説明

ピリジノン化合物

本発明は、構造:


を有する、Metキナーゼの調節に有用であるピリジノン化合物を提供する。本発明はまた、該化合物を含む医薬組成物;および、該化合物の投与による増殖性疾患、例えば癌などの治療方法をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
肝細胞増殖因子(HGF)は、in vitroでコロニー形成を妨げるその能力から、分散因子(scatter factor)(SF)としても知られ、正常細胞および腫瘍細胞で複数の多面的応答を誘導することが知られている間葉由来のサイトカインである(非特許文献1から3)。これらの応答は、上皮細胞および内皮細胞の両方における増殖、上皮コロニーの個々の細胞への解離、上皮細胞の運動性(モトジェネシス(motogenesis))の刺激、細胞生存、細胞形態形成の誘導(非特許文献4)、および浸潤の促進(非特許文献5および6)を含むことが知られており、これらは全て転移の根底にある重要なプロセスである。HGFはまた、血管新生を促進することも報告されている(非特許文献7)。さらに、HGFは、組織再生、創傷治癒、および 正常な胚形成過程(embryonic processes)(それらは全て細胞運動性および細胞増殖の両方に依存する)において重要な役割を果たす。
【0002】
HGFは、その同種受容体、Metタンパク質チロシンキナーゼ受容体、同定された癌原遺伝子への高い結合親和性を介して、これらの生理的プロセスを引き起こす(非特許文献8および非特許文献9)。Metの成熟型は、高度にグリコシル化された外部α-サブユニット並びに、大きな細胞外ドメイン、膜貫通領域および細胞質チロシンキナーゼドメインを有するβ-サブユニットから成る。リガンド結合はMet二量体化を誘導し、自己リン酸化活性化受容体をもたらす。Metの活性化は、複数のエフェクタータンパク質の補充に関与する重要な細胞質チロシン残基のトランスリン酸化により規定される、シグナル伝達カスケードを促進する(非特許文献10)。これらには、PI3-キナーゼのp85サブユニット、ホスホリパーゼCγ(非特許文献11)、Grb2およびShcアダプタータンパク質、プロテインホスファターゼSHP2およびGab1が含まれる。後者のアダプターは、主要な下流ドッキング分子として出現し、リガンドの占有に応答してリン酸化されたチロシンとなる(非特許文献12から14)。他のシグナル伝達分子の活性化は、HGF刺激細胞において報告されており、最も顕著なものはRas、MAPキナーゼ、STAT、ERK-1、-2およびFAKである(非特許文献15から17)。多くのこれらのシグナル伝達分子の役割は、細胞増殖において十分に確立されている。
【0003】
Metは肝細胞増殖因子受容体(HGFR)とも称され、主に上皮細胞で発現するが、内皮細胞、筋芽細胞、造血細胞および運動神経細胞においても同定されている。HGFの過剰発現およびMetの活性化は、多様な腫瘍型の発症および進行、並びに転移性疾患の促進に関与する。Metと癌を結びつける初期の証拠は、個体を乳頭状腎細胞癌(papillary renal carcinoma)(PRC)および肝細胞癌(HCC)に罹りやすくするキナーゼドメインのミスセンス変異の同定により裏付けられる(非特許文献18)。Metの変異型はまた、卵巣癌、小児HCC, 胃癌, 頭部および頸部扁平上皮癌, 非小細胞肺癌、結腸直腸転移においても同定されている(非特許文献19から21)。加えて、癌におけるMetの役割を裏付けるさらなる証拠は、甲状腺、卵巣および膵癌を含む様々な腫瘍におけるHGFおよびMet受容体の過剰発現に基づいている。結腸直腸癌の肝臓転移で増幅されることも示されている(非特許文献22から25)。TPR-Met(CMLのBCR/Ablに類似した活性型)が記載され、ヒト胃癌において同定されている(非特許文献26)。浸潤性乳癌の患者および非小細胞肺癌の患者における最近の研究において、受容体またはリガンドのいずれかの発現は、生存率の低下の前兆であり、さらにはMetと腫瘍の進行を結びつける(非特許文献27および28)。概して、ほとんどのヒト腫瘍および間葉由来の腫瘍細胞株は、HGFRおよび/またはHGFを不適切に発現する。
【0004】
多くの実験データにより、最終的には転移をもたらす腫瘍の浸潤、増殖、生存および進行におけるHGFおよびMetの役割が裏付けられる。前臨床的には、HGFのトランスジェニック発現は転移性表現型をもたらし(非特許文献29)、増幅/過剰発現されたMetは、NIH-3T3細胞を自発的に形質転換する(非特許文献30)。
【0005】
例えば、HGFまたはMetのいずれかを標的とする、リボザイム、抗体およびアンチセンスRNAなどの生物学的作用物質は、腫瘍形成(tumorogenesis)を阻害することが示されている(非特許文献31から33)。従って、Metを標的とする選択的な小分子キナーゼモジュレーターは、原発性腫瘍および二次転移の発生および進行においてMet受容体活性化が重要な役割を果たす癌の治療に対して治療可能性を有することが予期される。HGFはまた、腫瘍の増殖および転移において重要なプロセスである血管新生を制御することも知られている。それ故に、この類のモジュレーターは、特に糖尿病性網膜症、黄斑変性症、肥満症および炎症性疾患(例えばリウマチ性関節炎など)を含みうる、血管新生-依存性疾患に影響を与える可能性がある。
【0006】
Met活性化癌の治療に有用な化合物に関するいくつかの特許出願がある。例えば、その開示が引用により本明細書に援用される、2005年11月3日公開の特許文献1を参照されたい。しかしながら、出願人は本発明の化合物が驚くほどに有益であることを見いだした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国公開特許第2005/0245530号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sonnenberg et al., J. Cell Biol. 123:223-235, 1993
【非特許文献2】Matsumato et al., Crit. Rev. Oncog. 3:27-54,1992
【非特許文献3】Stoker et al., Nature 327:239-242, 1987
【非特許文献4】Montesano et al., Cell 67:901-908, 1991
【非特許文献5】Stella et al., Int. J. Biochem. Cell Biol. 12:1357-62, 1999
【非特許文献6】Stuart et al., Int. J. Exp. Path. 81:17-30, 2000
【非特許文献7】Bussolino et al., J. Cell Biol. 119:629-641, 1992
【非特許文献8】Park et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:6379-83, 1987
【非特許文献9】Bottaro et al., Science 251:802-4, 1991
【非特許文献10】Furge et al., Oncogene 19:5582-9, 2000
【非特許文献11】Gaul et al., Oncogene 19:1509-18, 2000
【非特許文献12】Schaeper et al., J. Cell Biol. 149:1419-32, 2000
【非特許文献13】Bardelli, et al., Oncogene 18:1139-46, 1999
【非特許文献14】Sachs et al., J. Cell Biol. 150:1375-84, 2000
【非特許文献15】Tanimura et al., Oncogene 17:57-65,1998
【非特許文献16】Lai et al., J. Biol. Chem. 275:7474-80 2000
【非特許文献17】Furge et al., Oncogene 19:5582-9, 2000
【非特許文献18】Lubensky et al., Amer. J. Pathology, 155:517-26, 1999
【非特許文献19】Christensen et al., Cancer Res., 63:7345-55, 2003
【非特許文献20】Lee et al., Oncogene, 19:4947-53, 2000
【非特許文献21】Direnzo et al., Clin. Cancer Res., 1:147-54, 1995
【非特許文献22】Rong et al. Cancer Res. 55:1963-1970, 1995
【非特許文献23】Rong et al., Cancer Res. 53:5355-5360, 1993
【非特許文献24】Kenworthy et al., Br. J. Cancer 66:243-247, 1992
【非特許文献25】Scarpino et al. J. Pathology 189:570-575, 1999
【非特許文献26】PNAS 88:4892-6, 1991
【非特許文献27】Camp et al., Cancer 86:2259-65 1999
【非特許文献28】Masuya et al., Br. J. Cancer, 90:1555-62, 2004
【非特許文献29】Takayama et al., PNAS, 94:701-6, 1997
【非特許文献30】Cooper et al., EMBO J., 5:2623-8, 1986
【非特許文献31】Stabile et al., Gene Therapy, 11:325-35, 2004
【非特許文献32】Jiang et al., Clin. Cancer Res, 9:4274-81, 2003
【非特許文献33】Genentech US 6,214,344, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、Metキナーゼの調節に有用である化合物、および該化合物を含むMet活性化に依存する癌の治療に有用な医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、その塩を含む、以下の化合物、
【化1】

