説明

ビーム加工装置、ビーム加工方法およびビーム加工基板

【課題】レーザビームを透過する搬送中の基板に対して、基板の一方の面に形成された被加工層を他方の面側からレーザビームを照射して加工する際の加工精度の向上を図る。
【解決手段】基板1の一方の面に形成された被加工層2に他方の面側からビーム3を照射して加工するビーム加工装置である。基板1の搬送中に基板1の移動に同期してビーム3を照射するヘッド10を移動することで、基板1の搬送を停止することなく被加工層2を加工する。この際にヘッド10から照射するビーム3は、基板1に対して直角に照射される。しがたがって、ガルバノミラーでビームをスキャンした場合のように基板1に斜めに照射されることがなく、より精密な加工ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等の基板上に例えば光電効果を利用した発電システムとなる半導体素子を形成する場合に、半導体素子を構成する薄膜をビーム(レーザ等)によりパターニングする際に好適に用いることができるビーム加工装置、ビーム加工方法および当該ビーム加工装置により加工された被加工層(薄膜)を有するビーム加工基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコン系アモルファスを用いた前記発電システムの製造においては、大きなガラス基板上に最初に透明電極(例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛等)層を形成してパターニングを行い、次いで、ガラス基板上にアモルファスシリコン層(光電変換層)を形成してパターニングを行い、次いで、ガラス基板上に金属電極を形成してパターニングを行う。
この際の各パターニングを、湿式ではなく、レーザビームを用いたレーザパターニングで行う方法が確立されている。
【0003】
ここでのレーザパターニングは、ガラス基板上に順次形成される各薄膜層にそれぞれ順次溝(スリット)をつけて溝を境に薄膜層を電気的に絶縁して、多数のセルに分割するためのものであり、レーザスクライブとも称される。
このようなレーザスクライブにおいて、ガラス基板に形成された透明電極層に、ガラス基板側からレーザビームを照射することにより溝を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
すなわち、レーザビームを、ガラス基板の被加工層が形成された面側ではなく、その反対側となる面から照射することになる。この場合に、例えば、ガラス基板の上側からレーザビームを照射する構成とすると、例えば、台上にガラス基板を、被加工層を下にした状態で配置することなる。この場合に、被加工層が台上面に接触することから、被加工層が傷ついたり、加工時に台の影響(例えば、温度や、レーザの反射)を受けたりする可能性がある。
【0005】
そこで、ガラス基板の周辺部を支持して、ガラス基板を吊った状態として、上からレーザを照射することが行われている。
この場合に、ガラス基板を周辺部から吊った状態で一方向に搬送し、レーザの照射位置をガラス基板の搬送方向に略直交する方向に移動することで、ガラス基板上の被加工層にストライプ状に溝を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−54254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のようにガラス基板上に形成された薄膜層にストライプ状に溝加工を施す場合に、たとえば、ガラス基板をストライプ状の溝加工に対応して、隣接する溝加工間の間隔だけガラス基板をY軸方向に移動する移動工程と、上記間隔分だけ移動したガラス基板を停止し、レーザを照射するヘッドをガラス基板に対してY軸方向に直交するX軸方向に移動させながらレーザを照射することにより直線状に溝加工する加工工程とを繰り返す方法が知られている。
【0008】
この方法では、ガラス基板がY軸方向にだけに移動し、ヘッドがX軸方向にだけ移動するので、ガラス基板の移動機構や、ヘッドの移動機構を簡単な構造とし、レーザ加工装置(ビーム加工装置)のコストダウンを図ることができる。
しかし、前記移動工程と加工工程とが別々に行われること、すなわち、ガラス基板を溝加工毎に停止させる必要があることで、加工時間が長くなるといった問題がある。
【0009】
そこで、複数のレーザを同時に照射することで、加工時間の短縮を図ることが考えられるが、複数のレーザを同時に照射する場合に、複数のレーザのビーム品質を最適な状態とすることが難しい。たとえば、各レーザの照射される際の焦点位置をほぼ等しくできるものとしてもガラス基板側にうねりや反り等があるので、各レーザで焦点位置のずれがしょうじてしまう。
【0010】
したがって、同時に照射するレーザの数を多くすることが難しく、レーザを複数同時に照射するものとしても加工品質を所定以上に保つためにはレーザの数に限界があり、同時に照射するレーザの数を増やすことで、加工時間の短縮を図るのにも限界があった。
また、ガラス基板が大型化されているので、ガラス基板の質量に基づく慣性力も大きくなっており、ガラス基板を移動させては停止することを繰り返す駆動装置やガラス基板の支持部材に高い剛性・強度が必要とされるとともに駆動装置に大きな出力が要求され、ビーム加工装置のコスト増の要因となる。
【0011】
また、ガラス基板をX軸方向に移動し、レーザを照射するヘッドをY軸方向に移動するのではなく、どちらか一方をX軸方向およびY軸方向の両方に移動することが考えられるが、ガラス基板が大型であるため、ガラス基板をX軸方向およびY軸方向の両方に移動させるものとすると、XY軸方向に移動させる装置が極めて大きなものとなってしまい、コストが高くなってしまう。
【0012】
また、ヘッドをX軸方向およびY軸方向に移動させる場合も、ガラス基板が大型であるために、広い範囲に渡ってヘッドを精密に移動させるための装置にかかるコストが高くなってしまう。
そこで、低コストでかつ加工時間を短縮させる方法として、ガラス基板を停止することなく、加工中も所定速度で移動を継続するものとし、ガラス基板の移動速度に同期させた状態でレーザ照射位置を移動して搬送方向に直交する溝加工をするものが知られている。
【0013】
すなわち、搬送中のガラス基板に対して、レーザの照射位置をたとえばガラス基板の搬送方向に移動させながら、かつ、搬送方向に直交する方向に移動させること、すなわち、レーザの照射位置を基板の搬送方向に傾くように斜めに移動しながら照射することで、ガラス基板を停止することなく搬送させたままガラス基板にストライプ状に溝加工を行うことができる。
そして、レーザの照射位置をXY軸で移動させる方法、すなわちレーザを走査する方法としては、ガルバノスキャンシステムが知られており、角度を変更可能なガルバノミラーでレーザをXY方向にスキャンするとともに、fθレンズで焦点を合わせるようになっている。
【0014】
ガルバノミラーは、その角度を変更することにより、レーザの照射角度を変更して照射位置を移動するようになっている。
fθレンズは、たとえば、被加工層に焦点を合わせるだけではなく、ガルバノミラーの角度の変更によるレーザの等角運動を等速運動にするとともに、ガルバノミラーによって被加工物に対する照射角度が変わるレーザを被加工物に対して垂直に照射するように変更するテレセントリック特性を有するものとなっている。
【0015】
しかし、fθレンズを用いても、大型のガラス基板に対して、全てのレーザ照射位置でガラス基板に対して垂直にレーザを当てることが困難である。また、大きなガラス基板の全てのレーザの照射位置において垂直にレーザを当てることを可能となった場合に大きなコストがかかることになる。
ここで、レーザがガラス基板に対して斜めに当たるとともに、レーザの照射位置によってレーザの照射角度が変わる場合に次のような問題が生じる。
まず、レーザが斜めに照射されるとともに、照射角度が変わる場合に、照射位置における照射面積が変動してしまう。
【0016】
さらに、ガラス基板の他方の面からレーザをガラス基板に入射させ、ガラス基板の一方の面に形成された被加工層としての薄膜層にレーザを照射して加工しているので、レーザは、空気とガラス基板との屈折率の異なる二層の界面を通過することになる。この際にレーザの界面に対する入射角度が変わると、屈折率の異なる二層の界面でのレーザの反射率が変わるとともに、屈折後のレーザの照射方向が変わることになる。
これにより、被加工層におけるレーザの照射量が変わるとともに、加工される薄膜層の溝が曲がってしまう可能性がある。
【0017】
これらを考慮して、予めレーザの照射位置が直線状となり、かつ、レーザの照射量が変動しないようにガルバノスキャンシステムを制御することも考えられるが、レーザ加工装置のコストが増大することになる。
なお、前記発電システムの製造においては、その普及のために、発電の高効率化と、製造コストのさらなる低減が求められており、その製造装置としてのレーザ加工装置のコストの低減も求められている。
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、製造時間の短縮を図りながら製造コストの増加および加工精度の低下を防止できるビーム加工装置、ビーム加工方法、ビーム加工基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載のビーム加工装置は、基板の一方の面に形成された被加工層にビームを照射して加工するビーム加工装置であって、
前記基板を一方向に搬送する搬送機構と、
当該搬送機構に搬送されている前記基板の他方の面側から当該基板の一方の面に形成された被加工層に当該基板を透過してビームを照射するとともに、ビーム照射に際して当該基板に垂直にビームを照射するヘッドを有するビーム照射手段と、
前記ヘッドを前記搬送機構で搬送される前記基板に平行な面に沿い、かつ、互いに交差する二方向に同時に移動させることが可能なヘッド移動手段と、
を備え、
前記ヘッド移動手段は、前記搬送機構による前記基板の搬送速度に同期して、前記ヘッドを移動させることにより、搬送されて移動中の前記基板に垂直にビームを照射して当該基板の前記被加工層を加工することを特徴とする。
【0020】
請求項1に記載の発明においては、基板の一方の面に形成されている被加工層を当該基板の他方の面側から当該基板を透過するビーム(たとえば、レーザビーム)で加工する際に、ヘッドを基板に平行な面に沿って互いに交差する二方向に移動させるものとしている。また、移動するヘッドからは基板に垂直にレーザを照射している。そして、ヘッドを搬送される基板の搬送速度に同期させることで、移動中の基板の被加工層に加工が施されることになる。
【0021】
そして、搬送中でかつ加工中の基板に対して、ビームが垂直に照射されているので、ビームが斜めに照射されるとともに照射角度が変更された場合、すなわち、屈折率が異なる二層の界面に斜めで、かつ、照射角度を変えながらビームが照射された場合のように、屈折により照射位置がずれたり、反射により照射されるビームのエネルギが変化したりすることがない。
したがって、加工精度の低下やコストの増大を招くことなく、移動中の基板を停止させることなく加工することで加工時間の短縮を図ることができる。
【0022】
請求項2に記載のビーム加工装置は、請求項1に記載のビーム加工装置において、
