説明

ピロール誘導体のアトロプ異性体を含有する医薬

【課題】循環器系疾患の予防薬又は治療薬の提供。
【解決手段】下記の一般式(I)


(式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;Rは、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。)で表される化合物のアトロプ異性体を含有する医薬。アトロプ異性体のうち一方は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗作用(in vitro活性及びin vivo活性)及び薬効の持続性に優れ、さらに溶解性、経口吸収性、血中濃度、代謝安定性及び安全性等の点で優れた性質を有し、医薬として、好適には、高血圧、狭心症、急性冠症候群、うっ血性心不全、腎症、動脈硬化、脳梗塞、繊維症、原発性アルドステロン症又は心疾患等の疾患、さらに好適には、うっ血性心不全、腎症及び高血圧症等、特に好適には高血圧症の予防薬又は治療薬(特に、治療薬)として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたミネラルコルチコイド受容体拮抗作用を有するピロール誘導体のアトロプ異性体及びそれらを含有する高血圧、狭心症、急性冠症候群、うっ血性心不全、腎症、動脈硬化、脳梗塞、繊維症、原発性アルドステロン症の予防薬又は治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ミネラルコルチコイド受容体(MR)(アルドステロン受容体)は、体内の電解質バランスや血圧の制御において重要な役割を果たしていることが知られており(例えば、非特許文献1参照)、ステロイド構造を有するスピロノラクトン、エプレレノン等のミネラルコルチコイド受容体拮抗剤は、高血圧・心不全の治療に有用であることが知られている。
【0003】
また、非ステロイド骨格を有するミネラルコルチコイド受容体拮抗剤としては、国際公開第2006/012642号パンフレット(特許文献1)に記載されたピロール誘導体が知られているが、本発明の一般式(I)を有する化合物のアトロプ異性体については知られていない。
【0004】
さらに、先行出願としてPCT/JP2008/056907が挙げられるが、該出願は化合物に関する出願である。一方、本出願はPCT/JP2008/056907に記載の化合物の医薬用途に関する出願であり、本出願とPCT/JP2008/056907とは対象が異なる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Advances in Physiology Education,26(1):8−20(2002)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/012642号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、優れた循環器系疾患の予防薬又は治療薬の開発を目指し、種々のピロール誘導体の薬理活性について鋭意研究を行った結果、一般式(I)を有する化合物にアトロプ異性体が存在し、そのうち一方が、ミネラルコルチコイド受容体拮抗作用(in vitro活性及びin vivo活性)及び薬効の持続性に大きく優れ、さらに溶解性、経口吸収性、血中濃度、代謝安定性及び安全性等の点で優れた性質を有し、医薬として、好適には、高血圧、狭心症、急性冠症候群、うっ血性心不全、腎症、動脈硬化、脳梗塞、繊維症、原発性アルドステロン症又は心疾患等の疾患、さらに好適には、うっ血性心不全、腎症及び高血圧症等、特に好適には高血圧症の予防薬又は治療薬(特に、治療薬)として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、優れたミネラルコルチコイド受容体拮抗作用を有する、一般式(I)を有する化合物のアトロプ異性体及びこれらを含有する医薬[高血圧、狭心症、急性冠症候群、うっ血性心不全、腎症、動脈硬化、脳梗塞、繊維症、原発性アルドステロン症又は心疾患(さらに好適には、うっ血性心不全、腎症及び高血圧症;特に好適には高血圧症)の予防薬又は治療薬(特に、治療薬)]を提供する。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)下記一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;Rは、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。]で表される化合物のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬に関するものである。
【0012】
さらに、本発明は以下の、
(2)下記一般式(I)
【0013】
【化2】