に関する。本出願人は、N-(4-(2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イルオキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド(化合物1)およびその塩が、いくつかの既知のMetキナーゼ阻害剤に比べて、力価増大および特定のCYP450アイソザイムに対する抑制低下の組み合わせに起因するMet-関連癌の治療に特に有用であることを見いだした。
【0011】
本発明はまた、医薬的に許容される担体中に、治療上有効な量の上記の化合物1、またはその塩を含む医薬組成物に関する。
【0012】
本発明はさらに、そのような治療を必要とする患者における、遺伝子増幅、活性化Met変異および/またはHGF刺激により制御されるMet活性化に依存する癌の治療方法に関するものであって、患者に治療上有効な量の化合物1を投与すること、あるいは少なくとも1つのさらなる抗癌剤を投与することを特徴とする治療方法に関する。
【0013】
本発明のいくつかの実施態様において、治療される癌は、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、膵臓/胆嚢癌、前立腺癌、甲状腺癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、MFH/線維肉腫、神経膠芽腫/星状細胞種、メラノーマおよび中皮腫から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、GTL-16胃癌異種移植片に対する抗腫瘍活性を示す。
【図2】図2は、U87神経膠芽腫異種移植片に対する抗腫瘍活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(詳細な記載)
以下の記載は、本発明を説明するために用いる様々な用語の定義である。これらの定義は、個々にまたは大きな基の一部として、(特定の例において他に制限されない限り)本明細書を通じて用いられる用語に適用される。
【0016】
用語「治療上有効」とは、各薬物の量を変える(qualify)ことを意図し、これにより、概して代替療法に付随する有害な副作用を回避する一方で、薬物自体の治療における疾患の重症度および発生頻度の改善という目標を達成する。例えば、有効な抗癌剤は患者の生存性を延ばすか、新生物(neoplasm)に付随する急速な細胞増殖を阻害するか、または新生物の退縮をもたらす。
【0017】
本明細書で用いられる用語「医薬的に許容される塩」または「塩」として、他に断りのない限り、薬理学的に許容されるアニオン(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、過リン酸塩、イソニコチン酸塩(isonicotinate)、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、クエン酸塩(acid citrate)、酒石酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロン酸塩、メシル酸塩、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、硫酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩[すなわち、1,1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート(naphthoate))] など)を含む塩が挙げられる。
【0018】
本明細書で用いられる用語「遺伝子増幅」は、Met遺伝子またはMetがコードされる染色体のフラグメントの多数のコピーをもたらす、DNAフラグメントの選択的合成を意味する。
【0019】
本明細書で用いられる用語「活性化Met変異」は、恒常的に (すなわち、永久に)リン酸化されたMetタンパク質をもたらす、MetのDNA配列における選択的な変化を意味する。
【0020】
本明細書で用いられる用語「HGF刺激」は、受容体を活性化する方法でその同種受容体(Met)に結合して表現型応答をもたらす、HGFの能力を意味する。Metの場合、これは細胞の増殖、運動性、分化および/または生存であり得る。
【0021】
本明細書で用いられる用語「患者」は、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、およびネコを含む、すべての哺乳類種を包含する。
【0022】
該用語「さらなる抗癌剤」とは、以下のうちのいずれか1つ以上から選択される薬剤をいう: アルキル化剤(ナイトロジェンマスタード、スルホン酸アルキル、ニトロソウレア、エチレンイミン誘導体およびトリアゼンを含む); 抗血管新生剤 (マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤を含む); 代謝拮抗剤(アデノシンデアミナーゼ阻害剤、葉酸拮抗剤、プリンアナログ、およびピリミジンアナログを含む); 抗生物質または抗体(モノクローナル抗体、CTLA-4抗体、アントラサイクリンを含む); アロマターゼ阻害剤; 細胞周期応答調節物質(cell-cycle response modifier); 酵素; ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤; ホルモン剤、抗ホルモン剤およびステロイド(合成アナログ、グルココルチコイド、エストロゲン/抗-エストロゲン[例えば、SERM]、アンドロゲン/抗-アンドロゲン、プロゲスチン、プロゲステロン受容体アゴニスト、ならびに黄体ホルモン-放出[LHRH]アゴニストおよびアンタゴニストを含む); インスリン様増殖因子(IGF)/インスリン様増殖因子受容体(IGFR)系調節因子 (IGFR1阻害剤を含む); インテグリン-シグナル伝達阻害剤; キナーゼ阻害剤(マルチ-キナーゼ阻害剤および/またはSrcキナーゼもしくはSrc/ablの阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ[CDK]阻害剤、panHer、Her-1およびHer-2抗体、VEGF阻害剤(抗-VEGF抗体を含む)、EGFR阻害剤、マイトジェン活性化タンパク質[MAP]阻害剤、MEK阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、PDGF阻害剤、および他のチロシンキナーゼ阻害剤またはセリン/スレオニンキナーゼ阻害剤を含む); 微小管-破壊剤、例えばエクチナサイジンまたはそのアナログおよび誘導体など; 微小管-安定化剤、例えばタキサン、並びに天然のエポチロンおよびその合成および半-合成アナログなど; 微小管-結合性、不安定化剤(ビンカアルカロイドを含む); トポイソメラーゼ阻害剤; プレニル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤; 白金配位錯体; シグナル伝達阻害剤; および、抗癌剤および細胞毒性剤として用いられる他の薬剤(例えば生物学的応答調節物質、増殖因子、および免疫調節剤など)。
【0023】
本発明は、癌の治療に有用である、以下の化合物1:
【化2】