前記基板の被加工層に所定間隔毎に互いに平行に直線状に前記ビームによる加工を施すものとし、
前記搬送機構では、前記基板が前記直線状の加工の方向に対して直交する方向に所定の搬送速度で搬送され、
前記ヘッドには、前記基板の搬送方向に沿って前記所定間隔毎にそれぞれビームを出射する複数のビーム出射部が備えられ、
搬送中の前記基板に対して前記ヘッドを前記基板の搬送方向に沿って当該基板の所定の搬送速度と同じ速度で移動し、かつ、同時に、前記基板の前記被加工層の一方の側縁側から他方の側縁側に向かって搬送方向に直交する方向に移動することで、前記基板に前記ビーム出射部の数となる本数の加工を施す順方向等速加工制御工程と、
当該順方向等速加工制御工程後に前記基板の前記被加工層の他方の側縁側で前記ヘッドを前記基板の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の前記基板の前記順方向等速加工工程で前記ヘッドの前記搬送方向の最も後側となる前記ビーム出射部で加工された部分から前記所定間隔離れた位置に、前記ヘッドの前記搬送方向の最も先側となる前記ビーム出射部から照射されるビームを照射可能に移動する他側縁側照射位置合わせ制御工程と、
前記他側縁側照射位置合わせ制御工程後に搬送中の前記基板に対して前記ヘッドを前記基板の搬送方向に沿って当該基板の所定の搬送速度と同じ速度で移動し、かつ、同時に、前記基板の前記被加工層の他方の側縁側から一方の側縁側に向かって搬送方向に直交する方向に移動することで、前記基板に前記ビーム出射部の数となる本数の加工を施す逆方向等速加工制御工程と、
前記逆方向等速加工制御工程後に前記基板の前記被加工層の一方の側縁側で前記ヘッドを前記基板の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の前記基板の前記逆方向等速加工工程で前記ヘッドの前記搬送方向の最も後側となる前記ビーム出射部で加工された部分から前記所定間隔離れた位置に、前記ヘッドの前記搬送方向の最も先側となる前記ビーム出射部から照射されるビームを照射可能に移動する一側縁側照射位置合わせ制御工程とからなる制御工程で前記ヘッドを移動させるように前記ヘッド移動手段を制御するヘッド移動制御手段を備えることを特徴とする。
【0023】
請求項2に記載の発明においては、基板の被加工層にストライプ状に加工を施すことになるが、この際に、直線状の加工の方向を基板の搬送方向に対して直交させる。そして、ヘッドを搬送方向に対して基板の搬送速度と同じ速度で移動するとともに、直交する方向にも同時に移動することで、移動中の基板に移動方向に直交する方向の加工を施すことになる。この際にストライプ状(所定間隔毎に互いに平行に直線状に加工する状態)に加工するために、繰り返し加工することになる。この際には、上述のように斜めにヘッドを移動して加工した後に、次の直線状の加工位置までヘッドを搬送方向と逆方向に移動し、前記間隔だけ後の次の直線の加工位置から先の加工とは搬送方向に直交する移動方向を反対として再び斜めにヘッドを移動する。また、ヘッドを僅かに搬送方向の逆に移動し、最初と同じ方向にヘッドを斜めに移動することを繰り返すことになる。
【0024】
この際に、ヘッドを搬送方向と逆方向に移動する際には、搬送方向に移動するとともに搬送方向に直交する方向に移動して斜めに移動した際の搬送方向の移動量だけ搬送方向の逆方向に移動して、搬送方向のヘッドの移動量を0とする必要がある。すなわち、原点位置に復帰させる必要がある。
ここで、搬送方向をY軸方向とし、直線状の加工方向をX軸方向とした場合に、上述のように斜めに移動する際に、原点の位置から一回の加工終了位置まで所定距離移動したとすると、所定距離戻して原点の位置まで復帰する必要がある。
【0025】
また、ヘッドが原点の位置に戻った際に、搬送されている基板の次に加工すべきY軸方向の位置(次の加工位置)が、原点の位置より手前となっていて、次のX軸方向に沿った加工を開始する際に基板の次に加工すべきY軸方向の位置が原点の位置となる必要がある。なお、実際には、ヘッドの移動に際し、加速や減速を行う必要があり、それらの分だけ期間や距離を必要とするが、ここでは、説明を簡略にするために加速や減速を無視して説明する。
ここで、ヘッドの移動速度が相対的に遅く、搬送速度が相対的に早く、かつ、直線状の加工部分同士の間隔が相対的に短いと、ヘッドを一回の加工が終了した位置から原点の位置に戻した際に、既に基板の次の加工位置が原点の位置を通過してしまうことになる。
【0026】
すなわち、基板の搬送速度に対して、ヘッドが戻る際の速度が十分に早い必要がある。なお、加工中のX軸方向への移動も、搬送速度より十分に速い必要がある。
したがって、加工時間を短縮するために搬送速度を早くする場合には、たとえば、ヘッドが戻る際の移動速度を極めて早くする必要がある。上述の従来のガルバノスキャンシステムを用いた場合には、ガルバノミラーの角度を変更するだけなので、レーザの照射位置を直ぐに次の照射位置に戻すことが可能であるが、実際にヘッドを移動させる構成では、ヘッドの移動速度がネックとなって、加工時間の短縮に限界が生じてしまう。
【0027】
この発明では、複数のレーザを同時に照射して、複数の加工位置で同時に複数の加工を行うことで、ヘッドが加工終了位置から原点位置まで戻る速度が十分に速くなくても、複数の加工分の時間を使ってヘッドを戻すことが可能となり、ヘッドが原点位置に戻るまでに、次の加工位置が原点位置を通過してしまうの防止することができる。
これにより、加工時間をより短縮することが可能となる。
【0028】
請求項3に記載のビーム加工装置は、請求項1または請求項2に記載の発明において、
前記基板は、前記被加工層が形成される一方の面を上側にして前記搬送機構で搬送され、前記搬送機構で搬送される前記基板より下側に前記ヘッドが配置され、当該ヘッドから上側の前記基板に向けてビームが照射されることを特徴とする。
【0029】
請求項3に記載の発明においては、被加工層が形成される一方の面を上にして基板が搬送され、基板の下側から上に向けてビームが照射されるので、基板の下側が搬送機構に接触しても被加工層に影響を与えることがないので、例えば、ローラを用いた搬送のように基板に接触するような搬送機構を用いることが可能となる。したがって、基板を左右側縁部で保持して吊った状態に搬送する必要がなく、ローラを用いた安価な搬送機構で搬送が可能になるとともに、基板を吊った状態で搬送した場合のように基板に撓みが生じるのを防止することができる。また、基板に撓みが生じるのを防止することで、加工精度の向上を図ることができる。この加工精度の向上により、同時にヘッドから照射可能なビームの数を増やすことによる加工精度の低下に対する加工精度上の余裕が生じ、同時に照射するビーム数を増やすことで、加工時間の短縮を図ることができる。
【0030】
なお、基板の上側の被加工層をビームで加工した場合に、ビームを照射された被加工層2の昇華、溶融、剥離等によって基板の上側に粉塵が生じることになるので、ビーム加工装置の基板に対してビーム加工が行われる部分の上側に粉塵を吸引して回収する集塵機(吸引手段)の吸い込み口を設けることが好ましい。
また、搬送機構のビーム加工が行われる部分は、スリットや開口や搬送装置同士の間の間隔等により、搬送機構を構成する部材が無い状態とされ、この部分にビーム照射手段のヘッドや、ヘッド移動手段のヘッドを移動自在に支持する部分が配置されることが好ましい。
【0031】
請求項4に記載のビーム加工方法は、一方の面にビームで加工すべき被加工層を備える基板を略水平な一方向に搬送し、
かつ、前記基板の他方の面側から当該基板の一方の面に形成された被加工層に前記基板を透過してビームを照射するヘッドから前記基板に対して垂直に照射されるビームにより前記被加工層を加工するに際し、
前記ヘッドを搬送される前記基板に平行な面に沿い、かつ、互いに交差する二方向に同時に移動可能とし、
前記基板の搬送に同期して、前記ヘッドを移動させることにより、搬送されて移動中の前記基板に垂直にビームを照射して当該基板の前記被加工層を加工することを特徴とする。
【0032】
請求項4に記載の発明においては、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0033】
請求項5に記載のビーム加工方法は、請求項4に記載のビーム加工方法において、
前記基板の被加工層に所定間隔毎に互いに平行に直線状に前記ビームによる加工を施すものとし、
前記基板を直線状の加工の方向に対して直交する方向に所定の搬送速度で搬送し、
前記ヘッドは、複数のビームを前記基板の搬送方向に沿って前記所定間隔毎にそれぞれ同時に出射し、
前記ヘッドの移動によるビームでの加工に際し、
搬送中の前記基板に対して前記ヘッドを前記基板の搬送方向に沿って当該基板の搬送速度と同じ速度で移動し、かつ、同時に、前記基板の前記被加工層の一方の側縁側から他方の側縁側に向かって搬送方向に直交する方向に移動することで、前記基板に前記ビームの数となる本数の加工を施す順方向等速加工工程と、
当該順方向等速加工工程後に前記基板の前記被加工層の他方の側縁側で前記ヘッドを前記基板の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の前記基板の前記順方向等速加工工程で前記ヘッドの前記搬送方向の最も後側となる前記ビームで加工された部分から前記所定間隔離れた位置に、前記ヘッドの前記搬送方向の最も先側となるビームを照射可能に移動する他側縁側照射位置合わせ工程と、
前記他側縁側照射位置合わせ工程後に搬送中の前記基板に対して前記ヘッドを前記基板の搬送方向に沿って当該基板の搬送速度で移動し、かつ、同時に、前記基板の前記被加工層の他方の側縁側から一方の側縁側に向かって搬送方向に直交する方向に移動することで、前記基板に前記ビームの数となる本数の加工を施す逆方向等速加工工程と、
前記逆方向等速加工工程後に前記基板の前記被加工層の一方の側縁側で前記ヘッドを前記基板の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の前記基板の前記逆方向等速加工工程で前記ヘッドの前記搬送方向の最も後側となる前記ビームで加工された部分から前記所定間隔離れた位置に、前記ヘッドの前記搬送方向の最も先側となる前記ビームを照射可能に移動する一側縁側照射位置合わせ工程とを繰り返し行うことを特徴とする。
【0034】
請求項5に記載の発明においては、請求項2記載の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【0035】
請求項6に記載のビーム加工方法は、請求項4または請求項5に記載の発明において、前記基板を前記被加工層が形成される一方の面を上側にして搬送し、
前記基板の下側から前記基板に向けてビームを照射することを特徴とする。
【0036】
請求項6に記載の発明においては、請求項3に記載の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【0037】
請求項7に記載のビーム加工基板は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のビーム加工装置により加工された被加工層を有することを特徴とする。
【0038】
