂肪族ジエンモノマーに関しては、ビニル芳香族モノマーに対して段階的に添加する。この場合、ビニル芳香族モノマーの少なくとも一部を装入するか、または受け器に計量供給し、次いで、共役脂肪族ジエンモノマーの添加を開始する。
【0034】
1つの有利な実施態様では、全てのビニル芳香族モノマーの全量に対して、少なくとも5質量%、特に有利には少なくとも7質量%、または少なくとも10質量%の、水性媒体中のビニル芳香族モノマーを、重合条件下で装入するか、かつ/または重合条件下で重合混合物に添加し、次いで共役脂肪族ジエンモノマーの添加を開始する。この場合、たとえば少なくとも1質量%、特に有利には少なくとも3質量%、または少なくとも5質量%のモノマーを装入し、次いで、残りのモノマーの添加を開始する。重合混合物は、有利には少なくとも5質量部まで、好ましくは少なくとも7質量部まで、または少なくとも10質量部までの共役脂肪族ジエンモノマーの添加を開始する際に、すでに生じているポリマーからなるものである。特に、有利には少なくとも5質量%、特に有利には少なくとも7質量%、または少なくとも10質量%の、共役脂肪族ジエンモノマー(B)とは異なるモノマー(A)、(C)および(D)、特にスチレンおよびエチレン性不飽和酸モノマーがすでに重合されており、その後に共役脂肪族ジエンモノマーの添加が開始される。
【0035】
本発明により製造されるポリマー粒子中には、共役脂肪族ジエンから、特にブタジエンから誘導された単位がおそらくは主としてポリマー粒子の表面に、または外側の層に存在している。ポリマー粒子のコアは、おそらくは共役脂肪族ジエンから誘導された単位を低い濃度でシェルとして含有している。
【0036】
段階的に行われる、残りのモノマーの添加も可能であり、特にモノマー(D)を段階的に添加することができる。
【0037】
本発明による方法の1つの有利な実施態様では、重合すべきモノマー(A)、(C)および(D)の全体の1〜10質量%を装入する。この場合、モノマーを有利には別の成分(たとえばポリマーシード、乳化剤、保護コロイド、そのつどの開始剤および分子量調節剤のそのつどの全量の1〜10質量%)と一緒に装入し、次いで反応器内容物を重合温度に加熱し、かつ次いで残りのモノマーを上記のとおりに添加する。装入されるモノマーは、本発明によれば、共役脂肪族ジエンモノマーを含有していない。これは本発明によれば、同様に本質的な量の共役脂肪族ジエンモノマーは含有されていないことを意味している。この場合、本質的な量とは、重合の際に本質的な量のアリールシクロヘキセン、特に90ppm以上のアリールシクロヘキセンが生じない量である。
【0038】
重合終了後に、場合により反応混合物にさらに開始剤を添加して、主要な重合の際と同じか、より低い、もしくはより高い温度で後重合を実施することができる。重合反応を完了させるためには多くの場合、全てのモノマーを添加した後で、反応混合物をさらにたとえば1〜3時間、重合温度で撹拌する。pH値は、重合の際にたとえば1〜5であってよい。重合後に、pH値をたとえば6〜7の間の値に調整する。アリールシクロヘキセン含有率が低い水性分散液が得られる。アリールシクロヘキセンの量は、ppm範囲であり、かつ有利には90ppm未満、特に80ppm未満である。
【0039】
分散している粒子の平均粒径が有利に80〜150nmである水性ポリマー分散液が得られる。ポリマー粒子の平均粒径は、0.005〜0.01質量%の水性ポリマー分散液を使用して、23℃においてMalvern Instruments社(英国)のAutosizer IICを用いた動的光散乱法により確認することができる。この記載はそれぞれ、ISO標準13321により測定された自己相関関数の累積評価(累積数平均)の平均直径である。
【0040】
1実施態様では、本発明による水性ポリマー分散液の固体含有率は、40〜60質量%である。固体含有率はたとえば乳化重合の際に使用される水量および/またはモノマー量を相応して調整することにより行うことができる。
【0041】
1つの有利な実施態様では、水性ポリマー分散液を、共役脂肪族ジエンモノマーをポリマーシードおよび少なくとも1質量%の開始剤の存在下で、上記のとおり時間をずらして添加しながら段階的に重合することにより製造する。
【0042】
本発明による水性ポリマー分散液は、結合剤として、接着剤として、繊維用サイズ剤として、被覆を製造するために、または紙塗工材料を製造するために使用される。本発明による水性ポリマー分散液は、テキスタイル繊維のサイジングのために、および鉱物質繊維、特にガラス繊維のサイジングのために適切である。その良好な接着力、特にコポリマーの低いガラス転移温度(たとえば20℃未満)につながるコモノマーを使用する場合に、さらにコポリマーを接着剤として、および被覆を製造するために使用することができる。有利には本発明による水性ポリマー分散液を紙塗工材料中の結合剤として、および繊維、特にテキスタイル繊維のための結合剤として使用する。