【0014】
[式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;Rは、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。]で表される、それぞれの化合物が有する一対のアトロプ異性体のうち、より強いミネラルコルチコイド受容体拮抗作用を示す一方のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬;
(3)Rがメチル基又は2−ヒドロキシエチル基である(1)又は(2)に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬;
(4)Rが水素原子又はメトキシ基である(1)〜(3)のいずれかに記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬;
(5)Rが2−ヒドロキシエチル基であり、Rが水素原子である(1)又は(2)に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬;
(6)Rがメチル基であり、Rが水素原子である(1)又は(2)に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬;
(7)Rが2−ヒドロキシエチル基であり、Rがメトキシ基である(1)又は(2)に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬;
(8)(−)−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミドを有効成分として含有する医薬;
(9)(+)−1,4−ジメチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミドを有効成分として含有する医薬;
(10)(−)−1−(2−ヒドロキシエチル)−5−[4−メトキシ−2−(トリフルオロメチル)フェニル]−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミドを有効成分として含有する医薬;
(11)循環器系疾患の予防又は治療のための(1)〜(10)のいずれかに記載の医薬;
(12)高血圧症、狭心症、急性冠症候群、うっ血性心不全、腎症、動脈硬化症、脳梗塞、繊維症、原発性アルドステロン症又は心疾患の予防若しくは治療のための(1)〜(10)のいずれかに記載の医薬;
(13)うっ血性心不全の予防又は治療のための(1)〜(10)のいずれかに記載の医薬;
(14)腎症の予防又は治療のための(1)〜(10)のいずれかに記載の医薬;
(15)高血圧症の予防又は治療のための(1)〜(10)のいずれかに記載の医薬;
(16)(1)〜(15)のいずれか一つに記載の医薬を製造するための、下記一般式(I)
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;
は、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。]で表される化合物のアトロプ異性体の使用;
及び
(17)下記一般式(I)
【0017】
【化4】