請求項7に記載の発明においては、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明と同様の作用効果を得ることがでる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のビーム加工装置、ビーム加工方法およびビーム加工基板によれば、ビームによる加工時間を短縮するために、停止することなく搬送方向に沿って移動している基板に対してビーム加工を行うものとしても、コストの増加や加工精度の低下を招くことなく、十分に加工時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るビーム加工装置の概略を示す平面図である。
【図2】前記ビーム加工装置の概略を示す正面図である。
【図3】ビーム照射方法を説明するための図面である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るビーム加工装置のビーム照射装置およびヘッド移動装置を示す概略図である。
【図5】前記ビーム照射装置のヘッド部分を示す概略図である。
【図6】前記ビーム加工装置の光路長調整装置を示す概略図である。
【図7】第3の実施の形態に係るビーム加工装置を示す概略図である。
【図8】第3の実施の形態に係るビーム加工装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の第1の実施の形態を説明する。
図1および図2は、本発明の実施の形態に係るビーム加工装置の概略構成を示すものである。
この例のビーム加工装置は、例えば、前記光電効果を利用した発電システムや、プラズマディスプレイ等の製造に好適に用いられるもので、ガラス基板等の透明基板上に形成された薄膜層をビーム(ここではレーザビーム)により、パターニングするものであり、基板上の薄膜層(被加工層)にレーザビームを照射して昇華、液化、剥離させることにより溝を形成し、当該溝で薄膜層を分断した状態とすることで、薄膜層を任意の形状にするものであるが、ここでは、例えば、ストライプ状やマトリックス状となるように薄膜に溝を形成する。
【0042】
この例では、最終的な製品をアモルファスシリコンを用いる光電効果を利用した発電システムとした場合について説明する。アモルファスシリコンを用いた前記発電システムでは、大きな電圧を得られないことから、ガラス基板等の透明基板上に、例えば、ストライプ状に多数のセルを形成するとともに、これを直列で接続した状態とすることにより、必要な電圧を出力可能としている。
【0043】
そして、製造に際しては、まず、ガラス基板側から太陽光を取り入れるので、ガラス基板側に透明電極の薄膜を形成する。そして、この透明電極の薄膜に所定間隔で溝を形成することにより、ストライプ状の透明電極を形成する。次いで、透明電極状に光電変換を行う半導体素子としてのアモルファスシリコンの薄膜を形成する。なお、この部分は例えば、PN接合やPIN接合を有する半導体素子となっている。
【0044】
そして、ストライプ状にパターニングされた透明電極の薄膜層上に光電変換層として複数層からなるアモルファスシリコン層を成膜した後に、再び、レーザビームにより、溝を形成する。なお、この溝は、上述の透明電極の薄膜層に形成した溝に隣接するように形成される。
【0045】
次に、金属電極の薄膜層を形成し、同様にレーザビームにより溝を形成する。この際には、上述のアモルファスシリコン層に形成された溝に隣接するとともに、アモルファスシリコン層に形成された溝に隣接する透明電極に形成された溝とは、反対側でアモルファスシリコン層の溝に隣接するように、金属電極の溝が形成される。すなわち、各層の溝は、透明電極層の溝、アモルファスシリコン層の溝、金属電極層の溝の順に並んで隣接した状態に形成される。
【0046】
そして、以上のような各薄膜への溝の形成に本発明のビーム加工装置が用いられる。
図1および図2に示すようにビーム加工装置は、基板1の一方の面に形成された被加工層2(薄膜層)にビーム3を照射して加工するものであって、前記基板1を一方向に搬送する搬送機構4と、当該搬送機構4に搬送されている前記基板1の他方の面側から当該基板1の一方の面に形成された被加工層2に当該基板1を透過してビーム3を照射するとともに、ビーム照射に際して当該基板1に垂直にビームを照射するヘッド10を有するビーム照射装置11(ビーム照射手段)と、前記ヘッド10を前記搬送機構4で搬送される基板1に平行な面に沿い、かつ、互いに交差する二方向に同時に移動させることが可能なヘッド移動装置20とを備えている。
【0047】
この例における基板1は、たとえば、上述の発電システム用のガラス基板となる。また、被加工層2は、上述の透明電極、アモルファスシリコン、金属電極等の薄膜層となる。
【0048】
搬送機構4は、基本的に、基板1の一方の面に形成された被加工層2を下にした状態で基板1を水平にした状態で水平に一方向(たとえば、Y軸方向)に搬送するものである。
なお、基板1にストライプ状に加工されて形成される被加工層2の溝の方向に対して、搬送機構4による基板の搬送方向は、直交する方向となっている。
すなわち、形成すべき溝の方向に対して直交して搬送されるように、搬送機構4に基板1をセットする必要がある。
【0049】
また、加工に際しては、レーザビームを照射された被加工層2の昇華、溶融、剥離等によって粉塵が生じるので、たとえば、基板1の下方が開放された状態とすることが好ましく、たとえば、基板の両側部を支持して吊った状態に搬送する搬送機構を用いるものとしてもよい。また、このような状態となっていれば、基板1の被加工層2に焦点を合わされた状態のレーザビームにより、搬送機構が損傷することがない。
【0050】
なお、左右両側部を吊られた状態の基板1は、大きく撓む可能性があり、ヘッド10が水平方向に移動する場合に、ヘッド10と基板1との距離が位置によって変わってしまうことになる。このような場合には、ヘッド10の後述の対物光学装置13にオートフォーカス機能を設ける必要がある。すなわち、基板1とヘッド10との距離を測定し、その距離に対応して、対物光学装置13側でレンズの移動等により焦点を合わせることをヘッド10の移動に対応して自動で行う装置を設けることが好ましい。
もしくは、後述のように対物光学装置13として、軸状集光を行う軸状集光光学装置を用いることが好ましい。軸状集光光学装置は、その焦点深度が深いことから、基板1とヘッド10の距離が変動しても焦点深度の範囲内に納めることが可能となっている。
【0051】
なお、基板1の下面が接触した状態となるような搬送機構を用いた場合に、基板1の被加工層2となる薄膜層側が擦れるような状態とならないように、基板1を支持する部材を移動させて基板1を搬送することが好ましいが、この場合にレーザが基板1の下の部材に当たることになってしまう。
【0052】
そこで、この例では、気体を噴出して基板1を僅かに浮いた状態に支持するステージ41を有する搬送機構4を用いている。これにより、基板1の被加工層2を保護した状態で基板1を滑らせた状態に搬送することができる。この場合に基板1が移動し、その下の基板1を支持する部分は、移動しないので、レーザビームが通過する部分にだけ、レーザビームに当たらないように空間としてたとえば溝やスリットを設ければいいことになる。なお、この例では、レーザビームが複数で、かつ、搬送方向に直交する方向にも僅かではあるが移動するので、レーザビームを避けるために、比較的広い間隔を必要とする。
なお、所定の前記発電システム用の基板1の加工を行うものとした場合に、レーザビームの照射位置の移動パターン、すなわち、ヘッド10の移動パターンは決まっているので、各レーザビームが照射される部分にだけ狭いスリットを設けるような構成としてもよい。
【0053】
また、前記スリット(間隔)において、被加工層2にビームが照射することにより、被加工層2の昇華、溶融、剥離等により生じた粉塵を吸引する粉塵吸引手段を設けるものとしてもよい。これにより、粉塵の飛散を防止することができ、作業環境を清浄に保持することができ、ビーム加工装置のメンテナンスを容易とすることができる。
なお、吸引された粉塵は、たとえば、サイクロン等により分離し、破棄もしくは再利用するものとしてもよい。
【0054】
また、気体はステージ41の上面を構成する板体に多数の穴をほぼ均等に分散して設け、その下方から圧縮空気もしくはその他の圧縮気体を吹き出すものとしても良いし、ステージ41に空気を吹き出す複数の気体噴出板を分散して設け、各気体噴出板の裏面毎に圧縮気体を供給して気体を噴出するものとしてもよい。なお、気体は、空気でもよいが、たとえば、各種不活性ガスで、レーザビームで加工される被加工層2に影響を与えないものが好ましい。
また、気体の噴出だけではなく吸引も行い、この吸引力により基板の浮いた高さ位置をリアルタイムで変更可能な構成としてもよい。
【0055】
気体を噴出するステージ41を用いた場合には、基板1の側縁部だけではなく中央部も支持可能であり、基板1の撓みを抑制して、基板1を平板な状態に保持することが可能となり、位置によって基板1とヘッド10との距離が大きく異なる状態となるのを防止し、基板1とヘッド10との距離の変動の範囲を小さなものとすることができる。これにより、ヘッド10から照射されるレーザビームの焦点位置が被加工層2からずれるのを防止することができる。
【0056】
ヘッド10を有するビーム照射装置11は、レーザを生成する光源装置12と、当該光源装置12からレーザをヘッド10に導くビーム誘導系とを備えている。
光源装置12は、例えば、出力するレーザとして、YAGレーザ、CO2レーザや、その他の気体レーザ、固体レーザ、半導体レーザ、液体レーザ、ファイバーレーザ、薄膜ディスクレーザ等の少なくとも何れか1つを用いることができる。
【0057】
ここでは、例えば、可視光のレーザとして波長532nmのYAGレーザを用いる。
また、YAGレーザは、基本的に波長が1064nmであるが、これを半分の532nmとする技術が知られており、532nmの可視光とすることで、ガラス基板を効率的に透過することができる。
【0058】
なお、光源は、YAGレーザ用のものに限定されるものではなく、かつ、レーザビームの波長も532nmに限定されるものではないが、レーザビームは、ガラス基板等の被加工層2を有する基板を透過する波長である必要があり、例えば可視光を透過し、かつ、可視光領域以外の電磁波を透過しにくい基板においては、可視光のビームを用いることが好ましい。また、被加工層2では、ビームが効率的に吸収されて、ビームにより効率的に加工が可能なことが好ましく、ビームとされる電磁波の波長は、基板1を透過(吸収率が低く)し易く、かつ、被加工層2に吸収されやすい波長を選択する必要がある。
【0059】
また、基板1が透明で、被加工層2が透明電極のような場合には、例えば、可視光で、かつ、基板側には吸収のピークがなく、透明電極側には吸収のピークがあるような波長を選択しても良いし、可視光領域とその周辺領域、例えば、近赤外線領域や、近紫外線領域で基板1側は透過しやすく、被加工層2側は透過しにくい波長を選択してもよい。
また、レーザビームは、パルスであってもよい。
また、ビーム照射装置11は、ヘッド10の設けられた対物光学装置13(対物レンズ)を備え、対物光学装置13により、被加工層2に集光もしくは結像の焦点が合わされ、レーザビームが照射されるようになっている。