【0043】
従って、本発明の対象は、
(i)無機顔料、および
(ii)上記のとおりの、本発明による方法により得られた水性ポリマー分散液
および場合により他の添加剤を含有する紙塗工材料でもある。
【0044】
紙塗工材料は、水以外に一般に、顔料、結合剤および必要とされるレオロジー特性を調整するための助剤、たとえば増粘剤を含有している。顔料は通常、水中に分散している。紙塗工材料は、全固体含有率に対して、顔料を有利には少なくとも80質量%の量で、たとえば80〜95質量%または80〜90質量%の量で含有している。特に白色顔料が考えられる。適切な顔料はたとえば金属塩顔料、たとえば硫酸カルシウム、硫酸カルシウムアルミネート、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、および炭酸カルシウムであり、これらの中から炭酸塩顔料、特に炭酸カルシウムが有利である。炭酸カルシウムは、粉砕された炭酸カルシウム(GCC、natural ground calcium carbonate)、沈降炭酸カルシウム(PCC、precipitated calcium carbonate)、石灰または白亜であってよい。適切な炭酸カルシウム顔料は、たとえばCovercarb(登録商標)60、Hydrocarb(登録商標)60またはHydrocarb(登録商標)90MEとして入手可能である。その他の適切な顔料はたとえばケイ酸、酸化アルミニウム、アルミニウム水和物、ケイ酸塩、二酸化チタン、酸化亜鉛、カオリン、アルミナ、タルクまたは二酸化ケイ素である。適切なその他の顔料はたとえばCapim(登録商標)MP50(クレイ)、Hydragloss(登録商標)90(クレイ)、またはTalcum C10として入手可能である。
【0045】
紙塗工材料は、少なくとも1の結合剤を含有している。本発明により製造されるポリマー分散液は、紙塗工材料中で、単独の結合剤として、または別の結合剤と組み合わせて使用することができる。紙塗工材料中の結合剤の最も重要な課題は、顔料が紙に、および顔料同士が結合し、かつ部分的に顔料粒子同士の間の中空部が埋められることである。顔料100質量部に対して、たとえば1〜50質量部、有利には1〜25質量部、または5〜20質量部の有機結合剤(固体、つまり水またはその他の、21℃、1バールで液状の溶剤を含有しない)。
【0046】
別の結合剤として、天然ベースの結合剤、特にデンプンベースの結合剤ならびに本発明により製造されたポリマーとは異なった、合成結合剤、特に乳化重合により製造可能なエマルションポリマーが考えられる。デンプンベースの結合剤とは、この関連で、そのつどの天然の、変性された、もしくは分解されたデンプンであると理解すべきである。天然のデンプンは、アミロース、アミロペクチン、またはこれらの混合物からなる。変性されたデンプンは、酸化されたデンプン、デンプンエステルまたはデンプンエーテルであってよい。加水分解によりデンプンの分子量を低減することができる(分解デンプン)。分解生成物として、オリゴサッカリドまたはデキストリンが考えられる。有利なデンプンは、穀物、トウモロコシおよびジャガイモのデンプンである。特に有利であるのは、穀物およびトウモロコシのデンプンであり、特に有利には穀物のデンプンである。
【0047】
その他の、本発明により製造されるポリマーとは異なった、合成結合剤は、有利には少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも60質量%、特に有利には少なくとも80質量%までが、いわゆる主モノマーからなっている。主モノマーは、C1〜C20−アルキル(メタ)アクリレート、20個までの炭素原子を含有するカルボン酸のビニルエステル、20個までの炭素原子を有するビニル芳香族、エチレン性不飽和ニトリル、ビニルハロゲン化物、1〜10個の炭素原子を有するアルコールのビニルエーテル、2〜8個の炭素原子および1もしくは2の二重結合を有する脂肪族炭化水素、またはこれらのモノマーの混合物である。たとえばC1〜C10−アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、たとえばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、および2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。