化合物1
またはその塩に関する。本発明の化合物は、既知のMetキナーゼ阻害剤を超える、力価増大および特定のCYP450アイソザイムに対する抑制低下の理由から、特に癌の治療に有用であることを見いだした。
【0024】
従って、本発明は、該患者における癌の治療方法であって、該癌が遺伝子増幅、活性化Met変異および/またはHGF刺激により制御されるMet活性化に依存しており、治療有効量の化合物1またはその塩を患者に投与することを特徴とする治療方法に関する。
【0025】
本発明の一実施態様によると、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、膵臓/胆嚢癌、前立腺癌、甲状腺癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、MFH/線維肉腫、神経膠芽腫/星状細胞種、メラノーマ、および中皮腫(それら全て、Met活性化に関連することが知られている)の治療方法を提供する。
【0026】
癌の治療において、化学療法薬および/または他の治療(例えば、放射線療法)の組み合わせが、多くの場合に有利である。該第2(または第3)の薬剤は、該第1治療薬と同一または異なったメカニズムを有し得る。投与された2以上の薬剤が異なる方法でまたは細胞周期の異なる段階で作用し、および/または2以上の薬剤が重複する毒性または副作用を有し、および/または組み合わされた該薬剤が各々、患者が呈する特定の病態の治療において実証済の有効性を有する、細胞傷害性薬物の組み合わせを用いることが特に有用な場合がある。
【0027】
従って、本発明の化合物は、癌または他の増殖性疾患の治療に有用な他の抗癌治療と組み合わせて投与してもよい。本出願における発明はさらに、癌の治療用薬物の製造における化合物1またはその塩の使用を包含し、および/または、該化合物1は他の抗癌剤または細胞毒性剤および癌の治療法と組み合わせて用いられるとの説明書を付したパッケージを包含する。本発明はさらに、キット形態(例えば、一緒にパッケージされるか、別個のパッケージに入れられキットとして共に販売されるか、または共に処方されるようにパッケージされる)での化合物1および1以上のさらなる薬物の組み合わせを包含する。
【0028】
本発明の化合物は、上記疾患に関連する副作用への対処におけるそれらの特定の有用性について選択された他の治療薬と共に、製剤化しまたは同時投与することができる。例えば、本発明の化合物は、例えば制吐薬、およびH1およびH2抗ヒスタミン薬などといった薬物と共に製剤化して、悪心、過敏症および胃刺激を防ぐことができる。
【0029】
本発明の化合物は、1以上の更なる不斉炭素原子を有し得ることから、2以上の立体異性体が存在する。本発明は、可能な個々の立体異性体、それらの個々の互変異性体、並びにそれらの混合物の全てを含む。
【0030】
ジアステレオ異性体の分離は、従来の技術、例えば、本発明の化合物またはその適当な塩もしくは誘導体の立体異性体混合物の分別結晶、クロマトグラフィーまたはH.P.L.C.により達成することができる。該化合物の個々のエナンチオマーはまた、必要に応じて、対応する光学的に純粋な中間体から、または分割(例えば、適当なキラル担体を用いた対応するラセミ体のH.P.L.C.、または対応するラセミ体と適当な光学活性な酸または塩基との反応によって形成されたジアステレオ異性体塩の分別結晶)によって、製造することができる。
【0031】
1以上の無毒の、医薬的に許容される担体および/または希釈剤および/またはアジュバント(本明細書中では「担体」物質と総称する)、および、必要なら、他の有効成分と合わせて化合物1またはその塩を含む医薬組成物のクラスもまた、本発明の範囲内に包含される。本発明の活性化合物は、いずれかの適当な投与経路で、好ましくはそのような投与経路に適応した医薬組成物の形態で、および目的とする治療に有効な用量で投与することができる。本発明の化合物および組成物は、例えば、汎用の医薬的に許容される担体、アジュバント、およびビヒクルを含む用量単位剤形の状態で、経口、粘膜、局所、直腸内、肺内(例えば吸入噴霧など)、または非経口(parentally)(血管内、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、胸骨内および注入技法を含む)で投与することができる。例えば、該医薬担体はマンニトールまたはラクトースおよび微結晶セルロースの混合物を含み得る。該混合物は、例えば滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウムなど)および崩壊剤(例えばクロスポビドンなど)などのさらなる成分を含み得る。該担体混合物はゼラチンカプセルに充填するか、または錠剤として圧縮することができる。
【0032】
本発明の医薬的に活性な化合物を薬学の従来の方法に従って加工処理して、ヒトおよび他の哺乳類を含む患者への投与用薬剤を製造することができる。
【0033】
経口投与において、該医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル、懸濁剤または液剤の形態であり得る。該医薬組成物は、好ましくは特定の量の有効成分を含有する用量単位の形態で製造される。そのような用量単位の例は、錠剤またはカプセルであった。例えば、これらは、約1から2000 mg、好ましくは約1から500 mg、より好ましくは約5から150 mgの量の有効成分を含み得る。ヒトまたは他の哺乳類に適した1日量は、患者の症状および他の因子に依存して幅広く変えることができるが、再度、ルーチンな方法を用いて決定することができる。
【0034】
投与する化合物の量、および本発明の化合物および/または組成物による病状の治療のための投与計画は、対象の年齢、体重、性別および病状、疾病の種類、疾病の重篤性、投与経路および投与回数、および用いる特定の化合物などの様々な因子に依存する。従って、該投与計画は大きく変化させることができるが、標準的な方法を用いて既定通りに決定することができる。1日量は、約0.01から500 mg/kg体重、好ましくは約0.5から約50 mg/kg体重、最も好ましくは約0.1から20 mg/kg体重が適切であり得る。該1日量を、1日当たり1から4回で投与することができる。
【0035】
治療目的で、本発明の活性化合物は、通常、指定された投与経路に適する1以上のアジュバントと組み合わされる。経口投与の場合、該化合物をラクトース、スクロース、デンプン粉末、アルカン酸のセルロースエステル、セルロースアルキルエステル、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸および硫酸のナトリウム塩およびカルシウム塩、ゼラチン、アカシアガム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、および/またはポリビニルアルコールと混合した後、投与しやすいように錠剤化またはカプセルに包むことができる。そのようなカプセルまたは錠剤には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース中に活性化合物が分散した状態で提供することができるような、徐放剤形が含まれ得る。
【0036】
乾癬および他の皮膚疾患の場合、本発明の化合物の局所用製剤を患部に1日2から4回塗ることが好ましいであろう。
【0037】
局所投与に適した剤形には、経皮浸透に適した液剤または半-液体製剤(例えば、リニメント剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤またはペースト剤など)、および眼、耳または鼻への投与に適した点滴剤が含まれる。本発明の化合物の有効成分の適当な局所用量とは、1日1から4回、好ましくは1から2回投与される0.1 mgから150 mgである。局所投与において、該有効成分は、製剤の0.001重量%から10重量%、例えば、1重量%から2重量%(製剤の10重量%程度含んでも良いけれども、好ましくは5重量%以下、より好ましくは0.1%から1%含み得る)を含み得る。
【0038】
軟膏剤に製剤化する場合、該有効成分は、パラフィンまたは水-混和性軟膏基剤のいずれかと一緒に用いられ得る。別法として、該有効成分は、水中油型クリーム基剤とともにクリーム剤に製剤化され得る。必要であれば、クリーム基剤の水相は、例えば、少なくとも30重量%の多価アルコール(例えばプロピレングリコール)、ブタン-1,3-ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物を含み得る。望ましくは、該局所製剤は皮膚または他の患部を介した有効成分の吸収または浸透を増強する化合物を含み得る。そのような皮膚浸透賦活剤の例としては、ジメチルスルホキシドおよび関連アナログが挙げられる。
【0039】
本発明の化合物はまた、経皮デバイスにより投与することもできる。好ましくは、経皮投与は、リザーバーおよび多孔質膜タイプか、または固体マトリックスタイプのいずれかのパッチを用いて達成され得る。いずれの場合でも、該活性薬剤は、リザーバーまたはマイクロカプセルから膜を通して継続的に、レシピエントの皮膚または粘膜に接触している該活性薬剤が浸透可能な接着部に送達される。活性薬剤が皮膚を通して吸収されると、制御された既定の流量の活性薬剤がレシピエントに投与される。マイクロカプセルの場合、該カプセル剤はまた、膜として機能し得る。
【0040】
本発明のエマルジョンの油相は、既知の方法で既知の成分から構成され得る。該相は単に乳化剤のみを含み得る一方、少なくとも1つの乳化剤と、脂肪もしくは油、または脂肪および油の両方との混合物を含むことができる。好ましくは、親水性乳化剤は安定剤として作用する親油性乳化剤と共に含まれる。また、油および脂肪の両方が含まれることも望ましい。安定剤の有無にかかわらず乳化剤はいわゆる乳化ワックスを組成し、該ワックスは油および脂肪と一緒になって、クリーム製剤の油性分散相を形成する、いわゆる乳化軟膏基剤を組成する。本発明の製剤における使用に適した乳化剤およびエマルジョン安定剤には、Tween 60、Span 80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ラウリル硫酸ナトリウム、ジステアリン酸グリセリルが、単独またはワックスもしくは当分野で周知の他の物質と共に含まれる。
【0041】
医薬的なエマルジョン製剤に用いられることが多い大部分の油中での活性化合物の溶解性は非常に低いので、該製剤に適した油または脂肪の選択は、所望する美容特性の達成に基づく。従って、該クリーム剤は望ましくは、チューブまたは他の容器からの漏出を回避する適当な稠度の非-油脂性、非-染色性および水洗性の生成物であるべきである。直鎖または分枝鎖のモノ-またはジ-塩基性アルキルエステル(例えば、ジイソアジピン酸エステル、ステアリン酸イソセチル、ヤシ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、ミスチリン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2-エチルヘキシルなど)または分枝鎖エステルの混合物が用いられ得る。これらは、単独または目的の特性に応じた組み合わせで用いられ得る。あるいは、高融点の脂質(例えば白色軟パラフィンおよび/または流動パラフィンなど)、または他の鉱油を用いることができる。