【0060】
なお、この例では、ヘッド10は複数のレーザビームを被加工層2に同時に照射するようになっており、複数の対物光学装置13、ここではたとえば4つの対物光学装置13が設けられている。なお、照射するビームの数に対応して光源装置12おいても、4つのビームを出力するようになっている。
また、この例において、対物光学装置13として、軸状集光を行う軸状集光用光学装置を用いることが好ましい。
すなわち、軸状集光ビームとしてのベッセルビームを照射するためのアクシコン(軸状集光用光学素子)が対物光学装置13として用いられる。アクシコンは、ベッセルビームを形成可能な光学素子の総称であり、円錐形状のレンズ以外に、リング状のスリットを有するものや、リング状の凹凸を備えるものなどが知られている。
この例では円錐形状レンズを用いる。
【0061】
対物光学装置13における軸状集光用光学装置は、アクシコンに限定されるものではなく、回折光学素子やホログラム光学素子などでも、軸状集光を行えることが知られており、これらアクシコン以外の光学素子を用いて、軸状集光ビームを出力するものとしてもよい。
【0062】
ベッセルビーム、すなわち軸状集光ビームは、光学素子であるアクシコンによって、集光される際に、アクシコンからある程度の距離まで軸状に集光された状態で出力される。
なお、光学素子によって焦点深度は異なるが、レーザビームの集光に使用される凸レンズ等の光学素子における焦点深度が例えば数100μm程度であるのに対して、アクシコンによる焦点深度を数mm程度とすることや、集光した際のビーム径にもよるが数10mm程度とすることが可能である。
【0063】
したがって、アクシコンを用いてベッセルビームを照射するものとすれば、上述のように左右側縁部を支持された基板1が自重によって撓んだ状態となっても、基板1に形成された被加工層2の水平方向の位置の違いよる鉛直方向の位置のずれをベッセルビームの焦点深度内に納めることが可能となる。
【0064】
そして、各対物光学装置13(ここでは軸状集光用光学装置)の焦点位置のずれや、基板側の水平方向の位置の違いによる被加工層の鉛直方向の位置のずれにより、各レーザビームの焦点精度が低下し、これに基づいて加工精度が低下してしまうが、ベッセルビームを用いた場合に、焦点深度が深いので、加工精度の低下を防止できる。
【0065】
すなわち、各ベッセルビームの焦点位置のずれをベッセルビームの焦点深度内に納めることが十分に可能なほど、焦点深度が深いので、焦点位置のずれが加工精度の低下につながらず、加工精度を維持することができる。
したがって、同時に複数のビームで被加工層を加工するものとしても、加工精度が低下するのを防止することができ、当該ビーム加工を用いて製造される製造物の性能の低下を防止することができる。例えば、製造物が光電効果を利用した発電システムの場合に、複数のビームで同時加工することによる発電効率の低下を防止することができる。
また、ベッセルビームのアクシコンは、通常の対物レンズとしての凸レンズよりも小径とすることができる。
【0066】
さらに、円錐形状レンズは、上述のように元から焦点深度が深くオートフォーカスの必要がないことから、例えば、上述の基板の撓みにオートフォーカスで対応できるように焦点距離を大きくするような必要がなく、通常のレンズのように焦点距離を大きくするためにレンズ径を大きくする必要がない。
【0067】
それに加えて、基板の裏面にある被加工層に基板の表面から基板を介してベッセルビームを照射することから、被加工層の加工により昇華、液化した後に再固化する被加工物が、円錐形状レンズに対して基板の反対側(向こう側)にあるので、再固化する被加工物が円錐形状レンズに付着しないように円錐形状レンズを被加工層から離す必要もなく、円錐形状レンズを撓んだ基板に接触しない程度に近づけることができる。したがって、ベッセルビームを照射する円錐形状レンズの径を大きくする必要が無く、通常の光学レンズに対してかなり径の小さな円錐形状レンズを使用することが可能となる。
【0068】
これにより、アクシコンを複数並べて複数のベッセルビームを同時に照射する場合に、通常の光学レンズによるレーザビームに比較して、ベッセルビームどうしの間隔を狭くすることができる。これによって、ベッセルビームの間隔の設計的な自由度が大きくなる。
また、複数の対物光学素子を備えるヘッド部分(対物光学装置)の大幅な小型化が可能となり、ヘッドの小型化および軽量化に伴いヘッドの移動機構等を簡素化したり、移動精度の向上やレスポンスの向上を図ることが容易となる。
そして、光源装置12からヘッド10にレーザを導くビーム誘導系は、この例では複数のミラー15,16,17によって構成される。
【0069】
また、ビーム照射装置11のビーム誘導系には、光源装置12からヘッド10の光路長をヘッド10の移動位置に拘わらずほぼ一定に保持する光路長調整装置14が設けられている。
この例では、ヘッド10は、基板1の搬送方向としてのY軸方向に直交する基板1の幅方向としてのX軸方向に沿って略基板1の幅程度の距離を移動するようになっており、基板1が大型のガラス基板の場合に、ヘッド10の移動により光源装置12からヘッド10までの距離が大きく変化する。
【0070】
ここで光源装置12から出力されるレーザビームは、たとえば,コリメートレンズにより平行光に変換されているが、完全な平行光とはならず、回折等により僅かに拡散してビーム径が徐々に大きくなる。したがって、ミラーを用いてヘッド10にレーザビームを導く場合に、ヘッド10が光源装置12から大きく離れたり,近づいたりする構造だと、離れた場合と近づいた場合で、対物光学装置13に入射するレーザビームのビーム径に明らかな違いが生じ、たとえば、これにより、焦点位置の変動や、ビーム強度の変動が生じ、精密な加工が阻害される。
【0071】
そこで、この例では、レーザビームを光路長調整装置14に迂回させて導くようになっている。
なお、前記ビーム誘導系は、基本的には、光源装置12から出力されるレーザビームをX軸方向に導く第1のミラー15と、ヘッド10と一体にX軸方向に移動し、かつ、Y軸方向には移動しない部分としての後述のX軸スライダ22に設けられ、さらに、第1のミラー15からのレーザビームをY軸方向に沿うように90度曲げてヘッド10に導く第2のミラー16とがあれば良いが、この例では、第1のミラー15と、第2のミラー16との間のレーザビームの光路に光路長調整装置14が設けられている。
【0072】
なお、この例においては、光軸をY軸方向に沿って配置された光源装置12の隣にヘッド10のX軸方向の移動に対して光路長を調整するために光路長調整装置14が設けられるが、光路長調整装置14へ入射されるレーザビームと、光路長調整装置14から出射されるレーザビームの向きをX軸方向ではなく、Y軸方向としている。また、光路長調整装置14を第1のミラー15と第2のミラー16との間ではなく、これらの外側でかつ第1のミラー15側となる位置に設けている。したがって、第1のミラー15から第2のミラー16に向かうX軸方向に沿ったレーザビームを第1のミラー15が第2のミラー16側ではなく、その反対側に向けて反射するようになっている。
また、第1のミラー15から反射されるレーザビームをX軸方向からY軸方向に90度まげて光路長調整装置14に入射させる第4のミラー29と、光路長調整装置14から出射されるY軸方向に沿ったレーザビームをX軸方向に曲げるとともに第2のミラー16に反射させる第3のミラー28とが備えられている。
【0073】
そして、光路長調整装置14には、導かれて入射したレーザビームの方向と平行な方向にレーザビームを反射して出力するためのミラー17,17が設けられている。ミラー17,17は、たとえば,二枚設けられ、入射したレーザビームを90度曲げて反射するミラー17と、当該曲げられたレーザビームをさらに90度まげて、前述のミラー17と合わせて180度曲げるようになっている。これで、入射したレーザビームと平行な方向へ、入射したレーザビームを反射して返すことができる。なお、入射するレーザビームの位置と、これに平行に反射されて出射されるレーザビームの位置とにはずれがあり、入射するレーザビームは光源装置12側の第1のミラー15および第4のミラー29を順番に反射されたもので、出射したレーザビームは、第3のミラー28を介してヘッド10を支持するX軸スライダ22の第2のミラー16に向かうようになっている。
【0074】
また、ここで、光路長調整装置14におけるレーザビームを反射する二枚のミラーは、光路長調整装置14において、互いに平行な入射するレーザビームと、出射するレーザビームとの光軸にそって、これらレーザビームと平行な方向、すなわち、光軸方向に沿って移動自在となっている。
【0075】
すなわち、光路長調整装置14は、前記二つのミラーが搭載されたスライダ部18と、当該スライダ部18を、前記光軸方向(Y軸方向)に移動自在に案内するレール部19と、前記スライダ部18をレール部19に沿って移動させる図示しない駆動源とを備えている。なお、駆動源は、ベルト、ワイヤ、ボールねじ等の回転運動を直線運動に変換可能な伝動機構を有する回転モータや、リニアモータなど、スライダ部18を直線方向に往復移動可能なものならばよい。
【0076】
そして、この光路長調整装置14を有するビーム誘導系は、光源装置12から出力されるレーザビームをX軸方向に導くとともに、光路長調整装置14の前記二枚のミラー17,17の一方のミラー17に向ける第1のミラー15および第4のミラー29と、光路長調整装置14から出力されるレーザビームを対物光学装置13に向ける第2のミラー16および第3のミラー28を備える。なお、光路長調整装置14に入射するレーザビームおよび光路長調整装置14から出射されるレーザビームをX軸方向に沿ったものとすれば、光路長調整装置14のためにレーザビームをY軸方向とX軸方向との間で変換する第3のミラー28および第4のミラー29は必要ではない。
【0077】
また、実際には、第2のミラー16で反射された光は、たとえば、上述の対物光学装置13に設けられた図示しないミラーで、Z軸方向に反射され、対物光学装置13の対物レンズに入射されることになる。
また、図1では、一つのレーザの光路しか示されていないが、ここでは、Z軸方向に間隔を空けて複数、たとえば、4本のレーザが同様の光路を通って光源装置12から対物光学装置13に導かれるようになっており、4つの対物光学装置13でそれぞれX軸方向に変換される。なお、第2のミラー16で反射された光のうちのZ軸方向(高さ方向)で最も低い位置のレーザビームが第2のミラー16に最も近い対物光学装置13に入射され、それからレーザビームが高くなる順に、第2のミラー16から遠くなる対物光学装置13に入射される構造となる。
【0078】
また、ヘッド移動装置20は、基板1の被加工層2の溝加工の方向となるX軸方向に沿った幅より僅かに広い範囲に渡ってヘッド10の移動を可能とするX軸移動機構23と、X軸移動機構23に設けられたX軸スライダ22に設けられてヘッド10をY軸方向に沿って移動可能とするY軸移動機構24とを有する。
【0079】
この例では、X軸移動機構23およびY軸移動機構24は、それぞれリニアモータからなっており、たとえば、リニアサーボモータやリニアステッピングモータを用いることにより、精密にヘッド10の移動を制御可能となっている。