【0018】
[式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;
は、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。]で表される化合物のアトロプ異性体及び薬理上許容される担体を含有する医薬組成物;
に関するものである。
【0019】
上記一般式(I)中、「C1〜C3アルキル基」とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3個の直鎖又は分枝鎖アルキル基を挙げることができ、好適には、メチル基である。
【0020】
上記一般式(I)中、「ヒドロキシC1〜C3アルキル基」とは、前記「C1〜C3アルキル基」に1個の水酸基が置換した基を意味し、例えば、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシ−1−メチルエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基等を挙げることができ、好適には、2−ヒドロキシエチル基である。
【0021】
上記一般式(I)中、「C1〜C3アルコキシ基」とは、前記「C1〜C3アルキル基」から形成されるC1〜C3アルキルオキシ基を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜3個の直鎖又は分枝鎖アルコキシ基を示し、好適にはメトキシ基である。
【0022】
「アトロプ異性体」とは、分子内回転が束縛されたために生じた、軸性又は面性キラリティーに基づく構造的異性体をいう。本発明の一般式(I)を有する化合物は、オルト位がトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基と置換ピロール環を結ぶ結合の回転が立体障害により制限されることにより生ずる軸不斉由来の2個のアトロプ異性体が存在する。本発明の「アトロプ異性体」は、一般式(I)を有する化合物に存在する2個のアトロプ異性体のうちいずれか一方であるが、好ましくは、より優れた薬理作用、安定性、体内動態、安全性等を示し、医薬として好ましい性質を有するアトロプ異性体である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一般式(I)を有する化合物のアトロプ異性体は、優れたミネラルコルチコイド受容体拮抗作用かつ、高い血漿中濃度及び血中滞留性を示し、薬理作用、経口吸収性、体内分布、血中滞留性等の体内動態に優れ、腎臓、肝臓等の臓器に対する安全性も高い。また、本発明の一般式(I)を有する化合物のアトロプ異性体は、非常に安定であり、例えば、メタノール中室温で7日間、アセトニトリル−フタル酸バッファー中、60℃で4時間経過後もラセミ化が観測されなかった。
【0024】
したがって、本発明の一般式(I)を有する化合物のアトロプ異性体は、例えば医薬として有用であり、特に種々の循環器系疾患(好適には、高血圧、狭心症、急性冠症候群、うっ血性心不全、腎症、動脈硬化、脳梗塞、繊維症、原発性アルドステロン症又は心疾患)を治療若しくは予防する医薬として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一般式(I)を有する化合物のアトロプ異性体は、国際公開第2006/012642号パンフレットに記載の方法に従い製造されるラセミ体を、光学分割することによって得ることができる。アトロプ異性体の光学分割はsp3不斉炭素等から生ずるエナンチオマーのそれと本質的に同じであり、例えば、(1)結晶化による方法、(2)酵素反応による方法、(3)クロマトグラフィーによる方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。以下に代表的な光学分割方法の詳細を示す。
(1)結晶化による光学分割
(a)優先晶出法(preferential crystallization)
ラセミ混合物が自然分晶する性質を利用した光学分割法であり、不斉要素を必要とせずに光学分割ができる。
(b)ジアステレオマー法
ラセミ体に、光学分割剤と呼ばれるキラル化合物を作用させ、2種類のジアステレオマーへと誘導し、ジアステレオマー間の溶解度差を利用して分別結晶化することでジアステレオマーを分離する方法であり、再結晶を繰り返すことにより光学純度を高めていくことができる。得られた単一のジアステレオマーから分割剤を除去し、目的のエナンチオマーを得ることができる。本発明においては、共有結合性の結晶性ジアステレオマーへと誘導して分別結晶化を行う方法が好ましい。例えば、ラセミ体のアルコールを分割したい場合は、キラルカルボン酸とのジアステレオマーエステルへと誘導し、これを再結晶により難溶性のジアステレオマーを取り出し、得られた単一のジアステレオマーエステルを加水分解することにより、光学活性なアルコールを得ることができる。
(c)包接錯体法
キラルなホスト分子を用いて、ラセミ体の一方のエナンチオマーをゲスト分子として、ジアステレオ選択的に包接錯体を形成させ、再結晶により光学純度を高めていく光学分割法である。
(d)優先富化(preferential enrichment)
ラセミ結晶の再結晶により、母液中で一方のエナンチオマーの濃縮が起こるのが特徴である。同時に、母液側と反対のキラリティーを持つ低光学純度の結晶が析出する。
(2)酵素反応
ラセミ体に対してリパーゼなどの酵素による付加反応を行った場合、基質によっては一方の光学活性体にのみ反応が進行する。この性質を用い、酵素反応後、再結晶やクロマトグラフィーにより分離精製し、その後付加させた官能基を適当な条件で除去することにより目的の光学活性体を得る方法である。一方で、前もって特異的に修飾されたラセミ体に対し、酵素による分解反応を行い、上記同様に一方の光学活性体のみを得る方法もある。
(3)クロマトグラフィーによる直接光学分割
担体として、糖などの誘導体を結合させた不斉要素を組み込んだ固定相を用いるとクロマトグラフィーの保持時間に差がつき分割ができる。この性質を利用し、キラルカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより直接分割を行うことができる。キラルカラムとしては、例えば、CHIRALPAK AD−H、CHIRALCEL OJ−RH(DAICEL)等を挙げることができる。
【0026】
本発明のアトロプ異性体を医薬として使用する場合には、前記一般式(I)を有する化合物のアトロプ異性体を、それ自体或いは適宜の薬理学的に許容される、賦形剤、希釈剤等と混合し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくはシロップ剤等により経口的に、又は、注射剤、坐剤、貼付剤、若しくは、外用剤等により非経口的に投与することができる。
【0027】
これらの製剤は、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0028】
その使用量は症状、年齢等により異なるが、ヒト成人に対する経口投与の場合には、1回当たり下限0.02mg/kg(好適には、0.1mg/kg)、上限100mg/kg(好適には、10mg/kg)を、非経口的投与の場合には、1回当たり下限0.002mg/kg(好適には、0.01mg/kg)、上限10mg/kg(好適には、1mg/kg)を、1日当り1〜6回、症状に応じて投与することが望ましい。
【0029】
以下に実施例、試験例及び製剤例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
(+/−)−1,4−ジメチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