特に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合物もまた適切である。1〜20個の炭素原子を有するカルボン酸のビニルエステルは、たとえばビニルラウレート、ビニルステアレート、ビニルプロピオネート、バーサチック酸ビニルエステルおよび酢酸ビニルである。ビニル芳香族化合物として、ビニルトルエン、α−メチルスチレンおよびp−メチルスチレン、α−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレン、および有利にはスチレンが考えられる。ニトリルの例は、アクリルニトリルおよびメタクリルニトリルである。ビニルハロゲン化物は、塩素、フッ素または臭素により置換されたエチレン性不飽和化合物、有利には塩化ビニルおよび塩化ビニリデンである。ビニルエーテルとして、たとえばビニルメチルエーテルまたはビニルイソブチルエーテルが挙げられる。有利であるのは、1〜4個の炭素原子を有するアルコールのビニルエーテルである。2〜8個の炭素原子および1もしくは2のオレフィン性二重結合を有する炭化水素として、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレンが挙げられる。
【0048】
有利な主モノマーは、C1〜C10−アルキル(メタ)アクリレート、およびアルキル(メタ)アクリレートとビニル芳香族、特にスチレンとの、または2の二重結合を有する炭化水素、有利にはブタジエンとの混合物、またはこれらの炭化水素の混合物とビニル芳香族、たとえばスチレンとの混合物である。脂肪族炭化水素(特にブタジエン)と、ビニル芳香族(特にスチレン)との混合物の場合、その比率は、たとえば10:90〜90:10、特に20:80〜80:20である。特に有利な主モノマーは、ブタジエンおよび前記のブタジエンとスチレンとの混合物である。
【0049】
主モノマー以外に、結合剤として適切なエマルションポリマーは、その他のモノマー、たとえばカルボン酸基、スルホン酸基またはホスホン酸基を有するモノマーを含有していてもよい。有利であるのはカルボン酸基である。たとえばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、またはフマル酸が挙げられる。エマルションポリマー中のエチレン性不飽和酸の含有率は、一般に10質量%未満、有利には8質量%未満であり、かつ少なくとも0.1質量%または少なくとも1質量%である。その他のモノマーは、たとえばヒドロキシ基を含有するモノマー、特にC1〜C10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはアミド、たとえば(メタ)アクリルアミドである。
【0050】
合成結合剤を使用する場合、天然の結合剤、たとえばデンプンを併用することができるが、しかし必ずしも必要なものではない。有利には本発明により製造されたポリマーは、単独の合成結合剤として含有されている。
【0051】
本発明による紙塗工材料は、さらに別の添加剤および助剤、たとえば充填剤、補助結合剤、および粘度と保水性とをさらに最適化するための増粘剤、蛍光増白剤、分散剤、界面活性剤、滑剤(たとえばステアリン酸カルシウムおよびワックス)、pH調整のための中和剤(たとえばNaOHまたは水酸化アンモニウム)、消泡剤、脱気剤、保存剤(たとえば殺生物剤)、均展剤、着色剤(特に可溶性の着色剤)等を含有していてよい。増粘剤として、合成ポリマー(たとえば架橋したポリアクリレート)以外に、特にセルロース、有利にはカルボキシメチルセルロースが考えられる。蛍光増白剤は、たとえば蛍光染料または燐光染料、特にスチルベンである。
【0052】
有利であるのは水性の紙塗工材料である。これは特にすでに成分の調製形(水性ポリマー分散液、水性顔料スラリー)により、水を含有している。所望の粘度はさらに水を添加することにより調整することができる。紙塗工材料の慣用の固体含有率は、30〜70質量%の範囲である。紙塗工材料のpH値は、有利には6〜10、特に7〜9.5の値に調整する。
【0053】
本発明の1つの実施態様は、本発明により製造された水性ポリマー分散液のポリマーが、顔料の全量に対して1〜50質量部の量で使用されており、かつ顔料は全固体含有率に対して80〜95質量部の量で含有されており、かつ硫酸カルシウム、硫酸カルシウムアルミネート、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸、酸化アルミニウム、アルミニウム水和物、ケイ酸塩、二酸化チタン、酸化亜鉛、カオリン、アルミナ、タルクおよび二酸化ケイ素からなる群から選択されている紙塗工材料に関するものであり、その際、紙塗工材料はさらに増粘剤、別のポリマー結合剤、補助結合剤、蛍光増白剤、充填剤、均展剤、分散剤、界面活性剤、滑剤、中和剤、消泡剤、脱気剤、保存剤および着色剤からなる群から選択される、少なくとも1の助剤を含有している。