【0042】
眼への局所投与に適した製剤にはまた、有効成分が適当な担体(特に有効成分に適した水性溶媒)中に溶解または懸濁した点眼薬が含まれる。該有効成分は、望ましくは、そのような製剤中に0.5からら20重量%の濃度、有利には0.5から10重量%、特に約1.5重量%の濃度で存在する。
【0043】
非経口投与用製剤は、水性または非-水性の等張無菌注射用液剤または懸濁剤の形態であり得る。これらの液剤および懸濁剤は、経口投与用製剤での使用において記載した1以上の担体または希釈剤を用いて、あるいは他の適当な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて、無菌粉末または顆粒から製造することができる。該化合物は、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、コーンオイル、綿実油、ピーナッツ油、ゴマ油、ベンジルアルコール、塩化ナトリウム、トラガカントゴム、および/または様々なバッファー中に溶解することができる。他のアジュバントおよび投与方法は、製薬の分野において十分におよび広く周知である。該有効成分はまた、適当な担体(生理食塩水、ブドウ糖または水が含まれる)、またはシクロデキストリン(すなわちキャプティソル)、共溶媒可溶化剤(すなわちプロピレングリコール)またはミセル可溶化剤 (すなわちTween80)を有する組成物として注入により投与してもよい。
【0044】
該無菌の注射用製剤はまた、無毒の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の無菌の注射用液剤または懸濁剤、例えば1,3-ブタンジオールの液剤、であり得る。許容されるビヒクルおよび溶媒のうちで用いることができるのは、水、リンガー液、および生理食塩水である。加えて、無菌の固定油が、溶媒または懸濁化媒質として通常用いられる。この目的のため、いずれのブランド(bland)の固定油(合成モノ-またはジグリセリドが含まれる)を用いることができる。さらに、脂肪酸(例えばオレイン酸など)が注射剤の製造で用いられる。
【0045】
肺内投与において、該医薬組成物は、エアロゾルの形態または吸入器(乾燥粉末エアロゾルを含む)で投与することができる。
【0046】
該薬剤の直腸投与用坐薬は、適当な非刺激性の賦形剤(例えばココアバターおよびポリエチレングリコールなど、常温では固体だが直腸温では液体であり、従って直腸で溶解して薬物を放出するもの)と薬物を混合することにより製造できる。
【0047】
該医薬組成物は、通常の製薬工程(例えば滅菌など)で処理することができ、および/または汎用のアジュバント(例えば保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、バッファーなど)を含み得る。錠剤および丸薬は、さらに腸溶コーティングで製造することができる。そのような組成物はまた、アジュバント(例えば湿潤剤、甘味剤、香料、および芳香剤)を含みうる。
【0048】
本発明の医薬組成物は、化合物1、または医薬的に許容されるその塩; および適宜、キナーゼ阻害剤(小分子、ポリペプチド、抗体など)、免疫抑制薬、抗癌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗真菌薬、抗生物質、または抗血管過剰増殖化合物から選択されるさらなる薬物;および、いずれかの医薬的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルを含む。本発明の代替組成物は、本明細書に記載の式の化合物または医薬的に許容されるその塩;および医薬的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルを含む。そのような組成物は、1以上のさらなる治療薬(例えば、キナーゼ阻害薬(小分子、ポリペプチド、抗体など)、免疫抑制薬、抗癌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗真菌薬、抗生物質または抗血管過剰増殖化合物が含まれる)を適宜含むことができる。
【0049】
本発明の医薬組成物に用いることのできる医薬的に許容される担体、アジュバントおよびビヒクルには、制限はされないが、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、自己乳化型ドラッグデリバリーシステム (SEDDS)(例えばD-a-トコフェロールポリエチレングリコール 1000 コハク酸塩)、医薬剤形で用いる界面活性剤(例えばTweensまたは他の同様のポリマーデリバリーマトリックスなど)、血清タンパク質(例えばヒト血清アルブミンなど)、緩衝物質(例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム)、飽和植物性脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えばプロタミン硫酸塩、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロック重合体、ポリエチレングリコールなど)および羊毛脂が含まれる。シクロデキストリン(例えば、α-、β-、およびγ-シクロデキストリン)または化学修飾誘導体(例えば、2-および3-ヒドロキシプロピル-シクロデキストリンを含むヒドロキシアルキルシクロデキストリンなど)、または他の可溶化誘導体もまた、本明細書に記載の式の化合物の送達を高めるために、有利に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下の実施例および製造例は、本発明の製造および使用の、方法および工程について記載する。
【0051】
反応は全て、乾燥窒素またはアルゴン雰囲気下、連続的に磁気撹拌しながら行った。蒸発および濃縮は全て、減圧下、ロータリーエバポレーターで行った。市販の試薬は、さらなる精製は行わずにそのまま用いた。溶媒は、市販の無水グレードであり、さらなる乾燥または精製を行わずに用いた。フラッシュクロマトグラフィーは、シリカゲル(EMerck Kieselgel 60, 0.040-0.060 mm)を用いて行った。
【0052】
分析用逆相(RP)HPLCは、Phenomenex Luna C18 S5 4.6 mm×50 mmカラムまたはYMC S5 ODS 4.6×50 mmカラムを用いて行った。いずれの場合も、以下の移動相系: 流速=4 mL/分で、A=90% H2O/MeOH+0.2% H3PO4; B=90% MeOH/H2O+0.2% H3PO4 および検出220 nmで、4分の直線勾配(100%A:0%Bから0%A:100%B)を用いた。
【0053】
プレパラティブ用逆相(RP)HPLCは、以下のカラムのうちの1つにおいて、10%メタノール、90%水、0.1%TFA(溶媒A)および90%メタノール、10%水、0.1%TFA(溶媒B)を用いた直線勾配溶離および220 nmでの検出により行った: A - Shimadzu S5 ODS-VP 20×100 mmカラム(流速20 mL/分); B - YMC S5 ODS 30×100 mmカラム(流速20 mL/分); C - Phenomonex 30×250 mmカラム(流速10 mL/分); D - YMC S5 ODS 20×250 mmカラム(流速10 mL/分); E - YMC S10 ODS 50×500 mmカラム(流速50 mL/分); またはF - YMC S10 ODS 30×500 mmカラム(流速20 mL/分)。
【0054】
最終生成物は、1H NMR、RP HPLC、エレクトロスプレーイオン化(ESI MS)または大気圧イオン化(API MS)質量分析によりキャラクタライズした。1H NMRスペクトルは400 MHz Bruker装置で得た。13C NMRスペクトルは100 MHzで記録した。磁場強度は、溶媒のピークに対するδの単位(100万分の1, ppm)で表し、ピーク多重度は以下のように表す: s、シングレット;d、ダブレット;dd、ダブルダブレット;dm、ダブルマルチプレット;t、トリプレット;q、カルテット;br s、ブロードシングレット;m、マルチプレット。
【0055】
以下の略号を、一般的な試薬に用いる: BocまたはBOC: t-ブチルカルバメート; Fmoc: 9H-フルオレニルメチルカルバメート; TEA: トリエチルアミン; NMM: N-メチルモルホリン; Ms: メタンスルホニル; DIEAまたはDIPEA: ジイソプロピルエチルアミンまたはヒューニッヒ塩基; NMP: N-メチルピロリジノン; BOP試薬: ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(トリメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート; DCC: 1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド; EDCI: 1-(ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩; RTまたはrt: 室温; tR: 保持時間; h: 時間; min: 分; PyBroP: ブロモトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート; TBTU: O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート; DMAP: 4-N,N-ジメチルアミノピリジン; HOBtまたはHOBT: ヒドロキシベンゾトリアゾール; Na(OAc)3BH:トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム; HOAc: 酢酸; TFA: トリフルオロ酢酸; LiHMDS: リチウムビス(トリメチルシリル)アミド; DMSO: ジメチルスルホキシド; MeCN: アセトニトリル; MeOH: メタノール; EtOAc: 酢酸エチル; DMF: ジメチルホルムアミド; THF: テトラヒドロフラン; DCE: 1,2-ジクロロエタン; Et2O: ジエチルエーテル; DCM: ジクロロメタンまたは塩化メチレン; m-CPBA: 4-クロロ過安息香酸。
【0056】
(実施例1)
【化3】