そして、X軸移動機構23は、X軸方向に沿って延在するリニアモータの固定子を有するX軸ガイド部25と、当該固定子に沿って移動する移動子を有するX軸スライダ22とを有する。
【0080】
X軸ガイド部25はX軸スライダ22をX軸方向に案内するとともに固定子が移動子をX軸方向に駆動することになる。
また、X軸スライダ22に設けられるY軸移動機構24は、Y軸方向に沿って延在するリニアモータの固定子を有するガイド部27と、当該固定子に沿って移動する移動子を有するヘッド10とを有する。
【0081】
以上のような構成により、ヘッド10は、基板1に形成される被加工層2の幅を含む範囲でX軸方向に移動可能となっている。また、ヘッド10のY軸方向への移動可能な距離は、ヘッド10における各ビーム出射部の間隔が、基板1の被加工層2に形成される溝の間隔と等しくされている場合に、ビーム出射部(対物光学装置13)の数に溝の間隔を乗算した程度の距離となっている。
【0082】
たとえば、4本のビームにより、4つの溝を同時に形成する場合に、基板1がY軸方向に溝同士の間隔に同時に照射されるビームの数としての4を乗算した距離を搬送される前に被加工層のX軸方向に沿ったヘッド10の移動を終了して、4つの溝の加工が終わっている必要がある。
したがって、基本的には、ヘッド10のY軸方向への移動距離は、上述のようにヘッド10から出射されるビーム数に加工すべき溝同士の間隔を乗算した長さ以上は必要ないことになる。
【0083】
なお、後述のように、ヘッド10のY軸方向の移動速度と、基板1のY軸方向の移動速度は等しく制御されるが、移動継続する基板1に対してヘッド10は、溝を形成する動作毎に逆方向に戻って停止してから、再び、Y軸方向(順方向)に移動開始することから、ヘッド10のY軸方向の移動速度を基板1の移動速度まで加速するための加速距離を必要とする。
【0084】
また、基板1がヘッド10による一回の溝を作製するための動作で作製される溝から各溝間の間隔分だけ進んでしまうと、ヘッド10による次の溝作製が間に合わなくなるので、ヘッド10のY軸方向への移動距離は、最大でも上述の距離だけあれば足りることになる。
【0085】
したがって、Y軸移動機構24によるヘッド10のY軸方向の移動距離は、基板1のサイズに比較して極めて短いものとなっている。
そして、このようなX軸移動機構23およびY軸移動機構24を有するヘッド移動装置20によるヘッド10の移動を伴うビーム加工方法について説明する。
なお、ヘッドの移動制御は、図示しない移動制御装置(移動制御手段)によって行われる。
【0086】
移動制御装置は、リニアモータからなるX軸移動機構23およびY軸移動機構24を制御するもので、基本的には周知のサーボモータ制御もしくはステッピングモータ制御として制御が行われることになる。
そして、ビーム加工方法においては、まず、基板1が搬送機構4により所定速度SKで基板1が移動しているものとする。また、基板1には、ヘッド10におけるビームの照射数に対応する本数の溝毎にビーム照射開始位置が設定されることになる。なお、ビーム照射開始位置は、被加工層2の左側縁側と右側縁側とに交互に設定されることになる。
そして、ビーム照射開始位置がヘッドのビーム照射部のうちのたとえば基板1の搬送方向に対して最も後側となるビーム照射部のビーム照射位置となった際にヘッドにおけるビームの照射が開始されることになる。なお、レーザビームは、被加工層2を加工する際にだけ照射し、加工以外でヘッド10が移動している際には、照射を止めた状態としてもよいが、被加工層2を加工していない状態でもレーザビームを出力させたままとして、レーザビームを安定した状態とするものとしてもよい。
【0087】
この際にヘッド10のY軸方向に沿った移動速度と、基板1のY軸方向に沿った移動速度が同じとなって同期している必要がある。
そこで、移動制御においては、まず、ヘッド10がたとえば搬送方向に移動する基板1の左側にあり、かつ、搬送される基板1の次にビームを照射すべきビーム照射開始位置が、左側にあるものとする。また、ヘッドは、Y軸方向の原点位置、基本的には、搬送方向の最も後側にあるものとする。また、ヘッド10は、X軸方向の左右どちらかの原点位置にあるものとする。なお、X軸方向に関しては、ヘッド10の移動に際して最も左側となる原点位置と、最も右側となる原点位置とがある。
【0088】
また、原点位置は、ヘッド10の構造的な移動可能範囲の最も端となっている必要はなく、溝加工に際する移動範囲内において最も端となっていればよい。この際にヘッド10の構造的な移動可能範囲は、溝加工に際しヘッド10が移動する移動範囲より大きなものとする。
そして、基板1の前記ビーム照射開始位置が、ヘッド10の最も搬送方向の後側となるビーム出射部のビーム照射位置より所定距離手前となった段階で、ヘッド10のY軸方向への移動を開始し、ヘッド10の移動速度を基板1の搬送速度と等しくなるまで加速し、等しくなったところで、速度一定とする。
また、この速度一定となった際に、基板1の前記ビーム照射開始位置と、ヘッドの前記ビーム照射位置とが等しくなっている必要がある。
【0089】
そして、図3(a)に示すように、ヘッド10からのビーム照射位置はY軸方向に矢印Y1に沿って加速移動する。ヘッド10の移動速度が基板1の搬送速度に等しくなるとともに、ビーム照射開始位置と、ビーム照射位置が等しくなった時点で、ビームの照射を開始するとともに、ヘッド10をX軸方向に沿って移動する。これにより、図3(a)に示すようにヘッド10から照射される4本のビームの照射位置は、矢印Y2に沿って右斜め前に移動する状態となる。なお、X軸方向移動にも加速期間が必要となるので、実際には、前記ビーム照射開始位置と、前記ビーム照射位置とが等しくなる前にヘッド10のX軸方向への移動を開始する必要がある。
【0090】
この際のX軸方向への移動は、基本的に等速移動となるが、最初に上述のように加速が必要で最後に減速が必要となる。特に、加速や減速による速度の違いにより、レーザビームによる加工に影響が生じる場合には、X軸移動の開始位置と、停止位置を被加工層2の左右側縁より外側とし、X軸移動の開始位置でヘッド10がX軸方向に加速しながら移動開始し、被加工層2の側縁の外側から側縁に達した段階でX軸方向への移動速度が所定の速度SXとなった状態とし、それ以降ビームが被加工層2上に照射されている間は、所定速度で等速に移動するものとする。
なお、X軸方向における被加工層2の外側での加速時に同時にY軸方向の加速が行われるものとする。
【0091】
ここで、ヘッド10がY軸方向およびX軸方向に加速している段階が、一側縁側加速工程(左側縁側加速工程)となる。
そして、上述のようにヘッド10がY軸方向に基板1の搬送速度SKで等速移動し、X軸方向に所定速度SXで等速移動している段階が、順方向等速加工工程となる。
そして、レーザビームの照射位置が被加工層2の反対側の側縁に達したところで、ヘッド10のX軸方向の移動における速度を減速して停止させるようにすればいい。
【0092】
そして、X軸方向の等速移動が終了した段階、すなわち、Y軸方向の等速移動も終了した段階で、ヘッド10をY軸方向で基板1の搬送方向で逆方向に移動する。この際には、ヘッド10は、Y軸方向の移動において、減速してから停止し、そして逆方向に移動することになる。この際にX軸方向の移動も減速されて停止する。このヘッド10の原点位置に復帰する工程が他側縁側原点復帰工程となる。
また、この際に基板1において、上述のようレーザビームの照射が行われたビーム照射開始位置の次となるビーム照射開始位置が上述の所定の搬送速度SKで移動していることになる。
【0093】
それに対してヘッド10をY軸方向に沿って搬送方向の逆方向に移動して原点位置に戻すことになる。X軸方向では、左右に原点位置があり、左の原点位置の逆となる右の原点位置でヘッド10が停止した状態となる。
この際に、図3(a)の矢印Y3に示すように、Y軸方向に沿って上述のY軸方向の原点位置までヘッド10を戻すことになるが、この際に、基板1の次にビーム照射開始位置が、ヘッド10の前記ビーム照射位置よりも未だ後方にある必要があり、上述のようにヘッド10が移動開始して所定速度となった際にヘッド10の前記ビーム照射位置に基板1のビーム照射開始位置が追いついた状態となる必要がある。
【0094】
なお、加速や減速を考慮しなければ、この状態で、基板1の次のビーム照射開始位置をヘッド10のビーム照射位置に合わせることになるが、実際には再びX軸方向およびY軸方向に沿ってヘッド10を移動開始するとともに加速する他側縁側加速工程を経てビーム照射開始位置をヘッド10のビーム照射位置に合わせることになる。そして、この他側縁側原点復帰工程と他側縁側加速工程とを合わせて他側縁側照射位置合わせ工程となる。なお、他側縁側加速工程においては、基本的に左右位置が逆となる以外は、上述の位置側縁側加速工程と同様の処理が行われる。
すなわち、図3(b)の矢印Y4に示すように、Y軸方向に加速することになる。
【0095】
また、X軸方向においても、上述のX軸方向の移動開始となる左側の原点位置に対して右側の原点位置から、上述の場合と逆に右から左に移動する以外は同様に加速することになる。
そして、他側縁側加速工程において、Y軸方向の移動速度が前記基板1の搬送速度SKとなり、X軸方向の移動速度も所定の速度となり、かつ、基板1のビーム照射開始位置がヘッド10の照射開始位置となった際に、逆方向等速加工工程として、順方向等速加工工程の場合とX軸方向を逆方向に等速で移動し、かつ、Y軸方向に等速で移動してレーザビームによる加工を行う。すなわち、図3(b)の矢印Y5方向に移動する。
【0096】
そして、上述の場合と同様にX軸方向およびY軸方向への等速移動が終了し、X軸方向で減速して停止し、Y軸方向で減速停止した後にヘッド10をY軸方向に沿って矢印Y6に示すように原点位置に戻す一側縁側原点復帰工程を行う。
そして、ヘッドをY軸方向の搬送方向の逆方向に戻して原点位置とした後に、最初の工程に戻ることになる。
そして、一側縁側原点復帰工程と最初の一側縁側加速工程とが、基板1のビーム照射開始位置にヘッド10のビーム照射位置を合わせる一側縁側照射位置合わせ工程となる。
【0097】
以上のようなビーム加工方法において、ヘッド10の移動は、概略図3(c)に示すように蝶ネクタイ状の移動となる。すなわち、左側から右前側に斜めに移動した後に、後側に真っ直ぐ戻り、右側から左前側に斜めに移動した後に後側に真っ直ぐ戻ることにより、移動形状が蝶ネクタイ状となる。
また、このような移動において、左側から右前側の移動における前側、すなわちY軸方向の移動における速度が基板1の搬送速度と一致し、右側から左前側の移動における前側、すなわち、Y軸方向の移動における速度が基板1の搬送速度と一致することから、基板1の被加工層2における加工形状は、ストライプ状に溝が等間隔で並んだものとなる。
なお、図3において、実線が順方向(ここでは、左から右)の加工を示し、破線が逆方向(ここでは、右から左)の加工を示すものとなっている。
【0098】
このようなビーム加工方法を行うためのヘッドの移動制御は、前記移動制御装置により、Y軸方向とX軸方向の処理が同時に行われることになり、以下に示す概略工程で制御が行われることになる。
ヘッド位置をY軸原点位置およびX軸左側原点位置(右側原点位置でも可)とする。なお、サーボ制御においては、X軸移動機構23およびY軸移動機構24において、固定子側に移動子の位置を計測するセンサを設け、当該センサによりY軸移動機構24およびX軸移動機構23でそれそれ移動子の位置を計測することでヘッドの位置を計測可能としている。