WO2006/012642,EXAMPLE 16に記載の方法で合成した。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ:7.90(2H,d,J=8.6Hz),7.83−7.80(3H,m),7.70−7.58(3H,m),7.34(1H,d,J=7.4Hz),7.30(1H,s),3.32(3H,s),3.05(3H,s),2.09(3H,s).
HR−MS(ESI)calcd for C2120S[M+H],required m/z:437.1147,found:437.1157.
(実施例2)
実施例1の化合物の光学分割
(+/−)−1,4−ジメチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミドのエタノール溶液(4〜6mg/mL)を5mL用い、下記のHPLCの条件による分割を9回実施し、異性体Aを含有する分画(t=11min)から86mg、異性体B(t=18min)を含有する分画から87mgを各々固体として得た。
【0031】
キラルカラムを用いたHPLCによる分離は下記の条件を用いた。
装置:SHIMADZU CLASS−VPシステム(LC−8/SCL−10AVP/SPD−10AVP);カラム:CHIRALPAK AD−H(2cm×25cm)セミ分取カラム;流速:8.0mL/min;溶出溶媒:エタノール(100%,isocratic);検出:UV(254nm).
異性体A:(−)−1,4−ジメチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
[α]21:−18°(c=1.0,EtOH).
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:7.92(2H,d,J=8.3Hz),7.85−7.80(3H,m),7.69−7.64(2H,m),7.61(1H,t,J=7.3Hz),7.35(1H,d,J=7.3Hz),7.31(1H,s)3.33(3H,s),3.06(3H,s),2.10(3H,s).
HR−MS(ESI)calcd for C2120S[M+H],required m/z:437.1147,found:437.1138.
Retention time:4.1min.
キラルカラムを用いたHPLCによる分析は下記の条件を用いた。(以下、同様の分析条件で実施した。Retention timeはキラルHPLCによるもの)
分析装置:SHIMADZU CLASS−VPシステム(LC−10ADVP/SCL−10AVP/SPD−M10AVP/CTO10ACVP/DGU12A);カラム:CHIRALPAK AD−H(0.46cm×25cm);流速:1.0mL/min;溶出溶媒:エタノール(100%,isocratic);検出:UV(254nm).
異性体B:(+)−1,4−ジメチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
[α]22:+18°(c=1.2,EtOH).
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:7.91(2H,d,J=8.8Hz),7.85−7.80(3H,m),7.68−7.64(2H,m),7.61(1H,t,J=7.3Hz),7.35(1H,d,J=7.3Hz),7.31(1H,s),3.33(3H,s),3.06(3H,s),2.10(3H,s).
HR−MS(ESI)calcd for C2120S[M+H],required m/z:437.1147,found:437.1153.
Retention time:6.3min.
(実施例3)
(+/−)−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
WO2006/012642,EXAMPLE 16に記載の方法によりメチル4−メチル−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキシレートを得た後、これを原料に以下の反応を実施した。
【0032】
メチル 4−メチル−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキシレート(1.4g,4.9mmol)をメタノール(12mL)に溶解し、5M水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、3時間加熱還流した。室温まで冷却後、ギ酸(5mL)により反応を停止した。減圧濃縮後、水(10mL)を加え懸濁させ、析出した固体をろ取し、更に水により3回洗浄を行った。得られた固体を減圧乾燥することにより4−メチル−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボン酸(1.1g,83%)を固体として得た。これをジクロロメタン(10mL)に懸濁し、オキザリルクロリド(0.86mL,10mmol)を加え、室温2時間攪拌した。減圧濃縮後、テトラヒドロフラン(10mL)に溶解し、塩酸4−(メチルスルホニル)アニリン(1.0g,4.9mmol)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(2.8mL,16mmol)を順次加え、加熱還流下18時間攪拌した。室温まで冷却した後、溶媒を減圧留去し、残渣にアセトニトリル(10mL)、3M塩酸(100mL)を加えた。析出した固体を粉砕し、ろ取、水洗した後、減圧乾燥し4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド(1.4g,89%)を固体として得た。
H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ11.34(1H,brs,),9.89(1H,s),7.97(2H,d,J=6.6Hz),7.87−7.81(3H,m),7.73(1H,t,J=7.4Hz),7.65−7.61(2H,m),7.44(1H,d,J=7.8Hz),3.15(3H,s),2.01(3H,s).
水素化ナトリウム(0.12g,3mmol,油性60%)をN,N−ジメチルホルムアミド(1.5mL)に溶解し、4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド(0.47g,1.1mmol)を加え室温で30分間攪拌した。その後、1,3,2−ジオキサチオラン−2,2−ジオキシド(0.14g,1.2mmol)を加え室温で攪拌した。1時間後、再び水素化ナトリウム(40mg,1.0mmol,油性60%)を加え、30分間攪拌した後、1,3,2−ジオキサチオラン−2,2−ジオキシド(12mg,0.11mmol)を加え室温で1時間攪拌した。減圧濃縮後、メタノール(5mL)を加え不溶物をろ過により除去し、再度濃縮した。残渣にテトラヒドロフラン(2mL)、6M塩酸(2mL)を加え、60℃で16時間攪拌した。反応を室温に冷却後、酢酸エチルに溶解し、水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、減圧濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)により精製することにより目的物(0.25g,48%)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ:7.89−7.79(m,6H),7.66−7.58(m,2H),7.49(s,1H),7.36(d,1H,J=7.4Hz),3.81−3.63(m,4H),3.05(s,3H),2.08(s,3H).