N-(4-(2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イルオキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド
【0057】
【化4】

A)3,4-ジクロロピコリン酸
Marzi, E. et al. (Eur. J. Org. Chem. 2001, 1371-1376)による前述の通り、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(8.84 mL, 52 mmol, Aldrich)/50 mLのエーテルを、0℃で、n-BuLi(33 mL, 52 mmol, Aldrich, 1.6 Mヘキサン)でチャージした。0℃で30分間撹拌後、該溶液を-78℃まで冷却し、3,4-ジクロロピリジン(7.0 g, 47 mmol, Matrix)/5 mLエーテルの溶液でチャージした。-78℃で2時間撹拌後、カニューレを介して二酸化炭素(ドライアイス)を該反応混合液にバブルすると、該溶液は不均一となった。二酸化炭素を該反応液に-78℃で10分間バブルした後、該冷却槽を取り外し、該反応混合液を、CO2バブルをしながら室温まで温めた。該反応液を飽和塩化アンモニウム水溶液(〜50 mL)でクエンチし、大気圧下、室温で5分間撹拌した。該反応混合液を水(〜150 mL)で希釈し、酢酸エチル(2×75 mL)で抽出していずれの残留出発物質をも除去した。該水層を1NのHCl水溶液でpH 1〜2に酸性化し、酢酸エチル(2×100 mL)で抽出した。該有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮して、3,4-ジクロロピコリン酸(3.5 g, 39%)を黄色固形物として得た。1H NMR (DMSO-d6) δ8.53 (d, 1H, J=5.2 Hz), 7.90 (d, 1H, J=5.2 Hz); MS(ESI) m/z 192.08 (M + H).
【0058】
【化5】

B)3,4-ジクロロピコリンアミド
3,4-ジクロロピコリン酸(3.5 g, 18 mmol)/過剰な塩化チオニル(10 mL, Aldrich ReagentPlus 99.5%)の混合液を80℃で1時間撹拌した。室温まで冷却した後、該反応液を減圧濃縮して過剰な塩化チオニルを除去し、次いで、エーテル(50 mL)に懸濁した。該エーテル性酸クロリド溶液を、水酸化アンモニウム(50 mL)に0℃で添加した。該生成物を減圧濾過により集め、水洗した後、エーテルでトリチュレートして、3,4-ジクロロピコリンアミド(2.6 g, 76%)をベージュ色(biege)固形物として得た。1H NMR (DMSO-d6) δ8.50 (d, 1H, J=5.2 Hz), 8.12 (br s, 1H), 7.83 (d, 1H, J=5.2 Hz), 7.82 (br s, 1H); MS(ESI) m/z 191.10 (M + H).
【0059】
別法として、3,4-ジクロロピコリンアミドを、下記の方法に従って3,4-ジクロロピリジンから直接製造することができる。
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(31.1 g, 0.22 mol)/ジエチルエーテル(400 mL)溶液に、0℃でn-BuLi/ヘキサン(1.6 M, 138.0 mL, 0.22 mol)を、シリンジを介して15分かけて添加した。得られた溶液を、0℃で0.5時間および-78℃で0.5時間撹拌した。ついで、該混合液に、3,4-ジクロロピリジン(29.6 g, 0.20 mol)/ジエチルエーテル(20 mL)溶液を、シリンジを介して15分かけてゆっくりと添加した。得られた混合液を-78℃で2時間撹拌した後、イソシアナートトリメチルシラン (85 %純度, 40.0 mL, 0.30 mol)を添加した。イソシアナートトリメチルシランの供給源はTCIである。該添加後、冷却槽を取り外し、該反応混合液を室温まで1時間かけて温めた。該反応混合液を、酢酸(40 g, 0.67 mol)および200 mLの水でクエンチした。該混合液を終夜撹拌し、生じた白色固形物を濾過により集め、水洗した。該ろ液を酢酸エチル(3×300 mL)で抽出した。前に集めた該固形物を、合わせた有機層中に溶解し、得られた溶液を食塩水(2×200 mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、減圧濃縮した。該残渣を200 mLのジエチルエーテルに懸濁し、超音波処理した。該残留固形物を濾過により集め、最少量のジエチルエーテルで洗浄して、3,4-ジクロロピコリンアミド(14.8 g, 39%)を得た。
【0060】
【化6】