【0099】
所定のヘッド位置にない場合には、ヘッド10を移動することになる。また、ヘッド10の動作中も前記センサにより求められた位置によりフィードバック制御が行われる。
搬送機構が連動して基板1の搬送が行われ、基板1が所定速度SKまで加速し、所定速度SKで搬送される。
【0100】
そして、基板1の被加工層の上述のビーム照射開始位置が所定位置に達した際、すなわち、ビーム照射開始位置から原点位置にあるヘッド10のビーム開始位置に対して所定距離L1だけ手前にある位置となった際に、以下の処理を行う。
すなわち、Y軸移動機構24において移動子を速度0から所定速度SKまで加速するとともに、この際の加速度が移動子が所定距離だけ移動する所定期間で所定速度SKに達する加速度に設定されている。
【0101】
ここで、所定速度SKは、搬送機構における搬送速度SKと同じ速度となる。また、この際に基板1は前記所定距離に加えて前記所定期間中に所定速度SKで基板1が搬送される距離分だけ移動し、この際に前記ビーム開始位置がヘッドのビーム照射位置となるように設定されている。
また、X軸移動機構23において移動子を速度0から所定速度SXまで加速する。この際に、ヘッドのビーム照射位置は、被加工層2の外側から被加工層2の側縁の上述のビーム照射開始位置に達する。
【0102】
この状態でY軸移動機構24の移動子の速度が所定速度SKとなり、X軸移動機構23の移動子の速度が所定速度SXとなるとともに、ヘッド10の位置はそのビーム照射位置が基板1のビーム照射開始位置となる。この制御工程が、一側縁側加速制御工程となる。
この状態で被加工層2の他方の側縁の加工終了位置となるまで、上述の状態のままX軸移動機構23の移動子と、Y軸移動機構24の移動子とが移動を継続する。これが順方向等速加工制御工程となる。
そして、加工終了位置に達すると、Y軸移動機構24における移動子が急減速し、かつ、停止した後に逆方向に急加速移動してY軸原点位置に戻るとともに、Y軸原点位置近傍で再び急減速してY軸原点位置で停止する。
同様にX軸移動機構23でも移動子が急減速し、かつ、停止してX軸右側原点位置で停止する。これが他側縁側原点復帰制御工程となる。
【0103】
次に、再び、上述のY軸移動機構24における移動子の加速工程と、X軸移動機構23における移動子の加速工程とを行う。すなわち、他側縁側加速制御工程を行う。なお、上述の他側縁側原点復帰制御工程と、他側縁側加速制御工程とを合わせた工程が、基板1の被加工層2の他方の側縁側でヘッド10を基板1の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の基板1の順方向等速加工制御工程でヘッド10の搬送方向の最も後側となるビーム出射部(対物光学装置13)で加工された部分から所定間隔離れた位置に、ヘッド10の搬送方向の最も先側となるビーム出射部から照射されるビームを照射可能に移動する他側縁側照射位置合わせ制御工程となる。
なお、X軸移動機構23における進行方向は、上述の加速工程とは逆方向となる。
そして、Y軸移動機構24における移動子の移動速度が所定速度SKとなり、X軸移動機構23における移動の移動速度が所定速度SXとなる。また、ヘッド移動装置20により移動したヘッド10のビーム照射位置が、基板1の次のビーム照射開始位置となる。
【0104】
この段階で、上述の順方向等速加工制御工程と同様でX軸方向の進行方向だけが逆となる逆方向等速加工制御工程での処理が行われる。すなわち、ヘッド10がレーザビームを照射しながらY軸方向に所定速度SKで移動し、X軸方向に所定速度SXで移動する。
そして、ヘッド10のビーム照射位置が、基板1の被加工層2の一方の側縁のビーム照射終了位置に達した際に、上述の他側縁側原点復帰制御工程と同様の一側縁側原点復帰制御工程が行われる。なお、X軸移動機構23においては、原点が左右にあり、前の他側縁側原点復帰制御工程と逆の左右位置の原点に復帰することになる。
ここでは、最初のX軸移動機構23の左の原点位置に戻ることになる。
そして、上述の最初の状態に戻るとともに、上述の工程を繰り返すことで、さらに溝加工を継続することができる。なお、この一側縁側原点復帰制御工程と、最初の一側縁側加速制御工程とを合わせた工程が、上述の他側縁側照射位置合わせ制御工程と同様の一側縁側照射位置合わせ制御工程となる。なお、他側縁側照射位置合わせ制御工程と一側縁側照射位置合わせ制御工程とではX軸方向の左右位置が逆になる。
【0105】
以上のようなビーム加工装置によるビーム加工方法によれば、ヘッドを上述のように移動することで、基板1の搬送を停止することなく被加工層にストライプ状に溝を形成することができるので、前記発電システム等の製造において、作業期間の大幅な短縮を行うことができる。
また、基板1の搬送機構においては、頻繁に加速、減速、停止を繰り返すことがないので、搬送される基板1が大型で重量が大きなものであっても、搬送機構に大きな強度が要求されたりすることがなく、搬送機構のコストの低減を図ることができる。
【0106】
また、ヘッドを蝶ネクタイの外周に示されるような形状に沿って移動しながら、基板1に垂直にレーザビームを照射することができるので、基板1の他方の面側から一方の面側の被加工層にレーザビームを照射して加工する際に、斜めに照射するとともに照射角度が変化するような場合と比較して基板1とたとえば周囲の雰囲気となる空気やその他の気体との界面における屈折率による反射率や照射角度の変化がなく、精密で略一定した加工が可能となり、これにより前記発電システムの製造においては発電効率の向上が望める。
【0107】
また、この際に、搬送機構を気体を噴出して基板1を浮上させた状態に支持する気体浮上搬送機構を用いるものとすると、基板1の撓みを抑制することができ、オートフォーカスでヘッドの移動に対応して対物光学装置13の焦点位置を制御する必要がないので、コストの低減を図ることができる。また、コストの低減のためにオートフォーカス機構を設けないものとしても、基板1の撓みによる被加工層のZ軸方向のずれがなくなる。
また、対物光学装置13の対物レンズとして軸状集光レンズを用いることにより、焦点深度が深くなり、多少の被加工層のZ軸方向に対するずれがあっても焦点深度内に納めることが可能となり、これによってもオートフォーカス機構なしでの加工における加工精度の向上を図ることができる。
【0108】
また、これらのことから、複数のビームを同時に照射する構成とした場合に、各ビーム毎の対物光学装置13の焦点のずれや、ビーム照射位置の違いによる被加工層側のZ軸方向のずれなどに拘わらず、複数のビームの被加工層上の各照射位置を焦点深度内に納めることが可能となり、ビームを複数同時に照射する構成としても加工精度が低下するのを防止できるとともに、加工品質を保持したたまま同時照射可能なレーザビーム数を増加することができる。
【0109】
また、これにより加工時間のさらなる短縮を図ることができる。
また、ストライプ状に多くの直線状の加工を狭い間隔で繰り返し行える構成とした場合に、ヘッドのX軸方向への移動速度や、Y軸方向における上述の減速、原点復帰工程の際
移動速度が基板1の搬送速度に対して十分に速い必要があるが、一度に複数のレーザビームを用いて複数の溝を加工することで、たとえば、基板1の搬送速度を一定とした場合にヘッドのX軸方向の移動速度の低減や、Y軸方向の減速、停止、加速に必要な期間の長期化を図ることができ、これによってヘッド移動装置20のコストの低減を図ることができる。
【0110】
また、逆に、基板1の搬送速度を速くしてさらなる加工時間の短縮を図ることも可能となる。
また、このようなビーム加工装置におけるビーム加工方法で製造されたビーム加工基板においては、上述のビーム加工装置のコスト低減による製造設備のコスト低減と、製造時間の短縮によるコストの低減を図ることができる。このようにコストの低減を図っても精密で安定したビーム加工により、高い品質を有するビーム加工基板となり、たとえば、光電効果を利用した発電システムのパネルに応用した場合に発電効率の高いものとすることができる。
【0111】
次に本発明の第2の実施の形態のビーム加工装置を図4、図5および図6を参照して説明する。
なお、第2の実施の形態のビーム加工装置は、第1の実施の形態のビーム加工装置と、一部構成が異なるが基本的な構造は、同様の構造となっているとともに、基本的な使用方法も同様なものとなっている。また、第2の実施の形態のビーム加工装置は、基本的に第1の実施の形態のビーム加工装置に第1の実施の形態で図示および説明を省略した構成を加えたものとなっている。
【0112】
第2の実施の形態のビーム加工装置は、第1の実施の形態と同様に、基板1の一方の面に形成された被加工層2(薄膜層)にビーム3を照射して加工するものであって、前記基板1を一方向に搬送する搬送機構4と、当該搬送機構4に搬送されている前記基板1の他方の面側から当該基板1の一方の面に形成された被加工層2に当該基板1を透過してビーム3を照射するとともに、ビーム照射に際して当該基板1に垂直にビームを照射するヘッド10を有するビーム照射装置11(ビーム照射手段)と、前記ヘッド10を前記搬送機構4で搬送される基板1に平行な面に沿い、かつ、互いに交差する二方向に同時に移動させることが可能なヘッド移動装置20とを備えている。
なお、図4、図5および図6においては、搬送機構4および基板1の図示を省略し、ビーム照射装置11およびヘッド移動装置20を図示している。
【0113】
この例における搬送機構4および基板1は、第1の実施の形態と同様のものである。
ヘッド10を有するビーム照射装置11は、レーザを生成する光源装置12と、当該光源装置12からレーザをヘッド10に導くビーム誘導系とを備えている。なお、ビーム誘導系については、後に説明する。
光源装置12は、第1の実施の形態と同様のものである。
【0114】
また、ビーム照射装置11は、ヘッド10の設けられた対物光学装置13(対物レンズ)を備え、対物光学装置13により、被加工層2に集光もしくは結像の焦点が合わされ、レーザビームが照射されるようになっている。
この例において、対物光学装置13として、軸状集光を行う軸状集光用光学装置を用いており、アクシコンとして、円錐形状のレンズを用いている。
【0115】
また、ヘッド移動装置20は、基板1の被加工層2の溝加工の方向となるX軸方向に沿った幅より僅かに広い範囲に渡ってヘッド10の移動を可能とするX軸移動機構23と、X軸移動機構23に設けられたX軸スライダ22に設けられてヘッド10をY軸方向に沿って移動可能とするY軸移動機構24とを有する。
【0116】
この例では、X軸移動機構23およびY軸移動機構24は、第1の実施の形態と同様の構成を有し、それぞれリニアモータからなっており、たとえば、リニアサーボモータやリニアステッピングモータを用いることにより、精密にヘッド10の移動を制御可能となっている。
そして、X軸移動機構23は、X軸方向に沿って延在するリニアモータの固定子を有するX軸ガイド部25と、当該固定子に沿って移動する移動子を有するX軸スライダ22とを有する。
【0117】
X軸ガイド部25はX軸スライダ22をX軸方向に案内するとともに固定子が移動子をX軸方向に駆動することになる。