HR−MS(ESI)calcd for C2222S[M+H],required m/z:467.1252,found:467.1246.
Anal.calcd for C2221S:C,56.65;H,4.54;N,6.01;F,12.22;S,6.87.found:C,56.39;H,4.58;N,5.99;F,12.72;S,6.92.
(実施例4)
実施例3の化合物の光学分割
実施例2と同様の方法で4回分割を実施し、異性体Cを含有する分画(t=10min)から74mg、異性体D(t=11min)を含有する分画から71mgを各々固体として得た。
【0033】
異性体C:(+)−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
[α]21:+7.1°(c=1.0,EtOH).
H−NMR(400MHz,CDCl)δ:7.91(s,1H),7.87−7.79(m,5H),7.67−7.58(m,2H),7.51(s,1H),7.35(d,1H,J=7.0Hz),3.78−3.65(m,4H),3.05(s,3H),2.07(s,3H).
HR−MS(ESI)calcd for C2222S[M+H],required m/z:467.1252,found:467.1260.
Retention time:4.0min.
異性体D:(−)−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
[α]21:−7.2°(c=1.1,EtOH).
H−NMR(400MHz,CDCl)δ:7.88−7.79(m,6H),7.67−7.58(m,2H),7.50(s,1H),7.36(d,1H,J=7.5Hz),3.79−3.65(m,4H),3.05(s,3H),2.08(s,3H).
HR−MS(ESI)calcd for C2222S[M+H],required m/z:467.1252,found:467.1257.
Retention time:4.5min.
(実施例5)
(+/−)−1−(2−ヒドロキシエチル)−5−[4−メトキシ−2−(トリフルオロメチル)フェニル]−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
WO2006/012642に記載の方法で合成した。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:7.91(2H,d,J=8.3Hz),7.82(2H,d,J=8.3Hz),7.69(1H,s),7.46(1H,s),7.32(1H,d,J=2.0Hz),7.28−7.27(1H,m),7.14(1H,dd,J=8.3 and 2.0Hz),3.92(3H,s),3.82−3.66(4H,m),3.06(3H,s),2.10(3H,s).
HR−MS(ESI)calcd for C2324S[M+H],required m/z:497.1358,found:497.1361.
(実施例6)
実施例5の化合物の光学分割
実施例2と同様の方法で分割を7回実施し、異性体Eを含有する分画(t=11min)から50mg、異性体F(t=14min)を含有する分画から41mgを各々固体として得た。
【0034】
異性体E:(−)−1−(2−ヒドロキシエチル)−5−[4−メトキシ−2−(トリフルオロメチル)フェニル]−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
[α]22:−1.3°(c=1.0,EtOH).
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:7.90(2H,d,J=8.3Hz),7.83−7.79(3H,m),7.48(1H,s),7.32(1H,d,J=2.4Hz),7.28−7.25(1H,m),7.14(1H,dd,J=8.3 and 2.4Hz),3.92(3H,s),3.81−3.65(4H,m),3.06(3H,s),2.09(3H,s),1.82(1H,brs).
HR−MS(ESI)calcd for C2324S[M+H],required m/z:497.1358,found:497.1359.
Retention time:4.1min.
異性体F:(+)−1−(2−ヒドロキシエチル)−5−[4−メトキシ−2−(トリフルオロメチル)フェニル]−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミド
[α]23:+1.6°(c=0.8,EtOH).
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:7.91(2H,d,J=8.8Hz),7.81(2H,d,J=8.8Hz),7.69(1H,s),7.46(1H,s),7.32(1H,d,J=2.4Hz),7.28−7.25(1H,m),7.14(1H,dd,J=8.3 and 2.4Hz),3.92(3H,s),3.82−3.66(4H,m),3.05(3H,s),2.09(3H,s).
HR−MS(ESI)calcd for C2324S[M+H],required m/z:497.1358,found:497.1340.
Retention time:4.7min.
(試験例1)
酵母転写因子GAL4のDNA結合領域(アミノ末端部位147アミノ酸が相当する)にヒトのミネラルコルチコイドレセプター(hMR、NM_000901)のリガンド結合領域(LBD,カルボキシ末端約308アミノ酸が相当する)を結合させた、GAL4−hMR受容体を発現するプラスミドpM−hMR−LBDを作成した。GAL4のDNA結合領域と結合する配列(UAS配列)を有する、ルシフェラーゼ遺伝子を含むレポータープラスミド(ストラタジーン・クローニング・システムズ(STRATAGENE CLONING SYSTEMS)社プラスミドpFR−Lucなど)を用いて、レポーターアッセイを実施した。
【0035】
先に取得したプラスミドpM−hMR−LBD及びレポータープラスミドをリポフェクション法により、ヒト胎児由来腎臓細胞株HEK293に遺伝子導入した。翌日、細胞をトリプシン処置して回収し、白色96穴プレート(コスター社製)を用意し、1ウェル当り95マイクロリットルの用量で活性炭処理済FBSを5%含有するDMEM培地を用いて分注した。
【0036】
被験化合物は所定の濃度でジメチルスルホキシドに溶解したものを用い、適宜培地で希釈したものを最終濃度0.1%となるように白色96穴プレートの細胞に添加した。被験化合物添加の際には、1nMのアルドステロンを共存させた。コントロール1群はジメチルスルホキシドを添加したウェル群を、コントロール2群は1nMアルドステロン添加したウェル群とした。添加後、一夜培養した。
【0037】
翌日、培地を除き、ルシフェラーゼ基質(和光純薬)を添付文書に準じて調製し、各ウェルに50マイクロリットルずつ添加した。約30分間攪拌し、Analyst(モレキュラー・デバイス社製)を用いて各ウェルの発光量を測定し、ルシフェラーゼ活性とした。コントロール1群のルシフェラーゼ活性値を0%、コントロール2群のルシフェラーゼ活性値を100%とした場合の、被験化合物添加群の各用量におけるルシフェラーゼの相対活性値をプロットしたグラフを作成した。グラフより、最大値をImax(%)、Imax/2の値を示す被験化合物の濃度をICmax50(M)として算出した。表1にICmax50値を示す。
(結果)下記の表1に示すように、本発明のアトロプ異性体は、対応するラセミ体と比較し、顕著なミネラルコルチコイド受容体拮抗作用を示した。
【0038】
【表1】