C)4-(4-アミノ-2-フルオロフェノキシ)-3-クロロピコリンアミド
4-アミノ-2-フルオロフェノール(9.3 g, 73 mmol, 3B Medical Systems, 3B3290)/DMF(100 mL)溶液に、カリウムtert-ブトキシド(8.8 g, 79 mmol)を添加した。室温で30分間撹拌した後、3,4-ジクロロピコリンアミド(10 g, 52 mmol)を添加した。該反応混合液を50℃で2.5時間撹拌した。該反応液を室温まで冷却した後、該混合液を400 mLの酢酸エチルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(400 mL)で洗浄した。該水層を300 mL酢酸エチルで逆抽出した(back-extracted)。有機相を合わせて、10%塩化リチウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させて、減圧濃縮した。得られた茶色固形物を酢酸エチルに懸濁し、濾過して、エーテルで洗浄して、黄褐色固形物として生成物を得た(7.4 g)。該ろ液を減圧濃縮した後、シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィー(2%メタノール/酢酸エチル)により精製した。得られた茶色固形物をエーテルでトリチュレートして、さらに4.3 gの4-(4-アミノ-2-フルオロフェノキシ)-3-クロロピコリンアミド(79%合わせた収率)を淡黄褐色固形物として得た。1H NMR (CD3OD) δ8.29 (d, 1H, J=5.6 Hz), 7.00 (t, 1H, J=8.8 Hz), 6.79 (d, 1H, J=5.6 Hz), 6.63-6.55 (m, 2H); MS(ESI) m/z 282.21 (M + H).
【0061】
【化7】

D)4-ヨード-2-メトキシニコチンアルデヒド
ジイソプロピルアミン(260 g, 2.57 mol)/無水THF(6.5 L)溶液に、N2のブランケット下、-30℃から-40℃で、n-BuLi (156 g, 2.45 mol)を、カニューレを介して滴下した。得られた溶液を0℃まで温め、該温度で35分間撹拌した。次いで、該溶液を-78℃に冷却し、2-フルオロピリジン(250 g, 2.57 mol, Alfa)を滴下した。該反応混合液を-78℃で2時間撹拌した。その後、該混合液をヨウ素(654 g, 2.57 mol)/無水THF(1.96 L)溶液に、-20℃、N2下でカニューレを介して添加した。該反応が完了した後、該混合液を氷水でクエンチし、EtOAcで抽出した。該有機層をチオ硫酸ナトリウムで洗浄し、続いて水および食塩水で洗浄した。次いで、該有機物を乾燥させ(Na2SO4)、減圧濃縮すると2-フルオロ-3-ヨードピリジン(450 g, 78%)が固形物として得られ、それは後続のステップで用いるのに十分純粋であった。
ジイソプロピルアミン(345 mL, 249 g, 2.46 mol)/無水THF(5 L)溶液に、N2のブランケット下、-8から-10℃でn-BuLi(880 mL, 158 g, 2.46 mol)を、カニューレを介して滴下した。該混合液を-10℃で30分間撹拌し、-78℃まで冷却して、2-フルオロ-3-ヨードピリジン(500 g, 2.24 mol)/乾燥THF(2 L)溶液で滴下処理した。添加後、該反応混合液を-60℃まで温め、該温度を2時間維持した。次いで、該混合液を-78℃に冷却し、ギ酸エチル(183 g, 2.47 mol)で滴下処理した後、ナトリウムメトキシド(149 g, 2.75 mol)/MeOH(1.5 L)で処理し、周囲温度まで昇温させた。該反応混合液を氷水でクエンチし、EtOAcで抽出した。該層を分離し、該有機相を水および食塩水で洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)て減圧濃縮した。該残渣を、シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、4-ヨード-2-メトキシニコチンアルデヒド(380 g, 64%)を固形物として得た。
別法として、4-ヨード-2-メトキシニコチンアルデヒドを、米国特許第5,491,237号(WO 95/29917)に記載の方法に従って製造することができる。
【0062】
【化8】

E) 4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルバルデヒド
4-ヨード-2-メトキシニコチンアルデヒド(25 g, 95 mmol)およびヨウ化ナトリウム(31.0 g, 285 mmol, Aldrich)を、500 mLのアセトニトリル中で一緒に撹拌した。該溶液に、クロロトリメチルシラン(36.0 mL, 285 mmol, Aldrich >99%)を、15分かけて滴下した。該反応混合液を室温で2時間撹拌した後、減圧濃縮した。該生成物を、酢酸エチル、水、および飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に懸濁し、次いで濾過して、暗褐色固形物を得た。該固形物をアセトニトリルでトリチュレートして、4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルバルデヒド(21.3 g, 90%)を黄色固形物として得た(互変異性体の混合物)。MS(ESI) m/z 250.04 (M + H).
【0063】
【化9】

F)1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルバルデヒド
4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルバルデヒド(16.0 g, 64.3 mmol)、4-フルオロフェニルボロン酸(26.8 g, 193 mmol, Aldrich)、酢酸銅(II)(23.4 g, 129 mmol, Aldrich)、およびミリスチン酸(58.7 g, 257 mmol, Aldrich)を、800 mLのトルエン中で一緒に撹拌した。該溶液に、2,6-ルチジン(60 mL, 514 mmol, Aldrich)を添加し、該反応液を1日間激しく撹拌した。さらなる5 gの4-フルオロフェニルボロン酸を添加し、該反応液を、さらに3日間激しく撹拌した。該反応混合液を濃縮して、次いで10%メタノール/酢酸エチルに懸濁した。セライト(登録商標)を添加し、該混合液を5分間撹拌した。次に、該混合液をセライト(登録商標)プラグを通して濾過し、濃縮して、酢酸エチルおよび水に懸濁した。該混合液を、セライト(登録商標)を通して再度濾過して、酢酸エチルで十分に洗浄しながら、析出したさらなる銅を除去した。該ろ液を1N HCl水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧濃縮した。得られた固形物を酢酸エチルでトリチュレートして、9.25 g(42 %)の1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルバルデヒドを黄色固形物として得た。該ろ液を減圧濃縮し、該残留固形物を酢酸エチルで再度トリチュレートして、さらなる5.75 g(68 %総収率)の目的物を黄色固形物として得た。1H NMR (DMSO-d6) δ9.57 (s, 1H), 7.68 (d, 1H, J=7.2 Hz), 7.58-7.54 (m, 2H), 7.40 (t, 2H, J=8.8 Hz), 7.02 (d, 1H, J=7.2 Hz); MS(ESI) m/z 344.13 (M + H).
【0064】
【化10】