また、X軸スライダ22に設けられるY軸移動機構24は、Y軸方向に沿って延在するリニアモータの固定子を有するガイド部27と、当該固定子に沿って移動する移動子を有するヘッド10とを有する。なお、ヘッド移動装置20は、基本的に第1の実施の形態と同様の構造を有するものである。なお、図4において、後述のミラー56の位置はY軸方向に移動しない構成となっている。
【0118】
前記ビーム誘導系は、第1の実施の形態と同様に、光路長調整装置14を備えるものとなっている。
そして、ビーム誘導系を光源装置12側から説明すると、光源装置12の前側には、シャッタ51、アッテネータ52およびミラー53がこの順で光源装置12側から一列に並んで配置されている。また、ミラー53がビーム3を90度曲げることになるが、ミラー53で曲げられるビーム3が向かう先には、さらにビーム3を90度曲げるミラー54が配置されている。
【0119】
また、ミラー54で曲げられるビーム3が向かう先には、光路長調整装置14が配置されている。光路長調整装置14は、光源装置12の隣側に配置されており、光源装置12から出射されるビーム3の方向と、光路長調整装置14に入射するビーム3の方向とが互いに平行となっている。
そして、光路長調整装置14から反射されたビーム3の方向を変えるミラー55が、光路長調整装置14からミラー54を超えた位置に設けられ、光路長調整装置14からのビーム3を上記X軸方向に沿った方向に向けるようになっている。なお、光路長調整装置14からのビーム3はミラー54の上を抜けるようになっている。
【0120】
そして、ミラー55により反射されたビーム3は、X軸移動機構23のX軸ガイド部25に沿ってX軸スライダ22に至るようになっている。X軸スライダ22には、X軸方向に沿ったビーム3をY軸方向に90度曲げてヘッド10に至らせるミラー56が備えられている。
なお、ミラー55は、ビーム3の位置調整のために角度を上下左右に変更可能となっているとともに、ビームスプリッタとして入射したビーム3の一部を透過させ、ビーム位置検出センサ57に向けるようになっている。なお、上述の光源装置12、シャッタ51、アッテネータ52、ミラー53,54,55および光路長調整装置14は、X軸移動機構23の一方の端部側に配置され、ビーム位置検出センサ57は、X軸移動機構23の他方の端部に配置されている。
【0121】
また、ヘッド10に、図5に示すようにミラー56を反射したビーム3の方向を鉛直方向に向けるミラー58が備えられ、このミラー58で反射したビーム3がヘッド10の課端部に設けられた対物光学装置13としての円錐形状レンズに至るようになっている。
また、ミラー58と対物光学装置13との間には、鉛直方向にされたビーム3に沿って2つのコリメートレンズが配置されており、対物光学装置13に入射するビームを平行光とするとともに、ビーム径を適切なものとしている。
【0122】
以上のようなビーム誘導系においては、光源装置12から照射されたビーム3が、シャッタ51、アッテネータ52を通過するようになっている。シャッタ51は、レーザビームを通過させる状態と遮断する状態とを切り換えるものであり、上述のビーム加工方法において、他側縁側原点復帰工程および他側縁側加速工程からなる他側縁側照射位置合わせ工程と、一側縁側原点復帰工程および一側縁側加速工程からなる一側縁側照射位置合わせ工程との際には、ビーム3を照射する必要がないが、この際に光源装置12をオフすると、次に光源装置12をオンとした際に安定した状態となるまで時間を要するので、シャッタ51でビームを遮断するようになっている。すなわち、シャッタ51は、光源装置12をオンとしたままビーム3をオンオフするためのものである。
【0123】
アッテネータ52は、レーザビームの光量を減衰側に調整するもので、光量を減衰してレーザ加工に適切なビーム強度とするためのものである。
そして、アッテネータ52を通過したビーム3は、ミラー53,54を介して光路長調整装置14に入射される。
光路長調整装置14は、第1の実施の形態と同様に、レール部19と、レール部19に沿って移動するスライダ部18を有するが、スライダ部18上のミラー17,17に代えてリトロリフレクタ61が用いられている。
【0124】
リトロリフレクタ61は、入射光に対して反射光が平行となり、ミラー54から入射したビーム3は、ミラー54と同方向にあるミラー55に向かって反射することになる。したがって、光路長調整装置14は、第1の実施の形態と同様に機能する。
そして、ミラー55に向けられたビーム3は、X軸方向に沿ってX軸スライダ22のミラー56に当たることになる。そして、ビームスプリッタでもあるミラー56から、ビーム3の一部がビーム位置検出センサ57に向かうことになる。
【0125】
ビーム位置検出センサ57は、周知のビーム位置を検出するPSD(Position
Sensitive Detector)であり、照射されたレーザビームの位置を出力するようになっており、ここでは、予め設定された基準点に対するレーザビームの現状の位置を測定し、その基準点からのずれに基づいて、ミラー56の角度を変更する。すなわち、ビーム位置検出センサ57からの出力に基づきミラー56の角度をフィードバック制御するようになっている。
なお、この制御は、例えば、図示しない光路制御装置(光路制御手段)により行われる。
【0126】
なお、PSDには、パルスレーザに対応していないものがあり、例えば、メーカーによっては、PSD信号処理回路として、DC信号処理回路を備えるDCタイプのPSDと、AC信号処理回路を備えるACタイプのPSDに分け、DCタイプは、パルスレーザを測定できず、ACタイプは、パルスレーザの測定が可能とされている場合がある。
この例では、パルスレーザが使用されるため、パルスレーザ対応のPSD(PSD信号処理回路)を用いることになる。
以上のような第2の実施の形態のビーム加工装置も、第1の実施の形態と同様のビーム加工方法で用いることができ、同様の作用効果を得ることができる。
なお、図4、図5等において、対物光学装置を一つだけ図示したが、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に複数の対物光学装置を設け、複数のビームを同時に照射可能とすることが好ましい。
【0127】
次に、第3の実施の形態のビーム加工装置を図7(a)、(b)および図8を参照して説明する。
第1および第2の実施の形態において、基板1の被加工層2側を下として基板1の上側からレーザを照射していたの対して、第3の実施の形態では、基板1の被加工層2側を上として、基板1の下側からレーザを照射する構成となっている。
【0128】
第3の実施の形態では、第1および第2の実施の形態と搬送機構104の構造が異なり、さらに、ビーム照射手段のヘッド110が搬送機構104上の基板1の下側に配置されるとともに、ヘッド110の移動機構や、ヘッド110にレーザビームを誘導するビーム誘導系が搬送機構104上の基板1に対して下側に配置される点で第1および第2の実施の形態と異なるが、この基板1に対する位置関係以外は、第1の実施の形態もしくは第2の実施の形態と同様のビーム照射手段(ビーム照射装置111)を用いることができる。
第3の実施の形態のビーム加工装置は、第1および第2の実施の形態と同様の用途で用いることが可能で、かつ同様の加工が可能なものであり、第1の実施の形態と同様に光電効果を利用した発電システムを製造することができる。
【0129】
第3の実施の形態の搬送機構104は、気体浮上搬送機構(ステージ41)を備えておらず、支持手段としてのローラ103を備えている。また、ローラ103は、それぞれローラ支持部材105により回転自在に支持されている。また、ローラ103は、その回転中心が搬送機構104による基板1の搬送方向と直交する方向に配置されており、基板1を搬送方向にそって移動自在に支持している。
【0130】
また、ローラ103は、搬送方向に沿って複数列に配置されているとともに、搬送方向と直交する幅方向にそって複数列に配置されており、基板1を下側から基板1が撓まないように支持している。
すなわち、搬送機構104は、基板1を平らな状態となるように支持していることになる。なお、ローラ103を基板1の幅方向(当該基板1の搬送方向に直交する方向)に対して複数並べて配置するのではなく、ローラ103を基板1と同じ程度の長さとして、基板1の撓みを防止する構造としてもよい。
【0131】
ローラ103は、基板1の下面に接触することになるが、基板1は被加工層2を上側に向けて搬送機構104に配置されるので、ローラ103に被加工層2が接触することがなく、ローラ103との接触により、被加工層2が傷つくことがない。なお、これらローラ103は、全ての上端部がほぼ水平な1つの平面内に配置されるようになっており、基板1をほとんど撓ませることなく平に支持した状態となる。
【0132】
また、ローラ103は、基本的に基板1を搬送方向に移動可能に支持しているだけで、基板1の移動は、例えば、リニアモータ等の直動する装置で基板1の側縁部を保持して基板1を移動させるようになっている。
また、搬送機構104は、二分割され、それらの間の隙間であるスリット部101を備えている。スリット部101は、搬送方向に直交しており、基板1の幅と同じ程度もしくはそれ以上の長さを有するものとなっている。
【0133】
そして、スリット部101の下側では、後述するようにヘッド110が基板1の搬送方向であるY軸方向と、搬送方向に直交するX軸方向に移動自在となっている。
また、スリット部101の上側には、上述のレーザビーム加工により生じる粉塵を吸引除去する吸引手段107が設けられている。
【0134】
吸引手段107は、第1の実施の形態の粉塵吸引手段と同様のものであるが、基板1の下側ではなく、基板1の上側から基板1の被加工層2に近接して吸引を行うものとなっている。吸引手段107は、前記スリット部101の上側に配置されている。また、スリット部101で下側からのレーザビームの照射により被加工層2のビームで加工される部分全体を覆うように配置されている。これにより、レーザビーム照射により、上述のように生じた粉体(粉塵)が吸引除去されるので、基板1の被加工層2に粉塵が再付着したり、被加工層2が汚れた状態となるのを防止することができる。なお、吸引手段107をヘッド110の移動範囲(搬送機構104において基板1がレーザ照射を受ける範囲)全体に渡って粉体を吸引できるように固定的に設けるものとしたが、レーザの照射位置の移動に対応して吸引手段107が移動するものとしてもよい。
【0135】
第3の実施の形態におけるビーム照射装置111は、基本的に第2の実施の形態のビーム照射装置11と同様のものであり、レーザビームを生成する光源装置112と、当該光源装置112からヘッド110にレーザビームを導くビーム誘導系を備えている。
【0136】
なお、図7および図8に示す概略図に基づいて、ビーム誘導系を説明すると、光源装置112からX軸方向に沿って照射されたレーザビームは、ミラー115によりY軸方向に向けられ、第2の実施の形態の光路長調整装置14と同様の光路長調整装置114に導入された状態となる。光路長調整装置114に導入されたレーザビームは、ミラー116によりY軸方向からX軸方向に向きを変えられる。ミラー116のX軸方向先側には、光路長調整装置114のリトロリフレクタ117がX軸方向に移動自在に配置されている。リトロリフレクタ117は、光路長調整ステージ113上でX軸方向に移動自在に支持されている。