【0054】
本発明の対象はまた、本発明による紙塗工材料により被覆した紙または厚紙、および紙または厚紙を塗工する方法であり、その際、
− 水性ポリマー分散液を本発明により製造するか、または提供し、かつ
− このポリマー分散液、少なくとも1の顔料および場合により他の助剤を用いて紙塗工材料を製造し、かつ該紙塗工材料を紙または厚紙の少なくとも1の表面上に施与する。
【0055】
紙塗工材料は有利には被覆されていない原紙または被覆されていない厚紙に塗布することができる。その量は1平方メートルあたり、一般に1〜50g、有利には5〜30g(固体、つまり水またはその他の、21℃、1バールで液状の溶剤を含有しない)である。被覆は慣用の塗布法により、たとえばサイズプレス、フィルムプレス、ブレード式コーター、エアブラシ、ナイフコーター、カーテンコート法またはスプレーコーターにより行うことができる。顔料系に応じて、紙塗工材料としての水性コポリマーの水性分散液を、ベースコートおよび/またはトップコートのために使用することができる。
【0056】
本発明による製造方法では、アリールシクロヘキセンの形成がほぼ抑制される。本発明による紙塗工材料は、良好な適用技術的特性を有している。これらは紙の被覆法において良好なレベリング特性を有しており、かつ高い結合力を有している。被覆された紙および厚紙は、良好な表面強度、特に極めて高いウェットピッキング抵抗性およびドライピッキング抵抗性を有している。これらは慣用の印刷法、たとえばレリーフ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、デジタル印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、新聞の印刷、凸版印刷、昇華型(熱転写)印刷、レーザー印刷、電子写真印刷またはこれらの印刷法の組合せにおいて良好な印刷性を有している。
【0057】
実施例
前後の関係からその他の記載がない限り、百分率の記載は常に質量%である。含有率の記載は水溶液または水性分散液中での含有率に関するものである。
【0058】
固体含有率は、そのつどの水性コポリマー分散液の規定量(約5g)を、140℃で乾燥室中、質量が一定になるまで乾燥させることにより測定する。そのつど、2回の別個の測定を実施し、平均値を出す。
【0059】
ガラス転移温度の測定は、DIN53765により、Mettler−Toledo Int.Inc.社のDSC820装置、TA8000シリーズを用いて行う。4−フェニル−シクロヘキセン(4−PCH)の量は、ガスクロマトグラフィーにより測定する。
【0060】
ポリマー粒子の平均粒径は、Malvern Instruments社(英国)のAutosizer IICを用いて23℃で、0.005〜0.01質量%の水性ポリマー分散液において動的光散乱法により測定する。測定された自己相関関数の累積評価(累積数平均)の平均直径を記載する(ISO標準13321)。
【0061】
例1(比較例)
分子量調節剤としてのt−ドデシルメルカプタン
MIG攪拌機および3つの供給装置を備えた6Lの耐圧反応器に、室温で、かつ窒素雰囲気下に脱塩水700g、ポリスチレンラテックス(30nm)82g、および供給流1Aおよび1Bをそれぞれ5質量%装入した。引き続き、反応器内容物を撹拌下(180rpm)で90℃に加熱し、かつ85℃に達したら、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液57gを添加した。10分後に同時に開始しながら供給流1Aおよび供給流1Bの残りの量(それぞれ95質量%)の添加を360分以内に、および供給2を390分以内に連続的に一定の流量で計量供給した。全供給時間にわたって供給流1Aおよび供給流1Bの流量を、反応器へ導入する前に短時間均質化した。これに引き続き、反応器内容物を90℃でさらに2時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%のNaOH水溶液によりpH値6.5に調整し、かつ耐圧容器を大気圧まで放圧した。
【0062】
供給流1A
脱塩水535g
15質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液51g
アクリル酸95g
からなる均質な混合物。
【0063】
供給流1B
スチレン1092g
t−ドデシルメルカプタン23g
1,3−ブタジエン900g
からなる均質な混合物。
【0064】