G)1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボン酸
1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルバルデヒド (10.0 g, 29.2 mmol)およびリン酸二水素ナトリウム(10.1 g, 73 mmol, Aldrich)を、各35 mLのTHF、tert-ブタノール、および水中において、0℃で激しく撹拌した。2-メチル-2-ブテン(45.2 mL, 2.0 M/THF, Aldrich)を該反応混合液に添加し、続いて亜塩素酸ナトリウム(6.06 g, 67.1 mmol, Aldrich)を添加した。該氷浴を取り外し、該反応混合液を非常に急速に撹拌しながら室温まで昇温させた。数分後、目的物が溶液から析出し始めた。1時間撹拌し続けた後、20 mLの1N HCl水溶液を添加し、さらに5分間撹拌を続けた。目的物をろ取し、次いで水、酢酸エチルおよびエーテルで洗浄した。該ろ液を採集し、該層を分離した。該水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、減圧濃縮した。得られた固形物を酢酸エチルに懸濁し、濾過し、酢酸エチルおよびエーテルで洗浄してさらなる目的物を得た。該淡黄色固形物を合わせて、8.22 g(78 %)の1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボン酸を得た(92 %純度, 8 %出発物質残留)。該物質を最少量の1N NaOH水溶液に溶解した。酢酸エチルを添加し、該混合液を5分間激しく撹拌した。該層を分離し、該水層を酢酸エチルで抽出した。該水層を、濃HClを用いて、撹拌しながらpH 1に酸性化した。溶液から析出した該淡黄色固形物を集め、水、酢酸エチル、ジエチルエーテルで洗浄し、次いで減圧下で乾燥させて、7.33 g(70 %)の1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボン酸(95.4 %HPLCによる純度)を得た。1H NMR (DMSO-d6)δ13.53 (s, 1H), 7.52-7.49 (m, 3H), 7.38 (t, 2H, J=8.8 Hz), 6.81 (d, 1H, J=7.2 Hz); MS(ESI) m/z 360.14 (M + H).
【0065】
【化11】

H)3-クロロ-4-(2-フルオロ-4-(1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド)フェノキシ)ピコリンアミド
1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボン酸 (3.7 g, 10 mmol)/6 mLのトルエンに、塩化チオニル(10 mL, Aldrich ReagentPlus 99.5%)を添加した。室温で2.5時間撹後、該混合液は均質となり、次いで、減圧濃縮した。トルエン(3 mL)を該残渣に添加し、該混合液を減圧濃縮して過剰な塩化チオニルを除去した(2回実施)。その後、該粗酸塩化物を15分間、高真空下で乾燥させた。酸塩化物を乾燥させている間、4-(4-アミノ-2-フルオロフェノキシ)-3-クロロピコリンアミド(2.5 g, 8.9 mmol)をTHF(50 mL)およびDMF(3 mL)に溶解させた。該溶液を0℃に冷却した後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.1 mL, 18 mmol, Aldrich 99.5%再蒸留)を添加した。次いで、固体の該酸塩化物を30分かけて添加した。添加完了後、該冷浴を取り外し、該反応混合液を室温で15分間撹拌した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30 mL)でクエンチした。水を添加して(〜30 mL)該塩を溶解させ、該混合液を酢酸エチル(1×100 mL)で抽出した。該有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮した。該粗精製物を、シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィー(2%メタノール/酢酸エチル)により精製して、4.9 gの目的物を、少量の3-クロロ-4-(4-(4-クロロ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド)-2-フルオロフェノキシ)ピコリンアミドと共にオフホワイト色固形物として得た(89%ヨウ化物基準)。1H NMR (CD3OD) δ8.34 (d, 1H, J=5.6 Hz), 7.92 (dd, 1H, J=12.4, 2.4 Hz), 7.51-7.47 (m, 4H), 7.37-7.29 (m, 3H), 6.99 (d, 1H, J=7.2 Hz), 6.86 (d, 1H, J=5.6 Hz); MS(ESI) m/z 623.08 (M + H).
【0066】
【化12】

I)3-クロロ-4-(4-(4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド)-2-フルオロフェノキシ)ピコリンアミド
水素化ナトリウム(1.89 g, 47.2 mmol, 60%分散/鉱油, Aldrich)を、エタノール(77 mL, Aldrich >99.5% 200プルーフ(proof))およびTHF(77 mL)の溶液に、N2下でゆっくりと添加し、得られた混合液を室温で5分間撹拌した。次いで、該ナトリウムエトキシド溶液を、3-クロロ-4-(2-フルオロ-4-(1-(4-フルオロフェニル)-4-ヨード-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド)フェノキシ)-ピコリンアミドおよび3-クロロ-4-(4-(4-クロロ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド)-2-フルオロフェノキシ)ピコリンアミド(22.6 g, 〜36.3 mmol)の混合物に添加し、室温で1時間撹拌した。該反応混合液を減圧濃縮した。得られた粗固形物を酢酸エチル、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、および水に懸濁した(沈殿した塩のいずれかを溶解させるように)。該混合液を超音波処理して、残留固形物が濾過できる粉末になるまで撹拌した。該粉末をろ取し、17.2 g(88 %)の目的物を淡黄色固形物として得た。残ったろ液の層を分離した。該水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮した。得られた固形物を酢酸エチルでトリチュレートし、超音波処理し、濾過し、さらなる3.02 gの目的物を薄茶色固形物として得た。1H NMR (CD3OD) δ8.34 (d, 1H, J=5.6 Hz), 7.94 (dd, 1H, J=12.4, 2.4 Hz), 7.80 (d, 1H, J=8 Hz), 7.48-7.46 (m, 3H), 7.31-7.28 (m, 3H), 6.86 (d, 1H, J=5.6 Hz), 6.61 (d, 1H, J=7.2 Hz), 4.34 (q, 2H, J=7.2 Hz), 1.45 (t, 3H, J=7.2 Hz); MS(ESI) m/z 541.11 (M + H).
【0067】
J)N-(4-(2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イルオキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド
3-クロロ-4-(4-(4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド)-2-フルオロフェノキシ)ピコリンアミド(1.2 g, 2.1 mmol)/酢酸エチル(16 mL)、アセトニトリル(16 mL)、および水(8 mL)の溶液に、0℃で、ヨードベンゼンジアセテート(820 mg, 2.6 mmol, Aldrich)を添加した。室温で2時間撹拌後、該反応液を濾過して粗精製物を集めた。該固形物をさらなる酢酸エチルで洗浄した。該ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、該有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮した。該沈殿物および濾過物を合わせて、シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィー(2%メタノール/クロロホルム)により精製し、表題の化合物を(810 mg, 74%)白色固形物として得た。1H NMR (DMSO-d6) δ10.57 (s, 1H), 7.83-7.79 (m, 2H), 7.67 (d, 1H, J=5.6 Hz), 7.41-7.38 (m, 3H), 7.36-7.22 (m, 3H), 6.44 (d, 1H, J=7.6 Hz), 6.36 (br s, 2H), 5.86 (d, 1H, J=6.0 Hz), 4.18 (q, 2H, J=7.2 Hz), 1.23 (t, 3H, J=7.2 Hz); MS(ESI) m/z 513.09 (M + H).
【0068】
(アッセイ)
本発明の化合物の薬理学的特性は、多くの薬理学的アッセイにより確認することができる。以下に例示の薬理学的アッセイを、本発明の化合物および/またはそれらの塩で実施した。
【0069】
Metキナーゼアッセイ
Metキナーゼアッセイに用いるインキュベーション混合物は、バキュロウイルス発現GST-Metキナーゼ、合成基質ポリGlu:Tyr(4:1)、ATP、ATP-γ-33P、およびMn++、DTT、BSAおよびトリスを含むバッファーを含有する。反応物を30℃で60分間インキュベートし、冷トリクロロ酢酸(TCA)の添加により停止して最終濃度を8%とする。Filtermate汎用ハーベスター(Packard Instrument Co., Meriden, CT)を用いて、TCA沈殿物をGF/Cユニフィルタープレート(Packard Instrument Co., Meriden, CT)に集め、そしてTopCount 96/384-ウェルシンチレーションカウンター(Packard Instrument Co., Meriden, CT)を用いて、該フィルターを定量する。用量反応曲線を作製して、キナーゼ活性50%を阻害するのに必要とされる濃度(IC_50)を求める。化合物を10 mMでジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、10種の濃度で、それぞれ二つ組で評価する。該アッセイにおいて、DMSOの最終濃度は1.7%である。IC_50値は非線形回帰により導かれる。
【表1】