【0137】
なお、基本的に、光路長調整装置114は、第2の実施の形態の光路長調整装置14と同様のものである。また、リトロリフレクタ117は、第2の実施の形態のリトロリフレクタ61と同様のものであり、ミラー116からリトロリフレクタ117にレザービームが照射されるとともに、リトロリフレクタ117が移動することで、レーザビームの光路を略一定に保持するようになっている。
【0138】
リトロリフレクタ117から出射された光は、ミラー118を介してミラー119に照射され、ミラー119は、X軸方向にそってヘッド110に光を照射する。
ヘッド110は、搬送機構104のスリット部101の下側に設けられたX軸ステージ109上で、X軸方向に沿って移動自在に支持されている。
ヘッド110は、X軸方向に沿って搬送機構104のスリット部101の下側を移動するが、このヘッド110にミラー119からレーザビームが照射された状態が保持される。
また、これらの構成要素からなるビーム照射装置111は、ベース120上に配置された状態で、搬送機構104の内部に収納された状態となっており、上述のようにヘッド110をX軸方向に移動させるX軸ステージ109が搬送機構104のスリット部101の真下に配置されるようになっている。
【0139】
なお、ヘッド110は、上述の第2の実施の形態と同様に僅かな距離だけY軸方向にも移動するものであるが、図7および図8では、Y軸方向への移動する構成を省略している。また、ヘッド110は、複数のレーザビームを同時に照射するものとしてもよい。この際にレーザビームは、Y軸方向に並んだ状態となっている。
そして、この例のビーム加工装置におけるビーム加工方法は、基板1が被加工層2を上に向けている点と、ヘッド110が基板1の下側に配置されて、基板1の下側から上に向けてレーザビームを照射している点以外は、第1の実施の形態もしくは第2の実施の形態と同様に行われることになる。
【0140】
すなわち、第1の実施の形態と同様に、搬送機構104で基板1を一定速度で搬送している状態で、基板1の搬送に同期して、上述のようにヘッド110によるレーザビームの照射位置を蝶ネクタイ状に移動する構成となっている。
この例では、被加工層2を上側にして基板1を配置することで、被加工層2を傷つけることなく基板1を下側から支持して、基板1の撓みを防止することができる。また、レーザビームを基板1の下側から照射することで、基板1を通過したレーザビームで被加工層2の加工を行うことができる。
【0141】
したがって、基板1を下側から支持することで、基板1を平に保持した状態で、レーザ加工が行えるので、基板1が撓むことがなく、加工精度の向上を図ることができるとともに、ローラ等で支持可能なので、搬送機構104を安価なものとすることができる。 また、被加工層2を上にした場合に、被加工層2の加工によって生じる粉体が基板1に付着してしまう虞があるが、基板1の上側から粉体を吸引除去することで、基板1への被加工層2の加工で生じる粉体の付着を防止することができる。
これにより、基板1の下側から基板1の上面側の被加工層2を加工するものとしても問題が生じることがなく、被加工層2の加工を行うことができる。
また、第1および第2の実施の形態と同様のビーム加工方法を用いることで、第1および第2の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
なお、基板1の下側を支持する部材は、基板1の撓みを防止でき、かつ、基板1を傷つけることなく、円滑に搬送方向に移動可能ならばどのようなものであってもよく、例えば、ベルトにより搬送するような構造であってもよい。
【符号の説明】
【0142】
1 基板
2 被加工層
3 レーザビーム(ビーム)
4 搬送機構
10 ヘッド
11 ビーム照射装置(ビーム照射手段)
13 対物光学装置(ビーム出射部)
20 ヘッド移動装置(ヘッド移動手段)
110 ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に形成された被加工層にビームを照射して加工するビーム加工装置であって、
前記基板を一方向に搬送する搬送機構と、
当該搬送機構に搬送されている前記基板の他方の面側から当該基板の一方の面に形成された被加工層に当該基板を透過してビームを照射するとともに、ビーム照射に際して当該基板に垂直にビームを照射するヘッドを有するビーム照射手段と、
前記ヘッドを前記搬送機構で搬送される前記基板に平行な面に沿い、かつ、互いに交差する二方向に同時に移動させることが可能なヘッド移動手段と、
を備え、
前記ヘッド移動手段は、前記搬送機構による前記基板の搬送速度に同期して、前記ヘッドを移動させることにより、搬送されて移動中の前記基板に垂直にビームを照射して当該基板の前記被加工層を加工することを特徴とするビーム加工装置。
【請求項2】
前記基板の被加工層に所定間隔毎に互いに平行に直線状に前記ビームによる加工を施すものとし、
前記搬送機構では、前記基板が前記直線状の加工の方向に対して直交する方向に所定の搬送速度で搬送され、
前記ヘッドには、前記基板の搬送方向に沿って前記所定間隔毎にそれぞれビームを出射する複数のビーム出射部が備えられ、
搬送中の前記基板に対して前記ヘッドを前記基板の搬送方向に沿って当該基板の所定の搬送速度と同じ速度で移動し、かつ、同時に、前記基板の前記被加工層の一方の側縁側から他方の側縁側に向かって搬送方向に直交する方向に移動することで、前記基板に前記ビーム出射部の数となる本数の加工を施す順方向等速加工制御工程と、
当該順方向等速加工制御工程後に前記基板の前記被加工層の他方の側縁側で前記ヘッドを前記基板の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の前記基板の前記順方向等速加工制御工程で前記ヘッドの前記搬送方向の最も後側となる前記ビーム出射部で加工された部分から前記所定間隔離れた位置に、前記ヘッドの前記搬送方向の最も先側となる前記ビーム出射部から照射されるビームを照射可能に移動する他側縁側照射位置合わせ制御工程と、
前記他側縁側照射位置合わせ制御工程後に搬送中の前記基板に対して前記ヘッドを前記基板の搬送方向に沿って当該基板の所定の搬送速度と同じ速度で移動し、かつ、同時に、前記基板の前記被加工層の他方の側縁側から一方の側縁側に向かって搬送方向に直交する方向に移動することで、前記基板に前記ビーム出射部の数となる本数の加工を施す逆方向等速加工制御工程と、
前記逆方向等速加工制御工程後に前記基板の前記被加工層の一方の側縁側で前記ヘッドを前記基板の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の前記基板の前記逆方向等速加工工程で前記ヘッドの前記搬送方向の最も後側となる前記ビーム出射部で加工された部分から前記所定間隔離れた位置に、前記ヘッドの前記搬送方向の最も先側となる前記ビーム出射部から照射されるビームを照射可能に移動する一側縁側照射位置合わせ制御工程とからなる制御工程で前記ヘッドを移動させるように前記ヘッド移動手段を制御するヘッド移動制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のビーム加工装置。
【請求項3】
前記基板は、前記被加工層が形成される一方の面を上側にして前記搬送機構で搬送され、前記搬送機構で搬送される前記基板より下側に前記ヘッドが配置され、当該ヘッドから上側の前記基板に向けてビームが照射されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のビーム加工装置。
【請求項4】
一方の面にビームで加工すべき被加工層を備える基板を略水平な一方向に搬送し、
かつ、前記基板の他方の面側から当該基板の一方の面に形成された被加工層に前記基板を透過してビームを照射するヘッドから前記基板に対して垂直に照射されるビームにより前記被加工層を加工するに際し、
前記ヘッドを搬送される前記基板に平行な面に沿い、かつ、互いに交差する二方向に同時に移動可能とし、
前記基板の搬送に同期して、前記ヘッドを移動させることにより、搬送されて移動中の前記基板に垂直にビームを照射して当該基板の前記被加工層を加工することを特徴とするビーム加工方法。
【請求項5】
前記基板の被加工層に所定間隔毎に互いに平行に直線状に前記ビームによる加工を施すものとし、
前記基板を直線状の加工の方向に対して直交する方向に所定の搬送速度で搬送し、
前記ヘッドは、複数のビームを前記基板の搬送方向に沿って前記所定間隔毎にそれぞれ同時に出射し、
前記ヘッドの移動によるビームでの加工に際し、
搬送中の前記基板に対して前記ヘッドを前記基板の搬送方向に沿って当該基板の搬送速度と同じ速度で移動し、かつ、同時に、前記基板の前記被加工層の一方の側縁側から他方の側縁側に向かって搬送方向に直交する方向に移動することで、前記基板に前記ビームの数となる本数の加工を施す順方向等速加工工程と、
当該順方向等速加工工程後に前記基板の前記被加工層の他方の側縁側で前記ヘッドを前記基板の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の前記基板の前記順方向等速加工工程で前記ヘッドの前記搬送方向の最も後側となる前記ビームで加工された部分から前記所定間隔離れた位置に、前記ヘッドの前記搬送方向の最も先側となるビームを照射可能に移動する他側縁側照射位置合わせ工程と、
前記他側縁側照射位置合わせ工程後に搬送中の前記基板に対して前記ヘッドを前記基板の搬送方向に沿って当該基板の搬送速度で移動し、かつ、同時に、前記基板の前記被加工層の他方の側縁側から一方の側縁側に向かって搬送方向に直交する方向に移動することで、前記基板に前記ビームの数となる本数の加工を施す逆方向等速加工工程と、
前記逆方向等速加工工程後に前記基板の前記被加工層の一方の側縁側で前記ヘッドを前記基板の搬送方向と逆方向に移動するように制御して搬送中の前記基板の前記逆方向等速加工工程で前記ヘッドの前記搬送方向の最も後側となる前記ビームで加工された部分から前記所定間隔離れた位置に、前記ヘッドの前記搬送方向の最も先側となる前記ビームを照射可能に移動する一側縁側照射位置合わせ工程とを繰り返し行うことを特徴とする請求項4に記載のビーム加工方法。
【請求項6】
前記基板を前記被加工層が形成される一方の面を上側にして搬送し、
前記基板の下側から前記基板に向けてビームを照射することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のビーム加工方法。
【請求項7】
前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のビーム加工装置により加工された被加工層を有することを特徴とするビーム加工基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−155278(P2010−155278A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157565(P2009−157565)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(592145785)丸文株式会社 (18)
【Fターム(参考)】