供給流2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液450g。
【0065】
得られた水性分散液(D1)は、水性分散液の全質量に対して、52質量%の固体含有率を有していた。ガラス転移温度は、−6℃、および粒径は142nmと測定された。
4−PCH含有率:50ppm。
【0066】
例2(比較例)
分子量調節剤としてのメルカプトエチルプロピオネート
標準法:ただちにブタジエンを添加
MIG攪拌機および3つの供給装置を備えた6Lの耐圧反応器に、室温で、かつ窒素雰囲気下に脱塩水700g、ポリスチレンラテックス(30nm)82g、および供給流1Aおよび1Bをそれぞれ5質量%装入した。引き続き、反応器内容物を撹拌下(180rpm)で90℃に加熱し、かつ85℃に達したら、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液57gを添加した。10分後に同時に開始しながら供給流1Aおよび供給流1Bの残りの量(それぞれ95質量%)の添加を360分以内に、および供給2を390分以内に連続的に一定の流量で計量供給した。全供給時間にわたって供給流1Aおよび供給流1Bの流量を、反応器へ導入する前に短時間均質化した。これに引き続き、反応器内容物を90℃でさらに2時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%のNaOH水溶液によりpH値6.5に調整し、かつ耐圧容器を大気圧まで放圧した。
【0067】
供給流1A
脱塩水520g
15質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液51g
アクリル酸95g
からなる均質な混合物。
【0068】
供給流1B
スチレン1092g
2−メルカプトエチル−プロピオネート8g
1,3−ブタジエン900g
からなる均質な混合物。
【0069】
供給流2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液450g。
【0070】
得られた水性分散液(D2)は、水性分散液の全質量に対して、51.8質量%の固体含有率を有していた。ガラス転移温度は、−6℃、および粒径は141nmと測定された。
4−PCH含有率:107ppm。
【0071】
例3
分子量調節剤としてのメルカプトエチルプロピオネート、段階的な重合
MIG攪拌機および3つの供給装置を備えた6Lの耐圧反応器に、室温で、かつ窒素雰囲気下に脱塩水700g、ポリスチレンラテックス(30nm)82g、および供給流1Aおよび1Bをそれぞれ5質量%装入した。引き続き、反応器内容物を撹拌下(180rpm)で90℃に加熱し、かつ85℃に達したら、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液60gを添加した。10分後に同時に開始しながら供給流1Aおよび供給流1Bの残りの量(それぞれ95質量%)の添加を360分以内に、および供給2を390分以内に連続的に一定の流量で計量供給した。供給流1Aおよび1Bの添加の開始後、30分後に、供給流1Cを開始した。全供給時間にわたって供給流1Aおよび供給流1Bの流量を、反応器へ導入する前に短時間均質化した。これに引き続き、反応器内容物を90℃でさらに2時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%のNaOH水溶液によりpH値6.5に調整し、かつ耐圧容器を大気圧まで放圧した。
【0072】
供給流1A
脱塩水537g
15質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液51g
アクリル酸95g
からなる均質な混合物。
【0073】
供給流1B
スチレン1092g
2−メルカプトエチル−プロピオネート8g
からなる均質な混合物。
【0074】
供給流1C
1,3−ブタジエン900g。
【0075】
供給流2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液540g。
【0076】
得られた水性分散液(D3)は、水性分散液の全質量に対して、50.1質量%の固体含有率を有していた。ガラス転移温度は、−6℃、および粒径は142nmと測定された。
4−PCH含有率:63ppm。
【0077】
例4
分子量調節剤としてのメルカプトエチルプロピオネート、段階的な重合