【0039】
:Not Determined
(試験例2)
カニクイザル(雄性)を使用し、被験化合物投与の前日より絶食した。
【0040】
投与サンプルは、被験化合物に0.5%MC(メチルセルロース)溶液を加えて、3mg/2mL/kgの用量となるように調製した。各投与サンプルは、チューブを用いてカニクイザルの胃内に投与した。サンプルを投与後、約5mLの水を投与した。各投与サンプルを、一群3頭のカニクイザルに投与した。
【0041】
採血は、投与前、投与後30分、1、2、4、6、8、24及び48時間に股静脈よりヘパリン処理した注射筒にて血液約1mLを採血した。血液は遠心分離(15,000×g,3min,4℃)して、血漿を得た。血漿は前処理まで、冷凍庫(−20°C)で保存した。
【0042】
標準溶液及び内部標準(IS)溶液の作成:各被験化合物をアセトニトリルに溶解して、各1mg/mLの溶液を調製した。各化合物溶液はアセトニトリルで希釈して、標準溶液を作成した。また、ワルファリンナトリウム(和光純薬株式会社)をアセトニトリルに溶解して500ng/mLのIS溶液を作成した。
【0043】
血漿サンプルの前処理:血漿サンプルを50μL採取し、アセトニトリル50μLを添加した。検量線用として、ブランク血漿50μLに各標準溶液(アセトニトリル溶液)50μLを添加した。全てのサンプルにISのアセトニトリル溶液150μLを添加し、攪拌後、遠心分離(約1,800×g,30min,4℃)を行った。Sirocco除蛋白プレート(Waters社)でろ過後、ろ液を移動相で適宜希釈し、LC−MS/MS分析用サンプルとした。
【0044】
被験化合物の定量:各被験化合物の血漿中濃度をLC−MS/MS法により分析した。
[HPLC分析条件]
HPLC:LC−10Avpシリーズ,Promience(島津製作所);
カラム:X−Bridge RP18,2.0mm I.D.×50mm,2.5μm(Waters社);
移動相:A=10mM ギ酸アンモニウム水溶液、B=アセトニトリル.
[MS/MS分析条件]
MS: API4000(AB/MDS SCIEX社);
イオン化法:Turbo ion spray(Positive or Negative);
イオン化モード:Atomospheric pressure chemical ionization(APCI);
検出モード:MRM.
解析:薬物速度論的パラメーターは、各薬物の血漿中濃度からWinNonlin Professional(Ver.4.0.1,Pharsight Corporation)を用いて算出した。なお、Noncompartment modelをパラメーター算出用モデルとして用いた。
(結果)実施例1、実施例2の異性体B、実施例3、実施例4の異性体D、実施例5、実施例6の異性体Eの化合物を評価した。その結果、表2に示すように、試験例1で示した、高活性アトロプ異性体である異性体B、異性体D及び異性体Eは、それぞれ対応するラセミ体の実施例1、実施例3及び実施例5の化合物と比較して、血漿中濃度が大幅に向上した。
【0045】
【表2】