【0070】
N-(4-(2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イルオキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド(化合物1)は、3.5 nMのIC50値でMetキナーゼを阻害する。
【0071】
In vivo有効性判定
N-(4-(2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イルオキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド(化合物1)の、GTL-16胃腫瘍異種移植片およびU87神経膠芽腫腫瘍異種移植片に対するin vivo有効性について評価した。図1に示すように、6.25 mg/kgから50 mg/kgの範囲の複数の用量レベルで、化合物1は、GTL-16ヒト胃癌モデルに対する少なくとも1つの腫瘍倍加期間について、50%以上腫瘍増殖阻害(TGI)と規定され、活性であった。14日間1日1回投薬した場合、これらの用量レベル全てにおいて、明らかな毒性は認められなかった。本研究において、25 mg/kgおよび50 mg/kgは、完全な腫瘍抑止をもたらした。前述の研究において、100 mg/kgをこのモデルに対して用いると、活性の増加が認められなかった。それ故に、25 mg/kgが、GTL-16腫瘍異種移植片に対する化合物1の、認められた最大有効量レベルである。本研究において、試験された最小用量レベルである6.25 mg/kgでもまた、50%TGI以上が得られたことから、これは本研究における最小有効量レベルを定める。また、U87ヒト神経膠芽腫モデル(Met活性化のHGFオートクリンメカニズムに基づくMet誘発腫瘍)に対しても、化合物1を試験した。図2に示すように、GTL-16腫瘍異種移植片に対して認められた活性と同様に、50および25 mg/kgの両方で完全な腫瘍抑止が認められた。
【0072】
本発明の化合物(化合物1)を、有用なMetキナーゼ阻害剤であると認められている他の化合物、例えばUS 2005/0245530に開示されているものと比較し、とりわけ有利であることが分かった。例えば、本発明の化合物は、薬物動態学的特性の改善および特定のCYP450アイソザイムに対する抑制の低下により、N-(4-(2-アミノピリジン-4-イルオキシ)-3-フルオロフェニル)-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド、塩酸塩(化合物2)よりもとりわけ有利であることが分かった。
【0073】
シトクロムP450アッセイ
薬物代謝に関与する主要なヒトシトクロムP450(CYP)を阻害する化合物の能力を、組換えヒトCYPアイソフォームを用いてin vitroで評価した。バキュロウイルス-感染昆虫細胞から調製したcDNA-由来CYP酵素の阻害を、基質として3-シアノ-7-エトキシクマリン(CYP1A2, CYP2C19)、7-メトキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(CYP2C9)または3-[2-(N,N-ジエチル-N-メチルアミノ)エチル]-7-メトキシ-4-メチルクマリン(CYP2D6)のいずれかを用いて測定した。CYP3A4阻害は、2つの基質で測定した: 7-ベンジルオキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(BFC)およびレソルフィンベンジルエーテル(BzRes)。単一の濃度の各モデル基質(見かけのKm以下で試験したBFCを除いて、およそ見かけのKmで)、および約1/2対数単位により分けられた複数の濃度の試験化合物を、二つ組で試験した。モデル基質の代謝を、7-ヒドロキシ-3-シアノクマリン、3-[2-(N,N-ジエチルアミノ)エチル]-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン、7-ヒドロキシ-4-トリフルオロメチルクマリンまたはレソルフィンの産生によりアッセイし、蛍光検出により測定した。アッセイは、96ウェルマイクロタイタープレート中で、NADPH産生系の存在下において実施した。ポジティブコントロール試料をこれら試験に含んだ。全てのアッセイについて、該ポジティブコントロール値は従来の範囲内であった。該IC50値は、XLfit カーブ-フィッティングソフトウェアを用いて算出した。
【0074】
マウスで得られた薬物動態パラメーター
8時間の経口曝露試験において、単一用量の50 mg/kgの該化合物を、70%PEG400/30%水溶液の状態で経口の経管栄養により、絶食成体雄性Balb/Cマウス(1化合物につきn=2または3)に投与した。これらの血清試料を、経口投与後0.5、1、4、8時間の時点で各マウスから採集した。最初の2試料は、眼窩後方からの採血により得て(〜100 μL/20-25 gマウス)、3つめの試料は心穿刺により得た。該血液試料は氷上で凝血させ、遠心した後、血清を採取した。分析前、血漿試料は〜20℃で保存した。該血漿試料は、HPLC結合-タンデム質量分析(LC/MS/MS)により、親化合物について分析された。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

I
を有する化合物またはその塩。
【請求項2】
医薬的に許容される担体中に、治療上有効な量の式I:
【化2】

I
を有する化合物またはその塩を含む、医薬組成物。
【請求項3】
該医薬的に許容される担体が微結晶セルロースおよびマンニトールまたはラクトースを含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
さらに滑沢剤を含む、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
さらに崩壊剤を含む、請求項2、3または4のうちのいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項6】
癌の治療薬の製造における、式I:
【化3】

I
を有する化合物またはその塩の使用方法。
【請求項7】
該癌がMet活性化に依存しており、該Met活性化が遺伝子増幅、活性化Met変異および/またはHGF刺激により制御されている、請求項6に記載の使用方法。
【請求項8】
該癌が膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、膵臓/胆嚢癌、前立腺癌、甲状腺癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、MFH/線維肉腫、神経膠芽腫/星状細胞種、メラノーマまたは中皮腫である、請求項6または7に記載の使用方法。
【請求項9】
癌の治療に用いるための、式I:
【化4】

I
を有する化合物またはその塩。
【請求項10】
膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、膵臓/胆嚢癌、前立腺癌、甲状腺癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、MFH/線維肉腫、神経膠芽腫/星状細胞種、メラノーマまたは中皮腫の治療に用いるための、請求項9に記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−509362(P2010−509362A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536476(P2009−536476)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/084047
【国際公開番号】WO2008/058229
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】