MIG攪拌機および3つの供給装置を備えた6Lの耐圧反応器に、室温で、かつ窒素雰囲気下に脱塩水700g、ポリスチレンラテックス(30nm)97g、および供給流1Aおよび1Bをそれぞれ5質量%装入した。引き続き、反応器内容物を撹拌下(180rpm)で90℃に加熱し、かつ85℃に達したら、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液60gを添加した。10分後に同時に開始しながら供給流1Aおよび供給流1Bの残りの量(それぞれ95質量%)の添加を360分以内に、および供給2を390分以内に連続的に一定の流量で計量供給した。供給流1Aおよび1Bの添加の開始後、30分後に、供給流1Cを開始した。全供給時間にわたって供給流1Aおよび供給流1Bの流量を、反応器へ導入する前に短時間均質化した。これに引き続き、反応器内容物を90℃でさらに2時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%のNaOH水溶液によりpH値6.5に調整し、かつ耐圧容器を大気圧まで放圧した。
【0078】
供給流1A
脱塩水537g
15質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液51g
アクリル酸95g
からなる均質な混合物。
【0079】
供給流1B
スチレン1092g
2−メルカプトエチル−プロピオネート8g
からなる均質な混合物。
【0080】
供給流1C
1,3−ブタジエン900g。
【0081】
供給流2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液540g。
【0082】
得られた水性分散液(D4)は、水性分散液の全質量に対して、50.1質量%の固体含有率を有していた。ガラス転移温度は、−5℃、および粒径は138nmと測定された。
4−PCH含有率:49ppm。
【0083】
上記の例により製造された水性ポリマー分散液D1〜D4を、紙塗工材料のための結合剤として使用した。
【0084】
紙塗工材料の製造:
塗工用塗料の調製は撹拌装置中で行い、ここへ個々の成分を順次供給する。顔料は前分散させた形(スラリー)として添加する。その他の成分は顔料の後に添加し、その際、その順序は、以下に記載の塗工用塗料の処方の順序に相応する。最終固体含有率の調整は、水の添加により行う。
【0085】
塗工用塗料の処方:
微粒子状カーボネート(Hydrocarb 90、Omya)70部、
微粒子状クレイ(Hydragloss 90、Omya)30部、
塗工用塗料結合剤(例1〜4に記載のエマルションポリマー)10部、
レオロジー助剤(カルボキシメチルセルロース)0.5部。
【0086】
塗料は、実験室用の塗工装置で塗工原紙の片面に塗布し、IR照射装置で乾燥させる。塗布される塗料層の質量は、約10g/m2である。
【0087】
被覆した紙を、当業者に公知の試験法により表面強度について試験する。以下の試験法を適用する:
IGT ドライピッキング抵抗性
IGT ウェットピッキング抵抗性
その結果は、以下の表にまとめられている。
【0088】
IGT試験体印刷装置を用いたドライピッキング抵抗性(IGT乾燥)
試験用の紙を切断してストリップを作成し、IGT試験体印刷装置で印刷する。印刷インクとして、Lorillieux社の、異なる引張力を伝達する、特殊な試験用塗料を使用する。試験用ストリップは、速度を連続的に高めながら(最大速度は200cm/s)、印刷装置に通過させる。評価の際には、試験用印刷ストリップ上で、印刷開始後に紙の表面から10個のピッキング(ピックポイント)が生じている箇所を特定する。ドライピッキング抵抗性の尺度として、cm/secで示される、この箇所に印刷の際に適用された速度、ならびに使用した試験用塗料を記載する。その際、紙表面の品質は、10個目のピックポイントにおける印刷速度が高いほど良好である。
【0089】
IGT試験体印刷装置を用いたウェットピッキング抵抗性(IGT湿潤)
試験すべき紙を切断してストリップを作成し、IGT試験体印刷装置で印刷する。印刷装置は、試験用ストリップが、印刷工程の前に水で濡らされるように調整する。印刷インクとして、Lorillieux社の、異なる引張力を伝達する、特殊な試験用塗料を使用する。印刷は、0.6cm/sの一定の速度で実施する。紙表面のピッキングは、印刷されていない箇所として目視可能である。ウェットピッキング抵抗性を測定するために、インク濃度を、インク用デンシトメーターで完全な色相との対比における%で測定する。記載のインク濃度が高いほど、ウェットピッキング抵抗性は良好である。
【0090】
においの試験
生成物はさらに、トレーニングを行った人たちのグループにより、そのにおいに関して評価をしてもらった。このようなにおいの試験における方法は、当業者に公知のものである。試料のにおいのレベルは、1〜6の評点で評価してもらい、1は、極めて良好を意味し、6は極めて劣っていることを意味する。