【0046】
:AUC(ng・h/mL):Area under the plasma concentration (measured by LC−MS/MS method) versus time curve(0−48hr.);
:Cmax(ng/mL):Maximum concentration
(製剤例1)カプセル剤
異性体B 50.0 mg
乳糖 128.7
トウモロコシデンプン 70.0
ステアリン酸マグネシウム 1.3

250 mg
上記処方の粉末を混合し、60メッシュのふるいを通した後、この粉末を250mgの3号ゼラチンカプセルに入れ、カプセル剤とした。
【0047】
(製剤例2)錠剤
異性体D 50.0 mg
乳糖 124.0
トウモロコシデンプン 25.0
ステアリン酸マグネシウム 1.0

200 mg
上記処方の粉末を混合し、打錠機により打錠して、1錠200mgの錠剤とした。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の一般式(I)を有する化合物のアトロプ異性体は、特に優れたミネラルコルチコイド受容体拮抗作用、抗高血圧作用、血管拡張作用、心保護作用、腎障害抑制作用、抗動脈硬化作用、利尿作用等の薬理活性を示し、安全性も高いので、高血圧、狭心症、急性冠症候群、うっ血性心不全、腎症、動脈硬化、脳梗塞、繊維症、原発性アルドステロン症の予防薬又は治療薬として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】


[式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;
は、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。]で表される化合物のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬。
【請求項2】
下記一般式(I)
【化2】


[式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;
は、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。]で表される、それぞれの化合物が有する一対のアトロプ異性体のうち、より強いミネラルコルチコイド受容体拮抗作用を示す一方のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬。
【請求項3】
がメチル基又は2−ヒドロキシエチル基である請求項1又は2に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬。
【請求項4】
が水素原子又はメトキシ基である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬。
【請求項5】
が2−ヒドロキシエチル基であり、Rが水素原子である請求項1又は2に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬。
【請求項6】
がメチル基であり、Rが水素原子である請求項1又は2に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬。
【請求項7】
が2−ヒドロキシエチル基であり、Rがメトキシ基である請求項1又は2に記載のアトロプ異性体を有効成分として含有する医薬。
【請求項8】
(−)−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミドを有効成分として含有する医薬。
【請求項9】
(+)−1,4−ジメチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−5−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミドを有効成分として含有する医薬。
【請求項10】
(−)−1−(2−ヒドロキシエチル)−5−[4−メトキシ−2−(トリフルオロメチル)フェニル]−4−メチル−N−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−1H−ピロール−3−カルボキサミドを有効成分として含有する医薬。
【請求項11】
循環器系疾患の予防又は治療のための請求項1乃至10のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項12】
高血圧症、狭心症、急性冠症候群、うっ血性心不全、腎症、動脈硬化症、脳梗塞、繊維症、原発性アルドステロン症又は心疾患の予防若しくは治療のための請求項1乃至10のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項13】
うっ血性心不全の予防又は治療のための請求項1乃至10のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項14】
腎症の予防又は治療のための請求項1乃至10のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項15】
高血圧症の予防又は治療のための請求項1乃至10のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の医薬を製造するための、下記一般式(I)
【化3】


[式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;
は、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。]で表される化合物のアトロプ異性体の使用。
【請求項17】
下記一般式(I)
【化4】


[式中、Rは、C1〜C3アルキル基又はヒドロキシC1〜C3アルキル基;
は、水素原子又はC1〜C3アルコキシ基である。]で表される化合物のアトロプ異性体及び薬理上許容される担体を含有する医薬組成物。


【公開番号】特開2010−111657(P2010−111657A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231148(P2009−231148)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】