【0091】
【表1】

【0092】
例3および4は、傾向として、より良好なピッキング抵抗性と、比較可能な4−PCH含有率において、アルキルメルカプタンを含有する比較例1よりも、顕著に改善されたにおいを有している。
【0093】
例3および4は、標準法により製造された例2よりも、顕著に低減された4−PCH含有率を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリールシクロヘキセン不含の、もしくはアリールシクロヘキセン含有率が低い水性ポリマー分散液であって、少なくとも3種類の異なったモノマータイプ(A)〜(C)からなる、ラジカル開始される乳化重合によって製造可能な水性ポリマー分散液であり、その際、
(A)少なくとも1のビニル芳香族モノマー化合物、
(B)少なくとも1の共役脂肪族ジエンモノマー、および
(C)少なくとも1のエチレン性不飽和酸モノマー
を水性媒体中で共重合させ、
その際、これらのモノマーの共重合は、少なくとも1の分子量調節剤の存在下で行われ、
その際、分子量調節剤として、少なくとも1の、C2〜C4−カルボン酸のメルカプトアルキルカルボン酸エステルが使用され、
その際、分子量調節剤として、アルキルメルカプタンは実質的に使用されず、かつ
その際、水性ポリマー分散液中のアリールシクロヘキセン化合物の含有率は、90ppm未満である、
水性ポリマー分散液。
【請求項2】
(A)少なくとも1のビニル芳香族化合物19.8〜80質量部、
(B)少なくとも1の共役脂肪族ジエン19.8〜80質量部、
(C)少なくとも1のエチレン性不飽和酸0.1〜15質量部、および
(D)少なくとも1の、モノマー(A)〜(C)とは異なった、別のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
を使用し、その際、モノマー(A)〜(D)の質量部の合計は100であることを特徴とする、請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項3】
別のモノマー(D)が0.1〜15質量部の量で使用され、かつアクリル酸のC1〜C18−アルキルエステル、およびメタクリル酸のC1〜C18−アルキルエステルから選択されることを特徴とする、請求項2記載の水性ポリマー分散液。
【請求項4】
ビニル芳香族化合物(A)が、スチレン、メチルスチレン、およびこれらの混合物から選択されており、共役脂肪族ジエン(B)が、1,3−ブタジエン、イソプレンおよびこれらの混合物から選択されており、かつエチレン性不飽和酸(C)が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ビニル乳酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、ビニルホスホン酸、およびこれらの酸の塩からなる群の1もしくは複数の化合物から選択されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項5】
分子量調節剤として、式
1−C(=O)−O−R2−SH
[式中、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基を表し、かつR2は、1〜18個の炭素原子を有する二価のアルキレン基を表す]の化合物が使用されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の水性分散液。
【請求項6】
分子量調節剤として、2−メルカプトエチルプロピオネートが使用される、請求項1から5までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項7】
乳化重合を、少なくとも2つの段階で行い、その際、ビニル芳香族モノマー化合物(A)の添加の開始を、共役脂肪族ジエンモノマーの添加の開始とは、時間的にずらして行うことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液。
【請求項8】
全てのビニル芳香族モノマー化合物の全量の少なくとも5質量%を重合条件下で水性媒体に装入するか、または重合混合物に添加し、次いで共役脂肪族ジエンモノマーの添加を開始することを特徴とする、請求項7記載の水性ポリマー分散液。
【請求項9】
乳化重合をシード粒子の存在下に行うことを特徴とする、請求項7または8記載の水性ポリマー分散液。
【請求項10】
少なくとも3種類の異なったモノマー(A)〜(C)からなる、アリールシクロヘキセン不含の、もしくはアリールシクロヘキセンの含有率が低い水性ポリマー分散液の製造方法であって、
(A)少なくとも1のビニル芳香族モノマー化合物、
(B)少なくとも1の共役脂肪族ジエンモノマー、および
(C)少なくとも1のエチレン性不飽和酸モノマー
を水性エマルション中で共重合させ、
その際、これらのモノマーの共重合は、ラジカル的に開始され、かつ少なくとも1の分子量調節剤の存在下で行われ、
その際、分子量調節剤として、少なくとも1の、C2〜C4−カルボン酸のメルカプトアルキルカルボン酸エステルが使用され、
その際、分子量調節剤として、アルキルメルカプタンは使用されず、かつ
その際、乳化重合は少なくとも2つの段階で行われ、
その際、ビニル芳香族モノマー化合物(A)の添加の開始は、共役脂肪族ジエンモノマー(B)の添加の開始とは、時間的にずらして行われる、
アリールシクロヘキセン不含の、もしくはアリールシクロヘキセンの含有率が少ない水性ポリマー分散液の製造方法。
【請求項11】
全てのビニル芳香族モノマー化合物(A)の全量の少なくとも5質量%を、重合条件下に水性媒体中に装入するか、または重合混合物に添加し、次いで、共役脂肪族ジエンモノマー(B)の添加を開始することを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
全てのビニル芳香族モノマー化合物(A)の全量の7〜30質量%を、重合条件下に水性媒体中に装入するか、または重合混合物に添加し、次いで、共役脂肪族ジエンモノマー(B)の添加を開始することを特徴とする、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
乳化重合を、シード粒子の存在下に行うことを特徴とする、請求項10から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
(A)スチレン、メチルスチレン、およびこれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1のビニル芳香族化合物19.8〜80質量部、
(B)1,3−ブタジエン、イソプレン、およびこれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1の共役脂肪族ジエン19.8〜80質量部、
(C)アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ビニル乳酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、ビニルホスホン酸、およびこれらの酸の塩からなる群から選択される、少なくとも1のエチレン性不飽和酸0.1〜15質量部、および
(D)アクリル酸のC1〜C18−アルキルエステル、およびメタクリル酸のC1〜C18−アルキルエステルからなる群から選択される、少なくとも1の、モノマー(A)〜(C)とは異なった、別のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
を使用し、その際、モノマー(A)〜(D)の質量部の合計は100であることを特徴とする、請求項10から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
分子量調節剤として、式
1−C(=O)−O−R2−SH
[式中、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基を表し、かつR2は、1〜18個の炭素原子を有する二価のアルキレン基を表す]の化合物が使用されることを特徴とする、請求項10から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
結合剤、接着剤、繊維用サイズ剤としての、被覆を製造するための、または紙塗工材料を製造するための、請求項1から9までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散液のエマルションポリマーの使用。
【請求項17】
(i)無機顔料、および
(ii)請求項1から9までのいずれか1項記載のエマルションポリマーを含有する水性ポリマー分散液
を含有する紙塗工材料。
【請求項18】
請求項17記載の紙塗工材料により被覆された紙または厚紙。

【公表番号】特表2012−518066(P2012−518066A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550536(P2011−550536)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051833
【国際公開番号】WO2010/094641
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】